説明

移動農機

【課題】エンジンからの動力を車軸及び耕耘軸に伝達する動力伝達装置の伝動経路を操作レバーにより切換えてなる移動農機において、土壌等の条件に合わせたきめ細かい作業が行えると共に、未熟なオペレータであっても安心して良好な作業の行える移動農機を得る。
【解決手段】動力伝達装置Dを、車軸4のみ(第1経路),車軸4と耕耘軸20(第2経路),耕耘軸4のみ(第3経路)を夫々駆動するように構成し、操作レバー10でエンジン2からの動力を中立位置から前記第3経路を経て、前記第2経路となるように前記動力伝達装置Dを切換えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理機等の移動農機の動力伝達装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、移動農機において、エンジンからの動力を車軸及び耕耘軸に伝達し、これらの各動力伝達操作を操作レバーで切換えて、圃場内の耕耘作業等を行うようにした技術は既に知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−191810号公報
【特許文献2】特開平7−257214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来公知の前記特許文献1(特に図7参照)及び同2(特に図5参照)に記載のものは、いずれのものも機体の走行軸と耕耘軸への動力伝達を別経路としたものではあるが、前記耕耘軸への動力伝達時には常に走行軸へも動力が伝達される構造のものである。
【0005】
従って、この種構造のもので耕耘作業等をする時には、移動農機の機体も必ず同時に進行してしまうので、特に土壌の硬い圃場等での対応が不十分であった。
【0006】
また、運転操作に未熟な老人や婦女子等のオペレータの場合には、最初から機体の進行と同時に作業機部が駆動すると、作業の開始や終了位置が不揃いになったりして、操作性が十分ではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、前記従来の不具合を改善し、硬い土壌等でも圃場の状態に対応出来るものであると共に、運転操作に未熟なオペレータの場合でも作業の開始や終了位置等が設定し易い等、機体の操作性が向上する移動農機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明は、エンジン(2)からの動力を車軸(4)及び耕耘軸(20)に伝達する動力伝達装置(D)を備え、かつ該動力伝達装置(D)の伝動経路を操作レバー(10)により切換えてなる、移動農機において、
前記動力伝達装置(D)は、前記車軸(4)のみを駆動する第1の経路と、前記車軸(4)と前記耕耘軸(20)とを共に駆動する第2の経路と、前記耕耘軸(20)のみを駆動する第3の経路と、を備え、
前記操作レバー(10)により、前記エンジン(2)からの動力を前記車軸(4)及び前記耕耘軸(20)に伝達しない中立位置から、前記第3の経路を経て前記第2の経路となるように前記動力伝達装置(D)を切替えてなる、
ことを特徴とする移動農機にある。
【0009】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る本発明によると、動力伝達装置に耕耘軸のみを駆動する第3の動力伝達経路を備え、操作レバーにより、エンジンからの動力を車軸及び耕耘軸に伝達しない中立位置から、前記第3の経路を経て車軸と耕耘軸とを共に駆動する第2の経路に切換えるようにしたので、特に土壌の硬い圃場等での作業の場合、車軸を駆動しない状態で耕耘軸のみを駆動することにより、土壌の条件に合わせたきめ細かい作業が行える。
【0011】
また、運転操作に未熟な老人や婦女子等のオペレータであっても、この種移動農機で各種農作業を行う場合に、作業の開始や終了の位置が設定し易く、更に、耕耘軸のみが駆動している状態から機体が移動を開始するので、これらの動作に何らの戸惑いもなくなり、操作性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に沿って本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は移動農機の一つである歩行型管理機の左後方から見た全体斜視図であり、1は管理機の機体であって、該機体1の前部中央上部には、駆動源としてのエンジン2が搭載されており、該エンジン2の動力を機体1下方のミッションケースM内で、後述する動力伝達装置Dにより、左右両側に車輪3,3を備えた車軸4や後方に装着した作業機部Sに伝達して、圃場の耕耘作業等を行うように構成されている。
【0013】
また、前記機体1の上部後方には、上方斜め後方に延びる運転操作用のループ状のハンドル5とこれに設けた起伏自在のクラッチレバー6が備えられている。そして、前記ハンドル5はその装着基端部7が前記ハンドル5の取付角度を任意に調節出来る構成となっている。
【0014】
更に、前記ハンドル5の前方の機体1上にはオペレータがその表示を見やすい後方位置に向けた変速ガイドパネル8が装着され、その中央部にはガイド溝9が穿設されていて、前記下方のミッションケースMより斜め後方に延びる長い1本の操作レバー10がこれを貫通している。
【0015】
なお、前記変速ガイドパネル8の詳細については後述する。
【0016】
更にまた、機体1の前部側に装着された12は、プロテクターであって、機体1のバランスウェイトをも兼ねた構造となっている。13は前記エンジン2のマフラー、14は動力伝達ベルトのカバー、15はエアクリーナの空気吸入口である。
【0017】
次に、機体1後方に装着された作業機部Sについて述べるに、後述する水平方向の耕耘軸20に多数の耕耘爪21・・・を装着し、その上部や左右両側部をロータリカバー22で覆っており、その後方側には耕耘土の後方への飛散防止と均平作用とを兼ねたリヤカバー23が装着されている。
【0018】
そして、前記ロータリカバー22の上部には、(本実施例では)収納状態に装着した尾輪24が取付けられており、該尾輪24は農作業の内容により適宜機体1に装着して使用するためのものである。
【0019】
ここで25は、前記エンジン2の動力を作業機部Sに伝達する後述のチェン26を覆うチェンケースである。
【0020】
次に、図2は、前記ミッションケースMの内部を示す展開平断面図であり、以下図2に基づいて本発明の動力伝達装置Dの構成並びに走行及び耕耘作業時の作動等について説明する。ここで、図2(a)は、走行側であり、(b)は作業側を夫々示す。
【0021】
先ず、走行側の図2(a)について説明するに、前記エンジン2からの動力はベルトを介して入力プーリ30に入って入力軸31に伝達され、機体1の前進(F)時には、前記操作レバー10に連結されたシフター軸32を操作することにより、前記入力軸31のギヤと中間軸33のギヤ33bとが噛合して、該中間軸33に動力を伝達し、更に、該中間軸33の反対側にあるギヤ33cと噛合する作業機側中間軸34で遊転するギヤ34a〔図2(b)参照〕に伝達し、前記中間軸33に遊転するギヤ33dを介して出力軸35へ伝達されて、ここで差動歯車装置36を介して前記車軸4に動力が伝達されるようになっている。
【0022】
一方、後進(R)時には、前記シフター軸32を操作することにより、前記入力軸31の前記前進(F)時とは別のギヤと逆転軸37のギヤ37aとが噛合して、該逆転軸37のギヤ37aから前記中間軸33のギヤ33bに動力が伝達され、該中間軸33に逆転動力が伝達されることから、前記中間軸33のギヤが逆回転して、以下前記前進(F)時と同様に動力伝達するため、その結果として、前記車軸4が逆回転して機体1が後進するものである。
【0023】
また、作業側の図2(b)について説明するに、機体1の走行を一時停止しながら、硬い圃場等での耕耘作業や、間欠的に耕深作業等が必要な場合には、前記シフター軸32を操作することにより、前記入力軸31の動力を前記中間軸33に伝達することなく、遊転するギヤ33aよりこれに噛合する作業機側中間軸34のギヤ34bを介して作業機側中間軸34に動力を伝達し、中央にある前記スプロケット38から耕耘軸20側のスプロケット39にチェン26を介して動力を伝達し、左右一対の差動歯車装置40a,40bを介して左右の耕耘軸20a,20bに伝達するものである。
【0024】
更に、通常の前進(F)及び耕耘時には、前記シフター軸32を操作することにより、前記入力軸31上にあるギヤの一方が、前記中間軸33のギヤ33bと噛合して、該中間軸33に動力を伝達し、以下前記前進(F)時と同様にして前記車軸4に動力を伝達させると同時に、更に他方のギヤが中間軸33上で遊転するギヤ33aを介して作業機側の中間軸34に動力を伝達することにより、前記車軸4及び耕耘軸20の両方に同時に動力が伝達されて、機体1が前進しながら耕耘作業を行うものである。
【0025】
これらを、図3の変速ガイドパネル8の要部の詳細を示す説明用の平面図で説明するに、前記変速ガイドパネル8には前記操作レバー10が横方向へ自由に移動可能な幅のガイド溝9が穿設されており、左側端部の後進(R)位置のみは、無意識に操作レバー10が移動することがないようにガイド溝9を折曲している。
【0026】
そして、前記ガイド溝9に沿って、左側より順に「後進(R),中立(N),前進(F),中立(N),耕耘,耕耘+前進」なる表示がされていて、前記操作レバー10を左右方向の各表示位置にセットすることにより、前記シフター軸32が各操作位置に移動して前記図2で説明した各動力伝達操作が行えるようになっている。
【0027】
以上の構成のもので、オペレータがエンジン2を始動して各種の農作業を行う場合、前記操作レバー10の設定位置を、中立(N)から前進(F)位置に合わせて、前記ハンドル5の後部側に設けたクラッチレバー6を握れば、前記動力伝達装置Dが駆動して、機体1が前進(F)するものであり、逆に、後進したい時は、前記操作レバー10の設定位置を前記ガイド溝9の折曲した後進(R)位置にセットし、前記と同様にクラッチレバー6を握れば、機体1は後進するものである。
【0028】
また、硬い圃場での耕耘作業を行ったり、定位置で耕深作業を行うような場合には、前記操作レバー10のガイド溝9での位置を、中立(N)位置から耕耘位置にセットして、前記ハンドル5にあるクラッチレバー6を握りながら、ハンドル5後部を徐々に下げるようにすれば、前記動力伝達装置Dが耕耘軸20のみを駆動して、機体1の走行を停止した状態で、所定の深さに耕耘作業が行えるものである。
【0029】
更に、機体1を走行させながら耕耘作業を行うような場合には、前記操作レバー10のガイド溝9での位置を、「耕耘」から「前進+耕耘」位置にセットすると、前記動力伝達装置Dが車軸4と耕耘軸20の両方を同時に駆動して、機体1は、耕耘作業を行いながら前進走行を行うものである。
【0030】
要するに、本発明の場合には、殊に、動力伝達装置Dに耕耘軸20のみを駆動する第3の動力伝達経路を備え、操作レバー10により、エンジン2からの動力を車軸4及び耕耘軸20に伝達しない中立(N)位置から、前記第3の動力伝達経路を経て車軸4と耕耘軸20とを共に駆動する第2の動力伝達経路に切換えるようにしたので、特に土壌の硬い圃場等での作業の場合に、車軸4を駆動しない停止の状態で耕耘軸20のみを駆動することにより、走行停止状態での耕耘や耕深作業が可能になる等、土壌の条件に合わせたきめ細かい作業が行えるものである。
【0031】
また、運転操作に未熟な老人や婦女子等のオペレータであっても、この種移動農機で各種農作業を行う場合に、機体1の停止位置からのスタートとなるため、作業の開始位置や終了位置が設定し易く、更に、耕耘軸20のみが駆動している状態から機体1が移動を開始するので、これらの駆動に何らの戸惑いもなくなり、操作性の向上が確保出来るものである。
【0032】
なお、本実施例は管理機で説明したが、本発明をそれ以外の移動農機に適用させても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】歩行型管理機の左後方から見た全体斜視図。
【図2】ミッションケースの内部を示す断面図であって、(a)は走行側、(b)は作業側を夫々示す。
【図3】ガイド溝の詳細を示す説明用平面図。
【符号の説明】
【0034】
1 機体
2 エンジン
4 車軸
8 変速ガイドパネル
9 ガイド溝
10 操作レバー
20 耕耘軸
31 入力軸
32 シフター軸
33,34 中間軸
M ミッションケース
D 動力伝達装置
S 作業機部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を車軸及び耕耘軸に伝達する動力伝達装置を備え、かつ該動力伝達装置の伝動経路を操作レバーにより切換えてなる、移動農機において、
前記動力伝達装置は、前記車軸のみを駆動する第1の経路と、前記車軸と前記耕耘軸とを共に駆動する第2の経路と、前記耕耘軸のみを駆動する第3の経路と、を備え、
前記操作レバーにより、前記エンジンからの動力を前記車軸及び前記耕耘軸に伝達しない中立位置から、前記第3の経路を経て前記第2の経路となるように前記動力伝達装置を切替えてなる、
ことを特徴とする移動農機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−244338(P2007−244338A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75672(P2006−75672)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】