説明

移植機

【課題】対地作業機の高速駆動が規制された移植機を提供することを課題としている。
【解決手段】植付作業機7が連結された走行機体1のトランスミッションにおける有段の走行変速部27の操作系と、走行機体1側から伝動される駆動力によって駆動され、圃場に対する作業を行う対地作業機17に対する駆動力を入り切りする駆動入切部48の操作系とを、走行機体1の走行速度が圃場内での作業走行速度より高速となるように変速されると、対地作業機17への駆動力の伝動を切るように連動させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に対する作業を行う対地作業機を備えた移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来走行機体と、該走行機体に連結される植付作業機とからなり、植付作業機側に、圃場に苗を植え付ける植付部と、走行機体側から伝動される駆動力によって駆動され、圃場に対する作業を行う対地作業機とを設け、走行機体のトランスミッションに有段の走行変速部を設け、走行変速部による変速後の駆動力を対地作業機に伝動する対地作業機駆動伝動部を設けた移植機が公知となっている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また上記移植機の対地作業機駆動伝動部内に、地作業機に対する駆動力を入り切りする駆動入切部(クラッチ)を設けたものもある。この場合クラッチの入り切りを操作して対地作業機の駆動と停止を切り換えることができる。
【特許文献1】特開2005−124442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対地作業機に伝動される駆動力は、走行変速部による変速後の駆動力であるため、圃場での作業走行時には、走行速度に伴って駆動速度が変更され、走行機体の走行速度が変化しても略同条件で圃場に対する作業を行うことができる。
【0005】
ただし走行機体の走行速度が、圃場内での作業走行速度に比較して高速となる状態、例えば路上での走行時には、圃場内での作業に必要な速度以上の高速駆動力が対地作業機に伝動される。
【0006】
通常路上での走行時等においては対地作業機は駆動されないが、誤って対地作業機に駆動力を伝動すると、不要な対地作業機の駆動が行われると共に、対地作業機が高速駆動され、対地作業機の破損等が発生する場合があるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の移植機は、走行機体1と、該走行機体1に連結される植付作業機7とからなり、植付作業機7側に、圃場に苗を植え付ける植付部14と、走行機体1側から伝動される駆動力によって駆動され、圃場に対する作業を行う対地作業機17とを設け、走行機体1のトランスミッションに有段の走行変速部27を設け、走行変速部27による変速後の駆動力を対地作業機17に伝動する対地作業機駆動伝動部を設け、対地作業機駆動伝動部内に、対地作業機17に対する駆動力を入り切りする駆動入切部48を設けた移植機において、走行変速部27の操作系と駆動入切部48の操作系とを、走行機体1の走行速度が圃場内での作業走行速度より高速となるように変速されると、対地作業機17への駆動力の伝動を切るように連動させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
以上のように構成される本発明の構造によると、路上走行等のように走行機体の走行速度が圃場内での走行速度より高速となると、対地作業機への駆動力の伝動が断たれる。これにより路上走行時等において、対地作業機が駆動されることはなく、対地作業機の不要な高速駆動を規制することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明を適用した移植機である乗用田植機の側面図である。該乗用田植機の走行機体1は、前後輪2,3を備えている。前輪2及び後輪3の間の位置には、運転用のシート4が設けられている。走行機体1の後方には、昇降リンク6を介して植付作業機7が昇降自在、且つローリング可能に連結されている。
【0010】
植付作業機7のフレーム(作業機フレーム)8は、縦方向の縦フレーム9と、該縦フレーム9の下方に左右方向に横設されている横フレーム11とを備えている。縦フレーム9と横フレーム11とは一体的に固定されている。
【0011】
作業機フレーム8側に苗載せ台12が取り付けられている。横フレーム11側に、複数のプランタケース13が取り付けられている。プランタケース13に苗の植付け用のビーク14が植付部として設けられている。プランタケース13の下方には、左右方向に複数のフロート16が設けられている。
【0012】
本乗用田植機は、フロート16が圃場面に接地するように植付作業機7を下降させ、走行機体1を走行させながらビーク14を回転駆動することによって、ビーク14が苗載せ台7上の苗を掻きとって圃場に植え付ける。本乗用田植機は代掻同時移植機ではないため、代掻き後の圃場への苗の植付作業を行う。
【0013】
植付作業機7側には、ビーク14の前方且つ後輪3の後方に、ビーク14と後輪3との間に位置するように、植付作業機7の略全幅にわたって整地ロータ17が設けられている。整地ロータ17は、支点軸(ロータ軸)18に回転駆動自在に軸支されている。
【0014】
ロータ軸18は、支持ロッド19によって作業機フレーム8側に支持されている。支持ロッド19は、横フレーム11側に取り付けられたパイプ21に上下スライド自在に挿入されている。これにより整地ロータ17は上下スライドが可能であり、高さ調節可能に取り付けられている。
【0015】
整地ロータ17は圃場内への挿入状態で回転駆動されることによって、圃場の表面から植付け深さまでの圃場表層の整地作業を行う対地作業機である。整地ロータ17により、上記植付け作業時に走行機体1の旋回等により荒れた代掻き後の圃場の枕地等の整地を行い、整地後の圃場に苗を植え付けることが可能である。
【0016】
図2に示されるように、走行機体1に搭載されているトランスミッションのミッションケース22には、外側に油圧無段変速装置(HST)23が搭載されている。HST23の入力プーリ24にエンジンからの駆動力が入力される。HST23はエンジンから入力される駆動力を無段階に変速して出力する。
【0017】
HST23からの出力はトランスミッションの入力軸26に伝動される。入力軸26に伝動された駆動力は、ギヤ式の副変速部27によって副変速されて出力軸28に伝動される。上記副変速部27は、ニュートラルを備え、且つ圃場内での作業走行用の低速と路上等での走行用の高速の2段変速を行う走行変速部となっている。入力軸26に伝動された駆動力は、株間変速部29を介して植付作業機7に対して駆動力を出力する植付PTO軸31にも分岐伝動される。
【0018】
前述の出力軸28からはディファレンシャルギヤ32を介して左右の前輪2の駆動軸33に駆動力が伝動される。さらに出力軸28からはベベルギヤ34を介して後輪3に対して駆動力を出力する走行PTO軸36にも駆動力が分岐伝動される。走行PTO軸36に伝動された駆動力は、図3に示されるリヤアクスルケース37の入力軸38に、伝動軸39を介して伝動される。
【0019】
リヤアクスルケース37に伝動された駆動力は、ベベルギヤ41を介して後輪伝動軸42に伝動される。後輪伝動軸42に伝動された駆動力が後輪3の駆動軸43に伝動される。上記により前輪2及び後輪3は、HST23による主変速及び副変速部27による副変速後の走行変速された駆動力によって回転駆動され、走行機体1を走行させる。
【0020】
上記入力軸38には駆動力の分岐用の分岐ギヤ44が一体回転するように軸支されている。分岐ギヤ44は、リヤアクスルケース37の外側に装着された分岐ケース46内に配置されている。分岐ケース46には、整地ロータ17に駆動力を出力するための出力軸47が軸支されている。
【0021】
該出力軸47には、クラッチ48を介して分岐ギヤ44から駆動力が入り切り自在に伝動されている。出力軸47から整地ロータ17のギヤケースに伝動軸49を介して駆動力が伝動され(図1参照)、整地ロータ17が回転駆動される。
【0022】
走行PTO軸36,伝動軸39,入力軸38,分岐ギヤ44,クラッチ48,出力軸47,伝動軸49によって、副変速部27による変速後の駆動力を対地作業機である整地ロータ17に伝動する対地作業機駆動伝動部が構成されている。対地作業機駆動伝動部内には、整地ロータ17に対する駆動力を入り切りする駆動入切部としてクラッチ48が設けられている。
【0023】
クラッチ48を入り状態とすることによってHST23による主変速及び副変速部27による副変速後の走行変速された駆動力が、分岐ギヤ44から出力軸47に伝動され、伝動軸49を介して走行機体1の走行速度に応じた速度で整地ロータ17が回転駆動される。圃場内での作業走行時には、走行速度に応じて整地ロータ17の回転速度が変更される。
【0024】
このため整地ロータ17は、全ての走行速度において略同条件で圃場の整地を行うことができる。なおクラッチ48を切り状態とすることによって分岐ギヤ44から出力軸47への駆動力の伝動が断たれるため、整地ロータ17の回転駆動は停止される。
【0025】
上記副変速部27は、図4に示される副変速レバー51によって操作される。副変速レバー51は、前後揺動自在に走行機体1側に軸支されている。ミッションケース22には、副変速部27を変速作動させるシフタ軸52の操作用のアーム53が設けられている。副変速レバー51とアーム53とは、ロッド54によって連結されている。
【0026】
これにより副変速レバー51の揺動に応じてアーム53が揺動され、シフタ軸52を介して副変速部27の変速が行われる。一方前述のクラッチ48の操作用のシフタ軸56を操作する操作アーム57が分岐ケース46の外側に設けられている。クラッチ48は常時入り状態に付勢されている。クラッチ48は操作アーム57の揺動操作によって切り状態に切り換えられる。
【0027】
ミッションケース22側には、前述のアーム53と一体的に揺動するアーム58が同軸で設けられている。アーム58と操作アーム57とが連結ロッド59を介して連結されている。連結ロッド59の一端側は操作アーム57に回動自在に軸支されている。連結ロッド59の他端側は、アーム58に設けられた長孔61を介してアーム58に連結されている。
【0028】
長孔61はアーム58の揺動軌跡に沿って形成されている。副変速レバー51を中立位置から後方の作業ポジションに揺動操作すると、副変速部27が低速側に切り換えられる。このときアーム53と一体にアーム58が揺動する。
【0029】
しかし連結ロッド59のアーム58側の端部は、アーム58の長孔61内をフリーに移動するのみで、操作アーム57は揺動操作されず、クラッチ48は入り状態を継続する。これにより圃場内での作業走行時には整地ロータ17に駆動力が伝動され、整地ロータ17は回転駆動される。
【0030】
一方副変速レバー51を中立位置から前方の走行ポジションに揺動操作すると、副変速部27が高速側に切り換えられる。このとき連結ロッド59のアーム58側の端部は、いったんアーム58の長孔61に接し、その後アーム58の揺動によって操作され、操作アーム57を揺動させ、クラッチ48を切り状態に切り換える。
【0031】
これにより走行機体1の走行速度が、副変速部27によって路上走行等のために圃場での作業走行より高速に変速されると、整地ロータ17への駆動力の伝動が断たれ、整地ロータ17の回転駆動が停止される。
【0032】
なお図5に示されるように、シート4の側方には、整地ロータ17の駆動と駆動停止を切り換える専用の整地ロータレバー62が前後揺動自在に設けられている。整地ロータレバー62と操作アーム57とはロッド63を介して連結されている。ただしロッド63と操作アーム57とは、操作アーム57側に設けられた長孔64を介して連結されている。操作アーム57側のピン66が長孔64の下端側に当接している。
【0033】
整地ロータレバー62を前方の切りポジションに揺動させると、ピン66と接する長孔64の下端側が操作アーム57を前方に揺動させ、クラッチ48を切り状態とし、整地ロータ17への駆動力の伝動を断ち、整地ロータ17の回転駆動を停止させることができる。
【0034】
整地ロータレバー62を後方の入りポジションに揺動させると、クラッチ48の付勢力によってピン66が長孔64の下端側に追従し、操作アーム57が初期状態に復帰し、クラッチ48が入り状態となるため、整地ロータ17に駆動力が伝動され、整地ロータ17を回転駆動させることができる。
【0035】
整地ロータレバー62の入りポジション時には、ピン66が長孔64内をスライド移動することによって、前述のような副変速レバー51の揺動操作に連動する操作アーム57の揺動(整地ロータ17の駆動と駆動停止の切り換え)を許容する。
【0036】
上記のように整地ロータ17の駆動が副変速に連動し、路上走行等の整地ロータ17を使用しない高速走行時には、整地ロータ17の駆動が自動的に停止される。これにより路上走行時等において誤って整地ロータ17が回転駆動される不都合が防止され、不必要な整地ロータ17の駆動が規制される。
【0037】
整地ロータ17の駆動速度は走行機体1の走行速度に連動するため、路上走行時等において誤って整地ロータ17が回転駆動されると、整地ロータ17の回転速度が予め想定されていない極めて高速となり、整地ロータ17の破損や泥土の跳ね飛ばし等が有りえるが、上記のように整地ロータ17の駆動が規制されるため、不要な高速駆動が規制され、整地ロータ17の破損や泥土の跳ね飛ばし等を防止することができる。
【0038】
図6に示されるように、前述のクラッチ48をアクチュエータ(電動モータ71)により入り切りできるよう構成することもできる。この場合図7に示されるシート4の前方に設けられる操作パネル72に備えられた植付スイッチ73の入り操作により、電動モータ71を駆動してクラッチ48を入り状態に切り換える構成とすることができる。
【0039】
植付スイッチ73は、植付作業を行う場合に入り操作されるスイッチである。植付スイッチ73の入り操作によって、植付関係の電装系が作動し、植付けが可能となる。このため植付け作業時のみ整地ロータ17を駆動することが可能となる。前述の実施形態のようにシート4の側方に整地ロータレバー62を設ける必要がないため、シート4の周辺構造を簡単にすることができる。
【0040】
なお図8に示されるように、副変速レバー51のポジションを検出するレバー位置検出スイッチ74を副変速レバー51の近傍に設けることもできる。図8においてレバー位置検出スイッチ74は、リミットスイッチからなり、ONによって副変速レバー51が走行ポジションに位置したことを検出する。
【0041】
この場合レバー位置検出スイッチ74がON状態(副変速レバー51の走行ポジション)においては、クラッチ48が切り状態となるように電動モータ71をコントロールすることにより、上記同様走行機体1の高速走行時の整地ロータ17の駆動を規制することができる。なお図6,図8において、図1,図4と同一符号は同一部品を示し、同一機能については説明を割愛する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】乗用田植機の側面図である。
【図2】トランスミッションの展開図である。
【図3】リヤアクスルケースの要部断面図である。
【図4】副変速レバーの連係状態を示す要部側面図である。
【図5】整地ロータレバーの連係状態を示す要部側面図である。
【図6】電動モータ式のクラッチを備えた乗用田植機の要部側面図である。
【図7】操作パネルの平面図である。
【図8】他の実施形態の副変速レバーの連係状態を示す要部側面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 走行機体
7 植付作業機
14 ビーク(植付部)
17 整地ロータ(対地作業機)
27 副変速部(走行変速部)
48 クラッチ(駆動入切部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)と、該走行機体(1)に連結される植付作業機(7)とからなり、植付作業機(7)側に、圃場に苗を植え付ける植付部(14)と、走行機体(1)側から伝動される駆動力によって駆動され、圃場に対する作業を行う対地作業機(17)とを設け、走行機体(1)のトランスミッションに有段の走行変速部(27)を設け、走行変速部(27)による変速後の駆動力を対地作業機(17)に伝動する対地作業機駆動伝動部を設け、対地作業機駆動伝動部内に、対地作業機(17)に対する駆動力を入り切りする駆動入切部(48)を設けた移植機において、走行変速部(27)の操作系と駆動入切部(48)の操作系とを、走行機体(1)の走行速度が圃場内での作業走行速度より高速となるように変速されると、対地作業機(17)への駆動力の伝動を切るように連動させた移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−222086(P2007−222086A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47835(P2006−47835)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】