説明

移植機

【課題】どのような状態でも確実に植付作業機の昇降と連動して駆動する整地ロータを備えた移植機を提供する。
【解決手段】植付作業機20のフロート26の前方に整地ロータ30を設けると共に、リヤアクスルケース33の前部に設けられた分岐ケース32によって整地ロータ30の駆動力を走行駆動系から分岐する。分岐ケース32内部には整地ロータ30の駆動を入切するロータクラッチが設けられ、分岐ケース32の側方にはロータクラッチを断接するシフタレバー48が設けられている。該シフタレバー48の突起部48aには操作プレート68が嵌合している。作業者が昇降レバーを上方に操作すると植付作業機20と共に操作プレート68によってシフタレバー48は切り操作され、昇降レバーを下方に操作すると、ロータクラッチは係合状態を保たれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場面を均平する整地ロータを備えた移植機に関し、詳しくは、該整地ロータの駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行機体後方に昇降リンクを介して植付作業機(植付機)が連結され、その前方に該植付作業機と連動して昇降する整地ロータ(代掻用ロータ)を備えた移植機において、整地ロータの駆動を断接するロータクラッチの作動レバーを上記昇降リンクに連結し、該植付作業機の上昇によってロータクラッチが切断され、下降によって整地ロータクラッチが係合される移植機が案出されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3088629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の移植機は昇降リンクにロータクラッチの作動レバーを連結し、植付作業機の高さに応じて整地ロータの駆動及び停止を切換えているが、圃場深さが深くなるとロータクラッチを断接するための作動ストロークが足りなくなり、整地ロータが駆動しなかったり、半クラッチ状態で駆動してロータクラッチの耐久性を低減したり、してしまうことがある。
【0005】
また、整地ロータの駆動力を植付伝動系から分岐することによって、植付作業機の昇降と連動して整地ロータの駆動を入切することもできるが、整地ロータによって圃場を均し走行する際、植付作業機も一緒に作動して、植付爪に泥が詰まったり、苗載台に搭載した苗がエプロンと摺動して痛んだりしてしまうため、個別に上記植付爪や苗載台などを停止させる必要があり、面倒であった。
【0006】
そこで、本発明は、走行駆動系から整地ロータに駆動力を分岐させ、該整地ロータの駆動を入切するロータクラッチを、昇降レバーの操作に基づいて断接することによって、上記課題を解決した乗用田植え機等の移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、走行機体(2)後部に昇降リンク(15)を介して連結された植付作業機(20)と、油圧によって昇降する該植付作業機(20)の油圧状態を上昇状態、固定状態及び検知体(26)の姿勢変化に対応して昇降させる自動昇降状態に切換え操作する昇降レバー(12)と、走行駆動系(A)からの駆動力を分岐し、該植付作業機(20)に連動して昇降する整地ロータ(30)と、を備えた移植機において、前記整地ロータ(30)の駆動を入切するロータクラッチ(40)を断接する操作具(70)を設け、前記昇降レバー(12)の操作により植付クラッチ及び前記ロータクラッチ(40)が個別に断接され、前記植付作業機(20)の自動昇降状態時には前記ロータクラッチ(40)を係合すると共に、前記操作具(70)により該ロータクラッチ(40)の切断を許容し、前記植付作業機(20)の上昇状態時には前記ロータクラッチ(40)を切断する、ことを特徴とした移植機にある。
【0008】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によると、昇降レバーの操作に基づいてロータクラッチを断接することによって、どのような圃場状態においても、植付作業機の油圧状態と連動して確実に整地ロータの駆動を入切することができる。また、ロータクラッチの断接と植付クラッチの断接とを連動させないと共に、整地ロータの駆動力を走行駆動系から分岐することによって、圃場の均し走行をする際に、植付作業機を停止させ、整地ロータのみ駆動させることもできる。更に、植付作業機が自動昇降状態時には操作具によって整地ロータの駆動を停止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について図面に沿って説明する。図1に示すように本発明に係る移植機としての乗用田植え機1は、前輪3及び後輪4によって支持された走行機体2を有し、該走行機体2の前方にはボンネット5に覆われたエンジンが配設されている。また、上記エンジンの後方には、運転座席14及びステアリングハンドル11からなる操作部10が設けられ、その側方には、補助者が畦際から苗箱等に収められたマット苗を供給する苗供給装置8と、マット苗を取り出した後の空箱を回収する空箱回収装置6とが設けられている。
【0011】
一方、走行機体2の後方には、アッパリンク15b及びロアリンク15aからなる昇降リンク15を介して植付作業機20が昇降自在に連結されている。該植付作業機20は、マット苗を載置し、前高後低に設けられた苗載台21、プランタケース24の後端部に回転自在に取付けられた植付機構25及び上記プランタケース24の下方に付設された接地フロート26(検知体)等からなり、苗載台21から苗を掻き取って圃場に苗を植付けている。
【0012】
該植付作業機20は、苗載台21下方のエプロン22を植付本数調整レバー23によって上下に平行移動させることによって、掻取られるマット苗の量を調整できると共に、植付作業機20の圃場面からの高さを検知する検知体である接地フロート26の圃場面の追従(姿勢変化)に基づいて自動的に昇降駆動され、植付深さが常に一定に保たれるように構成されている(自動昇降機構)。
【0013】
また、上記接地フロート26の前方には圃場面を均平する整地ロータ30が設けられており、ブラケット18及び支持ロッド16を介してロアリンク15aと連結し、植付作業機20と連動して昇降する。
【0014】
次に、上記整地ロータ30の動力伝達機構について説明する。エンジンからの動力を伝達する走行PTO軸34はリヤアクスルケース33の入力軸35と連結しており、該入力軸35に嵌挿したギヤ35aを介して後輪駆動軸(不図示)に動力伝達している。該リヤアクスルケース33の前部には分岐ケース32が設けられており、該分岐ケース32の後方から突出した動力分岐軸38及びロータPTO軸31を介して走行駆動系Aから整地ロータ30へと駆動力が分岐されている。
【0015】
図2に示すように、分岐ケース32内では、入力軸35の中途部に分岐ギヤ36が固設されており、動力分岐軸38に対して自由回転するクラッチギヤ41と噛合している。該クラッチギヤ41の同軸上には整地ロータ30の駆動を入切するロータクラッチ40と、ベアリング38aとがクラッチギヤ41を挟んで設けられており、クラッチギヤ41の前後への移動を規制している。
【0016】
上記ロータクラッチ40は、動力分岐軸38のスプライン部38bにスプライン嵌合するクラッチスリーブ42と、該クラッチスリーブ42をクラッチギヤ41側へと常に付勢するスプリング43と、スプリング43の一端を抜止め・係止する係止板44とから構成されており、クラッチスリーブ42のクラッチギヤ41との当接面にはクラッチ爪45が設けられている。
【0017】
ロータクラッチ40は、スプリング43の付勢力によってクラッチスリーブ42が移動して、クラッチ爪45とクラッチギヤ41とが当接することによって係合する。それにより、クラッチギヤ41、クラッチスリーブ42及び動力分岐軸38が一体となって回転し、入力軸35に入力されたエンジンからの動力が動力分岐軸38へと伝達される。
【0018】
また、分岐ケース32の側部にはシフタ軸47が軸支されており、該シフタ軸47の突出部にはシフタレバー48が取付けられている。上記シフタ軸47にはガイド軸46がシフタ軸47に対して偏心して取付けられており、該ガイド軸46はクラッチスリーブ42の凹部42aに嵌合している。これによりシフタ軸47を回動させるとガイド軸46がシフタ軸47を中心に回転し、クラッチスリーブ42を機体前方側へと移動させロータクラッチ40を切断する。
【0019】
次に本発明の要部であるロータクラッチ40の操作機構について説明をする。図3に示すように操作部10のステアリングハンドル11の下部にはステアリングコラム13が設けられており、該ステアリングコラム13の一側方から昇降レバー12が上下方向に操作可能に設けられている。該昇降レバー12は、後述するコントロールバルブ作動機構50を作動させて、植付作業機20を昇降させると共に、植付クラッチ(不図示)及びロータクラッチ40の断接をも制御可能に構成されている。
【0020】
上記コントロールバルブ作動機構50は、図4に示すように、昇降レバー12の操作により作動する油圧カムモータ51と、該油圧カムモータ51によって駆動する植付クラッチ用カムプレート52及びロータクラッチ用カムプレート53と、これらカムプレート52,53によって作動されるアーム54とを有し、該アーム54によってコントロールバルブ55を作動させて油圧状態を上昇、固定及び植付作業機20を接地フロート26の圃場面の追従に基づいて自動的に昇降駆動させる自動昇降状態に切換えるように構成されている。また、油圧カムポテンショ56は上記カムプレート52,53と同軸上に固定され、これらカムプレート52,53の位置を検出することができる。
【0021】
更に、該コントロールバルブ55には、コントロールバルブ55に圧油を供給するホース65と、植付作業機20を昇降させる油圧シリンダに圧油を供給するシリンダホース64と、該油圧シリンダから排出された油をオイルタンクに戻すリターンホース66が接続されている。
【0022】
一方、回動ピン58を中心として揺動可能なロータリンク60及び植付リンク61がピンの軸方向に重なって配設されており、これらリンク60,61の上端には、それぞれ上記植付クラッチ用カムプレート52及びロータクラッチ用カムプレート53の外周部と当接するカムローラ60a,61aが回転自在に支持されている。上記植付リンク61の他端にはロッド63が連結されており、該ロッド63を介して植付クラッチの断接が操作できるように構成され、ロータリンク60の他端にはクラッチワイヤ62が取付けられている。
【0023】
図5及び図6に示すように、上記クラッチワイヤ62は、一定長さの楕円形をした切欠部68aを有する操作プレート68に連結しており、該切欠部68aには、ロータクラッチ40のシフタレバー48の中央部に形成された突起部48aが嵌合している。また、シフタレバー48の後端部には手動によってロータクラッチ40を断接するロータクラッチレバー(操作具)70から延びるクラッチワイヤ71が連結されている。
【0024】
そのため、図5に示すように、植付作業機20が下降時(自動昇降状態又は植付状態)の場合、シフタレバー48の突起部48aは、該操作プレート68の切欠部68aの中央に位置しており、ロータクラッチ40はスプリング43の付勢力によって常に係合状態にある。また、ロータクラッチレバー70によってシフタレバー48を操作してロータクラッチ40を切断することもできる。
【0025】
更に、ロータクラッチレバー70は、整地ロータ30の植付作業機20に対する昇降操作も可能に構成されており、整地ロータ30はロータクラッチレバー70の入操作によって植付作業機20に対して下降し、切操作によって植付作業機20に対して上昇する。整地ロータ30は下降状態の場合、植付作業機20が接地時には圃場面に接地しており、上昇状態の場合、植付作業機20に対して上昇して圃場面から離間している。
【0026】
一方、図6に示すように、植付作業機20が上昇時(上昇状態又は固定状態)の場合、シフタレバー48の突起部48aは上記操作プレート68の切欠部68aの下端に位置しており、シフタレバー48は上方に回動された状態で固定され、ロータクラッチ40は常に切断状態に保持される。
【0027】
以下に本実施の形態に係る乗用田植え機の作用について説明をする。
【0028】
作業者が、昇降レバー12を中立位置から下方に操作してコントロールバルブ作動機構50により油圧状態を自動昇降状態にすると、植付作業機20が下降すると共に植付クラッチ用カムプレート52及びロータクラッチ用カムプレート53が作動し、ロータクラッチ40が係合状態となる。再度、昇降レバー12を下方に操作すると、植付クラッチも係合状態となる(植付状態)。この状態で乗用田植え機1を走行させ、整地ロータ30によって圃場面を均平すると同時に、その均平された圃場面に植付作業機20によって苗を移植し、作業者はこれにより、代掻き作業をせずに苗の植付をする。
【0029】
植付作業が終わると、作業者は昇降レバー12を上方に操作し、植付作業機20を上昇させると共に、上記植付クラッチ用カムプレート52及びロータクラッチ用カムプレート53が作動して、植付クラッチ及びロータクラッチ40を切断する。この時、ロータクラッチ40のシフタレバー48は、操作プレート68によって上方に回動した位置で固定されており、ロータクラッチ40は切断された状態を維持される。
【0030】
一方、植付作業機20を作動させずに整地作業のみ行いたい場合、作業者は上述した植付クラッチの入らない下降位置まで昇降レバー12を下方に操作する。これにより、同様に上記植付クラッチ用カムプレート52及びロータクラッチ用カムプレート53が作動するが、ロータクラッチ40のみ係合状態となり、この状態で乗用田植え機1を走行させると、植付作業機20が停止した状態で整地ロータ30が駆動し、圃場面を均す。
【0031】
また、整地ロータ30を作動させずに植付作業のみ行いたい場合、上記植付状態において作業者はロータクラッチレバー70を操作して、ロータクラッチ40を手動で切断しかつ整地ロータ30を圃場面から離間させて、植付作業機20のみ駆動させて圃場面に苗を移植する。
【0032】
更に、ロータクラッチレバー70を切操作するとロータクラッチ40が切断され、整地ロータ30の駆動は植付作業機20の昇降と連動せず、常に切状態となる。これにより作業者はロータクラッチレバー70によってロータクラッチ40の断接操作ができると共に、植付作業機20が植付クラッチが切断状態である下降時にロータクラッチレバー70を操作して、ロータクラッチ40を手動で切断し、植付作業機20及び整地ロータ30を作動させずに圃場面を走行することもできる。
【0033】
上記のように乗用田植え機1を構成したことによって、植付作業機20が上昇時には整地ロータ30の駆動を停止させ、下降時には整地ロータ30を駆動させると共に、どのような圃場状態でも作業者の昇降レバー12の操作に基づいて、確実にロータクラッチ40を断接することができる。
【0034】
また、整地ロータ30は、走行駆動系Aから動力を分岐していると共に、植付クラッチ及びロータクラッチ40を独立して断接しているため、圃場の均し走行をする際に、植付作業機を停止させ、整地ロータ30のみ駆動させることもできると共に、乗用田植え機1が動かない限り整地ロータ30は駆動しないため、作業者は安心である。
【0035】
更に、ロータクラッチレバー70を操作することによって、ロータクラッチ40の断接を操作することができ、ロータクラッチレバー70を切操作することによって植付作業機20の昇降と連動させず、整地ロータ30を常に切状態とすることができる。それにより、ロータクラッチ40を切断した状態で植付作業を行うことや、整地ロータ30及び植付作業機20共に停止させた状態で圃場面を走行することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係る乗用田植え機の側面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る分岐ケースの断面図。
【図3】植付作業機の昇降操作部を示す斜視図。
【図4】植付作業機を昇降させるバルブ作動機構を示し、(a)は、駆動機構部を示す側面図、(b)は配管構造を示す側面図。
【図5】植付作業機が下降時の際のロータクラッチ作動部を示す側面図。
【図6】植付作業機が上昇時の際のロータクラッチ作動部を示す側面図。
【符号の説明】
【0037】
2 走行機体
12 昇降レバー
15 昇降リンク
20 植付作業機
26 接地フロート(検知体)
30 整地ロータ
40 ロータクラッチ
70 ロータクラッチレバー(操作具)
A 走行駆動系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体後部に昇降リンクを介して連結された植付作業機と、油圧によって昇降する該植付作業機の油圧状態を上昇状態、固定状態及び検知体の姿勢変化に対応して昇降させる自動昇降状態に切換え操作する昇降レバーと、走行駆動系からの駆動力を分岐し、該植付作業機に連動して昇降する整地ロータと、を備えた移植機において、
前記整地ロータの駆動を入切するロータクラッチを断接する操作具を設け、
前記昇降レバーの操作により植付クラッチ及び前記ロータクラッチが個別に断接され、
前記植付作業機の自動昇降状態時には前記ロータクラッチを係合すると共に、前記操作具により該ロータクラッチの切断を許容し、
前記植付作業機の上昇状態時には前記ロータクラッチを切断する、
ことを特徴とした移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−112262(P2009−112262A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289984(P2007−289984)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】