説明

種結晶を用いる溶融液凝固法によるフッ化金属単結晶製造における種結晶体表面への付着物抑制方法

【課題】チョクラルスキー法やキロポーラス法によるフッ化カルシウムなどのフッ化金属単結晶体の製造において、種結晶体表面への黒色物質の付着を効果的に抑制する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも原料フッ化金属が溶融を開始してから種結晶体を原料溶融液に接触させるまでの間は、種結晶体の原料溶融液に接触させる部分(先端部)を炉内の高温領域に待機させて、各種揮発成分の種結晶先端への凝縮・付着を防止する。具体的には、原料フッ化金属の融点未満かつ(融点−400℃)以上の温度となる位置cにて待機させる。さらにスカベンジャーを用いる場合には、スカベンジャーの溶融及び/又は分解が開始するよりも前に当該位置にての待機を開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料等に用いられるフッ化金属単結晶体を、種結晶を用い融液凝固法で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化カルシウムやフッ化バリウム等のフッ化金属の単結晶体は、広範囲の波長帯域にわたって高い透過率を有し、低分散で化学的安定性にも優れることから、紫外波長または真空紫外波長のレーザーを用いた各種機器、カメラ、CVD装置等のレンズ、窓材等の光学材料として需要が広がってきている。とりわけ、フッ化カルシウム単結晶体は、ArFレーザー(193nm)やFレーザー(157nm)での光源の窓材、光源系レンズ、投影系レンズとして用いられている。
【0003】
従来、こうしたフッ化金属の単結晶体は融液凝固法で製造されてきている。融液凝固法のなかでも、ブリッジマン法やチョクラルスキー法などの坩堝を用いる方法により製造するのが一般的である。ブリッジマン法は、坩堝底に種結晶体を配置しておき、該坩堝中に収容された原料溶融液を、坩堝を徐々に下降させて低温域に移動させることにより冷却し、坩堝中に収容された原料溶融液を成長させる方法である。チョクラルスキー法とは、坩堝中の原料溶融液面に種結晶体を接触させ、次いで、その種結晶体を坩堝の加熱域から徐々に引上げて冷却することにより、該種結晶体の下方に単結晶体を成長させる方法である。キロポーラス法はチョクラルスキー法に類似しているが、原料溶融液面に接触させた種結晶体は引上げず、或いはチョクラルスキー法と比較して極端に遅い速度で引上げつつ、ヒーター出力を徐々に下げて坩堝を冷却することにより、原料溶融液面下で単結晶体を成長させる点がチョクラルスキー法と異なる方法である。
【0004】
チョクラルスキー法やキロポーラス法などの、原料を坩堝内で溶融させておき、該原料溶融液面に上方から種結晶体を接触させて、該種結晶体と同じ結晶配向方位を有する結晶を成長させるタイプの融液凝固法は、製造される単結晶体が坩堝壁に接触することなく成長するため、多結晶化してしまう可能性が低く、また大型で歪の少ない単結晶体を効率よく製造することができる優れた方法である(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
なお、フッ化金属単結晶中に不純物として酸素が存在すると短波長側に吸収を生じる。特に真空紫外域で使用する場合には、単に初期透過率が低下するのみならず、レーザー光の照射によりこの透過率そのものが徐々に低下していく(レーザー耐性に劣る)。
【0006】
そのため、通常はスカベンジャーと呼ばれる酸素除去剤を用いることが行われる。このスカベンジャーとしては、PbF、ZnF等の固体スカベンジャー(常温で固体のスカベンジャー)や、CF等のフッ素化炭化水素からなる気体スカベンジャー(常温で気体のスカベンジャー)が用いられている(例えば、特許文献1〜9参照)。
【0007】
固体スカベンジャーを用いる場合には、フッ化金属原料とよく混ぜ合わせて坩堝に収容し、或いは、特開2009−040630号公報に開示されているように原料フッ化金属及びその溶融液とは接触しない位置に収容し、スカベンジ反応が生じる温度(フッ化金属の融点よりも低い)まで昇温して脱酸素を行い、その後さらに昇温して原料フッ化金属を溶融、次いで単結晶化が行われる。
【0008】
気体スカベンジャーを用いる場合には、炉内にフッ化金属原料を装入して加熱を開始し、(1)スカベンジ反応が生じる温度に到達する以前に気体スカベンジャーを炉内に導入した後、スカベンジ反応が生じる温度(フッ化金属の融点よりも低い)まで昇温して脱酸素を行い、或いは(2)スカベンジ反応が生じる温度に到達した後に気体スカベンジャーを炉内に導入して脱酸素を行い、その後さらに昇温して原料フッ化金属を溶融、次いで単結晶化(結晶の育成)が行われる。
【0009】
さらに、このようなスカベンジャーを用いる他に、脱酸素工程としてベーキング処理を行うのが一般的である。ベーキング処理は、加熱を開始してから原料フッ化金属を溶融させるまでの時間を長くすれば良く、その間、炉内を排気減圧下におくことが好ましい。これによりスカベンジ反応を生じる温度までは原料フッ化金属表面や炉内に存在する吸着水分等を除去し、またスカベンジ反応が生じる温度以上では、気化したスカベンジャーと残存水分等とが反応して生じた反応生成物等を装置外に排出させることができる。その他に、ベーキング処理中の炉内圧は、加圧下、常圧下、減圧下におくこともでき、ガス種としては不活性ガスや気体スカベンジャーを用いるのが一般的であり、それらのガスを連続フローさせることも可能である。
【0010】
また、酸素が存在しない炉内環境が望まれる事と共に、フッ化金属を高温に加熱すると腐食性の高いHFが生じる事、さらにはコストや加工性の理由から、フッ化金属単結晶引上げ用装置内で使用する坩堝、ヒーター、断熱材などの部材は、一般的にカーボン製のものが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−182588号公報
【特許文献2】特開2005−029455号公報
【特許文献3】特開2006−347792号公報
【特許文献4】特開2003−221297号公報
【特許文献5】特開平11−157982号公報
【特許文献6】特開2004−315255号公報
【特許文献7】特開2001−19586号公報
【特許文献8】特開2006−199577号公報
【特許文献9】特開2007−106662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したような種結晶を上方から接触させる融液凝固法にて単結晶の育成(製造)を行うには、炉内にフッ化金属原料を装入した後、該フッ化金属原料を加熱して充分に溶融し、次いで、該原料溶融液の液面に種結晶体を接触させた後、結晶成長を開始させる。通常、種結晶体はフッ化金属原料の装入の際に併せて炉内に設置され、ベーキング処理中やこの溶融の間、炉内の雰囲気にさらされることになる。本発明者らの観察によれば、このような状態に置かれていた種結晶体の表面には、黒色物質が付着することがあり、この黒色物質が付着した種結晶体を原料溶融液表面に接触させても、原料溶融液を弾いてしまう傾向が強く、そのため何度も接触をやり直さなければならないことが多い。
【0013】
ところで種結晶体の原料溶融液への接触の際には、種結晶体が接触する近傍の溶融液温度を結晶化が可能な温度としておく必要がある。しかしながら、種結晶が接触する溶融液面の温度を直接測定しながら接触させることは極めて困難であり、種々の要因により該溶融液面の温度が結晶化可能な温度より大幅に高い状態で種結晶を接触させてしまう場合があり得る。そのような場合には、種結晶体の溶解が極度に進み、種結晶体と原料溶融液とが非接触状態になってしまうことがある。その他にも、上述の種結晶体が原料溶融液を弾いてしまう場合などは、種結晶体を溶融液面に接触させても結晶成長を開始させずに、一旦、種結晶体と原料溶融液が非接触状態になるまで種結晶体を上昇させることもある。
【0014】
これらの場合のように種結晶体と原料溶融液とが接触した状態から非接触状態になった場合、種結晶体の浸漬していた部分の少なくとも一部は溶融されていることが多い。通常、一旦接触させた後に非接触状態とした種結晶体の下端部は平坦形状になっているが、種結晶体の表面に黒色物質が付着している場合には、黒色物質が種結晶体表面からの放熱性を低下させることにより、種結晶体内部が温まり易くなるため、種結晶体の下端中心部が周縁部に比して陥没した状態になる事が多い。
【0015】
そして、このように下端中心部が周縁部に比して陥没した状態の種結晶体を溶融液に接触させた場合には、接触面相当部に大きな空洞部分を生じることがあり、その状態のまま単結晶体の成長を開始させると、種結晶体と単結晶体との接合部面積が小さいため単結晶体が落下する危険性が高まる。
【0016】
このような陥没を消失させるためには、該種結晶体を、再度、溶融液に接触させて突出部を溶解させてしまうことが考えられる。しかしながら、単純に種結晶先端部を浸漬させても容易に平坦形状に再生させる事はできず、接触と溶解を何度も繰り返す必要のある場合が多い。
【0017】
以上のように、種結晶体の表面に黒色物質が付着した場合には、種結晶体が溶融液を弾くこと、及び/また、種結晶体の下端中心部に陥没が生じることが多いため、該種結晶体の溶融液への接触を何度も繰り返すことが多くなる。接触の繰り返しは単に時間を浪費するのみでなく、種結晶体が短くなりすぎてしまい、その結果、単結晶体を成長させられなくなることもある。この場合には、一旦、炉内温度を低下させて、種結晶体の取替え等を行う必要があるため、大きな問題となる。
【0018】
該黒色物質の付着原因としては、気化した固体スカベンジャー或いは気体スカベンジャーやそれらの反応生成物、又はカーボン蒸気などが種結晶体表面に凝結し、そのような種結晶体表面の付着物が黒色物質として観察されるものと推察できるが、スカベンジャーを用いないこと、カーボン製の炉内部材を用いないことは、前述の理由により極めて困難であり、また、スカベンジャー使用量を低減したり、カーボン蒸気の発生量を抑制する工夫を行ったりしても、黒色物質の付着を効果的に抑制することはできなかった。
【0019】
この問題を解決するため、本発明の発明者等は特願2008−130806(特開2009−280411)として表面粗さRaが0.5μm以下の種結晶体を用いることを提案している。この方法により、黒色物質の付着を大幅に低減させることができるが、それでもなお、多少の黒色物質が付着することが度々あり、上記のように種結晶体が溶融液を弾いたり、種結晶の陥没が生じたりしてしまうことも少なくなかった。
【0020】
従って本発明は、種結晶体表面への黒色物質の付着を効果的に抑制できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討を行った。そして、気化した固体スカベンジャー或いは気体スカベンジャーやそれらの反応生成物、又はカーボン蒸気などの種結晶体表面への凝結のし易さは、本発明の発明者等が特願2008−130806(特開2009−280411)として提案した、種結晶体表面の平滑度の他に、種結晶体表面の温度も影響するのではないかと考え、種結晶体の表面に黒色物質を付着させない方法について、さらに検討を進めた結果、本発明を完成した。
【0022】
即ち本発明は、結晶成長炉内で、原料溶融液面に上方から種結晶体を接触させ、該種結晶体と同じ結晶配向方位を有する結晶を成長させて融液凝固法によりフッ化金属単結晶体を製造する方法において、少なくとも原料フッ化金属が溶融を開始してから種結晶体を溶融液面に接触させるまでの間は、該種結晶体を、該種結晶体の先端部が原料フッ化金属の融点未満かつ(融点−400℃)以上の温度となる位置に待機させておくことを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、種結晶体の表面に黒色物質が付着することを抑制でき、よって、該種結晶体を原料溶融液面に接触させた際に、該種結晶体が原料溶融液を弾いてしまうことが少なく、また、種結晶体と原料溶融液とが接触した状態から非接触状態になった際に、該種結晶体の下端中心部が周縁部に比して陥没した状態となってしまうことが少なく、効率よく接触と結晶成長を行うことが容易となる。
【0024】
そのため、フッ化金属単結晶体の製造に要する平均時間を短くすることができ、また種結晶体や原料フッ化金属の消耗率も少なくでき、フッ化金属単結晶体の製造における総合的な効率を向上させることが可能となる。
【0025】
また、種結晶体と原料溶融液との接触面に空洞部分を生じることも少なく、上述の引上げた単結晶体が落下してしまう危険性を低減させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】チョクラルスキー法単結晶引上げ炉の構造を示す模式図。
【図2】原料溶融開始時の種結晶体の待機位置を示す模式図(種結晶体下端部はそれぞれa:天井板、b:リッド材、c:内坩堝上端部と同じ高さとなる位置)
【図3】外坩堝を上昇させて内坩堝に溶融液を流入させた後の種結晶体の待機位置を示す模式図(種結晶体下端部はそれぞれa:天井板、b:リッド材、c:内坩堝上端部と同じ高さとなる位置)
【図4】種結晶体の原料溶融液面への接触が成功した場合の、種結晶体と原料溶融液面の関係、及びロードセルの荷重の変化を示すイメージ図。
【図5】種結晶体の原料溶融液面への接触が失敗した場合の、種結晶体と原料溶融液面の関係、及びロードセルの荷重の変化を示すイメージ図。
【図6】種結晶体が溶解されて原料溶融液と非接触になった際の、種結晶体と原料溶融液面の関係、及びロードセルの荷重の変化を示すイメージ図(種結晶体の陥没が生じなかった場合)
【図7】種結晶体が溶解されて原料溶融液と非接触になった際の、種結晶体と原料溶融液面の関係、及びロードセルの荷重の変化を示すイメージ図(種結晶体の陥没が生じた場合)
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、結晶成長炉内で、原料溶融液面に上方から種結晶体を接触させ、該種結晶体と同じ結晶配向方位を有する結晶を成長させて融液凝固法によりフッ化金属単結晶体を製造する方法(チョクラルスキー法、キロポーラス法など)で可能なフッ化金属の製造方法に対し特に制限なく適用できる。このようなフッ化金属の具体例としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化アルミニウム、フッ化バリウムリチウム、フッ化マグネシウムカリウム、フッ化アルミニウムリチウム、フッ化カルシウムストロンチウム、フッ化カリウムマグネシウム、フッ化ストロンチウムリチウム、フッ化セシウムカルシウム、フッ化リチウムカルシウムアルミニウム、フッ化リチウムストロンチウムアルミニウム、及びフッ化ランタノイド類等が挙げられる。
【0028】
本発明を適用するフッ化金属単結晶体の製造方法では、製造を目的とするフッ化金属と実質的に同一の素材の種結晶体が使用される。
【0029】
種結晶体の形状は、その最下端部はその中央部が周縁部よりも陥没していない必要があるが、この点を除けば特に限定されない。一般的には、チョクラルスキー法やキロポーラス法で使用される種結晶体は、原料溶融液面に接触させる部分(下端部)は、角柱状や円柱状の棒状の形状となっており、上部には、種結晶体を保持するためのくびれや膨大部が形成されている。また棒状部の先端は平面状であっても良いし、円錐状や角錐状であってもよく、さらには棒状部を有さず種結晶体の全体が円錐状や角錐状となっていても良い。直径4〜10インチ程度のフッ化金属単結晶体を製造する場合の種結晶体の一般的な形状は、棒状部を有し、該棒状部が円柱状のものであれば、棒状部断面の直径が10〜30mm程度、種結晶体下端部から上端部の長さが50〜200mm程度、また棒状部が四角柱状のものであれば、棒状部断面の一辺の長さが5〜20mm程度、種結晶体下端部から上端部の長さが50〜200mm程度である。
【0030】
所望の結晶方位を有する単結晶体を得るために、該種結晶体の原料溶融液面に接触させる部分は、目的結晶の育成方位として所望される結晶方位とされた単結晶体により形成されている。多くの場合には、種結晶体全体が単結晶体から形成されている。
【0031】
チョクラルスキー法でフッ化金属単結晶体を製造する場合には、従来から、図1に例示したような単結晶体引上げ用装置が用いられている。また、このような装置はキロポーラス法の場合にも用いることができる。ただし、一般的に、キロポーラス法はチョクラルスキー法より緩やかな温度勾配を必要とするため、キロポーラス法の炉内構成は、断熱壁110と天井板119とで囲繞された単結晶引上げ室(ホットゾーン)の室内高さを相対的に低く設計することが好ましい。なお、これより先は、チョクラルスキー法を例にして説明する。
【0032】
図1に示す引上げ装置では、原料フッ化金属を溶融させる坩堝が外坩堝101と内坩堝102からなる二重構造坩堝であり、該内坩堝102の壁部(底壁及び/又は側壁)には、該壁部を貫通して内坩堝内と外坩堝内とで原料フッ化金属溶融液104の流通可能な貫通孔103が設けられている。結晶を引上げると、引上げた結晶量に相当する分だけ、坩堝内の原料溶融液が減少、即ち、坩堝内における原料溶融液面が低下する。図示した態様では内坩堝は所定の位置(高さ)に固定されており、原料溶融液面の相対的な下降分に相当するだけ外坩堝を上昇させる。これにより内坩堝内の原料溶融液を一定とし、原料溶融液面(=結晶成長界面)位置が変化しないようにすることが可能である。
【0033】
外坩堝の上昇及び回転は、上下動及び回転が可能な外坩堝支持軸105により行われる。
【0034】
坩堝の加熱は、ヒーター109により行われる。結晶引上げ炉のチャンバー108とヒーター109の間には、断熱壁110が、ヒーター109を環囲するように配設され、さらに通常は、断熱壁は坩堝の下方にも設けられる。この断熱壁110を配設することによって、ヒーター109の輻射熱からチャンバー108を保護するとともに、熱が外部へ散逸するのを防ぎ、坩堝周辺の温度を保ちやすくしている。
【0035】
図示した態様では、該断熱壁110の上部の開口部は該断熱壁の上端に接触するように配設された天井板119で覆われている。この天井板119を設置することにより、(1)上方への熱の散逸を抑制し、断熱壁110と天井板119とで囲繞された単結晶引上げ室の保温性を向上させるとともに単結晶引上げ室内に適度な温度勾配を与え、(2)溶融液や引上げ中の単結晶体からの輻射熱がチャンバー108に直接到達することを防ぎ、さらには(3)上方からゴミ等が落下して溶融液に混入することを防ぐことができる。一方、原料フッ化金属やスカベンジャーが揮発したものが天井板の下面に凝結し、これが結晶育成中に溶融液内などに落下してくることを抑制するために、断熱壁上端と天井板との間に若干の隙間を設けることも好ましい一態様である。
【0036】
なおこの天井板119には、単結晶引上げ棒115を挿入するための挿入孔120が穿孔されている。また必要に応じて、引上げ中の単結晶体や坩堝内の溶融液の状態を観察するための窓穴122が穿孔される場合もある。
【0037】
坩堝の中心軸上に、種結晶体116を保持する種結晶保持具117と、該保持具を上下動かつ回転可能に支持する結晶引上げ軸115が配置されている。
【0038】
原料として用いるフッ化金属は、通常、各種スカベンジャーを用いて金属不純物や酸素(酸化物)等を可能な限り除去、精製したものを用い、この精製原料を坩堝内に装入する。該精製原料は加熱することにより原料溶融液とするが、一般的には該加熱・溶融はスカベンジャーの存在下に行われ、その上、原料溶融以前の段階でベーキング処理を施すことにより、酸素等の不純物のさらなる低減が図られる。
【0039】
ベーキング処理や原料溶融などの加熱中の炉内には様々なガス種が存在し、その内、気化した固体スカベンジャー或いは気体スカベンジャーやそれらの反応生成物、又はカーボン蒸気などは、炉内に設置された種結晶体の表面に凝結することがある。このような種結晶体表面の付着物は黒色物質として観察されるが、前述の通り、種結晶体表面に黒色物質が付着していると、接触の際に原料溶融液を弾いたり、種結晶体の陥没が生じたりすることが多く、これらがさらなる弊害を及ぼす可能性もある。
【0040】
本発明では、このような黒色物質を種結晶体表面に付着させないよう、少なくとも、原料フッ化金属が溶融を開始してから種結晶体を溶融液面に接触させるまでの間は、該種結晶体を、その先端部が原料フッ化金属の融点未満かつ(融点−400℃)以上の温度となる位置に待機させておくこととする。
【0041】
待機位置の温度が高い方が黒色物質の付着が少ない傾向が強いが、あまりに融点に近い温度にしようとした場合、炉内の温度ぶれや測定誤差等により融点以上となって種結晶が溶融してしまう可能性がある。より好ましくは、(融点−10℃)〜(融点−300℃)の温度領域となる位置である。
【0042】
本発明においては、種結晶体の先端部が上記温度範囲にある位置で待機させられればよい。ここで、該先端部とは、結晶育成に際して、原料溶融液に接触させる部分を指す。目的とする育成結晶の大きさ等にもよるが、一般的には種結晶体の先端部(下端部)から20mm程度までの範囲が原料溶融液に接触させられる。また黒色物質の付着以外の要因により種結晶の原料溶融液への接触をやり直す必要が生じる場合もあり、そのような場合には接触させた部分は溶解しているのが通常であるため、このような接触のやり直しを行う可能性も考慮に入れると、好ましくは先端部から50mm程度までを上記温度領域で待機させる。特に好ましくは種結晶体保持具から露出している全ての部分が、上記温度領域にある位置で待機させられることである。
【0043】
なおむろん、種結晶体の先端部以外の部分も該種結晶体を構成する材料(前述のとおり、通常は全て原料フッ化金属と同一の材料である)の融点未満の温度に保持しなくてはならない。
【0044】
炉内に設置された種結晶体の移動は、通常、結晶引上げ軸による上下動に限定されるため、種結晶体の位置は坩堝の中心軸上のどこかになるが、その中心軸上の温度分布は、一般に下部ほど高温、上部ほど低温となっている。
【0045】
例えば、図2及び図3に模式図を示した単結晶体引上げ用装置に原料としてフッ化カルシウムを仕込んで加熱し、a、b、c、それぞれの種結晶体先端部にあたる位置の温度をB熱電対を用いて測定する温度測定実験を行ったところ、原料フッ化カルシウムが溶融を開始した時点(図2)における温度は、a(天井板位置)では約700℃、b(リッド材位置)では約1130℃、c(内坩堝上端位置)では約1170℃であった。
【0046】
また、さらに加熱して原料を完全溶融させ、炉内温度を安定させた後、外坩堝を上昇させて内坩堝に溶融液を流入させた直後(図3)の温度は、a(天井板位置)では約900℃、b(リッド材位置)では約1360℃、c(内坩堝上端位置)では約1410℃であった。その後、ヒーター出力を保持させたまま炉内温度を安定させたところ、緩やかに温度が低下し、内坩堝に溶融液を流入させた直後より約20℃低い温度で安定した。通常、この時点での溶融液温度は単結晶育成を開始できる温度より高くなるように加熱しており、これ以降は種結晶体と溶融液との接触に向けてヒーター出力(炉内温度)を低下させる場合が多い。従って、原料フッ化金属が溶融を開始してから種結晶体を溶融液面に接触させるまでの間、種結晶体を待機させ得る場所の温度が最も高くなるのは、内坩堝に溶融液を流入させた直後であると認定した。
【0047】
フッ化カルシウムの融点は1420℃であるため、b及びcは、原料フッ化カルシウムが溶融を開始してから種結晶体を溶融液面に接触させるまでの間、融点未満かつ(融点−400℃)以上の温度領域となる位置であり、このような位置に種結晶体を待機させた状態で、ベーキング処理や原料溶融を行えば、黒色物質が付着し難いと期待できる。なお、より高温となるcの方がbよりも好ましく、特に好ましくは、cよりもさらに低い位置(ただし、内坩堝と接触する位置が限界)に種結晶体を待機させておき、原料フッ化金属の溶融後、外坩堝を上昇させて内坩堝内に溶融液を流入させる際に、種結晶体をc位置まで上昇させるような方法である。
【0048】
なお、上記記載の各所炉内温度は、炉内構成、原料フッ化カルシウムの重量、炉内圧力、昇温速度、内坩堝に溶融液を流入させる際の外坩堝の上昇速度、外坩堝を上昇させる位置(内坩堝内溶融液の深さ)、原料を完全溶融させた際のヒーター出力(最高出力)などによって大幅に変動するが、後述の実施例及び比較例は、これら条件を上記温度測定実験と同一にして行った結果である。
【0049】
本発明において、上記温度範囲になる位置での保持は少なくとも原料フッ化金属が溶融を開始してから種結晶体を溶融液面に接触させるまでの間行う。これは原料フッ化金属が溶融した後に特に前記黒色物質等の付着が増大するためである。また通常、原料フッ化金属が溶融を開始するよりも前には、坩堝の中心軸上及びその近辺は(融点−400℃)以上の温度にはならない。一方、種結晶体を溶融液面に接触させた後は、種結晶体の表面への黒色物質の付着は問題とならない。但し、何らかの理由で一旦接触状態にした後、一度、非接触状態にしてから再度接触をやり直す場合には、接触やり直しの間も種結晶体の先端部は上述した温度範囲とすることが好ましい。再度の接触までの時間が長くなる場合にはこのようにすることが特に好ましい。
【0050】
本発明においては、原料フッ化金属が溶融を開始した後に、種結晶体を待機しておく位置は、当該融点未満〜(融点−400℃)以上の温度範囲となる位置であれば、特定の位置で固定しておく必要はない。必要に応じて、該温度範囲にある領域内で上下動等を行ってもよい。例えば、原料フッ化金属の溶融後、外坩堝を上昇させて内坩堝内に溶融液を流入させるまでの間は、図2cで示す位置よりもさらに内坩堝内壁に近い位置(下方)で待機させておき、外坩堝を上昇させる際に、種結晶体を図2cで示す位置まで上昇させることなどが挙げられる。
【0051】
しかしながら、高温となっている結晶成長炉内で種結晶体の上下動などを行うと、炉内環境の攪乱要因となり種々の問題を生じることがあるため、出来るだけ動かさない方が好ましい。また原料フッ化金属の溶融前でも、スカベンジャーを用いた場合などには、相対的に多量の揮発性物質が炉内に存在し付着が起こりやすいため、種結晶体はなるべく高温の位置に待機させておくことが好ましい。
【0052】
このような理由により、種結晶体を原料フッ化金属が溶融を開始してから待機させる上記温度となる位置へは、原料フッ化金属が溶融を開始する前から待機させておくことが好ましい。
【0053】
例えば、固体スカベンジャーを用いる場合は、該固体スカベンジャーが溶融又は分解を始めると、該スカベンジャーの気化ガスや分解ガス、反応生成物などが炉内で発生し、種結晶体表面へ付着し始めるため、それよりも前に上記温度領域となる位置に種結晶体を待機させておくことが好ましい。
【0054】
当該固体スカベンジャーとしては、本発明の方法で製造されるフッ化金属単結晶に対する固体スカベンジャーとして公知の固体スカベンジャーが使用でき、具体的には、フッ化亜鉛、フッ化鉛、フッ化銀、フッ化銅などのフッ化金属や、ポリ(パーフルオロエチレン)等が挙げられる。これらのなかでもフッ化亜鉛(ZnF)、フッ化鉛(PbF)が好ましく、フッ化亜鉛(ZnF)が最も好ましい。
【0055】
また気体スカベンジャーを用いる場合も同様である。但し、通常、固体スカベンジャーは、種結晶体や原料フッ化金属とともに最初から結晶成長炉内に装入しておく必要があるのに対し、気体スカベンジャーは、任意の時期に成長炉内に導入(及び排出)することが容易であり、結晶成長炉内の温度が気体スカベンジャーの分解温度よりも遙かに高い温度となってから炉内に導入することも容易である。多くの場合にはスカベンジ効率を考慮して、原料フッ化金属の溶融開始前に気体スカベンジャーは結晶成長炉内に導入される。
【0056】
本発明において使用可能な気体スカベンジャーを具体的に例示すると、CFやCOF、HF、F、NF、C等が挙げられる。これらのなかでもCFやCOFが特に好ましい。
【0057】
なお本発明において、気体スカベンジャーが炉内で分解を始める前とは、導入された気体スカベンジャーと接触可能でかつ最も温度の高い部分(例えば、抵抗加熱ヒーターであれば該ヒーター自身)の温度が、(1)気体スカベンジャーの分解温度よりも低い時点で導入する場合には、最高温度部の温度が気体スカベンジャーの分解温度よりも高くなる前であり、一方、(2)該最高温度部の温度が気体スカベンジャーの分解温度よりも高い時点で導入するのであれば、気体スカベンジャーの導入よりも前の時点である。
【0058】
また複数のスカベンジャーを用いたり、あるいは固体スカベンジャーと気体スカベンジャーの双方を併用することも可能であり、その場合には、使用されるスカベンジャーのうち、最も早く溶融又は分解するスカベンジャーを基準として、前記位置に待機させることが好ましい。
【0059】
本発明の製造方法においては、種結晶体を溶融液面に接触(結晶成長開始)させるまでの待機位置を上述のようにする以外は、その後の結晶成長(育成)時の操作は公知の製造方法に準じて行えばよい。以下、結晶成長の具体的方法の例について簡単に述べる。
【0060】
まず充分に溶融した原料溶融液104に対して、保持具117に保持され、上述の位置で待機させておいた種結晶体116を接触させた後、回転させながら徐々に引上げて所定の直径を有する単結晶体118を成長させる。
【0061】
なお前述の通り、種結晶体の表面に黒色物質が付着していると、接触の際に原料溶融液を弾いたり、種結晶体の陥没が生じたりする可能性が高いが、それらの現象は以下のようにして把握できる。
【0062】
種結晶体の原料溶融液面への接触が成功したか否かは、ロードセルの荷重をモニターすることにより把握できる。即ち、種結晶体と原料溶融液との接触が問題なく行われた場合には、種結晶体周辺部にメニスカスを生じるため(図4a)、その時点で荷重が非連続的に上昇する(図4b)が、原料溶融液を弾いてしまう場合(図5a)には荷重がだらだらと下降する現象(図5b)が見られる。
【0063】
また、種結晶体の下端中心部が周縁部に比して陥没しているか否かは、ロードセルの荷重をモニターすること、及び/又は種結晶体の発光状況を確認することにより把握できる。
【0064】
種結晶体が溶解され、原料溶融液と非接触状態になる場合、ロードセルの荷重が連続的に減少すれば(図6b)、種結晶体下端部は平坦形状であり(図6a)、荷重が非連続的に減少すれば(図7b)、下端中心部が周縁部に比して陥没した状態となっている(図7a)傾向がある。
【0065】
また、高温の原料溶融液は強い発光を示すが、その原料溶融液に種結晶体を接触させると、該種結晶体の発光が強まり、特に接触面付近は原料溶融液と同等の発光を示す。このとき、接触面に空洞部分を生じていれば、その部分の発光は弱く、影になって見える。
【0066】
以上のように、種結晶体と原料溶融液とが接触した際に、ロードセルの荷重が非連続的に上昇しない場合には、再度の接触を試みる必要があり、また、種結晶体が溶解され原料溶融液と非接触状態になった際に、ロードセルの荷重が非連続的に減少したり、種結晶体を原料溶融液に接触させた際に、接触面の一部に暗い影が見られたりした場合には、該種結晶体の下端部を平坦形状に再生する処置を実施することが好ましいが、ベーキング処理および溶融加熱中に、種結晶体を本発明の位置に待機させておけば、種結晶体の表面に黒色物質が付着する可能性が格段に低くなり、これらの、種結晶体が原料溶融液を弾いたり、種結晶体の陥没が生じたりすることも格段に少なくなる。
【0067】
種結晶体の原料溶融液面への接触が成功したならば、該種結晶体を0.1〜20mm/hの速度で徐々に引上げることにより、単結晶体を成長させることができる。単結晶体が成長するにつれて、内坩堝中の原料溶融液が消費されるが、外坩堝を上昇させることにより、当該減少分に相当する量の原料溶融液を、貫通孔を通して徐々に内坩堝中に供給することにより、溶融液表面、即ち結晶成長界面の位置を一定とすることができる。
【0068】
単結晶体の育成中において、種結晶体116は、引上げ軸115を中心として回転させることが好ましく、回転速度は1〜30rpmであることが好ましい。また、上記種結晶体の回転に併せて外坩堝も、該種結晶の回転方向と同方向又は反対方向に同様の回転速度で回転させてもよい。
【0069】
単結晶体引上げ中の炉内圧力は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれでもよいが、一般にスキャッタリングセンターと呼ばれる負結晶からなる欠陥を生じにくい点で、減圧下に行うことが好ましい。減圧下に結晶成長を行わせる場合には、炉内圧力を0.5〜70kPaとすることが好ましく、5〜50kPaとすることがより好ましい。また雰囲気としては、Arなどの不活性ガスや、CFなどのフッ素系ガス雰囲気下で行うことができる。
【0070】
このようにして所望の大きさの単結晶体118を引上げた後、炉内から取り出せる程度の温度まで降温する。降温速度としては、0.01〜3℃/分が好ましく、以下に記す加工に際して、割れや欠けの発生し難いアズグロウン単結晶とするために、0.1〜0.5℃/分とすることがより好ましい。
【0071】
このようにして単結晶体を引上げた後、必要に応じて研磨・研削加工や熱処理加工を行って、レンズブランク、レンズ、窓材等の最終製品とすることができる。
【実施例】
【0072】
以下、具体的な実験例を挙げて本発明の実施態様をより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
実施例1
直径25mmの円柱状で直棒部分の長さが100mmの棒状先端と、頭部に膨大部を有する種結晶体を、図1に模式図を示すようなチョクラルスキー炉の種結晶保持具に保持し、図2cの模式図のように、種結晶体の下端部が内坩堝円筒上端と同じ高さとなる位置に、種結晶体を待機させた。
【0074】
次いで、坩堝内に原料フッ化カルシウム及びスカベンジャーとしてフッ化亜鉛を装入し、炉内を充分にArで置換した後、炉内を加熱して徐々に温度を上げ、加熱開始から約40時間後に原料の溶融開始を確認した。このときの種結晶体先端部の温度は前述のとおり約1170℃と予想される。
【0075】
さらに炉内温度を上げて原料フッ化カルシウムを充分に溶融させた後、外坩堝を所定の高さまで上昇させて内坩堝に溶融液を流入させた。外坩堝を上昇させた直後の種結晶体先端部の温度は前述のとおり約1410℃と予想される。
【0076】
その後、結晶引上げ軸を徐々に降下させて、種結晶体の先端を原料溶融液面に近づけていった。ロードセルにて結晶引上げ軸にかかる荷重をモニターしていたところ、図4bに模式図を示すような荷重の非連続的上昇が見られ、一度の接触で成功したことがわかった。
【0077】
その後、引き上げ軸を回転させながら徐々に上昇させることにより単結晶体を得ることができた。
【0078】
所望の単結晶体を引上げた後、冷却し、単結晶体を取り出してみると、種結晶体表面に黒色物質の付着は見られず、種結晶体と単結晶体の接合部に空洞部分は見られなかった。
【0079】
実施例2
図2bの模式図のように、種結晶体の下端部がリッド材と同じ高さとなる位置に、種結晶体を待機させた以外は、実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の製造を試みた。この待機位置における種結晶体先端部の温度は、前述のとおり、フッ化カルシウム原料溶融開始時は約1130℃、内坩堝に溶融液を流入させた直後は約1360℃と予想される。
【0080】
種結晶体を、原料溶融液面に徐々に近づけていったところ、図4bに模式図を示すような荷重の非連続的上昇が見られ、一度の接触で成功したことがわかった。
【0081】
その後、実施例1と同様にして単結晶体を引上げた。単結晶体を取り出して観察した結果、種結晶体表面に黒色物質の付着は見られず、種結晶体と単結晶体の接合部に空洞部分は見られなかった。
【0082】
比較例1
図2aの模式図のように、種結晶体の下端部が天井板と同じ高さとなる位置に、種結晶体を待機させた以外は、実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の製造を試みた。この待機位置における種結晶体先端部の温度は、前述のとおり、フッ化カルシウム原料溶融開始時は約700℃、内坩堝に溶融液を流入させた直後は約900℃と予想される。
【0083】
種結晶体を、原料溶融液面に徐々に近づけていったところ、その荷重変化は図5bに模式図を示すような状態であり、接触が失敗したことがわかった。そのため、一旦、結晶引上げ軸(種結晶体)を上昇させた後、再度の接触を試みたところ、その荷重変化は図4bに模式図を示すような状態であったが、種結晶体と原料溶融液との接触面の一部に暗い影が見られ、種結晶体の下端中心部が周縁部に比して陥没した状態となっていることがわかった。
【0084】
種結晶体の下端部を平坦形状に再生させるため、種結晶体と原料溶融液の接触を繰り返したが、改善は見られず、種結晶体が短くなる一方であったため、そのまま単結晶体を引上げた。
【0085】
単結晶体を取り出してみると、単結晶体と引上げた単結晶体の間に大きな空洞部分が生じていた。また、種結晶体の表面の一部に黒色物質が付着していた。
実施例3
スカベンジャーとしてフッ化亜鉛に代わってCFガスを用いるとともに、炉内温度がCFガスの分解温度に到達するよりも前に、炉内にCFガスを導入させた以外は、実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の製造を試みた。
【0086】
種結晶体を、原料溶融液に徐々に近づけていったところ、その荷重変化は図4bに模式図を示すような状態であり、一度の接触で成功したことがわかった。
【0087】
その後、実施例1と同様にして単結晶体を引上げた。単結晶体を取り出して観察した結果、種結晶体表面に黒色物質の付着は見られず、種結晶体と単結晶体の接合部に空洞部分は見られなかった。
【0088】
比較例2
図2aの模式図のように、種結晶体の下端部が天井板と同じ高さとなる位置に、種結晶体を待機させた以外は、実施例3と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の製造を試みた。
【0089】
種結晶体を、原料溶融液面に徐々に近づけていったところ、その荷重変化は図5bに模式図を示すような状態であり、接触が失敗したことがわかった。そのため、一旦、結晶引上げ軸(種結晶体)を上昇させた後、再度の接触を試みたが、やはり接触は成功しなかった。
【0090】
単結晶製造を断念して種結晶体を取り出してみると、その表面全体に黒色物質が付着していた。
【符号の説明】
【0091】
101:外坩堝
102:内坩堝
103:内坩堝壁の貫通孔
104:原料溶融液
105:外坩堝支持軸
106:受け皿
107:開口部閉塞部材
108:チャンバー
109:溶融ヒーター
110:断熱壁
111:隔離壁
112:リッド材
113:連結部材
114:内坩堝吊り下げ棒
115:結晶引き上げ軸
116:種結晶
117:種結晶保持具
118:単結晶体
119:天井板
120:結晶引き上げ軸挿入孔
121:覗き窓
122:窓孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長炉内で、原料溶融液面に上方から種結晶体を接触させ、該種結晶体と同じ結晶配向方位を有する結晶を成長させて融液凝固法によりフッ化金属単結晶体を製造する方法において、
少なくとも原料フッ化金属が溶融を開始してから種結晶体を溶融液面に接触させるまでの間は、該種結晶体を、該種結晶体の先端部が原料フッ化金属の融点未満かつ(融点−400℃)以上の温度領域となる位置に待機させておくことを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項2】
炉内に固体スカベンジャーを装入しておくとともに、該固体スカベンジャーが溶融又は分解を開始するよりも前から、前記位置に種結晶体を待機させておく、請求項1記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項3】
遅くとも原料フッ化金属が溶融を開始する前に炉内に気体スカベンジャーを導入するとともに、該気体スカベンジャーが炉内で分解を始めるよりも前に、前記位置に種結晶体を待機させておく、請求項1記載のフッ化金属単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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