説明

穀物の劣化防止シート

【課題】本発明は、穀物本来の風味を変更することなく、低コストで、簡易に長期間穀物を保存し、且つ、簡単に製造することのできる穀物の劣化防止シートを提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するために、基材2と、前記基材2に抗酸化物質3aと糊3bとケイ藻土3cと水からなる抗酸化混合物3dを充分混合し、塗布、乾燥し固定した抗酸化層3とからなることを特徴とする穀物の劣化防止シート1の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物の品質劣化、害虫被害を防止する保存材に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ここで、穀物とは、玄米、精米、大豆、小豆、トウモロコシ、麦類、そばなど食用の乾燥した種子、及びそれらを乾燥、粉末化した米粉、きなこ、トウモロコシ粉、小麦粉、そば粉など食用、家畜飼料用を問わない。
【0003】
これら穀物には、植物性の油脂類(脂肪酸)が含まれており、この油脂類が保管中に空気中の酸素と反応し、所謂脂肪が酸化させる。この酸化脂肪酸が、穀物の品質、とかく風味の劣化の原因であるといわれている。そのため大量の玄米を保存するには、貯蔵庫内の温度を低温で管理して、品質劣化を防止しているのが現状である。
【0004】
また、保管中にこれら穀物を好む害虫がつき、商品としての価値が著しく低下してしまうことがある。害虫としてコクゾウ虫、ココクゾウ虫、ノシメマダラメイガ、コナナガシンクイ虫など甲虫類、蛾の仲間が良く知られている。
【0005】
これら害虫は、気温が20℃以上になると活発になり、米粒に産卵し、羽化した幼虫が米粒を食べ、米が粉のようにしてしまう。粉化した米は商品価値が著しく低下し問題である。
【0006】
そのため、従来から家庭での穀物の保存のために、鷹の爪、ニンニクを米びつに入れて害虫による被害を防止するなどしていた。
【0007】
さらに、特許文献1記載の食品の保存剤、特許文献2の食品包装用シートまたはフィルムなどの発明が開示、使用されている。
【0008】
特許文献1記載の保存剤は、セラミック固形物にニンニク成分と唐辛子成とを担持させたことを特徴とし、これらニンニク成分、唐辛子成分から揮発されるエキスが防虫、防カビ、抗酸化作用を奏し、食品を長期に良好に保持できるとするものである。
【0009】
特許文献2記載の食品包装用シートまたはフィルムは、シリカ物資と鉱物(TiO2、AL2CO3等)の非結晶を3〜30重量%含有する熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。
【0010】
しかしながら、特許文献1の保存材は、辛子成分などの香気成分、刺激臭を有するため、穀物の劣化を防止する効果はあるものの、香気成分、刺激臭が穀物に移り、穀物本来の味を呈しなくなる点問題である。
【0011】
また、特許文献2のシートまたはフィルムは、生産が複雑で、コストが高いなどの問題があった。
【特許文献1】特開平10−210958号公報
【特許文献2】特開平07−278347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、穀物本来の風味を変更することなく、低コストで、簡易に長期間穀物を保存し、且つ、簡単に製造することのできる穀物の劣化防止シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、基材2と、前記基材2に抗酸化物質3aと糊3bとケイ藻土3cと水からなる抗酸化混合物3dを固定した抗酸化層3とからなることを特徴とする穀物の劣化防止シート1の構成とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明の穀物の劣化防止シート1は、以上の構成であるから、穀物の品質劣化を防止、害虫被害を防止することができ、穀物を常温においても穀物本来の風味を変更すること、長期間保存することができる。また、製造方法が簡易であるから、低コストで穀物を長期間保存することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
穀物の劣化防止シート1を提供するために、抗酸化物質3aと糊3bとケイ藻土3cと水からなる抗酸化混合物3dを混合する混合工程5と、前記抗酸化混合物3dを基材2に塗布する塗布工程6と、前記抗酸化混合物3dを基材2に固定する固定化工程7によりなる穀物の劣化防止シート1の構成により実現した。
【実施例1】
【0016】
以下に添付図面に基づき、本発明である穀物の劣化防止シートについて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明である穀物の劣化防止シートの正面図である。図2は、本発明である穀物の劣化防止シートの右側面図である。
【0018】
穀物の劣化防止シート1は、基材2の正面の全面に抗酸化物質3aを含む抗酸化混合物3dが固定されてなる。
【0019】
基材2とは、抗酸化物質3aを固定する薄いシート状の部材である。その素材は、ダンボール紙、ダンボールなどの紙製品、ベニヤ板などの木製品など、吸水性のある素材であって、穀物と触れても毒性がない素材が使用できる。
【0020】
なお、形状が変形しやく、ゴミなどが穀物に混入しづらいボール紙が特に望ましい。その形状は、特に四角形である必要はなく、穀物の保管容器の形状、保管量により適宜変更できることは勿論である。
【0021】
ここで、抗酸化混合物3dとは、抗酸化物質3a、またはその混合物を基材2に固定化する糊3b、基材2への塗布を容易にするため、また固定後の抗酸化物質3aの残存率を向上するための補助剤を混合してなる。
【0022】
抗酸化物質3aとは、ヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンラジカルなどの活性酸素を除去する作用のある物質であり、ビタミンC、ビタミンE、βカロチン、ビタミンAなどがあり、食品添加物としても認められる。また、ブドウ、ブルーベリーなど果物色素として知られるポリフェノール類などもある。これら抗酸化物質3aが本発明に使用できる。
【0023】
特に、建築分野で使用され、高い抗酸化力を有する抗酸化物質3aと糊3bの混合溶液であるバイオシーラー(バーバリアン株式会社製)が容易に入手でき、混合、塗布作業が簡単で望ましい。
【0024】
糊3bとしては、毒性がなく、または有害物質を揮発させないものであれば特に限定しない。襖用の糊など建築用の接着剤が使用できる。
【0025】
補助剤として、ケイ藻土3cが好適である。ケイ藻土3cには湿度を調節する機能があるほか、有害物質やにおいを吸収して分解すること、マイナスイオンを発生する機能があるとされている。
【0026】
上述のように、抗酸化物質3aを基材2に固定する面は、基材2の正面、裏面、両面の何れであってもよい。保管する穀物の量が多い場合は、両面に抗酸化物質3aを固定することで、より高い穀物の品質防止効果がえられる。
【0027】
抗酸化層3の厚さは、例えば、補助剤としてケイ藻土3cを含む抗酸化混合物3dをボール紙の基材2に塗布し、乾燥して固定する場合は、2ミリ程度以下の厚さで積層、固定化すればよい。容器に入れた穀物を輸送、移動する際、抗酸化混合物3dがひび割れ、剥がれなどして穀物に混入することがあるためである。
【0028】
図3は、本発明である穀物の劣化防止シートの製造工程を示したフローチャートである。図3に示すように、本発明である穀物の劣化防止シート1は、混合工程5と塗布工程6と固定化工程7からなる製造工程4によって作られる。必要に応じて加工工程8を経る。
【0029】
混合工程5は、抗酸化物質3a、糊3b、ケイ藻土3c、水からなる抗酸化混合物3dを次の塗布工程6で、塗布し易い状態に充分混合することである。
【0030】
塗布工程6は、ハケ、ローラーなどの道具で均一に基材2の上に積層することである。積層する厚さは、穀物を保管する容器の素材、保管温度、保管期間によりことなり、適宜変更する。
【0031】
固定化工程7は、糊3bを乾燥させ、抗酸化混合物3dから水分を除去することをであり、特に、使用した糊3bにより、最適の温度、湿度は異なる。
【0032】
なお、糊3b、ケイ藻土3cを使用せず、水、アルコールなどの抗酸化物質3aに適した溶媒に抗酸化物質3aを溶解し、基材2に直接噴霧して乾燥することにより、本発明である穀物の劣化防止シートを作ることもできる。
【0033】
加工工程8は、使用に際して、穀物の保管量により本発明である穀物の劣化防止シート1を適切な大きさに切断する工程である。
【0034】
本発明である穀物の劣化防止シート1は、使用に際して、概ね以下の大きさで使用できる。30センチ×30センチ四方のダンボール紙の基材2に、抗酸化溶液(バーバリアン株式会社製)と補助剤としてケイ藻土3cと糊3bと水からなる混合物を充分練った抗酸化混合物3dを上記厚さに塗布、乾燥して固定化した穀物の劣化防止シート1を用いて、例えば、30kgの玄米を、プラスチック容器で常温保管した場合、約4年間風味の低下、害虫による劣化がなく保管することができる。
【0035】
具体的な、抗酸化混合物3dの配合組成を示しながら、本発明である穀物の劣化防止シート1の作成方法について説明する。バイオシーラー(バーバリアン株式会社製)10重量部とケイ藻土3c3重量部を充分混合し抗酸化混合物3dを得、抗酸化混合物3dをローラーで基材2に塗布し、天日で充分乾燥する。乾燥すると抗酸化層3が硬く固定されるので、乾燥終了を判断できる。
【0036】
さらに、乾燥後、塗布と乾燥を2回繰り返す。これにより基材2の上に約2mm厚の抗酸化層3が形成される。
【0037】
図4は、本発明である穀物の劣化防止シートの使用状態を示した図である。図4に示すように、玄米10の入った袋9の中に穀物の劣化防止シート1を直接入れ、開口部9aを封して使用する。
【0038】
袋9は、開口部9aに封を施すことができる構造であれば、特に素材を限定しない。勿論蓋ができるプラスチック容器であってもよい。当然に酸素透過率の低い素材が望ましいが、紙製の米袋であっても、開口部9aが開放状態でなければ、穀物の風味維持の効果を充分発揮する。
【0039】
ここでは、玄米10について説明したが、その他、精米、大豆、小豆、トウモロコシ、麦類、そばなど食用の乾燥した種子、及びそれらを乾燥、粉末化した米粉、きなこ、トウモロコシ粉、小麦粉、そば粉など食用、家畜飼料用の穀物の保管にも使用できる。
【0040】
玄米10より、精米の方が、また種子としてでなく粉末として保存する場合の方が、風味の劣化が速いのは、当然であるので、同一形状の本発明である劣化防止シートであれば、保管期間は短くなる。
【0041】
図5は、本発明である穀物の劣化防止シートによる玄米の保存試験の結果である。本試験の試験区は、玄米30kgを一般的な米袋に計量し、片面に3回抗酸化物質3aと糊3bを含むバイオシーラー(バーバリアン株式会社製)を積層(約2mm)させた本発明である穀物の劣化防止シート1(30cm×50cm=1500cm)とともに封をし、室温10℃、及び20℃に3月、6月、1年、2年、4年間保管したときの、保管玄米の劣化度合いを評価した結果である。
【0042】
一方、対照区は、試験区と同日に、同一の水田から収穫された玄米を同一の条件で保管したときの、保管玄米の品質の劣化度合いを評価した結果である。ただし、本発明である穀物の劣化防止シート1は使用していない。
【0043】
なお、ここで使用した玄米は、千葉県産コシヒカリの新米(脱穀直後)である。また、本発明である穀物の劣化防止シート1は、直接米袋に入れている。
【0044】
次に、保管後の玄米の品質評価方法について説明する。品質の評価は、保管期間の経過後に目視による害虫被害の有無と、炊飯による風味評価を行った。風味評価は、◎、○、△、×の4段階とした。ただし、害虫による劣化が著しい場合は、炊飯による風味評価を行わずに評価を×とした。
【0045】
炊飯による風味評価は、熟練したパネラー10人の5段階評価(5点から1点)とした。最高点である5点は、風味が収穫後の新米と同程度と判断できる場合であり、以下点数が下がるほど、風味の劣化が進行していることを意味する。
【0046】
評価の目安は、やや風味の劣化を感じるものの、美味しく食することができると判断した場合4点とし、明らかに風味の劣化を感じるが、食するに問題ないと判断できる場合3点とした。
また、カビ臭など、風味の劣化が著しいく食するのに困難であると判断した場合は2点とし、風味の劣化が著しく、ほとんど食することができないと判断した場合は1点とした。
【0047】
炊飯による風味評価の結果を図5に示した。具体的には、パネルテストの結果、平均点が4.5点以上の場合は、保管後の玄米は、収穫後の新米と同等の風味を維持しているとして◎とした。
【0048】
平均点が4.0点以上、4.5点未満の場合は、収穫直後の新米に比べ、風味のやや劣化が認められるものの、全く遜色ないとし、○とした。
【0049】
平均点が3.0点以上4.0点未満の場合は、△とした。平均点が3.0点未満の場合は、×とした。
【0050】
以下、試験結果について説明する。対照区の10℃保管区の結果から、現在一般に行われている冷蔵保管(10℃)であっても、新米の風味を維持できる期間は、3ヶ月間程(◎)度あり、6ヶ月間程度(○)は、美味しく食すことができることが分かる。
【0051】
さらに1年間(○)の保管では、食するに問題はないものの、風味の低下を強く感じることとなった。2年目(△)では、風味の低下がさらに進行し、4年目(×)では、食することも困難であった。
【0052】
対照区の20℃保管区の結果から、20℃保管では、3ヶ月間(○)すら新米の風味を維持することができないことが分かる。6ヶ月間(△)では、美味しさを感じなくなることが分かる。
【0053】
また、1年後(×)には、コクゾウ虫による劣化がみられた。コクゾウ虫の活動温度域にあたるためと思われる。従って、1年目の保管米については、炊飯による風味評価を行わなかった。加えて、対照区の20℃保管区の以後の保管試験は中止(−)した。
【0054】
試験区の10℃保管区では、2年間(◎)も新米の風味を維持すること、さらに4年目であっても、やや風味の劣化を感じるものの、対照区の10℃保管区に比べ、約8倍の保管期間に渡って、風味の低下を防止できることが分かる。
【0055】
試験区の20℃保管区であっても、対照区10℃の4倍の期間である1年間(◎)新米の風味を維持できたことが分かる。また対照区20℃と比較するとやはり8倍程度風味を維持することが可能であることが分かった。
【0056】
以上の保存試験の結果から、本発明である穀物の劣化防止シート1を使用することにより、保管温度による差があるものの、使用しない場合に比べ長期間に渡り、風味を維持したまま保存できるといえる。
【0057】
図6は、本発明である穀物の劣化防止シートの大きさと劣化防止効果の関係を示す図である。玄米(30kg)/紙袋保管と、精米(10kg)/プラスチック容器保管について、図6の面積(m)に示した各大きさの本発明である穀物の劣化防止シート1を、20℃で所定の期間保管したときの品質評価の結果である。評価方法は、図5と同一の方法で行った。
【0058】
なお、本試験の用いた穀物の劣化防止シート1は、図5の試験に用いたものと同様に作成した。精米した米の方が、玄米より品質劣化が速いことが分かる。
【0059】
30kgの玄米を20℃で、美味しく保管するには、1年間では少なくとも0.9m以上、6ヶ月間では少なくとも0.3m以上の大きさの本発明である穀物の劣化防止シート1が必要であり、3ヶ月間では0.3mの大きさの本発明である穀物の劣化防止シート1で充分であることが分かった。
【0060】
一方、10kgの精米を20℃で、美味しく保管するには、6ヶ月間では少なくとも1.5m以上、3ヶ月間では0.9m以上の大きさの本発明である穀物の劣化防止シート1が必要であることが分かった。なお、玄米を精米して1年間風味を維持させる必要性に乏しいことから、本試験では風味評価を行っていない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明である穀物の劣化防止シートの正面図である。
【図2】本発明である穀物の劣化防止シートの断面図である。
【図3】本発明である穀物の劣化防止シートの製造工程を示したフローチャートである。
【図4】本発明である穀物の劣化防止シートの使用状態を示した図である。
【図5】本発明である穀物の劣化防止シートによる玄米の保存試験の結果である。
【図6】本発明である穀物の劣化防止シートの大きさと劣化防止効果の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 穀物の劣化防止シート
2 基材
3 抗酸化層
3a 抗酸化物質
3b 糊
3c ケイ藻土
3d 抗酸化混合物
4 製造工程
5 混合工程
6 塗布工程
7 固定化工程
8 加工工程
9 袋
9a 開口部
10 玄米

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に抗酸化物質を固定することを特徴とする穀物の劣化防止シート。
【請求項2】
基材と、前記基材に抗酸化物質と糊とケイ藻土と水からなる抗酸化混合物を固定した抗酸化層とからなることを特徴とする穀物の劣化防止シート。
【請求項3】
抗酸化物質と糊とケイ藻土と水からなる抗酸化混合物を混合する混合工程と、前記抗酸化混合物を基材に塗布する塗布工程と、前記混合物を基材に固定する乾燥工程を経て、抗酸化層を積層することによりなる穀物の劣化防止シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−153430(P2007−153430A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354348(P2005−354348)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(399032824)株式会社福島機械製作所 (1)
【Fターム(参考)】