説明

積層インダクタ

【課題】 初期のインダクタンス値を向上させ、かつ、優れた直流重畳特性を得ること。
【解決手段】 磁性体層とパターン導体が交互に積層され、パターン導体の各層間は電気的に接続されることでコイル導体とされている積層インダクタにおいて、
パターン導体の長手方向に沿った1つ以上のスリットを1列以上有しており、スリット内部には、磁性体層が構成されている材料よりも透磁率の高い材料が充填されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体とパターン導体とを交互に積層した、積層インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インダクタ素子として、小型化の要求に応えるために、積層型のインダクタがよく用いられている。
【0003】
通常、積層インダクタは、磁性体層とパターン導体が交互に積層され、前記パターン導体の各層間が電気的に接続されることでコイル導体とされている。このような構成の積層インダクタにおいて、高いQを得るために、パターン導体の電極幅を広げる構造が考えられる。
【0004】
ところが、パターン導体と磁性体層との線膨張係数や焼成収縮率が異なるので、パターン導体の電極幅を広げると、焼成時に、収縮により、電極と磁性体層との間で大きな挙動差が生じる。このため、電極幅を広げる度合いによっては、焼成後に、電極のうねり、あるいは、電極と磁性体層間の空隙、などが生じてしまう、という問題があった。
【0005】
このため、特許文献1には、パターン導体にスリットが設けられた積層インダクタが提案されている。この特許文献1に開示されている積層インダクタの構成によれば、焼成時における電極と磁性体層の挙動差を緩和し、電極のうねりや電極と磁性体層間の空洞の発生を防止して、平坦な電極を有する積層インダクタの提供ができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−171853号公報
【発明の概要】
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている構成では、コイル導体をなすパターン導体にスリットが形成された分、積層インダクタの初期インダクタンスが小さくなってしまう。よって、十分な初期インダクタンス値を得ることができない、という問題があった。
【0009】
本発明は、この問題点を克服し、初期のインダクタンス値を向上させることができる積層インダクタを提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、本発明の積層インダクタは、磁性体層とパターン導体が交互に積層され、前記パターン導体の各層間は電気的に接続されることでコイル導体とされている積層インダクタにおいて、前記パターン導体は、その長手方向に沿った1つ以上のスリットを1列以上有しており、前記スリットの内部には、前記磁性体層の材料よりも透磁率の高い材料が充填されていること、を特徴とする。
【0011】
また、前記スリットは、前記パターン導体の一方端部から他方端部に至る1本のスリットであること、とするのが好ましい。
【0012】
また、前記スリットは、前記パターン導体の一方端部から他方端部に至る離散的に形成された複数のスリットとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層インダクタは、積層されたパターン導体において、そのパターン導体の長手方向に沿ってスリットを1列以上有しており、スリットの内部には、磁性体層が構成される材料よりも透磁率の高い材料が充填されている構成である。したがって、パターン導体にスリットが単に設けられた構成に比べて、初期のインダクタンス値を向上させることができるため、十分な初期インダクタンス値を有するインダクタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の分解斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の透視斜視図である。
【図3】図2のA部断面図である。
【図4】本発明と従来例との直流重畳特性を比較したグラフである。
【図5】本発明の、別の実施形態の要部である、パターン導体のスリット部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る積層インダクタの分解斜視図である。図2は、第1の実施形態に係る積層インダクタの透視斜視図である。
【0017】
図1において、積層インダクタ10は、後述する組成の磁性体材料からなる磁性体層1a〜1hと、銀あるいは銀合金を主成分とするパターン導体2a〜2fが交互に積層されることで構成されている。パターン導体2a〜2fには、パターン導体の長手方向に沿ってスリット3a〜3fが1列形成されている。以下では、個別の磁性体層1a〜1hおよびパターン導体2a〜2f、スリット3a〜3fを指す場合には参照符号の後ろにアルファベットを付し、これらを総称する場合には、参照符号の後ろのアルファベットを省略する。
【0018】
パターン導体2a〜2fは、それぞれ磁性体層1a〜1f上に形成されており、積層方向に隣り合う当該パターン導体が、互いに重なるように順次配置されている。これらのパターン導体は、帯状の形状とされている。また、これらの導体パターンのうち、外部電極接続のため、最上層のパターン導体2aは磁性体層1a上において3/4ターンとされており、最下層のパターン導体2fは1/2ターンとされている。パターン導体2a、2f以外のパターン導体2b、2c、2d、2eは1ターンとされている。
【0019】
積層方向に重なり合う各パターン導体間は、ビアホールbにより電気的に接続されることで、コイル導体とされている。具体的には、パターン導体2aと2bはそれぞれの端部でビアホールb1により電気的に接続されている。同様に、パターン導体2bと2cはビアホールb2により、パターン導体2cと2dはビアホールb3により、パターン導体2dと2eはビアホールb4により、パターン導体2eと2fはビアホールb5により、それぞれ各パターン導体の端部で電気的に接続されている。これらのビアホールb1〜b5により電気的に接続されたパターン導体2a〜2fにより、コイル導体が形成される。
【0020】
パターン導体2の長手方向に沿って形成されたスリット3は、パターン導体2の一方端部から他方端部に至る1本のスリットとされている。具体的には、スリット3aは、パターン導体2aの幅方向略中央部において、一方端部2a−1から他方端部2a−2に至るように形成されている。以下、同様に、スリット3bは、パターン導体2bの幅方向略中央部において、一方端部2b−1から他方端部2b−2に至るように形成されている。スリット3cは、パターン導体2cの幅方向略中央部において、一方端部2c−1から他方端部2c−2に至るように形成されている。スリット3dは、パターン導体2dの幅方向略中央部において、一方端部2d−1から他方端部2d−2に至るように形成されている。スリット3eは、パターン導体2eの幅方向略中央部において、一方端部2e−1から他方端部2e−2に至るように形成されている。そして、スリット3fは、パターン導体2fの幅方向略中央部において、一方端部2f−1から他方端部2f−2に至るように形成されている。
【0021】
さらに、前述のように形成されたスリット3の内部には、後述する組成からなる高い透磁率を有する磁性体材料が充填されている。
【0022】
これら積層体の上下に磁性体層1g、1hが配置されて、積層インダクタ10が形成される。
【0023】
図3は、図2のA部における断面を現したものである。パターン導体2に設けられたスリット3の内部には、磁性体層1が構成される磁性体材料よりも透磁率の高い磁性体材料4が充填されている。
【0024】
具体的には、磁性体層1は、酸化第二鉄(Fe23)48.0mol%、酸化亜鉛(ZnO)20.0mol%、酸化ニッケル(NiO)23.0mol%、酸化銅(CuO)9.0mol%、の比率からなる材料の混合物からなる。
また、透磁率の高い磁性体材料4は、酸化第二鉄(Fe23)48.0mol%、酸化亜鉛(ZnO)13.0mol%、酸化ニッケル(NiO)30.0mol%、酸化銅(CuO)9.0mol%、の比率からなる材料の混合物からなる。
【0025】
以上のように、酸化ニッケルを多く配合することにより、磁性体層を構成する磁性体材料の透磁率よりも、スリットの内部に充填されている磁性体材料の透磁率が高くされている。
【0026】
このように、パターン導体に設けられたスリットの内部に、周りの磁性体層よりも透磁率の高い材料を充填することにより、パターン導体にスリットが単に設けられた構成に比べて、初期のインダクタンス値を向上させることができる。
【0027】
また、図3には、パターン導体で発生する磁束を図示している。図中、矢印で示しているのが、電極で発生する磁界である。
一般的に、インダクタの磁性体部分に高透磁率材を用いた場合、直流の電流を印加すると、電流の増加に伴い、磁性体が磁気飽和を起こし、急激にインダクタンスが低下する現象が生じる。すなわち、直流重畳特性が劣化してしまう。しかしながら、この図からわかる通り、本実施形態では、スリットでパターン導体電極が分割されているため、分割された電極でそれぞれ発生する磁束が、ちょうどスリットの内部において逆向きになり、打ち消し合うことになる。結果、スリットの内部に充填された高透磁率材部分において、発生する磁束が打ち消し合っている。
【0028】
したがって、本実施形態においては、高透磁率材が用いられているにもかかわらず、高透磁率材が配置された箇所で磁気飽和が緩和されることになり、直流重畳特性が劣化しない。
【0029】
図4に、本発明と従来例との直流重畳特性比較を示す。縦軸にはインダクタンス値、横軸には、直流印加電流値をとっている。図中、(a)は、たとえば特許文献1にあるような、パターン導体に単にスリットが設けられた積層インダクタの従来例の直流重畳特性である。(b)は、第1の実施形態における、パターン導体にスリットが設けられ、そのスリットの内部には高透磁率材が充填された積層インダクタの直流重畳特性である。
【0030】
本特性グラフから読み取れるように、(a)に比べて、(b)は、初期のインダクタンス値が向上している。また、直流印加電流の増加に伴うインダクタンス値の減少の劣化も見られない。よって、本発明の構成により、初期インダクタンス値を改善することができる。さらに、高透磁率材が配置された箇所の磁気飽和を緩和することができるため、優れた直流重畳特性も得ることができる。
【0031】
なお、本発明は前記第1の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0032】
たとえば、パターン導体に設けられた、一方端部から他方端部に至るスリットは、1列だけでなく、複数あってもよい。スリットにより分割されたパターン導体電極で生じる磁束の打ち消し合いは、スリットを1列設けた場合と同様であるので、初期インダクタンス値の改善および優れた直流重畳特性の実現も、同様に可能である。
【0033】
また、図5に示すように、パターン導体に設けられたスリットの形状は、一方端部から他方端部に至る、離散的な複数のスリットであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1a〜1g 磁性体層
2a〜2f パターン導体
3a〜3f スリット
4 高透磁率材
b1〜b5 ビアホール
10 積層インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体層とパターン導体が交互に積層され、前記パターン導体の各層間は電気的に接続されることでコイル導体とされている積層インダクタにおいて、
前記パターン導体は、その長手方向に沿った1つ以上のスリットを1列以上有しており、前記スリットの内部には、前記磁性体層の材料よりも透磁率の高い材料が充填されていること、を特徴とする、積層インダクタ。
【請求項2】
前記スリットは、前記パターン導体の一方端部から他方端部に至る1本のスリットであること、を特徴とする、請求項1に記載の積層インダクタ。
【請求項3】
前記スリットは、前記パターン導体の一方端部から他方端部に至る離散的に形成された複数のスリットであること、を特徴とする、請求項1に記載の積層インダクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−96907(P2011−96907A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250623(P2009−250623)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】