説明

積層ゴム免震装置

【課題】大規模構造物を免震支持する場合であっても、設置面積を少なく抑えることができ、工期短縮及びコスト削減でき、かつ、品質が高められる積層ゴム免震装置を提供する。
【解決手段】金属板及びゴムシートを上下に積層してなる積層ゴム1が、上部構造体と下部構造体との間に介装されて、前記上部構造体を前記下部構造体に対して水平方向に振動可能に免震支持する積層ゴム免震装置10であって、前記積層ゴム1は、その中心軸Cを中心として該中心軸C回りに放射状に分割された複数の分割体3からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を免震支持する積層ゴム免震装置に関するものであり、特に、原子力発電所等の大規模構造物を免震支持可能な大容量積層ゴム免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の免震化の進展につれ、原子力発電所等の大規模構造物の免震化も検討されており、大容量の積層ゴム免震装置の必要性が高まりつつある。
このような大型の積層ゴム免震装置の製作にあたっては、積層ゴムが大型化することから、鋼板(金属板)とゴムシートとを積層して加熱焼き入れする際に、可硫(加硫)を均一に設定することが困難であった。また現状として、このような大型の積層ゴムを焼き入れ可能な大型の炉は希少である。
【0003】
すなわち、現状では大型の積層ゴムを単体として製作することは難しく、代わりに、小型の積層ゴムからなる積層ゴム免震装置を複数用いて、これらを密に配置することにより、大規模構造物に対応している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−343649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のように、積層ゴム免震装置を複数用いて大規模構造物を免震支持する場合、下記の問題があった。
すなわち、これら積層ゴム免震装置の設置面積が必要以上に大きくなり、これに従い、該積層ゴム免震装置を取り付ける構造体の規模も大きくなってしまう。また、これら積層ゴム免震装置を構造体に設置する際の固定箇所が増え、取り付け時の作業が煩雑になるとともに、解体作業時の工数も増大してしまう。このような要因によって、工期増やコスト増の問題が生じていた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、大規模構造物を免震支持する場合であっても、設置面積を少なく抑えることができ、工期短縮及びコスト削減でき、かつ、品質が高められる積層ゴム免震装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、金属板及びゴムシートを上下に積層してなる積層ゴムが、上部構造体と下部構造体との間に介装されて、前記上部構造体を前記下部構造体に対して水平方向に振動可能に免震支持する積層ゴム免震装置であって、前記積層ゴムは、その中心軸を中心として該中心軸回りに放射状に分割された複数の分割体からなることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る積層ゴム免震装置によれば、積層ゴムは、例えば円柱状や多角形柱状をなしており、その上下に延びる中心軸を中心として、該中心軸回りに放射状に分割されている。すなわち、積層ゴムは、例えば扇形柱状や多角形柱状をなす複数の分割体が中心軸に密集するように組み合わされることにより、全体として前記円柱状や多角形柱状を呈するユニット構造とされている。
【0009】
この構成によれば、大規模構造物を免震支持可能な大型の積層ゴムを、既存の設備(炉等)を用いて、高品質に製作することができる。すなわち、所望の積層ゴムが大型のものであっても、該積層ゴムを構成するそれぞれの分割体は比較的小さな外形に抑えられることから、該分割体は既存の設備で製造可能である。そして、このような小型の分割体の製作にあたっては、金属板とゴムシートとを積層して加熱焼き入れする際に、可硫を均一に設定することが容易であることから、該分割体の品質が十分に確保される。さらに、このように分割体を小型に形成した場合、これらを組み合わせてなる大型の積層ゴムの破断性能は、単体として製作された従来の大型の積層ゴムの破断性能よりも高められることになる。すなわち、それぞれの分割体の可硫が均一に設定されることから、これら分割体を組み合わせてなる積層ゴム全体の可硫が均一に設定されることとなり、該積層ゴムの破断性能が高められているのである。またこの構成によれば、たとえ分割体の1つが破断した場合であっても、該分割体以外の他の分割体は健全であることから、積層ゴム全体としての破断性能が確保されることとなる。詳しくは、分割体同士が分離しているので、たとえ分割体の1つが破断した場合であっても、該分割体の破断に起因して他の分割体が破断するようなことが抑制される。
【0010】
そして、この積層ゴムは、複数の分割体が該積層ゴムの中心軸に密集するように組み合わされて構成されているので、前述のように優れた性能を有しつつも、外形がコンパクトになり、上部・下部構造体に対する設置面積が抑えられる。すなわち、従来のように、小型の積層ゴム免震装置を複数用いて大規模構造物を免震支持する場合においては、これら積層ゴム免震装置の設置面積が必要以上に大きくなって、該積層ゴム免震装置を固定する上部・下部構造体の規模も大きくならざるを得なかったが、本発明の構成によればこのようなことが防止される。また、外形をコンパクトに形成できるので、上部・下部構造体に取り付けるための固定箇所を少なくでき、取り付け時の作業が容易となるとともに、解体作業時の工数も削減される。
【0011】
このように、この積層ゴム免震装置は、大規模構造物を免震支持する場合であっても、設置面積を少なく抑えることができ、工期短縮及びコスト削減でき、かつ、品質が高められているのである。
【0012】
また、本発明に係る積層ゴム免震装置において、前記分割体は、互いに同一形状とされていることとしてもよい。
【0013】
本発明に係る積層ゴム免震装置によれば、積層ゴムを構成する複数の分割体が互いに同一形状とされているので、該積層ゴムの構造強度が中心軸回りに均等に設定されることになる。従って、この積層ゴム免震装置は、下部構造体に対して上部構造体を安定して免震支持することができる。
【0014】
また、本発明に係る積層ゴム免震装置において、前記積層ゴムは円柱状をなし、前記分割体は扇形柱状に形成されていることとしてもよい。
【0015】
また、本発明に係る積層ゴム免震装置において、前記積層ゴムは正多角形柱状をなし、前記分割体は多角形柱状に形成されていることとしてもよい。
【0016】
また、本発明に係る積層ゴム免震装置において、前記中心軸回りに隣り合う前記分割体同士は、固着手段により互いに固着されることとしてもよい。
【0017】
本発明に係る積層ゴム免震装置によれば、積層ゴムの中心軸回りに隣り合う分割体同士が、例えば接着剤等の固着手段により互いに固着されている。これにより、積層ゴムが一体化されるので、該積層ゴムの構造強度がより高められる。
【0018】
また、本発明に係る積層ゴム免震装置において、前記積層ゴムの上下には、上部構造体と下部構造体とに取り付けられる取付板が固設されており、前記取付板は、前記分割体の形状に対応するように前記中心軸を中心として該中心軸回りに放射状に分割された複数の分割板からなることとしてもよい。
【0019】
本発明に係る積層ゴム免震装置によれば、積層ゴムの上下には、取付板が固設されており、これら取付板を用いて、該積層ゴムは上部構造体と下部構造体とに取り付けられる。そして、取付板は、積層ゴムの分割体の形状に対応するように分割された複数の分割板から構成されている。すなわち、積層ゴムに対応して、所望の取付板が全体として大型に形成される場合であっても、該取付板を構成するそれぞれの分割板は比較的小さく形成できるので、製作が容易である。
【0020】
また、本発明に係る積層ゴム免震装置において、前記分割板には、前記中心軸から離間する方向へ向けて前記分割体よりも突出する外縁部が形成されていることとしてもよい。
【0021】
本発明に係る積層ゴム免震装置によれば、取付板の分割板には、積層ゴムの分割体よりも中心軸から離間する方向へ向けて突出する外縁部が形成されている。この外縁部は、例えば鍔状をなしているとともに、厚さ方向に貫通してボルト等の取付孔が形成される。このような外縁部が形成されていることによって、積層ゴム免震装置を上部・下部構造体に対して容易に取り付けることができる。
【0022】
また、本発明に係る積層ゴム免震装置において、前記取付板は、該取付板を収容可能な凹部を有する構造体取付具を介して、前記上部構造体と前記下部構造体とに取り付けられることとしてもよい。
【0023】
本発明に係る積層ゴム免震装置によれば、取付板は、構造体取付具の凹部に収容された状態で、上部・下部構造体に取り付けられる。また、構造体取付具は、上部・下部構造体に対して、例えば埋設された状態で固定されている。このような構成により、取付板は、構造体取付具に対する水平方向へのスライド移動が規制されているとともに、積層ゴム免震装置は、強固に安定して上部・下部構造体に取り付けられることになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る積層ゴム免震装置によれば、大規模構造物を免震支持する場合であっても、設置面積を少なく抑えることができ、工期短縮及びコスト削減でき、かつ、品質が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る積層ゴム免震装置を示す上面図である。
【図2】図1の積層ゴム免震装置の積層ゴム免震ユニットを示す斜視図である。
【図3】図1の積層ゴム免震装置を下部(上部)構造体に取り付けた状態を示す側断面図である。
【図4】図3の変形例を示す側断面図である。
【図5】図3の変形例を示す側断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る積層ゴム免震装置を下部(上部)構造体に取り付けた状態を示す側断面図である。
【図7】図6の変形例を示す側断面図である。
【図8】図6の変形例を示す上断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る積層ゴム免震装置を示す上面図である。
【図10】図9の積層ゴム免震装置の積層ゴム免震ユニットを示す斜視図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る積層ゴム免震装置の積層ゴム免震ユニットを示す斜視図である。
【図12】第4実施形態の積層ゴム免震装置を下部(上部)構造体に取り付けた状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
本発明の積層ゴム免震装置は、例えば、原子力発電所等の大規模構造物(上部構造体)と基礎(下部構造体)との間に介装されて、上部構造体を下部構造体に対して水平方向に振動可能に免震支持するものである。以下、図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る積層ゴム免震装置10について説明する。
【0027】
この積層ゴム免震装置10は、鉄板(金属板)及びゴムシートを上下に積層してなる積層ゴム1と、この積層ゴム1の上下に固設されて、上部構造体と下部構造体とに取り付けられる取付鋼板(取付板)2と、を備えている。この積層ゴム1の素材としては、周知の高減衰積層ゴム等を用いることができる。
【0028】
図1、図2に示すように、積層ゴム1は円柱状をなしており、その中心軸Cを中心として該中心軸C回りに放射状に分割された複数の分割体3により構成されている。図示の例では、積層ゴム1は、中心軸Cを含んで互いに直交する2つの仮想平面により分割されるように、4つの扇形柱状の分割体3からなる。
【0029】
これら分割体3は互いに同一形状とされており、上面視において扇形の中心角を形成する角部を積層ゴム1の中心軸Cに重ねるように、密集して配置されている。すなわち、積層ゴム1は、複数の分割体3が中心軸Cを中心に互いに密接するように組み合わされることにより、全体として円柱状を呈するユニット構造とされている。尚、それぞれの分割体3における略中央には、鉛プラグや錫プラグを封入して減衰性能を高めるようにしてもよい。
【0030】
また、取付鋼板2は円板状をなしており、分割体3の形状に対応するように中心軸Cを中心として該中心軸C回りに放射状に分割された複数の分割板4により構成されている。図示の例では、取付鋼板2は、中心軸Cを含んで互いに直交する2つの仮想平面により分割されるように、4つの扇形板状の分割板4からなる。
【0031】
これら分割板4は互いに同一形状とされており、上面視において扇形の中心角を形成する角部を積層ゴム1の中心軸Cに重ねるように、密集して配置されている。このように、複数の分割板4が中心軸Cを中心に互いに密接するように組み合わされることにより、取付鋼板2は全体として円板状を呈している。
【0032】
そして、分割板4は、例えば接着剤を用いた可硫(加硫)接着によって、分割体3の上下にそれぞれ固着されている。すなわち、この積層ゴム免震装置10には、一対の分割板4とこれらに挟まれた分割体3とが一体とされた扇形柱状の積層ゴム免震ユニットが複数(本実施形態では4つ)形成されているとともに、これら積層ゴム免震ユニットが組み合わされているのである。
【0033】
本実施形態では、図1に示すように、上面視における分割板4の形状と分割体3の形状とが互いに同一に設定されている。また、これにより、上面視における取付鋼板2の形状と積層ゴム1の形状とが互いに同一に設定されている。
【0034】
詳しくは、図2に示すように、分割板4において中心軸C回りの周方向を向く平面4Aと、分割体3において前記周方向を向く平面3Aとが、互いに面一とされている。また、分割板4において中心軸Cとは反対の径方向外方を向く凸曲面4Bと、分割体3において前記径方向外方を向く凸曲面3Bとが、互いに面一とされている。
【0035】
具体的には、図1の上面視において、前記積層ゴム免震ユニットの半径(扇形の半径)は、1200mm〜1600mm程度に設定される。尚、特注品等を考慮しない場合は、前記半径は、1200mm〜1300mm程度に設定される。そして、例えば、前記半径が1200mmに設定された場合は、積層ゴム免震装置10の直径はφ2400mm程度となる。また、前記半径が1600mmに設定された場合は、積層ゴム免震装置10の直径はφ3200mm程度となる。前記半径及び直径は、免震装置として必要な容量に応じて種々に設定される。
【0036】
また、図3に示すように、この積層ゴム免震装置10は、取付鋼板2と下部構造体(上部構造体)5との間に介装される平板状の構造体取付具6を備えている。詳しくは、構造体取付具6は、積層ゴム免震装置10の一対の取付鋼板2、2のうち、積層ゴム1の上部に設けられた取付鋼板2と上部構造体との間、及び、積層ゴム1の下部に設けられた取付鋼板2と下部構造体5との間に、一対設けられている。以下、下部構造体5側に配設される構造体取付具6について説明するが、上部構造体側に配設される構造体取付具6については前者と上下反転した状態の同様の構成であることから、その説明を省略する。
【0037】
構造体取付具6は、例えば円板状又は多角形板状をなしており、その水平面方向の外形が取付鋼板2よりも大きく設定されている。また、構造体取付具6は、その上面を露出した状態で下部構造体5に埋設されている。また、構造体取付具6の前記上面には、取付鋼板2の形状に対応して円形穴状をなす凹部7が形成されている。そして、取付鋼板2は、この凹部7に収容された状態で、構造体取付具6を介して下部構造体5に取り付けられている。また、取付鋼板2の凸曲面4Bと凹部7の内周面とは、互いに隙間なく接近した状態で対向配置(又は当接)されている。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る積層ゴム免震装置10によれば、積層ゴム1は円柱状をなしており、その上下に延びる中心軸Cを中心として、該中心軸C回りに放射状に分割されている。すなわち、積層ゴム1は、扇形柱状をなす複数の分割体3が中心軸Cに密集するように組み合わされることにより、全体として円柱状を呈するユニット構造とされている。
【0039】
この構成によれば、大規模構造物を免震支持可能な大型の積層ゴム1を、既存の設備(炉等)を用いて、高品質に製作することができる。すなわち、所望の積層ゴム1が大型のものであっても、該積層ゴム1を構成するそれぞれの分割体3は比較的小さな外形に抑えられることから、該分割体3は既存の設備で製造可能である。そして、このような小型の分割体3の製作にあたっては、鉄板(鋼板)とゴムシートとを積層して加熱焼き入れする際に、可硫を均一に設定することが容易であることから、該分割体3の品質が十分に確保される。さらに、このように分割体3を小型に形成した場合、これらを組み合わせてなる大型の積層ゴム1の破断性能は、単体として製作された従来の大型の積層ゴム1の破断性能よりも高められることになる。すなわち、それぞれの分割体3の可硫が均一に設定されることから、これら分割体3を組み合わせてなる積層ゴム1全体の可硫が均一に設定されることとなり、該積層ゴム1の破断性能が高められているのである。またこの構成によれば、たとえ分割体3の1つが破断した場合であっても、該分割体3以外の他の分割体3は健全であることから、積層ゴム1全体としての破断性能が確保されることとなる。詳しくは、分割体3同士が分離しているので、たとえ分割体3の1つが破断した場合であっても、該分割体3の破断に起因して他の分割体3が破断するようなことが抑制される。
【0040】
そして、この積層ゴム1は、複数の分割体3が該積層ゴム1の中心軸Cに密集するように組み合わされて構成されているので、前述のように優れた性能を有しつつも、外形がコンパクトに抑えられる。これにより、この積層ゴム1を用いて構成される積層ゴム免震装置10は、上部・下部構造体5に対する設置面積が抑えられ、該積層ゴム免震装置10を支持する構造体取付具6は、その形状が単純化される。
【0041】
すなわち、従来のように、小型の積層ゴム免震装置を複数用いて大規模構造物を免震支持する場合においては、これら積層ゴム免震装置の設置面積が必要以上に大きくなって、上部・下部構造体の規模が大きくならざるを得ず、また該積層ゴム免震装置を固定する構造体取付具の形状が複雑化していたが、本実施形態の構成によればこのようなことが防止される。
また、積層ゴム免震装置10の外形をコンパクトに形成できるので、上部・下部構造体5に取り付けるための固定箇所を少なくでき、取り付け時の作業が容易となるとともに、解体作業時の工数も削減される。
【0042】
また、積層ゴム1を構成する複数の分割体3が互いに同一形状とされているので、該積層ゴム1の構造強度が中心軸C回りに均等に設定されることになる。従って、この積層ゴム免震装置10は、下部構造体5に対して上部構造体を安定して免震支持することができる。
【0043】
また、積層ゴム1の上下には、取付鋼板2が固設されており、これら取付鋼板2を用いて、該積層ゴム1は上部構造体と下部構造体5とに取り付けられる。そして、取付鋼板2は、積層ゴム1の分割体3の形状に対応するように分割された複数の分割板4から構成されている。すなわち、積層ゴム1に対応して所望の取付鋼板2が全体として大型に形成される場合であっても、該取付鋼板2を構成するそれぞれの分割板4は比較的小さく形成できるので、製作が容易である。
【0044】
より詳しくは、この積層ゴム免震装置10は、分割体3と、該分割体3の上下に固着される一対の分割板4と、からなる一体の積層ゴム免震ユニットを複数備えており、これら積層ゴム免震ユニットが中心軸C回りに密接して組み合わされるように構成されている。すなわち、それぞれの前記積層ゴム免震ユニットは比較的小さく形成されるので、製造(分割体3に分割板4を接着する工程等)が容易かつ高精度に行える。従って、前記積層ゴム免震ユニットの品質が高められるとともに、これらを組み合わせてなる積層ゴム免震装置10の品質が十分に確保されている。
【0045】
また、取付鋼板2は、構造体取付具6の凹部7に収容された状態で、上部・下部構造体5に取り付けられる。また、構造体取付具6は、上部・下部構造体5に対して、埋設された状態で固定されている。このような構成により、取付鋼板2は、構造体取付具6に対する水平方向へのスライド移動が規制されているとともに、積層ゴム免震装置10は、強固に安定して上部・下部構造体5に取り付けられることになる。
【0046】
このように、この積層ゴム免震装置10は、大規模構造物を免震支持する場合であっても、設置面積を少なく抑えることができ、工期短縮及びコスト削減でき、かつ、品質が高められているのである。
【0047】
尚、前述の説明においては、構造体取付具6が上部・下部構造体5に埋設されているとしたが、これに限定されるものではない。
図4、図5は本実施形態の変形例を示しており、これら変形例においては、構造体取付具6は、上部・下部構造体5に載置されるように固設されている。
【0048】
図4の例では、構造体取付具6は、下部構造体5の上面に載置された状態で固定されており、該構造体取付具6の上面における外縁部には、上方へ向けて突出するとともに中心軸Cを中心に環状に形成された突縁部6Aが設けられている。そして、この突縁部6Aの内周面と該突縁部6Aに囲繞された前記上面部分とにより、凹部7が形成されている。この場合、積層ゴム免震装置10の取付鋼板2は、その外周面(凸曲面4B)を突縁部6Aの内周面に対向配置した状態で、凹部7に収容される。
また、図5の例に示すように、突縁部6Aの外周面は、構造体取付具6の外面(外周面)に面一とされていてもよい。
【0049】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る積層ゴム免震装置20について、図6〜図8を参照して説明する。尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
本実施形態の積層ゴム免震装置20においては、構造体取付具11の構成が、前述した構造体取付具6とは異なっている。以下、下部構造体5側に配設される構造体取付具11について説明するが、上部構造体側に配設される構造体取付具11については前者(下側のもの)と上下反転した状態の同様の構成であることから、その説明を省略する。
【0051】
図6に示すように、この構造体取付具11は、下部構造体5の上面に配設される平板状の取付具本体12と、該取付具本体12の上面に配設される環状の突縁部13と、を備えている。すなわち、本実施形態の構造体取付具11においては、突縁部13が取付具本体12とは別体として設けられている。
【0052】
取付具本体12は、例えば円板状又は多角形板状をなしており、その外形が取付鋼板2の直径よりも大きく設定されている。また、取付具本体12の上面における外縁部には、中心軸C回りに周方向に間隔をあけてボルト14が複数突設されている。
【0053】
また、突縁部13は円環板状をなしており、図示の例では、その外径が取付具本体12の外形よりも小さく形成されている。この突縁部13には、中心軸C回りに周方向に間隔をあけて貫通孔13Aが複数形成されている。これら貫通孔13Aは、突縁部13を厚さ方向に貫通して形成されているとともに、取付具本体12のボルト14に対応するように配置されている。突縁部13が取付具本体12の上面に載置される際、これら貫通孔13Aにはボルト14がそれぞれ挿通される。
【0054】
突縁部13が取付具本体12の上面に載置された状態で、ボルト14の上端は該突縁部13の上面から突出しており、該ボルト14には、ナット15が螺着される。これにより、取付具本体12と突縁部13とが一体に連結されて、構造体取付具11とされている。そして、突縁部13の内周面と該突縁部13に囲繞された取付具本体12の上面部分とにより、凹部7が形成されている。積層ゴム免震装置20の取付鋼板2は、この凹部7に収容される。
【0055】
本実施形態の積層ゴム免震装置20によれば、前述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0056】
尚、図7、図8は本実施形態の変形例を示している。
図7の例では、構造体取付具11の取付具本体12は、その上面を露出した状態で、下部構造体5に埋設されている。この場合、構造体取付具11は、下部構造体5に対する水平方向へのスライド移動が確実に規制されるとともに、積層ゴム免震装置20は、より強固に安定して上部・下部構造体5に取り付けられることになる。
【0057】
また、図8の例では、突縁部13が、複数の分割突縁部13Bを組み合わせるように構成されている。すなわち、分割突縁部13Bは円弧板状をなしており、これら分割突縁部13Bが中心軸C回りに互いに連結されるように配置されて、突縁部13は全体として円環板状に形成されている。図示の例では、突縁部13は、中心軸Cを中心に周方向均等に4分割されるように、4つの分割突縁部13Bからなる。
【0058】
また、隣り合う分割突縁部13B同士は、これらの径方向内方に位置する分割板4(分割体3)の凸曲面4B(3B)における周方向中央に対応する部位で互いに連結されるように配置されている。すなわち、隣り合う分割突縁部13B同士の連結部位と、周方向に隣り合う分割板4同士の連結部位とは、周方向に互いに異なる位置に設定されている。
【0059】
この場合、取付具本体12の上面に前記積層ゴム免震ユニットを密集して載置した後、これら積層ゴム免震ユニットの分割板4の周囲に分割突縁部13Bをそれぞれ装着して、突縁部13を形成できる。すなわち、取付具本体12上に前記積層ゴム免震ユニットを互いに組み合わせた状態で、その取付鋼板2を収容するように凹部7を形成できる。従って、取付具本体12に対する突縁部13の装着が容易かつ精度よく行える。
【0060】
また、隣り合う分割突縁部13B同士の連結部位と、周方向に隣り合う分割板4同士の連結部位とが、周方向に互いに異なる位置に設定されているので、例えば、積層ゴム免震装置20を構成する複数の積層ゴム免震ユニットのいずれかに対して、局部的に水平方向への外力が加わった場合であっても、該積層ゴム免震ユニットはこれら分割突縁部13Bにより径方向内方へ向けて安定して支持されることになる。すなわち、突縁部13は、複数の分割突縁部13Bに分割されて取り扱いやすくされつつも、その強度は十分に確保されている。
【0061】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る積層ゴム免震装置30について、図9、図10を参照して説明する。尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
図9、図10に示すように、本実施形態の積層ゴム免震装置30においては、積層ゴム1は正多角形柱状をなしており、その中心軸Cを中心として該中心軸C回りに放射状に分割された複数の正多角形柱状の分割体3により構成されている。図示の例では、積層ゴム1は正方形柱状をなしており、中心軸Cを含んで互いに直交する2つの仮想平面により分割されるように、4つの正方形柱状の分割体3からなる。
【0063】
これら分割体3は互いに同一形状とされており、上面視において四隅の角部のうち1つを積層ゴム1の中心軸Cに重ねるように、密集して配置されている。すなわち、積層ゴム1は、複数の分割体3が中心軸Cを中心に互いに密接するように組み合わされることにより、全体として正方形柱状を呈するユニット構造とされている。
【0064】
また、取付鋼板2は正多角形板状をなしており、分割体3の形状に対応するように中心軸Cを中心として該中心軸C回りに放射状に分割された複数の正多角形板状の分割板4により構成されている。図示の例では、取付鋼板2は正方形板状をなしており、中心軸Cを含んで互いに直交する2つの仮想平面により分割されるように、4つの正方形板状の分割板4からなる。
【0065】
これら分割板4は互いに同一形状とされており、上面視において四隅の角部のうち1つを積層ゴム1の中心軸Cに重ねるように、密集して配置されている。このように、複数の分割板4が中心軸Cを中心に互いに密接するように組み合わされることにより、取付鋼板2は全体として正方形板状を呈している。
【0066】
そして、分割板4は、例えば接着剤を用いた可硫接着によって、分割体3の上下にそれぞれ固着されている。すなわち、この積層ゴム免震装置30には、一対の分割板4とこれらに挟まれた分割体3とが一体とされた正方形柱状の積層ゴム免震ユニットが複数(本実施形態では4つ)形成されているとともに、これら積層ゴム免震ユニットが組み合わされているのである。
【0067】
本実施形態では、図9に示すように、上面視における分割板4の形状と分割体3の形状とが互いに同一に設定されている。また、これにより、上面視における取付鋼板2の形状と積層ゴム1の形状とが互いに同一に設定されている。
【0068】
詳しくは、図10に示すように、分割板4において中心軸C回りの周方向を向く平面4Aと、分割体3において前記周方向を向く平面3Aとが、互いに面一とされている。また、分割板4において中心軸Cとは反対の径方向外方を向く平面4Cと、分割体3において前記径方向外方を向く平面3Cとが、互いに面一とされている。
【0069】
具体的には、図9の上面視において、前記積層ゴム免震ユニットの一辺は、1200mm〜1600mm程度に設定される。尚、特注品等を考慮しない場合は、前記一辺は、1200mm〜1300mm程度に設定される。そして、例えば、前記一辺が1200mmに設定された場合は、積層ゴム免震装置30の外形における一辺が2400mm程度となる。また、前記積層ゴム免震ユニットの一辺が1600mmに設定された場合は、積層ゴム免震装置30の一辺は3200mm程度となる。これら一辺の寸法は、免震装置として必要な容量に応じて種々に設定される。
【0070】
また、この積層ゴム免震装置30は、前述した実施形態と同様に、取付鋼板2と上部・下部構造体5との間に介装される平板状の構造体取付具6(11)を備えている。本実施形態においては、構造体取付具6(11)の凹部7は、取付鋼板2の形状に対応して正方形穴状(正多角形穴状)に形成されている。そして、取付鋼板2は、この凹部7に収容された状態で、構造体取付具6(11)を介して上部・下部構造体5に取り付けられている。また、取付鋼板2の平面4Cと凹部7の内璧面とは、互いに隙間なく接近した状態で対向配置(又は当接)されている。
【0071】
本実施形態の積層ゴム免震装置30によれば、前述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0072】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る積層ゴム免震装置40について、図11、図12を参照して説明する。尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
本実施形態の積層ゴム免震装置40は、取付鋼板2の分割板4及び構造体取付具6の構成が、前述した第1実施形態の積層ゴム免震装置10とは異なっている。尚、本実施形態の構造体取付具6の説明においては、下部構造体5側に配設される構造体取付具6についてのみ行うが、上部構造体側に配設される構造体取付具6については前者(下側のもの)と上下反転した状態の同様の構成である。
【0074】
図11に示すように、この積層ゴム免震装置40における分割板4には、中心軸Cから離間する方向(径方向外方)へ向けて分割体3よりも突出する外縁部4Dが形成されている。詳しくは、本実施形態における分割板4は、その凸曲面4Bが分割体3の凸曲面3Bよりも径方向外方に突出して形成されており、この突出する部分が外縁部4Dとされている。また、分割板4の外縁部4Dには、中心軸Cを中心に周方向に間隔をあけて取付孔4Eが複数形成されている。これら取付孔4Eは、分割板4を厚さ方向に貫通して形成されており、後述する構造体取付具6のボルト14に対応する位置にそれぞれ配されている。
【0075】
また、図12に示すように、この積層ゴム免震装置40における構造体取付具6は、例えば円板状又は多角形板状をなしており、下部構造体5の上面に載置された状態で固設されている。また、構造体取付具6の上面は平面に形成されており、前述の積層ゴム免震装置10で説明したような突縁部6Aは形成されていない。また、構造体取付具6の上面における外縁部には、中心軸C回りに周方向に間隔をあけてボルト14が複数突設されている。
【0076】
取付鋼板2が構造体取付具6の上面に載置される際、取付孔4Eにはボルト14が挿通される。そして、ボルト14の上端からナット15が螺着されることにより、取付鋼板2と構造体取付具6とが一体に連結される。
【0077】
本実施形態の積層ゴム免震装置40によれば、前述の実施形態と同様の効果が得られる。
また、分割板4に外縁部4Dが形成されていることによって、積層ゴム免震装置40を上部・下部構造体5に対して容易に取り付けることができる。
【0078】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、前述の実施形態では、積層ゴム1が4つの分割体3からなり、取付鋼板2が4つの分割板4からなることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、これら分割体3及び分割板4は、中心軸Cを中心として該中心軸C回りに放射状に分割されていれば、その数量や形状は限定されない。
【0079】
詳しくは、例えば、第1、第2、第4実施形態において円柱(板)状をなす積層ゴム1(取付鋼板2)は、扇形柱(板)状の分割体3(分割板4)が3つ若しくは5つ以上組み合わされるように構成されていてもよい。
また、第3実施形態において正方形柱(板)状をなす積層ゴム1(取付鋼板2)は、上面視において対角同士を結ぶ2つの仮想平面により分割されているとともに、二等辺三角形柱(板)状の分割体3(分割板4)が4つ組み合わされるように構成されていてもよい。また、積層ゴム1(取付鋼板2)が正六角形柱(板)状をなし、上面視において中心軸Cを通る対角同士を結ぶ3つの仮想平面により分割されているとともに、正三角形柱(板)状の分割体3(分割板4)が6つ組み合わされるように構成されていてもよい。またこの場合、構造体取付具6、11の凹部7は、取付鋼板2の形状に対応して種々に設定される。
【0080】
また、積層ゴム1において、中心軸C回りに隣り合う分割体3同士は、接着剤等の固着手段により互いに固着されることとしてもよい。この場合、積層ゴム1が一体化されるので、該積層ゴム1の構造強度がより高められる。
【0081】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、前述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 積層ゴム
2 取付鋼板(取付板)
3 分割体
4 分割板
4D 外縁部
5 下部構造体(上部構造体)
6、11 構造体取付具
7 凹部
10、20、30、40 積層ゴム免震装置
C 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板及びゴムシートを上下に積層してなる積層ゴムが、上部構造体と下部構造体との間に介装されて、前記上部構造体を前記下部構造体に対して水平方向に振動可能に免震支持する積層ゴム免震装置であって、
前記積層ゴムは、その中心軸を中心として該中心軸回りに放射状に分割された複数の分割体からなることを特徴とする積層ゴム免震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の積層ゴム免震装置であって、
前記分割体は、互いに同一形状とされていることを特徴とする積層ゴム免震装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層ゴム免震装置であって、
前記積層ゴムは円柱状をなし、前記分割体は扇形柱状に形成されていることを特徴とする積層ゴム免震装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の積層ゴム免震装置であって、
前記積層ゴムは正多角形柱状をなし、前記分割体は多角形柱状に形成されていることを特徴とする積層ゴム免震装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層ゴム免震装置であって、
前記中心軸回りに隣り合う前記分割体同士は、固着手段により互いに固着されることを特徴とする積層ゴム免震装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層ゴム免震装置であって、
前記積層ゴムの上下には、上部構造体と下部構造体とに取り付けられる取付板が固設されており、
前記取付板は、前記分割体の形状に対応するように前記中心軸を中心として該中心軸回りに放射状に分割された複数の分割板からなることを特徴とする積層ゴム免震装置。
【請求項7】
請求項6に記載の積層ゴム免震装置であって、
前記分割板には、前記中心軸から離間する方向へ向けて前記分割体よりも突出する外縁部が形成されていることを特徴とする積層ゴム免震装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の積層ゴム免震装置であって、
前記取付板は、該取付板を収容可能な凹部を有する構造体取付具を介して、前記上部構造体と前記下部構造体とに取り付けられることを特徴とする積層ゴム免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−226585(P2011−226585A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97820(P2010−97820)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】