説明

積層シ−ト、エンボス意匠シート、エンボス意匠シート被覆金属板、ユニットバス部材、建築内装材、鋼製家具部材、および、家電製品筐体部材

【課題】金属板へのラミネート適正が良好であり、耐熱性を有するエンボス意匠を良好に付与することができ、精密エンボス意匠をも良好に転写することができる積層シートを提供する。
【解決手段】表面からA層10、B層20、C層30の3層を備え、総厚みが55μm以上300μm以下の範囲である積層シート100とする。A層:実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂組成部を主成分としてなる厚みが100μm以下の無配向の層。B層:実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなり、着色剤が添加された、厚みが40μm以上の層。C層:融点が215℃以上235℃以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂、及び/又は、融点が215℃以上235℃以下であるポリトリメチレンテレフタレート系樹脂を、C層における樹脂成分全体の質量を100質量%として70質量%以上95質量%以下含有してなる、5μm以上の厚みの無配向の層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AV機器、エアコンカバー等の家電製品筐体部材、合板製家具部材、鋼製家具部材、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材等のユニットバス部材、クローゼットドア材、パーティション材等の建築内装材等のエンボス意匠を有する被覆材用途に好適に用いることができる、エンボスの耐熱性に優れ、金属板ラミネート適性に優れた積層シート、該積層シートにエンボス付与を施したエンボス意匠シート、および、該エンボス意匠シートにより被覆されたエンボス意匠シート被覆金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記用途にはエンボス意匠を付与した軟質塩化ビニル系樹脂シート(以下、「軟質PVCシ−ト」という。)で合成樹脂成形品、合板、木質繊維板、金属板等を被覆したものが用いられてきた。軟質PVCシ−トの特徴としては、
(1)エンボス付与適性に優れることから、意匠性に富んだ被覆材を得ることができる。
(2)一般的に背反要素である加工性と表面の傷入り性のバランスが比較的良好である。
(3)各種添加剤との相容性に優れること、および長年にわたり添加剤による物性向上検討が行われてきたことから、耐久性に優れた樹脂皮膜を得ることが容易である。
等の点を挙げることができる。
【0003】
この軟質PVCの長尺シ−トに連続的にエンボスと呼ばれる表面の凹凸意匠を付与する方法としては、製膜後のシートを再加熱により軟化させ、エンボス柄を彫刻したロール(エンボス版ロール)で抑えて柄を連続的に転写させる方法が一般的に用いられている。シートを加熱する方法としては、加熱した金属ロールに接触させて加熱するような接触型や、赤外ヒーターや、熱風ヒーター等によってロール等に接触させることなく加熱する非接触型等が考えられる。実際の製造ラインでは、どちらか一方だけが用いられる場合もあるが、一般的には双方が併用されることが多い。これら一連の工程を有する設備をエンボス加工装置等と称する。
【0004】
このエンボス加工装置においては、エンボス版ロールの交換脱着を容易に行える設計が盛り込まれているのが一般的であり、エンボス版ロールの直径は押出し製膜設備のキャスティングロール等と比較して小さく作られており、多種のエンボス版ロールを用意しておくことでエンボス柄の変更を容易かつ経済的に行うことができる点から、小ロット対応性に適したエンボス付与方法といえる。
【0005】
また、エンボス意匠と同時に印刷意匠を有する軟質PVCシートについては、着色された軟質PVCシートの表面にグラビア印刷法等により印刷柄を施した後、透明な軟質PVCシートを積層一体化し、この積層シートをエンボス加工装置へ連続的に通すことで得られていた。この場合、エンボス加工装置でのシート予熱を利用して、2層のシートを熱融着で積層一体化する方法を採る事も出来、積層一体化のための特別な工程を必要としないことから生産性が良く、コスト面でも優れたものであった。
【0006】
このように、軟質PVCシ−トは、それ自体が優れた特徴を有するとともに、軟質PVCシートへのエンボス付与技術、及び、付与設備が確立されており、種々の形態のPVCシート被覆金属板が製造されていた。しかし、近年VOC問題や内分泌撹乱作用の問題等から、塩化ビニル系樹脂の使用は、制限を受けるようになってきており、特に人と接する時間の長い内装建材用途等に於いては、軟質PVCシートを用いない樹脂被覆金属板が求められている。
【0007】
そこで、軟質PVCシートの代替として、加工性と耐表面傷付き性に優れたポリエステル系樹脂よりなるシートを、エンボス意匠を有する樹脂被覆金属板の用途に用いることが検討されている。このようなシートとして、例えば特許文献1には、非晶質ポリエステル樹脂を主成分とする基材フィルム層と、テレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、25〜35モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノールと65〜75モル%のエチレングリコールからなるジオール成分とを共重合した非晶性ポリエステル樹脂を主成分とする透明な保護フィルム層とを積層した化粧シートが提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物またはこの樹脂組成物を多く含むエンボス付与可能層(A層)と、実質的に結晶性である樹脂組成物またはこの樹脂組成物を多く含み、エンボス加工装置での加熱時に積層シートに張力を付与すると同時にエンボス加工装置の加熱ドラム等、加熱された金属部分への非粘着性を付与する層(B層)とで構成された2層構造の積層シートとすることで、シート溶断、加熱ロールへの貼り付きや巻き付きの不具合が生じることなく現行のPVC用のエンボス加工装置を用いることが開示されている。
【0009】
しかし、特許文献1における組成では、2層いずれも非晶性ポリエステル系樹脂を主成分とすることから、エンボス加工装置でシートが加熱された際の張力が充分なものとはならないため、シートの幅縮み、皺入り、破断等を生ずるおそれがあり、また、特に基材層が非晶性ポリエステル系樹脂を主成分とする事から、エンボス加工装置の加熱ドラム等への粘着の懸念があり、エンボス加工装置によって安定してエンボス意匠を有するシートを生産することは難しい。また、テレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、25〜35モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノールと65〜75モル%のエチレングリコールからなるジオール成分とを共重合した非晶性ポリエステル樹脂は、そのガラス転移温度(Tg)が80℃程度である為、樹脂被覆金属板を作成する為に加熱した金属板に該組成より成る積層シートをラミネートした際、折角付与したエンボスが浅くなってしまう、所謂シボ戻り、或いはエンボス戻り等と呼ばれる現象が発生し、意匠感が低下してしまう恐れがある。
【0010】
熱可塑性樹脂シートへのエンボス加工装置によるエンボスの付与に於いては、エンボスロールによる押圧で樹脂シート内に発生した応力が充分に緩和されない内に冷却されるものである為、該エンボス加工による凹凸は、熱復元性の歪みの性質を有しており、後工程で加熱を受けた際に歪みの回復、従ってエンボス戻りを生じてしまうものである。
該後工程の加熱としては、上記に於いては、金属板にラミネートする際に加熱された金属板からの熱伝達により、エンボスが付与されている樹脂シート表面近傍の温度が上昇したことによるものであり、またユニットバス用途に用いられる樹脂被覆金属板に於いては、一般的に該用途の評価項目に含まれる沸騰水浸漬試験を実施した際に、同様のエンボス戻りが発生する事となる。
【0011】
更に、特許文献1の積層シートを用いて樹脂被覆金属板を作成した場合、その基材層が
やはりガラス転移温度(Tg)が80℃程度の非晶性のポリエステル系樹脂を主成分とするものである事から、沸騰水浸漬試験に於いては、表面のエンボス戻りのみではなく、基材層自体の弾性率の低下に伴う樹脂層の流動変形を生じ、著しい外観不良を生ずる恐れもある。
【0012】
特許文献2は、エンボスの転写性に優れた実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を主体とする層と、エンボス加工装置の加熱ロールへの非粘着性に優れ、且つ、充分な張力を保持することのできる、特定の結晶性ポリエステル系樹脂を主体とする層とに機能分化することで、エンボス付与適性を改善し、より高温にシートを加熱してエンボスを付与出来るようにしたものである。エンボス付与は前述の如く、熱復元性の歪みの付与である為、その付与温度が高いほど復元温度も高くなることによる。これによって、加熱された金属板へのラミネートの際にエンボス戻りが生じる事を抑制している。
また、特許文献2に於いては、エンボス付与層となる実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を主体として成る層に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂など、特定の結晶性ポリエステル系樹脂を配合する事により、その結晶性を利用して沸騰水浸漬試験でのエンボス戻りも効果的に抑制でき、且つ、結晶性ポリエステル系樹脂を主体とする層を有することから、この積層シートをラミネートした樹脂被覆金属板に関しては、沸騰水浸漬時の樹脂層の流動変形も効果的に防止されており、該試験での外観不良を生じないものとなっている。
【0013】
ところが、このような特許文献2に記載の積層樹脂シートにおいても、いわゆる精密エンボス意匠と呼ばれる非常に凹凸が浅く、緻密なエンボス意匠をエンボス付与機により転写することに関しては、軟質PVCシートに比べて良好とはいえず、改善が求められていた。
【0014】
これは、実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を主成分とする層にエンボスを付与する際には、エンボスの耐熱性を確保するために積層シートの加熱温度、及び、エンボス版ロール温度を比較的高温に設定する為であり、その結果として、エンボス版ロールの温度が、エンボスを付与すべき層の非晶性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも高くなり、これが、精密エンボスの転写性が劣ってしまう原因となっている。
【0015】
つまり、エンボス版ロールとの接触によってエンボス意匠が付与された後、このエンボス付与された樹脂がガラス転移温度以下に冷却されてエンボス意匠が固定されるのは、積層樹脂シートがエンボスロールの下流側に設置されている冷却ロールと接触した時点となる。そのため、エンボス戻りが発生する時間的余裕が生じてしまうのである。そして、エンボス版自体の凹凸が元来極めて浅い精密エンボス意匠を付与する場合においては、わずかなエンボス戻りが生じた場合においても、エンボスの転写が不満足なものになってしまうのである。
【0016】
そこで、特許文献3に於いては、該精密エンボスの転写性を改善する目的で、エンボス付与層の樹脂組成を実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂と、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成として、その組成物の100℃に於ける貯蔵弾性率を特定の値以上とする事により、ラミネート時や沸騰水浸漬時のエンボス戻りを防止したものである。
このような組成物を用いた場合、ガラス転移温度より低い温度では、エンボスが付与された樹脂層は高い弾性率を維持しており、それによってエンボス戻りを生じる事がないものである。
【0017】
一方、特許文献4には、化粧鋼板用ポリエステル樹脂として、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分として、エチレングリコール85〜60モル%と、スピログリコール15〜40モル%をグリコール成分とする共重合ポリエステル樹脂から成る組成物が提示されており、該組成物より成るシート状物を金属板にラミネートしたものは、加工性、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性、耐汚染性に優れるとしている。
【特許文献1】特開2000−233480号公報
【特許文献2】国際公開第03/045690号パンフレット
【特許文献3】特開2007−237568号公報
【特許文献4】特開2004−035693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、特許文献3においては、押出しフィルム用途に用いる事が出来る程度の分子量を有する芳香族ポリカーボネート系樹脂の熔融混練には、280℃〜300℃と言った高温が必要であり、また、混練負荷が大きい為、使用出来る押出機の制約が大きく、また、共押出製膜法により他の層と積層一体化した状態で押出しシートを得たい場合、例えば、ガラス転移温度が80℃程度の実質的に非晶性のポリエステル系樹脂などとの共押出し積層では、その熔融粘度差が大きくなる事から、幅方向の各層の厚み均一性を確保する為にはマルチマニホールド法が好ましい等の設備上の制約も存在する。
【0019】
更に、軟質PVCシートの時代から、着色された基材シートの上に積層する透明シートに、鱗片状雲母の表面に酸化チタン被覆を施した所謂パールマイカ顔料を基材シートの色味が視認できなくならない程度に少量添加し、意匠性を一層向上させる事が実施されているが、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物の場合、その高い溶融混練温度で該パールマイカ顔料の表面に被覆された酸化チタンが熱触媒作用を呈し、製膜過程での樹脂の劣化を促進し、黄変、スジ引き、発泡等の外観不良を生じる為、該組成物より成る透明層にパールマイカ顔料を添加する事は難しかった。
【0020】
通常の顔料酸化チタンであれば、アルミナ、シリカ等で表面処理を行う事で、熱触媒作用の発現を効果的に抑制する事が出来、芳香族ポリカーボネート系樹脂のような高温での
熔融混練を必要とする樹脂種にも支障なく用いる事が出来るのに対して、パールマイカ顔料に於いては、破砕を受けやすい等の理由により表面処理を施してもその効果を発現し難いものと推定される。
【0021】
また、特許文献4においては、該組成物より成る単層のシートでは、エンボス加工装置でエンボスを付与しようとした場合、該樹脂組成のガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱する必要があるが、該温度以上に加熱されたシートは弾性率が急激に低下する事により、エンボス加工装置の加熱ドラムへの粘着や貼り付き、シートの熔融張力の不足による幅縮み、皺入り、シートの熔融破断等の問題を生ずる恐れがある。該特許文献4の実施例では、エンボスを付与する方法として、樹脂シートを金属板に被覆してから、いわば金属板をキャリアーシートとする形でエンボスロールで押圧する事で、エンボスを付与しているが、この方法では片面に樹脂被覆が施されているとは言え、金属板をロール間に通すこととなり、金属板の端部の反り等に起因してエンボスロール表面への傷入りの懸念があり、ロールの傷は直ちに樹脂被覆金属板の表面意匠性の低下をもたらす。
【0022】
また、金属板の厚み精度としても相当良好なものを使用しないと、樹脂層へのエンボス版ロールによる押圧が場所毎に不均等となる恐れがあり、その結果として、エンボスの転写ムラを生ずる恐れがある。この場合も、版自体の凹凸が比較的浅い精密エンボスの転写を行った際には、わずかな転写ムラが生じたとしても、意匠感の場所による差が顕著なものとなり、商品価値を損なう恐れがあった。その解決策としては、樹脂層の厚みを転写ムラが出難いように厚くしておく事が考えられるが、該樹脂組成物はポリエステル系樹脂の中でも比較的原料単価の高いものであり、コストの点からは好ましくない。
【0023】
また、特許文献4では、エンボス耐熱性に関して、実施例で90℃のオーブンに5日間静置した後のエンボスの保持率を評価しているが、沸騰水浸漬後のエンボス戻りを抑制するには、100℃以上のガラス転移温度(Tg)が必要であり、幾つかの実施例はこれに満たないガラス転移温度となっている。
【0024】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、従来的なエンボス加工装置を用い、軟質PVCシートにエンボスを付与して来た条件の範囲内でのエンボス付与適性、特に、精密エンボスの付与適性が良好であり、また、エンボス耐熱性を有するエンボス意匠を付与できる積層シート、および、該積層シートにエンボスを付与したエンボス意匠シート、エンボス意匠シート被覆金属板、建築内装材等を提供することを課題とするものであり、透明な表層にパールマイカ顔料を添加した高意匠性を有するエンボス意匠シートやエンボス意匠シート被覆金属板を提供するものである。更には、沸騰水浸漬試験への耐性を有する事から、ユニットバス用途にも好適に用いる事の出来るエンボス意匠シート被覆金属板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0026】
第1の本発明は、表面側から順に以下に示すA層(10)、B層(20)、C層(30)の3層を備え、総厚みが55μm以上300μm以下の範囲である積層シート(100)である。
A層(10):テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、45モル%以下のスピログリコールと、50モル%以上のエチレングリコールをジオール成分の主体とし、示差走査熱量測定によって加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が100℃以上であり実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂組成物を主成分として成る厚みが100μm以下である無配向の層。
B層(20):実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなり、着色剤が添加された、厚みが40μm以上である層。
C層(30):融点が215℃以上235℃以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂、及び/又は、融点が215℃以上235℃以下であるポリトリメチレンテレフタレート系樹脂を、C層における樹脂成分全体の質量を100質量%として70質量%以上95質量%以下含有してなる、5μm以上の厚みの無配向の層。
【0027】
A層(10)のおける実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂組成物は、一種の非晶性共重合ポリエステル樹脂から構成されるものであってもよいし、二種以上の非晶性共重合ポリエステル樹脂の混合物から構成されるものでもよい。二種以上の樹脂混合物である場合は、樹脂混合物全体として、上記のスピログリコールおよびエチレングリコールが所定の範囲となっていればよい。また、符号100は、図示した符号100A、100Bおよび100Cの上位概念として用いている。
【0028】
この積層シート(100)において、A層(10)は精密エンボスを含むエンボス転写性が良好な層であり、同時にエンボス耐熱性、特に沸騰水浸漬後のエンボスの残存性が良好な層でもある。B層(20)は、着色顔料が添加されることにより、積層シートに着色意匠を付与する層であると同時に、積層シートへのエンボス柄の転写時には、A層(10)と同様に、エンボス版による押圧で変形する層であり、積層構成の各層の中では比較的原料単価の高いA層(10)の厚みを比較的薄くしながら、A層(10)とB層(20)の合計厚みに対応した深さのあるエンボス柄の転写を可能とする層である。
【0029】
また、B層(20)は実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなることから、例えばB層(20)単体を金属板にラミネートしたような構成では、沸騰水浸漬時に樹脂層が著しい流動変形を生じ、あるいは金属板(60)からのブリスター状の剥離を生じる虞がある。これに対して、本発明においては、B層(20)が、その上下を耐沸騰水浸漬性を有する層に挟まれて存在し、かつ層間の密着力が強固なものであるため、耐沸騰水浸漬性に優れた積層シート(100)とすることができる。
【0030】
第1の本発明において、A層(10)は、鱗片状雲母の表面に酸化チタン被覆を施したパールマイカ顔料を、A層(10)の樹脂成分の全体を100質量部として、0.5質量部以上5質量部以下含有している構成としても良い。
【0031】
本願のA層(10)の樹脂組成物を押出し製膜法により樹脂シートとする場合の熔融混練温度は、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物と比較して十分に低い。よって、パールマイカ顔料を添加した場合であっても、酸化チタン被覆による熱触媒作用で樹脂成分が著しい劣化を受けることがない。従って、精密エンボスの転写適性を備えると共に、軟質PVCシート被覆の金属板と同様のパール調意匠を有する樹脂被覆金属板を得る事ができる。
【0032】
第1の本発明において、B層(20)の実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂は、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、25モル%以上75モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノールと、25モル%以上75モル%以下のエチレングリコールをジオール成分の主体とする共重合ポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0033】
この態様によれば、ポリエステル系樹脂として商業的に入手し易い材料を用いることで原料供給の安定性のメリットを得る事ができる。また、該材料は、原料価格がA層(10)の主成分となる樹脂組成物より廉価である為、積層シートとしてのコストを低廉に抑える事ができる。また、B層(20)として、商業的に入手し易い材料を用いることで、該材料をベースレジンとした各種の着色顔料のマスターバッチ(予備混練ペレット)を安価、且つ容易に入手することが可能となる。
【0034】
C層(30)は、エンボス加工装置で積層シート(100)が加熱された際に十分なシート張力を付与し、積層シートの溶融破断や顕著な伸び、それに起因する皺入り等を防止するとともに、エンボス加工装置の加熱ドラム等の加熱された金属ロールに対して非粘着性を示す層である。また、金属板(60)にラミネートする場合には、金属板(60)温度を従来の軟質PVCシートをラミネートする際の温度と同様な温度としても十分な接着強度を得ることが可能な層でもある。したがって、第1の本発明によれば、A層(10)、B層(20)およびC層(30)の各層を組み合わせることにより、エンボスの付与適性や取り扱い性、金属板(60)へのラミネート適性に優れた積層シート(100)を提供することができる。
【0035】
第1の本発明において、B層(20)を、B層(20)の樹脂成分全体を基準(100質量%)として、55質量%以上80質量%以下の実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂、20質量%以上45質量%以下の融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂および/または融点が210℃以上230℃以下のポリトリメチレンテレフタレート系樹脂とを含んでなる層としても良い。
【0036】
B層(20)に、このようなブレンド樹脂組成物を用いることより、沸騰水浸漬試験に対する耐性を一層良好なものとすることができ、B層(20)の厚みを比較的厚く設定した場合に特に効果的である。
【0037】
第1の本発明において、A層(10)が実質的に透明であり、A層(10)とB層(20)との間に印刷柄D(40)を付与した構成(100B)としてもよい。
【0038】
これにより、精密エンボス意匠を含むエンボス意匠に加えて印刷意匠を有する積層シート(100B)を得ることができる。
【0039】
この印刷柄D(40)を有する構成においては、A層(10)と印刷柄D(40)との間に、実質的に透明であり、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなるE層(50)が介在し、A層(10)と該E層(50)とが、共押出し製膜法により積層一体化された積層シートを用いる構成(100C)としてもよい。
【0040】
このような構成とすることで、比較的原料価格の高いA層(10)の樹脂成分の使用量を少なくしながら、印刷柄D(40)の上に被覆される透明樹脂層の厚みを比較的厚くすることができる。そして、被覆前の該透明樹脂層の取り扱い性を良好なものとできる。また、印刷柄D(40)の上に比較的厚みのある透明樹脂層を積層できることで、深みのある意匠感を有する積層シート(100C)が得られる。
【0041】
第2の本発明は、第1の本発明の積層シート(100)、および、該積層シート(100)のA層(10)側表面にエンボス版により賦型された凹凸形状、を備えてなる、エンボス意匠シート(200)である。符号200は、図示した符号200A、200Bおよび200Cの上位概念として用いている。
【0042】
ここで、「エンボス版」とは、エンボス意匠が彫刻等の方法により表面に形成された版をいい、該エンボス版の表面凹凸を加熱された熱可塑性樹脂シートの表面に転写する作業をエンボス付与と呼ぶ。エンボス版の形状は特に限定されず、バッチ方式でエンボス付与を行う板状のものであっても良いが、通常は連続的にエンボス付与を行うロール状、或いはベルト状等のものが用いられる。
【0043】
本発明の積層シート(100)は、通常の深いエンボス意匠のみならず、精密エンボス意匠のエンボス転写性にも優れており、かつ、エンボス耐熱性も良好である。このため、意匠性に優れたエンボス意匠シート(200)とすることができる。
【0044】
第3の本発明は、第2の本発明のエンボス意匠シート(200)、および、金属板(60)を備え、該エンボス意匠シート(200)のC層(30)側の表面が接着剤(70)を介して金属板(60)にラミネートされている、エンボス意匠シート被覆金属板(300)である。符号300は、図示した符号300A、300Bおよび300Cの上位概念として用いている。
【0045】
第3の本発明のエンボス意匠シート被覆金属板は、エンボス意匠による意匠性および耐熱性に優れるとともに、表面硬度が高く、耐傷入り性、加工性に優れ、沸騰水浸漬に対しても耐性を有する。
【0046】
第4の本発明は、第3の本発明のエンボス意匠シート被覆金属板(300)を用いた、ユニットバス部材である。
【0047】
第5の本発明は、第3の本発明のエンボス意匠シート被覆金属板(300)を用いた、建築内装材である。
【0048】
第6の本発明は、第3の本発明のエンボス意匠シート被覆金属板(300)を用いた、鋼製家具部材である。
【0049】
第7の本発明は、第3の本発明のエンボス意匠シート被覆金属板(300)を用いた、家電製品筐体部材である。
【0050】
本発明のエンボス意匠シート被覆金属板(300)は、表面硬度が高く、耐傷入り性、加工性に優れていることから、第4〜第7の本発明のような、様々な用途に用いることができる。特に、優れたエンボス転写性を有しているのみならず、印刷柄D(40)による意匠を付与することもできるため、これらの意匠を組み合わせることによって、意匠性に優れた各種部材とすることができる。また、積層シート自体が、沸騰水浸漬で流動変形を生じるものではなく、また、沸騰水浸漬後のエンボス耐熱性も良好であることから、耐熱性が要求される用途、例えば第4の本発明のユニットバス部材等としても好適に用いることができる。なお、ユニットバス部材としては、例えば、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材を挙げることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の積層シート(100)は、A層(10)を備えることによって、エンボス加工装置でのエンボス転写性を優れたものとすることができる。特に、通常のエンボス意匠のみならず、精密エンボス意匠と呼ばれる非常に凹凸が浅く、緻密なエンボス意匠の転写性に関しても、従来の軟質PVCシートにおける場合以上に優れたものとすることができる。また、エンボス耐熱性、特に金属板に被覆した後に、沸騰水浸漬に供してもエンボス意匠の残存性を良好なものとすることができる。
【0052】
更に、本願のA層(10)の樹脂組成物の熔融混練温度は、芳香族ポリカーボネート系樹脂と比較して十分に低いため、熱触媒作用を発現し易いパールマイカ顔料を添加した場合も、樹脂の劣化が抑制される。このため、従来の精密エンボスの転写適性やエンボスの耐熱性を得るために芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物をエンボス付与層に用いた場合では実現が困難であった、パール調意匠を有する樹脂被覆金属板を得ることができ、より多彩な着色意匠が得られる。
【0053】
また、C層(30)を備えることによって、エンボス加工装置で本発明の積層シート(100)が加熱された際に、積層シートに十分なシート張力を付与することができる。よって、幅縮み、皺入り、シート破断等を生じることなく良好なエンボス意匠の付与が可能となる。また、C層(30)は、エンボス加工装置の加熱ロール(410)に対して非粘着性を示すため、本発明の積層シートをエンボス加工装置を用いたエンボス付与適性に優れたものとすることができる。さらに、C層(30)は、金属板(60)にラミネートする場合に金属板(60)の温度を比較的低温にしても十分な接着強度を得ることが可能な層でもあることから、従来の軟質PVCシートと同様な条件によって金属板(60)にラミネートすることが可能であり、本発明の積層シートを金属板ラミネート適性に優れたものとすることができる。
【0054】
また、A層(10)、B層(20)およびC層(30)の3層からなる構成とすることにより、A層(10)単層の場合、あるいは、A層(10)とB層(20)の2層からなる場合に比べ、より高温でのエンボス転写が可能となる。これにより、エンボス意匠を転写した本発明のエンボス意匠シート(200)を、エンボス耐熱性に優れたものとすることができる。また、A層(10)、B層(20)およびC層(30)からなる積層シート(100)を共押出により作製した場合は、反りが生じにくく、取り扱い性の良好な積層シートとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。
<積層シート100>
図1(a)〜(c)に、本発明の積層シート100の構成を模式的に示す。図1(a)は、表面から順に、A層10、B層20およびC層30の3層が積層された積層シート100Aを示し、図1(b)は、積層シート100AのA層10とB層20との間に印刷柄D40を有する積層シート100Bを示す。図1(c)は、印刷柄D40を有する構成で、表層としてA層10とE層50から成る共押出しシートを用いた積層シート100Cを示す。以下、これらの構成および製造方法について詳細に説明する。
【0056】
なお、本発明の積層シート100は、厚みが55μm以上300μm以下の範囲をとることから、「フィルムおよびシート」と記すのがより正しいが、ここでは一般的には「フィルム」と呼称する範囲に関しても便宜上「シート」という単一呼称を用いている。また、本明細書中において、「無配向」という表現は、積層シートに何らかの性能を付与するために意図して延伸操作等の配向処理を行ったものではないことを意味しており、押出し製膜時にキャスティングロールによる引き取りで発生する配向等まで存在していないという意味ではない。
【0057】
<A層10>
A層10は、積層シート100の表面となる層であり、積層シートをエンボス加工装置に通した際、加熱軟化されてエンボスロールにより押圧されることによって、エンボス柄が転写される層である。したがって、A層10はエンボスロールで押圧される時点で、軟質PVCシートへのエンボス付与に一般的に用いられてきたエンボス加工装置でのシート加熱温度の上限である190℃程度を超える融点(Tm)を示すような高い結晶性を有する樹脂組成物により構成されるものであってはならない。また、非晶性樹脂の場合は190℃程度を超えるガラス転移温度を有する樹脂組成物により構成されるものであってはならない。
【0058】
また、A層10は、ガラス転移温度が100℃に満たない実質的に非晶性のポリエステル系樹脂からなる層であってもならない。このような樹脂を用いた場合も、精密エンボス意匠の転写性自体は良好なものとすることはできるが、ガラス転移温度が低すぎることと、結晶性による弾性率保持効果の発現が無いことより、エンボス耐熱性に劣り、特に沸騰水浸漬後のエンボス戻りが顕著なものとなる、或いは、沸騰水浸漬時にA層10自体が全層的に流動変形を起こし、著しい外観不良となるためである。
【0059】
上記のような観点から、本発明においては、A層10を、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、45モル%以下のスピログリコールと、50モル%以上のエチレングリコールをジオール成分の主体とし、示差走査熱量測定によって加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度(Tg)が100℃以上であり実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂組成物を主成分としてなる層とする。
【0060】
ここでの、ジカルボン酸成分における「主体」とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸を少なくとも70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。また、ジオール成分における「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、スピログリコールおよびエチレングリコールを好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上含むことを言う。
また、「主成分」とは、A層全体を基準(100質量%)として、上記実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂組成物を、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、含むことをいう。
A層10において、実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂組成物は、一種の非晶性共重合ポリエステル樹脂から構成されるものであってもよいし、二種以上の非晶性共重合ポリエステル樹脂の混合物から構成されるものでもよい。二種以上の樹脂混合物である場合は、樹脂混合物全体として、上記のスピログリコールおよびエチレングリコールが所定の範囲となっていればよい。
【0061】
上記、テレフタル酸およびジメチルテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ジメチルイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸などポリエステル系樹脂の重合に用いられる、或いは共重合成分として用いられる各種のジカルボン酸を挙げることができる。また、多官能のカルボン酸成分を数モル%以下程度含んでいても良い。これらの中でも2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として用いた場合は、樹脂組成物のガラス転移温度を更に上昇させる効果を得ることができるが、該共重合成分の比率をあまり高めると、原料価格が高価なものとなってしまい、コスト面で意匠性樹脂被覆金属板の用途に適合し難くなる。
【0062】
スピログリコールおよびエチレングリコール以外のジオール成分としては、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、1.3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエステル系樹脂の重合に用いられる、或いは共重合成分として用いられる各種のジオールを挙げることができる。本発明においては、これらを特に意図して含む必要は無い。なお、ジエチレングリコールは意図せざる共重合成分として、ジオール成分の数モル%として含まれることが多い。また、多官能のアルコール成分を数モル%以下程度含んでいても良い。
【0063】
A層10を構成する樹脂組成物は、スピログリコールを共重合成分として用いることで、その分子鎖の剛直性から、高いガラス転移温度のポリエステル樹脂組成物とすることができるものである。しかしながら、ジオール成分として45モル%を超える量のスピログリコールが含まれる場合は、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、更に高いものとなるが、樹脂シートの耐引き裂き性が低下したり、引張り応力を加えた際のノッチ感度が鋭敏となり、微細な傷が入った部分において僅かな伸びを加えただけでシートが破断する等の樹脂被覆金属板用のシートの物性としては好ましくない特性が発現する虞がある。
【0064】
逆に、スピログリコールの共重合比率が低すぎる場合は、共重合ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が100℃未満となる虞がある。しかし、共重合ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度は、前述の2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として含む場合のように、その他の共重合成分により変わり得るものであるため、本発明においては、スピログリコールの共重合比率の下限値は特に限定せずに、組成物のガラス転移温度の下限値を限定することにした。
【0065】
ジカルボン酸成分がテレフタル酸のみであり、ジオール成分がスピログリコールとエチレングリコールのみからなる組成物の場合では、スピログリコールの共重合比率がジオール成分の25モル%程度より少なくなると、得られる共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は100℃より低くなる。この点から、ジオール成分におけるスピログリコールの共重合比率の下限値は、25モル%以上とすることが好ましい。
【0066】
A層10を構成する共重合ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度が100℃より低い場合は、エンボスの耐熱性が不足し、特に沸騰水浸漬後のエンボス戻りが顕著となる。A層10を構成する共重合ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度は、105℃以上であることがさらに好ましい。
【0067】
上記したモノマー成分の好ましい組成範囲を備え、ガラス転移温度が100℃以上である共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、三菱ガス化学社製の「アルテスター45」や「アルテスター30」を挙げることができる。「アルテスター45」は、示差走査熱量測定(DSC)によって加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度(Tg)が111℃であり、結晶化挙動、結晶融解挙動が認められない非晶性のポリエステル樹脂である。「アルテスター30」は、同様に測定されるガラス転移温度が104℃であり、結晶化挙動、結晶融解挙動が認められない非晶性のポリエステル樹脂である。
【0068】
(添加剤)
A層10の下に印刷柄D40が存在しない場合は、A層10に意匠性の付与や下地金属の視覚的隠蔽のために着色顔料を添加してもよいが、本発明においては、A層10は、隠蔽性の高い、従って高濃度の顔料添加による着色は行わず、透明層とすることが好ましい。これは、後述するB層20を主たる着色層とするほうが、各種市販の顔料マスターバッチを用いることができ、利便性が高いためである。
【0069】
しかし、着色の意匠と下地の視覚的隠蔽効果を得るための顔料等の添加をB層20に施した上で、A層10には適当な粒径を有するパールマイカ顔料、アルミ粉、銀粉、金粉等の各種メタリックパウダー、ガラスフレーク、表面修飾ガラスフレーク、セラミックパウダー等の光輝性顔料と呼ばれるものを添加して、A層10の透明性を確保しつつ、メタリック調の意匠感を付与したり、粒子が点状に分散して光輝性を発現するような意匠を施してもよい。
【0070】
これら光輝性顔料の中でも、パールマイカ顔料は、鱗片状雲母の表面に酸化チタン被覆を施したものであり、軟質PVCシートを用いた樹脂被覆金属板においても、着色された基材シートの上に積層する透明シートに、基材シートの色味の視認性が妨げられない程度に少量添加し、意匠性を一層向上させる事が実施されてきたものである。メタリックパウダーなどを添加した場合のような強烈な金属的反射は得られないが、適度にヘイズ(曇り度)が上昇するのと併せて、落ち着いた意匠感を付与できるものである。
【0071】
しかし、A層10のエンボス耐熱性の確保などを目的として、A層10を芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物から形成した場合、芳香族ポリカーボネート系樹脂の高い溶融混練温度に起因して、パールマイカ顔料の表面に被覆された酸化チタンが熱触媒作用を呈し、製膜過程での樹脂の劣化を促進し、黄変、スジ引き、発泡等の外観不良を生じてしまう。よって、A層10を芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物から形成した場合、該樹脂組成物よりなる透明層にパールマイカ顔料を添加することは難しかった。
【0072】
本発明のA層10を構成する樹脂組成物の熔融混練温度は、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物と比較して十分に低いものとすることができる。よって、A層10にパールマイカ顔料を添加した場合も、酸化チタン被覆による熱触媒作用で樹脂成分が著しい劣化を受けることがなく、精密エンボスの転写適性を備えると共に、軟質PVCシート被覆の金属板と同様のパール調意匠を有する樹脂被覆金属板を得ることができる。パールマイカ顔料の好ましい添加量は、A層10の樹脂成分の全量を基準(100質量部)として、0.5質量部以上5質量部以下であり、従来の軟質PVC系積層シートの透明層に添加する場合と同様である。好ましいパールマイカ顔料の粒径についても従来と同様であり、5μm以上80μm以下程度のものを、得たい意匠感により適宜選択して用いることができる。
【0073】
A層10には、本発明の性質を損なわない範囲において、本発明の目的以外の物性をさらに向上させるために、各種添加剤を適宜な量添加してもよい。添加剤としては、燐系・フェノール系他の各種酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、衝撃改良剤、加工助剤、加水分解防止剤、鎖延長剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材、つや消し剤等の樹脂材料に一般的に用いられているものが挙げられる。
【0074】
(厚み)
A層10の厚みは100μm以下であることが好ましく、20μm以上75μm以下であることがさらに好ましく、30μm以上60μm以下であることが特に好ましい。A層10の厚みが薄くても、B層20の厚みと合わせて比較的深いエンボス柄を転写することが可能であるが、これより厚みが薄いと、A層10を単層のシートとして製膜する場合は、その取り扱い性に問題を生じやすい。また、A層10とB層20、または、A層10とB層20とC層30とを共押出し製膜法により積層された状態で製膜する場合も、積層シートの幅方向においてA層10の厚み分布が不安定となりやすい。逆に、A層10の厚みが厚すぎると、積層シート100の総厚みの上限が決まっていることから、B層20またはC層30が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。加えて、A層10を構成する樹脂の原料価格が、他の層を構成する樹脂の原料価格に比べて高価であるため、積層シート、ひいては、積層シート被覆金属板の価格を高くしてしまう。
【0075】
<B層20>
本発明の積層シート100においてB層20を付与する目的は、A層10の厚みとB層20の厚みとを合わせて、比較的深いエンボス柄の転写を可能とすることと、着色剤添加による着色意匠の付与、及び、基材となる金属板の視覚的隠蔽効果を確保することである。また、A層10とB層20との間に、印刷柄D40を有する構成の場合には、B層20が着色されることによって、印刷柄D40の発色性が改善される。
【0076】
したがって、B層20もまたエンボスロールで押圧される時点で、一般的に用いられているエンボス加工装置でのシート加熱温度の上限である190℃程度を超える融点(Tm)を示すような高い結晶性を有する樹脂からなるものであってはならない。また、その溶融混練に比較的高温を要する樹脂からなるものであってはならない。
【0077】
そこで、本発明においては、B層20は、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなるものとする。ここで、「実質的に非晶性」とは、エンボス加工装置でのエンボス付与が困難なほどの結晶性を有していないという意味であり、完全非晶性であるポリエステル系樹脂に限定するものではない。また、「主成分」とは、B層20の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、該実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を少なくとも55質量%以上、好ましくは70質量%以上含むことをいう。
【0078】
(実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂)
B層20を構成する実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂としては、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、25モル%以上75モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノールと、25モル%以上75モル%以下のエチレングリコールをジオール成分の主体とする共重合ポリエステル系樹脂を好ましく使用することができる。
【0079】
ここでの、ジカルボン酸成分の「主体」とは、ジカルボン酸成分の全体量を基準(100モル%)として、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸を少なくとも70モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。
また、ジオール成分の「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびエチレングリコールを好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上含むことを言う。
【0080】
1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合比率が上記の範囲よりも少ない場合は、結晶性樹脂としての特徴が顕著になり、エンボス付与時に結晶化してエンボス版による押圧で変形を受ける層としての機能を得られなくなる虞がある。逆に、1,4−シクロヘキサンジメタノールの量が上記の範囲よりも多い場合も、結晶性の影響が顕著になり同様の問題が発生する虞がある。
【0081】
上記好ましい組成範囲にある共重合ポリエステル系樹脂としては、原料の安定供給性や生産量が多いことから低コスト化が図られている点、及び該樹脂をベースレジンとした各種の着色顔料マスターバッチや添加剤マスターバッチが豊富に市販されている点から、いわゆるPETG樹脂を好ましく用いることができる。PETG樹脂としては、例えば、イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の「イースターPETG・6763」を挙げることができる。「イースターPETG・6763」は、テレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の約31モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールで、約69モル%がエチレングリコールである共重合ポリエステルであり、示差走査熱量計(DSC)での測定で、結晶化挙動が認められない非晶性のポリエステル系樹脂である。
【0082】
また、熱ロールによる混練や、カレンダー製膜においては、結晶性樹脂として取り扱う必要があるが、通常の押出し製膜においては非晶性のポリエステル系樹脂として扱うことができる、イーストマン・ケミカル・カンパニー社の「イースターPCTG・5445」や、同じくイーストマン・ケミカル・カンパニー社の「イースターPCTG・24635」も上記組成範囲にある共重合ポリエステル系樹脂である。
【0083】
ただし、これらに限定されるものではなく、ジオール成分としてネオペンチルグリコールを共重合したPETで結晶性を示さないもの(一例として、東洋紡社製の「コスモスター・SI−173」)や、結晶性の低いもの、ジカルボン酸成分として、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート系樹脂や、イソフタル酸を共重合したポリブチレンテレフタレート樹脂で結晶性を示さないものや結晶性の低いものなど、共重合成分により結晶化を阻害した構造の共重合ポリエステル系樹脂類も、B層20の主成分として用いることができる。また、A層10に用いる樹脂と同一のものをB層20にも用いて良いが、前述したように、原料価格の面から不利となる。
【0084】
B層20は、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなることから、B層20の樹脂よりなる単層のシートで被覆した樹脂被覆金属板では、耐沸騰水浸漬性に乏しく、著しい流動変形を生じてしまう。これに対し、本発明においては、B層20の上下を耐沸騰水浸漬性を有する層で挟む構成としたため、積層シート100全体の構成として、樹脂被覆金属板とした状態での沸騰水浸漬試験に対する耐性を付与することができる。
【0085】
積層シート100の耐沸騰水浸漬性をより一層確実なものとするため、B層20は、B層20を構成する樹脂成分の全体を基準(100質量%)として、55質量%以上80質量%以下の実質的に非晶性のポリエステル系樹脂、20質量%以上45質量%以下のポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂および/またはポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂を含有してなる層としてもよい。これは、深いエンボスの転写を良好にする等の目的で、B層20の厚みとして75μm以上の厚みのものを用いる場合に、特に好ましい。
【0086】
PBT、PTTといった結晶性ポリエステル系樹脂の混合比率が45質量%を超える場合は、結晶性が過剰となり、押出し製膜シートの時点では非晶状態であったものが、エンボス加工装置でのシート加熱で結晶化が進行し、エンボスロールで押圧された時点ではエンボス転写が困難になる虞があるため好ましくない。逆に、これら結晶性ポリエステル系樹脂の混合比率が20質量%未満の場合は、B層20の樹脂組成物として実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂のみを用いた場合と比較して、沸騰水浸漬性に大きな違いは認められなくなる。
【0087】
(着色顔料)
B層20は、着色意匠と下地の視覚的隠蔽効果の発現を主として受け持つ層であり、着色剤が添加される。B層20の着色に用いる着色剤としては、ポリエステル系樹脂の着色用に一般的に用いられているものでよく、その添加量に関しても上記目的のために一般的に添加される量でよい。例えば、淡色の場合では、白系の着色顔料であり、可視光線の隠蔽効果の高い酸化チタン顔料をベースとして、色味の調整を有彩色の無機や有機の顔料、染料で施す等の方法を挙げることができる。また、着色剤の添加量としては、例えば、B層20を構成する樹脂成分の全量を基準(100質量部)として、2質量部以上50質量部以下とすることが好ましい。前述したように、PET−Gをベースレジンとしたカラーマスターバッチ等の、予備混練を施すことで分散性を向上させた顔料練り込みペレット類が豊富に市販されているので、これらを利用することにより容易にB層20を着色層とすることができる。また、B層20には、顔料類の他にもA層10と同様、A層10の説明で例示した各種添加剤を適宜な量添加することもできる。
【0088】
(厚み)
B層20の厚みは、40μm以上であり、好ましくは50μm以上250μm以下であり、より好ましくは75μm以上200μm以下である。厚みが薄すぎると、B層20に求められる着色意匠の発現や下地金属の視覚的隠蔽効果の発現が困難になりやすく、逆に、厚みが厚すぎると、積層シート100の総厚みの上限が決まっていることから、A層10またはC層30が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。また、通常の深さのエンボスを付与する場合は、A層10とB層20の合計厚みは60μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましい。
【0089】
着色顔料の添加による下地金属板の視覚的隠蔽効果に関しては、用途によって重要度が異なってくるが、内装建材用途のエンボス意匠シート被覆金属板等においては、JIS K5600−4−1「塗料一般試験方法・隠蔽率」に準拠して測定した隠蔽率が積層シート100の構成で0.95以上であることが好ましい。
【0090】
隠蔽率がこれより低いと金属板等、下地となる基材の色味が、積層シート100表面の色味に反映されて、金属板表面の処理の違い等により色味が変化した際、積層シート表面から観察される色味も変化して見えるため好ましくない。ただし、この理由による色味の変化が特に問題とならない用途においては、隠蔽率は0.95以上にこだわらなくてもよい。
【0091】
<C層30>
C層30は、積層シート100をエンボス加工装置に通した際に、従来の軟質PVCと同様の温度まで加熱された場合においても、積層シート100に加熱金属ロールへの粘着や、幅縮み、皺入り、溶融破断等が起こらないようにする役割を有する。したがって、エンボス加工装置でエンボス柄を転写する場合にシートが加熱ロールで加熱される150℃程度までの温度で金属への粘着性を示すものであってはならないし、また、シートが支持体なしでヒーターによって加熱される温度である160℃〜190℃程度までの加熱温度で弾性率が著しく低下する樹脂組成であってはならない。一方、金属板60にラミネートする際には従来の軟質PVCと同様の温度に加熱された金属板に対して強固な密着力を得られることが必要であるため、235℃程度に加熱された状態でも依然高い弾性率を維持していてはならず、したがって235℃を超える融点を有する結晶化した状態の結晶性ポリエステル系樹脂であってはならない。
【0092】
(PBT系樹脂、PTT系樹脂)
上記目的のため、本発明のC層30は、融点が215℃以上235℃以下のポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂、および/または、融点が215℃以上235℃以下のポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂を所定量含有してなる。
【0093】
融点が215℃以上必要なのは、従来の軟質PVCシートにエンボス加工装置でエンボス意匠を転写する場合にシートが支持体なしでヒーターによって加熱される温度が160℃〜190℃程度であるのに対し、C層30の樹脂成分として、融点が215℃未満であるPBT系樹脂やPTT系樹脂用いた場合は、160℃〜190℃という加熱温度で十分な張力を得ることが困難となりやすいためである。また、融点の上限が235℃としたのは、融点がこれより高いポリエステル系樹脂組成物からなり、結晶化した状態であるC層30では、従来の軟質PVCよりなるシートを金属板60にラミネートする場合と同様の通常の金属板の加熱温度の上限である235℃までの温度では、金属板60との強固な密着力を得ることが難くなるためである。
【0094】
また、C層30をPBT系樹脂、および/または、PTT系樹脂を所定量含有してなる層とする理由は、これら樹脂が上記好ましい融点範囲にあるためだけでなく、結晶化速度が比較的速いことから、製膜工程とエンボス付与工程との間に特別な養生工程等を設けなくても、製膜工程で高い結晶性を有するC層30を得やすいため、すなわち、エンボス付与工程での加熱金属への非粘着性や耐熔融破断性を得やすいためである。
【0095】
ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂においても、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換することなどにより、上記範囲の融点を有するものを得ることができる。しかし、この場合のPET系樹脂は、結晶化速度が非常に遅く、通常の押出し製膜ラインでは、十分に結晶化したC層30を得ることが困難であり、別途養生工程等を設ける必要があるため、C層30に用いるには好ましくない。
【0096】
PBT系樹脂またはPTT系樹脂を用いる他の理由としては、結晶化した状態でもPET系樹脂に比べて良好な加工性を得られることが挙げられる。これにより、結晶化した状態のC層30を有する積層シート100で被覆した樹脂被覆金属板であっても、その折り曲げ加工性等の二次加工性を良好なものとすることができる。
【0097】
C層30における、PBT系樹脂、および/または、PTT系樹脂の含有割合は、C層30における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、PBT系樹脂、および/または、PTT系樹脂の含有割合の下限は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。PBTの量がこれより少ない場合は、結晶化速度が遅くなることから、加熱金属に対して非粘着性を示す程度に結晶化させるためには、特別な養生工程等を必要とするようになり、また、結晶化した状態のシートを得ても、好ましい溶融張力を得ることが困難となりやすい。
【0098】
また、PBT系樹脂、および/または、PTT系樹脂の含有割合の上限は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。PBT系樹脂、および/または、PTTの量がこれより多い場合は、積層シート100を金属板60にラミネートする際の接着積層面側であるC層30の結晶性が高くなりすぎ、従来的な加熱条件では金属板60との密着強度を得難くなるためである。また、C層30をB層20との2層共押し出し、あるいはA層10およびB層20との3層共押出し製膜法で得る場合に、製膜後の積層シートの反りが顕著になり、取り扱いに支障をきたす虞があるためである。
【0099】
融点が215℃以上235℃以下の範囲のPBT系樹脂としては、酸成分がテレフタル酸、または、ジメチルテレフタル酸であり、ジオール成分が1,4−ブタンジオールの各単一成分を縮重合して得られた(意図せざる共重合成分は含まれていてもよい)ホモポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることができる。このような組成のPBT樹脂としては、三菱エンジニアリングブラスチックス社製の「ノバデュラン・5020H」等が挙げられる。これを用いた場合は、コスト面のメリットや供給の安定性等のメリットを得ることができる。
【0100】
また、融点が215℃以上235℃以下の範囲のPTT系樹脂としては、ホモ・ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いることができ、例えば、シェル社製の「コルテラ・CP509200」が挙げられる。
【0101】
(PBT系樹脂、PTT系樹脂以外の樹脂成分)
C層30に添加される上記PBT系樹脂およびPTT系樹脂以外の樹脂成分としては、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂が好ましく用いられる。実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂としては、前述したB層20の主成分であるものと同一のものを用いることができ、例えば、イーストマン・ケミカル・カンパニー社の「イースターPETG・6763」や同じく、「イースターPCTG・5445」が挙げられる。非晶性のものが好ましい理由は、結晶性の高い樹脂を用いた場合、例えばホモPET等の樹脂では、結晶化速度は遅いものの経時的に結晶化が進行するため、PBT系樹脂の結晶相の加工性より劣るPET系樹脂の結晶相がC層30の加工性に経時的に悪影響を及ぼし、結果的に積層シートおよびそれを被覆した金属板300の加工性が低下する虞があるためである。ただし、PBT系樹脂等以外の樹脂成分の配合量は限定されているので、経時的な加工性低下に特別な配慮を必要としない場合は、ホモPETなどを用いても良い。
【0102】
(厚み)
C層30は、5μm以上の厚みを有することが好ましく、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上である。これより厚みが薄い場合は、エンボス加工装置での張力付与層としての機能が不十分になりやすい。また、厚みの上限は、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。これより厚くしても、C層30が受け持つべき機能は飽和し、かつ、積層シートの総厚みの上限が決まっていることから、A層10またはB層20が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。
【0103】
さらに、C層30は、例えば、「特開2006−095892号公報」に記載されるように、エンボス加工装置の張力付与機能を分担する層と、加熱ロールへの粘着防止機能を分担する層の2層よりなっていてもよい。この場合、金属板60へのラミネート温度をさらに低温にしても、良好な密着力を確保できる効果が得られる。
【0104】
(添加剤)
C層30には着色のための顔料類を添加してもよいが、着色意匠を発現する目的の層としてB層20が存在することから、B層20の着色のみでは下地の視覚的隠蔽効果が得られない場合等に、補助的に顔料を添加することが好ましい。
【0105】
また、C層30が付与される目的の一つである加熱金属との非粘着性をより強固にするため、適宜な量の滑剤を添加してもよい。滑剤としては、ポリエステル樹脂への添加用として一般的に用いられるものを用いることができ、例えば、モンタン酸系の滑剤である「LICOWAX(登録商標)OP」(クラリアント・ジャパン社製)を挙げることができる。滑剤の添加量は、C層30の全樹脂量を基準(100質量%)として、0.2質量%以上3質量%以下程度の一般的な量でよい。
【0106】
また、エンボス加工装置における積層シート100の加熱時の張力をより強力なものとするため、C層30には、線状超高分子量アクリル系樹脂(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)P−531」等がある。)や、フィブリル状に展開する易分散化処理を施したポリテトラフルオロエチレン等の加工助剤(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)A−3000」等がある。)を添加してもよく、この場合も、添加量は、C層30の全樹脂量を基準(100質量%)として、0.2質量%以上3質量%以下程度の一般的な量でよい。
【0107】
さらに、エンボス加工装置での非粘着性や耐熔融破断性を得るために必要な結晶性を押出し製膜ラインでC層30に十分に付与するために、有機系や無機系の結晶核剤を添加して結晶化速度の向上を図ってもよい。また、その他、A層10において説明した各種の添加剤や他の汎用樹脂を少量含んでいてもよい。
【0108】
<印刷柄D40>
本発明の積層シートにおいては、A層10を実質的に透明な層としておき、着色層であるB層20の色味の意匠を透明層を通して視認できるようにしておくことが意匠性の点で好ましい。この場合、A層10とB層20との間に印刷柄D40を付与し、印刷意匠を併せ持った構成とすることもできる。印刷柄D40は、グラビア印刷、オフセット印刷、平版スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、インクジェットプリンターによる印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、静電印刷等の公知の方法で施される。絵柄は任意であり、例えば石目調、木目調等の天然材を模した柄、或いは、幾何学模様、抽象模様等を挙げることができる。印刷は部分印刷でも全面印刷でも良く、部分印刷と全面印刷の両方が施されていても良い。
【0109】
印刷インクの樹脂バインダー種類としては、通常ポリエステル系樹脂から成るシート状物に印刷を施す際に用いられるものを制限なく使用することができる。例えば、アクリル系、アクリル・ウレタン系、ポリエステル系、ボリエステル・ウレタン系、アルキド樹脂系、塩ビ・酢ビ共重合樹脂系、塩ビ・酢ビ・ウレタン系等が挙げられる。このバインダー種を適宜選択することにより、印刷柄D40を有する構成においても、A層10とB層20との間の積層一体化を熱融着積層とすることができる。あるいは、印刷柄D40の付与時に、同時に熱接着性の塗布層を付与して、熱融着積層性を付与することもできる。
【0110】
印刷柄D40は、A層10と積層することになるB層20の表面に印刷を施すことにより形成してもよいし、B層20と積層することになるA層10の表面に印刷を施すことにより形成してもよい。
【0111】
<E層50>
印刷柄D40を付与した積層シートを作製する場合、A層10を単独で製膜するのではなく、A層10と、E層50との2層を共押出しで製膜し積層シートとしておき、この積層シートと、別途共押出し製膜法により作製した着色顔料を含有するB層20およびC層30とを、印刷柄D40を介して積層一体化しても良い。E層50は、実質的に透明であり、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなる層であり、B層20を構成する樹脂成分と同一の樹脂成分を用いた着色顔料を含有しない実質的に透明な樹脂層である。ここでの「主成分」は、B層における場合と同様の意味である。E層50を用いる場合、A層10を単独で製膜する場合に比べて、原料価格を低下しつつ、取り扱い性等に問題のない厚みを有する透明樹脂層を得ることができる。
【0112】
印刷柄D40を有する構成で、A層10の単独押出し製膜シートを得る場合、あるいは、A層10とE層50との共押し出し積層シートを得る場合、取り扱い性の点からこれらシートの厚みは30μm以上であることが好ましい。E層50の樹脂組成は、B層20に用い得る樹脂組成の範囲内であれば、実際に用いるB層20と異なるものとしても良いし、同一としても良い。図1(c)に、E層50を有する構成の積層シート100Cを示す。
【0113】
<積層シート100の製造方法>
本発明の積層シート100の製造方法としては、各種公知の方法、例えばTダイを備えた押出機による押出しキャスト製膜法やインフレーション法等を採用することができる。中でも、製膜安定性の点からはTダイを備えた押出機による押出しキャスト製膜法に依ることが好ましい。
【0114】
本発明の積層シート100を作製するには、A層10、B層20およびC層30の3層を3台の押出機とフィードブロック、及び単層Tダイを用いた共押出し製膜法、或いは、3台の押出機とマルチマニホールド型のTダイを用いた共押出し製膜法で一体に製膜するのが最も効率的であり好ましい。あるいは、A層10を単独で製膜しておき、別途B層20およびC層30の2層を2台の押出機を用いた共押出し製膜法で製膜し、これらをエンボス加工装置の加熱ロールへの導入部分で熱融着積層してもよい。
【0115】
本発明においては、各層は相互に熱融着性を有する組成で構成されていることから、各層を単独で製膜した後に、後工程で積層一体化して積層シート100としてもよいのであるが、C層30に関しては、結晶化が進んだ状態で製膜されることから、エンボス加工装置での160℃〜190℃の加熱で、B層20との間に良好な層間密着力を得ることが容易でない場合があり、B層20とC層30は、共押出し法によりダイ内積層としておくことが好ましい。
【0116】
ただし、A層10、または、A層10およびE層50と、B層20との積層一体化、あるいは、B層20とC層30との積層一体化は必ずしも上記方法によらないで、他工程で熱融着積層を行ってもよい。また、ドライラミ接着剤等による積層、あるいはホットメルトフィルムを挟み込むことにより熱融着積層を行っても良いが、本発明の目的が高意匠な積層シートを低廉に得る点にあることから、これら工数増、材料増を伴う積層一体化の方法は必ずしも良い方法とは言えない。
【0117】
本発明の積層シート100全体での厚みは、55μm以上300μm以下であり、80μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。積層シート100の厚みが薄すぎる場合は、下地の視覚的隠蔽確保のためにB層20を主とする着色層に多量の顔料を添加する必要があり、その結果加工性の低下をきたす虞がある。また、比較的深いエンボス柄を転写することが困難となる。一方、積層シート100の厚みが厚すぎる場合は、軟質PVC樹脂被覆金属板の折り曲げ加工などの成形加工に従来から用いてきた成形金型の使用が困難になる等、2次加工性に問題を生じ、また、折り曲げ加工を施した部分の樹脂層に割れが発生する等の異常を生ずる虞がある。
【0118】
<エンボス意匠シート200>
図1(d)に、積層シート100Aの表面にエンボス意匠を付与したエンボス意匠シート200Aを示し、図1(e)に、積層シート100Bの表面にエンボス意匠を付与したエンボス意匠シート200Bを示し。図1(f)に、積層シート100Cの表面にエンボス意匠を付与したエンボス意匠シート200Cを示す。
【0119】
上記の方法により製造した積層シート100は、A層10側表面にエンボス版により凹凸形状を付与することによって、エンボス意匠シート200とすることができる。ここで、符号200は、符号200A、200B、200Cを含む上位概念として用いている。本発明の積層シート100は、軟質PVCシートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられている各種エンボス加工装置によって、従来の軟質PVCシートと同様の温度条件、及び処理速度でエンボス意匠を付与することができる。
【0120】
図2に、軟質PVCシートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられているエンボス加工装置400の一例を示す。図示したエンボス加工装置400は、加熱ロール410、テイクオフロール420、赤外線ヒーター430、ニップロール440、エンボスロール450および冷却ロール460により主要部が構成される。このエンボス加工装置400においては、エンボス版として、金属製ロール状のエンボスロール450を使用しているが、エンボス版としては、エンボス意匠が形成された版であれば、その形状は特に限定されず、バッチ方式でエンボス付与を行う板状のものであっても、連続的にエンボス付与を行うロール状、或いはベルト状、長尺のシート状等のものであってもよい。
【0121】
図2に示すエンボス加工装置400では、単層で製膜したA層10と、印刷柄D40を施したB層20およびC層30の二層共押し出しシートとを供給し、エンボス加工装置400の加熱ロール410で熱融着積層を行っている。
【0122】
本発明の積層シート100は、C層30を有していることにより100℃〜140℃程度に加熱された加熱ロール410に対して非粘着性を有し、また、赤外線ヒーター430によるシート加熱温度である160℃〜190℃でも、積層シートは十分な張力を保持し得ており、幅縮み、皺入り、破断等を生ずることがない。また、A層10を有していることにより、良好な外観のエンボス意匠が付与されたエンボス意匠シート200を得ることができる。特に、エンボス版ロールの温度をA層10の樹脂組成物のガラス転移温度をやや下回る温度に適宜調整することで、積層シート100がエンボス版ロールと接触した際、エンボスが付与されると同時に冷却によるエンボスの固定が直ちになされることから、エンボス付与工程でのエンボス戻りを生じ難く、精密エンボスに対しても良好な転写性を得ることができる。
【0123】
エンボス付与により形成されたA層10表面の凹部には、いわゆるワイピング印刷による着色意匠を付与したり、光沢のあるワイピングインキを用いて、凹部のみ光沢のある意匠感を付与したりしても良い。ワイピング印刷によりエンボス凹部に形成される着色インキ層は、2液硬化型のウレタン系樹脂等をビヒクルとする着色透明性インキ、着色隠蔽性インキ等で形成するのが耐久性の点で好ましいが、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩ビ・酢ビ共重合系樹脂、アクリル系樹脂等をビヒクルとする1液型インキを使用して形成してもよい。着色インキに使用する顔料や染料としては、通常の印刷インク用に用いられる顔料、及び染料を用いることができる。該ワイピングエンボス自体は、軟質PVCシートを用いたエンボス意匠シートの時代から実施されてきたものであり、ドクターブレード法、ロールコート法など各種公知の方法によって付与することができる。
【0124】
<エンボス意匠シート被覆金属板300>
図1(g)に、エンボス意匠シート200AのC層30側表面(エンボス意匠シート200Aの裏面)が接着剤70を介して金属板60上にラミネートされたエンボス意匠シート被覆金属板300Aを示し、図1(h)に、エンボス意匠シート200Bを同様にして金属板60上にラミネートされたエンボス意匠シート被覆金属板300Bを示し、図1(i)に、エンボス意匠シート200Cを同様にして金属板60上にラミネートしたエンボス意匠シート被覆金属板300Cを示した。
【0125】
本発明のエンボス意匠シート被覆金属板300に用いる金属板60としては、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、高アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム・マグネシウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、ステンレス鋼板等の各種鋼板や、アルミニウム板、アルミニウム系合金板、アルミニウム合金系クラッド板、チタン系合金板、ニッケル系合金板、マグネシウム系合金板等が使用でき、これらは通常の化成処理を施した後に使用してもよい。金属板60の厚さは、樹脂被覆金属板の用途等により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選ぶことができる。ユニットバス用途に用いられる樹脂被覆金属板では、熔融亜鉛メッキ鋼板などの厚み0.3mm〜0.6mm程度のものを用いることが一般的である。
【0126】
エンボス意匠シート200を金属板60にラミネートする方法は特に制限はないが、従来の軟質PVCシートを金属板60にラミネートする際と同様の方法とすることが、既存設備を利用できる点から好ましい。すなわち、接着剤70を用いた加熱ラミネートが好ましく用いられ、接着剤70としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等の一般的に使用される熱硬化型接着剤を挙げることができる。この中でも、本発明の積層シートがポリエステル系樹脂からなることから、ポリエステル系の接着剤を用いるのが好ましい。
【0127】
エンボス意匠シート被覆金属板300を得る方法としては、例えば、金属板60にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用して、エンボス意匠シートを貼り合せる金属面に、乾燥後の接着剤膜厚が0.5μm以上10μm以下程度になるように熱硬化型接着剤を塗布した後、赤外線ヒーターおよび/または熱風加熱炉により塗布面の溶剤乾燥および加熱焼付けを行って金属板60の表面温度を220℃以上250℃以下程度の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いてエンボス意匠シート200のC層30側が接着面となるように被覆、次いで、水槽中への投入による水冷却や水噴射による冷却を行う方法が挙げられる。なお、軟質PVCシートを被覆する際の金属板の表面温度は、220℃以上235℃以下程度とするのが一般的であった。
【0128】
本発明のエンボス意匠シート被覆金属板300は、印刷柄D40による意匠と、エンボス意匠を組み合わせて、様々な意匠を有するものとすることができる。更に、エンボスの耐熱性を確保するために、A層10の樹脂組成として、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成を用いた場合には、該A層10にパールマイカ顔料を添加することはできなかったが、本発明においては、パールマイカ顔料を問題なくA層10へ添加する事が可能であり、落ち着いたパール調の意匠感を有するエンボス意匠シート被覆金属板300とすることができる。更に、良好な加工性と表面硬度を有することから、種々の用途に広範に対応することができる。具体的には、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材等のユニットバス部材、クローゼットドア材、バーティション材、パネル材等の建築内装材、鋼製家具部材、AV機器、エアコンカバー等の家電製品筐体部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例の形態に限定されるものではない。
【0130】
[積層シートの作製]
<実施例1〜15、比較例1〜14>
実施例1〜15および比較例5〜14として、φ65mmの2台のベント付き同方向二軸押出機、および1台のベント付きφ65mm単軸押出機を使用して、3層合流フィードブロックと単層型のTダイを用いた共押出し法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法により、A層、B層、およびC層からなる3層構成の無配向の積層シートを作製した。
A層の溶融・混練には、1箇所のベント吸引孔を有するφ65mm単軸押出機を使用し、シリンダーの設定温度は、フィード側230℃、口金側240℃とした。A層の樹脂成分としてブレンド組成物を用いる場合、予備混練したブレンドマスターバッチをあらかじめ作製するのではなく、各原料ペレットを組成比の質量に混ぜ合わせ、一基の定量供給フィーダーから押出機に直接投入した。B層およびC層の熔融・混練には2箇所のベント吸引孔を有するφ65mm同方向二軸押出機をそれぞれ使用した。B層用およびC層用の押出機のシリンダー設定温度は、フィード側230℃、口金側240℃である。接続導管や3層合流フィードブロックは、設定温度を240℃とし、製膜の状況に応じて微調整を行った。Tダイの幅方向の設定温度も240℃を基準とし、製膜の状況に応じて適宜微調整を行っている。B層、及びC層に関しても、樹脂成分としてブレンド組成物を用いる場合には、混合したペレットを直接投入した。
【0131】
引き取りロール(キャスティングロール)としては、表面に中心線平均粗さ(Ra)が1μm、最大高さ(Ry)が6μmの梨地の凹凸を付与するためのエンボスが彫刻された直径500mmの金属ロールを用いた。該金属ロール表面に付与されたエンボスは、積層シートにエンボス意匠感を付与するためのものではなく、製膜されたシートに滑り性を与え、巻き重ね性を良好にするためのものである。なお、A層を形成する側が引き取りロール側となるように押し出されており、引き取りロールは、A層の樹脂組成物のガラス転移温度−15℃に温度調整された温水を循環させることにより温度調整されており、C層を形成する側には、シリコーンゴム製のタッチロールが当接されるようにされている。
また、B層には、B層の樹脂成分の全量を基準(100質量部)として、酸化チタン顔料を主体とする白色系顔料24質量部を添加している。該顔料の添加は、PETG、またはPCTGをベースレジンとした顔料成分濃度50質量%の顔料マスターバッチを必要な量混合することによって行った。なお、上記押出しシートに対しては、特別な結晶化処理や恒温室に入れての養生等は行っていない。
【0132】
比較例1は、A層の樹脂組成物をφ65mmの単軸押出機のみを使用して単層製膜でシートとしたものであり、押出機と口金間にフィードブロックが介在しない以外は、実施例1〜15、比較例5〜14と同一の条件で押出し製膜している。
比較例2〜比較例4は、A層、B層、C層の内いずれかの層が存在しない構成であり、2層合流フィードブロック、及び、必要な接続導管を用い、比較例2、比較例3については、φ65mmの単軸押出機、一基と、φ65mm同方向二軸押出機、一基による2層共押出し製膜を実施している。比較例4については、φ65mm同方向二軸押出機、二基を用いて、2層共押出し製膜を実施しており、押出機については、実施例1〜15、及び比較例5〜14に用いたものと同一であり、製膜時の温度条件等も同一である。引き取りロールも同一のものを用いており、温度条件も同様に設定しているが、A層が存在しない比較例4では、B層の樹脂組成物のガラス転移温度−15℃に引き取りロールを温度調整した。
【0133】
実施例1〜15および比較例1〜14の各層で使用した樹脂の組成や層の厚み等について、A層については表1に、B層については表2に、C層については表3に、それぞれ示す。また、表4に、実施例1〜15および比較例1〜14のシートにおける各層の組み合わせ、積層シートの層厚みを示す。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
【表3】

【0137】
【表4】

【0138】
<実施例16、実施例17>
ベント吸引孔付きのφ65mmの2台の同方向二軸押出機を使用し、2層合流フィードブロックと単層型のTダイを用いた共押出し法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法により、B層およびC層の2層積層シートを得た。B層の樹脂組成、及び厚みとしては、表2のb−4に該当するものを用いており、B層の樹脂成分の全量を基準(100質量部)として、酸化チタン顔料を主体とする白色系顔料24質量部を添加している。また、C層の樹脂成分、厚みとしては、表3のc−4に該当するものを用いている。押出し条件や引取り条件は、A層を有さない比較例4の場合と同様である。
この積層シートのB層側表面に、印刷柄Dとして、アクリル・ウレタン系インクを用いたグラビア印刷により石目調の模様を印刷したシートとした。
【0139】
別途、φ65mmのベント付き単軸押出機を用いて、Tダイにより単層の透明なシートとしてA層を押出し製膜し、または、二基の押出機を用いた共押出しにより透明な積層シートとしてA層およびE層を製膜した。これらA層、または、A層およびE層と、上記のB層およびC層とを、図2に示されるエンボス加工装置の加熱ロール部分で熱融着積層することによって、実施例16、実施例17の積層シートを作製した。実施例16の押出し条件や引取り条件は、A層を単層で製膜した比較例1の場合と同様であり、実施例17の押出し条件や引取り条件は、A層とB層から成る2層の共押出しシートを製膜した比較例2の場合と同様である。A層およびE層の透明積層シートを用いた実施例17については、E層側の表面を印刷柄Dを介してB層表面と熱融着積層により積層一体化した。
A層の樹脂組成、厚みについては、実施例16、17とも表1のa−1に該当するものを用いた。E層としては、樹脂成分がイースターPETG・6763のみから成る顔料無添加の層を厚み20μmで設けた。表5に、実施例16、実施例17のシートにおける各層の組み合わせおよび、E層の有無を示す。
【0140】
【表5】

【0141】
<実施例18、比較例15、16>
実施例1〜15、および比較例5〜14と同様に、φ65mmの2台のベント付き同方向二軸押出機、および1台のベント付きφ65mm単軸押出機を使用して、3層合流フィードブロックと単層型のTダイを用いた共押出し法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法により、A層、B層、およびC層からなる3層構成の無配向の積層シートを作製した。
実施例18、及び比較例15、16においては、A層にパールマイカ顔料が配合されている。実施例18は、A層の樹脂組成と同一組成の樹脂原料をベースレジンとした顔料成分濃度12質量部のパールマイカ顔料マスターバッチ、を必要な量混合することによって、A層の樹脂成分全体の量を基準(100質量部)として、1.5質量部のパールマイカ顔料が添加されたものとしている。パールマイカ顔料としては、ダイヤ工業社製の「DE−330R・ホワイト」(粒子径10〜60μm、厚みはその1/5〜1/10程度)を用いた。
比較例15では、PCTG・5445をベースレジンとして、比較例16ではノバレックス7025Aをベースレジンとして、パール顔料濃度12質量部のマスターバッチを作製し、これを必要な量混合することで、A層の樹脂成分全体の量を基準(100質量部)として、1.5質量部のパールマイカ顔料が添加されたものとした。パールマイカ顔料は実施例18と同一のものを用いた。また、比較例15のA層に関しては、PCTG・5445、ノバレックス7025A、PCTG・5445をベースレジンとしたパール顔料マスターバッチの3種の原料ペレットを組成比の質量に混ぜ合わせ、一基の定量供給フィーダーから押出機に直接投入した。
【0142】
実施例18の押出し製膜条件は、実施例1〜15の場合と同様である。比較例15、16のB層およびC層用の押出機のシリンダー設定温度も実施例1〜15の場合と同様であるが、比較例15、16のA層については、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む組成物となっているため、φ65mm単軸押出機のシリンダー設定温度をフィード側260℃、口金側280℃とする必要があった。また、接続導管や3層合流フィードブロックも、設定温度を270℃とし、Tダイの幅方向の設定温度も270℃を基準としている。製膜の状況に応じて適宜微調整を行うのは、他の実施例、及び、比較例と同様である。
【0143】
また、実施例18、比較例15および比較例16において、B層の樹脂組成、厚みは、表2のb−6に該当するものを用いているが、A層のパールマイカ顔料の発色を良くするために、酸化チタン系白色顔料に替えて、B層の樹脂成分の全量を基準(100質量部)として、カーボンブラック系顔料を主体とする黒色系顔料4質量部を添加した。該顔料の添加は、PETGをベースレジンとした顔料成分濃度15質量%の顔料マスターバッチを必要な量混合することによって行った。
【0144】
【表6】

【0145】
なお、表1、および表6に示されるA層の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC−7」を用いて、試料10mgをJIS K 7121「プラスチックの転移温度測定方法」に準じて、加熱速度10℃/分で−40℃から250℃まで昇温し、250℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温、同温度で1分間保持した後、再度10℃/分で昇温した際のサーモグラムから求めた値である。測定に供した試料としては、共押出し製膜した積層シートにおけるA層については、ミクロトームを用いて樹脂を削りだしたものを用い、A層を単層で製膜したものに関しては、そのまま測定試料とした。また、以下の使用原料の物性に記載したガラス転移温度、及び融点に関しては、各原料ペレットをそのまま試料として用いた。
【0146】
(アルテスター45)
三菱ガス化学社製の非結晶性ポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の44モル%がスピログリコール、約53モル%がエチレングリコール、約3モル%のジエチレンクリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は111℃で、融点は観察されなかった。
【0147】
(イースターPETG・6763)
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の非結晶性ポリエステル樹脂である(表中においては、「PETG・6763」と省略している。)。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約31モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約65モル%がエチレングリコール、約4モル%のジエチレングリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は78℃で、融点は観察されなかった。
【0148】
(イースターPCTG・5445)
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の実質的に非結晶性のポリエステル樹脂として扱うことが可能なポリエステル樹脂である(表中においては、「PCTG・5445」と省略している。)。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の61モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約38モル%がエチレングリコール、約1モル%のジエチレングリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は86℃で、融点は観察されなかった。
【0149】
(ノバレックス・7025A)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製のビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂である。粘度平均分子量25000で、測定されたガラス転移温度は150℃、融点は観察されなかった。
【0150】
(ノバデュラン・5020H)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製の(ホモ)ポリブチレンテレフタレート樹脂である。公称IV値は1.2で、測定された融点は224℃であった。
【0151】
(コルテラ・CP509200)
シェル社製の(ホモ)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂である。測定された融点は225℃であった。
【0152】
(ジュラネックス(登録商標)500JP)
ウィンテックポリマー社製のイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂である。測定された融点は205℃であった。
【0153】
(BK−2180)
三菱化学社製のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂である。測定されたガラス転移温度は76℃、融点は246℃であった。
【0154】
[積層シートへのエンボス付与]
実施例1〜18、比較例1〜16において得られた積層シートについて、図2に示されるエンボス加工装置を用いてエンボス柄の転写を行った。また、実施例16、17のA層と、B層およびC層とを別個に製膜したものに関しては、エンボス加工装置の加熱ロール部で熱融着積層を同時に実施していることは前述の通りである。ここで、エンボス付与について詳細に説明する。
【0155】
エンボス加工装置の工程概要としては、まず加熱ロールを用いた接触型加熱によりシートの予備加熱を行い、続いて赤外線ヒーターを用いた非接触型加熱により任意の温度までシートを加熱し、任意の表面温度に調整されたエンボスロールによりエンボス柄を転写してエンボス意匠シートとするものである。
【0156】
本実施例においては、加熱ロールは140℃に設定し、次いでエンボスロールと接する直前のシート表面温度が160℃になるように赤外線ヒーターで加熱を行った。エンボスロールは温水循環機によって「各A層のガラス転移温度−15℃」を基準として温度調節されている。一例として、実施例1ではA層の樹脂組成物のガラス転移温度は111℃であるので、エンボスロールの表面温度は95℃程度に設定している。
なお、エンボスロールは、精密エンボス意匠と通常エンボス意匠との二種類のエンボス意匠に対応する二種類のエンボスロールを使用した。精密エンボス意匠とは、Ry(最大高さ)=14μm、Ra(中心線平均粗さ)=2.2μmの微細なプリズム状突起が転写されるエンボス意匠である。また、通常エンボス意匠とは、Ry(最大高さ)=57μm、Ra(中心線平均粗さ)=6.5μmの抽象柄(皮目調)が転写されるエンボス意匠である。
【0157】
[エンボス意匠シート被覆金属板の作製]
市販されているポリ塩化ビニル被覆金属板用の加熱硬化型ポリエステル系接着剤を、金属板の積層シートを貼り合せる側の表面に乾燥後の接着剤膜厚が1μm〜3μmの範囲になるよう塗布した。次いで、赤外線ヒーターおよび熱風加熱炉により塗布面の溶剤乾燥および加熱を行った。そして、金属板の表面温度が235℃となるように保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いて積層シートのC層側表面を接着積層面として被覆した。その後直ちに水噴射による冷却を行いエンボス意匠シート被覆金属板を得た。金属板としては、厚み0.45mmの電気亜鉛メッキ鋼板を用いた。
【0158】
[積層シートおよびエンボス意匠シート被覆金属板の評価]
上記の実施例および比較例で得た、積層シートおよびエンボス意匠シート被覆金属板について、以下の各項目を評価した。結果を表7、表8、表9にまとめて示す。
【0159】
(1)積層シートの取り扱い性
共押出し製膜法で作製した実施例1〜15、比較例2〜14の積層シートについて、エンボス付与前の取り扱い性に関して評価した。
積層シートをMD方向15cm×TD方向30cmに切り出して、C層(比較例2についてはB層)側が下面となるように定盤の上におき、反りの状態を観察した。反りが強く完全に円筒状になってしまう場合や、定盤面から10cm以上の高さのアーチ状に反り返る場合を取り扱い性が悪いとして「×」、10cm未満であるが5cm以上の反りが出る場合を「△」、それ未満の反りの場合を取り扱い性が良いとして「○」とした。取り扱い性が「×」となったものに関しては、以降の評価を実施していない。
【0160】
(2)A層単層での取り扱い性
実施例16、17は、比較的厚みの薄い透明層を製膜して用いることから、その取り扱い性に関して評価した。エンボス加工装置にA層シート、またはA層およびE層からなるシートを通す際、皺入り等により著しく作業性が悪く、効率的な作業が困難である場合を「×」、特に支障なくシートをエンボス機にセットすることができる場合を「○」、その中間の作業性の場合を「△」とした。
【0161】
(3)積層シートのパール顔料による意匠性
A層にパールマイカ顔料を添加している実施例18、及び、比較例15、16の積層シートの色意匠性について、目視で観察した。顔料の劣化または顔料の熱触媒作用に起因する樹脂の劣化等により意匠感が劣っている場合を「×」、特に意匠性に問題がなく、良好なパール光沢を有する積層シートが得られている場合を「○」とした。本評価は、エンボス付与前のシートで行った。
【0162】
(4)エンボス付与適性
(4−1)耐粘着性
図2に示すエンボス加工装置でエンボスを付与した際に、加熱ロールに積層シートが粘着して剥離困難になったもの、および剥離は可能であったがシートの伸び・変形が顕著であったものは「×」、軽度の粘着を示したが作業の継続が可能であり、シートの伸び・変形も実用上支障のない範囲であったものを「△」、粘着せず安定した作業が可能であったものは「○」で示した。耐粘着性で「×」となったものに関しては、以降の評価を実施していない。
【0163】
(4−2)耐溶断性
図2に示すエンボス加工装置でエンボスを付与した際に、赤外線ヒーターによるシート加熱中にシートが溶断したもの、およびシートの顕著な伸びや皺入り等を発生したものは「×」、軽度なシートの伸び・幅縮み等を生じたが実用上支障のない範囲であったものを「△」、これらの問題を生じず安定した作業が可能であったものは「○」で示した。この評価で「×」となったものに関しては、以降の評価を実施していない。
【0164】
(4−3)精密エンボス転写性
図2に示すエンボス加工装置で精密エンボスを付与したシートを目視で観察し、綺麗にエンボス柄が転写しているものを「○」、これに比べてやや転写が浅い場合を「△」、転写が悪く、浅いエンボス柄になっているもの、あるいは、エンボス柄に無関係に単に表面が荒れているものを「×」で示した。
【0165】
(4−4)通常エンボス転写性
図2に示すエンボス加工装置で通常深さのエンボスを付与したシートを目視で観察し、綺麗にエンボス柄が転写しているものを「○」、これに比べてやや転写が浅い場合を「△」、転写が悪く、浅いエンボス柄になっているもの、あるいは、エンボス柄に無関係に単に表面が荒れているものを「×」で示した。
【0166】
(5)エンボス耐熱性
(5−1)高温気中耐熱性
図2に示すエンボス加工装置で精密エンボスを付与したシートをラミネートした金属板の樹脂層側表面を表面粗さ計(小坂研究所製「サーフコーダ」SE−40D)で測定し、短時間高温に晒されても消色しないインクにより測定開始点と終了点に印を付けておき、その後105℃の熱風循環式オーブン中に3時間静置した。オーブンから取り出し冷却後、上記印を付けた測定箇所に関し、再度粗さ測定を実施し、オーブンに投入する前の中心線平均粗さをRa1(μm)、オーブン中静置後のそれをRa2(μm)としてエンボスの残存率を求めた(残存率:Ra2/Ra1×100(%))。
残存率が75%以上である場合を「○」、残存率が75%未満であるが、視覚的には顕著な異常として認められない場合を「△」、残存率が75%未満であり、視覚的にもあきらかにエンボスの意匠感が低下している場合を「×」で示した。
【0167】
(5−2)耐沸騰水浸漬性
図2に示すエンボス加工装置で精密エンボスを付与したシートをラミネートした金属板の樹脂層側表面を表面粗さ計(小坂研究所製「サーフコーダ」SE−40D)で測定し、短時間沸騰水に浸漬しても消色しないインクにより測定開始点と終了点に印を付けておき、その後沸騰水中に3時間浸漬した。取り出し乾燥後、上記印を付けた測定箇所に関し、再度粗さ測定を実施し、沸騰水に投入する前の中心線平均粗さをRa3(μm)、沸騰水浸漬後のそれをRa4(μm)としてエンボスの残存率を求めた(残存率:Ra4/Ra3×100(%))。
残存率が75%以上であり、且つ、エンボス戻り以外の沸騰水浸漬に起因する樹脂層の軟化・流動に起因する変形なども認められない場合を「○」、残存率が75%未満であるが、視覚的には顕著な異常として認められない場合、及び、残存率が75%以上であるが、沸騰水浸漬に起因する樹脂層の軟化・流動に起因する変形が僅かに認められる場合を「△」、残存率が70%未満であり、視覚的にもあきらかにエンボスの意匠感が低下している場合、及び、残存率に関わらず、樹脂層の軟化・流動に起因する変形により著しく意匠性が低下している場合を「×」で示した。
【0168】
(6)加工性(樹脂被覆金属板の折り曲げ加工性)
図2に示すエンボス加工装置で精密エンボスを付与したシートをラミネートした金属板に衝撃密着曲げ試験を行い、曲げ加工部のエンボス意匠シートの面状態を目視で判定し、ほとんど変化がないものを「○」、若干クラックが発生したものを「△」、割れが発生したものを「×」として評価した。なお、衝撃密着曲げ試験は次のようにして行った。エンボス意匠シート被覆金属板の長さ方向および幅方向からそれぞれ50mm×150mmの試料を作製し、23℃で1時間以上保った後、折り曲げ試験機を用いて180°(内曲げ半径2mm)に折り曲げ、その試料に直径75mm、質量5kgの円柱形の錘を50cmの高さから落下させた。
【0169】
(7)表面硬度(樹脂被覆金属板の鉛筆硬度試験)
図2に示すエンボス加工装置で精密エンボスを付与したシートをラミネートした金属板について、JIS K5600−5−4:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」に従い実施した。23℃の恒温室内で、80mm×60mmに切り出したエンボス意匠シート被覆金属板のエンボス意匠シート面に対し45°の角度を保ちつつ9.8Nの荷重を掛けた状態で線引きをできる治具を使用して線引きを行い、該部分の樹脂シートの面状態を目視で判定し、2Bの鉛筆で全く傷が付かなかったものを「○」、2Bでは傷が入るが、3Bの鉛筆では全く傷が付かなかったものを「△」、3Bの鉛筆でも傷が付いたものを「×」として表示した。
【0170】
【表7】

【0171】
【表8】

【0172】
【表9】

【0173】
[評価結果]
<実施例1〜15および比較例1〜14>
比較例1は、A層を単層で用いた例である。この場合、エンボス加工装置の加熱ロールに著しい粘着を示し引き剥がしが困難で、シートにエンボスを付与することができなかった。
【0174】
比較例2は、本発明で用いることができるA層とB層の2層よりなる、C層を有しない構成の積層シートの例である。この場合、ガラス転移温度が低く、結晶性の低いB層がエンボス加工装置の加熱ロールに接触することで、やはり引き剥がし困難な粘着を生じてしまった。
【0175】
比較例3は、本発明で用いることができるA層とC層の2層よりなる、B層を有しない構成の積層シートの例である。この場合、加熱軟化されてエンボス版ロールにより押圧されエンボス柄が転写される層がA層のみであり、厚みがないことから、通常深さのエンボスの良好な転写が得られなかった。精密エンボスの転写に関しては良好な結果が得られ、エンボス耐熱性についても問題の無いものであったが、着色層を有しない構成であるため樹脂被覆金属板としての意匠性を満足するものではなかった。
【0176】
比較例4は、本発明のA層が存在しない例である。B層の樹脂組成物のガラス転移温度より低い温度に調整されたエンボスロールを用いることで、エンボスの転写自体は良好なものが得られた。通常深さのエンボスの転写がやや悪いのは、A層が無いことで積層シートの総厚みが薄くなったことに起因すると思われる。しかし、エンボス耐熱性は悪く、特に沸騰水浸漬では著しい意匠感の低下を来たした。B層の樹脂組成物のガラス転移温度が86℃程度と低いこと、およびエンボスロールの温度をガラス転移温度−15℃程度と低い温度に設定したことで、エンボス耐熱が得られなかったものと考えられる。
【0177】
比較例5〜7は、A層を構成する実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度が本発明の範囲より低い例である。この場合、エンボス付与工程で特別な問題は生じておらず、良好なエンボス転写が得られているが、比較例4の場合と同様にエンボス付与後の積層シートをラミネートした金属板を沸騰水に浸漬すると著しい意匠性の低下を来たしており、エンボス耐熱性が不足していた。
【0178】
比較例8は、B層の厚みが本発明の範囲より薄い例である。この場合、精密エンボスの転写に対しては問題なかったものの、通常深さのエンボスを転写するには積層シートの総厚みが不十分であった。また、着色剤を添加する層であるB層の厚みが薄いことにより、金属板の表面処理の状態が樹脂層表面から目視できる状態であり、樹脂被覆金属板としての意匠性を満足するものではなかった。B層の顔料濃度を更に高めることで隠蔽を確保する事も考えられるが、製膜性や積層シート被覆金属板の耐久性、加工性などの点を考慮するとB層の厚みを更に厚くすることのほうが好ましいと考えられる。
【0179】
比較例9は、C層のポリブチレンテレフタレート樹脂の配合量が本発明の範囲より少ない例である。この場合、エンボス加工装置の加熱ロールに粘着を示しながらも辛うじて引き剥がすことができたが、赤外ヒーターでの積層シート加熱時に著しいシートの伸びと皺入りを発生し、良好なエンボス転写を得ることができなかった。
【0180】
比較例10は、C層の樹脂組成物の配合比率としては本発明の好ましい範囲にあるものの、C層の厚みが薄い例である。この場合、加熱ロールにシート両端部が著しい粘着を示す結果となった。引き剥がすことはできたものの、赤外ヒーターでの積層シート加熱時に著しいシートの伸びと皺入りを生じた。端部の加熱ロールへの粘着は、積層シートをフィードブロック法で製膜する際、C層の厚みが薄過ぎることにより、幅方向への展開不良を生じ、端部においてはC層が形成されていない可能性がある。共押出し法の条件の最適化等によってもこの問題は解決できると思われる。しかしながら、赤外ヒーター加熱でのシートの伸びも張力保持層であるC層が薄いことに起因している。
【0181】
比較例11は、本発明の範囲よりポリブチレンテレフタレート樹脂の配合量が多いC層を用いた例である。この場合、積層シートの反りが顕著なものとなり、エンボス加工装置への円滑な投入に支障を来たした。
【0182】
比較例12は、C層のポリブチレンテレフタレート系樹脂としてイソフタル酸共重合のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた例である。この場合、加熱ロールに僅かな粘着を示した後、赤外ヒーター加熱で積層シートに著しい伸びと皺入りを生じた。加熱ロールへの微粘着は、該イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化速度がホモポリブチレンテレフタレート樹脂に比べて遅いことに起因する。結晶化が不十分な内に加熱ロールを離れることになったためと思われる。また、該樹脂の融点が205℃程度であるため、赤外ヒーターにより160℃に加熱された際、溶融張力の不足をきたしたと考えられる。
【0183】
比較例13は、C層に結晶性を有するものの、結晶化速度が極めて遅い、イソフタル酸共重合のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた例である。C層を有しない構成である比較例1、2の場合と同様に加熱ロールに著しい粘着を生じ、引き剥がしが困難で以降の作業が不可能となった。
【0184】
比較例14は、不用意にA層、およびB層の厚みを厚くして、積層シートの総厚みが300μmを超えた例である。この場合、エンボス付与適性やエンボス耐熱性などに問題はなく、意匠性の高い樹脂被覆金属板が得られた。しかし、加工性試験で樹脂層に割れが発生してしまった。積層シートの総厚みが過剰であると加工性の低下を示すといえる。
【0185】
以上の比較例に対して、本発明の実施例1〜15の積層シートは、共押出し製膜法で安定して得られ、得られた積層シートの取り扱い性は良好であった。また、エンボス加工装置で安定した作業を行うことができ、精密エンボス柄に関しても通常のエンボス柄に関しても良好な転写性が得られた。また、該積層シートをラミネートした金属板は、エンボスの耐熱性が良好であり、加工性や表面硬度も良好であった。
【0186】
<実施例16、17>
実施例16は、厚み30μmのA層を単層で製膜し、B層側表面に印刷柄Dを付与したB層およびC層からなる2層共押出し積層シートと、エンボス加工装置の加熱ロール部分で熱融着積層した例である。この場合、熱融着性に特に問題はなく、エンボス転写性に関しても同様であり、良好なエンボス意匠と印刷意匠を有する樹脂被覆金属板を得ることができた。また、エンボス耐熱性や加工性にも問題はなかった。ただ、単層で製膜したA層の厚みが薄いことに起因し、A層の取り扱い性にやや問題があり、エンボス加工装置へ通す際の作業性が悪かった。
【0187】
これに対し、実施例17は、A層の厚みはそのままにE層との共押出し積層として、透明層の総厚みを50μmとした例である。この場合、透明層(A層およびE層)の取り扱い性は実施例16に比べて良好であった。他の性能に関しては実施例16と変わりなく、原料価格が比較的高価なA層の厚みを増して取り扱い性を確保するよりも、このように共押出し積層シートとして透明層の厚みを確保するほうがコストの面でメリットを得られると考えられる。
【0188】
<実施例18、比較例15、16>
比較例16は、ポリカーボネート樹脂をベースレジンとしてパール顔料のマスターバッチを作製した例である。この場合、マスターバッチのペレットの時点で褐色を呈しており、該マスターバッチを用いて製膜した積層シートは、A層が褐色味を帯びており、良好なパール光沢の意匠感は得られなかった。芳香族ポリカーボネート系樹脂の成形温度が高いことからマスターバッチ作製時、押出し製膜時の両工程で、パールマイカ顔料の表面被覆である酸化チタンが熱劣化触媒作用を呈し、A層の樹脂組成物の劣化を促進したものと考えられる。
【0189】
比較例15は、PCTG・5445をベースレジンとしてパール顔料のマスターバッチを作製した例である。この場合、マスターバッチのペレットの時点では良好なパール調の意匠感が確認できたが、やはり製膜後の積層シートのA層は褐色味を帯びており、パール光沢の意匠感に乏しいものであった。マスターバッチの作製工程では、ベースレジンの熔融混練温度が芳香族ポリカーボネート系樹脂に比べて低いことから、特に問題なかったものと思われるが、押出し製膜時には押出機の設定温度を芳香族ポリカーボネート系樹脂の熔融混練が可能な温度とする必要があり、製膜工程でやはり樹脂の熱劣化が促進されたものと推定される。
【0190】
これらに対し、本発明の実施例18は、ベースレジンとして本発明のA層に用いることのできる樹脂組成物を用いて、パール顔料のマスターバッチを作製しており、製膜後の積層シートは良好なパール調意匠を有するものとなっていた。また、エンボスの転写性や樹脂被覆金属板としてのエンボス耐熱性、加工性に関しても比較例16や17に遜色ない結果が得られた。
【0191】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う積層シート、エンボス意匠シート、エンボス意匠シート被覆金属板、ユニットバス部材、建築内装材、鋼製家具部材、および、家電製品筐体部材もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】(a)、(b)、(c)は、本発明の積層シート100A、100B、100Cの層構成を示す模式図である。(d)、(e)、(f)は、本発明のエンボス意匠シート200A、200B、200Cの層構成を示す模式図である。(g)、(h)、(i)は、本発明のエンボス意匠シート被覆金属板300A、300B、300Cの層構成を示す模式図である。
【図2】エンボス模様を付与するために一般的に用いられているエンボス加工装置400の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0193】
10 A層
20 B層
30 C層
40 印刷柄D
50 E層
60 金属板
70 接着剤
100A、100B、100C 積層シート
200A、200B、200C エンボス意匠シート
300A、300B、300C エンボス意匠シート被覆金属板
400 エンボス加工装置
410 加熱ロール
420 テイクオフロール
430 赤外線ヒーター
440 ニップロール
450 エンボスロール
460 冷却ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から順に以下に示すA層、B層、C層の3層を備え、総厚みが55μm以上300μm以下の範囲である積層シート。
A層:テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、45モル%以下のスピログリコールと、50モル%以上のエチレングリコールをジオール成分の主体とし、示差走査熱量測定によって加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が100℃以上であり実質的に非晶性である共重合ポリエステル樹脂組成物を主成分として成る厚みが100μm以下である無配向の層。
B層:実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなり、着色剤が添加された、厚みが40μm以上である層。
C層:融点が215℃以上235℃以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂、及び/又は、融点が215℃以上235℃以下であるポリトリメチレンテレフタレート系樹脂を、C層における樹脂成分全体の質量を100質量%として70質量%以上95質量%以下含有してなる、5μm以上の厚みの無配向の層。
【請求項2】
前記A層が、鱗片状雲母の表面に酸化チタン被覆を施したパールマイカ顔料を、A層の樹脂成分の全体を100質量部として、0.5質量部以上5質量部以下含有している、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記B層の実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂が、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、25モル%以上75モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノールと、25モル%以上75モル%以下のエチレングリコールをジオール成分の主体とする共重合ポリエステル系樹脂である、請求項1又は2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記B層が、B層の樹脂成分全体を100質量%として、55質量%以上80質量%以下の前記実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂、20質量%以上45質量%以下の融点が210℃以上230℃以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂および/または融点が210℃以上230℃以下のポリトリメチレンテレフタレート系樹脂を含んでなる、請求項1〜3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
前記A層が実質的に透明であり、前記A層と前記B層との間に印刷柄Dを有する、請求項1〜4のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
前記A層と前記印刷柄Dとの間に、実質的に透明であり、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなるE層が介在し、前記A層と該E層とが、共押出し製膜法により積層一体化されたものである、請求項5に記載の積層シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層シート、および、該積層シートの前記A層側表面にエンボス版により賦型された凹凸形状、を備えてなる、エンボス意匠シート。
【請求項8】
請求項7に記載のエンボス意匠シート、および、金属板を備え、該エンボス意匠シートの前記C層側の表面が接着剤を介して金属板にラミネートされている、エンボス意匠シート被覆金属板。
【請求項9】
請求項8に記載のエンボス意匠シート被覆金属板を用いた、ユニットバス部材。
【請求項10】
請求項8に記載のエンボス意匠シート被覆金属板を用いた、建築内装材。
【請求項11】
請求項8に記載のエンボス意匠シート被覆金属板を用いた、鋼製家具部材。
【請求項12】
請求項8に記載のエンボス意匠シート被覆金属板を用いた、家電製品筐体部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−6020(P2010−6020A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171346(P2008−171346)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】