説明

積層シート、及び積層シートを被覆した金属板

【課題】金属板へのラミネート適性が良好であり、エンボス耐熱性を有し、アルカリ浸漬試験に供してもクラックを生じる事のない積層シートであり、沸騰水浸漬試験での外観変化も生じない積層シートを提供する。
【解決手段】少なくとも1つの最表面層(以下A層10)が、A層樹脂成分全体の質量に対して、ガラス転移温度が100℃以上である芳香族ポリエステル系樹脂(a1成分)50質量%以上と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(a2成分)50質量%以下とから成る樹脂組成物が主成分であり、a2成分のガラス転移温度がa1成分のガラス転移温度よりも高く、A層の厚みが5μm〜100μmであり、A層の露出する面に凹凸意匠を備えていることを特徴とする積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にエンボス意匠を有する積層シート、及び該積層シートで被覆した積層シート被覆金属板に関する。特に、エンボス転写性が良好であると同時に、エンボス耐熱性が良好である事から、比較的厚みのある金属板にラミネートする際も、加熱された金属板からの熱の移動によりエンボス戻りを生ずる虞が少なく、厚い金属板を用いる場合の多いエレベーターのかご室壁、エレベーターかごの扉等のエレベーター内装材用積層シート被覆金属板の用途に特に好適に用いる事ができる。また使用中に比較的高い温度に晒された場合や熱水と接した場合もエンボス戻りを生ずる虞が少ない、良好なエンボスによる表面凹凸意匠を有する積層シート被覆金属板を得る事ができる。さらに、耐アルカリ性に優れるとともに、耐傷入り性、加工性にも優れる点からも、比較的厚みのある金属板に被覆された後に折り曲げ加工等の二次加工が施されるエレベーター内装材に好適に用いることができる積層シート被覆金属板、及び該金属板を製造するための積層シートに関する。
また、本発明の積層シート被覆金属板は、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材、建築内装材用途、家電製品筐体用途、鋼製家具用途にも好適に用いることができる。さらに、本発明の積層シートは、金属板に被覆して用いる以外にも木質板、無機質繊維板、熱可塑性樹脂板、熱硬化性樹脂板等に被覆して意匠性を高める目的に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、上記用途には表面にエンボス意匠を付与した軟質塩化ビニル系樹脂シート(以下、「軟質PVCシ−ト」という。)で合成樹脂成形品、合板、木質繊維板、金属板等を被覆したものが用いられてきた。軟質PVCシ−トの特徴としては、
(1)エンボス付与適性に優れることから、意匠性に富んだ被覆材を得ることができる。
(2)熱可塑性樹脂に於いて、一般的に背反要素となる加工性と表面の傷入り性のバランスが比較的良好である。
(3)各種添加剤との相容性に優れること、及び長年にわたり添加剤による物性向上検討が行われてきたことから、耐久性に優れた樹脂皮膜を得ることが容易である。
等の点を挙げることができる。
【0003】
このように、軟質PVCシ−トは、それ自体が優れた特徴を有するとともに、軟質PVCシートへのエンボス付与技術、及び付与設備が確立されており、種々の表面エンボス意匠を有するPVCシート被覆金属板が製造されていた。しかし、近年VOC問題や内分泌撹乱作用の問題等から、塩化ビニル系樹脂の使用は、制限を受けるようになってきており、特に人と接する時間の長い内装建材用途等に於いては、軟質PVCシートを用いない樹脂被覆金属板が求められている。
【0004】
そこで、軟質PVCシートの代替として、加工性と耐表面傷付き性に優れたポリエステル系樹脂よりなるシートを、エンボス意匠を有する樹脂被覆金属板の用途に用いることが検討されている。このようなシートとして、特許文献1では、カレンダー製膜法によりシートを得る事が可能な実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂から成る組成物が提示されている。また、特許文献2では、透明な非晶性ポリエステル系樹脂から成るシートと、着色不透明な非晶性ポリエステル系樹脂から成るシートの間に印刷柄を介在させた化粧シートが提示されている。
【0005】
しかし、これらに用いられているポリエステル系樹脂は、ガラス転移温度が80℃程度で、且つ結晶性を有しないポリエステル系樹脂であるため、シートの表面にエンボス意匠を付与して樹脂被覆金属板の用途に供した場合は、後工程での加熱を受けた際に著しいエンボス戻りを生じてしまう問題があった。
熱可塑性樹脂シートへのエンボス加工装置による連続的なエンボス付与という方法に於いては、エンボスロールによる押圧で樹脂シート内に発生した応力が充分に緩和されない内に冷却されるものである為、該エンボス加工による凹凸は、熱復元性の歪みの性質を有しており、後工程で加熱を受けた際に歪みの回復、従ってエンボス戻りを生じてしまう事に起因するものである。
【0006】
該後工程の加熱としては、金属板にラミネートする際に加熱された金属板からの熱伝達により、エンボスが付与されている樹脂シート表面近傍の温度が上昇する事が主要なものであり、比較的厚みのある金属板を用いる事が一般的なエレベーター内装用の積層シート被覆金属板のラミネートに於いて特に顕著な問題となるものである。
【0007】
また、同様に樹脂組成物のガラス転移温度が80℃程度である事と結晶性を有しないことから、ユニットバス用途に使用される樹脂被覆金属板の評価試験項目として含まれる事の多い沸騰水浸漬試験に供した場合、エンボス戻りを生ずるのみならず、樹脂層自体が弾性を保持し得ず流動変形を生じ、著しい外観不良をもたらす問題点もあった。
【0008】
ポリエステル系樹脂から成るシートで、金属板へラミネートする際に受ける加熱などに対するエンボス耐熱性を確保する為には、以下の方法等が考えられる。
熱硬化性の塗膜層等をシート表面のエンボスが付与された面に設ける事で、その架
橋構造によりエンボスの凹凸を物理的に固定してしまう。
シートの厚みを厚くする事で、ラミネート時に加熱された金属板からの熱伝達によ
るシート表面の温度上昇を低く抑える。
エンボスが付与される層の樹脂組成として、結晶性を有するポリエステル系樹脂を
用い、エンボス付与と同時に、もしくはエンボス付与後に結晶化させる事で、結晶融点に至る温度までシートの弾性率が保持される事を利用する。
エンボスが付与される層の樹脂組成として、ガラス転移温度が高いポリエステル系
樹脂を用いる事で、金属板へのラミネートの際にエンボスが付与されているシート表面近傍の温度が上昇しても、樹脂組成の貯蔵弾性率が大きく低下しないようにする。
【0009】
しかし、(1)の方法では、溶剤系のコート剤を塗工、乾燥、硬化させる一連の設備が必要であり、製造効率の点で好ましくない。また、折角付与したエンボス意匠の上にある程度の厚みの塗膜層を設ける事は、意匠性の低下をもたらす恐れがあり、更に表面に、傷入り性が問題とならない程度に硬質の塗膜層を設けたシートをラミネートした樹脂被覆金属板においては、折り曲げ加工などの二次加工性に問題を生じる虞がある。また、エンボスを付与した樹脂層自体が、前述のガラス転移温度が80℃程度で結晶性を有しないポリエステル系樹脂より成る場合などのように沸騰水浸漬に耐えないような組成である場合は、表面塗膜層を施した場合も、この性質が大幅に改善されるものではない。
【0010】
(2)の方法では、原料価格の廉い軟質PVC樹脂等では実施可能であるが、ポリエステル系樹脂等においては好ましい方法とは言えない。
(3)の方法としては、特許文献3では、エンボス付与層として結晶化していない状態の結晶性ポリエステル系樹脂より成る層を用い、該層の下面側に非晶性のポリエステル樹脂より成る層を有する積層シートの構成に於いて、積層シートを加熱し、エンボスを付与すると同時にエンボス付与層を結晶化させることによりエンボス耐熱性を確保する方法が開示されている。実施例に於いては、(ホモ)ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)樹脂より成る層を非晶の状態で製膜し、該層にエンボスを付与すると同時に結晶化を実施している。
【0011】
しかし、特許文献3の方法では、確かにPET系の樹脂であれば、ガラス転移温度が室温に比較して充分に高い(ホモPET樹脂で概略69℃程度・「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊・1989年))事と結晶化速度が遅い事で、押出し製膜後急冷する事により結晶化していない状態のシートを容易に得る事ができる事から、このようなエンボスの付与、及び結晶化によるエンボス固定の方法が成立すると言える。また、結晶化していない状態のシートなので、ガラス転移温度以上に加熱すれば、シートの弾性率は低下しエンボス転写が可能となり、PET系樹脂の融点まで加熱しなくても良好なエンボス転写が得られる点もメリットとなる。しかし、上記結晶化速度が遅い事は、エンボス付与した後に結晶化によってエンボスを固定しようとする場合には短所となる。
即ち、エンボスロールから離れた後のシートを加熱により結晶化しようとした場合には、結晶化速度が遅い事から、結晶化よりも速くエンボス戻りが発生してしまう虞があり、この為、特許文献3に於いては、「エンボスを施すと同時に結晶化させる」と表現しているように、エンボスロールに接した状態で、即ちエンボスロールによる押圧と言う外力が存在する事で物理的にエンボス戻りが発生しない環境化で、結晶化処理を施す必要がある。 しかし、前述の如く、PET系の樹脂では結晶化速度が遅い事から、エンボス付与工程の処理速度が制約を受ける事となるものである。また、結晶性のPET樹脂を無配向の状態で結晶化させた場合、巨大な球晶が形成される事に起因して、ヘイズが増大する事や、樹脂被覆金属板としての折り曲げ加工等の二次加工性の低下などが懸念される。
【0012】
一方、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと記載)系樹脂より成るシートを被覆した金属板の製造方法に関して、特許文献4が開示されている。特許文献4では、TMAで求められる軟化終了温度と軟化開始温度の差が30℃以下である熱可塑性樹脂から成るシートが押出しキャストエンボス法でのエンボスの転写性に優れるとされ、一例としてPBT系樹脂から成るシートが好ましいとされている。
【0013】
特許文献4では、エンボスロールであるキャスティングロール(原文では冷却ロールと記載)の温度を押出し樹脂組成物の軟化開始温度±10℃に設定すると言う、極めて高温のエンボスロールを使用する事が技術上の特徴となっており、ホモPBT樹脂のみから成るシートの場合ではキャスティングロールの温度を215℃程度に設定する事となっている。しかし、このような高温のロールで温度管理を厳密に実施するには、相応の技術や設備費用が必要になると思われる。
【0014】
PBT系樹脂は、結晶化速度が非常に速い事から、PET系樹脂に比べてエンボス付与工程の処理速度を大幅に向上できるものと考える事が出来、また、一旦エンボスを付与する事が出来れば、結晶化によって充分なエンボス耐熱を付与する事ができると考えられるが、該結晶化速度が速い事に加えて、ガラス転移温度が低い事から(ホモPBT樹脂で完全に非晶状態にある場合のガラス転移温度は22℃程度とされる・「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊・1989年)、押出し製膜後、PBT系樹脂のガラス転移温度より低温のキャスティングロールを用いるなどしても、シートの結晶化が室温で進行して行くものである為、押出し製膜で得たシートに別工程のエンボス加工装置でエンボスを入れようとした場合は、その結晶融点(ホモPBTの場合で225℃程度)以上に加熱する事が必要となる。
しかし、従来から軟質PVCのシートにエンボスを付与する為に用いられて来たエンボス加工装置は、加熱温度の上限が200℃程度であるものが一般的であり、PBT系樹脂から成るシートに該エンボス加工装置でエンボスを付与する事は難かしく、エンボス付与の方法に制約を受ける事となる。
特許文献4に於いては、押出機の口金から溶融流下したPBT系樹脂に、キャスティングロールとして通常の鏡面処理ロールの代わりに、エンボスロールを用いる所謂、押出しキャストエンボス法でエンボス付与を行っている。
樹脂被覆金属板用シートの樹脂組成としてPBT系樹脂を用いる事の別のメリットとしては、PBT系樹脂は、同じく結晶性ポリエステル樹脂であるPET系樹脂に比較すると、無配向で結晶化させた場合も極めて微細な結晶相を形成する事から、極端な白化や加工性の低下を生じない事も挙げる事ができる。それでも結晶化した場合、ある程度のヘイズの上昇は免れない。
【0015】
次に、(4)の方法としては特許文献5に、エンボス付与層の樹脂組成を実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂と、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成とする事で、その組成物の100℃に於ける貯蔵弾性率を特定の値以上とする事により、ラミネート時や沸騰水浸漬時のエンボス戻りを防止する事が提案されている。
このような樹脂組成物を用いた場合、そのガラス転移温度以下までの加熱を受けても、エンボスが付与された樹脂層は高い弾性率を維持しており、それによってエンボス戻りを生じる事がないものである。
【0016】
しかし、特許文献5に於いては、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂としては、
それ自体のガラス転移温度としては100℃に満たないものを想定しており、ブレンド組成物のガラス転移温度を上昇させる効果は芳香族ポリカーボネート系樹脂の配合比率を高める事に依存せざるを得ない。また、100℃でのエンボス付与層の貯蔵弾性率を特定範囲に規定する事で、ユニットバス用途の樹脂被覆金属板を想定した場合の、沸騰水浸漬試験でのエンボス戻りを抑制する事が可能な樹脂組成物を得ているが、エレベーター用途で用いられる厚み1.6mmなどの比較的厚みのある金属板へラミネートする際のエンボス耐熱性に関しては、充分なものとは言えない範囲を含んでいる。特許文献5の内容に基づいて、上記のような厚い金属板へのラミネートの際にエンボス戻りを生じないようにするには、芳香族ポリカーボネート系樹脂の配合比率を高くし、芳香族ポリカーボネート系樹脂がブレンド組成物の主成分となるようにする事が考えられるが、一方で、芳香族ポリカーボネート系樹脂を主成分とする樹脂シートを比較的厚みのある金属板にラミネートした樹脂被覆金属板に於いては、エンボス戻りの問題は無くなるものの、耐アルカリ性が悪くなり易い傾向があった。これは、厚い金属板では、ラミネート温度まで加熱された場合に擁する熱量が比較的に大きい為、水冷などの冷却方法を用いても被覆された樹脂シートの温度が直ぐには下がらす、樹脂シート内に加熱・冷却に伴う残留歪が残り易い事と、樹脂組成物の主成分を占める事となる芳香族ポリカーボネート系樹脂が比較的ストレスクラックに弱い物性を有する事によると推定される。
【0017】
一方、特許文献6には、化粧鋼板用ポリエステル樹脂として、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分として、エチレングリコール85〜60モル%と、スピログリコール15〜40質量部をグリコール成分とする共重合ポリエステル樹脂から成る組成物が提示されており、該組成物より成るシート状物を金属板にラミネートしたものは、加工性、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性、耐汚染性に優れるとしている。
【0018】
しかし、該組成物より成る単層のシートでは、エンボス加工装置でエンボスを付与しようとした場合、該樹脂組成のガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱する必要があるが、該温度以上に加熱されたシートは弾性率が急激に低下する事により、エンボス加工装置の加熱ドラムへの粘着や貼り付き、シートの熔融張力の不足による幅縮み、皺入り、シートの熔融破断等の問題を生ずる恐れがある。該特許文献6の実施例では、エンボスを付与する方法として、樹脂シートを金属板に被覆してから、いわば金属板をキャリアーシートとする形でエンボスロールで押圧する事で、エンボスを付与しているが、この方法では片面に樹脂被覆が施されているとは言え、金属板をロール間に通すこととなり、金属板の端部の反り等に起因してエンボスロール表面への傷入りの懸念があり、ロールの傷は直ちに樹脂被覆金属板の表面意匠性の低下をもたらす。
【0019】
また、金属板の厚み精度としても相当良好なものを使用しないと、樹脂層へのエンボスロールによる押圧が場所毎に不均等となる恐れがあり、その結果として、エンボスの転写ムラを生ずる恐れがあり、エンボス意匠の種類によっては、わずかな転写ムラが生じたとしても、意匠感の場所による差が顕著なものとなり、商品価値を損なう恐れがあった。
その解決策としては、樹脂層の厚みを転写ムラが出難いように厚くしておく事が考えられるが、該樹脂組成物はポリエステル系樹脂の中でも比較的原料単価の高いものであり、コストの点からは好ましくない。
【0020】
また、特許文献6では、エンボス耐熱性に関して、実施例で90℃のオーブンに5日間静置した後のエンボスの保持率を評価しているが、樹脂シートをラミネート温度まで加熱された、厚み1.6mmの金属板にラミネートする際は、水冷等の急冷を行った場合でもエンボスが付与された樹脂層表面の温度が120℃程度に上昇してしまうため、該スピログリコール共重合PET系樹脂のみから成る組成物をエンボス付与層として用いた場合は、エレベーター用途での耐熱性が不十分であると考えられる。特許文献6の実施例に於ける、最もガラス転移温度の高い樹脂組成物でも、そのガラス転移温度は111℃である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2001−200146号公報
【特許文献2】特開2002−103544号公報
【特許文献3】特開2001−322219号公報
【特許文献4】国際公開WO2000/026282 A1号パンフレット
【特許文献5】特開2007−237568号公報
【特許文献6】特開2004−035693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、従来のエンボス加工装置を用い、軟質PVCシートにエンボスを付与してきた範囲の条件内でのエンボス付与適性が良好であり、また、エレベーター用途などの比較的厚みのある金属板にラミネートした際もエンボス戻りを生じず、且つ耐アルカリ性が低下する事もない、良好なエンボス耐熱性を有するエンボス意匠を有する積層シート、エンボス意匠シート被覆金属板、建築内装材等を提供することを課題とするものであり、結晶化によるヘイズの増大の虞のない透明な表層を有するエンボス意匠シートやエンボス意匠シート被覆金属板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、上記課題を解決する為に、積層フィルムを提供する。
すなわち、本発明は、上記課題を、少なくとも1つの最表面層(以下A層)が、A層樹脂成分全体の質量に対して、ガラス転移温度が100℃以上である芳香族ポリエステル系樹脂(a1成分)50質量%以上と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(a2成分)50質量%以下とから成る樹脂組成物が主成分であり、a2成分のガラス転移温度がa1成分のガラス転移温度よりも高く、A層の厚みが5μm〜100μmであり、A層の露出する面に凹凸意匠を備えていることを特徴とする積層シートにより解決する。
【0024】
A層における芳香族ポリエステル系樹脂は、結晶性のも及び非晶性のものを使用することが可能である。A層におけるガラス転移温度が100℃以上である芳香族ポリエステル系樹脂は、一種の実質的に非晶性の共重合ポリエステル系樹脂から構成されるものであってもよいし、二種以上の実質的に非晶性の共重合ポリエステル系樹脂の混合物から構成されるものでもよい。或いは一種の実質的に非晶性の共重合ポリエステル系樹脂と、少量の結晶性ポリエステル系樹脂の混合物から構成されるものでも良い。二種以上の樹脂混合物である場合は、樹脂混合物全体の組成として、上記のガラス転移温度と芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性が得られていれば良い。
【0025】
この積層シートにおいて、A層は積層シートの最表面に位置する層であり、積層シート被覆金属板の構成においても、最表面となる層である。A層はエンボス転写性が良好な層であり、同時にエンボス耐熱性、特にラミネート温度に加熱された厚みのある金属板とのラミネート時にエンボス戻りを生ずる虞の少ない層でもある。また、芳香族ポリカーボネート系樹脂の配合比率を50質量%以下とする事で、厚みのある金属板にラミネートした際も、シート内の残留歪に起因する耐アルカリ性の低下を防ぐことができる層でもある。
【0026】
第一の本発明に於いては、A層を構成する樹脂成分が、周波数10Hzで、動的粘弾性引張り法による貯蔵弾性率(E’)を測定した場合、その120℃での測定値が、2×10Pa〜6×10Paである事が好ましい。
【0027】
A層の貯蔵弾性率が120℃で上記範囲にある事により、エレベーター用途の樹脂被覆板のように比較的厚みのある金属板にラミネートする必要がある場合も、エンボス耐熱不足によりエンボス戻りを生ずる虞が少ない。
【0028】
第一の本発明において、ガラス転移温度が100℃以上であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容性を有する非晶性芳香族ポリエステル系樹脂(a1成分)が、テレフタル酸、またはその誘導体をジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の全量を100モル%として、エチレングリコール50モル%〜70モル%とスピログリコール30モル%〜50モル%をグリコール成分の主体とする樹脂組成より成るポリエステル系樹脂である事が好ましい。
【0029】
この態様によれば、ポリエステル系樹脂として商業的に入手可能な材料を用いることが出来、原料供給の安定性のメリットを得る事ができる。また、該組成範囲のポリエステル系樹脂は、芳香族ポリカーボネート系樹脂と良好な相容性を有し、ヘイズの少ない、透明性の良好なA層を得ることができる。
【0030】
また、第一の本発明においては、ガラス転移温度が100℃以上であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容性を有する実質的に非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂(a1成分)が、テレフタル酸、またはその誘導体をジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の全量を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノール60モル%〜80モル%と、2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール20モル%〜40モル%をグリコール成分の主体とする樹脂組成より成るポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0031】
この態様の場合も、ポリエステル系樹脂として商業的に入手可能な材料を用いることが出来、原料供給の安定性のメリットを得る事ができる。また、該組成範囲のポリエステル系樹脂は、芳香族ポリカーボネート系樹脂と良好な相容性を有し、ヘイズの少ない、透明性の良好なA層を得ることができる。
【0032】
第二の本発明は、 A層の凹凸意匠を備えない面に、樹脂成分の全量を100質量%として、ガラス転移温度が100℃未満であるポリエステル系樹脂70質量%以上から成る樹脂層(B層)を有する少なくとも2層を有する積層シートである。
【0033】
B層で使用する樹脂は、結晶性のポリエステル樹脂または実質的に非晶性のポリエステル系樹脂であってもよい。ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂70質量%以上から成る樹脂組成物より成る場合には、ガラス転移温度が相対的に高いA層単層から成るシートに比べて、積層シートに各種熱可塑性樹脂シートや、木質板、無機質繊維板、熱可塑性樹脂板、熱硬化性樹脂板、金属板等に対する接着性を改善する事ができる。
また、ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上であるものに比べ、より廉価に入手可能である事から、樹脂シートの全厚みをA層の樹脂組成物で構成した場合に比べて、原料コストのメリットを得る事ができる。また、B層は、積層シートへのエンボス柄の転写時には、A層と同様に、エンボス版による押圧で変形させる事が可能な層であり、積層構成の各層の中では比較的原料単価の高いA層の厚みを比較的薄くしながら、A層とB層の合計厚みに対応した深さのあるエンボス柄の転写を得る事ができる。
【0034】
第二の本発明に於いては、前記A層と前記B層とが共押出し製膜法により積層一体化された状態で得られたものである事が好ましい。
この態様によれば、既に着色や印刷等により表面に意匠性を有するシートや板などの基材表面に、A層とB層との両層が実質的に透明である積層シートを被覆する事で、これら既存の着色意匠や印刷意匠が有する意匠性を低下させずに、エンボス転写による凹凸意匠を付与する事ができる。また、A層とB層とを共押出し製膜法で積層一体化された状態で得る事により、後工程での積層一体化の工数が不要となり、効率的な生産が可能であり、製造コスト上のメリットを得る事ができる。
【0035】
第三の本発明は、A層の凹凸意匠備えない面に、樹脂成分の全量を100質量%として、融点が210℃〜230℃のポリブチレンテレフタレート系樹脂を20質量%〜70質量%と、ガラス転移温度が100℃未満であるポリエステル系樹脂30質量%〜80質量%から成り着色剤を添加した厚み200μm以下の樹脂層(C層)を有する少なくとも2層を有する積層シートである。
【0036】
第三の本発明において、C層は着色剤を添加する事により着色の意匠と、下地となる金属板等の視覚的隠蔽機能を受け持つ層である。C層の樹脂組成物として、上記範囲のものを用いる事で、充分な視覚的隠蔽機能を付与する為に比較的C層の厚みを厚くした場合も、比較的廉価なポリエステル系樹脂原料の組み合わせで、沸騰水浸漬後にC層の樹脂組成に起因する外観異常を生じない積層シートを得る事ができる。無論樹脂シートの全厚みをA層の樹脂組成物で構成した場合も、沸騰水浸漬で外観異常を生じない樹脂被覆金属板を得る事ができるが、上記C層を用いる事で原料コストのメリットを得る事ができる。
【0037】
また、C層で使用するポリエステル系樹脂は、実質的に非晶性のポリエステル系樹脂であってもよい。C層で使用するポリエステル系樹脂は、ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を含むものであり、該非晶性、または低晶性のポリエステル系樹脂をベースとした各種顔料マスターバッチ類が豊富な種類市販されていることから、各種色味への着色、色合わせの利便性を得られる。
更にC層は、積層シートへのエンボス柄の転写時には、A層と同様に、エンボス版による押圧で変形させる事が可能な層であり、積層構成の各層の中では比較的原料単価の高いA層の厚みを比較的薄くしながら、A層とC層の合計厚みに対応した深さのあるエンボス柄の転写を得る事ができる。
【0038】
第三の本発明において、前記A層と前記C層とは、共押出し製膜法により積層一体化された状態で得られたものであり、共押出し製膜法により積層されると同時に、キャスティングロールとして柄意匠の凹凸彫刻が施されたエンボスロールを用いる事により、前記A層側表面にエンボス意匠を付与したものである事が好ましい。
【0039】
第三の本発明の構成に於いては、A層の樹脂組成物のガラス転移温度が、C層のそれより相対的に高いものとなる為、従来から軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられてきたエンボス加工装置でエンボスを付与するのは難かしいが、キャスティングロールとしてエンボスロールを用いる所謂押出しキャストエンボス法によれば、A層とC層から成る積層シートのA層側の表面に良好なエンボスによる凹凸意匠を付与する事ができる。
この態様によれば、着色や印刷等による意匠性を有していないシートや板などの基材表面に、A層とC層との積層シートを被覆する事で、エンボス転写による凹凸意匠と着色意匠を付与する事ができる。また、A層とC層とを共押出し製膜法で積層一体化された状態で得る事により、後工程での積層一体化の工数が不要となり、製造コスト上のメリットを得る事ができる。
【0040】
第四の本発明は、A層の凹凸意匠備えない面に、C層、及び樹脂成分の全量を100質量%として、融点が210℃〜230℃のポリブチレンテレフタレート系樹脂を75質量%以上含有してなる樹脂層(D層)の少なくとも3層を有する積層シートである。
【0041】
ここで、C層の機能については第三の本発明の場合と同様であるが、D層に関しては、エンボス加工装置等を用いて、A層の表面にエンボスによる凹凸意匠を付与する作業を容易なものとする為に付与される層であり、エンボス加工装置で積層シート(A層+C層+D層)が加熱された際に、加熱金属ロール等への粘着を防止すると共に、積層シートの張力低下を防ぎシートの熔融破断を防止する機能を有する。結晶化速度の速いPBT系樹脂を75質量%以上含む事により、D層は比較的容易に結晶化した状態とする事が可能であり、エンボス加工装置での積層シートの加熱温度をD層の融点以下で、A層のガラス転移温度より高い温度に設定する事で、積層シートの粘着や皺入り、幅縮み、熔融破断等の虞が無く容易にエンボス付与作業を行うことができる。
また、D層に関しても、比較的廉価なポリエステル系樹脂原料同士の組み合わせであるため、樹脂シートの全厚みをA層の樹脂組成物で構成した場合に比べて、原料コストのメリットを得る事ができる。
D層にエンボス加工装置での非粘着性や耐溶融破断性などの適性を発現させる為には、D層が結晶化した状態である事が必要であり、従って、エンボス付与後に実施される金属板へのラミネートの際も、D層の結晶化した状態は維持されている事になるが、D層に用いる結晶性ポリエステル系樹脂として、融点が230℃以下であるPBT系樹脂を用いる事により、従来の軟質PVCシートを金属板にラミネートする為に用いて来た設備、条件での金属板へのラミネートが可能なものである。
【0042】
第五の本発明は、A層のエンボス転写による凹凸意匠が付与されていない側に、A層側から順に以下のB層、C層、及びD層を備えてなる、少なくとも4層と印刷柄Eを有する積層シートである。尚、印刷柄Eは前記B層とC層との間に介在することが好ましい。
【0043】
この態様によれば、A層のエンボス転写による凹凸意匠が付与されていない側に、A層側から順に、易接着性を付与する層であり、且つ、エンボス付与時にはA層とともに押圧により変形させる事が可能であるB層を有し、印刷柄Eを有し、着色意匠と視覚的隠蔽機能を付与するC層を有し、エンボス加工装置への適性を付与するD層を有する構成とすることができる。B層、C層、及びD層の役割に関しては、第二〜第四の発明と同様である。
該第五の本発明に於いては、前記A層と前記B層とが共押出し製膜法により積層一体化された状態で得られたものであり、且つ、前記C層と前記D層とが共押出し製膜法により積層一体化された状態で得られたものであり、該積層一体化されたC層とD層のC層側表面に印刷柄Eが付与された後、印刷柄Eが付与された表面と、A層とB層の積層シートのB層側表面とを積層一体化させたものであることが好ましい。
このような構成、製法とする事で、エンボス加工装置により耐熱性のあるエンボス意匠が表面に付与され、印刷の意匠を併せ持つ積層シートを効率的な方法で得ることができる。
【0044】
第二の本発明、第五の本発明のB層のガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂は、テレフタル酸、またはその誘導体をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%〜80モル%の1.4−シクロヘキサンジメタノールと、20モル%〜80モル%のエチレングリコールをジオール成分の主体とする非晶性のポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0045】
この組成範囲にあるポリエステル系樹脂は、完全に非晶性であるか、または比較的低晶性である為、これを主体として用いたB層を有する積層シート、或いは積層シート被覆金属板を長期間の保管に供した後も、径時結晶化の進行に起因して、易接着性や透明性などのB層に必要な性能が低下する虞が少なく、加えて、原料供給の安定性とコスト面のメリットを得ることもできる。
【0046】
第三、第四、及び第五の本発明のC層のガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂は、テレフタル酸、またはその誘導体をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%〜40モル%の1.4−シクロヘキサンジメタノールと、60モル%〜80モル%のエチレングリコールをジオール成分の主体とする非晶性のポリエステル系樹脂である事が好ましい。
【0047】
このような組成範囲の非晶性、又は極めて低晶性のポリエステル系樹脂をベースレジンとした各種顔料マスターバッチ(顔料分を予備混練した樹脂ペレット)が豊富な種類市販されていることから、各種色味への着色、色合わせの利便性を得られる。
また、B層の主体となる樹脂成分についても、C層の構成成分の一つである実質的に非晶性のポリエステル原料と共通のものを用いた場合は、原料購入や原料投入設備等の共通化を図れるメリットが得られる。
【0048】
第四の発明、及び第五の発明に於いては、前記A層側表面に付与されたエンボス転写による凹凸意匠は、押出し製膜設備とは別に設置されたエンボス加工装置により付与する事ができる。これは前述のD層が付与された効果によるものである。
【0049】
第六の本発明は、第一から第五の発明のA層表面にエンボス意匠を有する積層シート、及び金属板を備え、該積層シートの前記A層側では無い表面が金属板にラミネートされている、被覆金属板である。
【0050】
第六の本発明の積層シート被覆金属板は、エレベーター内装材、ユニットバス部材、建築内装材、鋼製家具部材、家電製品筐体部材として、好適に用いることができる。エレベーター内装材としては、例えば、エレベーターのかご室壁、エレベーターかご室天井、エレベーターかごの扉が挙げられ、また、ユニットバス部材としては、例えば、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材が挙げられる。建築内装材としては、例えば、クローゼットドア材、パーティション材、一般壁材等が挙げられる。本発明の積層シート被覆金属板は、これらの材料として好適に使用できる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の積層シートは、良好なエンボスの転写性とエンボスの耐熱性を付与することができるものであり、従って、エレベーター用途に用いられるような比較的厚みの厚い金属板にラミネートした後もエンボス戻りの無い、良好なエンボス意匠を有する積層シートを被覆した金属板を効率的に得ることができるものであり、また、これを用いた良好なエンボス意匠を有し、印刷意匠を併せ持つ事も可能であり、アルカリ浸漬などの試験に供しても樹脂層のクラック発生などの問題を生ずる事が無く、沸騰水浸漬試験でもエンボス戻りや樹脂層の軟化による変形などの外観不良を生ずる事がないエンボス意匠性積層シート被覆金属板を得ることができる。更に、該積層シート被覆金属板は折り曲げ加工等の二次加工に対しても良好な特性を有し、且つ、表面硬度が高いことから耐傷入り性にも優れており、生産性に優れていることからコストの点でもメリットのあるものである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0053】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。
<積層シート100>
図1(a)〜(f)に、本発明の積層シート100の構成を模式的に示す。図1(a)は、表面から順に、A層10、B層20の2層が積層され、A層の表面にエンボス転写による凹凸意匠を有する積層シート100Aを示し、図1(b)は、表面から順に、A層10、C層30の2層が積層され、A層の表面にエンボス転写による凹凸意匠を有する積層シート100Bを示し、図1(c)は、表面から順に、A層10、C層30、D層40の3層が積層され、A層の表面にエンボス転写による凹凸意匠を有する積層シート100Cを示す。図1(d)は、表面から順に、A層10、B層20、C層30、D層40の4層が積層され、A層10の表面にエンボス転写による凹凸意匠を有すると同時に、B層20とC層30との間に印刷柄E50を有する積層シート100Dを示す。図1(e)は、図1(c)に示す積層シート100Cを接着剤70を用いて金属板60に被覆した積層シート被覆金属板200Aを示し、図1(f)は同様にして図1(d)に示す積層シート100Dをラミネートした積層シート被覆金属板200Bを示す。
【0054】
なお、本発明の積層シート100は、その厚みに関して、「フィルムまたはシート」と記すのがより正しいが、ここでは一般的には「フィルム」と呼称する範囲に関しても便宜上「シート」という単一呼称を用いている。
また、「無配向」という表現は、積層シートに何らかの性能を付与するために意図して延伸操作等の配向処理を行ったものではないこと(キャスティングの後工程でテンターや縦延伸装置等を用いることにより意図して延伸操作等の配向処理を行ったものではないこと)であり、押出し製膜時にキャスティングロールによる引き取りで発生する配向等まで存在していないという意味ではない。
また、「実質的に透明である」という表現は、該実質的に透明である樹脂層を通して、その下側に付与された印刷柄や、下側に存在する着色意匠を有する層の視認が可能で、且つ、著しい意匠感の低下を与えない層であるという意味である。具体的には、付与するエンボス形状にもよるが、A層10単層、或いはA層10及びB層20が積層され、表面にエンボスが付与された状態で、JIS K 7105に準拠して測定した全光線透過率が45%以上、好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。且つ、ヘイズが85%以下、好ましくは55%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0055】
<A層10>
A層10は、積層シート100の表面となる層であり、積層シートにエンボスを付与する際、加熱軟化されてエンボスロールにより押圧されることによって、エンボス柄が転写される層である。したがって、A層10はエンボスロールで押圧される時点で、軟質PVCシートへのエンボス付与に一般的に用いられてきたエンボス加工装置でのシート加熱温度の上限である200℃程度を超える融点(Tm)を示すような高い結晶性を有する樹脂組成物により構成されるものであってはならない。また、非晶性樹脂の場合は200℃程度を超えるガラス転移温度を有する樹脂組成物により構成されるものであってはならない。
【0056】
また、A層10は、ガラス転移温度が100℃に満たない実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を主体とする層であってもならない。このような樹脂を用いた場合も、エンボス意匠の転写性自体は良好なものとすることはできるが、ガラス転移温度が低すぎることと、結晶性による弾性率保持効果の発現が無いことより、エンボス耐熱性に劣り、エレベーター用途に用いられるような比較的厚みのある金属板へのラミネートの際に、エンボス戻りが顕著なものとなる。或いは、沸騰水浸漬時にA層10自体が全層的に流動変形を起こし、著しい外観不良を生ずるものとなる。
【0057】
また、A層10の動的粘弾性引張り法による、10Hzでの120℃における貯蔵弾性率(E’)は、1×10Pa〜6×10Paであることが好ましい。貯蔵弾性率が低すぎる場合は、上記エレベーター用途に用いられるような厚みのある金属板へのラミネートの際に、エンボス戻りが顕著なものとなる虞があり、一方、120℃で、これより高い貯蔵弾性率を有する熱可塑性樹脂は一般的には入手困難であり、また敢えて使用する必要がないが、将来この上限を超える材料が発見された場合、このような材料を除外するという意味ではない。このような材料であっても、本発明の効果を奏することができるのであれば、A層10を構成する材料として採用することができる。
【0058】
尚、本発明に於いては、A層10は、B層20やC層30などの他の層と共押出し製膜法により積層一体化された状態で得る事が好ましいものである為、これらの積層構成の場合には、A層10単層での貯蔵弾性率を直接測定する事が出来ない。従って、それら積層構成のシートのA層10の樹脂組成の内容が明確に判っている場合には、同一配合でA層の樹脂組成物単層から成るシートを押出し製膜により作成し、動的粘弾性測定の供試体とする。或いは、A層10とB層20の積層シートの場合で、各層の厚みが明確であり、且つ、B層の動的粘弾性挙動が既知である場合には、A層10とB層20の積層シートについて、動的粘弾性測定を実施し、得られた測定結果から、既知であるB層20に由来する粘弾性挙動を計算により除外する事でA層10単層の場合の粘弾性挙動を求める、等を行う必要がある。また、A層10の樹脂組成が不明確である場合には、積層シートから、A層10のみをミクロトーム等で削り出し、NMR分析により、或いは、これに他の分析方法やDSC等熱的測定の結果を併せて、A層の樹脂組成を特定し、同一配合でA層の樹脂組成物単層から成るシートを押出し製膜により作成し、動的粘弾性測定の供試体とする等の方法により求める事ができる。
【0059】
加えて、A層の170 ℃での貯蔵弾性率は、1×10(Pa)以下である事が好ましい。170℃で上記数値以下である事により、従来から軟質PVCシートへのエンボス付与に用いられて来たエンボス加工装置のシート加熱能力の範囲内で無理なくエンボス付与を実施する事ができる。また、A層10のブレンド組成物のガラス転移温度としては、116℃以上である事が好ましく、120℃以上である事が特に好ましい。
【0060】
上記のような観点から、本発明においては、A層10をA層10における樹脂成分全体の質量を基準として、ガラス転移温度が100℃以上であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容性を有する実質的に非晶性である芳香族ポリエステル系樹脂(a1成分)50質量%以上と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(a2成分)50質量%以下から成る樹脂組成物を主成分として成る層とする。
ここでの「主成分」とは、A層10全体を基準(100質量%)として、上記樹脂組成物を、80質量%以上、好ましくは 85質量%以上、より好ましくは 90質量%以上、含むことをいう。
また、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容性を有するとは、通常の溶融混練、押出し製膜法によって得られた芳香族ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂のブレンド組成物について、単一のガラス転移温度が観察され、そのガラス転移温度が、芳香族ポリエステル系樹脂のガラス転移温度と、芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度の間、概略Foxの経験式により算出される温度付近に位置する場合を指す。該ガラス転移温度の単一性は、示差走査熱量計(DSC)による測定で判断する事が出来、或いは、動的粘弾性測定に於ける、温度分散の虚数項(損失弾性率・E“)の分散ピークから判断する事ができる。
A層10のガラス転移温度が100℃以上である芳香族ポリエステル系樹脂として、芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性に乏しいものを用いた場合は、芳香族ポリカーボネート系樹脂の添加によるブレンド組成物のガラス転移温度の向上効果が充分に得られず、厚い金属板へのラミネートの際のエンボス戻りを抑制する効果が不十分となり易い。また、相容性の乏しいブレンド組成物に於いては、シートの内部ヘイズが増大する事により、A層10の下に設けられた着色層の色味の意匠や印刷柄意匠の明瞭な視認性を得ることが出来ない虞がある。
【0061】
A層10の主成分である上記樹脂組成物において、芳香族ポリカーボネート系樹脂の配合比率が50質量%を超える場合は、エレベーター用途などで、比較的厚みのある金属板にラミネートして樹脂被覆金属板とした際に、耐アルカリ性に問題を生ずる虞がある。耐アルカリ性を確実なものとするためには、A層10の樹脂組成物に於ける、芳香族ポリカーボネート系樹脂の配合比率は、45質量%以下とする事が特に好ましい。
【0062】
(A層10の実質的に非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂)
A層10に用いる事ができる実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む)のポリエステル系樹脂としては、示差走査熱量計(DSC)によりJIS K 7212に準拠した測定を実施した際、昇温時に明確な結晶化ピーク、および/または、結晶融解ピークを示さないポリエステル系樹脂のみでなく、結晶性を有するものの結晶化速度が遅い(示差走査熱量計(DSC)を用いて「パーキンエルマー法」により120℃に保持して測定した1/2結晶化時間が200秒以上である)もの、及び、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるもの等で、前述のようにガラス転移温度が100℃以上であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容性を有するものであれば用いる事ができる。
【0063】
また、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物に於いて、押出し製膜法によるシート作成時のキャスティングロール、またはキャスティングロールと対向するシリコーンゴムロールとの接触や、エンボス加工装置でのシート加熱に際して、或いは、比較的厚みのある金属板との加熱ラミネートに際して、更には、樹脂被覆金属板を倉庫などに保管した際の温度上昇などでA層10の樹脂組成物として、結晶性が高い状態とならないブレンド組成物を形成する芳香族ポリエステル系樹脂に関しても、ガラス転移温度が100℃以上であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容性を有するものであれば用いる事ができる。
一般的に、ポリエステル系樹脂の共重合成分として、嵩高い分子構造を有するジカルボン酸成分やジオール成分を用いる事により、結晶性を低下させることが出来、従って実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を得る事ができることが知られており、また、剛直な分子構造を有するジカルボン酸成分やジオール成分を用いる事により、ガラス転移温度の高いポリエステル系樹脂を得られることが知られている。これらの共重合ポリエステル系樹脂の中から、上記本発明の(a1)成分として備えるべき物性を有しているものを選択し、用いる事ができる。
【0064】
それらの中でも、テレフタル酸、またはその誘導体をジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の全量を100モル%として、30モル%〜50モル%のスピログリコールと、50モル%〜70モル%のエチレングリコールをジオール成分の主体とする樹脂組成より成る芳香族ポリエステル系樹脂を好ましく用いる事ができる。
上記のポリエステル系樹脂の組成は、一種の実質的に非晶性の共重合ポリエステル系樹脂から構成されるものであってもよいし、二種以上の実質的に非晶性の共重合ポリエステル樹脂の混合物から構成されるものでもよい。二種以上の樹脂混合物である場合は、樹脂混合物全体として、上記のスピログリコール及びエチレングリコールが所定の範囲となっていればよい。
【0065】
また、ここでの、ジカルボン酸成分における「主体」とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸または、ジメチルテレフタル酸などのテレフタル酸誘導体を少なくとも70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。また、ジオール成分における「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、スピログリコール及びエチレングリコールを好ましくは90モル%以上、より好ましくは93モル%以上、更に好ましくは95モル%以上含むことを言う。
上記、テレフタル酸または、その誘導体以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ジメチルイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸などポリエステル系樹脂の重合に用いられる、或いは共重合成分として用いられる各種のジカルボン酸を挙げることができる。また、多官能のカルボン酸成分を数モル%以下程度含んでいても良い。これらの中でも2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として用いた場合は、樹脂組成物のガラス転移温度を更に上昇させる効果を得ることができるが、該共重合成分の比率をあまり高めると、原料価格が高価なものとなってしまい、コスト面で意匠性樹脂被覆金属板の用途に適合し難くなる。
【0066】
スピログリコール及びエチレングリコール以外のジオール成分としては、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、1.3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエステル系樹脂の重合に用いられる、或いは共重合成分として用いられる各種のジオールを挙げることができるが、本発明においては、これらを特に意図して含む必要は無い。なお、ジエチレングリコールは意図せざる共重合成分として、PET系のポリエステル系樹脂のジオール成分の数モル%として含まれることが多い。また、多官能のアルコール成分を数モル%以下程度含んでいても良い。
【0067】
A層10を構成する樹脂組成物は、スピログリコールを共重合成分として用いることで、その分子鎖の剛直性から、高いガラス転移温度のポリエステル樹脂組成物とすることができるものである。しかしながら、ジオール成分として50モル%を超える量のスピログリコールが含まれる場合は、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、更に高いものとなるが、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物に於いても、樹脂シートの引き裂き性が低下したり、引張り応力を加えた際のノッチ感度が鋭敏となり、微細な傷が入った部分において僅かな伸びを加えただけでシートが破断する等の樹脂被覆金属板用のシートの物性としては好ましくない特性が発現する虞がある。
【0068】
逆に、スピログリコールの共重合比率が低すぎる場合は、共重合ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が100℃未満となる虞がある。また、結晶性が顕著になる事や、芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性が低下する点からも好ましくない。
【0069】
ジカルボン酸成分がテレフタル酸のみであり、ジオール成分がスピログリコールとエチレングリコールを主体として成る芳香族ポリエステル系樹脂組成物の場合では、スピログリコールの共重合比率がジオール成分の30モル%程度より少なくなると、得られる共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は100℃より低くなる。この点から、ジオール成分におけるスピログリコールの共重合比率の下限値は、30モル%以上とすることが好ましい。
【0070】
A層10に50質量%以上含まれる事になるポリエステル系樹脂組成物のガラス転移温度が100℃より低い場合は、50質量%以下しか含む事の出来ない芳香族ポリカーボネート系樹脂と、相容系のブレンド組成物を形成した場合も、ブレンド組成物のガラス転移温度が充分に高いものとはならず、結果としてエンボスの耐熱性が不足し、特に厚みの厚い金属板へのラミネートの際にエンボス戻りが顕著となる虞がある。A層10を構成する芳香族ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、105℃以上であることがさらに好ましく、110℃以上である事が特に好ましい。
【0071】
上記した芳香族ポリエステル系樹脂の好ましい組成範囲を備え、ガラス転移温度が100℃以上である共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、三菱瓦斯化学社製の「アルテスター45」や「アルテスター30」を挙げることができる。「アルテスター45」は、示差走査熱量測定(DSC)によってJIS K 7212に準拠して、加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度(Tg)が111℃であり、結晶化挙動、結晶融解挙動が認められない非晶性のポリエステル樹脂であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と任意のブレンド比率で相容系のブレンド組成物を形成する。「アルテスター30」は、同様に測定されるガラス転移温度が104℃であり、結晶化挙動、結晶融解挙動が認められない非晶性のポリエステル樹脂であり、やはり芳香族ポリカーボネート系樹脂と任意のブレンド比率で相容系のブレンド組成物を形成する芳香族ポリエステル系樹脂である。
【0072】
或いは、(a1成分)として、テレフタル酸、またはその誘導体をジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の全量を100モル%として、60モル%以上、80モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノールと、40モル%以下、20モル%以上の2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールをグリコール成分の主体とする樹脂組成より成るポリエステル系樹脂を用いても良い。
ジオール成分の50モル%以上が、1,4−シクロヘキサンジメタノールから成る場合、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容系のブレンド組成物を形成する事が知られており、また、2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールをジオール成分として用いる事で、高いガラス転移温度を有する実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を得る事ができる。このようなポリエステル系樹脂組成物は、特表2008−544022公表特許広報にその製法が記載されているものであり、その中から、ガラス転移温度が100℃以上であり、実質的に非晶性であるものを用いる事ができる。上記のポリエステル系樹脂の組成は、一種の実質的に非晶性の共重合ポリエステル系樹脂から構成されるものであってもよいし、二種以上の実質的に非晶性の共重合ポリエステル樹脂の混合物から構成されるものでもよい。二種以上の樹脂混合物である場合は、樹脂混合物全体として、上記のスピログリコール及びエチレングリコールが所定の範囲となっていればよい。
【0073】
市販原料としては、イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の「トライタンFX−100」や「トライタンFX−200」を挙げることができる。「トライタンFX−100」は、示差走査熱量測定(DSC)によって加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度(Tg)が110℃であり、結晶化挙動、結晶融解挙動が認められない非晶性のポリエステル系樹脂であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と任意のブレンド比率で相容系のブレンド組成物を形成する。「トライタンFX−200」は、同様に測定されるガラス転移温度が118℃であり、非晶性のポリエステル系樹脂であり、芳香族ポリカーボネート系樹脂と任意のブレンド比率で相容系のブレンド組成物を形成する。
【0074】
一方、ガラス転移温度を高める効果を有する剛直な分子構造のジオール成分として、芳香族ジオールを用いた芳香族ポリエステル系樹脂が開発されており、一例として、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸、及び、イソフタル酸から成り、ジオール成分がビスフェノールAから成る所謂ポリアリレート樹脂に関しても、ガラス転移温度が100℃以上(ユニチカ社製の「Uポリマー・U−100」で約200℃)であり、且つ、芳香族ポリカーボネート系樹脂と相容系のブレンド組成物を形成する事が知られているが、本発明に於いては、ガラス転移温度が100℃よりは高いものの、芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度よりは低い芳香族ポリエステル系樹脂に対して、50質量%以下の芳香族ポリカーボネート系樹脂をブレンドする事により耐熱性を向上させようとするものであり、元来芳香族ポリカーボネート系樹脂より高いガラス転移温度を有するポリエステル系樹脂を用いる事は、本発明の範囲には含まない。また、このようなガラス転移温度の高いポリエステル系樹脂は、価格も非常に高価であり、その点でも建材用途の樹脂被覆金属板への使用は難かしく、また、耐熱性が高過ぎる事により、従来、軟質PVCのシートへのエンボス付与に用いてきたエンボス加工装置でのシート加熱温度の範囲では、良好なエンボス転写が得られない虞もある。
従って、(a1成分)のガラス転移温度Tg1について、(a2成分)のガラス転移温度Tg2より低い場合が本発明の範囲である。
【0075】
(A層10の芳香族ポリカーボネート系樹脂)
本発明のA10層に用いられる芳香族ポリカーボネート系樹脂は、ホスゲン法やエステル交換法、ピリジン法等公知の方法により製造される。芳香族ジヒドロキシ化合物を用いて得られた重合体である。以下、一例として、エステル交換法による芳香族ポリカーボネート系樹脂の製造方法を記載する。
【0076】
エステル交換法は、2価フェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、更にはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加して、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。2価フェノールの代表例としては、ビスフェノール類があげられ、特に2.2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが最も汎用的に用いられており、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂に用いる原料としても好ましい。また、ビスフェノールAの一部または全部を他の2価フェノールで置換した構造のものを用いても良い。
【0077】
他の2価フェノールとしては、ハイドロキノン、4.4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンや、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類、1.1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなどの化合物、2.2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンのようなアルキル化ビスフェノール類、2.2−ビス(3.5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンのようなハロゲン化ビスフェノール類を挙げることができる。
【0078】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニルカーボネート)、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどを挙げることができ、中でもジフェニルカーボネートが最も汎用的に用いられており、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂に用いる原料としても好ましい。
【0079】
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート系樹脂の分子量としては、溶剤としてメチレンクロライドを用い20℃で測定された溶液粘度より換算された粘度平均分子量で、下限は好ましくは20000以上であり、より好ましくは22000以上である。また、上限は好ましくは40000以下であり、より好ましくは30000以下である。粘度平均分子量が小さすぎると、特に低温衝撃強度が低下することが知られており、一方、粘度平均分子量が大きすぎると、溶融粘度が非常に高くなり成形加工性が低下し、また、重合に長時間を要することから生産サイクルやコストの点から好ましくない。なお、本発明においては、一種類の芳香族ポリカーボネート系樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0080】
(A層10の添加剤)
A層10の下に印刷柄Fが存在しない場合は、A層10に意匠性の付与や下地金属の視覚的隠蔽のために着色剤を添加してもよいが、本発明においては、A層は実質的に透明な層とすることが好ましい。これはA層の主成分である(a1成分)、(a2成分)とも比較的高温での溶融混練が必要な樹脂種である為、使用できる着色剤に耐熱性の点から制限を受ける事と、後述するC層30の樹脂組成物をベースレジンとした着色剤のほうが遥かに多種、豊富に市販されている事により利便性が高いためである。
【0081】
A層10には、本発明の性質を損なわない範囲において、本発明の目的以外の物性をさらに向上させるために、各種添加剤を適宜な量添加してもよい。添加剤としては、燐系・フェノール系他の各種酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、衝撃改良剤、加工助剤、加水分解防止剤、鎖延長剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、エステル交換防止剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材、つや消し剤等の樹脂材料に一般的に用いられているものが挙げられる。また、他の汎用樹脂を少量含んでいてもよい。
【0082】
(A層10の厚み)
A層10の厚みは5μm〜100μmであることが好ましく、10μm〜75μmであることがさらに好ましく、25μm〜60μmであることが特に好ましい。A層10の厚みが薄くても、その下層として配置されるB層20やC層30の厚みと合わせて比較的深いエンボス柄を転写することが可能であるが、これより厚みが薄いと、エンボス耐熱性に問題が出る虞がある。また、A層10とB層20、または、A層10とC層30などの構成で、共押出し製膜法により一体化された状態で製膜する場合も、積層シートの幅方向においてA層10の厚み分布が不安定となりやすい。逆に、A層10の厚みをこれ以上厚くしても、エンボス耐熱性向上の効果は飽和すると同時に、相対的に原料価格の高い樹脂から構成されるA層の厚みが厚くなる事は、コストの面からも好ましくない。
また、積層シート100を樹脂被覆金属板の被覆用途として用いる場合、折り曲げ加工性等の二次加工性の点から積層シートの総厚みは制約を受けることになり、過剰に厚いA層10は、積層シートの他の層が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。
【0083】
<B層20>
B層20に求められる機能は、A層単層から成るシートに比べて、積層シートを各種熱可塑性樹脂シートや、木質板、無機質繊維板、熱可塑性樹脂板、熱硬化性樹脂板、金属板等に対する接着性を改善する事であり、第5の本発明のように印刷柄Eを有する積層シートを得る場合には、別途製膜され、印刷柄Eを付与されたC層30の表面との熱融着性を良好なものとすることである。また、A層10と併せて、実質的に透明である層とする事により、既に着色や印刷等により表面に意匠性を有するシートや板などの基材表面に、これら既存の着色意匠や印刷意匠の意匠性を低下させずに、エンボス転写による凹凸意匠を表面に付与する事である。この点から、経時的に結晶化が進行するなどで透明性に変化を生ずるものであってはならない。加えて、後工程での積層一体化の工数が不要となり、効率的な生産が可能であり、製造コスト上のメリットを得る事ができるようにする為、A層10とB層20とが共押出し製膜法で積層一体化された状態で得られる事である。
【0084】
また、A層10に用いられるガラス転移温度が100℃以上である実質的に非晶性の
芳香族ポリエステル系樹脂に比較して、より廉価に入手可能である樹脂原料でB層20を形成する事により、樹脂シートの全厚みをA層10の樹脂組成物で構成した場合に比べて、原料コストのメリットを得る事である。更に、A層10と同様に、エンボス版による押圧で変形させる事が可能な層であり、積層構成の各層の中では比較的原料単価の高いA層10の厚みを比較的薄くしながら、A層10とB層20の合計厚みに対応した深さのあるエンボス柄の転写を得られるようにする事である。
【0085】
(B層20の実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂)
上記理由から、B層20に用いる樹脂成分としては、ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分とすることが好ましい。ここで、主体とするとは少なくともB層20の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、60質量%以上、好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上含まれることを言う。
B層20を形成する実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む)のポリエステル系樹脂としては、示差走査熱量計(DSC)での測定により、昇温時に明確な結晶化ピーク、および/または、結晶融解ピークを示さない完全非晶性であるポリエステル系樹脂のみでなく、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く(示差走査熱量計(DSC)を用いて「パーキンエルマー法」により120℃に保持して測定した1/2結晶化時間が200秒以上であるもの)、押出し製膜法によるシート作成時のキャスティングロールと対向するシリコーンゴムロールとの接触で、或いは、エンボス加工装置を用いてエンボス付与を実施する際のシート加熱や、シート保管時の倉庫の温度上昇などで加熱を受けた際、金属板とのラミネートの際に加熱された金属板からの熱で結晶性が高い状態とならないポリエステル樹脂、及び結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるものを使用することができる。
B層20の主体となるポリエステル系樹脂が、顕著な結晶性を有する場合は、エンボス加工装置によるエンボス意匠の付与時に結晶化してエンボス版による押圧で変形を受ける層としての機能を得られなくなる虞がある。また、各種基材に熱融着積層する際に易接着性を得る為の層と言う機能が失われる事となる。
また、B層20の樹脂成分の主体を成す実質的に非晶性のポリエステル系樹脂は、ガラス転移温度が70℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度がそれより低いと、B層の厚みを比較的薄くした場合に於いても、積層シートをラミネートした樹脂被覆金属板を沸騰水に浸漬した場合に、B層20の軟化にともなう外観の悪化を生ずる虞がある。
【0086】
B層20を構成する実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂としては、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%〜80モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノールと、20モル%〜80モル%のエチレングリコールをジオール成分の主体とする共重合ポリエステル系樹脂を好ましく使用することができる。
【0087】
ここでの、ジカルボン酸成分の「主体」とは、ジカルボン酸成分の全体量を基準(100モル%)として、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸を少なくとも70モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。
また、ジオール成分の「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4−シクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールを好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上含むことを言う。
【0088】
1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合比率が上記の範囲よりも少ない場合は、結晶性樹脂としての特徴が顕著になるため好ましくない。逆に、1,4−シクロヘキサンジメタノールの量が上記の範囲よりも多い場合も、結晶性の影響が顕著になり同様の問題が発生する為好ましくない。
【0089】
上記好ましい組成範囲にある共重合ポリエステル系樹脂としては、原料の安定供給性や生産量が多いことから低コスト化が図られている点から、いわゆるPETG樹脂を好ましく用いることができる。PETG樹脂としては、例えば、イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の「イースターPETG・6763」を挙げることができる。「イースターPETG・6763」は、テレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の約31モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールで、残りのジオール成分の主体がエチレングリコールであり、数モル%のジエチレングリコールを含む共重合ポリエステル系樹脂であり、示差走査熱量計(DSC)での測定で、結晶化挙動が認められない非晶性のポリエステル系樹脂である。
【0090】
また、熱ロールによる混練や、カレンダー製膜などの特定の加熱・混練条件においては、結晶性樹脂として取り扱う必要があるが、通常の押出し製膜においては非晶性のポリエステル系樹脂と同等に扱うことができる、イーストマン・ケミカル・カンパニー社のイースターPCTG・5445」や、同じくイーストマン・ケミカル・カンパニー社のイースターPCTG・24635も上記組成範囲にある共重合ポリエステル系樹脂である。これらは、テレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の約60モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールで、残りのジオール成分の主体がエチレングリコールであり、数モル%のジエチレングリコールを含む共重合ポリエステル系樹脂である。
【0091】
ただし、これらに限定されるものではなく、ジオール成分としてネオペンチルグリコールを共重合したPET系樹脂で結晶性を示さないもの(一例として、東洋紡社製の「コスモスター・SI−173」)や、結晶性の低いもの、ジカルボン酸成分として、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート系樹脂や、イソフタル酸を共重合したポリブチレンテレフタレート樹脂で結晶性を示さないものや結晶性の低いものなど、共重合成分により結晶化を阻害した構造の共重合ポリエステル系樹脂類も、B層20の主成分として用いることができる。
【0092】
(B層20の厚み)
B層20の厚みは、60μm以下である事が好ましく、より好ましくは50μm以下である。また、3μm以上である事が好ましく、5μm以上である事がより好ましい。
B層20の厚みが厚すぎると、積層シート100を樹脂被覆金属板の被覆用途として用いる場合、折り曲げ加工性等の二次加工性の点から積層シートの総厚みは制約を受けることになり、過剰に厚いB層20は、積層シートの他の層が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。また、B層20の厚みが過度に薄い場合は、エンボス意匠を付与する際にA層とともにエンボス版による押圧で変形を受ける層としての機能を得られなくなる虞があり、また、各種基材に熱融着積層する際に易接着性を得る為の層と言う機能が充分に発現されない虞がある。
【0093】
また、B層20は、ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂を主成分としてなることから、過度に厚いB層20を有する積層シートを被覆した樹脂被覆金属板では、耐沸騰水浸漬性に乏しく、著しい流動変形を生じてしまう虞がある。
【0094】
(B層20の添加剤)
B層20にも、A層10に用いることができる各種添加剤を適宜な量添加しても良い。
【0095】
<C層30>
本発明の積層シート100においてC層30を付与する目的は、着色剤添加による着色意匠の付与、及び、基材となる各種熱可塑性樹脂シートや、木質板、無機質繊維板、熱可塑性樹脂板、熱硬化性樹脂板、金属板等の視覚的隠蔽効果を確保することである。また、第5の本発明のように、印刷柄Eを有する構成の場合には、印刷柄Eの下地層に相当するC層30が着色されることによって、印刷柄Eの発色性を改善する事も含まれる。更に、C層30の樹脂組成によっては、第四の本発明に於いては、A層10の厚みとC層30の厚みとを合わせて、第五の本発明に於いては、A層10の厚みとB層20の厚みに、更にC層30の厚みを併せて、エンボス版による押圧で変形させる事が可能な層とすることも可能であり、積層構成の各層の中では比較的原料単価の高いA層10の厚みを比較的薄くしながら、A層10とC層30、或いは、A層10とB層20とC層30の合計厚みに対応した深さのあるエンボス柄の転写を得る事ができる層とする事である。
【0096】
また、B層20の場合と同様に、A層10に用いられるガラス転移温度が100℃以上である実質的に非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂に比較して、より廉価に入手可能である樹脂原料でC層30を形成する事により、樹脂シートの全厚みをA層の樹脂組成物で構成した場合に比べて、原料コストのメリットを得る事である。
【0097】
従って、C層30の樹脂成分は、その溶融混練、及び製膜時に顔料成分が熱劣化するような高温を要する樹脂からなるものであってはならない。また、各種色味への調色が容易に実施できることが好ましい。加えて、C層30は、着色顔料の添加により下地の視覚的隠蔽を確保する層でもある事から、C層30は、比較的厚みのある層とする必要があるが、積層シートをラミネートした樹脂被覆金属板がユニットバス用途に使用される場合は、沸騰水浸漬に耐性を有する層とする必要もある。
【0098】
そこで、本発明においては、C層30は、融点が210℃〜230℃のPBT系樹脂20質量%〜70質量%と、ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂30質量%〜80質量%からなる樹脂組成物を主体としてなり、着色剤を添加した厚み200μm以下の樹脂層とする。
【0099】
PBT系樹脂の添加比率がこれより高い場合は、その結晶性により、C層30の耐沸騰水浸漬性に対しては問題が無くなるが、PBT系樹脂をベースレジンとする着色剤のマスターバッチは、実質的に非晶性のポリエステル系樹脂をベースレジンとするものに比べると種類に乏しく、着色意匠を自由に付与すると言う点では問題を生ずる。また、第3の発明のように、A層10とC層30から成る積層シートに、押出しキャスティングエンボス法でエンボスを付与する場合は問題ないものの、第4の発明や第5の発明のように、押出し製膜ラインとはオフラインのエンボス加工装置でエンボスを付与しようとした場合、PBT系樹脂の添加比率の高い、従って、結晶性が高いC層30はエンボス版ロールによる押圧で変形する層としての機能を持たせることができない。
逆に、PBT系樹脂の添加比率がこれより少ない場合は、下地の視覚的隠蔽効果を充分に付与できる厚みのC層30とした場合、C層30を含む積層シートを被覆した金属板を沸騰水浸漬に供した場合、C層30の弾性率低下に起因して外観不良を生ずる虞がある。
C層30へのPBT系樹脂の添加比率は、25質量%〜60質量%である事が更に好ましい。また、第4、第5の発明のようにD層40を付与する事によりエンボス加工装置でエンボスを付与する場合は、C層30にもエンボス版による押圧で変形する層としての機能を持たせる事が好ましく、PBT系樹脂の添加比率は、45質量%以下である事が特に好ましい。
【0100】
C層30の樹脂組成の主体の一つであるガラス転移温度が100℃未満の実質的に非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂としては、B層に用いる事ができるものと同様のものを用いる事ができるが、テレフタル酸、またはその誘導体をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%〜40モル%の1.4−シクロヘキサンジメタノールと、80モル%以下、60モル%以上のエチレングリコールをジオール成分の主体とする非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂である事が特に好ましい。
【0101】
該組成範囲にある、いわゆるPETG樹脂は、原料の安定供給性や生産量が多いことから低コスト化が図られている点から好ましく、また、該PETG樹脂をベースレジンとして用いた着色剤のマスターバッチが豊富に市販されている事から、C層30の色味意匠付与の自由度を高めることができる利便性による。
更に、B層20の主体となる樹脂組成についてもPETG樹脂を用いた場合は、C層30の構成成分の一つと共通の原料を用いる事による原料購入や原料保管、原料投入設備等の共通化を図れるメリットが得られる。
【0102】
C層30の樹脂組成のもう一つの主体である、融点が210℃〜230℃のPBT系樹脂としては、後述するD層40に用いる事ができるものと同様のものを用いる事ができ、D層40と同一の原料を用いた場合は、原料購入や原料保管、原料投入設備等の共通化を図れるメリットが得られる。
【0103】
(C層30の着色顔料)
C層30は、着色意匠と下地の視覚的隠蔽効果の発現を主として受け持つ層であり、着色剤が添加される。C層30の着色に用いる着色剤としては、ポリエステル系樹脂の着色用に一般的に用いられているものでよく、その添加量に関しても上記目的のために一般的に添加される量でよい。例えば、淡色の場合では、白系の着色顔料であり、可視光線の隠蔽効果の高い酸化チタン顔料をベースとして、色味の調整を有彩色の無機や有機の顔料、染料で施す等の方法を挙げることができる。また、着色剤の添加量としては、例えば、B層20を構成する樹脂成分の全量を基準(100質量部)として、2質量部〜50質量部とすることが好ましい。
前述したように、PET−Gをベースレジンとしたカラーマスターバッチ等の、予備混練を施すことで分散性を向上させた顔料練り込みペレット類が豊富に市販されているので、これらを利用することにより容易にC層30を着色層とすることができる。また、C層30には、顔料類の他にもA層10と同様、A層10の説明で例示した各種添加剤を適宜な量添加することもできる。
【0104】
更に、C層30を共押出し製膜による2層構成として、その金属板側に位置する層に着色の意匠と下地の視覚的隠蔽効果を得るための隠蔽性顔料等の添加を施した上で、表面側に位置する層には適当な粒径を有するパールマイカ顔料、アルミ粉、銀粉、金粉等の各種メタリックパウダー、ガラスフレーク、表面修飾ガラスフレーク、セラミックパウダー等の光輝性顔料と呼ばれるものを添加して、メタリック調の意匠感を付与したり、粒子が点状に分散して光輝性を発現するような意匠を施してもよい。
これら光輝性顔料の中でも、パールマイカ顔料は、A層10の樹脂組成物のような、高温での溶融・混練が必要な芳香族ポリカーボネート系樹脂を含むブレンド組成物に添加した場合、その表面被覆に用いられている酸化チタンの熱触媒作用が顕在化する事により、樹脂組成物に黄変やスジ引きなどの劣化をもたらし、外観不良を生ずる事となるが、C層30の樹脂組成であれば、比較的低温での溶融・混練でシート化する事ができるため、パールマイカ顔料を用いた光輝性の意匠感についても問題なく得る事ができる。
【0105】
(C層30の厚み)
C層30の厚みは、200μm以下である事が好ましく、40μm以上〜150μmである事がさらに好ましい。より好ましくは75μm〜120μmである。厚みが薄すぎると、C層30に求められる着色意匠の発現や下地金属の視覚的隠蔽効果の発現が困難になりやすく、逆に、過度に厚みを厚くしてもこれらの機能は飽和すると同時に、積層シート100を樹脂被覆金属板の被覆用途として用いる場合、折り曲げ加工性等の二次加工性の点から積層シートの総厚みが制約を受けることになり、過剰に厚いC層30は、積層シートの他の層が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。
【0106】
着色顔料の添加による下地金属板の視覚的隠蔽効果に関しては、用途によって重要度が異なってくるが、内装建材用途のエンボス意匠シート被覆金属板等においては、JIS K5400 7.2「塗料一般試験方法・隠蔽率」に準拠して測定した隠蔽率が積層シートの構成で0.97以上であることが好ましい。
【0107】
隠蔽率がこれより低いと金属板等、下地となる基材の色味が、積層シート100表面の色味に反映されて、金属板表面の処理の違い等により色味が変化した際、積層シート表面から観察される色味も変化して見えるため好ましくない。ただし、この理由による色味の変化が特に問題とならない用途においては、隠蔽率は0.97以上にこだわらなくてもよい。
【0108】
<D層40>
D層40は、積層シート100をエンボス加工装置に通した際に、従来の軟質PVCと同様の温度まで加熱された場合においても、積層シート100に加熱金属ロールへの粘着や、幅縮み、皺入り、溶融破断等が起こらないようにする役割を有する。したがって、本発明の積層シートにエンボス加工装置でエンボス意匠を転写する場合にシートが加熱ロールで加熱される150℃程度までの温度で金属への粘着性を示すものであってはならないし、また、シートが支持体なしでヒーターによって加熱される温度である160℃〜190℃程度までの加熱温度で弾性率が著しく低下する樹脂組成であってはならない。一方、金属板60にラミネートする際には従来の軟質PVCと同様の温度に加熱された金属板に対して強固な密着力を得られることが必要であるため、235℃程度に加熱された状態でも依然高い弾性率を維持していてはならず、したがって235℃を超える融点を有する結晶化した状態の結晶性ポリエステル系樹脂であってはならない。
【0109】
(D層40のPBT系樹脂)
上記目的のため、本発明のD層40は、融点が215℃以上235℃以下のPBT系樹脂系樹脂を所定量含有してなる。
【0110】
融点が215℃以上必要なのは、従来の軟質PVCシートにエンボス加工装置でエンボス意匠を転写する場合にシートが支持体なしでヒーターによって加熱される温度が160℃〜190℃程度であるのに対し、D層40の樹脂成分として、融点が215℃未満であるPBT系樹脂を用いた場合は、160℃〜190℃という加熱温度で十分な張力を得ることが困難となりやすいためである。また、融点の上限が235℃としたのは、融点がこれより高いポリエステル系樹脂組成物からなり、結晶化した状態であるD層40では、従来の軟質PVCよりなるシートを金属板60にラミネートする場合と同様の通常の金属板の加熱温度の上限である235℃までの温度では、金属板60との強固な密着力を得ることが困難となるためである。
【0111】
また、D層40がPBT系樹脂を所定量含有してなる層とする理由は、上記好ましい融点範囲にあるためだけでなく、上記所定量のPBT系樹脂が配合されたブレンド組成物では結晶化速度が比較的速いものとなることから、製膜工程とエンボス加工装置でのエンボス意匠付与工程との間に特別な養生工程等を設けなくても、製膜工程で高い結晶性を有するD層40を得やすいため、すなわち、エンボス付与工程での加熱金属部への非粘着性や加熱時の耐破断性を得やすいためである。
【0112】
ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂においても、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換することなどにより、上記範囲の融点を有するものを得ることができる。しかし、この場合のPET系樹脂は、結晶化速度が非常に遅く、通常の押出し製膜ラインでは、十分に結晶化したD層40を得ることが困難であり、別途養生工程等を設ける必要があるため、融点範囲のみが合致するPET系の樹脂をD層40に用いる事は好ましくない。
【0113】
PBT系樹脂を用いる他の理由としては、結晶化した状態でもPET系樹脂に比べて良好な加工性を得られることが挙げられる。これにより、無配向で結晶化した状態のD層40を有する積層シート100で被覆した樹脂被覆金属板であっても、無配向で結晶化したPET系樹脂を被覆したものに比べて、その折り曲げ加工性等の二次加工性を良好なものとすることができる。
【0114】
D層40における、PBT系樹脂の含有割合は、D層40における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、PBT系樹脂の含有割合の下限は、75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。PBTの量がこれより少ない場合は、D層40のブレンド組成物の結晶化速度が遅くなることから、エンボス加工装置の加熱金属部に対して非粘着性を示し、且つ充分な加熱時の張力を得られる程度に結晶化させるためには、特別な養生工程等を必要とするようになり、また、結晶化した状態のシートを得ても、好ましい加熱時の張力を得ることが困難となりやすい。
【0115】
また、PBT系樹脂の含有割合の上限は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。PBT系樹脂の含有量がこれより多い場合は、積層シート100を金属板60にラミネートする際の接着積層面側であるD層40の結晶性が高くなりすぎ、従来的な加熱条件では金属板60との密着強度を得難くなる虞かあるためである。また、D層40をC層30との2層共押し出し、あるいはA層10及びC層30との3層共押出し製膜法で得る場合に、製膜後の積層シートの反りが顕著になり、取り扱いに支障をきたす虞があるためである。
【0116】
融点が215℃〜235℃の範囲のPBT系樹脂としては、C層30に用いる事ができるPBT系樹脂と同様のものを用いる事ができ、酸成分がテレフタル酸、または、ジメチルテレフタル酸であり、ジオール成分が1,4−ブタンジオールの各単一成分を縮重合して得られた(意図せざる共重合成分は含まれていてもよい)ホモ・PBT樹脂を用いることが、コストや安定供給性の点、結晶化速度が速い点から特に好ましい。該ホモPBT樹脂の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点は約225℃程度であり、市販原料として得られるPBT系樹脂の中で最も高い融点を有するものである。
【0117】
該ホモPBT樹脂としては、三菱エンジニアリングプラスチック社製の「ノバデュラン5020H」や、東レ社製の「トレコン1200S」、ウィンテックポリマー社製の「ジュラネックス600FP」等、各種の市販原料を用いることができる。
【0118】
(D層40のPBT系樹脂以外の樹脂成分)
D層40に添加される上記PBT系樹脂以外の樹脂成分としては、ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂が好ましく用いられる。このような実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂としては、前述したB層20の主成分であるものと同一のものを用いることができ、例えば、イーストマン・ケミカルカンパニー社の「イースターPETG6763」や同じく、「イースターPCTG5445」が挙げられる。非晶性のポリエステル系樹脂が好ましい理由は、その添加量が少ないとは言え、例えばホモPET樹脂等の結晶性の高いポリエステル系樹脂を用いた場合、その結晶化速度は遅いものの経時的に結晶化が進行するため、PBT系樹脂の結晶相の加工性より劣るPET系樹脂の結晶相がD層40の加工性に経時的に悪影響を及ぼし、結果的に積層シート及びそれを被覆した金属板300の加工性が低下する虞があるためである。ただし、PBT系樹脂等以外の樹脂成分の配合量は比較的少量に限定されているので、その結晶化に起因した加工性の低下に特別な配慮を必要としない場合は、ホモPET樹脂などを用いても良い。
【0119】
(D層40の厚み)
D層40は、5μm以上の厚みを有することが好ましく、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上である。これより厚みが薄い場合は、エンボス加工装置での張力付与層としての機能が不十分になりやすい。また、厚みの上限は、100μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがさらに好ましい。これより厚くしても、D層40が受け持つべき機能は飽和し、かつ、樹脂被覆金属板としての折り曲げ加工等の二次加工性を確保するには、積層シートの総厚みの上限に制約があることから、他の層が受け持つべき機能の発現不全をもたらす虞がある。
【0120】
(D層40の添加剤)
D層40には着色のための顔料類を添加してもよいが、着色意匠を発現する目的の層としてC層30が存在することから、C層30の着色のみでは下地の視覚的隠蔽効果が得られない場合等に、補助的に顔料を添加することが好ましい。
【0121】
また、D層40が付与される目的の一つである加熱金属との非粘着性をより強固にするため、適宜な量の滑剤を添加してもよい。滑剤としては、ポリエステル樹脂への添加用として一般的に用いられるものを用いることができ、例えば、モンタン酸系の滑剤である「LICOWAX(登録商標)OP」(クラリアントジャパン社製)を挙げることができる。滑剤の添加量は、D層40の全樹脂量を基準(100質量%)として、0.2質量%以上3質量%以下程度の一般的な量でよい。
【0122】
また、エンボス加工装置における積層シート100の加熱時の張力をより強力なものとするため、D層40には、線状超高分子量アクリル系樹脂(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)P−531」等がある。)や、フィブリル状に展開する易分散化処理を施したポリテトラフルオロエチレン等の加工助剤(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)A−3000」等がある。)を添加してもよく、この場合も、添加量は、D40の全樹脂量を基準(100質量%)として、0.2質量%以上3質量%以下程度の一般的な量でよい。
【0123】
さらに、エンボス加工装置での非粘着性や耐熔融破断性を得るために必要な結晶性をD層40に容易に付与できるようにするために、有機系や無機系の結晶核剤を添加して結晶化速度の向上を図ってもよい。また、その他、A層10において説明した各種の添加剤や他の汎用樹脂を少量含んでいてもよい。
【0124】
<印刷柄E50>
本発明の積層シートにおいては、A層10とB層20とは実質的に透明な層であり、
それらの層よりも基材側に着色層であるC層30を設ける構成である事から、A層10とC層30との間、或いは、A層10とB層20の一体化シートと、C層30との間に印刷柄E50を付与し、印刷意匠を併せ持った構成とすることもできる。印刷柄E50は、グラビア印刷、オフセット印刷、平版スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、インクジェットプリンターによる印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、静電印刷等の公知の方法で施される。絵柄は任意であり、例えば石目調、木目調等の天然材を模した柄、或いは、幾何学模様、抽象模様等を挙げることができる。印刷は部分印刷でも全面印刷でも良く、部分印刷と全面印刷の両方が施されていても良い。
【0125】
印刷インクの樹脂バインダー種類としては、通常ポリエステル系樹脂から成るシート状物に印刷を施す際に用いられるものを制限なく使用することができる。例えば、アクリル系、アクリル・ウレタン系、ポリエステル系、ボリエステル・ウレタン系、アルキド樹脂系、塩ビ・酢ビ共重合樹脂系、塩ビ・酢ビ・ウレタン系等が挙げられる。このバインダー種を適宜選択することにより、B層20とC層30との間に印刷柄E50が介在する構成に於いても、その積層一体化を熱融着積層とすることができる。あるいは、印刷柄E50の付与時に、同時に熱接着性の塗布層を付与して、熱融着積層性を付与することもできる。
【0126】
尚、このような場合も透明層としては、A層10単層より成る場合よりも、よりガラス転移温度の低い樹脂からなるB層20を有する構成としたほうが熱融着積層界面の密着力に関して問題を生ずる虞が少なく、或いは、A層10表面にエンボスを付与した後に熱融着積層を実施する手順で積層シートを作成する際も、加熱によりA層10のエンボス戻りを生ずる事を防げる点から好ましい。
印刷柄E50は、B層20と積層することになるC層30の表面に印刷を施すことにより形成してもよいし、C層30と積層することになるB層20の表面に印刷を施すことにより形成してもよい。
【0127】
<積層シート100の製造方法>
本発明の積層シート100の製造方法としては、各種公知の方法、例えばTダイを備えた押出機による押出しキャスト製膜法やインフレーション法等を採用することができる。中でも、製膜安定性の点からはTダイを備えた押出機による押出しキャスト製膜法に依ることが好ましい。
【0128】
本発明の積層シート100を作製するには、各層が相互に熱融着性を有する樹脂組成で構成されていることから、各層を単独で製膜した後に、後工程で積層一体化して積層シート100としてもよいが、A層10、及びB層20の2層より成る構成の場合では、2台の押出機とフィードブロック、及び単層Tダイを用いた共押出し製膜法、或いは、2台の押出機とマルチマニフォールド型のTダイを用いた共押出し製膜法で2層を一体に製膜するのが最も効率的であり好ましい。A層10とC層30の2層より成る場合についても同様である。これらD層40を有しない構成では、オフラインでのエンボス加工装置で、積層シートを再加熱してエンボス付与する事は難かしい為、上記押出し製膜時のキャスティングロール(引き取りロール)を通常用いられる鏡面ロールに替えてエンボスロールとして、所謂押出しキャストエンボス法でA層10の表面にエンボス付与することが好ましい。
【0129】
一方、A層10とC層30とD層40の3層より成る構成の場合は、やはり3台の押出機と所要の共押出し設備を用い、3層を一体に製膜する事が好ましいが、この構成の場合は、エンボス加工装置への適性を付与するD層40を有するため、押出機のキャスティングロールとしては、通常の鏡面ロール、若しくは、シートの巻き取り性を改善する為の浅い梨地等のエンボスが施されているロールを用い、押出し製膜設備とはオフラインのエンボス加工装置でエンボス付与を行うことが好ましい。この構成では、従来から軟質PVCシートにエンボス意匠を付与するために一般的に用いられている各種エンボス加工装置によって、従来の軟質PVCシートと同様の温度条件、及び処理速度でエンボス意匠を付与することができる。一般的に、エンボス加工装置においては、エンボス版ロールの交換脱着を容易に行える設計が盛り込まれており、また、エンボス版ロールの直径は押出し製膜設備のキャスティングロール等と比較して小さく作られており、多種のエンボス版ロールを用意しておくことでエンボス柄の変更を容易かつ経済的に行うことができる点から、小ロット対応性に関してメリットを得る事ができる。この手順によれば、A層10の表面に押出設備のキャスティングロールにより付与された浅い梨地等のエンボスが付与されていた場合も、エンボス加工装置でのシート加熱温度が160℃〜190℃程度となり、A層10の樹脂組成物のガラス転移温度を超えることとなり、引き続き新たなエンボス意匠を有するエンボスロールで押圧される事となる為、その時点でキャスティングロールで付与された梨地のエンボスは消失する事になる。
【0130】
A層10とB層20とC層30とD層40の4層より成り、B層20とC層30との間に印刷柄E50を有する構成の場合は、2台の押出機と所要の共押出し設備を用い、A層10とB層20の2層を一体に製膜したシートと、同様に共押出しにより、C層30とD層40の2層を一体に製膜したシートを作成し、C層30の表面に印刷柄E50を付与した後、これら2組の2層シートのB層20側表面とC層30側表面とを印刷柄E50を介在して熱融着積層により一体化した後に、A層10表面へのエンボス付与を実施する手順によることが好ましい。
この構成に於いても、D層40が存在する事によりエンボス加工装置への適性を有しており、また、エンボス加工装置でのシート加熱に用いられる加熱ロールの部分で、A層10とB層20の一体シートと、表面に印刷柄E50を有するC層30とD層40の一体シートとを熱融着積層で一体化する事が可能な事から、工程増を伴わず製造コスト上のメリットを確保しながら、エンボス意匠の種類に関して小ロット対応性のメリットを得る事ができる。
【0131】
図2に、軟質PVCシートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられているエンボス加工装置300の一例を示す。図示したエンボス加工装置300は、加熱ロール310、テイクオフロール320、赤外線ヒーター330、ニップロール340、エンボスロール350及び冷却ロール360により主要部が構成される。このエンボス加工装置300においては、エンボス版として、金属製ロール状のエンボスロール350を使用しているが、エンボス版としては、エンボス意匠が形成された版であれば、その形状は特に限定されず、連続的にエンボス付与を行うロール状、或いはベルト状、長尺のシート状等のものであってもよい。
【0132】
図2に示すエンボス加工装置300では、2層共押出し法で製膜したA層10とB層20の2層より成るシートと、印刷柄E50を施したC層30及びD層40の2層共押出しシートとを供給し、エンボス加工装置300の加熱ロール310で熱融着積層を行った後、エンボス付与を行っている。
【0133】
ただし、各層の積層一体化は必ずしも共押出し製膜法、及び、熱融着積層法によらないで、ドライラミ接着剤等の熱硬化型接着剤や紫外線硬化型接着剤などの塗布・硬化による積層、あるいはホットメルトフィルムを挟み込むことにより熱融着積層等の方法に依っても良いが、本発明の目的が高意匠な積層シートを低廉に得る点にあることから、これら工数増、材料増を伴う積層一体化の方法は必ずしも良い方法とは言えない。
【0134】
エンボス付与により形成されたA層10表面の凹部には、いわゆるワイピング印刷による着色意匠を付与したり、光沢のあるワイピングインキを用いて、凹部のみ光沢のある意匠感を付与したりしても良い。ワイピング印刷によりエンボス凹部に形成される着色インキ層は、2液硬化型のウレタン系樹脂等をビヒクルとする着色透明性インキ、着色隠蔽性インキ等で形成するのが耐久性の点で好ましいが、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩ビ・酢ビ共重合系樹脂、アクリル系樹脂等をビヒクルとする1液型インキを使用して形成してもよい。着色インキに使用する顔料や染料としては、通常の印刷インク用に用いられる顔料、及び染料を用いることができる。該ワイピングエンボス自体は、軟質PVCシートを用いたエンボス意匠シートの時代から実施されてきたものであり、ドクターブレード法、ロールコート法など各種公知の方法によって付与することができる。
【0135】
本発明の積層シート100全体での厚みは、55μm〜300μmであり、80μm〜250μmの範囲であることが好ましい。積層シート100の厚みが薄すぎる場合は、比較的深いエンボス柄を転写することが困難となり、また、着色層であるC層30を有する構成に於いては、C層30の厚みが制約を受ける事により視覚的隠蔽性を確保する事が困難となり易い。積層シート100の厚みが厚すぎる場合は、金属板にラミネートして樹脂被覆金属板とした場合に、軟質PVC樹脂被覆金属板の折り曲げ加工などの成形加工に従来から用いてきた成形金型の使用が困難になる等、2次加工性に問題を生じ、また、折り曲げ加工を施した部分の樹脂層に金型との強い摩擦による削れや、割れが発生する等の異常を生ずる虞がある。
【0136】
<エンボス意匠シート被覆金属板200>
図1(e)に、図1(c)に示すエンボス意匠シート100CのD層40側表面が接着剤70を介して金属板60上にラミネートされたエンボス意匠を有する積層シート被覆金属板200Aを示し、図1(f)に、エンボス意匠シート100Dを同様にして金属板60上にラミネートした、エンボス意匠と印刷柄意匠を有する積層シート被覆金属板200Bを示した。
【0137】
本発明のエンボス意匠シート被覆金属板200に用いる金属板60としては、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、高アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム・マグネシウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、ステンレス鋼板等の各種鋼板や、アルミニウム板、アルミニウム系合金板、アルミニウム合金系クラッド板、チタン系合金板、ニッケル系合金板、マグネシウム系合金板等が使用でき、これらは通常の化成処理を施した後に使用してもよい。金属板60の厚さは、樹脂被覆金属板の用途等により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選ぶことができる。エレベーター用途に用いられる樹脂被覆金属板では、熔融亜鉛メッキ鋼板などの厚み1.0mm〜1.6mm程度のものを用いることが一般的である。
【0138】
エンボス意匠シート被覆金属板200を得るために、積層シートを金属板にラミネートする方法についても、従来法によることが、既存設備を利用できる点から好ましい。即ち、
金属板60にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用して、エンボス意匠シートを貼り合せる金属面に、乾燥後の接着剤膜厚が0.5μm以上10μm以下程度になるように熱硬化型接着剤を塗布した後、赤外線ヒーターおよび/または熱風加熱炉により塗布面の溶剤乾燥及び加熱焼付けを行って金属板60の表面温度を225℃以上240℃以下程度の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネーターを用いてエンボス意匠シート100のA層10側とは反対側の表面側が接着面となるように被覆、次いで、水槽中への投入による水冷却や水噴射による冷却を行う方法が挙げられる。なお、軟質PVCシートを被覆する際の金属板の表面温度は、220℃以上240℃以下程度とするのが一般的であった。また、熱硬化型接着剤70としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等の一般的に使用される熱硬化型接着剤を挙げることができる。
【0139】
本発明のエンボス意匠シート被覆金属板200は、印刷柄E40による意匠と、エンボス意匠を組み合わせて、様々な意匠を有するものとすることができる。更に、良好な加工性と表面硬度を有することから、種々の用途に広範に対応することができる。また、比較的厚みのある金属板にラミネートした際もエンボス戻りを生じない良好なエンボス耐熱性を有し、且つ、耐アルカリ性が低下する事もない。加えて、沸騰水浸漬試験に供しても外観異常を生ずる事もない。具体的には、エレベーター内装材、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材等のユニットバス部材、クローゼットドア材、バーティション材、パネル材等の建築内装材、鋼製家具部材、AV機器、エアコンカバー等の家電製品筐体部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0140】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例の形態に限定されるものではない。
【0141】
<実施例1〜18、比較例1〜11>
[積層シートの作製]
実施例1〜18、及び比較例1〜11に用いるA層とC層の共押出シートは、シリンダー直径65mmの2箇所にベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機(JSW社製の「TEX−65」)を使用し、所要の接続導管類や分配ブロックを介在し、2層のマルチマニフォールド型のリップ幅1400mmのTダイを用いた共押出し法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロール(引き取りロール)で引き取る一般的方法により、A層とC層から成る幅1200mmの2層構成の無配向の積層シートを作成した。
A層、C層の樹脂成分としてブレンド組成物を用いる場合、予備混練したブレンドマスターバッチをあらかじめ作製するのではなく、各原料ペレットを組成比の質量に混ぜ合わせ、一基の定量供給フィーダーから押出機に直接投入した。ただし、C層の樹脂組成、及び厚みについては、実施例1〜18、比較例1〜11について同一としており、C層の全樹脂成分を基準(100質量%)として、イースターPETG・6763が70質量%、ノバテュラン5020Hが30質量%からなっており、酸化チタン系白色顔料を主体とし、これに有機系の青色系顔料を併用した淡青色顔料を25質量部(C層の樹脂成分の全量を100質量部とした値)添加することにより着色されている。C層の厚みは100μmである。着色剤に関しては、PETG樹脂(イースター6763)をベースレジンとして用いた、顔料成分濃度50質量%(樹脂成分量50質量%)の市販の顔料マスターバッチを用い、所要の顔料濃度となるよう、通常のPETG原料ペレットと混合希釈して用いている。
【0142】
A層側の押出機の設定温度は、フィード側250℃、口金側270℃であり、C層側の押出機の設定温度は、フィード側220℃、口金側250℃である。分配ブロック、マルチマニフォールド型Tダイの温度設定は、A層側の樹脂組成物が芳香族ポリカーボネート系樹脂のみから成る場合で270℃、非晶性芳香族ポリエステル系樹脂の配合比率が増えた場合で260℃程度と、樹脂種に応じて適宜微調整を行った。また、Tダイの幅方向の温度設定も同様に適宜微調整を行っている。
【0143】
なお、キャスティングロールは、熱媒オイルを循環させることにより温度調整されており、ロール表面温度は、A層の樹脂組成物のガラス転移温度−15℃を基準に設定した。 キャスティングロール表面には、中心線平均粗さ(Ra)が9μm、最大高さ(Ry)が54μmの石目の柄を基調とした抽象柄の凹凸を付与するためのエンボスが彫刻されており、直径400mmの表面メッキ処理された金属ロールである。Tダイから流下した積層構成の熔融樹脂は、A層を形成する側をキャスティングロール側となるように押し出され、C層を形成する側には、水を循環させることにより40℃程度の表面温度に調整されたシリコーンゴム製のタッチロールが当接されるようにした。キャスティングロールを離れた時点でのシートの流れ速度(製膜速度)は、30m/分であった。
【0144】
実施例1〜18及び比較例1〜11のA層に使用した樹脂の組成や層の厚みについて表1に示した。また、表1−1及び表1−2中には、実施例、及び比較例の各A層の樹脂組成物のガラス転移温度、及び120℃に於ける引張り法貯蔵弾性率(E’)を記載した。ガラス転移温度の測定試料に関しては、A層とC層の共押出シートのA層側からミクロトームを用いて樹脂を削りだしたものを用いて測定している。測定自体は後述する原料樹脂のガラス転移温度の測定と同様に示差走査熱量計により行っており、引張り法貯蔵弾性率については、A層と同一の樹脂組成から成る単層のシートを直径30mmの単軸押出機と、幅300mmの単層口金を用いて厚み100μmで製膜し供試体としている。なお、表1−3及び表1−4には実施例及び比較例の層構成をまとめた表を掲載した。
【0145】
【表1−1】

ここで、貯蔵弾性率の項目の「1.3E+08」は、1.3×10(1.3掛ける10の8乗)を示す。以下の表に関しても同様。
【0146】
【表1−2】

【0147】
【表1−3】

【0148】
【表1−4】

【0149】
<実施例19〜26、参考例1〜4>
実施例19〜26、及び参考例1〜4に関しては、実施例1〜18と同様にA層とC層から成る共押出シートを得ており、A層の樹脂組成に関しては、表1−1の「a−5」と同一のものを用い、C層の樹脂組成、及び、厚みに関して、表2−1に示すものを用いている。押出し製膜の条件やエンボス付与の条件なども実施例1〜18と同様であるが、C層の樹脂組成として、融点の高い結晶性のPET樹脂を用いた、「c−11」及び「c−12」に関しては、C層側の押出機の設定温度をフィード側250℃、口金側270℃としている。C層の着色方法に関しても、実施例1〜18と同様に市販の顔料マスターバッチを用いて実施しているが、C層の樹脂成分として、PETG樹脂が含まれていない「c−10」、及び「c−12」に関しては、PCTG樹脂(PCTG・5445)をベースレジンとして用いた顔料マスターバッチの市販品を入手できなかった事から、直径25mmの二軸混練機と、ペレタイザー等所要の設備を用いて、顔料成分濃度50質量%(樹脂成分量50質量%)の顔料マスターバッチを作製した。そして、所要の顔料濃度となるよう、通常のPCTG原料ペレットと混合希釈して用いている。この場合もC層に於ける着色顔料としては、酸化チタン系白色顔料を主体とし、これに有機系の青色系顔料を併用した淡青色顔料が25質量部(C層の樹脂成分の全量を100質量部とした値)添加されるように着色されている。なお、表2−2及び表2−3には実施例及び参考例の層構成をまとめた表を掲載した。
【0150】
【表2−1】

【0151】
【表2−2】

【0152】
【表2−3】

【0153】
<実施例27〜42、比較例12、及び参考例5〜8>
実施例27〜42、比較例12、及び参考例5〜8として、A層とC層の樹脂組成物の押出し用として、シリンダー直径65mmの2箇所にベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機(JSW社製の「TEX−65」)を用い、D層の樹脂組成物の押出し用として、シリンダー直径37mmの2箇所にベント装置を有する同方向二軸混練押出機(東芝機械社製の「TEM−37」)を使用し、計3台の押出機と、所要の接続導管と3層合流フィードブロックを介在し、リップ幅1200mmの単層型のTダイを用いたフィードブロック共押出し法により、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法により、A層、C層、及びD層の計3層からなる幅950mmの3層構成の無配向の積層シートを作製した。
A層、及びC層の押出し条件は、実施例1〜18の場合と同様であり、D層用の押出機のシリンダー設定温度は、フィード側220℃、口金側250℃である。3層合流フィードブロック、単層型Tダイの温度設定は、実施例1〜18の場合と同様に、主にA層側の樹脂組成の変化に応じて適宜微調整を行った。また、Tダイの幅方向の温度設定も同様に適宜微調整を行っている。着色層であるC層に関しては、酸化チタン系白色顔料を主体とし、これに有機系の青色系顔料を併用した淡青色顔料を25質量部(C層の樹脂成分の全量を100質量部とした値)添加することにより着色されている。
ただし、C層の樹脂組成として、融点の高い結晶性のPET樹脂を用いた、「c−22」及び「c−23」に関しては、C層側の押出機の設定温度をフィード側250℃、口金側270℃としている。C層の着色方法に関しても、実施例1〜18と同様に実施しているが、C層の樹脂成分として、PETG樹脂が含まれていない「c−21」、及び「c−23」に関しては、PCTG樹脂(PCTG・5445)をベースレジンとして用いた顔料マスターバッチの市販品を入手できなかった事から、直径25mmの二軸混練機と、ペレタイザー等所要の設備を用いて、顔料成分濃度50質量%(樹脂成分量50質量%)の顔料マスターバッチを作製した。そして、所要の顔料濃度となるよう、通常のPCTG原料ペレットと混合希釈して用いている。
【0154】
なお、押出機のキャスティングロールは、熱媒オイルを循環させることにより温度調整されており、ロール表面温度は、A層の樹脂組成物のガラス転移温度−15℃を基準に設定した。キャスティングロール表面には、中心線平均粗さ(Ra)が1μm、最大高さ(Ry)が6μmの梨地の凹凸を付与するためのエンボスが彫刻された直径500mmの金属ロールを用いた。該金属ロール表面に付与されたエンボスは、積層シートにエンボス意匠感を付与するためのものではなく、製膜されたシートに滑り性を与え、巻き重ね性を良好にするためのものである。Tダイから流下した積層構成の熔融樹脂は、A層を形成する側をキャスティングロール側となるように押し出され、D層を形成する側には、水を循環させることにより40℃程度の表面温度に調整されたシリコーンゴム製のタッチロールが当接されるようにした。キャスティングロールを離れた時点でのシートの流れ速度(製膜速度)は、25m/分〜30m/分であった。
【0155】
[エンボス加工装置による積層シートへのエンボス付与]
実施例27〜42、比較例12、及び参考例5〜8において得られた積層シートについて、図2に示されるエンボス加工装置を用いてエンボス柄の転写を行った。エンボス加工装置の工程概要としては、まず加熱ロールを用いた接触型加熱によりシートの予備加熱を行い、続いて赤外線ヒーターを用いた非接触型加熱により任意の温度までシートを加熱し、任意の表面温度に調整されたエンボスロールによりエンボス柄を転写してエンボス意匠シートとするものである。
【0156】
本実施例においては、加熱ロールは140℃に設定し、次いでエンボスロールと接する直前のシート表面温度が170℃になるように赤外線ヒーターで加熱を行った。エンボスロールは温水循環機によって「各A層のガラス転移温度−15℃」を基準として温度調節されており、中心線平均粗さ(Ra)=6.5μm、最大高さ(Ry)=57μm、の抽象柄(皮目調)の凹凸を付与するためのエンボスが彫刻されている、直径200mmの表面メッキ処理された金属ロールである。該エンボスロールと、ニップロールの間で押圧されることにより上記の抽象柄意匠のエンボスをA層、C層、及びD層から成る積層シートのA層側表面に転写した。さらに該エンボスが転写されたシートは冷却ロールへと導かれ、シートが冷却されることにより柄意匠のエンボスを冷却固定した。
【0157】
実施例27〜42、比較例12、及び参考例5〜8のA層に使用した樹脂の組成や層の厚みについて表3に示した。また、表3中には、実施例、比較例、及び参考例の各A層の樹脂組成物のガラス転移温度、及び、120℃に於ける引張り法貯蔵弾性率(E’)を記載した。ガラス転移温度の測定試料に関しては、A層とC層とD層の共押出シートのA層側からミクロトームを用いて樹脂を削りだしたものを用いて測定している。測定自体は後述する原料樹脂のガラス転移温度の測定と同様に示差走査熱量計により行っており、引張り法貯蔵弾性率については、A層と同一の樹脂組成から成る単層のシートを直径30mmの単軸押出機と、幅300mmの単層口金を用いて厚み100μmで製膜し供試体としている。また、C層に使用した樹脂の組成や層の厚みについて表4に示したが、C層の樹脂組成は、基本的には実施例19〜26、及び参考例1〜4で使用したものから一部を抜粋して用いている。
D層の樹脂組成、及び厚みについては、実施例27〜42、比較例12、及び参考例5〜8について同一としており、D層の全樹脂成分を基準(100質量%)として、イースターPETG・6763が15質量%、ノバテュラン5020Hが85質量%からなっており、着色剤成分を含まない厚み20μmの層である。実施例27〜42、比較例12、及び参考例5〜8のA層とC層の組み合わせについて、表5に示した。
【0158】
【表3】

【0159】
【表4】

【0160】
【表5】

【0161】
<実施例43〜52、参考例9〜16>
(A層+B層の共押出シートの作製)
実施例43〜52、及び参考例9〜16に用いるA層及びB層の共押出シートは、シリンダー直径65mmのベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機(JSW社製の「TEX−65」)を使用し、所要の接続導管類や分配ブロックを介在し、2層のマルチマニフォールド型のリップ幅1400mmのTダイを用いた共押出し法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法により、A層とB層から成る幅1200mmの2層構成の無配向の透明積層シートを作成した。製膜の要領や押出機の温度設定、キャスティングロールの表面温度設定の調整等は、実施例1〜18の場合と同様に実施している。ただし、キャスティングロールは、表面にエンボス加工が施されていない直径500mmの鏡面金属ロールを使用している。A層の樹脂組成、及び厚みに関しては、表1の「a−5」と同一のものを用い、B層の樹脂組成、及び、厚みに関して、表6に示すものを用いている。
【0162】
(C層+D層の共押出シートの作製と印刷柄の付与)
C層とD層の共押出シートに関しても、A層とB層の共押出シートの場合と同様に共押出し製膜を行った。使用した押出し機や温度設定はA層とB層の場合と同一であるが、D層の樹脂組成として、融点の高い結晶性のPET樹脂を用いた、「d−11」及び「d−12」に関しては、D層側の押出機の設定温度をフィード側250℃、口金側270℃としている。キャスティングロールには、表面に中心線平均粗さ(Ra)が1μm、最大高さ(Ry)が6μmの梨地の凹凸を付与する為のエンボスが彫刻された直径500mmの金属ロールを用いた。該エンボスは艶消し意匠付与の目的のものではなく、C層の表面に印刷柄Eを付与する際の印刷インクの定着性を良好にするためのものである。なお、C層を形成する側が引き取りロール側となるように押し出されている。
C層の樹脂組成は、C層の全樹脂成分を基準(100質量%)として、イースターPETG・6763が75質量部、ノバテュラン5020Hが25質量%からなっており、顔料成分28質量部(C層の樹脂成分の全量を100質量部とした値)の添加により淡青色に着色されており、表4の「c−16」と同一の組成で、厚みが80μmであるものを用いている。この場合も、C層の着色剤に関しては、実施例1〜18と同様に、PETG樹脂(イースター6763)をベースレジンとして用いた、顔料成分濃度50質量%(樹脂成分量50質量%)の顔料マスターバッチを用いており、顔料成分としては、酸化チタンを主体とし、これに有機の青色系顔料を併用した淡青色顔料を用いている。C層の厚みは80μmである。D層の樹脂組成、及び、厚みに関しては、表7に示すものを用いている。
【0163】
上記で得られた、C層とD層の共押出シートのC層側表面にグラビア印刷によりアクリル・ウレタン系の印刷インクを用いて抽象柄の印刷柄Eを印刷した。グラビア印刷機での印刷適性に特に問題は発生しなかった。
【0164】
<A層+B層シートと、C層+D層シートの熱融着積層とエンボスの付与>
実施例27〜42の場合と同様に、図2に示すエンボス加工装置を用いて、A層とB層の共押出シートと、C層とD層の共押出シートの熱融着による積層と、柄意匠のエンボスの転写を行った。本実施例においては、加熱ロールは140℃に設定し、該加熱ロールへのシートの導入部でシリコーンゴム製のタッチロールで押圧する事により上記2種のシートを重ね合わせ、加熱ロールの熱により熱融着積層を行った。引き続き、積層一体化された状態のシートは、赤外線ヒーターで、エンボスロール250と接する直前の表面温度が170℃になるように加熱を行った。エンボスロールは温水循環機によって「各A層のガラス転移温度−15℃」を基準として温度調節されており、中心線平均粗さ(Ra)=6.5μm、最大高さ(Ry)=57μm、の抽象柄(皮目調)の凹凸を付与するためのエンボスが彫刻されている、直径200mmの表面メッキ処理された金属ロールである。該エンボスロールと、ニップロールの間で押圧されることにより抽象柄意匠のエンボスを転写した。さらに該エンボスが転写されたシートは冷却ロールへと導かれ、シートが冷却されることにより上記抽象柄意匠のエンボスを冷却固定した。実施例43〜52、及び、参考例9〜16に於ける、B層とC層の組み合わせについて、表8に示した。
【0165】
【表6】

【0166】
【表7】

【0167】
【表8−1】

【0168】
<参考例17〜19、比較例13>
シリンダー直径65mmのベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機(JSW社製の「TEX−65」)を使用し、所要の接続導管類や分配ブロックを介在し、2層のマルチマニフォールド型のリップ幅1400mmのTダイを用いた共押出し法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロールで引き取る一般的方法により、A層とB層から成る幅1200mmの2層構成の無配向の透明積層シートを作成した。製膜の要領や押出機の温度設定、キャスティングロールの表面温度設定の調整等は、実施例1〜18の場合と同様に実施しているが、比較例13に関しては、キャスティングロールの表面温度は60℃とした。また、キャスティングロールは、表面にエンボス加工が施されていない直径500mmの鏡面金属ロールを使用している。参考例のA層の樹脂組成、及び厚みに関しては、表1の「a−3」、「a−5」、及び「a−25」と同一のものを用いており、比較例13では、A層の樹脂組成としてホモPBT樹脂であるノバデュラン5020Hを用いている。B層の樹脂組成、及び、厚みに関しては、表3の「b−5」と同一のものを用いている。
得られた2層構成の透明積層シートに関し、JIS K 7105に準拠して全光線透過率とヘイズ(曇価)を測定した。測定結果を表13に示した。尚、参考例17〜19は、各層樹脂組成、厚みとも本発明の範囲に属するものであるが、内部ヘイズを測定する目的で、A層側表面にエンボス意匠を付与していないものである為、参考例としたものである。なお、表8−2には参考例及び比較例の層構成をまとめた表を掲載した。
【0169】
【表8−2】

【0170】
上記の実施例、参考例、及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
(アルテスター45)
三菱瓦斯化学社製の非結晶性芳香族ポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の44モル%がスピログリコール、約53モル%がエチレングリコール、約3モル%のジエチレンクリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は111℃で、融点は観察されなかった。
【0171】
(アルテスター30)
三菱瓦斯化学社製の非結晶性芳香族ポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の30モル%がスピログリコール、約66モル%がエチレングリコール、約4モル%のジエチレンクリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は101℃で、融点は観察されなかった。
【0172】
(アルテスター20)
三菱瓦斯化学社製の非結晶性芳香族ポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の20モル%がスピログリコール、約76モル%がエチレングリコール、約4モル%のジエチレンクリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は94℃で、融点は観察されなかった。
【0173】
(トライタンFX−100)
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の非結晶性芳香族ポリエステル樹脂である。
ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約79モル%が。1,4−シクロヘキサンジメタノール、約21モル%が2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールである。測定されたガラス転移温度は110℃で、融点は観察されなかった。
【0174】
(トライタンFX−200)
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の非結晶性芳香族ポリエステル樹脂である。
ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約65モル%が。1,4−シクロヘキサンジメタノール、約35モル%が2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールである。測定されたガラス転移温度は118℃で、融点は観察されなかった。
【0175】
(PCTG・5445)
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の実質的に非結晶性のポリエステル樹脂として扱うことが可能なポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の61モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約38モル%がエチレングリコール、約1モル%のジエチレングリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は86℃で、融点は観察されなかった。
【0176】
(イースターPETG・6763)
イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の非結晶性ポリエステル樹脂である(表中においては、「PETG・6763」と省略している。)。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約31モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約65モル%がエチレングリコール、約4モル%のジエチレングリコールが含まれている。測定されたガラス転移温度は78℃で、融点は観察されなかった。
【0177】
(ノバレックス・7025A)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製のビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂である。粘度平均分子量25000で、測定されたガラス転移温度は150℃、融点は観察されなかった。
【0178】
(ノバデュラン・5020H)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製の(ホモ)ポリブチレンテレフタレート樹脂である。公称IV値は1.2で、測定された融点は224℃であった。
【0179】
(ジュラネックス・500JP)
ウィンテックポリマー社製のイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂である。測定された融点は205℃であった。
【0180】
(ユニペットRT−553):は、日本ユニペット(株)製のポリエチレンテレフタレー
ト(ホモPET)樹脂である。測定された融点は254℃であった。
【0181】
(BK−2180)
三菱化学社製のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂である。測定されたガラス転移温度は76℃、融点は246℃であった。
【0182】
[エンボス意匠シート被覆金属板の作製]
< 積層シート被覆金属板の作成>
市販されているポリ塩化ビニル被覆金属板用の溶剤系加熱硬化型ポリエステル系接着剤(三菱レイヨン社製)を、金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜3μm程度になるように塗布した。次いで熱風加熱炉及び赤外線ヒーターにより塗布面の溶剤乾燥及び加熱を行い、厚み1.2mm、及び1.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板の表面温度がラミネートロール直前で230℃となるように設定した。そして、直ちにロールラミネーターを用いて、上記で作製した積層シートのエンボスが付与されていない側を積層面として被覆し、水噴射によって冷却することにより積層シート被覆金属板を作製した。ラミネート前の金属板温度や、冷却水量、冷却水温度などの冷却条件、積層シートの巻き出しトルク等のラミネート条件は、すべての実施例、及び比較例について同一である。
【0183】
[積層シート及びエンボス意匠シート被覆金属板の評価]
上記の実施例及び比較例で得た、積層シート及びエンボス意匠シート被覆金属板について、以下の各項目を評価した。結果を表9、表10、表11、表12にまとめて示す。
また、参考例及び比較例32で得た2層積層透明シートのヘイズ(曇価)の測定結果を表13に示す。
【0184】
(1)原料樹脂、及びA層の樹脂組成物のガラス転移温度の測定
ガラス転移温度(Tg)は、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC−7」を用いて、試料10mgをJIS K−7121「プラスチックの転移温度測定方法」に準じて、加熱速度10℃/分で−40℃から250℃まで昇温し、250℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−40℃まで降温、同温度で1分間保持した後、再度10℃/分で昇温した際のサーモグラムから求めた値である。同時にガラス転移温度の単一性についても判断を行った。また、上記の使用原料の物性に記載したガラス転移温度、及び融点に関しては、各原料ペレットをそのまま試料として用いた。また、結晶性のPET系樹脂である「ユニペットRT−553」、及び「BK−2180」の原料の測定に際しては、275℃までの昇温を実施している。
【0185】
(2)A層の樹脂組成物の120℃に於ける貯蔵弾性率の測定
岩本製作所製粘弾性スペクトロメーターにより、厚み100μmのA層の樹脂組成物単層から成るシートのMD方向に関し測定を行った。測定方法は通常の引っ張り法・温度分散測定法に準じ、−100℃から昇温速度3℃/分で昇温し、250℃までの測定を実施した後、周波数10hzでの120℃における貯蔵弾性率(E’)を読みとった。また、同時に温度分散の虚数項(損失弾性率・E“)の分散ピークから、ガラス転移温度の単一性についても判断を行った。
【0186】
(3)エンボス転写性
押出しキャストエンボス法によるエンボス付与を実施した積層シート(実施例1〜26、比較例1〜11、及び参考例1〜4)または、エンボス加工装置によるエンボス付与を実施した積層シート(実施例27〜52、比較例12、及び参考例5〜16)に関し、エンボスが付与された側の表面を表面粗さ計(小坂研究所製「サーフコーダ」SE−40D)で測定し、中心線平均粗さRa1(μm)を求めた。 同時に、新見化学工業社製の歯科用印象材料「ジーシー・モデリングコンパウンド」を用いて、記載の使用方法に従ってエンボス版ロール表面のエンボス凹凸の反転レプリカを作成し、該表面の中心線平均粗さを測定しRa0(μm)とした。これらの測定値から、エンボス転写率を以下の式によって求めた。
(エンボス転写率:Ra1/Ra0×100(%))。
ただし、エンボス版ロール表面のエンボス凹凸に、場所による粗さの差が存在する懸念と、反転レプリカが表面凹凸を完全に反転再現し得ているかについての懸念が存在する為、目視による外観評価を併用し、転写率が75%以上であり、且つ、目視でも転写に異常が認められない場合を「○」、残存率が75%未満であるが、視覚的には顕著な異常として認められない場合を「△」、残存率が75%未満であり、且つ、視覚的にもあきらかにエンボスの転写が浅く、意匠感に乏しいものを「×」で示した。尚、エンボス転写性が「×」の評価となったものに関しては、項目(5)のエンボス耐熱性の評価を実施できなかった。
【0187】
(4)エンボス付与適性
(4−1)耐粘着性
図2に示すエンボス加工装置でエンボスを付与した際に、加熱ロールに積層シートが粘着して剥離困難になり作業の継続が困難であったもの、及び剥離は可能であったが粘着の影響によりシートの伸び・変形・皺入りが顕著であり、商品価値を有するエンボス意匠シートを得る事が出来なかったものは「×」、軽度の粘着を示したが作業の継続が可能であり、シートの伸び・変形も実用上支障のない範囲であったものを「△」、粘着せず安定した作業が可能であったものは「○」で示した。耐粘着性で「×」となったものに関しては、以降の評価を実施していない。該評価は、エンボス加工装置によるエンボス付与を実施した、実施例27〜52、比較例12、及び参考例5〜16について実施している。尚、耐粘着性に関し「×」の評価となったものは、以降の評価を実施する事が出来なかった。
【0188】
(4−2)耐溶断性
図2に示すエンボス加工装置でエンボスを付与した際に、赤外線ヒーターによるシート加熱中にシートが溶断したもの、及びシートの顕著な伸びや幅縮み、皺入り等を発生したものは「×」、軽度なシートの伸び・幅縮み等を生じたが実用上支障のない範囲であったものを「△」、これらの問題を生じず安定した作業が可能であったものは「○」で示した。この評価で「×」となったものに関しては、以降の評価を実施していない。該評価は、エンボス加工装置によるエンボス付与を実施した、実施例27〜52、比較例12、及び参考例5〜16について実施している。尚、耐溶断性に関し「×」の評価となったものは、以降の評価を実施する事が出来なかった。
【0189】
(5)エンボス耐熱性
(5−1)金属板ラミネート時のエンボス耐熱性(エンボス残存率)
積層シートをラミネートした金属板の樹脂層側表面を表面粗さ計(小坂研究所製「サーフコーダ」SE−40D)で測定し、ラミネート後の中心線平均粗さRa2(μm)とし、
エンボス転写率の項で測定した、エンボス転写後の積層シートの中心線平均粗さRa1(μm)との比較から以下の式により、ラミネート時のエンボス残存率を以下の式によって求めた。
(エンボス残存率:Ra2/Ra1×100(%))
残存率が75%以上であり、且つ、目視でも転写に異常が認められない場合を「○」、残存率が75%未満であるが、視覚的には顕著な異常として認められない場合を「△」、残存率が75%未満であり、且つ、視覚的にもあきらかにエンボスの転写が浅く、意匠感に乏しいもの、或いはスジ状などに部分的にエンボスの転写が浅くなっており、商品価値
を認められないものを「×」で示した。
金属板は、厚み1.2mm、及び、1.6mmの溶融亜鉛メッキ鋼板を使用している。尚、金属板へのラミネート時に著しいエンボス戻りを生じ「×」の評価となったものに関しては、項目(6)の沸騰水浸漬後の異常の有無の評価を実施していない。
【0190】
(6)沸騰水浸漬後の異常の有無
積層シートを厚み1.6mmの溶融亜鉛メッキ鋼板にラミネートした積層シート被覆金属板に関して、エンボスが付与された樹脂層側表面を表面粗さ計(小坂研究所製「サーフコーダ」SE−40D)で測定し、短時間沸騰水に浸漬しても消色しないインクにより測定開始点と終了点に印を付けておき、その後沸騰水中に3時間浸漬した。取り出し乾燥後、上記印を付けた測定箇所に関し、再度表面粗さ測定を実施し、沸騰水に投入する前の中心線平均粗さをRa3(μm)、沸騰水浸漬後のそれをRa4(μm)としてエンボスの残存率を求めた(残存率:Ra4/Ra3×100(%))。
また、沸騰水浸漬後の樹脂被覆金属板の樹脂被覆側の表面の目視観察を実施し、エンボス残存率が75%以上であり、且つ、エンボス戻り以外の沸騰水浸漬に起因する樹脂層の軟化・流動に起因する変形なども認められない場合を「○」、残存率が75%未満であるが70%以上であり、且つ、視覚的にもエンボス戻り以外の沸騰水浸漬に起因する樹脂層の軟化・流動に起因する変形などが顕著な異常として認められない場合、または、残存率が75%以上であるが、沸騰水浸漬に起因する樹脂層の軟化・流動に起因する変形が僅かに認められる場合を「△」、残存率が70%未満であり、視覚的にもあきらかにエンボスの意匠感が低下している場合、及び、エンボス残存率に関わらず、樹脂層の軟化・流動に起因する変形により著しく意匠性が低下している場合を「×」で示した。
【0191】
(6)折り曲げ加工性(樹脂被覆金属板の折り曲げ加工性)
積層シートを厚み1.6mmの溶融亜鉛メッキ鋼板にラミネートした積層シート被覆金属板に関して、油圧ベンダーによるV曲げ試験を行い、曲げ加工部の積層シートの面状態を目視で判定した。積層シート被覆金属板の長さ方向及び幅方向からそれぞれ50mm×150mmの試料を作製し、23℃で1時間以上保った後、油圧式の折り曲げ試験機(油圧ベンダー)を用いて積層シートが被覆された側が突出側となるように、内半径2mmで90度に折り曲げた。
折り曲げ部分の樹脂層について目視観察を行い、樹脂層に白化や、微細クラックの発生、割れ等の異常が認められない場合を「○」、僅かに白化や微細クラックが発生したものの、樹脂層が割れる事は無い場合を「△」、割れが発生したもの、及び、割れる事は無かったものの、著しい白化や微細クラックの発生を見たものを「×」として評価した。
【0192】
(7)表面硬度(樹脂被覆金属板の鉛筆硬度試験)
積層シートを厚み1.6mmの溶融亜鉛メッキ鋼板にラミネートした積層シート被覆金属板に関して、JIS K5600−5−4:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」に従い実施した。23℃の恒温室内で、80mm×60mmに切り出した樹脂被覆金属板の樹脂シート面に対し45°の角度を保ちつつ9.8Nの荷重を掛けた状態で線引きをできる治具を使用して線引きを行い、該部分の樹脂シートの面状態を目視で判定し、Bの鉛筆で全く傷が付かなかったものを「○」、Bでは傷が入るが、2Bの鉛筆では全く傷が付かなかったものを「△」、2Bの鉛筆でも傷が付いたものを「×」として表示した。
【0193】
(8)耐アルカリ浸漬試験
積層シートを厚み1.6mmの溶融亜鉛メッキ鋼板にラミネートした積層シート被覆金属板に関して、JIS K 6744「ポリ塩化ビニル被覆金属板」の7.5「耐薬品性試験」に準拠して、積層シート被覆金属板を50mm×100mmに切り出し、切断端部をセメダイン(株)社製アクリルシリコーン系接着剤「セメダインスーパーX」で封止処理した後、23℃の雰囲気温度下で、10%苛性ソーダ水溶液中に5時間浸漬して取り出し、その積層シートの面状態を目視で観察、外観変化の無かったものを「○」、樹脂層に著しいクラックの発生が認められたものを「×」、よく見れば確認できるレベルの僅かな微細クラックが発生したものを「△」とした。
【0194】
【表9−1】

【0195】
【表9−2】

【0196】
【表10】

【0197】
【表11】

【0198】
【表12】

【0199】
【表13】

【0200】
[評価結果]
<実施例1〜18、及び比較例1〜11>
比較例9は、A層の樹脂組成物として、芳香族ポリカーボネート系樹脂(a2成分)のみを用いた場合であり、押出しキャストエンボス法によるエンボス転写自体には問題がなく、良好なエンボス転写性が得られており、また、厚み1.6mmの金属板にラミネートした場合も、エンボス耐熱性に問題は生じなかったが、アルカリ浸漬試験で著しいクラックを発生する結果となっている。
比較例1、比較例2、比較例8は、いずれもガラス転移温度が100℃以上である芳香族ポリエステル系樹脂(a1成分)と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(a2成分)のブレンド組成物より成るA層を用いており、該ブレンド組成物は相容系であると判断されるが、(a2成分)の配合比率が本発明の範囲を超えるものであり、やはりエンボスの耐熱性に問題は無いものの、アルカリ浸漬試験で著しいクラックが発生している。比較例3〜6は、ガラス転移温度が100℃未満の芳香族ポリエステル系樹脂と、(a2成分)のブレンド組成物より成るA層を用いた場合であり、この場合もブレンド組成物は相容系であるが、芳香族ポリエステル樹脂のガラス転移温度が低い事から、(a2成分)の配合比率が高い(50質量%を超える)組成としないと、エンボス耐熱性を確保する事が出来ていない。その結果としてアルカリ浸漬試験の結果が悪いものしか得られていない。比較例3では、芳香族ポリエステル系樹脂と(a2成分)の配合比率が等量となっており、アルカリ浸漬性が改善しているが、充分ではなく、またエンボス耐熱性は依然不充分であり、芳香族ポリエステル系樹脂として、ガラス転移温度が100℃未満のものを用いた場合は、エンボス耐熱性と耐アルカリ性を両立させる事が出来ない結果となった。
比較例9〜11は、やはり(a2成分)と相容系のブレンド組成物を形成する芳香族ポリエステル樹脂であるが、更にガラス転移温度が低いものを用いた場合であり、エンボス耐熱性と耐アルカリ性の両立はやはり困難な結果となっている。
【0201】
以上の比較例に対して、本発明の実施例1〜18の積層シートは、いずれも押出しキャストエンボス法でのエンボス転写性に問題はなく、良好なエンボス転写が得られている。
ただし、(a2成分)の配合比率の低い実施例1、実施例7、実施例11に於いては、厚み1.2mmの金属板へのラミネートに於いてはエンボス耐熱性に問題は出なかったものの、厚み1.6mmの金属板へのラミネートではエンボス耐熱性が不充分であった。これらより(a2成分)の配合比率を増やした、実施例2、実施例8、実施例12では、厚み1.6mmの金属板でのエンボス耐熱性は向上しており、エンボス戻りは視覚的に品質異常と認められるものではなくなったが、エンボス残存率についてはやや悪い結果となっている。他の実施例に関しては、(a2成分)の配合比率は50質量%以下でありながら、上記実施例より(a2成分)の配合比率が高い場合であり、エンボス耐熱性に問題は生じていない。
【0202】
これらに関し、A層の樹脂組成物の120℃に於ける貯蔵弾性率(E’)を測定してみると、2×10(Pa)以下の場合で、1.6mmの金属板へラミネートした場合のエンボス戻りが顕著であり、4×10(Pa)以上の場合では、ほぼエンボス耐熱性に問題が生じない結果となっている。
一方、(a1成分)50質量%と(a2成分)50質量%とのブレンド組成物となっている実施例6、実施例10、実施例15においては、耐アルカリ浸漬試験の結果がやや悪くなっており、(a2成分)の配合比率は45質量%以下である事が特に好ましい。
このように、A層の樹脂組成物に於ける(a1)成分と(a2)成分の配合比率は、エンボス耐熱性と、耐アルカリ浸漬性の両面から制約を受ける事となる為、(a1)成分としては、よりガラス転移温度の高いものを用いたほうが配合比率の幅を広げる事が可能であり、(a1成分)として、ガラス転移温度が101℃であるものを用いた実施例7〜10と比較して、同111℃のものを用いた実施例1〜6のほうがより広い配合比率の範囲で、エンボス耐熱性と耐アルカリ浸漬性の両立を得られている。
【0203】
<実施例19〜26、及び参考例1〜4>
A層の樹脂組成、及び厚みに関しては、本発明の範囲内のものを用いている為、1.6mmの金属板へラミネートする際のエンボス耐熱性に問題は無かった。また、アルカリ浸漬試験でも異常は発生していない。また、エンボスロールの版深(エンボスロールの凹凸の最大高さ・Ry値)として、A層の厚みより大きな値を有するものを用いているが、A層の下に位置するC層もエンボスロールによる押圧で変形する層として機能する為、押出しキャストエンボス法でのエンボス転写性に問題は発生していない。
【0204】
着色層であるC層は、所要の視覚的隠蔽性を確保する為に、比較的厚みのある層とせざるを得ないが、参考例1は該C層をガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂であるPETG樹脂のみから構成した場合であり、沸騰水浸漬時にC層の軟化、流動に起因する著しい外観不良、意匠感の低下を生じてしまった。C層の樹脂組成を該非晶性ポリエステル系樹脂90質量%と、10質量%のPBT樹脂のブレンド組成とした参考例2においても、沸騰水浸漬による外観不良に目立った改善効果は得られなかった。これに対し、更にPBT樹脂の配合量を増やした実施例16に於いては、沸騰水浸漬後の外観は相当改善される結果となり、PBT樹脂を25質量%以上の量含む、実施例17〜実施例23に於いては、沸騰水浸漬の前後で、外観に差異を生ずる事がなく、特に良好な耐沸騰水性を得られている。実施例18では、C層の厚みをやや過剰な200μmまで厚くしたが、それでも耐沸騰水性に関して問題は発生していない。
これに対し、PBT樹脂より結晶化速度の遅い結晶性の共重合PET樹脂を配合した参考例3、及び参考例4では、C層がPETG樹脂のみから成る場合と沸騰水浸漬後の外観に大きな違いを見出せなかった。沸騰水に浸漬された際、共重合PET樹脂が結晶化するより早くC層の軟化、流動変形が発生してしまうものと考えられる。
エレベーター内装用途に於いては、耐沸騰水浸漬性を求められる事は少ないが、ユニットバス壁材等の用途に於いては、該試験に合格する事を求められる場合が多く、積層シートを被覆した金属板の用途に、より汎用性を持たせる目的に於いてC層の樹脂組成を本発明の実施例の範囲としておく事が好ましい。
【0205】
<実施例27〜42、比較例12、及び参考例5〜8>
A層の樹脂組成に関しては、全て本発明の範囲にあるものを用い、Aの厚みを変えた場合、及び、C層の樹脂組成を変えた場合についての検討となっている。また、押出し製膜設備とは別ラインにあるエンボス加工装置でエンボスを付与する為にD層が存在する構成での検討である。
着色層であるC層は、耐熱性に優れる樹脂層であるA層とD層の間に存在する事になるが、やはり、C層をガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂であるPETG樹脂のみから構成した参考例5に於いては、沸騰水浸漬時にC層の軟化、流動に起因する著しい外観不良を生じている。C層の樹脂組成を該非晶性ポリエステル系樹脂90質量%と、10質量%のPBT樹脂のブレンド組成とした参考例6においても、沸騰水浸漬による外観不良に目立った改善効果は得られなかった。これに対し、更にPBT樹脂の配合量を増やした実施例35に於いては、沸騰水浸漬後の外観は相当改善される結果となり、PBT樹脂を25質量%以上の量含む、実施例27〜34、及び、実施例36〜実施例42に於いては、特に良好な耐沸騰水浸漬性を得られており、積層シートの構成、エンボス付与方法が異なる場合に於いても、実施例19〜26と同様の結果となっている。C層の樹脂組成物として、PETG樹脂と結晶性の共重合PET樹脂とのブレンド組成を用いた参考例7、参考例8で耐沸騰水浸漬性が悪いのも同様である。
【0206】
ただし、実施例38に於いては、エンボス加工装置によるエンボス転写性がやや悪化しており、実施例39ではエンボス転写性は著しく低下してしまった。これらのC層の組成は、実施例20、実施例21と夫々同一であり、押出しキャストエンボス法でエンボスを転写する場合には問題が出なかったものである。これらは、C層の樹脂組成中のPBT樹脂の配合比率が比較的高いものである為、エンボス加工装置の加熱ロールとの接触時にC層のPBT樹脂が結晶化し、それによってC層がエンボスロールによる押圧を受けても変形しなくなるものと考えられる。従って、エンボス加工装置を用いる場合で、A層の厚み以上の版深を有するエンボス凹凸を付与する場合、C層のPBT系樹脂の配合比率は、40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である事が好ましいが、A層の厚みがエンボスロールの版深に対し同程度であるか、充分に厚い場合はこの限りではない。
【0207】
エンボスの耐熱性を保持する層であるA層の厚みが極端に薄い場合である比較例12に於いても、C層の樹脂組成が、エンボス加工装置を用いた際もエンボス版ロールによる押圧で問題なく変形する組成である事により、エンボスの転写性自体に問題は出なかったが、ラミネート時のエンボス耐熱性が悪い結果となった。比較例12よりはA層の厚みが厚い実施例17では、ラミネート時のエンボス耐熱性は改善され、視覚的には異常が認められない程度となったが、エンボス残存率についてはやや悪い結果となっている。A層の厚みとしては、実施例17と同レベルであるが、よりガラス転移温度の高い(a1成分)を用いており、更に(a2成分)の配合比率も高い実施例34に於いても、状況は実施例17の場合と同様であった。これらに対して、更にA層の厚みを厚くした実施例28〜33では、エンボス耐熱性に問題は生じていない。ただし、エンボス耐熱性を確保する為に必要なA層の厚みも、転写するエンボスの版深によって変わり得るものと推定される。
【0208】
実施例41、実施例42に関しては、不用意にA層、及びC層双方の厚みを比較的厚くした組み合わせであり、樹脂被覆金属板としての折り曲げ加工性に問題が出る結果となっている。実施例27〜42に於いては、中心線平均粗さ(Ra)=6.5μm、最大高さ(Ry)=57μm、の版深を有するエンボスを転写しているが、この程度の版深であれば、実施例41や42ほどの積層シートの総厚みは不要と考えられ、積層シートの総厚みが半分以下である実施例27に於いても良好なエンボス転写性が得られている。実施例41、同42で、折り曲げ加工性以外の他の評価項目については特に問題は発生していないが、コストの点からも、積層シートの総厚みは、300μm以下、好ましくは、250μm以下とする事が好ましい。
【0209】
<実施例43〜52、及び参考例9〜16>
印刷柄Eを有する構成について、A層の樹脂組成、及び厚みは、表1の「a−5」と同一とし、C層の樹脂組成については表4の「c−16」と同一で、厚みのみを80μmとしたものを用いている。また、押出し製膜設備とは別ラインにあるエンボス加工装置でエンボスを付与する為にD層が存在し、印刷柄Eを付与した共押出しシート(C層+D層)と、A層との熱融着積層性を良好にする為にB層が存在する構成での検討である。
これらの実施例、及び参考例で、エンボス加工装置での熱融着積層自体には問題は発生しなかった。
【0210】
参考例9、及び参考例10は、PETG樹脂(ガラス転移温度78℃)のみから成るB層の厚みが比較的厚い場合であり、エンボス加工装置によるエンボス転写に問題はなく、A層の樹脂組成と厚みが本発明の範囲内にある事から、ラミネート時のエンボス耐熱性にも問題はなかった。しかし、沸騰水浸漬によりB層の軟化、流動に起因する著しい外観不良を生じている。参考例11は、PETG樹脂よりはガラス転移温度の高いPCTG樹脂(ガラス転移温度86℃)を用いた場合であるが、やはり厚みが過度に厚い事により、沸騰水浸漬で外観不良を生じている。これらに対して、B層の厚みを減じた実施例43においては、沸騰水浸漬後の外観変化は、実用上問題のない程度のものとなっており、更に厚みを減じた実施例44〜46では、更に沸騰水浸漬性が改善されている。B層の厚みが最も薄い実施例45でも、エンボス加工装置でのA層+B層の共押出しシートと、C層+D層の共押出しシートの熱融着積層に問題は発生しなかった。
【0211】
参考例12は、D層のPBT樹脂の配合量が少ない例である。この場合、エンボス加工装置の加熱ロールに粘着を示しながらも辛うじて引き剥がすことができたが、赤外ヒーターでの積層シート加熱時に著しいシートの伸びと皺入りを発生し、安定したエンボス付与作業を継続実施する事が困難であった。
参考例13は、D層の樹脂組成物の配合比率としては好ましい範囲にあるものの、D層の厚みが薄い例である。この場合、加熱ロールにシート両端部が著しい粘着を示す結果となった。引き剥がすことはできたものの、赤外ヒーターでの積層シート加熱時に著しいシートの伸びと皺入りを生じ、やはり安定したエンボス付与が困難であった。端部の加熱ロールへの粘着は、積層シートを共押出し法で製膜する際、D層の厚みが薄過ぎることにより、幅方向への展開不良を生じ、端部においてはD層が形成されていない可能性がある。共押出し法の条件の最適化等によってもこの問題は解決できると思われるが、赤外ヒーター加熱でのシートの伸びも張力保持層であるD層が過度に薄いことに起因している。
【0212】
参考例14は、D層のPBT系樹脂としてイソフタル酸共重合のPBT樹脂を用いた例である。この場合、加熱ロールに僅かな粘着を示した後、赤外ヒーター加熱で積層シートに著しい伸びと皺入りを生じた。加熱ロールへの微粘着は、該イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化速度がホモPBT樹脂に比べて遅いことに起因する。結晶化が不十分な内に加熱ロールを離れることになったためと思われる。また、該樹脂の融点が205℃程度であるため、赤外ヒーターにより170℃に加熱された際、溶融張力の不足をきたしたと考えられる。
参考例15は、D層に結晶性ポリエステル系樹脂であるが、結晶化速度がPBT系樹脂に比べて極めて遅い、イソフタル酸共重合のPET樹脂を用いた例である。この場合、参考例14よりも加熱ロールへの粘着が顕著となり、引き剥がしが困難で以降の作業が不可能となった。イソフタル酸共重合のPET樹脂の場合、加熱ロール上で結晶化が殆ど進行しなかったものと思われる。
参考例16は、イソフタル酸共重合PET樹脂よりは結晶化速度が速いホモPET樹脂をD層に用いた場合であるが、状況は参考例15と大差ない結果となった。
【0213】
これらに対して、融点が210℃以上であるPBT系樹脂をD層の主成分として用いた実施例47〜52に於いては、エンボス加工装置での操作に支障は生じず、良好な生産性で、転写率の良いエンボス付与を実施できている。ただし、D層の厚みがやや薄い実施例49において、ややヒーター加熱時にシートが伸びる結果となり、D層のPBT樹脂の配合比率が本発明の範囲の下限であり、D層の厚みもそれほど厚くない実施例50に於いても同様の傾向が認められた。また、D層の樹脂組成として、ホモPBT樹脂のみを用いた実施例52において、C層とD層との共押出しシートの反りが顕著なものとなり、以降の取り扱いにやや支障を来たしたが、作業が困難となるものではなかった。
以上より、本発明のA層を有する事により、エンボス加工装置でエンボス付与を行う場合も、良好なエンボス耐熱性を確保できる事がわかるが、エンボス加工装置への適性を付与する為に、D層の樹脂組成を本発明の実施例の範囲としておく事が好ましい。
【0214】
<参考例17〜19、及び比較例13>
PBT系樹脂は無配向の状態で結晶化させても、極めて微細な球晶構造を形成する為、同様の状態で結晶化させたPET系樹脂に比べると遥かに良好な透明性を得る事ができるが、それでも結晶化により、ある程度のヘイズの上昇は免れない。該結晶化した状態のPBT系樹脂から成る顔料成分無添加の層を有するのが、比較例13である。これに対し、参考例17〜19の積層シートは、A層、B層とも実質的に非晶性である樹脂組成物で形成されている事により、極めて低ヘイズな透明シートとなっており、着色された各種基材の上に被覆して用いる場合や、印刷柄の上に被覆して用いる場合に、それらが本来有する発色や意匠感を損ねる事が少ないと言え、これは表面にエンボス意匠が付与された透明シートの場合も同様であると考えられる。
【0215】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う積層シート、エンボス意匠シート、エンボス意匠シート被覆金属板、ユニットバス部材、建築内装材、鋼製家具部材、及び、家電製品筐体部材もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0216】
【図1】(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明のエンボス意匠積層シート100A、100B、100C、100Dの層構成を示す模式図である。(e)、(f)は、本発明のエンボス意匠シート被覆金属板200A、200Bの層構成を示す模式図である。
【図2】エンボス模様を付与するために一般的に用いられているエンボス加工装置300の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0217】
10 A層
20 B層
30 C層
40 D層
50 印刷柄E
60 金属板
70 接着剤層
100A、100B、100C、100D エンボス意匠を有する積層シート
200A、200B、エンボス意匠を有する積層シートを被覆した金属板
300 エンボス加工装置
310 加熱ロール
320 テイクオフロール
330 赤外線ヒーター
340 エンボスロール
350 ニップロール
360 冷却ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの最表面層(以下A層)が、A層樹脂成分全体の質量に対して、ガラス転移温度が100℃以上である芳香族ポリエステル系樹脂(a1成分)50質量%以上と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(a2成分)50質量%以下とから成る樹脂組成物が主成分であり、a2成分のガラス転移温度がa1成分のガラス転移温度よりも高く、A層の厚みが5μm〜100μmであり、A層の露出する面に凹凸意匠を備えていることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記a1成分のジカルボン酸成分が、テレフタル酸、またはその誘導体を主体とし、ジオール成分が、エチレングリコール50モル%〜70モル%とスピログリコール30モル%〜50モル%とを主体とする樹脂組成より成る芳香族ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記a1成分のジカルボン酸成分が、テレフタル酸、またはその誘導体を主体とし、ジオール成分が、1,4−シクロヘキサンジメタノール60モル%〜80モル%と、2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール20モル%〜40モル%とを主体とする樹脂組成より成る芳香族ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
A層を構成する樹脂成分が、周波数10Hzで、動的粘弾性引張り法による貯蔵弾性率(E’)を測定した場合、その120℃での測定値が、2×10(Pa)以上、6×10(Pa)以下である請求項1〜3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
A層の凹凸意匠を備えない面に、以下に記載のB層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層シート。
B層: B層における樹脂成分全体の質量を基準として、ガラス転移温度が100℃未満である実質的に非晶性のポリエステル系樹脂70質量%以上から成る樹脂層。
【請求項6】
A層の凹凸意匠を備えない面に、以下に記載のC層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層シート。
C層: C層の樹脂成分の全量を100質量%として、融点が210℃〜230℃のポリブチレンテレフタレート系樹脂を20質量%〜70質量%と、ガラス転移温度が100℃未満であるポリエステル系樹脂30質量%〜80質量%とから成り、着色剤を添加した樹脂層
【請求項7】
A層の凹凸意匠を備えない面に、C層、及び以下に記載のD層を有することを特徴とする請求項6に記載の積層シート。
D層: D層の樹脂成分の全量を100質量%として、融点が210℃〜230℃のポリブチレンテレフタレート系樹脂を75質量%以上含有してなる樹脂層。
【請求項8】
A層の凹凸意匠を備えない面に、以下に記載のB層、C層、及びD層を有することを特徴とする請求項7に記載の積層シート。
【請求項9】
A層の凹凸意匠が、押出し製膜設備とは別に設置されたエンボス加工装置により付与されたものであることを特徴とする積層シート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の積層シートにより被覆されていることを特徴とする被覆金属板。
【請求項11】
請求項9に記載の被覆金属板を用いたエレベーター内装材。
【請求項12】
請求項9に記載の積被覆金属板を用いたユニットバス部材。
【請求項13】
請求項9に記載の被覆金属板を用いた建築内装材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−5650(P2011−5650A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148451(P2009−148451)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】