説明

積層シート

【課題】 インキ乾燥性、耐摩擦性等が良好で印刷性に優れた耐水性を有する積層シートを提供する。
【解決手段】 シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する積層シートの少なくとも一方の表面、あるいは熱可塑性樹脂からなるシートの少なくとも一方の表面に、無機顔料と、アクリル系またはスチレンアクリル系の重合体または共重合体であるソープフリータイプのバインダーとを含有する塗工層を設けた積層シート。無機顔料とバインダーとの固形分比率は100:10〜100:100が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート上に熱可塑性樹脂層を設けた耐水性を有する積層シートに関し、特にオフセット印刷に適した積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、耐水性積層シートとしては、紙基材等に無機充填剤を含有する熱可塑性樹脂をラミネートした複合紙タイプの積層シートと、熱可塑性樹脂に無機充填剤や発泡剤を練り込んで延伸した合成紙タイプのものが知られ、ポスター、ラベル、配送伝票、冷凍・冷蔵食品の包装等、耐水性が要求される各種分野で用いられている。しかし、これらの耐水性シートは、そのままでは表面にインキが殆ど染込まない。従って、これをオフセット印刷等の各種印刷に用いた場合、印刷されたインキはシート表面に滞留してそのまま乾燥し、そのため、印刷後のシートを擦ったりすると、乾燥したインキがシート表面から剥がれ落ちたり、シート表面で砕けて印刷面を汚したりすることとなる。
【0003】
かかるトラブルを防止する方法の一つとして、シート表面に、より強固にインキ層を形成することが考えられる。例えば、市販の合成紙専用インキは、不飽和結合を多く含む植物油を主体とした溶剤を用い、酸化重合によってインキを固化させることで、シート表面のインキ層を強固なものとする。この合成紙専用インキは、合成紙のみならず複合紙にも用いることができ、これを用いれば、摩擦によっても消えたり汚れたりしない、優れた印刷面を得ることができる。一方、このインキは完全に固化するまでに非常に長い時間がかかり、印刷後、次工程に送るまでの待機時間を長く取らなければならない。この時間が不十分であると、印刷後のシートを積重ねて保存した場合に、シート表面のインキが、その上に積重ねられたシートの裏面に転移するという問題(裏付き)が発生する。また、このようなインキは、空気中の酸素と反応して固化するため、印刷中に固化が始まって印刷インキの粘度が上昇し、印刷機の安定的な操業を妨げることもある。
【0004】
そこで、耐水性シートの印刷性改良方法のもう一つとして、インキ受理層としてシート表面に無機顔料等を含有する塗工層を設け、これにインキを吸収させるインキ受理層とすることが考えられる。この方法であれば、一般のコート紙用に従来から汎用されているオフセット印刷用等のインキも用いることができる。
【0005】
例えば、特許文献1は、充填剤配合樹脂延伸フィルムを紙状層とする合成紙基材上に、特定のエチレンイミン−エチレン尿素共重合体を含むインキ接着向上層を設けるものであり、この共重合体水性溶液中に炭酸カルシウム等の無機充填剤を添加してもよいことが記載されている。また、特許文献2は、プラスチックフィルムの片面に、ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体とカチオン系ポリマーとを主成分とする高分子結着剤と、高吸油量のシリカ等からなる多孔質粒子とを含む被覆層を設けた、インキ乾燥性等に優れる印刷用受容シートが記載されている。特許文献3には、ソープフリーラテックスであるスチレン・ブタジエンコポリマーと異形粒子を主成分とするインク定着層を設けたオフセット印刷用フィルムが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特公昭53−6676号
【特許文献2】特開平5−201118号
【特許文献3】特開2001−239740
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、無機顔料とバインダー等を含有する塗工層を設ける場合は、インキ乾燥性と塗工層強度を両立させることは難しい。すなわち、インキ乾燥性を向上させるためには無機顔料の比率を大きくすれば良いが、塗工層の強度が低下するために耐摩擦性に劣ったり、オフセット印刷の際に基材から塗工層が欠落してブランケットに付着するなどの問題が生じる。他方、バインダーの比率を大きくすれば塗工層強度は大きくなるが、インキ乾燥性は低下する。
また、塗工層のバインダーの種類として、例えばスチレン−ブタジエン共重合体系ラテックスを用いた場合、成膜性が高く優れた塗工層を得ることができる一方で、塗工層がべたつきやすくなる傾向があり、夏場など高温環境下で保管した際にシート同士がブロッキング(接着)を起こし、塗工層が破壊されるという問題が起こることがある。
本発明はかかる問題点を踏まえ、インキ乾燥性と耐摩擦性に優れた耐水性を有する積層シートを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、無機顔料とソープフリータイプのバインダーを用いることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する積層シートの少なくとも一方の表面、あるいは、熱可塑性樹脂からなるシートの少なくとも一方の表面に、無機顔料と、アクリル系またはスチレンアクリル系の重合体または共重合体であるソープフリータイプのバインダーとを含有する塗工層を設けたことを特徴とする積層シートに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層シートは、優れたインキ乾燥性を示す塗工層が設けられているので、この塗工層を印刷面として、オフセット印刷等を行うことができる。しかも、この塗工層は十分な耐摩擦性を示し、ブランケット汚れ等が発生しにくいため印刷作業性にも優れている。このように本発明によれば、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れた積層シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において塗工層を設ける積層シートは、シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有するものであればどのようなものであってもよい。即ち、シートの一方の最外層が熱可塑性樹脂層であれば、シートの他方は基材が露出していても、熱可塑性樹脂層が積層されていても、どちらでも構わない。シートの両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する場合には、これらの層が、それぞれ異なる種類・組成の熱可塑性樹脂で形成されていても構わない。なお、かかる基材と最外層の熱可塑性樹脂層との間に、他の熱可塑性樹脂層など別の層が存在していてもよいし、熱可塑性樹脂層にコロナ放電処理等の表面処理を施しても構わない。
【0011】
具体的には例えば、本発明で用いられる積層シートは、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂の単独又は共重合体を用い、これを紙、不織布、布、金属箔、合成樹脂フィルムもしくはシート、又はこれらの複合素材からなる基材上に、押出しラミネーション、共押出しラミネーション、ドライラミネーション、ウェットラミネーション等、公知の方法を用いて積層することにより製造できる。
【0012】
また、本発明においては、上記積層シートの代わりに、熱可塑性樹脂からなるシートを用いることもできる。かかるシートとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニルもしくはこれらの混合物等からなる延伸シート、又は、これらの熱可塑性樹脂もしくは混合物に無機充填剤や発泡剤を練り込んで延伸することにより外観を紙様としたシートを用いることができる。
【0013】
本発明においては、上記積層シートの少なくとも一方の熱可塑性樹脂層表面に、又は、上記熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の表面に、無機顔料とソープフリーで製造されたバインダーとを含有する塗工層を設けることで、インキ乾燥性と耐摩擦性に優れた耐水性シートを得ることができる。
【0014】
本発明において用いられる無機顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、カオリン、シリカ等などがあるが、これらに限定されるものではない。中でも、吸油量70ml/100g以上の高い吸油性を有する顔料が好ましく、種類としては焼成クレー、シリカが好ましい。
【0015】
本発明で用いられるバインダーは、製造時に乳化剤を用いないで製造したソープフリータイプのものであり、優れたインキ密着性や耐摩擦性、耐黄変性の観点から、スチレン−アクリル系共重合体、アクリル系重合体、好ましい。また、バインダーのTgは−10℃〜50℃が好ましい。
【0016】
無機顔料とバインダーとの混合比率は、無機顔料の比率が少なくなるとインキ乾燥性が劣り、バインダーの比率が少なすぎると十分な耐摩擦性が得られ難くなるため、インキ乾燥性と耐摩擦性のバランスをとる観点から、100:10〜100:100が好ましい。特に好ましい無機顔料とバインダーとの混合比率は、100:20〜100:80である。
【0017】
塗工層は、上記無機顔料とバインダー、そして必要に応じてその他の添加剤を水系で分散させ、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ダイコーター等を用いて、熱可塑性樹脂シートの表面に塗工することにより設けることができる。塗工量は、インキ乾燥性と経済性の観点から0.3〜10g/m(乾燥重量、以下同じ。)が好ましい。
【0018】
本発明において、積層シートの基材や熱可塑性樹脂層、熱可塑性樹脂シート、そして塗工層には、上記した以外にも一般的に使用される種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、例えば、帯電防止剤や滑剤等がある。
【0019】
(作用)
本発明によれば、塗工層中に無機顔料とソープフリータイプのバインダーを含有することにより、優れたインキ乾燥性と耐摩耗性を両立することができる。この理由は明らかでないが、次のように考えられる。
本発明では、塗工層に無機顔料を含有することにより、塗工層に微細な空隙が形成されるため塗工層のインキ吸収能が高まり、インキ乾燥性が向上する。しかし、塗工層強度を付与するために使用するバインダーは、インキ乾燥性を低下させる。これは、バインダーは一般に乳化重合により製造されることが多く、製造時に乳化安定剤として親水性の高い乳化剤を用いることが多いためであり、この乳化剤が塗工層中にバインダーとともに含有されることによって、印刷時にその親水性により水分の放出が抑えられてしまい、インキ乾燥性を遅らせる原因となると考えられる。また、乳化剤がバインダー粒子間に存在することにより成膜性が低下するため、塗工層としての強度も低下してしまうと考えられる。これに対し、本発明はソープフリータイプのバインダーを用いることにより、乳化剤を使用して製造されたバインダーに比べてインキ乾燥性を低下させにくくなるうえ、より強固な塗工層を形成できるため、優れたインキ乾燥性と耐摩耗性を両立することができると考えられる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、実施例及び比較例において、インキ乾燥性、耐摩擦性は、以下のようにして評価を行った。
【0021】
・インキ乾燥性
得られた耐水性シートについて、汎用されているオフセット印刷用インキ(東洋インキ(株)製『TKハイユニティー紅』)を用い、RI型印刷機((株)明製作所製RI−3)にてインキ盛り量0.5ccで印刷を行った。100分経過後、その印刷面にコート紙を重ね、重さ6.5kg、巾2.5cmのローラーで荷重を加えた後、コート紙に転写されたインキ濃度をカラー反射濃度計(X−RITE 418 日本平版機材株式会社)にて測定し、このときのインキ転写濃度をインキ乾燥性の指標とした。
○:インキ転写濃度が0.1以下
×:インキ転写濃度が0.1より高い
なお、印刷は、耐水性シートに塗工層が設けられている場合には、その塗工層表面に行い、塗工層が設けられていない場合には熱可塑性樹脂表面に直接行った。
【0022】
・耐摩擦性
得られた耐水性シートについて、汎用されているオフセット印刷用インキ(東洋インキ(株)製『TKハイエコー紅』)を用い、RI型印刷機((株)明製作所製RI−3)にてインキ盛り量0.5ccで印刷を行いインキが乾燥した後、印刷面を爪で強くこすった際のインキの残り具合を目視で評価した。
○:インキの取られがない
×:インキの取られがある
【0023】
[実施例1]
予め溶融したポリプロピレン(MFR25g/10分、密度0.91g/cm)90重量部に酸化チタン10重量部を添加混合しておき、この酸化チタン含有ポリプロピレンと酸化チタン不含のポリプロピレン(ポリプロピレンのMFR及び密度は、特に示さない限り、上記に同じ。)とを、坪量81g/mの上質紙の両面に、酸化チタン不含ポリプロピレンが上質紙側に位置するように、Tダイを用いて押出温度290℃にて共押出しラミネートを行い、鏡面仕上げのクーリングロールで圧着して積層シートを作成し、次いで、この積層シートの両面にコロナ放電処理を行った。なお、このとき積層シートの両面に積層された酸化チタン含有ポリプロピレン層と酸化チタン不含ポリプロピレン層の厚さは、それぞれ15μmであった。
その後、この片面に焼成クレー(商品名:エンゲルハード社製、アンシレックス90)100重量部とソープフリータイプのアクリル系共重合体(商品名:日本エヌエスシー(株)製、ヨドゾールAD51、Tg:30℃)の水系分散液50重量部を混合して塗工液を調製し、この塗工液を乾燥塗布量が3g/mになるようにマイヤーバーで塗布、乾燥することで、塗工層を設け、積層シートを作成した。
【0024】
[実施例2]
焼成クレーの代わりに、シリカ(商品名:水澤化学工業(株)製、ミズカシルP−527)を使用した以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
【0025】
[実施例3]
実施例1に記載した積層シートの代わりに、厚さ140μmのポリプロピレンからなる白色シートを用いた以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
【0026】
[実施例4]
実施例1に記載したソープフリータイプのアクリル系共重合体の代わりに、ソープフリータイプのスチレンアクリル系共重合体(商品名:日本エヌエスシー(株)製、ヨドゾールAD81B、Tg:20℃)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
【0027】
[比較例1]
ソープフリータイプのアクリル系共重合体の代わりに、乳化剤を使用したタイプのスチレン−アクリル系共重合体(商品名:中央理化工業(株)製、リカボンドETR−0142、Tg:10℃)を使用した以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
【0028】
[比較例2]
ソープフリータイプのアクリル系共重合体の代わりに、乳化剤を使用したタイプのアクリル系共重合体(商品名:日本エヌエスシー(株)製、ヨドゾールAA−35、Tg:20℃)を使用した以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
【0029】
[比較例3]
実施例1において、積層シートに塗工層を設けなかった。
【0030】
[比較例4]
実施例3において、厚さ140μmのポリプロピレンからなる白色シートに塗工層を設けなかった。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1〜4より明らかなように、本発明の積層シートは優れたインキ乾燥性と耐摩擦性を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する積層シートの少なくとも一方の表面に、無機顔料と、アクリル系またはスチレンアクリル系の重合体または共重合体であるソープフリータイプのバインダーとを含有する塗工層を設けたことを特徴とする積層シート。
【請求項2】
無機顔料とバインダーとの固形分比率が100:10〜100:100であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂からなるシートの少なくとも一方の表面に、無機顔料と、アクリル系またはスチレンアクリル系の重合体または共重合体であるソープフリータイプのバインダーとを含有する塗工層を設けたことを特徴とする積層シート。
【請求項4】
無機顔料とバインダーとの固形分比率が100:10〜100:100であることを特徴とする請求項3に記載の積層シート。

【公開番号】特開2006−205543(P2006−205543A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20877(P2005−20877)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】