説明

積層シート

【課題】耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等に優れ、シートの厚さが薄いにも関わらず機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)に優れた積層シートを提供すること。
【解決手段】発泡倍率が1.1〜4.0倍であり、かつ少なくとも一方の延伸倍率が3.0倍以下となるように延伸されたポリスチレン系樹脂シートに、ポリスチレン系樹脂より耐油性を有する熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる、層構成が2層又は3層であることを特徴とする積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡され延伸されたポリスチレン系樹脂シートに特定のフィルムを積層してなる積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系樹脂シート(特に、発泡ポリスチレンシート(以下、「PSP」と記載することがある))は、熱成型性が優れているため、惣菜容器等の各種食品容器の製造材料として汎用されている。しかし、PSPは耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等が充分ではないため用途が限定され、特に板状部材の輸送・搬送用の緩衝シートとして用いるには問題があった。また、シートの機械的強度の低下をカバーしようとすると肉厚となってしまい、保管スペースや輸送コストが高くなってしまうという問題があった。
【0003】
特許文献1には、発泡倍率1.07〜2.1で発泡し、1.5〜5.0倍の範囲で二軸方向に延伸した厚さ0.1〜1.0mmの発泡ポリスチレンシートが開示されている。しかしながら、食品収納用としてではなく、例えば、板状部材の輸送・搬送用の緩衝シートとして用いるには、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等が充分ではなかった。
【0004】
更に、特許文献2には、発泡倍率1.47〜2.43、厚さ0.8〜1.47mmのスチレン系樹脂及びオレフィン系樹脂からなる基材層に、高分子帯電防止剤を含有するオレフィン系樹脂を少なくとも一方の面に積層したシートが開示されている。しかしながら、耐摩耗性等には優れているものの、機械的強度を維持するために肉厚なシートとなってしまっていた。
【0005】
近年、例えば、板状部材の輸送・搬送用の緩衝シート等の用途に、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性、機械的強度等が強く要求されるようになってきているが、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等に優れ、機械的強度を維持しつつ薄肉化されたポリスチレン系樹脂シートは完成しておらず、かかるシートの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−126628号公報
【特許文献2】特開2004−90609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等に優れ、シートの厚さが薄いにも関わらず機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)に優れた積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、耐油性を有する熱可塑性樹脂フィルムを積層しても、発泡され延伸された特定の樹脂シートを用いれば、厚さが薄いにも関わらず機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)に優れた積層シートが得られることを見出し本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、発泡倍率が1.1〜4.0倍であり、かつ少なくとも一方に3.0倍以下となるように延伸されたポリスチレン系樹脂シートに、ポリスチレン系樹脂より耐油性を有する熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる、層構成が2層又は3層であることを特徴とする積層シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記問題点を解消し上記課題を解決し、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等に優れ、シートの厚さが薄いにも関わらず機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)に優れた積層シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0012】
<ポリスチレン系樹脂シート>
<<樹脂組成>>
本発明の積層シートは、ポリスチレン系樹脂シートに、ポリスチレン系樹脂より耐油性を有する熱可塑性樹脂フィルムを積層してなることを特徴とする。ポリスチレン系樹脂シートのシート原料は、ポリスチレン系樹脂であれば特に限定はなく、例えば、ゴム成分を含有しないポリスチレン系樹脂を(A)、ゴム成分を含有するポリスチレン系樹脂を(B)とした場合、(A)単独、(B)単独又は(A)と(B)の混合物の何れでも用いることができる。
【0013】
(A)の代表例としては、一般用ポリスチレン(以下、「GPPS」と記載することがある)等のポリスチレンが挙げられ、更には、スチレン、アルキルスチレン(例えば、o−、m−、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン)、α−アルキルスチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン)等の芳香族ビニル化合物の単独重合体、これら単量体を組み合わせた共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上を組み合わせることができる。
【0014】
(A)は単独で、または(B)と組み合わせて用いることができる。(A)単独で用いる場合、(A)は、(A)として1種類で、又は(A)として2種類以上を組み合わせて用いることができる。(A)を(B)と組み合わせて用いる場合も、(A)は、(B)との相溶性を有する範囲で、(A)として1種類で、又は(A)として2種類以上を組み合わせて用いることができる。(A)としては、好ましくはGPPSである。上記したGPPS以外の(A)は、GPPSに対して、GPPSとの相溶性を有する範囲で、単独または2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。
【0015】
GPPSのなかでも、温度200℃、荷重5kgにおいてのメルトフローレートが0.5〜20g/10分の範囲のGPPSが好ましく、2〜10g/10分の範囲のGPPSが特に好ましい。このようなGPPSを用いることにより、比較的低温での溶融混練、押出発泡が可能となり、また後述する練り込み型帯電防止剤の分散性が良化する。
【0016】
上記(B)としては、例えば、グラフト型共重合体の代表であるHIPS、ABA型ブロック共重合体の代表であるスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、「SBS」と記載することがある)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」と記載することがある)等が挙げられる。「HIPS」には、ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフト重合したグラフト型のHIPS単独以外に、このグラフト型のHIPSとGPPSとをブレンドしたブレンド型HIPSも含む(ただし、ブレンドされたGPPSは(A)に分類される)。
【0017】
上記(B)のゴム成分を有するポリスチレン系樹脂は、相溶性を有する範囲で水素添加物であってもよい。
【0018】
上記(B)の製造において用いられるゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、ブタジエン−イソプレンゴム等の非スチレン系ゴム;スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム等のスチレン系ゴムを挙げることができる。なかでもブタジエンゴムが好ましく、ブタジエンゴムのなかでも、シス−1,4構造の含有率の高いハイシス型が、同含有率の低いローシス型より熱安定性の点から好ましい。
【0019】
本発明における「ゴム成分」とは、ポリスチレン系樹脂に結合された、例えば上記のゴムが有するような低弾性率の成分をいう。
【0020】
ゴム成分の含有量は、一塩化ヨウ素、ヨウ化カリウム及びチオ硫酸ナトリウム標準液を用いた電位差滴定でジエン含有量を測定し、ジエン含有量をゴム成分の含有量として計算する。分析方法は、例えば、日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、「新版 高分子分析ハンドブック」、紀伊國屋書店(1995年度版)、P.659「(3)ゴム含量」に記載されており、この方法で測定し、そのように測定した値として定義される。
【0021】
(B)中のゴム成分の含有量は、(B)全体に対して、3〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、7〜30質量%が特に好ましい。
【0022】
(B)としては、温度200℃、荷重5kgにおいてのメルトフローレートが0.5〜20g/10分の範囲のHIPSやSIS共重合体が好ましく、2.0〜10g/10分の範囲のHIPSやSISが特に好ましい。(B)は単独で、または(A)と組み合わせて用いることができる。(B)単独で用いる場合、(B)は、(B)として1種類で、または(B)として2種類以上を組み合わせて用いることができる。(B)を(A)と組み合わせて用いる場合も、(B)は、(A)との相溶性を有する範囲で、(B)として1種類で、または(B)として2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
このようなポリスチレン系樹脂を用いることにより、比較的低温での溶融混練、押出発泡が可能となり、また後述する練り込み型帯電防止剤の分散性が良化する。
【0024】
ポリスチレン系樹脂シート全体に対する、好ましいゴム成分の含有量は20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。ゴム成分を含有しないと、製造されたスチレン系樹脂シート、積層シート及び成型品(容器等)の、衝撃強度、引裂強度が向上せず、割れ易く、或いは破れ易くなる場合がある。一方、ゴム成分の含有量が多過ぎると、製造時の押出安定性や延伸安定性が悪くなるばかりでなく、製造されたスチレン系樹脂シート、積層シート及びその成型品の剛性が低下してしまう場合がある。
【0025】
なお、ゴム成分の含有量が上記範囲で、かつ、積層シートの延伸倍率が後述の範囲に入るような延伸が可能であれば、上記(A)及び/又は(B)はいかなる樹脂組成でも構わない。ポリスチレン系樹脂シート中のゴム成分の含有量が上記範囲内に入るように配合すれば、ゴム成分の含有量が多い(B)を少量配合して範囲内に入るようにしても、ゴム成分の含有量が少ない(B)を多量に配合して範囲内に入るようにしてもよい。また、ゴム成分は含有されていなくてもよい。
【0026】
<<発泡倍率>>
本発明の積層シートにおけるポリスチレン系樹脂シートの発泡倍率は、1.1〜4.0倍の範囲であることが必須である。発泡倍率(P)は、JIS K7222に準拠して測定した発泡シートの密度(Q)と、JIS K7112のD法に準拠して測定した、その発泡体材料の発泡させていない状態の密度(R)より、P=R/Qにより求める。発泡倍率は、好ましくは1.15〜3.5倍、特に好ましくは1.2〜3.0倍である。発泡倍率が小さ過ぎると、柔軟性、緩衝性、シート表面外観等が劣る場合がある。一方、発泡倍率が大き過ぎると、シート表面外観の悪化、機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)の低下、熱成型時の型再現性や成型品外観の悪化を招く場合がある。
【0027】
発泡倍率の制御は、発泡剤の種類、特に配合量、発泡押出時の樹脂温度、樹脂圧力等によって可能である。本発明におけるポリスチレン系樹脂シートは、他の物性を良好に保ちつつ、上記の発泡倍率を実現することが可能である。特に、発泡倍率が大きくなっても(例えば、1.24倍以上となっても)、機械的強度を良好に保つことができる。
【0028】
本発明において、ポリスチレン系樹脂シート製造時には、発泡剤が必須成分として配合される。発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の揮発性発泡剤;炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アゾ化合物(アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド、ジアゾアミノベンゼン等)、スルホニルヒドラジド化合物(ベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルオキシ−4,4‘−ビススルホニルヒドラジド等)、ニトロソ化合物(N,N’−ジニトロソペンタメチレントリアミン等)等の化学発泡剤(分解型発泡剤);二酸化炭素、窒素ガス等の気体;水等が挙げられ、これらの発泡剤を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
発泡成型の方法には、(1)化学発泡剤を添加して押出成型する方法、(2)発泡ガス原料を注入しながら押出成型する方法、(3)液状の発泡ガス原料を樹脂に含浸させたものを押出成型する方法等を適用することができる。なかでも発泡剤のハンドリング性、延伸時の安定性、及び発泡倍率の観点から、(1)の方法が好ましく、ポリスチレンベースのマスターバッチ化されたもの(例えば、永和化成工業(株)製ポリスレンESシリーズ、三協化成(株)製セルマイクMB6000シリーズ)が好適に使用できる。また、食品用途向けには、上記のなかからポリオレフィン等衛生協議会登録品を選択的に使用できる。
【0030】
発泡剤の配合量は、前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.3〜3質量部がより好ましく、0.5〜2質量部が特に好ましい。発泡剤が少な過ぎると、柔軟性、緩衝性が得られないばかりでなく、シート表面外観も見劣りしてしまう場合があり、一方、多過ぎるとシート表面外観が悪化するばかりでなく、機械的強度(衝撃強度、引裂強度)が低下したり、熱成型時の型再現性や成型品外観が悪化してしまう場合がある。
【0031】
発泡剤の種類、配合量、樹脂温度、樹脂圧力等を調整することによって、発泡倍率を適宜調整できるため、本発明においては発泡倍率が1.1〜4.0倍となるように調整する。
【0032】
また、口金に対する追従性や表面外観を改良するための充填剤(例えば、タルク、シリカ、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)や気泡調整剤(例えば、多価カルボン酸等の酸性塩、多価カルボン酸と炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウムとの反応混合物等)を用いてもよく、発泡剤同様マスターバッチ化されたものを用いてもよい。これら充填剤や気泡調整剤の割合は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、通常0.01〜2質量部である。
【0033】
<<延伸倍率>>
本発明におけるポリスチレン系樹脂シートは、少なくとも一方の延伸倍率が3.0倍以下となるように延伸されたものである。ここで、「延伸倍率」とは、ポリスチレン系樹脂製シートの試験片に記入した直線の長さが収縮前後で変化した割合であり、具体的には、次式、すなわち、延伸倍率=Y/Z、によって算出される値(単位[倍])を意味する。この式において、Yは、ポリスチレン系樹脂シートの試験片に、定規及び筆記用具を用いて、縦方向(シートの押出し方向、以下、「MD」と記載することがある)及び横方向(シートの押出し方向と直角方向、以下、「TD」と記載することがある)に描いた直線の長さ[mm]を示し、Zは140℃のシリコーンオイルバスに、上記試験片を10分間浸漬し収縮させた後の、上記直線の長さ[mm]を示す。
【0034】
本発明におけるポリスチレン系樹脂シートは、少なくとも一方の延伸倍率が、1.2〜2.9倍であるものが好ましく、特に好ましくは1.5〜2.8倍である。延伸倍率が3.0倍を超えると延伸による機械的特性の向上が飽和するので、これを超えて延伸しても意味がない等の場合がある。一方、延伸倍率が小さ過ぎると、機械的強度(衝撃強度、引裂強度)が向上せず、割れ易く、或いは破れ易くなる場合がある。また、本発明におけるポリスチレン系樹脂シートは、MD及びTD両方の延伸倍率が、何れも上記範囲であることが更に好ましい。
【0035】
また本発明におけるポリスチレン系樹脂シートは、縦方向と横方向の延伸倍率の積が9.0以下であることは必須であるが、1.4〜8.5であるものが好ましく、特に好ましくは2.2〜7.9である。ここで縦方向と横方向の延伸倍率の積とは、縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率を掛算した値(即ち面積倍率)を意味する。延伸倍率の積が小さ過ぎると、機械的強度(衝撃強度、引裂強度)が低下してしまうので、シート及び熱成型して得られた成型品は、割れ易く、或いは破れ易くなってしまう場合がある。一方、延伸倍率の積が大き過ぎると、熱成型時にシートの伸びが低下して型再現性が悪くなり、外観が悪くなったり、積層シートの剛性が高くなりすぎ、柔軟性、緩衝性等の点から好ましくない場合がある。
【0036】
ポリスチレン系樹脂製シートの延伸倍率は、例えば上述した縦延伸でのロール速度、横延伸でのテンター幅を調節することにより制御が可能である。具体的には縦延伸ロールでの延伸開始ロール速度に対する延伸終了ロール速度の比を上げると縦延伸倍率が大きくなり、また、テンター入口幅に対する同出口幅を広げると横延伸倍率が大きくなる。逆にロール速度比を下げたり、出口幅を狭めると、縦/横方向の延伸倍率は小さくなる。
【0037】
<<ポリスチレン系樹脂シートの厚さ>>
ポリスチレン系樹脂シートの厚さは0.05〜0.8mmが好ましい。ポリスチレン系樹脂シートの厚さが薄過ぎると、得られる積層シート自体及び成型品の剛性が不足し、積層シートとして繰り返し使用する場合、切れたり、折れたり、皺が入り易くなったりする場合がある。また特に、本発明の積層シートを輸送・搬送用の緩衝シートとして用いる場合は、上記障害に加えて緩衝作用が低下してしまう場合がある。一方、ポリスチレン系樹脂シートの厚さが厚過ぎると、それから得られる積層シートや成型品の、嵩やスタック高さが高くなり、結局保管スペースや輸送コストが大きくなってしまい、リサイクル及びコストの観点から好ましくない場合がある。薄肉軽量化の観点から、より好ましい範囲は0.08〜0.6mmであり、特に好ましい範囲は0.1〜0.5mmである。
【0038】
一般に、機械的強度(衝撃強度、引裂強度)を良好に保つためには、ポリスチレン系樹脂シートの厚さを厚くする手法がとられているが、本発明におけるポリスチレン系樹脂シートは、発泡倍率1.1〜4.0倍とし、延伸倍率3.0倍以下となるように延伸することにより、特に機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)を良好に保ちつつ、薄肉軽量化を実現することが可能である。すなわち、薄肉軽量化しても延伸の安定性確保が可能であり、割れや破れが起こり難いため強度確保も可能である。
【0039】
本発明の積層シートは、熱可塑性樹脂フィルムがポリスチレン系樹脂シートの片面又は両面に積層されているので、積層シート全体としての厚さは厚くなる方向にある。従って、ポリスチレン系樹脂シート自体の「薄肉軽量化しても強度確保可能」なる特性は、本発明の「厚くなる方向にある積層シート」には特にマッチングしている。本発明の積層シートは、所望のシートの薄さで、機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)と、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等との両立が可能である。
【0040】
更に、本発明の積層シートは、特に板状部材(例えば、ガラス、ガラスを使用したディスプレー用のパネル、装飾等が付与された建築用部材等)の輸送・搬送用の緩衝シートとして使用可能な積層シートであり、シートを薄肉軽量化することによる輸送効率の向上等のメリットを生かすためにも、本発明の上記性能の両立は大変有効であり、かかる用途に対して極めて良くマッチングしているものである。
【0041】
また、本発明におけるポリスチレン系樹脂シートは、そのシート面に対して垂線方向から電子顕微鏡で観察した気泡セルの平均長径が200〜2000μmで、かつ平均アスペクト比(=気泡の平均長径/気泡の平均短径)が1〜4であることが好ましい。発泡倍率が、上記必須範囲又は好ましい範囲であり、気泡長径の平均長さが200〜2000μmで、かつアスペクト比の平均値が1〜4であると、良好な表面外観、表面均一性、パール調の光沢や手触り感が得られる。また、熱成型時の型再現性が良く、濃淡や気泡痕のない外観の良好な製品を得ることができる。
【0042】
気泡セルの大きさや形状に関し、平均長径が300〜1500μmであることがより好ましく、500〜1000μmであることが特に好ましい。また、平均アスペクト比が1〜3であることがより好ましく、1〜2であることが特に好ましい。
【0043】
気泡セルの大きさや形状の制御は、発泡剤の種類、配合量、特に発泡押出時の樹脂温度、樹脂圧力、特にMD、TDの延伸倍率等によって制御することが可能である。具体的には、縦延伸倍率及び/又は横延伸倍率が大きくなると平均長径は大きくなり、縦延伸倍率と横延伸倍率の差が大きくなる(異方性が大きくなる)と、それに応じて、平均アスペクト比も大きくなる。
【0044】
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明の積層シートは、上記のポリスチレン系樹脂シートに、ポリスチレン系樹脂より耐油性を有する熱可塑性樹脂フィルムを積層してなることを特徴とする。熱可塑性樹脂フィルムは、ポリスチレン系樹脂より耐油性を有するものであれば特に限定はない。ここで、「ポリスチレン系樹脂より耐油性を有する」とは、実施例記載の「耐油性」の評価をした場合にポリスチレン系樹脂シートより中鎖脂肪酸トリグリセライドによる侵食度合いが小さいものをいう。好ましくは、実施例記載の「耐油性」の評価をした場合に中鎖脂肪酸トリグリセライドによる侵食がなく「良好」と判定されるものである。ポリスチレン系樹脂シートは同様の耐油性評価を行うと、表面に中鎖脂肪酸トリグリセライドによる侵食が生じ、「劣る」と判定される。
【0045】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、更にポリスチレン系樹脂より耐摩耗性を有するものであるのが好ましい。ここで、「ポリスチレン系樹脂より耐摩耗性を有する」とは、実施例記載の「耐摩耗性」の評価をした場合に、摩耗試験後の損失重量がポリスチレン系樹脂シートより少ないものをいう。
【0046】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニリデン系樹脂フィルム、ポリ酢酸ビニル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリアセタール系樹脂フィルム、ポリアリレート系樹脂フィルム、ポリフッ化ビニル系樹脂フィルム、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂フィルム等が挙げられる。これらは、単独で、又は互いに相溶すれば2種類以上を組み合わせて使用できる。
なお、「A系樹脂」の意味は、Aのホモポリマーに加えて、Aが共重合された樹脂をも含む意味であり、以下同様である。
【0047】
これらのうち、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等が高い点から、好ましくはポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム等であり、なかでも、同様の点から、ポリオレフィン系樹脂フィルム又はポリエステル系樹脂フィルムが特に好ましい。これらは、単独で、又は互いに相溶すれば2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
かかる熱可塑性樹脂フィルムは、延伸されたものでも未延伸のものでも使用可能であるが、本発明の積層シートを熱成型用途に使用する場合には、積層シートの成型性の点から未延伸のものが好ましい。延伸された熱可塑性樹脂フィルムを用いた場合には、本発明の積層シートの成型性が劣る場合がある。熱成型用途に使用する場合には、上記熱可塑性樹脂フィルムの中でも、ポリエチレンフィルム、未延伸のポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が好ましい。
【0049】
<<ポリオレフィン系樹脂フィルム>>
ポリオレフィン系樹脂フィルムのフィルム材料であるポリオレフィン系樹脂は、オレフィンの単独又は共重合体である。該オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられる。これらのオレフィンのうち、エチレン又はプロピレンが特に好ましく、従ってポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン若しくはポリプロピレン、又はポリエチレン系樹脂若しくはポリプロピレン系樹脂が、耐油性、耐摩耗性の点で特に好ましい。これらは、単独で、又は互いに相溶すれば2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0050】
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンと共重合性モノマーとの共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体等も含む)であってもよい。かかる共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン等の環状オレフィン類;ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン等のジエン類等が挙げられる。これらの共重合性モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせてオレフィンと共に共重合できる。
【0051】
<<ポリエステル系樹脂フィルム>>
ポリエステル系樹脂フィルムのフィルム材料であるポリエステル系樹脂は、分子鎖の中にエステル結合を含むものならば特に限定はないが、「ジカルボン酸等の多価カルボン酸」と「ジオール等のポリアルコール」との重縮合体;ヒドロキシカルボン酸及び/又は環状エステルの重縮合体;「ジカルボン酸等の多価カルボン酸」と「ジオール類等のポリアルコール」と「ヒドロキシカルボン酸及び/又は環状エステル」との重縮合体等が挙げられる。
【0052】
上記多価カルボン酸として、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,6−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。また、これらの酸無水物であってもよいし、これらの低級アルキルエステル等の「脂肪族ジカルボン酸の誘導体」であってもよい。
【0053】
上記ポリアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0054】
特に好ましいポリエステル系樹脂としては、本発明の積層シートの耐油性、耐摩耗性の点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートである。
【0055】
<<ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム>>
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムのフィルム材料であるポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル又は「塩化ビニルと他のビニル系モノマーとの共重合体」等が挙げられる。
【0056】
<<帯電防止剤>>
本発明の積層シートは、帯電防止性及び/又は持続的帯電防止性を有し、具体的には、JIS K6911に準拠し、実施例記載の測定方法で測定したシート表面抵抗値が10Ω〜1012Ωであるものが好ましい。特に、本発明の積層シートをガラス基板等の輸送・搬送用の緩衝シートとして用いる場合には、帯電し易いとガラス基板等の間から抜き取った積層シートを再使用に供する際に、浮遊している塵芥が積層シートに付着する場合がある。
【0057】
本発明における上記熱可塑性樹脂フィルムは、帯電防止剤が含有されることが好ましい。帯電防止剤は特に限定はないが、界面活性剤等の低分子量型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤等が挙げられる。界面活性剤は、カチオン系、アニオン系、両イオン系、非イオン系に大別され、最も一般的に使われるのは、効果と経済性のバランスの良いアニオン系であり、代表的には、1)脂肪酸塩類、2)高級アルコール硫酸エステル塩類、3)液体脂肪油硫酸エステル塩類、4)脂肪族アミン及び脂肪族アミドの硫酸塩類、5)脂肪族アルコールリン酸エステル塩類、6)二塩基性脂肪酸エステル塩類、7)脂肪酸アミドスルホン酸塩類、8)アルキルアリールスルホン酸塩類、9)ホルマリン縮合のナフタレンスルホン酸塩類等が挙げられる。
【0058】
また、熱に弱く高コストであるが帯電防止性が高いカチオン系としては、1)脂肪族アミン塩類、2)四級アンモニウム塩類、3)アルキルピリジニウム塩類等が挙げられる。更には、アニオン系の弱点である耐熱性をやや改良した両性イオン系としては、1)イミダゾリン誘導体類、2)カルボン酸アンモニウム類、3)硫酸エステルアンモニウム類、4)リン酸エステルアンモニウム類、5)スルホン酸アンモニウム類等が挙げられる。
【0059】
これら帯電防止剤については、マスターバッチ化されたものを用いてもよい。帯電防止性の付与方式としては公知の方法である[1]:練り込みタイプの帯電防止剤の使用、[2]:塗布タイプの帯電防止剤の使用、[3]:[1]と[2]の併用等が挙げられる。
【0060】
熱可塑性樹脂フィルムのフィルム材料である熱可塑性樹脂と界面活性剤等の低分子量型の帯電防止剤との質量比は、帯電防止剤/熱可塑性樹脂=0.5/99.5〜20/80の範囲から選択することが好ましく、特に好ましくは1/99〜10/90である。帯電防止剤が少な過ぎる場合は、帯電防止性や持続的帯電防止性が劣る場合があり、一方、多過ぎる場合は、それ以上の効果がでない場合、帯電防止剤の過剰なブリードアウトにより接触物が汚染される場合がある。
【0061】
用途が洗浄を含む繰り返し使用の場合は、特に限定されないが、なかでもシート表面への帯電防止剤の過剰なブリードアウトによる接触物の汚染が防止できる点、特に洗浄を含む繰り返し使用で持続的帯電防止性が良好な点から、高分子型帯電防止剤が好ましく、具体的には、ポリエーテルエステル系高分子型帯電防止剤等のノニオン系高分子型帯電防止剤、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーやポリスチレンスルホン酸系高分子型帯電防止剤等のアニオン系高分子型帯電防止剤、ポリアクリルエステル系高分子型帯電防止剤等のカチオン系高分子型帯電防止剤等が好ましいものとして挙げられる。なかでも帯電防止性能に優れる点でポリエーテルエステル系高分子型帯電防止剤やエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーが好ましく、ポリエーテルエステルアミド系高分子型帯電防止剤やエチレン・(メタ)アクリル酸ランダム共重合体のカリウムアイオノマーが特に好ましい。ここでエチレン・(メタ)アクリル酸ランダム共重合体のカリウムアイオノマーには帯電防止性能を上げる目的でグリセリンやポリエチレングリコールを含んでいてもよい。なお、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸をいう。
【0062】
これら高分子量型帯電防止剤についても、マスターバッチ化されたものを用いてもよい。ここで、マスターバッチのベースポリマーは脂肪族系ポリエステルに限定はされない。帯電防止性の付与方式としては公知の方法である[1]:練り込みタイプの帯電防止剤の使用、[2]:塗布タイプの帯電防止剤の使用、[3]:[1]と[2]の併用等が挙げられる。
【0063】
熱可塑性樹脂フィルムのフィルム材料である熱可塑性樹脂と高分子型帯電防止剤との質量比は、高分子型帯電防止剤/熱可塑性樹脂=0.5/99.5〜50/50の範囲から選択することが好ましく、特に好ましくは5/95〜40/60である。高分子量型帯電防止剤が少な過ぎる場合は、帯電防止性や持続的帯電防止性が劣る場合があり、一方、多過ぎる場合は、それ以上の効果がでなかったり、コストが高くなり経済的に好ましくない場合がある。高分子型帯電防止剤がマスターバッチ化されている場合は、上記質量比は、ベース樹脂を除いた高分子型帯電防止剤のみの質量比である。
【0064】
上記帯電防止剤は、熱可塑性樹脂フィルムのみならず、ポリスチレン系樹脂シートにも含有させることができる。特に、ポリスチレン系樹脂シートの片面にのみ熱可塑性樹脂フィルムが積層されている場合にはポリスチレン系樹脂シートにも含有させることが有効である。ただし、外層である熱可塑性樹脂フィルムのみに含有させることによって、又は外層である熱可塑性樹脂フィルムに、内層であるポリスチレン系樹脂シートにおけるより多く含有させることによって、帯電防止性能を下げずに帯電防止剤の使用量を減らすことができる。すなわち、製造原料コストを上げずに表面固有抵抗値を十分に下げることができる。このように、熱可塑性樹脂フィルムの積層は、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等をシートに付与させると共に、帯電防止使用コストを上げずに帯電防止性及び/又は持続的帯電防止性をシートに付与できる。本発明の積層シートを、帯電防止性や持続的帯電防止性が要求される輸送・搬送用の緩衝シートとして用いる場合に、上記効果は特に顕著に奏される。
【0065】
また、上記高分子型帯電防止剤と共に、その分散剤を添加してもよい。かかる分散剤としては特に限定されないが、例えば、分子鎖内に非極性ユニットと、高分子型帯電防止剤との相溶性がある極性ユニットを有する共重合体が挙げられ、具体的には酸変性オレフィン系樹脂等が挙げられる。分散剤の割合は熱可塑性樹脂と高分子型帯電防止剤との合計100質量部に対して、通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0066】
<<他の物質>>
ポリスチレン系樹脂シート及び/又は熱可塑性樹脂フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲で、その他充填剤、その他分散剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散助剤、内部潤滑剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、紫外線吸収剤、耐光剤、結晶核剤、離型剤、難燃剤、可塑剤、防曇剤、強化剤、増量剤、抗菌剤、防かび剤、顔料、染料、着色剤、表面ぬれ改善剤、流動性改良剤、増粘剤、上記帯電防止剤以外の界面活性剤、無機系フィラー、有機系フィラー、カーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、補強剤等の「他の物質」を配合してもよい。
【0067】
<<熱可塑性樹脂フィルムの厚さ>>
熱可塑性樹脂フィルムの厚さの合計は0.01〜0.8mmが好ましい。ここで、「熱可塑性樹脂フィルムの厚さの合計」とは、(1)上記ポリスチレン系樹脂シートの一方の面だけに熱可塑性樹脂フィルムが積層されてなる積層シートの場合には、該熱可塑性樹脂フィルムの厚さ、(2)ポリスチレン系樹脂シートの両面に熱可塑性樹脂フィルムが積層されてなる積層シートの場合には、両面に積層された各熱可塑性樹脂フィルムの厚さの合計をいう。
【0068】
薄肉軽量化の観点から、「熱可塑性樹脂フィルムの厚さの合計」のより好ましい範囲は0.015〜0.5mmであり、特に好ましい範囲は0.02〜0.3mmである。ポリスチレン系樹脂シートの両面に熱可塑性樹脂フィルムが積層されてなる積層シートの場合、片面のみの熱可塑性樹脂フィルムの厚さの好ましい範囲は0.005〜0.4mmであり、より好ましい範囲は0.007〜0.25mmであり、特に好ましい範囲は0.01〜0.15mmである。本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、他の物性を良好に保ちつつ、上記厚さを実現することが可能である。特に薄肉軽量化しても延伸の安定性確保と、割れや破れが起こり難いための強度確保が可能である。
【0069】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さが薄過ぎると、衝撃や擦れなどで簡単に破れたり、ピンホールが発生したりする場合があり、また本発明の積層シートの耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等が劣る場合がある。また成型品(トレイ等)の場合は、収納した食品等の保持・保存が困難になってしまう場合がある。一方、熱可塑性樹脂フィルムの厚さが厚過ぎると、特に輸送・搬送用の緩衝シートとして用いる場合に、積層シートの、嵩やスタック高さが高くなり、結局保管スペースや輸送コストが高くなってしまう場合がある。
【0070】
本発明における積層比は、0.03〜1であることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.5であり、特に好ましくは0.15〜0.4である。上記積層比が小さ過ぎる場合には、本発明の積層シートの耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等が劣る場合がある。一方、上記積層比が大き過ぎる場合には、積層シート全体の厚さも厚くなり、特に、輸送・搬送用緩衝シートとして用いる場合には、スタック高さが高くなり、保管スペースや輸送コストの点で輸送効率が下がる場合がある。ここで、本発明における「積層比」とは、「熱可塑性樹脂フィルムの厚さの合計」を「ポリスチレン系樹脂シートの厚さ」で割った値である。熱可塑性樹脂フィルムの厚さにおいて「その合計」とは、熱可塑性樹脂フィルムがポリスチレン系樹脂シートの両面に積層されている場合、その両面に積層された熱可塑性樹脂フィルムの厚さの和をいう。
【0071】
本発明の積層シートの層構成は、ポリスチレン系樹脂シート及び上記熱可塑性樹脂フィルムからなる2層又は3層であることを特徴とする。該熱可塑性樹脂フィルムは、ポリスチレン系樹脂シートの少なくとも一方の面(耐油性や耐摩耗性等が要求される面が好ましい)に積層されていればよいが、両面に積層されていることが好ましい。
【0072】
<積層シートの熱収縮応力>
本発明の積層シートの熱収縮応力の値は、縦方向(シートの押出し方向、以下、「MD」と記載することがある)、横方向(シートの押出し方向と直角方向、以下、「TD」と記載することがある)ともに、0.1〜2MPaであることが好ましい。MDまたはTDの熱収縮応力が0.1MPa未満では、シート自体及びこのシートを成型した成型品が割れ易く、或いは破れ易くなる場合がある。逆に熱収縮応力が2MPaより高くなると、熱成型時の型再現性(シートが金型形状を忠実に再現する性質)が不良となる場合がある。また、熱成型用でない場合でもシートの剛性が高くなりすぎ、柔軟性、緩衝性の点から好ましくない場合がある。熱収縮応力のより好ましい範囲は、MD、TD共に、0.2〜1MPa、特に好ましい範囲は0.3〜0.7MPaである。
【0073】
本発明において熱収縮応力とは、積層シートが、ASTM D−1504に準拠した日理工業社製の「DN式ストレステスター」を使用して、熱収縮される際の最大荷重を測定し、その最大荷重の値から熱収縮前の該シートの断面積で除した数値(単位[MPa])を意味する。
【0074】
積層シートの熱収縮応力は、例えば上述した縦延伸でのロール温度、横延伸でのテンター雰囲気温度を調節することにより制御が可能である。具体的には、縦延伸ロール温度を下げたり、テンター(横延伸)雰囲気温度を下げたりすることで、縦/横延伸時のシート温度が下がると縦方向/横方向の熱収縮応力が大きくなり、逆に縦/横延伸時のシート温度が上がると縦方向/横方向の熱収縮応力は小さくなる。
【0075】
本発明の積層シートは、機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)に優れたものである。衝撃強度及び引裂強度は、実施例に記載の方法で測定したもので定義される。引裂強度は、3.0N/mm以上が好ましく、より好ましくは4.0N/mm以上であり、特に好ましくは5.0N/mm以上である。本発明の積層シートでは上記値が達成できる。
【0076】
衝撃強度は、200kg・cm/cm以上が好ましく、より好ましくは250kg・cm/cm以上、特に好ましくは300kg・cm/cm以上である。本発明の積層シートでは上記値が達成できる。本発明の積層シートは、上記機械的強度(衝撃強度及び引裂強度)を満たすことにより、特に輸送・搬送用の緩衝シートとして好適に用いることができる。
【0077】
また、本発明の積層シートは、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性にも優れたものである。耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性は、実施例に記載の方法で測定したもので定義される。本発明の積層シートは、ポリスチレン系樹脂シートにポリスチレン系樹脂より耐油性を有する熱可塑性樹脂フィルムを積層してなるものであるため、該熱可塑性樹脂フィルムの有する耐油性に依存し、ポリスチレン系樹脂シート単独より侵食がないものである。好ましくは耐油性の評価後の積層シートの表面に侵食がなく評価「良好」のものである。耐溶剤性は、耐溶剤性の評価後の積層シートの表面に侵食がなく評価「良好」のものが好ましい。耐摩耗性は、摩耗試験後の損失重量の平均値(耐摩耗性)が、15mg未満が好ましく、より好ましくは12mg未満であり、特に好ましくは5mg未満である。本発明の積層シートでは上記値が達成できる。
【0078】
<積層シートの製造方法>
本発明の積層シートの製造方法は、特定のポリスチレン系樹脂シートに上記熱可塑性樹脂フィルムを積層する方法であれば特に限定されるものではない。以下に本発明の積層シートの製造方法の一例を示すが本発明はその製造方法で製造された積層シートに限定されるものではない。
【0079】
ポリスチレン系樹脂シートは、例えば、「HIPS等の上記(B)」及び/又は「GPPS等の上記(A)」と、必要に応じてその他各種添加剤を所定量計量しながら二軸押出機にて溶融混練し、ペレット化してマスターバッチを準備する。
【0080】
次に、予め準備した上記マスターバッチと、発泡剤マスターバッチ、必要によりHIPSやGPPSも秤量し、ブレンダーやタンブラー等によってドライブレンド物とし、得られたドライブレンド物を押出機によって溶融混練する。この際、ポリスチレン系樹脂の粘度、発泡剤の種類、配合量にもよるが、樹脂圧力は15〜40MPaが好ましく、特に好ましくは20〜35MPaで、口金に供給し、口金出口での樹脂温度を好ましくは160〜220℃、特に好ましくは180〜200℃とすることで、外観の良好な発泡原反が得られる。次いで、例えば、ロール延伸法等での縦延伸、続いてテンター法等での横延伸で、連続的に逐次二軸延伸する。途中、口金出口より連続的に押出発泡されたシートは、冷却ロール等で急冷し、加熱ロールで再加熱後、二軸延伸することが好ましい。次いで、二軸延伸されたものは、ワインダー等にてロール状に巻き取ることが好ましい。
【0081】
熱可塑性樹脂フィルムも上記と同様に、フィルム原料と、必要に応じて帯電防止剤その他各種添加剤を所定量計量しながらドライブレンド物とした後、押出機によって溶融混練する。この際、帯電防止剤の種類によっては市販のマスターバッチを使用することもできるし、市販品をそのまま使用してもよい。
【0082】
本発明の積層シートは、得られたポリスチレン系樹脂シート及び熱可塑性樹脂フィルムを汎用のフィードブロック付きダイやマルチマニホールドダイ等を使用して共押出してもよいが、得られた各シートをヒートラミネーションやドライラミネーション等の方法により積層することが、本発明の積層シートに、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性を良好に付与する点、ポリスチレン系樹脂シートと熱可塑性樹脂フィルムとの密着性が良い点等で好ましい。
【0083】
本発明の積層シートは、例えば輸送・搬送用の緩衝シートとして用いる等の場合、延伸後ロール状に巻き取る前に、離型剤を塗布してもよい。塗布方法は特に限定はないが、例えば25℃における粘度が1000〜20000mm/sのジメチルシリコーンオイルと乳化剤を含むジメチルシリコーンエマルジョンを、固形分濃度を0.1〜5質量%程度とした水溶液とし、スプレーコーター、エアーナイフコーター、スクィーズロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター等によって塗布し、熱風乾燥機等によって乾燥させる方法が好ましい。離型剤には帯電防止剤を混合してもよく、混合する割合はシリコーンオイル(固形分)との合計量に対して30〜80質量%程度である。
【0084】
なお、離型剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記以外の帯電防止剤、ブロッキング防止剤、粘度調節剤、消泡剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、抗菌剤、顔料、染料等の各種添加剤を配合することができる。
【0085】
本発明の積層シートは、熱成型法によって電子部品用のトレーや食品用トレー、医療用キット等の成型品に成型することができる。熱成型法には限定はなく、真空成型法、圧空成型法、真空成型法と圧空成型法とを組み合わせた差圧成型法等、従来から知られている方法が挙げられる。上記熱成型用途に使用する場合、熱可塑性樹脂フィルムは、成型性の点から未延伸のものを用いることが好ましい。熱成型用途に使用する場合の熱可塑性樹脂フィルムは、ポリエチレンフィルム、未延伸のポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が特に好適である。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。原材料としては、以下の特性を有する市販品を使用し、積層シートの評価項目は以下の通りである。
【0087】
<原材料>
ポリスチレン系樹脂シート(以下、「基材層」と記載することもある)の原材料
[(A)ゴム成分を有しないポリスチレン系樹脂]
1.GPPS:一般用ポリスチレン
PSジャパン社製、商品名:HH102、温度200℃、荷重5kgにおいてのメルトフローレート(以下、「MFR(200℃、5kg)」と記載する)が3.5g/10分である。
【0088】
[(B)ゴム成分を有するポリスチレン系樹脂]
2.HIPS:耐衝撃性ポリスチレン
PSジャパン社製、商品名:HT478、MFR(200℃、5kg)が3.0g/10分である。
【0089】
[発泡剤]
3.FA−1:発泡剤
永和化成工業社製、商品名:ポリスレンES405、分解温度155℃、PSベースの40質量%マスターバッチタイプ、ポリ衛協登録品である。
【0090】
熱可塑性樹脂フィルム(以下、「表層」と記載することもある)の原材料
[熱可塑性樹脂]
4.PP−1:
二軸延伸ポリプロピレン(帯電防止剤を有する帯電防止タイプ)
東洋紡績社製、商品名:パイレンフィルム−OT P2161(AS)
5.PP−2:
二軸延伸ポリプロピレンフィルム(帯電防止剤を有する永久帯電防止タイプ)
フタムラ化学社製、商品名:PAS−C1
6.PE−1:
直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(帯電防止剤を有する帯電防止タイプ)
タマポリ社製、商品名:LA−7
7.PE−2:
直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(帯電防止剤を有する永久帯電防止タイプ)
テクノスタット工業社製、商品名:STAT−3S
8.PET−1:
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帯電防止剤を有する帯電防止タイプ)
東洋紡績社製、商品名:エスペットフィルム E7410
【0091】
<評価項目>
(1)引裂強度(単位:N/mm)
以下の実施例、比較例で得られた積層シートから、大きさが50mm×64mmの試験片を、各シートのMD(シートの押出方向)を長辺として5枚、TD(シートの押出方向と直角方向)を長辺として5枚作成した。これら試験片の端辺(50mm)側の中央端から長辺と平行に13mmの切れ込みを刻設し、東洋精機社製「軽荷重引裂試験機」を使用して、引裂いた時の指示値を読み取り、この指示値から初期試験片の厚さ[mm]で除した値を引裂強度(単位:N/mm)とした。MDおよびTDについて、各々長辺とした5個の試験片での平均値を算出し、両者の平均値から全平均値を計算した。この値が3.0N/mm以上のものを引裂強度が「良好」と判定して「○」と表示し、3.0N/mm未満のものを「劣る」と判断して「×」と表示した。
【0092】
(2)衝撃強度(単位:kg・cm/cm)
以下の実施例、比較例で得られた積層シートから、大きさが100mm×100mmの試験片を5枚作成し、JIS P8134に準拠した東洋精機社製「パンクチャーテスタ(先端は12.7mm丸球面ヘッドを使用)」を使用して、試験片の破壊に要したエネルギーの量(衝撃強度:kg・cm)を、パンクチャーテスタの目盛板より読み取った。このエネルギー量を、シート厚さ(cm)で除した値を衝撃強度(パンクチャー衝撃強度、単位:kg・cm/cm)とし、5個の試験片の平均値を算出した。この平均値を衝撃強度とした。この値が200kg・cm/cm以上のものを衝撃強度が「良好」と判定して「○」と表示し、200kg・cm/cm未満のものを「劣る」と判断して「×」と表示した。
【0093】
(3)耐摩耗性(単位:mg)
以下の実施例、比較例で得られた積層シートから、大きさが直径100mmの円板型試験片を5枚作成し、JIS K7204に準拠した東洋精機社製「テーパー磨耗試験機」を使用して、摩耗試験後の損失重量を、試験回転数1000回転、試験荷重4.90N、磨耗輪CS10の条件で計量し、この計量値を耐摩耗性(単位:mg)とし、5個の試験片の平均値を算出した。この平均値を耐摩耗性とした。この値が15mg未満であると耐摩耗性が「良好」と判定して「○」と表示し、15mg以上のものを「劣る」と判定して「×」と表示した。
【0094】
(4)耐油性
以下の実施例、比較例で得られた積層シートから、大きさが25mm×70mmの試験片を作成し、試験片の70mm方向に曲げ半径25mmに曲げ、シートの中央部(熱可塑性樹脂フィルムが積層してある場合は、これらのシート表面上)に中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)(花王社製、商品名:ココナードMT)を約0.1mL滴下し、30分間放置してシートの状況を目視確認した。この目視でのシートの侵食度合いを耐油性とした。シートの侵食度合いが大きくなるに従って、目視で確認した時に、長さ2mm以上のクラックが確認できる。更に侵食が進むとシートは折れるか、破断する。浸食がなければ、目視で上記のクラック、折れ、破断の何れもが実質的に確認できない。シート表面に侵食がないものを「良好」と判定して「○」と表示し、シート表面に侵食があるものを「劣る」と判定して「×」と表示した。
【0095】
(5)耐溶剤性
以下の実施例、比較例で得られた積層シートから、大きさが25mm×70mmの試験片を作成し、試験片の70mm方向に曲げ半径25mmに曲げ、シートの中央部(ポリオレフィンまたはポリエステルフィルムが積層してある場合は、これらのフィルム表面上)にトルエンを約0.1ml滴下し、30分間放置してシートの状況を目視確認した。この目視でのシートの侵食度合いを耐溶剤性とした。シートの侵食度合いが大きくなるに従って、目視で確認した時に、長さ2mm以上のクラックが確認できる。更に侵食が進むとシートは折れるか、破断する。浸食がなければ、目視で上記のクラック、折れ、破断の何れもが実質的に確認できない。シート表面に侵食がないものを「良好」と判定して「○」と表示し、シート表面に侵食があるものを「劣る」と判定して「×」と表示した。
【0096】
(6)表面抵抗値(単位:Ω)
以下の実施例、比較例で得られた積層シートから、大きさが100mm×100mmの試験片を5枚作成し、23℃、相対湿度50%で24時間状態調整した。このあとJIS K6911に準拠し、23℃、50%RHの条件下、三菱化学社製「ハイレスターUP MCP−450型」を使用し、印加電圧500V、測定時間60秒の条件で表面抵抗値(単位:Ω)を測定し、5枚の試験片の平均値を算出した。この平均値をシートの表面抵抗値とした。さらに、これら5枚の試験片を60℃の流水で3分間洗浄し、清浄な紙で水分を拭き取り、23℃、相対湿度50%で24時間状態調整した後、洗浄前と同じ条件で表面抵抗値を測定し、その平均値を算出して、洗浄後の表面抵抗値とした。この値が10〜1012範囲のものを帯電防止性が良好と判定して「○」と表示し、1012を越えたものを「劣る」と判定して「×」と表示した。
【0097】
(7)成型性
以下の実施例、比較例で得られた積層シートを、熱板加熱式圧空成型機(関西自動成型機社製、PK−450型)にて、開口部形状が200mm×120mmの長方形、底部形状が190mm×110mmの長方形、深さ25mmの容器成型用金型を取り付けて、熱可塑性樹脂フィルム積層面が容器の内側になるように成型を行った。なお、この成型テストは、熱板温度128℃、加熱時間2.0秒、加熱圧力0.1MPa、成型時間1.0秒、成型圧力0.39MPaの条件で実施し、得られた成型体の外観を目視確認した。この目視確認の結果を成型性とした。成型体の金型の形状が明確に現れており、破れや、積層フィルムのはがれがないものを良好と判定して「○」と表示し、成型体の金型の形状が明確に現れていないもの、破れや積層フィルムの剥がれがあるものを不良と判定し「×」と表示した。
【0098】
実施例1
押出機(プラ技研社製、ベント式65mmφ型押出機)と、押出機先端に装着された接続用管を介して、面長が850mmのT−ダイ(プラ技研社製)を準備し、これらをシートが得られるように組立てた。表1に記載の割合でHIPS及び発泡剤をリボンブレンダーによって均一に混合してドライブレンド物を得た。押出機のシリンダー温度を約190℃に設定してドライブレンド物を溶融し、未延伸シートとして押出し、80℃に設定した冷却ロールで急冷し、未延伸発泡シートを作製した。得られた未延伸シートを、ロール方式縦延伸機で縦方向に約2.5倍、続いてテンター横延伸機によって横方向に約2.5倍延伸し、厚さ0.34mm、発泡倍率1.70の二軸延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートとし、ロール状に巻き取った。
【0099】
次いで、ポリエーテルポリウレタン系接着剤(大日精化工業社製、セイカボンドA−342、C−93)を用い、上記二軸延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートと表1に記載のPP−1フィルムをドライラミネーターにて積層して、厚さ0.37mmの積層シートを得た。得られたシートの層構成、シート厚さ、ゴム含有率、発泡倍率、および、上記(1)〜(7)の物性評価項目についての評価結果を、表1に記載した。
【0100】
実施例2
実施例1において、表1に記載のポリスチレン系樹脂及び熱可塑性樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして厚さ0.38mmの積層シートを得た。評価結果を表1に記載した。
【0101】
実施例3
実施例2において、製膜速度条件を変更し厚さ0.11mm、発泡倍率2.50の二軸延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートを用いた以外は、実施例2と同様にして厚さ0.15mmの積層シートを得た。評価結果を表1に記載した。
【0102】
実施例4
実施例1において、表1に記載のポリスチレン系樹脂及び熱可塑性樹脂を両面に積層した以外は実施例1と同様にして厚さ0.48mmの積層シートを得た。評価結果を表1に記載した。
【0103】
実施例5
実施例4において、表1に記載のポリスチレン系樹脂及び熱可塑性樹脂を用いた以外は実施例4と同様にして厚さ0.53mmの積層シートを得た。評価結果を表1に記載した。
【0104】
実施例6
実施例4において、表1に記載のポリスチレン系樹脂及び熱可塑性樹脂を用いた以外は実施例4と同様にして厚さ0.47mmの積層シートを得た。評価結果を表2に記載した。
【0105】
実施例7
実施例1において、表1に記載のポリスチレン系樹脂及び熱可塑性樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして厚さ0.44mmの積層シートを得た。評価結果を表2に記載した。
【0106】
実施例8
実施例7において、製膜速度条件のみを変更し厚さ0.09mm、発泡倍率1.24の二軸延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートを用い、表1に記載の熱可塑性樹脂を用いた以外は、実施例7と同様にして厚さ0.13mmの積層シートを得た。評価結果を表2に記載した。
【0107】
比較例1
実施例1において、二軸延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートの代わりに縦方向、横方向にも延伸しない未延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ0.43mmの積層シートを得た。評価結果を表3に記載した。
【0108】
比較例2
実施例1において、押出機のシリンダー温度を約190℃の代わりに230℃に設定し発泡倍率を4.10倍、厚さ0.25mmのポリスチレン系樹脂シートを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ0.28mmの積層シートを得た。評価結果を表3に記載した。
【0109】
比較例3
実施例1において、二軸延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートにPP−1フィルムをドライラミネーターにて積層しない以外は、実施例1と同様にして厚さ0.34mmの積層シートを得た。評価結果を表3に記載した。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
以上の実施例1〜8、比較例1〜3より以下のことが明らかとなった。
(1)実施例1〜8で得られた積層シートは、何れも請求項1に記載の要件を満たす積層シートであり、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等に優れ、シートの厚さが薄いにも関わらず機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)に優れたスチレン系樹脂積層シートであった。
また、未延伸の熱可塑性樹脂フィルムを用いて得られた積層シートは、更に成型性も良好であった(実施例2、実施例3、実施例8)。なお、熱可塑性樹脂フィルムとして延伸されたものを使用した場合には成型性が悪かったが、それを未延伸のものに代えると成型性は改善した。
【0114】
(2)一方、延伸しないポリスチレン系樹脂シートを用いた積層シートは(比較例1)、実施例1よりシートの厚さが厚いにも関わらず機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)が劣る積層シートとなった。
(3)また、発泡倍率が4.0倍より大きいポリスチレン系樹脂シートを用いた積層シートは(比較例2)、発泡過剰により実施例1より機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)が劣る積層シートであった。
(4)更に、発泡倍率が1.1〜4.0倍であり、かつ少なくとも一方の延伸倍率が3.0倍以下となるように延伸された二軸延伸発泡したポリスチレン系樹脂シートを用いても、該ポリスチレン系樹脂シートにポリスチレン系樹脂より耐油性を有する熱可塑性シートを積層しない積層シートは(比較例3)、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等が劣る積層シートであった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の積層シートは、耐油性、耐溶剤性、耐摩耗性等に優れ、シートの厚さが薄いにも関わらず機械的強度(衝撃強度、引裂強度等)に優れているため、広く利用できるものである。特に、板状部材(例えば、ガラス、ガラスを使用したディスプレー用のパネル、装飾等が付与された建築用部材等)の輸送・搬送用の緩衝シートとして広く利用できるものである。また、本発明の積層シートは、熱板成型による二次成型が可能であり、電子部品用のトレーや食品トレー、医療用キットに使用される医療用トレー等としても広く好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡倍率が1.1〜4.0倍であり、かつ少なくとも一方の延伸倍率が3.0倍以下となるように延伸されたポリスチレン系樹脂シートに、ポリスチレン系樹脂より耐油性を有する熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる、層構成が2層又は3層であることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
該熱可塑性樹脂フィルムが、更にポリスチレン系樹脂より耐摩耗性を有するものである請求項1記載の積層シート。
【請求項3】
該熱可塑性樹脂フィルムが、ポリオレフィン系樹脂フィルム又はポリエステル系樹脂フィルムである請求項1又は請求項2記載の積層シート。
【請求項4】
上記ポリスチレン系樹脂シートの厚さが0.05〜0.8mmであって、かつ該熱可塑性樹脂フィルムの厚さの合計が0.01〜0.8mmである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の積層シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さの合計をポリスチレン系樹脂シートの厚さで割った値である積層比が0.03〜1である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の積層シート。
【請求項6】
該熱可塑性樹脂フィルムに帯電防止剤が含有されているものである請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の積層シート。
【請求項7】
該ポリスチレン系樹脂シートのゴム成分の含有量が20質量%以下である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載の積層シート。

【公開番号】特開2010−201623(P2010−201623A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46398(P2009−46398)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】