説明

積層フィルムおよびその製造方法

【課題】製造時に工程紙−フッ素樹脂層−主層(塩化ビニル樹脂などからなる)の構成をとる積層フィルムにおいて、一定期間経過後にフッ素樹脂層と主層とが積層された場合であっても、フッ素樹脂層と主層との付着性を十分に確保し、フッ素樹脂層と工程紙との間で容易に剥離可能としうる手段を提供する。
【解決手段】本発明の積層フィルムは、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂層と、当該フッ素樹脂層の一方の面に配置された、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される樹脂を含む主層とが積層されてなる。そして、上記フッ素樹脂層は金属キレート架橋剤を含み、JIS K5600−5−6:1999に準じて測定される前記フッ素樹脂層と前記主層との間の付着力が、分類0である点に特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外の看板等に耐候性を付与するなどの種々の目的で、マーキングフィルムを貼付することが広く行なわれている。マーキングフィルムの構成材料としては、従来、塩化ビニル樹脂が用いられていたが、防汚性の向上や光沢の低下の防止などの目的で、塩化ビニル樹脂からなるマーキングフィルムの表面にフッ素樹脂のフィルムをラミネートまたは塗布することが行なわれている。
【0003】
しかしその一方で、フッ素樹脂をラミネートすると、マーキングフィルムの柔軟性が低下したり、加工コストが高騰したりするという問題があった。また、フッ素樹脂の溶液を塗布すると、当該溶液中の溶剤がマーキングフィルムの樹脂に浸透して残留することがあった。そして、マーキングフィルム内に溶剤が残留すると、フッ素樹脂層と塩化ビニル樹脂層との間で劣化が進行し、層間で剥離が発生したり、変色・褪色、耐候性の低下などが生じるという問題があった。
【0004】
マーキングフィルム表面へのフッ素樹脂のラミネート/塗布によるこのような問題を解決しうるための技術として、フィルム作製時の積層順序を変更するという技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の技術では、まず、工程紙(剥離シート)上にフッ素樹脂含有溶液を塗布し、乾燥させ、その上に塩化ビニル樹脂オルガノゾルをキャスティングし、次いで加熱硬化させて、フッ素樹脂フィルムと軟質塩化ビニル樹脂フィルムとの積層フィルムを形成している。なお、かような積層フィルムにおいて、得られるフッ素樹脂フィルムの耐候性や柔軟性を向上させることを目的として、フッ素樹脂含有溶液にはイソシアネート系架橋剤が添加されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−188624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1に記載の手法により積層フィルムを作製する際、工程紙上にフッ素樹脂含有溶液を塗布してフッ素樹脂層を形成した後、例えば数日間経過後に塩化ビニル樹脂オルガノゾルを当該フッ素樹脂層上にキャスティングして塩化ビニル樹脂層を形成すると、フッ素樹脂層と塩化ビニル樹脂層との間で十分な付着性が確保できないことが判明した。その結果、相対的に工程紙とフッ素樹脂層との間の付着性の方が大きくなり、本来マーキングフィルムには不要である工程紙をフッ素樹脂層から剥離するのが困難となるという問題が生じてしまう。
【0007】
そこで本発明は、上述した従来技術における現状に鑑みなされたものであり、製造時に工程紙−フッ素樹脂層−主層(塩化ビニル樹脂などからなる)の構成をとる積層フィルムにおいて、一定期間経過後にフッ素樹脂層と主層とが積層された場合であっても、フッ素樹脂層と主層との付着性を十分に確保し、フッ素樹脂層と工程紙との間で容易に剥離可能としうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった。その過程で、製造時に工程紙−フッ素樹脂層−主層(塩化ビニル樹脂などからなる)の構成をとる積層フィルムにおいて、フッ素樹脂層に含ませる架橋剤の種類を変更することを試みた。そして最終的に、フッ素樹脂層に金属キレート架橋剤を含ませることで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
このようにして完成された本発明の積層フィルムは、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂層と、当該フッ素樹脂層の一方の面に配置された、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される樹脂を含む主層とが積層されてなる。そして、上記フッ素樹脂層は金属キレート架橋剤を含み、JIS K5600−5−6:1999に準じて測定される前記フッ素樹脂層と前記主層との間の付着力が、分類0である点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層フィルムによれば、製造時に工程紙−フッ素樹脂層−主層(塩化ビニル樹脂などからなる)の構成をとる積層フィルムにおいて、一定期間経過後にフッ素樹脂層と主層とが積層された場合であっても、フッ素樹脂層と主層との密着性が十分に確保され、フッ素樹脂層と工程紙との間で容易に剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の積層フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態の積層フィルムの断面図である。図1に示すように、積層フィルム1は、フッ素樹脂層10を有する。フッ素樹脂層10は、フッ素樹脂を含み、かつ、金属キレート架橋剤(例えば、アルミニウムキレート系架橋剤)を含む。フッ素樹脂層10の一方の面(図1に示すフッ素樹脂層10の下面)には、積層フィルム1の主層20が配置されている。本実施形態において、主層20は、塩化ビニル樹脂を含んでいる。フッ素樹脂層10の他方の面(図1に示すフッ素樹脂層10の上面)には、工程紙30が配置されている。本実施形態において、工程紙30は、フッ素樹脂層10側の面に剥離剤が塗布されてなるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。さらに、主層20のフッ素樹脂層10と反対側の面(図1に示す主層20の下面)には、粘着剤を含む粘着剤層40が配置され、粘着剤層40の主層20と反対側の面(図1に示す粘着剤層40の下面)には、剥離紙50がさらに配置されている。以下、積層フィルム1の構成部材について、順に説明する。
【0014】
[フッ素樹脂層]
図1に示すように、積層フィルム1は、フッ素樹脂層10を有する。かような構成とすることで、積層フィルム1が例えばマーキングフィルムなどの用途に用いられた際に、当該積層フィルムの耐候性や防汚性が向上しうる。
【0015】
上述したように、フッ素樹脂層10は、フッ素樹脂を含む。本発明において、フッ素樹脂層10の構成材料であるフッ素樹脂の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知のフッ素樹脂が用いられうる。フッ素樹脂は、フッ素含有単量体由来の繰り返し単位を有するポリマーからなる。フッ素含有単量体としては、例えば、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。フッ素樹脂は、フッ素含有単量体の単独重合体であってもよいし、フッ素含有単量体の共重合体であってもよい。また、フッ素樹脂は、フッ素含有単量体とこれと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0016】
フッ素含有単量体と共重合可能な単量体としては、ヒドロキシ基含有ビニル単量体が好ましく用いられる。つまり、フッ素樹脂は、ヒドロキシ基を有するフッ素樹脂であることが好ましい。ヒドロキシ基含有ビニル単量体としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシカルボン酸ビニルエステル、ヒドロキシカルボン酸アリルエステル、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。なお、これらの単量体は、1種のみが単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0017】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数5〜8のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0018】
ヒドロキシアルキルビニルエーテルとしては、炭素数4〜10のヒドロキシアルキルビニルエーテルが挙げられ、具体的には、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシ−2−メチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、2−(4−ヒドロキシシクロヘキシルエチル)ビニルエーテル、2,3−ジヒドロキシプロピルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0019】
ヒドロキシアルキルアリルエーテルとしては、炭素数5〜11のヒドロキシアルキルアリルエーテルが挙げられ、具体的には、ヒドロキシエチルアリルエーテル、ヒドロキシプロピルアリルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテル、ヒドロキシイソブチルアリルエーテル、ヒドロキシヘキシルアリルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルアリルエーテル、2−(4−ヒドロキシシクロヘキシルエチル)アリルエーテル、2,3−ジヒドロキシプロピルアリルエーテル等が挙げられる。
【0020】
ヒドロキシカルボン酸ビニルエステルとしては、炭素数4〜10のヒドロキシカルボン酸ビニルエステルが挙げられ、具体的には、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロパン酸ビニル、ヒドロキシブタン酸ビニル、ヒドロキシヘキサン酸ビニル、4−ヒドロキシシクロヘキシル酢酸ビニル等が挙げられる。
【0021】
ヒドロキシカルボン酸アリルエステルとしては、炭素数5〜11のヒドロキシカルボン酸アリルエステルが挙げられ、具体的には、ヒドロキシ酢酸アリル、ヒドロキシプロパン酸アリル、ヒドロキシブタン酸アリル、ヒドロキシヘキサン酸アリル、4−ヒドロキシシキロヘキシル酢酸アリル等が挙げられる。
【0022】
N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、炭素数5〜8のヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられ、具体的には、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0023】
一方、フッ素含有単量体と共重合可能な単量体としては、カルボキシ基含有ビニル単量体もまた、好ましく用いられる。つまり、フッ素樹脂は、カルボキシ基を有するフッ素樹脂であることも同様に好ましい。さらに、フッ素樹脂は、ヒドロキシ基およびカルボキシ基の双方を有するフッ素樹脂であることが特に好ましい。ここで、カルボキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0024】
なお、上述したフッ素含有単量体とヒドロキシ基および/またはカルボキシ基含有ビニル単量体との共重合の際には、さらに他の単量体を混合して、共重合させてもよい。
【0025】
かような他の単量体としては、アルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、α−オレフィン、アルキル(メタ)アクリレート、N−アルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。なお、これらの他の単量体もまた、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
アルキルビニルエーテルとしては、炭素数4〜10のアルキルビニルエーテルが挙げられ、具体的には、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルエチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0027】
アルキルアリルエーテルとしては、炭素数5〜11のアルキルアリルエーテルが挙げられ、具体的には、エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル、シクロヘキシルエチルアリルエーテル、2−エチルヘキシルアリルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
カルボン酸ビニルエステルとしては、炭素数4〜10のカルボン酸ビニルエステルが挙げられ、具体的には、酢酸ビニル、プロパン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、シクロヘキシル酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0029】
カルボン酸アリルエステルとしては、炭素数5〜11のカルボン酸アリルエステルが挙げられ、具体的には、酢酸アリル、プロパン酸アリル、ブタン酸アリル、ヘキサン酸アリル、シクロヘキシル酢酸アリルなどが挙げられる。
【0030】
α−オレフィンとしては、炭素数2〜8のα−オレフィンが挙げられ、具体的には、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、1−ヘキセン、スチレンなどが挙げられる。
【0031】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数5〜8のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0032】
N−アルキル(メタ)アクリルアミドとしては、炭素数5〜8のアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられ、具体的には、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0033】
共重合の際の上述したフッ素含有単量体の配合割合は、フッ素樹脂を構成する単量体の全量に対して、10〜60モル%となるように調整することが好ましく、20〜50モル%となるように調整することがより好ましい。
【0034】
一方、フッ素樹脂がヒドロキシ基を有するフッ素樹脂である場合、ヒドロキシ基含有ビニル単量体の配合割合は、フッ素樹脂を構成する単量体の全量に対して、5〜50モル%となるように調整することが好ましく、10〜40モル%となるように調整することがより好ましい。また、フッ素樹脂がカルボキシ基を有するフッ素樹脂である場合、カルボキシ基含有ビニル単量体の配合割合は、フッ素樹脂を構成する単量体の全量に対して、5〜50モル%となるように調整することが好ましく、10〜40モル%となるように調整することがより好ましい。なお、他の単量体の配合割合は、フッ素樹脂を構成する単量体の全量に対して、0〜80モル%となるように調整することが好ましく、10〜60モル%となるように調整することがより好ましい。
【0035】
フッ素樹脂の水酸基価(mgKOH/g)は、好ましくは0〜200であり、より好ましくは0を超えて200以下であり、さらに好ましくは20〜80である。また、フッ素樹脂の酸価(mgKOH/g)は、好ましくは10〜200であり、より好ましくは50〜150であり、さらに好ましくは80〜120である。これらの構成によれば、工程紙を剥離する際にフッ素樹脂層の凝集破壊を防ぐとともに、本発明の積層フィルムがマーキングフィルムなどの用途に用いられた際に、優れた耐候性や耐溶剤性が発現しうる。なお、フッ素樹脂の水酸基価および酸価の値は、JIS K0070:1992に記載の中和滴定法により測定された値である。
【0036】
このように、フッ素樹脂層10はフッ素樹脂を必須に含有するが、他の樹脂がフッ素樹脂とブレンドされることによってフッ素樹脂層10が形成されてもよい。かような他の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0037】
図1に示す形態の積層フィルム1において、フッ素樹脂層10は、金属キレート架橋剤を含む。フッ素樹脂層10に含まれる金属キレート架橋剤の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、金属キレート架橋剤としては、金属原子がアルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、鉄、スズなどである金属キレート化合物が挙げられるが、なかでも、架橋性能の観点からは、アルミニウムキレート化合物が好ましい。
【0038】
アルミニウムキレート化合物としては、例えばジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビスオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ−N−ラウロイル−β−アラネートモノラウリルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(イソブチルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(2−エチルヘキシルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(ドデシルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)キレートなどが挙げられる。
【0039】
また、その他の金属キレート化合物としては、例えばチタニウムテトラプロピオネート、チタニウムテトラ−n−ブチレート、チタニウムテトラ−2−エチルヘキサノエート、ジルコニウムsec−ブチレート、ジルコニウムジエトキシ−tert−ブチレート、トリエタノールアミンチタニウムジプロピオネート、チタニウムラクテートのアンモニウム塩、テトラオクチレングリコールチタネートなどが挙げられる。
【0040】
本実施形態において、フッ素樹脂層10に含まれる金属キレート架橋剤は、1種のみが単独であってもよいし、2種以上が併用されてもよい。フッ素樹脂層10における金属キレート架橋剤の含有量は、フッ素樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜3.5質量部であり、より好ましくは0.8〜2.5質量部であり、さらに好ましくは1.0〜2.0質量部である。金属キレート架橋剤の含有量がかような範囲内の値であると、工程紙を剥離する際にフッ素樹脂層が凝集破壊することを防ぐことができる。
【0041】
上述したように、フッ素樹脂層10は金属キレート架橋剤を必須に含有するが、これ以外の架橋剤をさらに含有してもよい。かような架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、クロロフェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの低級脂肪族ジイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、前記芳香族ジイソシアネート類の水添物などの脂環族イソシアネート類;また、前記各種イソシアネート類と、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールを付加したアダクト系イソシアネート化合物、イソシアヌレート化合物、ビューレット型化合物、さらにはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどを付加反応させたウレタンプレポリマー型のポリイソシアネートなどのイソシアネート系架橋剤が挙げられる。また、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、スピログリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアミノメチルシクロへキサン、テトラグリシジルキシレンジアミン、ポリグリシジルメタキシレンジアミンなどのエポキシ系架橋剤もまた、用いられうる。ただし、フッ素樹脂層10に含まれる架橋剤の全量に対して、金属キレート架橋剤以外の架橋剤の含有量は、可能な限り少ないことが好ましく、具体的には、好ましくは0〜1質量%であり、より好ましくは0〜0.1質量%であり、特に好ましくは0質量%である。これは、本発明の効果が発現するメカニズム(推定)による。すなわち、後述する実施例の欄において考察するように、本発明においてはフッ素樹脂層10に含まれる架橋剤としてキレート架橋剤を用いることで、一定期間経過後にフッ素樹脂層10と主層20(後述)とが積層された場合であってもこれらの層間の接着性が確保されるものと考えられる。そしてこれは、比較的架橋力の強いイソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤に代えて、比較的架橋力の弱い金属キレート架橋剤を必須に用いることで、フッ素樹脂層10を形成してからある程度の時間が経過した後であっても、その後にフッ素樹脂層10の表面上に形成される主層20との接着性を向上させるのに金属キレート架橋剤が寄与しているのではないかとのメカニズムが推測されるのである。ただし、このメカニズムによって本発明の技術的範囲が影響を受けることはない。
【0042】
フッ素樹脂層10の厚さに特に制限はないが、通常、0.5〜20μm程度である。
【0043】
[主層]
図1に示すように、フッ素樹脂層10の一方の面には、主層20が配置されている。図1に示す形態において、主層20は塩化ビニル樹脂を含むが、主層20の構成材料はこれに限定されない。例えば、主層20の構成材料は、ウレタン樹脂やアクリル樹脂であってもよい。主層20を構成する材料の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0044】
塩化ビニル樹脂の構成材料としては、例えば数平均重合度が約800〜2500のポリ塩化ビニル、塩化ビニルを主体とする共重合体(例えばエチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−ハロゲン化オレフィン共重合体など)、あるいはこれらのポリ塩化ビニル又は塩化ビニル共重合体を主体とする他の相溶性の樹脂(例えばポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、部分ケン化ポリビニルアルコールなど)とのブレンド物などの塩化ビニル樹脂を含むものが挙げられる。これらのポリ塩化ビニルまたは塩化ビニルを主体とする共重合体は塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法など常用のいかなる製造法によって得られたものでもよい。これら塩化ビニル樹脂は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。この塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、例えば20〜50質量部程度の可塑剤(例えば、ポリエステル系可塑剤)を配合することにより、調製されうる。また、必要に応じて、鉛塩系安定剤、金属せっけん系安定剤、有機すず系安定剤などの安定剤が配合されうる。形状追従性、加工性、経済性などのバランスの点からは、この塩化ビニル樹脂が主層20の構成材料として好ましく採用される。
【0045】
一方、環境問題の観点から、低環境負荷型の主層構成材料として、ウレタン樹脂、アクリル樹脂が用いられてもよい。これらの材料が用いられる場合、例えば、主層20がウレタン樹脂から構成されるときには、当該ウレタン樹脂はポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールなどのポリマーと、硬化剤との反応物として構成される。
【0046】
主層20の厚さに特に制限はないが、通常、10〜500μm程度である。
【0047】
[工程紙]
図1に示すように、フッ素樹脂層10の他方の面には、工程紙30が配置されている。工程紙30の具体的な形態について特に制限はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルムに剥離剤を塗布したものが用いられる。ここで、剥離剤としては、ポリビニルアルコール、長鎖アルキル化合物、アルキッド樹脂、シリコーン変性アルキッド樹脂、シリコーン等が用いられる。なお、本発明の積層フィルムにおいて、工程紙の存在は必須ではない。後述する製造方法によって積層フィルムを製造した後、工程紙を除去しなければ、工程紙を含む形態の積層フィルムが得られる。
【0048】
工程紙30の厚さに特に制限はないが、通常、10〜200μm程度である。
【0049】
[粘着剤層/剥離紙]
図1に示すように、主層20のフッ素樹脂層10とは反対側の面には、粘着剤層40が設けられており、当該粘着剤層40には剥離紙50がさらに積層されている。
【0050】
粘着剤層40は、粘着剤を含む。粘着剤層40に含まれる粘着剤の具体的な構成については、特に制限なく採用されうる。粘着剤層40に含まれる粘着剤の一例としては、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体からなるベースポリマーと、架橋剤とを含有するものが挙げられる。以下、かような形態を例に挙げてより詳細に説明するが、場合によっては、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤などの粘着剤が用いられてももちろんよい。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸とモノアルコールとのエステルであって、当該モノアルコールの有するアルキル基がn−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ブチル基、イソブチル基、メチル基、エチル基、イソプロピル基などであるものが挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体は、これらの(メタ)アクリル酸エステルの1種または2種以上を含みうる。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の全繰り返し単位に占める上述した(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位100モル%に対して、好ましくは30〜99モル%であり、より好ましくは50〜95モル%である。
【0053】
また、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体は、上述したもの以外の成分として、カルボキシ基、ヒドロキシ基、グリシジル基等の有機官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体由来の繰り返し単位を含んでもよい。かような成分としては、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の全繰り返し単位に占めるこれらの繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位100モル%に対して、好ましくは0.01〜15モル%であり、より好ましくは0.3〜10モル%である。
【0054】
粘着剤の凝集力を高める目的で、コモノマー成分として酢酸ビニルやスチレン等を適宜共重合することも可能である。また、粘着力を高める目的で粘着付与剤を添加することも可能である。
【0055】
粘着剤に含有される架橋剤についても、特に制限はない。ただし、粘着剤層40の黄変を防止するという観点から、好ましくは、脂肪族イソシアネート化合物、脂環式イソシアネート化合物、エポキシ化合物、または金属キレート化合物が架橋剤として用いられる。これらの架橋剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、場合によっては、これら以外の従来公知の架橋剤が用いられてももちろんよい。
【0056】
上述した各種架橋剤の具体的な形態についても特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。架橋剤の一例を挙げると、脂肪族イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、また、脂環式イソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、上述した化合物のビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの形態で用いられてもよい。エポキシ化合物としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。また、金属キレート化合物としては、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタンなどが挙げられる。
【0057】
粘着剤における架橋剤の含有量について特に制限はないが、上述した(メタ)アクリル酸系(共)重合体100質量部に対して、好ましくは0.001〜15質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部である。
【0058】
以上、粘着剤の一例として、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体からなるベースポリマーと、架橋剤とを含有するものを例に挙げて説明したが、その他の従来公知の粘着剤が用いられてももちろんよい。
【0059】
粘着剤層40の厚さは特に制限されないが、好ましくは5〜100μmであり、より好ましくは15〜50μmである。粘着層13の厚さは、被着体の表面(被着面)の凹凸の大きさにより適宜選択して設定される。
【0060】
粘着剤層40は、従来公知のその他の添加剤をさらに含みうる。かような添加剤としては、例えば、粘着付与剤、充填剤、顔料、紫外線吸収剤などが挙げられる。粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、ポリテルペン系樹脂などの天然樹脂、C5系、C9系、ジシクロペンタジエン系などの石油樹脂、クマロンインデン樹脂、キシレン樹脂などの合成樹脂などが挙げられる。充填剤としては、例えば、亜鉛華、シリカ、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0061】
なお、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきである。よって、場合によっては、粘着剤層40や詳細は後述する剥離紙50を備えない構造のみからなる物(積層フィルム)もまた、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
剥離紙50は、積層フィルム1のマーキングフィルム等としての使用前において、粘着剤層40を保護し、粘着性の低下を防止する機能を有する層である。そして、剥離紙50は、積層フィルム1の使用時には剥離される。
【0063】
剥離紙50の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。剥離紙50は一般的に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルム;グラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙などの紙といった材料を基材として構成される。これらの基材の厚みは、通常10〜400μm程度である。また、剥離紙50の表面には、粘着剤層40の剥離性を向上させるためのシリコーン樹脂などから構成される剥離剤からなる層(図示せず)が設けられてもよい。かような層が設けられる場合の当該層の厚みは、通常0.01〜5μm程度である。
【0064】
[製造方法]
本発明によれば、上述した積層フィルムの好適な製造方法もまた、提供される。すなわち、本発明に係る積層フィルムの製造方法では、まず、工程紙上に金属キレート架橋剤を含有するフッ素樹脂含有溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させてフッ素樹脂層を形成する(第1工程)。続いて、得られたフッ素樹脂層上に塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される樹脂を含む溶液を塗布し、乾燥させて主層を形成する(第2工程)。以下、工程順に詳細に説明する。
【0065】
(第1工程)
第1工程では、まず、工程紙30を準備する。工程紙の具体的な形態については上述したとおりであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0066】
一方、フッ素樹脂含有溶液(「第1溶液」とも称する)を準備する。このフッ素樹脂含有溶液は、フッ素樹脂(および必要に応じてその他の樹脂および/または添加剤)と、金属キレート架橋剤とが適当な溶剤に溶解・分散されてなる溶液である。溶剤としては、例えば、トルエン、酢酸エチルなどが用いられうる。この溶液は、自ら調製したものであってもよいし、市販品を購入したものであってもよいし、市販品を適宜改変したものであってもよい。
【0067】
第1工程では、続いて、上記で準備した第1溶液を、工程紙30上に塗布する。塗布の具体的な形態について特に制限はなく、例えば、塗布手段としては、グラビヤコーター、マイヤーバー、ダイコーター、ナイフコーターなどが用いられうる。その後、得られた塗膜を乾燥させる。乾燥の具体的な形態についても特に制限はなく、常法に従って、80〜120℃程度の温度で30秒間〜3分間程度乾燥させればよい。これにより、工程紙30上にフッ素樹脂層10が形成される。
【0068】
(第2工程)
第2工程では、まず、主層の構成材料である樹脂(および必要に応じてその他の添加剤)が適当な溶剤に溶解・分散されてなる溶液(「第2溶液」とも称する)を準備する。溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類などが用いられうる。この溶液もまた、自ら調製したもの、または市販品もしくはその改変物でありうる。
【0069】
第2工程では、続いて、上記で準備した第2溶液を、上述した第1工程で形成されたフッ素樹脂層10上に塗布する。塗布の具体的な形態について特に制限はなく、例えば、第1工程の欄で説明した手法が採用されうる。その後、得られた塗膜を乾燥させる。乾燥の具体的な形態についても特に制限はなく、常法に従って、80〜200℃程度の温度で30秒間〜3分間程度乾燥させればよい。これにより、フッ素樹脂層10上に主層20が形成される。
【0070】
以上の手法により、本発明の積層フィルムの必須の構成が製造されうるが、必要に応じて、主層20上に、粘着剤層40やこれに加えて剥離紙50を積層することができる。かような形態では、通常、剥離紙50の表面に粘着剤層40が形成されてなる粘着シートを別途準備しておき、当該粘着シートの粘着剤層40を上記で製造した積層フィルムにおける主層20へと転写するという手法が採用される。かような手法により、図1に示す形態の積層フィルム1を製造することができる。
【0071】
本発明の実施形態に係る積層フィルム1においては、上述したように、フッ素樹脂層10と主層20との密着性が十分に確保され、フッ素樹脂層10と工程紙30との間で容易に剥離することが可能となる。
【0072】
これを定量的に表現すると、本実施形態の積層フィルムにおいて、フッ素樹脂層10と主層20との間の付着力をJIS K5600−5−6:1999(クロスカット法)に準じて測定すると、分類0となる。これは、簡単に言えば、フッ素樹脂層10に碁盤目の切込みを入れ、さらにその上にテープを貼付してこれを剥がしたときに、カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれがないことを意味する。また、本実施形態の積層フィルムにおいて、工程紙30とフッ素樹脂層10との界面の剥離力は、好ましくは10〜500mN/50mmであり、より好ましくは20〜300mN/50mmであり、さらに好ましくは50〜200mN/50mmである。なお、この剥離力の値は、JIS K6854−2:1999に準じて測定される値である。
【0073】
本発明の積層フィルム1の用途について特に制限はない。ただし、当該積層フィルム1は、屋外で使用可能な程度の耐候性を有することから、例えば、表示・標識用として、危険表示用テープ、ラインテープ、マーキングテープなどに、また装飾用として、看板、ショーウインドウや建造物の内外装、車やオートバイの装飾、自動車ドアサッシュ部の装飾などに用いられうる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の実施例のみに限定されるべきではない。
【0075】
[積層フィルムの作製]
<実施例1>
まず、工程紙として、シリコーン変性アルキッド樹脂を塗布したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:50μm)を準備した。
【0076】
続いて、主剤(固形分30質量%、三フッ化エチレン/ブチルアクリレート(BA)/2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)/アクリル酸(AA)/メチルメタクリレート(MMA)=30/30/15/15/10、酸価110、水酸基価61)100質量部に対して、アルミニウムキレート系架橋剤(綜研化学株式会社製、M−5A、固形分5質量%)10質量部(架橋剤の官能基/COOH=4.4%)を添加することにより、フッ素樹脂溶液を調製した(固形分の質量比で、主剤:架橋剤=100:1.7)。
【0077】
上記で調製したフッ素樹脂溶液を、上記で準備した工程紙上にナイフコーターを用いて塗布し、得られた塗膜を110℃にて90秒間乾燥して、フッ素樹脂層(厚さ:10μm)を形成した。その後、得られた積層体を、23℃50%RHの環境下に7日間静置した。
【0078】
一方、塩化ビニル樹脂(PolyOne Corporation製、Geon178)100質量部、ポリエステル系可塑剤(大日精化工業株式会社製、ファインサイザーNS−4070)35質量部、金属せっけん系安定剤(勝田化工株式会社製、B−9301)4質量部、および溶媒としてエチレングリコールモノブチルエーテル40質量部が混合されてなるオルガノゾルを準備した。次いで、上記で形成した(7日間静置後の)フッ素樹脂層上に、当該オルガノゾルをナイフコーターを用いて塗布し、得られた塗膜を90℃にて90秒間、次いで190℃にて30秒間乾燥して、塩化ビニル樹脂からなる主層(厚さ:55μm)を形成した。
【0079】
その後、上記で形成した主層の上に、剥離紙上にアクリル系粘着剤を主成分とする粘着剤層(厚さ20μm)が形成されてなる粘着シートを主層と粘着剤層とが接着するように転写して、本実施例の積層フィルムを作製した。
【0080】
<比較例1>
フッ素樹脂溶液を調製する際に、アルミニウムキレート系架橋剤10質量部に代えて、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製、コロネートHL、固形分75質量%)2.6質量部(架橋剤の官能基/COOH=4.4%)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例の積層フィルムを作製した。
【0081】
[積層フィルムの評価]
上記の実施例1および比較例1で作製した積層フィルムについて、以下の手法により、評価を行なった。評価結果を下記の表1に示す。
【0082】
(工程紙の剥離力)
JIS K6854−2:1999に記載の手法に準じて工程紙の剥離力を測定した。
【0083】
具体的には、積層フィルムを長さ250mm×幅50mmの大きさに裁断し、剥離紙を剥がしてステンレス板に貼付した。その後、工程紙の一端を剥離させ、180度の方向に移動速度300mm/分で引張ることにより工程紙の剥離力を測定した。
【0084】
(工程紙の剥離界面〉
また、剥離試験を行った積層フィルムの工程紙と主層を観察することにより、剥離界面が工程紙とフッ素樹層の界面なのか、フッ素樹脂層と主層の界面なのかを確認した。
【0085】
(フッ素樹脂層の主層への付着力)
積層フィルムから工程紙を剥がし、JIS K5600−5−6:1999に準じて、フッ素樹脂層の主層への付着力を測定した。付着力は、剥がれが全くないもの(分類0)から剥がれの程度が大きいもの(分類5)の6段階で評価した。
【0086】
【表1】

【0087】
表1に示すように、実施例1で作製した積層フィルムにおいては、工程紙を剥がした際に、工程紙とフッ素樹脂層の界面で剥がれ、その剥離力も作業に支障がないほど十分に小さく、かつ、フッ素樹脂層は主層から剥がれることは無かった。
【0088】
これに対して、比較例1で作製した積層フィルムにおいては、フッ素樹脂層が小さな剥離力で主層から剥がれ、工程紙に転着してしまった。
【0089】
実施例1と比較例1とでは、フッ素樹脂層に含まれる架橋剤が異なるのみであることから、かような架橋剤の違いに起因して、上述したような結果の違いがもたらされていることになる。そのメカニズムは完全には明らかではないが、アルミニウムキレート系架橋剤とイソシアネート系架橋剤の架橋の速度の差が一因であると推測される。すなわち、比較例1のようにイソシアネート系架橋剤を用いた場合、時間の経過とともにフッ素樹脂層の架橋が進行するため、工程紙にフッ素樹脂層を形成した後、主層を積層するまでの時間が長くなるに従い、主層への付着力が低くなると思われる。
【0090】
一方、実施例1のようにアルミニウムキレート系架橋剤を用いた場合、フッ素樹脂溶液が乾燥したときに架橋が終了するため、主層への付着力が低下しないと思われる。
【符号の説明】
【0091】
1 積層フィルム、
10 フッ素樹脂層、
20 主層、
30 工程紙、
40 粘着剤層、
50 剥離紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を含むフッ素樹脂層と、
前記フッ素樹脂層の一方の面に配置された、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される樹脂を含む主層と、
が積層されてなる積層フィルムであって、
前記フッ素樹脂層が金属キレート架橋剤を含み、
JIS K5600−5−6:1999に準じて測定される前記フッ素樹脂層と前記主層との間の付着力が、分類0であることを特徴とする、積層フィルム。
【請求項2】
前記フッ素樹脂層の前記主層とは反対側の面に、工程紙がさらに配置されてなる、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記主層が、塩化ビニル樹脂を含む、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記金属キレート架橋剤が、アルミニウムキレート化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記主層の前記フッ素樹脂層とは反対側の面に、粘着剤を含む粘着剤層がさらに配置されてなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記粘着剤層の前記主層とは反対側の面に、剥離紙がさらに配置されてなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
工程紙上に金属キレート架橋剤を含有するフッ素樹脂含有溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させてフッ素樹脂層を形成し、続いて前記フッ素樹脂層上に塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される樹脂を含む溶液を塗布し、乾燥させて主層を形成することを特徴とする、積層フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−148115(P2011−148115A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9155(P2010−9155)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】