説明

積層リングイオンガイドに結合された動電又は静電レンズ

質量分析計の低真空又は大気圧領域内のイオンの輸送及び集束を改善するための装置が、(高周波などの)振動電圧が印加される積層リングイオンガイド(SRIG)の最初の電極に結合された1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズで構成される。本明細書で開示するこのような構成は、イオン移送装置の出口端部を(単複の)動電又は静電集束レンズ内の所望の位置に大まかに設定することにより、このような積層リングイオンガイドを利用する所望のイオン移送手段の有害な電界効果及び/又は再配置の問題を最小化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に質量分析計のためのイオン光学系に関し、より詳細には、低真空領域でイオンを閉じ込めて集束させながら有害な電界効果を最小化するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計の設計者が直面する基本的課題は、イオンをイオン源から質量分析器へ、特に背景ガス分子との相互作用によりイオン運動が実質的に影響を受ける大気領域又は低真空領域を通じて効率的に輸送することである。例えば、イオン移送管を介してイオンを導入した後の第1の真空領域内に積層電極構造が使用されており、このイオン移送管が短すぎて、すなわち移送管がこのような構造の最初の電極の厚みよりも手前で終端する場合、入口のイオンが強い場に直面し、多くの場合これが1又はそれ以上の多荷イオンの透過に害を及ぼす。イオン移送管の長さに約0.002インチ未満のわずかな製造公差があっても、多荷イオンに多大な透過損失が生じる可能性がある。イオン移送管をクリーニングのために一時的に取り外した後に、これを再配置したときの最初の電極との間隔がわずかに異なる場合に、多荷イオンに大きな差を生じる可能性がある別の問題が生じる。
【0003】
1992年10月20日に取得されMylchreest他に付与された「電気噴霧装置の粘性流ジェット膨張領域内でイオンを集束させる方法及び装置」という名称の米国特許第5,157,260号には、イオンを集束させるためのレンズ設計に関する背景情報が記載されており、以下の内容を含む。「要約すれば、チューブレンズの機能は、イオンがジェット中心線の下に強制されるようにこの領域内に電場を形成することであり、これにより質量分析器によって捕捉されるイオン分率が増加する。レンズの集束作用によりイオンビームが強化されるだけでなく、別の有利な効果は、スキマーを経たイオンビームの発散角が自由ジェット膨張から予測されるよりも狭くなることである。この発散の減少は、スキマーの上流側における強い電場勾配が、オリフィスを通じてイオンをガス速度よりも数倍速い速度で推進することにより生じると考えられる。このことは、オリフィス下流でのイオン軌道が、スキマーからのガス膨張よりもこれらの勾配の影響を受けやすいことを意味する。発明者らは、チューブレンズを使用することにより、分析器内へのイオンの透過が少なくとも3倍高まることを見出した。」
【0004】
Smith他に付与された米国特許第6,107,628号には、イオンを操作するためのイオンファネルとして構成された積層電極構造に関する背景情報が見出される。一般的に説明すれば、上記特許に記載される装置は、装置の入口から出口にかけて縮小するアパーチャを有する数多くの長手方向に密集したリング電極を含む。電極は互いに電気的に絶縁され、電極に所定の位相関係で高周波(RF)電圧が印加されて、イオンを装置内部に径方向に閉じ込める。装置入口における比較的大きなアパーチャサイズは、広いイオン受け入れ領域を提供し、次第に減少するアパーチャサイズは、イオン移動の方向に沿って直径が減少するフィールドフリーゾーンを有する「先細」のRF場を生じ、これによりイオンが狭ビームに集束され、その後このビームが、イオンを大幅に失うことなくスキマー又はその他の静電レンズのアパーチャを通過することができる。このような装置の改良例又は変形例が、(例えば)Smith他に付与された米国特許第6,583,408号、Franzenに付与された米国特許第7,064,321号、Bruker Daltonicsに付与された欧州特許出願第1,465,234号、及びJulian他による「質量用イオンファネル:簡易化したイオンファネルによる実験及びシミュレーション」、J.Amer.Soc.Mass Spec.、第16巻、1708〜1712頁(2005年)に記載されている。
【0005】
2002年7月9日に取得されRuss,IV他に付与された「リングポールイオンガイド装置、システム及び方法」という名称の米国特許第6,417,511B1号には、積層リング電極構造に関する追加の背景情報を見出すことができ、以下の内容を含む。「本発明は、質量分析計において使用できる新規のイオン輸送装置及び方法を提供する。このイオン輸送装置及び方法は、マルチポール内部で延びるリングスタックを備える。この装置及び方法は、従来のRFマルチポールの集束及び閉じ込めの優位性と、従来の積層リングガイド又はイオンファネルの軸方向電場の優位性とを実現する....」。
【0006】
2008年5月21日に出願されSenko他に付与された「イオン輸送装置及びその動作モード」という名称の同時係属中米国特許出願第12/125,013号には、積層電極構造を利用する、類似してはいるが異なる構成に関するさらなる背景情報も見出され、該特許出願の開示はその全体が引用により本明細書に組み入れられる。このような出願は以下の記載を含む。「装置の縦軸に沿って間隔を空けられた複数のアパーチャ電極で構成されるイオン輸送装置を提供する。電極のアパーチャはイオンチャネルを定め、これに沿ってイオンが装置の入口と出口の間で輸送される。電極に結合された(RFなどの)振動電圧源が、電極に適当な位相関係で振動電圧を供給してイオンを径方向に閉じ込める。イオンを装置出口付近のイオンチャネルの中心線に集束させるために、隣接する電極の間隔がイオンの移動方向に増加する。装置出口付近における比較的大きな電極間隔が、振動場への侵入を比例的に増加させることにより、イオンを長手方向中心線に集中させる先細の場が生じる。特定のイオン種の透過率を最適化するために、又は質量差別効果を低下させるために、振動電圧の大きさは、走査ごとに又は段階を追って時間的に変化することができる。イオンチャネルに沿ったイオンの推進を支援する長手方向のDC電場は、電極にDC電圧の組を印加することにより生成することができる。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,157,260号
【特許文献2】米国特許第6,583,408号
【特許文献3】米国特許第7,064,321号
【特許文献4】欧州特許出願第1,465,234号
【特許文献5】米国特許第6,417,511B1号
【特許文献6】米国特許出願第12/125,013号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Julian他著「質量用イオンファネル:簡易化したイオンファネルによる実験及びシミュレーション」、J.Amer.Soc.Mass Spec.、第16巻、1708〜1712頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した背景的開示におけるこのような構造は独自の利点を有しているが、当業者が認識及び理解するように、このような積層リング構造を(ナローボアキャピラリチューブなどの)イオン移送管に結合したときに生じる配置問題及び有害な電界効果を最小限に抑えるためのニーズが依然として存在する。本発明は、このようなニーズに対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、質量分析計の低真空領域又は大気圧領域内のイオンの輸送及び集束を改善するための装置、方法及びシステムに関し、1又はそれ以上の動電集束レンズ又は1又はそれ以上の静電集束レンズを、(高周波などの)振動電圧が印加される積層リングイオンガイド(SRIG)の最初の電極に新規に結合することを含む。具体的には、及び本発明の態様によれば、イオンを導くことができるイオンチャネルを集合的に定める、積層電極構造に結合された動電又は静電集束式レンズを含むイオン輸送装置が開示される。このような構成は、開示する1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズのうちの最初のレンズの前面と同一平面上にある位置と、所望の開示する1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズの背面よりも手前の位置との間に位置することができるように、或いは1又はそれ以上の構成済みの静電集束レンズのうちの最初のレンズの前面よりも手前に移動可能に位置することができるように構成された出口端部を有するキャピラリチューブなどのイオン移送装置にも有利に結合される。
【0011】
1つの特定の構成では、本明細書に開示する他の有利な配置とともに、1又はそれ以上の動電レンズ及び複数の電極の少なくとも一部に振動電圧を印加して、開示する本発明のイオン移送機器の有害な電界効果及び/又は再配置の問題を最小化し、様々な電荷のイオンの輸送及び集束を所望のイオンチャネル経路に沿って導く。別の特定の構成として、本発明の1又はそれ以上のレンズへの印加DC電圧を有することにより静電構成が得られ、この結果様々な電荷のイオンの誘導/輸送及び集束が所望のイオンチャネル経路に沿って行われるようにもなる。
【0012】
本発明の別の態様によれば、1又はそれ以上の動電又は静電集束式レンズを、(高周波などの)振動電圧が印加される積層リングイオンガイド(SRIG)の最初の電極に新規に結合することを含む質量分析計システムが開示される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、質量分析計の低真空又は大気圧領域内でイオンを輸送して集束させる方法が開示され、この方法は、1又はそれ以上の動電集束レンズを提供するステップを含み、この1又はそれ以上の動電集束レンズは、イオンを導くことができるイオンチャネルを1又はそれ以上の動電集束レンズと共同して定める長手方向に間隔を空けた複数の電極を構成する最初の電極に電気的に結合され、上記方法は、1又はそれ以上の動電集束レンズのうちの最初のレンズの前面と同一平面上にある位置と、所望の1又はそれ以上の動電集束レンズの背面よりも手前の位置との間にイオン移送装置の出口端部を配置するステップと、1又はそれ以上の動電集束レンズ及び長手方向に間隔を空けられた複数の電極に振動電圧を印加して、イオンをイオンチャネル内で径方向に閉じ込める電場を発生させるステップと、径方向の電場侵入をイオン移動の方向に増加させるステップとをさらに含む。
【0014】
本発明の最後の態様として、質量分析計の低真空又は大気圧領域内でイオンを輸送して集束させる方法が開示され、この方法は、1又はそれ以上の静電レンズを提供するステップを含み、この1又はそれ以上の静電レンズは、イオンを導くことができるイオンチャネルを1又はそれ以上の静電集束レンズと共同して定める複数の長手方向に間隔を空けた電極を構成する最初の電極に電気的に結合され、上記方法は、1又はそれ以上の静電集束レンズのうちの最初のレンズの前面と同一平面上にある位置と、所望の1又はそれ以上の静電集束レンズの背面よりも手前の位置との間にイオン移送装置の出口端部を配置するステップと、長手方向に間隔を空けられた複数の電極にRF振動電圧を印加するステップと、1又はそれ以上の静電集束レンズに、長手方向に間隔を空けられた複数の電極の最初のレンズに印加されたピークRF振幅に関連する固定DC電圧を有するDC電圧を印加して、イオンをイオンチャネル内で径方向に閉じ込める電場を発生させるステップと、径方向の電場侵入をイオン移動の方向に増加させるステップとをさらに含む。
【0015】
いずれの配置においても、本発明の方法/装置及びシステムを結合することにより、開示する本発明のイオン移送手段の有害な電界効果及び/又は再配置の問題が最小化される。また、例えば、イオン輸送装置の入口に対してイオン移送装置を横方向に及び/又は角度的にオフセットすること、及び電極アパーチャを隣接する電極のアパーチャに対して横方向にオフセットして見通し経路を遮断することにより、クラスタ、中性粒子及び非脱溶媒和液滴が質量分析計の下流のより低圧な領域へ流れにくくもなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の例示的な実施形態に基づいて構成されたイオン移送管/イオン輸送装置を組み込んだ質量分析計の概略図である。
【図2A】イオン移送管の出口端部がSRIGの最初の又は1番目の電極の表面よりも手前で終端するイオン移送管/積層リングイオンガイド(SRIG)構成の例示的な断面図である。
【図2B】イオン移送管の出口端部がSRIGのより厚い最初の又は1番目の電極の前面と裏面との間に配置された、本発明の新規なイオン移送管/イオン輸送装置構成の例示的な断面図である。
【図3A】イオン移送管の出口端部がSRIGの最初の電極の表面よりも手前で終端する状態で得られるヘキサペプチドALELFRの質量スペクトル例を示す図である。
【図3B】本発明のイオン移送管/動電又は静電集束レンズ/SRIG構成を使用して得られる同じヘキサペプチドALELFRの質量スペクトル例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における本発明の説明では、別途黙示的又は明示的に了解又は記載されていない限り、単数で表される単語はその複数の同等物を含み、複数で表される単語はその単数の同等物を含むと理解されたい。本明細書に記載するあらゆる所与の構成要素又は実施形態に関しては、別途黙示的又は明示的に了解又は記載されていない限り、通常、その構成要素に関して列記する考えられる代替物のいずれかを個別に又は互いに組み合わせて使用できると理解されたい。また、別途黙示的又は明示的に了解又は記載されていない限り、このような候補又は代替物のあらゆるリストは例示にすぎず、限定的なものではないと理解されたい。
【0018】
さらに、別途示さない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用する成分、組成、反応条件などの量を表す数字は、「約」という用語により修飾されると理解すべきである。従って、逆の指示がない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載する数値パラメータは、本明細書で示す主題が獲得しようとする所望の特性に基づいて変化することができる近似値である。最低でも、また特許請求の範囲と同等の原理の適用を限定する試みとしてではなく、個々の数値パラメータは、報告された有効数字の数に照らして、通常の四捨五入を適用することにより解釈すべきである。本明細書で示す主題の広い範囲を記載する数値範囲及びパラメータは近似値であるが、具体例に記載する数値についてはできるだけ正確に報告している。しかしながら、いずれの数値も、これらのそれぞれの試験測定値において見られる標準偏差から必然的に生じる一定の誤差を本質的に含む。
【0019】
一般的記述
本発明は、(ナローボアキャピラリチューブなどの)イオン移送装置の出口端部を、本発明の動電又は静電集束レンズ或いは集合的な集束レンズの前面と少なくとも同一平面上に、及びレンズの背面よりも前方又は手前にくるように一般的に配置することにより、積層リングイオンガイドを利用する所望の機器の有害な電界効果及び/又は再配置の問題に対処する。「イオン輸送装置及びその動作モード」という名称の同時係属中米国特許出願第12/125,013号に見出されるような同様の構成の全体が、本開示の制御下にある実施形態と何らかの対立を伴って引用により本明細書に組み入れられると理解されたい。
【0020】
有利な構成として、本明細書に開示する静電、より詳細には(動電チューブ状レンズなどの)動電型高周波(RF)集束レンズが、しばしばSRIGの最初の又は1番目の電極と同様の態様で動作するように構成される。約25mm×約25mmの同様の側方寸法及び同様のアパーチャ範囲(すなわち、約7.0mm〜約15mmの円直径のアパーチャを有する)を有するが、約0.6mm〜約8.0mmの厚み範囲により、残りの電極スタックと厚みが異なるこのようなレンズが、イオン移送装置(チューブ)の出口端部を、本発明のSRIGの最初の電極として動作する動電集束レンズの前表面の平面及び後表面の平面間に確信的に配置できるようにする。このようにして、この物理的厚み自体によって、イオン移送管に結合された際のイオン集束レンズの公差又は許容値がより大きくなる。
【0021】
本発明の別の有利な構成として、各々が約25mm×約25mmの側方寸法、最大約8.0mmの全体長を有し、全てが例えば約0.5mm〜約1.0mmの一定厚で構成された一連の2又はそれ以上の電極を利用することにより、イオン移送装置(チューブ)の出口端部を所定の表面間に配置することができ、これによってより大きなイオン集束レンズの公差又は許容値も有利に可能になり、従って本明細書で説明するような配置の問題及び有害な電界効果が最小化されるようにすることができる。
【0022】
単一の動電又は静電集束レンズの実施形態に関しては、このようなレンズにRFを様々な新規の構成で印加することができる。例えば、SRIGの最初の電極と振幅が同じ又は異なる、及び周波数が同じ又は(2倍の周波数などの)異なる、及び位相が同じ又は異なる(すなわち、最初に出くわす電極が本発明の(単数又は複数の)レンズと同相になるように予め定められているか、又は位相が異なるように予め定められているかに依存する)RFを印加することができる。別の有利な構成として、集束レンズ(すなわち静電レンズ)が、SRIGの長手方向に沿って出くわす最初のレンズに印加される(質量などにより傾斜し得る)ピークRF振幅に関連する(逆の場合を含む)印加固定DC電圧を有することができる。
【0023】
一連のレンズの実施形態に関しては、複数のレンズ自体が1つの構成にあり、全てが一定厚であり、等しい振幅のRFをこれら一連のレンズに印加することで、集合的に1つの動電集束レンズとして動作し、(物理的結合により)RFと同じ印加周波数及び位相を有するが、SRIGの最初の電極と(例えば180度)位相が異なり又は同相にあり、及び長手方向に沿って出くわすSRIGの最初の電極と同じ又は異なる振幅及び同じ又は(2倍の周波数などの)異なる周波数を有する。別の例示的な構成では、一連のレンズ自体が、全て一定厚であり、等しい振幅及び周波数を有するRFをこれら一連のレンズに印加することで、全てが集合的に(例えば容量結合を介して)わずかに接触又は連絡する1つの動電集束レンズとして動作し、これら一連のレンズの全てが同じ位相を有するが、これら一連のレンズは、SRIGの最初の電極とは位相が異なり又は同相にあり、また長手方向に沿って出くわすSRIGの最初の電極と同じ又は異なる振幅及び同じ又は(2倍の周波数などの)異なる周波数を有する。また、単一レンズの実施形態に酷似するが、一連のレンズは、SRIGの長手方向に沿って出くわす最初のレンズに印加される(質量などにより傾斜し得る)ピークRF振幅に関連する(逆の場合を含む)印加固定DC電圧(固定された結合による)を有することができる。従って、このような構成は、一連の動電レンズの実施形態を使用して同様に実現されるイオンの誘導も提供する。
【0024】
具体的記述
図1は、本発明の実施形態に基づいて構成された新規の動電又は静電集束レンズ128/イオン輸送装置105の結合を組み込んだ質量分析計100の概略的構成例を示している。当業者であれば分かるように、電気噴霧プローブ110を介してイオン化チャンバ107内に試料溶液を電気噴霧することにより検体イオンを形成することができる。電気噴霧技術を利用するイオン源の場合、一般にイオン化チャンバ107を大気圧又はこの付近に維持することができる。検体イオンは、背景ガス及び部分的に脱溶媒和された液滴とともに、例えば従来のイオン移送管115(ナローボアキャピラリチューブ)の入口端部に流入し、圧力勾配の影響を受けながらチューブの長さを横切る。イオン化チャンバ107からのイオンスループットを増加させるために、本明細書に示す単一チャネルイオン移送管を多重キャピラリチューブ(又は多重チャネルを有するイオン移送管)に置き換えることもできる。検体イオン移送管115は、カートリッジヒーター125により加熱されるブロック120と良好な熱的接触状態に保持されることが好ましい。やはり当業では公知であるが、イオン移送管115を通過するイオン/ガス流を加熱することにより、残留溶媒の蒸発が促進され、計測に利用できる検体イオンの数が増加する。低真空チャンバ130内に構成されるように、検体イオン(図示せず)は、印加DCを有することができるが本発明のイオン輸送装置105を構成する最初の電極と好ましくはRF結合される単一の又は複数の動電集束レンズ128の所定の領域間で開くように新規の方法で配置された出口端部115’を介して移送管115から現れる。
【0025】
詳細には、及び上記で開示したように、単一の動電集束レンズの実施形態に関しては、長手方向に沿って出くわすSRIGの最初の電極と同じ又は異なる振幅を有し、同じ又は(2倍の周波数などの)異なる周波数を有するRFを印加することができる。単一の動電集束レンズの実施形態を、長手方向に沿って出くわす上述したSRIGの最初の電極と同相に、又は例えば180度位相が異なるように構成することもできる。別の有利な構成として、集束レンズ(すなわち静電レンズ)は、SRIGの長手方向又は縦方向に沿って出くわす最初のレンズに印加される(質量などにより傾斜し得る)ピークRF振幅に関連する(逆の場合を含む)印加固定DC電圧を有することができる。
【0026】
やはり上述したように、一連のレンズの実施形態に関しては、複数のレンズ自体が1つの構成にあり、全てが一定厚であり、振幅及び周波数が等しいRFをこれら一連のレンズに印加することで、(物理的結合により)RFと同じ位相を有するが、SRIGの最初の電極とは同じ又は異なる位相にあり、同じ又は(2倍の周波数などの)異なる周波数を有する同じ又は異なる振幅を有する。別の例として、これら一連のレンズ自体を(容量結合などにより)、振幅及び周波数が等しいRFをこれら一連のレンズに印加することでわずかに接触又は連絡させ、RFと同相になるが、長手方向又は縦方向に沿って出くわす最初の電極に対して、一連のレンズは同じ又は異なる印加振幅及び同じ又は異なる(2倍の周波数などの)印加周波数を有し、SRIGの最初の電極と同相又は異なる位相関係にあるように構成することもできる。また、単一レンズの実施形態に酷似するが、一連のレンズは、SRIGの長手方向又は縦方向に沿って出くわす最初のレンズに印加される(質量などにより傾斜し得る)ピークRF振幅に関連する(逆を含む)印加固定DC電圧(固定された結合による)を有することができる。
【0027】
チャンバ130内の低真空を実現するには、付随する方向矢印で示すように、機械式ポンプ又は同等のものをチャンバ130に結合して、約1トール〜約10トール(約1〜10ミリバール)の範囲の圧力を可能にし、約0.1ミリバール〜約1バールの広範囲の低真空及び大気圧にわたっても正常に動作できるようにする。
【0028】
本明細書に図示及び記載する電気噴霧イオン源は例示として示すものであり、本発明の動電又は静電集束レンズ128を含むイオン輸送装置105が、電気噴霧又はその他の特定の種類のイオン源との使用に限定されると解釈すべきではないことも理解されたい。本明細書に示すような電気噴霧源と置き換える(又はこれに加えて使用する)ことができる他のイオン化技術として、以下に厳密に限定されるわけでないが、化学イオン化、光イオン化、及びレーザ脱離又はマトリクス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)が挙げられる。
【0029】
検体イオンは、イオン移送管115の出口端部から自由ジェット膨張として排出され、動電又は静電集束レンズ128/イオン輸送装置105内に定められるイオンチャネル132を通過する。以下でさらに詳細に説明するように、アパーチャ電極135に印加される(質量などにより傾斜し得る)ピークRF振幅に関連する(逆の場合を含む)DC電圧を印加すること、又は、動電集束レンズ128及びイオン輸送装置105のアパーチャ電極135に振動電圧を印加することにより、イオンチャネル132内のイオンの径方向の閉じ込め及び集束が実現される。以下でさらに説明するように、長手方向DC場を発生させること、及び/又はイオンを同伴する背景ガスの流量を調整することにより、イオンチャネル132に沿った装置出口137へのイオンの輸送を容易にすることができる。イオンは、狭く集束したビームとしてイオン輸送装置105から離れ、抽出レンズ145のアパーチャ140を通じてチャンバ150内へ導かれる。次に、導かれたイオンはイオンガイド155及び160を通過し、図1に大まかに示すように、チャンバ170内に位置する従来の二次元四重極イオントラップの形をとることができる多極装置などの質量分析器165へ送られる。チャンバ150及び170は、付随する矢印で示すようにこれらをターボポンプのポートに接続することにより、比較的低圧にまで排気される。
【0030】
図2Aは、引用により組み入れられる米国特許出願第12/125,013号において同様に説明されているイオン移送装置115/イオン輸送装置105(積層リングイオンガイド(SRIG)など)の構成の断面図である。このような構成が含むイオン移送管115装置の出口端部115’は、積層リングイオンガイド(SRIG)などのイオン輸送装置105を構成することができる最初の電極202の最初の表面126(二点鎖線で示す)により定められる平面よりも手前で終端する。明確にするために、図2Aには、積層リングイオンガイド(SRIG)105の最初3つの電極202、204、及び206のみを示している。場の勾配を、参照符号224で示す0.5V/mm(2つの分離した長円状の電場勾配に留意)、参照符号226で示す1.0V/mm、及び参照符号228で示す1.5V/mmを含む太字破線によって示す。多くの場合、このように構成された電極に交互の電位が印加され、この例では、SRIG105の最初の電極202及び3番目の電極206に+10Vの電位が、2番目の電極204に−10Vの電位が印加され、一方、イオン移送管115は接地電位に保持される。このような構成から、図2Aに示すようにイオン軌道をシミュレートすることができ、約748ダルトンの質量を有する一価イオンについて約30本のイオン軌道をシミュレートする(図2Aでは左から右へ向かう細い破線として示す)一方で、同じ質量の二価イオンについてシミュレートした約30本のイオン軌道を示している(図2Aでは左から右へ向かう実線として示す)。このような軌道の形成における全てのイオンは、水平軸に対して約−22〜22度の間の等しいステップでステップ付けられた初期速度ベクトルで約0.25電子ボルトという小さなエネルギーを有する。
【0031】
図2Bは、動電レンズを利用する本発明の新規のイオン移送装置115/イオン輸送装置105構成の例示的な断面図である。詳細には、ここではイオン移送装置115装置の出口端部115’が、約0.6mm〜約8.0mmの厚みを有する動電集束レンズ(電極)128などのより厚みのある最初の電極で構成されたSRIGなどの前面126と背面126’の間に位置する。この場合も明確にするために、図2Bには、積層リングイオンガイド(SRIG)105の、約+10Vの印加場を有する動電集束レンズ128、並びに約−10Vの印加場を有する電極204と約+10Vの印加場を有する電極206という2つのさらなる例示的な電極のみを示している。やはり前回のように、場の勾配を、参照符号224で示す0.5V/mm、参照符号226で示す1.0V/mm、及び参照符号228で示す1.5V/mmを含む太字破線によって示している。
【0032】
図2Aと図2Bとを比較すると、図2Bのほうが、場が0.5V/mm未満の領域(参照符号224で示す勾配等高線の内側)が大きいことがはっきりと分かり、これは、このような構成ではフリンジング場が減少していることを示す。イオンに対する電気力はその電荷に比例するので、多価イオンは、図2Aで立証された電界効果により、図2Bに示すものよりも強い力を受け、従って従来の構成では、このような多価イオンは、これらがSRIGの中心軸へ向けて閉じ込められる前に一価イオンよりも損失しやすい。従って、一価イオン(黒実線)と二価イオン(細い破線)の軌道が実質的に同じである図2Bのシミュレート軌道に本発明の利点が見られるのに対し、図2Aでは二組の軌道間に明確な差異がある。
【0033】
図2Bに示すような構成は有利な実施形態ではあるが、図2Bの厚くした電極128(本発明の動電集束レンズなど)を、(図2Bの例示的なレンズ128内に破線で示すような)一連の2又はそれ以上の動電レンズ129、129’として再構成できることも理解されたい。このような実施形態例は、動電集束レンズのより大きな公差又は許容誤差も可能にし、これによりイオン移送装置115に結合したときの配置の問題、従って有害な電界効果が最小化される。具体的には、このような一連の2又はそれ以上のレンズを、例えば約0.5mm〜約1mmの厚みの一定厚で構成して、イオン移送装置115の出口端部115’の安心できる配置を可能にする一方で、図2Bに示すような減少したフリンジング場を提供することもできる。
【0034】
図3Aは、図2Aの、すなわち本発明の動電集束レンズ構成を使用していないイオン移送管/SRIG構成を使用して得られるヘキサペプチドALELFRの質量スペクトル例を示している。逆に、図3Bは、図2Bに一般的に示す本発明のイオン移送管/動電集束レンズ/SRIGを使用して得られる同じヘキサペプチドALELFRの質量スペクトルを示している。図3Aと図3Bの比較から、RF動電集束レンズがALELFRの二価イオンの損失(m/z374.87)を低減することが分かる。SRIGに印加されるRF振幅が増加すると、二価イオンの損失がより顕著になる。この本明細書の原理を例示するための実験例では、SRIGの最初の電極に印加されるRF振幅は、動電集束レンズに印加されるものと同じ、680kHzで148V(p−p)であり、RF動電集束レンズと長手方向に沿って出くわすSRIGの最初の電極との間の位相差は180度である(すなわち、異なる位相の構成例)。図3Bの例におけるRFを、単一の動電集束レンズの実施形態に、SRIGの最初の電極と等しい振幅及び周波数で位相を異ならして印加することはできるが、上述したように、本発明がこのような単一レンズ、同じ周波数、同じ振幅、又はRF構成にさえも限定されると解釈すべきではないことを再び強調しておく。さらに、本発明は集合的に静電レンズとして動作できる一連のレンズの実施形態を含むこともでき、しばしば全てが一定厚であるこれらレンズは、SRIGの長手方向に沿って出くわす最初のレンズに印加されるピークRF振幅(質量などにより傾斜し得る)に関連する(逆の場合を含む)印加固定DC電圧を(物理的結合を介して)有することができる。
【0035】
しかしながら、一連のレンズは、しばしば振幅及び周波数及び(物理的結合を介して)位相は等しいが、SRIGの長手方向に沿って出くわす最初の電極と同じ位相又は180度などの異なる位相のRF関係を有する印加RFを有することができる。これに加えて、及び別の構成例として、一連のレンズの実施形態を(容量結合などを介して)わずかに接触又は連絡させて、等しい振幅、位相、及び同じ周波数を有する印加RFを可能にすることができるが、これら一連のレンズは、SRIGの長手方向に沿って出くわす最初の電極と同じ位相又は異なる位相関係及び同じ又は異なる周波数及び同じ又は異なる振幅を有する。
【0036】
同時係属中であり、引用により組み入れられている「イオン輸送装置及びその動作モード」という名称の米国特許出願第12/125,013号で同様に説明されているように、図2A及び図2Bに一般的に示すようなイオン輸送装置105は、長手方向に間隔を空けた関係(規則的又は不規則的間隔)で配置された複数の概ね平面的な電極で形成され、質量分析計の技術では「積層リング」イオンガイドと呼ばれることが多い。図2Aに示すような204などの個々の電極は、イオンが通過できるアパーチャを含むようになっている。これらアパーチャは、アパーチャの横方向の配置に応じて直線又は曲線とすることができるイオンチャネルを集合的に定める。電極は全て、同一サイズのアパーチャ及び/又は独自サイズのアパーチャを有することができる。多くの場合、設計されたイオンチャネル内にイオンを半径方向に閉じ込める場を発生させるために、(高周波などの)振動電圧源を利用して、このような電極に振動電圧を印加する。SRIGを構成する電極は、所定の複数の電極が複数の他の構成済みの電極と交互に配置されて、それぞれの電極が、隣接する電極に印加された振動電圧と逆の位相の振動電圧を受け取るようになる構成に分割することができる。有利な構成では、印加される振動電圧の周波数及び振幅が、約0.5MHz〜約1MHz及び約50〜約400Vp−p(ピークツーピーク)であり、必要な振幅は周波数に強く依存する。さらに、引用により組み入れられる米国特許出願第12/125,013号に同様に記載されるように、本発明を、電極間の間隔がSRIG装置の出口近くにおいて増加するように構成することができ、このようにして、当業で公知であり記載されている従来のイオンファネルよりも、利用する電極を少なくすることができる。重要なことに、上述の構造は、イオンをSRIG装置の出口近くで狭ビームに集束させる先細の電場を生成する。さらなる構成として、図2Aに概略示すように、電極間隔を、イオン輸送装置105の全長に沿ってイオン移動の方向に徐々に連続して増加させることができる。他の実施構成では、電極間隔を、イオン輸送装置の長さの(装置の入口近くなどの)1又はそれ以上のセグメントに沿って一定とし、その後(装置の出口近くなどの)別のセグメントに沿って増加させることができる。さらに、いくつかの実施構成では、電極間隔が徐々にではなく段階的に増加する設計を利用することができる。
【0037】
静電又は動電集束レンズ、又は一連のレンズの電極は、ステンレス鋼又は黄銅などの導電性材料から部分的に又は全体的に製造される方形プレートを含むことができる。代替の構成では、プリント基板に使用するような絶縁材料の中央領域(すなわちアパーチャと径方向に隣接する領域)上に(適当な厚みに、かつ好適な範囲にわたって)導電性材料を堆積させることにより、電極構造を形成することができる。プレートの中央領域と端部との間に導電性トレースの組を堆積させて、振動及び/又はDC電圧源への電気的接続を確立することもできる。
【0038】
失速イオンからの疑似電位障壁を防ぐために、引用により組み入れられる米国特許出願第12/125,013号で説明されているように、図2Bに示す電極204、206などの電極にDC電圧の組を印加する結合DC電圧源を介して長手方向のDC場を形成することができる。印加電圧は、輸送されるイオンの極性に応じてイオン移動の方向に増大又は低下する。このような長手方向のDC場は、イオンを所望の方向へ推進する助けとなり、望ましくないトラッピングが発生しないことを確実にする。通常の動作条件下では、本発明のイオン移送装置内のイオンの失速を排除するには、1〜2V/mmの長手方向DC場勾配で十分である。代替の実施形態では、例えば、図2Bに示すような電極204、206などのリング電極ではなく、リング電極の外側に位置する抵抗コーティングされたロッド電極の組などの補助電極(図示せず)に好適なDC電圧を印加することにより、長手方向DC場を発生させることができる。
【0039】
(図2Bに示す105などの)イオン移送装置を構成する電極構造の出口における高いイオン受け入れ効率を促進する先細の又はテーパーした径方向場を発生させるには、所定の電極に印加される振動電圧の振幅をイオン移動の方向に増加させて、図2Bに示す204、206などの個々の電極が、上流方向の電極よりも大きな振幅の振動電圧を受け取るようにする。所望の振動電圧は、振動電圧源(図示せず)に結合された減衰器回路の組(図示せず)を通じて送出することができる。構成例として、振動電圧は、約0.5MHz〜約1MHzの周波数と、図2Bに示すような動電集束レンズ128の入口などの装置入口における約50〜約100Vp−pから、図1に示すような装置出口における400〜600V(p−p)に変化する振幅とを有する。印加される振動電圧の必要最大振幅は電極間の間隔に依存し、より広い間隔を利用することによりこれを低下させることができる(例えば、中心までの間隔を4mmにすると、最大印加電圧を100Vp−pに低下させることができる)。
【0040】
SRIGを介して具体化される先細の又はテーパーした径方向場を発生させるための技術は、先細の場を形成するための長手方向に増加する電極間隔又は長手方向に増加する振動電圧の一方又は両方を含むことができるとも認識されたい。
【0041】
また、多くの場合、図2Bに概略示すイオン輸送装置105を、直線イオンチャネルを有する構成とすることができる。しかしながら、引用により組み入れられる米国特許出願第12/125,013号で同様に説明されるように、限定するわけではないが、S字形イオンチャネル又は弓形イオンチャネルなどの曲線イオンチャネルを定めるように電極を配置することも有利な場合がある。このような配置は、中性気体分子、クラスタ及び非脱溶媒和液滴が質量分析計のより低圧な領域へ流れ込みにくくし、これにより信号対雑音比が向上してポンピング要件が低下する。
【0042】
これも引用により組み入れられる米国特許出願第12/125,013号で同様に説明されるように、やはり中性気体分子、クラスタ及び非脱溶媒和液滴を質量分析計のより低圧な領域へ流れ込みにくくするために、出口端部115’が、本明細書に開示する(単複の)動電又は静電集束レンズ128の中心に対して横方向に及び/又は角度的(通常は最大約5°)にオフセットされるが、本発明の動電又は静電集束レンズ又は集合レンズの前面と少なくとも同一平面上に、かつ背面よりも手前の位置にくるように配置されている構成では、図1に示すようなイオン移送管115を介してイオンを導入することができる。しかしながら、本発明は、図2Bの態様の説明において上述したように、導かれたイオンをイオンチャネルの中心に拘束して、不安定な検体分子の意図しない分裂が電極に接近することを、従って比較的高いRF場の強度の領域に曝されることを防ぐことにより、このような配置のための有利な態様を提供すると理解されたい。
【0043】
本発明について、その詳細な説明とともに説明したが、上述の説明は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を例示する目的のものであり限定するためのものではない。その他の態様、利点、及び修正も、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
100 質量分析計
105 イオン輸送装置
107 イオン化チャンバ
110 電気噴霧プローブ
115 イオン移送管
120 ブロック
125 カートリッジヒーター
128 動電又は静電集束レンズ
130 低真空チャンバ
132 イオンチャネル
135 アパーチャ電極
137 装置出口
140 アパーチャ
145 抽出レンズ
150、170 チャンバ
155、160 イオンガイド
165 質量分析器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン輸送装置であって、
1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズを備え、
前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズは、イオンを導くことができるイオンチャネルを前記1又はそれ以上の動電集束レンズ又は静電レンズと共同して定める長手方向に間隔を空けられた複数の電極を構成する最初の電極に電気的に結合されており、
前記イオン輸送装置は、イオン移送装置を更に備え、
前記イオン移送装置は、前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズのうちの最初のレンズの前面と同一表面上にある位置と、所望の前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズの背面よりも手前の位置の間に移動可能に位置するように構成された出口端部を有し、
前記イオン輸送装置は、前記1又はそれ以上の動電レンズ及び前記複数の電極の少なくとも一部に振動電圧を印加するように構成された振動電圧源、又は前記1又はそれ以上の静電レンズの少なくとも一部にDC電圧を印加するように構成されたDC電圧源を更に備え、前記1又はそれ以上の静電レンズが、印加振動電圧を有する前記複数の電極に結合され、
(i)隣接する電極の間隔、及び(ii)前記複数の電極の印加振動電圧の振幅の少なくとも一方がイオン移動の方向に増加する、
ことを特徴とするイオン輸送装置。
【請求項2】
前記1又はそれ以上の動電集束レンズに、前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初の電極と等しい振幅及び周波数であるが位相が異なるRFが印加される、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項3】
前記1又はそれ以上の動電集束レンズに、前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初の電極と等しい振幅及び周波数かつ同相のRFが印加される、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項4】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初の電極に印加される周波数が、前記1又はそれ以上の動電集束レンズに印加される周波数と異なる、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項5】
前記異なる周波数が、前記周波数の2倍である、
ことを特徴とする請求項4に記載のイオン輸送装置。
【請求項6】
前記1又はそれ以上の静電レンズに、長手方向に沿って出くわす前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初のレンズに印加されるピークRF振幅に関連する固定DC電圧を有するDCが印加される、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項7】
前記イオン移送装置の前記出口端部が、前記1又はそれ以上の静電集束レンズのうちの最初のレンズの前面よりも手前に移動可能に配置される、
ことを特徴とする請求項6に記載のイオン輸送装置。
【請求項8】
前記1又はそれ以上の動電集束レンズが、同じ位相関係を有する複数の動電集束レンズを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項9】
前記同じ位相関係が、物理的結合により提供される、
ことを特徴とする請求項8に記載のイオン輸送装置。
【請求項10】
前記同じ位相関係が、容量結合により提供される、
ことを特徴とする請求項8に記載のイオン輸送装置。
【請求項11】
前記1又はそれ以上の動電集束レンズ又は前記1又はそれ以上の静電レンズが、約0.6mm〜約8.0mmの厚みを有する単一の動電集束レンズ又は静電集束レンズを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項12】
前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズの各々が、約0.5mm〜約1.0mmの厚みを有し、前記1又はそれ以上の動電レンズ又は1又はそれ以上の静電レンズが最大約8mmの全体長を実現する、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項13】
前記イオン移送装置が、前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズの中心に対して横方向及び/又は角度的オフセットを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項14】
前記振動電圧源が、高周波(RF)電圧源である、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項15】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極への印加振動電圧の振幅がイオン移動の方向に増加する、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項16】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極が、複数の第2の組の電極と交互の関係に配置された第1の組の電極を含み、前記第1の組の電極に印加される振動電圧が、前記第2の組の電極に印加される振動電圧と逆の位相にある、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項17】
前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズ及び前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極のアパーチャが、実質的に直線のイオンチャネル、S字形のイオンチャネル、及び弓形のイオンチャネルから選択された少なくとも1つのイオンチャネルを定める、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項18】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の隣接する電極間の間隔が、イオン移動の方向に増加する、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項19】
前記イオン移送装置が、イオン源からイオンを運ぶための少なくとも1つの細長いキャピラリを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項20】
前記イオン移送装置が、前記1又はそれ以上の静電レンズよりも手前の位置に適応された出口端部を有する、イオン源からイオンを運ぶための少なくとも1つの細長いキャピラリを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項21】
前記少なくとも1つの細長いキャピラリが、複数のイオンフローチャネルを構成する、
ことを特徴とする請求項19に記載のイオン輸送装置。
【請求項22】
前記少なくとも1つの細長いキャピラリが、前記イオン輸送装置の中心縦軸に対して傾斜した及び/又は横方向にオフセットしたフロー軸を出口端部において定める、
ことを特徴とする請求項19に記載のイオン輸送装置。
【請求項23】
イオン源と、
質量分析器と、
前記イオン源と前記質量分析器との間のイオン経路内の中間に位置するイオン輸送装置と、を備え、
前記イオン輸送装置が、1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズを備え、
前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズは、イオンを導くことができるイオンチャネルを前記1又はそれ以上の動電集束レンズ又は静電レンズと共同して定める長手方向に間隔を空けられた複数の電極を構成する最初の電極に電気的に結合されており、
前記イオン輸送装置が、イオン移送装置を更に備え、
前記イオン移送装置は、前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズのうちの最初のレンズの前面と同一表面上にある位置と、所望の前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズの背面よりも手前の位置の間に移動可能に位置するように構成された出口端部を有し、
前記イオン輸送装置が、前記1又はそれ以上の動電レンズ及び前記複数の電極の少なくとも一部に振動電圧を印加するように構成された振動電圧源、又は前記1又はそれ以上の静電レンズの少なくとも一部にDC電圧を印加するように構成されたDC電圧源を更に備え、前記1又はそれ以上の静電レンズが、印加振動電圧を有する前記複数の電極に結合され、
(i)隣接する電極の間隔、及び(ii)前記複数の電極の印加振動電圧の振幅の少なくとも一方がイオン移動の方向に増加する、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項24】
前記1又はそれ以上の動電集束レンズに、前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初の電極と等しい振幅及び周波数であるが位相が異なるRFが印加される、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項25】
前記1又はそれ以上の動電集束レンズに、前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初の電極と等しい振幅及び周波数かつ同相のRFが印加される、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項26】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初の電極に印加される周波数が、前記1又はそれ以上の動電集束レンズに印加される周波数と異なる、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項27】
前記異なる周波数が、前記周波数の2倍である、
ことを特徴とする請求項26に記載の質量分析計。
【請求項28】
前記1又はそれ以上の静電レンズに、長手方向に沿って出くわす前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の前記最初のレンズに印加されるピークRF振幅に関連する固定DC電圧を有するDCが印加される、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項29】
前記イオン移送装置の前記出口端部が、前記1又はそれ以上の静電集束レンズのうちの最初のレンズの前面よりも前方に移動可能に配置される、
ことを特徴とする請求項28に記載の質量分析計。
【請求項30】
前記1又はそれ以上の動電集束レンズが、同じ位相関係を有する複数の動電集束レンズを含む、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項31】
前記同じ位相関係が、物理的結合により提供される、
ことを特徴とする請求項30に記載の質量分析計。
【請求項32】
前記同じ位相関係が、容量結合により提供される、
ことを特徴とする請求項30に記載の質量分析計。
【請求項33】
前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズが、約0.6mm〜約8.0mmの厚みを有する単一のイオン光学集束レンズを含む、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項34】
前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズの各々が、約0.5mm〜約1.0mmの厚みを有し、前記1又はそれ以上の動電レンズが最大約8mmの全体長を実現する、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項35】
前記イオン移送装置が、前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズの中心に対して横方向及び/又は角度的オフセットを有する、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項36】
前記振動電圧源が、高周波(RF)電圧源である、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項37】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極への印加振動電圧の振幅がイオン移動の方向に増加する、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項38】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極が、複数の第2の組の電極と交互の関係に配置された第1の組の電極を含み、前記第1の組の電極に印加される振動電圧が、前記第2の組の電極に印加される振動電圧と逆の位相にある、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項39】
前記1又はそれ以上の動電又は静電集束レンズ及び前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極のアパーチャが、実質的に直線のイオンチャネル、S字形のイオンチャネル、及び弓形のイオンチャネルから選択された少なくとも1つのイオンチャネルを定める、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項40】
前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極の隣接する電極間の間隔が、イオン移動の方向に増加する、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項41】
前記イオン移送装置が、前記1又はそれ以上の動電レンズ内の位置に適応されたイオン源からイオンを運ぶための少なくとも1つの細長いキャピラリを含む、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項42】
前記イオン移送装置が、前記1又はそれ以上の静電レンズよりも手前の位置に適応された出口端部を有する、前記イオン源からイオンを運ぶための少なくとも1つの細長いキャピラリを含む、
ことを特徴とする請求項23に記載の質量分析計。
【請求項43】
前記少なくとも1つの細長いキャピラリが、複数のイオンフローチャネルを構成する、
ことを特徴とする請求項41に記載の質量分析計。
【請求項44】
前記少なくとも1つの細長いキャピラリが、前記イオン輸送装置の中心縦軸に対して傾斜した及び/又は横方向にオフセットしたフロー軸を出口端部において定める、
ことを特徴とする請求項41に記載の質量分析計。
【請求項45】
質量分析計の低真空又は大気圧領域内でイオンを輸送して集束させる方法であって、
1又はそれ以上の動電集束レンズを提供するステップを含み、前記1又はそれ以上の動電集束レンズは、イオンを導くことができるイオンチャネルを前記1又はそれ以上の動電集束レンズと共同して定める長手方向に間隔を空けられ複数の電極を構成する最初の電極に電気的に結合されており、
前記1又はそれ以上の動電集束レンズのうちの最初のレンズの前面と同一平面上にある位置と、所望の前記1又はそれ以上の動電集束レンズの背面よりも手前の位置の間にイオン移送装置の出口端部を配置するステップと、
前記1又はそれ以上の動電集束レンズ及び前記長手方向に間隔を空けられた複数の電極に振動電圧を印加して、イオンを前記イオンチャネル内で径方向に閉じ込める電場を発生させるステップと、
径方向の電場侵入をイオン移動の方向に増加させるステップと、
をさらに含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2012−506126(P2012−506126A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532161(P2011−532161)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/060243
【国際公開番号】WO2010/045123
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】