説明

積層両面導通フィルム

【課題】数μmから15μm程度の厚さで、強度に優れ且つ両面の導電性物質間で十分な導通性を備えた積層両面導通フィルムを提供すること。
【解決手段】両面に導電性物質の薄膜配置され、上記両面の導電性物質の間に有機材料のフィルムが挟まれてなる積層両面導通フィルムであって、上記両面の導電性物質は、上記有機材料のフィルムに形成されたガス透過性の通孔に浸透された上記導電性物質と同じ物質を介して導通されてなる積層両面導通フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間に有機材料のフィルム(以下有機フィルムと略称する)を挟み、その両側に金属などの導体(導電性物質の)材料の薄膜を設けた積層フィルムであって、上記有機フィルムを微多孔性のフィルムとし、かつその微多孔に導電性物質を浸透させることで、上記有機フィルムの両側に設けた上記導体材料の薄膜間に、上記有機フィルムに浸透された導電性物質を介して導通性をもたせた積層両面導通フィルムの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性薄膜材としての単材料の金属箔は産業上さまざまな用途に使われているが、最も普及している銅箔ではおよそ10μmもしくは8μm厚が製造限界である。この原因として、圧延で作成される銅箔は、前記製造段階での加工ひずみが残るため欠陥を多く持っており、極薄の圧延に耐えられないことが挙げられる。また10μmもしくは8μm厚の銅箔では、加工硬化しているため表面の傷などには極めて弱く、脆性的に破れやすいことも極薄圧延に耐えられない原因の1つである。
【0003】
これに対して、電解銅による銅箔製造の場合、原理的にはかなりの薄膜化が可能である。しかし、ボイドが多いという欠点を持ち、薄膜化すればするほど、製造過程では電極ロールからの銅箔の引き剥がしが困難になる。そのため、実用上有効な面積を持つ厚さ8μm未満の薄い銅箔を製造することは極めて困難である。
【0004】
このように、単材料の金属箔については、いずれの手法を用いても厚さ8μm未満で大面積を確保することは難しく、歩留まりも非常に悪い。またこの厚さでは剛性が低いために「しわ」が付きやすいなど、実用上の取り扱い性が悪く、破れ等が発生しやすい。また靭性にも欠けており加工性が悪いという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように単材料の金属箔には強度上の限界があるため、これに替わる材料として有機フィルムを支持体とした積層両面導通フィルムの開発が進められた。
このような積層両面導通フィルムは、支持体である中央の有機フィルムが絶縁体であるため、そのままでは両面間の導通性が無い。そのため、上記有機フィルムに貫通孔を形成し、この貫通孔導電性物質を充填し、この導電性物質を介して、両面の導電性物質間を導通させようという試みがなされている。
【0006】
その代表的な例として、特許文献1或いは特許文献2が知られている。これらは針(特許文献1)やレーザービーム(特許文献2)で物理的に穴を開けた有機材料のフィルム両面に金属を蒸着やメッキさせたものである。しかしこうした物理的な穿孔手法による積層両面導通フィルムでは、有機材料に0.5〜1mm程度の穴を開けるものであるため、有機フィルムの強度が低下するので、実用性が低いという欠点がある。また穿孔処理が別途必要であるために処理にコストがかかるという問題も指摘される。
【0007】
ダイヤモンドロールを用いて有機フィルムに多数の微細な導通孔を開け、表面と裏面を電気的に導通させる方法(特許文献3)も知られている。この方法では有機材料のフィルムにランダムな多数の穴が一度に開くのでコスト面では、特許文献1、2と較べて幾分有利である。しかし、実際にはフィルム面がダイヤモンドロール表面の凹凸に沿って凸凹になり、薄膜面の平滑度がえられないとともに、強度が非常に落ちてしまう。単に引張強度が低いだけではなく、靭性に欠けており、亀裂が入りやすく容易に破れるという欠点がある。
【0008】
一方、金属(主に触媒としてのニッケル)で繊維を被覆し、導通を持たせたうえで、この繊維を高度に結節させることで作成される多孔質体(特許文献4)がある。これは用途としてはフィルタを想定しているもので、厚さも20μm以上であり、本発明とは異なるものである。
従って本発明は、数μmから15μm程度の厚さで、強度に優れ且つ両面の導電性物質間で十分な導通性を備えた積層両面導通フィルムを提供することを目的とする。
【0009】
【特許文献1】特開平9-27695号公報
【特許文献2】特開平10-51135号公報
【特許文献3】特開2004-39455号公報
【特許文献4】特開平05-269903号公報
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために本発明は、
両面に導電性物質が配置され、上記両面の導電性物質の間に有機材料のフィルムが挟まれてなる積層両面導通フィルムであって、上記両面の導電性物質は、上記有機材料のフィルムに形成されたガス透過性の通孔に浸透された上記導電性物質と同じ物質を介して電気的に導通されてなる積層両面導通フィルムとして構成される。
上記有機材料のフィルムの材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系樹脂;ポリイミド(PI);ポリエーテルサルフォン(PES);ポリフェニレンサルファイド(PPS)などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン(登録商標))、パラ系アラミド(PPTA)のいずれかが考えられるが、これは例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。また、積層両面導通フィルムの厚さとしては、15μm以下、好ましくは10μm以下であって2μm以上が推奨される。
さらに上記導電性物質と同じ物質が浸透された上記通孔は、その径が実質的に0.1μm以下の微細通路から形成されている。
さらにまた上記導電性物質と同じ物質が浸透された上記通孔の密度ρは、100≦ρ≦10000(個/cm2)程度が好適である。
このような材質、厚さ、密度の限定は、特にこの積層両面導通フィルムの用途面での限定であって、用途が広がればさらに広い範囲でも成立しうるものである。
【0011】
更に、上記有機材料のフィルムは、そのガス透過率が酸素透過率で0.5cc/m2・day・ atm以上で、膜厚15μm以下であることが望ましい。
上記有機材料のフィルムの厚さとその両面に形成された導電性物質の厚さとの比Tについてみると、導電性物質導電性物質が、銅である場合について、上記有機材料のフィルムの厚さが、4μm以上であって、且つ、上記有機材料のフィルムの厚さとその両面に形成された導電性物質の厚さとの比Tが、0.15≦T≦0.75の範囲で、高度の導通性を確保することが出来た。
また具体的に見ると、導電性物質が、銅である場合について、上記有機材料のフィルムの厚さが4μm以上の範囲であって上記有機材料のフィルムの厚さとその両面に形成された導電性物質の厚さとの比Tが0.0375≦Tの範囲について良好な導電性が観測された。
更に詳細に見ると,導電性物質が、銅である場合について、導電性物質の厚さが0.15μmの近傍では、有機材料のフィルムの厚さが4μm近傍、導電性物質の厚さが0.3μmの近傍では、有機材料のフィルムの厚さが4〜6μm近傍、導電性物質の厚さが0.6〜1μmの近傍では、有機材料のフィルムの厚さが4〜12μmである場合に,表裏面の導通性が良好な積層両面導通フィルムが得られることが分かった。
【0012】
上記のような積層両面導通フィルムは、
上記両面の導電性物質が、上記有機材料のフィルムの両面に、真空蒸着、スパッタリング、EB法、イオンプレーティング法、メッキ法のいずれかの薄膜形成法により形成される時に、上記有機材料のフィルムに形成された微細通孔に適度に浸透し、その両面に形成された導電性材料間に高度の導通を生じさせることになる。
【発明の効果】
【0013】
即ち、本発明にかかる積層両面導通フィルムは、無機-有機の積層フィルムとしての構成を持ち、従来から用いられている金属箔に近い導通性を備え、更にそれよりも薄く、軽く且つ強度に優れた代替材料を提供するものである。その特徴として、機械的性質は柔軟性があり靭性・加工性に優れている。金属単体箔と較べて質量が4分の1程度に軽い。従来より提供されている、電子材料としての圧延銅箔などと比べより薄い素材を提供できる。その用途として、電磁波シールド、電極シート、電池電極、RFID用アンテナ、リードフィルム、テープ基材、ヒーター材、放熱材、装飾材、透明導通膜、ガス分離膜、金属箔(銅箔・アルミニウム箔、ニッケル箔など)の代替材料、などへの応用が考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
続いて、添付図面及び表を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明する。ここに図1は、中間層の有機フィルムの厚さとその両面に形成した導電性物質間の導通性の関係をしめるグラフ、表1は、上記有機フィルムの厚さとその両面に形成した導電性物質の膜厚に対する上記導電性物質間の導通性の関係を示す表、表2は、有機フィルムの厚さとガス(酸素)透過性の関係を示す表である。
【0015】
この発明にかかる積層両面導通フィルムは、すでに述べたとおり有機フィルムと、その両面に形成された金属材料などの導電性物質からなるものであり、以下、
A.構造上の中心をなす有機材料のフィルム
B.上記有機材料のフィルムの両面に形成される導電性物質(金属薄膜)
C.上記有機材料のフィルムと上記金属薄膜との関係
D.本積層両面導通フィルムの製造方法
に分けて説明する。
【0016】
A.構造上の中心をなす有機材料のフィルム(以下、有機フィルムという)
有機フィルムは2μm以上15μm以下、好ましくは、10μm以下の適当な厚さであり、その内部に金属などの導電性物質が浸透され、それ故に両面に形成された導電性物質との間に高度の電気伝導性を有することが必須条件である。即ち、表面と裏面での電気的導通は、導電性物質が有機フィルム内部まで侵入することによって表裏が導電性物質で連絡することによって発生する。両面に無機導体層を設ける手法は特に限定されるものではなく、公知のものであっても、今後新規に開発されるものであってもよい。
【0017】
利用する有機フィルムには、導電性物質が内部まで侵入できる微細な通孔を創生することが可能であるという条件が求められる。この微細な通孔の大きさは、両面の導電性物質が導通を得られる範囲の大きさであれば特に限定されない。この条件が満たされるものであれば、後に示すようにフィルムの材質は特に制限を受けない。
【0018】
本発明での重要な点は、この微細な通孔の創生にあたって、物理的な穿孔方法を用いるのではなく、延伸を含む有機フィルムの製造段階において、添加剤や膜厚、あるいは延伸方法などに工夫を施すことによって表裏をつなぐ微細通路を形成したものを用いるところにある。こうした製造方法は、有機フィルムの延伸段階で自然に創成されるものであり、機械的穿孔方法とは異なり、有機フィルムそのものに大きなダメージを与えることはない。また有機フィルムの平坦度を阻害することがなく、従って、有機フィルムが本来持っている靭性、柔軟性などの機械的性質をそのまま保つことが可能である。
有機フィルムの製造手法としては、溶液キャスティング法や抽出法などでもよい。
【0019】
上記有機フィルムが備える微細な通孔は、別言すれば、ガス透過性という概念、或いは、ガスバリア性に劣っているという概念で規定することが出来る。しかしながら、一般の有機フィルムにおいては、従来、フィルタなどに用いるかなり大きい透孔を有する場合は別として、一般的にはガス透過性がないということが必須の機能と考えられており、特にこの発明が対象とする15μm程度以下の厚さの有機フィルムは、主として包装用、コンデンサ用、感熱リボン用などの通孔が必要でない用途しか検討されたことが無かったのである。
【0020】
このような15μm程度以下の厚さでしかも0.1μm以下の微細通路が形成された有機フィルムの導電性フィルムとしての用途が、これまで開発されなかったのは、上記したようにその用途が見出されなかったことも大きい原因であるが、さらにそのような薄い有機フィルムにおいて、0.1μm以下の微細通路を形成することは技術的に極めて困難が予想されたこと、及び、そのような薄い有機フィルムにおける微細通路の存在は、フィルムに圧力をかけてそこを通過するガスの量を計測することが必要であるが、そのような計測時にはフィルムがガス圧により破断して計測が困難であるために検討されなかったことも大きい要因と考えられる。
【0021】
本発明者は、たとえばPET(ポリエチレンテレフタレート)などの有機材料を15μm以下に延伸したときに0.1μm以下の微細な通孔が生成されることを多くの実験の結果見出した。その結果ガス透過性が確認され、更に表面上に形成される導電材料の形成方法を工夫したところ、本発明者は、上記のような極薄有機フィルム内の上記0.1μm以下といった微細通孔に導電性材料を浸透させることに成功したものである。その結果、上記のような極薄有機フィルムでも表裏両面間に十分な電気導通性を確保するに至ったものである。
【0022】
このように本発明者は、極薄有機フィルムにも一定条件下でガス透過性が確保されうること、更にはかかる特定の金属膜形成方法を採用することで0.1μm以下の微細通孔に導電性物質を浸透させることが出来ることを見出した。本発明は、かかる発明者による新たな知見に基づくところが非常に大きい発明であるといえる。
【0023】
さらにまた、透湿度においても高い数値を示す有機フィルムを用いた方が、電気的導通性においては優れていることも知得された。
有機フィルムの多孔性状態にあっては、本質的には曲路的・直線的に関わらず表裏に貫通した微多孔性が必要である。この場合、微細通孔がフィルム面に体して斜めに形成されたり、或いは曲がって形成されていても良い。
【0024】
前記したように本発明の無機−有機積層フィルムの作成には、有機フィルムとして、例えば厚さ10μm以下のポリエチレンテレフタレート(以下PETフィルムと呼ぶ)が適している。これ以上の厚いフィルムを用いた場合、両面から侵入する導電性物質がフィルム内部まで十分に届かず電気的導通が得られにくくなるから、と考えられる。ただし、特殊な多孔質膜を利用する場合には厚さの制限はこの限りではない。
ここで言う有機フィルムは別項に述べるようにPETフィルムに限定されるものではなく、用途別に適切な選択が可能である。また、表裏の電気的導通性を考慮して有機フィルムの厚さ範囲を示すと、一般的には15μm以下、好ましくは10μm以下の厚さが適している。フィルム両面の導電性物質形成の加工処理過程では、与えられた有機フィルムが機械的あるいは物理的な損傷を受けずに初期目的を達成することが絶対不可欠である。これを考慮すると、用いられる有機フィルムの厚さは2μm以上とすることが望ましい。
【0025】
本発明で言う有機フィルムとは、前記のようにPETフィルムに限定されるものではなく、ガス透過性の確保された、すなわち0.1μm以下で数Å以上の十分な通孔(空隙)を含むもの、酸素ガスの透過率でみると、およそ0.5cc/m2・day・atm以上であることが重要である。この条件を満たす、ポリエチレンナフタレート(PEN)、などのポリエステル系樹脂;ポリイミド(PI);ポリエーテルサルフォン(PES);ポリフェニレンサルファイド(PPS);ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン(登録商標))、パラ系アラミド(PPTA)等が、使用できる有機フィルムとしてあげられる。ただし、使用できる有機フィルムの種類は、以上に挙げた例に制限を受けるものではなく、同等のガス透過性能を持つものは有効に利用することが可能である。すなわち、ガスバリア性を制御して適当な微細通路を確保できるものであるならば、現存する有機フィルムに限らず、今後新規に開発されるものであっても、素材としての利用が可能である。
【0026】
プラスチックフィルムに金属を蒸着しダイヤモンドロールを用いて多数の微細な導通孔を設けて両面を導通させる方法(特許文献3)は、穴の大きさは0.5μmから10μmとなり、穴の密度は2×104個/cm2から2.5×104個/cm2となる。本発明はこれとは全く原理が異なり、先に示したように有機フィルムの製造工程で制御される表裏をつなぐ微細通路を利用している。
ダイヤモンドロールを用いた加工方法や穿孔手法によるものはプラスチックフィルムに対し物理的な破れを作っており、高分子の分子構造にもダメージを与えている。これに対し本発明では高分子の分子構造に対し全くダメージを与えることなく、表裏の電気的導通を確保している、これが本発明品の大きな特徴となっており、優れた靭性を与える要因である。
【0027】
B.上記有機フィルムの両面に形成される導電性物質(金属薄膜)
本発明品は無機-有機の積層構造を持っているが、導電性物質である無機導体層に関しては製造工程において自由に厚さを制御することが可能である。その厚さは表裏合わせて、使用する有機フィルムの10分の1程度でもよい。この厚さで導電性物質の特性が十分に得られるからである。
尚、本発明の無機−有機積層フィルムの軽量性という利点を生かすためには、導電性物質層は薄い方がよい、しかしこれ以下の厚さに抑えると表面と裏面との間の電気的導通の点で効果が不足する傾向があることも考慮されるべきである。
電気的導通性という最も重要な点では、上記有機フィルムの厚さと、その両面に形成される導電性物質の厚さとの間には、明瞭な関係がある。この点については、後のC.において詳述される。
【0028】
両面の電気的導通性物質の例として、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、スズ、亜鉛、チタン、クロム、パラジウム、鉄、白金、インジウムなどの純金属,あるいはカーボンや、ステンレス、真鍮などに代表されるこれらの純金属同士やカーボンとの合金、あるいはITO(酸化インジウムスズ)、酸化亜鉛などの金属酸化物、あるいは半導体でもよく、特に制限はない。また、表裏両面に形成される膜厚は同一厚さである必要はなく、材質についても表裏に異なる構造物層があっても本質的にはなんら問題はない。
導電性物質、即ち有機フィルム両面の導電性物質として銅を用い、PETフィルムに真空蒸着して作成した場合、前記のようにPETフィルム厚は2μmから10μm程度まで利用可能であり、蒸着膜厚も0.1μmから2μm程度のもので表面と裏面との間で導通を得るのに十分であった。しかし実用されている銅箔の代替材料としてより薄い素材を創生するのならば、PETフィルムの厚さが4μmから6μmの間で特に有効であり、この両面に0.3μmないし0.6μmずつの銅を蒸着した場合に非常によい結果が得られる。このとき無機−有機積層フィルム全体の厚さは、4.6μmから7.2μmとなる。さらに、使用する有機フィルムが導電性物質の蒸着段階で熱負け(熱によるしわ寄り等)しないものであれば、より厚みを持たせた導電層を形成する方が安定な素材となる。この場合1〜2μm程度の導電層があれば、導電性物質の性能を出すのにより好ましい。
【0029】
C.上記有機材料のフィルムと上記金属薄膜との関係
本発明において最も重要なことは、どのような条件下で両面間の導通性が確保されるかということであるが、さらにその様な積層両面導通フィルムが実用に耐えるものでなければならない。
上記のような導通性の確保は、支持部材としての有機フィルムとしては、ガス透過性が確保されていることが重要な前提条件である。
また最終製品としての積層両面導通フィルムにおいては、実際の電気抵抗値が低いことが重要な評価項目となる。
【0030】
【表1】

表1は、種々の厚さの有機フィルムに種々の厚さの導電性物質(この場合は銅)を積層した両面導通性フィルムにおける電気抵抗値を比較したものである。縦軸は有機フィルムの厚さ(単位μm)を、横軸はその両面に形成した導電性物質の厚さ(片面部分の厚さ)(単位μm)を示している。
各枠内の()内の数字は枠の番号を、○△×◎等の符号は、各条件の下における積層フィルムの両面間の抵抗値に対する評価を示す。
◎は、抵抗値が非常に低い(1Ω以下)範囲を示す。
○は、1Ω<抵抗値≦5Ωで、実用性はかなりあると考えられる範囲を示す。
△は、5Ω<抵抗値≦10Ω(用途によって若干問題がある程度の抵抗値)である範囲を示す。
×は、抵抗値>10Ωであり、実用性が乏しい抵抗値の範囲であることを示す。
また◎〜○のような表記は、実験値としては概ね◎であるが、○のケースも含むばらつきがある条件であることを示している。
さらに、下段の数字は、有機フィルムの厚さと、導電性物質の厚さとの比Tの値を示す。例えば、(7)の枠の0.15は、(導電性物質の厚さ0.6)/(有機フィルムの厚さ4)=0.15を示している。
【0031】
このような背景の下、上記表1を見ると、太い枠線で囲った条件(6)(7)(11)(16)において電気抵抗値として極めて優秀な結果が得られていることが分かる。これらの領域を優良条件と呼ぶ。
また、上記優良条件ほどではないが、実用には差し支えない程度の条件の領域が、網掛けで表示されている。これらの領域を良条件と呼ぶことにする。
【0032】
(a)これらの良条件以上の条件領域は、有機フィルムの厚さで見ると、4μm以上であることが分かる。
(b)また良条件以上の領域を、前記厚さ比Tとの関係で見ると、0.0375≦T≦0.25において良条件が得られていることが分かる。下限値である0.0375については、0.033(14)でも△〜○となっているところから見て、かなり適正な下限値であることが理解される。一方、上限値の0.25が真の上限かどうかはこのデータだけからは分からない。それ以上に大きい値に対するデータがないからである。
このように、一応使用に耐えうる条件領域としては、上記有機フィルムの厚さが4μm以上の範囲であって、厚さ比Tが0.0375≦Tの範囲と結論される。
【0033】
(c)また詳細に見ると、実用に耐える条件範囲として、
導電性物質の厚さが0.15μmの近傍では、有機フィルムの厚さは4μm近傍が、
導電性物質の厚さが0.3μmの近傍では、有機フィルムの厚さは4〜6μm近傍が、
導電性物質の厚さが0.6〜1μmの近傍では、有機フィルムの厚さは4μm〜12μmが、抽出される。
【0034】
(d)さらに優良条件に着目すると、前記のように(6)(7)(11)(16)に限定される。
この場合も、有機フィルムの厚さに関しては、もちろん4μm以上でなければならない。
(e)厚さ比Tに着目すると、0.075≦T≦0.15の範囲で優良条件が得られていることが分かる。このように優良条件の上限は明確であるので、良条件についても、前記0.25よりそれほど大きくない厚さ比に限界があることが予想される。
(f)また詳細に見ると、優良条件の範囲として、
導電性物質の厚さが0.3μmの近傍では、有機フィルムの厚さは4μm近傍が、
導電性物質の厚さが0.6μmの近傍では、有機フィルムの厚さは4〜6μmの近傍が、
導電性物質の厚さが1μmの近傍では、有機フィルムの厚さは9μmの近傍が、
それぞれ抽出されることが分かる。
【0035】
【表2】

表2は、支持部材である有機フィルムとして、ガス透過性が確保される条件を示している。このデータは、厚さ2.5μm、4μm、6μm、9μmのPETについて同じ条件下での酸素透過性を調べたものである。
明瞭に分かることは、2.5μmのPETでは、酸素がほとんど無制限に漏れていること、及び4μm、6μm、9μmのPETでは、適正な酸素透過が観測されており、且つ有機フィルムの厚さが厚いほど酸素透過は少ないことである。このデータからも、有機フィルムの厚さには4μm程度の下限があることが理解される。
【0036】
後記する第1例で示した厚さ4μmのPETフィルムの両面に厚さ0.6μmずつ銅を真空蒸着した試料片(総厚5.2μm)で表面から裏面への電気抵抗を測定した。
図1は、この場合の試料片の面積を変数(横軸)として、各試料片における両面の導電性物質間の抵抗値(縦軸)を測定したものである。面積が小さいもの、たとえば0.5cm2以下の範囲では高い抵抗率を示すものが現れる。MΩオーダーに達する抵抗値を示すものは、実質的に表裏が絶縁されていると考えてよい。ところが試料片の面積が、2cm2を超えるとほぼ1Ω一定となり、その間では、抵抗値がばらついていることが認められる。
これは、上記厚さ4μmのPETフィルムの両面に厚さ0.6μmずつ銅を真空蒸着した試料片(総厚5.2μm)では、電気的導通路がある程度の密度で万遍無く生じていること、及びその密度は0.5cm2程度を超えると、電気抵抗値が1Ω程度となるほどに沢山の導通路が形成されていることを物語っている。
即ち、小さい試料片(例えば0.5cm2)では、電気的導通路が十分に存在しない場合が生じていることを示し、その反対に、1cm2以上といった大きい試料片では、常に導通を生じていることから、0.5cm2程度の面積を確保したときに十分な導通となるほどの密度で電気的導通路が形成されていることが分かる。つまり、一つ一つの電気的導通路は電気的に高い抵抗値を示すものであるが、試料面積を大きくとった場合には電気的導通路の数が増えるため見かけ上電気抵抗値はゼロになる。以上のことから、有機フィルムが本来持っている微細通路の数やあるいは微細通路の穴径が電気的な導通に関与していることが理解できる。
【0037】
導電性物質中に有機フィルムを含有させる方法は、導電性物質による有機フィルムへの、真空蒸着法もしくはそれに替わるスパッタリング法、電子ビーム蒸着法(EB法)、イオンプレーティング法,メッキ法等の薄膜形成手法による。製造手法についてしいて言うならば、真空蒸着法よりもプラズマ雰囲気のもとで形成する方が効果的である。
【実施例】
【0038】
第1例
本発明では、表裏の導通試験を行い、表裏をつなぐ電気的導通路の断面積と、電気的導通路の面積当たりの密度を調べ、微小に裁断した試料の電気抵抗を測定することで、面積当たりの電気的導通路の数を求めることを試みた。
厚さ4μm、比重1.4のPETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルムC230)両面に0.6μmずつ銅を真空蒸着したもの(総厚5.2μm)において表裏の導通試験を行った。結果は図1のグラフに示されているように、2cm2以上の面積を持つものでは、ほとんど抵抗なく、多くの試料片で数値が0Ωを示す(図1のグラフは片対数で表示されているため、抵抗値0Ωはプロットされていない)が、それ以下の面積の小さい試料では、数Ω〜数十Ωの電気抵抗を示し、1mm2以下の微小な試料片では、まれに抵抗が数MΩ〜無限大を示す。すなわち、電気的導通路を持たない試料片の存在を確認した。この結果から実際に電気的導通路の密度を算出すると、数千個/cm2から数百個/cm2程度に制御されていることが分かった。
【0039】
次にこの試料を含め、目視及び光学顕微鏡による表面観察を行った。従来用いられてきた、プラスチックフィルムに機械的穿孔法あるいはレーザーなどで加工を加えて作成された積層膜は、肉眼でも観察可能な穴が開けられておりこの点においても、本発明品との大きな違いを見ることができる。ダイヤモンドロールにより加工を行ったものでは、光学顕微鏡で光が透過する現象が容易に観察される。このように表裏に直線的な穴が開けられていることが明瞭にわかる。これに対し、本発明品では光学顕微鏡では導通孔を通じての光透過は観察されていない。光学的な穴が観察されないということから、蒸着により導通孔の入り口を完全に導電性物質でふさいでしまっていると考えられる。また、仮に完全にふさいでないものとしても、可視光の波長以下の大きさしかないと言える。
【0040】
さらに走査型電子顕微鏡を用いたPETフィルムの表面観察を行った。本例で示しているように、両面に銅を蒸着したPETフィルムには適当な電気的導通路が形成されている。また、両面に導電性物質を蒸着後の本発明品では光透過が観察されていない。したがって、有機フィルムそのものに穴が開いていることが予想される。そこで、本例で用いたPETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルムC230)を準備し表面を走査型電子顕微鏡で観察した。この観察によると、フィルムの起伏、添加物と考えられる粒子などが観察されるが、1万倍の倍率をもって観察しても、微細通路らしきものは発見されなかった。すなわちこの倍率での観察は0.1μmの表面異物を観察できるものであり、これによっても微細通路が見えないということは、その微細通路の直径の上限は0.1μm以下にあると考えられる。
【0041】
一方、蒸着により熱などの作用で貫通穴が開く可能性がある。本試料を塩化鉄(III)水溶液を用いて銅をすべて溶かしPETのみを残した試料を作成した。これを走査型電子顕微鏡を用いて1万倍の倍率で観察した。この試料においても貫通穴は観察されなかった。以上の観察例から、表裏をつなぐ微細通路がもともとPETフィルムそのものに存在していると考えられる。
【0042】
また、本試料と本例で用いたPETフィルム(C230)の酸素透過率を測定した。その結果、本試料では1.4cc/m2・day・atmであるのに対し、C230では、412cc/m2・day ・atmとの結果を得た。すなわち、蒸着物質により、微細通路が充填されていることがわかる。
【0043】
本例の結果、電気的導通路の密度がおおよそ把握された。これに電気抵抗の測定値を考慮することで実際に電気的導通に寄与している導電性物質の断面積Sを計算することができる。すなわち、銅の体積抵抗率は1.7×10-8Ωmであり、有機フィルムの厚さが6μmであることを考慮すれば、σ=S×R/lを用いて算出することができる。ただし、σは体積抵抗率、Sは導通に寄与する銅の断面積、Rは測定される電気抵抗、lは長さであるがここでは有機フィルムの膜厚と考えてよい。
【0044】
計算によると、導電性物質である銅の断面が銅の格子定数3.61を一辺とする正方形である場合、導通路は1cm2あたり数千個以上必要になる。しかし、銅の断面の直径が数nmあれば、導通路の数は1cm2あたり数百個程度でも満足され、本実施例との整合性が明らかになる。本実験によって明確になる電気的導通路の数は以上に示した範囲にある。
【0045】
第2例
総厚が7.2μmで厚さ6μm 比重1.4のPETフィルム(東レ5Y-C21)を含有する無機-有機積層フィルムを用いた実験を行った。この場合、層構造を両面対称となるようにEB法により試料を作成した。すなわち導電性物質である銅の層は片面に0.6μm中心に6μmのPETフィルムがあり、もう一方の片面に0.6μmの銅の層を形成した構造を持つものである。この構造物から、縦1cm、横12cm、の短冊状に試料を切り出した。試料の両端1cmずつを電極としてとり、測定長を10cmとする。この片端の表面からもう片端の裏面への抵抗値を4端子法で測定したところ、その測定値はおよそ0.4Ωとなった。この積層フィルムは3nmを直径とする電気的導通路があると仮定した場合、計算上では電気的導通路の密度は4000個/cm2程度となる。
【0046】
第3例
厚さ6μm で比重1.4のPETフィルム(東レ5Y-C21)を含有する総厚が6.2μmの無機-有機積層フィルムをスパッタリング法により作成した。これも第2例と同様に導電性物質を銅とし、PETフィルムの両面に0.1μmずつ対称に構成されている。電極面積を25cm2として測定したところ、表面から裏面への電気抵抗は約0.8Ωとなった。この場合も積層フィルムとして十分な強度を有している上に材料として十分な取り扱い性を持つ。この場合第2例と同じ方法で計算すると電気的導通路の密度は700個/cm2程度となった。蒸着膜厚を薄くすることで電気的導通路の数は減少すると言える。
【0047】
第4例
厚さ2μm のPETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルムC600)を含有する総厚が2.2μmの無機-有機積層フィルムをスパッタリング法により作成した。これも第2例と同様に導電性物質を銅とし、PETフィルムの両面に0.1μmずつ対称に構成されている。この無機-有機積層フィルムは、やはり表面から裏面へ電気的導通があり、電極面積を25cm2として測定したところ、表面から裏面への抵抗は約0.1Ωとなった。この場合も第2例と同じ方法で計算すると電気的導通路の密度は約2000個/cm2となった。
【0048】
上記第2例〜第4例の実施例の結果から、PETフィルムの膜厚と金属蒸着量との関係が、電気的特性と強く結びついていることが言える。すなわち、導電性物質(例えば銅)の厚さが厚ければ、面積当たりの電気的導通路の密度も大きくなり、また含有する有機フィルムが薄ければ同じように面積当たりの電気的導通路の密度も大きくなる傾向がある。
【0049】
第5例
厚さ7.5μmのポリイミドを含有する総厚が8.3μmの無機-有機積層フィルムを真空蒸着法により作成した。導電性物質をニッケルとし、ポリイミドフィルムの両面に0.4μmずつ対称に構成した。電極面積を25cm2として測定したところ、表面から裏面への電気抵抗は約1.5Ωとなった。
【0050】
第6例
厚さ6μmのポリエチレンナフタレート(PEN)を含有する総厚が6.2μmの無機-有機積層フィルムをスパッタリング法により作成した。導電性物質をアルミニウムとし、PENフィルムの両面に0.1μmずつ対称に構成した。電極面積を25cm2として測定したところ、表面から裏面への電気抵抗は約1.2Ωとなった。
【0051】
第7例
厚さ6.5μmのポリアミドを含有する総厚が6.7μmの無機-有機積層フィルムを真空蒸着法により作成した。導電性物質を銅とし、PENフィルムの両面に0.1μmずつ対称に構成した。電極面積を25cm2として測定したところ、表面から裏面への電気抵抗は約1.8Ωとなった。
【0052】
以上示したように、この構造物内部に有機フィルムを含有した、総厚10μm以下の無機-有機積層フィルムはこれまでにない独特の特性を持った新規な素材であり、その応用は多方面にわたる。実施例で示したものはその代表的なものであり、応用範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】中間層の有機フィルムの厚さとその両面に形成した導電性物質間の導通性の関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面に導電性物質の薄膜配置され、上記両面の導電性物質の間に有機材料のフィルムが挟まれてなる積層両面導通フィルムであって、
上記両面の導電性物質は、上記有機材料のフィルムに形成されたガス透過性の通孔に浸透された上記導電性物質と同じ物質を介して導通されてなる積層両面導通フィルム。
【請求項2】
上記有機材料のフィルムの材質がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系樹脂;ポリイミド(PI);ポリエーテルサルフォン(PES);ポリフェニレンサルファイド(PPS)などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン(登録商標))、パラ系アラミド(PPTA)のいずれかであり、かつその厚さが15μm以下であって2μm以上である請求項1記載の積層両面導通フィルム。
【請求項3】
上記導電性物質と同じ物質が浸透された上記通孔が、0.1μm以下の微細通路から形成されてなる請求項1或いは2に記載の積層両面導通フィルム。
【請求項4】
上記導電性物質と同じ物質が浸透された上記通孔の密度ρが、100≦ρ≦10000(個/cm2)である請求項1〜3のいずれかに記載の積層両面導通フィルム。
【請求項5】
上記有機材料のフィルムは、そのガス透過率が酸素透過率で0.5cc/m2・day・atm以上で、膜厚15μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の積層両面導通フィルム。
【請求項6】
上記有機材料のフィルムの厚さとその両面に形成された導電性物質の厚さとの比Tが、0.15≦T≦0.75である請求項1〜5のいずれかに記載の積層両面導通フィルム。
【請求項7】
導電性物質が、銅である場合について、上記有機材料のフィルムの厚さが4μm以上の範囲であって上記有機材料のフィルムの厚さとその両面に形成された導電性物質の厚さとの比Tが0.0375≦Tの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の積層両面導通フィルム
【請求項8】
導電性物質が、銅である場合について、導電性物質の厚さが0.15μmの近傍では、有機材料のフィルムの厚さは4μm近傍、導電性物質の厚さが0.3μmの近傍では、有機材料のフィルムの厚さは4〜6μm近傍、導電性物質の厚さが0.6〜1μmの近傍では、有機材料のフィルムの厚さは4〜12μm以上である請求項1〜6のいずれかに記載の積層両面導通フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−216586(P2007−216586A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41637(P2006−41637)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000231280)日本資材株式会社 (9)
【Fターム(参考)】