説明

積層体パネルとその取付構造および建物

【課題】水分に対して強い安価な積層体パネルを提供し得るようにする。
【解決手段】不燃性無気質板状体1の表面に少なくともその端面をも被覆可能な表面金属板2を積層すると共に、不燃性無気質板状体1の裏面に裏面金属板3を積層してなる積層体パネル4であって、裏面金属板3に水分蒸発用穴部11を形成するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層体パネルとその取付構造および建物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードなどの不燃性無気質板状体は、耐火性、防火性、断熱性、防音性などの特性に優れており、しかも、安価であることから、建物の内壁材や天井材などとして広く使用されている。
【0003】
しかし、石膏ボードなどの不燃性無気質板状体は、単体としての強度が充分ではないため、不燃性無気質板状体の両面に鋼板を積層して補強することにより、外壁材への使用にも耐え得るようにした積層体パネルが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−133428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような積層体パネルでは、使用されている石膏ボードなどの不燃性無気質板状体が、水分に対して余り強くないため、何らかの対策が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明では、不燃性無気質板状体の表面に少なくともその端面をも被覆可能な表面金属板を積層すると共に、不燃性無気質板状体の裏面に裏面金属板を積層してなる積層体パネルにおいて、前記裏面金属板に水分蒸発用穴部を形成したことを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載された発明では、前記水分蒸発用穴部が、裏面金属板における防水ラインの近傍で且つ防水ラインよりも内側の位置に形成された請求項1記載の積層体パネルを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載された発明では、請求項1または2に記載の積層体パネルの水分蒸発用穴部よりも外側の部分を、防水手段を介して、建物構造体に取付けた積層体パネルの取付構造を特徴としている。
【0008】
請求項4に記載された発明では、請求項1または2に記載の積層体パネルが、請求項3に記載の取付構造によって建物構造体に取付けられて成る建物を特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、不燃性無気質板状体の表面に少なくともその端面をも被覆可能な表面金属板を積層すると共に、不燃性無気質板状体の裏面に裏面金属板を積層してなる積層体パネルにおいて、前記裏面金属板に水分蒸発用穴部を形成したことにより、不燃性無気質板状体の内部へ浸入した水分は、水分蒸発用穴部から蒸発して行くことができるので、不燃性無気質板状体を自然に乾燥した状態へ戻すことが可能となる。しかも、水分蒸発用穴部を形成するだけの構造なので、ほとんどコストが掛らない。これに対し、不燃性無気質板状体を完全防水にすることが考えられるが、この場合には、構造上、かなりのコストが必要となることが予想されるため、実用化が困難である。
【0010】
請求項2の発明によれば、水分蒸発用穴部を、防水ラインよりも内側の位置に形成したことにより、水分蒸発用穴部から水が侵入してくるのを防止することができる。且つ、水分蒸発用穴部を、防水ラインの近傍に形成したことにより、防水ラインにより近い位置で早期に水分を蒸発させることができる。これにより、浸入してきた水分が不燃性無気質板状体の内部に拡散されて篭ってしまう前に水分蒸発用穴部から蒸発させることができて、効率が良い。
【0011】
請求項3の発明によれば、請求項1または2に記載の積層体パネルの水分蒸発用穴部よりも外側の部分を、防水手段を介して、建物構造体に取付けることにより、積層体パネルが持つ水分に強いという機能を最大限に活かした取付けを行うことが可能となる。
【0012】
請求項4の発明によれば、請求項1または2に記載の積層体パネルが、請求項3に記載の取付構造によって建物構造体に取付けられることにより、耐火性、防火性、断熱性、防音性などの特性に優れ、安価で、しかも、水分に強い建物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
水分に対して強い安価な積層体パネルを提供し得るようにするという目的を、裏面金属板に水分蒸発用穴部を形成する、という手段で実現した。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施例について、図示例と共に説明する。
【0015】
図1〜図4は、この発明の実施例を示すものである。
【0016】
まず、構成について説明すると、不燃性無気質板状体1の表面に少なくともその端面をも被覆可能な表面金属板2を積層すると共に、不燃性無気質板状体1の裏面に裏面金属板3を積層して積層体パネル4を構成する。
【0017】
ここで、不燃性無気質板状体1には、石膏ボード、珪酸カルシウム板、岩綿保温板、硬質木片セメント板、軽量気泡コンクリート板などがある。特に、石膏ボードが好適である。この不燃性無気質板状体1の厚味は、任意であるが、10mm〜20mmとするのが好ましく、特に、12mm〜15mmが好適である。
【0018】
表面金属板2および裏面金属板3には、鋼板、ステンレス板、アルミニウム板、これらの合金板などがあり、耐食性や加工性などを考慮して適宜選択される。特に、耐熱性に優れた鋼板が好適である。
【0019】
表面金属板2および裏面金属板3の厚味は、特に制限はないが、加熱時の破損や耐火性を考慮して0.05mm以上とするのが好ましい。また、厚くなると、機械的強度が増して好ましい反面、重量が増加して作業性や加工性が悪化するので、0.10mm〜2.0mmの範囲とするのが好適である。
【0020】
表面金属板2および裏面金属板3には、耐久性を向上するため、メッキや塗装などの表面処理を施しても良い。メッキは、通常のもので良いが、例えば、亜鉛メッキ、アルミニウムメッキ、これらの合金メッキなどが好適である。また、塗装には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの有機系樹脂を主成分とする塗料を用いるのが好適である。
【0021】
不燃性無気質板状体1に対する表面金属板2および裏面金属板3の積層には、接着剤を用いるのが好ましい。接着剤の種類には、特に制限はないが、水系接着剤やエマルジョン系接着剤などが公害の発生が少なく、しかも、安価で性能が良いので好ましい。特に、酢酸ビニル系接着剤、アクリル系接着剤が好適である。
【0022】
そして、上記表面金属板2の4つの辺部には、不燃性無気質板状体1の端面を被覆可能な端面被覆部6と、裏面金属板3の縁部に対して所定の幅寸法で重複する裏面重複部7とが形成されている。この端面被覆部6と裏面重複部7とは、不燃性無気質板状体1に対する表面金属板2および裏面金属板3の接着後に、曲げ加工される。なお、裏面重複部7は、互いに干渉しないように、両端部が斜めにカットされている。
【0023】
また、不燃性無気質板状体1の端面と端面被覆部6との間、および、裏面金属板3の縁部と裏面重複部7との間には、少なくとも下辺部と両側辺部との3つの辺部に亘って、断面がほぼL字状をした補強プレート部材9が介在されている。なお、補強プレート部材9は、上辺部に対して設けることもできる。
【0024】
そして、以上のような基本構成に対し、この実施例のものでは、積層体パネル4を構成している裏面金属板3に水分蒸発用穴部11を形成する。
【0025】
なお、この水分蒸発用穴部11は、予め水分蒸発用穴部11を穿設しておいた裏面金属板3を不燃性無気質板状体1の裏面に貼付けるようにして設けても、または、裏面金属板3を不燃性無気質板状体1の裏面に貼付けた後で不燃性無気質板状体1にドリルなどで水分蒸発用穴部11を穿設することによって設けても良い。
【0026】
そして、水分蒸発用穴部11が、裏面金属板3における防水ライン12,13の近傍で且つ防水ライン12,13よりも内側の位置に形成されるようにする。なお、防水ライン12,13が多重に設けられている場合には、最も内側となる防水ライン12を基準とするのが好ましい。なお、防水ライン12,13については、後述する。
【0027】
また、水分蒸発用穴部11を設ける位置としては、上記の他にも、積層体パネル4の四隅部の近傍や、後述する建物構造体21に対する固定用ビス穴の近傍や、図4に示すような換気穴などの貫通穴15の近傍など、水分の侵入が発生する可能性が高い場所の近傍などが考えられる。
【0028】
特に、水分蒸発用穴部11は、上記した、防水ライン12,13、積層体パネル4の四隅部、建物構造体21に対する固定用ビス穴、換気穴などの貫通穴15などの水分の侵入が発生する可能性が高い場所から、不燃性無気質板状体1の厚味の十倍以内までの距離の範囲内に形成するようにする。
【0029】
水分蒸発用穴部11の形状は、任意であるが、加工上は、丸穴とするのが有利である。
【0030】
水分蒸発用穴部11の大きさおよび数は、積層体パネル4のハンドリング上および取付上、必要な強度を確保できれば制限はない。目安としては、水分蒸発用穴部11の外径は不燃性無気質板状体1の厚味の十倍以下とする。また、積層体パネル4の幅方向または高さ方向への設置数は、水分蒸発用穴部11の外径に設置数を掛けた寸法が、積層体パネル4の幅方向または高さ方向のそれぞれの寸法の50%以下となるようにする。
【0031】
このような積層体パネル4の水分蒸発用穴部11よりも外側の部分を、防水手段17,18を介して、建物構造体21に取付ける。
【0032】
そして、このような取付構造によって建物構造体21に積層体パネル4を取付けることにより、建物Aを構成する。
【0033】
ここで、建物Aは、ユニット建物とすることができる。このユニット建物は、予め工場で製造された複数の建物ユニットaを建築現場で組合せて構築されるものである。このような建物ユニットaには、ほぼ直方体状をした標準ユニットと、それ以外の形状をした異形ユニットとが存在する。また、建物ユニットaには、鉄骨系ユニットと木質系ユニットとが存在する。
【0034】
例えば、鉄骨系ユニットで且つ標準ユニットの場合、ほぼ垂直な4本のユニット柱の下端間に、ほぼ水平な4本の床梁22(図2参照)を矩形状に連結すると共に、上記4本のユニット柱の上端間に、ほぼ水平な4本の天井梁23(図2参照)を矩形状に連結してなるボックスラーメン構造のユニットフレームが建物構造体21となる。そして、このユニットフレームにおける、床梁22と天井梁23との間にスタッド24(図3参照)などの取付用部材を掛渡す。このスタッド24も、広い意味での建物構造体21と言うことができる。そして、このスタッド24を利用して建物構造体21に積層体パネル4を取付ける。
【0035】
例えば、このような建物構造体21に対し、積層体パネル4は、リベット25などの固定具を用いて固定される。このリベット25は、積層体パネル4の補強プレート部材9が設けられている部分に取付けられる。なお、リベット25の詳細については省略する。
【0036】
そして、スタッド24に積層体パネル4を取付けた状態では、図2に示すように、積層体パネル4は、床梁22や天井梁23から若干浮いた状態となる。そこで、積層体パネル4と床梁22との間に、例えば、防水手段17としての防水透湿テープ31を貼付ける。この防水透湿テープ31は、積層体パネル4における表面金属板2の裏面重複部7と床梁22との対向する面との間に折返した状態で貼付けられる。この場合、この折返された防水透湿テープ31の幅の範囲内が最も内側の防水ライン12となる。なお、この防水ライン12は、1重とされている。
【0037】
また、積層体パネル4と天井梁23との間に、例えば、防水手段17として防水透湿テープ32を貼付ける。この防水透湿テープ32は、積層体パネル4における表面金属板2の端面被覆部6と天井梁23の上面との間に段差状に貼付けられる。この場合、表面金属板2における端面被覆部6の位置よりも上側の部分が最も内側の防水ライン12(2次防水ライン)となる。更に、この防水ライン12よりも外側に防水手段18としての雨シート33を設ける。この雨シート33は、上方から表面金属板2表面の上縁部分にかかるように垂らされたものである。この雨シート33の下縁部よりも上側の部分が外側の防水ライン13(1次防水ライン)となる。
【0038】
更に、図3に示すように、積層体パネル4とスタッド24との間に、例えば、防水手段17としてソフトロンテープ34を貼付ける。このソフトロンテープ34は、スタッド24の表面に貼付けられ、積層体パネル4における表面金属板2の裏面重複部7に圧接されるものである。この場合、ソフトロンテープ34の内端部または裏面重複部7の内端部が、最も内側の防水ライン12となる。更に、この防水ライン12よりも外側に防水手段18としてのガスケット35を設ける。このガスケット35は、隣接する積層体パネル4の端面間の間隙内へ嵌入されるものである。このガスケット35の嵌入部分が外側の防水ライン13(1次防水ライン)となる。
【0039】
次に、この実施例の作用について説明する。
【0040】
不燃性無気質板状体1の表面に少なくともその端面をも被覆可能な表面金属板2を積層すると共に、不燃性無気質板状体1の裏面に裏面金属板3を積層してなる積層体パネル4に対し、裏面金属板3に水分蒸発用穴部11を形成したことにより、不燃性無気質板状体1の内部へ浸入した水分は、水分蒸発用穴部11から蒸発して行くことができるので、不燃性無気質板状体1を自然に乾燥した状態へ戻すことが可能となる。しかも、水分蒸発用穴部11を形成するだけの構造なので、ほとんどコストが掛らない。これに対し、不燃性無気質板状体1を完全防水にすることが考えられるが、この場合には、構造上、かなりのコストが必要となることが予想されるため、実用化が困難である。
【0041】
この際、水分蒸発用穴部11を、防水ライン12,13(特に、最も内側の防水ライン12)よりも内側の位置に形成したことにより、水分蒸発用穴部11から水が浸入してくるのを防止することができる。
【0042】
且つ、水分蒸発用穴部11を、防水ライン12,13(特に、最も内側の防水ライン12)の近傍に形成したことにより、防水ライン12,13により近い位置で早期に水分を蒸発させることができる。これにより、浸入してきた水分が不燃性無気質板状体1の内部に拡散されて篭ってしまう前に水分蒸発用穴部11から蒸発させることができて、効率が良い。
【0043】
特に、水分蒸発用穴部11は、防水ライン12,13、積層体パネル4の四隅部、建物構造体21に対する固定用ビス穴、換気穴などの貫通穴15などの水分の侵入が発生する可能性が高い場所から、不燃性無気質板状体1の厚味の十倍以内までの距離の範囲内に形成することにより、効率良く水分を蒸発させることができる。
【0044】
そして、上記積層体パネル4の水分蒸発用穴部11よりも外側の部分を、防水手段17,18を介して、建物構造体21に取付けることにより、積層体パネル4が持つ水分に強いという機能を最大限に活かした取付けを行うことが可能となる。
【0045】
更に、上記取付構造によって建物構造体21に上記積層体パネル4が取付けられることにより、耐火性、防火性、断熱性、防音性などの特性に優れ、安価で、しかも、水分に強い建物Aを得ることができる。
【0046】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、実施例はこの発明の例示にしか過ぎないものであるため、この発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれることは勿論である。また、複数の実施例や変形例が示されている場合には、これらの可能な組合せが含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例にかかる積層体パネルの背面図である。
【図2】図1の積層体パネルを建物構造体に取付けた状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の積層体パネルを建物構造体に取付けた状態を示す横断面図である。
【図4】換気穴の周囲に水分蒸発用穴部を形成した状態を説明する部分拡大図である。
【符号の説明】
【0048】
1 不燃性無気質板状体
2 表面金属板
3 裏面金属板
4 積層体パネル

11 水分蒸発用穴部
12 防水ライン
17 防水手段
21 建物構造体
A 建物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不燃性無気質板状体の表面に少なくともその端面をも被覆可能な表面金属板を積層すると共に、不燃性無気質板状体の裏面に裏面金属板を積層してなる積層体パネルにおいて、
前記裏面金属板に水分蒸発用穴部を形成したことを特徴とする積層体パネル。
【請求項2】
前記水分蒸発用穴部が、裏面金属板における防水ラインの近傍で且つ防水ラインよりも内側の位置に形成されたことを特徴とする請求項1記載の積層体パネル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体パネルの水分蒸発用穴部よりも外側の部分を、防水手段を介して、建物構造体に取付けたことを特徴とする積層体パネルの取付構造。
【請求項4】
請求項1または2に記載の積層体パネルが、請求項3に記載の取付構造によって建物構造体に取付けられて成ることを特徴とする建物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−255035(P2007−255035A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79992(P2006−79992)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】