説明

積層体及び断熱シート並びにポリスチレン系発泡体の敷設方法。

【課題】断熱性に優れ、しかも敷設後の断熱性の経時劣化の少ないポリスチレン系発泡体を用いた積層体,及びこれを用いた断熱シート,ポリスチレン系発泡体の敷設方法等を提供すること。
【解決手段】ポリスチレン系発泡体を構成部材として含む積層体であって、ポリスチレン系発泡体表面の、一方の面に水分散系接着剤を含む層が積層されている積層体である。水分散系接着剤は、硬化促進剤を含み、硬化促進剤は、沸点が150℃以上である成膜助剤及び/又は吸水剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱シート用の積層体,及び断熱シート,並びに、これらを利用した断熱工法に関するものであり、更に詳しくは、従来困難であった、ポリスチレン系の発泡体の断熱材としての使用を可能にした断熱用積層体,断熱シート,断熱工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネの要請等から、屋内外を問わず,断熱材の使用要求が高まっており、より優れた断熱材が求められるようになってきている。
中でも、コンクリートその他のモルタルに積層する断熱材として、発泡体の利用が増加している。
【0003】
発泡体には、ポリエチレン製のものが多用されており、これには、柔軟性があるため、敷設時の敷設対象面の不均一を吸収できる、敷設が早いという利点がある一方、柔軟性は、敷設後の変形リスクを伴い、敷設作業時に危険を伴うことや、肝心の断熱効果が不十分であることに加え、価格がかなり高額である等の欠点がある。
【0004】
断熱性に優れている発泡体としては、ポリウレタン系のものが挙げられるが、湿気に弱く、敷設後の断熱性能の経時劣化が激しいという難点がある。
【0005】
断熱性がポリエチレン系発泡シートよりも高く、敷設後も、断熱性の経時劣化が少ないものとして、ポリスチレン系の発泡シートが挙げられる。ポリスチレン系の発泡シートは、吸水性,透湿性が低く、圧縮強度も大きく、何より、ポリエチレンに比べて、価格がかなり安い等の利点を有しているものの、有機溶剤に弱く、接着剤等による積層ができないという決定的な難点のため、断熱用の積層体に利用するには、ディスクやアンカーを用いた機械的固定を行う以外には無かった。なぜなら、これまでの、断熱シートの接着剤は、殆どが溶剤系のものだったからである。
【0006】
一方、高沸点成膜助剤を有する水分散系接着剤(特許文献1)や、金属酸化物等を含む樹脂エマルジョン硬化促進剤を用いた水分散系エマルジョンからなる接着剤(特許文献2)が知られているが、これらは、成膜助剤等の硬化促進剤によって、加硫ゴム等の防水シートを直接コンクリート等に敷設する際の、接着剤の乾燥速度を速めるためのものであり、ポリスチレン積層体との接着性については、全く知られていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−300727号公報
【特許文献2】特開2005−89723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、上述の問題を解決するために鋭意研究を行った結果、硬化促進剤等を含有する水分散系接着剤を含む層が、ポリスチレンを溶解することなく、しかも、ポリスチレンとの十分な接着性を発揮し得ることを見出し本発明に到達したものであって、その目的とするところは、断熱性に優れ、敷設後の断熱性の低下も少なく、ポリスチレン系発泡体の接着性に優れ、更に剥がれや変形のおそれも無い積層体,及びこれを用いた断熱シート,ポリスチレン系発泡体の敷設方法等を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的は、下記第一の発明から第九の発明によって、達成される。
【0010】
<第一の発明>
ポリスチレン系発泡体を構成部材として含む積層体であって、ポリスチレン系発泡体に、下記(A1)層が積層されていることを特徴とする、積層体。
(A1)水分散系接着剤を含む層
【0011】
<第二の発明>
水分散系接着剤が、硬化促進剤を含むものであることを特徴とする、第一の発明に記載の積層体。
【0012】
<第三の発明>
硬化促進剤が、下記(1)及び/又は(2)を含有するものであることを特徴とする、第二の発明に記載の積層体。
(1)沸点が150℃以上である成膜助剤
(2)吸水剤
【0013】
<第四の発明>
(A1)層の、ポリスチレン系発泡体と接していない側の上に、直接又は下記(A2)層を介して、遮水性を有するシートが積層されていることを特徴とする、第一乃至第三の発明のいずれかに記載の積層体。
(A2)接着性を有する層。
【0014】
<第五の発明>
遮水性を有するシートの、(A1)層と接していない側の上に、更に仕上材層が積層されていることを特徴とする、第四の発明に記載の積層体。
【0015】
<第六の発明>
ポリスチレン系発泡体表面の、(A1)層が積層されている面と反対側の面に、下記(B)層が更に積層されていることを特徴とする、第一乃至第五の発明のいずれかに記載の積層体。
(B)アスファルト成分含有水分散系接着剤を含む層
【0016】
<第七の発明>
(B)層のポリスチレン系発泡体と接していない側の面に、更に、プライマー層が積層されていることを特徴とする、第一乃至第六の発明のいずれかに記載の積層体。
【0017】
<第八の発明>
第一乃至第七の発明のいずれかに記載の積層体を構成部材として含むことを特徴とする、断熱シート。
【0018】
<第九の発明>
敷設面に対し、(B)層または、(B)層に積層したプライマー層が接触するように、第一乃至第八の発明のいずれかに記載の積層体又は断熱シートを敷設することを特徴とする、ポリスチレン系発泡体の敷設方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の積層体,断熱シート,ポリスチレン系発泡体の敷設方法は、従来要望が高かったにもかかわらず不可能とされてきた、ポリスチレン系発泡体の断熱材への利用を可能とするものであって、高い断熱性を有するとともに、断熱性の経時劣化の少ない積層体,及びこれを用いた断熱シート,ポリスチレン系発泡体の敷設方法等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[本発明の積層体]
本発明の積層体は、ポリスチレン系発泡体及び、下記(A1)層を構成部材として含む積層体である。
(A1)水分散系接着剤を含む層
【0021】
本発明で言う「積層体」とは、隣接する構成部材同士が、容易に剥離しない状態で結合しているものを意味する。
【0022】
以下、本発明の積層体を、構成部材ごとに説明する。
【0023】
《本発明の積層体に用いられるポリスチレン系発泡体》
本発明の積層体に用いられる「ポリスチレン系発泡体」としては、公知のものを使用できるが、例えば特開2007-100015号公報の請求の範囲,及び従来技術の欄に記載の方法等で製造することができ、具体的には、次のようにして製造することができる。
【0024】
原料としては、主に、ポリスチレン系樹脂と、発泡剤が用いられる。
【0025】
本発明のポリスチレン系発泡体の、原料として使用可能な「ポリスチレン系樹脂」としては、特に限定されないが、スチレンのみをモノマーとして重合されるポリスチレンのほか、モノマー単位として、他のものを使用したものや、スチレンと他のモノマー単位を用いた共重合物等も含まれる。
具体的には、例えば、ポリ−p−メチルスチレン等のスチレン系単独重合体,スチレン−無水マレイン酸共重合体,スチレン−メタクリル酸共重合体,スチレン−アクリル酸共重合体,スチレン−ブタジエン共重合体,スチレン−アクニロニトリル共重合体等の、スチレン系モノマーとビニルモノマーまたはジビニルモノマーとの共重合体や、オレフィン系単独および共重合樹脂やスチレン−ブタジエン共重合樹脂等へのスチレン系モノマーのグラフト重合樹脂,ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドとの混合物などが挙げられる。
【0026】
発泡剤としては、ブタン,ペンタン等の低級脂肪族炭化水素類や、ハロゲン化炭化水素等が一般的なものとして挙げられるが、これらに限られるものでは無い。
【0027】
ポリスチレン系発泡体を製造するには、例えば、液化した原料と発泡剤と難燃化剤を高温・高圧下でよく混ぜ、一気に通常気圧・温度の環境に吹き出させる事で連続的に発泡・硬化させ、これを必要な大きさの板に切断して製造する、いわゆる押出法が挙げられる。
また、直径約1mm程度のポリスチレンビーズに発泡剤を含浸させ、これに例えば100℃以上の高温の蒸気を当てる等して昇温し、樹脂を軟化させるとともに、発泡剤を気化させる、いわゆるビーズ法等も挙げられる。
【0028】
但し、本発明の積層体に用いる場合には、押し出し法で製造したもの(XPS)が好ましい。
【0029】
尚、板状のXPSには、JIS A 9511規格分類で、熱伝導率,曲げ強さ,圧縮強さの違い等によって、1種(a,b),2種(a,b)及び3種(a,b)の6種類があるが、本発明に用いられるものとしては、「A−XPS−B−3b」等と表現される「3種b」が好ましい。
【0030】
また、XPSには、スキン層が形成されるが、スキン層が有ると表面は堅く、更に保護効果が大きいという点で好ましく、スキン層をカットして用いる場合には、透湿係数および吸水率が均一であるため、ポリスチレンの変形リスクが、より小さいという点で、好ましい。
【0031】
ポリスチレン系発泡体の大きさ,厚み等は、必要に応じて、適宜自在に調整可能であり、何ら限定されるものでは無いが、例えば、モルタル等の断熱シートの一部として用いる場合には、例えば、縦、横それぞれ300mm〜3,000m、厚さ1〜100cm程度の大きさとすることが好ましく、通常は取り扱いの容易さから縦、横3尺〜6尺(=910〜1,800mm)、厚2〜75cm程度の大きさとすることが好ましく、特に、縦、横3尺〜6尺(=910〜1,800mm)、厚2〜20cmが好ましい。
【0032】
《本発明の積層体に用いられる(A1)層》
【0033】
〈(A1)層の構成成分:水分散系接着剤〉
本発明の積層体の(A1)層に用いられる、水分散系接着剤とは、高分子の固形分を水中で重合させた懸濁水溶液からなる接着剤である。水分散系接着剤は、更に、コロイド状態の天然または合成ゴムが主体のラテックス系接着剤(ゴムラテックス)や、本来水に溶解しない高分子が、保護コロイドでエマルジョン化され、水に溶けることができる状態となっているエマルジョン系接着剤(樹脂エマルジョン)等に分類される。
【0034】
尚、これらの水分散系接着剤は、溶媒が気化し溶質が融着・硬化することで接着性を発揮するものである。
【0035】
これらの水分散系接着剤を用いる理由は、従来の有機溶剤による溶液系の接着剤のように、接着対象であるポリスチレン発泡体を溶解してしまうおそれが無いからである。
「有機溶剤による溶液系の接着剤」とは、合成樹脂やゴムなどの高分子固形分が水,アルコール,有機溶剤などの溶媒に溶け込んだものである。
【0036】
((水分散系接着剤の分散質))
「水分散系接着剤の分散質」としては、エチレン/酢酸ビニル共重合体,エチレン/酢酸ビニル/アクリル酸エステル共重合体,エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸エステル共重合体, ポリスチレン/アクリル酸エステル共重合体,ポリスチレン/メタクリル酸エステル共重合体,クロロプレン,クロロプレン共重合体,スチレン/ブタジエン共重合体,酢酸ビニル/アクリル酸エステル,酢酸ビニル/メタクリル酸エステル,スチレン/アクリル酸エステル,スチレン/メタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0037】
水分散系接着剤には、air entraining agent(空気連行剤のことであり、以下、AE剤と省略),AE減水剤,粘着付与剤,増粘剤,消泡剤,防腐剤,凍結防止剤等の他の成分を添加することが出来る。
【0038】
尚、ポリスチレン系発泡体の上に、接着剤を有する層を介して積層する遮水性を有するシートが、後述する様なアスファルト系のシートの場合には、水分散系接着剤は、エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョンや、スチレン/ブタジエン共重合体エマルジョン系合成樹脂を過熱溶融したアスファルトとして得られる防水組成物が好適である。
【0039】
((水分散系接着剤の効果))
このようにして得られる水分散系接着剤は、水分の蒸発に伴って時間とともにエマルジョン粒子が細密充填の状態となり、さらに粒子同士が変形、融着することにより連続相を形成して硬化するものである。
【0040】
((水分散系接着剤の具体例))
本発明の水分散系接着剤としては、加硫ゴムシート等の遮水性シートを積層する場合には、張付け用の水分散系接着剤としては、アクリル系やエチレン酢酸ビニル系,クロロプレン系の水分散系接着剤が好ましいものとして挙げられる。中でもクロロプレン系の水分散系接着剤として商品名「ゴーレックスボンド」(岩尾株式会社製)が好適である。
【0041】
((水分散系接着剤の構成成分:硬化促進剤))
本発明の(A1)層の成分として用いられる水分散系接着剤は、更に硬化促進剤を含むものが好ましい。
((硬化促進剤の効果))
【0042】
水分散系の接着剤に硬化促進剤を含ませることで、遮水性を有するシート側に、必要に応じて積層される(A2)層とのなじみが良くなり、ポリスチレン系発泡体とシートの結合性が飛躍的に向上し遮水性を有するシートとポリスチレン系発泡体との間の剥がれの心配が無くなるほか、接着剤の硬化が早まり、積層作業も早く進行し、敷設工事全体のスピードアップにも繋がるからである。
【0043】
((硬化促進剤に含まれる成分))
硬化促進剤に含まれる成膜助剤としては、例えば下記(1) 及び/又は(2)のものが挙げられる。
(1)沸点が150℃以上である成膜助剤
(2)吸水剤
【0044】
これらの硬化促進剤を含有する水分散系接着剤は、例えば(1)は特開2004−300727号公報,(2)は特開2005−89732号公報に記載の方法等で製造することができるが、具体的には例えば下記の様にして製造される。
【0045】
(1)沸点が150℃以上である成膜助剤
硬化促進剤に含まれる、(1)の沸点が150℃以上である成膜助剤とは、水と、水分散系接着剤の接着剤成分であるゴム又は樹脂の双方に対し親和性もしくは相溶性のある液状物質である。
【0046】
(沸点が150℃以上である成膜助剤の種類)
沸点が150℃以上である成膜助剤としては、そのような性質を有する液状物質であれば特に制限されないが、メチルセロソルブ,エチルセロソルブ,ブチルセロソルブなどのセロソルブおよびカルビトール等,エチレングリコール,ジエチレングリコールのモノエーテル等の他、プロピレングリコール,ソルビトール等のグリコール,多価アルコールのエーテル類が好適に使用される。
なかでも、クロロプレンゴム等のゴム類との相溶性に優れる、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートや、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートが特に好適に用いることができる。
【0047】
このような沸点が150℃以上である成膜助剤を水分散系接着剤に含有させることにより、成膜助剤が水分散系接着剤の分散質中に相溶してこれを軟化させ、水の蒸発に伴う水分散系接着剤の分散質の融着を促進し均一な乾燥/成膜が可能となる。
また、沸点が150℃以上である成膜助剤には、表面皮膜の形成を緩和すると共に乾燥後の接着剤層の粘着付与性も増強される。
【0048】
((1)の成膜助剤の含有量)
硬化促進剤中の、(1)の成膜助剤の含有量は、特に限定されず、例えば、50〜99質量%である。
【0049】
(1)の沸点が150℃以上である成膜助剤は、水分散系接着剤の使用時の施工環境温度により、水分散系接着剤中の含有量を変化させることが好ましい。
【0050】
低温時(15℃未満)の施工に供する低温タイプの場合、固形分が40〜60質量%である水分散系接着剤100重量部に対し、沸点が150℃以上である成膜助剤分として、好ましくは13〜20重量部,更に好ましくは13〜18重量部含有させるのがよい。
【0051】
常温時(15℃〜25℃未満)の施工に供する一般タイプの場合、固形分が40〜60質量%である水分散系接着剤100重量部に対し、沸点が150℃以上である成膜助剤分として、好ましくは6〜16重量部,更に好ましくは8〜12重量部含有させるのがよい。
【0052】
高温時(25℃以上)の施工に供する高温タイプの場合、固形分が40〜60質量%である水分散系接着剤100重量部に対し、沸点が150℃以上である成膜助剤分として、好ましくは2〜7重量部,更に好ましくは3〜6重量部含有させるのがよい。
【0053】
(1)の沸点が150℃以上である成膜助剤は、均一な乾燥/成膜が可能なこと,表面皮膜の形成,粘着付与性,確実な初期接着性能が良好なことから、これらの含有量の下限より多いことが好ましい。また、接着剤に対し成膜助剤が軟化剤としての作用が適度で接着剤自体の機械的強度が維持できること、接着剤表面の粘着性が適度で作業者の歩行が容易であることから、これらの含有量の上限より少ないことが好ましい。
【0054】
((1)の成膜助剤の効果)
(1)の沸点が150℃以上である成膜助剤は、水分散系接着剤との相溶性を有し、例えば更に遮水性を有するシートを積層する場合、予めシートに塗布されている、後述の(A2)層に含まれる接着剤としてクロロプレンゴム等のような接着剤成分に対し相溶性を有し、この効果でクロロプレンゴム等の接着剤成分を軟化させ、粘着性能を発現させることにも寄与する。
【0055】
((1)の硬化促進剤に含まれる他の成分)
なお、高温時に、接着剤乾燥後、表面で発生する過剰な粘着性を軽減させる目的で、高温タイプには充填剤を添加することが好ましい。使用することのできる充填剤としては、クレー,炭酸カルシウム,タルクなど、この技術分野で公知の無機質系のものが好適に使用できる。
充填剤は、固形分が40〜60質量%である水分散系接着剤100重量部に対し、好ましくは5〜35重量部が添加される。
【0056】
(1)の沸点が150℃以上である成膜助剤を含む硬化促進剤を用いる、本発明の水分散系接着剤組成物には、さらに、貯蔵安定性の向上や施工時の塗布作業性調整の目的で適宜公知の増粘剤・充填剤を添加することができる。また必要に応じて、公知の消泡剤や防腐剤を適宜添加することができる。
【0057】
(2)吸水剤
((2)の吸水剤の種類)
(2)の吸水剤としては、水と直ちに反応して水酸化物を形成するカルシウム等の金属の酸化物が好ましく、他にマグネシウム、バリウム等の金属の酸化物が使用出来る。特に酸化カルシウム(CaO)を使用するのが好ましい。
【0058】
((2)の吸水剤の含有量)
吸水剤は、硬化促進剤全量に対し一般的に20〜50質量%が良く、さらには25〜45質量%とするのが好適である。吸水剤が20質量%以上である場合、例えば水分散系接着剤中にある水への吸水効果の不足を補え、乾燥が促進され硬化しやすい為、遮水性を有するシートやポリスチレン系発泡体の張付けまでに多大な時間を要しないので好適である。また、吸水剤が50質量%以下である場合、例えば本発明の積層体や断熱シートの敷設工法において、乾燥、硬化が緩やかなため塗布作業に要する時間を十分確保でき、また張付けに必要な粘着性を維持できるため、ポリスチレン系発泡体や、遮水性を有するシートの接着に好適である。
【0059】
((2)の吸水剤の効果)
この吸水剤を含有させることによって、水分散系接着剤を含む層の、積層面側の硬化速度を格段に促進し、それによって乾燥・硬化が進み易い表面側と乾燥し難く硬化が進まない積層面側の水分散系接着剤の硬化速度差を均一にし得るものである。その結果、冬季などの15℃未満の低温時や、室内等の、乾燥,硬化条件の悪い環境においても、水分散系接着剤を含む(A1)層を、敷設後、速やかに乾燥,硬化させることができる。
【0060】
(硬化促進剤に含まれる他の成分)
吸水剤を含む硬化促進剤には、必要に応じプロセスオイルを含有し、適宜充填剤等を含有するものである。
【0061】
このプロセスオイルは、上述の吸水剤による、積層面側の水分散系接着剤の、硬化速度の促進の際、吸水剤(金属酸化物)と接着剤中の水との反応が早過ぎる場合に、吸水剤と水の反応を適度に制御するためのものであり、必要に応じて含有させても良い。
【0062】
充填剤は、硬化促進剤の貯蔵安定性向上のための増粘を目的として含有させることができる。この場合炭酸カルシウムなど公知の無機質系充填剤等を含有させることが好適である。
【0063】
((2)の硬化促進剤の含有量)
(2)の吸水材剤を含有する硬化促進剤の、水分散系接着剤中の含有量は、水分散系接着剤中にある水の含有量に対して必要な吸水剤の量で定まる。すなわち、吸水剤を20〜50質量%含む硬化促進剤の場合、水分散系接着剤100質量部中の水含有量が45質量部に対し硬化促進剤を10〜25質量部含有させるのが好適であり、さらには硬化促進剤を15〜22質量部含有させるのが好適であり、中でも硬化促進剤を20質量部含有させるのが好適である。水分散系接着剤100質量部中の水含有量が45質量部よりも多い場合硬化促進剤を25〜50質量部含有させても良く、45質量部よりも少ない場合硬化促進剤を5〜10質量部含有させても良い。
【0064】
施工現場において塗布直前に水分散系接着剤に硬化促進剤を添加し、公知の手法により均一に撹拌混合して塗布用の最終水分散系接着剤組成物が得られる。硬化促進剤を含有させる場合、気温を配慮してその含有量を好適なものとすることができる。
【0065】
(1)及び(2)を含有する硬化促進剤
((1)と(2)の併用効果)
硬化促進剤としては、(1)の沸点が150℃以上である成膜助剤と(2)の吸水剤を併用することによって、(1)による硬化促進効果,及びシートの裏に予め積層した(A2)層との、ドライタック時の粘着性を高める効果と、(2)による、水分散系接着剤を含む層の乾燥,硬化促進効果を、ともに奏することができるという点で好ましい。
【0066】
(併用時の(1)の成膜助剤の含有量)
成膜助剤は、硬化促進剤全量に対し一般的に40〜75質量%が好ましく、更には45〜70質量%とするのが好適である。
【0067】
(併用時の(2)の吸水材の含有量)
(2)の吸水剤の含有量は、最終的には、水分散系接着剤中の水分量との関係で決定することが好ましいが、硬化促進剤中の含有量としては、(1)との併用の場合に限らず、上記した通り、通常20〜50質量%が良く、さらには25〜45質量%とするのが好適である。
【0068】
((硬化促進剤の製造方法))
(1)や(2)の硬化促進剤の製造方法としては、吸水剤,成膜助剤,必要によりプロセスオイル,増粘剤,充填剤等の各成分を配合し、一般的な撹拌装置を用いた手法により混合、撹拌する方法等が挙げられる。
【0069】
〈(A1)層の構成成分:その他の構成成分〉
本発明の(A1)層としては、上記の水分散系接着剤を、そのまま用いることも可能であるが、その接着性を阻害しない範囲で、適宜、他の接着剤や、溶剤,各種の添加剤等を含有させても良い。
例えば、(A1)層の上に、直接又は下記(A2)層を介して積層される「遮水性を有するシート」が、アスファルト系のシートである場合には、アスファルトシートとの接着性の向上のため、アスファルト成分を含有していても良い。
【0070】
〈(A1)層の効果〉
本発明で用いられる水分散系接着剤を含む(A1)層を用いることで、溶剤系の接着剤のようにポリスチレン系発泡体を溶解・変形させること無く、後述の遮水性を有するシート等にも、短時間で容易に結合することができる。
【0071】
また、本発明で用いられる水分散系接着剤を含む(A1)層には、その上に、(A2)層を介して遮水性を有するシートを積層する場合に、(A2)層の接着剤の軟化を促進して、ポリスチレン系発泡体とシートの良好な初期接着強度を確保するという効果も有している。
【0072】
更に、この水分散系接着剤を含む層を用いれば、接着剤層とポリスチレン系発泡体との間に、更にプライマー層等を塗布する必要が無いため、接着作業が容易であるという利点も有している。
但し、本発明の積層体において、ポリスチレン系発泡体と(A1)層との間にプライマー層を積層することを排除するものでは無い。
【0073】
〈(A1)層の積層量〉
(A1)層の積層量としては、0.05〜0.5kg/m2程度が好ましく、更に好ましくは、0.1〜0.3kg/m2である。
【0074】
〈(A1)層の積層方法〉
(A1)層を積層する方法としては、公知の方法が挙げられ、刷毛やローラ等による塗布,スプレー散布等が挙げられる。
(A1)層の積層は、ポリスチレン系発泡体に積層しても良いが、(A1)層に、更に遮水性を有するシートを積層する場合には、先にシートの方に、(A1)層を積層した後に、直ちにポリスチレン系発泡体に積層しても良い。
また、(A1)層を、ポリスチレン系発泡体に、遮水性を有するシートに、(A1)層またはその他の接着性を有する層を積層し、各々塗布後、施工現場において、ドライタック等によって積層しても構わない。
【0075】
《本発明の積層体に用いられる遮水性を有するシート》
本発明の積層体に用いられる遮水性を有するシートは、(A1)層の、ポリスチレン系発泡体と接していない側の上に、直接又は下記(A2)層を介して積層されている。
【0076】
〈遮水性を有するシート〉
((遮水性を有するシートの種類))
本発明の積層体に用いられる遮水性を有するシートとは、エチレンプロピレンジエンゴム(以下、EPDMと省略する),ブチルゴムまたはクロロスルフォン化ポリエチレン等の防水性を有するJIS A6008合成高分子系ルーフィングシートで規定される加硫ゴムシートのほか、有機天然繊維を主原料とした原紙,あるいは有機合成繊維を主原料とした不織布に、アスファルト,又は合成ゴムや樹脂等により改質されたアスファルトを含浸,塗覆した、アスファルトルーフィング(アスファルトを用いた防水シート)等が挙げられ、厚みは特に制限されないが、例えば約1〜3mm程度の厚みのものが好適に用いられる。
【0077】
尚、アスファルトルーフィングとしては、JIS A 6022に規定されるストレッチアスファルトルーフィングフェルト,あるいはJIS A 6013に規定する改質アスファルトルーフィングシート等を挙げることができる。
【0078】
((遮水性を有するシートの効果))
この遮水性を有するシートは、積層体を敷設後に、積層体の外部からの水分を遮断し、敷設面に防水性能を付与するとともに、断熱材であるポリスチレンの湿気を防止することによって、ポリスチレンの変形を防止する効果をも有している。
【0079】
((遮水性を有するシートの積層方法))
また、遮水性を有するシートを(A1)層の上に積層する方法としては、
(1)ポリスチレン系発泡体の表面に(A1)層を積層した後、直ちに遮水性を有するシートを積層する方法
(2)施工現場に運ぶ前に、工場内などで予めシートの下地面側に、接着剤を含む(A2)層を塗布・乾燥した後、ポリエチレン等のフィルムを積層してロール状に巻き取ったもの(プレコートシート)を、施工現場において、ポリスチレン系発泡体表面に積層された(A1)層上に、フィルムが付いたまま仮置きし、位置あわせをした後にフィルムを剥がして張付け、ゴムローラー等の器具を用いて転圧する(ドライタック)ことによって、(A1)層と(A2)層を、なじませることによって、積層する方法
(3)ポリスチレン系発泡体では無く、シート側に(A1)層を積層し、直ちにポリスチレン系発泡体上に積層する方法
等があり、その積層順や積層方法は特に限定されないが、(2)が好ましい。
【0080】
尚、(1)や(3)の方法の場合には、乾く前の接着剤から蒸発する水蒸気による、シートの膨れ(浮き)等の問題が生じ難いと言う観点から、遮水性を有するシートとして、アスファルトを含むものを用いることが好ましい。
【0081】
〈(A2)層〉
(((A2)層の種類))
(2)の場合に、必要に応じてシートに予め塗布しておく(A2)層には、(A1)層と同じ水分散系接着剤を用いても良いが、その他の水分散系接着剤あるいは、一般の溶剤系接着剤も使用できる。
尚、「遮水性を有するシート」が、アスファルト系のシートである場合には、アスファルトシートとの接着性の向上のため、アスファルト成分を含有していても良い。
【0082】
(A2)層の場合に溶剤系の接着剤でも使用できるのは、(A1)層と違って、ポリスチレン系発泡体側に直接積層されないため、ポリスチレンの溶解の心配が無いためと、(A2)層は、フィルムを積層する前に乾燥させるため、ポリスチレンを溶解する有機溶剤は、既に揮散しているからである。
【0083】
尚、溶剤系の場合、早期に乾燥,硬化するという利点があるが、水分散系の場合、有機溶剤を使用しないかあるいは、使用した場合でも、硬化促進剤として一部に含有させる程度であるため、作業時の有機溶剤の吸い込みが少ないという点で好ましい。
【0084】
(((A2)層の積層量))
(A2)層の積層量としては、0.03〜2.0kg/m2程度が好ましく、更に好ましくは、0.05〜1.0kg/m2である。
【0085】
(((A2)層の積層方法))
(A2)層を遮水性を有するシートに積層する方法としては、公知の方法が挙げられ、刷毛やローラ等による塗布,スプレー散布等が挙げられるが、刷毛やローラ等による塗布が好ましい。
(A2)層の積層後、直ちに(A1)層に積層しない場合には、乾燥させ、ポリエチレンフィルム等で被覆し、ロール状に巻き取って、施工現場まで運ぶ。
【0086】
(((A2)層の効果))
本発明のポリスチレン発泡体側に積層する(A1)層が、硬化促進剤として上述の(1) 沸点が150℃以上である成膜助剤を用いている場合には、この一旦乾燥させた(A2)層中の接着剤の軟化を促進して、ポリスチレン系発泡体とシートの良好な初期接着強度を確保するという効果も有している。
【0087】
《本発明の積層体に用いられる仕上材層》
〈仕上材の種類〉
本発明の積層体に用いられる仕上材層とは、塗料等の水系エマルジョン等の仕上材を含む層である。
太陽等の熱を遮断するためには、仕上材としては、具体的には、シルバー,グレー,ライトグレー等の塗料が好ましいものとして挙げられる。
仕上材に含有される、着色のための色素・顔料としては、公知のものを用いることができるが、例えばシルバーには、アルミ粉末等が用いられる。
【0088】
仕上材層に含まれる仕上材としては、公知の塗料等を用いることができ、例えば、GXカラー(岩尾株式会社製)等として、購入することができる。
【0089】
尚、この仕上材層には、上記の仕上材の効果を阻害しない範囲で、いわゆる仕上材に含まれる成分以外にも、他の成分を含有させることができる。
【0090】
〈仕上材層の積層量〉
仕上材層の積層量としては、0.15〜1.0kg/m2程度が好ましく、更に好ましくは、0.25〜0.6kg/m2である。
【0091】
〈仕上材層の積層方法〉
仕上材層を積層する方法としては、公知の方法が挙げられ、刷毛やローラ等による塗布,スプレー散布等が挙げられるが、ローラによる塗布が好ましい。
積層は、遮水性シートの(A1)層と接していない側の上に積層する。
【0092】
〈仕上材の効果〉
この仕上材層は、遮水性を有するシートの外側にあって、シートを保護し、耐候性を向上させる,シートの防水性能を向上させる等の役割を果たす層であり、遮水性を有するシートの防水性能を向上させるほか、太陽等外部からの熱を遮断し、積層体の温度を適切な範囲にコントロールし、ポリスチレンの変形を防止する効果がある。
【0093】
特に、仕上材層を、シルバー,グレー,ライトグレー等の色調の塗装とすることによって、断熱効果を高め、ポリスチレンの劣化を防ぐことができる。
また、外部からの昇温を防ぐことで、ポリスチレンの温度を70℃以下の好ましい状態に容易に保つことができるため、ポリスチレンの変形(あばれ)等のリスクが、特に低くなるという利点がある。
また、この仕上材層は、遮水性を有するシートの保護材としての役割も果たしている。
【0094】
《本発明の積層体に用いられる(B)層》
本発明の積層体の(B)層は、ポリスチレン系発泡体を、コンクリート等の敷設面に結合させるためのものである。
【0095】
〈(B)層の構成成分:接着剤〉
これらは樹脂エマルジョン単独として、また熱で溶融したアスファルトと混合したゴムアスファルトエマルジョンとした組成物としても良い。例えば、スチレン/ブタジエン共重合体エマルジョン(以下、SBRエマルジョンと省略)と溶融アスファルトとを既知の手法により混合してなる改質アスファルトエマルジョンが挙げられ、概ね、SBRエマルジョン100質量部(固形分)と加熱溶融したアスファルト100〜1200質量部とを乳化剤と分散剤との存在下で混合撹拌して得られる。その際樹脂エマルジョンとアスファルトの合計質量部に対して含有水量が8〜45%としたものが好適である。
中でも エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョンや、スチレン/ブタジエン共重合体エマルジョン系合成樹脂を過熱溶融したアスファルトとして得られる防水組成物が好適である。
【0096】
〈(B)層の構成成分:他の成分〉
このB層には、B層に含まれる接着剤の効果を阻害しない範囲で、適宜、公知の添加剤を含有させることができる。
【0097】
〈(B)層の効果〉
(B)層は、防湿塗膜を形成し、コンクリート等の、積層体敷設面からの湿気を防止し、ポリスチレン系発泡体の断熱性能の低下を防止する役割を果たす。
【0098】
〈(B)層の積層量〉
(B)層の積層量は、積層体敷設面の凹凸等の程度によって変化し、一概には言えないが、例えば、0.1〜3kg/m2程度が好ましく、更に好ましくは、0.2〜1.0kg/m2である。
【0099】
〈(B)層の積層方法〉
(B)層を積層する方法としては、公知の方法が挙げられ、刷毛やローラ等による塗布,スプレー散布等が挙げられる。
積層は、ポリスチレン系発泡体に積層しても良いが、予め、敷設面あるいは、敷設面に塗布したプライマー層(後述)の上に、(B)層を塗布してから、ポリスチレン系発泡体を積層するのが、後述の様に、(B)層の厚みによって、敷設面の凹凸を吸収できるため好ましい。
また、(B)層を、ポリスチレン系発泡体と、設面あるいは、敷設面に塗布したプライマー層(後述)の両方に塗布後、積層しても構わない。
【0100】
ここで、積層体の敷設面,ポリスチレン系発泡体の表面,あるいは後述のプライマー層の上に、(B)層を積層する方法としては、公知の方法が採用でき、刷毛やローラ等による塗布,スプレー散布等が挙げられるが、角目鏝,櫛目鏝等で山谷が生じるように塗布すると、少量で(B)層にある程度の厚みを持たせることができ、敷設面の凹凸による面のバラツキを吸収することができるため好ましい。
【0101】
尚、図1で記載したように、ポリスチレン系発泡体を押しつけることで、(B)層の山の部分が潰れて拡がり、ポリスチレン系発泡体の裏面に、防湿塗膜を形成することができる。
【0102】
この時の、ポリスチレン発泡体の(B)層による防湿塗膜の被着面の割合は、(B)層を積層するポリスチレン系発泡体の面積に対して、15%以上あることが好ましく、更に好ましくは、18%以上,特に好ましくは20%以上である。
【0103】
この割合で均一に積層されていると、基準風速(例えば最大風速46m/sec)を基に算出する風荷重にも耐え、積層後に剥がれにくいという利点があるからである。
【0104】
《本発明の積層体に用いられるプライマー層》
本発明の積層体に用いられるプライマー層とは、本発明の積層体を敷設する対象であるコンクリート等の、ホコリ等の汚れの除去効果に加えて、コンクリート等に、(B)層等の接着剤が吸い込まれてしまい、多量の接着剤を必要とするのを防ぐ効果を奏するプライマー組成物を含む層であり、具体的には、下記のようなもの等が挙げられる。
【0105】
〈プライマー組成物の種類〉
プライマー組成物の主成分は、接着剤と同様に、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、天然ゴムなどのゴムラテックスや、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニルなどの合成樹脂エマルジョンが使用でき、ゴムラテックス等は、カルボキシル変性を行ったものを用いることによって水系プライマーの耐水性、樹脂自体の機械的強度が向上して安定したプライマー層が形成できる。
【0106】
〈プライマー層中の他の成分〉
また、プライマーの塗布、乾燥後の初期接着性を補うために、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂などを乳化してラテックス化したタッキファイヤーが、通常、固形分が40〜60質量%であるゴムラテックスまたは合成樹脂エマルジョン100重量部に対し固形分濃度45〜65質量%のものを30〜70重量部程度配合される。このタッキファイヤーの配合比率は、接着剤の場合よりも多いが、プライマーは接着剤に比べて固形分を低くし塗布下地中への浸透を目的していることから、乾燥後の塗布表面の粘着付与性が低下するのを防ぐためである。
【0107】
〈プライマー組成物の濃度〉
さらに、プライマー組成物に要求される性能として、下地への塗れ性の確保や塗布作業性がある。このため、プライマー組成物においては、上記の配合物の水分以外に溶媒としての水を追加し、その固形分濃度を15〜40%程度に調整するのが好ましい。
【0108】
なお、本発明において、プライマー組成物も水系であるため、乾燥速度が遅いが、接着剤組成物よりも固形分濃度が低いため、高沸点の成膜助剤を含有させなくても、表面皮膜が形成されるという事態は起こりにくい。しかし、固形分濃度が比較的高い場合に、高沸点の成膜助剤を含有させることで、均一な乾燥/成膜を促進してもよい。
【0109】
〈プライマー層の積層量〉
プライマー層の積層量としては、0.1〜0.4kg/m2程度が好ましく、更に好ましくは、0.2〜0.4kg/m2である。
【0110】
〈プライマー組成物の積層方法〉
プライマー層を積層する方法としては、公知の方法が挙げられ、刷毛やローラ等による塗布,スプレー散布によって行われる。
プライマー層は、ポリスチレン系発泡体に積層した(B)層の上に積層することも不可能では無いが、そもそもプライマー層の役割は、(B)層等の接着剤を含む層が、コンクリート等の敷設対象に染み込んでしまうのを防ぎ、少量で接着剤本来の役割を果たさせることにあるという点からは、プライマー層を本発明の積層体を敷設する対象に予め積層しておいてから、本発明の積層体を、(B)層を介して積層するのが好ましい。
【0111】
《本発明の積層体の積層方法》
尚、本発明の積層体は、敷設前に、積層体として一体化したものとして用いるほか、敷設対象に順次、積み重ねるようにして敷設しても良く、また、積層体の層の一部だけを予め一体化したものを用いることもでき、敷設する対象や、敷設工事の状況等によって、随時選択することが可能である。
【0112】
また、本発明の積層体には、このほか、更に別の層を積層して用いることも可能である。
【0113】
[本発明の断熱シート]
本発明の断熱シートは、上述の本発明の積層体を、構成部材として含むことを特徴とするものである。
本発明の積層体を、そのまま断熱シートして用いても良く、更に他の断熱部材等を積層して、本発明の断熱シートとすることもできる。
【0114】
断熱シートの構成部材として、遮水性を有するシートが積層された本発明の積層体を用いる場合には、断熱性に加えて、更に高度の防水性をも兼ね備えた、極めて、有用な断熱シートとすることができる。
【0115】
《本発明の積層体の効果》
この、本発明の積層対を構成部材として含む断熱シートは、断熱性が高く、敷設後の断熱性の経時劣化も少なく、ポリスチレン系発泡体からのシートの剥がれや変形のおそれも無いという、従来のポリエチレン系の断熱材に無い、極めて優れた性能を有するものである。
【0116】
[本発明のポリスチレン系発泡体の敷設方法]
本発明のポリスチレン系発泡体の敷設方法は、適用対象に対し、(B)層または、(B)層に積層したプライマー層の面が接触するように、上述の本発明の積層体又は断熱シートを敷設することを特徴とするものである。
【0117】
この敷設の順序は、積層体の製造方法と同様、敷設前に積層体や断熱シートとして一体化したものを、一度に敷設する方法のほか、敷設対象に順次、積み重ねるようにして敷設しても良く、また、積層体の層の一部だけを予め一体化したものを用いることもでき、敷設する対象や、敷設工事の状況等によって、随時選択することが可能である。
【0118】
敷設する面に凹凸等があり、敷設面が不均一面となっている場合には、プライマー層及び/又は(B)層を予め塗布することが好ましく、特に、(B)層を、角目鏝,櫛目鏝等で山谷が生じるように塗布すると、(B)層にある程度の厚みを持たせることができ、敷設面の凹凸による面のバラツキを吸収することができ、また(B)層の塗布量を容易にコントロールできるため好ましい。
【0119】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限られるものでは無い。
【実施例】
【0120】
[実施例1]
沸点が150℃以上である成膜助剤を含む水分散系接着剤を含む層による、ポリスチレンフォーム溶解の有無を調べるため、下記表1の組成の、実施例1の水分散系接着剤を製造した。
尚、以下の試験例では、実施例1の水分散系接着剤そのものを、本発明の積層体の(A1)層として使用した。
【0121】
【表1】

【0122】
*1(商品名:スカイプレンラテックスGFL−820,東ソー社製)
*2(商品名:スーパーエステルE730−55,荒川化学社製)
*3(商品名:アデカノールUH-420,旭電化社製)
*4(商品名:CS-16,チッソ社製,沸点280℃)
【0123】
上記実施例1の水分散系接着剤を積層する対象として、下記のポリスチレン系発泡体を使用した。
【0124】
ポリスチレンフォーム
JIS A9511発泡プラスチック保温材の、A種押出し法ポリスチレンフォーム保温材A-XPS-B-3bの、スキン層有り、スキン層無し、両方のタイプ。
【0125】
[比較例1]
上記で用いた高沸点溶剤自体を、比較例1の接着剤とした。
【0126】
[試験例1:ポリスチレン溶解性試験]
比較例1の接着剤5gを直接ポリスチレンフォーム上に載せて溶解の有無を確認した。
次にポリスチレンフォーム上に上記実施例1の水分散系接着剤を300g/m2はけ塗りし、指触乾燥の後ポリフィルムを接着剤面に押し当て、さらに断熱材ごと密封して、試験体とした。
これを、室温、80℃雰囲気下でそれぞれ30日間放置。その後取り出して、ポリフィルムを剥がして、断熱材の溶解の有無を確認した。結果を表2に示した。
【0127】
【表2】

【0128】
表2から、高沸点溶剤単独で用いた場合には、ポリスチレンフォームを溶解してしまうものの、高沸点溶剤を含有する水分散系接着剤は、ポリスチレンを溶解せず、ポリスチレン系発泡体の接着用に適用することが出来ることが分かった。
【0129】
[試験例2:ポリスチレンフォームとの接着性能確認試験]
水分散系接着剤としては、実施例1のものを使用し、ポリスチレン系発泡体も、試験例1と同じポリスチレンフォーム(スキン層有り、スキン層無し、両方のタイプ)を用い、下記の方法にて、ポリスチレン系発泡体と水分散系接着剤との接着性能を確認した。
【0130】
ポリスチレンフォーム上に、実施例1の水分散系接着剤を100g/m2はけ塗りし、指触乾燥を確認した。
【0131】
水分散系接着剤のポリスチレンフォームへの接着強さを測定するため、ポリスチレンフォーム上に積層した水分散系接着剤層((A1)層)の上に、遮水性を有するシートとして、予め(A2)層として片面にクロロプレン溶剤系の接着剤を塗布、乾燥させた、JIS A6008合成高分子系ルーフィングシート(均質シート,加硫ゴム系,1.2mm厚)の基準に適合するシートを、(A2)層が(A1)層に接するように張付け、49N/100mmの荷重で1往復転圧・積層して、試験積層体を作成した。
【0132】
室温、又は80℃雰囲気下で所定期間養生し、試験体幅1インチとし、引張速度200mm/minでシートを引き剥がし、接着強さを測定、併せて破壊部位を確認した。結果を表3に示す。
【0133】
【表3】

【0134】
表3から分かる通り、シートが剥がれるよりも先に、破壊が断熱材自身で生じていた。
つまり、実際の接着強さは、測定値よりも大きくなるはずであり、この事を考え合わせると、実施例1の水分散系接着剤と、ポリスチレン系発泡体との接着が、極めて良好なことが分かる。
【0135】
[試験例3:構成体の下地接着強さと安定性確認]
(試験方法)
25cm×50cm、厚さ5mmのスレート上に、以下の仕様で本発明の積層体を積層した。
ポリスチレンフォームの張付けは、25cm×25cm、厚さ50mmを2枚隣り合わせに、アスファルト成分含有水分散系接着剤を含む(B)層を、櫛目鏝により、ポリスチレンフォームの下地側接着面の被覆割合を変えて張り付け、接着強さ実施例の試験体とした(下記表4の積層体仕様:(i)〜(iii))。
【0136】
室温で7日間養生後、接着試験を、オックスジャッキ株式会社製建研式引張試験機により測定した。
【0137】
さらに断熱材上に接着剤(A1)層、遮水性を有するシート(防水シート)、仕上材層を順次積層し(下記表4の積層体仕様:(iv)〜(vi))、本発明の積層体を得た。
この積層体の断面図を、図1に示す。
【0138】
この積層体の周囲を全てエポキシ樹脂でシールした後、水中に半浸漬し、50℃雰囲気下で30日間処理を行って、状態を観察し、形状の安定性を評価した。
【0139】
尚、防水シートの積層は、試験例2の場合と同様、予め(A2)層として片面にクロロプレン溶剤系の接着剤を塗布、乾燥させたシートを用い、(A2)層が(A1)層に接するように張付け、49N/100mmの荷重で1往復転圧することによって、行った。
【0140】
【表4】

【0141】
同時に、ポリスチレンフォームを施工面に積層するための接着剤として、(B)層の代わりに、屋内の使用で実績の豊富な、石膏を適当量の水を配合して接着剤としたものを使用し、これを比較例とした。
【0142】
結果を表5に示す。
【0143】
【表5】

【0144】
尚、表中の評価は、下記の基準により行った。
【0145】
*接着性能
◎・・・良好(ポリスチレンフォーム層破壊)
×・・・不良(接着剤/ポリスチレンフォーム層破壊)
【0146】
*安定性能
◎・・・良好
○・・・若干変形有るが使用可能
×・・・変形大、使用不可
【0147】
表5の結果より、下地接着強さは、ポリスチレンフォームの接着剤(B)による被着割合が20%を超えると、ポリスチレンフォーム自身の破壊となり、十分な接着性能が得られる。
また、形状安定性は、20%で若干水分の影響を受け、外観上微かに変形が見られるが実用上問題は無い。
30%を超えると全く変形が無いことが分かる。
【0148】
一方で、比較例の、接着剤(B)に石膏を用いて張り付けたものは、被着割合に拘わらず接着性能は十分であるが、石膏を通じてポリスチレンフォーム中に水分が移行し、変形が生じるため、適用できないことが分かった。
【0149】
[試験例4:耐風圧試験]
尚、試験例3の接着剤(B)層の接着面積が20%の場合について、国土交通省で定めた風荷重(揚力)の算出式に基づき、接着強度の計算を行うと、46メートル毎秒で最も基準風速の大きい沖縄地区の基準(下記表6)を上回る接着強度0.22を示し、本発明による構成体は、高さ50mの建物にも適用しうる下地固定強度を有していることが分かった。
【0150】
【表6】

【0151】
国土交通省による基準風荷重(揚力)値
沖縄地区 基準風速 46m/秒
【0152】
なお、(A1)の水分散系接着剤として、実施例1の「沸点が150℃以上である成膜助剤を含む水分散系接着剤」に換えて、「(1)の成膜助剤及び(2)の吸水剤を含む水分散系接着剤」を使用した場合にも、ポリスチレンの溶解も無く、良好な接着性を発揮し得ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の積層体や断熱シートは、建築物の、屋根,ベランダ,壁面,床等の、断熱性の付与に利用することができる。また、遮水性を有するシートを積層した積層体や断熱シートの場合には、このほかにも、地下鉄の周壁,トンネルの壁面その他に、防水性を付与する際にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の積層体の一態様の、断面図を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系発泡体を構成部材として含む積層体であって、ポリスチレン系発泡体に、下記(A1)層が積層されていることを特徴とする、積層体。
(A1)水分散系接着剤を含む層
【請求項2】
水分散系接着剤が、硬化促進剤を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
硬化促進剤が、下記(1)及び/又は(2)を含有するものであることを特徴とする、請求項2に記載の積層体。
(1)沸点が150℃以上である成膜助剤
(2)吸水剤
【請求項4】
(A1)層の、ポリスチレン系発泡体と接していない側の上に、直接又は下記(A2)層を介して、遮水性を有するシートが積層されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の積層体。
(A2)接着性を有する層。
【請求項5】
遮水性を有するシートの、(A1)層と接していない側の上に、更に仕上材層が積層されていることを特徴とする、請求項4記載の積層体。
【請求項6】
ポリスチレン系発泡体表面の、(A1)層が積層されている面と反対側の面に、下記(B)層が更に積層されていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の積層体。
(B)アスファルト成分含有水分散系接着剤を含む層
【請求項7】
(B)層のポリスチレン系発泡体と接していない側の面に、更に、プライマー層が積層されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の積層体を構成部材として含むことを特徴とする、断熱シート。
【請求項9】
敷設面に対し、(B)層または、(B)層に積層したプライマー層が接触するように、請求項1乃至8のいずれかに記載の積層体又は断熱シートを敷設することを特徴とする、ポリスチレン系発泡体の敷設方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−273123(P2008−273123A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121981(P2007−121981)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(597176245)岩尾株式会社 (3)
【Fターム(参考)】