説明

積層型インダクタ素子の製造方法

【課題】添加剤の添加や組成変更を行わずに、応力緩和を実現する積層型インダクタ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックグリーンシート毎に第1の貫通孔を形成し、第1の貫通孔に樹脂ペーストを充填する。次に、樹脂ペーストで充填された第1の貫通孔の内部に、第1の貫通孔よりも径の小さい第2の貫通孔を形成し、第2の貫通孔に導電性ペーストを充填する。そして、各セラミックグリーンシートを積層して仮圧着し、焼成する。第1の貫通孔内の樹脂ペーストは、焼成により焼失されるため、第1の貫通孔内の銀ペースト周囲が空洞になる。あるいは、樹脂ペーストが焼失しなくとも、当該樹脂が応力緩和剤として機能するため、応力が緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のセラミックグリーンシートを積層してなる積層体内部にコイルパターンを形成してインダクタを構成した積層型インダクタ素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ビアホールを形成して層間接続を行うセラミック積層体では、焼成時の熱収縮に応じて発生する応力によって、積層体に亀裂が生じ、断線や短絡等により電気的接続が取れなくなる場合があった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されているような対策がなされている。特許文献1では、タングステン等の無機空孔形成材を添加することで、応力緩和を行う旨が記載されている。特許文献2では、ビアホール近傍領域のセラミックのホウ素含有量を多くすることで、ボイド率を低くした領域を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−176236号公報
【特許文献2】特開2009−32935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の応力緩和策は、いずれも導電性ペーストに応力緩和剤を添加する、あるいはセラミックの組成を変更するという手法である。
【0006】
そこで、この発明は、添加剤の添加や組成変更を行わずに、応力緩和を実現する積層型インダクタ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層型インダクタ素子は、磁性体を含むセラミックグリーンシート上にコイルパターンを形成して積層した素子であり、以下の工程で製造される。
【0008】
(1)前記セラミックグリーンシートに第1の貫通孔を形成する工程
(2)前記第1の貫通孔に第1のペーストを充填する工程
(3)前記第1のペーストを充填後、前記第1の貫通孔より径の小さい第2の貫通孔を前記第1のペーストが充填されている箇所に形成する工程
(4)前記第2の貫通孔に、導電性を有する第2のペーストを充填する工程
(5)前記第2の貫通孔と電気的に接続するコイルパターンを前記セラミックグリーンシート上に形成する工程と、
(6)前記セラミックグリーンシートを積層し、前記コイルパターンの一端を前記第2のペーストと電気的に接続することで層間接続を行い、インダクタが内部に形成された積層体を作成する工程
(7)前記積層体を焼成する工程
このように、第1の貫通孔内に第1のペースト(例えば樹脂ペースト)を充填し、さらに第1のペーストを充填した後に、第1の貫通孔よりも径の小さい第2の貫通孔を形成して第2のペースト(例えば銀ペースト)を充填することで、第1の貫通孔内の外側に樹脂が充填され、内側に銀ペーストが充填されることになる。そして、セラミックグリーンシートを積層して焼成すると、樹脂ペーストは焼失するため、第1の貫通孔内の銀ペースト周囲が空洞になる。あるいは、樹脂ペーストが完全に焼失しなくとも、当該樹脂ペーストが応力緩和剤として機能する。したがって、焼成時の熱収縮率の差による応力がなくなる、または緩和され、積層体に亀裂が生じるおそれがなく、電気的接続が断線するおそれがなくなる。
【0009】
特に、本発明の積層型インダクタ素子では、磁性体のグリーンシート毎に貫通孔を形成して外側に樹脂ペースト、内側に銀ペーストを充填してから積層し、焼成する態様であるため、非常に硬い磁性体(フェライト)を含むセラミックグリーンシートを加工して製造する場合に好適である。
【0010】
なお、第1の貫通孔の内壁に樹脂ペーストを塗布し、第1の貫通孔内の全てを樹脂ペーストで埋めるのではなく、中央部に孔(第2の貫通孔)が残るようにすることでも上記と同様の構造を実現することができる。
【0011】
また、第2のペーストの熱収縮率は、セラミックグリーンシートの熱収縮率と第1のペーストの熱収縮率の中間であることが望ましい。
【0012】
また、本発明の積層型インダクタ素子は、積層体を焼成した後に、当該積層体に樹脂を含浸させることが望ましい。この場合、第1のペーストが焼失して空洞になった箇所に樹脂を再度充填することになり、強度が向上する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、添加剤の添加や組成変更を行わずに、応力緩和を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(A)は、積層型インダクタ素子を構成する一部のセラミックグリーンシートの上面を示した図であり、図1(B)は、積層型インダクタ素子の一部縦断面図である。
【図2】積層型インダクタ素子の製造工程を示す図である。
【図3】積層型インダクタ素子の製造工程を示す図である。
【図4】樹脂を含浸させる場合の積層型インダクタ素子の製造工程を示す図である。
【図5】樹脂を含浸させる場合の積層型インダクタ素子の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(A)は、本発明の実施形態に係る積層型インダクタ素子1を構成する一部のセラミックグリーンシート2の上面を示した図である。図1(B)は、同積層型インダクタ素子1の一部縦断面図である。図1(B)の縦断面図は、紙面上側を積層型インダクタ素子1の上面側とし、紙面下側を積層型インダクタ素子1の下面側とする。
【0016】
本実施形態の積層型インダクタ素子1は、複数のセラミックグリーンシート2が積層されてなる積層体にコイルパターン11を形成し、積層方向に接続したインダクタを構成したものである。この積層型インダクタ素子1にICやコンデンサ等を接続すれば、当該インダクタ1をチョークコイルとして用いることで、DC−DCコンバータを実現することができる。
【0017】
図1(A)および図1(B)に示す積層型インダクタ素子1は、ブレイク前のマザー積層体を示すものである。マザー積層体は、出荷先で所定寸法のチップにブレイクされる。図1(A)および図1(B)においては、隣接する4つのチップについてブレイク前のマザー積層体を示すが、実際にはさらに多数のチップが並んでいる。
【0018】
図1(A)に示すように、積層体を構成する一部のセラミックグリーンシート2の上には、コイルパターン11が形成されている。コイルパターン11は、ループ状に銀ペーストが塗布されることにより形成される。コイルパターン11の一端は、ビアホール21を介して他層のセラミックグリーンシート2上のコイルパターン11の他端(以下、端部12と言う。)と電気的に接続される。したがって、各セラミックグリーンシート2のコイルパターン11は、積層体の積層方向を軸としてらせん状に接続され、インダクタを構成することになる。
【0019】
ビアホール21は、以下の工程により形成される。図2は、積層型インダクタの製造工程のうち、主にビアホール21を形成する工程を示す図である。まず、図2(A)に示すように、セラミックグリーンシート毎にレーザで第1の貫通孔が形成される。第1の貫通孔の形状は、図中の円形に限らず、矩形や半円形等、他の形状であってもよい。
【0020】
なお、積層型インダクタ素子の製造工程としては、最初にセラミックグリーンシートを用意して、セラミックグリーンシート毎にコイルパターン11を形成し、その後同図(A)の第1の貫通孔形成工程が行われる。第1の貫通孔は、各セラミックグリーンシート上のコイルパターン11が形成されている箇所(上述のコイルパターン11の一端が存在する箇所)に下面側から形成される。第1の貫通孔は、レーザで形成されるため、コイルパターン11の金属層は残ることになる。なお、コイルパターン11の形成は、ビアホール21を形成した後であってもよい。コイルパターン11を後で形成する場合、第1の貫通孔は、下面側からでも上面側からでも形成することができる。
【0021】
次に、図2(B)に示すように、第1の貫通孔に樹脂ペーストが充填される。樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂、ポリメタクリレート系の樹脂、あるいはこれらの複合物からなる。樹脂ペーストの熱収縮率は、セラミックグリーンシート2の熱収縮率とビア電極となる導電性ペースト(銀ペースト)の熱収縮率との中間であることが望ましい。
【0022】
次に、図2(C)に示すように、樹脂ペーストで充填された第1の貫通孔の内部に、第1の貫通孔よりも径の小さい第2の貫通孔が形成される。第2の貫通孔もレーザで形成される。第2の貫通孔についても図中の円形に限らず、矩形や半円形等、他の形状であってもよい。
【0023】
そして、図2(D)に示すように、第2の貫通孔に導電性ペースト(銀ペースト)が充填される。コイルパターン11の形成は、この導電性ペーストの充填工程の後に行われる。これにより、第1の貫通孔内の外側に樹脂が充填され、内側に銀ペーストが充填されることになる。
【0024】
その後、図2(E)に示すように、各セラミックグリーンシートが積層され、仮圧着される。このとき、導電性ペーストが各層のコイルパターン11の端部12と接触して電気的に接続されるように積層することで、ビアホール21における層間接続(電気的導通)が行われる。以上のようにして、焼成前のマザー積層体(生の積層体)が形成される。
【0025】
最後に、図2(F)に示すように、マザー積層体が焼成される。このとき、第1の貫通孔内の樹脂ペーストは、焼成により焼失されるため、第1の貫通孔内の銀ペースト周囲が空洞になる。したがって、セラミックと銀ペーストが接触することがなくなり、熱焼成時の熱収縮率の差による応力が発生することがなくなる。
【0026】
あるいは、樹脂ペーストが焼失しなくとも、樹脂ペーストの熱収縮率がセラミックの熱収縮率とビア電極となる銀ペーストの熱収縮率との中間である場合、当該樹脂ペーストが応力緩和剤として機能するため、応力が緩和される。
【0027】
よって、本実施形態の積層型インダクタ素子は、焼成時に積層体に亀裂が生じるおそれがなく、ビアホール21とコイルパターン11との電気的接続が断線するおそれがなくなる。
【0028】
特に、上述の様な製造方法では、セラミックグリーンシート毎に貫通孔を形成して外側に樹脂ペースト、内側に銀ペーストを充填し、その後積層して焼成を行うため、誘電体グリーンシートに比べて非常に硬い磁性体(フェライト)のセラミックグリーンシートを加工して製造する素子に好適である。
【0029】
なお、本実施形態の積層型インダクタ素子は、以下の様な変形例も可能である。図3は、変形例に係る積層型インダクタの製造工程のうち、主にビアホール21を形成する工程を示す図である。まず、図3(A)に示すように、セラミックグリーンシート毎にレーザで第1の貫通孔が形成される。この場合も、第1の貫通孔の形状は、図中の円形に限らず、矩形や半円形等、他の形状であってもよい。また、この変形例においても、最初にセラミックグリーンシートを用意して、セラミックグリーンシート毎にコイルパターン11を形成し、その後同図(A)の第1の貫通孔形成工程が行われる。第1の貫通孔は、各セラミックグリーンシート上のコイルパターン11が形成されている箇所(上述のコイルパターン11の一端が存在する箇所)に下面側から形成される。第1の貫通孔は、レーザで形成されるため、コイルパターン11の金属層は残ることになる。なお、コイルパターン11の形成は、ビアホール21を形成した後であってもよい。コイルパターン11を後で形成する場合、第1の貫通孔は、下面側からでも上面側からでも形成することができる。
【0030】
そして、図3(B)に示すように、第1の貫通孔の内壁に樹脂を塗布し、第1の貫通孔内の全てを樹脂で埋めるのではなく、中央部に孔(第2の貫通孔)が残るようにする。したがって、変形例に係る第1の貫通孔は、中央部に孔を残すことができる程度の径(例えば500μm以上の径)を有する。中央部に残る孔の形状も図中の円形に限るものではない。
【0031】
その後、図3(C)に示すように、中央部の孔(第2の貫通孔)に銀ペーストが充填され、図3(D)に示すように、各セラミックグリーンシートが積層され、仮圧着される。なお、図3(C)の銀ペーストの充填の後にコイルパターン11を形成してもよい。最後に、図3(E)に示すように、マザー積層体が焼成される。この変形例においても、第1の貫通孔内の外側に樹脂が充填され、内側に銀ペーストが充填されることになるため、第1の貫通孔内の銀ペースト周囲が空洞になる。あるいは、樹脂ペーストが焼失しなくとも、樹脂の熱収縮率がセラミックの熱収縮率とビア電極となる銀ペーストの熱収縮率との中間である場合、当該樹脂が応力緩和剤として機能するため、応力が緩和される。
【0032】
次に、図4および図5は、応用例に係る積層型インダクタの製造工程のうち、主にビアホール21を形成する工程を示す図である。図4(A)から図4(F)までの工程は、図2(A)から図2(F)までの工程と同様であり、図5(A)から図5(E)までの工程は、図3(A)から図3(E)までの工程と同様であるため、説明を省略する。
【0033】
図4(G)および図5(F)に示すように、応用例に係る積層型インダクタ素子では、積層体を焼成した後に、当該積層体に樹脂を含浸させる。これにより、樹脂ペーストが焼失して空洞になった箇所に樹脂を再度充填することになり、強度が向上する。
【0034】
なお、本実施形態では、第1のペーストとして樹脂ペーストを示したが、焼成により焼失する、あるいは熱収縮率がセラミックの熱収縮率とビア電極となる銀ペーストの熱収縮率との中間であるものであればどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…積層型インダクタ素子
2…セラミックグリーンシート
11…コイルパターン
12…端部
21…ビアホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含むセラミックグリーンシート上にコイルパターンを形成して積層した積層型インダクタ素子の製造方法であって、
前記セラミックグリーンシートに第1の貫通孔を形成する工程と、
前記第1の貫通孔に第1のペーストを充填する工程と、
前記第1のペーストを充填後、前記第1の貫通孔より径の小さい第2の貫通孔を前記第1のペーストが充填されている箇所に形成する工程と、
前記第2の貫通孔に、導電性を有する第2のペーストを充填する工程と、
前記第2の貫通孔と電気的に接続するコイルパターンを前記セラミックグリーンシート上に形成する工程と、
前記セラミックグリーンシートを積層し、前記コイルパターンの一端を前記第2のペーストと電気的に接続することで層間接続を行い、インダクタが内部に形成された積層体を作成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を備えたことを特徴とする積層型インダクタ素子の製造方法。
【請求項2】
磁性体を含むセラミックグリーンシート上にコイルパターンを形成して積層した積層型インダクタ素子の製造方法であって、
前記セラミックグリーンシートに第1の貫通孔を形成する工程と、
前記第1の貫通孔の内壁に第1のペーストを塗布し、前記第1の貫通孔の中央部に当該第1の貫通孔より径の小さい第2の貫通孔が残るようにする工程と、
前記第2の貫通孔に、導電性を有する第2のペーストを充填する工程と、
前記第2の貫通孔と電気的に接続するコイルパターンを前記セラミックグリーンシート上に形成する工程と、
前記セラミックグリーンシートを積層し、前記コイルパターンの一端を前記第2のペーストと電気的に接続することで層間接続を行い、インダクタが内部に形成された積層体を作成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を備えたことを特徴とする積層型インダクタ素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1のペーストは、樹脂を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層型インダクタ素子の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックグリーンシートの熱収縮率をA、前記第1のペーストの熱収縮率をB、前記第2のペーストの熱収縮率をCとした場合に、
A<B<C
または
C<B<A
であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層型インダクタ素子の製造法方法。
【請求項5】
前記第2のペーストは、銀を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層型インダクタ素子の製造方法。
【請求項6】
前記積層体を焼成した後に、前記積層体に樹脂を含浸させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層型インダクタ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−16688(P2013−16688A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149060(P2011−149060)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】