説明

積層型膨張黒鉛シート及び積層型ガスケット

【課題】膨張黒鉛シートと離型性に優れた平面状ポリテトラフルオロエチレンとを積層して積層型膨張黒鉛シートにする際に、接着剤や粘着剤を用いることなく、膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとを確実に接合する。
【解決手段】積層型膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛シートの少なくとも一方の面に平面状ポリテトラフルオロエチレンが積層されており、前記膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとが積層界面で直接固着されている。前記平面状ポリテトラフルオロエチレンと前記膨張黒鉛シートの固着面の剥離強度は、膨張黒鉛シートの凝集破壊強度以上程度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張黒鉛シートの利用技術に関するものであり、より詳細には積層型膨張黒鉛シート及びこれを利用した積層型ガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
膨張黒鉛シートは、電極、放熱板、電子材料部品、ライニング材、ガスケットなどに利用されており、特にガスケットの分野では、石綿代替材として注目されている。しかし膨張黒鉛ガスケットは、高温で使用したときにフランジ面に強く固着して取り外しが困難になる。例えば、定期修理などでガスケットの取り外しの為に、多大な労力が払われている。また、ガスケットから膨張黒鉛屑が黒色異物として流体(製品)に混入する虞がある。
【0003】
膨張黒鉛ガスケットの離型性を高める為、例えば、特許文献1〜2には、膨張黒鉛シートの表面を離型剤や固体潤滑剤からなる被膜で覆うことが提案されている。しかし離型剤で膨張黒鉛シートを被覆する場合、離型剤と膨張黒鉛シートとの間にアルミニウムイソプロポキシドからなる結合剤を介在させる必要がある。このアルミニウムイソプロポキシドは、蒸気や熱水で腐食するとされている(特許文献2の段落0011)。一方、固体潤滑剤の場合は、結合剤を利用せず、電解合成によって膨張黒鉛シートの表面を直接被覆している。そのため腐食の虞はない。しかし電解合成による被膜形成には数時間かかるため、生産性が極めて悪い。
【0004】
また特許文献3〜4には、膨張黒鉛シートの表面に、吹き付け、塗布、ディッピングなどによってフッ素樹脂を直接付着させることが記載されている。しかし、これらの方法によって得られるガスケットは、フッ素樹脂層の付着力が弱く、装着時や使用時にフッ素樹脂層が脱落し、黒鉛屑が露出するためか、黒鉛屑が発生すると指摘されている(特許文献5の段落0008)。
【0005】
そこで特許文献5では、膨張黒鉛シートを芯材とし、この芯材を予め成形したフッ素樹脂外皮でカバーすることによって得られる包みガスケットを提案している。この芯材によれば、たとえ黒鉛屑が発生しても、外皮がガスケットの流体側を確実にカバーしているため、黒鉛屑が流体内に混入することはない。しかし特許文献5の包みガスケットでは、フッ素樹脂外皮と芯材の膨張黒鉛シートとが接着しておらず、フッ素樹脂外皮がめくれたり、よじれたりして取扱性が低い。
【0006】
特許文献6には、膨張黒鉛シートとフッ素樹脂シートとは溶着が困難であることが指摘されている。
【0007】
そこで特許文献7は、グラファイトシート(膨張黒鉛シート)を商品名「テフロンテープ」で被覆するようにしている。「テフロンテープ」としては、例えば、テープの片面をエッチング処理した後、このエッチング処理面に感圧接着剤や粘着剤を塗布したものがよく知られている。
【0008】
また特許文献8では、フッ素樹脂シートとして多孔質ポリテトラフルオロエチレンシートを用いることとし、この多孔質ポリテトラフルオロエチレンシートと膨張黒鉛シートとを接着剤で接合している。多孔質ポリテトラフルオロエチレンシートを用いれば、多孔質ポリテトラフルオロエチレンの空孔内に接着剤が浸入するため、アンカー効果によってポリテトラフルオロエチレンシートと膨張黒鉛シートとを接合できる。
【0009】
しかし接着剤や粘着剤の使用は、膨張黒鉛シートの商品価値を低減する。例えばガスケットでは、接着剤や粘着剤の耐熱性や耐薬品性によって、その利用範囲が制限される。ガスケット中の接着剤や粘着剤は、ガスケットが加熱された際に分解・消失し、接着剤や粘着剤が消失した箇所が空洞化し、浸透漏れによるシール性低下を引き起こす場合がある。また、ガスケット装着後に接着剤や粘着剤がはみ出すことによってフランジ面に強く固着して取り外しが困難になる虞がある。
【0010】
また多孔質ポリテトラフルオロエチレンをガスケットの表層に用いた場合には、多孔質ポリテトラフルオロエチレンのフランジ面に対するなじみ性(密着性)が高く、通常のポリテトラフルオロエチレン(充実ポリテトラフルオロエチレン)と比較してフランジ面との離型性が低下する。
【0011】
ポリテトラフルオロエチレンを離型性表層に備えた膨張黒鉛ガスケットは、耐熱性と耐薬品性に優れるため、石綿代替材料として有望である。しかしポリテトラフルオロエチレンが離型性に優れているが故に、膨張黒鉛シートとの接着が困難になっている。ポリテトラフルオロエチレンと膨張黒鉛シートを接着剤や粘着剤を用いることなく強固に接合した積層型膨張黒鉛シートは知られていない。
【特許文献1】特開平8−225314号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−206629号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平9−40397号公報(特許請求の範囲、0010)
【特許文献4】実開昭60−154664号公報(実用新案登録請求の範囲、第4頁第15行〜第5頁第2行)
【特許文献5】特開2005−337401号公報(特許請求の範囲、第1図)
【特許文献6】特開平6−134917号公報(特許請求の範囲、0026)
【特許文献7】特開平11−58591号公報(特許請求の範囲、0013、0015)
【特許文献8】特開平4−62042号公報(特許請求の範囲、第2頁右下欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、膨張黒鉛シートと離型性に優れた平面状ポリテトラフルオロエチレンとを接着剤や粘着剤を用いることなく確実に接合することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
フッ素樹脂の一種であるポリテトラフルオロエチレンは、離型層に使用されることからも明らかな様に、他の部材と接着又は粘着するのは極めて困難である。例えば、特許文献6でも、膨張黒鉛シートとフッ素樹脂シートとは溶着が困難であるとして、フッ素樹脂シートの使用を断念している。本発明者も、膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとを積層し、加熱板(熱プレス板)で単純にポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で熱プレスしても、膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンを直接固着することができないことを確認している。
【0014】
ところがこのような技術常識に反し、適切な方法で膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとを熱圧着すればこれらが直接固着すること、その結果、膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとを確実に接合できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明に係る積層型膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛シートの少なくとも一方の面に平面状ポリテトラフルオロエチレンが積層されたものであり、前記膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとが積層界面で直接固着している点に特徴がある。前記平面状ポリテトラフルオロエチレンはポリテトラフルオロエチレン製部材の一部又は全部であってもよく、一部である場合、平面状ポリテトラフルオロエチレンが前記膨張黒鉛シートの表面及び裏面に積層されていると共に、ポリテトラフルオロエチレン製部材が膨張黒鉛シートの表面、裏面、及び側部を連続して被覆していてもよい。また前記膨張黒鉛シートの外周をポリテトラフルオロエチレンからなる枠体で囲繞してもよく、この場合、これら膨張黒鉛シートと枠体からなる集合体の両面には前記平面状ポリテトラフルオロエチレンが積層されている。前記平面状ポリテトラフルオロエチレンと前記膨張黒鉛シートの固着面の剥離強度は、膨張黒鉛シートの凝集破壊強度以上程度である。膨張黒鉛シートは、その密度が0.7〜1.8g/cm3程度であるのが望ましい。
【0016】
本発明には、膨張黒鉛シートから構成される芯材と、平面状ポリテトラフルオロエチレンをその構成要素として有するポリテトラフルオロエチレン製部材とを有しており、これら膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとが、積層界面で直接固着していることを特徴とする積層型ガスケットも含まれる。
【0017】
本発明の積層型膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛シートの少なくとも一方の面に、多孔質又は充実構造の平面状ポリテトラフルオロエチレンと、耐熱シートとをこの順に積層し、
耐熱シート側から加圧部材を押し当てて膨張黒鉛シートとポリテトラフルオロエチレンシートとを熱圧着し、加圧部材の圧力を開放した後で、耐熱シート、膨張黒鉛シート、平面状ポリテトラフルオロエチレンからなる積層体を取り出し、該積層体から耐熱シートを引き剥がして除去することにより製造できる。前記積層体を熱圧着するに際し、積層体を加圧してから加熱を開始してもよい。また前記積層体の熱圧着後、積層体を冷却した後で、加圧部材による圧力を解放するのが望ましい。
【0018】
また本発明の積層型膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛シートの少なくとも一方の面に、多孔質又は充実構造の平面状ポリテトラフルオロエチレンを積層し、平面状ポリテトラフルオロエチレン側から加圧部材を直接押し当てて膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとの積層体を加圧してから、この積層体を加熱し、積層体の冷却前に、加圧部材による圧力を開放して積層体を取り出すことによっても製造できる。
【0019】
なお本明細書において用語「平面状ポリテトラフルオロエチレン」は、それ単独でポリテトラフルオロエチレン製部材を構成する場合の他、ポリテトラフルオロエチレン製部材の一部を指す場合もある。また本明細書において用語「シート」は厚さを限定するものではなく、「フィルム」、「膜」を含む意味で使用する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとを直接固着しているため、接着剤や粘着剤を用いることなく、膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとを確実に接合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明の積層型膨張黒鉛シートの一例を製造方法と共に示す概略断面図である。図示例では、膨張黒鉛シート20a(以後、熱プレス後の膨張黒鉛シート20bと区別するため、膨張黒鉛原シートという場合がある)と、多孔質又は充実構造の平面状ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10a(以後、熱プレス後の平面状PTFE10bと区別するため、PTFE原平面部材という場合がある)とから積層型膨張黒鉛シート1を製造している。すなわち図1(a)に示すように、膨張黒鉛原シート20aの両面に、PTFE原平面部材10aと、耐熱シート30と、プラテン(金属板)45とをこの順に積層し、プラテン45及び耐熱シート30側から加熱された加圧板(加熱板)40を押し当てて膨張黒鉛原シート20aと、PTFE原平面部材10aとを熱プレス(熱圧着)している。そして加圧板40(及び耐熱シート30、平面状PTFE(平面状充実PTFE)10b、膨張黒鉛シート20bからなる積層体50)を冷却した後で加圧板40による圧力を解放し、積層体50を取り出した後、この積層体50から耐熱シート30を引き剥がして除去することにより、積層型膨張黒鉛シート1が得られる(図1(b)、(c)参照)。
【0022】
この図1の方法(以下、第1方法と称する場合がある)において重要な点は、耐熱シートを利用している点である。耐熱シートを利用しないと、後述する例外を除き、平面状PTFE10bと膨張黒鉛シート20bとが良好な固着状態を維持した製品を得ることができない。より詳細に説明すると、耐熱シートを利用しない場合、平面状PTFE10bはプラテン45(プラテン45を使用しない場合には加圧板40)にも密着してしまう。密着とは、接着や固着とは異なり、ぴったりと付着した状態を言う。PTFEは離型性に優れているが、プラテン45や加圧板40のような凹凸のない平面に押し当てると密着する性質がある。そして上下のプラテン45(又は加圧板40)を離間させようとすると、積層体50に対して、厚み方向の引張応力と剪断応力が働き(加圧板40の場合は厚み方向の引張応力のみが働き)、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bの層間で剥離が生じるか、膨張黒鉛シート20bの破壊が生じる。これは平面状PTFE10bとプラテン45(又は加圧板40)の密着力が、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bの接合強度や膨張黒鉛シート20bの材料強度を上回っているためである。耐熱シートを利用する場合、耐熱シートと平面状PTFE10bとは密着するが、耐熱シートはプラテン45(又は加圧板40)と密着しないために積層体50を簡単に取り出すことができ、かつ耐熱シートと平面状PTFE10bとは耐熱シートの柔軟性が高いために引き剥がしによって剥離することができるため、積層体50に厚み方向の引張応力と剪断応力が働くのを防止でき、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bの層間で剥離が生じるのを防ぎながら、かつ膨張黒鉛シート20bの破壊を防ぎながら積層型膨張黒鉛シート1を得ることができる。
【0023】
耐熱シートを利用する場合、積層体50に負荷した圧力を解放してから積層体50を冷却してもよいが、前記図1に示す方法のように、積層体50を冷却してから圧力を解放するのが望ましい(以下、応用手段1という)。冷却する前に圧力を解放すると、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとの固着を全面的ではあるが一部に気泡状の隙間が生じた状態で形成できるのに対し、冷却してから圧力を開放すると膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとを全面的にかつ均一に固着することができる。
【0024】
膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとの固着のメカニズムは必ずしも明確ではないが、膨張黒鉛粒子が平面状PTFE10bにめり込んだ(圧入された)状態で平面状PTFE10bが固まったためではないかと推測される。前述した様に冷却前に圧力を解放すると、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとの固着が不均一に生じ、この界面を観察すると膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとの間に気泡状の隙間が空いていた。そこで膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材10aとを積層し、加圧してから加熱した。そうすると圧力を解放してから冷却しても膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとの間に隙間が空かず、これらを均一に(隙間なく)固着することができた。PTFE原平面部材10aは、熱により波うちを起こし易いが、加圧してから加熱することにより、PTFE原平面部材10aの波うちが抑えられ、膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材10aとの密着性が向上したため、隙間なく固着できたものと推察される。PTFEは融点以上に加熱しても樹脂の流動性が極めて低いことが知られているにも拘わらず、以上のことから前記圧入メカニズムが推定される(ただし本発明は、この推定メカニズムに限定されるものではない)。
【0025】
積層体50を熱圧着するに際しては、前記図1に示す方法のように、積層体を加圧すると同時に(又は積層体を加圧した後で)積層体を加熱してもよいが、前記推定メカニズムから明らかなように、積層体50を加圧してから加熱を開始することも望ましい手法である(以下、応用手段2という)。応用手段2(加圧後の加熱開始)を採用することによって、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとを均一に固着することができる。この応用手段2(加圧後の加熱開始)は、前記応用手段1を用いずに(冷却の前に圧力を解放して)実施してもよいし、応用手段1と共に実施してもよい。特に好ましくは応用手段1、2の片方だけ(特に応用手段1)を採用する。片方だけを採用することによって生産性の過度の低下を防止できる。
【0026】
なお本発明の積層型膨張黒鉛シートは、耐熱シートを使用しない場合であっても、例外的に製造することができる。すなわち耐熱シートを使用しない場合には、膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材10aとを積層し、PTFE原平面部材10a側から加圧部材を直接(すなわち耐熱シートを介することなく直接)押し当て、前記応用手段2(加圧後の加熱開始)を採用しつつこの積層体を熱圧着し、積層体の冷却前に、加圧部材による圧力を開放して積層体を取り出すことによって本発明の積層型膨張黒鉛シートを製造できる(以下、第2方法と称する場合がある)。応用手段2を採用することにより、PTFE原平面部材10aの波うちを抑制できる。そして波打ちを抑制しながら積層体を熱圧着した後、冷却前に圧力を解放して積層体を取り出すと、積層体がまだ熱いため平面状PTFE10bが硬化しておらず、平面状PTFE10bとプラテン45(又は加圧板40)との間の密着力が低いために、平面状PTFE10bと膨張黒鉛シート20bとの間の固着状態を維持しながら、積層体を取り出すことができる。
【0027】
膨張黒鉛原シート20aとしては、特許文献1、3などに記載されるように、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、熱分解黒鉛等の高度に結晶構造の発達した黒鉛を硫酸を含む酸化性処理液で酸処理して黒鉛層間化合物を形成し、急速加熱して膨張させた後、圧縮成形によってシート状に賦形したものが使用できる。
【0028】
膨張黒鉛原シート20aの密度は、例えば、0.7〜1.8g/cm3程度、好ましくは0.8〜1.5g/cm3程度、さらに好ましくは0.9〜1.2g/cm3程度である。密度が小さいほど、黒鉛粒子の圧入が容易になるためか、平面状PTFE10bとの接合強度が向上する。ただし密度が小さすぎると膨張黒鉛原シート20aの強度が弱くなり、製造時の取扱いが難しくなるため、下限は0.7g/cm3程度とする。
【0029】
膨張黒鉛原シート20aの厚みは特に限定されないが、例えば0.1〜5mm程度、好ましくは0.3〜4mm程度、さらに好ましくは0.5〜3mm程度である。
【0030】
PTFE原平面部材10aに使用するPTFEとしては、充実構造のPTFE(例えば、PTFEモールディングパウダーの圧縮成形品を切削して作ったシート(スカイブドPTFEシート)、PTFEファインパウダーのペースト押出成形品を延伸して得られるシート(延伸多孔質PTFEシート)を圧縮等することによって得られる緻密化ePTFEシートなど)が一般的であるが、本発明では、積層型膨張黒鉛シート1の製造過程でPTFE原平面部材10aを熱プレスするため、このPTFE原平面部材10aは多孔質構造のPTFEシート(前記延伸多孔質PTFEシート(ePTFEシート)など)であってもよい。製造コストの観点からはスカイブドPTFEシートが優れており、引張強度及び耐クリープ特性の観点や、厚みの薄いシートが製造可能な点からは一旦延伸されたPTFEシート(ePTFEシート、緻密化ePTFEシートなど)が優れている。
【0031】
なお本発明のPTFEは、焼成されたものでも、未焼成のものでも用いることができるが、強度の観点から焼成されたものが推奨される。また本発明のPTFEには、テトラフルオロエチレンと比較的少量のコモノマー(ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)など)とを共重合させた変性PTFE、無機物や有機物などの充填剤を混合した充填剤入りPTFEなどが含まれる。
【0032】
PTFE原平面部材10aの厚みは、このPTFE原平面部材10aの密度、及び得られる平面状PTFE10bの目標厚みに応じて適宜設定できる。
【0033】
耐熱シート30としては、下記熱プレス条件に対する耐久性を有し、かつ剥離操作が可能な程度の柔軟性を有する限り種々のシートが使用でき、例えば、ポリイミドシートなどの耐熱樹脂シート;アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔(SUS箔)などの金属圧延物(金属箔)などが使用できる。材料コストの観点からはアルミニウム箔が好ましい。また繰り返しの使用が可能であり、取り扱いが容易である観点からはポリイミドシートが好ましい。
【0034】
膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材10aの熱プレス条件(圧力、加熱温度、加圧加熱状態の継続時間)は、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとを接合できる限り、特に限定されない。圧力が大きくなるほど、加熱温度が高くなるほど、加圧加熱状態の継続時間が長くなるほど接合強度が高まるが、生産コストが増大するため、適当な範囲で圧力、加熱温度、及びこれらの継続時間を設定すればよい。
【0035】
圧力は、例えば、0.1〜10MPa程度、好ましくは0.5〜7MPa程度、さらに好ましくは1〜5MPa程度(特に2〜5MPa程度)の範囲から設定できる。圧力が10MPaを超えると、膨張黒鉛原シート20aが圧縮されて密度が高くなるため、得られた積層型膨張黒鉛シートをガスケットとして用いる場合には、なじみ性が低下する虞がある。
【0036】
加熱温度は、PTFE原平面部材10aが十分に軟化する範囲で設定でき、例えば、150〜350℃程度(好ましくは200〜330℃程度、特に250〜300℃程度)の範囲で設定できる。なお加熱温度は、PTFE原平面部材10aの融点未満の温度であってもよい。
【0037】
加圧加熱状態の継続時間は、例えば、0.1〜60分程度、好ましくは0.5〜30分程度、さらに好ましくは1〜10分程度の範囲から設定できる。
【0038】
熱圧着(熱プレス)としては、前記加圧板や、この加圧板の加圧面の温度を高めたもの(加熱板)などの種々の加圧部材(加熱部材)が使用でき、例えば、カレンダー装置やダブルベルトプレスなどで熱圧着してもよい。
【0039】
なお加圧板(加熱板)40で熱プレスする場合、プラテン(金属板)45の使用は必須ではないが、プラテン45を加熱板40とPTFE原平面部材10aとの間に挟み込むことが推奨される。耐熱シート30として耐熱樹脂シートを用いた場合、耐熱シート30が加熱板40に密着する場合があるが、プラテン45を介挿していれば、プラテン45ごと積層シート50をプレス装置から取り外すことができるため、耐熱シート30の剥離操作が容易になる。
【0040】
第1方法で応用手段1を採用して冷却してから圧力を開放する場合、圧力を解放するときの温度は、平面状PTFE10bが十分に硬化する範囲で設定できる。圧力解放温度は、例えば、200℃以下程度(好ましくは150℃以下程度、特に100℃以下程度)の範囲で設定できる。
【0041】
冷却方法は特に制限されないが、水冷、送風などの強制冷却が製造コストの観点から推奨される。
【0042】
このようにして得られる積層型膨張黒鉛シート1は、膨張黒鉛シート20bの両面に平面状PTFE10bが積層されており、この膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとが積層界面で直接固着(特に圧着)している(図1(c)参照)。平面状PTFE10bと膨張黒鉛シート20bの固着面の剥離強度は、例えば、膨張黒鉛シート20bの凝集破壊強度以上である。
【0043】
なお膨張黒鉛原シート20aは、上記範囲の圧力でプレスしても物性値は殆ど変化しない。従ってプレス後の膨張黒鉛シート20bの物性値は、膨張黒鉛原シート20aと同様である。
【0044】
一方PTFE原平面部材10aとして充実構造のものを使用した場合、プレスしても物性値は殆ど変化しないが、延伸多孔質構造のもの(延伸多孔質PTFE)を用いた場合、プレスによって空孔が減少している。平面状PTFE10bの空孔率は、例えば60%以下程度、好ましくは30%以下程度、さらに好ましくは10%以下程度である。特に好ましい平面状PTFE10bは、空孔がより高度に低減された平面状PTFE10bであり、この特に好ましい平面状PTFE10bの空孔率は、例えば、5%以下程度、好ましくは1%以下程度(特に0%)である。空孔がより高度に低減された特に好ましい平面状PTFE10bを用いた積層型膨張黒鉛シート1は、流体漏れの虞がなく、ガスケットの分野で特に有用である。なお空孔率は、平面状PTFE10bの見掛け密度ρ1と、平面状PTFE10bに使用されているPTFEの真密度ρ2から、下記式に基づいて算出される値である。
空孔率(%)=(ρ2−ρ1)/ρ2×100
【0045】
プレス後の平面状PTFE10bの密度(JIS K 6885に準じて測定される)は、0.9g/cm3以上、PTFEの真密度(2.2g/cm3程度)以下である。
【0046】
平面状PTFE10bの厚みは、例えば、0.001〜1mm程度、好ましくは0.01〜0.7mm程度、さらに好ましくは0.05〜0.5mm程度である。
【0047】
積層型膨張黒鉛シートの積層構造は特に限定されない。例えば図2に示すように、平面状PTFE10bが、膨張黒鉛シート20bの片面に積層されていてもよい。図2の積層型膨張黒鉛シート2は、前記第1〜2方法と同様にすることによって製造できる。
【0048】
また本発明の積層型膨張黒鉛シートでは、平面状PTFE10bをその構成要素として有するPTFE製部材11aで、膨張黒鉛シート20bの表面、側部、裏面を連続して被覆してもよい。連続被覆構造を採用すれば、万が一黒鉛屑が発生しても、その発散(ガスケットに使用した場合は、黒鉛屑の流体への混入)を防止できる。図3は、この連続被覆構造の積層型膨張黒鉛シートの一例を示す斜視断面図である。図3の積層型膨張黒鉛シート3では、膨張黒鉛シート20bの表面21及び裏面23に平面状PTFE10bを積層すると共に、該表面21、片側部22、及び裏面23をこの平面状PTFE10bを構成要素として有するPTFE製部材11aで連続して被覆している。この図3の積層型膨張黒鉛シート3は、図1の例と同様にして、膨張黒鉛シート20bの表面21及び裏面23と平面状PTFE10bとを直接固着することによって製造できる。なおガスケットの分野では、膨張黒鉛シート20bを芯材と称し、PTFE製部材11a全体を外皮材又は被覆材と称している。そして図3のPTFE製部材(外皮材)11aのように概略横転Y字形状の断面を有する外皮材を、S型と称している。PTFE製部材(外皮材)11aの断面形状は、特に限定されず、例えば、概略コ字形状(M型)、概略横転U字形状(F型)など種々の形状のものが使用できる。外皮材は、PTFEを所定の形状に切削成形したものや、熱成形したものが用いられるが、PTFEシートを二枚重ねて、端部を接合したものでもよい。PTFEシート同士を接合する場合、上下二枚のPTFEシートのどちらか一方に多孔質PTFEシートを用いれば、接合部を熱融着できるため好ましい。両方とも充実構造のPTFEシートを用いる場合は、溶融フッ素樹脂フィルムを介在させて端部を溶着するか、端部に表面処理を行った上で、接着剤を介在させて端部を接着する必要があるため、ガスケットに用いる場合は、溶融樹脂フィルムや接着剤の耐熱性、耐薬品性によって、その利用範囲が制限される。
【0049】
さらに本発明の積層型膨張黒鉛シートで連続被覆構造を採用する場合、平面状PTFE10bをその構成要素として有するPTFE製部材で膨張黒鉛シート20bを完全に囲繞してもよい。完全囲繞構造を採用すれば、黒鉛屑の発散をより高度に防止できる。図4(b)は、この完全囲繞構造の積層型膨張黒鉛シートの一例を製造方法と共に示す概略斜視断面図である。図4の積層型膨張黒鉛シート4では、膨張黒鉛シート20bの表面21及び裏面23に平面状PTFE10bを積層すると共に、該表面21、両側部22、24、及び裏面23をこの平面状PTFE10bを構成要素として有するPTFE製部材11bで連続して被覆しており、全体として膨張黒鉛シート20bを完全に囲繞している。この図4(b)の積層型膨張黒鉛シート4は、片側方端60が解放したPTFE製部材11aと膨張黒鉛シート20bとを図3と同様にして直接固着した後(図4(a)参照)、この側方端60を接合(熱接合など)することによって製造できる。図4の例においても、PTFE製部材11bの断面形状は図3の例と同様、概略横転Y字形状、概略コ字形状、概略横転U字形状などの種々の形状を採用できる。
【0050】
加えて連続被覆構造を採用する場合、膨張黒鉛シートの表面、側部、裏面の全ての箇所で膨張黒鉛シートをPTFE製部材で隙間なく囲繞してもよい。膨張黒鉛シートを隙間なく囲繞すれば、積層型膨張黒鉛シートをよりコンパクトにできる。図5及び図6は、膨張黒鉛シートを隙間なく囲繞した積層型膨張黒鉛シートの一例を製造方法と共に示す概略断面図である。
【0051】
図5では、膨張黒鉛原シート20aの両面に、PTFE原平面部材10aを積層し、図1と同様にして熱圧着している。そして図5(及び後述の図6)の例では、PTFE原平面部材10aとして多孔質PTFEを使用することが重要である。多孔質PTFEを使用すれば、この部材10aの熱圧着時の圧密化によって得られるPTFE製部材11cによって簡便に膨張黒鉛シート20bを隙間なく(接触して)囲繞することができる。なお2枚のPTFE原平面部材10aの合計厚みは、膨張黒鉛原シート20aよりも大きい。また一方のPTFE原平面部材10aの厚みが、膨張黒鉛原シート20aよりも大きい場合、両方のPTFE原平面部材10aに多孔質PTFEを使用する必要はなく、膨張黒鉛原シート20aよりも厚みが小さい方は充実構造のPTFE原平面部材であってもよい。多孔質PTFEを用いると、多孔質PTFEと膨張黒鉛原シートが接する部分で多孔質PTFEが圧縮変形することにより、膨張黒鉛シート20bを隙間無く囲繞することができる。また多孔質PTFEを用いることにより、PTFE原平面部材10aの接合部を熱融着することができるため、膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材10aを熱圧着する際、同時に接合部を熱融着することができる。
【0052】
図6の積層型膨張黒鉛シート6は、膨張黒鉛原シート20aの外形に合わせた窓部13を有するPTFE枠体12aで、膨張黒鉛原シート20aの外周を囲繞した後、これらの集合体の両面にPTFE原平面部材10aを積層し、前記第1〜2方法と同様にして熱圧着することによって製造できる。得られた積層型膨張黒鉛シート6では、平面状PTFE10bと枠体12bとからなるPTFE製部材11dが膨張黒鉛シート20bを隙間なく囲繞している。なおPTFE原平面部材10aとPTFE枠体12aの合計厚みは、膨張黒鉛原シート20aよりも大きい。またPTFE原平面部材10aとPTFE枠体12aのうち一方が多孔質PTFEであれば、残りは多孔質PTFE及び充実構造のPTFEのいずれであってもよい。PTFE原平面部材10aとPTFE枠体12aのうち一方が多孔質PTFEであれば、多孔質PTFEの熱圧着時の圧密化を利用して、簡便に膨張黒鉛原シート20aを隙間なく囲繞することができ、またPTFE原平面部材10aとPTFE枠体12aの接合部を熱融着することができる。
【0053】
なお本発明で用いる膨張黒鉛シートは、一枚のシートでも、複数枚のシートを寄せ集めたものでもよい。複数枚の膨張黒鉛シートを寄せ集めて積層型膨張黒鉛シートを製造するには、PTFE原平面部材10a(PTFE製部材の一部になっているものを含む。以下、同じ)の上面に複数枚の膨張黒鉛シートを端部が重ならないように並べて、その上にもう一枚のPTFE原平面部材10aを重ねてから熱圧着すればよい。また本発明で用いる膨張黒鉛シートは、複数枚のシートを厚み方向に積層したのでもよい。複数枚の膨張黒鉛シートを積層して積層型膨張黒鉛シートを製造するには、PTFE原平面部材10aの上面に複数枚の膨張黒鉛シートを厚み方向に積層して、その上にPTFE原平面部材10aを重ねてから熱圧着すればよい。図3〜図6の積層型膨張黒鉛シートのように、膨張黒鉛シートがPTFE製部材で連続的に被覆される場合は、複数枚の膨張黒鉛シートを単に重ねるだけでもよく、図1〜図2の積層型膨張黒鉛シートのように、膨張黒鉛シートとPTFE原平面部材10aを単純に積層した場合は、膨張黒鉛シートの層間を接着剤により接着する必要がある。
【0054】
本発明の積層型膨張黒鉛シートは、電極、放熱板、電子材料部品、ライニング材、ガスケットなどとして利用できる。特にガスケットは、最も好ましい利用分野である。ガスケットには、単純積層構造のシート(図1〜2の積層型膨張黒鉛シート1、2など)、連続被覆構造のシート(図3の積層型膨張黒鉛シート3など)を使用することが多い。
【0055】
ガスケットとして本発明の積層型膨張黒鉛シートを使用する場合、膨張黒鉛シート20bが芯材(凹凸吸収材)としての役割を担い、平面状PTFE10bが離型性表層(外皮材)としての役割を担う。なお本発明の積層型膨張黒鉛シートを芯材として用いてもよい。また外皮材は、PTFEを一体成形したものでもよい。
【0056】
芯材の膨張黒鉛シート20bは、表面側に膨張黒鉛シート20bが露出している限り、金属板(メタルリングなど)などの形状維持性硬質層で補強してもよい。膨張黒鉛シート20b、平面状PTFE10bの平面形状は、フランジ(シール面)の形状に応じて種々の閉環状形状(無端形状)を採用でき、例えば、円形状、楕円形状、トラック形状、矩形状などであってもよく、この閉環形状を適当に切断した形状であってもよい。本発明の積層型膨張黒鉛シートをガスケットとして用いる場合は、本発明の積層型膨張黒鉛シートを所望の形状に打ち抜き加工することで、容易にガスケットを製造できる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0058】
実施例1
実施例1では、膨張黒鉛原シート20aとして東洋炭素(株)製のPERMA−FOIL(登録商標)(PF標準品(厚さ1.4mm、密度1.0g/cm3))、PTFE原平面部材10aとしてスカイブドPTFE(ニチアス(株)製:ナフロン(登録商標)、厚さ0.05mm)、耐熱シート30としてポリイミドシート(宇部興産(株)製:ユーピレックス(登録商標)、厚さ0.05mm)又はアルミニウム箔(厚さ10μm)を用いた。これらを下記表1〜2に示すように積層し、下記表1〜2に示す手順でプレス板で熱プレスした。プレス装置は(株)東洋精機製作所製のミニテストプレス「MP−S」を用いた(以下、同じ)。
【0059】
積層体の構成、熱プレス手順を種々変更し、平面状PTFE10bの熱変形の有無、生産時間、プレス板への積層体の密着の有無、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bの固着状態などを評価した。
【0060】
結果を表1〜2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
No.1、4、5の例では、耐熱シートを使用しなかったため、積層体の取り外し時に膨張黒鉛シート20bが破壊してしまい、積層型膨張黒鉛シートを得ることができなかった。
【0064】
これに対して、No.2〜3の例では、耐熱シートを使用したため、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bを全面的に固着することができた(ただし、気泡状の隙間が発生した)。さらにNo.6〜9の例のように、応用手段1(冷却後の圧力解放)及び/又は応用手段2(加圧後の加熱開始)を採用すると、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bを全面的に均一に(隙間なく)固着することができた。
【0065】
なおNo.10の例のように、積層体を加圧してから加熱するようにし、かつ積層体を冷却することなく取り外すようにすると、耐熱シートを使用しなくても、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bを全面的に固着することができた(ただし、気泡状の隙間が発生した)。
【0066】
実施例2
膨張黒鉛原シート20a(東洋炭素(株)製:PERMA−FOIL(登録商標)、PF標準品、厚さ2.05mm、密度0.98g/cm3)の両面にPTFE原平面部材10a(この実施例2では、ePTFEシート(ジャパンゴアテックス(株)製:ハイパーシート(登録商標)、厚さ0.20mm、密度0.6g/cm3)を用いた)を重ねた後、ヒーターを内蔵したプレス板40(表面温度300℃)で挟んだ。なおePTFEシート10aとプレス板40の間には、プラテン(SUS製板、厚さ5mm;プレス板側に設置)45と、耐熱シート30(厚さ0.05mmのポリイミドシート(宇部興産(株)製:ユーピレックス(登録商標))を挿入した。
【0067】
圧力3MPaで5分間熱プレス(熱圧着)した後、プレス圧をかけた状態でヒーターの電源をオフにした。室温まで徐冷した後、プレス圧を解放することにより、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。プレス後の平面状PTFE10bは透明になっており、完全に充実体(空孔率0%、密度2.2g/cm3)になっていた。プレス後の膨張黒鉛シート20bの厚さは2.00mmであり、プレス前とほとんど変化しなかった。
【0068】
実施例3
ePTFEシートに代えて、スカイブドPTFEからなるPTFE原平面部材10a(以下、スカイブドPTFEシートという。ニチアス(株)製:ナフロン(登録商標)、厚さ0.13mm、密度2.2g/cm3)を用いる以外は実施例2と同様にして、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。プレス後の平面状PTFE10bはプレス前よりも透明感が増していた。
【0069】
実施例4
プレス圧を3MPaから1MPaに変更する以外は、実施例2と同様にして、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。プレス後の平面状PTFE10bの透明感は実施例2よりも劣り、空孔が残っていた(空孔率45%、密度1.2g/cm3)。
【0070】
実施例5
プレス圧を3MPaから1MPaに変更する以外は、実施例3と同様にして、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。
【0071】
実施例6
膨張黒鉛原シート20aを予め圧縮して厚さ1.2mm、密度1.69g/cm3にしてからePTFEシート10aと積層する以外は、実施例2と同様にして、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。プレス後、平面状PTFE10bは透明になっており、完全に充実体(空孔率0%、密度2.2g/cm3)になっていた。
【0072】
実施例7
膨張黒鉛原シート20aを予め圧縮して厚さ1.2mm、密度1.69g/cm3にしてからスカイブドPTFEシート10aと積層する以外は、実施例3と同様にして、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。
【0073】
実施例8
プレス板の表面温度を300℃から200℃に変更する以外は実施例2と同様にして、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。平面状PTFE10bの透明感は実施例2よりも劣り、空孔が残っていた(空孔率32%、密度1.5g/cm3)。
【0074】
比較例1
プレス板の表面温度を300℃から100℃に変更する以外は実施例2と同様にして、図1(c)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート1を得た。
【0075】
比較例2
実施例2で用いたものと同じ膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材(ePTFEシート)10aをホットメルト系接着剤(旭硝子(株)製:ユーファインP)で接合した。
【0076】
上記実施例及び比較例の積層型膨張黒鉛シートの特性を下記のようにして調べた。
【0077】
1)接合強度
膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10b(比較例2の場合は、ePTFEシート10a。以下、同様)を端部から界面に沿って少し剥がした後、膨張黒鉛シート20bを固定しながら平面状PTFE10bを折り返し方向に引っ張って大きく剥離させ、接合強度を下記基準に従って評価した。
優:膨張黒鉛シートが極めて大きく凝集破壊して平面状PTFE10b側に付着し、図7に示すような状態になった。
良:膨張黒鉛シートが大きく凝集破壊して平面状PTFE10b側に付着し、図8に示すような状態になった。
可:膨張黒鉛シートが凝集破壊して平面状PTFE10b側に付着し、図9に示すような状態になった。
不可:膨張黒鉛シートが殆ど凝集破壊せず、平面状PTFE10b面は図10に示すような状態になった。
【0078】
2)離型性
積層型膨張黒鉛シートを横15mm×縦45mmの大きさにカットし、一対のプラテン(SUS製板、厚さ5mm)で挟んで約3時間熱プレスした(圧力30MPa、温度250℃)。加熱と加圧を停止し、室温まで冷却した後、プラテンを離間し、プラテンから積層型膨張黒鉛シートを取り外した。この作業が正常に終了できたか否かを下記基準に従って段階付けし、積層型膨張黒鉛シートの離型性を評価した。
可:プラテンを離間すると、プラテン面に積層型膨張黒鉛シートが密着していたが、シート側方からヘラでつつくことにより容易に刮ぎ落とすことができた。
不可:プラテンを離間すると、プラテン面に積層型膨張黒鉛シートが密着していた。ヘラで突いても刮ぎ落とすことはできず、膨張黒鉛が崩壊した。
【0079】
結果を表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
表3から明らかなように、加熱温度が低すぎると膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材10aとを熱圧着することができない(比較例1)。膨張黒鉛原シート20aにPTFE原平面部材(ePTFEシート)10aを接着剤で接合すれば接合強度を高めることができるが、離型性が大きく低下し、プラテン面に積層型膨張黒鉛シートがこびり付いた(比較例2)。比較例2のプラテン面を観察すると、接着剤がePTFEの周囲にはみ出していた。
【0082】
これらに対して実施例2〜8では、膨張黒鉛原シート20aとPTFE原平面部材10aとを積層し、耐熱シートを被せてから熱プレスし、冷却してから圧力を解放しているため、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとを直接固着することができる。接合強度は熱プレス条件(圧力、加熱時間、加熱温度など)を適宜変更することによって調節できる。
【0083】
参考例1
膨張黒鉛原シート20a(東洋炭素(株)製:PERMA−FOIL(登録商標)、PF標準品、厚さ2.05mm、密度0.98g/cm3)の両面にPTFE原平面部材(ePTFEシート(ジャパンゴアテックス(株)製:ハイパーシート(登録商標)、厚さ0.20mm、密度0.6g/cm3))10aを重ねた後、ヒーターを内蔵したプレス板40(表面温度300℃)で挟んだ。なおPTFE原平面部材10aとプレス板40の間には、プラテン(SUS製板、厚さ5mm;プレス板側に設置)45と耐熱シート30(厚さ0.05mmのポリイミドシート(宇部興産(株)製:ユーピレックス(登録商標)))を挿入した。圧力3MPaで5分間プレス(熱圧着)した(ここまでは実施例2と同じである)。
【0084】
熱圧着後、直ちにプラテンから積層体50を引き剥がし、速やかに上記1)接合強度の評価方法と同様にして膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとを剥離したところ、平面状PTFE10bには膨張黒鉛屑がほとんど付着していなかった。
【0085】
一方、プラテンから積層体50を引き剥がし、数秒間放置して僅かに積層体50を放冷した後に上記1)接合強度の評価方法と同様にして膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとを剥離したところ、平面状PTFE10b側に付着する膨張黒鉛屑の量が増大した。
【0086】
このことから、膨張黒鉛粒子が平面状PTFE10bにめり込んだ(圧入された)状態で平面状PTFE10bが固まったため、膨張黒鉛シート20bと平面状PTFE10bとが直接固着されたのではないかと推測される。
【0087】
実施例9
膨張黒鉛原シート20a(東洋炭素(株)製:PERMA−FOIL(登録商標)、PF標準品、厚さ0.20mm、密度1.0g/cm3)の両面に、この膨張黒鉛シートに比べてサイズが大きく、厚さが同等であるPTFE原平面部材(ePTFEシート(ジャパンゴアテックス(株)製:ハイパーシート(登録商標)、厚さ0.20mm、密度0.6g/cm3))10aを重ね、プレス板40の表面温度を350℃とする以外は実施例2と同様に熱圧着し、プレス圧をかけた状態でヒーターの電源をオフにした。室温まで徐冷した後、プレス圧を解放し、膨張黒鉛シート20bより若干大きめに平面状PTFE10bをトリミングすることにより、図5(b)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート5を得た。平面状PTFE10bは、膨張黒鉛シート20bと重なる部分61では完全に透明(充実体)になっていた。また平面状PTFE10bは、膨張黒鉛シート20bの周辺部62では白色(多孔質体)であったが、この周辺部62でも平面状PTFE10b同士は互いに熱接合されていた。
【0088】
この積層型膨張黒鉛シート5の接合強度及び離型性を前記と同様にして評価すると、接合強度は優、離型性は可であった。
【0089】
実施例10
ePTFEシート(ジャパンゴアテックス(株)製:ハイパーシート(登録商標)、厚さ3.0mm、密度0.6g/cm3)を額縁状にくり抜いてPTFE枠体12aを作成し、その中に膨張黒鉛原シート20a(東洋炭素(株)製:PERMA−FOIL(登録商標)、PF標準品、厚さ2.05mm、密度0.98g/cm3)を嵌め込んだ。その両面にPTFE原平面部材(ePTFEシート(ジャパンゴアテックス(株)製:ハイパーシート(登録商標)、厚さ0.20mm、密度0.6g/cm3))10aを重ね、プレス板40の表面温度を350℃とする以外は実施例2と同様に熱圧着し、プレス圧をかけた状態でヒーターの電源をオフにした。室温まで徐冷した後、プレス圧を解放し、膨張黒鉛シート20bより若干大きめに平面状PTFE10b及び枠体12bをトリミングすることにより、図6(b)に示す形状の積層型膨張黒鉛シート6を得た。平面状PTFE10bは、膨張黒鉛シート20bと重なる部分61では完全に透明(充実体)になっていた。また平面状PTFE10bと枠体12bは、膨張黒鉛シート20bの周辺部62では白色(多孔質体)であったが、この周辺部62で平面状PTFE10bと枠体12bは互いに熱接合されていた。
【0090】
この積層型膨張黒鉛シート6の接合強度及び離型性を前記と同様にして評価すると、接合強度は優、離型性は可であった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は本発明の積層型膨張黒鉛シートの一例を製造方法と共に示す概略断面図である。
【図2】図2は本発明の積層型膨張黒鉛シートの他の例を示す概略断面図である。
【図3】図3は本発明の積層型膨張黒鉛シートのその他の例を示す概略斜視断面図である。
【図4】図4は本発明の積層型膨張黒鉛シートのさらに他の例を製造方法と共に示す概略斜視断面図である。
【図5】図5は本発明の積層型膨張黒鉛シートの別の例を製造方法と共に示す概略断面図である。
【図6】図6は本発明の積層型膨張黒鉛シートのさらに別の例を製造方法と共に示す概略断面図である。
【図7】図7は接合強度を評価するための見本を示す図であり、優に相当する。
【図8】図8は接合強度を評価するための見本を示す図であり、良に相当する。
【図9】図9は接合強度を評価するための見本を示す図であり、可に相当する。
【図10】図10は接合強度を評価するための見本を示す図であり、不可に相当する。
【符号の説明】
【0092】
1 積層型膨張黒鉛シート
10a、10b 平面状PTFE
20a、20b 膨張黒鉛シート
30 耐熱シート
40 加圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛シートの少なくとも一方の面に平面状ポリテトラフルオロエチレンが積層されており、前記膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとが積層界面で直接固着していることを特徴とする積層型膨張黒鉛シート。
【請求項2】
前記平面状ポリテトラフルオロエチレンを構成要素として有するポリテトラフルオロエチレン製部材と、前記膨張黒鉛シートとから構成されており、
平面状ポリテトラフルオロエチレンが前記膨張黒鉛シートの表面及び裏面に積層されていると共に、ポリテトラフルオロエチレン製部材が膨張黒鉛シートの表面、裏面、及び側部を連続して被覆している請求項1に記載の積層型膨張黒鉛シート。
【請求項3】
前記膨張黒鉛シートの外周がポリテトラフルオロエチレンからなる枠体で囲繞されており、これら膨張黒鉛シートと枠体からなる集合体の両面に前記平面状ポリテトラフルオロエチレンが積層されている請求項1に記載の積層型膨張黒鉛シート。
【請求項4】
前記平面状ポリテトラフルオロエチレンと前記膨張黒鉛シートの固着面の剥離強度が、膨張黒鉛シートの凝集破壊強度以上である請求項1〜3に記載の積層型膨張黒鉛シート。
【請求項5】
前記膨張黒鉛シートの密度が、0.7〜1.8g/cm3である請求項1〜4のいずれかに記載の積層型膨張黒鉛シート。
【請求項6】
膨張黒鉛シートから構成される芯材と、平面状ポリテトラフルオロエチレンをその構成要素として有するポリテトラフルオロエチレン製部材とを有しており、これら膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとが、積層界面で直接固着していることを特徴とする積層型ガスケット。
【請求項7】
前記膨張黒鉛シートと前記平面状ポリテトラフルオロエチレンの固着面の剥離強度が、膨張黒鉛シートの凝集破壊強度以上である請求項6に記載の積層型ガスケット。
【請求項8】
膨張黒鉛シートの少なくとも一方の面に、多孔質又は充実構造の平面状ポリテトラフルオロエチレンと、耐熱シートとをこの順に積層し、
耐熱シート側から加圧部材を押し当てて膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとを熱圧着し、
加圧部材の圧力を開放した後で、耐熱シート、膨張黒鉛シート、平面状ポリテトラフルオロエチレンからなる積層体を取り出し、該積層体から耐熱シートを引き剥がして除去することを特徴とする積層型膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項9】
前記積層体の熱圧着後、積層体を冷却した後で、加圧部材による圧力を解放する請求項8に記載の積層型膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項10】
前記積層体を熱圧着するに際し、積層体を加圧してから加熱を開始する請求項8又は9に記載の積層型膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項11】
膨張黒鉛シートの少なくとも一方の面に、多孔質又は充実構造の平面状ポリテトラフルオロエチレンを積層し、
平面状ポリテトラフルオロエチレン側から加圧部材を直接押し当てて膨張黒鉛シートと平面状ポリテトラフルオロエチレンとの積層体を加圧してから、この積層体を加熱し、
積層体の冷却前に、加圧部材による圧力を開放して積層体を取り出すことを特徴とする積層型膨張黒鉛シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−301946(P2007−301946A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135455(P2006−135455)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】