説明

積層型電子部品およびその製造方法

【課題】コイル状内部導体を内蔵する積層型電子部品においては、ビア導体を積層方向から平面透視した場合、互いに重なり合う位置に配設されていることから、この重なり合う位置に応力が集中しやすい。
【解決手段】上面および下面に開口するビアホールをそれぞれ有する複数の絶縁体層を積層してなる積層体と、複数の絶縁体層間にそれぞれ位置する複数のコイル配線導体と、ビアホールに充填された、絶縁体層を介して積層方向に隣り合うコイル配線導体をそれぞれ電気的に接続する複数のビア導体とを備え、複数のコイル配線導体および複数のビア導体を積層方向から平面透視した場合に、複数のコイル配線導体における少なくとも複数のビア導体と接する部分が互いに重なり合っており、かつ、複数のビア導体が互いに重なり合っていない積層型電子部品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル状の内部導体が内部に埋設された積層型電子部品に関するものである。このような積層型電子部品は、産業用電子機器および民生用電気製品に代表される多種多様な電子機器において、例えばインダクタ、トランス、コイル部品、LC部品または貫通コンデンサとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
コイル状の内部導体が内部に埋設された積層型電子部品としては、例えば、特許文献1に記載された積層チップインダクタが知られている。特許文献1に記載された積層チップインダクタは、上面の所定位置にコイル状内部導体が印刷された絶縁性のグリーンシートを所定数積層するとともに焼成することにより形成されている。
【0003】
特許文献1に記載の積層型セラミック電子部品では、セラミックグリーンシートに形成されたビアホールに充填されたビア導体によって積層方向に隣り合う内部導体が電気的に接続されている。これらの内部導体およびビア導体を積層方向から平面透視した場合、それぞれのセラミックグリーンシート上に配設された内部導体が、4辺からなる矩形状の配線経路上に位置して部分的に重なり合い、かつ、ビア導体が4辺からなる矩形状の配線経路の4つの頂点部分のいずれかに位置して互いに重なり合っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−92643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ビア導体および絶縁体層の熱膨張係数が互いに異なるため積層型電子部品の製造過程および使用時において、ビア導体および絶縁体層の間には熱膨張差が生じる。特に、ビア導体は上記する4つの頂点部分のいずれかに位置して互いに重なり合っていることから、この4つの頂点部分に応力が集中しやすい。近年、高インダクタンス化のために積層型電子部品にはさらに大きな電流を流すことが求められており、この大電流を流すための導体断面積の増加に起因して上記の熱膨張差による内部応力がさらに大きくなる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、上記の熱膨張差に起因する応力の集中を抑制することによって耐久性を高めた積層型電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの態様に基づく積層型電子部品は、上面および下面に開口するビアホールをそれぞれ有する複数の絶縁体層を積層してなる積層体と、前記複数の絶縁体層間にそれぞれ位置する複数のコイル配線導体と、前記ビアホールに充填された、前記絶縁体層を介して積層方向に隣り合う前記コイル配線導体をそれぞれ電気的に接続する複数のビア導体とを備えている。さらに、前記複数のコイル配線導体および前記複数のビア導体を積層方向から平面透視した場合に、前記複数のコイル配線導体における少なくとも前記複数のビア導体と接する部分が互いに重なり合っており、かつ、前記複数のビア導体が互いに重なり合っていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記の態様に基づく積層型電子部品は、複数のコイル配線導体および複数のビア導体を積層方向から平面透視した場合に、複数のコイル配線導体の少なくとも複数のビア導体と接する部分が互いに重なり合っており、かつ、複数のビア導体が互いに重なり合っていない。
【0009】
このように、積層方向から平面透視した際に、線状に配設されることによって重なり合った場合であっても熱膨張差の影響の小さいコイル配線導体は、少なくとも互いに重なり合っている。そのため、複数のコイル配線導体によって形成されるコイル状の内部導体によるインダクタンスを高いものとすることができる。また、複数のビア導体を積層方向から平面透視した場合に、これらのビア導体が互いに重なり合っていない。そのため、ビア導体および絶縁体層の熱膨張係数が互いに異なることに起因する上記の応力の集中を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態の積層型電子部品およびその製造方法を示す斜視図である。
【図2】図1に示す実施形態の分解斜視図である。
【図3】(a)は図2に示す実施形態における第2の絶縁体層およびビア導体からなる層を示す分解斜視図である。(b)は図2に示す実施形態における第1の絶縁体層およびコイル配線導体からなる層を示す分解斜視図である。
【図4】図1に示す実施形態の平面透視図である。
【図5】(a)は図1に示す実施形態の第1の変形例を示す斜視図である。(b)は図1に示す実施形態の第2の変形例を示す斜視図である。
【図6】図1に示す実施形態の第3の変形例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の積層型電子部品およびその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、下記の実施形態を構成する部材のうち、特徴的な構成を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、本実施形態の積層型電子部品は、本明細書が参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0012】
図1〜4に示すように、本実施形態の積層型電子部品1は、上面および下面に開口するビアホールをそれぞれ有する複数の絶縁体層3(第1の絶縁体層3)を積層してなる積層体5と、複数の第1の絶縁体層3間にそれぞれ位置する複数のコイル配線導体7と、ビアホールに充填された、第1の絶縁体層3を介して積層方向に隣り合うコイル配線導体7をそれぞれ電気的に接続する複数のビア導体9とを備えている。より具体的には、積層体5が、第1の絶縁体層3と、上面および下面に開口する配線形成領域11aを有する第2の絶縁体層11とを交互に積層してなり、コイル配線導体7が上記の配線形成領域11aに位置している。
【0013】
そして、図4に示すように、複数のコイル配線導体7および複数のビア導体9を積層方向から平面透視した場合に、複数のコイル配線導体7の少なくとも一部が互いに重なり合っており、かつ、複数のビア導体9が互いに重なり合っていない。なお、図4において、ビア導体9の位置を明確にするため、平面透視した場合のビア導体9の位置に斜線を付けている。
【0014】
このように、積層方向から平面透視した際に、線状に配設されることによって互いに重なり合った場合であっても熱膨張差の影響の小さいコイル配線導体7は、少なくとも複数
のビア導体と接する部分が互いに重なり合っている。そのため、複数のコイル配線導体7によって形成されるコイル状の内部導体のインダクタンスを高いものとすることができる。また、複数のビア導体9を積層方向から平面透視した場合に、これらのビア導体9が互いに重なり合っていない。そのため、ビア導体9および第1の絶縁体層3の熱膨張係数が互いに異なることに起因する応力の集中を低減することができる。
【0015】
積層体5が、複数の第1の絶縁体層3と複数のコイル配線導体7を交互に積層してなる構成であってもよいが、本実施形態の積層型電子部品1のように、積層体5が、上面および下面に開口する配線形成領域11aを有する第2の絶縁体層11をさらに備えていることが好ましい。具体的には、積層体5が、第1の絶縁体層3と、上面および下面に開口する配線形成領域11aを有する第2の絶縁体層11とを交互に積層してなり、コイル配線導体7が配線形成領域11aに位置していることが好ましい。
【0016】
複数の第1の絶縁体層3と複数のコイル配線導体7を交互に積層してなる構成である場合、コイル配線導体7の厚みによって第1の絶縁体層3の上面には段差が形成されやすい。しかしながら、コイル配線導体7が配線形成領域11aに位置してなり、コイル配線導体7および第2の絶縁体層11からなる層を第1の絶縁体層3に重ね合わせるとともにこれらの層を積層することによって積層体5を形成している場合、上記の段差を小さくすることができる。そのために積層による変形や、第1の絶縁体層3と第2の絶縁体層11の密着不良が生じる可能性を低減できるとともに、コイル配線導体7の熱膨張に起因する第1の絶縁体層3への応力を緩和することができる。
【0017】
また、本実施形態の積層型電子部品1のように、第1の絶縁体層3およびビア導体9の積層方向の厚みが、第2の絶縁体層11およびコイル配線導体7の積層方向の厚みよりも小さいことが好ましい。このように、積層方向に隣り合う第1の絶縁体層3およびコイル配線導体7の間に位置する第2の絶縁体層11およびビア導体9の厚みが相対的に小さいことから、積層型電子部品1全体の厚みを小さくすることができる。また、積層型電子部品1全体の厚みを小さくすることができることから、許容される積層型電子部品の厚みの範囲内にて複数のコイル配線導体7によるインダクタの巻き数を大きくすることができ、インダクタンス値を大きくすることが可能となる。
【0018】
なお、図2は図1に示す実施形態の積層構造を明確にするための分解斜視図であり、図1に示す実施形態の積層構造の一部を分解斜視図にて示したものである。そのため、複数の第1の絶縁体層3および複数の第2の絶縁体層11の数はそれぞれ図2に示す分解斜視図に示す数に限られるものではない。また、積層体5の積層方向の両端部には、第1の絶縁体層3と同組成の印刷ペーストによるコーティング層を形成し、導通用ビア部についても導体ペーストの印刷により構成しても良い。
【0019】
本実施形態における第1の絶縁体層3および第2の絶縁体層11としては、それぞれ高い絶縁性を有している部材を用いることができる。第1の絶縁体層3および第2の絶縁体層11としては、例えば、フェライト質焼結体、フォルステライト質焼結体およびガラスセラミック材料等のセラミック材料を用いることができる。あるいは、第1の絶縁体層3として絶縁性の樹脂を用いてもよい。また、複数のコイル配線導体7をインダクタとして用いることから、第1の絶縁体層3および第2の絶縁体層11として、磁性を有することが好ましく、具体的には、例えば、フェライトから成る材料やフェライト等の磁性材料を含有していることが好ましく、第1の絶縁体層3および第2の絶縁体層11が非磁性絶縁材料と磁性絶縁材料の組合せであっても良い。
【0020】
本実施形態における第1の絶縁体層3および第2の絶縁体層11は、それぞれ平面視した場合の外周形状が矩形状となっているが特にこれに限られるものではない。たとえば、
平面視した場合の外周形状が、六角形または図5(a)に示すような八角形のような多角形状、或いは、図5(b)に示すような楕円形状または円形状のような曲面形状であってもよい。
【0021】
本実施形態における第1の絶縁体層3は、上面および下面に開口するビアホールを有している。そして、このビアホールには積層方向に隣り合うコイル配線導体7を電気的に接続するビア導体9が充填されている。また、第1の絶縁体層3は、積層方向に隣り合うコイル配線導体7の間であって、これらのコイル配線導体7が互いに離隔するように位置している。そのため、第1の絶縁体層3は、第2の絶縁体層11よりも厚みが小さい一方で、積層方向に隣り合うコイル配線導体7が電気的に短絡しない程度の絶縁性を確保できる厚みを有していることが求められる。
【0022】
ビア導体9としては、導電性の良好な部材を用いることが好ましい。具体的には、例えば、銅、銀、金、白金、やニッケルのような金属材料粉末に絶縁材料との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体をビア導体9として用いることができる。上記の金属材料は単一で用いてもよく、また、合金、混合物として用いてもよい。
【0023】
本実施形態における第2の絶縁体層11は、上面および下面に開口する配線形成領域11aを有している。そして、この配線形成領域11aにはコイル配線導体7が充填されている。積層方向に隣り合うコイル配線導体7はビア導体9を介して電気的に接続され、積層型電子部品1の積層方向に向かって巻回されたコイル状の内部配線を形成している。このようにして内部配線が形成されることによりチップインダクタとして作用させることができる。
【0024】
なお、積層方向に隣り合うコイル配線導体7がビア導体9を介して電気的に接続されることによってコイル状の内部配線を形成していることから、本実施形態においては便宜的にコイル配線導体7と表している。そのため、それぞれのコイル配線導体7がコイル形状であることを意味するものに限られない。
【0025】
つまり、積層方向に隣り合うコイル配線導体7がビア導体9を介して電気的に接続されることによってコイル状の内部配線を形成していることから、それぞれのコイル配線導体7としては1つの線分からなる直線形状、2つの線分からなるL形状あるいは3つの線分からなるコ形状であってもよい。しかしながら、複数のコイル配線導体7によるインダクタの巻き数を大きくするため、本実施形態におけるコイル配線導体7のように部分的に隙間を有するC形状であることが好ましい。例えば、コイル配線導体7が1つの線分からなる直線形状である場合、4層の第1の絶縁体層3によって1巻きの内部配線を形成しているが、コイル配線導体7が部分的に隙間を有する略環形状である、いわゆるC形状である場合、1層の第1の絶縁体層3によって約1巻きの内部配線を形成することができる。
【0026】
コイル配線導体7としては、ビア導体9と同様に導電性の良好な部材を用いることが好ましい。具体的には、例えば、銅、銀、金、白金、やニッケルのような金属材料粉末に絶縁材料との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体をビア導体9として用いることができる。上記の金属材料は単一で用いてもよく、また、合金、混合物として用いてもよい。
【0027】
本実施形態の積層型電子部品1では、コイル配線導体7の積層方向の厚みよりもビア導体9の積層方向の厚みが小さい。第2の絶縁体層11の積層方向の厚みよりも第1の絶縁体層3の積層方向の厚みが小さく、さらに、コイル配線導体7の積層方向の厚みよりもビア導体9の積層方向の厚みが小さいことから、ビア導体9および第1の絶縁体層3からなる層全体の厚みを、コイル配線導体7および第2の絶縁体層11からなる層全体の厚みよ
りも小さくすることができる。結果として、積層型電子部品1全体の厚みを小さくすることができる。
【0028】
本実施形態の積層型電子部品1では、コイル配線導体7を配置した第2の絶縁体層11の両側に配置される互いに隣接する第1の絶縁体層3に配置されるビア導体9を平面透視した場合に、複数のビア導体9が互いに重なり合っていない。
【0029】
特に、本実施形態の積層型電子部品1のように、複数のビア導体9を積層方向から平面透視した場合に、複数のビア導体9のうち互いに隣り合うビア導体9の間隔が略一定であることが好ましい。これにより、ビア導体9および第1の絶縁体層3の熱膨張係数が互いに異なることに起因する応力の集中をさらに抑制することができる。言い換えれば、上記の応力のばらつきを小さくすることができるので、積層型電子部品1の耐久性をさらに向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態の積層型電子部品1のように、複数のビア導体9を積層方向から平面透視した場合に、積層方向に隣り合うビア導体9が互いに隣接していることが好ましい。言い換えれば、複数のビア導体9のうち積層方向に互いに隣接するビア導体9が複数のビア導体9を平面透視した場合に隣り合っていることから、それぞれのコイル配線導体7を略環状である、いわゆるC字形状とすることができる。さらにそれぞれのコイル配線導体7が部分的に有する隙間も最小限の大きさとすることができる。そのため、複数のコイル配線導体7によるインダクタの巻き数をさらに大きくすることができる。
【0031】
なお、本実施形態における「互いに隣接するビア導体9の間隔が略一定」とは、互いに隣接するビア導体9の間隔が厳密に一定であることに限られるものではなく、製造工程上で不可避であるビア導体9の位置ずれ或いはビア導体9の幅のバラつきに起因する程度のビア導体9の間隔のバラつきを有する構成も含むものである。
【0032】
本実施形態の積層型電子部品1は、第1の絶縁体層3と第2の絶縁体層11とを交互に積層してなる積層体5の表面(図2においては積層体5の上面および下面)であってコイル配線導体7またはビア導体9と電気的に接続された外部電極13を備えている。外部電極13は、リード端子などを介して外部配線(不図示)と電気的に接続するための部材である。そのため、本実施形態における外部電極13は積層体5の上面に配設されているが、特にこれに限られるものではない。例えば、図6に示すように外部電極13は積層体5の側面に配設されていてもよい。なお、図6に示すように外部電極13は積層体5の側面に配設されている場合には、コイル配線導体7およびビア導体9が外部に露出しないように、積層体5の上面および下面に別途、第3の絶縁体層15を配設すればよい。
【0033】
外部電極13としては、ビア導体9と同様に導電性の良好な部材を用いることが好ましい。具体的には、例えば、銅、銀、金、白金、やニッケルのような金属材料粉末に絶縁材料との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体をビア導体9として用いることができる。上記の金属材料は単一で用いてもよく、また、合金、混合物として用いてもよい。
【0034】
また、外部電極13の積層体5から露出する表面には、メッキを形成することが好ましい。外部に露出する外部電極13が劣化することを抑制できるからである。また、リード端子などを介して外部電極13と外部配線(不図示)とを電気的に接続する場合には、外部電極13とリード端子との接合性を高めることができる。メッキとしては、例えば、ニッケルメッキ、銅メッキ、銀メッキ、金メッキおよび錫めっきを用いることができる。具体的には、例えば、外部電極13の積層体5から露出する表面にニッケルメッキを形成した後、さらにニッケルメッキの表面に金メッキを形成すればよい。
【0035】
次に、上記実施形態にかかる積層型電子部品1の製造方法について説明する。
【0036】
まず、第1の絶縁体層3となるセラミックグリーンシート17(第1のセラミックグリーンシート17)を作製する。具体的には、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有する原料粉末、有機溶剤並びにバインダを混ぜることにより混合部材を作製する。原料粉末としては、例えば、酸化珪素(SiO)、アルミナ(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化硼素(B)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)を用いることができる。混合部材をシート状に成形することにより複数のセラミックグリーンシートを作製することができる。なお、上記実施形態の積層型電子部品1のように第2の絶縁体層11を備えた構成とする場合には、第1の絶縁体層3となる第1のセラミックグリーンシート17と同様に第2のセラミックグリーンシート19を作製すればよく、第2のセラミックグリーンシート19の原料粉末としては、例えば、酸化鉄(Fe)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)を用いることができる。
【0037】
第1の絶縁体層3となる第1のセラミックグリーンシート17に上面および下面に開口するビアホールを形成する。そして、このビアホールにビア導体9となる第2の導体ペースト23を配設する。具体的には、ビアホールにビア導体9となる第2の導体ペースト23を充填する。これにより、ビア導体9を形成することができる。第2の導体ペースト23としては、例えば、銅、銀、金、白金、やニッケルのような金属材料粉末に絶縁材料との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体をビア導体9として用いることができる。上記の金属材料は単一、合金、混合物として用い、有機溶剤並びにバインダを混ぜたものをビア導体9用ペーストとして用いることができる。
【0038】
このとき、ビア導体9となる領域に対応する貫通孔を有するように混合部材をシート状に形成することによって第1の絶縁体層3となる第1のセラミックグリーンシート17を作製することができる。なお、上述のように貫通孔を有するように混合部材をシート状に形成してもよいが、第1のセラミックグリーンシート17を一枚のシート状に形成した後に貫通孔を形成することによってビア導体9となる領域を形成してもよい。
【0039】
第2の絶縁体層11となる第2のセラミックグリーンシート19の配線形成領域11aにコイル配線導体7となる第1の導体ペースト21を配設する。具体的には、第2の絶縁体層11となる第2のセラミックグリーンシート19の配線形成領域11aにコイル配線導体7となる第1の導体ペースト21を充填する。これにより、コイル配線導体7を形成することができる。第1の導体ペースト21としては、第2の導体ペースト23と同様に、例えば、銅、銀、金、白金、やニッケルのような金属材料粉末に絶縁材料との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体をコイル配線導体として用いることができる。上記の金属材料は単一、合金、混合物として用い、有機溶剤並びにバインダを混ぜたものコイル配線導体用ペーストとして用いることができる。配線形成領域11aに金属ペーストを充填する方法としては、例えば、スクリーン印刷法を用いればよい。
【0040】
上述の通り、第1の導体ペースト21が配線形成領域11aに充填された複数の第2のセラミックグリーンシート19および第2の導体ペースト23がビアホールに充填された複数の第1のセラミックグリーンシート17を、複数の第1の導体ペースト21が第2の導体ペースト23を介して接合されるように交互に積層して未焼成積層体25を作製する。このように、積層方向に隣り合う第1の導体ペースト21が第2の導体ペースト23を介して接続されるので、積層方向に隣り合うコイル配線導体7がビア導体9を介して電気的に接続された、積層型電子部品1の積層方向に向かって巻回されたコイル状の内部配線を形成することができる。
【0041】
このとき、第1のセラミックグリーンシート17に第2の導体ペースト23を充填するとともに、この第2の導体ペースト23が充填された第1のセラミックグリーンシート17に、第2のセラミックグリーンシート19および第1の導体ペースト21を順次印刷することによって部分積層体を形成し、部分積層体を複数積層することによって未焼成積層体25を形成してもよい。
【0042】
なお、本実施形態の積層型電子部品1の製造方法においては、第2の絶縁体層11となる第2のセラミックグリーンシート19を用いているが、第2の絶縁体層11となる第2のセラミックグリーンシート19は必ずしも必要ではなく、単に第1のセラミックグリーンシート17上に第1の導体ペースト21を積層してもよい。
【0043】
そして、本実施形態の積層型電子部品の製造方法においては、複数の第1の導体ペースト21および複数の第2の導体ペースト23を積層方向から平面透視した場合に、第1の導体ペースト21の少なくとも一部が互いに重なり合っており、かつ、複数の第2の導体ペースト23が互いに重なり合っていないことが肝要である。これにより、未焼成積層体25の焼成時における第1のセラミックグリーンシート17の熱収縮と第2の導体ペースト23の熱収縮の違いに起因する応力の集中を抑制することができる。また、焼成後の積層体5においてもビア導体9および第1の絶縁体層3の熱膨張係数が互いに異なることに起因する応力の集中を抑制することができる。
【0044】
また、第2のセラミックグリーンシート19の積層方向の厚みよりも第1のセラミックグリーンシート17の積層方向の厚みが小さいことが好ましい。これにより、積層型電子部品1としては積層方向に隣り合う第2の絶縁体層11の間に位置する第1の絶縁体層3の厚みを相対的に小さくすることができるので、積層型電子部品1全体の厚みを小さくすることができる。また、積層型電子部品1全体の厚みを小さくすることができることから、複数のコイル配線導体7によるインダクタの巻き数を大きくすることができる。
【0045】
また、未焼成積層体25の表面(図2においては積層体5の上面および下面)であって第1の導体ペースト21または第2の導体ペースト23と接続されるように外部電極13となる第3の導体ペースト27を配設してもよい。第3の導体ペースト27としては、第1の導体ペースト21と同様に、例えば、銅、銀、金、白金、やニッケルのような金属材料粉末に絶縁材料との密着性を加えるためのガラス質を添加した導体を用いることができる。上記の金属材料は単一、合金、混合物として用い、有機溶剤並びにバインダを混ぜたものをビア導体9用の導体ペーストとして用いることができる。
【0046】
上記の通り作製された未焼成積層体25を焼成することによって本実施形態の積層型電子部品を作製することができる。セラミックグリーンシートおよび導体ペーストとして用いる材料によって最適な焼成温度は異なるが、本実施形態の積層型電子部品の製造方法においては約850℃〜1000℃の温度で焼成すればよい。
【0047】
このように、本実施形態の積層型電子部品の製造方法は、上面および下面に開口するビアホールを有する第1のセラミックグリーンシート17を複数準備する工程と、コイル配線導体7となる第1の導体ペースト21を複数準備する工程と、ビアホールに第2の導体ペースト23を配設する工程と、複数の第1の導体ペースト21が第2の導体ペースト23を介して接合されるように、複数の第1のセラミックグリーンシート17および複数の第1の導体ペースト21を交互に積層して未焼成積層体25を形成する工程と、未焼成積層体25を焼成する工程とを備えている。そして、複数の第1の導体ペースト21および複数の第2の導体ペースト23を積層方向から平面透視した場合に、第1の導体ペースト21の少なくとも一部が互いに重なり合っており、かつ、複数の第2の導体ペースト23が互いに重なり合っていないことを特徴としている。
【0048】
また、上記の実施形態においては、未焼成積層体25の上面に第3の導体ペースト27を配設しているが特にこれに限られるものではない。例えば、未焼成積層体25を焼成した後に、コイル配線導体7およびビア導体9と電気的に接続されるように焼成済みの積層体5の表面に外部電極13を配設してもよい。外部電極13を焼成済みの積層体5の表面に配設する方法としては、例えば、周知の蒸着またはスパッタリングの手法を用いればよい。
【0049】
また、外部電極13の積層体5から露出する表面にメッキを形成する場合には、焼成済みの積層体5の表面に配設された外部電極13にメッキを形成すればよい。具体的には、例えば、外部電極13の積層体5から露出する表面をニッケルメッキで被膜した後、さらにニッケルメッキの表面を金メッキで被膜すればよい。
【0050】
なお、単体の積層型電子部品1の製造方法について示したが、積層方向に隣り合う第1の導体ペースト21が第2の導体ペースト23を介して接続された、積層方向に向かって巻回されたコイル状の内部配線となる導体ペーストが複数併設された未焼成積層体25の集合体を形成してもよい。このような未焼成積層体25の集合体を作製した後、それぞれの未焼成積層体25に分割するとともにそれぞれの未焼成積層体25を焼成することによって複数の積層型電子部品1を同時に作製することができる。また、上記する未焼成積層体25の集合体を同時焼成した後に、それぞれの積層型電子部品1に分割してもよい。
【0051】
上述の通り、本実施形態の積層型電子部品およびその製造方法について説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば、種々の変更や実施の形態の組み合わせを施すことは何等差し支えない。例えば、第1の絶縁体層3を絶縁体ペーストのコーティング手法によりコイル導体充填後の第2の絶縁体層11のVIA相当位置を除き形成した後に、VIA位置に導体ペーストを印刷し、その上に隣接する第2のコイル導体充填後の絶縁体層を積層しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1・・・積層型電子部品
3・・・絶縁体層(第1の絶縁体層)
5・・・積層体
7・・・コイル配線導体
9・・・ビア導体
11・・・第2の絶縁体層
11a・・・配線形成領域
13・・・外部電極
15・・・第3の絶縁体層
17・・・セラミックグリーンシート(第1のセラミックグリーンシート)
19・・・第2のセラミックグリーンシート
21・・・第1の導体ペースト
23・・・第2の導体ペースト
25・・・未焼成積層体
27・・・第3の導体ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面に開口するビアホールをそれぞれ有する複数の絶縁体層を積層してなる積層体と、
前記複数の絶縁体層間にそれぞれ位置する複数のコイル配線導体と、
前記ビアホールに充填された、前記絶縁体層を介して積層方向に隣り合う前記コイル配線導体をそれぞれ電気的に接続する複数のビア導体と、を備え、
前記複数のコイル配線導体および前記複数のビア導体を積層方向から平面透視した場合に、前記複数のコイル配線導体における少なくとも前記複数のビア導体と接する部分が互いに重なり合っており、かつ、前記複数のビア導体が互いに重なり合っていないことを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
前記複数のビア導体を積層方向から平面透視した場合に、積層方向に隣り合う前記ビア導体が互いに隣接していることを特徴とする請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記複数のビア導体を平面透視した場合に、前記複数のビア導体のうち互いに隣接する前記ビア導体の間隔が略一定であることを特徴とする請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記絶縁体層を第1の絶縁体層とした場合に、前記積層体が、前記第1の絶縁体層と、上面および下面に開口する配線形成領域を有する第2の絶縁体層とを交互に積層してなり、
前記コイル配線導体が前記配線形成領域に位置してなることを特徴とする請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記第1の絶縁体層および前記ビア導体の積層方向の厚みが、前記第2の絶縁体層および前記コイル配線導体の積層方向の厚みよりも小さいことを特徴とする請求項4に記載の積層型電子部品。
【請求項6】
前記コイル配線導体が、部分的に隙間を有するC形状であることを特徴とする請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項7】
前記第1の絶縁体層および前記第2の絶縁体層が、フェライトを含有していることを特徴とする請求項4に記載の積層型電子部品。
【請求項8】
上面および下面に開口するビアホールを有するセラミックグリーンシートを複数準備する工程と、
コイル配線導体となる第1の導体ペーストを複数準備する工程と、
前記ビアホールに第2の導体ペーストを配設する工程と、
複数の前記第1の導体ペーストが前記第2の導体ペーストを介して接合されるように、複数の前記セラミックグリーンシートおよび複数の第1の導体ペーストを交互に積層して未焼成積層体を形成する工程と、
前記未焼成積層体を焼成する工程と、を備え、
複数の前記第1の導体ペーストおよび複数の前記第2の導体ペーストを積層方向から平面透視した場合に、前記第1の導体ペーストの少なくとも一部が互いに重なり合っており、かつ、複数の前記第2の導体ペーストが互いに重なり合っていないことを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックグリーンシートを第1のセラミックグリーンシートとした場合に、
上面および下面に開口して前記第1の導体ペーストが内部に配設される配線形成領域を有する第2のセラミックグリーンシートを準備する工程をさらに備え、
前記第1のセラミックグリーンシートに前記第2の導体ペーストを充填するとともに、この前記第2の導体ペーストが充填された前記第1のセラミックグリーンシートに、前記第2のセラミックグリーンシートおよび前記第1の導体ペーストを順次印刷することによって部分積層体を形成し、該部分積層体を複数積層することによって前記未焼成積層体を形成することを特徴とする請求項8に記載の積層型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−38987(P2012−38987A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179252(P2010−179252)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】