説明

積層型電子部品の製造方法

【課題】 十分な接着性を維持しながら、接着層の薄層化が実現可能であり、接着層の形成に起因する層間剥離現象が有効に防止された積層型電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 電極層12aまたはグリーンシート10aの表面に、バインダ樹脂および可塑剤を含有する接着層28を形成する工程と、前記接着層28を介して、電極層12aとグリーンシート10aとを積層し、グリーンチップを形成する工程と、前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法であって、前記接着層28は、前記バインダ樹脂、前記可塑剤および溶剤を含有する接着層用ペーストを用いて形成される接着層用ペースト膜を、80℃超、160℃以下の温度で乾燥することにより形成されることを特徴とする積層型電子部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の小型化により、電子機器の内部に装着される電子部品の小型化および高性能化が進んでいる。電子部品の一つとして、積層セラミックコンデンサがあり、この積層セラミックコンデンサも小型化および高性能化が求められている。
【0003】
この積層セラミックコンデンサの小型化および高性能化、特に高容量化を進めるために、誘電体層の薄層化が強く求められており、最近では、誘電体グリーンシートの厚みが数μm以下になってきた。
【0004】
セラミックグリーンシートは、通常、まずセラミック粉末、バインダ(アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂など)、可塑剤および有機溶剤(トルエン、アルコール、MEKなど)からなるセラミック塗料を、ドクターブレード法などを用いてPETフィルムなどのキャリアシート上に塗布し、加熱乾燥させて製造される。
【0005】
また、近年、セラミック粉末とバインダが溶媒に混合されたセラミック懸濁液を準備し、この懸濁液を押出成形して得られるフィルム状成形体を二軸延伸して製造することも検討されている。
【0006】
前述のセラミックグリーンシートを用いて、積層セラミックコンデンサを製造する方法を具体的に説明すると、セラミックグリーンシート上に、金属粉末とバインダを含む内部電極用導電性ペーストを所定パターンで印刷し、乾燥させて内部電極パターンを形成する。次に、前記セラミックグリーンシートからキャリアシートを剥離し、これらを複数、積層したものをチップ状に切断してグリーンチップとする。次に、このグリーンチップを焼成した後、外部電極を形成する。
【0007】
近年では、積層セラミックコンデンサの使用範囲の増大と共に、小型高容量化が市場の要求となっており、そのためには、内部電極が形成されるシートの層間厚みは年々薄層化の一途を辿っている。
【0008】
ところが、薄層化したセラミックグリーンシートに内部電極用ペーストを印刷する場合に、内部電極用ペースト中の溶剤がセラミックグリーンシートのバインダ成分を溶解または膨潤させるという不具合がある。また、グリーンシート中に内部電極用ペーストが染み込むという不具合もある。これらの不具合は、短絡不良の発生原因となる場合が多い。
【0009】
このような不具合を解消するために、下記の特許文献1〜3では、内部電極パターンを支持シートに形成した後に乾燥させ、乾式タイプの電極パターンを別に準備している。この乾式タイプの電極パターンを、各セラミックグリーンシートの表面、あるいはセラミックグリーンシートの積層体の表面に転写する内部電極パターン転写法が提案されている。
【0010】
ところが、これらの特許文献1〜3に示す技術では、特にグリーンシートの厚みが薄い場合に、電極パターン層をグリーンシートの表面に良好に接着して高精度に転写することは極めて困難であり、転写工程において、セラミックグリーンシートが部分的に破壊されてしまうこともある。
【0011】
また、これらの従来技術に係る転写法では、電極パターン層をグリーンシートの表面に転写するために、高い圧力と熱を必要とし、このためにグリーンシート、電極層および支持シートの変形が起こりやすく、積層時に実用に供することができないものとなったり、グリーンシートの破壊により、短絡不良を引き起こす可能性がある。
【0012】
これに対して、本出願人は、既に乾式タイプの電極層を転写する際に、バインダ樹脂および可塑剤を含有する接着層を介して転写する方法を提案している(特許文献4)。この文献の技術によれば、グリーンシートを薄層化した場合においても、グリーンシートの表面に容易且つ高精度に乾式タイプの電極層を転写することが可能となった。しかしながら、このような接着層に、十分な接着性を発揮させるために、接着層の厚みを比較的に厚くすると(たとえば、0.2μmより厚くすると)、脱バインダ工程において、接着層に含有されるバインダ樹脂が分解されずに残り、焼結後の素体内部にボイドが形成され、その影響で層間剥離が発生してしまうという課題があった。一方で、上記問題を解決するために、接着層の厚みを薄くすると、接着性が不十分になってしまい、同様に層間剥離が発生してしまうという課題があった。
【0013】
【特許文献1】特開昭63−51616号公報
【特許文献2】特開平3−250612号公報
【特許文献3】特開平7−312326号公報
【特許文献4】国際公開第2004/61880号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、接着層を介して、グリーンシートと電極層とを積層することにより、グリーンシートを薄層化した場合においても、グリーンシートが破壊または変形されることなく、グリーンシートの表面に容易且つ高精度に乾式タイプの電極層を転写することができ、特に、十分な接着性を維持しながら、接着層の薄層化が実現可能であり、接着層の形成に起因する層間剥離現象が有効に防止された積層型電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、電極層またはグリーンシートの表面に、接着層を形成する際に、所定の条件で乾燥処理を行うことにより、本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明の第1の観点に係る積層型電子部品の製造方法は、
電極層またはグリーンシートの表面に、バインダ樹脂および可塑剤を含有する接着層を形成する工程と、
前記接着層を介して、電極層とグリーンシートとを積層し、グリーンチップを形成する工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法であって、
前記接着層は、前記バインダ樹脂、前記可塑剤および溶剤を含有する接着層用ペーストを用いて形成される接着層用ペースト膜を、80℃超、160℃以下の温度で乾燥することにより形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の観点に係る積層型電子部品の製造方法は、
電極層またはグリーンシートの表面に、バインダ樹脂および可塑剤を含有する接着層を形成する工程と、
前記接着層を介して、電極層とグリーンシートとを積層し、グリーンチップを形成する工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法であって、
前記接着層は、前記バインダ樹脂、前記可塑剤および溶剤を含有する接着層用ペーストを用いて形成される接着層用ペースト膜を乾燥することにより形成され、
乾燥後の前記接着層が前記接着層をその表面に形成した前記電極層または前記グリーンシートを実際に被覆する面積の割合である被覆率が、5%〜50%となるように、前記乾燥を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明の第1の観点および第2の観点に係る積層型電子部品の製造方法では、電極層またはグリーンシートの表面に、接着層を形成し、その接着層を介して、電極層とグリーンシートとを接着する。接着層を形成することで、電極層とグリーンシートとを接着させる際に、高い圧力や熱が不要となり、より低圧および低温での接着が可能になる。したがって、グリーンシートが極めて薄い場合でも、グリーンシートが破壊されることはなくなり、電極層とグリーンシートとの積層を良好に行うことができ、短絡不良などの発生を有効に防止することができる。
【0019】
しかも、本発明の第1の観点および第2の観点に係る積層型電子部品の製造方法では、接着層を形成する際に、上記条件で乾燥処理を行う。特に、上記条件で乾燥処理を行うことにより、接着層中の可塑剤を、接着層表面に滲み出し、その滲み出した可塑剤が粘着付与剤の役割を果たし、接着層の接着性を向上させることができる。
【0020】
好ましくは、前記接着層の平均膜厚を0.02〜0.2μmの範囲、より好ましくは0.02〜0.1μmの範囲と、薄層化する。
本発明では、接着層を形成する際に、上記所定の条件で乾燥処理を行うため、このように接着層の厚みを薄層化した場合においても、接着性(スタック強度)を十分に保つことができる。ただし、接着層の平均膜厚が薄すぎると、接着性が低下してしまい、複数の電極層とグリーンシートとから構成される積層体から支持シートを剥離する際に、電極層とグリーンシートとの間の転写界面が破断してしまい、この破断が欠陥となり、ショート不良の原因となる。さらに、電極層とグリーンシートとの間の転写界面での密着が不十分となり、焼結後に層間剥離現象が発生してしまう。一方、接着層が厚すぎると、脱バインダ工程において、接着層に含有されるバインダ樹脂が分解されずに残ってしまい、焼結後の素体内部にボイドが形成され、その影響で層間剥離が発生してしまう。さらに、接着層の厚みが厚すぎると、その接着層の厚みに依存して焼結後の素子本体の内部に隙間ができやすく、その体積分の静電容量が著しく低下する傾向にある。
【0021】
好ましくは、前記接着層は、最初に支持シートの表面に剥離可能に形成され、前記電極層の表面または前記グリーンシートの表面に押し付けられて転写される。電極層またはグリーンシートの表面に接着層を直接塗布法などで形成せずに、転写法により形成することで、接着層の成分が電極層またはグリーンシートに染み込むことがないと共に、極めて薄い接着層の形成が可能になる。
【0022】
好ましくは、前記接着層は、前記接着層をその表面に形成した前記電極層または前記グリーンシートを、実際に被覆している被覆部分と、実質的に被覆していない非被覆部分と、を有している。本発明においては、非被覆部分は、接着層を形成する際における乾燥処理条件を上記所定の範囲とした結果、接着層に含有されている可塑剤が滲み出してくることにより、形成される。そのため、非被覆部分は、通常、円形状のハジキ部分として観察される。
【0023】
好ましくは、前記非被覆部分(ハジキ部分)のうち、その直径が最大である最大非被覆部分(最大ハジキ部分)の直径が80μm以下、より好ましくは50μm以下である。最大ハジキ部分の直径が大きすぎると、接着性が低下してしまう傾向にある。
【0024】
好ましくは、前記被覆部分の厚みが、0.05〜4μmの範囲、より好ましくは0.1〜2μmの範囲である。
本発明においては、前記非被覆部分(ハジキ部分)には、実質的に接着層を構成する成分(バインダ樹脂や可塑剤等)が存在せず、実際の厚みは、ほぼゼロとなる。一方で、乾燥処理前には前記非被覆部分(ハジキ部分)に存在していた接着層を構成する成分が、前記被覆部分側へとハジキ出されることとなる。そのため、被覆部分の厚みは、上記した前記接着層の平均膜厚よりも厚くなる傾向にある。なお、この場合の前記接着層の平均膜厚は、前記非被覆部分(ハジキ部分)の厚みと被覆部分の厚みとを、その存在割合に応じて、平均化したものとなる。
【0025】
接着層中に含有される前記バインダ樹脂としては、特に限定されず、前記グリーンシートに含有されるバインダ樹脂と同種のものを使用すれば良い。このような樹脂としては、アクリル系樹脂およびブチラール系樹脂から選択される1種以上が好適に用いられる。
【0026】
好ましくは、前記接着層中における前記可塑剤の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して、10〜100質量部である。
好ましくは、前記接着層に含有される前記可塑剤がフタル酸エステルである。フタル酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチルなどが例示される。
【0027】
好ましくは、前記グリーンシートの厚みが2μm以下である。本発明は、グリーンシートを薄層化した場合、特にグリーンシートの厚みを2μm以下の場合に効果が大きい。
【0028】
好ましくは、前記電極層は、剥離層を介して、支持シートの表面に所定パターンで形成され、前記電極層が形成されていない剥離層の表面には、前記電極層と実質的に同じ厚みの余白パターン層が形成され、前記余白パターン層が、前記グリーンシートと実質的に同じ材質で構成してある。
【0029】
余白パターン層を形成することで、所定パターンの電極層による表面の段差が解消される。そのため、グリーンシートを多数積層してグリーンチップとし、焼成前のグリーンチップを加圧しても、積層体の外面が平面に保たれると共に、電極層が平面方向に位置ズレすることなく、しかも、グリーンシートを突き破り短絡の原因などになることもない。
【0030】
なお、本発明により製造される積層型電子部品としては、特に限定されないが、たとえば積層セラミックコンデンサ、積層インダクタ素子などが例示される。
【0031】
また、本発明において、電極層とは、焼成後に内部電極層となる電極ペースト膜を含む概念で用いる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、接着層を介して、グリーンシートと電極層とを積層するため、グリーンシートを薄層化した場合においても、グリーンシートが破壊または変形されることなく、グリーンシートの表面に容易且つ高精度に乾式タイプの電極層を転写することが可能であるコストが安価な積層型電子部品の製造方法を提供することができる。しかも、本発明においては、接着層を形成する際に、所定の条件で乾燥処理を行うため、十分な接着性を維持しながら、接着層の薄層化を実現することができ、接着層の形成に起因する層間剥離現象を有効に防止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図、図2(A)〜図2(C)および図3(A)〜図3(C)は電極層の転写方法を示す要部断面図、図4(A)〜図4(C)、図5(A)〜図5(C)は積層体ユニットの積層方法を示す要部断面図、図6(A)は本発明の実施例に係る接着層の表面写真、図6(B)、図6(C)は比較例に係る接着層の表面写真である。
【0034】
積層セラミックコンデンサ
まず、本発明に係る方法により製造される電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、誘電体層10と内部電極層12とが交互に積層された構成のコンデンサ素体4を有する。このコンデンサ素体4の両側端部には、素体4の内部で交互に配置された内部電極層12と各々導通する一対の外部電極6,8が形成してある。内部電極層12は、各側端面がコンデンサ素体4の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極6,8は、コンデンサ素体4の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層12の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0035】
本実施形態では、内部電極層12は、後で詳細に説明するように、図2〜図5に示すように、電極層12aをセラミックグリーンシート10aに転写して形成される。
【0036】
誘電体層10の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。各誘電体層10の厚みは、特に限定されないが、数μm〜数百μmのものが一般的である。特に本実施形態では、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下に薄層化されている。
【0037】
端子電極6および8の材質も特に限定されないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。端子電極6および8の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0038】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦(0.6〜5.6mm、好ましくは0.6〜3.2mm)×横(0.3〜5.0mm、好ましくは0.3〜1.6mm)×厚み(0.1〜1.9mm、好ましくは0.3〜1.6mm)程度である。
【0039】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
【0040】
(1)まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を構成することになるセラミックグリーンシートを製造するために、誘電体ペーストを準備する。
誘電体ペーストは、通常、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。
【0041】
誘電体原料としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。誘電体原料は、通常、平均粒子径が0.4μm以下、好ましくは0.1〜3.0μm程度の粉末として用いられる。なお、極めて薄いグリーンシートを形成するためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉末を使用することが望ましい。
【0042】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いられるバインダとしては、特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂などの通常の各種バインダが用いられるが、好ましくは、アクリル系樹脂や、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂が用いられる。
【0043】
また、有機ビヒクルに用いられる有機溶剤も特に限定されず、テルピネオール、アルコール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエンなどの有機溶剤が用いられる。また、水系ペーストにおけるビヒクルは、水に水溶性バインダを溶解させたものである。水溶性バインダとしては特に限定されず、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョンなどが用いられる。誘電体ペースト中の各成分の含有量は特に限定されず、通常の含有量、たとえばバインダは1〜5質量%程度、溶剤(または水)は10〜50質量%程度とすればよい。
【0044】
誘電体ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されても良い。ただし、これらの総含有量は、10質量%以下とすることが望ましい。バインダ樹脂として、ブチラール系樹脂を用いる場合には、可塑剤は、バインダ樹脂100質量部に対して、25〜100質量部の含有量であることが好ましい。可塑剤が少なすぎると、グリーンシートが脆くなる傾向にあり、多すぎると、可塑剤が滲み出し、取り扱いが困難である。
【0045】
そして、この誘電体ペーストを用いて、ドクターブレード法などにより、図3(A)に示すように、第2支持シートとしてのキャリアシート30上に、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは0.5〜10μm程度の厚みで、グリーンシート10aを形成する。グリーンシート10aは、キャリアシート30に形成された後に乾燥される。グリーンシート10aの乾燥温度は、好ましくは50〜100℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。乾燥後のグリーンシート10aの厚みは、乾燥前に比較して、5〜25%の厚みに収縮する。乾燥後のグリーンシートの厚みは、2μm以下が好ましい。
【0046】
(2)上記のキャリアシート30とは別に、図2(A)に示すように、第1支持シートとしてのキャリアシート20を準備し、その上に、剥離層22を形成し、その上に、所定パターンの電極層12aを形成し、その前後に、その電極層12aが形成されていない剥離層22の表面に、電極層12aと実質的に同じ厚みの余白パターン層24を形成する。
【0047】
キャリアシート20および30(第1および第2支持シート)としては、たとえばPETフィルムなどが用いられ、剥離性を改善するために、シリコンなどがコーティングしてあるものが好ましい。これらのキャリアシート20および30の厚みは、特に限定されないが、好ましくは、5〜100μmである。これらのキャリアシート20および30の厚みは、同じでも異なっていても良い。
【0048】
剥離層22は、好ましくは図3(A)に示すグリーンシート10aを構成する誘電体と同じ誘電体粒子を含む。また、この剥離層22は、誘電体粒子以外に、バインダと、可塑剤と、離型剤とを含む。誘電体粒子の粒径は、グリーンシートに含まれる誘電体粒子の粒径と同じでも良いが、より小さいことが好ましい。
【0049】
本実施形態では、剥離層22の厚みは、電極層12aの厚み以下の厚みであることが好ましく、好ましくは60%以下の厚み、さらに好ましくは30%以下に設定する。
【0050】
剥離層22の塗布方法としては、特に限定されないが、極めて薄く形成する必要があるために、たとえばワイヤーバーコーターまたはダイコーターを用いる塗布方法が好ましい。なお、剥離層22の厚みの調整は、異なるワイヤー径のワイヤーバーコーターを選択することで行うことができる。すなわち、剥離層22の塗布厚みを薄くするためには、ワイヤー径の小さいものを選択すれば良く、逆に厚く形成するためには、太いワイヤー径のものを選択すればよい。剥離層22は、塗布後に乾燥される。乾燥温度は、好ましくは、50〜100℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜10分である。
【0051】
剥離層22のためのバインダとしては、たとえば、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体からなる有機質、またはエマルジョンで構成される。剥離層22に含まれるバインダは、グリーンシート10aに含まれるバインダと同じでも異なっていても良いが同じであることが好ましい。
【0052】
剥離層22のための可塑剤としては、特に限定されないが、たとえばフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。剥離層22に含まれる可塑剤は、グリーンシート10aに含まれる可塑剤と同じでも異なっていても良い。
【0053】
剥離層22のための離型剤としては、特に限定されないが、たとえばパラフィン、ワックス、シリコーン油などが例示される。剥離層22に含まれる離型剤は、グリーンシート10aに含まれる離型剤と同じでも異なっていても良い。
【0054】
バインダは、剥離層22中に、誘電体粒子100質量部に対して、好ましくは2.5〜200質量部、さらに好ましくは5〜30質量部、特に好ましくは8〜30質量部程度で含まれる。ただし、剥離層22に含まれる誘電体粒子に対するバインダの含有割合は、グリーンシート10aに含まれる誘電体粒子に対するバインダの含有割合よりも、好ましくは10〜50%程度少なくする。剥離層22の剥離強度を弱めるためである。
【0055】
可塑剤は、剥離層22中に、バインダ100質量部に対して、0〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含まれることが好ましい。ただし、剥離層22に含まれるバインダに対する可塑剤の含有割合は、グリーンシート10aに含まれるバインダに対する可塑剤の含有割合よりも、好ましくは10〜100%程度多くする。剥離層22の強度を弱めるためである。
【0056】
離型剤は、剥離層22中に、バインダ100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは2〜50質量部、特に5〜20質量部で含まれることが好ましい。ただし、剥離層22に含まれるバインダに対する離型剤の含有割合は、グリーンシート10aに含まれるバインダに対する剥離剤の含有割合よりも、好ましくは10〜400%程度多くする。剥離層22の強度を弱めるためである。
【0057】
剥離層22をキャリアシート30の表面に形成した後、図2(A)に示すように、剥離層22の表面に、焼成後に内部電極層12を構成することになる電極層12aを所定パターンで形成する。電極層12aの厚さは、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.1〜1.0μm程度である。電極層12aは、単一の層で構成してあってもよく、あるいは2以上の組成の異なる複数の層で構成してあってもよい。
【0058】
電極層12aは、たとえば電極ペーストを用いる印刷法などの厚膜形成方法、あるいは蒸着、スパッタリングなどの薄膜法により、剥離層22の表面に形成することができる。厚膜法の1種であるスクリーン印刷法あるいはグラビア印刷法により、剥離層22の表面に電極層12aを形成する場合には、以下のようにして行う。
【0059】
まず、電極ペーストを準備する。電極ペーストは、各種導電性金属や合金からなる導電体材料、あるいは焼成後に上記した導電体材料となる各種酸化物、有機金属化合物、またはレジネート等と、有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0060】
電極ペーストを製造する際に用いる導体材料としては、NiやNi合金さらにはこれらの混合物を用いる。このような導体材料は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合したものであってもよい。また、導体材料の平均粒子径は、通常、0.1〜2μm、好ましくは0.2〜1μm程度のものを用いればよい。
【0061】
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、エチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体などが例示されるが、特にポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂が好ましい。
【0062】
バインダは、電極ペースト中に、導体材料(金属粉末)100質量部に対して、好ましくは8〜20質量部含まれる。溶剤としては、たとえばテルピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等公知のものはいずれも使用可能である。溶剤含有量は、ペースト全体に対して、好ましくは20〜55質量%程度とする。
【0063】
接着性の改善のために、電極ペーストには、可塑剤が含まれることが好ましい。可塑剤としては、フタル酸ベンジルブチル(BBP)などのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。可塑剤の含有量は、電極ペースト中に、バインダ100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部、さらに好ましくは10〜200質量部である。なお、可塑剤または粘着剤の添加量が多すぎると、電極層12aの強度が著しく低下する傾向にある。また、電極層12aの転写性を向上させるために、電極ペースト中に、可塑剤および/または粘着剤を添加して、電極ペーストの接着性および/または粘着性を向上させることが好ましい。
【0064】
剥離層22の表面に、所定パターンの電極ペースト層を印刷法で形成した後、またはその前に、電極層12aが形成されていない剥離層22の表面に、電極層12aと実質的に同じ厚みの余白パターン層24を形成する。余白パターン層24は、図3(A)に示すグリーンシート10aと同様な材質で構成され、同様の方法により形成される。電極層12aおよび余白パターン層12aは、必要に応じて乾燥される。乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは70〜120℃であり、乾燥時間は、好ましくは5〜15分である。
【0065】
(3)上記のキャリアシート20および30とは別に、図2(A)に示すように、第3支持シートとしてのキャリアシート26の表面に接着層28が形成してある接着層転写用シートを準備する。キャリアシート26は、キャリアシート20および30と同様なシートで構成される。
【0066】
接着層28は、バインダと、可塑剤と、を含む。接着層28には、グリーンシート10aを構成する誘電体と同じ誘電体粒子を含ませても良いが、本実施形態では、剥離層28を薄層化させるため、誘電体粒子を含ませない方がよい。
【0067】
接着層28のためのバインダとしては、たとえば、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体からなる有機質、またはエマルジョンで構成される。接着層28に含まれるバインダは、グリーンシート10aに含まれるバインダと同じでも異なっていても良いが同じであることが好ましく、特に、アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂が好ましい。
【0068】
接着層28のための可塑剤としては、特に限定されないが、たとえばフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。これらのなかでも、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル等のフタル酸エステルが好ましい。
【0069】
接着層28中における可塑剤の含有量は、バインダ100質量部に対して、個好ましくは10〜100質量部、より好ましくは30〜80質量部である。
【0070】
接着層28は、さらに帯電除剤を含んでいても良い。帯電除剤は、イミダゾリン系界面活性剤の中の1つを含み、帯電除剤の重量基準添加量は、バインダ樹脂の重量基準添加量以下であることが好ましい。すなわち、帯電除剤は、接着層28中に、バインダ100質量部に対して、0〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含まれることが好ましい。
【0071】
本実施形態においては、接着層28は、平均膜厚が、好ましくは0.02〜0.2μm、より好ましくは0.02〜0.1μmと薄層化する。なお、この平均厚みは、後に説明する被覆部分の厚みと、非被覆部分(ハジキ部分)の厚みとを、その存在割合に応じて、平均化したものである。
【0072】
接着層28の厚みが薄すぎると、接着力が低下してしまい、接着層を形成した効果が得られなくなってしまう。一方、厚すぎると、その接着層の厚みに依存して焼結後の素子本体の内部に隙間ができやすく、層間剥離の原因となる他、その体積分の静電容量が著しく低下する傾向にある。
【0073】
接着層28は、以下の方法により、第3支持シートとしてのキャリアシート26の表面に形成される。すなわち、まず、接着層用ペーストを使用して、たとえばバーコータ法、ダイコータ法、リバースコータ法、ディップコーター法、キスコーター法などの方法により、キャリアシート26の表面に接着層用ペースト膜を形成する。次いで、この接着層用ペースト膜に乾燥処理を施して、接着層28とする。なお、接着層用ペーストに含有される溶剤としては、特に限定されず、たとえば、上記した誘電体ペーストと同様のものが使用できる。
【0074】
次いで、キャリアシート26の表面に形成した接着層28を、転写法により、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に転写する。すなわち、図2(B)に示すように、キャリアシート26の接着層28を、図2(B)に示すように、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に押し付け、加熱加圧して、その後キャリアシート26を剥がすことにより、図2(C)に示すように、接着層28を、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に転写する。なお、接着層28の転写は、図3(A)に示すグリーンシート10aの表面に対して行っても良い。転写時の加熱温度は、40〜100℃が好ましく、また、加圧力は、0.2〜15MPaが好ましい。加圧は、プレスによる加圧でも、カレンダロールによる加圧でも良いが、一対のロールにより行うことが好ましい。
【0075】
本実施形態では、上記キャリアシート26上に形成した接着層用ペースト膜を乾燥する際における乾燥処理条件を所定の条件とする。すなわち、乾燥温度を、80℃超、160℃以下、好ましくは120〜140℃とし、接着層のキャリアシート26に対する被覆率を5%〜50%、好ましくは10〜30%とする。上記被覆率は、接着層を構成する成分が実質的に存在していない非被覆部分(ハジキ部分)が全く無いと仮定した場合に、接着層がPETフィルムを被覆する理想面積を100%とし、接着層がキャリアシート26を実際に被覆する面積の割合で定義される。なお、乾燥時間は、特に限定されないが、1〜10分とすることが好ましい。
【0076】
また、この接着層28は、その後、キャリアシート26から電極層12aおよび余白パターン層24の表面に転写される事となるが、本実施形態では、この接着層28を電極層12aおよび余白パターン層24に転写する際には、上記被覆率を保ったまま、転写されるように転写条件を設定する。そのため、接着層28のキャリアシート26に対する被覆率は、接着層28の電極層12aおよび余白パターン層24に対する被覆率とほぼ等しくなる。
【0077】
接着層28を形成する際に上記のような条件で乾燥処理を行うことにより、接着層中に含有されている可塑剤が、接着層表面に滲み出し、その滲み出した可塑剤が粘着付与剤の役割を果たし、接着層28の接着性を向上させることができる。そのため、本実施形態によると、接着層28の平均膜厚を上記のように薄層化した場合においても、接着層28の接着性を高く保つことができる。乾燥温度が低すぎると、このような効果が得られなくなり、一方、乾燥温度を高くし過ぎると、キャリアシート26が熱変形を起こしてしまい、転写可能な接着層を得ることができない。また、上記被覆率が低すぎても高すぎても、接着性が低下してしまい、積層ユニットとした後に、キャリアシート20を剥離する際に、電極層12aとグリーンシート10aとの転写界面が破断してしまう。そして、これがシート欠陥となり、ショート不良の原因となってしまうとともに、焼結後における層間剥離が多数発生してしまう。
【0078】
また、接着層28には、電極層12aおよび余白パターン層24(あるいは、キャリアシート26)の表面を実際に被覆している被覆部分と、実質的に被覆していない非被覆部分と、を有している。なお、非被覆部分には、実質的に接着層を構成する成分(バインダ樹脂や可塑剤等)が存在せず、実際の厚みは、ほぼゼロとなる。この非被覆部分は、可塑剤が接着層28の表面に滲み出すことにより形成されるハジキ部分であり、通常は円形状をしている。
【0079】
なお、これら被覆部分と非被覆部分(ハジキ部分)との割合は、上述した被覆率と深く関係している。すなわち、たとえば、上記被覆率が30%である場合には、接着層28中において、被覆部分の面積割合は30%であり、非被覆部分(ハジキ部分)の面積割合は70%となる。
【0080】
本実施形態では、非被覆部分(ハジキ部分)のうち、その直径が最大である最大非被覆部分(最大ハジキ部分)の直径が、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下である。最大ハジキ部分の直径が大きすぎると、接着層28の接着性が低下してしまう傾向にある。
【0081】
また、被覆部分の厚みは、好ましくは0.05〜4μmの範囲、より好ましくは0.1〜2μmの範囲である。被覆部分は、乾燥処理前には非被覆部分(ハジキ部分)に存在していた成分が、被覆部分側へとハジキ出されることにより形成される部分である。そのため、この被覆部分の厚みは、上記した平均膜厚(好ましくは0.02〜0.2μm、より好ましくは0.02〜0.1μm)よりも、厚くなる傾向にある。
【0082】
(4)その後に、電極層12aを、図3(A)に示すキャリアシート30の表面に形成してあるグリーンシート10aの表面に接着する。そのために、図3(B)に示すように、キャリアシート20の電極層12aおよび余白パターン層24を、接着層28を介して、グリーンシート10aの表面にキャリアシート20と共に押し付け、加熱加圧して、図3(C)に示すように、電極層12aおよび余白パターン層24を、グリーンシート10aの表面に転写する。ただし、グリーンシート側のキャリアシート30が引き剥がされることから、グリーンシート10a側から見れば、グリーンシート10aが電極層12aおよび余白パターン層24に接着層28を介して転写される。
【0083】
この転写時の加熱および加圧は、プレスによる加圧・加熱でも、カレンダロールによる加圧・加熱でも良いが、一対のロールにより行うことが好ましい。その加熱温度および加圧力は、接着層28を転写するときと同様である。
【0084】
図2(A)〜図3(C)に示す工程により、単一のグリーンシート10a上に、単一層の所定パターンの電極層12aが形成される。
【0085】
次いで、図4(A)〜図4(C)に示すように、グリーンシート10aにおける反電極層側表面(裏面)に、接着層28を転写し、グリーンシート10a、電極層12aおよび余白パターン層24からなる積層体ユニットを得る。その後、図5(A)に示すように、この積層体ユニットと基材40とを、基材40を吸引保持台50で支持した状態で、グリーンシート10a表面に形成した接着層28を介して接着し、積層する。なお、積層体ユニットと基材40との積層は、プレスによって行う。その後に、図5(B)に示すように、上側のキャリアシート20を引き剥がし、図5(C)に示すように、別の積層体ユニットを積層する。そして、図5(B)、図5(C)に示す工程を繰り返し、所望の積層数を有する積層体を得る。なお、基材40としては特に限定されないが、たとえば、外層用のグリーンシート(電極層が形成されていないグリーンシートを複層積層した厚めの積層体)などが使用できる。
【0086】
(5)その後、この積層体を最終加圧する。最終加圧時の圧力は、好ましくは10〜200MPaである。また、加熱温度は、40〜100℃が好ましい。その後に、積層体を所定サイズに切断し、グリーンチップを形成する。このグリーンチップは、脱バインダ処理、焼成処理が行われ、そして、誘電体層を再酸化させるため、熱処理が行われる。
【0087】
脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、内部電極層の導電体材料にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、特に下記の条件で行うことが好ましい。
【0088】
昇温速度:5〜300℃/時間、特に10〜50℃/時間、
保持温度:200〜400℃、特に250〜350℃、
保持時間:0.5〜20時間、特に1〜10時間、
雰囲気 :加湿したNとHとの混合ガス。
【0089】
焼成条件は、下記の条件が好ましい。
昇温速度:50〜500℃/時間、特に200〜300℃/時間、
保持温度:1100〜1300℃、特に1150〜1250℃、
保持時間:0.5〜8時間、特に1〜3時間、
冷却速度:50〜500℃/時間、特に200〜300℃/時間、
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス等。
【0090】
ただし、焼成時の空気雰囲気中の酸素分圧は、10−2Pa以下、特に10−2〜10−8Paにて行うことが好ましい。前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にあり、また、酸素分圧があまり低すぎると、内部電極層の電極材料が異常焼結を起こし、途切れてしまう傾向にある。
【0091】
このような焼成を行った後の熱処理は、保持温度または最高温度を、好ましくは1000℃以上、さらに好ましくは1000〜1100℃とする。熱処理時の保持温度または最高温度が、前記範囲未満では誘電体材料の酸化が不十分なために絶縁抵抗寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲を超えると内部電極のNiが酸化し、容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、寿命も短くなる傾向にある。熱処理の際の酸素分圧は、焼成時の還元雰囲気よりも高い酸素分圧であり、好ましくは10−3Pa〜1Pa、より好ましくは10−2Pa〜1Paである。前記範囲未満では、誘電体層2の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層3が酸化する傾向にある。そして、そのほかの熱処理条件は下記の条件が好ましい。
【0092】
保持時間:0〜6時間、特に2〜5時間、
冷却速度:50〜500℃/時間、特に100〜300℃/時間、
雰囲気用ガス:加湿したNガス等。
【0093】
なお、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は0〜75℃程度が好ましい。また脱バインダ処理、焼成および熱処理は、それぞれを連続して行っても、独立に行ってもよい。これらを連続して行なう場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成の際の保持温度まで昇温して焼成を行ない、次いで冷却し、熱処理の保持温度に達したときに雰囲気を変更して熱処理を行なうことが好ましい。一方、これらを独立して行なう場合、焼成に際しては、脱バインダ処理時の保持温度までNガスあるいは加湿したNガス雰囲気下で昇温した後、雰囲気を変更してさらに昇温を続けることが好ましく、熱処理時の保持温度まで冷却した後は、再びNガスあるいは加湿したNガス雰囲気に変更して冷却を続けることが好ましい。また、熱処理に際しては、Nガス雰囲気下で保持温度まで昇温した後、雰囲気を変更してもよく、熱処理の全過程を加湿したNガス雰囲気としてもよい。
【0094】
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、例えばバレル研磨、サンドプラスト等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。端子電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した電極ペーストと同様にして調製すればよい。
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0095】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法では、グリーンシート10aが破壊または変形されることなく、グリーンシート10aの表面に高精度に乾式タイプの電極層12aを容易且つ高精度に転写することが可能である。
【0096】
特に、本実施形態の製造方法では、電極層またはグリーンシートの表面に、転写法により接着層28を形成し、その接着層28を介して、電極層12aをグリーンシート10aの表面に接着する。接着層28を形成することで、電極層12aをグリーンシート10aの表面に接着させて転写する際に、高い圧力や熱が不要となり、より低圧および低温での接着が可能になる。したがって、グリーンシート10aが極めて薄い場合でも、グリーンシート10aが破壊されることはなくなり、電極層12aおよびグリーンシート10aを良好に積層することができ、短絡不良などの発生を有効に防止することができる。
【0097】
しかも、本実施形態では、接着層28を形成する際に、上記した所定の条件で乾燥処理を行う。そのため、この乾燥処理により、接着層中に含有されている可塑剤が、接着層表面に滲み出し、その滲み出した可塑剤が粘着付与剤の役割を果たし、接着層28の接着性を向上させることができる。その結果、本実施形態によると、接着層28の平均膜厚を上記のように薄層化した場合においても、十分な接着性を確保でき、さらには、接着層28を薄層化することにより、脱バインダ工程において、接着層28に含有されるバインダ樹脂が分解されずに残ってしまうこともないため、接着層28を形成したことによる層間剥離現象の発生を有効に防止することができる。
【0098】
なお、従来においては、接着層を形成する際における、乾燥処理温度を比較的に低い温度とし、高い平滑性を有する接着層を形成していた。そのため、接着層を薄層化すると、接着性が低下するという課題があった。これに対して、本実施形態は、接着層28を形成する際における乾燥処理温度を比較的に高い温度とし、接着層28に含有されている可塑剤を滲み出させることにより、接着層28の平滑性を低下させることにより、従来の課題を解決するものである。
【0099】
また、たとえば接着層28の接着力を、剥離層22の粘着力よりも強くし、しかも、剥離層22の粘着力を、グリーンシート10aとキャリアシート30との粘着力よりも強くすることなどにより、グリーンシート10a側のキャリアシート30を選択的に容易に剥離することができる。
【0100】
さらに、本実施形態では、接着層28を転写法により形成することから、接着層28の成分が電極層12aまたはグリーンシート10aに染み込むことがないと共に、極めて薄い接着層28の形成が可能になる。そのため、たとえば接着層28の平均膜厚を0.02〜0.2μmと薄層化することができる。接着層28の厚みは薄くとも、接着層28の成分が電極層12aまたはグリーンシート10aに染み込むことがないことから、接着力は十分であり、しかも、電極層12aまたはグリーンシート10aの組成に悪影響を与えるおそれがない。
【0101】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、本発明の方法は、積層セラミックコンデンサの製造方法に限らず、その他の積層型電子部品の製造方法としても適用することが可能である。
【0102】
また、上述した実施形態では、接着層28を、転写法により形成する方法を例示したが、電極層12aまたはグリーンシート10aの表面に接着層28を直接、塗布法などで形成する方法を採用しても良い。
【実施例】
【0103】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0104】
実施例1
実施例1においては、表1に示す試料番号1〜9(接着層を形成する際の乾燥条件を変化させた試料)を作製した。
まず、下記の各ペーストを準備した。
【0105】
誘電体ペースト(グリーンシート用および余白パターン用ペースト)
BaTiO粉末(BT−02/堺化学工業(株))と、MgCO、MnCO、(Ba0.6Ca0.4)SiOおよび希土類(Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)から選択された粉末とを、ボールミルにより16時間、湿式混合し、乾燥させることにより誘電体材料とした。これら原料粉末の平均粒径は0.1〜1μmであった。
【0106】
(Ba0.6Ca0.4)SiOは、BaCO、CaCOおよびSiOをボールミルにより、16時間、湿式混合し、乾燥後に1150℃にて空気中で焼成したものをボールミルにより、100時間湿式粉砕して作製した。
【0107】
次いで、誘電体材料をペースト化するために、有機ビヒクルを誘電体材料に加え、ボールミルで混合し、誘電体グリーンシート用ペーストを得た。有機ビヒクルは、誘電体材料100質量部に対して、バインダとしてポリビニルブチラール:6質量部、可塑剤としてフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOP):3質量部、エタノール:78質量部、プロパノール:78質量部、キシレン:14質量部、剥離剤としてパラフィン:0.5質量部の配合比である。
【0108】
剥離層用ペースト
前記の誘電体グリーンシート用ペーストをエタノール/トルエン(55/10)によって重量比で2倍に希釈したものを剥離層用ペーストとした。
【0109】
接着層用ペースト
バインダとしてのブチラール樹脂:100質量部、溶剤としてのメチルエチルケトン:900質量部、可塑剤としてのフタル酸ビス(2−エチルヘキシル):50質量部を、撹拌溶解することにより接着層用ペーストを作製した。
【0110】
内部電極用ペースト(転写される電極層用ペースト)
次に、下記に示される配合比にて、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極用ペーストとした。すなわち、平均粒径が0.4μmのNi粒子100質量部に対して、有機ビヒクル(バインダとしてのエチルセルロース樹脂8質量部をターピネオール92質量部に溶解したもの)40質量部およびターピネオール10質量部を加え、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極用ペーストとした。
【0111】
接着層の形成
PETフィルム(第3支持シート)の上に、以下の方法により、接着層28を形成した。すなわち、まず、上記の接着層用ペーストを用い、ワイヤーバーコーターにより、接着層用ペースト膜を形成し、その後、接着層用ペースト膜を乾燥温度:表1に示す各温度、乾燥時間:1分の条件で乾燥した。なお、本実施例においては、乾燥後の平均膜厚が0.05μmとなるように接着層(試料番号1〜9)を形成した。得られた接着層28について、PETフィルム表面の被覆率、最大非被覆部分(最大ハジキ部分)の直径、被覆部分の厚みを、後に説明する方法により測定した。
【0112】
積層ユニットの作製
まず、上記のグリーンシート用ペーストを用いて、PETフィルム(第2支持シート)上に、ワイヤーバーコーターを用いて、厚み1.0μmのグリーンシートを形成した。次に、それとは別のPETフィルム(第1支持シート)上に、剥離層を形成するために、上記の剥離層用ペーストを、ワイヤーバーコーターにより塗布乾燥させて0.2μmの剥離層を形成した。
【0113】
次に、剥離層の表面に、電極層12aおよび余白パターン層24を形成した。電極層12aは、上記の内部電極用ペーストを用いた印刷法により、1.2μmの厚みで形成した。余白パターン層24は、上記のグリーンシート用ペーストを用いた印刷法により、1.2μmの厚みで形成した。
【0114】
次に、図2に示す方法で、電極層12aおよび余白パターン層24の表面に、上記にてPETフィルム(第3支持シート)上に形成した接着層28を転写した。転写時には、一対のロールを用い、その加圧力は、1MPa、温度は、80℃とした。
【0115】
次に、図3(A)、図3(B)に示す方法で、接着層28を介してグリーンシート10aの表面に内部電極層12aおよび余白パターン層24を接着(転写)した。転写時には、一対のロールを用い、その加圧力は、1MPa、温度は、80℃とした。
【0116】
次に、図3(C)に示す方法で、グリーンシート10a表面からPETフィルム(第2支持シート)を剥離し、図4(A)〜図4(C)に示す方法で、グリーンシート10a表面に接着層28を転写して、図4(C)に示すような積層体ユニットの試料(試料番号1〜9)を得た。得られた積層ユニットについて、以下の方法により、スタック強度、および第1支持シートとしてのPETフィルムを積層ユニットから剥離する際の破断の有無を、後に説明する方法により確認した。
【0117】
グリーンチップの作製
次に、上記にて作製した積層ユニットを複数準備し、所望の特性が得られるように、複数積層した。そして、その上下に、厚み10μmに成形された複数枚の外層用グリーンシートを、積層時の厚みが約50μmとなるように、積層し、焼成後に積層コンデンサの蓋部分(カバー層)となる外層を形成した。そして、得られた積層体にいて100MPaおよび70℃の条件でプレス成形を行い、その後、ダイシング加工機によって、切断することにより、焼成前のグリーンチップを得た。
【0118】
焼結体の作製
次に、最終積層体を所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニール(熱処理)を行って、チップ形状の焼結体を作製した。
【0119】
脱バインダは、昇温速度:50℃/時間、保持温度:240℃、保持時間:8時間、雰囲気ガス:空気中、で行った。焼成は、昇温速度:300℃/時間、保持温度:1200℃、保持時間:2時間、冷却速度:300℃/時間、雰囲気ガス:露点20℃に制御されたNガスとH(5%)との混合ガス、で行った。アニール(再酸化)は、保持時間:3時間、冷却速度:300℃/時間、雰囲気用ガス:露点20℃に制御されたNガス、で行った。なお、雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用い、水温0〜75℃にて行った。
【0120】
次に、チップ形状の焼結体の端面をサンドブラストにて研磨したのち、In−Ga合金ペースストを端部に塗布し、その後、焼成を行うことにより外部電極を形成し、図1に示す構成の積層セラミックコンデンサのサンプルを得た。得られたコンデンサ試料(試料番号1〜9)について、ショート不良率、および層間剥離の発生数を後に説明する方法により測定した。
【0121】
接着層の被覆率、最大非被覆部分(最大ハジキ部分)の直径、被覆部分の厚み
接着層の被覆率は、まず、PETフィルム上に形成した接着層28の表面について、金属顕微鏡写真を撮影し、得られた金属顕微鏡写真を用いて、接着層の被覆率を測定した。具体的には、接着層中に、接着層を構成する成分が実質的に存在していない非被覆部分(ハジキ部分)が全く無いと仮定した場合に、接着層がPETフィルムを被覆する理想面積を100%とし、接着層を構成する成分が実質的に存在している被覆部分の面積の比率を計算することにより求めた。被覆率は、視野30μm×30μmについて測定した金属顕微鏡写真10枚を使用し、画像処理を用いた接着層の被覆部分と、非被覆部分と、の二値化により、面積比率を求めた。結果を表1に示す。
【0122】
最大非被覆部分(最大ハジキ部分)の直径は、上記にて得られた金属顕微鏡写真を用いて、接着層中に存在する非被覆部分(ハジキ部分)のうち、最大の直径を有する最大非被覆部分の直径を、最大非被覆部分(最大ハジキ部分)の直径とした。なお、測定には、視野30μm×30μmについて測定した金属顕微鏡写真10枚を使用して求めた。
【0123】
被覆部分の厚みは、接着層の平均膜厚(0.05μm)を、上記にて求めた接着層の被覆率で除すことにより、求めた。
【0124】
なお、本実施例においては、PETフィルム上に形成した接着層28について、接着層の被覆率、最大非被覆部分(最大ハジキ部分)の大きさ、被覆部分の厚みを求めたが、PETフィルム上に形成した接着層28を、電極層12aおよびグリーンシート10aに転写した場合においても、同様の結果であった。
【0125】
また、図6(A)〜図6(C)に、上記にて撮影した接着層の金属顕微鏡写真を示す。ここにおいて、図6(A)は、乾燥温度を120℃とした試料番号6の金属顕微鏡写真であり、図6(B)は、乾燥温度を40℃とした試料番号1の金属顕微鏡写真であり、図6(C)は、乾燥温度を60℃とした試料番号3の金属顕微鏡写真である。
【0126】
スタック強度の測定
スタック強度(単位は、N/cm)は、次のようにして評価した。すなわち、上記にて作製した図4(C)に示す構成を有する積層ユニット試料の表面に両面テープを貼り、インストロン5543の引張試験機を用い、シートを引き剥がす方向に引っ張り、引き剥がされた時の剥離強度を測定し、この時の剥離強度を、スタック強度とした。スタック強度が高いほど、接着性に優れている。結果を表1に示す。
【0127】
剥離時の破断の有無
剥離時の破断の有無は、次のようにして評価した。まず、上記にて作製した図4(C)に示す構成を有する積層ユニット試料から、第1支持シートとしてのPETフィルム20を剥離した際に、剥離後のPETフィルム20の表面を観察し、PETフィルム20の表面に電極層12aまたは余白パターン層24が残存しているか否かを確認した。電極層12aとグリーンシート10aとの間の界面で破断が起こり、PETフィルム20の表面に電極層12aまたは余白パターン層24が残存している場合を、破断有りとした。結果を表1に示す。本実施例においては、上記剥離および観察を、100個のサンプルについて行い、電極層12aまたは余白パターン層24の残存が確認されたサンプルが1個でもあった場合に、不可と評価し、表1中に「×」で示した。一方、電極層12aの残存が確認されなかった場合に、良好と判断し、表1中に「○」で示した。
【0128】
ショート不良率
ショート不良率は、コンデンサ試料に対して、1Vrmsの電圧を印加し、絶縁抵抗計を使用して、抵抗値を測定することにより求めた。具体的には、100個のコンデンササンプルに対して測定を行い、抵抗値が10Ω以下となったサンプルをショート不良サンプルとし、全測定サンプルに対する、ショート不良サンプルの比率をショート不良率とした。結果を表1に示す。
【0129】
層間剥離の発生数
まず、得られたコンデンサ試料を、内部電極層と垂直な方向で切断した。次いで、この切断面を観察し、層間剥離現象が発生しているか否かを確認した。本実施例では、200個のサンプルについて検査を行った。結果を表1に示す。
【0130】
実施例2
接着層用ペーストに含有させるブチラール樹脂の含有量を、それぞれ250質量部、400質量部とし、接着層の平均膜厚をそれぞれ0.2μm(表1の試料番号10)、0.3μm(表1の試料番号11)とし、さらに、接着層の乾燥温度を85℃とした以外は、実施例1と同様にして、各試料を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
評価
接着層の平均膜厚を0.05μmとし、接着層を形成する際の乾燥温度を、それぞれ40℃、60℃、80℃とした試料番号1〜3は、いずれも接着層の被覆率が50%より大きかった。そして、これら試料番号1〜3は、スタック強度が40N/cm未満となり、剥離時の破断が確認され、その結果、ショート不良率に劣るとともに、層間剥離の発生数も多くなる結果となった。そのため、これら試料番号1〜3は「×(不良)」と評価した。
【0133】
一方、接着層の平均膜厚を0.05μmとし、接着層を形成する際の乾燥温度を、それぞれ90〜160℃の範囲とした試料番号4〜8は、いずれも接着層の被覆率が50%以下であった。そして、これら試料番号4〜8は、スタック強度が40N/cm以上となり、剥離時の破断も確認されず、その結果、ショート不良率が低く、さらには層間剥離の発生数も低減されていた。特に、これら試料番号4〜8のなかでも、試料番号6,7は、ショート不良率が0%となり、しかも、層間剥離の発生数も極めて少なかったため、「◎(極めて良好)」と評価し、それ以外については、「○(良好)」と評価した。
【0134】
なお、接着層を形成する際の乾燥温度を、170℃とした試料番号9においては、支持シートが変形してしまい、転写可能な接着層を得ることができなかった。
【0135】
また、接着層の平均膜厚をそれぞれ0.2μm、0.3μmと厚くした試料番号10および11の結果より、接着層の厚みが厚くなると、スタック強度が高くなる一方で、ショート不良率が悪化していくとともに、層間剥離の発生数も増大していくことが確認できる。なお、平均膜厚を0.2μmとした試料番号10は、ショート不良率が低く、層間剥離の発生数も少ないため、「○」と評価した。一方、平均膜厚を0.3μmとした試料番号11は、ショート不良率が100%となり、また、層間剥離の発生数も多くなる結果となったため、「×」と評価した。
【0136】
さらに、図6(A)〜図6(C)に、接着層の金属顕微鏡写真を示す。ここにおいて、図6(A)は、乾燥温度を120℃とした試料番号6の金属顕微鏡写真であり、図6(B)は、乾燥温度を40℃とした試料番号1の金属顕微鏡写真であり、図6(C)は、乾燥温度を60℃とした試料番号3の金属顕微鏡写真である。これらの写真より、乾燥処理の条件を変化させることにより、接着層の表面状態を変化させることができ、上記各結果より、接着層の表面状態を図6(A)に示すような構成とすることが好ましいことが確認できる。なお、図6(A)〜図6(C)において、白色部分は、剥離層の構成成分が存在している部分(被覆部分)であり、一方、黒色部分は、剥離層の構成成分が実質的に存在していない部分(非被覆部分)である。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【図2】図2(A)〜図2(C)は電極層の転写方法を示す要部断面図である。
【図3】図3(A)〜図3(C)は図2の続きの工程を示す要部断面図である。
【図4】図4(A)〜図4(C)は電極層が接着されたグリーンシートの積層方法を示す要部断面図である。
【図5】図5(A)〜図5(C)は積層体ユニットの積層方法を示す要部断面図である。
【図6】図6(A)は本発明の実施例に係る接着層の表面写真、図6(B)、図6(C)は比較例に係る接着層の表面写真である。
【符号の説明】
【0138】
2… 積層セラミックコンデンサ
4… コンデンサ素体
6,8… 端子電極
10… 誘電体層
10a… グリーンシート
12… 内部電極層
12a… 電極層
20… キャリアシート(第1支持シート)
22… 剥離層
24… 余白パターン層
26… キャリアシート(第3支持シート)
28… 接着層
30… キャリアシート(第2支持シート)
40… 基材
50… 吸引保持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層またはグリーンシートの表面に、バインダ樹脂および可塑剤を含有する接着層を形成する工程と、
前記接着層を介して、電極層とグリーンシートとを積層し、グリーンチップを形成する工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法であって、
前記接着層は、前記バインダ樹脂、前記可塑剤および溶剤を含有する接着層用ペーストを用いて形成される接着層用ペースト膜を、80℃超、160℃以下の温度で乾燥することにより形成されることを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項2】
電極層またはグリーンシートの表面に、バインダ樹脂および可塑剤を含有する接着層を形成する工程と、
前記接着層を介して、電極層とグリーンシートとを積層し、グリーンチップを形成する工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法であって、
前記接着層は、前記バインダ樹脂、前記可塑剤および溶剤を含有する接着層用ペーストを用いて形成される接着層用ペースト膜を乾燥することにより形成され、
乾燥後の前記接着層が前記接着層をその表面に形成した前記電極層または前記グリーンシートを実際に被覆する面積の割合である被覆率が、5%〜50%となるように、前記乾燥を行うことを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記接着層の平均膜厚を0.02〜0.2μmの範囲とする請求項1または2に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記接着層は、最初に支持シートの表面に剥離可能に形成され、前記電極層の表面または前記グリーンシートの表面に押し付けられて転写される請求項1〜3のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記接着層は、前記接着層をその表面に形成した前記電極層または前記グリーンシートを、実際に被覆している被覆部分と、実質的に被覆していな非被覆部分と、を有し、
前記非被覆部分のうち、その直径が最大である最大非被覆部分の直径が80μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記接着層は、前記接着層をその表面に形成した前記電極層または前記グリーンシートを、実際に被覆している被覆部分と、実質的に被覆していな非被覆部分と、を有し、
前記被覆部分の厚みが、0.05〜4μmの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記接着層中に含有される前記バインダ樹脂が、アクリル系樹脂およびブチラール系樹脂から選択される1種以上を含む請求項1〜6にいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記接着層中における前記可塑剤の含有量が、前記バインダ樹脂100質量部に対して、10〜100質量部である請求項1〜7のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記接着層中に含有される可塑剤がフタル酸エステルである請求項1〜8のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記グリーンシートの厚みが、2μm以下である請求項1〜9のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−73777(P2007−73777A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259893(P2005−259893)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】