説明

積層型高誘電性フィルム

【課題】高誘電性無機粒子を含む非フッ素系樹脂フィルムの電気絶縁性と耐電圧を向上させることができる積層型高誘電性フィルムを提供する。
【解決手段】(A)非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)および高誘電性無機粒子(a2)を含む高誘電性樹脂フィルム層、および(B)該高誘電性樹脂フィルム層(A)の少なくとも片面に設けられている絶縁性樹脂(b)の塗膜層を含む積層型高誘電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型高誘電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック絶縁体は、絶縁抵抗が高く、周波数特性に優れ、柔軟性にも優れるという特徴を有しているため、通信用、電子機器用、電力用、中・低圧進相用、インバータ用などのフィルムコンデンサや、圧電素子、焦電素子、転写体担持用誘電体などの膜材料として期待されている。
【0003】
フィルムコンデンサは通常、誘電性樹脂フィルムの表面にアルミニウムまたは亜鉛を蒸着した構造のフィルム、またはアルミニウム箔と誘電性樹脂フィルムを積層したフィルムから構成されており、近年、金属蒸着により誘電性樹脂フィルム上に電極を形成したものも多用されている。
【0004】
フィルムコンデンサ用フィルムは、通常、誘電性樹脂をフィルム形成樹脂とする単一層として形成されており、フィルム形成樹脂としては、一般的に誘電率の高いポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの非フッ素系熱可塑性樹脂やフッ化ビニリデン(VdF)などのフッ素系樹脂が検討されている。
【0005】
ところで非フッ素系熱可塑性樹脂を高誘電性フィルムとする場合、たとえばポリエステルの場合、耐電圧を低下させずに耐湿熱ライフを向上させるために自己乳化性ポリウレタンや水溶性ポリエステルのコーティング層(厚さ0.01〜1.8μm)を設けること(特許文献1)、耐電圧不良や耐電圧欠陥数を減少させるために、アクリル樹脂や変性ポリエステルなどの厚さ0.01〜0.4μmの被膜を高誘電性ポリエステルフィルムの少なくとも片面に形成すること(特許文献2)が提案されている。
【0006】
また、高誘電性フィルム層としてPPSを用いる場合、PPSの弱点である低い耐電性や自己回復性(セルフヒール性)を向上させるために非晶性ポリエステルを含む高分子フィルムの塗布層を厚さ0.25〜0.5μmで設けること(特許文献3)や、低電圧破壊頻度を少なくすると共にセルフヒール性や耐湿性を向上させるためにポリエステルまたはポリオレフィン(エチレン/プロピレン共重合体など)の厚さ0.01〜0.9μmの表面層をPPSフィルム層に設けること(特許文献4)が提案されている。
【0007】
また、非フッ素系の熱可塑性樹脂はフッ素系樹脂に比べて誘電率が低く、その点を補足するために高誘電性無機粒子を配合することが行われている(特許文献5〜8)。
【0008】
【特許文献1】特開平5−32806号公報
【特許文献2】特開平2−272713号公報
【特許文献3】特開2000−218740号公報
【特許文献4】特開平4−219236号公報
【特許文献5】特表2000−501549号公報
【特許文献6】特開2000−294447号公報
【特許文献7】特開2002−356619号公報
【特許文献8】特開2007−5531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、高誘電性無機粒子を非フッ素系熱可塑性樹脂フィルムに配合すると、今まで検討されていなかった電気絶縁性が低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、電気絶縁性の低下を抑え、比誘電率を向上させるべく鋭意検討を重ねたところ、高誘電性無機粒子を含む高誘電性樹脂フィルム層の少なくとも片面に絶縁性樹脂の層を塗装(塗工)により設けるときに、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(A)非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)および高誘電性無機粒子(a2)を含む高誘電性樹脂フィルム層、および
(B)該高誘電性樹脂フィルム層(A)の少なくとも片面に設けられている絶縁性樹脂(b)の塗膜層
を含む積層型高誘電性フィルムに関する。
【0012】
絶縁性樹脂塗膜層(B)を構成する絶縁性樹脂(b)としては、体積抵抗率が1013Ω以上の樹脂であることが好ましい。
【0013】
また、絶縁性樹脂塗膜層(B)を構成する絶縁性樹脂(b)としては、溶剤可溶型の非フッ素系樹脂であることが好ましい。
【0014】
なかでも、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン樹脂およびアクリル樹脂よりなる群れから選ばれる少なくとも1種が好適である。
【0015】
高誘電性樹脂フィルム層(A)を構成する非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)としてはセルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン樹脂およびアクリル樹脂よりなる群れから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0016】
また、高誘電性樹脂フィルム層(A)を構成する高誘電性無機粒子(a2)としては、
(a2a)式(a2a):
1a1b1c1
(式中、M1は2族金属元素;Nは4族金属元素;a1は0.9〜1.1;b1は0.9〜1.1;c1は2.8〜3.2である;M1とNはそれぞれ複数であってもよい)で示される複合酸化物粒子、
(a2b)式(a2b):
2a23b2c2
(式中、M2とM3は異なり、M2は周期表の2族金属元素、M3は周期表の第5周期の金属元素;a2は0.9〜1.1;b2は0.9〜1.1;c2は2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子、および
(a2c)周期表の2族金属元素および4族金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも3種の金属元素を含む複合酸化物粒子
よりなる群れから選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0017】
本発明の積層型高誘電性フィルムにおいて、高誘電性樹脂フィルム層(A)の厚さが1〜30μmであり、絶縁性樹脂塗膜層(B)の厚さが0.5〜5μmであることが好ましい。かかる積層型高誘電性フィルムは、フィルムコンデンサ用のフィルムとして好適である。
【0018】
したがって、本発明はさらに、本発明の積層型高誘電性フィルムの少なくとも片面に電極層が積層されているフィルムコンデンサにも関する。
【0019】
さらに本発明はまた、非フッ素系熱可塑性樹脂と高誘電性無機粒子とを含む高誘電性樹脂フィルム層(A)の少なくとも片面に、絶縁性樹脂を含むコーティング組成物を塗工して絶縁性樹脂塗膜層(B)を形成することを特徴とする積層型高誘電性フィルムの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高誘電性無機粒子を含む非フッ素系樹脂フィルムの電気絶縁性と耐電圧を向上させることができる積層型高誘電性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の積層型高誘電性フィルムは、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)および高誘電性無機粒子(a2)を含む高誘電性樹脂フィルム層(A)と、該高誘電性樹脂フィルム層(A)の少なくとも片面に設けられている絶縁性樹脂(b)の塗膜層(B)とを含む。
【0022】
以下、各層について説明する。
【0023】
(A)高誘電性樹脂フィルム層
高誘電性樹脂フィルム層(A)は、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)および高誘電性無機粒子(a2)を含む。
【0024】
(a1)非フッ素系熱可塑性樹脂
非フッ素系の熱可塑性樹脂(a1)としては、誘電率の向上と誘電損失の低減に有効である点からセルロース系樹脂が例示できる。
【0025】
セルロース系樹脂としては、たとえばモノ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロース、トリ酢酸セルロース、酢酸セルロースプロピオネートなどのエステル置換セルロース;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのエーテルで置換されたセルロースなどが例示できる。これらの中でも、誘電損失の温度係数が低い点から、(モノ、ジ、トリ)酢酸セルロース、メチルセルロースが好ましい。
【0026】
そのほか、たとえば可撓性、加工性が良好な点からポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリ(スチレン-メタアクリレート)共重合体などのポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロオレフィンなどのポリオレフィン樹脂が好ましい。さらに強度を高めるためにはポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル樹脂が好ましい。さらに、耐熱性が良好な点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルスルホン(PES)などがあげられる。そのほか絶縁性を高めるためにはポリカーボネート(PC)、シリコーン樹脂、ポリ酢酸ビニルなどが挙げられ、絶縁性を高めるためにはエポキシ樹脂、ポリサルホン(PSF)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、また高誘電性を補足する点から奇数ポリアミド、シアノプルラン、銅フタロシアニン系ポリマーなどがあげられる。
【0027】
なかでも、溶剤への溶解性に優れている点からセルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン樹脂およびアクリル樹脂よりなる群れから選ばれる少なくとも1種、特にセルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂およびアクリル樹脂よりなる群れから選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0028】
なお、セルロース系樹脂は誘電損失の低減に有効である点から、他の非フッ素系熱可塑性樹脂を用いる場合も添加してもよい。
【0029】
追加する場合、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)とセルロース系樹脂の比率(質量比)は、誘電率が高く、誘電損失が低い点から0.1/99.9以上、さらに機械特性が良好な点から20/80以上が好ましい。また、誘電損失が低く機械特性が良好で誘電率が高い点から99.9/0.1以下、さらに誘電損失の温度依存性が低い点から98/2以下が好ましい。
【0030】
なお、本発明において、フィルム形成用樹脂としては、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)のみを含む。
【0031】
(a2)高誘電性無機粒子
高誘電性無機粒子(a2)は、非フッ素系の高誘電性樹脂フィルム層(A)に、より一層高い誘電率を付与することができる。
【0032】
高誘電性無機粒子(a2)としては、高誘電性の無機粒子であれば特に制限されないが、つぎの(a2a)〜(a2c)よりなる群れから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0033】
(a2a)式(a2a):
1a1b1c1
(式中、M1は2族金属元素;Nは4族金属元素;a1は0.9〜1.1;b1は0.9〜1.1;c1は2.8〜3.2である;M1とNはそれぞれ複数であってもよい)で示される複合酸化物粒子。
【0034】
2族金属元素M1としては、Mg、Ca、Sr、Baなどが、4族金属元素NとしてはTi、Zrなどが好ましく例示できる。
【0035】
具体的には、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸ストロンチウムなどが例示でき、特にチタン酸バリウムが誘電率が高い点から好ましい。
【0036】
(a2b)式(a2b):
2a23b2c2
(式中、M2とM3は異なり、M2は周期表の2族金属元素、M3は周期表の第5周期の金属元素;a2は0.9〜1.1;b2は0.9〜1.1;c2は2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子。
【0037】
複合酸化物(a2b)としては、具体的には、スズ酸マグネシウム、スズ酸カルシウム、スズ酸ストロンチウム、スズ酸バリウム、アンチモン酸マグネシウム、アンチモン酸カルシウム、アンチモン酸ストロンチウム、アンチモン酸バリウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸バリウム、インジウム酸マグネシウム、インジウム酸カルシウム、インジウム酸ストロンチウム、インジウム酸バリウムなどがあげられる。
【0038】
(a2c)周期表の2族金属元素および4族金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも3種の金属元素を含む複合酸化物粒子。
【0039】
複合酸化物(a2c)において、周期表の2族金属元素の具体例としては、たとえばMg、Ca、Sr、Baなどがあげられ、周期表の4族金属元素の具体例としては、たとえば、Ti、Zr、Hfなどがあげられる。
【0040】
周期表の2族金属元素と4族金属元素から選ばれる3種以上の好ましい組み合わせとしては、たとえば、Sr、Ba、Tiの組み合わせ、Sr、Ti、Zrの組み合わせ、Sr、Ba、Zrの組み合わせ、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Sr、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Ti、Zrの組み合わせ、Ca、Ti、Zrの組み合わせ、Ca、Ba、Tiの組み合わせ、Ca、Ba、Zrの組み合わせ、Ca、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Ca、Sr、Zrの組み合わせ、Ca、Sr、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Sr、Zrの組み合わせ、Mg、Sr、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Ba、Zrの組み合わせなどがあげられる。
【0041】
複合酸化物(a2c)としては、具体的には、チタン酸ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどがあげられる。
【0042】
なお、これらの複合酸化物粒子に加えて、チタン酸ジルコン酸鉛、アンチモン酸鉛、チタン酸亜鉛、チタン酸鉛、酸化チタンなどの他の複合酸化物粒子を併用してもよい。
【0043】
高誘電性無機粒子(a2)の粒子径は、平均粒子径で2μm以下、さらには1.2μm以下、特に0.01〜0.5μm程度であることが、フィルムの表面平滑性や均一分散性に優れる点から好ましい。
【0044】
高誘電性無機粒子(a2)の配合量は、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)100質量部に対して、10質量部以上、好ましくは30質量部以上、特に好ましくは50質量部以上である。少なすぎるとフィルムの誘電率の向上効果が小さくなる。上限は500質量部である。多くなりすぎるとフィルムとしての強度の点、表面荒れの点で問題が生じる。好ましい上限は200質量部である。
【0045】
(a3)他の成分
高誘電性無機粒子(a2)と非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)との親和性を高めるために、親和性向上剤を配合してもよい。親和性向上剤は、高誘電性無機粒子(a2)を非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)に均一に分散させると共に、高誘電性無機粒子(a2)と非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)をフィルム層(A)中でしっかり結合させる役割を果たし、ボイドの発生を抑制し、誘電率を高めることができる。
【0046】
親和性向上剤としては、カップリング剤、界面活性剤またはエポキシ基含有化合物が有効である。
【0047】
カップリング剤としては、たとえば、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤などが例示できる。
【0048】
チタン系カップリング剤としては、たとえば、モノアルコキシ型、キレート型、コーディネート型などがあげられ、とくに高誘電性無機粒子(a2)との親和性が良好な点から、モノアルコキシ型、キレート型が好ましい。
【0049】
シラン系カップリング剤としては、たとえば、高分子型、低分子型があり、また官能基の数の点からモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ダイポーダルアルコキシシランなどがあげられ、とくに高誘電性無機粒子(a2)との親和性が良好な点から低分子型のアルコキシシランが好ましい。
【0050】
ジルコニウム系カップリング剤としては、たとえば、モノアルコキシジルコニウム、トリアルコキシジルコニウムなどがあげられる。
【0051】
ジルコアルミネート系カップリング剤としては、たとえば、モノアルコキシジルコアルミネート、トリアルコキシジルコアルミネートなどがあげられる。
【0052】
界面活性剤としては、高分子型、低分子型があり、官能基の種類の点から非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤があり、これらが使用でき、熱安定性が良好な点から、高分子型の界面活性剤が好ましい。
【0053】
非イオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリエーテル誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、アルコール誘導体などがあげられ、とくに、高誘電性無機粒子(a2)との親和性が良好な点から、ポリエーテル誘導体が好ましい。
【0054】
アニオン性界面活性剤としては、たとえば、スルホン酸やカルボン酸、およびそれらの塩を含有するポリマーなどがあげられ、とくに、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)との親和性が良好な点から、具体的にはアクリル酸誘導体系ポリマー、メタクリル酸誘導体系ポリマー、無水マレイン酸系共重合体が好ましい。
【0055】
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、アミン系化合物やイミダゾリンなどの含チッ素系複合環を有する化合物やそのハロゲン化塩があげられるが、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)への攻撃性が低い点から、含チッ素系複合環を有する化合物が好ましい。塩型としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウムなどのハロゲンアニオンを含むアンモニウム塩があげられる。誘電率が高い点からハロゲンアニオンを含むアンモニウム塩が好ましい。
【0056】
エポキシ基含有化合物としては、エポキシ化合物またはグリシジル化合物などがあげられ、低分子量化合物でも高分子量化合物でもよい。なかでも、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)との親和性がとくに良好な点から、エポキシ基を1個有する低分子量の化合物が好ましい。なお、カップリング剤に分類されるエポキシ基含有カップリング剤(たとえばエポキシシランなど)は、本発明ではエポキシ基含有化合物には含めず、カップリング剤に含める。
【0057】
エポキシ基含有化合物の好ましい例としては、とくに非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)との親和性に優れている点から、式:
【化1】

(式中、Rは水素原子、または酸素原子、チッ素原子もしくは炭素−炭素二重結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の1価の炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香環;lは0または1;mは0または1;nは0〜10の整数)
で示される化合物があげられる。
【0058】
具体例としては、
【化2】

などのケトン基やエステル基を有するものがあげられる。
【0059】
親和性向上剤は、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができるが、具体的には、その配合量は、高誘電性無機粒子(a2)100質量部に対して、0.01〜30質量部が、さらには0.1〜25質量部が、とくには1〜20質量部が、均一に分散させることができ、得られるフィルムの誘電率が高い点から好ましい。
【0060】
さらに本発明において、任意成分として、他の補強用フィラーなどの添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内で含ませてもよい。
【0061】
補強用フィラーとしては、たとえばシリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、ガラス、アルミナ、硼素化合物の粒子または繊維があげられる。
【0062】
本発明に用いる高誘電性樹脂フィルム層(A)は、以上に説明した非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)(必要に応じて以上説明した他の成分(a3)などを含有していてもよい。以下同様)と高誘電性無機粒子(a2)を混合した組成物を用いて、従来公知の溶融混練法やコーティング法により形成することができるが、簡便さや得られるフィルムの均質性に優れる点からコーティング法(キャスト法)で製造することが有利である。
【0063】
コーティング法では、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)に、高誘電性無機粒子(a2)、さらに必要に応じて他の添加剤(a3)などを加えて溶剤に溶解または分散させたコーティング用組成物から、各種のコーティング法に従ってフィルムを作製する。
【0064】
コーティング用溶剤としては、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)を溶解し得る任意の溶媒を使用できるが、特に、極性有機溶媒が好ましい。なかでも極性有機溶媒としては、たとえばケトン系溶剤、エステル系溶媒、カーボネート系溶媒、環状エーテル系溶媒、アミド系溶剤が好ましい。具体的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等が好ましくあげられる。
【0065】
コーティング方法としては、ナイフコーティング法、キャストコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ブレードコーティング法、ロッドコーティング法、エアドクタコーティング法、カーテンコーティング法、ファクンランコーティング法、キスコーティング法、スクリーンコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、押出コーティング法、電着コーティング法などが使用できるが、これらのうち操作性が容易な点、膜厚のバラツキが少ない点、生産性に優れる点からロールコーティング法、グラビアコーティング法、キャストコーティング法が好ましい。
【0066】
コーティング法によれば、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)の溶剤への溶解性が高く高濃度の均一な組成物が調製でき、コーティングが容易である点から、得られる高誘電性樹脂フィルム層(A)の膜厚を20μm以下、好ましくは15μm以下、さらには10μm以下にすることができる。膜厚の下限は機械的強度の維持の点から約2μmである。
【0067】
(B)絶縁性樹脂塗膜層
本発明において、絶縁性樹脂塗膜層(B)は、高誘電性無機粒子含有高誘電性樹脂フィルム層(A)の少なくとも片面に設けられている。
【0068】
この絶縁性樹脂塗膜層(B)は、高誘電性無機粒子含有高誘電性樹脂フィルム層(A)の課題である低い電気絶縁性を向上させると同時に耐電圧も向上させる。その理由は明らかではないが、電圧の分圧により相対的に膜厚が薄い方により電圧がかかる。つまり高い絶縁性を有する樹脂(B)の方に高電圧がかかり、フィルム層(A)への電圧負荷が低減されるためであるからと推定される。片面のみに設ける場合は、高誘電率を維持する点で有利であり、両面に設ける場合はより電気絶縁性を向上させる点で有利である。
【0069】
絶縁性樹脂塗膜層(B)を構成する絶縁性樹脂(b)は、体積抵抗率1013Ω以上、好ましくは1014Ω以上、特に1015Ω以上の非フッ素系の樹脂であることが、電気絶縁性と耐電圧の向上効果が優れる点から好ましい。上限は、できるだけ電気絶縁性が高い(体積抵抗率が大きい)方が好ましいことから、できるだけ大きいものが好ましい。
【0070】
この点から、具体的には、たとえばセルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン樹脂,アクリル樹脂などがあげられる。これらの樹脂の具体例については、非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)で前記したものがあげられる。
【0071】
さらに、耐熱性が良好な点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルスルホン(PES)など、そのほか絶縁性を高めるためにはポリカーボネート(PC)、シリコーン樹脂、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、ポリサルホン(PSF)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)などもあげられる。
【0072】
また別の観点から、溶剤可溶型の非フッ素系樹脂であることが、絶縁性樹脂塗膜層(B)の形成が容易な点から好ましい。
【0073】
特に好ましい具体例は、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂およびアクリル樹脂よりなる群れから選ばれる少なくとも1種である。
【0074】
絶縁性樹脂塗膜層(B)は、絶縁性樹脂(b)のみで構成されていてもよいし、他の添加剤が含まれていてもよい。
【0075】
他の添加剤としては、たとえば可塑剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、チタン酸バリウムなどの無機酸化物、ゴム微粒子などが例示できる。その種類および配合量は、本発明の効果である絶縁性および耐電圧の向上効果を損なわない範囲で選定すればよい。
【0076】
本発明に用いる絶縁性樹脂塗膜層(B)は、以上に説明した絶縁性樹脂(b)(必要に応じて以上説明した他の添加剤などを含有する非フッ素系樹脂組成物も含めて言う。以下同様)を用いて、従来公知のコーティング法により、高誘電性無機粒子含有高誘電性樹脂フィルム層(A)上に積層(形成)する。コーティング法により塗膜を形成することにより、高誘電性無機粒子含有高誘電性樹脂フィルム層(A)の非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)と高誘電性無機粒子(a2)との界面への浸透が容易となり、優れた絶縁性および耐電圧の向上効果が奏される。
【0077】
コーティング法では、絶縁性樹脂(b)に、必要に応じて他の添加剤を加えて溶剤に溶解または分散させたコーティング用組成物から、各種のコーティング法に従ってフィルムを作製する。
【0078】
絶縁性樹脂塗膜層の形成用溶剤としては、絶縁性樹脂(b)を溶解し得る任意の溶媒を使用できるが、高誘電性樹脂フィルム層(A)を構成する非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)に親和性を有する溶剤を用いるときは、密着性や耐久性に優れた絶縁性樹脂塗膜層(B)を形成できる。
【0079】
好ましい溶剤としては、極性有機溶媒が好ましい。なかでも極性有機溶媒としては、たとえばケトン系溶剤、エステル系溶媒、カーボネート系溶媒、環状エーテル系溶媒、アミド系溶剤が好ましい。具体的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等が好ましくあげられる。
【0080】
コーティング方法としては、ナイフコーティング法、キャストコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ブレードコーティング法、ロッドコーティング法、エアドクタコーティング法、カーテンコーティング法、ファクンランコーティング法、キスコーティング法、スクリーンコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、押出コーティング法、電着コーティング法などが使用できるが、これらのうち操作性が容易な点、膜厚のバラツキが少ない点、生産性に優れる点からロールコーティング法、グラビアコーティング法、キャストコーティング法が好ましい。
【0081】
得られる絶縁性樹脂塗膜層(B)の厚さは、良好な絶縁性および耐電圧の向上が得られる点から、0.5μm以上、好ましくは1μm以上、さらには2μm以上が好ましい。上限は、高誘電性を維持する点から、5μm、好ましくは3μmである。
【0082】
本発明の積層型高誘電性フィルムは、フィルムコンデンサ用の高誘電性フィルムとして有用である。
【0083】
本発明の積層型高誘電性フィルムの少なくとも片面に電極層を積層することにより、フィルムコンデンサを作製することができる。電極層を形成する面は、絶縁性樹脂塗膜層(B)であっても、片面にしか絶縁性樹脂塗膜層が設けられていない場合は高誘電性樹脂フィルム層(A)であってもよい。
【0084】
フィルムコンデンサの構造としては、たとえば、電極層と高誘電体フィルムが交互に積層された積層型(特開昭63−181411号公報、特開平3−18113号公報など)や、テープ状の高誘電体フィルムと電極層を巻き込んだ巻回型(高誘電体フィルム上に電極が連続して積層されていない特開昭60−262414号公報などに開示されたものや、高誘電体フィルム上に電極が連続して積層されている特開平3−286514号公報などに開示されたものなど)などがあげられる。構造が単純で、製造も比較的容易な、高誘電体フィルム上に電極層が連続して積層されている巻回型フィルムコンデンサの場合は、一般的には片面に電極を積層した高誘電体フィルムを電極同士が接触しないように2枚重ねて巻き込んで、必要に応じて、巻き込んだ後に、ほぐれないように固定して製造される。
【0085】
電極層は、特に限定されないが、一般的に、アルミニウム、亜鉛、金、白金、銅などの導電性金属からなる層であって、金属箔として、または蒸着金属被膜として用いる。本発明においては、金属箔と蒸着金属被膜のいずれでも、また、両者を併用しても構わない。電極層を薄くでき、その結果、体積に対して容量を大きくでき、誘電体との密着性に優れ、また、厚さのバラつきが小さい点で、通常は、蒸着金属被膜が好ましい。蒸着金属被膜は、一層のものに限らず、例えば、耐湿性を持たせるためにアルミニウム層にさらに半導体の酸化アルミニウム層を形成して電極層とする方法(例えば特開平2−250306号公報など)など、必要に応じて積層にしてもよい。蒸着金属被膜の厚さも特に限定されないが、好ましくは100〜2000オングストローム、より好ましくは200〜1000オングストロームの範囲とする。蒸着金属被膜の厚さがこの範囲である時に、コンデンサの容量や強度がバランスされ好適である。
【0086】
電極層として蒸着金属被膜を用いる場合、被膜の形成方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを採用することができる。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0087】
真空蒸着法としては、たとえば成形品のバッチ方式と、長尺品で使用される半連続(セミコンテニアス)方式と連続(air to air)方式などがあり、現在は、半連続方式が主力として行われている。半連続方式の金属蒸着法は、真空系の中で金属蒸着、巻き取りした後、真空系を大気系に戻し、蒸着されたフィルムを取り出す方法である。
【0088】
半連続方式については、具体的にはたとえば、特許第3664342号明細書に図1を参照して記載されている方法で行うことができる。
【0089】
高誘電性フィルム上に金属薄膜層を形成する場合、あらかじめ高誘電性フィルム表面に、コロナ処理、プラズマ処理など、接着性向上のための処理を施しておくこともできる。電極層として金属箔を用いる場合も、金属箔の厚さは特に限定されないが、通常は、0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは3〜15μmの範囲である。
【0090】
固定方法は、特に限定されず、例えば、樹脂で封止したり絶縁ケースなどに封入することにより、固定と構造の保護とを同時に行えばよい。リード線の接続方法も限定されず、溶接、超音波圧接、熱圧接、粘着テープによる固定などが例示される。巻き込む前から電極にリード線を接続しておいてもよい。絶縁ケースに封入する場合など、必要に応じて、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で開口部などを封止して酸化劣化などを防止してもよい。
【0091】
このようにして得られた本発明のフィルムコンデンサは、高誘電性で、高絶縁性でかつ高耐電圧のものである。
【実施例】
【0092】
つぎに本発明を実施例などをあげて具体的に説明するが、本発明はかかる例のみに限定されるものではない。
【0093】
なお、本明細書で使用している特性値は、つぎの方法で測定したものである。
【0094】
(厚さ)
デジタル測長機(株式会社仙台ニコン製のMF−1001)を用いて、基板に載せたフィルムを室温下にて測定する。絶縁性樹脂層(B)の厚さは、最終的な積層型高誘電性フィルムの全厚を同様にして測定し、VdF系樹脂フィルムの厚さを引いた厚さとする。
【0095】
(誘電損失および比誘電率)
複合フィルムを真空中で両面にアルミニウムを蒸着しサンプルとする。このサンプルをLCRメーター((株)エヌエフ回路設計ブロック製のZM2353)にて、ドライエアー雰囲気下、室温(20℃)および80℃下で、周波数100Hz〜10kHzでの静電容量と誘電正接を測定する。得られた各静電容量と誘電正接の測定値から比誘電率および誘電損失(%)を算出する。
【0096】
(電気絶縁性)
デジタル超絶縁計/微小電流計にて、体積抵抗率(Ω)をドライエアー雰囲気下、DC500Vで室温(20℃)で測定する。
【0097】
(耐電圧)
耐電圧・絶縁抵抗試験器(菊水電子工業(株)製のTOS9201)を用いて、基板に載せたフィルムをドライエアー雰囲気下にて測定する。昇圧速度は100V/sで測定する。
【0098】
実施例1
(高誘電性フィルム層(A1)の作製)
1Lセパラブルフラスコ中にジメチルアセトアミド(DMAc)(キシダ化学(株)製)640質量部と酢酸セルロース(AC)(ダイセル化学工業(株)製のL−20)160質量部を入れ、80℃、3時間スリーワンモーターにて攪拌し、20質量%濃度のPVdF溶液を得た。この酢酸セルロース溶液は透明の均一溶液であった。
【0099】
別途、平均粒子1μmのチタン酸バリウム(BT)(日本化学工業(株)製のBCTZ)100質量部をDMAc60質量部、メチルイソブチルケトン(MIBK)40質量部に加えた。この混合物に直径1mmのジルコニアビーズを同質量加えて卓上遊星ボールミル((有)Gokin Planetaring製のPlanet M)に入れ、室温下、回転数800rpmで15分間分散処理を行った。分散処理後の混合物をステンレススチール製のメッシュ(真鍋工業(株)製の80メッシュ)に通してジルコニアビーズを取り除いて、複合酸化物分散溶液とした。
【0100】
この分散溶液34質量部(チタン酸バリウム16.6質量部、DMAc10.0質量部、MIBK6.63質量部含有)と上記酢酸セルロース溶液を50質量部(酢酸セルロース10.0質量部、DMAc40.0質量部含有)、MIBKを26.7質量部混合し、コーティング用組成物を調製した。
【0101】
このコーティング用組成物をマイクログラビアコーター((株)康井精機製のOS−750)を用いて、離型処理を施した38μm厚の支持用のPETフィルム上にキャストし、150℃の6mの乾燥炉、続いて180℃の6mの乾燥炉に通すことにより、支持用のPETフィルム上に膜厚6.6μmの高誘電性フィルム層(A1)を形成した。
【0102】
比較のため高誘電性フィルム層(A1)をPETフィルムから剥離して得られた高誘電性フィルムについて、体積抵抗率、耐電圧、20℃および80℃における各周波数(100Hz、1kHz、10kHz)での誘電損失および比誘電率を算出した。結果を比較例1として表1に示す。
【0103】
(絶縁性樹脂層(B1)の積層)
1Lセパラブルフラスコ中にメチルエチルケトン(MEK)(キシダ化学(株)製)680質量部とポリエステル(東洋紡績(株)製のバイロンGK640、比誘電率3.2(1kHz、25℃))を120質量部入れ、60℃にて3時間、スリーワンモーターにて攪拌し、15質量%濃度のポリエステル溶液からなる絶縁性樹脂層形成用のコーティング用組成物を得た。
【0104】
このコーティング用組成物をマイクログラビアコーターを用いて、支持用PETフィルム上の高誘電性フィルム層(A1)にコーティングし、150℃の6mの乾燥炉、続いて180℃の6mの乾燥炉に通すことにより、PETフィルム上に高誘電性フィルム層(A1)と絶縁性樹脂(ポリエステル)層(B1)を形成し、支持用のPETフィルムから剥離することにより、膜厚7.8μmの高誘電性フィルム層(A1)/絶縁性樹脂(ポリエステル)層(B1)からなる本発明の積層型高誘電性フィルムを得た。絶縁性樹脂(ポリエステル)層(B1)の厚さは、1.2μmであった。得られた積層型高誘電性フィルムについて、体積抵抗率、耐電圧、20℃および80℃における各周波数(100Hz、1kHz、10kHz)での誘電損失および比誘電率を算出した。結果を表1に示す。
【0105】
実施例2
チタン酸バリウムを平均粒子0.3μmのチタン酸ストロンチウム(堺化学工業(株)製のST−03)に変更したほかは実施例1と同様の手順で、高誘電性フィルム層(膜厚6.5μm)/絶縁性樹脂(ポリエステル)層(膜厚1.0μm)からなる本発明の積層型高誘電性フィルム(膜厚7.5μm)を作製し、各種の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
実施例3
絶縁性樹脂層(B1)をポリエステルからポリスチレン(シグマアルドリッチジャパン社製)に変更したほかは実施例1と同様の手順で、高誘電性フィルム層(膜厚6.6μm)/絶縁性樹脂(ポリスチレン)層(膜厚0.9μm)からなる本発明の積層型高誘電性フィルム(膜厚7.5μm)を作製し、各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
実施例4
絶縁性樹脂層(B1)の厚さを2.0μmに変更したほかは、実施例1と同様の手順で、高誘電性フィルム層(膜厚6.6μm)/絶縁性樹脂(ポリスチレン)層(膜厚2.0μm)からなる本発明の積層型高誘電性フィルム(膜厚8.6μm)を作製し、各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
比較例2
高誘電性フィルム(A1)の作製時にチタン酸バリウムを配合しなかったほかは実施例1と同様の手順で、高誘電性フィルム層(膜厚5.8μm)/絶縁性樹脂(ポリエステル)層(膜厚1.2μm)からなる比較用の積層型高誘電性フィルム(膜厚7.0μm)を作製し、各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
実施例5(フィルムコンデンサの作製)
実施例1で製造した積層型高誘電性フィルムの両面に、真空蒸着装置((株)真空デバイス製のVE−2030)により3Ω/□を目標にしてアルミニウムを蒸着して電極を形成した。これらのアルミニウム電極に電圧印加用のリード線を取り付け、スタンプ型(簡易評価用)のフィルムコンデンサを作製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非フッ素系熱可塑性樹脂(a1)および高誘電性無機粒子(a2)を含む高誘電性樹脂フィルム層、および
(B)該高誘電性樹脂フィルム層(A)の少なくとも片面に設けられている絶縁性樹脂(b)の塗膜層
を含む積層型高誘電性フィルム。
【請求項2】
絶縁性樹脂塗膜層(B)を構成する絶縁性樹脂(b)が、体積抵抗率が1013Ω以上の樹脂である請求項1記載の積層型高誘電性フィルム。
【請求項3】
絶縁性樹脂塗膜層(B)を構成する絶縁性樹脂(b)が、溶剤可溶型の非フッ素系樹脂である請求項1または2記載の積層型高誘電性フィルム。
【請求項4】
絶縁性樹脂塗膜層(B)を構成する絶縁性樹脂(b)が、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン樹脂およびアクリル樹脂よりなる群れから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の積層型高誘電性フィルム。
【請求項5】
非フッ素系の熱可塑性樹脂(a1)が、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂およびアクリル樹脂よりなる群れから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の積層型高誘電性フィルム。
【請求項6】
高誘電性無機粒子(a2)が、
(a2a)式(a2a):
1a1b1c1
(式中、M1は2族金属元素;Nは4族金属元素;a1は0.9〜1.1;b1は0.9〜1.1;c1は2.8〜3.2である;M1とNはそれぞれ複数であってもよい)で示される複合酸化物粒子、
(a2b)式(a2b):
2a23b2c2
(式中、M2とM3は異なり、M2は周期表の2族金属元素、M3は周期表の第5周期の金属元素;a2は0.9〜1.1;b2は0.9〜1.1;c2は2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子、および
(a2c)周期表の2族金属元素および4族金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも3種の金属元素を含む複合酸化物粒子
よりなる群れから選ばれた少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の積層型高誘電性フィルム。
【請求項7】
高誘電性樹脂フィルム層(A)の厚さが1〜30μmであり、絶縁性樹脂塗膜層(B)の厚さが0.5〜5μmである請求項1〜6のいずれかに記載の積層型高誘電性フィルム。
【請求項8】
フィルムコンデンサ用である請求項1〜7のいずれかに記載の積層型高誘電性フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の積層型高誘電性フィルムの少なくとも片面に電極層が積層されているフィルムコンデンサ。
【請求項10】
非フッ素系熱可塑性樹脂と高誘電性無機粒子とを含む高誘電性樹脂フィルム層(A)の少なくとも片面に、絶縁性樹脂を含むコーティング組成物を塗工して絶縁性樹脂塗膜層(B)を形成することを特徴とする積層型高誘電性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−129512(P2010−129512A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306278(P2008−306278)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】