説明

積層塑性加工木材

【課題】寸法形状安定性が向上し、また、積層された木材の表層部分において製品間の品質にばらつきが少なく、傷跡や凹みが付き難いこと。
【解決手段】木材の木目の長さ方向(A)に対して垂直方向に加えた外力によって、木材の厚みが圧縮され、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした表層材SWの片面側に、木材の木目の長さ方向(α)を表層材SWの木目の長さ方向(A)に対応させ、かつ、木材の年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させて非圧縮の内層材IWを接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層部分に圧密成形した塑性加工木材を使用し、内層部分に非圧縮の木材を使用した積層塑性加工木材に関するものであり、特に、寸法形状安定性を向上させた積層塑性加工木材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木材の樹種として、例えば、スギ材のように低密度で硬度が不足しているものにあっては、圧縮して高密度化すれば実用に耐え得る硬度が得られることが知られている。
ここで、木材を圧縮して高密度化することは元の木材の体積を低下することを意味している。一方で、木材の価格は一般に、元の木材の体積を基準として流通している。そして、上記木材の圧密加工にかかる種々の費用を加味して算出される価格は、体積の低下に見合うだけの付加価値が認められないことに起因して余り高く設定できない。
このため、このように圧縮して高密度化された木材は、圧縮が施されていない木材との組み合わせによる積層構造として製品化されることが多かった。
【0003】
そして、これに関連するものとして、例えば、特許文献1に示されるような圧密化処理(圧密加工:塑性加工)をした表層材に圧密化処理をしない非圧縮の内層材を接着してなる積層材(積層塑性加工木材)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−205503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の積層塑性加工木材を始めとする従来のこの種の積層塑性加工木材は、圧密加工された表層材に、安価に入手できる板目材からなる一枚の内層材の板目面側を接合させており、内層材の板目面の木裏側と木表側とで周囲環境条件の変化による乾燥収縮率に違いがあることから、周囲環境条件の変化によって内層材の接合面での反りや曲がりなどの寸法形状の変化を避けられず、表層材と内層材に歪みや変形が生じたりすることがあった。
【0006】
また、圧密加工された表層材において、同じ圧縮率で圧密化されていても、物性が一定でなくて、製品間の品質にばらつきが生じてしまうことがある。これは、木材には一般的に年輪線の間を構成している早材部と年輪線を構成している晩材部とが存在しているところ、早材部における細胞壁の厚さが薄いことや、早材部における(細胞内腔の)空隙率が大きいこと、また、製材された木材によって年輪(早材部と晩材部)の配列状態が異なることに起因して、圧縮変形が局部的に集中してしまい、厚み全体が均一に圧縮されていないためと思われる。
【0007】
殊に、表層材を複数に分割されたプレス盤等の面接触によって圧縮を行った場合、この局部的な圧縮変形が、荷重がかかりやすい内層部に発生することが多いためか、圧縮度を高めても所望とする表面硬度が得られないことが多く、また、表層部においてこの局部的な圧縮変形を発生させることは困難であることから、圧縮度合いに見合うだけの傷跡や凹みが付き難い効果が得難かった。
【0008】
更に、表層材において、厚み全体が均一に圧縮されてないことによって製品内において周囲環境条件の変化による寸法変化率にばらつきが生じるため、製品化後の周囲環境条件の変化によって歪みが発生する場合があり、表層材と内層材との接合面に大きなストレスをかける一因にもなっていた。
なお、従来においては、基本的に、上記実用に耐え得る硬度を得るための尺度が圧縮率となっていたが、樹種ごとで空隙率がまちまちであることから、圧縮率を基準尺度としたものでは必ずしも一義的に所望する硬度が得られなかった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、寸法形状安定性が向上し、また、積層された木材の表層部分において製品間の品質にばらつきが少なく、傷跡や凹みが付き難い積層塑性加工木材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の積層塑性加工木材は、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向に加えた外力によって、前記木材の厚みが加熱圧縮され、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした表層材の片面側に、非圧縮の内層材を、その木目の長さ方向を前記表層材の木目の長さ方向に対応させ、かつ、その年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させて接合したものである。
【0011】
ところで、上記表層材の加熱圧縮とは、木材の木口面に対する並行方向に加熱圧縮して少なくとも木口面の面積を小さくした、所謂、圧密加工したことを意味する。木材の板目面に対して垂直方向に圧縮されるか、または、木材の柾目面に対して垂直方向に圧縮されるかといった加熱圧縮の方向性は木材の種類等が考慮されて選定されるが、加熱圧縮の際において目割れが発生しにくい方向に加熱圧縮されるのが好ましい。なお、上記表層材の木目の長さ方向とは木材の繊維方向のことである。また、上記表層材の厚みが圧縮される圧密加工は、例えば、木材の含水率を厚み全体で略均一となるように設定し、所定の条件で加熱圧縮することによって形成することができる。なお、このときの所定の条件となる温度、圧力、時間、圧縮スピード等については、樹種や含水率等をパラメータとして予め実験等によって決定される。
【0012】
そして、上記表層材の上記気乾比重とは、木材を大気中で乾燥した時の比重で、通常、含水率15%の時の比重で表すものであり、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。数値が大きいほど重く、小さいほど軽いことを表す。例えば、自然物の黒檀は0.85〜1.04、紫檀は1.03程度で、国産或いは国内でよく使用される材木のスギは0.36、ヒノキは0.44、カラマツは0.50、ドドマツは0.44、 キリは0.25、クリは0.60、ブナは0.65、ナラは0.58、カバは0.60、イタジイは0.61、カリン0.61、アピトンは0.72、ファルカタは0.27、マラパパイヤは0.50、グメリナは0.45、ゴムは0.64、イエローポプラは0.45、イタリアポプラは0.35、ユーカリは0.75、カユプティは0.75、アカシアマンギウムは0.63程度である。
【0013】
ここで、上記表層材が圧密加工され、気乾比重を0.85以上としたとは、本発明者らが、鋭意実験研究を重ねた結果、木材を高圧縮して気乾比重を0.85以上としたものでは、硬度や耐摩耗性等の特性値のばらつきが少なくなって物理的安定性が増し、また、硬度が顕著に高くなるのを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。即ち、圧縮により、硬度、摩耗深さ等の機械的強度を増大させた特性領域であり、圧密加工された木材としての特性であることを示すものである。
なお、上記表層材の気乾比重は、最終的には、樹種や、コストや、必要とされる硬度・耐摩耗性等を考慮して設定されるが、気乾比重を大きくするために圧縮率を余りに高くすると木材を構成する繊維が破壊されてクラックが生じ商品性が失われることになるから、高圧縮によりクラックが発生する直前に測定される気乾比重の値が最大値となる。因みに、本発明者らの実験研究によれば、上記表層材としてスギ材を用いた場合には約1.2が上記気乾比重の上限であることが判明している。したがって、本発明における気乾比重の最大値は、樹種等によって決定される有限値である。なお、上記0.85とは、厳格に0.85であることを要求するものではなくて約0.85以上であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0014】
また、上記内層材は、前記表層材と接着剤等の接合手段を介在して一体に接合されるものであり、その木目の長さ方向を前記表層材の木目の長さ方向に対応させ、かつ、その年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させるとは、一般的に、製材後の木材において、3つの方向が存在し、それぞれ、木目の長さ方向、年輪の半径方向、年輪の接線方向とに区別できることから、前記表層材への接合の方向性を特定するものである。そして、本発明者らの実験により、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした前記表層材の木目の長さ方向における含水率1〔%〕当たりの寸法変化率は僅かで、非圧縮の木材の木目の長さ方向における寸法変化率と略同一であることまたは近似することが確認され、更に、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向、かつ、木目の長さ方向に対する直角方向における寸法変化率(スギ材からなる場合には約0.1〜0.15〔%〕)は、非圧縮の木材の年輪の半径方向の寸法変化率(スギ材からなる場合には約0.15〔%〕前後)と同一であることまたは近似することが確認されたので、接合面で互いに木目の長さ方向が一致するように、かつ、非圧縮の木材の年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させて接合することで、周囲環境条件の変化を受けた場合でも前記表層材との接合面にストレスがかかりにくいようにしたものである。
【0015】
なお、上記内層材の木目の長さ方向とは木材の繊維方向のことであり、上記年輪の半径方向とは、年輪の放射方向のことで、年輪と略並行する方向(年輪の接線方向)ではなく年輪に交差する方向のことである。また、上記内層材と前記表層材との接合は、互いに強固に結合されていればその接合手段は特に問われるものではなく、例えば、接着剤等で接着したり、木材相互間を機械的に結合したり、接続手段によって結合したりすることができる。特に、プレス盤等による圧締で接着剤を介して一体に接合する場合には、両者の間に接着剤を均一に塗布した後、圧力ができる限り均等にかかるようにする。なお、このときの両者を締め付ける圧締圧力及び圧締時間は、接着剤の種類や樹種や含水率等をパラメータとして予め実験等によって最適値が設定される。
【0016】
請求項2の積層塑性加工木材の前記内層材は、各木材の木目の長さ方向を前記表層材の木目の長さ方向に対応させ、かつ、前記各木材の年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させた複数本の木材が平行に配置し、互いに接合されて構成されているものである。即ち、前記内層材は、複数本の木材からなり、前記表層材との接合面で互いに木目の長さ方向を一致させ、かつ当該複数本の木材の年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させて平行に配置し、互いに接合されているものである。
【0017】
ところで、上記内層材の複数本の木材が互いに接合されるは、複数本の木材が互いに強固に結合されていればその接合手段は問われるものではなく、例えば、接着剤等で接着したり、木材相互間を機械的に結合したり、接続手段によって結合したりすることができる。特に、プレス盤等による圧締で接着剤を介して複数本の木材を一体に接合する場合には、木材間に接着剤を均一に塗布した後、圧力ができる限り均等にかかるようにする。なお、このとき複数本の木材を締め付ける圧締圧力及び圧締時間は、接着剤の種類や樹種や含水率等をパラメータとして予め実験等によって最適値が設定される。
【0018】
請求項3の積層塑性加工木材の前記表層材及び/または前記内層材は、スギ材からなるものであり、入手しやすく加工性に優れた樹種を用いたものである。しかし、本発明を実施する場合には、マツ、ヒノキ、イエローポプラ等の樹種を用いることも可能であり、また、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向における含水率1〔%〕当たりの寸法変化率と、非圧縮の木材の年輪の半径方向の含水率1〔%〕当たりの寸法変化率とが同一または近似するものであれば、前記表層材と前記内層材とに異なる樹種の木材を用いることも可能である。
【0019】
請求項4の積層塑性加工木材の前記表層材は、JIS−Z―2101−1994に規定された硬度試験による硬度が25〔N/mm2〕以上であるものである。
ここで、上記硬度は、JIS−Z―2101−1994に規定された硬度試験に基づき、木材の表面に直径10〔mm〕の鋼球を平均圧入速度0.5〔mm/min〕で圧入して、圧入深さが0.32〔mm〕になるときの荷重P〔N〕を測定し、下記の式(1)から算出したものである。
硬度H=P/10・・・(1)
【0020】
そして、上記硬度が25〔N/mm2〕以上とは、本発明者らの実験研究によって、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の硬度が15〔N/mm2〕くらいであることが判明していることから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすくて高い表面硬度が要求される床材等に利用するにも十分な硬度であり、広範な用途に使用可能であることを意味する。なお、上記25〔N/mm2〕とは、厳格に25〔N/mm2〕であることを要求するものではなくて約25〔N/mm2〕であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0021】
請求項5の積層塑性加工木材の前記表層材は、JIS−Z―2101−1994に規定された耐摩耗試験による前記木材の摩耗深さが0.12〔mm〕以下であるものである。
ここで、上記摩耗深さは、耐摩耗性の指標となるものであり、JIS−Z―2101−1994に規定された耐摩耗試験に基づいて、所謂、摩耗試験装置を用い、木材に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように摩耗輪を500回転させたときの木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから下記の式(2)によって算出したものである。
摩耗量D=(m1−m2)/A・ρ・・・(2)
【0022】
そして、上記摩耗深さが0.12〔mm〕以下とは、本発明者らの実験研究によって、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の摩耗深さが0.14〔mm〕くらいであることが判明していることから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすくて高い耐摩耗性が要求される床材等に利用することもでき、広範な用途に使用可能であることを意味する。なお、上記0.12〔mm〕も、厳格に0.12〔mm〕であることを要求するものではなくて約0.12〔mm〕であればよく、当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0023】
請求項6の積層塑性加工木材の前記表層材は、複数に分割された構造体によって内部空間を形成して前記内部空間の容積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤を用いて、前記内部空間内に載置される前記表層材の原材料である加工前木材をその木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態の前記内部空間内に保持し、前記保持された密閉空間内の蒸気圧を制御して固定化することによって、厚みが加熱圧縮されて圧密加工したものである。
【0024】
ここで、上記プレス盤は、その内部空間の容積を変化させることによりプレス圧縮自在とするものであり、通常、単純に上下に2分割した上下プレス盤構造体、上下プレス盤と枠体とした構造体等、その他の複数の構成体によって構成される。
【発明の効果】
【0025】
請求項1にかかる積層塑性加工木材によれば、表層材は、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向に加えた外力により、厚み全体が加熱圧縮され、圧密加工されて気乾比重を0.85以上としたものであるから、早材部における殆どの細胞が圧縮変形され(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなっていて、厚み全体が略均一に圧縮されて、物理的性質が安定している。したがって、製品間の品質にばらつきが少ない。加えて、早材部における殆どの細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合っているうえに、(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなり、更に、それによって晩材部の占有率も高くなっていることから、高い硬度を有し、傷跡や凹みが付き難い。
【0026】
また、前記表層材の片面側に非圧縮の内層材が、その木目の長さ方向を前記表層材の木目の長さ方向に対応させ、かつ、その年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させて接合しているため、接合面における各方向(長さ方向、幅方向、厚さ方向)の両者の周囲環境条件の変化による寸法変化率の差が最小限になっている。さらに、前記表層材への接合面に前記内層材の板目面の木表側または木裏側が配置することはないため、前記表層材への前記内層材の接合面において反り下がりや反り上がりといった反り変形や曲がりを生じることはない。加えて、前記表層材においては、厚み全体が略均一に圧縮されていて、製品内部において製品化後の周囲環境条件の変化による寸法変化率のばらつきも少なくなることから、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がない。
したがって、製品化後に周囲環境条件の変化を受けたときでも前記表層材と前記内層材との接合面にストレスがかかりにくく、歪みや変形が生じるのが防止されていて、寸法形状安定性が向上する。
【0027】
このようにして、寸法形状安定性が向上し、また、積層された木材の表層部分において製品間の品質にばらつきが少なく、傷跡や凹みが付き難い積層塑性加工木材となる。
【0028】
請求項2にかかる積層塑性加工木材によれば、前記内層材は、各木材の年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させた複数本の木材が平行に配置し、互いに接合されて構成されているものであるから、請求項1に記載の効果に加えて、一枚の板材を前記表層材に接合した場合より強度を向上させることが可能である。また、適度な強度を有するものであれば間伐材等の安く入手できる木材でも利用しやすいため、低コスト化を図ることができる。
【0029】
請求項3にかかる積層塑性加工木材によれば、前記表層材及び/または前記内層材はスギ材からなるものであり、スギ材は入手しやすく加工を施しやすいことから、特に、前記表層材においてスギ材の欠点を補うことになるから、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、生産性を向上させることができ、また、低コスト化を図ることができる。さらに、スギ材は、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができるため、環境保全に貢献することができる。
【0030】
請求項4にかかる積層塑性加工木材によれば、前記表層材は、JIS−Z―2101−1994に規定された硬度試験による硬度が25〔N/mm2〕以上であり、通常の床材として利用されている広葉樹の硬度より高いため、請求項1乃至請求項3に記載の効果に加えて、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすくて高い表面硬度が要求される床材等に利用でき、広範な用途に使用可能である。
【0031】
請求項5にかかる積層塑性加工木材によれば、前記表層材は、JIS−Z―2101−1994に規定された耐摩耗試験による摩耗深さが0.12〔mm〕以下であり、通常の床材に利用されている広葉樹の摩耗深さより低いため、請求項1乃至請求項4に記載の効果に加えて、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすくて高い耐摩耗性が要求される床材等に利用でき、広範な用途に使用可能である。
【0032】
請求項6にかかる積層塑性加工木材によれば、複数に分割された構造体によって内部空間を形成し前記内部空間の容積を変化させることによってプレス圧縮ができるプレス盤を用いて、前記内部空間内に載置される前記表層材の原材料である加工前木材をその木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした前記内部空間に保持するものである。即ち、前記表層材は、その原材料である加工前木材が上記プレス盤の面接触によって加熱圧縮され、しかも、上記内部空間の密閉状態で加熱圧縮処理が一定時間保持されたものであるから、効率的に圧縮変形され、また、圧縮解除後の復元力による戻りが抑制されたものである。更に、前記保持された内部空間内の蒸気圧を制御したのち、解圧し、内部蒸気圧を開放するから、前記表層材は、圧縮解除後の内圧による膨らみ変形や、パンクと呼ばれる表面割れが抑制されたものである。故に、請求項1乃至請求項5に記載の効果に加えて、高い品質を確保することができ、また、生産性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材を構成する表層材を製造するための塑性加工木材製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材を形成するための原材料となる加工前木材の板目面、柾目面、木口面を示す斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材の製造工程を説明するための説明図で、(a)は原材料となる加工前木材の供給の説明図、(b)は加熱圧縮開始状態による説明図、(c)は密閉加熱圧縮開始状態による説明図、(d)は密閉加熱圧縮状態による蒸気圧制御処理の説明図、(e)は密閉冷却状態による説明図、(f)は圧密加工された木材の取り出しの説明図である。
【図4】図4は圧密加工された木材の気乾比重と硬度との関係を示す特性図である。
【図5】図5は圧密加工された木材の気乾比重と耐摩擦性の指標となる摩耗深さとの関係を示す特性図である。
【図6】は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材の実施例の硬度、摩耗深さ及び曲げヤング係数を比較例と比較して示す表図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の構成を示す説明図であり、(a)は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の斜視図、(b)はその正面図である。
【図8】図8は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材及び内層材の含水率1%当たりの寸法変化率(収縮率)を説明するための寸法変化率(収縮率)の特性図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の表層材及び内層材の含水率1%当たりの寸法変化率(膨張率)を説明するための寸法変化率(膨張率)の特性図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の変形例を説明するための説明図であり、(a)は本発明の実施の形態に係る積層塑性加工木材の変形例の斜視図、(b)はその正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は、同一または相当する部分及び機能を意味するものであるから、ここでは重複する説明を省略する。
まず、本発明の実施の形態の積層塑性加工木材LPWを構成する表層材SWを製造する手順について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0035】
図1において、本実施の形態の表層材SWを製造する塑性加工木材製造装置1は、主として、上プレス盤10Aと下プレス盤10Bとの2分割された構造体によって内部空間ISを形成するプレス盤10と、上プレス盤10Aの所定の上下動の範囲で内部空間ISを密閉状態とする下プレス盤10Bの周縁部10bに対向して上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されるシール部材11と、下プレス盤10Bの側面側から内部空間IS内に連通され、内部空間IS内から水蒸気を排出するための配管口12aを有する配管12、配管12内の蒸気圧を検出する圧力計P2、その下流側のバルブV5、バルブV5に接続されたドレン配管13、内部空間IS内にバルブV6に接続された配管14を介して蒸気を供給する上プレス盤10Aの配管口14a等から構成されている。
【0036】
また、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10B内には、それらを高温の水蒸気を通すことによって所望の温度に昇温するための配管路14b,14cが形成されており、これら配管路14b,14cには蒸気供給側の配管ST1から分岐された配管ST2,ST3、蒸気排出側の配管ET1,ET2がそれぞれ接続されている。そして、蒸気供給側の配管ST1,ST2,ST3の途中にはバルブV1,V2,V3、配管ST1内の蒸気圧を検出する圧力計P1が配設されており、蒸気排出側の配管ET1,ET2は、バルブV4を介してドレン配管13に接続されている。なお、配管ST1に水蒸気を供給するボイラ装置、また、プレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇/下降させ加圧するための油圧機構を含むプレス昇降装置は省略されている。また、本実施の形態では、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内を加熱するためにバルブV6に接続された配管14を用いて高温の水蒸気を導入しているが、この他、高周波加熱、マイクロ波加熱等を用いることもできる。特に、木材に対する高周波加熱は、マイクロ波による誘電過熱よりも、マイクロ波よりも若干周波数の低い高周波で、木材の中心から加熱する方法が好適である。
【0037】
更に、プレス盤10には、上プレス盤10A及び下プレス盤10B内に形成された配管路14b,14cに水蒸気に換えて低温の冷却水を通すことによって所望の温度に冷却する冷却水供給側の配管ST11から分岐された配管ST12,ST13が、上記配管ST2,ST3にそれぞれ接続されている。また、冷却水供給側の配管ST11,ST12,ST13の途中にはバルブV11,V12,V13が配設されている。なお、図1及び図3において、配管ST11に冷却水を供給する冷却水供給装置は省略されている。
【0038】
ここで、本実施の形態の表層材SWの原材料となる加工前木材NWは、スギ材からなり、図2に示すように、前以って所定の寸法(長さ・幅・厚み)に製材されたものである。この加工前木材NWは、木口面(2面)、板目面(木表及び木裏の2面)、柾目面(2面)を有しており、本実施の形態においては、木目の長さ方向に対して垂直方向で年輪の内側の平面となる板目面の木裏側がプレス盤10の下プレス盤10Bに載置される。
勿論、本発明を実施する場合には、プレス盤10にてプレス圧縮される面は、木目の長さ方向にある木口面以外であれば柾目面でもよく、板目面側をプレス圧縮するかまたは柾目面側をプレス圧縮するかの加熱圧縮の方向性は加工前木材NWの種類等が考慮され、加熱圧縮の際に木目の座屈変形が抑えられて目割れが発生し難い方向に選定される。
なお、木材には一般的にヤ二が存在し、特に針葉樹においてはその量が多いことから、気乾比重が0.85以上となるようにスギ材等を圧縮した場合、ヤ二が多く表出し、商品としての品質が損なわれたり、ヤ二除去に多大な手間がかかったりすることが懸念される。このため、表層材SWを形成するための加工前木材NWには、辺材(白太・白身)を用いるのが好適である。これにより、気乾比重が0.85以上となるように圧縮したときのヤ二の表出量を抑制することができる。また、心材(赤身)に比べ辺材は明るい色彩であることから、辺材を用いることで、圧縮したときの濃色変化が心材を用いた場合よりも抑制され、良好な外観が保持される。しかし、本発明を実施する場合には、表層材SWに心材が存在していても構わない。
【0039】
そして、このように構成される塑性加工木材製造装置1によって加工前木材NWから表層材SWを製造するにあたり、まず、図3(a)に示すように、塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aが上昇され、予め所定の条件に乾燥させた加工前木材NWが、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS内に載置される。
【0040】
次に、図3(b)に示すように、固定側の下プレス盤10B上に載置された加工前木材NWに対して上プレス盤10Aを所定圧力にて下降させて加工前木材NWの上面、即ち、本実施の形態においては、木目の長さ方向に対して垂直方向で年輪の外側の平面となる板目面の木表側に当接させる。そして、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに所定温度(例えば、110〜160〔℃〕)の水蒸気が通され、内部空間IS内が所定温度(例えば、110〜180〔℃〕)に保持される。
【0041】
続いて、図3(c)に示すように、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aの圧縮圧力が所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に設定され、加工前木材NWが上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて所定時間(例えば、5〜40〔min:分〕)加熱圧縮される。なお、このときの圧縮圧力は、割れを防止するために、加工前木材NWの温度上昇、即ち、加工前木材NW内部の温度の伝達状態に応じて徐々に大きくするのが望ましく、加熱圧縮の時間も伝達時間を考慮して設定するのが好ましい。
【0042】
さらに、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接すると上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されたシール部材11によって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて形成される内部空間ISが密閉状態となる。そして、内部空間ISの密閉状態で上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる圧縮圧力が保持されたまま、所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)まで上昇される。
【0043】
なお、本実施の形態において、プレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となったときにおける内部空間ISの上下方向の寸法間隔は、プレス盤10によって加工前木材NWが気乾比重0.85以上の表層材SWとなるときの厚み方向の仕上がり寸法に設定されている。
このため、加工前木材NWの厚み全体の圧縮率、即ち、加工前木材NWの圧縮による板厚の変化は、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接することで決まることとなる。
【0044】
さらに、図3(c)に示す内部空間ISの密閉状態で、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bの圧縮圧力が維持され、かつ、内部空間ISが所定温度(例えば、150〜210〔℃〕)のまま、所定時間(例えば、30〜120〔min〕)保持され、この後の冷却圧縮を解除したときに、戻りのない表層材SWを形成するための加熱処理が行われる。このとき、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで密閉状態とされている内部空間ISを介して、加工前木材NWの周囲面とその内部とでは高温高圧の蒸気圧が出入り自在となっている。
そして、このように、本実施の形態においては、加工前木材NWの表裏面に上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが面接触し、密閉状態の内部空間ISに保持されるため、加工前木材NWは、厚み全体が十分に加熱され、効率よく圧縮変形されることになる。
【0045】
次に、図3(d)に示すように、内部空間ISの密閉状態で加熱圧縮処理が行われているときに、蒸気圧制御処理として圧力計P2で内部空間ISの蒸気圧が検出され、バルブV5が適宜、開閉される。これにより、配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出されることで、特に、加工前木材NWの外層部分の含水率に基づく余分な内部空間IS内の水分が除去され、内部空間IS内が所定の蒸気圧となるように調節される。また、必要に応じて、バルブV6に接続された配管14、配管口14a(図1)を介して内部空間ISに所定の蒸気圧を供給することができる。
さらに、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる加熱圧縮から冷却圧縮へと移行する直前に、蒸気圧制御処理としてバルブV5が開状態とされることで配管口12a、配管12を通って内部空間ISからドレン配管13側に高温高圧の水蒸気が排出される。これにより、木材の加熱圧縮処理の定着、所謂、木材の固定化がより促進されることとなる。
【0046】
続いて、図3(e)に示すように、上プレス盤10Aの配管路14b及び下プレス盤10Bの配管路14cに常温の冷却水が通されることによって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが常温前後まで冷却され、材料によって異なる所定時間(例えば、10〜120〔min〕)保持される。なお、このときの固定側の下プレス盤10Bに対する上プレス盤10Aの圧縮圧力は、加熱圧縮の際の圧力と同じ所定圧力(例えば、2〜5〔MPa〕)に保持されたまま、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが冷却される。
そして、最後に、図3(f)に示すように、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇させ、内部空間ISから仕上がり品である表層材SWが取出されることで一連の処理工程が終了する。
【0047】
このようにして、木材の木目の長さ方向に対して垂直方向に加えた外力によって、木材の厚みが加熱圧縮され、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした表層材SWが製造される。
なお、本実施の形態においては、蒸気圧を制御したのち、徐々に解圧して内部蒸気圧を開放し、また、冷却によって木材内の水蒸気圧を下げて定着させるので、冷却圧縮を解除したときの膨らみ変形やパンクと呼ばれる表面割れのない表層材SWを形成できる。即ち、本実施の形態の表層材SWは、圧縮解除後に膨らみ変形や表面割れを生じることがなくて安定した品質が確保されている。本実施の形態では、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bを用いて圧縮し、定着して表層材SWを得ているが、本発明を実施する場合には、通常の電子レンジが使用するマイクロ波の周波数帯域よりも若干周波数の低い高周波で誘電加熱して加工前木材NWを加熱圧縮し、定着しても、表層材SWを得ることができる。
【0048】
続いて、上述のようにして形成された本実施の形態の表層材SWの特性について図4乃至図6を参照して説明する。
図4は、上述した塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となるときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔を様々変えることによって得られる気乾比重が異なるスギ材のそれぞれの硬度についてJIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものである。具体的には、図4において、硬度H〔N/mm2〕は、木材の表面に直径10〔mm〕の鋼球を平均圧入速度0.5〔mm/min〕で圧入して、圧入深さが0.32〔mm〕になるときの荷重P〔N〕を測定し、下記の式(1)から算出したものである。
硬度H=P/10・・・(1)
なお、図4において、参考のために、横軸の最小値側には、加工前のスギ材(気乾比重が平均で約3.6)における硬度〔N/mm2〕の測定結果を示してある。
【0049】
また、図5は、耐摩耗性の指標となる摩耗深さについてJIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものであり、上述した塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となるときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔を様々変えることによって得られる気乾比重が異なるスギ材において、それぞれ耐摩耗性の指標となる摩耗深さを比較したものである。具体的には、図5において、摩耗深さD〔mm〕は、所謂、摩耗試験装置を用い、木材に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように摩耗輪を500回転させたときの木材の重量m2〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m1〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm2〕と密度ρ〔g/cm3〕とから下記の式(2)によって算出したものである。
摩耗深さD=(m1−m2)/A・ρ・・・(2)
なお、図5において、参考のために、横軸の最小値側には、加工前のスギ材(気乾比重が平均で約3.6)における摩耗深さ〔mm〕の測定結果を示してある。
【0050】
さらに、図6は、本実施の形態に係る表層材SWの実施例の硬度、摩耗深さ、曲げヤング係数の各値を比較例と比較して示したものである。図6において、剛性の指標となる曲げヤング係数〔N/mm2〕は、JIS−Z―2101に準じて評価した結果を示したものであり、具体的には、ヤング式の2点荷重方式で、次式で測定計算したものである。
Eb=ΔP・L3/48・I・Δy
ここに、
Eb:曲げヤング係数〔N/mm2〕(Kgf/cm2)、
ΔP:比例域における上限荷重と下限荷重との差〔N〕(kgf)、
Δy:ΔPに対応するスパン中央のたわみ(mm)、
I:断面2次モーメントI=bh3/12(mm4)、
L:スパン(mm)、
b:試験体の幅(mm)、
h:試験体の高さ(mm)、
である。
なお、図6において、硬度〔N/mm2〕及び摩耗深さ〔mm〕は、上述したJIS−Z―2101−1994に準じて評価した結果を示したものである。
【0051】
図4乃至図6に示すように、圧密加工によって気乾比重を0.85以上としたものでは、硬度〔N/mm2〕及び曲げヤング係数〔N/mm2〕の値が極めて大きくなっており、また、摩耗深さ〔mm〕においても、その値がとても小さくなっている。即ち、圧密加工によって気乾比重を0.85以上にすることで、高い硬度、耐摩耗性及び剛性が得られ、傷跡や凹みが付き難くなることが分かる。
殊に、図4及び図6に示すように、硬度〔N/mm2〕は、気乾比重を0.85以上とすることで顕著に高くなっており、しかも、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の硬度が15〔N/mm2〕くらいであることから、気乾比重が0.85以上となるように圧密加工された表層材SWは、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすくて高い硬度が要求される床材等の表層部分を構成するのにも十分な硬度を有していることが分かる。
また、図5及び図6に示すように、摩耗深さ〔mm〕においても、通常、床材に利用されている広葉樹(ナラ等)の摩耗深さが0.14〔mm〕くらいであることから、気乾比重が0.85以上となるように圧密加工された表層材SWは、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等の表層部分を構成できることが分かる。
このことから、圧密加工によって気乾比重を0.85以上とした本実施の形態の表層材SWは、集中荷重や衝撃荷重を受けやすい床材等に利用しても傷跡や凹みが付き難く、広範な用途に使用可能である。
【0052】
そして、図4及び図5に示すように、気乾比重を0.85以上としたものでは、硬度〔N/mm2〕及び摩耗深さ〔mm〕の値のばらつきが小さくなっている。
即ち、圧密加工によって気乾比重を0.85以上とした本実施の形態の表層材SWは、物理的性質が安定していて、品質にばらつきが少ない。
【0053】
これは、木材の早材部における細胞壁の厚さが薄く、また、早材部の空隙率が大きいうえに、製材された木材(加工前木材NW)によって年輪(早材部と晩材部)の配列状態が異なることに起因して、気乾比重が0.85以上となるまでに圧密加工していないものでは、細胞の圧縮変形が局部的に集中して厚み全体が平均的に圧縮されていないためと推定されるところ、気乾比重が0.85以上となるように圧密加工された本実施の形態の表層材SWでは、早材部の殆どの細胞が圧縮変形されて細胞壁が重なり合い、早材部の(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなって、厚み全体が略均一に圧縮されたためと推定される。
【0054】
そして、このことは、気乾比重が0.85以上となるまでに圧密加工していないものでは、製品化後の周囲環境条件の変化によって歪みが発生することがあったが、気乾比重が0.85以上となるように圧密加工された本実施の形態の表層材SWでは、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がなかったことからも裏付けされる。即ち、気乾比重が0.85以上となるまでに圧密加工していないものでは、圧縮による細胞変形が局部的に集中しているために、個体内部において周囲環境条件の変化による寸法変化率のばらつきがあり、それ故、周囲環境条件の変化によって歪みが発生することがあったが、圧密加工によって気乾比重を0.85以上とした表層材SWにおいては、厚み全体が均一に圧縮されているために、個体内部における周囲環境条件の変化による寸法変化率にばらつきがなく歪みが発生しなかったと考えられる。
【0055】
また、図4及び図6に示したように、気乾比重が0.85以上のもので硬度が顕著に高くなっているのは、圧縮による晩材部の細胞変形は僅かではあるものの、表層部を含む早材部の殆どの細胞が圧縮変形されて、細胞壁が重なり合ったため、また、(細胞内腔の)空隙が極めて少なくなったため、更には、それにより元来細胞壁が厚く空隙が少ないために硬くなっている晩材部が表層部において顕在化した、即ち、晩材部の占有率が高くなったためと考えられる。
【0056】
このように、本実施の形態の表層材SWは、高い硬度、耐摩耗性及び剛性を有していて、傷跡や凹みが付き難く、また、品質のばらつきも少なくなっている。
【0057】
次に、上述のようにして製造された表層材SWを用いて構成される本実施の形態に係る積層塑性加工木材LPWについて、図7を参照して説明する。
本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、図7に示すように、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした表層材SWの片面に、図示しない接着剤を介して、内層材IWが、その木目の長さ方向(α)を表層材SWの木目の長さ方向(A)に対応させ、かつ、その年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させて接合したものである。
具体的には、本実施の形態の内層材IWは、予め所定の寸法に製材され、所定の条件で乾燥させた複数本の未圧縮の角材からなり、各角材がそれぞれ木目の長さ方向(α)を表層材SWの木目の長さ方向(A)に対応させ、かつ、それぞれ年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させ、図示しない接着剤を介して各角材が互いに接合されて、表層材SWに接合している。
念のために記載すると、図7において、γは年輪の接線方向を示すものである。
【0058】
なお、通常、製材された内層材IWも、木口面(2面)、板目面(木表及び木裏の2面)、柾目面(2面)を有しているため、内層材IWの木目の長さ方向(α)を表層材SWの木目の長さ方向(A)に対応させ、かつ、その年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させて接合するとき、内層材IWの柾目面側が表層材SWに接合されることになる。本実施の形態においては、図7の幅方向の長さが約8.8cmの表層材SWに対して図7の幅方向の長さがそれぞれ約1.1cmの角材8本を用いて本実施形態の内層材IWを構成しているが、勿論、本発明を実施する場合には、これに限定されるものではなく様々な大きさの製材を組み合わせて用いてもよく、また、1つの板材を用いてもよい。特に、本実施の形態によれば、内層材IWを複数本の未圧縮の角材で構成しているため、間伐材、風害・水害・雪害・森林火災・凍害・虫害等の自然災害によって倒れたり芯割れを起こしたりして丸太の状態では使えなくなった傷害木材、端材等でも用いやすく、低コスト化を図ったり環境美化に貢献したりすることが可能である。勿論、表層材SWの原材料にも間伐材等を用いることも可能である。
【0059】
そして、本実施の形態においては、表層材SW及び内層材IWには共にスギ材が用いられている。スギ材は一般的に入手しやすく加工を施しやすいものであるから、特に、表層材SWにおいてスギ材の欠点を補完することにから、表層材SW及び内層材IWとしてスギ材を用いた場合には、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることが可能である。また、スギ材は、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができるため、表層材SW及び内層材IWにスギ材を用いた場合には、環境保全に貢献することができる。
勿論、本発明を実施する場合には、スギ材に限定されるものではなく、例えば、マツ、ヒノキ、イエローポプラ等を用いることも可能である。マツやヒノキは、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができ、加工も施しやすいため、スギ材を用いた場合と同様の効果が得られる。また、イエローポプラ(学名:Liriodendron tulipifera、別名:ハンテンボク、チューリップポプラ、キャナリーホワイトウッド、ユリノキ)もスギと同様に入手しやすく加工を施しやすいものであることから、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることができる。特に、イエローポプラは元来の色調が明るいため、材料によっては沈色化するものもあるが、一般に、高圧縮による濃色化、黒色化を抑制することができ、良好な外観を保持することが可能である。また、後述するように、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした木材の加熱圧縮方向(B)に対する直角方向における含水率1〔%〕当たりの寸法変化率と、非圧縮の木材における年輪の半径方向(β)の含水率1〔%〕当たりの寸法変化率が同一であればまたは近似していれば、表層材SWと内層材IWを異なる樹種とすることも可能である。
なお、上述の如く、表層材SWには、辺材が使用されるのが好適であるが、内層材IWには辺材と心材のどちらを用いてもよい。
【0060】
表層材SWと内層材IWとの間に介在し、両者を一体に接合する図示しない接着剤、また、内層材IWを構成する複数本の未圧縮の角材間に介在し、内層材IWの角材同士を一体に接合する図示しない接着剤としては、具体的には、水性ビニールウレタン系接着剤(水性高分子イソシアネート系接着剤)を使用することができる。
そして、本実施の形態において、表層材SWと複数本の未圧縮の角材からなる内層材IWとは、図示しないプレス盤等による圧締で接着剤を介在させ互いが一体に接合されたものである。即ち、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、表層材SWと内層材IWとの間、また、内層材IWを構成する複数本の未圧縮の角材間に接着剤を均一に塗布したものを図示しないプレス盤等の圧縮空間内に載置したのち、図示しないプレス盤等の圧縮圧力で圧締することによって、互いを一体に接合したものである。このときの所定の条件となる圧締圧力及び圧締時間等については、接着剤の種類や樹種や含水率等をパラメータとして圧力ができる限り均等にかかるように予め実験等によって最適値が設定されている。しかし、本発明を実施する場合には、木材相互間を機械的に結合する手段や、接続手段によって接合することも可能である。
なお、上記表層材SWと内層材IWとの接合行程を含む積層塑性加工木材LPWの製造途中で、表面の平面性が損なわれたり、傷付きや汚れが発生したりした際には、表面、特に、製品表面となる表層材SWの表面に切除加工を施したり、樹脂等による表面コーティングを行うことが好ましい。これにより、必要な平面性を得られる共に、その見栄えをよくすることができる。
【0061】
このように、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、表層に硬度・耐摩耗性・剛性に優れ品質のばらつきも少ない表層材SWが形成され、内層材IWを下部層としてその間に図示しない接着剤を介在させて一体に接合された2層構造にて構成されたものであるから、表層材SW側を製品表面に用いることで、表面となる表層材SWによって傷跡や凹みが付き難くなっている。このため、履物による集中荷重や衝撃荷重を受ける床材、デッキ材、腰板材、屋内家具材、表面塗装して使用する住宅用外装材、学童机、テーブルの天板、扉等広範な用途に使用可能であり、傷跡や凹みが極めて付き難いために意匠面も長時間良好に維持される。
なお、履物による集中荷重や衝撃荷重を受けるために表層において高い硬度や耐摩耗性等が要求される床材等に用いる場合であっても、表層材SWは約1〔mm〕乃至5〔mm〕程度の厚みがあれば十分であり、表層材SWの厚みを薄くできることが本発明者らの実験で確認されており、非圧縮の内層材IWは表層材SWよりも柔らかいことから、内層材IWによる木材本来の緩衝機能を引き出すことも可能である。特に、本実施の形態においては、内層材IWに非圧縮の木材であるスギ材を使用しているため、内層材IWによる木材本来の防音効果や断熱効果をも期待できる。
【0062】
ここで、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした表層材SWと未圧縮の内層材IWの含水率1%当たりの寸法変化率について、即ち、周囲環境条件の変化における寸法形状安定性について、発明者による実験結果を示す図8及び図9を参照して、説明する。
【0063】
本発明者らは、非圧縮の木材及び圧密加工した木材の含水率1%当たりの寸法変化率について以下の実験を行った。
即ち、上述した塑性加工木材製造装置1におけるプレス盤10の上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間ISがシール部材11を介して密閉状態となるときの内部空間ISの上下方向の寸法間隔を様々変えることによって得られる気乾比重が異なるスギ材(塑性加工木材)及び非圧縮のスギ材(非圧縮材)を用い、乾燥を行ってから、それぞれ所定の同寸法に切削して、試験体を作製した。そして、気乾状態で、気乾比重が異なるスギ材(塑性加工木材)においては、加熱圧縮方向、加熱圧縮方向に対する直角方向(且つ、木目の長さ方向に対する直角方向)、木目の長さ方向の3方向の各長さh1〔mm〕、また、非圧縮のスギ材(非圧縮材)においては、年輪の接線方向、年輪の半径方向、木目の長さ方向の3方向の各長さh1〔mm〕を測定し、さらに、各試験体の重量m1〔g〕を測定した後、乾燥器で完全乾燥(以下、単に「全乾」という)させ、その後の重量m2〔g〕、上記各方向の長さh2〔mm〕を測定し、下記の式(3)によって含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率)a〔%〕を算出した。その結果を示す特性図が図8である。即ち、図8は、気乾状態から全乾状態にした場合における非圧縮材及び気乾比重が異なる各塑性加工木材と含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率)a〔%〕との関係を示したものである。なお、本実験において、上記各塑性加工木材は、木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮されたものである。
収縮率a=[(h1−h2)/h1}/[(m1−m2)/m1}・・・(3)
【0064】
また、上記全乾寸法測定後、温度20℃・湿度80%の環境下で所定時間各試験体に吸湿を行わせ、吸湿後に重量m3〔g〕、上記各方向の長さh3〔mm〕を測定し、下記の式(4)によって含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(膨張率)b〔%〕を算出した。その結果を示す特性図が図9である。即ち、図9は、全乾状態から吸湿を行った場合における非圧縮材及び気乾比重が異なる各塑性加工木材と含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(膨張率)b〔%〕との関係を示したものである。
膨張率b=[(h3−h2)/h2}/[(m3−m2)/m2}・・・(4)
なお、本実験における気乾比重は、気乾状態における各試験片の重量及び寸法から算出したものである。
【0065】
図9に示すように、木目の長さ方向における含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率及び膨張率)は、圧密加工によって気乾比重を大きくしても、殆ど変化していないことが分かる。
即ち、気乾比重が0.85以上となるように圧密加工された表層材SW及び非圧縮の内層材IWは、その木目の長さ方向(A、α)の含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率及び膨張率)は略同一である。
【0066】
また、塑性加工木材において加熱圧縮方向に対する直角方向の含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率及び膨張率)は、圧密加工によって気乾比重を大きくしても、大きく変化をしておらず、圧密加工によって気乾比重を0.85以上としたものでは、含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率)が約0.15%前後であり、非圧縮材における年輪の半径方向の含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率)と略同一で年輪の接線方向のそれよりも近似していることが分かる。同様に、含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(膨張率)においても圧密加工によって気乾比重を0.85以上としたものでは約0.1%で、含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(膨張率)が約0.1〜0.15%の非圧縮材年輪の半径方向と近似しており、年輪の接線方向におけるそれよりも近似していることが分かる。
即ち、気乾比重が0.85以上となるように圧密加工された表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向における含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率及び膨張率)と、非圧縮の内層材IWの年輪の半径方向(β)における含水率1〔%〕当たりの寸法変化率(収縮率及び膨張率)とは、同一であるまたは近似している。
【0067】
このため、木目の長さ方向(α)を表層材SWの木目の長さ方向(A)に対応させ、かつ、年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させて表層材SWの片面側に非圧縮の内層材IWを接合した本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、表層材SWと内層材IWとの接合面における各方向(長さ方向、幅方向、厚さ方向)の両者の寸法変化率の差が最小限となっている。故に、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、周囲環境条件の変化を受けた場合でも、接合面へのストレスがかかりにくく、両者の寸法変化率が接合面で大きく異なることに起因する歪みの発生や変形が生じるのが防止されている。
また、内層材IWの年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させて表層材SWに接合した本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、表層材SWとの接合面に内層材IWの木表板目面及び木裏板目面が配置することはないため、周囲環境条件の変化を受けた場合でも表層材SWへの内層材IWの接合面において(厚さ方向において)反り下がりや反り上がりといった反り変形を生じることもなく、反り変形による接合面へのストレスを加えることもない。
さらに、上述したように、表層材SWにおいては、厚み全体が略均一に圧縮されていて、個体内部において製品化後の周囲環境条件の変化による寸法変化率のばらつきが少なくなっているため、製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生がない。
【0068】
このように、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、製品化後に木材の周囲環境条件の変化を受けても表層材SWと内層材IWとの接合面にストレスがかかりにくくなっており、歪みや変形が生じるのが防止されている。したがって、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、寸法形状安定性が向上する。
【0069】
なお、図8及び図9に示すように、塑性加工木材の加熱圧縮方向の含水率1%当たりの寸法変化率(収縮率及び膨張率)は、気乾比重が0.8以上で一定となる傾向または減少する傾向にある。このため、圧密加工によって0.85以上とした表層材SWにおいて気乾比重が大きいものほど、表層材SWと内層材IWとの接合面にストレスをかけるという心配はない。これは、木材を高圧縮して気乾比重を0.8以上としたものでは、空隙が少なくなり、寸法変化の原因となる細胞壁に結合できる水(結合水)の吸着点が制約されてくるため、即ち、細胞壁を構成する成分が密となって水が結合できる隙間が少なくなり繊維飽和点が下がるためと考えられる。
【0070】
ところで、複数の積層塑性加工木材を厚みの側面方向である幅方向に横継ぎ接合して大きな幅寸法の積層塑性加工木材を形成する場合には、例えば、図10に示すような形状の積層塑性加工木材LPW1とすることもできる。この本実施の形態の変形例に係る積層塑性加工木材LPW1は、内層材IWの幅方向の一方に木目の長さ方向(α)に沿って所定の断面形状の凸部20が形成され、幅方向の他方に同じく木目の長さ方向(α)に沿って所定の断面形状であって凸部20の形状に対応する凹部21が形成されたものである。そして、これら凸部20及び凹部21を幅方向に配置される別の積層塑性加工木材LPW1の凹部21及び凸部20に嵌合させることによって、接着剤を用いることなく、別の積層塑性加工木材LPW1との横継ぎ接合が可能になっている。かかる場合、積層塑性加工木材LPW1同士の接合面において、各方向の寸法変化率が同一であることから接合面にストレスがかかることはない。
なお、上記変形例にかかる積層塑性加工木材LPW1の場合、内層材IWは、主に、その樹芯側、即ち、木裏側板目面を凸部20方向に配置し、木表側板目面を凹部21方向に配置するのが好ましい。このように配置することで、周囲環境条件の変化によって板目面側が反ることがあっても、内層材IWは凸部20方向に凸状(逆凹形)に変形することになるから横継ぎ接合が強固になり安定性が増す。
勿論、本発明を実施する場合には、長さ方向に縦継ぎ接合して大きな寸法の積層塑性加工木材を形成することも可能である。
【0071】
このように、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、木材の木目の長さ方向(A)に対して垂直方向に加えた外力によって、木材の厚みが加熱圧縮され、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした表層材SWと、木材の木目の長さ方向(α)を表層材SWの木目の長さ方向(A)に対応させ、かつ、木材の年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させて表層材SWの片面側に接合した非圧縮の内層材IWとを具備するものである。
【0072】
したがって、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、表層材SWは物性的に安定していて、製品間の品質にばらつきが少ない。更に、高い硬度を有し傷跡や凹みが付き難くなっている。
また、表層材SWと内層材IWと接合面における各方向(長さ方向、幅方向、厚さ方向)の両者の寸法変化率の差が最小限となっており、さらに、内層材IWが表層材SWとの接合面において(厚さ方向において)反り下がりや反り上がりといった反り変形を生じることがない。加えて、表層材SWは製品化後の周囲環境条件の変化による歪みの発生もない。
故に、製品化後に周囲環境条件の変化を受けたときでも表層材SWと内層材IWの接合面にストレスがかかりにくく、歪みや変形が生じるのが防止されていて、寸法形状安定性が向上する。
【0073】
このようにして、寸法形状安定性が向上し、また、積層された木材の表層部分において製品間の品質にばらつきが少なく、傷跡や凹みが付き難い積層塑性加工木材LPWとなる。
【0074】
また、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、内層材IWは、各木材の木目の長さ方向(α)を表層材SWの木目の長さ方向(A)に対応させ、かつ、各木材の年輪の半径方向(β)を表層材SWの加熱圧縮方向(B)に対する直角方向に対応させた複数本の木材が平行に配置し、互いに接合されて構成されているものであるから、一枚の板材を表層材SWに接合した場合より強度を向上させることが可能である。また、適度な強度を有するものであれば間伐材等の安く入手できる木材でも利用しやすいため、低コスト化を図ることができる。
【0075】
さらに、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、表層材SW及び/または内層材IWはスギ材からなるものであり、スギ材は入手しやすくて加工を施しやすく、特に、表層材SWにおいてスギ材の欠点を補うことになるから、生産性を向上させることができ、低コスト化を図ることも可能になる。また、スギ材は、我が国において広く分布しており、間伐材等を容易に大量に入手することができるため、環境保全に貢献することができる。
【0076】
また、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、表層材SWは、JIS−Z―2101−1994に規定された硬度試験による硬度が25〔N/mm2〕以上であり、通常の床材として利用されている広葉樹の硬度よりもかなり高い値であるから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い表面硬度が要求される床材等に利用するにも十分な硬度を有している。
加えて、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、表層材SWは、JIS−Z―2101−1994に規定された耐摩耗試験による摩耗深さが0.12〔mm〕以下であり、通常の床材に利用されている広葉樹の摩耗深さより低い値であるから、集中荷重や衝撃荷重等を受けやすいために高い耐摩耗性が要求される床材等に利用することかできる。
故に、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWは、広範な用途に使用可能であり、例えば、床材、腰板材、屋内家具材、表面塗装として使用する住宅用外装材等、学童机、テーブルの天盤、扉等に利用できる。
【0077】
そして、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、表層材SWは、複数に分割された構造体としての上プレス盤10A、下プレス盤10Bによって内部空間ISを形成し内部空間ISの容積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤10を用いて、内部空間IS内に載置される表層材SWの原材料である加工前木材NWをその木目の長さ方向(A)に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした内部空間内ISに保持し、保持された内部空間IS内の蒸気圧を制御して固定したのち冷却してなるものである。即ち、本実施の形態の表層材SWは、効率的に圧縮変形されてなるものであり、圧縮解除後の戻り、膨らみ変形、パンクと呼ばれる表面割れが防止されている。故に、本実施の形態の積層塑性加工木材LPWによれば、高い品質の表層材SWを確保することができ、生産性が良好となる。
【0078】
上記実施の形態では、表層材SWと内層材IWが各1枚の積層塑性加工木材LPWについて説明したが、本発明を実施する場合には、表層材SWを2枚として表裏に利用することも可能である。即ち、1枚の内層材IWを2枚の表層材で挟んでサンドイッチ構造とすることもできる。これによっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。また、例えば、床板等として利用する場合において表裏を問うことなく使用できるようになるため、便利である。さらに、積層全体の表裏面のバランスがよくなることから、製品化後に周囲環境条件が変化したときでも全体の歪みの発生が確実に防止される。
【0079】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0080】
LPW,LPW1 積層塑性加工木材
SW 表層材
IW 内層材
NW 加工前木材
IS 内部空間
10 プレス盤
10A 上プレス盤
10B 下プレス盤
11 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の木目の長さ方向に対して垂直方向に加えた外力によって、前記木材の厚みが加熱圧縮され、圧密加工されて気乾比重を0.85以上とした表層材と、
木材の木目の長さ方向を前記表層材の木目の長さ方向に対応させ、かつ、前記木材の年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させて前記表層材の片面側に接合した非圧縮の内層材と
を具備することを特徴とする積層塑性加工木材。
【請求項2】
前記内層材は、各木材の木目の長さ方向を前記表層材の木目の長さ方向に対応させ、かつ、前記各木材の年輪の半径方向を前記表層材の加熱圧縮方向に対する直角方向に対応させた複数本の木材が平行に配置し、互いに接合されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層塑性加工木材。
【請求項3】
前記表層材及び/または前記内層材は、スギ材からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層塑性加工木材。
【請求項4】
前記表層材の圧密加工した硬度は、硬度試験による25〔N/mm2〕以上としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。
【請求項5】
前記表層材の圧密加工した摩耗深さは、耐摩耗試験による0.12〔mm〕以下としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。
【請求項6】
前記表層材は、複数に分割された構造体によって内部空間を形成して前記内部空間の体積を変化させることによりプレス圧縮自在なプレス盤で、前記内部空間内に載置される前記表層材の原材料である加工前木材をその木目の長さ方向に対して垂直方向に加熱圧縮し、更に、密閉状態とした当前記該内部空間内に保持し、前記保持された内部空間内の蒸気圧を制御して固定化してなることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の積層塑性加工木材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−251486(P2011−251486A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127594(P2010−127594)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(501115689)マイウッド・ツー株式会社 (16)
【Fターム(参考)】