説明

積層成形体

【課題】 本発明は、軽量で、機械的強度、耐衝撃性等が優れている積層成形体及びそれを用いたプロテクターを提供する。
【解決手段】 非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度で引抜延伸した後、該引抜延伸温度より高い温度で一軸延伸して得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、隣接する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向が異なるように4枚以上積層されていることを特徴とする積層成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートよりなる積層成形体及びそれからなるプロテクターに関する。
【背景技術】
【0002】
野球、サッカー、アメリカンフットボール等のスポーツでは競技中に体と体がぶつかりあうので、体を保護するためにプロテクターを使用している。又、警察官が犯人を逮捕したり、暴力団に対応する際も体を守るためにプロテクターを使用している。スポーツの際のプロテクターは軽量で機械的強度さえあればよいが、警察官の使用するプロテクターは防刃性等の特別な性能が要求されることがある。
【0003】
このようなプロテクターとしては、合成樹脂製のものやアルミニウム等の軽量金属製のものが使用されている。例えば、EVAやポリエチレン等の衝撃緩衝性に優れた合成樹脂材料からなる外側緩衝層の内側にEVAやポリエチレン等の衝撃緩衝性に優れた合成樹脂材料からなる内側緩衝層を重合接着し、さらにその内側緩衝層の内側に内側吸湿層を重合接着してなることを特徴とするプロテクター(例えば、特許文献1参照。)が提案されているが、上記プロテクターでは機械的強度が小さく、大きな衝撃には耐えられず、防刃性は殆どなかった。
【特許文献1】特開2006−63483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、軽量で、機械的強度、耐衝撃性等が優れている積層成形体及びそれを用いたプロテクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の積層成形体は、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度で引抜延伸した後、該引抜延伸温度より高い温度で一軸延伸して得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、隣接する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向が異なるように4枚以上積層されていることを特徴とする。
【0006】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0007】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎるとシート作成時にドローダウンを起こしやすくなる傾向があり、高すぎると、延伸しても機械的強度(特に弾性率)が上昇しないので、0.6〜1.0が好ましい。
【0008】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.1mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、5mmを超えると延伸が困難となる傾向があるので0.1〜5mmが好ましく、より好ましくは0.2〜3mmである。
【0009】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態である。延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態であればよく、その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることが好ましく、より好ましくは5%未満である。
【0010】
本発明においては、上記非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸する。引抜延伸する方法は特に限定されず所定のクリアランスを有する引抜金型を通して引抜延伸してもよいが、一対のロール間を通して引抜延伸するのが、延伸後の厚みを自由にコントロールでき、また引抜金型の特定部位の磨耗が生じることがないので好ましい。
【0011】
引抜延伸する際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は特に限定されるものではないが、ガラス転移温度付近の温度に予熱されているのが好ましい。予熱温度は、低すぎても高すぎても樹脂シートが所定の温度にならないことがあるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度が好ましい。
【0012】
上記引抜延伸する際の温度は、低温であると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが硬すぎて、引き抜こうとしても先に切断されてしまうことがあり、切断されなくてもシートにボイドができて白化してしまうなどの問題があり、高温になると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが柔らかくなりシートを引抜く張力により熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが切断されるので、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度範囲であり、好ましくは該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度範囲である。
【0013】
又、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜く際に、ロールは必ずしも回転する必要はないが、特に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みが厚い場合には、せん断発熱によるロールの蓄熱に起因するシートの温度上昇が生じやすいため、引抜方向に回転させるのが好ましい。
【0014】
ロールの回転速度が遅いと、ロールと熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの接触時間が長くなり、摩擦熱が発生し、ロール温度が上昇して、加熱された熱可塑性ポリエステル系樹脂を冷却する効果が低下し、所定の引抜延伸温度を超えてしまい、逆にロールの回転速度が早くなると、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの表面の熱可塑性ポリエステル系樹脂のみが流動し、均一に引抜延伸できなくなり、得られた引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの弾性率が低下する。従って、ロールの回転速度は熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを同一条件の引抜速度でロールが回転していない状態で引き抜いた際の送り速度と実質的に同一又はそれ以下の速度が好ましい。
【0015】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが厚い(1.5mm以上)場合は、ロールとシートとのせん断による発熱が大きくなるため、ロールの回転速度は上記送り速度の50〜100%が好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが薄い場合は、ロールによる冷却効果が大きいのでロールの回転速度は遅くてもよい。
【0016】
上記引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率が低下する傾向があり、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなる傾向があるので、2〜9倍が好ましく、より好ましくは2.5〜7倍である。
【0017】
本発明においては、引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは該引抜温度より高い温度で一軸延伸されて延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られる。
【0018】
引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているので強度及び弾性率が優れているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和され弾性率は低下してしまうという欠点を有している。しかし、この引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該引抜温度より高い温度で一軸延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られる。
【0019】
上記一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。ロール延伸法とは、速度の異なる2対のロール間に延伸原反を挟み、延伸原反を加熱しつつ引っ張る方法であり、一軸方向のみに強く分子配向させることができる。
【0020】
上記一軸延伸する際の温度は、一次延伸する際の一対のロールの温度より高い温度であればよいが、高すぎると引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断される傾向があるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度の温度範囲が好ましい。尚、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、ポリエチレンテレフタレートシートを一軸延伸する際は約120℃〜約230℃で一軸延伸するのが好ましい。
【0021】
上記一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性係数等が低下する傾向があり、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなる傾向があるので、1.05〜3倍が好ましく、さらに好ましくは1.1〜2倍である。又、引抜延伸と一軸延伸の積である合計延伸倍率は、同様の理由で、2.5〜10倍が好ましく、より好ましくは3〜8倍である。
【0022】
一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、更に耐熱性を向上させるために一軸延伸温度より高い温度で熱固定されているのが好ましい。
【0023】
熱固定温度は、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度より低いと熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まないので耐熱性が向上せず、融解ピークの立ち上がり温度より高いと熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し引張弾性率、引張強度等が低下し、一軸延伸温度より30℃以上高くなると、一軸延伸温度で結晶化した結晶の配向が緩和されるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であって、一軸延伸温度より30℃以上高くない温度が好ましい。
【0024】
又、熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷がかかっていると延伸されフリーの状態では収縮するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向の長さが実質的に変化しないようにした状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないのが好ましい。
【0025】
即ち、熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1で、一軸延伸倍率より低い倍率になるように熱固定するのが好ましい。従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的に熱固定する場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を0.95〜1.1で、一軸延伸倍率より低い倍率になるように設定して熱固定するのが好ましい。
【0026】
熱固定する際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、一般に10秒〜10分が好ましい。
【0027】
更に、上記熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、ガラス転移温度〜昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度の範囲で、実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。アニールすることにより、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは弾性率等の力学的物性が良好であって、ガラス転移温度以上の温度に加熱されても弾性率等の力学的物性が低下することがなく、且つ、収縮率を低く抑えることができる。
【0028】
又、アニールする際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸されるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。即ち、アニールされた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、アニール前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.0以下になるようにアニールするのが好ましい。
【0029】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的にアニールする場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を1.0以下になるように設定してアニールするのが好ましい。又、短尺シートをアニールする際には、荷重がかからないよう両端部を開放して行うのが好ましい。アニールする際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。
【0030】
アニールする時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さやアニール温度により異なるが、一般に10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒〜60分であり、更に好ましくは1〜20分である。
【0031】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの線膨張係数は、大きいと温度差により大きく伸縮するので、小さいほうが好ましく、特に負であるのが好ましい。従って、−1.5×10-5以上であって0未満が好ましい。又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引張弾性率が7GPaを下回ると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両面に熱可塑性樹脂層を積層した積層成形体の線膨張係数が大きくなり、15GPaを上回ると積層成形体の耐衝撃性が低下するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引張弾性率は7〜15GPaが好ましい。
【0032】
本発明の積層成形体は、上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、隣接する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向が異なるように4枚以上積層されている。延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの積層枚数は、少ないと機械的強度や防刃性等が不足することがあり、多すぎると積層し接着する際に均一に接着することができず、機械的強度がばらつくことがあるので5〜100枚が好ましく、より好ましくは6〜50枚である。
【0033】
隣接する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向は異なってさえいればよいが、角度差が小さいと補強効果が小さくなるので30〜90度異なるのが好ましく、より好ましくは45〜90度である。又、機械的強度や防刃性等を向上させるには積層された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向は全ての方向にバランスよく配置されているのが好ましい。例えば、5枚の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを積層する場合、最初の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向を0度とすると、2〜5枚目の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向を+45度、+90度、−45度、0度とする、7枚の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを積層する場合、最初の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向を0度とすると、2〜7枚目の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向を+45度、−60度、+90度、−45度、+60度、0度とする等の積層方法があげられる。
【0034】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの積層方法は、従来公知の任意の方法が採用されればよいが、熱融着すると延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸が緩和されるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より低い融点を有するポリエステル系、ポリオレフィン系等のホットメルト型接着剤で接着されるのが好ましい。
【0035】
ホットメルト型接着剤で接着する方法は、特に限定されず、例えば、少なくとも一方の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに溶融ホットメルト型接着剤を塗布すると同時に両者を積層し融着する方法、少なくとも一方の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに溶融ホットメルト型接着剤を塗布・冷却してホットメルト型接着剤層を形成した後積層したり、2枚以上の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間にシート状のホットメルト型接着剤を積層して得られた積層体を加熱し、ホットメルト型接着剤を溶融して融着する方法等があげられる。
【0036】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート同士の融着であるから、上記ホットメルト型接着剤として、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より低い融点を有する熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び/又は不織布が好適に使用される。熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び/又は不織布で融着すると、接着強度が高く、引張強度、耐衝撃性等が向上する。
【0037】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び/又は不織布を構成する繊維としては、前述の熱可塑性ポリエステル系樹脂製の繊維及び前述の熱可塑性ポリエステル系樹脂と綿、スフ等の天然繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等の無機繊維等の繊維との混合繊維が挙げられる。
【0038】
上記不織布としては、従来公知の任意の不織布が使用可能であり、例えば、レンジボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布などの乾式タイプの不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの紡糸直結タイプの不織布、湿式不織布等が挙げられ、バルク性、柔軟性等に富み層間剥離しにくいニードルパンチ不織布及びスパンレース不織布が好ましい。
【0039】
上記ニードルパンチ不織布とは、短繊維をランダムに並べて形成されたウエブに高速で上下するニードル(針)を繰り返し突き刺し、ニードルに刻まれたバーブという突起により繊維を絡ませた不織布である。又、上記スパンレース不織布とは、高圧ポンプによりノズルから30〜500バールの高圧水流をウエブに噴出し、高圧水流がウエブを打ち抜く力と打ち抜いた高圧水流の跳ね返る力を利用して繊維を三次元的に絡み合わせた不織布である。
【0040】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び不織布の目付量、厚み等は、特に限定されるものではないが、一般に、目付量は10〜500g/m2 が好ましく、厚みは0.03〜4mmが好ましい。
【0041】
又、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをより簡便に積層し強固に融着し耐衝撃性を向上させるために、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より低い融点を有するポリエステル系、ポリオレフィン系等のホットメルト型接着剤を含浸した織布及び/又は不織布を、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間に積層し融着する方法も好ましい。
【0042】
上記織布及び/又は不織布としては、特に限定されず、従来公知の任意の織布及び不織布が使用可能であり、例えば、綿、スフ等の天然繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等の無機繊維等の繊維からなる織布及び不織布が挙げられる。
【0043】
上記不織布としても、従来公知の任意の不織布が使用可能であり、例えば、レンジボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布などの乾式タイプの不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの紡糸直結タイプの不織布、湿式不織布等が挙げられ、バルク性、柔軟性等に富み層間剥離しにくいニードルパンチ不織布及びスパンレース不織布が好ましい。
【0044】
又、織布及び不織布の目付量、厚み等は、特に限定されるものではないが、一般に、目付量は10〜500g/m2 が好ましく、厚みは0.03〜4mmが好ましい。
【0045】
上記ホットメルト型接着剤を溶融して融着する方法の際には、超音波ウエルダーによりホットメルト型接着剤を溶融して融着するのが好ましい。超音波ウエルダーにより融着する方法は、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート、ホットメルト型接着剤、織布及び/又は不織布、熱可塑性樹脂層等の積層体を、15〜40kHzの周波数で加振したホーンとローレットの間を通過させる方法があげられる。
【0046】
図1は、2枚の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをホットメルト型接着剤である熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布で超音波ウエルダーにより融着する方法の一例を示す説明図である。図中1、1は延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートであり、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1、1の間に熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布ホットメルト型接着剤シート2が積層されて、積層成形体10が形成されている。
【0047】
積層成形体10はホーン3とローレット4で押圧された状態で移送すると共に、ホーン3から15〜40kHzの周波数で加振することにより、ホーン3から伝えられた超音波振動による摩擦熱により瞬時に熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布2が加熱され溶融して融着される。この際、より効率よく融着するために、ホーン3とローレット4の間隔は積層体10の厚みより狭く設定し、積層成形体10をホーン3とローレット4で加圧しながら融着するのが好ましい。
【0048】
加圧するには、ホーン3にエアシリンダ、油圧シリンダ等を連設し、ホーン3を積層成形体10を介してローレット4に押圧するのが好ましい。又、ローレット4表面には突起部が形成されていることにより、より効率よく融着することができ、突起部の配列や形状を変化することにより、融着部位の配列や形状のパターンを変化することができる。
【0049】
図2〜図6は融着部位の配列パターンの例を示す説明図である。図中10は、超音波ウエルダーにより融着された積層成形体であり、Aは延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1の延伸方向であり、5は融着部位である。又、超音波ウエルダーにより融着する際には、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1の配向状態が緩和されるのを抑制するために、積層成形体10(延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1)に張力を負荷しておくのが好ましい。
【0050】
異なる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート同士の積層方法として、2枚以上の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間に、熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より高い融点を有する織布及び/又は不織布を積層し、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを軟化・溶融すると共に押圧することにより、織布及び/又は不織布を延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに食い込ませて融着する方法があげられる。延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを軟化・溶融させる方法は従来公知の任意の方法が採用されてよいが、超音波ウエルダーにより加熱されるのが好ましい。上記織布及び/又は不織布としては、前述の織布及び/又は不織布であって、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より高い融点を有する織布及び/又は不織布があげられる。
【0051】
更に、異なる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート同士の積層方法として、反応性接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、及びゴム系接着剤よりなる群から選らばれた1種類又は2種類以上の接着剤で接着する方法があげられる。
【0052】
又、上記接着剤が含浸された前述の織布及び/又は不織布を、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間に積層し、該接着剤により接着してもよい。接着剤を含浸している織布及び/又は不織布が積層されて接着されると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの接着性が向上し、得られた積層体の引張強度、耐衝撃性等が向上する。
【0053】
上記不織布としても、従来公知の任意の不織布が使用可能であり、例えば、レンジボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布などの乾式タイプの不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの紡糸直結タイプの不織布、湿式不織布等が挙げられ、バルク性、柔軟性等に富み層間剥離しにくいニードルパンチ不織布及びスパンレース不織布が好ましい。
【0054】
本発明の積層成形体は、積層成形体の両表面の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの表面に熱可塑性樹脂層が積層されてもよい。熱可塑性樹脂層を積層することにより、積層成形体(表面の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート)が衝撃により延伸方向に沿って割れや亀裂が発生しないように保護すると共に、ポリエステル系樹脂が直接雨水や太陽光線に曝されて加水分解や劣化を受け耐久性が低下することを防ぐことが、意匠性を向上できる。
【0055】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、スチレン樹脂、AS樹脂、メチルメタクリレート樹脂、エチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられ、塗料であってもよい。
【0056】
上記熱可塑性樹脂層の厚みは、特に限定されず、その用途により適宜決定されればよいが、薄すぎると上記保護効果が低下し、厚くなると重くなると共に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの低線膨張係数の効果が減少されるので0.1〜3mmが好ましい。
【0057】
本発明の積層成形体は、異型成形、曲げ加工等の成形方法により所定形状に成形することができ、所定形状の積層成形体が得られる。又、積層成形体は、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが延伸方向が異なるように4枚以上積層されているので機械的強度が大きく、プロテクターとして好適に使用でき、特に、防刃性が優れているので防刃用プロテクターとして好適に使用できる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の積層成形体の構成は上述の通りであり、特定の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、隣接する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向が異なるように4枚以上積層されているので線膨張係数が低く、軽量で、機械的強度、耐衝撃性等が優れており、内外装建材として好適に使用できる。又、異型成形、曲げ加工等の成形方法により所定形状に成形することができ、所定形状の積層成形体が得られるので、プロテクターとして好適に使用でき、特に、防刃性が優れているので防刃用プロテクターとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
次に、本発明の実施例を挙げて、詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔0.5mm)間を2m/minの速度で引抜き、更に、熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を180℃に加熱し、出口速度2.5m/minに設定してロール延伸して、厚さ0.5mm、延伸倍率約5倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0061】
尚、上記ポリエチレンテレフタレートシートのガラス転移温度は76.7℃、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での結晶化ピークの立ち上がり温度は約140℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約234℃であった。
【0062】
得られた延伸ポリエチレンテレフタレートシートの片面に、ポリエステル系ホットメルト型接着剤(東洋紡績社製、商品名「バイロンGM−920」、融点107℃)を0.03mmの厚さで溶融押出コーティングして接着剤積層延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0063】
得られた接着剤積層延伸ポリエチレンテレフタレートシート4枚と接着剤が積層されていない延伸ポリエチレンテレフタレートシート1枚を、一番上のシートの延伸方向を0度とした時、上から順に延伸方向が+45度、+90度、−45度、0度になるように延伸方向を合わせ、シート間に接着剤層が介在するように積層し、超音波ウエルダーにより接着して積層成形体を得た。融着パターンは図2に示した通りであり、融着部の大きさは延伸方向に沿って長さ約1.5mm、幅約0.5mm、融着部同士の間隔は延伸方向に約1.5mm、幅約1.5mmであった。
【0064】
得られた積層成形体の線膨張係数をJIS K 7197に準拠して測定したところ1.4×10-5(1/℃)であった。又、JIS K 7113に準拠して測定した引張弾性率は5.1GPaであり、落球衝撃試験(積層成形体を4mの長さに切断し、0℃の冷凍室で1時間養生した後、開口部が下側になるように設置し、1.3mの高さから1kgの茄子型錘を落下し、割れの有無を観察した。)を行なったところ割れは観察できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】2枚の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをホットメルト型接着剤である熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布で超音波ウエルダーにより融着する方法の一例を示す説明図である。
【図2】積層体の融着部位の配列パターンの一例を示す説明図である。
【図3】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【図4】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【図5】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【図6】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート
2 熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布ホットメルト型接着剤シート
3 ホーン
4 ローレット
5 融着部位
10 積層成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度で引抜延伸した後、該引抜延伸温度より高い温度で一軸延伸して得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、隣接する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向が異なるように4枚以上積層されていることを特徴とする積層成形体。
【請求項2】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度に設定された一対のロール間を通して引抜延伸することを特徴とする請求項1記載の積層成形体。
【請求項3】
隣接する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向の角度が45〜90度異なることを特徴とする請求項1又は2記載の積層成形体。
【請求項4】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの積層枚数が5〜100枚であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の積層成形体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の積層成形体からなることを特徴とするプロテクター。
【請求項6】
プロテクターが防刃用プロテクターであることを特徴とする請求項6記載のプロテクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−213248(P2008−213248A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52269(P2007−52269)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】