説明

積層構造体および耐火及び防火構造

【課題】 自立する構造体であって、かつ変形に耐え得る柔軟性があり、耐火及び防火性に優れた構造体を提供することにある。
【解決手段】 積層構造体10は、吸熱材を担持したシート状物20,20,…を波型に加工・積層し、一体化するよう結束したものである。シート状物20,20,…の結束は、積層されたシート状物20,20,…の相対する一対の外縁部分21,21をステープル30で固定するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、建築物の内部に配置する耐火及び防火用構造体であって、吸熱材を担持したシート状物を波型に加工、積層し、一体化するよう結束した積層体と、これを用いた耐火及び防火構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物の内部に配置する耐火及び防火性能を向上させるための方法としては、耐火性及び防火性に優れた材料を、建築物の壁面や柱、梁等に貼りつけるものが知られている。例えば、特許文献1には、高温に加熱されたとき軟化し溶融することなく1050℃においても繊維形態を維持する結晶質の繊維に変化する耐熱性ロックウールからなるフェルトと可撓性無機質表面材(無機繊維クロス、アルミ加工クロス等)との積層物よりなる耐火被覆材が開示されている。
【特許文献1】特開平10−152913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの耐火・防火材料は、それ自体では自立しないため、壁面や柱、梁等の貼りつける対象物を必要とし、設置場所が限定されるという問題点があった。また、貼り付ける対象物の表面に設置するため、建築物内の居住スペースが小さくなるという問題点があった。
【0004】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであって、自立する構造体であって、かつ変形に耐え得る柔軟性があり、耐火及び防火性に優れた構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本願発明の第1の発明は、吸熱材を担持したシート状物を波型に加工・積層し、一体化するよう結束した積層構造体であって、積層されたシート状物の外縁部分の一部を結束することを特徴とするものである。
第2の発明は、シート状物の波型がコルゲート加工によって形成されていることを特徴とする同積層構造体である。
第3の発明は、シート状物の波型がピッチ5〜20mm、山高が5〜15mmであることを特徴とする同積層構造体である。
第4の発明は、シート状物の積層体が糸、ステープル、クリップによって結束されていることを特徴とする同積層構造体である。
第5の発明は、第1〜第4の発明に係る積層構造体を建築物の内部に配置することを特徴とする耐火及び防火構造である。
【発明の効果】
【0006】
本願発明によれば、次のような効果を有する。
(1)シート状物を波型に加工・積層して一体化するよう結束した積層構造体であるため、自立する構造となっており、建物の隙間に自立して配置することができる。
(2)シート状物の外縁部分の一部を結束することで、変形に耐え得る柔軟性があり、狭い空間でも施工が容易である。
(3)吸熱材を担持したシート状物を使用しているので、火災時に吸熱反応によって建物の温度上昇を防ぐことができる。
(4)シート状物を波型に加工・積層しているので、シート状物間に空間が形成され、吸熱材が脱水しやすく、火災時に速やかに脱水して建物の温度上昇を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係る積層構造体を示す説明図である。
図1に示す積層構造体10は、吸熱材を担持したシート状物20,20,…を波型に加工・積層し、一体化するよう結束したものである。シート状物20,20,…の結束は、積層されたシート状物20,20,…の相対する一対の外縁部分21,21をステープル30で固定するものである。この結束には、ステープル30以外にも、糸やクリップなどを使用してもよい。また、ステープル30等で結束する部分は、シート状物20,20,…の相対するもう一対の外縁部分22,22であってもよい。
【0008】
積層構造体10は、波型に加工されたシート状物20を複数枚(例えば、9枚)積層するものであるが、外縁部分21,21(又は外縁部分22,22)を結束するのみで、その他の部分は強制的に結束するものではない。これによって、変形に耐え得る柔軟性があり、狭い空間でも施工が容易な積層構造体10を提供できる。また、図1のA断面部分を拡大した図2の断面拡大図に示すように、シート状物20は上下に位置するシート状物20と部分的には接するものの、その他の部分においては接することなく積層することで、シート状物20,20間に空間11を形成し、吸熱材が脱水しやすい積層構造体10を提供できる。
【0009】
図3は、図1に示す積層構造体10を構成するシート状物20の説明図である。
シート状物20の波は、ピッチ(P)が通常2〜30mm、好ましくは5〜20mmであり、山の高さ(h)が通常1〜20mm、好ましくは5〜15mmである。また、シート状物20の波をコルゲート加工によって成形する場合、シート状物の厚さは、0.1〜2mm位になる。さらに、シート状物20には、吸熱材(図示省略)を担持しているので、火災時に吸熱反応によって建物の温度上昇を防ぐことができる。ここで、吸熱材とは、例えば、水酸化アルミニウム、石膏、シリカゲル,ゼオライト,水酸化銅,硫酸マグネシウム水和物,硫酸アルミニウム水和物,リン酸マグネシウム水和物,リン酸鉄,フッ化鉄,フッ化アルミニウムなどである。
【0010】
図4は、図1に示す積層構造体の製造方法(一例)を示す説明図である。
まず、所定の寸法にカットされたシート状物20a(原紙)を用意する。
次に、このシート状物20aをコルゲーター(コルゲートマシン)40に搬送し、段ロール41,42によってシート状物20aをコルゲート加工(平板状物を波形状物に加工)する。
そして、コルゲート加工されたシート状物20を積層し、積層されたシート状物20,20,…をステープル30で結束して積層構造体10を完成する。
なお、この積層構造体10の製造方法はその一例であり、この他の製造方法で製造することも勿論可能である。
【0011】
図5は、図1に示す積層構造体を利用した耐火及び防火構造を示す説明図(その1)である。
図5では、積層構造体10を利用した「軒天換気構造」の耐火及び防火構造を示す。まず、「軒天換気構造」は、外装板51に設けられた軒天通気見切り金物52に支持されるようにして、軒先から垂下する破風板53と外装板51との間に軒天板50が取り付けられている。
【0012】
そして、本願発明では、火災に際して、この軒天板50を介して熱が小屋裏59に伝播し小屋裏59内の温度が上昇することを防止するため、小屋裏59内に積層構造体10を使用するものである。すなわち、積層構造体10を軒天板50に載置することで、吸熱材を担持したシート状物20の吸熱効果及び空間11による速やかな脱水によって、軒天板50からの被熱を遅延することで、小屋裏の木質部を延焼しにくくすることができるのである。また、積層構造体10は自立性及び柔軟性があるので、様々な構造の小屋裏59内にも対応できて施工が容易である。
【0013】
図6は、図1に示す積層構造体を利用した耐火及び防火構造を示す説明図(その2)である。
図6では、積層構造体10を利用した「間仕切構造」の耐火及び防火構造を示す。まず、「間仕切構造」は、水平方向に設けられた略コ字形をした上部ランナー61及び下部ランナー62をつなぐように垂直方向等間隔に取り付けられた間柱(スタッド)63,63,…と、その間柱63に向かい合うようにして取り付けられる一対の間仕切壁60とを備えている。この間仕切壁60は、下張材64と上張材65からなっている。
【0014】
そして、本願発明では、火災に際して、一方の間仕切壁60側から加熱されたとき、間柱63を通って他方の間仕切壁60側へ熱が伝わることを防止するため、間仕切壁60,60間に形成される中空部66に積層構造体10を使用するものである。すなわち、積層構造体10を中空部66に配置することで、吸熱材を担持したシート状物20の吸熱効果及び空間11による速やかな脱水によって、一方の間仕切壁60側からの被熱を遅延することができるのである。また、積層構造体10は自立性及び柔軟性があるので、様々な構造の中空部66内にも対応できて施工が容易である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本願発明は、建築物の内部に自立して配置できる耐火及び防火性能を向上させるための部材として幅広く利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明に係る積層構造体を示す説明図。
【図2】図1に示す積層構造体のA断面拡大図。
【図3】図1に示す積層構造体を構成するシート状物の説明図。
【図4】図1に示す積層構造体の製造方法(一例)を示す説明図。
【図5】図1に示す積層構造体を利用した耐火及び防火構造を示す説明図(その1)。
【図6】図1に示す積層構造体を利用した耐火及び防火構造を示す説明図(その2)。
【符号の説明】
【0017】
10 積層構造体 11 空間
20 シート状物(20a:原紙) 21 外縁部分 22 外縁部分
30 ステープル
40 コルゲーター(コルゲートマシン)
41 段ロール(上側) 42 段ロール(下側)
50 軒天板 51 外装板 52 軒天通気見切り金物 53 破風板
59 小屋裏
60 間仕切壁 61 上部ランナー 62 下部ランナー
63 間柱(スタッド) 64 下張材 65 上張材 66 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸熱材を担持したシート状物を波型に加工・積層し、一体化するよう結束した積層構造体であって、積層されたシート状物の外縁部分の一部を結束することを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
シート状物の波型がコルゲート加工によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
シート状物の波型がピッチ5〜20mm、山高が5〜15mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層構造体。
【請求項4】
シート状物の積層体が糸、ステープル、クリップによって結束されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の積層構造体を建築物の内部に配置することを特徴とする耐火及び防火構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−281078(P2009−281078A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135188(P2008−135188)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】