説明

積層熱可塑性樹脂フィルム

【課題】優れた密着性を有し、さらに接着性改質層中に含まれる低分子量成分の他面への転移が少ない、積層熱可塑性樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムと、その片面または両面に設けられた接着性改質層とを備える積層熱可塑性樹脂フィルムであって、前記接着性改質層が、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系化合物および前記接着性改質層の全質量に対して0.005質量%以上かつ0.05質量%未満の高沸点溶媒を含有し、前記フッ素系化合物が分子構造中に平均で6〜16個のエチレンオキシド基を有し、前記接着性改質層がハロゲン(但し、フッ素を除く。)を有さない、積層熱可塑性樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ関連に主として用いられる積層熱可塑性樹脂フィルムに関する。詳しくは、本発明は、反射防止フィルム、光拡散シート、プリズムシート、赤外線吸収フィルム、透明導電性フィルム、防眩フィルムなどの各種機能層(ハードコート層、光拡散層、プリズム層、赤外線吸収層、透明導電層、防眩層など)と密着し得る接着性改質層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等のディスプレイの部材に用いられる光学機能性フィルムの基材には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン等からなる透明フィルムが用いられている。これらの基材フィルムを各種光学機能フィルムに用いる場合には、基材フィルムに各種用途に応じた機能層が積層される。例えば、液晶ディスプレイ(LCD)では、表面の傷つきを防止する保護膜(ハードコート層)、外光の映り込みを防止する反射防止層(AR層)、光の集光や拡散に用いられるプリズム層、輝度を向上させる光拡散層等の機能層が挙げられる。これらの基材の中でも、特に、二軸配向ポリエステルフィルムは、優れた透明性、寸法安定性および耐薬品性の点から、各種光学機能性フィルムの基材として広く使用されている。
【0003】
また、LCD、PDP等のディスプレイは、年々大型化と低コスト化が進み、その部材として用いられる光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの製造工程において、生産速度の高速化が実施されている。
【0004】
一般に、二軸配向ポリエステルフィルムのような二軸配向熱可塑性フィルムの場合、フィルム表面は高度に結晶配向しているため、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性に乏しいという欠点がある。このため、従来から二軸配向熱可塑性樹脂フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
【0005】
また、ポリオレフィンフィルムのような極性基を有しないフィルムでは、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性が非常に乏しいため、事前にコロナ放電処理、火焔処理などの物理的処理や化学処理を行った後、フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
【0006】
例えば、基材としての熱可塑性樹脂フィルムの表面に、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、アクリルグラフトポリエステルなどの各種樹脂を主たる構成成分とする接着性改質層を、塗布法によって設けることにより、基材フィルムに易接着性を付与する方法が一般的に知られている。この塗布法の中でも、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムに、直接又は必要に応じてコロナ放電処理を施してから、前記樹脂の溶液または樹脂を分散媒で分散させた分散体を含有する水性塗布液を塗工し、乾燥後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させる方法(いわゆる、インラインコート法)や、熱可塑性樹脂フィルムの製造後、該フィルムに水系または溶剤系の塗布液を塗布後、乾燥する方法(いわゆる、オフラインコート法)が工業的に広く実施されている。
【0007】
機能層と基材フィルムとの間の密着性を向上させるためには、接着性改質層を構成する樹脂に、ガラス転移温度が低い樹脂を用いる方法が一般的である。しかしながら、ガラス転移温度の低い樹脂を用いた場合、フィルムをロール状に連続的に巻き取り、ロール状フィルムからフィルムを巻きだす際に、耐ブロッキング性が低下する傾向がある。
【0008】
耐ブロッキング性を向上させるためには、フィルム表面に凹凸を付与し、接触面積を小さくする方法が一般的に採用される。フィルム表面に凹凸を付与する方法としては、一般的に接着性改質層又は基材フィルム中に添加剤として含有させる無機粒子あるいは有機粒子の量を増やす方法、あるいは粒径の大きな粒子を用いる方法が一般的である。しかしながら、一般的に市販で入手できる粒子の屈折率は接着性改質層に用いる樹脂の屈折率と相違しており、またフィルムの延伸処理にともない粒子の周囲にボイドが形成されるため、これらの方法では、フィルムの光線透過率の低下、ヘーズの上昇などが生じる。特に、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムに要求される透明性が低下する。すなわち、従来の方法では、工程の高速化やフィルムのロール径の大型化にともなう新たな問題により、透明性を維持しながら、機能層との密着性や耐ブロッキング性を向上させることは極めて困難であった。
【0009】
密着性に関して、特に、二軸配向ポリエステルフィルムは、プリズムレンズやハードコート層等に使用されるアクリル系樹脂を主成分とするコート剤との密着性が悪いことが知られている。このため、ポリエステルフィルムの表面に、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂またはこれらの混合物よりなる接着性改質層を形成したものが、各種提案されている。例えば、本出願人は、密着性の均一性を改善するために、接着性改質層の塗布量の変動を低減した易接着性フィルムロールに関する発明を提案した(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の実施例には、縦方向に一軸延伸されたポリエステルフィルムに、ポリエステル系樹脂/ポリウレタン系樹脂(=50/50;質量%)、平均粒径1.4μmのシリカ粒子、及びフッ素系界面活性剤を含む水分散性塗布液を塗布後、乾燥炉で120℃にて乾燥後、横延伸し、次いで220℃で熱固定処理して得た、易接着性二軸配向ポリエステルフィルムが記載されている。
【0010】
またさらに、本出願人は、特許文献2において、二軸配向ポリエチレンテレフタレートからなる基材フィルム上に、特異な相分離構造を有する共重合ポリエステル/ポリウレタンおよび適度な粒径の無機粒子を含有する樹脂組成物からなる層を設け、光学用基材フィルムとして極めて重要な特性である透明性を維持しつつ、光学的機能層との密着性が高度に優れ、且つ近年要求が高まっている耐ブロッキング性にも優れた積層ポリエステルフィルムを提案した。
【特許文献1】特開2004−10671号公報
【特許文献2】国際公開第2006/57382号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方、近年、低コスト化のために、レンズ層などの機能層を基材フィルムに積層するための加工機の大型化が進み、基材フィルムとして使用される易接着性フィルムのロール径も大型化してきている。これにともなって、ロールの巻きズレ防止のために、易接着性フィルムを高張力で巻き取る傾向にあり、特に、ロールの巻き芯部では高い圧力で圧着される。このために、ブロッキングがより発生しやすくなる。さらに、接着性改質層中の低分子量成分が、易接着性フィルムが高い圧力でロール状に巻き取られた際、裏面に転移しやすくなる場合がある。この結果、例えば、片面に接着性改質層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムを一旦巻き取り保管した後、再び巻きだして接着性改質層の積層されていない面に粘着剤層等の後加工層を積層しようとした際に、該後加工層の密着不良や外観不良を引き起こす場合がある。また、両面に接着性改質層を有する積層熱可塑性樹脂フィルムの片面にハードコート層を積層し、一旦巻き取り保管した後、再び巻きだしてハードコート層上に反射防止層や防汚層等の他の機能層を積層しようとした場合、該保管中に接着性改質層中の低分子量成分が反対面のハードコート層上に転移し、反射防止層や防汚層等の他の機能層の密着不良、外観不良を引き起こす要因となる場合があった。
【0012】
本発明は、機能層との優れた密着性および耐ブロッキング性を有し、さらに密着不良や外観不良の要因となる接着性改質層中に含まれるフッ素化合物などの低分子量成分の他面への転移が少ない、積層熱可塑性樹脂フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らによる鋭意研究の結果、共重合ポリエステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を主成分とする接着性改質層に特定量の高沸点溶媒と所定のフッ素系化合物を含有させることを重要な特徴の一つとする以下の手段によって、上述の課題を解決し得ることを見出した。
【0014】
(1)熱可塑性樹脂フィルムと、その片面または両面に設けられた接着性改質層とを備える積層熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記接着性改質層が、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系化合物および前記接着性改質層の全質量に対して0.005質量%以上かつ0.05質量%未満の高沸点溶媒を含有し、
前記フッ素系化合物が、分子構造中に平均で6〜16個のエチレンオキシド基を有し、
前記接着性改質層がハロゲン(但し、フッ素を除く)を有さない、
積層熱可塑性樹脂フィルム。
(2)フッ素系化合物が炭素数6から9の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基を有する(1)の積層熱可塑性樹脂フィルム。
(3)フッ素系化合物において、エチレンオキシド基の個数(n)とパーフルオロアルキル基の炭素数(m)との比(n/m)が0.8以上、2.0以下である(2)の積層熱可塑性樹脂フィルム。
(4)フッ素系化合物が、下記(I)または(II)の少なくとも1種の化合物である(1)から(3)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム:
(I)分子構造中に平均で8〜12個のエチレンオキシド基を有する、パーフルオロプロピレン重合体とポリオキシエチレンとの付加反応物、
(II)分子構造中に平均で6〜16個のエチレンオキシド基を有するポリオキシエチレン−2−パーフルオロヘキシルエチルエーテルまたはポリオキシエチレン−2−パーフルオロオクチルエチルエーテル。
(5)熱可塑性樹脂フィルムおよび/または接着性改質層が粒子を含有する(1)から(4)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(6)熱可塑性樹脂フィルムが実質的に粒子を含有せず、少なくとも一方の接着性改質層が粒子を含有する(1)から(4)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(7)粒子がシリカ粒子である(5)または(6)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(8)積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズが1.5%以下である(1)〜(7)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(9)光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして使用される(1)〜(8)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(10)光学機能性フィルムまたは光学機能性シートがプリズムシートである(9)の積層熱可塑性樹脂フィルム。
(11)少なくとも一方の接着性改質層が100mJ/cm以上、300mJ/cm未満の紫外線照射を施されたものである(1)〜(10)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、機能層との密着性および耐ブロッキング性に優れ、さらに高い圧力でロール状に巻き取られた際においても、ハードコート層、赤外線吸収層等の光学機能層上に接着性改質層中の低分子量成分(フッ素系化合物)が転移しにくいため、ハードコート層、赤外線吸収層等の光学機能層等上にさらに反射防止層、粘着層等の他の機能層を積層した場合においても優れた塗工性、密着性、外観性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、機能層との密着性を以下のように評価する。
積層熱可塑性樹脂フィルムの接着性改質層面に形成した所定の紫外線硬化型樹脂層に、所定強度の波長365nmの紫外線を照射することによって、硬化型樹脂からなる光学機能層を形成させ、この光学機能層について粘着テープによる碁盤目剥離試験(100個の升目)を2回繰り返した後に、剥がれずに残った升目の数で評価する。具体的な試験方法は実施例の欄において詳述する。
【0017】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムと接着性改質層とを備える。接着性改質層は、熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に設けられている。
【0018】
(1)熱可塑性樹脂フィルム
熱可塑性樹脂フィルムは熱可塑性樹脂からなるフィルムであり、典型例として、熱可塑性樹脂を溶融押出または溶液押出することにより得られる未配向シートを、必要に応じ、長手方向又は幅方向の一軸方向に延伸し、あるいは二軸方向に逐次二軸延伸または同時二軸延伸し、熱固定処理を施すことによって得られるフィルムが挙げられる。
【0019】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリテトラメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン(PS)、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマーなどが挙げられる。また、これらのポリマーは単独で使用する以外に、共重合成分を少量含む共重合体でもよいし、他の熱可塑性樹脂を1種以上ブレンドしてもよい。
【0020】
これらの熱可塑性樹脂のなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレートなどが好適である。また、ポリエステルやポリアミドのような極性官能基を有する樹脂は、接着性改質層との密着性の点から好ましい。
【0021】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート又はこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体がさらに好適であり、とりわけポリエチレンテレフタレートから形成された二軸配向フィルムが特に好適である。
【0022】
また、前記熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲で、樹脂合成の際に用いる触媒以外に各種の添加剤を含有させることができる。添加剤として、例えば、無機粒子、耐熱性高分子粒子などの粒子、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐光剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、ゲル化防止剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0023】
前記の粒子は、熱可塑性樹脂フィルムの製造時、ロール状に巻き取る際、あるいは巻き出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻き取り時の随伴空気の空気抜け性など)の改善を目的として、フィルム表面に適度な表面凹凸を付与するために用いられる。
【0024】
無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ(特に、非晶性シリカ)、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどの粒子が挙げられる。また、耐熱性高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などが挙げられる。
【0025】
熱可塑性樹脂フィルムとしてポリエステル樹脂フィルムを用いる場合、前記の粒子の中でも、シリカ粒子が、ポリエステル樹脂と屈折率が比較的近く高い透明性が得やすいため、透明性が強く要求される用途では最も好適である。一方、隠蔽性が要求される用途では、二酸化チタンのような白色顔料が好適である。また、熱可塑性樹脂フィルム中に含有させる粒子は1種類でも複数併用してもよい。
【0026】
前記の粒子の種類、平均粒径および添加量は、透明性とハンドリング性とのバランスを考慮して適宜選択すればよく、例えば、平均粒径は0.01〜2μmの範囲で、添加量は熱可塑性樹脂フィルムの全質量に対して0.01〜5.0質量%の範囲で、積層熱可塑性樹脂フィルムの用途に応じて適宜決めればよい。
【0027】
また、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムを透明性が高度に要求される用途に使用する場合、基材としての熱可塑性樹脂フィルム中には、透明性を低下させる原因となる粒子を実質的に含有させず、接着性改質層に粒子を含有させる構成とすることが好ましい。
【0028】
前記の「基材としての熱可塑性樹脂フィルム中には、粒子を実質的に含有させず」とは、例えば、無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子を基材フィルム中に添加しなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。
【0029】
また、本発明で基材として使用する熱可塑性樹脂フィルムの層構成は単層でもよいし、単層では得られない機能を付与した積層構造とすることもできる。積層構造とする場合の製造方法としては、共押出法が好適である。
【0030】
熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理などの表面活性化処理を施してもよい。
【0031】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、好ましくは30〜300μmの範囲であり、使用する用途の規格に応じて任意に決めることができる。熱可塑性樹脂フィルムの厚みの上限は、250μmがより好ましく、特に好ましくは200μmである。一方、フィルム厚みの下限は、50μmがより好ましく、特に好ましくは75μmである。フィルム厚みが30μm未満では、剛性や機械的強度が不十分となりやすい。一方、フィルム厚みが300μmを超えると、フィルム中に存在する異物の絶対量が増加するため、光学欠点となる頻度が高くなる。また、フィルムを所定の幅に切断する際のスリット性も悪化し、製造コストが高くなる。さらに、剛性が強くなるため、長尺のフィルムをロール状に巻き取ることが困難になりやすい。
【0032】
熱可塑性樹脂フィルムの原料としてポリエステル樹脂を用いた場合を代表例として、積層熱可塑性樹脂フィルムの製造方法について、以下で詳しく説明するが、この代表例に限定されるものではない。
【0033】
まず、フィルム原料であるポリエステル樹脂ペレットを溶融押出しすることによって未配向シートを得る。該ペレットの固有粘度は、0.45〜0.70dl/gの範囲が好ましい。固有粘度が0.45dl/g未満であると、フィルム製造時に破断が多発しやすくなる。一方、固有粘度が0.70dl/gを超えると、濾圧上昇が大きく、高精度濾過が困難となり、生産性が低下しやすくなる。なお、本発明において、固有粘度は、JIS K 7367−5に準拠し、溶媒としてフェノール(60質量%)と1,1,2,2−テトラクロロエタン(40質量%)の混合溶媒を用い、30℃で測定する。
【0034】
また、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートに用いる場合には、光学欠点の原因となる、原料のポリエステル樹脂中に含まれている異物を除去することが好ましい。ポリエステル樹脂中の異物を除去するために、溶融押出しの際に溶融樹脂が約280℃に保たれた任意の場所で、高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材が、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れているという点で好適である。
【0035】
溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、20μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが20μmを超えると、20μm以上の異物の除去が不十分となりやすい。濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が15μm以下の濾材を使用して溶融樹脂の高精度濾過を行うことにより生産性が低下する場合があるが、光学欠点の少ないフィルムを得るには極めて重要である。
【0036】
未配向シートを冷却する方法としては、溶融樹脂を回転冷却ドラム上にダイスのスリット部からシート状に押し出し、シート状溶融物を回転冷却ドラムに密着させながら、急冷してシートとする方法が好適である。
【0037】
得られた未配向シートを、80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して、一軸配向ポリエステル樹脂フィルムを得る。
【0038】
次いで、接着性改質層を形成する。例えば、インラインで接着性改質層を形成する場合は、一軸配向後のポリエステル樹脂フィルムの片面、若しくは両面に、以下の(2)接着性改質層の項目で詳述する水性塗布液を塗布することが好ましい。前記水性塗布液を塗布する方法としては、例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法およびカーテン・コート法などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。次いで、フィルムの両端部をクリップで把持して、80〜180℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後幅方向に2.0〜6.0倍に延伸した後、熱固定処理を行う。この熱固定処理工程中で、必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜12%の緩和処理を施してもよい。
【0039】
(2)接着性改質層
接着性改質層は、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、所定量の高沸点溶媒、および所定のフッ素系化合物を含有する。接着性改質層は、好適には、前記各成分および水やアルコールを含む水性塗布液を、走行する熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面に連続的に塗布する塗布工程、塗布層(接着性改質層)を乾燥する乾燥工程、次いで少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、さらに延伸された塗布フィルムを熱固定処理する熱固定処理工程を経て連続的に形成される。
【0040】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの接着性改質層は、樹脂成分として、共重合ポリエステル系樹脂、及びポリウレタン系樹脂を含有する。接着性改質層中の樹脂成分の含有量は、接着性改質層の全質量に対して、好ましくは45〜95質量%であり、より好ましくは50〜90質量%である。含有量が45質量%未満であると、密着性が低下する場合があり、含有量が95質量%を超えると、耐ブロッキング性が低下する場合がある。また、接着性改質層中の、共重合ポリエステル系樹脂(A)の質量とポリウレタン系樹脂(B)の質量との比率(A/B)は、好ましくは30/70〜70/30であり、より好ましくは60/40〜40/60である。接着性改質層を構成する樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、前記の共重合ポリエステル系樹脂およびポリウレタン系樹脂以外の第3の樹脂を併用することもできる。第3の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂などが挙げられる。第3の樹脂の含有量は、樹脂成分(共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、および第3の樹脂を含む)の全質量に対して、好ましくは0〜10質量%である。また、架橋剤を併用してもかまわない。
【0041】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの接着性改質層は、樹脂成分として、共重合ポリエステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を含有する。共重合ポリエステル系樹脂を単独で用いる場合、得られる接着性改質層は、ポリエステル系基材フィルムとの密着性は十分であるが、プリズムレンズやハードコート層に用いられるアクリル系樹脂との密着性に劣る。また、共重合ポリエステル系樹脂は比較的脆い樹脂であるため、得られる接着性改質層はカッティング時の衝撃に対し凝集破壊を発生しやすい。一方、ポリウレタン系樹脂を単独で用いる場合、得られる接着性改質層は、ハードコート層や拡散層、アクリレート系樹脂との密着性には比較的優れるが、ポリエステル系基材フィルムとの密着性に劣り、また耐ブロッキング性に劣る。そのため、粒径の大きな粒子を含有させるか、あるいは粒子の含有量を増加させる必要がある。その結果、フィルムのヘーズが上昇するため、特に透明性の要求が強い光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして好ましくない。
【0042】
(2−1)塗布液調合工程
接着性改質層は、好適には塗布法を用いて形成される。塗布液に用いる材料は、樹脂成分(共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、および必要に応じて第3の樹脂)、所定量の高沸点溶媒、所定のフッ素系化合物及び溶媒(分散媒を含む)である。本発明において、接着性改質層形成のために用いる塗布液は、水性であることが好ましい。また、必要に応じて、粒子、帯電防止剤、紫外線吸収剤、有機潤滑剤、抗菌剤、光酸化触媒などの添加剤を用いることができる。また、塗布液には、樹脂の熱架橋反応を促進させるため、触媒を添加しても良く、例えば、無機物質、塩類、有機物質、アルカリ性物質、酸性物質および含金属有機化合物等、種々の化学物質を用いることができる。また、塗布液のpHを調節するために、アルカリ性物質あるいは酸性物質を添加してもよい。塗布液は、分散媒あるいは溶媒中に、撹拌下、樹脂成分を分散または溶解し、次いで、所定量の高沸点溶媒、所定のフッ素系化合物のほかに、必要に応じて各種添加剤を併用し、所望する固形分濃度にまで希釈して調製する。
【0043】
ここで、塗布液中に樹脂成分を均一に分散または溶解させるため、および粗大な粒子凝集物及び工程内埃等の異物を除去するために、塗布液を精密濾過することが好ましい。
【0044】
塗布液を精密濾過するための濾材のタイプは、前記性能を有していれば特に限定はなく、例えば、フィラメント型、フェルト型、メッシュ型が挙げられる。塗布液を精密濾過するための濾材の材質は、前記性能を有しかつ塗布液に悪影響を及ばさない限り特に限定はなく、例えば、ステンレス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等が挙げられる。
【0045】
塗布液を精密濾過するための濾材は、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が25μm以下の濾材が好ましく、さらに好ましくは濾過粒子サイズ10μm以下の濾材、特に好ましくは濾過粒子サイズ5μm以下の濾材である。最も好ましくは、濾過粒子サイズの異なる濾材を組み合わせて用いる方法である。濾過粒子サイズが25μmを超える濾材を用いた場合、粗大凝集物の除去が不十分となりやすい。そのため、濾過で除去できなかった粗大凝集物は、塗布乾燥後の一軸配向又は二軸配向工程での配向応力により広がって、100μm以上の凝集物として認識され、光学欠点の原因となりやすい。
【0046】
塗布液に用いる材料について、以下で詳しく説明する。
【0047】
(a)樹脂成分
(共重合ポリエステル系樹脂)
本発明における接着性改質層に用いる共重合ポリエステル系樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分と、グリコール成分としてエチレングリコールおよび分岐したグリコールとを構成成分とすることが好ましい。前記の分岐したグリコール成分としては、例えば、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、及び2,2−ジ−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0048】
前記の分岐したグリコール成分のモル比は、全グリコール成分に対し、下限が10モル%であることが好ましく、特に好ましくは20モル%である。一方、上限は80モル%であることが好ましく、さらに好ましくは70モル%、特に好ましくは60モル%である。また、必要に応じて、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを併用してもよい。
【0049】
芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が最も好ましい。全芳香族ジカルボン酸成分に対して10モル%以下の範囲で、他の芳香族ジカルボン酸、特に、ジフェニルカルボン酸及び2,6−ナルタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸を加えて共重合させてもよい。
【0050】
本発明で接着性改質層の樹脂成分として使用する共重合ポリエステル系樹脂は、水溶性または水分散性であることが好ましい。そのために、前記芳香族ジカルボン酸成分の他に、ポリエステルに水分散性を付与するため、スルホフタル酸またはそのアルカリ金属塩を全芳香族ジカルボン酸成分に対して1〜10モル%の範囲で使用するのが好ましく、スルホフタル酸としては、例えば、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレンイソフタル酸−2,7−ジカルボン酸および5−(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸またはそのアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0051】
(ポリウレタン系樹脂)
ポリウレタン系樹脂として複合体が含み得るポリウレタンは、熱反応型ポリウレタン樹脂が好ましく、例えば、末端イソシアネート基を活性水素基で封鎖(以下ブロックと言う)した、水溶性または水分散性ポリウレタンなどが挙げられる。
【0052】
上記イソシアネート基のブロック化剤としては、重亜硫酸塩類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、オキシム類及びマロン酸ジメチル等のエステル類、アセト酢酸メチル等のジケトン類、メルカプタン類、尿素類、イミダゾール類、コハク酸イミド等の酸イミド類、ジフェニルアミン等のアミン類、イミン類、2−オキサゾリジン等のカルバメート系等が挙げられる。水溶性または水分散性ポリウレタンは、分子中に親水性基を有することが好ましい。そのため、使用する分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有する化合物に親水性基を有するか、先述のブロック化剤に親水性を有する化合物を使用することが好ましい。使用する分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有する化合物中に親水性基を有する例として、タウリン、ジメチロールプロピオン酸、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するポリエステルポリオール、ポリオキシアルキレンポリオール等が挙げられる。また、ブロック化剤に親水性を有する化合物としては、重亜硫酸塩類、及びスルホン酸基を含有したフェノール類等が挙げられる。フィルム製造時の乾燥あるいは熱セット過程で、上記樹脂に熱エネルギーが与えられると、ブロック化剤がイソシアネート基からはずれるため、上記樹脂は自己架橋した編み目に混合した水分散性共重合ポリエステル樹脂を固定化するとともに、上記樹脂の末端基等とも反応する。特に水溶性または水分散性ポリウレタンとしては、ブロック化剤に親水性を有する化合物を使用したものが好ましい。これらのポリウレタンは、塗布液調整中の樹脂は親水性であるため耐水性が悪いが、塗布、乾燥、熱セットして熱反応が完了すると、ウレタン樹脂の親水基すなわちブロック化剤がはずれるため、耐水性が良好な塗膜が得られる。
【0053】
上記ポリウレタン樹脂において使用されるウレタンプレポリマーの化学組成としては、(1)分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する分子量が200〜20,000の化合物、(2)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネート、及び、必要により、(3)分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する鎖伸長剤を反応せしめて得られる、末端イソシアネート基を有する化合物である。
【0054】
上記(1)の分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する分子量が200〜20,000の化合物として一般に知られているのは、末端又は分子中に2個以上のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基あるいはメルカプト基を含むものであり、特に好ましい化合物としては、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0055】
ポリエスルポリオールとしては、コハク酸、アジピン酸、フタル酸及び無水マレイン酸等の多価の飽和あるいは不飽和カルボン酸、あるいは該カルボン酸無水物等と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール及びトリメチロールプロパン等の多価の飽和及び不飽和のアルコール類、比較的低分子量のポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール類、あるいはそれらアルコール類の混合物を縮合することにより得ることができる。
【0056】
さらに、ポリエステルポリオールとしては、ラクトン及びヒドロキシ酸から得られるポリエステル類、あらかじめ製造されたポリエステル類にエチレンオキシドあるいはプロピレンオキシド等を付加せしめたポリエステルポリオール類も使用することができる。
【0057】
前記(2)の有機ポリイソシアネートとしては、トルイレンジイソシアネートの異性体類、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネート等の芳香族脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート及び4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネートおよび2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、あるいは1種以上のこれらの化合物をトリメチロールプロパン等に付加させて得られるポリイソシアネート類が挙げられる。
【0058】
前記(3)の分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する鎖伸長剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び1,6−ヘキサンジオール等のグリコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、およびピペラジン等のジアミン類、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミン等のアミノアルコール類、チオジエチレングルコール等のチオジグリコール類、あるいは水が挙げられる。
【0059】
ウレタンプレポリマーを合成するには、通常、前記(1)と前記(2)と、さらに必要に応じて前記(3)とを用いた一段式あるいは多段式イソシアネート重付加方法により、150℃以下、好ましくは70〜120℃の温度において、5分ないし数時間反応させる。前記(1)および前記(3)の活性水素原子に対する前記(2)のイソシアネート基の比は、1以上であれば自由に選べるが、得られるウレタンプレポリマー中に遊離のイソシアネート基が残存することが必要である。さらに、遊離のイソシアネート基の含有量は、得られるウレタンプレポリマーの全質量に対して10質量%以下であればよいが、ブロック化された後のウレタンポリマーの水溶液の安定性を考慮すると、7質量%以下であるのが好ましい。
【0060】
得られた前記ウレタンプレポリマーは、好ましくは重亜硫酸塩を用いて末端イソシアネート基のブロック化を行う。ウレタンプレポリマーを重亜硫酸塩水溶液と混合し、約5分〜1時間、よく攪拌しながら反応を進行させる。反応温度は60℃以下とするのが好ましい。その後、反応混合物を水で希釈して適当な濃度にして、熱反応型水溶性ウレタン樹脂組成物とする。該組成物は使用する際、適当な濃度および粘度に調整するが、通常80〜200℃前後に加熱すると、ブロック化剤である重亜硫酸塩が解離して活性な末端イソシアネート基が再生するために、プレポリマーの分子内あるいは分子間で起こる重付加反応によってポリウレタン重合体が生成する、あるいは他の官能基への付加を起こす性質を有するようになる。
【0061】
(b)高沸点溶媒
塗布液中に、所定のフッ素系化合物と相溶性の高い高沸点溶媒を特定の量含有させることが重要である。塗布液中の高沸点溶媒の含有量は、塗布液の全質量に対して3質量%以下とするのが好ましい。塗布液中の高沸点溶媒の含有量が3質量%を超えると、耐ブロッキング性が低下する場合がある。塗布液中に上記特定量の高沸点溶媒を含有させることによって、接着性改質層中に0.005質量%以上かつ0.05質量%未満の範囲内で高沸点溶媒を残留させることができ、また、製膜時の熱固定処理工程において、フッ素系化合物を接着性改質層中に安定して存在させてブリードアウトを最小限に抑制することができる。塗布層(接着性改質層)中に高沸点溶媒が残留すると、ブロッキングなどの弊害が発生するとこれまで考えられてきたが、本願発明では特定量の高沸点溶媒を接着性改質層中に残留させることによって、前記のような驚くべき効果が得られることが分かった。
【0062】
高沸点溶媒の添加方法としては、水性塗布液中での前記共重合ポリエステル系樹脂の水溶性または水分散性を向上させるために、分散媒または溶媒としての水と混合する前に共重合ポリエステル系樹脂に添加し、150℃以上、180℃以下の条件下で2時間以上撹拌することが好ましい。この加熱撹拌処理によって、高沸点溶媒を比較的少ない添加量で接着性改質層中に安定して存在させることができる。
【0063】
本発明で用いる高沸点溶媒は、沸点が150℃以上の溶媒であり、好ましくは、一般式:R−O−CH−Z−CR−O−Rで表される化合物である。ここで、R〜Rは各々独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは、水素原子または炭素数1〜2のアルキル基である。ただし、RおよびRの少なくとも一方は水素原子以外である。−Z−は、単結合、メチレン基またはオキシ基(−O−)である。そのような高沸点溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)[沸点:171℃]、ジエチレングリコールモノブチルエーテル[沸点:230℃]、ジエチレングリコールモノメチルエーテル[沸点:193℃]、ジエチレングリコールジメチルエーテル[沸点:162℃]、エチレングリコールt−ブチルエーテル[沸点:152℃]、3−メチル3−メトキシブタノール[沸点:174℃]、3−メトキシブタノール[沸点:160℃]、プロピレングリコールプロピルエーテル[沸点:150℃]、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル[沸点:190℃]、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル[沸点:198℃]が挙げられる。これらの他、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート[沸点:160℃]、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート[沸点:217℃]なども挙げられる。これら高沸点溶媒は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用することもできる。
【0064】
また、ロール状に巻き取った積層熱可塑性樹脂フィルムを巻き出す際にフィルム間のブロッキングを防止するために、高沸点溶媒として沸点が200℃以下の溶媒を選択することが好ましい。
【0065】
これらのうち、樹脂成分の水分散性および塗布液の塗布性の観点から、ブチルセロソルブおよび3−メチル3−メトキシブタノールが特に好適である。
【0066】
なお、工業的に使用される有機溶媒は、一般にCAS番号が付与され、沸点などの物性値を含む安全性データがインターネットで公表されている。公表されているデータに沸点が記載されていない場合には、例えば、桜井、池田考案の沸点測定装置(『化学大辞典3』共立出版(1960年),p.831)を用いて、溶媒の沸点を測定することができる。
【0067】
塗布液を共重合ポリエステル系樹脂の水溶液または水分散液とする場合、共重合ポリエステル系樹脂(A)と高沸点溶媒(C)と溶媒または分散媒としての水(D)との混合比(重量比)は、(A)/(C)については2〜5に調整し、(C)/(D)については0.1〜1に調整することが好ましい。
【0068】
具体的には、共重合ポリエステル系樹脂の分散性の点から、共重合ポリエステル系樹脂(A)に対する高沸点溶媒(C)の混合比を5以下とすることが好ましい。
【0069】
一方、下記の点から、(A)/(C)を2以上、または、(C)/(D)を1以下とすることが好ましい。
(a)塗布斑等、接着性改質層の面質の低下を防ぐことができるので、光学用基材フィルムとして用いた場合、近年要求される高精細化に適合できる。
(b)接着性改質層中の高沸点溶媒の残存量の増加による耐ブロッキング性の低下を防止することができる。
(c)分散液中の高沸点溶媒の含有量を多くする必要がないので、コスト面で有利である。
(d)過剰の高沸点溶媒による爆発の危険性、環境汚染が少ない。
(e)塗布液を塗布、乾燥する際に、乾燥時間を長くする必要がない。
【0070】
また、(C)/(D)を0.1以上とすることにより、フィルム製造時の熱固定処理工程において、フッ素系化合物の表面へのブリードアウトを抑制することができる。そのため、フッ素系化合物の他面へ転移する量も低減できる。
【0071】
本発明における接着性改質層中の高沸点溶媒の含有量は、接着性改質層の全質量に対して0.005質量%以上、0.05質量%未満である。高沸点溶媒の含有量の上限は、0.04質量%未満であることが好ましく、0.03質量%未満であることがさらに好ましい。高沸点溶媒の含有量が0.005質量%未満では、接着性改質層中にフッ素系化合物を安定して存在させることができず、フッ素の裏移りが生じる傾向にある。さらに、塗布層(接着性改質層)のレベリングが低下し、コートスジが発生するなど外観形状が悪化しやすくなる。高沸点溶媒の含有量が0.05質量%以上では、耐ブロッキング性が低下し、また、塗布液の乾燥時間が長くなり好ましくない。
【0072】
また、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの製造方法において、高沸点溶媒を接着性改質層中に上記の範囲内の含有量で残存させるには、熱固定処理工程での温度制御が非常に重要である。以下、その実施態様を詳細に説明する。
【0073】
後述のように、本発明における熱固定処理工程において、接着性改質層中の高沸点溶媒の残存量は、熱処理条件に大きく左右される。すなわち、熱固定処理工程における最高温度および最高温度に達するのに要する時間を適宜設定することが重要である。
【0074】
熱固定処理工程における最高温度は、高沸点溶媒の沸点以上、高沸点溶媒の沸点+80℃未満の範囲に設定することが好ましい。最高温度が高沸点溶媒の沸点未満では、接着性改質層中の高沸点溶媒の残存量を上記範囲内に制御することが困難であり、高沸点溶媒の沸点+80℃以上では、高沸点溶媒の残存量が上記範囲よりも少なくなり、フッ素系化合物のブリードアウトが多くなる。
【0075】
(c)フッ素系化合物
本発明では、塗布液を均一に塗布するため、塗布液にフッ素系化合物を添加する。本発明におけるフッ素系化合物は、分子構造中に平均で6〜16個のエチレンオキシド基を有する。さらに、該フッ素系化合物は、表面張力を低下させる機能を有するパーフルオロアルキル基(Rf)を有することが望ましい。かかるフッ素化合物は界面活性剤として作用し、フィルムの濡れ性を向上させ、塗布液を均一に塗布することができる。パーフルオロアルキル基(Rf)の炭素数(m)は、6から9が好ましい。Rfの炭素数が6〜9であると、界面活性効果により、樹脂成分の水性塗布液への分散性が良好となり、また、塗布層(接着性改質層)のレベリング性が良好となる。かかるパーフルオロ基(Rf)は、直鎖状または分岐状のいずれであっても好適に使用できる。
【0076】
本願発明者は、フッ素を含む低分子量成分のブリードアウトによる他面への転移について検討したところ、フッ素以外のハロゲンを有する化合物が接着性改質層中に含有されていると、フッ素系化合物がブリードアウトしやすい傾向にあることを見出した。これは以下の理由によると推察している。(1)フッ素以外のハロゲンを有する化合物が、フッ素系化合物の親水性基であるエチレンオキシド基を開裂させ、フッ素系化合物の分子量低下を引き起こす、(2)フッ素以外のハロゲンを有する化合物がフッ素系化合物の親水性基を分断し、フッ素系化合物の親水性が低下する、(3)上記フッ素系化合物の親水性基(エチレンオキシド基)の開裂によって生成する副生成物がブリードアウトする。このため本発明では、接着性改質層がハロゲン(但し、フッ素を除く)を有さないことを特徴とする。本発明でのハロゲン(但し、フッ素を除く)としては、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)があげられる。特に、塩素(Cl)は電子親和力が高く反応性に富む為、該接着性改質層から除く必要性が高い。
【0077】
接着性改質層中のハロゲン(但し、フッ素を除く)の有無は、各種クロマトグラフィー法、例えば、液体クロマトグラフィー法、質量分析法、イオンクロマト法等(詳細は後述する)を用いて知ることができる。ここで、「ハロゲン(但し、フッ素を除く)を有さない」とは、上記測定法によって測定される接着性改質層表面のハロゲン(但し、フッ素を除く)の濃度が1ppm以下であることをいう。なお、ハロゲン(但し、フッ素を除く)は0ppmであることが望ましいが、測定誤差を考慮すると、1ppmが下限であると考えられる。
【0078】
本発明で使用する接着性改質層を形成する塗布液には、上記の理由からハロゲン(但し、フッ素を除く)が含まれないことが重要である。そのため、使用するフッ素系化合物として、ハロゲン(但し、フッ素を除く)を有する化合物を含まないものを使用する必要がある。ある種のフッ素系化合物の製造では、塩素などのフッ素以外のハロゲンを有する化合物が副生成物または未反応物として最終生成物に残存する場合がある。例えば、Rf基が−SO−、−CO−等の極性基を介して親水性基と結合した構造を有する化合物からなるフッ素系化合物は、親水性基の導入の際に、塩素などのハロゲンを末端に有する親水性基に対して置換反応が行われることがある。この場合は、フッ素以外のハロゲンを有する化合物が未反応物として最終生成物に残留するが、かかる化合物は通常、分留や蒸留による除去が困難である。よって、本発明に用いるフッ素系化合物としては、フッ素以外のハロゲンを有する化合物の残留のないものが望ましく、フッ素以外のハロゲンを有する化合物が未反応物、副生成物として生じないフッ素系化合物を選択することが更に望ましい。
【0079】
本発明のフッ素系化合物は、水性塗布液に対して親和性となるため、親水性基としてエチレンオキシド基(−(CH−CH−O)−)を分子構造中に有することを特徴とする。カルボン酸塩基およびスルホン酸塩基は、水性塗布液に対して親和性とならないという理由から、親水性基として好ましくない。エチレンオキシド基の個数は、ブリードアウトの防止と塗布性との両立を図る上で重要である。従って、本発明に用いるフッ素系化合物は、エチレンオキシド基の個数(n)が平均で6〜16個であることを特徴とする。エチレンオキシド基が6個以上であれば、フッ素系化合物は分子量が大きくなるため、親水性が高くなりブリードアウトしにくい傾向となり、また、沸点も高くなるため、塗布後の熱処理においても蒸発しにくく好適である。エチレンオキシド基の個数が16個を越えると、フッ素系化合物の親水性が強くなる為、得られる塗布液の塗布性が低下する傾向にあり、かかる塗布液を使用したフィルムを光学用基材として用いた場合、近年要求される高精細化を満足するような十分均一な塗布性が得られない。また、エチレンオキシド基の個数(n)とパーフルオロアルキル基(Rf)の炭素数(m)との比(n/m)、すなわち、親水性基と疎水性基とのバランスは、0.8から2.0が好ましい。n/mが2.0を超えると、塗布液の塗布性が低下し、0.8より小さいと、塗布液のはじきが発生しやすくなるため好ましくない。なお、フッ素系化合物の分子構造中のエチレンオキシド基の平均個数(エチレンオキシドの平均付加モル数)は、液体クロマトグラフィー、質量分析及びNMRにより、エチレンオキシド基に由来する特異シグナルを測定することにより求めることができる。
【0080】
フッ素系化合物としては、パーフルオロアルキレン重合体のエチレンオキシド付加物系化合物、または、直鎖状のパーフルオロアルキル基がエーテル結合を介してポリオキシエチレンと結合したフッ素系化合物が、少量で優れた表面張力を低下させる能力を有する点で好適である。中でも、以下の(I)または(II)の化合物がより好ましい。
(I)分子構造中に平均で8〜12個のエチレンオキシド基を有する、パーフルオロプロピレン重合体とポリオキシエチレンとの付加反応物、
(II)分子構造中に平均で6〜16個のエチレンオキシド基を有するポリオキシエチレン−2−パーフルオロヘキシルエチルエーテルまたはポリオキシエチレン−2−パーフルオロオクチルエチルエーテル。
ここで、(I)のパーフルオロプロピレン重合体は、炭素数6を有する2量体、もしくは炭素数9を有する3量体であることが望ましい。また、上記(I)、(II)のフッ素系化合物は、十分均一な塗布性およびブリードアウトの抑制を両立することが可能であり、さらに、高沸点溶媒に対する親和性もよく、ブリードアウトの防止に好適である。なお、ポリオキシエチレン−2−パーフルオロオクチルエチルエーテルは、ポリオキシエチレン−2−パーフルオロへキシルエチルエーテルよりもパーフルオロ基(Rf)が多いため、比(n/m)が上記範囲内となるように、エチレンオキシド基の個数は7個以上であることがより好ましい。
【0081】
本発明で用い得るフッ素系化合物は、通産省が公示する「既存化学物質名簿」の整理番号7−1720、7−1326等に記載されており、このようなフッ素系化合物は少なくとも10種類以上は上市されている。本発明で用いるフッ素系化合物は、環境保護の観点からスルホン酸構造を有さないものが好ましい。本発明で用いるフッ素系化合物は、市販品をそのまま用いてもよく、好ましくは、溶媒による洗浄、蒸留、再結晶、クロマトグラフィー、吸着等による精製を行ってから用いる。また、本発明では、上記フッ素系化合物を単独で用いてもよく、また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて2種以上のフッ素系化合物を併用することを妨げるものではない。
【0082】
フッ素系化合物の塗布液への添加量は、ハードコート用やレンズ用アクリル系樹脂との密着性を阻害せず、良好な塗布性が得られ、かつブリードアウトによる裏移りをおこさない範囲であれば、適宜選択することができる。例えば、フッ素系化合物の塗布液への添加量は、純水に対する臨界ミセル濃度からその30倍以下が好適である。フッ素系化合物の添加量が臨界ミセル濃度の30倍を超えると、塗布液中に含まれる粒子が凝集しやすくなるため、得られる積層フィルムのヘーズが上昇し、特に光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして好ましくない。また、フッ素系化合物が接着性改質層表面にブリードアウトして、密着性に悪影響を及ぼす場合もある。一方、フッ素系化合物の添加量が臨界ミセル濃度未満では、良好な塗布性が得られない。本発明では、フッ素系化合物の添加量は、塗布液の全質量に対して0.01〜0.18質量%であることが好ましく、また、接着性改質層を構成する全固形分量に対して1.5質量%未満とするのが好ましい。フッ素系化合物の添加量が接着性改質層を構成する全固形分量に対して1.5質量%以上では、フッ素系化合物が接着性改質層表面にブリードアウトして、裏移りが多くなり、さらに密着性に悪影響を及ぼす場合もある。
【0083】
(d)溶媒
本発明においては、溶媒とは、樹脂成分を溶解する液体だけではなく、樹脂成分を粒子状に分散させるために用いる分散媒も広義的に含むものである。本発明を実施するためには、有機溶媒、水性溶媒等の各種溶媒を用いることができる。
【0084】
塗布液に用いる溶媒は、水と、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類との混合溶媒が好ましく、その使用量は、好ましくは、塗布液の全質量に対して30〜50質量%である。また、アルコール類以外の有機溶媒を、樹脂成分を溶解または分散可能な範囲で、全溶媒量に対して10質量%未満で混合してもよい。
【0085】
上記混合溶媒において、有機溶媒(アルコール類とその他の有機溶媒)の添加量は、全溶媒量に対して50質量%未満である。有機溶媒の添加量が50質量%未満であると、塗布乾燥時に乾燥性が向上するとともに、水単独の場合と比較して塗布層(接着性改質層)の外観が向上するという利点がある。有機溶媒の添加量が50質量%以上の場合には、溶媒の蒸発速度が速くなり、塗工中に塗布液の濃度変化が起こりやすくなる。その結果、塗布液の粘度が上昇して塗工性が低下するために、塗布層(接着性改質層)の外観不良を起こす場合がある。さらに、有機溶媒の揮発により、火災などの危険性も高くなる。
【0086】
(e)塗布液のpH調整
上記塗布液は、pHが5以上8未満の範囲であることが好ましい。塗布液のpHが5未満では、得られる積層フィルムと機能層との密着性に劣る傾向がある。一方、塗布液のpHが8以上では、添加剤として粒子を用いる場合、その種類によっては顕著な凝集が起こり、得られる積層フィルムのヘーズが上昇して透明性が悪化するため好ましくない。塗布液のpHを上記範囲内とするためにpH調整剤を用いてもよく、このようなpH調整剤としては、密着性、耐ブロッキング性、塗布性に悪影響を及ぼさないか、無視できるものであれば特に限定されない。例えば、pHを高くする場合には重曹あるいは炭酸ナトリウムを、pHを低くする場合は酢酸等を用いることができる。
【0087】
(f)粒子
例えば、インラインコート法により積層された接着性改質層に、適切な粒径の粒子を含有させて、接着性改質層表面に適切な凹凸を形成させることにより、得られる積層熱可塑性樹脂フィルムの滑り性、巻き取り性および耐スクラッチ性を改善することができる。
【0088】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズは、1.5%以下であることが、透明性が高度に要求される光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして使用する際に好ましい。前記のヘーズは1.0%以下であることがさらに好ましい。ヘーズが1.5%を超えると、フィルムをLCD用のレンズフィルムや、バックライト用基材フィルム等に用いた場合、画面の鮮明度が低下するので好ましくない。
【0089】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズを1.5%以下にするためには、基材フィルム(熱可塑性樹脂フィルム)中に粒子を含有させないことが好ましい。基材フィルム中に粒子を含有させない場合、積層熱可塑性樹脂フィルムの耐スクラッチ性およびロール状に巻取る際や巻出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻取り時の随伴空気の空気抜け性など)を改善するために、接着性改質層中に適切な大きさの粒子を特定量含有させて、接着性改質層表面に適度な凹凸を形成させることが好ましい。
【0090】
接着性改質層に含有させる粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどの無機粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系樹脂粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などの耐熱性高分子粒子が挙げられる。
【0091】
これらの粒子の中でも、接着性改質層の樹脂成分と屈折率が比較的近いため、高い透明性を有するフィルムを得やすいという点から、シリカ粒子が好適である。
【0092】
また、粒子の形状は特に限定されないが、易滑性を付与する点からは、球状に近い粒子が好ましい。
【0093】
接着性改質層中の粒子の含有量は、接着性改質層の全質量に対して20質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下とする。接着性改質層中の粒子の含有量が20質量%を超えると、得られる積層フィルムの透明性が悪化し、機能層との密着性も不十分となりやすい。一方、粒子の含有量の下限は、接着性改質層の全質量に対して好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは1質量%、特に好ましくは3質量%とする。
【0094】
また、粒子の平均粒径は20〜150nmが好ましく、さらに好ましくは40〜60nmである。平均粒径が20nm未満であると、積層フィルムの十分な耐ブロッキング性を得ることが困難な他、耐スクラッチ性が悪化する傾向がある。一方、粒子の平均粒径が150nmを超えると、得られる積層フィルムのヘーズが上昇し、且つ粒子が脱落しやすくなるため好ましくない。
【0095】
また、接着性改質層中には、平均粒径の異なる粒子を2種類以上含有させてもよく、同種の粒子で平均粒径の異なるものを含有させてもよく、いずれも、粒子の平均粒径および総含有量が上記範囲内となればよい。前記塗布液を塗布する際には、上記項目(2−1)で述べたように、塗布液中の粒子の粗大凝集物を除去するために、塗布直前に塗布液を精密濾過することが好ましい。
【0096】
本発明では、平均粒径が20〜150nmの粒子(P1)のみでは、十分な耐ブロッキング性及び耐スクラッチ性が得られない場合がある。従って、さらに耐ブロッキング性及び耐スクラッチ性を向上させるために、さらに平均粒径の大きな粒子(P2)を少量併用することが好ましい。粒子(P2)の平均粒径は160〜1000nmが好ましく、特に好ましくは200〜800nmである。粒子(P2)の平均粒径が160nm未満の場合、耐スクラッチ性、滑り性、巻き性が悪化する場合がある。一方、粒子(P2)の平均粒径が1000nmを超える場合、ヘーズが高くなる傾向がある。また、粒子(P2)は一次粒子が凝集した凝集体粒子であることが好ましく、凝集状態での平均粒径と一次粒子の平均粒径との比が4倍以上の粒子を用いることが、耐スクラッチ性の点から好ましい。
【0097】
2種類の粒子(P1)および(P2)を用いる場合、例えば、接着性改質層中の粒子(P1)(平均粒径:20〜150nm)と粒子(P2)(平均粒径:160〜1000nm)との含有量比(P1/P2)を5〜30とし、かつ粒子(P2)の含有量を接着性改質層の全質量に対して0.1〜1質量%とする。2種類の特定粒径の粒子の含有量を前記範囲に制御することは、接着性改質層表面の三次元中心面平均表面粗さを適正化し、得られる積層フィルムの透明性とハンドリング性(耐ブロッキング性など)とを両立させる上で好適である。粒子(P2)の含有量が接着性改質層の全質量に対して1質量%を超えると、ヘーズの上昇が著しくなる傾向がある。
【0098】
前記粒子の平均粒径及び平均一次粒径の測定は、下記方法により行う。
電子顕微鏡を用いて、最も小さい粒子1個の大きさが2〜5mmとなるような倍率で粒子を撮影し、300〜500個の粒子の最大径を測定し、それらの平均値を求め、平均粒径または平均一次粒径とする。また、積層フィルムの接着性改質層中の粒子の平均粒径を求める場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、倍率12万倍で積層フィルムの断面を撮影し、接着性改質層の断面に存在する粒子の最大径を測定し、それらの平均値を求め、平均粒径とする。凝集体からなる粒子(P2)の平均粒径は、光学顕微鏡を用いて、倍率200倍で積層フィルムの接着性改質層の断面を撮影し、断面に存在する300〜500個の凝集体粒子の最大径を測定し、それらの平均値を求めることにより得られる。
【0099】
(2−2)塗布工程
前記水性塗布液を塗布する工程は、熱可塑性樹脂フィルム(基材フィルム)の製造工程中に行う、いわゆるインラインコート法により行われるのが好ましい。さらに好ましくは、水性塗布液は、結晶配向が完了する前の基材フィルムに塗布される。水性塗布液中の固形分濃度は、30質量%以下であることが好ましく、特に好ましくは10質量%以下である。固形分濃度の下限は1質量%が好ましく、さらに好ましくは3質量%、特に好ましくは5質量%である。該水性塗布液が塗布された基材フィルムは、結晶配向および熱固定のためにテンターに導かれ、そこで加熱されて、熱架橋反応により安定な被膜(接着性改質層)を形成し、積層フィルムとなる。
【0100】
(塗布量)
最終的な接着性改質層の塗布量(フィルム単位面積当りの固形分質量)は、0.005〜0.20g/mに管理することが好ましい。塗布量が0.005g/m未満であると、得られる積層フィルムと機能層との密着性が不十分となる場合がある。一方、塗布量が0.20g/mを超えると、耐ブロッキング性が低下する。また、塗布量が0.05g/m未満の場合、平均粒径が60nm以下の粒子を用いることが好ましい。粒子の平均粒径が60nmを超えると、粒子が接着性改質層から脱落しやすくなる。なお、従来技術では、塗布量が0.05g/m未満では、十分な密着性が得られにくい。基材フィルムの両面に接着性改質層を設ける場合は、両面の接着性改質層の塗布量は、同じであっても異なっていてもよく、積層フィルムの用途に応じて、それぞれ独立して上記範囲内で設定することができる。
【0101】
また、接着性改質層の厚みは、接着性改質層の断面をミクロトームで切断し、電子顕微鏡で観察することにより測定できるが、接着性改質層が柔らかい場合、切断時に変形する場合がある。簡便的には、塗布量が既知であれば、接着性改質層の密度から厚みに換算することができる。例えば、接着性改質層の密度が1g/cmの場合、塗布量が1g/mであれば、厚みは1μmに相当する。接着性改質層の密度は、接着性改質層を構成する樹脂成分および必要に応じて添加される粒子の種類からそれぞれの材料の密度を求め、各材料の密度に材料の質量比を乗じ、その和を求めることで接着性改質層の厚みを推定することができる。
【0102】
本発明の乾燥工程で使用される乾燥炉内において、塗布面にあたる乾燥風の最高温度(最高乾燥温度)は、120℃以上150℃以下が好ましく、130℃以上150℃以下がさらに好ましい。該最高乾燥温度が120℃未満である場合、乾燥速度が遅くなり、フッ素系化合物のブリードアウト量が増加する。一方、最高乾燥温度が150℃以上では、基材フィルムの結晶化が起こりやすくなり、横延伸時に破断が発生する頻度が増加する。
【0103】
熱固定処理は、通常、積層フィルムの塗布層(接着性改質層)の表面に熱風を吹き付けることにより行われる。熱固定処理工程における温度(熱風の温度)は、基材である熱可塑性樹脂フィルムの構成樹脂の種類により若干の違いはあるが、100〜260℃の温度範囲内で適宜設定すればよい。熱固定処理工程における最高温度は、210〜240℃に制御することが好ましく、さらに好ましくは下限が225℃、上限が235℃である。以下、代表的な熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートを基材フィルムとした場合を例に挙げて説明する。
(紫外線照射工程)
好ましくは、上記のようにして得られた接着性改質層に、100mJ/cm以上、300mJ/cm未満の紫外線を照射する。このような照射を施すことによって、接着性改質層が劣化しにくくなるので、積層フィルムの機能層に対する密着性が顕著に低下する懸念がほとんどなくなり、かつ、接着性改質層の表面のフッ素の量を低減させることができる。接着性改質層が熱可塑性樹脂フィルムの両面に設けられている場合には、両面あるいは片面だけの接着性改質層を紫外線照射に供してもよい。
【0104】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、光学機能性フィルム又は光学機能性シートの基材フィルムとして、PDPパネル、液晶ディスプレイ、太陽電池、有機ELなどに好適に使用できる。特に、ディスプレイパネルなどで使用されるプリズムシートとして好適である。プリズムシートとは、透明樹脂フィルムの表面に屈折率1.55〜1.60の比較的屈折率の高いアクリル樹脂からなるプリズムパターンを均一に精密成形した光学フィルムであり、バックライト前面に組み込むことにより、光源から照射された光のうち、視野角外の利用されない光を反射、屈折によりリサイクルし、最適な角度で使用者の方向に集光することによって正面での輝度を向上させる機能をもつ重要な部材である。
【実施例】
【0105】
次に、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの構成、作用効果および製造方法について、実施例と比較例を用いて説明するが、本発明は当然これらの実施例に限定されるものではない。また、実施例の各フィルムの評価は、下記の方法に従って行った。
【0106】
(1)密着性
清浄に保った厚さ5mmのガラス板上に、ハードコート剤(大日精化製、セイカビームEXF01(B))約5gをのせ、フィルム試料の接着性改質層面とハードコート剤とが接するように重ね合わせ、フィルム試料の上から幅10cm、直径4cmの手動式荷重ゴムローラーでハードコート剤を引き延ばすように圧着した。次いで、フィルム面側から、高圧水銀灯で500mJ/cm、照射距離15cm、走行速度5m/分の条件下で、紫外線を照射して、ハードコート層を硬化させた。
【0107】
次いで、ハードコート層を有するフィルム試料をガラス板から剥がし、ハードコートフィルムを得た。両面テープを貼り付けた厚さ5mmのガラス板に、前記のハードコートフィルムのハードコート層とは反対の面を貼り付けた。次いで、ハードコート層と接着性改質層とを貫通して基材フィルムに達する100個の升目状の切り傷を、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて付けた。次いで、粘着テープ(ニチバン社製、405番;24mm幅)を升目状の切り傷面に貼り付けた。貼り付け時に界面に残った空気を消しゴムで押して、完全に密着させた後、粘着テープを勢いよく垂直に引き剥がした。さらに新しい粘着テープを同様にして貼りかえ、同様に勢いよく垂直に引き剥がした。目視により、升目の剥がれた個数を、部分的に剥がれているものも含めて数え、下記の式から密着性(%)を求めた。
密着性(%)=(1−升目の剥がれた個数/100個)×100
密着性(%)が80%以上を○
密着性(%)が79%以下を×
とした。
【0108】
(2)高沸点溶媒の含有量
充填カラム型ガスクロマトグラフを用いて残存溶媒量の測定を次のように行った。フィルム試料約20mgを正確に秤量し、フィルム試料を入れたガラスインサートをガスクロマトグラフ注入口にセットし、ガスクロマトグラフ注入口にて150℃で5分間加熱し、室温でカラム先端部に高沸点溶媒をトラップした後、下記に示す条件で高沸点溶媒の測定及び定量を行った(A:ppm)。また、別に10cm四方に切り取ったフィルム試料を秤量(B:g)後、接着性改質層を溶剤で拭き取り、拭き取り前後のフィルム試料の重量差(C:g)を求めた。残存溶媒量は次式を用いて算出した。
塗布層(接着性改質層)中の高沸点溶媒量(%)=A×B×10−4/C
(尚、基材の両面に同じ塗布量で接着性改質層が形成されている場合は、上記計算結果の1/2とし、塗布量が異なる場合は、塗布層の厚み比率により按分する。)
装置:GC−14型(島津製作所社製)
カラム:内径3mm、長さ1.6m
充填剤:Themon−1000(5%)/KOH含浸
固定相:chromosorb W−AWCS
キャリアーガス:窒素(流速40ml/分)
オーブン温度:60〜190℃(昇温度速度10℃/分)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
検出温度:240℃
なお、定量分析においては検量線を作成し、定量に用いた。
例えば、高沸点溶媒がブチルセロソルブの場合、1000μg/mlのメタノール溶液2μlを注入口に注入して150℃で5分間トラップし、上記条件で測定し、ピーク面積
から検量線を作成した。
【0109】
(3)フッ素の裏移り性
フィルム試料の接着性改質層面と実質的に粒子を含まないポリエステル樹脂フィルム表面とを重ね合わせ、これに1kgf/cmの圧力をかけ、50℃、60%RHの雰囲気下で24時間密着させた後、剥離し、下記の方法で実質的に粒子を含まないポリエステル樹脂フィルムの表面フッ素量を求めた。
【0110】
測定表面のフッ素と炭素との原子濃度比(F/C)は、次の手順に従って、KRATOS社製ESCA−3400を用い、X線光電子分光法により求めた。試料となるフィルムは、清浄なステンレス製のはさみを用いて適当な大きさにカットし、両面テープなどを用いてステンレス製の試料支持台の上に固定した。このとき両面テープの面積が試料の面積と同じか小さくなるようにし、両面テープからの影響を排除した。
【0111】
X線源としてMgKα1,2を用い、出力は10kV、20mAに設定した。検出器のパスエネルギーは75eV、光電子の脱出角度は90度とした。測定は0.1eVピッチで行い、測定時間は1ピッチあたり200msとし、10回以上積算を行った。また測定中、試料チャンバー内の真空度を1x10−5Paから1×10−6Paの間に保った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.8eVに合わせた。
【0112】
C1sのピーク面積は、結合エネルギー280〜292eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sのピーク面積は、684〜694eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。直線を引く際の2端点強度は、それぞれの端点付近の10点の強度を数値平均した値を用いた。表面におけるフッ素と炭素との原子濃度比(F/C)は、上記C1sピーク面積に対するF1sピーク面積の比を、装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比によって、以下のように評価した。なお、本実施例では、X線光電子分光測定装置としてクレイトスESCA−3400を用い、かかる装置固有の感度補正値は0.1099であった。
F/C 0以上、0.005未満 ○
0.005以上、0.008未満 △
0.008以上、 ×
【0113】
(4)耐ブロッキング性
2枚のフィルム試料の被覆層(接着性改質層)面同士を重ね合わせ、これに1kgf/cmの圧力をかけ、50℃、60%RHの雰囲気下で24時間密着させた後、剥離し、その剥離状態を下記の基準で判定した。
○:接着性改質層の転移がなく、軽く剥離できるもの
△:剥離音が発生し、部分的に接着性改質層が相手面に転移しているもの
×:2枚のフィルムが固着して剥離できないもの、あるいは剥離できても基材であるポリエステルフィルムが劈開しているもの
【0114】
(5)ハロゲンの有無
以下に示す方法によって、接着性改質層中のフッ素以外のハロゲンの有無を調べた。実施例及び比較例で得られたフィルム試料3.0gを細かく裁断し、20mlのメタノールで抽出を行った(密閉容器中、室温、浸漬2時間)。抽出液10mlを穏やかに加熱して1mlまで濃縮した後、濃縮液0.1mlを酸素フラスコ燃焼法で完全燃焼し、発生した酸性ガスをアルカリ吸収液で吸収させ、イオンクロマトグラフィーを用いてハロゲンの有無を調べた。なお、イオンクロマトグラフィーは、下記の条件で行った。
[イオンクロマトグラフィー条件]
装置:DX−120(日本ダイオネクス社製)
カラム:AS12A(内径4mm)
移動相:炭酸ナトリウム(2.7mmol/L)、炭酸水素ナトリウム(0.3mmol/L)
流速:1.5ml/分
カラム温度:25℃
定量分析においては検量線を作成し、定量に用いた。フッ素以外のハロゲンの濃度が1ppm未満をハロゲン無し、1ppm以上をハロゲン有りとした。
【0115】
(6)ヘーズ
JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠し、日本電色工業社製NDH−300A型濁度計を用いて測定した。
【0116】
(実施例1)
(1)塗布液の調合
塗布液を以下の方法に従って調製した。ジメチルテレフタレート95質量部、ジメチルイソフタレート95質量部、エチレングリコール35質量部、ネオペンチルグリコール145質量部、酢酸亜鉛0.1質量部および三酸化アンチモン0.1質量部を反応容器に仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6.0質量部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下(10〜0.2mmHg)、2時間かけて重縮合反応を行い、数平均分子量19,500、軟化点60℃の共重合ポリエステル系樹脂(A)を得た。
得られた共重合ポリエステル系樹脂(A)300質量部とブチルセロソルブ140質量部とを160℃で3時間撹拌して粘稠な溶融液を得、この溶融液に水560質量部を徐々に添加し、1時間後に均一な淡白色の固形分濃度30%の水分散液を得た。
【0117】
(ポリウレタン系樹脂(A)の合成)
アジピン酸//1.6ーヘキサンジオール/ネオペンチルグリコール(モル比:4//2/3)の組成からなるポリエステルジオール(OHV:2000eq/ton)100質量部と、キシリレンジイソシアネートを41.4質量部混合し、窒素気流下、80〜90℃で1時間反応させた後、60℃まで冷却し、テトラヒドロフラン70質量部を加えて溶解し、ウレタンプレポリマー溶液(NCO/OH比:2.2、遊離イソシアネート基:3.30質量%)を得た。引き続き、前記のウレタンプレポリマー溶液を40℃にし、次いで、20質量%の重亜硫酸ナトリウム水溶液を45.5質量部加えて激しく撹拌を行いつつ、40〜50℃で30分間反応させた。遊離イソシアネート基含有量(固形分換算)の消失を確認した後、乳化水で希釈し、固形分20質量%の重亜硫酸ソーダでブロックしたイソシアネート基を含有する自己架橋型ポリウレタン系樹脂水溶液(A)を得た。
【0118】
得られた共重合ポリエステル系樹脂(A)の30質量%水分散液(7.5質量部)、自己架橋型ポリウレタン系樹脂水溶液(A)を(11.3質量部)、有機錫系触媒(0.3質量部)、水(39.8質量部)およびイソプロピルアルコール(37.4質量部)を混合した。さらに、界面活性剤<1>として6個のエチレンオキシド基を骨格に有するフッ素系化合物(ポリオキシエチレン−2−パ−フルオロヘキシルエチルエーテル)の10質量%水溶液(0.6質量部)、粒子(P1)としてコロイダルシリカ(平均粒径40nm)の20質量%水分散液(2.3質量部)および粒子(P2)として乾式法シリカ(平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液(0.5質量部)を添加した。次いで、5質量%の重曹水溶液で上記混合物のpHを6.2に調整し、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が10μmのフェルト型ポリプロピレン製フィルターで上記混合物を精密濾過し、塗布液を調製した。
【0119】
(2)積層熱可塑性樹脂フィルムの製造
原料ポリマーとして、粒子を含有していない、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂ペレットを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した。次いで、乾燥後のPET樹脂ペレットを押し出し機に供給し、約285℃にて、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が15μmのステンレス製焼結濾材を用いて、溶融状態のPET樹脂を精密濾過して異物を除去し、約285℃でシート状に溶融押し出し、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。
【0120】
得られたキャストフィルムを、加熱されたロール群で95℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。次いで、前記塗布液Eを濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)10μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、ロールコート法で一軸配向PETフィルムの片面に塗布した。塗布量は、最終的な固形分量として0.08g/mになるようにした。
【0121】
次いでこの一軸延伸ポリエステルフィルムをクリップ方式の横延伸機に導き、100℃で予熱した後、130℃で横方向に4.0倍延伸し、次いで、230℃で熱固定処理した後、200℃で横方向に3%緩和処理し、次いで、フィルムワインダーで巻き取って厚み100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0122】
(実施例2)
界面活性剤<1>の10質量%水溶液の添加量を0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0123】
(実施例3)
界面活性剤<1>の10質量%水溶液の添加量を1.0質量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0124】
(実施例4)
界面活性剤<1>のかわりに、パーフルオロプロピレン重合体(2および3量体)とポリオキシエチレン(エチレンオキシド単位の数=8)との付加反応物からなる界面活性剤<2>(株式会社ネオス社製、フタージェント251)を用いたこと以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0125】
(実施例5)
界面活性剤<1>のかわりに、パーフルオロプロピレン重合体(2および3量体)とポリオキシエチレン(エチレンオキシド単位の数=12)との付加反応物からなる界面活性剤<3>(株式会社ネオス社製、フタージェント212MH)を用いた以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0126】
(実施例6)
界面活性剤<1>をさらに以下に示す精製処理に供したこと以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
(界面活性剤の精製)
前記の界面活性剤<1>にイソプロピルアルコール(IPA)を加え、30℃の温浴上で加熱溶解して15質量%の界面活性剤<1>のIPA溶液を作製した。この溶液を定量濾紙(アドバンテック東洋製、No.5C)で濾過し、溶液中の不溶分およびゴミを除去した。得られた濾液を密閉したガラス容器に入れ、0℃の冷凍庫内で24時間静置した。24時間経過後、析出した固体を含む溶液を、前記の定量濾紙を使用して吸引濾過した。濾紙上の固体を真空乾燥して固体を得、水で10質量%水溶液に希釈して、前処理した界面活性剤<1>として用いた。
【0127】
尚、前記の前処理で得た界面活性剤<1>を、メタノールを展開液として、TLC塗布済プラスチックシート(メルク製、シリカゲル60)で分析した。試料スポットは、ヨウ素蒸気により着色を行った結果、ポリエチレングリコール相当のスポットが検出されないことを確認した。
【0128】
(実施例7)
共重合ポリエステル系樹脂(A)の30%の水分散液として、共重合ポリエステル系樹脂(A)300質量部とブチルセロソルブ250質量部を160℃で3時間撹拌して粘稠な溶融液を得、この溶融液に水450質量部を徐々に添加し、1時間後に得られた均一な淡白色の固形分濃度30%の水分散液を使用した以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0129】
(実施例8)
共重合ポリエステル系樹脂(A)の30%の水分散液として、共重合ポリエステル系樹脂(A)300質量部とブチルセロソルブ60質量部を160℃で3時間撹拌して粘稠な溶融液を得、この溶融液に水600質量部を徐々に添加し、1時間後に得られた均一な淡白色の固形分濃度30%の水分散液を使用した以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0130】
(実施例9)
第7熱固定ゾーンの出口に高圧水銀灯を設置し、200mJ/cmの条件で接着性改質層に紫外線を照射した以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0131】
(実施例10)
界面活性剤<1>のかわりに、15個のエチレンオキシド基を骨格に有するフッ素系化合物(ポリオキシエチレン−2−パ−フルオロオクチルエチルエーテル)(界面活性剤<4>)を使用した以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0132】
(比較例1)
共重合ポリエステル系樹脂(A)の30%の水分散液として、共重合ポリエステル系樹脂(A)300質量部とブチルセロソルブ20質量部を160℃で10時間撹拌して粘稠な溶融液を得、この溶融液に水を徐々に添加し、5時間後に得られた均一な淡白色の固形分濃度30%の水分散液を使用した以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0133】
(比較例2)
界面活性剤を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0134】
(比較例3)
共重合ポリエステル系樹脂(A)の30%の水分散液として、共重合ポリエステル系樹脂(A)300質量部とブチルセロソルブ550質量部を25℃で1時間撹拌して粘稠な溶融液を得、この溶融液に水を加えて得られた固形分濃度30%の水分散液を使用した以外は実施例2と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0135】
(比較例4)
界面活性剤<1>のかわりに、9個のエチレンオキシド基を骨格に有するフッ素系化合物(ポリオキシエチレン−2−パ−フルオロオクチルスルホアミドエチルエーテル)(界面活性剤<5>)を使用した以外は実施例1と同様の方法で、積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、界面活性剤<5>には、反応中間生成物として塩素を有する化合物が含まれていた。その結果、積層フィルムと機能層との密着性は問題なかったものの、フッ素の裏移りが認められた。
【0136】
各実施例および各比較例で得られた積層フィルムの評価結果を表1に示す。なお、いずれの積層フィルムにおいてもヘーズ値は1.5%以下であった。
【0137】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、機能層との密着性および耐ブロッキング性に優れ、さらに、接着性改質層中に含まれる低分子量成分(フッ素系化合物)の他面への転移が少ない。よって、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、ディスプレイ関連に主として用いられる、ハードコートフィルム、赤外線吸収フィルム等の光学用フィルムの基材フィルムとして好適に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムと、その片面または両面に設けられた接着性改質層とを備える積層熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記接着性改質層が、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系化合物および前記接着性改質層の全質量に対して0.005質量%以上かつ0.05質量%未満の高沸点溶媒を含有し、
前記フッ素系化合物が、分子構造中に平均で6〜16個のエチレンオキシド基を有し、
前記接着性改質層がハロゲン(但し、フッ素を除く)を有さない、
積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
フッ素系化合物が炭素数6から9の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基を有する請求項1記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
フッ素系化合物において、エチレンオキシド基の個数(n)とパーフルオロアルキル基の炭素数(m)との比(n/m)が0.8以上、2.0以下である請求項2に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
フッ素系化合物が、下記(I)または(II)の少なくとも1種の化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム:
(I)分子構造中に平均で8〜12個のエチレンオキシド基を有する、パーフルオロプロピレン重合体とポリオキシエチレンとの付加反応物、
(II)分子構造中に平均で6〜16個のエチレンオキシド基を有するポリオキシエチレン−2−パーフルオロヘキシルエチルエーテルまたはポリオキシエチレン−2−パーフルオロオクチルエチルエーテル。
【請求項5】
熱可塑性樹脂フィルムおよび/または接着性改質層が粒子を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
熱可塑性樹脂フィルムが実質的に粒子を含有せず、少なくとも一方の接着性改質層が粒子を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
粒子がシリカ粒子である請求項5または請求項6のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズが1.5%以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして使用される請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
光学機能性フィルムまたは光学機能性シートがプリズムシートである請求項9記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項11】
少なくとも一方の接着性改質層が100mJ/cm以上、300mJ/cm未満の紫外線照射を施されたものである請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。

【公開番号】特開2010−17859(P2010−17859A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177667(P2008−177667)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】