説明

積層物

【課題】隙間埋め性、接着性、耐候性に優れるモジュールを実現し得、しかも、モジュールの製造工程においてはその生産性に優れ、また連続運転性に優れる製造方法を実現し得る、積層物を提供する。
【解決手段】樹脂封止シート(A)、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂(x)からなる樹脂層(B)、および保護シート(C)を、この順に積層した積層物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層物に関する。特に、太陽電池の発電素子等を保護するために好適に用いられる積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な温暖化現象により環境に対する意識が高まり、炭酸ガス等の温暖化ガスを発生しない新しいエネルギーシステムが関心を集めている。太陽電池発電によるエネルギーは炭酸ガス等の温暖化の原因となるガスを排出しないため、クリーンなエネルギーとして研究開発が行われており、産業用エネルギーとして注目されている。太陽電池の代表例としては、単結晶、多結晶のシリコンセル(結晶系シリコンセル)を用いたものや、アモルファスシリコン、化合物半導体を用いたもの(薄膜系セル)等が挙げられる。
【0003】
太陽電池は、長期間、屋外で風雨に曝されて使用されることが多いため、発電素子をガラス板や保護シート等を貼り合わせてモジュール化し、外部からの水分の侵入を防止することにより、発電素子の保護、漏電防止等を図っている。発電素子を保護する部材には、発電に必要な光透過を確保するために、光入射側に透明ガラスや透明樹脂を使用している。反対側の部材には、保護シート(例えば、アルミ箔シート、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)シート、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート、それらの2種以上を積層した積層シート(シリカ等によるバリアーコート層をアルミ箔の代わりに用いることも可能である)など)を使用している。そして発電素子を樹脂封止シートで挟み込み、ガラスや保護シートでさらに外部を被覆して熱処理を施して樹脂封止シートを溶融し、全体を一体化封止(モジュール化)している。
【0004】
上述した樹脂封止シートは、例えば、次の(1)から(3)の特性が要求される。すなわち、(1)ガラス、発電素子、および保護シートとの良好な接着性、(2)高温状態での樹脂封止シートの溶融に起因する発電素子の流動防止性(耐クリープ性)、(3)受光側の樹脂封止シートでは太陽光の入射を阻害しない透明性、である。このような観点から従来、樹脂封止シートは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAとも略される。)に、紫外線劣化対策として紫外線吸収剤、ガラスとの接着性向上のためのカップリング剤、架橋のため有機過酸化物等の添加剤を配合し、カレンダー成形やTダイキャストにより製膜されている。
【0005】
上述したような樹脂封止シートにより太陽電池モジュールを作製する形態として、ガラス/樹脂封止シート/結晶系シリコンセル等の発電素子/樹脂封止シート/保護シートの順で重ね合わせ、ガラス面を下にして専用の太陽電池真空ラミネーターを用いて、樹脂の溶融温度以上(EVAの場合は150℃の温度条件)で予熱する工程とプレス工程とを経て、樹脂封止シートを溶融して貼り合わせる方法がある。この方法においては、先ず、予熱工程で樹脂封止シートの樹脂が溶融し、プレス工程で溶融した樹脂に接している部材と密着して真空ラミネートされる。このような方法で、広く太陽電池が製造されている。
その一方で、モジュール化前の部材を重ね合わせる作業の効率を上げるため、樹脂封止シートと受光面部材とを一体化したものや樹脂封止シートと保護シートとを一体化したものが開発されてきている。
【0006】
特許文献1には、耐候性樹脂フィルムと接着性樹脂層とを有する太陽電池モジュール用裏面保護シートが開示されている。この接着性樹脂層は、樹脂封止シートとして機能させることも可能である。
また、樹脂封止シートと受光面部材とが積層一体化された積層物、または保護シートと樹脂封止シートとが積層一体化された積層物として、例えば、特許文献2には、透明保護部材とエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムとを積層一体化させた太陽電池用カバー材兼用封止膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−33146号公報
【特許文献2】特許第3978911号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の一般的な方法ではモジュール化を行う際に、各太陽電池部材を一層ずつ重ねた後、ラミネーターにより熱圧着を行う。このような積層作業では、各部材の位置を正確に合わせることが困難であり、ずれて積層され易い。また、ずれて積層された状態で封止すると、セルが割れてしまう可能性や隙間埋め性が不充分となる可能性がある。また、エチレン酢酸ビニルアセテートを主原料とした樹脂封止シートとポリエステル樹脂を主原料とした保護シートとは、押出ラミネート法では、非常に接着しづらいという欠点がある。
また、モジュールには発電素子と樹脂封止シートとの隙間が抑制されていることや、樹脂封止シートと保護シートとの接着性に優れること、および耐候性に優れることが望まれる。
さらに、モジュールを生産性よく製造する観点からは、モジュールの製造時(各部材のラミネート加工時)に、ラミネート装置が汚れ難いことが望まれる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、隙間埋め性(モジュール製造時に、発電素子と樹脂封止シートとの隙間が抑制されていること)、接着性(樹脂封止シートと保護シートとの剥離強度(モジュール化後)に優れていること)、耐候性(加速試験において外観変化が抑制されていること)に優れるモジュールを実現し得、しかも、モジュールの製造工程においてはその生産性に優れ(製造時のズレを抑制し得ること)、また連続運転性に優れる(モジュール作製の真空ラミネート加工時に、ラミネート装置が汚れ難いこと)製造方法を実現し得る、積層物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、樹脂封止シート、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂、保護シートの順に積層させた積層物が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
樹脂封止シート(A)、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂(x)からなる樹脂層(B)、および保護シート(C)を、この順に積層した積層物。
[2]
前記アクリル系樹脂(x)が、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、連鎖移動剤0.2〜1.2質量部、および多官能単量体0.2〜5質量部、を含む混合モノマーを重合して得られる、[1]に記載の積層物。
[3]
前記樹脂層(B)が、前記アクリル系樹脂(x)を含むエマルジョンを塗布し、乾燥することにより形成される、[1]又は[2]に記載の積層物。
[4]
前記エマルジョンが、更に白顔料を含む白エナメル塗料である、[3]に記載の積層物。
[5]
前記樹脂封止シート(A)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の樹脂を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の積層物。
[6]
前記樹脂封止シート(A)のゲル分率が0.1〜65質量%である、[1]〜[5]のいずれかに記載の積層物。
[7]
前記樹脂封止シート(A)が架橋構造を有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の積層物。
[8]
前記架橋構造が、電離性放射線照射により形成されている、[7]に記載の積層物。
[9]
前記樹脂封止シート(A)が接着性樹脂(シランカップリング剤を除く)を含有する、[1]〜[8]のいずれかに記載の積層物。
[10]
前記保護シート(C)が、ポリエステル系樹脂もしくはフッ素系樹脂を含有する、[1]〜[9]のいずれかに記載の積層物。
[11]
40℃、90%RHの条件下で測定した前記保護シート(C)の水蒸気透過率が、2.0g/m2/day以下である、[1]〜[10]のいずれかに記載の積層物。
[12]
前記保護シート(C)が、蒸着層および/または水蒸気バリア層を含み、
前記蒸着層が、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、無機物粒子および無機酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含む層であり、
前記水蒸気バリア層が、コーティング層、アルミ箔およびPETフィルムからなる群より選択される少なくとも1種を含む層である、[1]〜[11]のいずれかに記載の積層物。
[13]
前記樹脂封止シート(A)、前記樹脂層(B)、および前記保護シート(C)を、ドライラミネート法により積層した、[1]〜[12]のいずれかに記載の積層物。
[14]
[1]〜[13]のいずれかに記載の積層物を太陽電池用保護部材として用いた太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、隙間埋め性、接着性、耐候性に優れるモジュールを実現し得、しかも、モジュールの製造工程においてはその生産性に優れ、また連続運転性に優れる製造方法を実現し得る、積層物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その発明の要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
本実施の形態に係る積層物は、樹脂封止シート(A)、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂(x)を含む樹脂層(B)(以下、単に「樹脂層(B)」とも記す。)、保護シート(C)を、この順で含むものである。予め樹脂封止シートと保護シートとを積層し、一体化することで、モジュール作製のラミネートにおいて各種部品を重ね合わせる際の位置決めが容易となる。
また、作用の詳細は詳らかではないが、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂からなる樹脂層が樹脂封止シートの変形を適度に緩衝することで積層物としての隙間埋め性が確保されるばかりか、耐候性試験において発生する各層界面での応力をも適度に分散させることで耐候性のある接着が可能となる。
更に、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂からなる樹脂層が有するラミネート時の流動性が適切に調節されていることから、ラミネート時に過度に流動してラミネート部材からはみ出すおそれが低減され、結果としてモジュールの製造工程の連続運転性を向上させ得る。
以下、[樹脂封止シート(A)]、[アクリル系樹脂を含む樹脂層(B)]、[保護シート(C)]、[積層物の製造方法]の各項目を下記に記す。また、本実施の形態に係る積層物を用いた[太陽電池モジュールの作製方法]、[積層物の用途]についても記述する。
【0013】
[樹脂封止シート(A)]
樹脂封止シートとしては、隙間埋め性が良好で、耐クリープ特性、接着性に優れ、経時的な樹脂劣化をきたすことなく、太陽電池発電素子を保護することができるシートが好ましい。本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、受光面からみて発電素子裏側に設置されるため、透明性は特に制限されず、白色またはその他の色を呈していてもよい。本実施の形態においては、公知の方法を用いて形成されたシートを用いてよい。
(樹脂の種類)
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、少なくとも下記樹脂を主成分として含む層が被封止物に接触する側に設けられているシートが好ましい。
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、柔軟性、および被接着物との接着性の観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、熱可塑性エラストマー、およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の樹脂を含むことが好ましい。さらに、その他熱可塑性エラストマー等でもよい。
なお、本実施の形態において「主成分」とは、特定の成分が、当該特定成分及びマトリックス成分の総量に占める割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、実質的に100質量%であってもよいことを意味する。
【0014】
熱可塑性エラストマーとは、常温でゴム弾性を示し、かつ熱可塑性を有するものであり、共重合体ゴムと所定の重合体とが任意の質量比で配合されたものをいう。共重合体ゴムは、熱可塑性エラストマー中において未架橋、部分架橋、全体架橋等の状態で存在することができる。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系、スチレン系、塩ビ系、ポリエステル系、ウレタン系、塩素系エチレンポリマー系、ポリアミド系等のものを適用でき、生分解性を有するものや、植物由来原料系等の材料であってもよい。特に、結晶性ポリプロピレン系樹脂との相溶性が良好で、透明性が良好な水素添加ブロック共重合体エラストマー、プロピレン系共重合体エラストマー、エチレン系共重合体エラストマーが好ましく、水素添加ブロック共重合体エラストマー、プロピレン系共重合体エラストマーがより好ましい。
【0015】
水素添加ブロック共重合体エラストマーとしては、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物が好ましい。ビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。共役ジエンとは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
上述したエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体とは、エチレンモノマーと、酢酸ビニル、脂肪族不飽和カルボン酸、および脂肪族不飽和カルボン酸エステル等よりなる群から選択される少なくとも1種類との共重合体である。
【0017】
共重合体の重合は、高圧法、溶融法等、公知の方法を適用でき、さらにマルチサイト触媒やシングルサイト触媒を用いてもよい。また、重合時における接合形状は、ランダム結合、ブロック結合等のいずれでもよいが、良好な光学特性を得る観点からは、高圧法を用いてランダム結合により重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体が好ましい。
【0018】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が樹脂封止シート(A)を構成する樹脂の場合、良好な接着性および柔軟性を得る観点から、共重合体全体に対する酢酸ビニルの割合は、10〜40質量%が好ましく、13〜35質量%がより好ましく、15〜30質量%がさらに好ましい。
【0019】
エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体の具体例を下記に挙げる。例えば、エチレン−アクリル酸共重合体(以下、EAAとも記す。)、エチレン−メタクリル酸共重合体(以下、EMAAとも記す。)、エチレン−アクリル酸エステル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜8のアルコールの成分より選ばれる。)共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜8のアルコールの成分より選ばれる。)共重合体等が挙げられる。
共重合体中の各種カルボン酸またはカルボン酸エステル基の含有量は、通常3〜35質量%であるものが用いられる。
なお、樹脂封止シート(A)を構成する材料は、上記2成分系の共重合体のほか、3成分以上の多元共重合体(例えば、エチレンと脂肪族不飽和カルボン酸および同エステルより適宜選ばれる3元以上の共重合体等)であってもよい。
【0020】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン系樹脂(エチレンの単独重合体や、他の単量体と、主成分としてのエチレンモノマーとの共重合体)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体や、他の単量体と、主成分としてのプロピレンモノマーとの共重合体)、ポリブテン系樹脂(ブテンの単独重合体や、他の単量体と、主成分としてのブテンモノマーとの共重合体)等が挙げられる。
【0021】
上記ポリエチレン系樹脂としては、まず、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(「VLDPE」、「ULDPE」と称される。)等が挙げられる。
また、上記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン−α−オレフィン系共重合体が挙げられる。エチレン−α−オレフィン系共重合体は、一般的に、シングルサイト系触媒、またはマルチサイト系触媒と呼ばれる触媒を用いて重合できる。特にシングルサイト系触媒により重合したものが好ましい。また、エチレンコモノマー、ブテンコモノマー、ヘキセンコモノマー、およびオクテンコモノマーから選ばれるいずれか1つのコモノマーが、共重合体材料として好ましい。
【0022】
上記ポリエチレン系樹脂の密度は、良好なクッション性を得る観点からは、0.860〜0.920g/cm3の範囲が好ましく、0.870〜0.915g/cm3がより好ましく、0.870〜0.910g/cm3がさらに好ましい。
【0023】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンと、エチレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテン等のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンと、エチレンと、ブテン、ヘキセンおよびオクテン等のα−オレフィンとの3元共重合体等が挙げられる。
これらの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体等のいずれでもよく、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレンとブテンとのランダム3元共重合体が好ましい。
【0024】
上記ポリプロピレン系樹脂は、樹脂封止シートの硬さや腰を高めたり、耐熱性を上げたりする等の機能を発揮する。また、ポリプロピレン系共重合体中のプロピレンの含有量は50〜90質量%が好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
なお、樹脂封止シートの主成分としてポリプロピレン系樹脂を主成分として用いる場合、その50質量%程度まで高濃度のゴム成分を均一微分散したものであってもよい。また、ポリプロピレン系共重合体が3元共重合体であり、プロピレン含有量が60〜80質量%、エチレン含有量が10〜30質量%、ブテン含有量が5〜20質量%のものは熱収縮性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂のJIS−K−7210に準じて測定されるメルトフローレートの値(230℃、2.16kgf)は、0.3〜15g/10minが好ましく、0.5〜12g/10minがより好ましく、0.8〜10g/10minがさらに好ましい。
【0027】
更に、ポリブテン系樹脂は、樹脂封止シート(A)の硬さや腰の調整の他、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が優れているため、ポリプロピレン系樹脂と併用できる。ポリブテン系樹脂としては、ブテン−1含量70モル%以上の、結晶性で、他の単量体(エチレン、プロピレンの他、炭素数5〜8のオレフィン系)の1種または2種以上との共重合体を含む高分子量のものが好ましく用いられる。ポリブテン系樹脂のMFR(190℃、2.16kg)は、通常0.1〜10g/10minのものを用いることが好ましい。好ましいポリブテン系樹脂としては、ビカット軟化点が40〜100℃の共重合体が挙げられる。ビカット軟化点とは、JIS K7206−1982に従って測定される値である。
【0028】
(架橋処理)
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、架橋処理され、架橋構造を有していることが好ましい。樹脂封止シート(A)が架橋処理されている場合、太陽電池モジュールに適用すると発電セルの耐クリープ性が優れる傾向にある。樹脂封止シート(A)の架橋処理は、保護シート(C)との積層物作製のラミネート前、モジュール作製の真空ラミネートの加熱時、モジュール化後のキュア工程のいずれにおいても行うことが可能である。特に、保護シート(C)との積層物作製のラミネート前に樹脂封止シート(A)の架橋処理されていることが好ましい。
【0029】
樹脂封止シート(A)は、モジュール作製後のセルの耐クリープ性の観点から、熱可塑性エラストマーが好ましく、架橋処理されていないものよりも、架橋処理されているものがより好ましい。
【0030】
樹脂封止シート(A)が、保護シート(C)との積層物作製のラミネート前に架橋処理されている場合は、保護シート(C)との積層物作製のラミネート時に樹脂封止シート(A)の変形や劣化が抑制される傾向にある。
この原因については、充分に解明されていないが、次のようなことが考えられる。樹脂封止シート(A)が架橋処理されているため、積層物作製のラミネートの際に樹脂封止シート(A)が加熱されても、樹脂封止シート(A)を構成する熱可塑性樹脂の分子鎖の流動を押さえられ、樹脂封止シート(A)の変形流動が少なくなる。この結果、積層物作製のラミネート時のラミネーター機械のロールへのシート付着が少なくなり安定した積層物作製のラミネートの操業が可能であると考えられる。さらに、積層物作製のラミネート時のシートの溶融切断による操業トラブルも減少する。
【0031】
また、一般に樹脂封止シート(A)を架橋処理した場合、保護シート(C)への投錨効果が減少し、接着性が阻害される欠点がある。しかし、ガラス転移点−5℃以下のアクリル系樹脂を含む樹脂層(B)を介在させることで、両シートの接着性を充分に向上させることができる。
樹脂封止シートが積層物作製のラミネート前に架橋処理されている場合には、積層物作製のラミネート時の樹脂封止シートの変形が少なく、またモジュール作製の真空ラミネート時には、樹脂がラミネーターに付着し難くなる。
【0032】
(架橋処理の方法)
架橋処理の方法としては、電離性放射線の照射や、パーオキサイド等の有機過酸化物を利用する方法等、従来公知の方法が挙げられる。パーオキサイド等の有機過酸化物は、高温条件で分解する場合がある。電離性放射線照射による架橋処理であれば、有機過酸化物を利用する必要がなく、保存が容易になる。加えて、熱を利用した積層物作製のラミネート手法を用いても樹脂封止シートへの影響が少ないと考えられる。このため、電離性放射線照射による架橋処理が特に好ましい。なお、電離性放射線照射による架橋処理が可能な樹脂を、「電離性放射線架橋型樹脂」と呼ぶことができる。
さらに、電離性放射線の照射による架橋処理が適している他の原因としては、充分に解明されていないが、例えば、電離性放射線の照射により、樹脂封止シート表面に極性を有する分子鎖末端が生成され、積層物の接着性に寄与していることが挙げられる。
【0033】
また、電離性放射線による架橋処理を行うと、オレフィン系共重合体のケン化物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体等の側鎖部分の脱離による有機酸やパーオキサイド等の未反応成分が樹脂中に残留することを防止することができ、未反応成分による太陽電池セルや導電性機能層または配線への悪影響を防止できる傾向にある。
さらに、電離性放射線による架橋処理では、モジュール作製のラミネート工程において、有機過酸化物による架橋処理では必要な樹脂封止シートの架橋を促進させるキュア時間が不要であるため、太陽電池モジュールの生産を高速化することができる傾向にある。
【0034】
電離性放射線の照射により架橋させる場合は、α線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線を樹脂封止シート(A)に照射し、架橋させる方法が挙げられる。電子線等の電離性放射線の加速電圧は、樹脂封止シート(A)の厚さにより選択すればよく、例えば、500μmの厚さの場合、全層を構成する樹脂を架橋するときには、加速電圧として300kV以上に設定することができる。
電子線等の電離性放射線の加速電圧は、架橋処理を施す樹脂層に応じて適宜調節が可能であり、電離性放射線の照射線量は使用される樹脂によって異なるが、一般的に3kGy未満の場合、均一な架橋樹脂封止シート(A)が得られない傾向にある。一方、電離性放射線の照射量が500kGyを越えると、樹脂封止シート(A)のゲル分率が大きくなりすぎ、太陽電池セルに用いる場合に、凹凸段差や隙間の埋め込み性が確保できないおそれがある。電離性放射線の加速電圧や照射線量は所望のゲル分率を得るため適宜調節することが好ましい。架橋は、ゲル分率を測定することにより評価できる。
【0035】
電離性放射線架橋型樹脂としては、前述の電離性放射線により架橋される樹脂であれば特に限定されないが、柔軟性、および被接着物との接着性が良好であることが好ましく、かかる観点から、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の樹脂を含むことが好ましい。
ここで、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびポリオレフィン樹脂としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
また、電離性放射線を照射して架橋させる場合には、ポリオレフィン樹脂のみの場合よりも極性基を有する樹脂の方が架橋されやすいため、極性基を有する樹脂を含むことが好ましい。
【0036】
有機過酸化物を利用して架橋処理する場合は、有機過酸化物として、良好なエチレン系共重合体との相溶性が得られ、かつ前記半減期を有するものであるとの観点から、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等を用いることができる。
これらの有機過酸化物を用いて樹脂封止シート(A)を架橋処理する場合は、架橋時間を比較的短することができ、かつ従来汎用されている100〜130℃における半減期が1時間以上の有機過酸化物を用いた場合に比較して、キュア工程を半分程度に短縮できる。
有機過酸化物の含有量は、樹脂層を構成する樹脂に対して0〜10質量%が好ましく、0〜5質量%がより好ましい。
有機過酸化物が配合された樹脂封止シートは、モジュール作製のラミネート時にシートが軟化し、隙間埋めが行われた後に有機過酸化物の分解および架橋が促進されるため、樹脂のゲル分率が大きくなっても隙間埋め性が阻害されないという利点を有している。
【0037】
(ゲル分率)
本実施の形態において、積層物作製のラミネート前または、モジュール作製のラミネート前の樹脂封止シート(A)のゲル分率は、0.1〜65質量%が好ましく、0.1〜60質量%がさらに好ましい。ゲル分率が0.1〜65質量%であればより、保護シート(C)と樹脂封止シート(A)との収縮率の相違によるモジュール化工程時の不具合(剥離やセル割れ等)が低減される傾向となる。さらに0.1〜60質量%であれば、樹脂封止シート(A)の弾性により保護シート(C)との収縮率の相違がある場合でも、よりスムーズにモジュールの作製が可能である。
上記ゲル分率を達成するためには、電離性放射線の照射量の他、樹脂の種類による架橋度合いの違いや、連鎖移動剤等による架橋促進や架橋抑制の効果を利用してもよい。
【0038】
(接着方法)
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、太陽電池モジュール化において、加熱され軟化状態で被封止物に密着させて封止するシートである。このとき、各部材を密着させるための手段として、特に制限はなく、シランカップリング剤、接着性樹脂(シランカップリング剤を除く)等の公知の方法を用いることができる。また、それらの方法を組み合わせてもよい。
接着性樹脂を使用した場合の方が、積層物とした場合の保管において以下の利点が挙げられる。すなわち、接着性樹脂を使用した場合、熱や湿気により失活するシランカップリング剤を使用する必要が無く、接着性が高温高湿な条件でも、保たれるという利点が挙げられる。また、接着性樹脂を使用した場合、同様な理由で、積層物作製のラミネート時に樹脂封止シートの他部材との接着性が失われない傾向にある。
さらに、充分に解明されていないが、他の利点として、接着性樹脂とアクリル系樹脂層と、より接着強度が増す傾向にあることが挙げられる。
【0039】
ここで、シランカップリング剤としては、例えば、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラングリシドキシプロピルトリエトキシシラン等の不飽和基やエポキシ基を有するものが挙げられる。
シランカップリング剤の含有量は、樹脂封止シート(A)における樹脂層を構成する樹脂に対して0〜10質量%が好ましく、0〜5質量%がより好ましい。
【0040】
シランカップリング剤を使用する場合、上述のシランカップリング剤を添加したエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびポリオレフィン樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の樹脂に混合することが好ましい。
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は接着性樹脂(シランカップリング剤を除く)を含有することが好ましい。
【0041】
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)を構成する樹脂に接着性樹脂を含む場合について説明する。接着性樹脂としては、特に限定されないが、良好な接着性を得る観点から、水酸基を持つオレフィン系共重合体、酸性官能基で末端もしくはグラフト変性された変性ポリオレフィン、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」と略記することがある。)を含むエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種類の樹脂を含むことが好ましい。上記接着性樹脂を含む場合は、例えば、グリシジルメタクリレートを含むエチレン共重合体を含む場合、グリシジルメタクリレートの反応性が高いため安定した接着性を発揮できる。
【0042】
水酸基を持つオレフィン系共重合体を構成するオレフィンとしては、エチレンが好適である。水酸基は、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体の酢酸基をケン化して水酸基に置換することにより得られる。水酸基を持つオレフィン系共重合体としては、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分あるいは完全ケン化物、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体の部分あるいは完全ケン化物が挙げられる。
【0043】
水酸基を持つオレフィン系共重合体中の水酸基の割合は、樹脂層中において、0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、0.1質量%〜7質量%がより好ましい。水酸基の割合は、前記水酸基をもつオレフィン系重合体の、元のオレフィン系重合体樹脂と、この樹脂のVA%(NMR測定による酢酸ビニル共重合比)と、そのケン化度と、樹脂層中における配合割合とから算出できる。水酸基をもつオレフィン系共重合体中の水酸基の割合を樹脂層中において0.1質量%以上とすることにより良好な接着性が確保できる傾向にあり、10質量%以下とすることによりEVAとの良好な相溶性が確保でき、最終的に得られる樹脂封止シートの白濁化を防止できる傾向にある。
【0044】
水酸基を持つオレフィン系共重合体の融点は、良好な接着性および被封止物に対する封止性(隙間埋め性)を確保する観点から、好ましくは70〜115℃、より好ましくは73〜115℃、さらに好ましくは75〜115℃である。
ここで、オレフィン系共重合体の融点は、示差走査熱量計を使用し、樹脂約5mgを0℃から200℃まで20℃/分の速度で昇温させ、200℃で5分間溶融保持した後に−50℃以下まで20℃/分の速度で降温させ、次いで0℃から200℃まで20℃/分で昇温させた際に得られる融解に伴う吸熱ピークをいう。
【0045】
水酸基を持つオレフィン系共重合体のビカット軟化温度は、良好な接着性および被封止物に対する封止性(隙間埋め性)を確保する観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは47℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。
ここで、ビカット軟化温度はJIS K7206−1982に従って測定される値である。
【0046】
水酸基を持つオレフィン系共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物である場合、ケン化前のエチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルの含有量は、良好な光学特性、接着性、および柔軟性を得る観点から、共重合体全体に対して、10〜40質量%が好ましく、13〜35質量%がより好ましく、15〜30質量%がより好ましい。
【0047】
次に、ケン化方法について説明する。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体のペレットあるいは粉末をメタノール等の低級アルコール中でアルカリ触媒を用いてケン化する方法、トルエン、キシレン、ヘキサンのような溶媒を用いて予めエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解した後、少量のアルコールとアルカリ触媒とを用いてケン化する方法等が挙げられる。その他、ケン化した共重合体に水酸基以外の官能基を含有するモノマーをグラフト重合する方法も挙げられる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物は、側鎖に水酸基を有しているため、エチレン−酢酸ビニル共重合体に比較して接着性が向上しており、ガラス、アクリルやポリカーボネート樹脂等のプラスチック、金属、繊維等の接着剤として有用である。また、水酸基の量(ケン化度)を調整することにより、透明性や接着性を制御できる。
【0048】
酸性官能基で末端もしくはグラフト変性された変性ポリオレフィンとは、例えば、ポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂を、無水マレイン酸、ニトロ基、水酸基、カルボキシ基等の極性基を有する化合物等で末端もしくはグラフト変性したものが挙げられる。中でも、極性基の安定性の観点より、無水マレイン酸で末端もしくはグラフト変性されたマレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。
ここで、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂としては、後述するポリオレフィン樹脂で挙げられているものと同様のものを用いることができる。
【0049】
グリシジルメタクリレートを含むエチレン共重合体とは、反応サイトとしてエポキシ基を有するグリシジルメタクリレートとのエチレンコポリマーおよびエチレンターポリマーを示し、例えば、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。上記化合物は、グリシジルメタクリレートの反応性が高いため安定した接着性を発揮できる。
【0050】
接着性樹脂を使用する場合、上述した接着性樹脂、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の1種の樹脂を用いて樹脂封止シート(A)を作製してもよいが、柔軟性、被接着物の接着性や取扱性を確保する観点から、樹脂封止シート(A)は、接着性樹脂と、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびポリオレフィン樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の樹脂を混合し、成形したシートであることが好ましい。また、上述の電離性放射線を照射して架橋させる場合には、ポリオレフィン樹脂のみの場合よりも極性基を有する樹脂の方が架橋されやすいため、好ましい。
【0051】
樹脂封止シート(A)を構成する樹脂層に、接着性樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物が含有されている場合は、ケン化度および含有量が適宜調整でき、これにより被封止物との接着性を制御できる。接着性および光学特性の観点から、ケン化物の含有量は、樹脂封止シート(A)を構成する樹脂層を100質量%とした場合、3〜100質量%が好ましく、3〜60質量%がより好ましく、3〜55質量%がさらに好ましく、5〜50質量%がさらにより好ましい。
【0052】
(多層構造)
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、単層構造、多層構造のいずれであってもよい。
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)が多層構造の場合、少なくとも2層以上の多層構造よりなり、少なくとも1層が、前記接着性樹脂と、必要に応じて電離性放射線架橋型樹脂とを含有する樹脂層であることが好ましい。電離性放射線架橋型樹脂を含有すると、電離性放射線架橋処理時に、樹脂封止シート表面に官能基が形成されると考えられる。さらに、積層物製造のラミネート時に、アクリル系樹脂との接着にこの官能基が寄与する可能性が考えられる。
【0053】
多層である場合、上述した接着性樹脂を含有する樹脂層が、被封止物と接触する層(表層)として形成されていることが好ましい。
被封止物と接触する表層の層比率は、良好な接着性を確保する観点から、樹脂封止シートの全厚に対し、少なくとも5%以上の厚さを有していることが好ましい。厚さが5%以上であると、上述した単層の場合と同等の接着性が得られる。
【0054】
樹脂封止シート(A)において、例えば、オレフィン系共重合体のケン化物、エチレンモノマーと酢酸ビニル、脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸エステル等の極性基を有する樹脂を表層とし、線状低密度密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(「VLDPE」、「ULDPE」と呼ばれているもの)樹脂を中層とした場合は、全層透過させるために充分な加速電圧であっても表層のゲル分率は高く、中層のゲル分率は低くできる。
【0055】
樹脂封止シート(A)を構成する樹脂層中の、接着性樹脂の含有量としては、好ましくは3〜100質量%であり、3〜60質量%がより好ましく、3〜55質量%がさらに好ましく、5〜50質量%がさらにより好ましい。樹脂封止シート(A)を構成する樹脂層中の、電離性放射線架橋型樹脂の含有量としては、好ましくは0〜97質量%であり、40〜97質量%がより好ましく、45〜97質量%がさらに好ましく、50〜95質量%がさらにより好ましい。
【0056】
表層以外のその他の層には、他の機能を付与することを目的として、樹脂材料、混合物、添加物を選定できる。例えば、新たにクッション性を付与する目的により熱可塑性樹脂を含有する層を設けてもよい。
熱可塑性樹脂としては、オレフィン系、スチレン系、塩ビ系、ポリエステル系、ウレタン系、塩素系エチレンポリマー系、ポリアミド系等が挙げられ、生分解性を有したものや植物由来原料系のもの等も含まれる。特に、結晶性ポリプロピレン系樹脂との相溶性がよく、透明性が良好な水素添加ブロック共重合体樹脂、プロピレン系共重合樹脂、エチレン系共重合体樹脂が好ましく、水素添加ブロック共重合体樹脂およびプロピレン系共重合樹脂がより好ましい。
【0057】
水素添加ブロック共重合体樹脂としては、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水添物が好ましい。ビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。共役ジエンとは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
プロピレン系共重合体樹脂としては、プロピレンとエチレンまたは炭素原子数4〜20のα−オレフィンとから得られる共重合体が好ましい。そのエチレンまたは炭素原子数4〜20のα−オレフィンの含有量は6〜30質量%が好ましい。この炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコサン等が挙げられる。
プロピレン系共重合体樹脂は、マルチサイト系触媒、シングルサイト系触媒、その他、いずれの触媒を用いて重合されたものでもよい。さらにポリマーの結晶/非晶構造(モルフォロジ−)をナノオーダーで制御したプロピレン系共重合体を使用できる。エチレン系共重合体樹脂は、マルチサイト系触媒、シングルサイト系触媒、その他、いずれの触媒で重合されたものでもよい。また、ポリマーの結晶/非晶構造(モルフォロジ−)をナノオーダーで制御したエチレン系共重合体を使用できる。
【0059】
被封止物と接触しない層の材料としては、ポリエチレン系樹脂を用いる場合、密度は、適度なクッション性を得る観点より、0.860〜0.920g/cm3が好ましく、0.870〜0.915g/cm3がより好ましく、0.870〜0.910g/cm3がさらに好ましい。
【0060】
次に、樹脂封止シート(A)の加工性の観点について検討する。良好な加工性を確保する観点から、樹脂封止シート(A)の表層やその他の層を構成する樹脂のMFR(190℃、2.16kg)は、0.5〜30g/10minのものが好ましく、0.8〜30g/10minのものがより好ましく、1.0〜25g/10minのものがさらに好ましい。
2層以上の多層構造の場合、表層に隣接する中層や下層を構成する樹脂のMFRは、樹脂封止シート(A)の加工の観点より表層のMFRより低いことが好ましい。
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)には、特性を損なわない範囲で、各種添加剤、例えば、防曇剤、可塑剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、結晶核剤、滑剤、アンチブロッキング剤、無機フィラー、架橋調整剤等を添加してもよい。
【0061】
(樹脂封止シート(A)の製造方法)
樹脂封止シート(A)の製造方法としては、特に制限はないが、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、樹脂を押出機で溶融し、ダイより溶融樹脂を押出し、急冷固化して原反を得る。押出機としては、Tダイ、環状ダイ等が用いられる。樹脂封止シート(A)が多層構造である場合には、環状ダイが好ましい。
原反の表面には、最終的に目的とする樹脂封止シート(A)の形態に応じてエンボス加工処理を施してもよい。例えば、両面にエンボス加工処理を行う場合には、2本の加熱エンボスロール間に、片面エンボス加工処理を行う場合には、片方のみ加熱されたエンボスロール間に、前記原反を通過させることによりエンボス加工処理を施すことができる。
樹脂封止シート(A)が多層構造の場合、多層Tダイ法、多層環状ダイ法が好適である。その他公知のラミネート法によって多層構造を形成してもよい。
【0062】
樹脂封止シート(A)を構成する樹脂層に対する架橋処理、すなわち電離性放射線照射処理や有機過酸化物の利用等による熱処理は、それぞれの場合に応じてエンボス加工処理の前工程または後工程として行うか選定する。
【0063】
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、厚さが50〜1500μmであることが好ましく、100〜1000μmがより好ましく、150〜800μmがさらに好ましい。厚さは、耐久性や強度の観点から50μm以上が好ましく、生産性、密着性の観点から1500μm以下が好ましい。またシリコン結晶系太陽電池にこの樹脂封止シート(A)を用いた積層物を用いる場合で、積層物の樹脂封止シート(A)の厚さが50〜300μmの場合は、ガラス面側の樹脂封止シートに300〜800μmの厚さのシートを使用するのが好ましい。
本実施の形態に用いる樹脂封止シート(A)は、樹脂層の軟化状態を利用して封止するものである。樹脂の軟化状態は、直接熱エネルギーを与えたり、樹脂に固有の振動を与えて樹脂自身を発熱させたりすることにより作り出すことができる。なお、樹脂にエネルギーを与える方法としては、直接熱を与える方法の他、輻射熱等の間接熱や超音波等の振動発熱等の公知の方法も適用できる。
【0064】
[アクリル系樹脂(x)からなる樹脂層(B)]
アクリル系樹脂(x)からなる樹脂層(B)とは、アクリル系樹脂を含む(好ましくは、主成分として含む)樹脂組成物からなる層をいう。
アクリル系樹脂(x)とは、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体または、(メタ)アクリル酸エステル単量体とこれと共重合可能な他の単量体との共重合体をいう(以下、アクリル酸およびメタアクリル酸をあわせて、単に、(メタ)アクリル酸と記載する場合がある)。(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、他の(メタ)アクリル酸エステル単量体、メタクリル酸単量体、アクリル酸単量体、芳香性ビニル単量体、その他エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
【0065】
前記樹脂層(B)は、アクリルレジン、アクリルエマルジョンなどを用いて得られるが、特にこれらに限定されるものではない。アクリルレジンとは、アクリル系樹脂単独またはこれを含む樹脂組成物を含む乾燥粉末のことを指す。また、アクリルエマルジョンとは、アクリル系樹脂(x)を含むエマルジョンのことを意味し、上記単量体を水系で乳化重合させた樹脂の水系分散体(乳状物)をいう。
【0066】
前記樹脂層(B)は、膜厚を制御しやすいという観点から、アクリルエマルジョンから製造されることが好ましい。膜厚がより均一である方が、積層物の製作時に均一に保護シート(C)および樹脂封止シート(A)を接着することが可能となるため、モジュール作製時に樹脂封止シート(A)へ真空ラミネーターの熱や圧力等が均等に伝わり、樹脂の偏りなく、隙間埋めもされた良好なモジュールの作製が可能であると考えられる。
【0067】
アクリル系樹脂(x)のガラス転移温度(以下「Tg」とも記す。)は、初期接着性の観点から−5℃以下である。アクリル系樹脂(x)のTgが−5℃以下の場合であれば、樹脂相互の密着性、初期の粘着力に優れる。アクリル系樹脂(x)のTgは、−40℃以上−10℃以下であることが好ましく、−35℃以上−20℃以下であることがより好ましい。
【0068】
樹脂層(B)は、後述のシリコーン変性アクリル樹脂より製造されることが好ましい。このように製造される樹脂層(B)は、耐候性に優れる。シリコーン変性アクリル樹脂とは、シロキサン結合とアクリル系樹脂が共存している樹脂または樹脂組成物をいい、例えば、シリコーン変性剤(シロキサン化合物)とエチレン性不飽和単量体の共重合体、その一部にシリコーン変性剤が結合したアクリル系樹脂、シリコーン樹脂とアクリル系樹脂の混合物が挙げられる。シリコーン樹脂とは、シロキサン結合を有する高分子化合物をいう。
【0069】
(アクリルエマルジョン)
エチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、エチレン不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、(メタ)アクリルアミド単量体、カルボン酸ビニルエステル単量体、アミノ基含有エチレン性単量体、ハロゲン化ビニル、スルホン酸基含有単量体、リン酸基含有単量体、多官能単量体、その他のビニル単量体等を好適に用いることができる。
【0070】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド単位の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド単位の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0071】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルなどが挙げられる。
【0072】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3−シクロヘキセンオキサイドが好ましい。
【0073】
前記(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールなどが挙げられる。
【0074】
前記(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0075】
前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
前記(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールなどが挙げられる。なお、シリコーン変性アクリルエマルジョンを製造する際にはシリコーン変性剤の加水分解反応および縮合反応を促進させる触媒としても作用するため、これらの群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0076】
本実施の形態では、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の中でも、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体をさらに含むことが、耐久性に優れる樹脂層(B)とすることができるため好ましい。前記シクロアルキル基の水素原子の一部が炭素数1〜6のアルキル基、水酸基で置換されていてもよく、また、環状にエポキシ基が存在していてもよい。シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、炭素数5〜12のシクロアルキル基のエステルが挙げられる。シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例として、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0077】
【化1】

(式中、
6は、水素原子またはメチル基であり、
7は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはシクロドデシル基であり、これらシクロアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基、水酸基またはエポキシ基を置換基として有してもよい。)
【0078】
前記式(4)で表される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3シクロヘキセンオキサイドなどを挙げることができる。その中では、メタクリル酸シクロヘキシルが好ましい。
【0079】
前記シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の含有割合は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の合計質量中、5質量%以上であることが好ましい。5質量%〜99質量%であることがより好ましく、5質量%〜80質量%であることがさらに好ましい。
シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、一種を用いてもよく、それらの二種以上の混合物を用いてもよい。
シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を、エチレン性不飽和単量体中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の全質量に対し5質量%以上含有することにより、耐久性に優れる樹脂層(B)とすることができ、99質量%以下含有することにより、アクリルエマルジョンの成膜性が優れたものとなる。
【0080】
エチレン不飽和カルボン酸単量体としては、例えばアクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルなどを挙げることができ、これらを単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
芳香族ビニル単量体としては、エチルビニルベンゼンの以外の芳香族ビニル単量体が挙げられる。例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、ビニルキシレン、ブロモスチレン、ビニルベンジルクロリド、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン、などを挙げることができ、これらを単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
シアン化ビニル単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどを挙げることができ、これらを単独に、または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、シリコーン変性アクリルエマルジョンを製造する際にはシリコーン変性剤の加水分解反応および縮合反応を促進させる触媒としても作用するため、これらの群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0081】
(メタ)アクリルアミド単量体としては、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドやN−メチル(メタ)アクリルアミドなどのN−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのN,Nジアルキル(メタ)アクリルアミド、グリシジルメタアクリルアミド、N−アルコキシ(メタ)アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などを挙げることができ、これらを単独又に、は2種以上組み合わせて用いることができる。
カルボン酸ビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニルなどを用いることができる。
アミノ基含有エチレン性単量体としては、例えばアミノエチル(メタ)アクリレ−トやジメチルアミノエチル(メタ)アクリレ−トおよび2−ビニルピリジンなどを挙げることができ、これらを単独又に、は2種以上組み合わせて用いることができる。
ハロゲン化ビニルとしては、例えば塩化ビニルや塩化ビニリデンなどを挙げることができ、これらを単独又に、は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0082】
スルホン酸基含有単量体としては、例えばスチレンスルホン酸塩や2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸および(メタ)アリルスルホン酸塩などを挙げることができ、これらを単独又に、は2種以上組み合わせて用いることができる。
リン酸基含有単量体としては、例えばリン酸エチレン(メタ)アクリレ−トやリン酸プロピレン(メタ)アクリレ−トおよび2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェ−トなどを挙げることができ、これらを単独に、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
多官能単量体としては、例えばラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているビニル単量体、架橋性官能基含有ビニル単量体、架橋性官能基含有シランカップリング剤等が挙げられる。
ここで、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているビニル単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ヘキサトリエン、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン酸、フタル酸ジアリル、ジアリルカルビノール、トリアリルイソシアヌレート、多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1−3−ブチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,4−ブチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,5−ペンタジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,6−ヘキサンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、テトラエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ポリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ポリプロピレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルトリ(メタ)アクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラ(メタ)アクリレ−ト、アリル(メタ)アクリレ−ト2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0084】
架橋性官能基含有ビニル単量体としては、例えば、エポキシ基含有単量体(例えばグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジル(メタ)アクリレート)、メチロール基含有単量体(例えばN−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチロール(メタ)アクリルアミド)、アルコキシメチル基含有単量体(例えばN−メトキシメチルアクリルアミド 、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等)、ヒドロキシル基含有単量体等が挙げられる。
【0085】
架橋性官能基含有シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリス−2−メトキシエトキシビニルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
これらのうち、グリシジル(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパントリ(トリ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが耐候性向上の面より好ましい。
【0086】
これらの多官能単量体の使用量は、適切な架橋密度としてラミネート後の接着性や湿熱時の接着性を発揮するという観点から、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.2質量部以上、適切な分子量として初期接着性を発揮するという観点から5.0質量部以下であることが好ましい。
その他のビニル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトンなどが挙げられる。
【0087】
本実施の形態に用いるアクリルエマルジョンを製造する方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、ミニエマルション重合などの重合方法などが挙げられるが、特に限定されるものではない。平均粒子径が10nm〜1μm程度の分散安定性の良好なエマルジョンを安定的に製造する方法としては、乳化重合が好ましい。
乳化重合は、ラジカル重合性単量体であるエチレン性不飽和単量体のラジカル重合を水性媒体中で行うことが好ましく、シリコーン変性アクリルエマルジョンを得る場合には、前記乳化重合に加えてシリコーン変性剤の加水分解・縮合反応による乳化重合を同時に水性媒体中で行うことが好ましい。
【0088】
前記水性媒体としては、主に水が用いられるが、炭素数1〜3の低級アルコールまたはアセトンなどの水に可溶な溶媒を水に添加した媒体を用いることもできる。この際添加する水以外の溶媒の量は重合開始前のプレ乳化液中で20質量%以下となるように添加することが好ましい。水以外の溶媒の量を20質量%以下とすることにより、プレ乳化液の乳化状態が破壊されず、乳化重合が安定に進行する。溶媒として水のみを用いて、乳化重合を行うことがさらに好ましい。
【0089】
本実施の形態では、シリコーン変性アクリルエマルジョンを得る際、乳化重合を行う前のエチレン性不飽和単量体および乳化剤からなるプレ乳化液のpHは、特に限定されるものでないが、pH4.0以下であることが好ましい。pH4.0以下で乳化重合を実施することにより、シリコーン変性剤の縮合反応が速やかに起こり、乳化重合後に縮合反応が進むことを抑制することができる。製品としての貯蔵安定性の観点から、反応系のpHが4.0以下であることが好ましく、pH1.5以上3.0以下であることがより好ましい。
【0090】
また、本実施の形態において、乳化重合を行う際のラジカル開始剤の導入方法に特に制限はない。ラジカル開始剤として過硫酸塩などをあらかじめ反応系に導入してもよい。また、少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体、乳化剤およびラジカル開始剤からなるプレ乳化液を、直接反応系に逐次添加する方法でもよい。また、プレ乳化液とは別に水溶液系などで反応系へ逐次導入することも可能である。
【0091】
本実施の形態において、シリコーン変性アクリルエマルジョンを作製するラジカル重合では、シリコーン変性剤の添加が乳化重合の前に行われても、乳化重合中に行われても、乳化重合の後に行われてもよい。乳化重合中に行われることがより好ましい。また、前記乳化重合において、シリコーン変性剤の加水分解・縮合反応による乳化重合は、エチレン性不飽和単量体のラジカル重合による乳化重合開始と同時であることが特に好ましい。
さらに、シリコーン変性剤の加水分解・縮合反応によるシリコーン樹脂を、アクリル系樹脂を含むアクリルエマルジョンとブレンド配合してもよい。
【0092】
本実施の形態において用いるシリコーン変性剤は、それぞれ、下記式(1)、(2)および(3)で表されるシラン化合物(1)、シラン化合物(2)およびシラン化合物(3)ならびに環状シラン化合物から選ばれる少なくとも一種類を含み、これらの二種類以上による組合せでもよい。
本実施の形態において、積層物を用いたモジュール、例えば、積層物を太陽電池用保護部材として用いた太陽電池モジュールで要求される耐候性能を維持するためには、シラン化合物(2)とシラン化合物(3)との組合せが好ましい。
【0093】
【化2】

(式中、
1は、フェニル基またはシクロヘキシル基であり、
2は、水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基または炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基であり、
3は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基または水酸基から選択され、
mは、0または1である。)
【0094】
【化3】

(式中、
4は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基または水酸基から選択される。)
【0095】
【化4】

(式中、
5は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基または水酸基から選択される。)
【0096】
本実施の形態において、シリコーン変性剤として、シラン化合物(1)を少なくとも一種類含むことは、重合を行った後に、シリコーン樹脂とアクリル系樹脂との共存が円滑となるため好ましい。また、シリコーン変性剤として、シラン化合物(2)を少なくとも一種類含むことは、シリコーン構造の架橋密度を付与するために好ましい。さらに、シリコーン変性剤として、シラン化合物(3)を少なくとも一種および/または環状シラン化合物を含むことは、シリコーン変性剤が形成するシリコーン重合体の架橋密度を低下させることにより、シリコーン変性アクリルエマルジョンを塗膜する際に可撓性を付与することができるため好ましい。
【0097】
本実施の形態において用いる前記シラン化合物(1)の具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトシキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、一種を用いてもよく、またこれらの二種以上を用いてもよい。
シラン化合物(1)としては、フェニルトリメトキシシランが好ましい。
本実施の形態に用いる前記シラン化合物(2)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、一種を用いてもよく、これらの二種以上を用いてもよい。
シラン化合物(2)としては、メチルトリメトキシシランが好ましい。
【0098】
本実施の形態に用いる前記シラン化合物(3)の具体例としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、一種を用いてもよく、これらの二種以上を用いてもよい。
シラン化合物(3)としては、ジメチルジメトキシシランが好ましい。
本実施の形態に用いる前記環状シラン化合物の具体例としては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンなどが挙げられる。これら化合物は、一種を用いてもよく、これらの二種以上を用いてもよい。
【0099】
シリコーン変性剤は、前記シラン化合物(1)、シラン化合物(2)、シラン化合物(3)および環状シラン化合物から選ばれるシリコーン変性剤に加え、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどを含むことができる。
【0100】
また、シリコーン変性剤を添加して、またはシリコーン変性剤を添加せずに、エチレン性不飽和単量体および乳化剤からエマルジョンを作製し、シリコーンエマルジョンを後からブレンド配合してもよい。後からブレンド配合するシリコーンエマルジョンとしては、ジメチルシリコーンエマルジョンの他、フェニル系、直鎖アルキル系、水素系、アミノ系、エポキシ系、メルカプト系シリコーンエマルジョンやシリコーンレジンエマルジョンなどが挙げられる。
【0101】
本実施の形態に用いる樹脂層(B)として、シリコーン変性アクリルエマルジョンを使用して得られる樹脂層を用いる場合は、シリコーン変性剤が加水分解・縮合し、アクリル系樹脂(アクリルエマルジョン粒子)中にシリコーン樹脂(シロキサン結合)が存在しているので、極めて優れた耐候性が達成される。
また、シリコーン変性剤の縮合物の存在は、29Si−NMR(29Si核磁気共鳴スペクトル)、または1H−NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)によって確認することができる。なお、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)では、テトラメチルシランを内部標準として使用するが、29Si−NMR(29Si核磁気共鳴スペクトル)では、内部標準は使用せず、シリコンゴムを測定してその信号を−22ppmとするか、あるいはクロロホルムにテトラメチルシランを溶解した溶液試料の測定値を0ppmとしてそれを外部標準として使用する。
【0102】
例えば、シラン化合物(1)の縮合物は、29Si−NMRのケミカルシフトが−35〜−90ppmにピークを示すので同定することができる。また、シラン化合物(2)の縮合物は、29Si−NMRのケミカルシフトが−40〜−80ppmにピークを示すので同定することができる。さらに、シラン化合物(3)の縮合物は、29Si−NMRのケミカルシフトが−16〜−26ppmにピークを示すので同定することができる。また、環状シラン化合物の縮合物も、その構造に応じた29Si−NMRのケミカルシフトにピークを示すので同定することができる。
【0103】
本実施の形態において、シリコーン変性剤は、エチレン性不飽和単量体の合計質量に対して、好ましくは0.1〜200質量%、より好ましくは0.1〜120質量%、さらに好ましくは0.1〜80質量%、よりさらに好ましくは1〜10質量%で用いられる。
本実施の形態において、アクリル系樹脂(x)のガラス転移温度(Tg)は−5℃以下である。アクリル系樹脂(x)のガラス転移温度は概ね共重合に用いられる単量体の単独重合体のガラス転移温度と共重合組成とによって調整する。ガラス転移温度の低いアクリル酸n−ブチル(約−40℃)やアクリル酸2−エチルヘキシル(約−60℃)を多く用いた場合、共重合樹脂のガラス転移温度は低く、ガラス転移温度の高いメタアクリル酸メチル(約90℃)を用いた場合、共重合樹脂のガラス転移温度は高くなる。
【0104】
本実施の形態において用いられるアクリルエマルジョンは、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して少量の多官能単量体および連鎖移動剤を用いることが好ましい。
連鎖移動剤としては、例えばα−メチルスチレンダイマ−などの核置換α−メチルスチレンの二量体、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン,n−ラウリルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンおよびt−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン、テトラメチルチウラムジスルフィドおよびテトラエチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド、2−エチルヘキシルチオグリコレ−ト、ターピノーレンなどを単独、または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中で、アルカンチオールは連鎖移動速度が大であり、また得られる樹脂の物性バランスが良いので好ましい。これらの連鎖移動剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの連鎖移動剤は単量体に混合して反応系に供給するか、単独で所定の時期に所定量添加される。これらの連鎖移動剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、初期接着性の観点から0.2質量部以上が好ましく、適切な分子量としてラミネート後の接着性や湿熱時の接着性を良好に保つ観点から1.2質量部以下であることが好ましい。
【0105】
本実施の形態において、前記アクリル系樹脂(x)は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、連鎖移動剤0.2〜1.2質量部、および多官能単量体0.2〜5質量部、を含む混合モノマーを重合して得られることが好ましく、連鎖移動剤0.4〜1.0質量部、および多官能単量体0.4〜3質量部、を含む混合モノマーを重合して得られることがより好ましい。
【0106】
本実施の形態において用いる乳化剤には、スルホン酸基(−SO3H)またはスルホネート基(−SO3M)を有するエチレン性不飽和単量体、硫酸エステル基(−OSO3HまたはOSO3M)を有するエチレン性不飽和単量体のうち、少なくともいずれか一つを含むことが、樹脂層(B)の高度な耐水性を達成するために好ましい。
【0107】
本実施の形態に用いるスルホン酸基またはスルホネート基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ遊離のスルホン酸基またはそのアンモニウム塩かアルカリ金属塩である基(アンモニウムスルホネート基またはアルカリ金属スルホネート基)を有する化合物が挙げられる。
スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6または10のアリール基およびコハク酸基からなる群より選ばれる置換基を有する化合物であるか、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩である基に結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物が好ましい。
【0108】
本実施の形態に用いるスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸化合物の具体例として、アリルスルホコハク酸塩である、例えば、下記式(5)〜(8)で表される化合物が挙げられる。
【0109】
【化5】

【0110】
【化6】

【0111】
【化7】

【0112】
【化8】

(式(5)〜(8)中、
8は、水素またはメチル基であり、
9は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜19のアラルキル基である炭化水素基もしくはその一部が水酸基、カルボン酸基で置換された炭化水素基またはポリオキシアルキレンアルキルエーテル基(アルキル部分の炭素数が1〜20およびアルキレン部分の炭素数が2〜4である。)もしくはポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル基(アルキル部分の炭素数が1〜20、アルキレン部分の炭素数が2〜4である。)であり、
Aは、炭素数2〜4のアルキレン基またはアルキレン基の一部の水素が水酸基もしくはカルボン酸基で置換されたアルキレン基であり、
Mは、アンモニウム、ナトリウムまたはカリウムであり、
nは、0〜200の整数である。)
【0113】
前記式(5)および(6)で表される化合物を含む乳化剤として、例えば、エレミノールJS−2、JS−5(登録商標、三洋化成工業株式会社製)などが挙げられ、前記式(7)および(8)を含む乳化剤として、例えば、ラテムルS−120、S−180A、S−180(登録商標、花王株式会社製)などが挙げられる。
また、スルホネート基により一部が置換されたアリール基を有する化合物の具体例として、p−スチレンスルホン酸アンモニウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩などが挙げられる。スルホネート基により一部が置換されたアルキル基を有する化合物の具体例として、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミドのアンモニウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩、アクリル酸スルホアルキルエステルのアンモニウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩、(メタ)アクリル酸スルホアルキルエステルのアンモニウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩などが挙げられる。
【0114】
本実施の形態に用いる硫酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体とは、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基またはそのアンモニウム塩かアルカリ金属塩である基を有する化合物をいう。これらのうち、硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基および炭素数6または10のアリール基からなる群より選ばれる基を有する化合物が好ましい。
【0115】
本実施の形態に用いる硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩である基により一部が置換された炭素数2〜4のアルキルエーテル基または炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の具体例として、下記式(9)〜(11)で表される化合物が挙げられる。
【0116】
【化9】

(式中、
10は、炭素数6〜18のアルキル基、アルケニル基またはアラルキル基であり、
11は、炭素数6〜18のアルキル基、アルケニル基またはアラルキル基であり、
12は、水素またはプロペニル基であり、
Aは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、
Mは、アンモニウム、ナトリウム、カリウムまたはアルカノールアミン残基であり、
nは、1〜200の整数である。)
【0117】
【化10】

(式中、
13は、水素またはメチル基であり、
14は、炭素数8〜24のアルキル基、アルキルフェニル基またはアシル基であり、
Aは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、
Mは、アンモニウム、ナトリウム、カリウムまたはアルカノールアミン残基であり、
lは、0〜50の整数であり、
nは、0〜20の整数である。)
【0118】
【化11】

(式中、
15は、水素またはメチル基であり、
16は、炭素数8〜30のアルキル基であり、
Aは、炭素数2〜4のアルキレン基またはアルキレン基の一部の水素が水酸基もしくはカルボン酸基で置換アルキレン基であり、
Mは、アンモニウム、ナトリウム、カリウムまたはアルカノールアミン残基であり
nは、0〜200の整数である。)
【0119】
前記式(9)で表される化合物として、例えば、アクアロンHS−10(登録商標、第一工業製薬株式会社製)などが挙げられ、前記式(10)で表される化合物として、例えばアデカリアソープSE−1025A、SR−10N、SR−20N(製品名、株式会社ADEKA製)などが挙げられ、前記式(11)で表される化合物として、例えば、アクアロンKH−10、KH−05(登録商標、第一工業製薬株式会社製)などが挙げられる。
【0120】
本実施の形態において、乳化剤として用いられるスルホン酸基、スルホネート基または硫酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体は、エマルジョン中に、エマルジョン粒子にラジカル重合した共重合物として存在するか、未反応物としてエマルジョン粒子へ吸着もしくはエマルジョン水相中に存在するか、または水溶性単量体との共重合物もしくは乳化剤として用いられるエチレン性不飽和単量体どうしの共重合物としてエマルジョン粒子へ吸着またはエマルジョン水相中に存在している。
中でも、エマルジョン粒子にラジカル重合した共重合物の状態で存在する比率を高めることによって、エマルジョンより得られる樹脂層(B)の耐湿性を高度なものとすることができる。
【0121】
乳化剤として用いられるエチレン性不飽和単量体は、エマルジョンより得られる樹脂層(B)の熱分解ガスクロマトグラム質量分析(Py−GC−MS)により、各物質を同定することができる。
本実施の形態において、乳化剤は、エチレン性不飽和単量体の合計質量に対して、好ましくは0.05質量%〜10質量%用いられ、より好ましくは0.1質量%〜5質量%用いられる。
【0122】
本実施の形態において、スルホン酸基、スルホネート基または硫酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体を含む乳化剤以外に、通常の界面活性剤を併用することもできる。前記界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩などのアニオン型界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどの非反応性ノニオン型界面活性剤、アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40(製品名、株式会社ADEKA製)などのα−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレンまたはアクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50(登録商標、第一工業製薬株式会社製)などのポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルなどの反応性ノニオン型界面活性剤といわれる、エチレン性不飽和単量体と共重合可能なノニオン型界面活性剤などを併用することができる。
【0123】
前記界面活性剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体との合計質量に対して、アニオン型界面活性剤については、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下であり、非反応性ノニオン型界面活性剤および反応性ノニオン型界面活性剤については、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。この範囲で前記界面活性剤を使用すると、耐湿性が良好な樹脂層(B)を形成することができる。
本実施の形態において、アクリルエマルジョンおよびシリコーン変性アクリルエマルジョンには、紫外線吸収剤および/または光安定剤が配合されていることが好ましく、そうすることで高耐候性を付与した樹脂層(B)を得ることができる。また、アクリルエマルジョンおよびシリコーン変性アクリルエマルジョンが光安定剤を共重合して得られたものであってもよい。
【0124】
アクリルエマルジョンおよびシリコーン変性アクリルエマルジョンに紫外線吸収剤および/または光安定剤を含有させる方法としては、各エマルジョンに造膜助剤などを混合した後に紫外線吸収剤および/または光安定剤を添加してもよいが、より長期にわたる耐光性および耐久性の発現のためには、紫外線吸収剤および/または光安定剤を乳化重合時に存在させることが好ましい。紫外線吸収剤および/または光安定剤は、エチレン性不飽和単量体との合計質量を基準として、0.1〜20質量%用いることが好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。また、紫外線吸収剤として、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性のもの、光安定剤として、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性のものを用いることもできる。また、紫外線吸収剤と光安定剤を併用すると、その高耐久性エマルジョンを用いて皮膜を形成した際に、皮膜がより耐候性に優れた樹脂層(B)を得ることができる。
【0125】
本実施の形態において用いる紫外線吸収剤として、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、本実施の形態において用いる光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物を用いることが好ましい。耐久性の優れたシリコーン変性アクリルエマルジョンと紫外線吸収能が高いベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系紫外線吸収剤および/または光安定剤とを組み合わせることで、相乗効果により卓越した耐久性を示す。
その中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と光安定剤との組合せがより好ましい。
【0126】
前記ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0127】
ラジカル重合性のベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メタクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−メタクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエチルオキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−ジエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−トリエトキシ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0128】
前記ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、メチル−3−〔3’−tert−ブチル−5’−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4’−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(日本チバガイギー株式会社製、製品名:TINUVIN(登録商標)1130)、イソオクチル−3−〔3’−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5’−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(日本チバガイギー株式会社製、製品名:TINUVIN(登録商標)384)、2−(3’−ドデシル−5’−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(日本チバガイギー株式会社製、製品名:TINUVIN(登録商標)571)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4’−(1’’,1’’,3’’,3’’−テトラメチルブチル)−6’−(2H−ベンゾトリアゾール−2’’−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2’−イル)−4,6−ビス(1’−メチル−1’−フェニルエチル)フェノール(日本チバガイギー株式会社製、製品名:TINUVIN(登録商標)900)などが挙げられる。
【0129】
ラジカル重合性のベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(2’’−メタクリロイルオキシエチル)フェニル)))−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学株式会社製、製品名:RUVA−93)、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(2−メタクリロイルオキシエチル)−3’−tert−ブチルフェニル)))−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(3−メタクリロイルオキシプロピル)−3’−tert−ブチルフェニル)))−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、3−メタクリロイル−2−ヒドロキシプロピル−3−〔3’−(2’’−ベンゾトリアゾリル)−4’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチル〕フェニルプロピオネート(日本チバガイギー株式会社製、製品名:CGL−104)などが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、TINUVIN(登録商標)384が好ましい。
【0130】
前記トリアジン系の紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、TINUVIN400、TINUVIN405、TINUVIN460、TINUVIN477DW、TINUVIN479(登録商標、日本チバガイギー株式会社製)などが挙げられる。
トリアジン系の紫外線吸収剤としては、TINUVIN400が好ましい。
前記光安定剤としては、塩基性が低いものが好ましく、塩基定数(pKb)が8以上のものがより好ましい。
具体的には、ヒンダードアミン系化合物などが挙げられ、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(日本チバガイギー株式会社製、製品名:TINUVIN(登録商標)292)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、TINUVIN123(登録商標、日本チバガイギー株式会社製)などが挙げられる。
【0131】
ラジカル重合性の光安定剤としては、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート(株式会社ADEKA製、製品名:アデカスタブLA82)、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート(株式会社ADEKA製、製品名:アデカスタブLA87)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、2,2,6,6,−テトラメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−シアノ−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレートなどが挙げられる。
光安定剤としては、TINUVIN(登録商標)123が好ましい。
【0132】
本実施の形態において、乳化重合は、重合開始剤を使用し、熱または還元性物質などを用いたラジカル分解により、エチレン性不飽和単量体の付加重合を起こさせることにより行うことができる。
乳化重合のための前記重合開始剤としては、水溶性または油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物などを使用することができる。
【0133】
具体的には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの過酸化物、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾビス化合物を挙げられる。
過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムを用いることが好ましく、これらの重合開始剤は、シリコーン変性アクリルエマルジョンを得る際に、シリコーン変性剤の加水分解反応および縮合反応を促進させるための触媒としても効果がある。
前記重合開始剤の量としては、エチレン性不飽和単量体との合計質量に対して、0.05質量%〜1質量%を通常用いることができる。
【0134】
本実施の形態において、乳化重合反応は常圧下、65〜90℃の反応温度で行うことが好ましいが、単量体などの反応温度における蒸気圧などの特性に合わせ、高圧下でも実施することができる。
本実施の形態において、乳化重合の反応時間としては、導入時間と、導入後の熟成(cooking)時間を合わせた時間となる。導入時間は、各種原料を反応系へ同時に導入する場合は通常数分であり、各種原料を反応系へ逐次導入する場合は、重合による発熱が除熱可能な範囲で反応系へ各種原料を導入するため、最終的に得られるエマルジョン中の重合体濃度によっても異なるが、通常10分以上である。導入後の熟成(cooking)時間としては、少なくとも10分以上であることが好ましい。
前記熟成時間を10分以上とすることにより、各原料を反応させるのに充分な時間となる。また、シリコーン変性アクリルエマルジョンを製造する際には、シリコーン変性剤が加水分解した後に縮合するのに充分な時間とすることができる。
重合速度の促進および70℃以下での低温での重合が望まれるときには、例えば重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリットなどの還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いることが好ましい。さらに、得られるシリコーン変性アクリルエマルジョン中の重合体の分子量を調整するために、ドデシルメルカプタンなどの連鎖移動剤を任意に添加することもできる。
【0135】
本実施の形態に用いるアクリルエマルジョンには、乳化重合終了後、樹脂層(B)とするための成膜時の硬化触媒として、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫、ラウリン酸錫、オクチル酸鉄、オクチル酸鉛、テトラブチルチタネートなどの有機酸の金属塩、n−ヘキシルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンなどのアミン化合物を添加することもできる。
これらの硬化触媒が水溶性でない場合には、その使用に際して、界面活性剤と水を用いてエマルジョン化しておくことが好ましい。
【0136】
本実施の形態に用いるアクリルエマルジョンは、エマルジョンの分散の長期安定を保つため、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類を用いてpH5〜10の範囲に調整することが好ましい。
本実施の形態において、乳化重合終了後に、未反応単量体の揮発性物質、水、アルコールなどを蒸発除去するために濃縮を行うこともできる。
本実施の形態に用いるアクリルエマルジョン等の分散質の平均粒子径は、10〜1,000nmであることが好ましい。
また、得られたエマルジョン中の分散質(固形分)と分散媒としての水性媒体との質量比(分散媒/分散質)とは70/30以下が好ましく、より好ましくは30/70以上65/35以下である。
本実施の形態に用いるアクリルエマルジョンには、造膜助剤、増粘剤、消泡剤、顔料、分散剤、染料、防腐剤などを任意に配合することができる。
【0137】
前記造膜助剤として、具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ブタンジオールイソブチレート、グルタル酸ジイソプロピル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテルなどが挙げられる。これら造膜助剤は、単独で、または任意に併用して配合することができる。
【0138】
(樹脂層(B)の形成方法)
本実施の形態に用いるアクリルエマルジョンから樹脂層(B)を形成する際の方法としては、塗布(コーティング)、フィルム形成等の方法があるが、保護シート(C)の絶縁性を考慮した場合、アクリルエマルジョンを塗布(コーティング)し、乾燥することにより形成する方法が好ましい。
このときの塗布液の濃度は1〜70質量%が好ましく、乾燥は20〜150℃の間で行うことが好ましい。前記各エマルジョンの塗布方法としては、グラビアコート、ワイヤーバーコート、エアナイフコート、ダイコート、リップコート、コンマコートなどの様々な方法により行うことができる。
【0139】
本実施の形態において、樹脂層(B)との接着力を増すために、アクリルエマルジョンの塗布に先立って保護シートの塗布面にコロナ放電処理を行うことが好ましい。
【0140】
(白エナメル塗料)
本実施の形態において、アクリル系樹脂(x)からなる樹脂層(B)は、顔料を含むアクリルエマルジョンであるエナメル塗料を塗布(コーティング)し、乾燥することにより形成されてもよい。顔料としては、とくに限定するものではないが、白顔料が好ましく、酸化亜鉛、鉛白、炭酸カルシウム、リトポン(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混合物)、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉等の無機顔料および、ポリスチレン系共重合体粒子等の有機顔料が使用できる。白エナメル塗料とは、これら白顔料を含むアクリルエマルジョンのことをいい、必要に応じて分散剤、pH調整剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤(有機溶剤)等を含んでいてもよい。造膜助剤としては、上述したものが使用できる。
【0141】
顔料とアクリル系樹脂(x)との配合比率は、塗布乾燥後の塗膜中における質量比で、顔料20〜60質量%、アクリル系樹脂(x)40〜80質量%であることが好ましく、顔料30〜50質量%、アクリル系樹脂(x)50〜70質量%であることがより好ましい。
顔料の質量比率を20質量%以上とすることで塗膜の不透明性が向上し、白顔料の場合には太陽光発電セルの表面から入射した光を効率よく反射させることができる。一方、60質量%以下とすることで、塗膜の成膜性ならびに自然環境化における耐候性が良好となる。
【0142】
耐候性の向上のためには、上述のシリコーン変性アクリルエマルジョンを使用するのが好ましい。
樹脂層(B)には、耐光性の観点から、紫外線吸収剤および/または光安定剤が配合されていることが好ましく、また、アクリルエマルジョンまたは、シリコーン変性アクリルエマルジョンに紫外線吸収剤および/または光安定剤を共重合して得られるものであってもよい。
【0143】
[保護シート(C)]
保護シート(C)としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、本実施の形態の積層物を太陽電池用保護部材として太陽電池モジュールに用いる場合、太陽電池モジュールの最表層に位置するため、耐候性、撥水性、耐汚染性、機械強度をはじめとして、太陽電池モジュールの屋外暴露における長期信頼性を確保するための性能を具備することが好ましい。
保護シート(C)の材料としては、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、環状オレフィン(共)重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる樹脂フィルムや、ガラス基板等が挙げられる。特に、ポリエステル樹脂、およびガラス基板を好ましく用いることができ、それらの中でも、耐候性、強度、およびコストの観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)がより好ましい。中でも、ポリエステル系樹脂もしくはフッ素系樹脂を含有することが好ましい。
【0144】
また、特に耐侯性の良好なフッ素樹脂も好適に用いられる。具体的には、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(TFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂(CTFE)が挙げられる。耐候性の観点からはポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましいが、耐候性および機械的強度の両立をする観点からは四フッ化エチレン−エチレン共重合体が好ましい。また、樹脂封止シート(A)を構成する材料との接着性の改良のために、コロナ処理、プラズマ処理を保護シート(C)に行うことが好ましい。また、機械的強度向上のために、延伸処理が施してあるシート、例えば2軸延伸のポリプロピレンシートを用いることも可能である。
【0145】
保護シート(C)は、太陽光の通過を前提としないため透明性(透光性)は必ずしも要求されない。そこで、太陽電池モジュールの機械的強度を増すために、或いは、温度変化による歪、反りを防止するために、補強板を張り付けてもよい。例えば、鋼板、プラスチック板、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)板等を好ましく使用することができる。
【0146】
また、保護シート(C)は、2層以上からなる多層構造を有していてもよい。多層構造としては、例えば、中央層の両面に、中央層に対して対称の配置となるように同一成分の層が1または2以上積層された構造等が挙げられる。そのような構造を有するものとして、好ましくは、PET/アルミナ蒸着PET/PET、PVF(商品名:テドラー(登録商標))/PET/PVF、PET/AL箔/PET等が挙げられる。
【0147】
保護シート(C)には、耐候性が求められるので、適度な水蒸気バリア性を有することが好ましい。温度40度、湿度90%RHの条件下で測定した保護シート(C)の水蒸気透過率は、好ましくは2.0g/m2/day以下、より好ましくは0.5g/m2/day以下、さらに好ましくは0.1g/m2/day以下、特に好ましくは0.00001g/m2/day以下であり、最も好ましくは0g/m2/dayである。本実施の形態において、保護シート(C)の水蒸気透過率は、JIS−K−7129に準じた水蒸気透過率測定により得られる値である。
【0148】
上記の水蒸気透過率を達成するために、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。本実施の形態に用いる保護シート(C)は、蒸着層および/または水蒸気バリア層を含み、前記蒸着層が、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、無機物粒子および無機酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含む層であり、前記水蒸気バリア層が、コーティング層、アルミ箔およびPETフィルムからなる群より選択される少なくとも1種を含む層であることが好ましい。
【0149】
[積層物の製造方法]
上述したように、樹脂封止シート(A)、樹脂層(B)、保護シート(C)の積層方法は、特に制限なく、ドライラミネート法、押出ラミネート法、サンドラミネート法、ウェットラミネート法等の公知の方法を用いることができる。
樹脂層(B)がエマルジョンより形成される場合、ドライラミネート法による積層物の製造がより好ましい。ドライラミネート法を用いることにより、エマルジョンより樹脂層(B)の形成を簡便に制御することができ、且つ、その接着力を充分に利用することが可能となる。保護シート(C)へ予め、コロナ処理を行い、そこへ樹脂層(B)を形成し、乾燥させ、樹脂封止シート(A)を圧着させ、本実施の形態の積層物を製造することができる。エマルジョンより樹脂層(B)の接着層を形成した場合、従来のウレタン系接着剤等を用いたドライラミネートで接着させた場合に必要となるエイジングの時間は不要となるメリットがある。
【0150】
[太陽電池モジュール作製方法]
本実施の形態の太陽電池モジュールは、積層物を太陽電池用保護部材として用いる。
本実施の形態の積層物を太陽電池発電素子の保護部材として用いる場合、シリコン結晶系、薄膜系等の公知の太陽電池保護部材として用いることができる。モジュール作製時の真空ラミネート条件は、樹脂封止シートや発電素子等に必要な温度および時間を考慮したラミネート条件とすることが可能である。また、シリコン結晶系太陽電池の場合、受光面側のガラスや樹脂等の透明保護部材の大きさ、または、薄膜系太陽電池の場合、発電素子を蒸着したガラス等の大きさと同サイズあるいは小サイズ、大サイズのいずれでも、ラミネートすることが可能である。樹脂封止シートをあらかじめ架橋した本実施の形態の積層物を用いて、モジュールを作製する場合、同サイズが作業性向上のため、より好ましい。
【0151】
[積層物の用途]
本実施の形態の積層物は、太陽電池を構成する発電素子等の部材を保護するための部材として特に有効である。すなわち、耐クリープ特性に優れ、かつ被封止物との接着性が良好であり、用途に応じて樹脂層(B)の組成を変化させたり、樹脂封止シート(A)の接着成分を変化させることで、接着性の制御を行うことができる。本実施の形態の積層物を用いることにより、太陽電池用ガラス自身や各種配線、発電素子等、凹凸を有している各種部材を確実に隙間なく封止できる。
また、本実施の形態の積層物は、太陽電池用の封止シートとして使用できる他、LEDの封緘等にも使用することができる。
【0152】
なお、上述した各パラメータについては特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0153】
以下、本実施の形態について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1〜35ならびに比較例2および3においては、保護シートが樹脂層を介して樹脂封止シートに積層された積層物を作製した。
実施例および比較例における各物性の測定方法および評価方法ならびに各材料は以下の通りとした。
【0154】
<ゲル分率>
下記に示す製造方法により作製した樹脂封止シートのゲル分率を以下のとおり求めた。
沸騰p−キシレン中で、上記樹脂封止シートを12時間抽出し、不溶解部分の割合を、全層ゲル分率として下記式により求めた。当該ゲル分率は、樹脂封止シートの架橋度の尺度として評価した。
ゲル分率(質量%)=(抽出後の試料質量/抽出前の試料質量)×100
被封止物と接する層のゲル分率については、被封止物と接する層と同じ樹脂および同じ厚さのシートを作製し、このシートに電子線照射処理を施して、前記方法でゲル分率を算出した。
【0155】
<照射処理>
樹脂封止シートに電子線処理をEPS−300もしくはEPS−800の電子線照射装置(日新ハイボルテージ社製)を用いて、所定の加速電圧、照射密度で処理した。
【0156】
<密度>
樹脂封止シート(A)の原材料の密度をJIS―K−7112に準拠して測定した。
<MFR>
樹脂封止シート(A)の原材料のメルトフローレート(MFR)をJIS―K−7210に準拠して測定した。
【0157】
<融点>
樹脂封止シート(A)の原材料の融点を以下のとおり測定した。
ティーエイインスツルメント社製の示差走査熱良計「MDSC2920型」を使用し、樹脂約5mgを0℃から200℃まで20℃/分の速度で昇温させ、200℃で5分間溶融保持した後に−50℃以下まで20℃/分の速度で降温させ、次いで0℃から200℃まで20℃/分で昇温させた際に得られる融解に伴う吸熱ピークの温度を融点とした。
【0158】
<発電素子隙間埋め性評価>
実施例および比較例で作製した太陽電池サンプル(I)について、発電素子分の結晶シリコンセルと樹脂封止シートとの接触状況(隙間埋め性)を目視にて確認した。
(隙間埋め性の評価基準)
◎:セルの周り等に隙間やうきがなく封止されていた。
×:セルの周り等に隙間が観察された。
【0159】
<ラミネート装置の汚れ性評価>
実施例および比較例で作製した太陽電池サンプル(I)について、その製造時に、太陽電池用ガラス板と保護シートとの隙間から流出する積層物の様子を目視で観察し、ラミネート装置の汚れ性として評価した。
(ラミネート装置の汚れ性の評価基準)
◎:積層物の流出が観察されなかった(極めて良好)。
○:積層物の流出が観察されたが、太陽電池用ガラス板の周辺長さに対する流出幅の割合が50%以下であった(良好)。
×:積層物の流出が観察され、太陽電池用ガラス板の周辺長さに対する流出幅の割合が50%を超えた(不良)。
【0160】
<樹脂封止シートと保護シートとの剥離強度(モジュール化前)>
評価用として、作製した積層物を幅10mmの短冊に切り、一部分の樹脂封止シートと保護シートとを剥離し、短冊状のサンプルをT型剥離方法にて100mm/minの速度で引っ張り、そのときの剥離強度を測定した。当該測定を3度行い、その平均値を以下の4段階で評価した。
(剥離強度の評価基準)
◎:5N以上(極めて良好)
○:2N以上5N未満(大変良好)
△:0Nを超えて2N未満(良好)
×:全く接着しない(不良)
【0161】
<樹脂封止シートと保護シートとの剥離強度(モジュール化後)>
実施例および比較例で作製した評価用のサンプル(II)について、保護シート側より、幅10mmに切り込みを入れ、一部分を樹脂封止シートより剥離し、短冊状のサンプルを180度方向に100mm/minの速度で引っ張り、そのときの剥離強度を測定した。当該測定を3度行い、その平均値を以下の4段階で評価した。
(剥離強度の評価基準)
◎:5N以上(極めて良好)
○:3N以上5N未満(大変良好)
△:2N以上3N未満(良好)
×:2N未満、または自然に剥離する(不良)
【0162】
<耐候性試験>
実施例および比較例で作製した積層物、およびサンプル(II)を、85℃、85%RHにて1000時間保存した。1000時間後の樹脂封止シートと保護シートとの剥離強度を、上記と同様にして測定した。積層物はT型、サンプル(II)は180度方向で、それぞれ10mm幅のサンプルを、100mm/minの速度で引っ張り、その剥離強度を測定した。また、当該剥離試験後のサンプルの外観変化の観察を行い、下記3段階にて評価を行った。
(剥離強度の変化の評価基準)
◎:保存前と保存後との剥離強度の変化が20%未満(極めて良好)
○:保存前と保存後との剥離強度の変化が20%以上30%未満(良好)
×:保存前と保存後との剥離強度の変化が30%以上(不良)
(外観変化の評価基準)
◎:まったく外観上の変化なし(極めて良好)
○:ほとんど外観上変化なし(良好)
×:外観上変化あり(部分剥離や黄変、気泡による外観不良)
<ガラス転移温度(Tg)>
アクリルエマルジョンをガラス板上に流延し、90℃、30分で加熱乾燥して皮膜を形成させた。次いで得られた皮膜をTg測定容器に入れ、蓋をし、示差走査熱量計(セイコ−電子社製)にセットして昇温速度10℃/分で測定することにより、アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を求めた。
実施例および比較例において用いた各材料は以下の通りである。
【0163】
<樹脂封止シート(A)の原材料>
(1)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)
アルケマ社製 EVATANE 28−05
東ソー社製 ウルトラセン751
(2)エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体
住友化学社製 ボンドファスト7B(BF7B)
(3)線状超低密度ポリエチレン
ダウ ケミカル社製 AFFINITY KC8852(KC8852)
ダウ ケミカル社製 AFFINITY PF1140G(PF1140)
ダウ ケミカル社製 ENGAGE 8200(EG8200)
(4)オレフィン系ブロックコポリマー
ダウ ケミカル社製 INFUSE 9107
なお、上記(1)〜(4)における各原材料の物性を表16に示す。
【0164】
(5)有機過酸化物
2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(アルケマ吉富社製 ルペロックス 101)
(6)シランカップリング剤
3−メタクロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製 KBM−503)
【0165】
<透過性絶縁板>
AGC社製 太陽電池用ガラス板
<保護シート(C)>
表9に示す保護シートαおよびβ(エムエーパッケージング社製)
<太陽電池セル>
E−TON社製 結晶性シリコンセル
<樹脂層(B)の原材料(アクリル系樹脂(x)を含むエマルジョン)>
下記[製造例1]〜[製造例23]に示す方法で作製されたアクリル系樹脂(x)を含むエマルジョン(アクリルエマルジョン)
また、当該アクリルエマルジョンの原材料は、以下のとおりとした。
メタクリル酸メチル(MMA)
アクリル酸ブチル(BA)
アクリル酸−2−エチルヘキシル(2−EHA)
メタクリル酸(MAA)
アクリル酸(AA)
メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(2−HEMA)
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(AcSiO)
メチルトリメトキシシラン(Me−Si−(OMe)3)
ジメチルジメトキシシラン(Me2−Si−(OMe)2)
n−ドデシルメルカプタン(n−DDM)
t−ドデシルメルカプタン(t−DDM)
トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT)
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(A−TMMT)
【0166】
<樹脂封止シートの製造>
以下、実施例および比較例に用いた樹脂封止シートの製造方法について示す。
上記樹脂封止シートの原材料(表16に各物性について示す)を用いて表1〜3に示す構成および条件で、樹脂封止シートa〜mを製造した。
各樹脂封止シートの製造には3台の押出機(表層押出機、内層押出機)を使用した。各押出機に表1〜3に示す原材料を導入し、当該押出機に接続された環状ダイから樹脂をチューブ上に溶融押出することによりチューブを形成した。溶融押出にて形成されたチューブを空冷することにより樹脂封止シートa〜mを得た。有機過酸化物およびシランカップリング剤を導入するにあたっては、導入する原材料にあらかじめ5質量%程度の濃度で混練してマスターバッチ化し、配合したい量に希釈して使用した。なお、表中、層比率は、樹脂封止シート全体の厚さを100とした場合の各層の厚さの比を示す。
樹脂封止シートa〜fに対しては表1、樹脂封止シートhに対しては表2、樹脂封止シートjおよびkに対しては表3に示される照射条件に従い、電子線架橋処理を行った。得られた各樹脂封止シートについてゲル分率の評価を上記のとおり行った。樹脂封止シートg、iに対しては、有機過酸化物を配合することにより真空ラミネート中に架橋処理を行った。樹脂封止シートl、mに対しては、架橋処理を行わなかった。
【0167】
【表1】

【0168】
【表2】

【0169】
【表3】

【0170】
<アクリルエマルジョンの製造>
[製造例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水64部と「アクアロンKH−10」(登録商標、第一工業製薬株式会社製、25%水溶液)0.25部とを投入した。さらに、反応容器温度を80℃に保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を0.15部、前記反応容器に添加した。
添加した5分後に、以下のとおり作製した乳化液を、滴下槽から前記反応容器に150分かけて滴下した。
乳化液の作製:
メタクリル酸メチル(MMA)24部、アクリル酸ブチル(BA)34部、アクリル酸−2−エチルヘキシル(2−EHA)37.5部、メタクリル酸(MAA)1部、アクリル酸(AA)1.5部、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(2−HEMA)2部、トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT)0.7部、n−ドデシルメルカプタン(nDDM)0.7部、「アクアロンKH−10」(登録商標、第一工業製薬株式会社製、25%水溶液)1.5部、過硫酸アンモニウム0.15部、および水69部を、ホモミキサーにより6000rpmで5分間混合して乳化液を作製した。〕
乳化液滴下終了後、反応容器温度を80℃に保ったまま60分維持し、その後室温まで冷却した。次に、前記反応容器に25%アンモニア水溶液を添加してpH8.0に調整し、さらに水を加え、固形分含有率40質量%に調整し、アクリルエマルジョン〔1〕を得た。また、得られたアクリルエマルジョン〔1〕中のアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を上記のとおり測定した。当該測定結果を表4に示した。
【0171】
[製造例2〜13、17〜21]
表4、表5、表7および表8に示した原材料の種類と使用量としたこと以外は、[製造例1]と同様にして、各アクリルエマルジョン〔2〕〜〔13〕および〔17〕〜〔21〕を得た。
ただし表中t−DDMはt−ドデシルメルカプタンを、A−TMMTはペンタエリスリトールテトラアクリレートを指す。また、得られたアクリルエマルジョン〔2〕〜〔13〕および〔17〕〜〔21〕中のアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を上記のとおり測定した。当該測定結果を表4、表5、表7および表8に示した。
【0172】
[製造例14]
撹拌機、還流冷却器、2つの滴下槽および温度計を取りつけた反応容器に、水50.8部と「アクアロンKH−10」(登録商標、第一工業製薬株式会社製、25%水溶液)1部を投入した。さらに、反応容器温度を80℃に保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を0.15部、前記反応容器に添加した。
添加した5分後に、以下のとおり作製した乳化液および混合液を別々の滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
乳化液の作製:
メタクリル酸メチル(MMA)24部、アクリル酸ブチル(BA)34部、アクリル酸−2−エチルヘキシル(2−EHA)37.5部、メタクリル酸(MAA)1部、アクリル酸(AA)1.5部、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(2−HEMA)2部、「アクアロンKH−10」(登録商標、第一工業製薬株式会社製、25%水溶液)1.5部、過硫酸アンモニウム0.15部および水69部をホモミキサーにより6000rpmで5分間混合して乳化液を作製した。〕
混合液の作製:
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(AcSiO)0.3部、メチルトリメトキシシラン(Me−Si−(OMe)3)13.6部およびジメチルジメトキシシラン(Me2−Si−(OMe)2)5.4部を混合して混合液を得た。〕
原材料の滴下終了後、反応容器温度を80℃に保ったまま60分維持した。次いで、反応容器温度を80℃に保ったまま、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)0.6部を添加し、さらに90分間維持し、室温まで冷却した。その後、ロータリーエバポレーターにて、系中のメタノールおよび余剰のアンモニアを減圧除去し、最後に水を加えて固形分含有率40質量%に調整し、pH8.5のシリコーン変性アクリルエマルジョン〔14〕を得た。また、得られたシリコーン変性アクリルエマルジョン〔14〕中のアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を上記のとおり測定した。当該測定結果を表5に示した。
【0173】
[製造例15および16]
表6に示したシランモノマー量としたこと以外は、[製造例14]と同様にして、各シリコーン変性アクリルエマルジョン〔15〕および〔16〕を得た。また、シリコーン変性アクリルエマルジョン〔15〕および〔16〕中のアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を上記のとおり測定した。当該測定結果を表6に示した。
【0174】
【表4】

【0175】
【表5】

【0176】
【表6】

【0177】
【表7】

【0178】
【表8】

【0179】
[製造例22]
(白エナメル塗料の作製)
[製造例1]で得られたアクリルエマルジョン〔1〕175部、酸化チタン30部およびヒンダードアミン系光安定剤(「TINUVIN292」)2部を混合して混合物を得た。さらに当該混合物に水を加え固形分含有率を40質量%に調整し、白エナメル塗料を作製した。
【0180】
[実施例1]
<積層物の製造>
コロナ処理を施した保護シートα表面に、上記製造例1で得られたアクリルエマルジョン〔1〕をダイコーターで塗布して樹脂層(B)を形成した。形成された樹脂層(B)上に、ドライラミネート法により、上記で得られた樹脂封止シートaを積層させ、積層物を製造した。製造した積層物について、上記のとおり各評価を行った。当該評価結果を表10に示す。
なお、使用した保護シートの詳細を表9に示す。また、前記ドライラミネートの条件として、樹脂層(B)塗布後、80℃で1分間程度乾燥させ、樹脂層(B)の厚みが10μmになるようにコーティングする条件とした。なお、圧着後のエイジング、乾燥等の処理は行わなかった。
【0181】
<太陽電池モジュール(サンプル(I))の作製および評価>
得られた積層物を用いて、表10に示す各条件に従って、以下のとおり太陽電池モジュール(サンプル(I))を作製した。
太陽電池用ガラス板(AGC社製白板ガラス15cm×15cm:厚さ3.2mm)/樹脂封止シートa/発電セル(多結晶シリコンセル:厚さ200μm)/作製した積層物(樹脂封止シート/樹脂層/保護シート)の順に積層し、LM50型真空ラミネート装置(NPC社製)を用いて、90Pa、150℃、15分間の条件で真空ラミネートすることで太陽電池サンプル(I)を作製した。作製した太陽電池サンプル(I)について、上記のとおり各評価を行った。当該評価結果を表10に示す。
【0182】
<評価用のサンプル(II)の作製および評価>
得られた積層物を用いて、表10に示す各条件に従って、以下のとおり評価用のサンプル(II)を作製した。
太陽電池用ガラス板(AGC社製白板ガラス5cm×10cm:厚さ3.2mm)/作製した積層物(樹脂封止シート/樹脂層/保護シート)の順に積層し、LM50真空型ラミネート装置(NPC社)を用いて、90Pa、150℃、15分間の条件で真空ラミネートすることで評価用のサンプル(II)を作製した。作製した評価用のサンプル(II)について、上記のとおり各評価を行った。当該評価結果を表10に示す。
【0183】
[実施例2〜35]
積層物の構成を表10〜14に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして積層物を製造し、得られた積層物について各評価を行った。当該評価結果を表10〜14に示す。
また、得られた積層物を用いて、表10〜14に示す構成および条件とした以外は、実施例1と同様にして、太陽電池モジュール(サンプル(I))および評価用サンプル(II)を作製し、得られた太陽電池モジュール(サンプル(I))および評価用サンプル(II)について、各評価試験を行った。当該評価結果を表10〜14に示す。
【0184】
[比較例1]
比較例1では、従来のモジュール作製方法を使用してサンプルを作製した。具体的には、アクリル系樹脂を含む樹脂層を介さないで、表2に示す樹脂封止シートiを、直接、保護シートαを積層させて以下のとおり太陽電池モジュール(サンプル(I))を作製した。
受光面側より太陽電池用ガラス板(AGC社製白板ガラス15cm×15cm:厚さ3.2mm)、樹脂封止シートi、発電セル(多結晶シリコンセル:厚さ200μm)、樹脂封止シートi、保護シートαの順に積層させ、LM50型真空ラミネート装置(NPC社製)を用いて、90Pa、150℃、15分間の条件で真空ラミネートすることで太陽電池サンプル(I)を作製した。作製した太陽電池サンプル(I)を用いて、上述した各評価試験を行った。評価結果を表15に示す。
また、得られた積層物を用いて、表15に示す各条件に従って、以下のとおり評価用のサンプル(II)を作製した。
太陽電池用ガラス板(AGC社製白板ガラス5cm×10cm:厚さ3.2mm)/樹脂封止シートi/保護シートαの順に積層し、LM50真空型ラミネート装置(NPC社)を用いて、90Pa、150℃、15分間の条件で真空ラミネートすることで評価用のサンプル(II)を作製した。作製した評価用のサンプル(II)について、上記のとおり各評価を行った。当該評価結果を表15に示す。
【0185】
[比較例2および3]
比較例2および比較例3では、表2に示す樹脂封止シートiを用いて、製造例20および21で製造したアクリルエマルジョン〔20〕および〔21〕を用いた以外は実施例1と同様にして、表15に示す条件にて、樹脂封止シートと保護シートとの積層物を得た。
また、得られた積層物を用いて、表15に示す構成および条件とした以外は、実施例1と同様にして、太陽電池モジュール(サンプル(I))および評価用サンプル(II)を作製し、得られた太陽電池モジュール(サンプル(I))および評価用サンプル(II)について、各評価試験を行った。当該評価結果を表15に示す。
【0186】
【表9】

【0187】
【表10】

【0188】
【表11】

【0189】
【表12】

【0190】
【表13】

【0191】
【表14】

【0192】
【表15】

【0193】
【表16】

【0194】
本実施の形態の積層物を用いてモジュールを作製した場合、モジュール作製のラミネート前のガラス、樹脂封止シート、セル等の各部材を重ね合わせる作業の煩雑さが減少し、作業性よくモジュール作製を行うことが可能であった。さらに、樹脂封止シートと保護シートとが一体化されていることにより、モジュール作製のラミネートの際、樹脂封止シートと保護シートとがずれることが少なくなり、セル割れなくモジュールの作製ができた。
架橋処理されている樹脂封止シートa〜kを用いた場合、および熱可塑性エラストマーの樹脂封止シートlを用いた場合でも、Tgが−5℃以下のアクリル系樹脂を含む樹脂層により保護シートと積層されているため、架橋処理されていない樹脂封止シートmの場合よりも耐候性のある接着を示した。
【0195】
樹脂封止シートが電離性放射線により架橋処理され、有機過酸化物やシランカップリング剤を用いずに、接着性樹脂(BF7B)を用いている場合(樹脂封止シートa〜f)、積層物作製におけるラミネートの作業性が優れていた。積層物作製のラミネート時に樹脂封止シートが架橋されているため、ラミネートを行う機械のロールに樹脂封止シートが溶融し巻き込まれることがなく、積層物作製のラミネートの操業性に優れていた。さらに、積層物作製のラミネート時に加熱されても、有機過酸化物やシランカップリング剤が含まれていないため、それらが失活することもなく、樹脂封止シートの接着性等の性能がモジュール化後も充分に維持された。
【0196】
実施例1から実施例35では、本実施の形態の積層物を用いてモジュールを作製したので、あらかじめ、保護シートと樹脂封止シートとが一体化していた。したがって、積層工程の煩雑さが減少し、かつセル割れの発生率も下がった。この結果、保護シートと樹脂封止シートとを各々積層させてモジュールを作製する比較例1の場合よりも、生産性が向上した。
実施例1から実施例35と、比較例2および比較例3との評価結果(表10から表15)より、ガラス転移点が−5℃以下のアクリル系樹脂を用いると、積層物およびモジュール作製後の保護シートと封止樹脂シートとの間の初期接着力が強力であり、かつ耐候性も充分にあったことがわかる。また、実施例20、実施例21、実施例22を対比し、ガラス転移温度がより低いアクリル系樹脂を含む樹脂層(B)を用いた方が、接着性がより良好となったことがわかる。
【0197】
実施例8、実施例9および実施例13から実施例16と、実施例1から実施例7、実施例10から実施例12、実施例17から実施例19、および実施例21から実施例35とを対比すると、後者の方が積層物の初期接着力が強かった。これは、後者の積層物で用いた樹脂層(B)におけるアクリル系樹脂が、Tg−5℃以下であり、かつ、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、連鎖移動剤0.2〜1.2質量部、多官能単量体0.2〜5質量部、からなる混合モノマーを重合したものであったためであると考えられる。
【0198】
実施例1から実施例33および実施例35と、実施例34とを対比した評価結果(表10から表15)より、架橋処理を行った樹脂シートおよび熱可塑性エラストマーである樹脂を用いた樹脂封止シート(aからl)を用いた積層物の場合では、架橋処理されていない樹脂封止シート(m)を用いた積層物の場合よりも耐候性のある接着を示した。架橋処理により樹脂封止シートの剛性があがるため、通常、剛性のある保護シートとの接着性が悪くなると考えられるが、熱履歴にも耐え得る樹脂層(B)があることにより、接着性が向上したと考えられる。
【0199】
さらに、実施例1から実施例27、実施例29、実施例31、実施例32および実施例35と、実施例28、実施例30、実施例33、実施例34および比較例1から比較例3とを対比した評価結果(表10から表15)より、予め架橋処理を行った樹脂封止シート(aからf、h、j、およびk)を用いた場合では、モジュール作製の真空ラミネート時に、樹脂がラミネーターに付着しなかった。また、接着力のあるアクリル系樹脂からなる樹脂層により作製した積層物では、架橋構造を有していない樹脂封止シートを用いた場合においても、真空ラミネート装置の汚れは少なかった。
【0200】
実施例1から実施例27および実施例29、実施例31、実施例32、および実施例35と、実施例28、実施例30、実施例33および比較例1から比較例3とを対比した評価結果(表10から表15)より、ゲル分率が0.1から65%である樹脂封止シート(aからf、h、j、およびk)を用いた場合では、モジュール作製のラミネート前に架橋処理されていない樹脂封止シートを用いた場合と同様に、ガラスの隙間埋め性がよくかつ、セルの割れがなくモジュール化を行うことが可能であったことがわかる。
【0201】
実施例1から実施例27および実施例29、実施例31、実施例32から実施例33、および実施例35と、実施例28、実施例30、実施例33および比較例1から比較例3とを対比した評価結果(表10から表15)より、電離性放射線により架橋処理を行った樹脂封止シートおよび熱可塑性エラストマーを用いた樹脂封止シート(aからf、h、j、およびk、l)を用いた場合では、積層物作製のドライラミネート時に樹脂封止シートが溶融し、ロールに付着することがなく、操業性に優れていた。また、モジュール作製においても、隙間埋め性があり、問題なくモジュールの作製を行うことができた。さらに、電離性放射線により架橋処理を行った樹脂封止シートでは、電離性放射線による架橋処理により、アクリル系樹脂含む樹脂層との接着安定性が向上したと考えられる。
【0202】
実施例1から実施例28、実施例31、および実施例32と、実施例29、実施例30、実施例33から実施例35および比較例1から比較例3とを対比した評価結果(表10から表15)より、接着性樹脂(BF7B)を含有する樹脂封止シート(aからg、j、k)を用いた場合では、モジュール作製後も安定した接着性が観察された。これは、樹脂封止シートに熱で分解されるシランカップリング剤が含まれず、グリシジルメタクリレートとアクリル系樹脂との相溶性がよいためであると考えられる。
実施例1から実施例27、実施例32、および実施例35と、実施例28から実施例31、実施例33および比較例1から比較例3を対比した評価結果(表10から表15)より、樹脂封止シートが電離性放射線により架橋され、かつ接着性樹脂(BF7B)を含有している場合(aからf、k)、得られたモジュールは、耐候性がよかった。耐候性がよかった原因は、樹脂封止シートへ架橋処理を行うことにより、積層物を作製するラミネート時の樹脂封止シートの変形や劣化が抑制されるためだと考えられる。
【0203】
実施例35と、実施例1から実施例34との対比より、樹脂層(B)が白色である場合でも、充分な接着性を示した。
また、表10から表15にある評価結果より、積層物がサンプルのガラスと、同サイズであっても、大サイズまたは小サイズのいずれであっても、本実施の形態の積層物を用いることにより、作業性よく、良好な太陽電池の作製が可能であることがわかった。また、保護シートの素材等が異なる場合でも、積層物の作製、良好な太陽電池の作製が共に行うことができる。
【0204】
以上の結果より明らかなように、本実施の形態の積層物は、樹脂封止シート、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂を含む樹脂層、および保護シートを、この順に積層することにより、モジュール作製時に、樹脂封止シートと保護シートとがずれて積層されることなく、隙間埋め性、耐クリープ性が良好であり、かつ樹脂封止シートと保護シートとの接着性も充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明の積層物は、太陽電池を構成する発電素子等の部材を保護するための封止シートとしての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂封止シート(A)、ガラス転移温度(Tg)が−5℃以下のアクリル系樹脂(x)からなる樹脂層(B)、および保護シート(C)を、この順に積層した積層物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂(x)が、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、連鎖移動剤0.2〜1.2質量部、および多官能単量体0.2〜5質量部、を含む混合モノマーを重合して得られる、請求項1に記載の積層物。
【請求項3】
前記樹脂層(B)が、前記アクリル系樹脂(x)を含むエマルジョンを塗布し、乾燥することにより形成される、請求項1又は2に記載の積層物。
【請求項4】
前記エマルジョンが、更に白顔料を含む白エナメル塗料である、請求項3に記載の積層物。
【請求項5】
前記樹脂封止シート(A)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類の樹脂を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項6】
前記樹脂封止シート(A)のゲル分率が0.1〜65質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項7】
前記樹脂封止シート(A)が架橋構造を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項8】
前記架橋構造が、電離性放射線照射により形成されている、請求項7に記載の積層物。
【請求項9】
前記樹脂封止シート(A)が接着性樹脂(シランカップリング剤を除く)を含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項10】
前記保護シート(C)が、ポリエステル系樹脂もしくはフッ素系樹脂を含有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項11】
40℃、90%RHの条件下で測定した前記保護シート(C)の水蒸気透過率が、2.0g/m2/day以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項12】
前記保護シート(C)が、蒸着層および/または水蒸気バリア層を含み、
前記蒸着層が、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、無機物粒子および無機酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含む層であり、
前記水蒸気バリア層が、コーティング層、アルミ箔およびPETフィルムからなる群より選択される少なくとも1種を含む層である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項13】
前記樹脂封止シート(A)、前記樹脂層(B)、および前記保護シート(C)を、ドライラミネート法により積層した、請求項1〜12のいずれか一項に記載の積層物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の積層物を太陽電池用保護部材として用いた太陽電池モジュール。

【公開番号】特開2012−71420(P2012−71420A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215875(P2010−215875)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】