説明

積層造形装置及び積層造形方法

【課題】レーザ光による焼結又は硬化に要する時間を短縮することができる積層造形装置を提供するものである。
【解決手段】レーザ光源23と、レーザ光源23から出射したレーザ光を走査するミラー21a、21bと、レーザ光源23の点灯及び消灯を制御し、かつミラー21a、21bの角度を制御する制御装置25とを有し、レーザ光を走査しつつ材料の薄層の特定領域にレーザ光を照射して材料の薄層を焼結又は硬化させ、該焼結又は硬化した薄層を繰り返し積層して3次元造形物を作製する積層造形装置であって、制御装置25は、一方向にレーザ光を移動させつつ材料の薄層に照射した後、レーザ光を点灯したまま一方向に対して角度をつけて折り返し、さらに折り返しの方向にレーザ光を移動させつつ材料の薄層に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置及び積層造形方法に関し、より詳しくは、造形テーブル上に複数の焼結薄層を積層して3次元造形物を作製する積層造形装置及び積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能試験用試作部品や少量多品種の製品に使用される部品等を造形することができる積層造形装置への要望が増えてきつつある。
【0003】
この要求を満たすものとして、粉末材料をレーザ光で焼結することにより3次元の造形品を作製することのできる粉末焼結積層造形装置や、紫外線硬化樹脂をレーザ光で硬化させることにより3次元の造形品を作製することのできる光造形装置などがあり、さまざまな用途で使用されている。いずれの場合も、造形領域に材料の薄層を形成し、その薄層をレーザ光により選択的に加熱し造形物を作製する。
【0004】
従来市販されている粉末焼結積層造形装置は、レーザ光を出射し、走査するレーザ光出射部と、造形テーブル上に粉末材料の薄層を形成し、その薄層をレーザ光により選択的に加熱し造形物を作製する造形部と、レーザ光出射部と造形部を制御する制御装置とから構成されている。
【0005】
そのような粉末焼結積層造形装置では、制御装置によりレーザ光出射部と造形部を制御して、作成すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき、薄層ごとにレーザ光を数多く繰り返し走査して特定領域だけを選択的に焼結し、これを数百層或いは数千層にわたって積層して3次元造形物を作成する。
【0006】
このような積層造形装置として、下記特許文献に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2620353号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献の積層造形装置では、レーザ光の照射において一つの走査の終点から次の走査の始点に移るときに、一つの走査の終点(特定領域の一方の境界)でレーザ光を消灯し、折り返して次の走査の始点(特定領域の対向する境界)に移動する方式を採用している。その方式の場合、一つの走査の終点から次の走査の始点に移るときに焼結などを行っていないため、それに要する時間が無駄な時間としてカウントされ、さらに、ミラーを折り返すときに生じるミラーの動作の遅延が無駄な時間としてカウントされる。また、レーザ光源を点滅させているため、レーザ光源を点灯するたびにレーザ光源の動作の遅延が生じ、これも無駄な時間としてカウントされる。
【0009】
したがって、薄層一層の焼結でも相当に無駄な時間が生じるが、これを数百層或いは数千層にわたって行うと、膨大な無駄な時間が生じることになる。
【0010】
本発明は、上述の問題点に鑑みて創作されたものであり、レーザ光による焼結又は硬化に要する時間を短縮することができる積層造形装置及び積層造形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一観点によれば、レーザ光源と、前記レーザ光源から出射したレーザ光を走査するミラーと、前記レーザ光源の点灯及び消灯を制御し、かつ前記ミラーの角度を制御する制御装置とを有し、前記レーザ光を走査しつつ材料の薄層の特定領域に前記レーザ光を照射して前記材料の薄層を焼結又は硬化させ、該焼結又は硬化した薄層を繰り返し積層して3次元造形物を作製する積層造形装置であって、前記制御装置は、一方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射した後、前記レーザ光を点灯したまま前記一方向に対して角度をつけて反対の方向に折り返し、さらに該反対の方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射することを特徴とする積層造形装置が提供される。
【0012】
また、好ましくは、前記特定領域内における前記一方向及び前記反対の方向へのレーザ光の移動距離に前記制御装置からの制御信号に対する前記ミラーの動作の遅れにより生じる遅延距離を加えた距離を、それぞれ、前記一方向及び前記反対の方向への走査線として前記制御装置に設定する。
【0013】
また、好ましくは、前記レーザ光の折り返し点では、前記一方向の走査線の終点と前記反対の方向の走査線の始点とを一致させる。
【0014】
また、好ましくは、前記ミラーは前記レーザ光をX方向に走査するミラーと前記レーザ光をY方向に走査するミラーとで構成される。
【0015】
また、好ましくは、前記レーザ光の焦点距離を調節できるレンズを有する。
【0016】
本発明の別の観点によれば、レーザ光を走査しつつ材料の薄層の特定領域に前記レーザ光を照射して前記材料の薄層を焼結又は硬化させ、該焼結又は硬化した薄層を繰り返し積層して3次元造形物を作製する積層造形方法であって、一方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射した後、前記レーザ光を点灯したまま前記一方向に対して角度をつけて反対の方向に折り返し、さらに該反対の方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射することを特徴とする積層造形方法が提供される。
【0017】
また、好ましくは、前記一方向及び前記反対の方向への前記レーザ光の照射を繰り返して前記特定領域全域の前記材料の薄層を焼結又は硬化させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザ光を点灯したままで折り返して走査しているため、一つの走査の終点が、即、次の走査の始点となる。レーザ光を消灯して、単に、一つの走査の終点から次の走査の始点に移るだけという動きを含まない。
【0019】
また、レーザ光を消灯し、ミラーを折り返して一つの走査の終点から次の走査の始点に移る方式の場合、ミラーを折り返すときに生じるミラーの動作の遅延が無駄な時間としてカウントされるが、本発明によれば、そのような遅延があってもその間レーザ光を点灯し、焼結などを行っているため無駄な時間としてカウントされない。
【0020】
また、本発明によれば、レーザ光源を点滅することがないため、レーザ光源の点灯の遅延に伴う無駄な時間はもともとない。
【0021】
したがって、レーザ光による焼結や硬化に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係る積層造形装置のうち、造形部の構成を示す上面図であり、(b)は、(a)のI-I線に沿う断面と、造形部の上方に配置されたレーザ光出射部を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る積層造形装置のうち、レーザ光出射部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】(a)は、本発明の実施形態に係る積層造形装置における焼結領域(特定領域)と、コントローラに設定された焼結領域内を焼結する走査線(走査経路)を示す図であり、(b)は、(a)の焼結領域(特定領域)の境界での走査線の接続関係及び実際のミラーの動きを示した図であり、(c)は、コントローラに設定された焼結領域周縁を焼結する走査線(走査経路)を示す図である。
【図4】(a)は、本発明の実施形態に係る積層造形装置におけるXミラー及びYミラーの角度変化の速度制御信号を出力するタイミングを示すタイミングチャートであり、(b)は、実際のXミラー及びYミラーの角度変化の速度の推移を示すタイミングチャートであり、(c)は、レーザ光源のON/OFF信号を出力するタイミングを示すタイミングチャートを示す図である。
【図5】比較例に係る積層造形装置における焼結領域内部を焼結する走査線(移動経路)を示す図である。
【図6】(a)は、図5に示す比較例に係る焼結領域及び走査線に基づき、Xミラー及びYミラーの角度変化の速度制御信号を出力するタイミングを示すタイミングチャートであり、(b)は、実際のXミラー及びYミラーの角度変化の速度の推移を示すタイミングチャートであり、(c)は、レーザ光のON/OFF信号を出力するタイミングを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
(1)積層造形装置の構成
本発明の実施形態に係る積層造形装置は、レーザ光出射部と、造形部と、制御部とから構成されている。
【0025】
図1(a)は、実施形態の積層造形装置のうち、造形部101の構成を示す上面図である。図1(a)ではレーザ光出射部と制御装置は図示していない。図1(b)は、図1(a)のI-I線に沿う断面図で、同図には、造形部101のほかに、その上方に配置されているレーザ光出射部102も示している。
【0026】
図2は、本発明の実施形態にかかるレーザ光出射部102の詳細な構成を示すブロック図である。
【0027】
以下に、発明の実施形態にかかる積層造形装置において各部の詳細について説明する。
【0028】
(a)レーザ光出射部102の構成
まず、レーザ光出射部102の構成について説明する。
【0029】
レーザ光出射部102は、図2に示すように、レーザ光を出射するレーザ光源23と、レーザ光に対する角度を変化させてレーザ光をX方向に走査するガルバノメータミラー(Xミラー)21a、及びレーザ光に対する角度を変化させてレーザ光をY方向に走査するガルバノメータミラー(Yミラー)21bを備えた光学系21と、X方向及びY方向に走査されるレーザ光の動きに従って移動し、レーザ光の焦点距離を粉末材料の薄層の表面にあわせるレンズを備えた光学系22とを備えている。また、光学系21のXミラー21a及びYミラー21bを動作させ、かつ光学系22のレンズを動作させる制御信号を送出するXYZドライバ24とを有している。
【0030】
XYZドライバ24はコントローラ(制御装置)25により制御され、かつレーザ光源23のON(点灯)及びOFF(消灯)もコントローラ25により制御される。コントローラ25として、例えば、CPU(Central Processing Unit)及び制御用のプログラムが格納されたメモリを備えたコンピュータを用いることができる。
【0031】
レーザ光源23から出射したレーザ光は、光学系22→Xミラー21a→Yミラー21bという経路で造形部101のパートテーブル13a上の材料の薄層15aに照射される。レーザ光は、コントローラ25による光学系21の制御により走査されることにより焼結領域に選択的に照射されるようになっている。さらに、レーザ光が走査されている間、レーザ光が粉末材料の薄層15aのちょうど表面に焦点を結ぶように絶えず光学系22のレンズが動いて焦点距離が調整されるようになっている。光学系21の制御は、作製すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき行われる。
【0032】
(b)造形部101の構成
造形部101においては、図1(a)、(b)に示すように、レーザ光の照射により造形が行われる造形用容器11と、その両側に設置された第1及び第2の粉末材料収納容器12a、12bとを備えている。造形用容器11の内壁に囲まれた領域が造形領域であり、粉末材料収納容器12a、12bに囲まれた領域が粉末材料の収納領域である。
【0033】
造形用容器11では、パートテーブル13a上で、粉末材料の薄層15aが形成され、粉末材料の薄層15aをレーザ光の照射により焼結させて焼結薄層15bが形成される。そして、パートテーブル13aを下方に移動させて焼結薄層15bを順次積層し、3次元造形物が作製される。
【0034】
第1及び第2の粉末材料収納容器12a、12bでは、フィードテーブル14aa及び14ba上に粉末材料15が収納され、フィードテーブル14aa及び14baを上方に移動させることにより、粉末材料を供給する。
【0035】
なお、パートテーブル13a、フィードテーブル14aa、14baには、支持軸13b、14ab及び14bbが取り付けられている。支持軸13b、14ab及び14bbは、支持軸13b、14ab及び14bbに上下移動を行わせる駆動装置に接続されている。
【0036】
更に、造形領域及び粉末材料の収納領域の全領域にわたって移動するリコータ16が設けられている。リコータ16は、フィードテーブル14aa及び14baの上昇により供給された粉末材料を造形領域まで運搬し、造形テーブル13a上に材料の薄層15aを形成する機能を有する。したがって、材料の薄層15aの厚さは、造形テーブル13aの下降量で決まる。
【0037】
(c)制御部の構成及び機能
制御部は、上述したレーザ光出射部102のコントローラ(制御装置)25と、図示しない造形部101のコントローラ(制御装置)とで構成される。
【0038】
レーザ光出射部102のコントローラ25は、作製すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき、レーザ光源23のON(点灯)及びOFF(消灯)と、光学系21のミラー21a、21b及び光学系22のレンズの動作とを制御する。造形部101のコントローラは、パートテーブル13a、第1及び第2のフィードテーブル14aa、14baの動作と、リコータ16の動作とを制御する。
【0039】
(レーザ光出射部102のコントローラ25)
まず、レーザ光出射部102のコントローラ25の機能について説明する。
【0040】
レーザ光出射部102のコントローラ25は、レーザ光を走査するため、走査線情報に基づきミラーの角度変化の速度制御信号を出力し、そのミラーの角度変化の速度制御信号によりXYZドライバ24を介してミラーを動作させる。
【0041】
最初に、図3(a)〜(c)を参照して焼結領域(特定領域)に対して設定される走査線について説明する。
【0042】
図3(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る積層造形装置におけるスライスデータ(描画パターン)に基づく焼結領域と、コントローラ25に設定された走査線(走査経路)を示す図である。特に、図3(b)は、図3(a)の焼結領域の境界での走査線の接続関係及び実際のミラーの動きを示した図である。
【0043】
図3(a)に示すように、周縁(境界)41a、41b、41c、41dで画定される焼結領域41に対して、走査線42a、42b、42c、42d、42e・・・が設定される。符号a1、a2、a3・・は1本目、3本目、5本目・・の走査線42a、42c、42e・・の始点を示し、符号b1、b2、b3・・はそれらの走査線42a、42c、42e・・の終点を示す。
【0044】
1本目、3本目、5本目・・の走査線42a、42c、42e・・はX方向に沿って設定され、2本目、4本目・・の走査線42b、42d・・はX方向に対して鋭角の角度をつけて設定される。2本目の走査線42bは、1本目の走査線42aの終点b1と3本目の走査線42cの始点a2をつなぐように設定される。即ち、1本目の走査線42aの終点b1と2本目の走査線42bの始点が一致し、3本目の走査線42cの始点a2と2本目の走査線42bの終点が一致する。3本目の走査線42cの終点b2以降も同様に設定される。
【0045】
このとき、1本目の走査線42aの終点b1及び3本目の走査線42cの始点a2は、焼結領域41から一定の距離だけ外側の位置に設定される。これは、図3(b)に走査線42a、42b、42cの境界の部分を拡大して示すように、焼結領域41に対して、走査線42a、42b、42cを設定し、走査線42a、42b、42cにしたがってミラーを移動させるときに、走査線42a、42b、42cに対応する制御信号に対して実際にはミラーの動きが遅れ、これにより走査線42aと走査線42bの接続部及び走査線42bと走査線42cの接続部においてミラーが経路43a、43bのようにショートカットして動くためである。3本目の走査線42cの終点b2以降も同様である。なお、1本目の走査線42aの始点a1はミラーの動作の最初の位置であるため、レーザ光の点灯時期により焼結領域41の境界41a上でもよいし、境界41aの外側に設定されてもよい。
【0046】
さらに、図3(c)に示すように、焼結領域41の周縁(境界)41a〜41dについて、走査線44a〜44dが設定される。
【0047】
次に、図4(a)〜(c)に示すタイミングチャートにより、ミラーの動き(レーザ光の動きに対応)をミラーの角度変化の速度制御信号と対応させて説明する。この説明において同時にレーザ光源の点灯及び消灯のタイミングの制御もあわせて説明する。なお、図4(a)及び以下の説明では、「ミラーの角度変化の速度制御信号」及び「ミラーの角度変化の速度」を、それぞれ「ミラーの速度制御信号」及び「ミラーの速度」と略して記載する。
【0048】
図4(a)は、ミラーの速度制御信号を出力するタイミングを示すタイミングチャートであり、図4(b)は、実際のミラーの速度の推移を示すタイミングチャートであり、図4(c)は、レーザ光源のON/OFF信号を出力するタイミングを示すタイミングチャートである。
【0049】
図4(a)に示すように、走査線42a情報に基づきXミラーの速度制御信号が時刻t1において正方向(図3(a)においてレーザ光が右側に動く方向)にONされる。これに対応して、図4(b)に示すように、Xミラーは、慣性によりミラーの速度制御信号のONより少し遅れて立ち上がり速度が徐々に増していき、t2で速度が一定になる。レーザ光源は、図4(c)に示すように、t2で点灯され、その後は、薄層一層の焼結が終わるまで消灯されずに点灯されたままとされる。t2の後、Xミラーはミラーの速度制御信号がt3で切り替わるまで等速度で角度が変化する。この間Yミラーの速度制御信号は出力されず、Yミラーは静止したままである。
【0050】
次いで、図4(a)に示すように、Xミラーの速度制御信号は、時刻t3(図3(a)の走査線42aの終点b1に対応)において、負方向(図3(a)においてレーザ光が左側に動く方向)に切り替えられる。このとき、折り返しの角度に応じた大きさのYミラーの速度制御信号が正方向(図3(a)においてレーザ光が下側に動く方向)にONされる。走査線42b情報に基づき、Xミラー及びYミラーの速度制御信号は時刻t6(図3(a)の走査線42bの終点及び走査線42cの始点a2に対応)までON状態が維持される。
【0051】
上述のXミラーの速度制御信号に応じて、Xミラーは、図4(b)に示すように、t3を超えても慣性により等速度で動くがその後ミラーの速度制御信号に対応して速度が徐々に減じる。このとき、Yミラーも動き始め、徐々に加速される。Xミラーはt4(焼結領域の境界41cに対応)で速度が零になり、引き続き逆方向に加速され、t5で速度が一定になる。Yミラーもt5までには速度が一定になる。なお、t1〜t4までのミラーの速度の時間積分がX方向のミラーの角度変化の総量にあたる。即ち、一走査あたりレーザ光の実際の移動距離に相当する。その後、Xミラー及びYミラーは、ミラーの速度制御信号がt6で切り替わるまで等速度で角度が変化する。
【0052】
次いで、図4(a)に示すように、Xミラーの速度制御信号が時刻t6において正方向に切り替えられる。このとき、Yミラーの速度制御信号はOFFされる。以降、走査線42c・・情報に基づき、同様にミラーの速度制御信号が出力される。
【0053】
上述のXミラーの速度制御信号に応じて、Xミラー及びYミラーは、図4(b)に示すように、t6を超えても慣性により等速度で動くがその後ミラーの速度制御信号に対応して徐々に減速する。Xミラーはt7(焼結領域の境界41aに対応)で速度が零になり、引き続き逆方向に加速され、t8で速度が一定になる。Yミラーは、t7の前後で速度が零になる。なお、t4〜t7までのXミラー及びYミラーの速度の時間積分がXミラー及びYミラーの角度変化の総量にあたる。即ち、一走査あたりX方向及びY方向に分離したレーザ光の実際の移動距離に相当する。これらを合成したものが折り返しの方向へのレーザ光の実際の移動距離に相当する。以降、走査線42c・・情報に基づき、上記したと同様にミラーが動く。
【0054】
なお、ミラーの角度変化の遅延に基づくレーザ光の遅延距離は、ミラーの角度変化の速度(レーザ光の移動速度)が一定であれば走査線の長さに関係なく一意に決定でき、ミラーの角度変化の速度に応じて適切な値が設定される。
【0055】
(造形部101のコントローラ)
次に、造形部101のコントローラの機能について、造形動作の順序に従って、以下に説明する。
【0056】
コントローラは、まず、粉末材料を載せた第1のフィードテーブル14aaを上昇させるとともに、パートテーブル13aを薄層一層分だけ下降させ、リコータ16を移動させて第1の粉末材料収納容器12aから造形用容器11に粉末材料15を供給させ、パートテーブル13a上に粉末材料の薄層15aを形成させる。
【0057】
その後に、上述したコントローラ25による制御により、作成すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき、レーザ光、光学系21のミラー21a、21b及び光学系22のレンズによって粉末材料の薄層15aを選択的に加熱させて焼結薄層15bを形成させる。
【0058】
また、上記と逆に、粉末材料15を載せた第2のフィードテーブル14baを上昇させるとともに、パートテーブル13aを薄層一層分だけ下降させ、リコータ16を移動させて第2の粉末材料収納容器12bから造形用容器11に粉末材料を供給させ、パートテーブル13a上に粉末材料の薄層15aを形成させる。
【0059】
なお、その後に、上述したコントローラ25による制御により、作成すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき、レーザ光、光学系21のミラー21a、21b及び光学系22のレンズによって粉末材料の薄層15aを選択的に加熱して焼結薄層15bを形成する。
【0060】
そして、これらの動作を繰り返して、複数の焼結薄層15bを積層し、3次元造形物を作製する。
【0061】
以上のように、本発明の実施形態に係る積層造形装置によれば、一つの走査線の終点と、次の走査線の始点とを一致させて、レーザ光を点灯したままで折り返して走査するように制御するコントローラ25を有する。このため、レーザ光を消灯して、単に、一つの走査の終点から次の走査の始点に移るだけという動きを含まない。また、ミラーを折り返すときに生じるミラーの動作の遅延があってもその間レーザ光を点灯して焼結を行うよう制御しているため、ミラーの動作の遅延が無駄な時間としてカウントされない。また、レーザ光源を点滅させることがないため、レーザ光源の点灯の遅延に伴う無駄な時間はもともとない。
【0062】
したがって、本発明の実施形態に係る積層造形装置によれば、レーザ光による焼結に要する時間を短縮することができる。
【0063】
(2)積層造形方法の説明
次に、図1、図2、図3、図4を参照しながら、上記粉末焼結積層造形装置を用いた積層造形方法について説明する。
【0064】
まず、造形部101において、第1及び第2のフィードテーブル14aa、14baを降下させ、フィードテーブル14aa、14ba上に造形に必要な量の粉末材料15を収納する。
【0065】
次いで、パートテーブル13aを薄層一層分に相当する量だけ降下させる。次いで、第1のフィードテーブル14aaを上昇させて粉末材料15が第1の粉末材料収納容器12aの表面から上に出てくるようにする。
【0066】
次いで、リコータ16を移動させて第1の粉末材料収納容器12aから上に出ている粉末材料15を造形用容器11内のパートテーブル13a上に移動させる。
【0067】
次いで、造形用容器11の表面を均しつつパートテーブル13a上に粉末材料を運び入れる。これにより、パートテーブル13a上に一層分の粉末材料の薄層が形成される。このとき、造形用容器11の上方に設置された図示しないヒータなどにより粉末材料の薄層の表面を融点よりも5℃から15℃程度低い温度に予備加熱する。
【0068】
次いで、作成すべき3次元造形物のスライスデータに基づき、光学系22のレンズの動きを制御しつつ光学系21のミラー21a、21bを制御してレーザ光を走査し、図1(b)に示すように、パートテーブル13aの薄層15aに焼結薄層15bを形成する。この場合、最初に、図3(a)、(b)に示すように、焼結領域41内を焼結し、最後に、図3(c)に示すように、走査線44a、44b、44c、44dに従って焼結領域41の周縁(境界)41a、41b、41c、41dを焼結する。焼結の順序は、このままでもよいが、焼結領域41内の最後の走査線の終点のすぐ近くから走査線44d、44a、44b、44cという順序が好ましい。或いは、表示した矢印とは逆向きに走査線44c、44b、44a、44dという順序でもよい。焼結領域41内を焼結している間は、図4(a)、(c)に示すように光学系21のミラー21a、21bが制御され、かつレーザ光源23が点灯したままにされる。
【0069】
次いで、パートテーブル13aを薄層一層分に相当する量だけ降下させるとともに、第2のフィードテーブル14baを上昇させて粉末材料15が第2の粉末材料収納容器12bの表面から上に出てくるようにする。次いで、リコータ16を右側から左側へ移動させる。そして、第2の粉末材料収納容器12bから新たな粉末材料15をパートテーブル13上に供給し、焼結薄層15bの上に新たな粉末材料の薄層を形成する。
【0070】
次いで、レーザ光源23のON/OFF、光学系21のミラー21a、21b及び光学系22のレンズの動きを制御して、焼結薄層15b上の新たな粉末材料の薄層を加熱焼結し、焼結薄層15bの上に新たな焼結薄層を形成する。
【0071】
次に上記したような方法で、粉末材料の薄層の形成→加熱焼結→粉末材料の薄層の形成→加熱焼結→・・・を繰り返す。
【0072】
このようにして、順次焼結薄層15bが積層されて3次元造形物が完成する。そして、最後に予備加熱を止めて自然冷却を行い、常温付近になったら造形用容器11から粉末材料15に埋もれた3次元造形物を取り出す。
【0073】
以上のように、本発明の実施形態に係る積層造形方法によれば、焼結領域41内を焼結する際、図3(a)、(b)に示すように、一つの走査線の終点と、次の走査線の始点とを一致させて、レーザ光を点灯したままで折り返して走査しているため、レーザ光を消灯して、単に、一つの走査の終点から次の走査の始点に移るだけという動きを含まない。また、ミラーを折り返すときに生じるミラーの動作の遅延があってもその間レーザ光を点灯し、焼結を行っているため無駄な時間としてカウントされない。また、レーザ光源を点滅することがないため、レーザ光源の点灯の遅延に伴う無駄な時間はもともとない。
【0074】
したがって、本発明の実施形態に係る積層造形方法によれば、レーザ光による焼結に要する時間を短縮することができる。
【0075】
(3)本発明の積層造形装置(積層造形方法)の性能比較
次に、上述の本発明の実施形態の積層造形装置による積層造形方法と、比較例の積層造形装置による積層造形方法の性能を比較する。
【0076】
上述の本発明の実施形態の積層造形装置による積層造形方法では、図3(a)に示す焼結領域と走査線(移動経路)に基づき、図4に示す制御方法が用いられ、比較例では、図5に示す焼結領域と走査線(移動経路)に基づき、図6に示す制御方法が用いられる。
【0077】
以下に、比較例を説明する。
【0078】
図5は、比較例に係る焼結領域内を焼結する走査線(移動経路)を示す図である。
【0079】
図5に示すように、焼結領域41に対して、走査線51a、51b、51c、51d、51e・・が平行に作成される。走査線51aの始点a1、a2、a3、a4、a5・・と終点b1、b2、b3、b4、b5・・は、焼結領域41の周縁(境界)41a、41b、41c、41dに置かれる。ミラーの角度変化を小さくするため、走査線51aの終点b1からすぐ下に次の走査線51bの始点a2が来るようにする。即ち、走査線51aと隣接する走査線51bとは走査の向きが逆向きになるように作成される。走査線51c、51d、51e・・もこれらと同様に作成される。
【0080】
この場合、走査線51aの終点b1から次の走査線51bの始点a2までのY方向の経路52aに対応してYミラーの角度が変化させられる。この経路52aではレーザ光が消灯される。
【0081】
図6(a)、(c)は、図5に示す比較例に係る焼結領域及び走査線に基づき、Xミラー及びYミラーの速度制御信号を出力し、レーザ光のON/OFF信号を出力するタイミングを示すタイミングチャートであり、図6(b)は、実際のXミラー及びYミラーの角度変化の速度の推移を示すタイミングチャートである。なお、図6(a)、(b)及び以下の説明では、「ミラーの角度変化の速度制御信号」及び「ミラーの角度変化の速度」を、それぞれ「ミラーの速度制御信号」及び「ミラーの速度」と略して記載する。
【0082】
図6(a)中の符号51a、51b、52a、52b、a1、a2、b1、b2は、図5中の同じ符号で示すものと同じものを示す。また、Xミラーにおいては、正の速度制御信号は図5の焼結領域41内で右に向く走査線51a、51c、51e・・に対応し、負の速度制御信号は図5の焼結領域41内で左に向く走査線51b、51d・・に対応する。また、Yミラーにおいては、正の速度制御信号は図5の焼結領域周縁41a、41cを下向きに動く経路52a、52b、52c、52d・・に対応する。また、符号t1〜t12は時刻を示す。
【0083】
図6(a)、(b)に示すように、走査線51a、51bの始点a1、a2では、レーザ光のONとミラーの動作のタイミングを一致させるために、レーザ光のオンディレイ時間(t1−t2)、(t7−t8)が設定される。また、走査線51a、51bの終点b1、b2では、Xミラーの動作遅延により、Yミラーのオンディレイ時間(t3−t5)、(t9−t11)が設定され、走査線51bの始点a2では、Yミラーの動作遅延により、Xミラーのオンディレイ時間(t6−t7)が設定される。以降の走査線51c、51d、51e・・についても同様である。
【0084】
比較調査では、本発明の実施形態及び比較例ともに、薄層一層当たり50mm×50mm、100mm×100mmの2種類の正方形状の焼結領域を用いることとし、また、その薄層を連続して5000層分積層する。走査線の間隔は0.15mmとする。但し、本発明の実施形態の場合、走査線の間隔はX方向に平行な走査線(図3(a)の42a、42c、42e)の間隔の1/2である。性能比較は、焼結に要する時間を比較することにより行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示す結果によれば、50mm×50mmの焼結領域では、本発明の実施形態の場合、2.53時間であり、比較例の場合、3.05時間であった。したがって、時間短縮比率は83%であった。また、100mm×100mmの焼結領域では、本発明の実施形態の場合、9.67時間であり、比較例の場合、10.71時間であった。したがって、時間短縮比率は90%であった。この比較例は、特許文献(特許第2620353号)に比べても焼結時間がかなり短縮された例であるが、それでも、いずれの場合も本発明の方が性能が高いことが分かった。
【0087】
なお、上述の実施形態では、積層造形装置のうち一例として粉末焼結積層造形装置について詳細に説明したが、この発明の範囲は粉末焼結積層造形装置に限られるものではなく、レーザ光源を有し薄層にレーザ光を照射する積層造形装置のうち、紙積層造形装置を除くその他の積層造形装置もこの発明の範囲に含まれる。
【0088】
また、上記実施形態では、水平方向の走査線が基本となっているが垂直方向の走査線を基本としてもよい。また、折り返した2つの走査線に関して、必ずしも一つの走査線が水平や垂直である必要はなく、ともに斜めの走査線同士でもよい。
【0089】
さらに、一走査線と折り返しの走査線同士が終点と始点を一致させて接続され、かつ折り返しの角度が鋭角であれば、折り返しの角度の値は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0090】
11…造形用容器、12a、12b…粉末材料収納容器、13a…パートテーブル、13b、14ab、14bb…支持軸、14aa、14ba…フィードテーブル、15…粉末材料、15a…粉末材料の薄層、15b…焼結薄層、41…焼結領域、41a、41b、41c、41d…焼結領域の周縁(境界)、42a、42b、42c、42d、42e、44a、44b、44c、44d、51a、51b、51c、51d、51e…走査線、43a、43b…レーザ光の移動経路、52a、52b、52c…経路、101…造形部、102…レーザ光出射部、a1、a2、a3、a4、a5…走査線の始点、b1、b2、b3、b4、b5…走査線の終点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、前記レーザ光源から出射したレーザ光を走査するミラーと、前記レーザ光源の点灯及び消灯を制御し、かつ前記ミラーの角度を制御する制御装置とを有し、前記レーザ光を走査しつつ材料の薄層の特定領域に前記レーザ光を照射して前記材料の薄層を焼結又は硬化させ、該焼結又は硬化した薄層を繰り返し積層して3次元造形物を作製する積層造形装置であって、
前記制御装置は、一方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射した後、前記レーザ光を点灯したまま前記一方向に対して角度をつけて折り返し、さらに該折り返しの方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射することを特徴とする積層造形装置。
【請求項2】
前記特定領域内における前記一方向及び前記折り返しの方向へのレーザ光の移動距離に前記制御装置からの制御信号に対する前記ミラーの動作の遅れにより生じる遅延距離を加えた距離を、それぞれ、前記一方向及び前記折り返しの方向への走査線として前記制御装置に設定することを特徴とする請求項1記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記レーザ光の折り返し点では、前記一方向の走査線の終点と前記折り返しの方向の走査線の始点とを一致させることを特徴とする請求項2記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記ミラーは前記レーザ光をX方向に走査するミラーと前記レーザ光をY方向に走査するミラーとで構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記レーザ光の焦点距離を調節するレンズを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項6】
レーザ光を走査しつつ材料の薄層の特定領域に前記レーザ光を照射して前記材料の薄層を焼結又は硬化させ、該焼結又は硬化した薄層を繰り返し積層して3次元造形物を作製する積層造形方法であって、
一方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射した後、前記レーザ光を点灯したまま前記一方向に対して角度をつけて折り返し、さらに該折り返しの方向に前記レーザ光を移動させつつ前記材料の薄層に照射することを特徴とする積層造形方法。
【請求項7】
前記一方向及び前記折り返しの方向への前記レーザ光の照射を繰り返して前記特定領域全域の前記材料の薄層を焼結又は硬化させることを特徴とする請求項6記載の積層造形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−173123(P2010−173123A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16279(P2009−16279)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(398018962)株式会社アスペクト (12)
【Fターム(参考)】