説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】積層体シートから形成されたインナーライナー層または補強シート層を有する空気入りタイヤを製造する方法において、製造された空気入りタイヤの走行を開始した後、積層体シートのスプライス部分付近においてクラックや剥離が発生しない方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シート1の端部をラップスプライスする工程を有する空気入りタイヤの製造方法において、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートをラップスプライスする工程に供する分の長さを切断した後でかつタイヤ加硫成形工程よりも前の段階で、シートの先端部を熱処理することによる先鋭化処理をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートを所定長さで切断し、該積層体シートの端部をスプライスし、さらに加硫成形を経て空気入りタイヤを製造する方法において、該方法により製造された空気入りタイヤが走行を開始した後、前記スプライスされた積層体シートのスプライス部分付近においてクラックが発生することがなく、該積層体シートの持つ特性・性能を、長期間にわたり耐久性良く発揮できる空気入りタイヤに関する。
【0003】
該積層体シートは、代表的には、例えば近年の空気入りタイヤにおける重要部材の一つであるインナーライナー層を構成するものである。その場合、本発明は、上記の如き積層体シートから形成されたインナーライナー層を有する空気入りタイヤであって、該空気入りタイヤの走行を開始した後、スプライスされた積層体シート(インナーライナー層)のスプライス部分付近においてクラックが発生することがなく、インナーライナー層の耐久性に優れた空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【0004】
また、該積層体シートは、インナーライナー層以外には、例えば重量増加をさほど伴うことなく、タイヤの軽量化や補強のための部材として、タイヤ内のそれぞれの重要位置で使用されることができる。その場合は、本発明は、上記の如き積層体シートから形成された補強シートを使用した空気入りタイヤの製造方法であって、スプライスされた補強シートのスプライス部分付近においてクラックが発生することがなく、該補強シートの効果を耐久性良く発揮できる空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0005】
近年、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート状物を空気入りタイヤのインナーライナーに使用するという提案がされ、検討されている(特許文献1)。
【0006】
この熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート状物を、実際に空気入りタイヤのインナーライナーに使用するにあたっては、通常、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシートと、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート状物と加硫接着されるゴム(タイゴム)シートの積層体シートを、タイヤ成形ドラムに巻き付けてラップスプライスして、タイヤの加硫成形工程に供するという製造手法がとられる。
【0007】
しかし、ロール状の巻き体をなして巻かれた上述の積層体シートを、該ロール状巻き体から所要の長さ分を引き出して切断し、タイヤ成形ドラムに巻き付けて該ドラム上などにおいてラップスプライスし、更に加硫成形をしてタイヤを製造したとき、タイヤ走行開始後にインナーライナーを構成している熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシートと、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシートと加硫接着されたタイゴムシートとが剥離してしまう場合があった。
【0008】
これを図で説明すると、図2(a)に示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2とタイゴム層3とからなる積層体シート1は、刃物などで所要サイズ(長さ)に切断されて、タイヤ成形ドラム上にて、その両端部にラップスプライス部Sを設けて環状を成すようにしてラップスプライスされる。なお、該積層体シート1は、1枚の使用のときは、その両端部がラップスプライスされて環状を成すように形成され、あるいは複数枚の使用のときは、それら相互の端部同士がラップスプライスされて複数枚で一つの環状を成すように形成されることなどがされる。
【0009】
そして、更にタイヤの製造に必要なパーツ材(図示せず)が巻かれ、ブラダーで加硫成形される。
【0010】
加硫成形後においては、図2(b)にモデル図で示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2とタイゴム層3からなるインナーライナー層10が形成され、ラップスプライス部S付近では、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2が、露出している部分とタイゴム層の中に埋設している部分が形成されている。
【0011】
そして、上述した熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシート2と加硫接着されたタイゴムシート3とが剥離してしまう現象は、特に、図2(b)で示した熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシート2が露出していてかつその先端部付近4などにおいて発生し、まずクラックが発生し、それがさらに進んでシート2の剥離現象へと進行していく。
【0012】
上記においては、インナーライナー層として、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2とタイゴム層3とからなる積層体シート1を使用する場合について述べたが、インナーライナー層以外の部材、たとえば、インナーライナー層のタイヤ外周側に周方向全体に配した補強シート層(図示せず)などとして使用する場合であっても同様である。特に、上記のような積層シートが補強シート層として配されるようなタイヤの部位は、長期にわたり繰り返して負荷が加えられというような過酷な条件で使用されることが通常であり、クラックや剥離の発生といった問題を伴うことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−241855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートの端部をラップスプライス(重なり合う部分を設けて行うスプライス)し、さらに加硫成形を経て、該積層体シートから形成されたインナーライナー層あるいは補強シート層を有する空気入りタイヤを製造する方法において、製造された空気入りタイヤの走行を開始した後、該スプライスされた積層体シート(インナーライナー層あるいは補強シート層)のスプライス部分付近においてクラックや剥離を発生することがなく、該積層体シートの持つ特性・性能を、長期間にわたり、耐久性良く良好に発揮し得る空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤの製造方法は、下記(1)の構成を有する。
(1)熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートの端部をラップスプライスする工程を有する空気入りタイヤの製造方法において、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートを前記ラップスプライスする工程に供する分の長さを切断した後で、かつタイヤ加硫成形工程よりも前の段階で、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートの先端部を熱処理することによる先鋭化処理をすることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【0016】
また、かかる本発明の空気入りタイヤの製造方法において、下記(2)〜(8)のいずれかの構成をとることが好ましい。
(2)前記熱処理の温度が、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の融点以上であることを特徴とする上記(1)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(3)前記熱処理が、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートの単体に対して行う場合に、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物の融点以上、(前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の融点+250℃)以下の温度で該熱処理を行うことを特徴とする上記(2)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(4)前記熱処理が、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートと該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した前記積層体シートに対して行う場合に、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物の融点以上、(該熱可塑性樹脂組成物の融点+180℃)以下の温度で該熱処理を行うことを特徴とする上記(2)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(5)前記先鋭化処理が、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートの先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置での厚さT(mm)が、0.1t≦T≦0.8tを満足する関係を有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【0017】
ここで、
t:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートの非先鋭化処理部分のタイヤ周方向平均厚さ(mm)
T:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートの先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置でのシートの厚さ(mm)
【0018】
(6)前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、およびイミド系樹脂の少なくとも一種を含んでなることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(7)前記エラストマーが、ジエン系ゴム、ジエン系ゴムの水添物、含ハロゲンゴム、シリコンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴムおよび熱可塑性エラストマーの少なくとも一種を含んでなることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(8)前記積層体シートが1枚もしくは複数枚が用いられ、1枚の場合はその両端部が、複数枚の場合は相互の端部が、ラップスプライスされることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
請求項1にかかる本発明によれば、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートの端部をラップスプライスし、さらに加硫成形を経て、該積層体シートから形成されたインナーライナー層あるいは補強シート層を有する空気入りタイヤを製造する方法において、製造された空気入りタイヤの走行を開始した後、該スプライスされた積層体シート(インナーライナー層あるいは補強シート層)のラップスプライス部分付近において、クラックや剥離を発生することがなく、該積層体シートの持つ特性・性能を、長期にわたり、耐久性良く良好に発揮できる空気入りタイヤの製造方法が提供される。
【0020】
請求項2にかかる本発明によれば、請求項1にかかる本発明の方法の効果を有するとともに、該効果を明確に発揮できる空気入りタイヤの製造方法が提供される。
【0021】
請求項3〜請求項5のいずれかにかかる本発明によれば、請求項1にかかる本発明の方法の効果を有するとともに、該効果を明確に発揮できる空気入りタイヤの製造方法が提供される。
【0022】
請求項6にかかる本発明によれば、請求項1にかかる本発明の方法の効果を有するとともに、熱可塑性樹脂を適宜に選択して、気体透過性、耐久性、柔軟性、耐熱性あるいは加工性等の要求物性を満たす前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなる積層体シートを作製することができ、それを部材として用いた空気入りタイヤの製造方法が提供される。
【0023】
請求項7にかかる本発明によれば、請求項1にかかる本発明の方法の効果を有するとともに、エラストマーを適宜に選択して、耐久性、柔軟性あるいは加工性等の要求物性を満たす前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなる積層体シートを作製することができ、それを部材として用いた空気入りタイヤの製造方法が提供される。
【0024】
請求項8にかかる本発明によれば、請求項1にかかる本発明の方法の効果を有するとともに、タイヤのサイズに合わせて、積層体シートのラップスプライス部のラップ量(重なり合っている部分のタイヤ周方向長さ)や該積層体シートの使用枚数を適宜に変更して、各種サイズの空気入りタイヤの製造が可能な空気入りタイヤの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の方法を説明する図であり、(a)は、所定長さで切断がされた、かつ、先端が先鋭化処理された熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴム3を積層した積層体シート1を、該積層体シート1の両端部どおしをラップスプライスした状態を示すモデル図であり、(b)は、(a)に示した状態で加硫成形した後の状態を示したモデル図であり、(c)は先端が先鋭化処理された熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2(単体の状態)を説明する概略側面図である。
【図2】本発明以外の方法を説明する図であり、(a)は、先端が先鋭化処理されていない熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴム3を積層した積層体シート1を所定長さで切断し、タイヤ成形ドラムに巻き付けて、該積層体シート1の両端部をラップスプライスした状態を示すモデル図であり、(b)は、(a)に示した状態で加硫成形した後の状態を示したモデル図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤの製造方法にかかる空気入りタイヤの形態の1例を示した一部破砕斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、更に詳しく本発明の空気入りタイヤの製造方法について、説明する。
【0027】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴム3を積層した積層体シート1の端部をラップスプライスする工程を有する空気入りタイヤの製造方法において、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2をラップスプライスする工程に供する分の長さを切断した後で、かつタイヤ加硫成形工程よりも前の段階で、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部を熱処理することによる先鋭化処理をすることを特徴とする。
【0028】
本発明者らは、従来方法によるものの不都合点である、例えばインナーライナー層を構成している熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシートと、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシートと加硫接着されたタイゴムシートとが相互間で剥離する原因について種々検討した結果、以下の知見を得た。
【0029】
すなわち、上述の積層体シート1を、通常の方法で準備した場合、図2(a)、(b)に示した積層体シート1の両端のラップスプライス部S付近では、上下に存在する剛性の大きな熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2に挟まれたゴム部に大きな応力が発生し、そのため、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシート2の先端部付近4などにおいてクラックの発生や、さらに該クラックが大きくなって剥離が発生すると考えられるものであった。
【0030】
これに対して、本発明の空気入りタイヤの製造方法においては、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2をラップスプライスする工程に供する分の長さを切断した後で、かつタイヤ加硫成形工程よりも前の段階で、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部を熱処理することによる先鋭化処理をするものである。
【0031】
その先鋭化処理を行う時点は、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の単体で行って、その後に、ゴム3と積層させてもよく、あるいは、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2とゴム3とを積層した後に行ってもよい。このように、一般には、タイヤ成形ドラム上に積層体シート1が巻かれるよりも前の、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の単体あるいは積層体シート1とされた状態で該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部の先鋭化処理を行うのがよい。ただし、タイヤ成形ドラム上に該積層体シート1が巻かれた後のグリーンタイヤの状態で該熱処理を行って先鋭化処理を行ってもよく、その場合には、熱処理はスプライス部の表面で露出している該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部に主として行うこととなるが(内部に埋もれている先端部には処理効果が及ばない)、本発明の熱処理による先鋭化処理の効果は十分に得られる。
【0032】
いずれにしても、本発明方法では、図1(a)に示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2として、その先端付近にて先鋭化処理されている部分5が形成された状態を有するグリーンタイヤ(図示せず)が準備されるのである。
【0033】
図1(b)は、(a)に示した状態で加硫成形した後の状態を示したモデル図であり、
タイヤの加硫成形後でも熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシート2の先端付近にて先鋭化処理された部分5が形成されていることにより、上下にペアで存在する剛性の大きな熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2の厚さが、先端部付近4では薄いものとなり、また、シート2とゴム部3との界面の面積が広くなることから応力は分散され、これら理由により、シート2に挟まれたゴム部に発生する応力は小さくかつ分散もされて、緩和されたものとなる。このことが、タイヤ使用の開始後に、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシート2と加硫接着されたタイゴムシート3との間で互いの剥離現象を起こすことを防止するのに効果を発揮する。
【0034】
本発明において、「熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートの先端部を熱処理することによる先鋭化処理をする」とは、通常の刃物を使用して常温下で熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートを切断しただけの場合では、シートの幅方向から見たとき、その切断面はシート2の平面方向に垂直な切断端面を有するが(図2(a))、本発明方法にかかるシート2では、その切断端面が、図1の(a)〜(c)にモデル的に示したように、先鋭化処理されて先端に向かって徐々に細くなっている先鋭化処理部分5を有しているものであり、そのような側面形状になるように、該シート2の切断端部に対して熱処理を行うことをいう。
【0035】
その熱処理は、非接触式でも接触式のいずれでもよく、前者の場合は、シート先端面に対してバーナーあるいは火炎を当てる熱処理、後者の場合は、ホットロール(加熱ローラ)、ホットプレート(加熱板)などを当てながら行う熱処理などによって行うことができる。
【0036】
上述の「先鋭化処理されて先端に向かって徐々に細くなっている形状」とは、先端付近において、「丸味」が付けられている程度のものでもよく、そのような丸味を有する形状にされているだけでも、上述したクラックの発生、剥離の発生の防止効果は顕著に認められる。このシート2の先端での先端先鋭化処理がされた形態は、加硫前と加硫後とでその先鋭形態が実質的に維持されるものであり、タイヤとしての使用開始後に該クラックの発生や剥離の発生の防止効果が有効に発揮される。
【0037】
上述したように、シート2の先端での先鋭化処理は、丸味が付けられている程度でも効果を発揮するが、特に、高い効果を安定して得るには、該先鋭化処理が、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置で、厚さT(mm)が、0.1t≦T≦0.8tを満足する関係を有するようになされていることが好ましい。図1(c)はこの関係を示したものであり、先端から(t/3)分だけ内側に入った位置での厚さのレベルについての関係であり、好ましくは、0.2t≦T≦0.6tである。ここで、tは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の非先端先鋭化処理部分のタイヤ周方向平均厚さ(mm)であり、Tは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置でのシート2の厚さ(mm)である。
【0038】
また、先鋭化処理された部分(図1(c)で5)の長さLは、L=(1.0〜20)×t(mm)であること、すなわち、該Lの長さ分だけ内側に入った位置まで先端先鋭化処理部であることが好ましい。より好ましくは、L=(1.0〜10)×t(mm)であること、さらに好ましくは、L=(1.0〜2.5)×t(mm)である。
【0039】
先鋭化処理されている部分の形状は、図1(a)〜(c)に示したような側断面形状で、きれいなテーパー状を呈していることが望ましいが、きれいなテーパー状でなくても効果は発揮できるので、非対称のテーパー状のものや、テーパー状に先鋭化されていて、かつ一方向に(例えばタイゴム層側に)湾曲している形状や、多少の凹凸を有した形態や、前述した丸味付けされているようなもの等であってもよい。
【0040】
本発明において、このシート2の先端への先鋭化処理は、熱処理で行うことがメインであるが、加熱・加圧プレートなどを併用して成形させることにより行うこともできる。
【0041】
なお、本発明のように、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部分の表面に熱処理をする場合には、前記熱可塑性樹脂が加熱によって流動することから、切断端付近の表面に存在するエラストマーが該熱可塑性樹脂の被膜で覆われた形態となる現象が生ずる。このような形態を有するシート2は、エラストマーが露出している状態で加硫接着される場合と比較して、より強い加硫接着状態を得ることができるので、その点でも、本発明の方法は、前記したクラックの発生や剥離の発生の防止に効果的なものである。一般に、積層体シートの切断面上にエラストマーが露出して存在していると、該エラストマーが加硫接着を阻害して、該熱可塑性樹脂組成物のシートとゴムとの間の加硫接着力を低くさせるので、エラストマーが極力露出しないようにして先端先鋭をすることが好ましいのである。
【0042】
本発明において、熱処理の温度は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の融点以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂または可塑性樹脂組成物の先端を容易かつ効果的に先鋭化するのに、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の融点以上で処理することが効果的だからである。
【0043】
また、該熱処理を、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物からなるシートの単体に対して行う場合には、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点以上、(該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点+250℃)以下の温度で該熱処理を行うのがよい。単体で行う場合には、積層させるゴムがないため、比較的高温度で熱処理しても硬化、劣化、変質等の問題が生じない。
【0044】
一方、該熱処理を、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物からなるシートとゴムを積層した積層体シートに対して行う場合には、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点以上、かつ、(該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点+180℃)以下の温度で該熱処理を行うのがよい。積層体シートの状態で行うときは、該熱処理によってゴムに悪影響を与えないように、比較的低温度で行うことがよいからである。
【0045】
図3は、本発明の空気入りタイヤの製造方法にかかる空気入りタイヤの形態の1例を示した一部破砕斜視図である。
【0046】
空気入りタイヤTは、トレッド部11の左右にサイドウォール部12とビード部13を連接するように設けている。そのタイヤ内側には、タイヤの骨格たるカーカス層14が、タイヤ幅方向には左右のビード13、13間に跨るように設けられている。トレッド部11に対応するカーカス層4の外周側にはスチールコードからなる2層のベルト層15が設けられている。矢印Xはタイヤ周方向を示している。カーカス層14の内側には、本発明方法によりラップスプライスされて形成されているインナーライナー層10が配され、そのラップスプライス部S(図1および図2のSと共通)がタイヤ幅方向に延びて存在している。
【0047】
本発明にかかる空気入りタイヤでは、タイヤ内周面上でこのラップスプライス部S付近で従来は生じやすかったクラックの発生や、インナーライナー層10を形成している熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2とタイゴム層3の間のクラックの発生、さらに剥離の発生が抑制されて耐久性が著しく向上するものである。
【0048】
本発明の空気入りタイヤの製造方法によるかかる効果は、前述した積層体シートを、インナーライナー層としてではなく、空気入りタイヤ内の補強シートとして使用する場合でもラップスプライス部Sを有するものであれば同様である。
【0049】
ラップスプライス部Sの重なり長さは、タイヤサイズや使用される場所にもよるが、一般的に、好ましくは7〜20mm程度、より好ましくは8〜15mm程度とするのがよい。重なり長さが長すぎると、ユニフォミティーが悪化する方向であり、短すぎると成形時にスプライス部が開いてしまうおそれがあるためである。
【0050】
積層体シートは、1枚である場合に限られず、1枚もしくは複数枚が用いられ、1枚の場合はその両端部がラップスプライスされ、あるいは、複数枚の場合は相互の端部が、ラップスプライスされて一つの環状を形成するようにするとよい。ラップスプライス部Sの重なり長さと、積層体シートの使用枚数を適宜に設定すれば、あらゆる寸法の空気入りタイヤの製造方法に際して本発明の製造方法を適用することができ、本発明の所期の効果を得ることができる。
【0051】
本発明で用いることのできる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(ETFE)〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0052】
特に、熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、およびイミド系樹脂の少なくとも一種を含んでいることが好ましい。
【0053】
また、本発明で使用できる熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂とエラストマーは、熱可塑性樹脂については上述したものを使用することができる。エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。中では、ジエン系ゴム、ジエン系ゴムの水添物、含ハロゲンゴム、シリコンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴムおよび熱可塑性エラストマーの少なくとも一種を含んでなるエラストマーを用いることが好ましい。
【0054】
また、前記した特定の熱可塑性樹脂と前記した特定のエラストマーとの組合せでブレンドをするに際して、相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散層を形成しているエラストマーの粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方または片方の構造を有する共重合体、あるいは熱可塑性樹脂またはエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらはブレンドされる熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)およびそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレンまたはEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定されないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0055】
熱可塑性樹脂とエラストマーがブレンドされた熱可塑性樹脂組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよく、好ましい範囲は重量比90/10〜30/70である。
【0056】
本発明において、熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物には、インナーライナーあるいは補強部材などとしての必要特性を損なわない範囲で相溶化剤などの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をインナーライナーとしての必要特性を損なわない限り任意に配合することもできる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナーあるいは補強部材に十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果に、より十分な剛性を併せ付与することができるとともに、エラストマーの多少によらず、成形に際して熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができるものである。
【0057】
本発明で使用できる熱可塑性樹脂、エラストマーのヤング率は、特に限定されるものではないが、いずれも好ましくは1〜500MPa、より好ましくは50〜500MPaにするとよい。
【実施例】
【0058】
実施例1〜10、比較例1
以下、実施例などにより、本発明の空気入りタイヤの製造方法について具体的に説明する。
【0059】
熱可塑性樹脂組成物のシートとして、表1に示すように、熱可塑性樹脂としてN6/66、エラストマーとしてBIMSを50/50でブレンドした熱可塑性樹脂組成物の厚さ(t)0.13mm、融点190℃のシートを用意した。
【0060】
一方、タイゴム層として、表2に示すような組成の厚さ0.7mmのタイゴムを用意した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
熱可塑性樹脂組成物のシートは、単体で切断した後に熱処理に供したもの(実施例1、同2、同3、同4、同6、同8、同10、比較例1)、上記のタイゴム層と積層した後に切断し、その後、該積層体を熱処理に供したもの(実施例5、7、9)の2つの場合に分けて試験を行った。それぞれの手順は以下の(1)、(2)のとおりである。
(1)シート単体に熱処理する場合
(a)上記熱可塑性樹脂組成物シートの作成(t=0.13mm)、
(b)該熱可塑性樹脂組成物シートの所定サイズへの切断、
(c)該熱可塑性樹脂組成物シートの先端を、表3中に示した条件で熱処理、
(d)該熱可塑性樹脂組成物シートと加硫接着させるゴム層の作製、
(e)該熱可塑性樹脂組成物シートとゴム層とをプレアッシーしての積層体の作製、
(f)成形ドラム上で積層体をスプライス成形し、加硫してタイヤを作製、
(g)製造したタイヤを、所定の走行テスト後、評価。
(2)シートとゴムの積層体を熱処理する場合
(a)上記熱可塑性樹脂組成物シートの作成(t=0.13mm)、
(b)該熱可塑性樹脂組成物シートと加硫接着させるゴム層の作製、
(c)該熱可塑性樹脂組成物シートとゴム層とをプレアッシーしての積層体の作製、
(d)得られた積層体の所定サイズへの切断、
(e)積層体の先端を、表3中に示した条件で熱処理、
(f)成形ドラム上で積層体をスプライス成形し、加硫してタイヤを作製、
(g)製造したタイヤを、所定の走行テスト後、評価。
【0064】
なお、試験タイヤは、215/70R15 98Hを用い、各実施例、比較例ごとに各2本を作製し、これをJATMA標準リム15×6.5JJに取り付け、タイヤ内圧をJATMA最大空気圧(240kPa)とした。
【0065】
試験タイヤの評価は、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層に本発明の積層体シートを採用し、そのスプライス部付近でのクラックの発生、剥離の発生をそれ以外の部分での状況とも比較しつつ行った。該空気入りタイヤを7.35kNで50,000kmを走行させた後、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層のスプライス部付近でのクラックの発生、剥離の発生の有無を、それ以外の部分での状況とも比較しながら調べた。
【0066】
その結果を表3に示した。効果(クラック、剥離の発生の抑制効果)は、「優」、「良」、「可」、「不可」の4段階で評価した。
【0067】
本発明の各実施例は、50,000km走行後も、スプライス部付近、それ以外の場所のいずれでも特に問題は発生しなかった。
【0068】
なお、上記の説明において、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の融点は、示差走査熱量測定(DSC)に従って求められる値である。
【0069】
【表3】

【符号の説明】
【0070】
1:積層体シート
2:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート
3:タイゴム層
4:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシート2の先端部付近
5:先鋭化処理されている部分
10:インナーライナー層
11:トレッド部
12:サイドウォール部
13:ビード
14:カーカス層
15:ベルト層
L:先端先鋭化処理されている部分の長さ
S:ラップスプライス部
X:タイヤ周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートの端部をラップスプライスする工程を有する空気入りタイヤの製造方法において、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物からなるシートを前記ラップスプライスする工程に供する分の長さを切断した後で、かつタイヤ加硫成形工程よりも前の段階で、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物からなるシートの先端部を熱処理することによる先鋭化処理をすることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理の温度が、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物の融点以上であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理を、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物からなるシートの単体に対して行う場合に、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点以上、(該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点+250℃)以下の温度で該熱処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理を、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物からなるシートと該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートに対して行う場合に、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点以上、(該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物の融点+180℃)以下の温度で該熱処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記先鋭化処理が、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシートの先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置での厚さT(mm)が、0.1t≦T≦0.8tを満足する関係を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
ここで、
t:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートの非先鋭化処理部分のタイヤ周方向平均厚さ(mm)
T:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートの先端から、(t×1/3)長さ分内側に入った位置でのシートの厚さ(mm)
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、およびイミド系樹脂の少なくとも一種を含んでなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記エラストマーが、ジエン系ゴム、ジエン系ゴムの水添物、含ハロゲンゴム、シリコンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴムおよび熱可塑性エラストマーの少なくとも一種を含んでなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記積層体シートが1枚もしくは複数枚が用いられ、1枚の場合はその両端部が、複数枚の場合は相互の端部が、ラップスプライスされることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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