説明

空洞構造体の落雷検出装置、これを備えた風車回転翼および風力発電装置

【課題】簡素で安価、かつ信頼性の高い構造により、落雷があったことを迅速に検知して安全を確保するとともに、落雷箇所を確実に判定できる落雷検出装置を提供する。
【解決手段】落雷検出装置Aは、空洞構造体である風車翼7に落雷し、風車翼7が破損した場合における風車翼7の内部空間Sの環境変化を検知し、この環境変化を電気信号に変換して出力する環境検知センサ部材26と、前記電気信号を受信し、落雷があったと判定して落雷対処措置を取る制御手段(ナセル側制御装置29および地上側制御装置)とを備えてなることを特徴とする。例えば環境検知センサ部材26は光電変換センサ、または圧電変換センサとされ、落雷による風車翼7の破損時における外光または外圧の進入を検知する。風車翼7の内部空間Sを複数の分割室に仕切り、各々の分割室に環境検知センサ部材26を設置することにより、落雷位置をより正確に特定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷の有無および落雷位置を判定するようにした空洞構造体の落雷検出装置、これを備えた風車回転翼および風力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
標準的な風力発電装置は、ロータヘッドを中心として放射方向に延びる数本の風車翼を有する風車回転翼を備えており、タワーの上端にて水平旋回可能に支持されたナセルにロータヘッドが軸支され、この風車回転翼の回転により、ナセル内部に設置された発電機が駆動されて発電が行われるように構成されている。
【0003】
この種の風力発電装置は、特に風車翼の部分に落雷を受けやすいため、特許文献1に開示されているように、風車翼に避雷装置としてレセプタ(受雷部材)が設けられる。レセプタは、最も落雷しやすい翼先端部を始め、風車翼の各部に数ヶ所設けられ、各々のレセプタから避雷導線(ダウンコンダクタ)が延び、この避雷導線が風車翼の内部を通り、ナセル、タワーを経由して地面にアース接続される。このため、レセプタに落雷した際における雷電流が地中に導かれて風車翼の破損が防止される。
【0004】
さらに、近年では、レセプタに加え、ダイバータ・ストリップと呼ばれる金属片を不連続的に翼表面に接着することにより、レセプタ以外の場所に落雷した際における落雷電流を、各ダイバータ・ストリップを経由させて風車翼の表面に沿って流れさせ、レセプタに導くことができる。このようにすれば、各ダイバータ・ストリップには避雷導線を設ける必要がないため、簡素な構造によって風車翼の耐雷性能を向上させることができる。
【0005】
ところが、レセプタやダイバータ・ストリップ等では多くの落雷から風車翼を完全に保護することができず、風車翼にはしばしば落雷による損傷が発生する。風車翼が落雷により損傷したことが認識されずにそのまま運転が継続されると重大事故に繋がる可能性があるため、落雷による損傷の即座な発見と補修が必須である。
【0006】
従来では、特許文献2に開示されているように、風力発電装置のタワー基部を環状に囲むように設置された大口径のロゴスキーコイルにより雷電流を検出して落雷を認識する落雷検出装置があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−223148号公報
【特許文献2】特許第4211924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に開示されているような従来技術では、風力発電装置全体への落雷検知は可能であるが、例えば風車回転翼のどの翼に落雷したかは検知不可能であるため、即座な補修が行いにくかった。ロゴスキーコイルのように雷電流を電気的に検知する装置を風車翼に多数設けられれば落雷箇所の特定ができるが、ロゴスキーコイルは価格が高価である上に設置が困難であるため、落雷検出装置全体の構成が複雑かつ高価になり、風力発電装置の建造コスト上昇を招来する。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、簡素で安価、かつ信頼性の高い構造により、落雷があったことを迅速に検知して安全を確保するとともに、落雷箇所を確実に判定することのできる空洞構造体の落雷検出装置、これを備えた風車回転翼および風力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
即ち、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置の第1の態様は、空洞構造体に落雷し、該空洞構造体が破損した場合における該空洞構造体の内部空間の環境変化を検知し、この環境変化を電気信号に変換して出力する環境変化検知手段と、前記電気信号を受信し、落雷があったと判定して落雷対処措置を取る制御手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、空洞構造体に落雷した場合における、該空洞構造体の内部環境の変化が環境変化検知手段によって検知され、その変化が電気信号に変換されて制御手段に出力され、制御手段はこの電気信号を受信して落雷対処措置を取る。これにより、落雷があったことを迅速に検知し、安全を確保することができる。
落雷発生時における空洞構造体の内部環境の変化を検出することは、環境変化検知手段をセンサ手段とすることにより、比較的簡素な構成にて行うことができるため、簡素で安価、かつ信頼性の高い構造により、落雷があったことを確実に判定することができる。
【0012】
また、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置の第2の態様は、前記第1の態様において、前記空洞構造体が機械作動物の構成部材である場合、前記落雷対処措置としては、前記機械作動物の運転停止、落雷箇所の判定、管理者への報知、が含まれることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、機械作動物の空洞構造体に落雷した場合には、機械作動物の運転が停止されるとともに、落雷箇所が判定され、管理者への報知が行われるため、機械作動物自体およびその周囲に対する安全が確保され、機械作動物の管理者は落雷が発生したことを即座に認知でき、点検、破損部分の補修といった作業を迅速に開始することができる。
【0014】
また、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置の第3の態様は、前記第2の態様において、前記制御手段は、前記環境変化検知手段から出力される前記電気信号のうち、前記機械作動物の通常運転に伴う定常変動分をキャンセルする信号処理を行うことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、例えば機械作動物の通常運転に伴う緩い定常変動分を環境変化検知手段が感知して電気信号を出力しても、このような緩い圧力変動分を示す電気信号はキャンセルされるため、実際には機械作動物に着雷していないのに着雷したと誤判定が下されることを防止して落雷検出装置の信頼性を高めることができる。
【0016】
また、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置の第4の態様は、前記第1〜第3のいずれかの態様において、前記空洞構造体の内部空間が隔壁で複数の分割室に仕切られ、これら各々の分割室に前記環境変化検知手段がそれぞれ設けられ、これらの環境変化検知手段の各々が個別に、前記分割室の環境が変化した場合に電気信号を前記制御手段に出力し、前記制御手段はこれらの電気信号を識別して落雷箇所を判定することを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、空洞構造体に落雷した場合に、空洞構造体の内部空間に画成された複数の分割室のうち、落雷した位置に相当する分割室においてのみ内部環境が変化し、この内部環境の変化が、該分割室に設けられた環境変化検知手段によって検出され、この環境変化検知手段が固有の電気信号を制御手段に出力する。このため、制御手段は受信した電気信号を識別することにより、この電気信号を出力した環境変化検知手段の位置、即ち落雷を受けた分割室の位置を容易に特定することができる。このため、落雷箇所を確実に判定することができる。
【0018】
また、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置の第5の態様は、前記第1〜第4のいずれかの態様において、前記環境変化検知手段は光電変換センサであり、暗室状に形成された前記空洞構造体の内部空間に設けられていることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、落雷を受けて空洞構造体の外被が破損した場合に、この破損部から落雷の光または外光が空洞構造体の内部空間に進入する。このため、暗室状に形成されていた内部空間の明るさ環境が変化する。
そして、この内部空間に設けられた環境変化検知手段としての光電変換センサが、この明るさ環境の変化、つまり受光量の増大を検知し、それを電気信号に変換して制御手段に出力し、制御手段はこの電気信号を受信して落雷対処措置を取る。
このため、落雷があったことを迅速に検知して安全を確保することができる。また、光電変換センサは安価で設置が容易であり、作動が確実であるため、落雷検出装置を信頼性の高い構造にすることができる。
【0020】
また、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置の第6の態様は、前記第1〜第4のいずれかの態様において、前記環境変化検知手段は圧電変換センサであり、気密室状に形成された前記空洞構造体の内部空間に設けられていることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、落雷を受けて空洞構造体の外被が破損した場合に、空洞構造体の内部空間の圧力が急激に上昇する。このため、気密室状に形成されていた内部空間の圧力環境が変化する。
そして、この内部空間に設けられた環境変化検知手段としての圧電変換センサが、この圧力環境の変化、つまり圧力の増大を検知し、それを電気信号に変換して制御手段に出力し、制御手段はこの電気信号を受信して落雷対処措置を取る。
このため、落雷があったことを迅速に検知して安全を確保することができる。また、圧電変換センサは安価で設置が容易であり、作動が確実であるため、落雷検出装置を信頼性の高い構造にすることができる。
【0022】
また、本発明に係る風車回転翼は、前記第1〜第6のいずれかの態様の空洞構造体の落雷検出装置を備えたことを特徴とする。これにより、簡素で安価、かつ信頼性の高い構造により、風車回転翼への落雷を迅速に検知して安全を確保するとともに、落雷箇所を判定することができる。
【0023】
また、本発明に係る風力発電装置は、前記の風車回転翼を備えたことを特徴とする。これにより、簡素で安価、かつ信頼性の高い構造により、風力発電装置の風車回転翼への落雷を迅速に検知して安全を確保するとともに、落雷箇所を判定することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置、これを備えた風車回転翼および風力発電装置によれば、簡素で安価、かつ信頼性の高い構造により、落雷があったことを迅速に検知して安全を確保するとともに、落雷箇所を確実に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置が適用された風力発電装置の一例を示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態である落雷検出装置が設置された風車翼の斜視図である。
【図3】図2に示す落雷検出装置において、落雷により風車翼が破損した場合の状態を示す斜視図である。
【図4】落雷検出装置の制御の流れをフローチャートで示した図である。
【図5】本発明の第2実施形態である落雷検出装置が設置された風車翼の斜視図である。
【図6】図5に示す落雷検出装置において、落雷により風車翼が破損した場合の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る風力発電装置の実施形態について図面に基づきながら説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る空洞構造体の落雷検出装置が風車翼7に適用された風力発電装置の一例を示す側面図である。この風力発電装置1は、例えば地表面2に設置された鉄筋コンクリート製の基礎3上に立設されるタワー4と、このタワー4の上端部に設置されるナセル5と、略水平な横方向の回転軸線周りに回転自在に支持されてナセル5の前端部側に設けられるロータヘッド6とを有している。
【0028】
ロータヘッド6には、放射方向に延びる複数枚(例えば3枚)の風車翼7が取り付けられて風車回転翼8が構成されており、ナセル5の内部には発電機11が収容設置され、ロータヘッド6の回転軸12が発電機11の主軸に増速機(非図示)を介して連結されている。このため、風車翼7に当たった外風の風力が、風車回転翼8と回転軸12を回転させる回転力に変換され、発電機11が駆動されて発電が行われる。
【0029】
ナセル5は、風車回転翼8と共に、タワー4の上端において水平方向に旋回することができる。ナセル5の外周面適所(たとえば上部等)には、周辺の風向および風速値を測定する風向風速計13と、落雷を回避するための避雷針14が設置されている。ナセル5は、図示しない駆動装置と制御装置により、常に風上方向に指向して効率良く発電できるように制御される。また、風車翼7のピッチ角は、風量に合わせて最も効率良く風車回転翼8を回転させられるように自動調整される。ナセル5や風車翼7等は、例えばFRP成形により形成された空洞構造体である。
【0030】
3枚の風車翼7には、それぞれ、その先端部にレセプタ17が設けられている。このレセプタ17は公知の避雷部材であり、一般には直径数センチ程度の円形、もしく翼端形状に沿う形状等に形成され、接着等により風車翼7の表面に固着されている。そして、各レセプタ17から延出する風車翼避雷導線(ダウンコンダクタ)18が、風車翼7の内部を通って翼根側に延びるように配設されている。これら3本の風車翼避雷導線18は、ロータヘッド6の内部で1本に纏められ、公知のスリップリング(非図示)等を介してタワー4の内部に配設されたタワー避雷導線19に電気的に導通している。前述の避雷針14もタワー避雷導線19に導通され、タワー避雷導線19の下端は地中にアース接続されている。
【0031】
このため、避雷針14またはレセプタ17に落雷した場合には、その落雷電流が風車翼避雷導線18およびタワー避雷導線19を通って地中に導かれ、落雷による風車翼7やナセル5の破損が防止される。タワー4の基部には、公知のロゴスキーコイルを用いた落雷検知部21が付設されており、この落雷検知部21がタワー避雷導線19を通る雷電流を検知してその電気信号を地上側制御装置23に出力し、地上側制御装置23は落雷があったことを認識、記憶し、風力発電装置の管理者に報知することができる。
【0032】
上記のように、ナセル5に設けられた避雷針14や、風車翼7に設けられたレセプタ17に落雷した場合には、落雷電流が風車翼避雷導線18やタワー避雷導線19を通って地中に導かれるため、風力発電装置1には破損が起こりにくい。しかし、避雷針14およびレセプタ17以外の箇所に落雷した場合には、風力発電装置1が破損し、この時の落雷電流がタワー避雷導線19を通らなければ、ロゴスキーコイルを用いた落雷検知部21による落雷検知も行われない。このため、風力発電装置1の破損に気付かずに運転が継続されてしまう懸念がある。そこで、本発明では、最も落雷を受けやすい風車翼7に、独自の落雷検出装置を設けた。
【0033】
[第1実施形態]
図2は、本発明の第1実施形態である落雷検出装置Aが設置された風車翼7の斜視図である。この落雷検出装置Aでは、空洞構造体である風車翼7の内部空間Sに環境検知センサ部材26が設置されている。この環境検知センサ部材26は、風車翼7が落雷を受けて破損した場合に、風車翼7の内部空間S内における環境変化を検知し、この環境変化を電気信号に変換して出力する環境変化検知手段として機能する。環境検知センサ部材26としては、例えば光電変換センサ、または圧電変換センサ等を用いるが、両方のセンサを同時に用いてもよい。
【0034】
環境検知センサ部材26として光電変換センサを用いる場合は、風車翼7の内部空間Sを暗室状に形成する。そして、環境検知センサ部材26を風車翼7の翼根部に固定し、その光検知方向(受光部)を翼先端側に指向させるのが好ましい。また、環境検知センサ部材26として圧電変換センサを用いる場合は、風車翼7の内部空間Sを気密室状に形成し、環境検知センサ部材26を内部空間Sの内壁に固定する。
【0035】
また、環境検知センサ部材26から延出するハーネス27が、例えばナセル5の内部に設置されたナセル側制御装置29に接続されている。風車翼7と共に回転する環境検知センサ部材26と、回転しないナセル側制御装置29との間における電気接続は、避雷導線18,19の場合と同様にスリップリングを用いた有線通信としてもよいし、非接触通信(無線通信等)にしてもよい。ナセル側制御装置29と、先述の地上側制御装置23との間も、有線通信、または無線通信により接続されている。
【0036】
ナセル側制御装置29と地上側制御装置23は、落雷検出装置Aの制御手段として機能するものであり、環境検知センサ部材26から出力される電気信号を受信した場合に、風車翼7が落雷を受けて破損したと判定し、落雷対処措置を取る。この落雷対処措置としては、風力発電装置1の運転停止、環境検知センサ部材26の設置位置に基づく落雷箇所の判定と記憶、管理者への報知等である。環境検知センサ部材26は、各風車翼7に少なくとも1基ずつ設置されているため、特定の環境検知センサ部材26から電気信号の入力があった場合には、その環境検知センサ部材26が設けられた特定の風車翼7が落雷を受けたことを意味し、地上側制御装置23が風力発電装置から離れた遠隔地に設置されていても、落雷を受けた風車翼7を特定することができる。
【0037】
以上のように構成された落雷検出装置Aを備えた風力発電装置1において、3枚の風車翼7のいずれかが落雷を受け、穴が開いたり、折れたりして破損した場合には、図3に示すように、この落雷破損部から、風車翼7の内部空間Sに、落雷の光、または外光が進入すると同時に、落雷により瞬間的に高まった外部圧力が進入し、風車翼7の内部環境が大きく変化する。そして、この内部環境の変化が環境検知センサ部材26に検知される。
【0038】
例えば、環境検知センサ部材26が光電変換センサであり、風車翼7の内部空間Sが暗室状に形成されている場合には、落雷破損部から外光が入ることにより、落雷前まで暗室であった内部空間Sが明るくなるため、環境検知センサ部材26(光電変換センサ)が受光量の増大を検知する。また、環境検知センサ部材26が圧電変換センサであり、風車翼7の内部空間Sが気密室状に形成されている場合には、落雷破損部から外圧が入ることにより、内部空間Sの内圧が急上昇するため、環境検知センサ部材26(圧電変換センサ)が圧力の増大を検知する。
【0039】
そして、環境検知センサ部材26は、このように検知した内部空間Sの環境変化を電気信号に変換してナセル側制御装置29に出力し、これをナセル側制御装置29が地上側制御装置23に伝送する。ナセル側制御装置29および地上側制御装置23は、前述のような落雷対処措置を取り、まず風力発電装置1の運転が停止され、さらに環境検知センサ部材26の設置位置に基づく落雷箇所の判定(被雷した風車翼7の特定)と記憶、管理者への報知等がなされる。このため、落雷があったことが迅速に検知され、風力発電装置1自体およびその周囲に対する安全が確保されるとともに、風力発電装置1の管理者は落雷が発生したことを即座に認知でき、点検、破損部分の補修といった作業を迅速に開始することができる。
【0040】
上記のように、風車翼7の内部空間Sの環境の変化を環境検知センサ部材26で監視する構成とすることにより、落雷検出装置Aを比較的簡素かつ軽量な構成にすることができる。このため、簡素で安価、かつ風力発電装置1に適した信頼性の高い構造により、落雷があったことを確実に判定することができる。環境検知センサ部材26として光電変換センサを用いた場合には、落雷時のみならず、例えば風車翼7に鳥や飛行物体等が衝突して風車翼7が破損したような場合についても破損を検知することができる。
【0041】
ところで、環境検知センサ部材26として圧電変換センサを用いる場合には、もともと風車翼7の内部空間S内では、風力発電装置1の通常運転に伴う風車翼7の回転やピッチ変動に伴う緩い圧力変動(定常変動分)があるため、環境検知センサ部材26(圧電変換センサ)から出力された信号を、例えばナセル側制御装置29内に設置されたオシロスコープに一旦転送し、ここで例えばハイパスフィルタにより、緩い圧力変動分をキャンセルする信号処理を行うことが好ましい。このような制御を行うことにより、定常変動分である緩い圧力変動を環境検知センサ部材26が感知しても、このような緩い圧力変動分は無視されるため、実際には風車翼7に着雷していないのに着雷したと誤判定が下されることを防止し、落雷検出装置Aの信頼性を格段に高めることができる。
【0042】
図4は、落雷検出装置Aの制御の流れをフローチャートで示した図である。この制御の開始後、まずステップS1でロゴスキーコイルを用いた落雷検知部21からの信号受信があるか否かが判定され、このステップS1が肯定判定の場合は、ステップS6に移行し、ナセル側制御装置29および地上側制御装置23により、運転停止、落雷箇所の判定、管理者への報知といった落雷対処措置が取られる。
【0043】
また、ステップS1が否定判定の場合は、ステップS2に移行し、環境検知センサ部材26からの信号受信があるか否かが判定され、このステップS2が否定判定の場合は、落雷が起きていないということになり、ステップS1に戻り、以後ステップS1とステップS2が反復される。
【0044】
ステップS2が肯定判定であって、環境検知センサ部材26として光電変換センサが用いられている場合には、ステップS3〜S5が省かれてステップS6に移行し、ナセル側制御装置29および地上側制御装置23により、運転停止、落雷箇所の判定、管理者への報知といった落雷対処措置が取られ、制御が終了する。
【0045】
また、ステップS2が肯定判定であって、環境検知センサ部材26として圧電変換センサが用いられている場合には、ステップS3に移行し、環境検知センサ部材26からの信号がオシロスコープに転送され、次にステップS4に移行してハイパスフィルタにより緩い圧力変動分(定常変動分)をキャンセルする信号処理がなされる。
【0046】
次に、ステップS5に移行し、上記の信号処理を行った後に、まだ圧力変動を示す信号成分が検出されるか否か、即ち本当に落雷による圧力変動か否かが判定される。このステップS5が肯定判定であればステップS6に移行し、ナセル側制御装置29および地上側制御装置23により、運転停止、落雷箇所の判定、管理者への報知といった落雷対処措置が取られて制御が終了する。
【0047】
また、ステップS5が否定判定となった場合、例えば落雷ではなく強風による風車翼7の撓みに起因する圧力変動を環境検知センサ部材26が誤検知したような場合には、ステップS1に戻り、以下の制御が反復される。
【0048】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態である落雷検出装置Bが設置された風車翼7の斜視図である。この落雷検出装置Bでは、風車翼7の内部空間Sが隔壁31によって複数の分割室Sa,Sb,Scに仕切られ、これら各々の分割室Sa,Sb,Scにそれぞれ環境検知センサ部材26a,26b,26cが設置されている。これらの環境検知センサ部材26a,26b,26cとしては、第1実施形態の落雷検出装置Aと同様に、光電変換センサや圧電変換センサが用いられる。そして、これらの環境検知センサ部材26a,26b,26cの各々が分割室Sa,Sb,Scの環境変化、即ち明るさや圧力の変化に応じて固有の電気信号を出力するようになっており、ナセル側制御装置29および地上側制御装置23はこれらの電気信号を識別して、落雷箇所を判定する。
【0049】
つまり、図6に示すように、風車翼7の内部空間Sに画成された複数の分割室Sa,Sb,Scのうち、例えば分割室Sbの位置に落雷した場合、この分割室Sbにおいてのみ、内部の明るさや圧力といった環境が変化し、この環境の変化を、分割室Sbに設置された環境検知センサ部材26bのみが検知し、その検知信号をナセル側制御装置29に出力する。他の分割室Sa,Scでは環境変化が起きないため、他の環境検知センサ部材26a,26cからは検知信号が出力されない。このため、ナセル側制御装置29および地上側制御装置23は、電気信号を出力した環境検知センサ部材26bの位置情報から、落雷を受けた分割室Sbの位置を容易に特定でき、落雷箇所を分割室Sbと特定することができる。
【0050】
以上のように構成された第1実施形態の落雷検出装置Aまたは第2実施形態の落雷検出装置Bを風車翼7(風車回転翼8)に適用することにより、簡素で安価、かつ信頼性の高い構造によって、風車翼7への落雷の有無と、落雷箇所を判定することができる。なお、上記第1および第2実施形態では、空洞構造体として風車翼7を例示したが、ナセル5等、他の部分の空洞構造体にも落雷検出装置AまたはBを適用することができる。
【0051】
また、上記各実施形態では、風車翼7のような空洞構造体の内部空間Sにおける環境変化の例として、明るさの変化や圧力の変化を例示し、これを検知する環境検知センサ部材26として光電変換センサや圧電変換センサを示したが、これらに限らず、落雷時における他の種の環境変化を検知するセンサを用いてもよい。例えば、音量センサを用いて落雷時の大音響を検知させたり、落雷につきものの異臭を検知する臭気検出センサとしてもよい。また、例えば風車翼7のような空洞構造体の内部空間Sに酸素成分を有さない気体を封入しておき、空洞構造体の内部に環境検知センサ部材26としてO2センサを設置し、空洞構造体の外被が破損して内部空間Sに外気が流入した場合に、外気に含まれる酸素成分をO2センサに検知させて外被の破損を検出させるようにしてもよい。
【0052】
このように、環境検知センサ部材26として多種多様なセンサ類を使用できるため、落雷検出装置A,Bの設計が容易であり、しかも複数種類のセンサ手段を並行して用いることにより、万一1つのセンサが機能を果たさなくても、他のセンサにより落雷が検知されるので、確実な落雷検知性能を発揮することができる。
【0053】
ところで、本発明に係る落雷検出装置は、風力発電装置の風車回転翼のみに限らず、他の種の風車回転翼にも適用でき、さらには風力発電装置のみならず、他の建造物や移動体等にも幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 風力発電装置(機械作動物)
4 タワー
5 ナセル
6 ロータヘッド
7 風車翼(空洞構造体)
8 風車回転翼
11 発電機
14 避雷針
17 レセプタ
18,19 避雷導線
21 落雷検知部
23 地上側制御装置(制御手段)
26,26a,26b,26c 環境検知センサ部材(環境変化検知手段)
29 ナセル側制御装置(制御手段)
A,B 落雷検出装置
31 隔壁
S 内部空間
Sa,Sb,Sc 分割室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞構造体に落雷し、該空洞構造体が破損した場合における該空洞構造体の内部空間の環境変化を検知し、この環境変化を電気信号に変換して出力する環境変化検知手段と、
前記電気信号を受信し、落雷があったと判定して落雷対処措置を取る制御手段と、を備えてなることを特徴とする空洞構造体の落雷検出装置。
【請求項2】
前記空洞構造体が機械作動物の構成部材である場合、前記落雷対処措置としては、前記機械作動物の運転停止、落雷箇所の判定、管理者への報知、が含まれることを特徴とする請求項1に記載の空洞構造体の落雷検出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記環境変化検知手段から出力される前記電気信号のうち、前記機械作動物の通常運転に伴う定常変動分をキャンセルする信号処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の空洞構造体の落雷検出装置。
【請求項4】
前記空洞構造体の内部空間が隔壁で複数の分割室に仕切られ、これら各々の分割室に前記環境変化検知手段がそれぞれ設けられ、これらの環境変化検知手段の各々が個別に、前記分割室の環境が変化した場合に電気信号を前記制御手段に出力し、前記制御手段はこれらの電気信号を識別して落雷箇所を判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空洞構造体の落雷検出装置。
【請求項5】
前記環境変化検知手段は光電変換センサであり、暗室状に形成された前記空洞構造体の内部空間に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空洞構造体の落雷検出装置。
【請求項6】
前記環境変化検知手段は圧電変換センサであり、気密室状に形成された前記空洞構造体の内部空間に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空洞構造体の落雷検出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の空洞構造体の落雷検出装置を備えたことを特徴とする風車回転翼。
【請求項8】
請求項7に記載の風車回転翼を備えたことを特徴とする風力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117448(P2012−117448A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267717(P2010−267717)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】