説明

空線信号検出装置及び空線信号検出方法

【課題】処理負担の増大を抑制すると同時に、正確かつ速やかに空線信号を検出する。
【解決手段】相関演算部2は、フィルタ処理部13から出力される一連のデジタルデータと空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形データとの相関値をサンプリング周期SPで算出する。スペクトル演算部3は、相関演算部2から出力された相関値のパワースペクトルをサンプリング周期SP毎に算出する。判別部6は、スペクトル演算部3から出力された相関パワーが第1の閾値TH1以上である場合、入力信号が空線信号であると判別する。判別部7は、スペクトル演算部3から出力された相関パワーが第1の閾値TH1未満、かつ、第1の閾値TH1未満の第2の閾値TH2以上の状態が所定期間以上継続した場合、入力信号が空線信号であると判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通話中でないことを示す空線信号を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の無線機であれば、無音状態のとき、通話が無いと認識されるが、それでは無線機の故障で無音状態になっているのか、単に通話が行われていないために無音状態になっているのかの区別をつけることができなくなってしまう。特に鉄道においては、安全性を確保する観点から、無線機が故障して列車乗務員と運転指令所とが直接連絡をとることができなくなる事態を回避することが重要となる。そこで、列車等に用いられる無線通信においては、列車や無線局は空線信号を送信することで、自身が通話中でないことを通話先に分からせている。ここで、空線信号とは、連続送信方式の基地局と通信する複信方式や半複信方式の無線局に、現在通話が行われていないことを分からせるために送出される信号である。
【0003】
非特許文献1には、2280Hzの空線信号をマイコンを用いて検出する技術が開示されている。特許文献1には、受信電界強度が低い場合でも、正確にトーン信号の有無を検出すること目的として、減算器6からの出力信号が第1の閾値以上であり、その状態が所定時間継続するとトーン信号が有ると判別し、減算器6からの出力信号が第1の閾値未満の第2の閾値以下となった場合に、トーン信号が無いと判別する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−163748号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】インテリジェント空線信号キャンセラーの製作(http://www.kansai-event.com/kinomayoi/akisen/AKISEN.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1には、入力信号のレベルから空線信号を検出することについての具体的な開示がなされていない。また、特許文献1では、第1及び第2の閾値の2つの閾値が用いられているが、空線信号が有りの検出に使用されているのは第1の閾値のみであり、第2の閾値は、一度、空線信号が有りと判断された後で空線信号が無くなったことを検出するために用いられており、空線信号が有ることの検出には用いられていない。
【0007】
また、特許文献1では、入力されたトーン信号が高レベルであり、トーン信号が入力されていることが明白な場合であっても、第1の閾値を超える状態が所定時間継続されなければ、トーン信号が有りと判断されないため、トーン信号を速やかに検出することができないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、処理負担の増大を抑制すると同時に、正確かつ速やかに空線信号を検出することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一局面による空線信号検出装置は、入力信号を受信する受信部と、空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形信号と前記入力信号との相関を示す相関データを所定のサンプリング周期で算出する相関部と、前記相関部により算出された相関データが第1の閾値以上である場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第1の判別部と、前記相関部により算出された相関データが前記第1の閾値未満、かつ、前記第1の閾値未満の第2の閾値以上の状態が所定期間以上継続した場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第2の判別部とを備えている。
【0010】
また、本発明の別の一局面による空線信号検出方法は、入力信号を受信する受信ステップと、空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形信号と前記入力信号との相関を示す相関データを所定のサンプリング周期で算出する相関ステップと、前記相関ステップにより算出された相関データが第1の閾値以上である場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第1の判別ステップと、前記相関ステップにより算出された相関データが前記第1の閾値未満、かつ、前記第1の閾値未満の第2の閾値以上の状態が所定期間以上継続した場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第2の判別ステップとを備える。
【0011】
これらの構成によれば、空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形信号と入力信号との相関データが所定のサンプリング周期で算出されている。そして、相関データが第1の閾値以上である場合、入力信号が空線信号であると判別される。そのため、基本波形信号との相関が高く、入力信号が空線信号であることが明らかな場合は、空線信号を速やかに検出することができる。
【0012】
一方、相関データが第2の閾値以上の場合は、この状態が所定期間、継続された場合に、入力信号が空線信号であると判別されている。そのため、基本波形信号との相関がそれほど高くない場合は、空線信号の有無の判断が慎重に行われ、空線信号を精度良く検出することができる。また、第1及び第2の閾値と相関データとを比較するというような閾値処理が実行されているため、処理負担を増大させることなく、正確、かつ速やかに空線信号を検出することができる。
【0013】
(2)前記受信部は、前記入力信号から前記空線信号の周波数帯域の信号成分を抽出するフィルタを含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、空線信号を含む周波数帯域の信号成分が抽出されているため、空線信号をより、正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、処理負担を増大させることなく、正確、かつ速やかに空線信号を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態による空線信号検出装置が適用される無線装置のブロック図を示している。
【図2】(A)、(B)は、本発明の実施の形態による空線信号検出装置の処理を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の形態による空線信号検出装置が適用される無線装置のブロック図を示している。この無線装置は、例えば、例えば列車又は列車の運行を管理する運転司令所に設置される無線装置であり、受信部1、相関演算部2(相関部の一例)、スペクトル演算部3(相関部の一例)、サンプリング信号生成部4、基本波形データ記憶部5、判別部6(第1の判別部の一例)、判別部7(第2の判別部の一例)、及びタイマー8を備えている。なお、図1においては、本発明に関連する部分のブロックのみを示し、他のブロックは図示を省略している。
【0018】
受信部1は、列車又は運転指令所に設置された無線装置から送信される無線信号を入力信号として受信し、ローパスフィルタ(LPF)11、アナログデジタル変換部(ADC)12、及びフィルタ処理部13を備えている。LPF11は、入力信号から空線信号の周波数帯域の信号成分を抽出するフィルタである。空線信号の周波数としては、鉄道会社が採用する無線方式によって相違しており、また、同じ鉄道会社であっても、列車に設置される場合、或いは運転司令所に設置される場合によっても相違しており、例えば、2280Hz程度の値が採用されている。したがって、LPF11は、空線信号の周波数を含む周波数帯域の信号成分を入力信号から抽出するものを採用すればよい。
【0019】
ADC12は、サンプリング信号生成部4により生成されたサンプリング信号にしたがって、所定のサンプリング周期SPでLPF11から出力された入力信号を標本化及び量子化してアナログデジタル変換する。これにより、ADC12から所定ビットのデジタルデータがサンプリング周期SP毎に時系列で出力される。
【0020】
フィルタ処理部13は、検出対象となる空線信号の周波数がピークとなるような急峻な減衰特性を有する所定サイズのデジタルフィルタを予め記憶しており、このデジタルフィルタを用いてADC12から出力される一連のデジタルデータに対してデジタルフィルタ処理を実行する。ここで、デジタルフィルタは所定サイズを有し、フィルタ処理部13は、ADC12から時系列に出力される所定サイズに相当する個数のデジタルデータに対してデジタルフィルタ処理をサンプリング周期SP毎に実行する。
【0021】
サンプリング信号生成部4は、サンプリング周期SPと同じ周波数を有するクロック信号をサンプリング信号として生成し、ADC12及び基本波形データ記憶部5に出力する。
【0022】
相関演算部2は、フィルタ処理部13から出力される一連のデジタルデータと空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形データとの相関値をサンプリング周期SPで算出する。ここで、相関演算部2は、例えば、サンプリング周期SP毎に基本波形データが入力され、入力された基本波形データのサンプリング数と同数のデジタルデータと、基本波形データとを用いた所定の相関演算処理を行うことで相関値を算出する。
【0023】
基本波形データ記憶部5は、基本波形データを記憶しており、サンプリング信号生成部4から出力されるサンプリング信号にしたがって、サンプリング周期SP毎に、基本波形データを相関演算部2に出力する。ここで、基本波形データは、空線信号の例えば一周期分をサンプリング周期SPでサンプリングすることで得られるデジタルデータ群によって構成されている。なお、空線信号は例えば2280Hzの正弦波である。
【0024】
スペクトル演算部3は、相関演算部2から出力された相関値のパワースペクトルをサンプリング周期SP毎に算出する。ここで、入力信号が空線信号である場合、相関演算部2により算出される相関値は入力信号と基本波形データとが一致する場合に高い値が現れる。したがって、入力信号が空線信号である場合、スペクトル演算部3により算出されるパワースペクトルは、入力信号が基本波形データと一致する場合に高いパワーが得られる。そして、スペクトル演算部3は、空線信号の周波数又はその周波数を含む所定の周波数帯域に現れたパワーを相関パワー(相関データの一例)として特定し、特定した相関パワーをサンプリング周期SP毎に判別部6,7に出力する。
【0025】
判別部6は、スペクトル演算部3から出力された相関パワーが第1の閾値TH1以上である場合、入力信号が空線信号であると判別する。
【0026】
判別部7は、スペクトル演算部3から出力された相関パワーが第1の閾値TH1未満、かつ、第1の閾値TH1未満の第2の閾値TH2以上の状態が所定期間以上継続した場合、入力信号が空線信号であると判別する。
【0027】
なお、相関パワーのレベルが例えば100段階で表せるとした場合、第1の閾値TH1は第2の閾値TH2よりも例えば30段階程度高い値を採用することができる。また、所定期間としては、無線装置の設置環境によっても異なるが、例えば60ms程度の値を採用することができる。
【0028】
ここで、判別部7は、相関パワーが第1の閾値TH1未満、かつ第2の閾値TH2以上の状態を検出すると、タイマー8に計時動作を開始させ、計時時間がカウントアップされる毎にタイマー8からの計時時間が入力される。そして、判別部7は、タイマー8による計時時間が所定期間TM経過するまでに、相関パワーが第2の閾値TH2未満となった場合、入力信号は空線信号でないと判別してタイマー8による計時動作を終了させ、タイマー8による計時時間が所定期間TM経過したときに、相関パワーが第2の閾値TH2以上の場合、入力信号は空線信号であると判別する。
【0029】
なお、判別部7は、相関パワーが第1の閾値TH1未満、かつ第2の閾値TH2以上の状態を検出して、タイマー8の計時動作を開始させた後、所定期間TMが経過するまでに、相関パワーが第1の閾値TH1以上になった場合、判別部6により入力信号が空線信号であると判別されて、空線信号の有無の判別処理を継続する必要がなくなるため、計時動作を終了させる。
【0030】
また、判別部6は、入力信号が空線信号であると判別した場合、そのことを判別部7に通知するようにしてもよい。これにより、判別部7は、現在、空線信号を受信していることを認識することができる。この場合、判別部7は、上記の判定処理を停止させてもよい。
【0031】
また、判別部7は、入力信号が空線信号であると判定した場合、そのことを判別部6に通知するようにしてもよい。これにより、判別部6は、現在、空線信号を受信していることを認識することができる。この場合、判別部6は、上記の判定処理を停止させてもよい。
【0032】
また、判別部6又は判別部7は、空線信号が受信中である場合において、相関パワーが例えば第1の閾値TH1又は第2の閾値TH2未満となる状態がある期間継続した場合、空線信号の受信が終了したと判定するようにしてもよい。また、判別部6又は判別部7は、空線信号の受信が終了したと判定した場合、そのことを他の判別部に通知するようにしてもよい。この場合、判別部6及び判別部7は、上記の空線信号の有無の判別処理を再開させればよい。
【0033】
図2(A)、(B)は、本発明の実施の形態による空線信号検出装置の処理を説明するための波形図であり、(A)は入力信号が空線信号であると判別される場合を示し、(B)は入力信号が空線信号でないと判別される場合を示している。
【0034】
図2に示す実線は、スペクトル演算部3からサンプリング周期SPで出力される相関パワーの波形を示している。図2(A)に示す波形W1は時刻TM1において、第1の閾値TH1以上となっている。そのため、判別部6は、波形W1が第1の閾値TH1以上になる時刻TM1において、速やかに入力信号が空線信号であると判別する。
【0035】
また、図2(A)に示す波形W2は、時刻TM2において第2の閾値TH2以上になっているが、第1の閾値TH1未満である。そして、時刻TM2から所定期間TMが経過する時刻TM3まで、波形W2は第1の閾値TH1未満、かつ、第2の閾値TH2以上の状態を維持している。つまり、時刻TM2から時刻TM3が経過するまで、波形W2は第2の閾値TH2未満になっていない。これにより、判別部7は、時刻TM3において、入力信号が空線信号であると判別する。
【0036】
図2(B)に示す波形W3は、時刻TM4において第1の閾値TH1以上にはなっていないが、第2の閾値TH2以上となっている。そのため、判別部7は、タイマー8に計時動作を開始させる。しかしながら、波形W3は、所定期間TMが経過する時刻よりも前の時刻TM5において第2の閾値TH2未満になっている。そのため、判別部7は、時刻TM5において、入力信号は空線信号でないと判別し、タイマー8による計時動作を終了させる。
【0037】
なお、図1に示す無線装置は、入力信号が空線信号であると判別した場合、スピーカから音声が出力されることを阻止する空線キャンセラー機能を備えているため、空線信号が、スピーカから出力されることが防止されている。
【0038】
このように、上記空線信号検出装置によれば、空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形データと入力信号との相関パワーが所定のサンプリング周期で算出されている。そして、相関パワーが第1の閾値TH1以上である場合、入力信号が空線信号であると判別される。そのため、基本波形データとの相関が高く、入力信号が空線信号であることが明らかな場合は、空線信号を速やかに検出することができる。
【0039】
一方、相関パワーが第2の閾値TH2以上の場合は、この状態が所定期間TM、継続された場合に、入力信号が空線信号であると判別されている。そのため、基本波形データとの相関がそれほど高くない場合は、空線信号の有無の判断が慎重に行われ、空線信号を精度良く検出することができる。また、第1及び第2の閾値TH1,TH2と相関パワーとを比較するというような閾値処理が実行されているため、処理負担を増大させることなく、正確、かつ速やかに空線信号を検出することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 受信部
2 相関演算部(相関部)
3 スペクトル演算部(相関部)
4 サンプリング信号生成部
5 基本波形データ記憶部
6,7 判別部(第1及び第2の判別部)
8 タイマー
SP サンプリング周期
TH1 第1の閾値
TH2 第2の閾値
TM 所定期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を受信する受信部と、
空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形信号と前記入力信号との相関を示す相関データを所定のサンプリング周期で算出する相関部と、
前記相関部により算出された相関データが第1の閾値以上である場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第1の判別部と、
前記相関部により算出された相関データが前記第1の閾値未満、かつ、前記第1の閾値未満の第2の閾値以上の状態が所定期間以上継続した場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第2の判別部とを備える空線信号検出装置。
【請求項2】
前記受信部は、前記入力信号から前記空線信号の周波数帯域の信号成分を抽出するフィルタを含む請求項1記載の空線信号検出装置。
【請求項3】
入力信号を受信する受信ステップと、
空線信号の波形パターンを示す所定の基本波形信号と前記入力信号との相関を示す相関データを所定のサンプリング周期で算出する相関ステップと、
前記相関ステップにより算出された相関データが第1の閾値以上である場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第1の判別ステップと、
前記相関ステップにより算出された相関データが前記第1の閾値未満、かつ、前記第1の閾値未満の第2の閾値以上の状態が所定期間以上継続した場合、前記入力信号が空線信号であると判別する第2の判別ステップとを備える空線信号検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−151435(P2011−151435A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8698(P2010−8698)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】