説明

空調改善システム

【課題】空調改善システムにおいて空調の効率を改善すること。
【解決手段】温度測定エリア1内に敷設された光ファイバ24に接続されて温度測定エリア1内の実温度分布Tを測定する光ファイバ式温度測定部30と、温度測定エリア1内に設置された空調機3のルーバ7の向きの補正量(Δxn、Δym)を算出する算出部41とを備え、算出部41が、ルーバ7の向きを補正する前と比較して、温度測定エリア1の目標温度分布T0と実温度分布TとのずれSが小さくなるように補正量(Δxn、Δym)を算出することを特徴とする空調改善システムによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調改善システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止に対する関心の高まりに伴い、社会の色々な場面において省エネルギ化が進められている。省エネルギ化の対象は、家庭用電化製品やオフィスビル等のように様々である。
【0003】
なかでも、インターネットデータセンタ(IDC)は、ブロードバンド通信のニーズに応えるべくその数が増大する傾向にあるため、省エネルギ化の実益が大きく見込まれる。
【0004】
IDCには多数のサーバが設置され、その各々が空調機で冷却される。よって、その空調機の冷却効率を向上させれば、IDCの省エネルギ化に資することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−59821号公報
【特許文献2】特開2009−139010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空調改善システムにおいて、空調の効率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の開示の一観点によれば、温度測定エリア内に敷設された光ファイバに接続されて前記温度測定エリア内の実温度分布を測定する光ファイバ式温度測定部と、前記温度測定エリア内に設置された空調機のルーバの向きの補正量を算出する算出部とを備え、前記算出部が、前記ルーバの向きを補正する前と比較して、前記温度測定エリアの目標温度分布と前記実温度分布とのずれが小さくなるように前記補正量を算出する空調改善システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
以下の開示によれば、温度測定エリアの目標温度分布と実温度分布とのずれが小さくなるように算出部がルーバの向きの補正量を算出する。そして、その補正量だけルーバの向きを補正することにより、空調機の消費電力を増大させることなく実温度分布を目標温度分布に近づけることができ、空調効率の改善を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、温度測定エリアの模式図である。
【図2】図2は、光ファイバ式温度測定部の構成図である。
【図3】図3は、後方散乱光のスペクトルを示す図である。
【図4】図4は、ラマン散乱光の強度の時系列分布の一例を示す図である。
【図5】図5は、図4のラマン散乱光の強度の時系列分布を基にI1/I2比を時間毎に計算し、且つ図4の横軸(時間)を距離に換算し、縦軸(信号強度)を温度に換算した結果を示す図である。
【図6】図6は、温度測定エリア内におけるサーバの配置例と光ファイバの敷設例とを示す平面図である。
【図7】図7は、温度測定エリアの側面図である。
【図8】図8は、サーバの扉面近傍における光ファイバの敷設例を示す平面図である。
【図9】図9は、第1の空調機の側面図である。
【図10】図10は、本実施形態に係る空調改善システムの構成図である。
【図11】図11は、風向の定義を説明するための模式図である。
【図12】図12は、風向補正量−温度分布テーブルTBの模式図である。
【図13】図13(a)は、撮像部で撮像された実画像を模式的に示す図であり、図13(b)は、ルーバの向きを補正した場合に撮像部で撮像されると想定される仮想画像を模式的に示す図であり、図13(c)は、実画像と仮想画像とを合成してなる第1の合成画像を模式的に示す図である。
【図14】図14(a)は、ルーバの向きを補正する前の温度測定エリアの実温度分布を模式的に示す図であり、図14(b)は、第1の空調機のルーバの向きを補正した後の温度測定エリアの実温度分布を模式的に示す図である。
【図15】図15(a)は、光源を利用する場合の実画像を模式的に示す図であり、図15(b)は、その実画像を利用して得られた第2の合成画像を模式的に示す図である。
【図16】図16は、本実施形態に係る空調改善方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、IDCやオフィスビルにおける空調を改善する空調改善システムについて説明する。
【0011】
図1は、温度測定エリア1の模式図である。
【0012】
温度測定エリア1は、例えばIDCであって、その内部には複数のサーバ2と、第1の空調機3と、第2の空調機4とが設けられる。なお、温度測定エリア1はIDCに限定されず、空調を要するオフィスであってもよい。
【0013】
第1の空調機3と第2の空調機4は冷気Cを生成し、発熱している各サーバ2がその冷気Cに曝されることで冷却される。
【0014】
第1の空調機3と第2の空調機4としては市販のエアコンを使用するのが好適であり、本実施形態ではダイキン製のFVYCP280Mをこれらの空調機3、4として使用する。
【0015】
なお、空調機の台数は2台に限定されず、1台でもよいし、3台以上でもよい。
【0016】
目標としている温度にまで各サーバ2が冷却されているかどうかを判断するには、各サーバ2の表面やその内部の実温度を測定するのが有用である。そこで、本実施形態では、そのような実温度を測定するための光ファイバ24を温度測定エリア1内に敷設すると共に、光ファイバ24の端部に光ファイバ式温度測定部30を接続する。
【0017】
光ファイバ24は特に限定されない。本実施形態では、光ファイバ24としてマルチモード・グレーデッドインデックス型石英光ファイバであるHFR-2Z-1(古河電工製)を使用する。なお、その光ファイバ24の外周はポリウレタン樹脂で被覆されている。
【0018】
また、光ファイバ式温度測定部30としては、ラマン散光式温度測定装置であるDTS800M(SENSA社製)を使用し得る。
【0019】
図2は、その光ファイバ式温度測定部30の構成図である。
【0020】
図2に示すように、光ファイバ式温度測定部30は、レーザ光源21と、コリメータレンズ22aと、コンデンサレンズ22bと、ビームスプリッタ23と、波長分離部25と、光検出器26とを有する。
【0021】
レーザ光源21からは、所定のパルス幅のレーザ光が一定の周期で出力される。このレーザ光は、コリメータレンズ22a、ビームスプリッタ23、及びコンデンサレンズ22bを通って光ファイバ24に進入する。
【0022】
なお、その光ファイバ24は、コア24aとその周囲に形成されたクラッド24bとを有する。
【0023】
光ファイバ24内に進入したレーザ光の一部は、コア24aの材料分子により後方散乱される。
【0024】
図3は、その後方散乱光のスペクトルを示す図である。
【0025】
図3に示すように、後方散乱光には、レイリー(Rayleigh)散乱光と、ブリルアン(Brillouin)散乱光と、ラマン(Raman)散乱光とが含まれる。レイリー散乱光は入射光と同一波長の光であり、ブリルアン散乱光及びラマン散乱光は入射波長からシフトした波長の光である。
【0026】
ラマン散乱光には、入射光よりも長波長側にシフトしたストークス光と、入射光よりも短波長側にシフトした反ストークス光とがある。ストークス光及び反ストークス光のシフト量はレーザ光の波長やコア24aの材料等にも依存するが、通常50nm程度である。
【0027】
また、ストークス光及び反ストークス光の強度はいずれも温度により変化するが、ストークス光は温度による変化量が小さく、反ストークス光は温度による変化量が大きい。すなわち、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいということができる。
【0028】
これらの後方散乱光は、図2の光ファイバ24を戻ってコンデンサレンズ22bを透過した後、ビームスプリッタ23により反射されて波長分離部25に進入する。
【0029】
波長分離部25は、波長に応じて光を透過又は反射する第1〜第3のビームスプリッタ31a、31b、31cと、特定の波長の光のみを透過する第1〜第3の光学フィルタ33a、33b、33cとを有する。更に、その波長分離部25は、上記の第1〜第3の光学フィルタ33a、33b、33cを透過した光をそれぞれ光検出器26の第1〜第3の受光部26a、26b、26cに集光する第1〜第3の集光レンズ34a、34b、34cを備える。
【0030】
波長分離部25に入射した光は、第1〜第3のビームスプリッタ31a、31b、31c、及び光学フィルタ33a、33b、33cによりレイリー散乱光、ストークス光、及び反ストークス光に分離され、第1〜第3の受光部26a、26b、26cに入力される。
【0031】
その結果、第1〜第3の受光部26a、26b、26cからはレイリー散乱光、ストークス光及び反ストークス光の強度に応じた信号が出力される。
【0032】
なお、光検出器26に入力される後方散乱光のパルス幅は光ファイバ24の長さに関係する。このため、レーザ光源21から出力されるレーザパルスの間隔は、各レーザパルスによる後方散乱光が重ならないように設定される。また、レーザ光のパワーが高すぎると誘導ラマン散乱状態になって正しい計測ができなくなる。このため、誘導ラマン散乱状態にならないようにレーザ光源21のパワーを制御するのが好ましい。
【0033】
上記したように、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいので、両者の比により後方散乱が発生した位置の温度を評価することができる。
【0034】
ストークス光及び反ストークス光の強度比は、入射光の角周波数をω0、光ファイバ中のオプティカルフォノンの角周波数をωk、プランク定数をh、ボルツマン定数をk、温度をTとしたときに、以下の(1)式により表わされる。
【0035】
【数1】

すなわち、ストークス光及び反ストークス光の強度比がわかれば、(1)式から後方散乱が発生した位置の温度を算出することができる。
【0036】
ところで、光ファイバ24内で発生した後方散乱光は、光ファイバ24を戻る間に減衰する。そのため、後方散乱が発生した位置における温度を正しく評価するためには、光の減衰を考慮するのが好ましい。
【0037】
図4は、横軸に時間をとり、縦軸に光検出器の受光部から出力される信号強度をとって、ラマン散乱光の強度の時系列分布の一例を示す図である。光ファイバ24にレーザパルスを入射した直後から一定の間、光検出器26にはストークス光及び反ストークス光が検出される。光ファイバの全長にわたって温度が均一の場合、レーザパルスが光ファイバに入射した時点を基準とすると、信号強度は時間の経過とともに減少する。この場合、横軸の時間は光ファイバの光源側端部から後方散乱が発生した位置までの距離を示しており、信号強度の経時的な減少は光ファイバによる光の減衰を示している。
【0038】
光ファイバの長さ方向にわたって温度が均一でない場合、例えば長さ方向に沿って高温部及び低温部が存在する場合は、ストークス光及び反ストークス光の信号強度は一様に減衰しない。
【0039】
図4に示すように、このように低温部と高温部が存在するとグラフに山と谷が現れる。図4において、ある時間tにおける反ストークス光の強度をI1、ストークス光の強度をI2とする。
【0040】
図5は、図4のラマン散乱光の強度の時系列分布を基にI1/I2比を時間毎に計算し、且つ図4の横軸(時間)を距離に換算し、縦軸(信号強度)を温度に換算した結果を示す図である。この図5に示すように、反ストークス光とストークス光との強度比(I1/I2)を計算することにより、光ファイバの長さ方向における温度分布を測定することができる。
【0041】
なお、後方散乱が発生した位置におけるラマン散乱光(ストークス光及び反ストークス光)の強度は温度により変化するが、レイリー散乱光の強度の温度依存性は無視することができるほど小さい。従って、レイリー散乱光の強度から後方散乱が発生した位置を特定し、その位置に応じて光検出器で検出したストークス光及び反ストークス光の強度を補正することが好ましい。
【0042】
このような光ファイバ式温度測定部30によれば、図1に示したサーバ2の表面近傍の空気の実温度測定できる。そのため、サーモグラフィ等の非接触温度センサのように温度の測定対象がサーバ2の表面に限定されるセンサと比較して、この光ファイバ式温度測定部30では、冷気Cの流れに伴う温度測定エリア1内の温度変化をリアルタイムに測定することができる。
【0043】
更に、熱電対やサーミスタ等のディスクリート型センサでは温度測定エリア1の温度分布を測定するのに極めて多数のセンサを配置する必要があるのに対し、光ファイバ式温度測定部30では光ファイバ24を敷設するだけで簡単に温度分布を測定できる。
【0044】
図6は、温度測定エリア1内におけるサーバ2の配置例と光ファイバ24の敷設例とを示す平面図である。そして、図7は、温度測定エリア1の側面図である。
【0045】
図6に示すように、光ファイバ24は、温度測定エリア1の天井面に敷設される。
【0046】
また、図7に示すように、光ファイバ24は各サーバ2の扉面に配される。
【0047】
図8は、サーバ2の扉面近傍における光ファイバ24の敷設例を示す平面図である。
【0048】
図8に示すように、光ファイバ24には、その敷設経路に沿って複数の温度測定点P(i、j)が間隔をおいて設定される。そして、これらの温度測定点P(i、j)は、約10cm程度の間隔ΔDをおいて行列状に設けられる。
【0049】
なお、P(i、j)において、iとjは、それぞれ行番号と列番号とを示し、いずれも任意の整数である。
【0050】
ところで、第1の空調機3と第2の空調機4により各サーバ2を効率的に冷却するには、これらの空調機3、4から出る冷気Cの風向、風量、及び温度等を最適化するのが有用である。
【0051】
図9は、第1の空調機3の側面図である。
【0052】
図9に示すように、第1の空調機3は、複数のルーバ7と角度調節器8とを有する。
【0053】
ルーバ7は、その向きが水平方向と鉛直方向に可動であって、冷気Cの風向を調節するのに使用される。ルーバ7の材料は特に限定されない。ルーバ7としては、金属板や樹脂板を使用し得る。
【0054】
角度調節器8は、ルーバ7に機械的に連結されており、ルーバ7の向きを自動的に調節するのに使用される。本実施形態では、角度調節器8として、オリエンタルモータ社製のステッピングモータ式変角装置であるDG85R-ASAADを使用する。
【0055】
なお、このように角度調節器8を利用せずに、ユーザが手動でルーバ7の向きを調節してもよい。
【0056】
そのルーバ7には撮像部9と点滅光源10が固定される。
【0057】
このうち、撮像部9は、ルーバ7と共に撮像方向Gが変わり、ルーバ7から見た温度測定エリア1の実画像を取得するに使用される。撮像部9として使用し得る撮像デバイスとしては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)型センサ、CMOS型センサ、及び撮像式センサ等があり、デバイスの大きさや感度を基準にしてこれらの中から適宜選択し得る。
【0058】
本実施形態では、画素数が130万のCCDカメラモジュールであるMCB304(SONY製)を撮像部9として使用する。
【0059】
そして、点滅光源10は、温度測定エリア1内の一点に点滅光Lを照射するものであって、半導体レーザ、ガスレーザ、高輝度LED、及び白熱電球等のいずれかを点滅光源10として使用し得る。
【0060】
これらのうち、半導体レーザは、複雑な光学系や電源の制御が不要であるため、点滅光源10の小型化と軽量化に有利である。点滅光源10として使用し得る半導体レーザとしては、例えば、IE-L532-3G-3-P1(共立電子産業製)がある。
【0061】
また、その点滅光源10は撮像部9と位置合わせされており、点滅光Lの照射位置は撮像部9で撮影された実画像の中心に一致する。
【0062】
冷気Cの風向は上記のようにルーバ7の向きによって調節されるが、調節の角度が1度だけ変わった場合でも第1の空調機3から数m〜数10m先では冷気Cの進路が大きく変わるので、ルーバ7の向きは各サーバ2を効率的に冷却するのに大きな影響を与える。
【0063】
ルーバ7の向きの調整方法として、向きの微調整と温度測定エリア1内の温度計測とを繰り返す方法もあるが、これでは数時間もの長時間を要し、大規模な事業所では更に数週間の時間を要する必要がある。
【0064】
そこで、本実施形態では、以下に説明するような空調改善システムを利用して、ルーバ7の向きを短時間で簡単に最適化する。
【0065】
図10は、本実施形態に係る空調改善システム40の構成図である。
【0066】
以下では、第1の空調機3を例にしながらルーバ7の向きの補正方法について説明するが、第2の空調機4についてもこれと同様の補正方法を採用し得る。
【0067】
この空調改善システム40は、撮像部9と、光源10と、算出部41、モニタ42と、光ファイバ式温度測定部30とを有する。
【0068】
算出部41は、サーバ等の電子計算機であって、ルーバ7の最適な向きを算出するのに使用される。また、後述のように、算出部41は、撮像部9から画像データを取り込むのにも使用されるため、画像処理用プロセッサが搭載されているサーバであるが好ましい。そのようなサーバとしては、例えば、富士通製のPRIMERGY TX200 S6がある。
【0069】
その算出部41には、温度測定部30から温度信号STが入力される。温度信号STは、複数の温度測定点P(i、j)(図8参照)の各々に、当該温度測定点P(i、j)における実温度Tijを対応付けてなる。このように対応付けられた複数の温度測定点P(i、j)と実温度Tijとを以下では実温度分布Tと呼ぶ。
【0070】
また、算出部41には、ハードディスク等の記憶部41aが設けられる。
【0071】
更に、撮像部9と算出部41とは第1の信号線43により接続される。そして、温度測定エリア1の実画像を表す実画像データSPが撮像部9から出力され、その実画像データSPが第1の信号線43を介して算出部41に入力される。
【0072】
なお、第1の信号線43と算出部41との間に画像入力ボードを設けてもよい。その画像入力ボードとしては、例えば、Unigraf製のUFG-05 4Eを使用し得る。
【0073】
算出部41にはモニタ42が接続されており、実画像データSPに基づいて生成された実画像がそのモニタ42に表示される。
【0074】
また、点滅光源10と算出部41とは第2の信号線44により接続される。算出部41は、0.5Hz程度の所定の周期のパルス電圧Vを生成し、そのパルス電圧Vが第2の信号線44を介して点滅光源10に入力され、点滅光源10が0.5Hz程度の周期で点滅する。
【0075】
更に、算出部41は、第3の信号線45を介して角度調節器8に接続されており、ルーバ7の向きを補正するルーバ制御信号SAを角度調節器8に対して出力する。
【0076】
次に、この空調改善システム40の原理について説明する。
【0077】
空調改善システム40は、ルーバ7の向きを補正することにより温度測定エリア1内の実温度分布を目標温度分布に近づけて、冷気Cにより各サーバ2を効果的に冷却するのに使用される。
【0078】
空調改善システム40で使用される目標温度分布は特に限定されない。但し、各サーバ2を効果的に冷却するという観点からすると、サーバ2の吸気面側に冷気Cを当ててサーバ2内に冷気Cを導入するのが好ましいため、各サーバ2の吸気面に冷気Cが当たっている場合に想定される温度分布を目標温度分布とするのが好適である。
【0079】
その目標温度分布を以下ではT0で表す。目標温度分布T0は、複数の温度測定点P(i、j)(図8参照)の各々に、当該温度測定点P(i、j)における目標温度T0ijを対応付けてなる。
【0080】
そして、温度測定点P(i、j)において実温度Tijが目標温度T0ijからどの程度ずれているかを示す指標として、温度勾配∇Tijを次の式(2)で定義する。
【0081】
【数2】

なお、式(2)において、ΔDは、図8に示したように、隣接する温度測定点P(i、j)同士の間隔である。また、Tijは、温度測定点(i、j)における実温度である。
【0082】
式(2)で定義される温度勾配∇Tijが0に近いほど、温度測定点P(i、j)における実温度Tijが目標温度T0ijに近いということになる。
【0083】
但し、一点P(i、j)において実温度が目標温度に近くても、他の温度測定点Pにおいては実温度が目標温度からずれていることも考えられる。そこで、実温度と目標温度とのずれを全ての点P(i、j)で考慮した指標として、次の式(3)で定義されるずれS(T, T0)を利用する。
【0084】
【数3】

ずれS(T, T0)が0に近いほど、全ての点P(i、j)で実温度が目標温度分布に近くなるため、実温度分布が目標温度分布に近いということになる。
【0085】
算出部41は、ずれS(T, T0)が最小になるようなルーバ7の向きの補正量を次のように算出する。
【0086】
図11は、風向W(x、y)の定義を説明するための模式図である。
【0087】
図11に示すように、各サーバ2の表面には仮想的にx−y直交座標系が設定される。そのx−y直交座標系において、x軸は水平方向に延在し、y軸は鉛直方向に延在する。
【0088】
この場合、風向W(x、y)は、第1の空調機3のルーバ7に任意に設定された基準点から出た冷気Cがサーバ2の表面に到達する点として定義される。
【0089】
そして、ルーバ7の向きの補正量(Δx、Δy)は、ルーバ7の向きを変えたときの風向W(x、y)のずれ量として定義される。
【0090】
図12は、補正量(Δx、Δy)の算出に使用する風向補正量−温度分布テーブルTBの模式図である。
【0091】
その風向補正量−温度分布テーブルTBは、算出部41の記憶部41a(図10参照)に予め格納されており、補正量(Δxn、Δym)に仮想温度分布Tvnmを対応付けてなる。なお、補正量(Δxn、Δym)の各成分は離散値であって、n、mはその離散値を特定する任意の整数である。
【0092】
仮想温度分布Tvnmは、現状の風向W(x、y)が(x+Δxn、y+Δym)に補正されたときに現状の実温度分布Tが変化して最終的に得られると想定される温度分布であって、温度測定点P(i、j)において仮想温度Tvnm;i,jを有する。
【0093】
そのような風向補正量−温度分布テーブルTBは、市販の熱流体シミュレーションソフトを用いて作成することができる。そのシミュレーションソフトを用いれば、様々な実温度分布Tを初期値にし、補正量(Δxn、Δym)をパラメータとすることで、上記の風向補正量−温度分布テーブルTBを作成することができる。
【0094】
本実施形態では、その熱流体シミュレーションソフトとして、6Sigma DC (Future Facilities製)を使用する。
【0095】
算出部41は、風向補正量−温度分布テーブルTBを参照しながら、式(3)を利用して仮想温度分布Tvnmと目標温度分布T0とのずれS(Tvnm, T0)が最も小さくなるような補正量(Δxn、Δym)を求める。
【0096】
その補正量(Δxn、Δym)だけルーバ7の向きを補正すれば、補正前と比較して、実温度分布Tと目標温度分布T0とのずれS(T, T0)が小さくなる。
【0097】
但し、ユーザが手動でルーバ7の向きを補正する場合、ユーザに補正量(Δxn、Δym)の数値だけを知らせても、ユーザが正確にルーバ7の向きを補正するのは困難である。
【0098】
そこで、本実施形態では、撮像部9で撮像された実画像を利用して、以下のようにユーザに補正量を認識させる。
【0099】
図13(a)は、撮像部9で撮像された実画像IMaを模式的に示す図である。
【0100】
この実画像IMaは、撮像部9から出力された実画像データSPに基づき、モニタ42に表示される。
【0101】
そして、算出部41は、実画像IMaの画像データを二値化することにより、温度測定エリア1内のサーバ2、壁、及び机等の特定のオブジェクトを認識する。
【0102】
一方、図13(b)は、補正量(Δxn、Δym)だけルーバ7の向きを補正した場合に撮像部9で撮像されると想定される仮想画像IMvを模式的に示す図である。
【0103】
算出部41は、実画像IMaで認識したオブジェクトを補正量(Δxn、Δym)だけずらすことで、モニタ42に仮想画像IMvを表示するのに要する仮想画像データを生成する。
【0104】
図13(c)は、実画像IMaと仮想画像IMvとを合成してなる第1の合成画像IMc1を模式的に示す図である。
【0105】
図13(c)に示すように、第1の合成画像IMc1では、実画像IMaと仮想画像IMvとがずれてモニタ42に表示される。そのずれ量は補正量(Δxn、Δym)に相当するので、ユーザは、現状のルーバ7の向きが目標温度分布を得るのにどの程度ずれているのかを視覚的に把握することができる。
【0106】
更に、ルーバ7に撮像部9を固定したため、ルーバ7の向きを変えるとそれに応じて実画像IMaも変わる。そのため、ユーザは、モニタ42(図10参照)を見ながら実画像IMaと仮想画像IMvの各々のオブジェクト同士が重なるようにルーバ7を手動で変えることにより、ルーバ7の向きを補正量(Δxn、Δym)だけ簡単に短時間で補正することができる。
【0107】
なお、第1の合成画像IMc1の画像データScは、上記の実画像IMaと仮想画像IMvを利用して算出部41が生成する。
【0108】
図14(a)は、ルーバ7の向きを補正する前の温度測定エリア1の実温度分布を模式的に示す図である。そして、図14(b)は、上記のようにして第1の空調機3のルーバ7の向きを補正した後の温度測定エリア1の実温度分布を模式的に示す図である。
【0109】
図14(a)、(b)に示すように、補正前と比較して、補正後ではサーバ2の吸気面2dの温度を低下させることができる。
【0110】
また、上記に代えて、次のように点滅光源10を利用してユーザに補正量(Δxn、Δym)を知らせてもよい。
【0111】
図15(a)は、光源21を利用する場合の実画像IMaを模式的に示す図である。
【0112】
図15(a)に示されるように、実画像IMaでは、点滅光源10から出た点滅光L(図9参照)が輝点Q1として現れる。
【0113】
図15(b)は、その実画像IMaを利用して得られた第2の合成画像IMc2を模式的に示す図である。第2の合成画像IMc2は、上記の実画像IMaに、補正量(Δxn、Δym)だけルーバ7の向きを補正したときに点滅光源10で照射されると想定される温度測定エリア1内の一点Q2を重ね合わせてなる。
【0114】
この場合、各点Q1、Q2のずれ量が補正量(Δxn、Δym)に相当する。そのため、ユーザは、各点Q1、Q2のずれ量を基にして、現状のルーバ7の向きが目標温度分布を得るのにどの程度ずれているのかを視覚的に把握することができる。
【0115】
更に、点滅光源10から出る点滅光Lが所定の周期で点滅するので、合成画像IMc2内において輝点Q1がどこにあるのかをユーザが簡単に識別できる。
【0116】
そして、一点Q2が輝点Q1に重なるようにルーバ7を手動で変えることで、にルーバ7の向きを補正量(Δxn、Δym)だけ簡単に補正することができる。
【0117】
このような原理に基づき、本実施形態に係る空調改善システム40では、次のようにしてルーバ7の最適な向きを算出する。
【0118】
図16は、本実施形態に係る空調改善方法のフローチャートである。
【0119】
最初のステップP1では、光ファイバ式温度測定部30を利用して、温度測定エリア1の実温度分布Tを測定する。その測定結果は、実温度データSTとして算出部41に取り込まれる。
【0120】
なお、その実温度データSTを利用して、温度測定エリア1において実温度が極小となる極小点Pminと、実温度が極大となる極大点Pmaxとを算出部41に求めさせてもよい。
【0121】
これらの測定点Pmin、Pmaxは、温度測定エリア1おいて冷え易い点や温まり易い点であって、温度測定エリア1の癖を表す。そのため、測定点Pmin、Pmaxをデータベース化して記憶部41a(図10参照)に格納しておけば、例えば極大点Pmaxに冷気Cが当たるようにルーバ7の向きを補正することで、温度測定エリア1の癖を反映したルーバ7の補正が可能となる。
【0122】
次いで、ステップP2に移り、算出部41が撮像部9から実画像データSPを取り込む。
【0123】
そして、ステップP3に移り、算出部41が、実温度分布Tと目標温度分布T0から温度勾配∇Tijを算出し、その温度勾配∇Tijを利用して式(3)で定義したずれS(T, T0)を算出する。
【0124】
上記のようにずれS(T, T0)はルーバ7の向きの補正量を算出するのに使用されるが、冷気Cの温度や風量を補正するために、算出部41が本ステップにおいて次の式(4)で定義される総和Uを求めてもよい。
【0125】
【数4】

この場合、基準値U0を適宜設定し、総和Uが基準値U0よりも大きい場合には、実温度分布Tijが目標温度分布T0ijからずれていると判断できる。
【0126】
次に、ステップP4に移り、算出部41が、ルーバ7の向きの補正が必要かどうかを判断する。
【0127】
この判断は、適宜設定された基準値S0とずれSとを比較して行われる。そして、ずれSが基準値S0以下の場合には、実温度分布が目標温度分布に近いため補正が必要ない(NO)と判断し、ルーバ7の向きを補正せずに処理を終了する。
【0128】
一方、ずれSが基準値S0よりも大きい場合には補正が必要(YES)と判断し、ステップP5に移行する。
【0129】
ステップP5では、算出部41がルーバ7の補正量(Δxn、Δym)を求める。本ステップは、既述のように、風向補正量−温度分布テーブルTB(図12参照)を利用して、仮想温度分布Tvnmと目標温度分布T0とのずれS(Tvnm, T0)が最も小さくなるような補正量(Δxn、Δym)が求められる。
【0130】
そして、補正量(Δxn、Δym)だけルーバ7の向きを補正すれば、補正前と比較して実温度分布Tと目標温度分布T0とのずれS(T, T0)を小さくすることができる。
【0131】
なお、ステップP3において式(4)の総和Uを求め、総和Uが基準値U0よりも大きい場合には、本ステップにおいて冷気Cの温度や風量に対する補正量を算出してもよい。
【0132】
ステップP5で補正量(Δxn、Δym)を求めた後、ユーザが手動でルーバ7の向きを補正する場合はステップP6に移る。
【0133】
そのステップP6では、算出部41の制御下で、モニタ42に第1の合成画像IMc1(図13(c)参照)と第2の合成画像IMc2(図15(b)参照)のいずれかを表示する。
【0134】
既述のように、第1の合成画像IMc1と第2の合成画像IMc2は補正量(Δxn、Δym)を視覚的に表すものであって、これらの合成画像IMc1、IMc2を手掛かりにしてユーザがルーバ7の向きを短時間で簡単に補正することができる。
【0135】
一方、自動でルーバ7の向きを補正する場合は、上記のステップP5の後にステップP7に移る。
【0136】
そのステップP7では、算出部41が角度調節器8に対して上記の補正量(Δxn、Δym)だけルーバ7の向きを補正するルーバ制御信号SAを出力する
このルーバ制御信号SAを受けた角度調節器8は、上記の補正量(Δxn、Δym)だけルーバ7の向きを変える。このように自動でルーバ7の向きを変えることで、ユーザが手動で変える場合と比較して短時間でルーバ7の向きを補正できる。
【0137】
そして、ステップP6とステップP7の後は再びステップP1に戻り、ステップP4において補正が必要ない(NO)と判断されるまで、ステップP1〜ステップP7を繰り返す。繰り返しの周期は特に限定されないが、手動又は自動でルーバ7の向きを補正してから数十分程度の時間をおいた後にステップP1に戻るのが好ましい。
【0138】
以上により、本実施形態に係る空調改善方法の基本ステップを終了する。
【0139】
上記した本実施形態では、ステップS6において、ルーバ7の向きを補正する前と比較して、実温度分布Tと目標温度分布T0とのずれS(T, T0)が小さくなるような補正量(Δxn、Δym)を算出する。よって、その補正量(Δxn、Δym)だけルーバ7の向きを補正した後にある程度の時間が経過すれば、温度測定エリア1内において目標温度分布T0に近い温度分布を得ることができる。
【0140】
これにより、第1の空調機3の消費電力を増大させることなく実温度分布Tを目標温度分布T0に近づけることができ、空調効率の改善を図って省エネルギ化を実現することが可能となる。
【0141】
更に、ステップP7では、ユーザの便宜に資するため、第1の合成画像IMc1と第2の合成画像IMc2のいずれかを表示する。
【0142】
図13(c)と図15(b)に示したように、第1の合成画像IMc1と第2の合成画像IMc2は補正量(Δxn、Δym)を視覚的に表すものであるから、これらの合成画像IMc1、IMc2を手掛かりにしてユーザがルーバ7の向きを簡単に補正することができる。
【0143】
次に、本願発明者が行った実験例について説明する。
【0144】
(第1の実験例)
第1の実験例は、手動によりルーバ7の向きを補正する実験例であって、その補正には点滅光源10を利用する第2の合成画像IMc2(図15(b)参照)を使用した。数回の補正の後、ルーバ7の向きは、補正前と比較して水平方向に約20°だけ変わった。そして、補正を開始してから約30分後に温度測定エリア1の温度分布が目標温度分布T0に略等しくなった。
【0145】
この場合、動作しているサーバ2の台数や動作条件は変わっていないにも関わらず、補正前と比較して第1の空調機3の消費電力を約8%低減しても各サーバ2を目標通りに冷却できた。これにより、ルーバ7の補正が適正であったことが確認されたと共に、省エネルギ化を実現することができた。
【0146】
(第2の実験例)
第2の実験例は、角度調節器8により自動でルーバ7の向きを補正する実験例である。その実験では、図16のフローチャートに従ってルーバ7の向きを補正した。その結果、30分後に補正が完了し、補正前と比較して第1の空調機3の消費電力を約8%低減しても各サーバ2を目標通りに冷却できた。
【0147】
また、この空調改善システム40を連続運用し、1日に1回の頻度でルーバ7の向きの補正を行った。その結果、一ヶ月後には、運用前と比較して第1の空調機3の消費電力を約12%低減しても各サーバ2を目標通りに冷却でき、更なる消費エネルギ化を実現することができた。
【符号の説明】
【0148】
1…温度測定エリア、2…サーバ、3…第1の空調機、4…第2の空調機、7…ルーバ、8…角度調節器、9…撮像部、10…点滅光源、21…レーザ光源、22a…コリメータレンズ、22b…コンデンサレンズ、23…ビームスプリッタ、24…光ファイバ、24a…コア、24b…クラッド、25…波長分離部、26…光検出器、26a〜26c…第1〜第3の受光部、30…光ファイバ式温度測定部、31a〜31c…第1〜第3のビームスプリッタ、33a〜33c…第1〜第3の光学フィルタ、34a〜34c…第1〜第3の集光レンズ、40…空調改善システム、41…算出部、41a…記憶部、42…モニタ、43〜45…第1〜第3の信号線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度測定エリア内に敷設された光ファイバに接続されて前記温度測定エリア内の実温度分布を測定する光ファイバ式温度測定部と、
前記温度測定エリア内に設置された空調機のルーバの向きの補正量を算出する算出部とを備え、
前記算出部が、前記ルーバの向きを補正する前と比較して、前記温度測定エリアの目標温度分布と前記実温度分布とのずれが小さくなるように前記補正量を算出することを特徴とする空調改善システム。
【請求項2】
前記ルーバに固定されて前記温度測定エリアの実画像を撮像する撮像部を更に有し、
前記算出部が、前記補正量を前記実画像に重ねてなる合成画像の画像データを生成することを特徴とする請求項1に記載の空調改善システム。
【請求項3】
前記合成画像は、前記補正量だけ前記ルーバの向きを補正したときに前記撮像部で得られると想定される仮想画像と前記実画像とを重ね合わせてなることを特徴とする請求項2に記載の空調改善システム。
【請求項4】
前記撮像部に設けられて前記温度測定エリアの一点に光を照射する光源を更に有し、
前記合成画像は、前記補正量だけ前記ルーバの向きを補正したときに前記光源で照射されると想定される前記温度測定エリア内の一点と前記実画像とを重ね合わせてなることを特徴とする請求項2に記載の空調改善システム。
【請求項5】
前記算出部は、前記空調機に対し、前記補正量だけ前記ルーバの向きを補正する制御信号を出力することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の空調改善システム。
【請求項6】
前記実温度分布は、前記光ファイバの敷設経路に沿った複数の温度測定点の各々に該温度測定点における実温度を対応付けてなり、
前記目標温度分布は、複数の前記温度測定点の各々に該温度測定点における目標温度を対応付けてなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の空調改善システム。
【請求項7】
前記ずれは、iとjを整数として前記温度測定点を(i、j)で表したとき、該温度測定点(i、j)における前記目標温度をT0ij、該温度測定点(i、j)における前記実温度をTij、隣接する前記温度測定点同士の間隔をΔDとして、
【数5】

により表されることを特徴とする請求項6に記載の空調改善システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−184899(P2012−184899A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49385(P2011−49385)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】