説明

空調機

【課題】伝送路の残留電荷を放電させるための放電抵抗による電力消費を抑制する空調機を提供する。
【解決手段】2つの放電抵抗R5,R6の間にアナログスイッチを介挿しておき、伝送路4の2線(P1,P2)にAMI信号を送出する際に、高レベルの信号電圧を出力するときはアナログスイッチS1をオフの状態とし、低レベルの信号電圧を出力するときはアナログスイッチS1をオンの状態とする放電制御を、MCU30により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機に関し、特に、空調機を構成する機器間での信号伝送に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、空調機における信号伝送の概略を示す図である。図において、室内機1は、室外機2及びリモコン装置3との間でそれぞれ、信号伝送を行っている。室内機1とリモコン装置3との間は、通常、2線を含む伝送路(例えば2芯ケーブル)4で接続されている。室内機1及びリモコン装置3は共に、送信部T及び受信部Rを備えており、互いに送受信可能である。リモコン装置3のための電源は、室内機1に設けられた電源重畳回路1pから伝送路4を介して供給される。
【0003】
図13は、信号伝送に用いられるAMI(Alternate Mark Inversion)方式の信号波形の一例を示す図である。AMI方式は、半二重通信でデジタル信号を伝送する方式の一つであり、伝送路の2線間の、直流分を除く信号電圧を、ゼロ、プラス、マイナスのいずれかとすることにより、信号を伝送する。例えば負論理の場合には、論理1がゼロに、論理0がプラス又はマイナスのレベルに交互に割り付けられる。また、1ビットの信号を送信する度に、伝送路の2線間に存在する浮遊容量(ストレーキャパシタンス)に蓄えられた電荷を放電させる期間が設けられている。
【0004】
プラス又はマイナスの信号波形が出力された後は、次の信号波形に備えて信号電圧をゼロに戻すことが必要である。例えば図13におけるプラスの波形の後の点線で示すように、電荷放電期間内にゼロに戻れば問題は無い。しかし、実際には、プラス又はマイナスの信号波形が出力されたときの信号電圧によって浮遊容量に蓄えられた電荷を自然に放電させると、図13におけるマイナスの波形の後の点線で示すように、信号電圧がゼロに戻るまでに時間がかかる。この場合、次のクロックタイミングで送信すべき論理が「1」であれば送信側は、プラスやマイナスの信号電圧を出さない(ゼロ出力)ため、残留電荷によるマイナスの電圧が受信側で検知され、論理「0」と誤認識され得ることになる。
【0005】
そこで、信号伝送の障害となる残留電荷を、伝送路の2線間に接続された放電抵抗によって強制的に放電させる回路が設けられる(例えば、特許文献1参照。)。かかる放電抵抗は、室内機又はリモコン装置内に設けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−280328号公報(図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来の空調機では、信号が伝送路に送出される度に放電抵抗に電流が流れ、電力を消費する。これは、本来の放電目的とは関係のない電力消費であり、その分、必要な電源容量が増大することになる。また、放電抵抗に電流が流れることにより電圧(送信電圧)が若干低下することも好ましくない。さらに、放電抵抗がリモコン装置内にある場合には、放電抵抗からの放熱によりリモコン装置の筐体内温度が上昇し、リモコン装置内に設けられている室温センサは、室温を正確に検出することができなくなる。
【0008】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、伝送路の残留電荷を放電させるための放電抵抗による電力消費を抑制する空調機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、室外機、室内機及びリモコン装置の各機器を有して成り、2線を含む伝送路を介して相互に接続された機器間で、デジタル信号を用いて信号伝送を行う空調機であって、前記2線間の浮遊容量に蓄えられた電荷を放電させるための放電抵抗と、前記2線間に前記放電抵抗を接続するオン動作及び当該接続を断つオフ動作を行うスイッチング素子と、前記2線間の信号電圧にデジタル信号の符号に対応した絶対値の高・低レベルを設定することによる信号伝送中において、設定が高レベルのときは前記スイッチング素子をオフの状態とし、設定が低レベルのときは前記スイッチング素子をオンの状態とする放電制御を行う制御部とを備えたものである。
【0010】
上記のように構成された空調機では、制御部が放電制御を行うことによって、放電抵抗が伝送路に接続されるのは2線間に設定される信号電圧が低レベルのときであり、2線間に設定される信号電圧が高レベルのときは、放電抵抗が伝送路に接続されない。従って、デジタル信号の信号電圧によって放電抵抗に電流が流れることを防止できる。
【0011】
(2)また、上記(1)の空調機において、放電抵抗は、2線の一方側に一端が接続された第1放電抵抗及び2線の他方側に一端が接続された第2放電抵抗によって構成され、スイッチング素子は、第1放電抵抗及び第2放電抵抗のそれぞれの他端間に介挿された双方向性素子であってもよい。
【0012】
このような回路構成によれば、第1,第2放電抵抗の間に双方向性のスイッチング素子を挟んだ放電回路となるため、デジタル信号がAMI方式で符号化されている場合に、極性を反転させながら蓄えられる電荷を放電させることができる。また、2線のどちらにサージが誘導されても、常に抵抗経由で電圧降下し、サージ電圧が直接スイッチング素子に印加されない。従って、スイッチング素子をサージから保護することができる。さらに、スイッチング素子の出力端子は、2つの放電抵抗の存在によって電源電圧の中間的電圧にある。従って、制御端子との電位差(ゲート−ソース間電圧)を容易に確保することができる。
【0013】
(3)また、上記(2)の空調機において、2線の各々にはツェナーダイオードのカソードが接続されており、スイッチング素子はCMOS回路で構成され、そのラッチアップ耐量の電流値は、当該電流値が前記各放電抵抗に流れることによる電位差が当該CMOS回路の電源電圧Vcc及びGNDに対して正負双方向にそれぞれ付加されることによって前記ツェナーダイオードのクランプ電圧Vc及びVcをそれぞれ正・負の方向へ超えるように選定されている、という構成であってもよい。
【0014】
この場合、ラッチアップ耐量の電流値がCMOS回路に流れるときは既にツェナーダイオードのクランプ電圧Vc又はVcを超えていることになるので、言い換えれば、電流が増大してラッチアップ耐量の電流値となる前に各線の電圧はツェナーダイオードによりクランプ電圧に抑えられる。従って、高いサージ電圧に対して確実にツェナーダイオードを働かせ、CMOS回路のラッチアップ発生を防止することができる。
【0015】
(4)また、上記(1)の空調機において、制御部は、送信しようとするデジタル信号によって放電制御を行うようにしてもよい。
この場合、放電制御のための信号を別途用意する必要が無い。そのため、既存の空調機の設計を抜本的に変えることなく、元々ある信号を利用して容易に、放電制御の機能を実現することができる。
【0016】
(5)また、上記(1)〜(4)のいずれかの空調機において、放電抵抗、スイッチング素子及び制御部は、リモコン装置に設けられているものであってもよい。
この場合、放電抵抗がリモコン装置のコンパクトな筐体に収められることになるが、放電抵抗に流れる電流の抑制によって放電抵抗の発熱量や、電源回路の発熱量も抑制される。従って、室温センサがリモコン装置に設けられている場合に、その測定への影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空調機によれば、信号電圧によって放電抵抗に電流が流れることを防止でき、その分の電力消費を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】信号伝送に関して、室内機とリモコン装置とを、伝送路を介して相互に接続した状態を示す回路図である。
【図2】リモコン装置における送信部その他の詳細、及び、伝送路における2線間の浮遊容量を示す回路図である。
【図3】図2に、電流の流れを書き込んだ図であり、MCU出力信号が論理0、AMI信号がプラスで例えば線P1側がプラスになる状態を示す。
【図4】図2に、電流の流れを書き込んだ図であり、MCU出力信号が論理0、AMI信号がマイナスで例えば線P2側がプラスになる状態を示す。
【図5】図2に、電流の流れを書き込んだ図であり、MCU出力信号が論理1、AMI信号がゼロである状態を示す。
【図6】図2の回路構成における、(a)MCU出力信号、(b)アナログスイッチS1のオン・オフ状態、(c)伝送路に送出される信号、(d)信号伝送時に電源電圧から浮遊容量に流れる電流、及び、(e)対比のために、従来のように放電抵抗が常時伝送路に接続されている場合の、電源電圧から浮遊容量に流れる電流、をそれぞれ示す波形図である。
【図7】ツェナーダイオードの接続を示す回路図である。
【図8】ツェナーダイオードの特性の概略を示すグラフである。
【図9】第2実施形態に係る空調機に関する図であり、リモコン装置における送信部その他の詳細、及び、伝送路における2線間の浮遊容量を示す回路図である。
【図10】第2実施形態に係る空調機の信号伝送に関して、室内機と複数のリモコン装置とを、伝送路を介して相互に接続した状態を示す回路図である。
【図11】送信波形と放電抵抗動作とを示す図である。
【図12】空調機における信号伝送の概略を示す図である。
【図13】AMI方式の信号波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係る空調機について図面を参照して説明する。空調機全体は、既に図12にも示したように、室内機1、室外機2及びリモコン装置3によって構成され、互いに信号伝送を行っている。また、室内機1と室外機2とは図示しない冷媒配管によって互いに接続されている。なお、図12は基本形を示したものであり、室内機1、室外機2及びリモコン装置3の各機器の数量は、必要に応じて複数となる。但し、室内機1とリモコン装置3との関係に関しては、本実施形態では、1台の室内機1に1台のリモコン装置3が接続されている場合を想定して説明する。
【0020】
図1は、信号伝送に関して、室内機1とリモコン装置3とを、2線を含む伝送路4(例えばケーブル)を介して相互に接続した状態を示す回路図である。図において、室内機1には、伝送路4に電源電圧Vcc(ここでは16V)を重畳するためのチョークコイルLと、リモコン装置3に対してAMI符号化方式によるデジタル信号(以下、AMI信号と言う。)を送信する送信部Tと、リモコン装置3からAMI信号を受信する受信部Rと、送受信用の信号のみを通過させるコンデンサC1〜C4とが設けられ、図示のように接続されている。
【0021】
電源電圧Vccは、チョークコイルLから伝送路4を介して、リモコン装置3に供給される。リモコン装置3では、チョークコイルや整流平滑回路を含む受電回路31と、3端子レギュレータによる安定化回路32とを経て電源電圧Vcc(ここでは5V)が生成される。なお、受電回路31及び安定化回路32によってリモコン装置3の電源回路が構成されている。この電源電圧Vccは、リモコン装置3内で電源を必要とする全ての電子デバイスに供給される。
【0022】
リモコン装置3内には、室内機1に対してAMI信号を送信する送信部Tと、室内機1からAMI信号を受信する受信部Rと、送受信の信号のみを通過させるコンデンサC11〜C14と、放電回路33(詳細後述)とが設けられ、図示のように接続されている。本例では、放電回路33はリモコン装置3の送信部Tに関してのみ、設けられている。
【0023】
図2は、リモコン装置3における送信部Tその他の詳細、及び、伝送路4における2線間の浮遊容量Csを示す回路図である(なお、図1とは左右の関係が逆になっている。)。図において、MCU(Micro Control Unit)30は、送信部Tに対して、送信すべき2値信号を指示する。送信部Tは、4個のトランジスタQ1〜Q4と、これらの各コレクタ−エミッタ間に並列接続された抵抗R1〜R4(抵抗値は基本的に同一)と、各トランジスタQ1〜Q4をオン・オフさせるコントローラTcとを有している。送信部Tは、MCU30から指示された2値信号に従って、プラス/マイナス/ゼロのAMI信号を出力するよう動作する。なお、MCU30は、送信部Tのみならず、受信部R(図1)の制御も行っている。
【0024】
放電回路33は、抵抗値が相等しい2つの放電抵抗R5,R6、及び、スイッチング素子としてのアナログスイッチS1によって構成されている。放電抵抗R5の一端は、伝送路4の一方の線P1にコンデンサC13を介して接続されている。同様に、放電抵抗R6の一端は、伝送路4の他方の線P2にコンデンサC14を介して接続されている。また、放電抵抗R5,R6のそれぞれの他端間に、アナログスイッチS1が介挿され、2つの放電抵抗R5,R6とアナログスイッチS1とが互いに直列に接続されている。放電抵抗R5,R6は、2つの抵抗値の合計で放電に適した抵抗値を成すものである。アナログスイッチS1は、CMOS回路(MOS−FET)で構成され、双方向性素子となっている。
【0025】
2つの放電抵抗R5,R6の間にあるアナログスイッチS1の端子は、[ソース]−[ドレイン]である。また、ゲートにはMCU30の出力する2値信号(以下、MCU出力信号ともいう。)、すなわち送信信号が入力される。アナログスイッチS1はGND接続され、電源電圧Vccの供給を受けている。
【0026】
伝送路4の2線P1,P2間には、室内機1(図1)の電源電圧Vcc(16V)が常時印加されている。信号伝送は、この16Vをベースにして、伝送路4の2線P1,P2間の信号電圧にAMI信号の符号に対応した絶対値の高・低レベルを設定することにより、行われる。すなわち、AMI信号の符号に対応したP1,P2の電位、電位差、信号電圧、及び、プラス・マイナスに関わらず絶対値で見た信号伝送の設定レベルは例えば表1のようになる。また、電荷放電期間は符号ゼロと同じ状態になる。
【0027】
【表1】

【0028】
次に、上記の放電回路33の動作について説明する。図3〜5は、図2に、電流の流れを書き込んだ図である。図3は、MCU出力信号が論理0、AMI信号がプラスで例えば線P1側がプラスになる状態を示す。この状態にするために、コントローラTcは、トランジスタQ1,Q4をオン、Q2,Q3をオフにする。このとき電流は、電源電圧VccからトランジスタQ1、コンデンサC13、浮遊容量Cs、コンデンサC14、及び、トランジスタQ4を経て、GNDに流れる。従って、伝送路4は、P2に対してP1が信号電圧+5Vを出力する表1のプラス出力の状態となる。一方、アナログスイッチS1はMCU出力信号が0であるためオフの状態である。従って、放電抵抗R5,R6には電流が流れない。
【0029】
図4は、MCU出力信号が論理0、AMI信号がマイナスで例えば線P2側がプラスになる状態を示す。この状態にするために、コントローラTcは、トランジスタQ2,Q3をオン、Q1,Q4をオフにする。このとき電流は、電源電圧VccからトランジスタQ3、コンデンサC14、浮遊容量Cs、コンデンサC13、及び、トランジスタQ2を経て、GNDに流れる。従って、伝送路4は、図3とは逆に、P1に対してP2が信号電圧−5Vを出力する表1のマイナス出力の状態となる。一方、アナログスイッチS1はMCU出力信号が0であるためオフの状態である。従って、放電抵抗R5,R6には電流が流れない。
【0030】
図5は、MCU出力信号が論理1、AMI信号がゼロである状態を示す。この状態にするために、コントローラTcは、トランジスタQ1〜Q4を全てオフにする。一方、MCU出力信号が論理1であることにより、アナログスイッチS1がオンの状態となる。浮遊容量Csに電荷(信号電圧による電荷を意味し、16Vによる電荷を意味しない。以下、同様。)が無い場合には、電源電圧VccによるP1の電位及びP2の電位は、それぞれ、Vcc・R2/(R1+R2)及びVcc・R4/(R3+R4)となり、分圧比が同じであるため互いに等しい。この状態では信号電圧0であり、表1のゼロ出力の状態となる。
なお、コンデンサC13,C14は直流分を遮断するので、室内機1側から伝送路4に供給されている直流電圧(16V)によって放電抵抗R5,R6に定常的な電流が流れることはない。
【0031】
一方、浮遊容量Csにプラス出力後の電荷が蓄えられているときには、その電荷は、コンデンサC13、放電抵抗R5、アナログスイッチS1、放電抵抗R6、コンデンサC14を経て流れ、放電する。逆に、浮遊容量Csにマイナス出力後の電荷が蓄えられているときには、その電荷は、コンデンサC14、放電抵抗R6、アナログスイッチS1、放電抵抗R5、コンデンサC13を経て流れ(図示の方向と逆)、放電する。なお、放電はクロック周期内の短時間に終了するように放電抵抗R5,R6の抵抗値が選定されており、放電完了後は、伝送路4の2線間の信号電圧が0の状態となる。
【0032】
図6は、図2の回路構成における、(a)MCU出力信号、(b)アナログスイッチS1のオン・オフ状態、(c)伝送路に送出される信号、及び、(d)信号伝送時に電源電圧Vccから浮遊容量Csに流れる電流、を示す波形図の一例である。また、(e)は、対比のために、従来のように放電抵抗が常時、伝送路4に接続されている場合の、電源電圧Vccにより浮遊容量Csに流れる電流を示す波形図の一例である。
【0033】
図6において、MCU出力信号の符号0/1とアナログスイッチS1のオフ/オンの状態とは互いに同期している。伝送路4上の信号は、AMI符号化により、MCU出力信号が0になる度に、プラス/マイナスを反転させ、MCU出力が1のときはゼロである。また、伝送路4にプラス又はマイナスの信号電圧が出力されているときは、アナログスイッチS1はオフであり、放電抵抗R5,R6に電流は流れない。
【0034】
伝送路4に信号電圧が発生する瞬間に、浮遊容量Csには(d)に示す充電電流が流れるが、充電完了により、その後は流れない。従って、過渡的にしか電流は流れず、放電抵抗R5,R6による電力消費は極めて僅かである。これに対して従来は、(e)に示すように、過渡的な充電電流の他に、伝送路の信号電圧によって放電抵抗に定電流Iが流れるため、電力消費が大きく、(d)と大きな差が生じる。
【0035】
以上のように、本実施形態の空調機では、2線P1,P2間の信号電圧にAMI信号の符号に対応した絶対値の高・低レベルを設定することによる信号伝送中において、制御部であるMCU30が、設定が高レベルのときはアナログスイッチS1をオフの状態とし、設定が低レベルのときはアナログスイッチS1をオンの状態とする放電制御を行う。このような放電制御を行うことによって、放電抵抗R5,R6が伝送路4に接続されるのは2線P1,P2間にAMI信号により設定される信号電圧が低レベルのときであり、2線P1,P2間にAMI信号により設定される信号電圧が高レベルのときは、放電抵抗R5,R6が伝送路4に接続されない。従って、AMI信号の信号電圧によって放電抵抗R5,R6に電流が流れることを防止でき、その分の電力消費を抑制することができる。
【0036】
また、上記の回路構成によれば、2つの放電抵抗R5,R6の間に双方向性のアナログスイッチS1を挟んだ放電回路33となるため、AMI信号に対して極性を反転させながら蓄えられる電荷を、放電させることができる。
さらに、アナログスイッチS1のソースは、2つの放電抵抗R5,R6の存在によって電源電圧Vccの中間的電圧にある。従って、ゲートとの電位差(ゲート−ソース間電圧)を容易に確保することができる。ゲート−ソース間電圧を十分に確保すればオン抵抗が小さくなる。そのため、発熱が少なく、効率が良い。
【0037】
例えば、上記の放電回路33におけるR5,R6を、それらの合計の抵抗値を持つ1本の抵抗R7(図示せず。)に置き換えて、この抵抗R7にアナログスイッチS1を直列接続することによっても、同様な放電制御を実現可能である。但し、この場合は、アナログスイッチS1のソース電圧がVccに近づくため、電圧Vccでゲート信号を入力してもゲート−ソース間電圧を十分に確保できない。この状態ではオン抵抗が大きくなり、発熱が大きくなる。
【0038】
一方、MCU30は、送信しようとするデジタル信号によって放電制御を行うので、放電制御のための信号を別途用意する必要が無い。そのため、既存の空調機の設計を抜本的に変えることなく、元々ある信号を利用して容易に、放電制御の機能を実現することができる。
また、放電抵抗R5,R6がリモコン装置3のコンパクトな筐体に収められることになるが、電流の抑制によって放電抵抗の発熱量や、電源回路の発熱量も抑制される。従って、室温センサがリモコン装置3に設けられている場合に、その測定への影響を低減することができる。
【0039】
なお、上記伝送路4は、電灯線と併走して配線されることが多い。このような状況で、伝送路4の2線P1,P2には、電灯線からサージが誘導される場合がある。アナログスイッチS1はCMOS回路で構成されており、一般に、サージに対して弱い。しかし、抵抗R5,R6をアナログスイッチS1の両側に設けていることにより、サージ電圧が直接アナログスイッチS1に印加されることはない、すなわち、2線のどちらにサージが誘導されても、常に抵抗R5,R6による電圧降下が生じてサージ電圧が緩和される。従って、アナログスイッチS1をサージから保護することができる。
【0040】
図7は、図2で省略(図3〜5も同様に省略。)したツェナーダイオードD1,D2を示す回路図である。すなわち、トランジスタQ1,Q2の相互接続点(Q1のエミッタ・Q2のコレクタ)及びトランジスタQ3,Q4の相互接続点(Q3のエミッタ・Q4のコレクタ)には、それぞれ、ツェナーダイオードD1及びD2の各カソードが接続されている。これにより、伝送路4の2線P1,P2に、ツェナーダイオードD1,D2のクランプ電圧を超える電圧が印加されたときでも、その電圧はクランプ電圧まで抑制される。
【0041】
図8は、ツェナーダイオードD1,D2共通の特性の概略を示すグラフである。信号伝送のために伝送路4に送出される出力電圧は、GNDから電源電圧Vccの範囲内である。例えばP1側に接続されているツェナーダイオードD1のカソードにプラスの電圧をかける場合、クランプ電圧Vc以下では電流は流れないが、クランプ電圧Vcを超えると電流が流れ、カソードはクランプ電圧Vcに維持される。
【0042】
逆に、ツェナーダイオードD1のカソードにマイナスの電圧をかける場合、絶対値がクランプ電圧Vc以下では電流は流れないが、絶対値がクランプ電圧Vcを超えると電流が流れ、カソードはクランプ電圧Vcに維持される。ツェナーダイオードD2についても同様である。なお、出力電圧の範囲GND〜VccでツェナーダイオードD1,D2に電流が流れないように、クランプ電圧Vc及びVcが出力電圧の範囲GND〜Vccより外側にあるツェナーダイオードが選定される。
【0043】
一方、アナログスイッチS1を構成するCMOS回路は、電圧の許容量が小さく(Vccに対して+0.3V、GNDに対して−0.3V程度)、従って、当該範囲内で使用しなければラッチアップを引き起こす可能性がある。このラッチアップ耐量の電流をILUPとすると、仮に、この電流がアナログスイッチS1に流れると、図7に示す放電抵抗R5,R6にもILUPが流れることにより、放電抵抗R5,R6の抵抗値をRとすると、電圧降下ILUP×Rを生じる。従って、P1,P2に入力可能な電圧Vin及びVinは、それぞれ以下のようになる。
Vin=Vcc+ILUP×R
Vin=GND−ILUP×R
【0044】
そこで、上記Vin、Vinがそれぞれ、図8に示すようにVc〜Vcの範囲外になるようなILUPの値を有するCMOS回路を選択する。これにより、もし、Vcを超える電圧がサージにより発生すれば、ツェナーダイオードD1又はD2の動作により、電圧はVcに低下する。また、Vcをマイナス方向に超える電圧がサージにより発生すれば、ツェナーダイオードD1又はD2の動作により、電圧はVcに抑えられる。電圧をVc〜Vcの範囲に抑えれば、前述のように、放電抵抗R5,R6の電圧降下により、アナログスイッチS1にかかる電圧を緩和することができる。こうして、ツェナーダイオードD1,D2により、アナログスイッチS1を保護することができる。
【0045】
《第2実施形態》
図9は、第2実施形態に係る空調機に関する図であり、リモコン装置3における送信部Tその他の詳細、及び、伝送路4における2線間の浮遊容量Csを示す回路図である。図2との違いは、MCU30からアナログスイッチS1への制御信号が、コントローラTcに対して指示する送信信号とは別の信号となっている点であり、その他の構成は同様である。
【0046】
第1実施形態では、室内機1とリモコン装置3とが1対1の関係であることを想定したが、第2実施形態では、図10に示すように、1台の室内機1に対して、複数台のリモコン装置3が並列に接続されている状態を想定する。この場合、各リモコン装置3に放電回路33が設けられている。このように複数台のリモコン装置3が並列に接続されている状態で、第1実施形態における放電制御を行うと、送信を行うリモコン装置は、信号伝送によって伝送路4の2線P1,P2間に高レベルの信号電圧を生じさせるとき放電抵抗を切り離すが、送信を行わない他のリモコン装置は、放電抵抗を切り離せという指示が無いため、放電抵抗を伝送路の2線間に接続している状態である。
【0047】
但し、この場合でも、送信を行うリモコン装置が放電抵抗を切り離すことによって、全体の並列抵抗が、切り離さない場合よりは大きくなるので、一定の節電効果はある。しかし、リモコン装置の並列接続数が多くなると、そのうちの1つで放電抵抗を切り離しても、全体の並列抵抗に与える影響が相対的に小さくなるので、節電効果が薄れる。また、伝送路全体のインピーダンスが低下し、長い伝送路では信号の振幅が低下する。
【0048】
上記の点に鑑み、第2実施形態では、伝送路4に接続されている全てのリモコン装置3及び室内機1において、自己の機器内の放電抵抗を、基本的には切り離しておくものとする。そして、送信を行う機器のみが、第1実施形態と同様に、送信する信号に応じて放電抵抗を接続するか切り離すかの制御を行う。すなわち、図9において、MCU30からアナログスイッチS1へ与える制御信号は、当該リモコン装置3が送信するときは、コントローラTcに与える信号と同じであるが、送信しないときは、アナログスイッチS1をオフにする信号となる。この点で、コントローラTcに与える信号とは別信号になる。
【0049】
これにより、送信するリモコン装置3又は室内機1から見れば、受信端に放電抵抗が存在しないことと等価な状態となる。従って、どの機器が送信しても、放電抵抗による電力消費を防止し、信号の減衰を抑制することができる。その結果、伝送路をさらに長くすることや、接続可能なリモコン装置の数を増やすことが可能となる。
【0050】
また、第2実施形態によれば、伝送路4に複数のリモコン装置3を接続しても、各リモコン装置3における放電抵抗は、自己が送信するとき以外は常時切り離されており、従って、電源の負担は増えない。
【0051】
なお、送信する機器は、送信期間の終了により直ちに自己の放電抵抗を切り離してもよいが、切り離しによりインピーダンスが高くなるとノイズが重畳されやすいという欠点もある。そこで、例えば、送信を行ったリモコン装置が、図11に示すように送信期間から所定時間放電抵抗を接続する時間を延長することにより、ノイズが重畳されにくい状態とすることができる。また、延長は、次の送信期間が始まるより少し前に終了させる。
【0052】
《その他》
なお、上記各実施形態では主に室内機1とリモコン装置3との間での信号伝送に関して説明したが、上記のような放電制御は他にも、伝送路を介して互いに接続された色々な組み合わせの機器間での信号伝送に際して行うことができる。例えば、室外機−リモコン装置や、複数のリモコン装置間でも可能である。さらに、放電抵抗を入切する回路とその放電制御機能とをリモコン装置以外の各機器に設けた場合には、室外機−室内機、複数の室外機間、複数の室内機間でも同様な放電制御を行うことができる。
【0053】
また、上記実施形態における伝送路は2線であるが、3線以上であっても、そのうちの任意の2線間で同様に放電制御を行うことができる。
また、上記実施形態では符号化方式としてAMI方式を採用しているが、他の方式によるデジタル信号の伝送に関しても、同様な放電制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
1 室内機
2 室外機
3 リモコン装置
4 伝送路
30 MCU(制御部)
D1,D2 ツェナーダイオード
P1,P2 伝送路の線(2線)
R5,R6 放電抵抗
S1 アナログスイッチ(スイッチング素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室外機(2)、室内機(1)及びリモコン装置(3)の各機器を有して成り、2線(P1,P2)を含む伝送路(4)を介して相互に接続された機器間で、デジタル信号を用いて信号伝送を行う空調機であって、
前記2線(P1,P2)間の浮遊容量(Cs)に蓄えられた電荷を放電させるための放電抵抗(R5,R6)と、
前記2線(P1,P2)間に前記放電抵抗(R5,R6)を接続するオン動作及び当該接続を断つオフ動作を行うスイッチング素子(S1)と、
前記2線間の信号電圧にデジタル信号の符号に対応した絶対値の高・低レベルを設定することによる信号伝送中において、設定が高レベルのときは前記スイッチング素子(S1)をオフの状態とし、設定が低レベルのときは前記スイッチング素子(S1)をオンの状態とする放電制御を行う制御部(30)と
を備えたことを特徴とする空調機。
【請求項2】
前記放電抵抗(R5,R6)は、前記2線(P1,P2)の一方側に一端が接続された第1放電抵抗(R5)及び前記2線(P1,P2)の他方側に一端が接続された第2放電抵抗(R6)によって構成され、
前記スイッチング素子(S1)は、前記第1放電抵抗(R5)及び第2放電抵抗(R6)のそれぞれの他端間に介挿された双方向性素子である、請求項1記載の空調機。
【請求項3】
前記2線(P1,P2)の各々にはツェナーダイオード(D1,D2)のカソードが接続されており、
前記スイッチング素子(S1)はCMOS回路で構成され、そのラッチアップ耐量の電流値は、当該電流値が前記各放電抵抗(R5,R6)に流れることによる電位差が当該CMOS回路の電源電圧Vcc及びGNDに対して正負双方向にそれぞれ付加されることによって前記ツェナーダイオード(D1,D2)のクランプ電圧Vc及びVcをそれぞれ正・負の方向へ超えるように選定されている請求項2に記載の空調機。
【請求項4】
前記制御部(30)は、送信しようとするデジタル信号によって前記放電制御を行う請求項1に記載の空調機。
【請求項5】
前記放電抵抗(R5,R6)、スイッチング素子(S1)及び制御部(30)は、前記リモコン装置(3)に設けられている請求項1〜4のいずれか1項に記載の空調機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−211401(P2011−211401A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75850(P2010−75850)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【特許番号】特許第4697338号(P4697338)
【特許公報発行日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】