空間光変調器
【課題】画素の選択性を向上させた、磁気光学式の空間光変調器を提供する。
【解決手段】基板7上に配列された複数の画素4のそれぞれに磁気光学材料を細線状に形成してなる磁性細線1を備え、さらに基板7上に磁気転写膜5を磁性細線1の下面に接触させて備える空間光変調器10であって、磁性細線1において、両端に接続された一対の電極2,3にて供給される電流により2つの磁区D0,D1間の磁壁DWが細線方向に移動して、光の入射領域1rに磁区D0,D1のいずれかを選択的に到達させて、入射領域1rの磁化方向を反転させるものである。磁性細線1の磁化方向が磁気転写膜5に転写されるため、入射領域1rの直下における磁気転写膜5の磁化方向は磁性細線1と共に反転する。基板7を透過して入射した光は、磁気転写膜5を透過する際のファラデー効果により大きく旋光し、磁性細線1で反射して、再び磁気転写膜5を透過する際にも旋光して出射する。
【解決手段】基板7上に配列された複数の画素4のそれぞれに磁気光学材料を細線状に形成してなる磁性細線1を備え、さらに基板7上に磁気転写膜5を磁性細線1の下面に接触させて備える空間光変調器10であって、磁性細線1において、両端に接続された一対の電極2,3にて供給される電流により2つの磁区D0,D1間の磁壁DWが細線方向に移動して、光の入射領域1rに磁区D0,D1のいずれかを選択的に到達させて、入射領域1rの磁化方向を反転させるものである。磁性細線1の磁化方向が磁気転写膜5に転写されるため、入射領域1rの直下における磁気転写膜5の磁化方向は磁性細線1と共に反転する。基板7を透過して入射した光は、磁気転写膜5を透過する際のファラデー効果により大きく旋光し、磁性細線1で反射して、再び磁気転写膜5を透過する際にも旋光して出射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これをマトリクス状に2次元配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ディスプレイ技術や記録技術等の分野で広く利用されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられているが、近年では、高速処理かつ画素の1μm以下の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
【0003】
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁性体に入射した光が透過または反射する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射するファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用し、磁性体の中でも特に効果の大きい磁気光学材料を使用している。すなわち、選択された画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものとして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせる。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式の他に、近年では光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)がある。しかし、スピン注入により磁化方向を変化させる光変調素子(スピン注入光変調素子)は、さらなる画素の微細化を可能とする一方、当該スピン注入光変調素子における磁化方向の変化する層(磁化自由層)は、その膜厚が数〜10数nm程度である。このような薄い磁性体では、光を大きく旋光させること、すなわち光変調度を大きくすることは困難である。
【0004】
そこで、本発明者らは、細線加工された磁性体(磁性細線)においては、2以上の磁区が細線方向に区切られて形成され易く、これらの磁区を区切る磁壁は当該磁性細線に電流を供給することにより移動するという磁性細線における磁壁移動を利用して、磁性細線を光変調素子とする空間光変調器を開発している(特許文献2)。詳しくは、図11に示すように、磁性細線1の両端に接続した一対の電極102,103にて細線方向に電流を供給すると、電流の向きとは反対方向へ磁壁DWが移動して、光の入射領域1rにおける磁化方向が反転する。磁性細線は、細線方向長さが幅および厚さに対して十分に長ければよいので、光を透過する厚さを十分なものとしてファラデー効果により光を大きく旋光させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−83686号公報
【特許文献2】特開2010−20114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のような磁性細線を光変調素子とする空間光変調器を反射型の空間光変調器とすると、その旋光角は磁性細線のカー効果によるカー回転角であって、磁性体材料に依存する。例えば比較的大きなカー回転角が得られるCo/Pd多層膜であっても0.25°程度であり、十分な光変調度を得るためにはさらに改良する余地がある。
【0007】
本発明は前記課題に鑑み創案されたもので、光変調度をいっそう向上させた反射型の空間光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは、ファラデー効果の大きい磁気転写膜を磁性細線に重ね合わせてこれに光を透過させることで、光を大きく旋光させることに想到した。
【0009】
本発明に係る空間光変調器は、光を透過させる基板と、この基板上にマトリクス状に配列された複数の画素と、前記複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、前記基板を透過して前記画素選択手段が選択した画素に入射した光の偏光の向きを特定の方向に変化させて反射して出射するものである。そして、前記画素は、磁気光学材料を細線状に形成して細線方向に連続して2以上の磁区が形成された磁性細線と、この磁性細線の両端近傍に接続された一対の電極とを備え、前記磁性細線は、前記光を入射させるための細線方向に区切られた領域である入射領域が予め指定された位置に設けられ、前記電流が前記一対の電極を介して細線方向に供給されることにより、隣り合う2つの磁区の間に生成している磁壁が細線方向に移動して、前記入射領域に前記2つの磁区のいずれか1つが到達するものである。空間光変調器は、さらに、前記基板と前記複数の画素との間に、磁気転写膜を前記磁性細線の前記基板側の面に接触させて備えることを特徴とする。
【0010】
かかる構成により、空間光変調器は、ファラデー効果の大きい磁気転写膜を、磁性細線の光の入射側に接触させて備えるため、磁性細線で反射した光が磁気転写膜を透過することにより、入射した光を大きく旋光させて出射する。
【0011】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記磁性細線が、前記入射領域の外で局所的に括れた形状に形成されていることが好ましい。あるいは、前記磁性細線が、前記入射領域の外で屈曲した細線形状に形成されていることが好ましい。
【0012】
かかる構成により、電流の供給を停止した時に磁性細線の括れた箇所または屈曲した箇所に磁壁が到達して停止するため、光の入射領域に磁壁がないことでその全体に1つの磁区が占める状態となり、1画素から出射する光を安定して同じ角度で旋光したものとすることができる。
【0013】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記一対の電極が前記磁性細線の上に接続され、前記複数の画素において、同じ行に配列された画素の前記一対の電極の一方が1つの配線に接続され、同じ列に配列された画素の前記一対の電極の他方が前記配線上に絶縁層を介して配設された1つの配線に接続されることが好ましい。
【0014】
かかる構成により、マトリクス状に2次元配列された複数の画素のそれぞれに、格子状の配線で電流を供給することができる。また、すべての電極および配線が光の入出射面と反対側に配置されるため、これらの配線等で光が遮られることがないため、画素における入射領域の面積率(開口率)を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る空間光変調器によれば、光変調度の大きな反射型の空間光変調器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す底面図である。
【図2】第1実施形態に係る空間光変調器を用いた表示装置の構成および画素選択の状態を説明する模式図で、図1のA−A断面図に対応する図である。
【図3】第1実施形態に係る空間光変調器の磁性細線における磁壁の移動を模式的に説明する平面図である。
【図4】本発明に係る空間光変調器の画素アレイの製造方法を説明する模式図で、(a)は磁性細線形成工程における断面図、(b)および(c)はXコンタクトホール形成工程における平面図およびそのB−B断面図、(d)および(e)はX電極形成工程における平面図およびそのB−B断面図である。
【図5】本発明に係る空間光変調器の画素アレイの製造方法を説明する模式図で、(a)はYコンタクトホール形成工程における断面図、(b)、(c)および(d)はY電極形成工程における平面図、そのB−B断面図、および底面図である。
【図6】第1実施形態の変形例に係る空間光変調器を用いた表示装置の構成および画素選択の状態を説明する模式図で、図1のA−A断面図に対応する図である。
【図7】第2実施形態に係る空間光変調器の画素アレイの底面模式図である。
【図8】第3実施形態に係る空間光変調器の画素アレイの底面模式図であり、(a)は第3実施形態、(b)は第3実施形態の変形例である。
【図9】第3実施形態に係る空間光変調器の磁性細線における磁壁の移動を模式的に説明する平面図である。
【図10】空間光変調器のサンプルの外部磁界に対するカー回転角特性を示すグラフであり、(a)は本発明に係る実施例、(b)は比較例である。
【図11】従来の磁性細線を画素に適用した空間光変調器の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る空間光変調器を実現するための形態について、図を参照して説明する。
【0018】
[第1実施形態]
空間光変調器10は、図1に示すように、マトリクス状に配列された複数の画素4を備える画素アレイ40と、画素アレイ40から1以上の画素4を選択して駆動する電流制御部90と、を備える。本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を提示する手段を指す。また、本明細書における底面(下面)は、空間光変調器の光の入射面であり、空間光変調器10は画素4(画素アレイ40)に下方から入射した光を反射してその光を変調して下方へ出射する反射型の空間光変調器である。
【0019】
画素アレイ40は、図2に示すように、基板7の表面全体に磁気転写膜5を積層したさらにその上に画素4を配列してなる。基板7および磁気転写膜5は、図1に示す画素アレイ40の全面であるため、図1では図示を省略する。ここで、一般的な空間光変調器の画素アレイは、例えば画面表示規格の1種であるVGA(Video Graphics Array)においては640×480の約30万画素であるが、本明細書では簡略化して説明するために、図1に示すように、画素アレイ40は4行×4列の16個の画素4を備える構成として示す。この画素アレイ40は、平面視で列(縦)方向に延設されたストライプ状の4本のX電極2と、X電極2の上に、同じくストライプ状で、平面視でX電極2と直交するように行(横)方向に延設された4本のY電極3と、を備え、X電極2とY電極3との交点毎に1つの画素4を備える。
【0020】
このような画素アレイ40においては、列方向に配列された4個の画素4が1本のX電極2を共有し、行方向に配列された4個の画素4が1本のY電極3を共有する構造となる。そして、画素4は、画素アレイ40の対角線の一方向に沿った細線状の磁性体(以下、磁性細線)1を磁気転写膜5に接触させて備え、この磁性細線1は、その両端を画素4毎に異なる組み合わせのX電極2とY電極3とに接続されている。X電極2とY電極3は、適宜、両者をまとめて電極2,3と称する。X電極2、Y電極3のそれぞれの配線ピッチすなわち画素サイズ(画素ピッチ)は、入射光(図2のレーザー光)の波長にもよるが、0.25μm程度以上とすることが好ましい。画素アレイ40において、これら磁性細線1および電極2,3のない領域(隙間)、すなわち図2における空白部(磁気転写膜5上面からY電極3上まで)は、絶縁部材6で埋められている(図5(c)参照)。
【0021】
図1に示すように、電流制御部90は、X電極2を選択するX電極選択部92と、Y電極3を選択するY電極選択部93と、これらの電極選択部92,93を制御する画素選択部(画素選択手段)94と、電極2,3に電流を供給する電源(電流供給手段)91と、を備える。これらはそれぞれ公知のものを適用でき、磁性細線1に適正な電圧・電流を供給するものとする。
【0022】
X電極選択部92はX電極2の1つ以上を選択し、Y電極選択部93はY電極3の1つ以上を選択し、それぞれに電源91から所定の電流を供給させる。画素選択部94は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて画素アレイ40の特定の1つ以上の画素4を選択し、選択した画素4(磁性細線1)に接続する電極2,3を電極選択部92,93に選択させる。電源91は、選択した画素4における磁性細線1に、X電極2からY電極3へ、およびその反対方向のいずれかの向きに電流を供給する。磁性細線1に供給する電流は、パルス幅10ns〜10μs、電流密度105〜1013A/m2の直流パルス電流が好ましい。パルス電流の供給によれば、後記する磁壁の移動距離を制御し易い。また、磁性細線1は連続電流を供給されると発熱するため、パルス電流の適用が望ましい。このような構成により、特定の画素4が選択され、この画素4の磁性細線1に電流が供給されて後記の動作を行う。
【0023】
(磁性細線)
磁性細線1は、細線方向に区切られた所定の領域における磁化方向を、一方向およびその反対方向のいずれかとすることで、この領域に入射した光を反射する際に、偏光方向を2値に変化させる(2値の角度で旋光する)空間光変調器10の光変調素子となる。磁性細線1において光が入射する、細線方向に区切られた領域を入射領域1rと称する(図3(a)、(c)参照)。この入射領域1rは、磁性細線1において予め指定された位置の領域であり、画素4において光を入射させて2値の角度で旋光した光を取り出すための領域となる。図2に示すように、磁性細線1は、互いに反対方向の磁化を示す2つの磁区D1,D0が細線方向に連続して形成され、これらの磁区D1,D0を区切るように磁壁DWが生成している。磁壁DWは、後記するように、磁性細線1に電流を細線方向に供給することにより細線方向に移動し、入射領域1rの両外側のいずれかに到達することで、入射領域1rにおける磁化方向が変化(反転)する。
【0024】
磁性細線1は、公知の強磁性材料を適用でき、好ましくは光反射率の高い材料、さらに好ましく磁気光学効果(カー効果)の大きい材料を適用する。具体的には、面内磁気異方性材料として、Ni,Fe,Coから選択される遷移金属やNi−Fe,Ni−Fe−Mo,Co−Cr等の遷移金属合金、あるいはCo−Pt等のPd,Pt,Cuとの合金が挙げられる。垂直磁気異方性材料としては、Co/Pd多層膜のような遷移金属とPd,Pt,Cuとを繰り返し積層した多層膜、またTb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。磁性細線1は、さらに最上層や最下層にRu等からなる保護層(図示せず)を備えてもよい。これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィおよびエッチングまたはリフトオフにより、以下の細線形状に成形されて磁性細線1となる。
【0025】
磁性細線1の形状は、厚さおよび幅に対して十分に長い細線状とする。本実施形態では、画素4において、磁性細線1の細線方向長さを長くするために、細線方向を画素アレイ40の対角線に平行な方向に、すなわち平面(底面)視で45°傾斜させているが、これに限らない。磁性細線1の大きさについては、厚さ(膜厚)70nm以下、幅300nm以下であれば、形成時(製造時)に、細線方向のみに磁区が分割され易いため、好ましい。本実施形態(図2、図3参照)においては、磁性細線1が面内磁気異方性材料からなるため、細線方向に沿った一方向およびその反対方向の磁化の磁区となり、後記の変形例(図6参照)のように、垂直磁気異方性材料からなる磁性細線1Aは、厚さ方向に沿った磁化方向(上方向および下方向)の磁区となる。なお、前記よりも厚さや幅の大きい磁性細線は、幅方向等にも磁区が分割されて複数形成される場合があるが、外部磁界を印加することで、細線方向のみに磁区が分割された状態にすることができる。また、磁性細線1の厚さおよび幅(断面積)が小さいほど、小さい電流で画素を動作させることができる(後記参照)。一方、磁性細線1の厚さが30nm未満では、入射した光が透過して反射光(出射光)の光量が低下する。磁性細線1の幅は、入射光(図2に示すレーザー光)の波長にもよるが、100nm程度以上とすることが好ましく、また、画素4の大きさ(画素ピッチ)に対して細すぎると画素4に入射した光のうち、磁性細線1で反射して旋光する光が少なくなる。同様に、磁性細線1の細線方向長さは十分に長いことが好ましく、特に入射領域1rは波長にもよるが100nm程度以上とすることが好ましい。なお、画素4の面積に対して、選択により2値のいずれかの角度で旋光した光が出射する領域の面積の割合を、画素4の開口率とする。原則として、前記いずれかの角度で旋光した光が出射する領域が、磁性細線1の入射領域1rの下面(反射面)である。したがって、磁性細線1は、画素4における開口率を高くするために入射領域1rを広く、すなわち細線方向長さを長く設けることが好ましい。
【0026】
さらに、図3に示すように、磁性細線1は、入射領域1rの外部の両側で括れた形状に形成されていることが好ましい。これらの括れた箇所(括れ部)1c1,1c2には、後記するように磁壁DWが生成され易く、また電流の供給を停止した時に固定(トラップ)され易いため、入射領域1rには磁壁DWが静止せず、その結果、電流停止時には入射領域1rの全体を1つの磁区が占める。前記したように、磁性細線1は入射領域1rを広く設けることが好ましいため、括れ部1c1と括れ部1c2に挟まれた全領域を入射領域1rとすることが好ましく、言い換えれば、括れ部1c1,1c2で細線方向に区切るように入射領域1rを設けることが好ましい。
【0027】
磁性細線1が括れた形状に形成されているとは、断面積(細線方向に垂直な断面)が局所的に小さくなっていることを指す。本実施形態では、磁性細線1は、平面視で幅狭となるように括れ部1c1,1c2で側面を凹ませて形成され、例えば細線状に成形されるときに、平面視で細長い長方形に2箇所の括れ(4箇所の凹み)がある形状となればよい。本実施形態においては、括れ部1c1,1c2を両側面で凹ませているが、片側面のみを凹ませてもよい。また、後記の図6に示す変形例においては、括れ部1c1,1c2を、断面図において位置をわかり易く示すために磁性細線1Aの上面に凹状に示しているが、実際に磁性細線1A(1)を局所的に薄く形成してもよく、例えば、磁性細線1,1Aを細線状(平面視で細長い長方形)に成形した後にその表面を局所的に削ってもよい。括れ部1c1,1c2は、その幅または厚さが、他の部分に対して断面積で20〜98%の範囲で狭くまたは薄くすることが好ましい。また、括れ部1c1,1c2の位置は、磁性細線1のそれぞれの端から磁性細線1の全長(細線方向長さ)の5〜40%、括れ部1c1,1c2間の長さは同全長の30〜90%とすることが好ましい。2つの括れ部1c1,1c2の磁性細線1のそれぞれの端からの距離は均等でなくてもよく、さらに、磁性細線1の一端側のみに括れ部が1つだけ形成されてもよい。
【0028】
(電極)
X電極2およびY電極3は、一対の電極として磁性細線1にその細線方向に電流を供給するために、磁性細線1に接続される。そのため、電極2,3は、磁性細線1の細線方向における接続位置は規定されないが、両端近傍に接続されればよい。磁性細線1の電極2,3の接続箇所間で、供給された電流が流れ、後記するように磁壁が移動可能であるので、電極2,3の接続箇所間が磁性細線1の実効的な細線方向長さといえる。また、電極2,3の磁性細線1における接続面は限定されないが、図2に示すように磁性細線1の上面が好ましい。電極2,3を共に磁性細線1の上面に接続することで、基板7上の全面に成膜された磁気転写膜5上に直接に磁性細線1を形成して、磁性細線1の下面全体を磁気転写膜5に接触させることができる。したがって、電極2,3は、図1に示す画素アレイ40のストライプ状の配線から、下方へ、図2に示すように層間領域62,61を経由して磁性細線1の上面に接続される。なお、本明細書において、X電極2およびY電極3は、1つの画素4毎の磁性細線1への接続部(磁性細線1の端子)と、画素アレイ40において縦横に延設されたストライプ状の部分(適宜、配線部と称する)とを含む。電極2,3は、Cu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなり、スパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に成形される。また、電極2,3の厚さおよび幅は、画素ピッチ、材料や供給する電圧・電流等によって設定される。
【0029】
(磁気転写膜)
磁気転写膜5は、外部の磁気を帯びて容易に磁化され、特に接触する磁性体の磁気に強く影響される。したがって、図2に示すように、磁気転写膜5は、上面に磁性細線1が接触して配置された領域では、当該磁性細線1の磁区D0,D1の直下の領域でそれぞれ同じ磁化方向を示す磁区が形成され、磁区を区切る磁壁が生成する。したがって、磁性細線1において磁壁DWの移動に伴い磁区D0,D1が伸長または収縮して、磁性細線1のある領域における磁化方向が変化すれば、それに対応して前記領域の直下における磁気転写膜5の磁化方向が速やかに変化する。磁気転写膜5は、磁性細線1の配置された直下の領域のみにおける磁化方向が変化するので、画素アレイ40(基板7)の全面に形成すればよいが、例えば画素4毎に分割されてもよいし、磁性細線1の形成時に同じ平面視形状に加工されてもよい。画素4に入射した光について、磁性細線1を反射したカー回転角のみでは反射光の旋光角が1°未満と小さいため、本発明に係る空間光変調器10においては、磁気転写膜5を透過させることで、磁化方向の違いによる出射光の偏光の向きの差を拡大して磁気の検出精度を向上させる。
【0030】
磁気転写膜5は、低保磁力で、磁気光学効果の大きい(ファラデー回転角の大きい)絶縁性の磁性材料からなり、透過率の高い材料が好ましい。このような材料として、具体的にはイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12:YIG)のような磁性ガーネット膜が挙げられ、特にビスマス置換磁性ガーネット(Y3-XBiXFe5O12:Bi−YIG)はファラデー回転角が約5°/μm(波長532nm)と大きいことから好ましい。磁性ガーネット膜は、例えばGd3Ga5O12(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット:GGG)単結晶基板上に液相エピタキシャル成長(Liquid Phase Epitaxy:LPE)法にて成膜させることで製造でき、GGG基板を基板7として、磁気転写膜5が成膜された状態でその上に画素4を形成することができる。あるいは、スピンコート焼結法の一種である有機金属分解(Metal Organic Decomposition:MOD)法や、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法にて、ガラス基板等に磁気転写膜5を成膜することもできる。また、磁気転写膜5は、磁化容易軸を磁性細線1の磁化方向に沿ったものとし、すなわち本実施形態においては、磁性細線1の細線方向とする(後記製造方法参照)。磁気転写膜5の膜厚は特に限定されず、厚くするほど比例してファラデー回転角を大きくすることができるが、一方で光が吸収されて出射光が減衰するため、具体的には0.1〜2μm程度が好ましい。
【0031】
(絶縁部材)
絶縁部材6は、画素アレイ40における磁性細線1,1間、X電極2,2間およびY電極3,3間、ならびに磁性細線1とX電極2との間(層間領域61)、X電極2とY電極3との間(層間領域62)に配され、さらにY電極3の上面を被覆してもよい。絶縁部材6は、例えばSiO2やAl2O3等の公知の絶縁材料からなり、また画素アレイ40の全体で同じ材料を適用しなくともよい。
【0032】
(基板)
基板7は、画素4に入射する光を透過させ、さらに画素4から出射する光を透過させるため、透明な材料からなり、例えば、SiO2、酸化マグネシウム(MgO)、ガラス等の公知の透明基板材料が挙げられる。また、前記したようにGGG基板を適用した場合は、LPE法にて磁気転写膜5を成膜することができる。
【0033】
(光吸収膜)
図2に示すように、基板7の下面(裏面)を光吸収膜8(図1では図示省略)で被覆してもよい。光吸収膜8は、空間光変調器10に入射する光を遮光して、画素4のそれぞれの磁性細線1の入射領域1r以外に光が入射しないようにする。詳しくは、磁性細線1の入射領域1r以外の領域で反射した光、ならびに磁気転写膜5の入射領域1rの直下の領域(以下、入射領域5rと称する)以外を透過した光が、画素アレイ40から出射しないようにする。そのため、光吸収膜8は、所定の形状の孔(開口領域8r、図5(d)参照)を画素4毎に形成される。光吸収膜8の開口領域8rは、磁気転写膜5の入射領域5rを透過する光(入射光および磁性細線1で反射した光)の光路に合わせて、形状および画素4における位置が設計される。このような光吸収膜8としては、カーボン、ビスマス、マンガン、フェライト等の公知の黒色膜が挙げられ、塗布法等、公知の方法で成膜して、リソグラフィーおよびエッチング等で入射光および出射光を通過させる開口領域8rを形成する。また、入射光および出射光を基板7の下面で透過させないようにすればよいので、光吸収膜8に代えて光反射膜(図示せず)でもよく、Al,Au,Ag,Pt等を適用することができる。
【0034】
(画素アレイの製造方法)
本発明に係る空間光変調器の画素アレイの製造方法について、その一例を図4および図5を参照して説明する。この説明において、縦および横とは図4、図5の平面図における方向を指す。
【0035】
まず、基板7の表面全体に磁気転写膜5を形成する。前記したように基板7としてGGG基板を適用し、全面にLPE法にて磁性ガーネット膜を成膜する(図示省略)。ここで、GGG基板上にLPE法にて成膜した磁性ガーネット膜は、磁化容易軸が膜面垂直方向となり易い。そこで、この後に形成する磁性細線1の細線方向に沿って十分大きな磁界を印加しながらアニール処理を行って、磁化容易軸を面内方向に寝かせた磁気転写膜5にする。
【0036】
次に、図4(a)に示すように、基板7上の磁気転写膜5の表面に、強磁性材料を公知の方法で成膜、成形して、2箇所の括れ部1c1,1c2(図3(a)参照)を有する細線状の磁性細線1(図4(b)参照)を形成する。次に、磁性細線1,1間および磁性細線1上(層間領域61)に絶縁部材6として絶縁材料を堆積させる。そして、図4(b)、(c)に示すように、絶縁部材6について、磁性細線1の両端近傍上にコンタクトホールV1,V1を形成して、磁性細線1を露出させる。
【0037】
次に、絶縁部材6上に金属電極材料を成膜して、図4(d)、(e)に示すように、磁性細線1の一端のコンタクトホールV1を埋めて、縦方向に磁性細線1,1同士を連結する配線部を備えるX電極2を形成する。それと同時に、磁性細線1の他端のコンタクトホールV1を埋めて、後記のY電極3に接続するための金属層31を形成する。次に、X電極(配線部)2,2間およびX電極2上(層間領域62)に、絶縁部材6として絶縁材料を堆積させる。そして、図5(a)に示すように、この絶縁部材6の金属層31上にコンタクトホールV2を形成して、金属層31を露出させる。
【0038】
次に、絶縁部材6上に金属電極材料を成膜して、図5(b)、(c)に示すように、コンタクトホールV2を埋めて、横方向に金属層31,31同士を連結する配線部を備える金属層32を形成してY電極3を形成する。そして、図5(c)に示すように、Y電極(配線部)3,3間を絶縁材料で埋めて、さらにY電極3上を被覆するように絶縁材料を堆積させて、絶縁部材6とする。最後に、図5(c)、(d)に示すように、基板7の下面に画素4毎(磁性細線1毎)に開口領域8rを除いて光吸収膜8を被覆して、画素アレイ40となる。
【0039】
ここで、磁性体は磁気エネルギーが安定した状態となるようにその内部が複数の磁区に分割されるが、磁性細線1が十分に細い(厚さおよび幅が小さい)形状の場合は、形成時(製造時)に画素アレイ40のすべての磁性細線1において磁区が細線方向のみに分割された状態となり易い。さらに、図3(a)に示すように磁性細線1に2箇所の括れ部1c1,1c2が形成されている場合は、画素アレイ40の磁性細線1のそれぞれにおいて、この括れ部1c1,1c2のいずれか一方または両方に磁壁が生成されて細線方向に2つまたは3つの磁区が生成した状態となる(図示省略)。そのため、初期化作業(リセット)として、すべての磁性細線1(画素アレイ40)に数10G〜5kG(〜0.5T)程度の磁界を外部から印加して、括れ部1c1,1c2の所望の一方にのみ1つの磁壁DWが生成、固定されるようにする。この初期化作業によって1つの磁性細線1に磁壁が1つとなるように、磁性細線1は括れ部1c1,1c2も含めてその形状が設計される。
【0040】
(磁性細線における磁壁の移動)
次に、本発明に係る空間光変調器の画素選択の動作である、磁性細線における磁壁の移動について、図3を参照して説明する。第1実施形態においては、画素4に備えられた磁性細線1は、右方向の磁化の磁区D1と左方向の磁化の磁区D0との2つの磁区が、磁壁DWを挟んで細線方向に(図3における左右に)並んで存在する。図3に示す磁性細線1においては、磁区D0,D1の別をわかり易くするため、磁区D0にハッチングを付す。磁壁内部ではそれを挟む2つの磁区の一方の磁区の磁化方向から他方の磁区の磁化方向へと磁化が徐々に変化すなわち回転している。なお、一般的に、磁壁の長さ(厚さ)は磁性細線の形状や大きさ(幅、厚さ、細線長)等にもよるが、5〜100nm程度で、磁区の長さに対して極めて短い(狭い)が、図3においては磁壁を模式的に拡大して示す。図3(a)は磁性細線1への電流供給が停止した状態を示し、左側の括れ部1c1に磁壁DWが静止しているため、入射領域1rにおいては磁区D0が存在するので左方向の磁化を示す。
【0041】
図3(a)に示す磁性細線1に、X電極2を「−」、Y電極3を「+」として、細線方向に左へ電流I(図3(b)にて「+I」と表記する)を供給する。すると、図3(b)に示すように、右方向へ流れる電子e-のスピントルクに影響されて、磁壁DWが右へ移動する。磁壁DWの移動により、磁区D1は細線方向に伸張し、磁区D0は収縮する。厚さおよび幅が一定な磁性細線に一定の大きさの電流を供給したとき、磁壁は一定の速度で移動し、その速度は磁性細線の断面積あたりの電流密度が高いほど速くなる。なお、磁性細線1は局所的に幅の狭い箇所(括れ部1c1,1c2)が形成されているが、括れ部1c1,1c2以外の領域においては磁壁の移動速度は一定である。そして、図3(c)に示すように、磁壁DWが右側の括れ部1c2に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、入射領域1rにおいては磁区D1が存在するので右方向の磁化を示す。したがって、磁性細線1の入射領域1rに限定したとき、電流供給によって、左方向から右方向へ磁化反転したといえる。
【0042】
反対に、図3(c)に示す磁性細線1に、X電極2を「+」、Y電極3を「−」として右方向へ電流I(図3(d)にて「−I」と表記する)を供給すると、図3(d)に示すように、左方向へ流れる電子e-により、磁壁DWが左へ移動する。この磁壁DWの移動により、磁区D1は収縮し、磁区D0は伸張する。そして、磁壁DWが左側の括れ部1c1に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、再び図3(a)に示すように、入射領域1rにおいて左方向の磁化を示す。このように、磁性細線1に向きを変えて電流を供給することによって、入射領域1rにおいては、左方向または右方向のいずれか所望の方向へ磁化反転させることができる。
【0043】
前記した通り、磁性細線1に供給する電流の大きさが一定であれば磁壁DWの移動速度も一定であるので、入射領域1rの磁化反転は磁壁DWが入射領域1rの左右両外側の間の距離を移動する時間だけ電流Iを供給すればよい。しかし、電流の大きさや供給時間等の誤差により磁壁DWの静止位置が僅かにずれて、この微小ずれが累積されると、電流停止時に磁壁DWが入射領域1rで静止して、入射領域1rに2つの磁区D1,D0が到達した状態となったり、反対に磁壁DWが磁性細線1の端まで到達して消失する虞がある。このような磁壁DWの位置ずれを防止するため、磁性細線1に、入射領域1rの両外側に括れ部1c1,1c2が形成されていることが好ましい。磁性細線1の局所的に細い部位には磁壁が形成され易く、また電流供給により磁壁DWが移動して、電流停止時に括れ部1c1(1c2)の近傍に到達した場合は、自発的に括れ部1c1(1c2)まで移動してから静止する。したがって、磁性細線1には磁壁DWが括れ部1c1,1c2間の距離を移動する時間だけ電流Iを供給すれば、供給時間等に微小な誤差があったとしても、電流停止時には磁壁DWが括れ部1c1,1c2の一方に係止され、入射領域1rの全体において左方向または右方向の1つの磁化方向のみを示す。
【0044】
ここで、前記した通り、電源91から磁性細線1に供給する電流はパルス電流が好ましい。パルス電流が磁性細線1に供給されると、磁壁DWはパルスに同期して断続的に移動する。1回(1パルス)の移動距離はパルス幅および電流密度に依存するので、合計の供給時間(パルス幅×回数)で括れ部1c1,1c2間の距離を移動するような回数のパルス電流を供給すればよい。
【0045】
なお、磁性細線1において、この動作による磁壁DWの固定後、また前記初期化による磁壁DWの生成後は、この磁壁DWを挟んだ2つの磁区D0,D1のそれぞれで磁性細線1の保磁力により磁化が保持されるので、磁性細線1に新たに電流の供給や磁界の印加を行うまでは磁壁DWの移動や消失は起こらない。
【0046】
(空間光変調器の動作)
本発明に係る空間光変調器の光変調動作を、図2を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、図11に示す従来の反射型の空間光変調器100を用いたものとほぼ同様の構成であるが、空間光変調器100が画素アレイの上面を光の入射面とするのに対して、本発明に係る空間光変調器10は、下面すなわち基板7側を光の入射面とする。そのため、空間光変調器10を用いた表示装置においては、画素アレイ40の下方に、画素アレイ40に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光を画素アレイ40に入射する前に1つの偏光成分の光(1つの向きの偏光)とする偏光子PFiと、画素アレイ40で反射して出射した光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子PFoと、偏光子PFoを透過した光を検出する検出器PDとが配置される。
【0047】
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を画素アレイ40の全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光とするレンズで構成される(図示省略)。光学系OPSから照射された光(レーザー光)は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を画素アレイ40の手前の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段である。
【0048】
光学系OPSは、平行光としたレーザー光を、画素アレイ40の下面に所定の入射角で入射するように照射する。レーザー光は偏光子PFiを透過して偏光(入射偏光)となり、画素アレイ40の下方からすべての画素4に向けて入射する。入射偏光は、基板7を透過し、さらに磁気転写膜5を透過してそれぞれの画素4の磁性細線1に到達し、その下面で反射して、再び磁気転写膜5および基板7を透過して、画素アレイ40から出射偏光として出射する。それぞれの画素4で反射したすべての出射偏光は、偏光子PFoに到達する。偏光子PFoは特定の偏光を遮光し、偏光子PFoを透過した光が検出器PDに入射する。
【0049】
図2に示す空間光変調器10において、左側の画素4の磁性細線1は入射領域1rの左側(括れ部1c1、図3(a)参照)に磁壁DWが到達しているので、入射領域1rにおいては、左方向の磁化の磁区D0が存在する。一方、右側の画素4の磁性細線1は入射領域1rの右側(括れ部1c2、図3(c)参照)に磁壁DWが到達しているので、入射領域1rにおいては、右方向の磁化の磁区D1が存在する。そして、それぞれの画素4の磁性細線1の入射領域1rの直下の領域(入射領域5r)における磁気転写膜5も、磁性細線1の磁化方向が転写されて同じ磁化方向となる。
【0050】
画素4に入射する光は、当該画素4に入射する前に磁気転写膜5を透過する際に、磁気転写膜5の磁化方向によって異なる回転方向に旋光し、さらに磁性細線1の下面で反射する際にも、磁性細線1の磁化方向によって異なる回転方向に旋光し、再び磁気転写膜5を透過する際にも旋光して出射する。したがって、磁性細線1の入射領域1rで反射し、かつその直下の入射領域5rにおける磁気転写膜5を往復して透過した出射偏光は、当該入射領域1rにおける磁化方向によって、入射偏光に対して同じ角度で互いに反対方向に旋光した、すなわち2値の角度−θK,+θK旋光した偏光となる。
【0051】
ここで、磁性細線1は、入射領域1rの外に当該入射領域1rにおける磁区とは異なる磁化方向の磁区が形成されている。入射領域1r外のこのような磁区で反射した光、あるいはさらにこの磁区と同じ磁化が転写された領域の磁気転写膜5を透過した光が出射すると、正しい情報が表示されないことになる。したがって、基板7の下面に、画素4毎に開口領域8rを空けた光吸収膜8を設けて、磁性細線1の入射領域1r以外で反射した光が出射しないようにすることが好ましい。光吸収膜8により、画素4毎に、前記2値の角度−θK,+θKのいずれかで旋光した偏光のみが、画素アレイ40から出射する。
【0052】
偏光子PFoは、入射偏光に対して角度+θK旋光した偏光を遮光する。したがって、図2に示す右側の画素4からの出射偏光は、偏光子PFoにすべて遮光され、検出器PDにまったく入射しないので、この画素4は検出器PDに暗く(黒く)表示される。一方、左側の画素4からの出射偏光は、偏光子PFoを透過して検出器PDに入射し、この画素4は検出器PDに明るく(白く)表示される。このように、空間光変調器10は、画素4毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、また前記したように、電極2,3にて供給される電流の向きに対応して磁性細線1の再生領域1rにおいて磁化を反転させることができるので、明/暗を切り換えることができる。なお、偏光子PFoを透過する偏光は、入射偏光に対して角度+θK旋光した偏光と偏光成分の角度の差が大きいほど多くなり、90°で透過率100%となる。したがって、本発明に係る空間光変調器10は、明るく表示しようとする画素4からの出射偏光、すなわち入射偏光に対して角度−θK旋光した偏光を、磁気転写膜5にて偏光成分の角度の差2|θK|を大きくすることにより、偏光子PFoに多く透過させて、画素選択性に優れたものとなる。
【0053】
また、旋光角−θK,+θK(|θK|)を大きくする、すなわち磁気光学効果(磁性細線1のカー効果および磁気転写膜5のファラデー効果)を大きくするために、入射偏光は、入射領域1r,5rにおける磁化方向により平行に近い方向に沿って入射されることが好ましい。本実施形態に係る空間光変調器10においては、磁性細線1、磁気転写膜5の入射領域1r,5rにおける磁化方向は磁性細線1の細線方向であり、画素アレイ40の対角線方向である。ただし、入射方向は磁化方向と平行に近付き過ぎるとそれぞれの画素4に光が入射することが困難となるので、入射角が80°程度以内となるように、磁性細線1の細線方向に対して10°〜60°程度の角度の方向とすることが好ましい。したがって、本実施形態に係る空間光変調器10においては、入射角30°〜80°程度の範囲となるように入射偏光の入射方向を傾斜させるため、図2に示すように、入射偏光および出射偏光のそれぞれの光路に合わせて、光学系OPSや偏光子PFi,PFo等が配置される。
【0054】
(変形例)
第1実施形態の変形例に係る空間光変調器について、図1および図6を参照して説明する。第1実施形態の変形例に係る空間光変調器10Aは、垂直磁気異方性材料からなる磁性細線1Aを適用し、磁気転写膜5Aの磁化容易軸が膜面垂直方向であること以外は、空間光変調器10(図1および図2参照)と同様の構成であり、同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。図6に示すように、磁性細線1Aの磁化方向は上方向または下方向であり、磁気転写膜5Aの磁化方向は直上の磁性細線1Aの磁化方向に転写される。したがって、磁性細線1Aの細線形状は、その磁化方向に影響しないので、第1実施形態と同様に画素アレイ40Aの対角線方向に平行な直線でもよいし(図1参照)、厚さおよび幅に対して十分に緩やかな円弧等の曲線状に形成してもよい。また、磁性細線1Aは、画素4A毎に異なる向きに配置してもよい。ただし、画素4Aにおける入射領域1rの位置が、すべての画素4Aにおいて統一されているようにする。このような磁性細線1Aにおいても、電流の供給による磁壁DWの移動およびそれに伴う磁区D1,D0の伸長、収縮は、面内磁気異方性材料からなる磁性細線1と同様であり(図3参照)、入射領域1rにおいて磁化方向を下方向または上方向のいずれか所望の方向へ磁化反転させることができる。
【0055】
空間光変調器10Aにおいては、磁性細線1Aおよび磁気転写膜5Aの磁化方向に平行に、すなわち画素アレイ40A(画素アレイ40Aの面内方向)に垂直に光(入射偏光)を入射することで、出射偏光の旋光角が最大となる。したがって、空間光変調器10Aを用いた表示装置においては、図6に示すように、画素アレイ40Aの直下に、光学系OPS(図2参照)および偏光子PFiが配置されて、入射偏光が画素アレイ40Aに入射角0°で入射されることが好ましい。このような構成の表示装置においては、画素アレイ40Aで反射して出射した光(出射偏光)が入射偏光と同一の光路となるため、偏光子PFiと画素アレイ40Aとの間に画素アレイ40Aに対して45°傾斜させたハーフミラーHMがさらに配置される。なお、図6ではハーフミラーHMは2つに分割されて示されているが、実際には、1枚で画素アレイ40Aからの出射偏光がすべて入射されるような形状とする。ハーフミラーHMは、下方から照射される入射偏光は透過させ、上方から照射される出射偏光は側方へ反射させる。したがって、偏光子PFoおよび検出器PDは、ハーフミラーHMの側方に配置される。
【0056】
画素アレイ40Aには垂直に光が入射し、かつ出射する。したがって、磁性細線1Aの入射領域1r以外の領域で反射した光、ならびに磁気転写膜5Aの入射領域5r以外を透過した光を遮光するための光吸収膜8に形成する開口領域8r(図5(d)参照)は、平面視において、形状および位置を磁性細線1Aの入射領域1rと一致させる。
【0057】
空間光変調器10Aを用いた表示装置においても、空間光変調器10と同様に入射偏光を傾斜させて画素アレイ40Aに入射し(入射角>0°)、出射偏光と光路が重複しないようにして、ハーフミラーHMを配置しない構成としてもよい(図2参照)。ただし、前記したように入射方向が磁化方向に平行に近いほど好ましいので、入射角は30°程度以内とすることが好ましい。
【0058】
以上のように、第1実施形態およびその変形例に係る空間光変調器によれば、選択画素−非選択画素間で旋光角の差が従来の空間光変調器よりも大きいため、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた反射型空間光変調器となる。
【0059】
[第2実施形態]
第1実施形態およびその変形例に係る空間光変調器においては、1つの画素に1本の磁性細線を備える構成としたが、それに限らない。本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の画素アレイ40Bは、図7に示すように、1つの画素4Bに平面(底面)視で2本の磁性細線1B,1Bを平行に配置して備える。画素4Bにおいて、磁性細線1B,1Bはそれぞれの両端を同一の組み合わせのX電極2BおよびY電極3Bに並列に接続される。1本の磁性細線1Bは、2箇所の括れ部を一側面のみに形成していること以外は、大きさおよび材料等については第1実施形態およびその変形例の磁性細線1,1Aと同様であり、面内磁気異方性材料、垂直磁気異方性材料のいずれも適用できる。電極2B,3Bは、それぞれの画素4Bの磁性細線1B,1Bの両端に接続するため、平面視で屈曲した帯状としているが、材料等については第1実施形態の電極2,3と同様である。また、画素4Bは、基板7の表面全体に磁気転写膜5(5A)を積層したさらにその上に配列されて、画素アレイ40Bとなり、さらに基板7の裏面に光吸収膜8を設けるので、画素アレイ40BのC−C断面図は、図2または図6と同様の構成となる。ただし、磁性細線1Bの細線方向(画素アレイ40Bの対角線方向)に隣り合う画素4B,4Bのそれぞれの磁性細線1B,1Bは、Y電極3Bの接続される側同士が向き合って、同じY電極3Bに接続される対称の配置となる。そのため、画素アレイ40Bは、4列に配列されている画素4Bに対して、1本多い5本のY電極3Bを備える。また、X電極2BおよびY電極3Bは、第1実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ40の電極2,3と同様に、電流制御部90に接続されている(図1参照)ので、図示および説明は省略する。
【0060】
前記した通り、磁性細線は細い(幅および厚さが小さい)ほど少ない電流で磁壁を移動させることができ、また電流あたりの移動速度も速くなって好ましい。画素サイズがある程度大きい場合においては、磁性細線1(1A)の幅を小さくすると、その入射領域1rの画素4(4A)における面積比(開口率)が小さくなり、空間光変調器として光取り出し効率に劣ることになる。本実施形態のように、複数の磁性細線1Bを、それぞれの入射領域1r(図2、図6参照)を近付けて配置することで、光吸収膜8の1つの画素4Bにおける開口領域8r(図7では1つの画素4Bにのみ示す)を広くすることができる。
【0061】
以上のように、第2実施形態に係る空間光変調器によれば、第1実施形態およびその変形例に係る空間光変調器と同様に選択性に優れ、さらに開口率の高い反射型空間光変調器となる。
【0062】
[第3実施形態]
図8および図9を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。第1実施形態(図1、図2、図3参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明は省略する。図8(a)に示すように、第3実施形態における空間光変調器の磁性細線1Cは、細線形状が略コの字型であり、第1実施形態と同様に、両端近傍がX電極2およびY電極3に接続されている。さらに、X電極2およびY電極3は、第1実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ40の電極2,3と同様に、電流制御部90に接続されている(図1参照)ので、図示および説明は省略する。また、画素4Cは、基板7の表面全体に磁気転写膜5(5A)を積層したその上に配列されて、画素アレイ40Cとなり、さらに基板7の裏面に光吸収膜8を設けるので、画素アレイ40Cの断面構造は、第1実施形態における画素アレイ40等と同様の構造となる。
【0063】
図9(a)に示すように、磁性細線1Cは、括れ部がなく厚さおよび幅が一定であり、平面視90°で屈曲した2箇所の屈曲部1f1,1f2を有して細線形状が略コの字型で、その全長が厚さおよび幅に対して十分に長い。それ以外の材料、厚さ、幅については、磁性細線1Cは第1実施形態およびその変形例の磁性細線1,1Aと同様であり、面内磁気異方性材料、垂直磁気異方性材料のいずれも適用できる。磁性細線1Cにおける屈曲部1f1,1f2は、第1実施形態の磁性細線1における括れ部1c1,1c2と同様に電流停止時に磁壁を係止するためのものである。本実施形態では屈曲の角度を90°としているがこれに限られず、好適に磁壁を係止するためには15°〜135°の範囲であることが好ましい。また、屈曲部1f1,1f2で屈曲の向きを同じとしなくてもよく、平面視でクランク型の磁性細線でもよい。したがって、磁性細線1Cは、略コの字型の中央の直線部分に入射領域1rを設け、言い換えれば、入射領域1rの外部の両側に、屈曲部1f1,1f2をそれぞれ形成される。そして、磁性細線1Cにおける屈曲部1f1,1f2の位置および屈曲部1f1,1f2間の長さは、磁性細線1における括れ部1c1,1c2と同様であり、また屈曲部は1箇所でもよい。また、磁性細線1Cは、図8(b)に示すように、画素4Dにおいて平面(底面)視で例えば45°傾斜させて配置してもよい。このような配置とすることで、画素サイズに対して屈曲部1f1,1f2間距離を長くすることができる。本実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素アレイ40Dは、磁性細線1Cの形状(配置)以外は、画素アレイ40Cと同様の構成である。
【0064】
磁性細線1Cは、第1実施形態の磁性細線1と同様に、その形状によって、または適当な強さの外部磁界を印加されることによって、磁区が磁性細線1Cの細線方向に分割されている。ここで、細線方向とは、当該磁区が存在する領域における細線方向を指す。磁性細線1Cが面内磁気異方性材料からなる場合、その磁化方向は細線方向に沿うので、図9に示す平面図では、屈曲部1f1,1f2間の直線部には右または左方向の磁化を示す磁区が形成され、その両側の直線部には上または下方向の磁化を示す磁区が形成される。そして、直線状の磁性細線1と同様に、磁気エネルギーが安定した状態となるように、磁性細線1Cは、細線方向に沿って180°異なる複数の磁区に分割される。したがって、図9に示すように、磁性細線1Cにおいて、平面視で磁化が右回り(時計回り)方向である磁区D1と、磁化が左回り方向である磁区D0とが存在し、これら2つの磁区間の境界領域が磁壁DWとなる。図9に示す磁性細線1Cにおいては、磁区D0,D1の別をわかり易くするため、第1実施形態(図3参照)と同様に磁区D0にハッチングを付す。
【0065】
細線状の磁性体において、磁壁は、外部磁界のない状態では、括れ部のような断面積の小さい部分と同様に、屈曲した箇所に生成、固定され易い。したがって、本実施形態に係る磁性細線1Cにおいては、屈曲部1f1,1f2のいずれか一方または両方に磁壁が生成されることになるが、第1実施形態と同様に初期化作業として、すべての磁性細線1C(画素アレイ40C)に外部磁界を印加して、屈曲部1f1,1f2の所望の一方にのみ1つの磁壁DWが生成、固定されるようにする。この初期化作業によって1つの磁性細線1Cに磁壁が1つとなるように、磁性細線1Cは屈曲部1f1,1f2も含めてその形状が設計される。ここで、例えば図9(a)に示す磁性細線1Cにおいては、屈曲部1f2を挟んだ2つの直線状の領域で、磁化方向は90°回転しているが左回り方向に揃っている(磁区D0)。この場合は、屈曲部1f2には磁壁は生成されない、または生成されても比較的領域の狭い磁壁となる。本実施形態においては、このように、磁化方向が右回り、左回りで揃っていれば、屈曲部1f1または屈曲部1f2を挟んで磁化方向が90°回転している領域も1つの磁区と定義する。
【0066】
(磁性細線における磁壁の移動)
次に、本発明に係る空間光変調器の画素選択の動作である、磁性細線における磁壁の移動について図9を参照して説明する。本実施形態の磁性細線1Cは、図3に示す第1実施形態の直線状の磁性細線1と同様に、細線方向に電流を供給することにより、磁壁DWが細線方向において電流の向きとは反対方向に移動し、それに伴い磁壁DWの両側の磁区D1,D0が伸長または収縮する。図9(a)は、初期化され、また磁性細線1Cへの電流供給が停止した状態を示し、左側の屈曲部1f1に磁壁DWが静止しているため、入射領域1rにおいては磁区D0が存在するので左方向の磁化を示す。以下、磁性細線1Cの磁化や電流供給等の方向については、適宜、屈曲部1f1,1f2間の直線部(入射領域1r)での方向(右または左)で示す。
【0067】
図9(a)に示す磁性細線1Cに、X電極2を「−」、Y電極3を「+」として、細線方向に左回りへ電流I(図9(b)にて「+I」と表記する)を供給すると、図9(b)に示すように、右方向へ流れる電子e-により、磁壁DWが右へ移動する。そして、図9(c)に示すように、磁壁DWが右側の屈曲部1f2に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、入射領域1rにおいては磁区D1が存在するので右方向の磁化を示す。反対に、図9(c)に示す磁性細線1に、X電極2を「+」、Y電極3を「−」として右回りへ電流Iを供給すると、磁壁DWが左へ移動し(図示省略)、磁壁DWが左側の屈曲部1f1に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、再び図9(a)に示すように、入射領域1rにおいて左方向の磁化を示す。
【0068】
このように、磁性細線1Cについても、第1実施形態と同様に、電極2,3にて向きを変えて電流を供給することによって、入射領域1rにおいては磁化方向を左方向または右方向のいずれか所望の方向へ磁化反転させることができる。さらに、磁性細線1Cは2箇所で屈曲した形状とすることで、屈曲部1f1,1f2のいずれかに磁壁DWが係止されるため、屈曲部1f1,1f2間の入射領域1rにおける磁化方向を安定して制御できる。したがって、磁性細線1Cを画素4Cに備える第3実施形態に係る空間光変調器は、第1実施形態に係る空間光変調器10と同様に画素選択の動作が可能で、選択性に優れた反射型空間光変調器となる。
【0069】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例1】
【0070】
(サンプル作製)
本発明の効果を確認するために、本発明の第1実施形態の変形例に係るに係る空間光変調器10A(図6参照)を模擬するサンプルを作製し、その磁気光学効果を評価した。なお、磁性細線1Aの材料として適用したCo−Pt合金は面内磁気異方性材料であるが、外部から垂直に磁界を印加することにより、その磁化方向を垂直とした。GGG基板(基板7)に膜厚0.5μmのビスマス置換磁性ガーネット(Bi−YIG)膜をLPE法にて成膜して磁気転写膜5Aとし、その上に膜厚40nmのCo−Pt合金膜をイオンビームスパッタ法にて成膜した。このCo−Pt合金膜を幅700nm、長さ20μmの細線状に電子線リソグラフィーにて加工して磁性細線1Aを形成し、サンプルとした。また、比較例(従来例)のサンプルとして、表面を熱酸化したSi基板上に、前記実施例と同じ磁性細線1Aを形成した。
【0071】
作製したサンプルに、初期化として外部磁界を垂直に印加して、すべての磁性細線1Aおよび磁気転写膜5Aの磁化を垂直に一様の方向とした。そして、波長408nmのレーザー光をサンプルの直上より入射して、サンプル(磁性細線1A)からの反射光をハーフミラーで取り出し、その偏光の角度を、垂直磁界Kerr効果測定装置で測定した。次に、反射光の偏光の測定を継続したまま、前記印加磁界と反対方向の磁界をその大きさを漸増させながら印加することによって、磁性細線1Aの磁化を下向きへ反転させた。図10に、外部磁界(H)に対するカー回転角(θk)特性のグラフ(カーループ)を示す。図10(a)に示すように、磁気転写膜5Aを設けたことによって、図10(b)に示す磁気転写膜5Aを設けていない比較例よりもカー回転角が大幅に増大し、磁気光学効果が向上した。
【符号の説明】
【0072】
10,10A 空間光変調器
1,1A,1B,1C 磁性細線
1r 入射領域
1c1,1c2 括れ部
1f1,1f2 屈曲部
2,2B X電極(電極)
3,3B Y電極(電極)
40,40A,40B,40C,40D 画素アレイ
4,4A,4B,4C,4D 画素
5,5A 磁気転写膜
7 基板
90 電流制御部
91 電源(電流供給手段)
94 画素選択部(画素選択手段)
D0,D1 磁区
DW 磁壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これをマトリクス状に2次元配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ディスプレイ技術や記録技術等の分野で広く利用されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられているが、近年では、高速処理かつ画素の1μm以下の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
【0003】
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁性体に入射した光が透過または反射する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射するファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用し、磁性体の中でも特に効果の大きい磁気光学材料を使用している。すなわち、選択された画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものとして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせる。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式の他に、近年では光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)がある。しかし、スピン注入により磁化方向を変化させる光変調素子(スピン注入光変調素子)は、さらなる画素の微細化を可能とする一方、当該スピン注入光変調素子における磁化方向の変化する層(磁化自由層)は、その膜厚が数〜10数nm程度である。このような薄い磁性体では、光を大きく旋光させること、すなわち光変調度を大きくすることは困難である。
【0004】
そこで、本発明者らは、細線加工された磁性体(磁性細線)においては、2以上の磁区が細線方向に区切られて形成され易く、これらの磁区を区切る磁壁は当該磁性細線に電流を供給することにより移動するという磁性細線における磁壁移動を利用して、磁性細線を光変調素子とする空間光変調器を開発している(特許文献2)。詳しくは、図11に示すように、磁性細線1の両端に接続した一対の電極102,103にて細線方向に電流を供給すると、電流の向きとは反対方向へ磁壁DWが移動して、光の入射領域1rにおける磁化方向が反転する。磁性細線は、細線方向長さが幅および厚さに対して十分に長ければよいので、光を透過する厚さを十分なものとしてファラデー効果により光を大きく旋光させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−83686号公報
【特許文献2】特開2010−20114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のような磁性細線を光変調素子とする空間光変調器を反射型の空間光変調器とすると、その旋光角は磁性細線のカー効果によるカー回転角であって、磁性体材料に依存する。例えば比較的大きなカー回転角が得られるCo/Pd多層膜であっても0.25°程度であり、十分な光変調度を得るためにはさらに改良する余地がある。
【0007】
本発明は前記課題に鑑み創案されたもので、光変調度をいっそう向上させた反射型の空間光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは、ファラデー効果の大きい磁気転写膜を磁性細線に重ね合わせてこれに光を透過させることで、光を大きく旋光させることに想到した。
【0009】
本発明に係る空間光変調器は、光を透過させる基板と、この基板上にマトリクス状に配列された複数の画素と、前記複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、前記基板を透過して前記画素選択手段が選択した画素に入射した光の偏光の向きを特定の方向に変化させて反射して出射するものである。そして、前記画素は、磁気光学材料を細線状に形成して細線方向に連続して2以上の磁区が形成された磁性細線と、この磁性細線の両端近傍に接続された一対の電極とを備え、前記磁性細線は、前記光を入射させるための細線方向に区切られた領域である入射領域が予め指定された位置に設けられ、前記電流が前記一対の電極を介して細線方向に供給されることにより、隣り合う2つの磁区の間に生成している磁壁が細線方向に移動して、前記入射領域に前記2つの磁区のいずれか1つが到達するものである。空間光変調器は、さらに、前記基板と前記複数の画素との間に、磁気転写膜を前記磁性細線の前記基板側の面に接触させて備えることを特徴とする。
【0010】
かかる構成により、空間光変調器は、ファラデー効果の大きい磁気転写膜を、磁性細線の光の入射側に接触させて備えるため、磁性細線で反射した光が磁気転写膜を透過することにより、入射した光を大きく旋光させて出射する。
【0011】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記磁性細線が、前記入射領域の外で局所的に括れた形状に形成されていることが好ましい。あるいは、前記磁性細線が、前記入射領域の外で屈曲した細線形状に形成されていることが好ましい。
【0012】
かかる構成により、電流の供給を停止した時に磁性細線の括れた箇所または屈曲した箇所に磁壁が到達して停止するため、光の入射領域に磁壁がないことでその全体に1つの磁区が占める状態となり、1画素から出射する光を安定して同じ角度で旋光したものとすることができる。
【0013】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記一対の電極が前記磁性細線の上に接続され、前記複数の画素において、同じ行に配列された画素の前記一対の電極の一方が1つの配線に接続され、同じ列に配列された画素の前記一対の電極の他方が前記配線上に絶縁層を介して配設された1つの配線に接続されることが好ましい。
【0014】
かかる構成により、マトリクス状に2次元配列された複数の画素のそれぞれに、格子状の配線で電流を供給することができる。また、すべての電極および配線が光の入出射面と反対側に配置されるため、これらの配線等で光が遮られることがないため、画素における入射領域の面積率(開口率)を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る空間光変調器によれば、光変調度の大きな反射型の空間光変調器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す底面図である。
【図2】第1実施形態に係る空間光変調器を用いた表示装置の構成および画素選択の状態を説明する模式図で、図1のA−A断面図に対応する図である。
【図3】第1実施形態に係る空間光変調器の磁性細線における磁壁の移動を模式的に説明する平面図である。
【図4】本発明に係る空間光変調器の画素アレイの製造方法を説明する模式図で、(a)は磁性細線形成工程における断面図、(b)および(c)はXコンタクトホール形成工程における平面図およびそのB−B断面図、(d)および(e)はX電極形成工程における平面図およびそのB−B断面図である。
【図5】本発明に係る空間光変調器の画素アレイの製造方法を説明する模式図で、(a)はYコンタクトホール形成工程における断面図、(b)、(c)および(d)はY電極形成工程における平面図、そのB−B断面図、および底面図である。
【図6】第1実施形態の変形例に係る空間光変調器を用いた表示装置の構成および画素選択の状態を説明する模式図で、図1のA−A断面図に対応する図である。
【図7】第2実施形態に係る空間光変調器の画素アレイの底面模式図である。
【図8】第3実施形態に係る空間光変調器の画素アレイの底面模式図であり、(a)は第3実施形態、(b)は第3実施形態の変形例である。
【図9】第3実施形態に係る空間光変調器の磁性細線における磁壁の移動を模式的に説明する平面図である。
【図10】空間光変調器のサンプルの外部磁界に対するカー回転角特性を示すグラフであり、(a)は本発明に係る実施例、(b)は比較例である。
【図11】従来の磁性細線を画素に適用した空間光変調器の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る空間光変調器を実現するための形態について、図を参照して説明する。
【0018】
[第1実施形態]
空間光変調器10は、図1に示すように、マトリクス状に配列された複数の画素4を備える画素アレイ40と、画素アレイ40から1以上の画素4を選択して駆動する電流制御部90と、を備える。本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を提示する手段を指す。また、本明細書における底面(下面)は、空間光変調器の光の入射面であり、空間光変調器10は画素4(画素アレイ40)に下方から入射した光を反射してその光を変調して下方へ出射する反射型の空間光変調器である。
【0019】
画素アレイ40は、図2に示すように、基板7の表面全体に磁気転写膜5を積層したさらにその上に画素4を配列してなる。基板7および磁気転写膜5は、図1に示す画素アレイ40の全面であるため、図1では図示を省略する。ここで、一般的な空間光変調器の画素アレイは、例えば画面表示規格の1種であるVGA(Video Graphics Array)においては640×480の約30万画素であるが、本明細書では簡略化して説明するために、図1に示すように、画素アレイ40は4行×4列の16個の画素4を備える構成として示す。この画素アレイ40は、平面視で列(縦)方向に延設されたストライプ状の4本のX電極2と、X電極2の上に、同じくストライプ状で、平面視でX電極2と直交するように行(横)方向に延設された4本のY電極3と、を備え、X電極2とY電極3との交点毎に1つの画素4を備える。
【0020】
このような画素アレイ40においては、列方向に配列された4個の画素4が1本のX電極2を共有し、行方向に配列された4個の画素4が1本のY電極3を共有する構造となる。そして、画素4は、画素アレイ40の対角線の一方向に沿った細線状の磁性体(以下、磁性細線)1を磁気転写膜5に接触させて備え、この磁性細線1は、その両端を画素4毎に異なる組み合わせのX電極2とY電極3とに接続されている。X電極2とY電極3は、適宜、両者をまとめて電極2,3と称する。X電極2、Y電極3のそれぞれの配線ピッチすなわち画素サイズ(画素ピッチ)は、入射光(図2のレーザー光)の波長にもよるが、0.25μm程度以上とすることが好ましい。画素アレイ40において、これら磁性細線1および電極2,3のない領域(隙間)、すなわち図2における空白部(磁気転写膜5上面からY電極3上まで)は、絶縁部材6で埋められている(図5(c)参照)。
【0021】
図1に示すように、電流制御部90は、X電極2を選択するX電極選択部92と、Y電極3を選択するY電極選択部93と、これらの電極選択部92,93を制御する画素選択部(画素選択手段)94と、電極2,3に電流を供給する電源(電流供給手段)91と、を備える。これらはそれぞれ公知のものを適用でき、磁性細線1に適正な電圧・電流を供給するものとする。
【0022】
X電極選択部92はX電極2の1つ以上を選択し、Y電極選択部93はY電極3の1つ以上を選択し、それぞれに電源91から所定の電流を供給させる。画素選択部94は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて画素アレイ40の特定の1つ以上の画素4を選択し、選択した画素4(磁性細線1)に接続する電極2,3を電極選択部92,93に選択させる。電源91は、選択した画素4における磁性細線1に、X電極2からY電極3へ、およびその反対方向のいずれかの向きに電流を供給する。磁性細線1に供給する電流は、パルス幅10ns〜10μs、電流密度105〜1013A/m2の直流パルス電流が好ましい。パルス電流の供給によれば、後記する磁壁の移動距離を制御し易い。また、磁性細線1は連続電流を供給されると発熱するため、パルス電流の適用が望ましい。このような構成により、特定の画素4が選択され、この画素4の磁性細線1に電流が供給されて後記の動作を行う。
【0023】
(磁性細線)
磁性細線1は、細線方向に区切られた所定の領域における磁化方向を、一方向およびその反対方向のいずれかとすることで、この領域に入射した光を反射する際に、偏光方向を2値に変化させる(2値の角度で旋光する)空間光変調器10の光変調素子となる。磁性細線1において光が入射する、細線方向に区切られた領域を入射領域1rと称する(図3(a)、(c)参照)。この入射領域1rは、磁性細線1において予め指定された位置の領域であり、画素4において光を入射させて2値の角度で旋光した光を取り出すための領域となる。図2に示すように、磁性細線1は、互いに反対方向の磁化を示す2つの磁区D1,D0が細線方向に連続して形成され、これらの磁区D1,D0を区切るように磁壁DWが生成している。磁壁DWは、後記するように、磁性細線1に電流を細線方向に供給することにより細線方向に移動し、入射領域1rの両外側のいずれかに到達することで、入射領域1rにおける磁化方向が変化(反転)する。
【0024】
磁性細線1は、公知の強磁性材料を適用でき、好ましくは光反射率の高い材料、さらに好ましく磁気光学効果(カー効果)の大きい材料を適用する。具体的には、面内磁気異方性材料として、Ni,Fe,Coから選択される遷移金属やNi−Fe,Ni−Fe−Mo,Co−Cr等の遷移金属合金、あるいはCo−Pt等のPd,Pt,Cuとの合金が挙げられる。垂直磁気異方性材料としては、Co/Pd多層膜のような遷移金属とPd,Pt,Cuとを繰り返し積層した多層膜、またTb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。磁性細線1は、さらに最上層や最下層にRu等からなる保護層(図示せず)を備えてもよい。これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィおよびエッチングまたはリフトオフにより、以下の細線形状に成形されて磁性細線1となる。
【0025】
磁性細線1の形状は、厚さおよび幅に対して十分に長い細線状とする。本実施形態では、画素4において、磁性細線1の細線方向長さを長くするために、細線方向を画素アレイ40の対角線に平行な方向に、すなわち平面(底面)視で45°傾斜させているが、これに限らない。磁性細線1の大きさについては、厚さ(膜厚)70nm以下、幅300nm以下であれば、形成時(製造時)に、細線方向のみに磁区が分割され易いため、好ましい。本実施形態(図2、図3参照)においては、磁性細線1が面内磁気異方性材料からなるため、細線方向に沿った一方向およびその反対方向の磁化の磁区となり、後記の変形例(図6参照)のように、垂直磁気異方性材料からなる磁性細線1Aは、厚さ方向に沿った磁化方向(上方向および下方向)の磁区となる。なお、前記よりも厚さや幅の大きい磁性細線は、幅方向等にも磁区が分割されて複数形成される場合があるが、外部磁界を印加することで、細線方向のみに磁区が分割された状態にすることができる。また、磁性細線1の厚さおよび幅(断面積)が小さいほど、小さい電流で画素を動作させることができる(後記参照)。一方、磁性細線1の厚さが30nm未満では、入射した光が透過して反射光(出射光)の光量が低下する。磁性細線1の幅は、入射光(図2に示すレーザー光)の波長にもよるが、100nm程度以上とすることが好ましく、また、画素4の大きさ(画素ピッチ)に対して細すぎると画素4に入射した光のうち、磁性細線1で反射して旋光する光が少なくなる。同様に、磁性細線1の細線方向長さは十分に長いことが好ましく、特に入射領域1rは波長にもよるが100nm程度以上とすることが好ましい。なお、画素4の面積に対して、選択により2値のいずれかの角度で旋光した光が出射する領域の面積の割合を、画素4の開口率とする。原則として、前記いずれかの角度で旋光した光が出射する領域が、磁性細線1の入射領域1rの下面(反射面)である。したがって、磁性細線1は、画素4における開口率を高くするために入射領域1rを広く、すなわち細線方向長さを長く設けることが好ましい。
【0026】
さらに、図3に示すように、磁性細線1は、入射領域1rの外部の両側で括れた形状に形成されていることが好ましい。これらの括れた箇所(括れ部)1c1,1c2には、後記するように磁壁DWが生成され易く、また電流の供給を停止した時に固定(トラップ)され易いため、入射領域1rには磁壁DWが静止せず、その結果、電流停止時には入射領域1rの全体を1つの磁区が占める。前記したように、磁性細線1は入射領域1rを広く設けることが好ましいため、括れ部1c1と括れ部1c2に挟まれた全領域を入射領域1rとすることが好ましく、言い換えれば、括れ部1c1,1c2で細線方向に区切るように入射領域1rを設けることが好ましい。
【0027】
磁性細線1が括れた形状に形成されているとは、断面積(細線方向に垂直な断面)が局所的に小さくなっていることを指す。本実施形態では、磁性細線1は、平面視で幅狭となるように括れ部1c1,1c2で側面を凹ませて形成され、例えば細線状に成形されるときに、平面視で細長い長方形に2箇所の括れ(4箇所の凹み)がある形状となればよい。本実施形態においては、括れ部1c1,1c2を両側面で凹ませているが、片側面のみを凹ませてもよい。また、後記の図6に示す変形例においては、括れ部1c1,1c2を、断面図において位置をわかり易く示すために磁性細線1Aの上面に凹状に示しているが、実際に磁性細線1A(1)を局所的に薄く形成してもよく、例えば、磁性細線1,1Aを細線状(平面視で細長い長方形)に成形した後にその表面を局所的に削ってもよい。括れ部1c1,1c2は、その幅または厚さが、他の部分に対して断面積で20〜98%の範囲で狭くまたは薄くすることが好ましい。また、括れ部1c1,1c2の位置は、磁性細線1のそれぞれの端から磁性細線1の全長(細線方向長さ)の5〜40%、括れ部1c1,1c2間の長さは同全長の30〜90%とすることが好ましい。2つの括れ部1c1,1c2の磁性細線1のそれぞれの端からの距離は均等でなくてもよく、さらに、磁性細線1の一端側のみに括れ部が1つだけ形成されてもよい。
【0028】
(電極)
X電極2およびY電極3は、一対の電極として磁性細線1にその細線方向に電流を供給するために、磁性細線1に接続される。そのため、電極2,3は、磁性細線1の細線方向における接続位置は規定されないが、両端近傍に接続されればよい。磁性細線1の電極2,3の接続箇所間で、供給された電流が流れ、後記するように磁壁が移動可能であるので、電極2,3の接続箇所間が磁性細線1の実効的な細線方向長さといえる。また、電極2,3の磁性細線1における接続面は限定されないが、図2に示すように磁性細線1の上面が好ましい。電極2,3を共に磁性細線1の上面に接続することで、基板7上の全面に成膜された磁気転写膜5上に直接に磁性細線1を形成して、磁性細線1の下面全体を磁気転写膜5に接触させることができる。したがって、電極2,3は、図1に示す画素アレイ40のストライプ状の配線から、下方へ、図2に示すように層間領域62,61を経由して磁性細線1の上面に接続される。なお、本明細書において、X電極2およびY電極3は、1つの画素4毎の磁性細線1への接続部(磁性細線1の端子)と、画素アレイ40において縦横に延設されたストライプ状の部分(適宜、配線部と称する)とを含む。電極2,3は、Cu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなり、スパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に成形される。また、電極2,3の厚さおよび幅は、画素ピッチ、材料や供給する電圧・電流等によって設定される。
【0029】
(磁気転写膜)
磁気転写膜5は、外部の磁気を帯びて容易に磁化され、特に接触する磁性体の磁気に強く影響される。したがって、図2に示すように、磁気転写膜5は、上面に磁性細線1が接触して配置された領域では、当該磁性細線1の磁区D0,D1の直下の領域でそれぞれ同じ磁化方向を示す磁区が形成され、磁区を区切る磁壁が生成する。したがって、磁性細線1において磁壁DWの移動に伴い磁区D0,D1が伸長または収縮して、磁性細線1のある領域における磁化方向が変化すれば、それに対応して前記領域の直下における磁気転写膜5の磁化方向が速やかに変化する。磁気転写膜5は、磁性細線1の配置された直下の領域のみにおける磁化方向が変化するので、画素アレイ40(基板7)の全面に形成すればよいが、例えば画素4毎に分割されてもよいし、磁性細線1の形成時に同じ平面視形状に加工されてもよい。画素4に入射した光について、磁性細線1を反射したカー回転角のみでは反射光の旋光角が1°未満と小さいため、本発明に係る空間光変調器10においては、磁気転写膜5を透過させることで、磁化方向の違いによる出射光の偏光の向きの差を拡大して磁気の検出精度を向上させる。
【0030】
磁気転写膜5は、低保磁力で、磁気光学効果の大きい(ファラデー回転角の大きい)絶縁性の磁性材料からなり、透過率の高い材料が好ましい。このような材料として、具体的にはイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12:YIG)のような磁性ガーネット膜が挙げられ、特にビスマス置換磁性ガーネット(Y3-XBiXFe5O12:Bi−YIG)はファラデー回転角が約5°/μm(波長532nm)と大きいことから好ましい。磁性ガーネット膜は、例えばGd3Ga5O12(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット:GGG)単結晶基板上に液相エピタキシャル成長(Liquid Phase Epitaxy:LPE)法にて成膜させることで製造でき、GGG基板を基板7として、磁気転写膜5が成膜された状態でその上に画素4を形成することができる。あるいは、スピンコート焼結法の一種である有機金属分解(Metal Organic Decomposition:MOD)法や、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法にて、ガラス基板等に磁気転写膜5を成膜することもできる。また、磁気転写膜5は、磁化容易軸を磁性細線1の磁化方向に沿ったものとし、すなわち本実施形態においては、磁性細線1の細線方向とする(後記製造方法参照)。磁気転写膜5の膜厚は特に限定されず、厚くするほど比例してファラデー回転角を大きくすることができるが、一方で光が吸収されて出射光が減衰するため、具体的には0.1〜2μm程度が好ましい。
【0031】
(絶縁部材)
絶縁部材6は、画素アレイ40における磁性細線1,1間、X電極2,2間およびY電極3,3間、ならびに磁性細線1とX電極2との間(層間領域61)、X電極2とY電極3との間(層間領域62)に配され、さらにY電極3の上面を被覆してもよい。絶縁部材6は、例えばSiO2やAl2O3等の公知の絶縁材料からなり、また画素アレイ40の全体で同じ材料を適用しなくともよい。
【0032】
(基板)
基板7は、画素4に入射する光を透過させ、さらに画素4から出射する光を透過させるため、透明な材料からなり、例えば、SiO2、酸化マグネシウム(MgO)、ガラス等の公知の透明基板材料が挙げられる。また、前記したようにGGG基板を適用した場合は、LPE法にて磁気転写膜5を成膜することができる。
【0033】
(光吸収膜)
図2に示すように、基板7の下面(裏面)を光吸収膜8(図1では図示省略)で被覆してもよい。光吸収膜8は、空間光変調器10に入射する光を遮光して、画素4のそれぞれの磁性細線1の入射領域1r以外に光が入射しないようにする。詳しくは、磁性細線1の入射領域1r以外の領域で反射した光、ならびに磁気転写膜5の入射領域1rの直下の領域(以下、入射領域5rと称する)以外を透過した光が、画素アレイ40から出射しないようにする。そのため、光吸収膜8は、所定の形状の孔(開口領域8r、図5(d)参照)を画素4毎に形成される。光吸収膜8の開口領域8rは、磁気転写膜5の入射領域5rを透過する光(入射光および磁性細線1で反射した光)の光路に合わせて、形状および画素4における位置が設計される。このような光吸収膜8としては、カーボン、ビスマス、マンガン、フェライト等の公知の黒色膜が挙げられ、塗布法等、公知の方法で成膜して、リソグラフィーおよびエッチング等で入射光および出射光を通過させる開口領域8rを形成する。また、入射光および出射光を基板7の下面で透過させないようにすればよいので、光吸収膜8に代えて光反射膜(図示せず)でもよく、Al,Au,Ag,Pt等を適用することができる。
【0034】
(画素アレイの製造方法)
本発明に係る空間光変調器の画素アレイの製造方法について、その一例を図4および図5を参照して説明する。この説明において、縦および横とは図4、図5の平面図における方向を指す。
【0035】
まず、基板7の表面全体に磁気転写膜5を形成する。前記したように基板7としてGGG基板を適用し、全面にLPE法にて磁性ガーネット膜を成膜する(図示省略)。ここで、GGG基板上にLPE法にて成膜した磁性ガーネット膜は、磁化容易軸が膜面垂直方向となり易い。そこで、この後に形成する磁性細線1の細線方向に沿って十分大きな磁界を印加しながらアニール処理を行って、磁化容易軸を面内方向に寝かせた磁気転写膜5にする。
【0036】
次に、図4(a)に示すように、基板7上の磁気転写膜5の表面に、強磁性材料を公知の方法で成膜、成形して、2箇所の括れ部1c1,1c2(図3(a)参照)を有する細線状の磁性細線1(図4(b)参照)を形成する。次に、磁性細線1,1間および磁性細線1上(層間領域61)に絶縁部材6として絶縁材料を堆積させる。そして、図4(b)、(c)に示すように、絶縁部材6について、磁性細線1の両端近傍上にコンタクトホールV1,V1を形成して、磁性細線1を露出させる。
【0037】
次に、絶縁部材6上に金属電極材料を成膜して、図4(d)、(e)に示すように、磁性細線1の一端のコンタクトホールV1を埋めて、縦方向に磁性細線1,1同士を連結する配線部を備えるX電極2を形成する。それと同時に、磁性細線1の他端のコンタクトホールV1を埋めて、後記のY電極3に接続するための金属層31を形成する。次に、X電極(配線部)2,2間およびX電極2上(層間領域62)に、絶縁部材6として絶縁材料を堆積させる。そして、図5(a)に示すように、この絶縁部材6の金属層31上にコンタクトホールV2を形成して、金属層31を露出させる。
【0038】
次に、絶縁部材6上に金属電極材料を成膜して、図5(b)、(c)に示すように、コンタクトホールV2を埋めて、横方向に金属層31,31同士を連結する配線部を備える金属層32を形成してY電極3を形成する。そして、図5(c)に示すように、Y電極(配線部)3,3間を絶縁材料で埋めて、さらにY電極3上を被覆するように絶縁材料を堆積させて、絶縁部材6とする。最後に、図5(c)、(d)に示すように、基板7の下面に画素4毎(磁性細線1毎)に開口領域8rを除いて光吸収膜8を被覆して、画素アレイ40となる。
【0039】
ここで、磁性体は磁気エネルギーが安定した状態となるようにその内部が複数の磁区に分割されるが、磁性細線1が十分に細い(厚さおよび幅が小さい)形状の場合は、形成時(製造時)に画素アレイ40のすべての磁性細線1において磁区が細線方向のみに分割された状態となり易い。さらに、図3(a)に示すように磁性細線1に2箇所の括れ部1c1,1c2が形成されている場合は、画素アレイ40の磁性細線1のそれぞれにおいて、この括れ部1c1,1c2のいずれか一方または両方に磁壁が生成されて細線方向に2つまたは3つの磁区が生成した状態となる(図示省略)。そのため、初期化作業(リセット)として、すべての磁性細線1(画素アレイ40)に数10G〜5kG(〜0.5T)程度の磁界を外部から印加して、括れ部1c1,1c2の所望の一方にのみ1つの磁壁DWが生成、固定されるようにする。この初期化作業によって1つの磁性細線1に磁壁が1つとなるように、磁性細線1は括れ部1c1,1c2も含めてその形状が設計される。
【0040】
(磁性細線における磁壁の移動)
次に、本発明に係る空間光変調器の画素選択の動作である、磁性細線における磁壁の移動について、図3を参照して説明する。第1実施形態においては、画素4に備えられた磁性細線1は、右方向の磁化の磁区D1と左方向の磁化の磁区D0との2つの磁区が、磁壁DWを挟んで細線方向に(図3における左右に)並んで存在する。図3に示す磁性細線1においては、磁区D0,D1の別をわかり易くするため、磁区D0にハッチングを付す。磁壁内部ではそれを挟む2つの磁区の一方の磁区の磁化方向から他方の磁区の磁化方向へと磁化が徐々に変化すなわち回転している。なお、一般的に、磁壁の長さ(厚さ)は磁性細線の形状や大きさ(幅、厚さ、細線長)等にもよるが、5〜100nm程度で、磁区の長さに対して極めて短い(狭い)が、図3においては磁壁を模式的に拡大して示す。図3(a)は磁性細線1への電流供給が停止した状態を示し、左側の括れ部1c1に磁壁DWが静止しているため、入射領域1rにおいては磁区D0が存在するので左方向の磁化を示す。
【0041】
図3(a)に示す磁性細線1に、X電極2を「−」、Y電極3を「+」として、細線方向に左へ電流I(図3(b)にて「+I」と表記する)を供給する。すると、図3(b)に示すように、右方向へ流れる電子e-のスピントルクに影響されて、磁壁DWが右へ移動する。磁壁DWの移動により、磁区D1は細線方向に伸張し、磁区D0は収縮する。厚さおよび幅が一定な磁性細線に一定の大きさの電流を供給したとき、磁壁は一定の速度で移動し、その速度は磁性細線の断面積あたりの電流密度が高いほど速くなる。なお、磁性細線1は局所的に幅の狭い箇所(括れ部1c1,1c2)が形成されているが、括れ部1c1,1c2以外の領域においては磁壁の移動速度は一定である。そして、図3(c)に示すように、磁壁DWが右側の括れ部1c2に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、入射領域1rにおいては磁区D1が存在するので右方向の磁化を示す。したがって、磁性細線1の入射領域1rに限定したとき、電流供給によって、左方向から右方向へ磁化反転したといえる。
【0042】
反対に、図3(c)に示す磁性細線1に、X電極2を「+」、Y電極3を「−」として右方向へ電流I(図3(d)にて「−I」と表記する)を供給すると、図3(d)に示すように、左方向へ流れる電子e-により、磁壁DWが左へ移動する。この磁壁DWの移動により、磁区D1は収縮し、磁区D0は伸張する。そして、磁壁DWが左側の括れ部1c1に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、再び図3(a)に示すように、入射領域1rにおいて左方向の磁化を示す。このように、磁性細線1に向きを変えて電流を供給することによって、入射領域1rにおいては、左方向または右方向のいずれか所望の方向へ磁化反転させることができる。
【0043】
前記した通り、磁性細線1に供給する電流の大きさが一定であれば磁壁DWの移動速度も一定であるので、入射領域1rの磁化反転は磁壁DWが入射領域1rの左右両外側の間の距離を移動する時間だけ電流Iを供給すればよい。しかし、電流の大きさや供給時間等の誤差により磁壁DWの静止位置が僅かにずれて、この微小ずれが累積されると、電流停止時に磁壁DWが入射領域1rで静止して、入射領域1rに2つの磁区D1,D0が到達した状態となったり、反対に磁壁DWが磁性細線1の端まで到達して消失する虞がある。このような磁壁DWの位置ずれを防止するため、磁性細線1に、入射領域1rの両外側に括れ部1c1,1c2が形成されていることが好ましい。磁性細線1の局所的に細い部位には磁壁が形成され易く、また電流供給により磁壁DWが移動して、電流停止時に括れ部1c1(1c2)の近傍に到達した場合は、自発的に括れ部1c1(1c2)まで移動してから静止する。したがって、磁性細線1には磁壁DWが括れ部1c1,1c2間の距離を移動する時間だけ電流Iを供給すれば、供給時間等に微小な誤差があったとしても、電流停止時には磁壁DWが括れ部1c1,1c2の一方に係止され、入射領域1rの全体において左方向または右方向の1つの磁化方向のみを示す。
【0044】
ここで、前記した通り、電源91から磁性細線1に供給する電流はパルス電流が好ましい。パルス電流が磁性細線1に供給されると、磁壁DWはパルスに同期して断続的に移動する。1回(1パルス)の移動距離はパルス幅および電流密度に依存するので、合計の供給時間(パルス幅×回数)で括れ部1c1,1c2間の距離を移動するような回数のパルス電流を供給すればよい。
【0045】
なお、磁性細線1において、この動作による磁壁DWの固定後、また前記初期化による磁壁DWの生成後は、この磁壁DWを挟んだ2つの磁区D0,D1のそれぞれで磁性細線1の保磁力により磁化が保持されるので、磁性細線1に新たに電流の供給や磁界の印加を行うまでは磁壁DWの移動や消失は起こらない。
【0046】
(空間光変調器の動作)
本発明に係る空間光変調器の光変調動作を、図2を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、図11に示す従来の反射型の空間光変調器100を用いたものとほぼ同様の構成であるが、空間光変調器100が画素アレイの上面を光の入射面とするのに対して、本発明に係る空間光変調器10は、下面すなわち基板7側を光の入射面とする。そのため、空間光変調器10を用いた表示装置においては、画素アレイ40の下方に、画素アレイ40に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光を画素アレイ40に入射する前に1つの偏光成分の光(1つの向きの偏光)とする偏光子PFiと、画素アレイ40で反射して出射した光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子PFoと、偏光子PFoを透過した光を検出する検出器PDとが配置される。
【0047】
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を画素アレイ40の全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光とするレンズで構成される(図示省略)。光学系OPSから照射された光(レーザー光)は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を画素アレイ40の手前の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段である。
【0048】
光学系OPSは、平行光としたレーザー光を、画素アレイ40の下面に所定の入射角で入射するように照射する。レーザー光は偏光子PFiを透過して偏光(入射偏光)となり、画素アレイ40の下方からすべての画素4に向けて入射する。入射偏光は、基板7を透過し、さらに磁気転写膜5を透過してそれぞれの画素4の磁性細線1に到達し、その下面で反射して、再び磁気転写膜5および基板7を透過して、画素アレイ40から出射偏光として出射する。それぞれの画素4で反射したすべての出射偏光は、偏光子PFoに到達する。偏光子PFoは特定の偏光を遮光し、偏光子PFoを透過した光が検出器PDに入射する。
【0049】
図2に示す空間光変調器10において、左側の画素4の磁性細線1は入射領域1rの左側(括れ部1c1、図3(a)参照)に磁壁DWが到達しているので、入射領域1rにおいては、左方向の磁化の磁区D0が存在する。一方、右側の画素4の磁性細線1は入射領域1rの右側(括れ部1c2、図3(c)参照)に磁壁DWが到達しているので、入射領域1rにおいては、右方向の磁化の磁区D1が存在する。そして、それぞれの画素4の磁性細線1の入射領域1rの直下の領域(入射領域5r)における磁気転写膜5も、磁性細線1の磁化方向が転写されて同じ磁化方向となる。
【0050】
画素4に入射する光は、当該画素4に入射する前に磁気転写膜5を透過する際に、磁気転写膜5の磁化方向によって異なる回転方向に旋光し、さらに磁性細線1の下面で反射する際にも、磁性細線1の磁化方向によって異なる回転方向に旋光し、再び磁気転写膜5を透過する際にも旋光して出射する。したがって、磁性細線1の入射領域1rで反射し、かつその直下の入射領域5rにおける磁気転写膜5を往復して透過した出射偏光は、当該入射領域1rにおける磁化方向によって、入射偏光に対して同じ角度で互いに反対方向に旋光した、すなわち2値の角度−θK,+θK旋光した偏光となる。
【0051】
ここで、磁性細線1は、入射領域1rの外に当該入射領域1rにおける磁区とは異なる磁化方向の磁区が形成されている。入射領域1r外のこのような磁区で反射した光、あるいはさらにこの磁区と同じ磁化が転写された領域の磁気転写膜5を透過した光が出射すると、正しい情報が表示されないことになる。したがって、基板7の下面に、画素4毎に開口領域8rを空けた光吸収膜8を設けて、磁性細線1の入射領域1r以外で反射した光が出射しないようにすることが好ましい。光吸収膜8により、画素4毎に、前記2値の角度−θK,+θKのいずれかで旋光した偏光のみが、画素アレイ40から出射する。
【0052】
偏光子PFoは、入射偏光に対して角度+θK旋光した偏光を遮光する。したがって、図2に示す右側の画素4からの出射偏光は、偏光子PFoにすべて遮光され、検出器PDにまったく入射しないので、この画素4は検出器PDに暗く(黒く)表示される。一方、左側の画素4からの出射偏光は、偏光子PFoを透過して検出器PDに入射し、この画素4は検出器PDに明るく(白く)表示される。このように、空間光変調器10は、画素4毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、また前記したように、電極2,3にて供給される電流の向きに対応して磁性細線1の再生領域1rにおいて磁化を反転させることができるので、明/暗を切り換えることができる。なお、偏光子PFoを透過する偏光は、入射偏光に対して角度+θK旋光した偏光と偏光成分の角度の差が大きいほど多くなり、90°で透過率100%となる。したがって、本発明に係る空間光変調器10は、明るく表示しようとする画素4からの出射偏光、すなわち入射偏光に対して角度−θK旋光した偏光を、磁気転写膜5にて偏光成分の角度の差2|θK|を大きくすることにより、偏光子PFoに多く透過させて、画素選択性に優れたものとなる。
【0053】
また、旋光角−θK,+θK(|θK|)を大きくする、すなわち磁気光学効果(磁性細線1のカー効果および磁気転写膜5のファラデー効果)を大きくするために、入射偏光は、入射領域1r,5rにおける磁化方向により平行に近い方向に沿って入射されることが好ましい。本実施形態に係る空間光変調器10においては、磁性細線1、磁気転写膜5の入射領域1r,5rにおける磁化方向は磁性細線1の細線方向であり、画素アレイ40の対角線方向である。ただし、入射方向は磁化方向と平行に近付き過ぎるとそれぞれの画素4に光が入射することが困難となるので、入射角が80°程度以内となるように、磁性細線1の細線方向に対して10°〜60°程度の角度の方向とすることが好ましい。したがって、本実施形態に係る空間光変調器10においては、入射角30°〜80°程度の範囲となるように入射偏光の入射方向を傾斜させるため、図2に示すように、入射偏光および出射偏光のそれぞれの光路に合わせて、光学系OPSや偏光子PFi,PFo等が配置される。
【0054】
(変形例)
第1実施形態の変形例に係る空間光変調器について、図1および図6を参照して説明する。第1実施形態の変形例に係る空間光変調器10Aは、垂直磁気異方性材料からなる磁性細線1Aを適用し、磁気転写膜5Aの磁化容易軸が膜面垂直方向であること以外は、空間光変調器10(図1および図2参照)と同様の構成であり、同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。図6に示すように、磁性細線1Aの磁化方向は上方向または下方向であり、磁気転写膜5Aの磁化方向は直上の磁性細線1Aの磁化方向に転写される。したがって、磁性細線1Aの細線形状は、その磁化方向に影響しないので、第1実施形態と同様に画素アレイ40Aの対角線方向に平行な直線でもよいし(図1参照)、厚さおよび幅に対して十分に緩やかな円弧等の曲線状に形成してもよい。また、磁性細線1Aは、画素4A毎に異なる向きに配置してもよい。ただし、画素4Aにおける入射領域1rの位置が、すべての画素4Aにおいて統一されているようにする。このような磁性細線1Aにおいても、電流の供給による磁壁DWの移動およびそれに伴う磁区D1,D0の伸長、収縮は、面内磁気異方性材料からなる磁性細線1と同様であり(図3参照)、入射領域1rにおいて磁化方向を下方向または上方向のいずれか所望の方向へ磁化反転させることができる。
【0055】
空間光変調器10Aにおいては、磁性細線1Aおよび磁気転写膜5Aの磁化方向に平行に、すなわち画素アレイ40A(画素アレイ40Aの面内方向)に垂直に光(入射偏光)を入射することで、出射偏光の旋光角が最大となる。したがって、空間光変調器10Aを用いた表示装置においては、図6に示すように、画素アレイ40Aの直下に、光学系OPS(図2参照)および偏光子PFiが配置されて、入射偏光が画素アレイ40Aに入射角0°で入射されることが好ましい。このような構成の表示装置においては、画素アレイ40Aで反射して出射した光(出射偏光)が入射偏光と同一の光路となるため、偏光子PFiと画素アレイ40Aとの間に画素アレイ40Aに対して45°傾斜させたハーフミラーHMがさらに配置される。なお、図6ではハーフミラーHMは2つに分割されて示されているが、実際には、1枚で画素アレイ40Aからの出射偏光がすべて入射されるような形状とする。ハーフミラーHMは、下方から照射される入射偏光は透過させ、上方から照射される出射偏光は側方へ反射させる。したがって、偏光子PFoおよび検出器PDは、ハーフミラーHMの側方に配置される。
【0056】
画素アレイ40Aには垂直に光が入射し、かつ出射する。したがって、磁性細線1Aの入射領域1r以外の領域で反射した光、ならびに磁気転写膜5Aの入射領域5r以外を透過した光を遮光するための光吸収膜8に形成する開口領域8r(図5(d)参照)は、平面視において、形状および位置を磁性細線1Aの入射領域1rと一致させる。
【0057】
空間光変調器10Aを用いた表示装置においても、空間光変調器10と同様に入射偏光を傾斜させて画素アレイ40Aに入射し(入射角>0°)、出射偏光と光路が重複しないようにして、ハーフミラーHMを配置しない構成としてもよい(図2参照)。ただし、前記したように入射方向が磁化方向に平行に近いほど好ましいので、入射角は30°程度以内とすることが好ましい。
【0058】
以上のように、第1実施形態およびその変形例に係る空間光変調器によれば、選択画素−非選択画素間で旋光角の差が従来の空間光変調器よりも大きいため、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた反射型空間光変調器となる。
【0059】
[第2実施形態]
第1実施形態およびその変形例に係る空間光変調器においては、1つの画素に1本の磁性細線を備える構成としたが、それに限らない。本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の画素アレイ40Bは、図7に示すように、1つの画素4Bに平面(底面)視で2本の磁性細線1B,1Bを平行に配置して備える。画素4Bにおいて、磁性細線1B,1Bはそれぞれの両端を同一の組み合わせのX電極2BおよびY電極3Bに並列に接続される。1本の磁性細線1Bは、2箇所の括れ部を一側面のみに形成していること以外は、大きさおよび材料等については第1実施形態およびその変形例の磁性細線1,1Aと同様であり、面内磁気異方性材料、垂直磁気異方性材料のいずれも適用できる。電極2B,3Bは、それぞれの画素4Bの磁性細線1B,1Bの両端に接続するため、平面視で屈曲した帯状としているが、材料等については第1実施形態の電極2,3と同様である。また、画素4Bは、基板7の表面全体に磁気転写膜5(5A)を積層したさらにその上に配列されて、画素アレイ40Bとなり、さらに基板7の裏面に光吸収膜8を設けるので、画素アレイ40BのC−C断面図は、図2または図6と同様の構成となる。ただし、磁性細線1Bの細線方向(画素アレイ40Bの対角線方向)に隣り合う画素4B,4Bのそれぞれの磁性細線1B,1Bは、Y電極3Bの接続される側同士が向き合って、同じY電極3Bに接続される対称の配置となる。そのため、画素アレイ40Bは、4列に配列されている画素4Bに対して、1本多い5本のY電極3Bを備える。また、X電極2BおよびY電極3Bは、第1実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ40の電極2,3と同様に、電流制御部90に接続されている(図1参照)ので、図示および説明は省略する。
【0060】
前記した通り、磁性細線は細い(幅および厚さが小さい)ほど少ない電流で磁壁を移動させることができ、また電流あたりの移動速度も速くなって好ましい。画素サイズがある程度大きい場合においては、磁性細線1(1A)の幅を小さくすると、その入射領域1rの画素4(4A)における面積比(開口率)が小さくなり、空間光変調器として光取り出し効率に劣ることになる。本実施形態のように、複数の磁性細線1Bを、それぞれの入射領域1r(図2、図6参照)を近付けて配置することで、光吸収膜8の1つの画素4Bにおける開口領域8r(図7では1つの画素4Bにのみ示す)を広くすることができる。
【0061】
以上のように、第2実施形態に係る空間光変調器によれば、第1実施形態およびその変形例に係る空間光変調器と同様に選択性に優れ、さらに開口率の高い反射型空間光変調器となる。
【0062】
[第3実施形態]
図8および図9を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。第1実施形態(図1、図2、図3参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明は省略する。図8(a)に示すように、第3実施形態における空間光変調器の磁性細線1Cは、細線形状が略コの字型であり、第1実施形態と同様に、両端近傍がX電極2およびY電極3に接続されている。さらに、X電極2およびY電極3は、第1実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ40の電極2,3と同様に、電流制御部90に接続されている(図1参照)ので、図示および説明は省略する。また、画素4Cは、基板7の表面全体に磁気転写膜5(5A)を積層したその上に配列されて、画素アレイ40Cとなり、さらに基板7の裏面に光吸収膜8を設けるので、画素アレイ40Cの断面構造は、第1実施形態における画素アレイ40等と同様の構造となる。
【0063】
図9(a)に示すように、磁性細線1Cは、括れ部がなく厚さおよび幅が一定であり、平面視90°で屈曲した2箇所の屈曲部1f1,1f2を有して細線形状が略コの字型で、その全長が厚さおよび幅に対して十分に長い。それ以外の材料、厚さ、幅については、磁性細線1Cは第1実施形態およびその変形例の磁性細線1,1Aと同様であり、面内磁気異方性材料、垂直磁気異方性材料のいずれも適用できる。磁性細線1Cにおける屈曲部1f1,1f2は、第1実施形態の磁性細線1における括れ部1c1,1c2と同様に電流停止時に磁壁を係止するためのものである。本実施形態では屈曲の角度を90°としているがこれに限られず、好適に磁壁を係止するためには15°〜135°の範囲であることが好ましい。また、屈曲部1f1,1f2で屈曲の向きを同じとしなくてもよく、平面視でクランク型の磁性細線でもよい。したがって、磁性細線1Cは、略コの字型の中央の直線部分に入射領域1rを設け、言い換えれば、入射領域1rの外部の両側に、屈曲部1f1,1f2をそれぞれ形成される。そして、磁性細線1Cにおける屈曲部1f1,1f2の位置および屈曲部1f1,1f2間の長さは、磁性細線1における括れ部1c1,1c2と同様であり、また屈曲部は1箇所でもよい。また、磁性細線1Cは、図8(b)に示すように、画素4Dにおいて平面(底面)視で例えば45°傾斜させて配置してもよい。このような配置とすることで、画素サイズに対して屈曲部1f1,1f2間距離を長くすることができる。本実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素アレイ40Dは、磁性細線1Cの形状(配置)以外は、画素アレイ40Cと同様の構成である。
【0064】
磁性細線1Cは、第1実施形態の磁性細線1と同様に、その形状によって、または適当な強さの外部磁界を印加されることによって、磁区が磁性細線1Cの細線方向に分割されている。ここで、細線方向とは、当該磁区が存在する領域における細線方向を指す。磁性細線1Cが面内磁気異方性材料からなる場合、その磁化方向は細線方向に沿うので、図9に示す平面図では、屈曲部1f1,1f2間の直線部には右または左方向の磁化を示す磁区が形成され、その両側の直線部には上または下方向の磁化を示す磁区が形成される。そして、直線状の磁性細線1と同様に、磁気エネルギーが安定した状態となるように、磁性細線1Cは、細線方向に沿って180°異なる複数の磁区に分割される。したがって、図9に示すように、磁性細線1Cにおいて、平面視で磁化が右回り(時計回り)方向である磁区D1と、磁化が左回り方向である磁区D0とが存在し、これら2つの磁区間の境界領域が磁壁DWとなる。図9に示す磁性細線1Cにおいては、磁区D0,D1の別をわかり易くするため、第1実施形態(図3参照)と同様に磁区D0にハッチングを付す。
【0065】
細線状の磁性体において、磁壁は、外部磁界のない状態では、括れ部のような断面積の小さい部分と同様に、屈曲した箇所に生成、固定され易い。したがって、本実施形態に係る磁性細線1Cにおいては、屈曲部1f1,1f2のいずれか一方または両方に磁壁が生成されることになるが、第1実施形態と同様に初期化作業として、すべての磁性細線1C(画素アレイ40C)に外部磁界を印加して、屈曲部1f1,1f2の所望の一方にのみ1つの磁壁DWが生成、固定されるようにする。この初期化作業によって1つの磁性細線1Cに磁壁が1つとなるように、磁性細線1Cは屈曲部1f1,1f2も含めてその形状が設計される。ここで、例えば図9(a)に示す磁性細線1Cにおいては、屈曲部1f2を挟んだ2つの直線状の領域で、磁化方向は90°回転しているが左回り方向に揃っている(磁区D0)。この場合は、屈曲部1f2には磁壁は生成されない、または生成されても比較的領域の狭い磁壁となる。本実施形態においては、このように、磁化方向が右回り、左回りで揃っていれば、屈曲部1f1または屈曲部1f2を挟んで磁化方向が90°回転している領域も1つの磁区と定義する。
【0066】
(磁性細線における磁壁の移動)
次に、本発明に係る空間光変調器の画素選択の動作である、磁性細線における磁壁の移動について図9を参照して説明する。本実施形態の磁性細線1Cは、図3に示す第1実施形態の直線状の磁性細線1と同様に、細線方向に電流を供給することにより、磁壁DWが細線方向において電流の向きとは反対方向に移動し、それに伴い磁壁DWの両側の磁区D1,D0が伸長または収縮する。図9(a)は、初期化され、また磁性細線1Cへの電流供給が停止した状態を示し、左側の屈曲部1f1に磁壁DWが静止しているため、入射領域1rにおいては磁区D0が存在するので左方向の磁化を示す。以下、磁性細線1Cの磁化や電流供給等の方向については、適宜、屈曲部1f1,1f2間の直線部(入射領域1r)での方向(右または左)で示す。
【0067】
図9(a)に示す磁性細線1Cに、X電極2を「−」、Y電極3を「+」として、細線方向に左回りへ電流I(図9(b)にて「+I」と表記する)を供給すると、図9(b)に示すように、右方向へ流れる電子e-により、磁壁DWが右へ移動する。そして、図9(c)に示すように、磁壁DWが右側の屈曲部1f2に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、入射領域1rにおいては磁区D1が存在するので右方向の磁化を示す。反対に、図9(c)に示す磁性細線1に、X電極2を「+」、Y電極3を「−」として右回りへ電流Iを供給すると、磁壁DWが左へ移動し(図示省略)、磁壁DWが左側の屈曲部1f1に到達した時点で、電流Iの供給を停止すると、磁壁DWが静止し、再び図9(a)に示すように、入射領域1rにおいて左方向の磁化を示す。
【0068】
このように、磁性細線1Cについても、第1実施形態と同様に、電極2,3にて向きを変えて電流を供給することによって、入射領域1rにおいては磁化方向を左方向または右方向のいずれか所望の方向へ磁化反転させることができる。さらに、磁性細線1Cは2箇所で屈曲した形状とすることで、屈曲部1f1,1f2のいずれかに磁壁DWが係止されるため、屈曲部1f1,1f2間の入射領域1rにおける磁化方向を安定して制御できる。したがって、磁性細線1Cを画素4Cに備える第3実施形態に係る空間光変調器は、第1実施形態に係る空間光変調器10と同様に画素選択の動作が可能で、選択性に優れた反射型空間光変調器となる。
【0069】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例1】
【0070】
(サンプル作製)
本発明の効果を確認するために、本発明の第1実施形態の変形例に係るに係る空間光変調器10A(図6参照)を模擬するサンプルを作製し、その磁気光学効果を評価した。なお、磁性細線1Aの材料として適用したCo−Pt合金は面内磁気異方性材料であるが、外部から垂直に磁界を印加することにより、その磁化方向を垂直とした。GGG基板(基板7)に膜厚0.5μmのビスマス置換磁性ガーネット(Bi−YIG)膜をLPE法にて成膜して磁気転写膜5Aとし、その上に膜厚40nmのCo−Pt合金膜をイオンビームスパッタ法にて成膜した。このCo−Pt合金膜を幅700nm、長さ20μmの細線状に電子線リソグラフィーにて加工して磁性細線1Aを形成し、サンプルとした。また、比較例(従来例)のサンプルとして、表面を熱酸化したSi基板上に、前記実施例と同じ磁性細線1Aを形成した。
【0071】
作製したサンプルに、初期化として外部磁界を垂直に印加して、すべての磁性細線1Aおよび磁気転写膜5Aの磁化を垂直に一様の方向とした。そして、波長408nmのレーザー光をサンプルの直上より入射して、サンプル(磁性細線1A)からの反射光をハーフミラーで取り出し、その偏光の角度を、垂直磁界Kerr効果測定装置で測定した。次に、反射光の偏光の測定を継続したまま、前記印加磁界と反対方向の磁界をその大きさを漸増させながら印加することによって、磁性細線1Aの磁化を下向きへ反転させた。図10に、外部磁界(H)に対するカー回転角(θk)特性のグラフ(カーループ)を示す。図10(a)に示すように、磁気転写膜5Aを設けたことによって、図10(b)に示す磁気転写膜5Aを設けていない比較例よりもカー回転角が大幅に増大し、磁気光学効果が向上した。
【符号の説明】
【0072】
10,10A 空間光変調器
1,1A,1B,1C 磁性細線
1r 入射領域
1c1,1c2 括れ部
1f1,1f2 屈曲部
2,2B X電極(電極)
3,3B Y電極(電極)
40,40A,40B,40C,40D 画素アレイ
4,4A,4B,4C,4D 画素
5,5A 磁気転写膜
7 基板
90 電流制御部
91 電源(電流供給手段)
94 画素選択部(画素選択手段)
D0,D1 磁区
DW 磁壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過させる基板と、この基板上にマトリクス状に配列された複数の画素と、前記複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、前記基板を透過して前記画素選択手段が選択した画素に入射した光を、偏光の向きを特定の方向に変化させて反射して出射する空間光変調器であって、
前記画素は、磁気光学材料を細線状に形成して細線方向に連続して2以上の磁区が形成された磁性細線と、この磁性細線の両端近傍に接続された一対の電極とを備え、
前記磁性細線は、前記光を入射させるための細線方向に区切られた領域である入射領域が予め指定された位置に設けられ、前記電流が前記一対の電極を介して細線方向に供給されることにより、隣り合う2つの磁区の間に生成している磁壁が細線方向に移動して、前記入射領域に前記2つの磁区のいずれか1つが到達するものであり、
前記基板と前記複数の画素との間に、さらに磁気転写膜を前記磁性細線の前記基板側の面に接触させて備えることを特徴とする空間光変調器。
【請求項2】
前記磁性細線は、前記入射領域の外で局所的に括れた形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
前記磁性細線は、前記入射領域の外で屈曲した細線形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項4】
前記一対の電極は前記磁性細線の上に接続され、
前記複数の画素において、同じ行に配列された画素の前記一対の電極の一方が1つの配線に接続され、同じ列に配列された画素の前記一対の電極の他方が前記配線上に絶縁層を介して配設された1つの配線に接続されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項1】
光を透過させる基板と、この基板上にマトリクス状に配列された複数の画素と、前記複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、前記基板を透過して前記画素選択手段が選択した画素に入射した光を、偏光の向きを特定の方向に変化させて反射して出射する空間光変調器であって、
前記画素は、磁気光学材料を細線状に形成して細線方向に連続して2以上の磁区が形成された磁性細線と、この磁性細線の両端近傍に接続された一対の電極とを備え、
前記磁性細線は、前記光を入射させるための細線方向に区切られた領域である入射領域が予め指定された位置に設けられ、前記電流が前記一対の電極を介して細線方向に供給されることにより、隣り合う2つの磁区の間に生成している磁壁が細線方向に移動して、前記入射領域に前記2つの磁区のいずれか1つが到達するものであり、
前記基板と前記複数の画素との間に、さらに磁気転写膜を前記磁性細線の前記基板側の面に接触させて備えることを特徴とする空間光変調器。
【請求項2】
前記磁性細線は、前記入射領域の外で局所的に括れた形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
前記磁性細線は、前記入射領域の外で屈曲した細線形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項4】
前記一対の電極は前記磁性細線の上に接続され、
前記複数の画素において、同じ行に配列された画素の前記一対の電極の一方が1つの配線に接続され、同じ列に配列された画素の前記一対の電極の他方が前記配線上に絶縁層を介して配設された1つの配線に接続されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−141402(P2012−141402A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293081(P2010−293081)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
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