説明

窒化アルミニウム焼成用治具

【課題】 タングステンよりなる配線パターンと更にその上の一部に窒化アルミニウムよりなる絶縁パターンを持つメタライズド窒化アルミニウム基板の焼成に用いる治具として、被焼成物との癒着を防止し、かつ被焼成物への汚染を少なくすることが可能な新規な治具を提供する。
【解決手段】 タングステンよりなる配線パターンと更にその上の一部に窒化アルミニウムよりなる絶縁パターンを持つメタライズド窒化アルミニウム基板を焼成する工程で被焼成物と接触する治具について、少なくとも被焼成物と接触する面が、面積率15〜35%で窒化アルミニウムを存在させたタングステンと窒化アルミニウムとの複合面により構成された治具を使用して焼成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼成用の新規な治具に関する。詳しくは、焼成時に窒化アルミニウムと接触せしめて使用する治具において、接触箇所における焼成後の窒化アルミニウム焼結体との癒着が防止でき、しかも、得られる焼成物への治具による汚染が極めて少ない窒化アルミニウム焼成用治具を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザーダイオード素子や発光ダイオード素子などの半導体素子の高出力化が進み、これに伴い、これら素子の発熱が増大している。そのため、上記熱の蓄積により素子が過熱され、その寿命が短くなるという問題が発生している。このような問題を解決するために素子搭載用の基板として、高い放熱特性を有する窒化アルミニウム焼結体が採用されるようになっている。
【0003】
窒化アルミニウム焼結体を素子搭載用基板として使用するにあたり、素子の接合および接合した素子への電力供給等の目的で、上記基板の表面に電極や配線などの配線パターンが形成される。上記配線パターンの形成は、窒化アルミニウム焼結体又はグリーン体よりなる基板表面に、タングステンを含むメタライズペーストを使用して配線パターンを描いた後、これを焼成する手法が取られている。また、上記メタライズ層上には、形成される配線パターンを保護し、且つ、表面に絶縁性を付与するため、一般に、窒化アルミニウム粉を含む絶縁ペーストを塗布し、上記メタライズペーストと共に焼成して絶縁層を形成する方法が採用されていた。
【0004】
しかしながら、窒化アルミニウム焼結体よりなる基板の製造においては、焼成時、材料の収縮等が原因で得られる基板に反りが発生する場合があり、前記導電ペーストにより配線パターンを形成する場合は、特に反りの発生が問題となっていた。そこで、上記反りを抑制するため、従来、窒化硼素よりなる治具を使用し、窒化アルミニウムよりなる絶縁層面を押圧して焼成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
この方法によって得られる、メタライズ層を有する、窒化アルミニウム焼結体よりなる基板(以下、メタライズド窒化アルミニウム基板ともいう。)の反りは軽減できるものの、このような窒化硼素よりなる治具(押さえ板)を使用した焼成方法を、タングステンよりなる配線パターンと更にその一部の上に窒化アルミニウムよりなる絶縁パターンを形成したメタライズド基板の焼成に適用すると、タングステンと窒化硼素が反応して硼化タングステンを生じてしまう問題があった。
【0006】
またタングステンと反応しない治具として、焼結助剤を含まない窒化アルミニウム焼結体を用いる方法(特許文献2)や、タングステン板を用いる方法が(特許文献3)が提案されている。
【0007】
しかしながら、窒化アルミニウム焼結体を治具として使用する場合、焼成後、治具が接触する前記絶縁層と癒着が起こるという問題があった。また、タングステン板を使用する場合、上記絶縁層との癒着の問題は生じないが、治具を構成するタングステンの一部が焼成時に飛散して配線パターン間の窒化アルミニウム焼結体表面にも付着し、配線パターン間の絶縁性が低下したり、後工程として無電解めっき処理を施した際に被焼成物上に付着したタングステンにめっき成長が起こり易くなったりするという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2661258号公報
【特許文献2】特開平5−13617号公報
【特許文献3】特開平7−247171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、前記窒化アルミニウム焼結体又はグリーン体上に、配線パターン及び窒化アルミニウム焼結体よりなる絶縁パターンを焼成により形成する場合のように、焼成時に窒化アルミニウムと接触せしめて使用する治具において、接触箇所における焼成後の窒化アルミニウム焼結体との癒着が防止でき、しかも、得られる被焼成物への治具による汚染が極めて少ない窒化アルミニウム焼成用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく研究を重ねた結果、従来、タングステンのみの焼結体、或いは溶融成形体により構成されていた治具において、少なくともその表面を窒化アルミニウムと複合化し、且つ、該窒化アルミニウムの占める面積率を特定の値に調整することにより、窒化アルミニウム焼結体との癒着を防止しつつ、焼成時におけるタングステンによる汚染も効果的に低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、少なくとも被焼成物と接触する面が、窒化アルミニウムの存在割合が15〜35%であるタングステンと窒化アルミニウムとの複合面により構成されたことを特徴とする窒化アルミニウム焼成用治具が提供される。
【0012】
上記複合面は、タングステンと窒化アルミニウムとの複合焼結体によって形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明による治具を使用すれば、タングステンよりなる配線パターンと更にその上の一部に窒化アルミニウムよりなる絶縁パターンを形成したメタライズド基板の焼成をする場合に、治具と被焼成物との癒着を防止し、かつ被焼成物のタングステンによる汚染を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の治具を使用したメタライズド基板の焼成時の実施態様(一段)を示す概略図
【図2】本発明の治具を使用したメタライズド基板の焼成時の他の実施態様(多段)を示す概略図
【図3】代表的な配線パターンユニットを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による治具は、窒化アルミニウム焼結体上にタングステンよりなる配線パターンと更にその上に窒化アルミニウムよりなる絶縁パターンを、または、窒化アルミニウム粉末と有機バインダーとを含む窒化アルミニウムグリーン体上に、タングステンよりなる配線パターンと更にその上に窒化アルミニウムよりなる絶縁パターンを形成したメタライズド基板を焼成する際に有効である。
【0016】
具体的には、窒化アルミニウム焼結体よりなる基板上、あるいはグリーンシート上に主にタングステンあるいはモリブデンなどの高融点金属を含むペーストを印刷等の手法により配線パターンを形成し、更にその上に窒化アルミニウムグリーンシートあるいは、窒化アルミニウムを含むペーストを塗布・積層した該メタライズド基板前駆体を焼成する際、焼成中に基板の反りが起こらないように、配線ペースト上に形成される窒化アルミニウムグリーンシートあるいは、窒化アルミニウムを含むペースト層の面に接触する焼成治具として使用される。
【0017】
本発明の治具の特徴は、少なくとも上記被焼成物と接触する面が、窒化アルミニウムが面積率15〜35%の割合で存在する、タングステンと窒化アルミニウムとの複合面により構成されたことにある。
【0018】
即ち、治具の表面における窒化アルミニウムの面積率が35%より大きい場合、焼成時に被焼成物と治具との間に癒着が起こる。かかる癒着が生じる理由としては、被焼成物には一般的に焼結を促進させるための焼結助剤を添加するが、この焼結助剤が焼成時に液相を形成し、窒化アルミニウムの粒成長を促進させるため、被焼成物と治具に含まれる窒化アルミニウムが液相によって粒成長し、癒着するものと考える。好適には、上記窒化アルミニウムの面積率は29%以下であることが、治具と被焼成物の癒着を少なくする観点で望ましい。
【0019】
一方、治具の表面における窒化アルミニウムの面積率が小さ過ぎると、焼成時に治具のタングステンの一部が被焼成物に付着することで被焼成物を汚染し、無電解めっき処理を施した際に付着したタングステンにめっき成長が起こり外観を損ね、電気絶縁性が低下する傾向がある。そのため、治具表面の窒化アルミニウムの面積率の上限以下の範囲で、できるだけ大きい方が被焼成物の汚染防止の点から望ましく、具体的には、上記窒化アルミニウムの面積率は15%を下限とすることが必要である。
【0020】
このように、従来、表面がタングステンのみよりなる治具の被焼成物の汚染の影響を確認し、これを上記のように、窒化アルミニウムの複合体よりなる面により形成することにより解決することは、本発明によって初めて提案されるものである。
【0021】
即ち、タングステンは高温でも蒸気圧は低く、蒸発しにくい金属であるとともに、窒化アルミニウムとは反応しにくい金属であると考えられるが、実際の使用に際しては、タングステンが酸化物となっており、そのため蒸気圧が高くなり、1000℃以下でも蒸発し易くなる。本発明は、かかる現象に対して、窒化アルミニウムを複合体として前記特定の面積率で存在させることにより抑制することに成功した。
【0022】
尚、上記の窒化アルミニウムの面積率は、治具の表面を走査型電子顕微鏡にて撮影したのち、画像解析装置にて窒化アルミニウムの存在面積率を定量化したものである。また、存在面積率を定量化する上では、1000倍程度の観察で十分である。
【0023】
上記、治具表面の窒化アルミニウムの面積率は少なくとも被焼成物と接触する面において達成されていればよい。例えば、治具の全ての面において上記の面積率を持つ治具でもよいし、治具の被焼成物と接触する面のみ上記の面積率を持つようにしてもよい。
【0024】
また、本発明の治具は、上記表面以外の部分の材質は、特に制限されない。例えば、窒化アルミニウム焼結体、特に焼結助剤を含有しない窒化アルミニウム焼結体が好ましいが、タングステンの焼結体或いは、溶融成形体から構成されていてもよい。勿論、全体が前記した窒化アルミニウムとタングステンの複合焼結体であってもよい。
【0025】
治具の表層部のみ、に窒化アルミニウムを特定割合で存在させた、タングステンと窒化アルミニウムとの複合面を構成する態様は特に制限されない。
【0026】
例えば、前記窒化アルミニウム焼結体の表面に上記複合面を構成する態様としては、該窒化アルミニウム焼結体表面に窒化アルミニウムとタングステンとの複合焼結体の層を形成する方法などが挙げられる。
【0027】
また、タングステンの焼結体或いは溶融成形体の表面に前記複合面を構成する態様としては、上記窒化アルミニウムとタングステンとの複合焼結体の層を形成する方法の他、窒化アルミニウムをスパッタ法などの気相法で部分的に蒸着する方法などが挙げられる。
【0028】
この中でも、基材を窒化アルミニウムとしたものは、基材をタングステンとしたものよりも軽量であるため、被焼成物を焼成する際、多段に重ねることが容易に出来るため、より好ましい。
【0029】
前記タングステンと窒化アルミニウムとの複合焼結体の製造方法は、特に制限されず、公知の方法が何ら制限無く適用される。例えば、タングステン粉に対して、窒化アルミニウムの面積割合が前記範囲となるような量で配合される窒化アルミニウム粉、及び有機バインダーを含み、必要に応じて、粘度調整用の有機溶媒、分散剤などを混合したペースト組成物を成形或いは塗布して、脱脂、焼成することによって製造することができる。
【0030】
このような焼成治具を用いてメタライズド基板を製造する態様は具体的には、図1に示すように基板1上にタングステンよりなる配線パターン2を形成し、更にその上に窒化アルミニウムよりなる絶縁パターン3を形成した態様が挙げられる。
【0031】
上記パターンの形成は、例えば上記組成物を含むペーストをスクリーン印刷し、乾燥するなどして行えばよい。上記組成物をペースト状にするには上記必須成分に加えて、溶媒、バインダー、分散剤、必要に応じて可塑剤等を加えてミキサーや三本ロールなどを用いて十分に混練すればよい。このときペーストの各配合成分の割合は、公知の割合が特に再現なく適用される。乾燥は例えば空気中で60℃〜200℃の温度範囲内で1分〜60分程度行えばよい。また、該乾燥体は必要に応じて100℃〜1000℃の範囲内で脱脂処理を行ってもよい。この際、配線パターン用に形成したタングステンが酸化されると、焼成時に酸化タングステンの蒸発・析出が起きるため、タングステンが酸化されないよう低温で脱脂する、あるいは、窒素や水素などの非酸化性雰囲気下で脱脂することが好ましい。
【0032】
得られたメタライズド基板前駆体を焼成治具4と共に、例えば、窒化硼素などよりなるセッター5中に仕込み、常圧の窒素雰囲気中、1600〜2000℃の温度に30分以上保持して焼成を行う。基板と治具4は図1に示すように単独で積層して仕込んでもよいし、図2に示すように多段積みにして仕込んでもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
平均粒径3.0μmのタングステン粉末100質量部と平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末5質量部とエチルセルロース2質量部とテルピネオール10質量部を十分に混練し、タングステンペースト1を調整した。次いで、酸化イットリウムを5重量部含有する窒化アルミニウム焼結体の板上に、上記窒化アルミニウム粉末を含有するタングステンペースト1をスクリーン印刷にて塗布し100℃、10分間乾燥した。該乾燥体を窒素雰囲気下で1800℃、8時間の焼成を行い、板状の治具を得た。治具表面の窒化アルミニウム面積率は16.4%であった。
【0035】
次いで本発明の治具を使用するに好適なメタライズド基板の作製方法を説明する。平均粒径3.0μmのタングステン粉末100質量部と平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末5質量部とエチルセルロース2質量部とテルピネオール10質量部を混練してタングステンペースト2を調整した。次いで平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末100質量部と酸化イットリウム5質量部とエチルセルロース10質量部とテルピネオール40質量部を混練して窒化アルミニウムペーストを調整した。酸化イットリウムを5重量部含有する窒化アルミニウム焼結体基板上に上記タングステンペースト2をスクリーン印刷して配線パターンの形成を行ったのち、その上に上記窒化アルミニウムペーストをスクリーン印刷して絶縁パターンを形成した。このとき図3に示すようなパターンユニットが、該窒化アルミニウム焼結体基板上に縦横夫々10個ずつ、格子状に配置されるようにパターン形成を行った。上記方法によって得たメタライズド基板を空気中で200℃、2時間で脱脂処理を行ったのち、本発明による治具で挟みこみ窒素雰囲気下で1800℃、8時間の焼成を行った。得られたメタライズド基板に無電解めっき処理を施した後、該めっき体を切断し100個のパターンユニットを得た。
【0036】
上記工程によって得られたパターンユニットの外観検査を20倍の実体顕微鏡で観察を行い、20μm以上の癒着痕の発生率およびめっき異常析出の発生率を調査した。その結果を表1に示す。
【0037】
実施例2
治具の作製に用いるタングステンペースト1の組成を、平均粒径3.0μmのタングステン粉末100質量部、平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末10質量部、エチルセルロース2質量部、テルピネオール12質量部とした治具を作製した。治具表面の窒化アルミニウム面積率は28.5%であった。この治具を用いて実施例と同様の方法でメタライズド基板およびパターンユニットの作製を行い、同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0038】
比較例1
治具の作製に用いるタングステンペースト1の組成を、平均粒径3.0μmのタングステン粉末100質量部、エチルセルロース1質量部、テルピネオール6質量部とした治具を作製した。治具表面の窒化アルミニウム面積率は0%であった。この治具を用いて実施例と同様の方法でメタライズド基板およびパターンユニットの作製を行い、同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0039】
比較例2
治具の作製に用いるタングステンペースト1の組成を、平均粒径3.0μmのタングステン粉末100質量部、平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末2質量部、エチルセルロース2質量部、テルピネオール9質量部とした治具を作製した。治具表面の窒化アルミニウム面積率は8.2%であった。この治具を用いて実施例と同様の方法でメタライズド基板およびパターンユニットの作製を行い、同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0040】
比較例3
治具の作製に用いるタングステンペーストの組成を、平均粒径3.0μmのタングステン粉末100質量部、平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末25質量部とエチルセルロース4質量部とテルピネオール18質量部とした治具を作製した。治具表面の窒化アルミニウム面積率は40.6%だった。この治具を用いて実施例と同様の方法でメタライズド基板およびパターンユニットの作製を行い、同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【符号の説明】
【0042】
1 窒化アルミニウム焼結体または窒化アルミニウムグリーン体よりなる基板
2 タングステンよりなる配線パターン
3 窒化アルミニウムよりなる絶縁パターン
4 治具
5 窒化硼素よりなるセッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被焼成物と接触する面が、窒化アルミニウムの存在割合が15〜35%であるタングステンと窒化アルミニウムとの複合面により構成されたことを特徴とする窒化アルミニウム焼成用治具。
【請求項2】
複合面が、タングステンと窒化アルミニウムとの複合焼結体によって形成された請求項1記載の窒化アルミニウム焼成用治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−236102(P2011−236102A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111050(P2010−111050)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】