説明

窒化ケイ素を基材とするルツボ

本発明は、ホウ素(B)またはホウ素含有化合物の少なくとも一種を<19ppmwの濃度で含み、さらに、リン(P)またはリン含有化合物を<3.7ppmwの濃度で含む再利用可能な窒化ケイ素含有ルツボ、および、シリコン結晶化のためのかかるルツボの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素を含有する再利用可能なルツボ、および、シリコン結晶化のための再利用可能な窒化ケイ素含有ルツボの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融シリカ/石英ルツボは、太陽電池用途の結晶質シリコンインゴットを製造するために最も普及して使用されているルツボである。これらのルツボは一回限りしか使用できないので、高い製造コストの一因となっている。太陽電池の製造材料であるシリコンを結晶化させるためにルツボが必要である。窒化ケイ素含有ルツボの利点は、ルツボが再利用可能であること、太陽電池の製造コストの削減能力が高いことである。ルツボの再利用適性は立証されている。現在、太陽電池から発電された電気は従来の電気よりもはるかに高価である。したがって、ソーラー産業にとっては太陽電池の製造コストの削減が極めて重要である。窒化ケイ素を基材とする再利用可能な新規なルツボはこれに貢献できるであろう。窒化ケイ素を基材とするルツボは再利用可能なだけでなく、標準的溶融シリカ/石英ルツボに比較して同等以上の品質のシリコンインゴットを提供しなければならない。この特許は窒化ケイ素を基材とするルツボにおいて製造されたシリコンインゴットの品質に関する。
【0003】
再利用可能な窒化ケイ素ルツボの製造方法は特許NO317080から知られている。Elkem ASによって製造されているSilgrain(R)と呼ばれるケイ素粉末がルツボの製造原料として使用されていた。ここでは、同じ原料から製造された窒化ケイ素ルツボを、このルツボ内で多結晶質インゴットを成長させることによって試験した。驚くべきことに、シリコンインゴットはホウ素およびリンの双方について予測をはるかに上回る高い含有率を示した。シリコンインゴットはFe、AlおよびCaのような元素を正常レベルで含有していた。シリコンインゴットの抵抗率が期待値から大幅な偏差を生じた原因はインゴット中のBおよびPの比較的高い含有率であった。太陽電池製造用途のシリコンインゴットはすぐれた太陽電池性能を与えるための固有抵抗率を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ノルウェー特許第317080号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、太陽電池およびウェーハを製造するために十分なインゴット品質を与えることである。さらに、本発明の目的は、窒化ケイ素を基材とする再利用可能なルツボを製造することであり、これは、標準的溶融シリカルツボに代替可能であることを意味する。標準的溶融シリカルツボを以後の本文中では対照と呼ぶ。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリコン結晶化用の再利用可能な窒化ケイ素含有ルツボを提供する。ルツボは以下の元素、すなわち、ホウ素またはホウ素含有化合物の少なくとも一種を<19ppmwの濃度で含み、さらに、以下の元素、すなわち、リンまたはリン含有化合物の少なくとも一種を<3.7ppmwの濃度で含む。
【0007】
さらに本発明は、シリコン結晶化のための、以下の元素、すなわち、ホウ素(B)またはホウ素含有化合物の少なくとも一種を<19ppmwの濃度で含み、さらに、リン(P)またはリン含有化合物を<3.7ppmwの濃度で含む窒化ケイ素ルツボの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
窒化ケイ素含有ルツボを製造するための汎用原料はケイ素、炭化ケイ素および窒化ケイ素である。これらの原料は様々なレベルの不純物を含む様々な品質で入手可能である。普遍的に存在する元素はAl、Ca、Fe、Ti、BおよびPである。
【0009】
高純度の窒化ケイ素を基材とするルツボは不純物の含有率が低いので標準的溶融シリカ/石英ルツボに比較してインゴットに対する汚染が少ないであろう。窒化ケイ素を基材とするルツボはまた溶融シリカ/石英ルツボに比較して異なる材料特性を有している。前者は概して窒化化合物を不純物として含有し、高温で軟化しない。溶融シリカ/石英ルツボは主として酸化化合物の形態で不純物を含有しこれらのルツボは高温で軟化する。
【0010】
ルツボが決してシリコンと直接に接触しないようにルツボは常に窒化ケイ素粉末で被覆されている。ルツボから汚染が生じると、汚染は必ずルツボから被膜を通って拡散する。揮発性化合物は速く拡散できる。固体化合物は固体−固体拡散に従って拡散する必要があり、気体拡散に比べてはるかに遅い。溶融シリカ/石英ルツボは、酸化化合物が存在することおよびそれらが高温で軟化することが原因で窒化ケイ素基材のルツボに比較して揮発性化合物の含有率がおそらくは高い。
【0011】
ルツボの少なくとも一部を被覆する被膜も結果的にインゴットを汚染する。被膜の純度が高いほど高品質のインゴットが得られる。品質を上げた被膜材料を使用する効果は、E.Olsenら:“Silicon Nitride Coating and Crucible − Effects of Using Upgraded Materials in the Casting of Multicrystalline Silicon Ingots”,Progress in Photovoltaics(2008),16(2),93−100によって検討されている。被膜からの汚染はルツボからの汚染をある程度支配するであろう。したがって被膜を改良することが必要であろう。
【0012】
高純度ケイ素原料の使用は、良質のルツボを製造するためには問題があるかもしれない。純粋なケイ素は窒素とゆっくりと反応することが知られており、したがって高い変換率を得ることが難しい。Fe、Al、CaおよびZrのような不純物はある程度のレベルでは窒化を促進するであろう。
【0013】
窒化ケイ素ルツボ中のBおよびPは酸化物として存在し易いと考えられている。BおよびPの酸化物は、ルツボ内のシリコンの溶融温度である1400から1500℃で比較的高い蒸気圧を有している。Siインゴットに対するBおよびPの汚染は揮発性のBおよびP化合物の存在に起因する。Fe、Al、CaおよびTiのような他の元素はBおよびPに比較してはるかに高い濃度で存在するにもかかわらずSiインゴットを汚染しない。Siインゴットにいかなる有意な汚染も与えないためには窒化ケイ素基材のルツボ中のB含有率が19ppmw未満でなければならないことが知見された。好ましくはBの含有率が<1ppmwである。さらに、Siインゴットにいかなる有意な汚染も与えないためには窒化ケイ素基材のルツボ中のPの含有率が3.7ppmw未満でなければならない。好ましくはBの含有率が<0.5ppmwである。
【0014】
ルツボ中のBおよびP化合物は、比較的低い濃度で存在するにもかかわらずシリコンインゴットに汚染を与えるので、存在する他の元素に比較して異なる特性を有しているに違いない。上記と同型のルツボを1400から1500℃に加熱した。この処理後にルツボ中のBおよびP含有率は有意に減少した。Fe、AlおよびCaのような他の元素の含有率は減少しなかった。これは、BおよびP化合物が、シリコンインゴット製造用ルツボの使用温度であるこれらの温度で揮発性であることを示す。
【0015】
シリコンインゴットにいかなる有意な汚染も与えないルツボ中のBおよびPの含有率を予測することは極めて難しい。BおよびP化合物のある部分は揮発性であり、ある部分は何らかの理由で揮発性でないかもしれない。たとえば、Bのある部分が揮発性でない窒化ホウ素として存在するかもしれない。したがって、シリコンインゴットにいかなる有意な汚染も与えないBおよびPの限度を見出すために一連の試験を実施した。
【実施例】
【0016】
様々な窒化ケイ素基材のルツボに対していくつかの試験を実施し、溶融シリカルツボ内で製造した対照Siインゴットに比較した。以下の実施例では従来の溶融シリカルツボ内で製造した対照Siインゴットを対照Siインゴットと呼ぶ。
【0017】
試験1:
分析(ICP)によれば以下の組成を有しているSilgrain(R)から製造したルツボAを使用してSiインゴットを製造した。
【0018】
【表1】

【0019】
SiインゴットをGDMSによって分析した。ルツボAを使用して製造したSiインゴットのホウ素(B)およびリン(P)の含有率は対照Siインゴットを有意に上回っていた。ルツボAを使用して製造したSiインゴットの他の元素は対照Siインゴットに比較して正常値を有していた。試験1の結果は、窒化物基材のルツボ中の少量のBおよびPがSiインゴットを汚染するであろうことを示す。他の元素は比較的大量に存在するときであってもSiインゴットを汚染しない。
【0020】
試験2:
ルツボBを使用して1つのSiインゴットを製造した。ルツボBは以下の組成を有している。
【0021】
【表2】

【0022】
このSiインゴットは対照と同じB含有率を有していた。Pの含有率は対照を有意に上回っていた。他のすべての共通元素は対照と同等であった。これは、ルツボ中のB含有率が1ppmw以下のときSiインゴットにまったく汚染が生じないことを示す。
【0023】
試験3:
ルツボCを使用して1つのSiインゴットを製造した。ルツボCは以下の組成を有している。
【0024】
【表3】

【0025】
このSiインゴットは対照と同じB含有率を有していた。P含有率は対照を有意に上回っていた。他のすべての共通元素は対照と同等であった。これは、ルツボ中のB含有率が<1ppmwのときSiインゴットにまったく汚染が生じないことを示す。
【0026】
試験4:
ルツボDを使用して1つのSiインゴットを製造した。ルツボDは以下の組成を有している。
【0027】
【表4】

【0028】
このSiインゴットは対照と同じBおよびPの含有率を有していた。他のすべての共通元素は対照と同等であった。これは、ルツボ中のB含有率が<1ppmwおよびP含有率が<0.5のときSiインゴットにまったく汚染が生じないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン結晶化用の再利用可能な窒化ケイ素含有ルツボであって、ホウ素またはホウ素含有化合物の少なくとも一種を<19ppmwの濃度で含み、さらに、リンまたはリン含有化合物の少なくとも一種を<3.7ppmwの濃度で含むことを特徴とする、窒化ケイ素含有ルツボ。
【請求項2】
リンまたはリン含有化合物の濃度が好ましくは<0.5ppmwである、請求項1に記載の窒化ケイ素含有ルツボ。
【請求項3】
ホウ素またはホウ素含有化合物の濃度が好ましくは≦1ppmwである、請求項1または2に記載の窒化ケイ素含有ルツボ。
【請求項4】
シリコン結晶化用のルツボを製造するための、ホウ素(B)またはホウ素含有化合物の少なくとも一種を<19ppmwの濃度で含み、さらに、リン(P)またはリン含有化合物の少なくとも一種を<3.7ppmwの濃度で含む窒化ケイ素組成物の使用。
【請求項5】
ホウ素またはホウ素含有化合物が≦1ppmwの濃度である請求項4に記載の使用。
【請求項6】
リンまたはリン含有化合物が<0.5ppmwの濃度である請求項4または5に記載の使用。

【公表番号】特表2013−514964(P2013−514964A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545889(P2012−545889)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/NO2010/000483
【国際公開番号】WO2011/078693
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(511255731)サン−ゴバン・インダストリエ・ケラミク・レーデンタール・ゲー・エム・ベー・ハー (4)
【Fターム(参考)】