説明

窒化物半導体結晶の製造方法、反応容器および部材

【課題】防食性に優れている反応容器を用いて窒化物半導体結晶を効率良く育成し、育成後の反応容器の再利用を図りやすくすること。
【解決手段】反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する際に、該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部を、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含む材料で構成し、且つ表面粗さ(Ra)を0.08μm〜3.0μmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体結晶の製造方法、並びにそれに用いる反応容器および部材に関する。特に、III族元素の窒化物半導体結晶を製造する際に有用な製造方法、並びにそれに用いる反応容器および部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニア等の窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニア等の溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。
【0003】
アモノサーマル法による窒化ガリウム結晶の育成は、高温高圧の超臨界および/または亜臨界状態にあるアンモニア等の溶媒環境下での反応であることから、このような環境に耐える反応容器を使用することが必要である。このため、例えばNi系合金であるAlloy625やRENE41などの高い強度を有する材料が反応容器に使われている。しかしながら、これらの材料は超臨界および/または亜臨界溶媒に対する完全防食性を有しておらず、特に原料を溶解させるために使用する鉱化剤は前記合金に対する腐食性が強い。そこで、鉱化剤に対する防食性が確認されている貴金属(白金、イリジウム、白金イリジウム合金)を用いた反応容器が提案されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−514581号公報
【特許文献2】特開2009−263229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの防食性が確認されている貴金属を用いた反応容器内で窒化物半導体結晶を育成すると、反応容器の内壁表面に結晶が多量に析出する。このため、原料効率が低下し、育成後の結晶や内容物を反応容器から取り出し難いという課題があった。また、反応容器を再利用するためには、表面に付着した結晶を洗浄して除去する必要があり、その作業に時間とコストを要するという課題もあった。さらに、洗浄を行っても結晶を十分に除去することができないために、再利用を図りにくいという課題もあった。このため本発明者らは、防食性に優れている反応容器を用いて窒化物半導体結晶を効率良く育成し、育成後の反応容器の再利用を図りやすくすることを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、反応容器の表面に付着する結晶のサイズや形態が結晶成長にあたって採用する条件によって異なることを見出した。また、さらに検討を進めた結果、反応容器の表面から除去しやすい結晶の形態があることや、そのような形態の結晶が反応容器の表面に付着しやすい条件があることを初めて見出した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、本発明の具体的内容は以下に示すとおりである。
【0007】
[1] 反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する方法であって、
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含み、且つ表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
[2] 反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する方法であって、
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであり、
該窒化物半導体結晶の成長をハロゲンを含有する鉱化剤を用いて行うことを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
[3] 該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の総面積のうち、50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする[1]または[2]に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[4] 該反応容器が、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmである表面を含む結晶成長領域を有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[5] 前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金からなるカプセルであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[6] 前記反応容器がPtとIrを含む合金からなるカプセルであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[7] 前記合金のIr含有率が30重量%以下であることを特徴とする[6]に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[8] 前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金でライニングされた内壁を有する耐圧性容器であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[9] 内壁がPtとGaを含む合金でライニングされていることを特徴とする[8]に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[10] 内壁がIr又はIrを含む合金でライニングされていることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[11] 成長温度が500〜700℃であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[12] 成長圧力が120〜700MPaであることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[13] 少なくともフッ素を含む鉱化剤を用いることを特徴とする[1]〜[12]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
[14] 少なくともフッ素と1以上のハロゲン元素を含む鉱化剤を用いることを特徴とすることを特徴とする[1]〜[12]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【0008】
[15] 超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶を育成するための反応容器であって、
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含み、且つ表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする反応容器。
[16] 該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の総面積のうち、50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする[15]に記載の反応容器。
[17] 該反応容器が、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmである表面を含む結晶成長領域を有することを特徴とする[15]または[16]に記載の反応容器。
[18] 前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金からなるカプセルであることを特徴とする[15]〜[17]のいずれか一項に記載の反応容器。
[19] 前記反応容器がPtとIrを含む合金からなるカプセルであることを特徴とする[15]〜[18]のいずれか一項に記載の反応容器。
[20] 前記合金のIr含有率が30重量%以下であることを特徴とする[19]に記載の反応容器。
[21] 前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金でライニングされた内壁を有する耐圧性容器であることを特徴とする[15]〜[20]のいずれか一項に記載の反応容器。
[22] 内壁がPtとGaを含む合金でライニングされていることを特徴とする[21]に記載の反応容器。
[23] 内壁がIr又はIrを含む合金でライニングされていることを特徴とする[15]〜[21]のいずれか一項に記載の反応容器。
【0009】
[24] 超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶を育成するための反応容器中に設置する部材であって、
該部材の表面の少なくとも一部が、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含み、且つ表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする部材。
[25] 前記部材の表面の総面積のうち、50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする[24]に記載の部材。
[26] 前記部材が白金族金属又は白金族を含む合金からなることを特徴とする[24]または[25]に記載の部材。
[27] 前記部材がPtとIrを含む合金からなることを特徴とする[24]〜[26]のいずれか一項に記載の部材。
[28] 前記合金のIr含有率が30重量%以下であることを特徴とする[27]に記載の部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法によれば、結晶育成後に反応容器の表面に付着した窒化物結晶を容易に除去することができる。このため、労力とコストを抑えながら、反応容器を窒化物半導体結晶の製造に繰り返して使用することができる。さらに、反応容器を繰り返して使用する場合には、反応容器表面付着物を十分に除去できているため、不純物の混入の少ない高品質な窒化物半導体結晶を製造することができる。このように、本発明の窒化物半導体結晶の製造方法によれば、高い原料効率で窒化物半導体結晶を製造することができる。さらに、本発明の反応容器を用いれば、これらの利点を容易に享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【図2】本発明で用いることができる別の結晶製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の窒化物半導体結晶の製造方法およびそれに用いる反応容器について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(本発明の窒化物半導体結晶の製造条件)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法は、反応容器内でアモノサーマル法により窒化物半導体結晶を製造する方法である。すなわち、反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する方法であって、以下の[条件1]または[条件2]の少なくとも一方を満たすものである。本発明の窒化物半導体結晶の製造方法は、[条件1]と[条件2]の両方を満たすものであることが好ましい。
【0014】
[条件1] 反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含み、且つ表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmである。
[条件2] 反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであり、なおかつ、窒化物半導体結晶の製造においてハロゲンを含有する鉱化剤を使用する。
【0015】
(反応容器)
本発明における「反応容器」とは、超臨界および/または亜臨界アンモニア等の溶媒がその内壁の表面に直接接触しうる状態で窒化物半導体結晶の製造を行うための容器を意味する。本発明では、オートクレーブなどの耐圧性容器を反応容器として用いてもよいし、耐圧性容器内に設置される内筒などのカプセルを反応容器として用いてもよい。
【0016】
本発明に用いる耐圧性容器は、アモノサーマル法により窒化物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るものの中から選択する。高温強度が高く耐腐食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐腐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金で構成されているものが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41、ハステロイ、ワスパロイが挙げられる。
【0017】
これら耐圧性容器に用いられる合金の耐腐食性は、耐圧性容器を反応容器として用いたときに育成する結晶の品質に全く影響を及ぼさないほど高くはない。これら合金は超臨界および/または亜臨界状態にあるアンモニア等の溶媒中、特に鉱化剤を含有するより厳しい腐食環境下においてはNi、Cr、Feなどの成分が溶液中に溶け出し結晶中に取り込まれることとなる。このため、耐圧性容器を本発明における反応容器として用いる場合には、耐圧性容器の内面腐食を抑制するために、少なくとも内壁の表面を更に耐腐食性に優れる材料によって直接ライニングしておくことが好ましい。ここでいうライニングは、コーティングも含む概念であり、具体的には、蒸着、スパッタリング、メッキなどにより行うことができ、例えば特開2006−193355号公報に記載される方法を採用することができる。また、耐圧性容器の内面の形状にほぼ合致するように、ライニング材を製作し、耐圧性容器の内面に機械的にはめ込む方法も好適に用いられる。
【0018】
ライニングする材料は、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含む材料であることが好ましい。これらの材料は、単独で用いても、複数を組み合わせた合金として用いてもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、反応容器を構成する材料としてその他の金属を含んでいてもよい。中でも優れた耐腐食性を有するPt、Ir、Pd、Rhなどの白金族金属または白金族を含む合金を用いることが好ましく、より好ましくはPtまたはPtを含む合金であり、さらに好ましくはPtまたはPt−Ir合金である。Pt−Ir合金を用いる場合のIr含有率は1重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることがさらに好ましく、また、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることがさらに好ましい。ライニングにより形成される膜の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、また、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。
【0019】
反応容器としてカプセルを用いる場合、少なくともカプセルの内壁の表面を白金(Pt)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含む材料によって構成することが好ましい。特に、カプセル全体を白金(Pt)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含む材料によって構成することが好ましい。材料の好ましい範囲は、上記の耐圧性容器のライニングにおいて記載したとおりである。
【0020】
本発明の別の形態として、ハロゲンを含有する鉱化剤を使用する場合のライニング、またはカプセルの材質として、上述の貴金属を含む材料以外にハロゲンを含有する鉱化剤を含む溶液に対して耐腐食性を有するものが使用できる。例えば、タンタル(Ta)、タングステン(W)、およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の原子を含む金属または合金が挙げられる。すなわち、タンタル(Ta)、タンタル合金(Ta合金)、タングステン(W)、タングステン合金(W合金)、チタン(Ti)、チタン合金(Ti合金)である。
【0021】
Ta合金の例として、例えばタンタル−タングステン合金(Ta−W合金)を挙げることができる。なお、本明細書において「M合金」(Mは金属)という場合は、組成としてMが最も多く含まれる合金を意味する。Ta合金の組成はTaが50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることがさらに好ましい。Ta−W合金の組成はWが0.1重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましく、2.5重量%以上であることがさらに好ましい。Ta−W合金の組成はWが20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。W合金の組成はWが50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることがさらに好ましい。Ti合金の組成はTiが50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることがさらに好ましい。
本発明では上記材料を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いてもよい。また、上記の貴金属を含む材料と組み合わせて用いてもよい。
【0022】
反応容器の形状は、円筒形などをはじめとして任意の形状とすることができる。また、反応容器は立設しても横置きにしても斜めに設置して使用してもよい。
【0023】
反応容器内の空間に対して露出している反応容器表面は、その少なくとも一部の表面粗さ(Ra)が0.08μm以上であることが好ましく、0.15μm以上であることがより好ましく、0.25μm以上であることがさらに好ましい。また、反応容器内の空間に対して露出している反応容器表面は、その少なくとも一部の表面粗さ(Ra)が3.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましい。反応容器内の空間に対して露出している反応容器表面は、その全面積の40%以上の表面粗さ(Ra)が0.08〜3.0μm、望ましくは0.08〜1.0μmであることが好ましく、全面積の50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08〜3.0μm、望ましくは0.08〜1.0μmであることがより好ましく、すべての表面粗さ(Ra)が0.08〜3.0μm、望ましくは0.08〜1.0μmであることが最も好ましい。一部の表面粗さ(Ra)を上記範囲にする場合は、少なくとも窒化物半導体結晶を育成する結晶成長領域の表面粗さ(Ra)を上記範囲にすることが好ましい。反応容器の表面粗さ(Ra)を調整することにより反応容器の表面に付着する窒化物結晶を微粒子状にして除去しやすくすることができ、なおかつ付着する結晶の量を抑えることができる。すなわち、従来のように膜状の窒化物結晶が多量に付着することがないため、原料効率が向上する。なお、本発明でいう表面粗さ(Ra)は、後述する実施例に記載される方法により決定される値である。
表面粗さ(Ra)を上記の範囲に調整する方法は、特に限定されず、反応容器の表面に対して公知の処理方法を適宜行えばよい。例えば、バイトによる切削加工、砥石による研削加工、バフ研磨および電解研磨などの処理を行い、表面粗さ(Ra)を上記の範囲に調整することが好ましい。
【0024】
本発明で用いる反応容器は、一般に、未使用のものであることが窒化物結晶がより付着しにくいため一段と好ましい。例えば、Ptを含む表面を有する未使用の反応容器を用いてGaN半導体結晶の育成を行うと、表面にGa−Pt膜が形成され、表面粗さ(Ra)が0.2〜0.5μm程度低下する。このようなGa−Pt膜が表面に形成されたカプセルも本発明において好ましく用いることができるが、表面に付着する窒化物結晶の少なさという点では未使用のカプセルを使用する方が好ましい。
一方、IrまたはIr合金を含む表面を有する反応容器を用いる場合は、IrとGaが合金を形成しないため、GaN半導体結晶の育成を行った後であっても表面にGa−Ir膜は形成されない。このため、Irを含む表面を有する反応容器は、GaN半導体結晶の製造に繰り返して好ましく用いることができる。
【0025】
本発明の製造方法に用いることができる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を図1に示す。ここでは、オートクレーブ1中に内筒として装填されるカプセル20中で結晶成長を行う。このため、カプセル20が本発明でいう反応容器に相当する。カプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6から構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6には種結晶7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6の間には、2つの領域を区画バッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2〜60%であるものが好ましく、3〜40%であるものがより好ましい。図1の結晶製造装置では、オートクレーブ1の内壁とカプセル20の間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメーター14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、本発明の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメーター、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
本発明の製造方法に用いることができる別の結晶製造装置の具体例を図2に示す。この結晶製造装置では、カプセルを使用せず、オートクレーブ内で結晶成長を行う。このため、オートクレーブが本発明でいう反応容器に相当する。
【0026】
本発明では、反応容器内で使用される部材についても、反応容器の表面における上記の好ましい材料と好ましい表面粗さ(Ra)を有していることが望ましい。反応容器内で使用される部材としては、種結晶を保持するための育成枠、溶液の対流を制御するバッフル板、原料カゴ、種結晶を吊るすワイヤーなどを挙げることができる。本発明では、反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の総面積のうち、50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08〜3.0μm、望ましくは0.08〜1.0μmであることが好ましく、60%以上の表面粗さ(Ra)が0.08〜3.0μm、望ましくは0.08〜1.0μmであることがより好ましく、70%以上の表面粗さ(Ra)が0.08〜3.0μm、望ましくは0.08〜1.0μmであることがさらに好ましい。一部の表面粗さ(Ra)を上記範囲にする場合は、少なくとも窒化物半導体結晶を育成する結晶成長領域に設置する部材、つまりバッフル板、育成枠、ワイヤーなどの表面粗さ(Ra)を上記範囲にすることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法において、反応容器などの内面に析出した窒化物結晶の除去のしやすさが表面粗さに依存すること、さらに最適な表面粗さの範囲が上記のようになる理由として以下のことが考えられる。
通常、反応容器内の結晶成長領域が過飽和状態にあるため窒化物半導体結晶が析出する。このとき、結晶成長領域において最も結晶が析出しやすい場所は、核発生エネルギーを必要としない種結晶の表面である。次に析出しやすい場所は、反応容器の内壁や反応容器内に設置された部材の表面である。これは、何もない溶液中での核発生は大きなエネルギーを必要とするが、物質表面における核発生エネルギーは格段に小さくなり、容易に核発生が起こり結晶が成長することによる。
【0028】
ここで、反応容器などの表面が原子レベルで平坦な場合は核発生は起こりにくいが、現実的な反応容器などの表面仕上げではミクロな凹凸が存在する。このミクロな凹凸が窒化物結晶分子の付着および核発生の起点となる。反応容器などの表面粗さが小さい場合には凹凸自体は小さいが、凹凸の量は増えることになる。よって、表面粗さ(Ra)が0.08μm未満である場合、核発生の個数と成長する結晶の大きさのバランスから付着結晶の個数が多く密集し、隣接する結晶同士が連結して膜状になると考えられる。膜状に形成された結晶は洗浄工程において洗浄溶液が内部に浸透しにくく、反応容器などの表面から除去することが困難となる。一方、表面粗さ(Ra)が3.0μmを超えるほど粗い場合は、凹凸自体が大きくなり、ミクロ的に観察すれば反応容器内面の表面積が増えた状態となっている。つまり、析出する結晶が接触する面積が増加するため結晶が強固に反応容器などの表面に固着し、表面積の増加により析出する結晶の量も増大する。また凹凸の凹部に微少な結晶が入り込み、除去を困難なものとすると考えられる。
これらの理由から、上記の特定の範囲に表面粗さ(Ra)を規定することにより、反応容器などの表面に付着した結晶の除去が容易になったものと考えられる。
【0029】
(窒化物半導体結晶の製造)
本発明における窒化物半導体結晶の製造条件としては、通常のアモノサーマル法における窒化物半導体結晶の成長条件を適宜選択して採用することができる。例えば、本発明における窒化物半導体結晶の成長時の温度は、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明における窒化物半導体結晶の成長時の圧力は、通常120MPa以上に設定することが好ましく、150MPa以上に設定することがより好ましく、180MPa以上に設定することがさらに好ましい。また、700MPa以下に設定することが好ましく、500MPa以下に設定することがより好ましく、350MPa以下に設定することがさらに好ましく、300MPa以下に設定することが特に好ましい。
【0030】
また、結晶成長用原料としては、アモノサーマル法による窒化物半導体結晶の成長に通常用いられる原料を適宜選択して用いることができる。例えば、窒化ガリウム(GaN)結晶を成長させる場合には、ガリウム源となる原料として、金属ガリウム若しくは窒化ガリウムまたはこれらの混合物を用いることができる。その他の窒化物結晶の成長条件等については、特開2007−238347号公報の製造条件の欄を参照することができる。
【0031】
本発明では、反応容器の結晶成長領域内に種結晶をあらかじめ用意しておき、その種結晶上に窒化物半導体結晶を成長させることが好ましい。種結晶を用いれば、特定のタイプの結晶を選択的に成長させることが可能である。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合、種結晶として六方晶の窒化ガリウム結晶を用いれば、種結晶上に六方晶の窒化ガリウム単結晶を成長させることができる。種結晶は通常薄板状の平板単結晶を用いるが、主面の結晶方位は任意に選択することができる。ここで主面とは薄板状の種結晶で最も広い面を指す。
【0032】
六方晶窒化ガリウム単結晶の場合は、(0001)面および(000−1)面に代表される極性面、(10−12)面、(10−1−2)面、(20−21)面および(20−2−1)面に代表される半極性面、並びに(10−10)面および(11−20)面に代表される非極性面と様々な方位の主面を有する種結晶を用いることにより、任意の方位へ結晶成長させることができる。種結晶の切り出し方位は前記のような特定の面に限らず、特定の面から任意の角度をずらした面を選択することもできる。また、種結晶の表面粗さ(Rms)は、0.03〜1.0nmの範囲内であることが好ましく、0.03〜0.5nmの範囲内であることがより好ましく、0.03〜0.2nmの範囲内であることがさらに好ましい。ここでいう表面粗さ(Rms)は、原子間力顕微鏡により測定される値である。表面粗さ(Rms)が上記の好ましい範囲内にあれば、初期成長界面での二次元成長がスムーズに開始され、界面での結晶欠陥の導入を抑制し、立方晶窒化ガリウムの生成を抑えやすくなるという利点がある。このような表面粗さ(Rms)にするためには、例えば、CMP(化学機械的研磨)を行なえばよい。
【0033】
上記表面粗さを有さない種結晶については、表面に対して化学エッチング等を行うことにより、加工変質層を除去した後に窒化物結晶を成長させることが好ましい。例えば、100℃程度のKOHまたはNaOHなどのアルカリ水溶液でエッチングすることにより、好ましく加工変質層を除去することができる。この場合も上記表面粗さ(Rms)を制御した場合と同様の効果がある。
【0034】
本発明の製造方法を実施する際には、まず、反応容器内に、種結晶、窒素元素を含有する溶媒、結晶成長のための原料物質および鉱化剤を入れて封止する。鉱化剤の代わりにアンモニアと反応して鉱化剤を生成する物質を入れてもよい。
鉱化剤の濃度は、充填するアンモニア量に対して、0.1〜10mol%とすることが好ましい。鉱化剤としては、ハロゲンを含有する鉱化剤を用いることが好ましく、フッ素を含む鉱化剤を用いることが好ましく、フッ素とその他のハロゲン元素を含む鉱化剤を用いることがさらに好ましい。
【0035】
これらの材料を容器内に導入するのに先立って、容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。
反応容器としてカプセルを用いる場合は、カプセルを封止した後、封止したカプセルを耐圧性容器内に設置したのち、耐圧性容器を密閉する。耐圧性容器を密閉後、耐圧性容器内に窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよいし、真空排気装置で脱気してもよい。または、その両方を組み合わせて行なってもよい。
【0036】
次に溶媒の充填であるが、例えば溶媒としてアンモニアを用い、カプセルを用いない場合、耐圧性容器に接続された配管からアンモニアを所定量充填する。アンモニアの液化温度以下の温度で注入することにより、耐圧性容器内で液化アンモニアとして充填してもよい。常温にて加圧しながらアンモニアを耐圧性容器内に充填することもできる。
耐圧性容器およびカプセルなどの容器内への種結晶の装填は、通常は、原料物質、鉱化剤を充填する際に同時に行うか、または原料物質および鉱化剤を充填した後に装填する。種結晶は、ワイヤーで吊してもよいし、治具に固定してもよい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
【0037】
超臨界および/または亜臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物結晶の合成中または成長中、容器内は上記の好ましい温度範囲と圧力範囲内に保持することが好ましい。圧力は、温度および容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、容器内の温度の不均一性、および死容積の存在によって多少異なる。
反応容器内での窒化物半導体結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の超臨界および/または亜臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0038】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類並びに製造する結晶の大きさおよび量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。
所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に容器を設置したまま放冷してもかまわないし、容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0039】
容器外面の温度または推定される容器内部の温度が所定温度以下になった後、容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃が好ましく、−33℃〜100℃がより好ましい。ここで、容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。
さらに必要に応じて、真空状態にするなどして容器内のアンモニア等の溶媒を十分に除去した後、乾燥し、容器の蓋等を開けて生成した窒化物半導体結晶および未反応の原料および鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。本発明によれば、反応容器の表面や反応容器内で使用される部材の表面に付着する窒化物結晶の量を抑えることができるため、育成した窒化物半導体結晶を比較的容易に取り出すことができる。
上記のようにして、本発明の方法により窒化物半導体結晶を製造することができる。所望の結晶構造を有する窒化物半導体結晶を製造するためには、製造条件を適宜調整することが必要である。
【0040】
本発明の製造方法により得られる窒化物半導体結晶の種類は、選択する結晶成長用原料の種類等によって決まる。本発明によれば、周期表III族窒化物結晶を好ましく成長させることができる。周期表III族窒化物結晶としては、ガリウム含有窒化物結晶がより好ましく、窒化ガリウム結晶がさらに好ましい。
本発明の製造方法によれば、比較的径が大きな窒化物半導体結晶も得ることができる。例えば、好ましくは最大径が50mm以上である窒化物半導体結晶を得ることも可能である。窒化物半導体結晶の最大径は、76mm以上であることがより好ましく、100mm以上であることがさらに好ましい。
【0041】
また、本発明の製造方法によれば、種結晶上以外の部分への窒化物結晶の過剰な析出を抑えることができるため、窒化物微結晶が種結晶上に成長する窒化物半導体結晶中へ取り込まれにくくなり、従来法にしたがって製造される窒化物半導体結晶よりも結晶欠陥が少ない窒化物半導体結晶を得ることができる。さらに、本発明の製造方法によれば、原料が窒化物微結晶の析出に消費されるのを抑えることができるため、そのような結晶欠陥が少ない窒化物半導体結晶を収率よく製造することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、反応容器内面の付着物を十分に取り除くことができるため反応容器内面清浄度が向上し、窒化物半導体結晶中への不純物混入を抑えることができるため、不純物濃度の低い高品質な窒化物半導体結晶を製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例と比較例と試験例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下に記載する表面粗さ(Ra)は、接触式表面粗さ測定器(東京精密製、ハンディサーフ E−30A)にて3点以上測定した値の平均値である。校正試験片型式はE−MC−S24A(Ra=2.90μm)を使用し、測定条件は、測定長が4.0mm、カットオフ値が0.80mm、フィルタは2CR型であった。
【0043】
<実施例1>
実施例1は、図1の結晶製造装置を用いて行った。
RENE41製オートクレーブ1(内容積約345cm3)を耐圧容器として用い、Pt−Ir製カプセル(Ir含有率:20重量%)20を反応容器として結晶成長を行った。Pt−Irカプセルは初回使用品であり表面には金属光沢が見られた。Pt−Irカプセルの内壁表面粗さ(Ra)は0.76μmであった。カプセルへの充填作業は十分に乾燥した窒素雰囲気グローブボックス内にて行った。原料8として多結晶GaN粒子をカプセル下部領域(原料溶解領域9)内に設置した。次に鉱化剤として十分に乾燥した純度99.999%のNH4Iと純度99.999%のGaF3をカプセル内に投入した。
【0044】
さらに下部の原料溶解領域9と上部の結晶成長領域6の間に、表面粗さ(Ra)が0.13μmである初回使用品の白金製バッフル板5を設置した。種結晶7としてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶のC面を主面とするウェハー(10mmx5mmx0.3mm)2枚とM面を主面とするウェハー(5mm×7.5mm×0.3mm)2枚を用いた。種結晶の主面はchemical mechanical polishing(CMP)仕上げされており、表面粗さは原子間力顕微鏡による計測によりRmsが0.5nm以下であることを確認した。これら種結晶7を、直径0.2mmの白金ワイヤーにより、表面粗さ(Ra)が0.28μmである白金製種結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域6に設置した。つぎにカプセル20の上部にPt−Ir製のキャップをTIG溶接により接続したのち、重量を測定した。カプセル内の空間に対して露出している、カプセル及びカプセル内で使用される部材の表面の総面積のうち、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmである面積の割合は99%であった。
【0045】
キャップ上部に付属したチューブに図1のバルブ10と同様のバルブを接続し、真空ポンプ11に通ずるようバルブを操作し真空脱気した。その後バルブを窒素ボンベ13に通ずるように操作しカプセル内を窒素ガスにてパージを行った。前記真空脱気、窒素パージを5回行った後、真空ポンプに繋いだ状態で加熱をしてカプセル内の水分や付着ガスの脱気を行なった。カプセルを室温まで自然冷却したのちバルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。つづいてNH3ボンベ12に通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した後、再びバルブを閉じた。NH3充填前と充填後の重量の差から充填量を確認した。
【0046】
つづいてバルブ10が装着されたオートクレーブ1にカプセル20を挿入した後に蓋を閉じ、オートクレーブ1の重量を計測した。次いでオートクレーブに付属したバルブ10を介して導管を真空ポンプ11に通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した。カプセルと同様に窒素ガスパージを複数回行った。その後、真空状態を維持しながらオートクレーブ1をドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブ10を閉じた。次いで導管をNH3ボンベ12に通じるように操作した後、再びバルブ10を開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブ1に充填した後、再びバルブ10を閉じた。オートクレーブ1の温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させオートクレーブ1の重量を計測した。NH3充填前の重量との差からNH3の重量を算出し充填量を確認した。
【0047】
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。オートクレーブ内部の結晶成長領域6の温度が原料溶解領域9の温度よりも低くなるように9時間かけて昇温し、平均温度610℃に達した後、その温度にて4日間保持した。オートクレーブ内の圧力は215MPaであった。また保持中のオートクレーブ外面制御温度のバラツキは±0.3℃以下であった。
その後、オートクレーブ1の外面の温度が室温に戻るまで自然冷却し、オートクレーブに付属したバルブ10を開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。その後オートクレーブ1を計量しNH3の排出を確認した後、オートクレーブの蓋を開け、カプセル20を取り出した。カプセル上部に付属したチューブに穴を開けカプセル内部からNH3を取り除いた。
【0048】
カプセル内部を確認したところ、C面、M面いずれの種結晶上にも全面に均一に窒化ガリウム結晶が析出していた。また、カプセル内壁には窒化ガリウムの微結晶が粒子状に付着していた。付着した微結晶を除去するため、濃度約45%のKOH水溶液を用い100〜120℃の温度にてカプセルを浸漬した。1時間後KOH水溶液からカプセルを取り出し、十分に水洗いをしてから内壁を観察した。目視およびルーペによる観察では内壁に付着した微結晶は十分に除去されたことが確認され、カプセルは容易に再利用可能であることが確認された。
【0049】
<実施例2>
実施例2では、表面粗さ(Ra)が0.64μmである初回使用品のPt−Ir製カプセル(Ir含有率:20重量%)と、表面粗さ(Ra)が0.12μmである初回使用品の白金製バッフル板を用いた。実施例2で用いたカプセルとバッフル板のサイズは、実施例1で用いたカプセルとバッフル板のサイズと同じとした。実施例1と同じ条件と方法により窒化物半導体結晶の製造を行った結果、実施例1と同様に、C面、M面いずれの種結晶上にも全面に均一に窒化ガリウム結晶が析出し、カプセル内壁には窒化ガリウムの微結晶が粒子状に付着した。実施例1と同じ方法により、カプセルをKOH水溶液に浸漬する処理を行ったところ、目視およびルーペによる観察では内壁に付着した微結晶は十分に除去されたことが確認され、カプセルは容易に再利用可能であることが確認された。
【0050】
<実施例3>
実施例3では、実施例1により窒化物半導体結晶の製造を1回行った後のカプセルと部材を用いて行った。実施例3で用いたカプセルの表面粗さ(Ra)は0.38μmであり、バッフル板の表面粗さ(Ra)は0.28μmであり、カプセルとバッフル板の表面には、全面にわたって厚みが10〜40μmのGa−Pt合金皮膜が形成されていた。また、実施例3で用いた種結晶支持枠の表面粗さ(Ra)は0.35μmであり、10〜40μmのGa−Pt合金皮膜が形成されていた。実施例3で用いたカプセル及びカプセル内で使用される部材の表面の総面積のうち、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmである面積の割合は99%であった。
実施例1と同じ条件と方法により窒化物半導体結晶の製造を行った結果、実施例1と同様に、C面、M面いずれの種結晶上にも全面に均一に窒化ガリウム結晶が析出し、カプセル内壁には窒化ガリウムの微結晶が粒子状に付着した。実施例1と同じ方法により、カプセルをKOH水溶液に浸漬する処理を行ったところ、目視およびルーペによる観察では内壁に付着した微結晶は十分に除去されたことが確認され、カプセルは容易に再利用可能であることが確認された。
【0051】
<比較例1>
カプセル内壁の表面粗さ(Ra)を3.10μmとした点だけを変更して、実施例1と同じ条件と方法により窒化物半導体結晶の製造を行うと、カプセル内壁には窒化ガリウムの粒状の微結晶が密集して付着する。付着する微結晶の量は実施例よりも多い。実施例1と同じ方法により、カプセルをKOH水溶液に浸漬する処理を行っても、窒化ガリウム微結晶は十分に除去されない。
【0052】
<比較例2>
カプセル内壁の表面粗さ(Ra)を0.06μmとした点だけを変更して、実施例1と同じ条件と方法により窒化物半導体結晶の製造を行うと、カプセル内壁には窒化ガリウムの微結晶が膜状に付着する。付着する微結晶の量は実施例と同等であるが個々の粒子が小さく密集している。実施例1と同じ方法により、カプセルをKOH水溶液に浸漬する処理を行っても、窒化ガリウム微結晶は十分に除去されない。
【0053】
<比較例3>
内壁の表面粗さ(Ra)が3.10μmであってW製のカプセルを用いた点を除いて、実施例1と同じ方法にしたがって窒化物半導体結晶の製造を行うと、カプセル内壁は比較的大きな粒状の結晶と微細な結晶が混合密集し付着する。付着する微結晶の量は実施例よりも多い。実施例1と同じ方法により、カプセルをKOH水溶液に浸漬する処理を行っても、充分に除去されておらずまだらに残存していた。
【0054】
<試験例1>
試験例1は、図2の結晶製造装置を用いて行った。
本試験例において、試験片を入れたオートクレーブ中にて種結晶上に窒化ガリウム半導体結晶を育成した後、試験片に付着した窒化ガリウム結晶の除去容易性を試験することにより、試験片と除去容易性の関係を検討した。
白金を内張りすることでライニングを行った、内寸が直径15mm、長さ154mmのInconel625製オートクレーブ1(内容積約27cm3)を用い、実験を行った。オートクレーブ1の内面2を十分に洗浄し乾燥した。試験片を支持するために使用する白金製ワイヤー、白金製育成枠、白金製バッフル板、白金メッシュ製原料カゴも同様に洗浄乾燥させた。窒化物結晶成長用の原料8として多結晶GaN粒子を用いた。12.98gを秤量し白金メッシュ製原料カゴに充填した。鉱化剤として十分に乾燥させた塩化アンモニウムの試薬を0.74g秤量し、白金メッシュ製原料カゴに多結晶GaN原料と一緒に充填した後、オートクレーブ下部の原料溶解領域9内に原料8として設置した。次にオートクレーブ下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域をほぼ2分する位置に白金製のバッフル板5を設置した。
【0055】
種結晶7とPt−Ir試験片15(0.5cm×1cm、表面粗さ(Ra):0.059μm、Ir含有率:20重量%)を結晶成長領域6に直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製支持枠に吊るた。オートクレーブの蓋を閉じてオートクレーブの計量を行った。次いで、オートクレーブに付属したバルブ10を介して導管を真空ポンプ11に通じるように操作し、バルブ10を開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスメタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブ10を閉じた。
次いで、導管がNH3ボンベ12に通じるように操作した後、再びバルブ10を開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブ1に充填した。その後、流量制御に基づき、17.5リットルのNH3を毎分2リットルの流量で充填した後、バルブ10を閉じた。NH3投入前後の重量変化を測定することにより、NH3の投入量が12.17gであることを確認した。
【0056】
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。12時間かけて昇温し、オートクレーブ下部溶液温度が540℃に、上部溶液温度が420℃になるようにオートクレーブ外壁温度を設定したのち、その温度でさらに96時間保持した。オートクレーブ外壁温度とオートクレーブ内部溶液温度との関係をあらかじめ実測して相関式を作成しておいた。オートクレーブ1内の圧力は約130MPaであった。
加熱終了後、オートクレーブ1の下部外面の温度が150℃になるまでプログラムコントローラーを用いておよそ8時間で降温した後、ヒーターによる加熱を止め、電気炉内で自然放冷した。オートクレーブ1の下部外面の温度がほぼ室温にまで降下したことを確認した後、まず、オートクレーブに付属したバルブを開放しオートクレーブ1内のNH3を取り除いた。次に真空ポンプでオートクレーブ1内のNH3を完全に除去した。その後、オートクレーブの蓋を開け内部から支持枠、バッフル板、原料カゴを取り出した。種結晶上には、GaN単結晶の成長が認められた。
【0057】
Pt−Ir試験片の表面には緻密な膜状に窒化ガリウム微結晶が付着していることが確認された。付着した微結晶を除去するため、濃度約45%のKOH水溶液を用い100〜120℃の温度にて浸漬した。1時間後KOH水溶液から取り出し、十分に水洗いをしてから試験片を観察した。その結果、窒化ガリウム微結晶は十分に除去されておらず、まだらに残存していた。
【0058】
<試験例2>
表面粗さ(Ra)が0.09μmであるPt−Ir試験片(サイズとIr含有率は試験例1と同じ)を用いて試験例1と同じ試験を行うと、試験片の表面には粒子状に窒化ガリウム微結晶が付着する。付着する微結晶の量は試験例1および下記の試験例3よりも少ない。試験例1と同じ方法により、試験片をKOH水溶液に浸漬する処理を行うと、試験片に付着した微結晶は十分に除去される。
【0059】
<試験例3>
表面粗さ(Ra)が3.10μmであるPt−Ir試験片(サイズとIr含有率は試験例1と同じ)を用いて試験例1と同じ試験を行うと、試験片の表面には比較的大きな粒状の結晶と微細な結晶が混合密集し付着する。試験例1と同じ方法により、試験片をKOH水溶液に浸漬する処理を行っても、試験片に付着した微結晶は十分に除去されず、まだらに残存する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、結晶育成後に反応容器の表面に付着した窒化物結晶を容易に除去することができる。このため、労力とコストを抑えながら、反応容器を窒化物半導体結晶の製造に繰り返して使用することができる。また、本発明によれば、原料効率よく窒化物半導体結晶を製造することができる。このため、本発明は窒化ガリウムなどの窒化物半導体結晶を効率良く工業的に有利に製造しうるものであり、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0061】
1 オートクレーブ
2 オートクレーブ内面
3 ライニング
4 ライニング内面
5 バッフル板
6 結晶成長領域
7 種結晶
8 原料
9 原料溶解領域
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメータ
15 試験片
20 カプセル
21 カプセル内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する方法であって、
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含み、且つ表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
反応容器内で超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶の成長を行い窒化物半導体結晶を製造する方法であって、
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであり、
該窒化物半導体結晶の成長をハロゲンを含有する鉱化剤を用いて行うことを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の総面積のうち、50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
該反応容器が、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmである表面を含む結晶成長領域を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金からなるカプセルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記反応容器がPtとIrを含む合金からなるカプセルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記合金のIr含有率が30重量%以下であることを特徴とする請求項6に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金でライニングされた内壁を有する耐圧性容器であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
内壁がPtとGaを含む合金でライニングされていることを特徴とする請求項8に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
内壁がIr又はIrを含む合金でライニングされていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
成長温度が500〜700℃であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
成長圧力が120〜700MPaであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項13】
少なくともフッ素を含む鉱化剤を用いることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項14】
少なくともフッ素と1以上のハロゲン元素を含む鉱化剤を用いることを特徴とすることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項15】
超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶を育成するための反応容器であって、
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の少なくとも一部が、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含み、且つ表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする反応容器。
【請求項16】
該反応容器内の空間に対して露出している、該反応容器及び該反応容器内で使用される部材の表面の総面積のうち、50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項15に記載の反応容器。
【請求項17】
該反応容器が、表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmである表面を含む結晶成長領域を有することを特徴とする請求項15または16に記載の反応容器。
【請求項18】
前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金からなるカプセルであることを特徴とする請求項15〜17のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項19】
前記反応容器がPtとIrを含む合金からなるカプセルであることを特徴とする請求項15〜18のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項20】
前記合金のIr含有率が30重量%以下であることを特徴とする請求項19に記載の反応容器。
【請求項21】
前記反応容器が、白金族金属又は白金族を含む合金でライニングされた内壁を有する耐圧性容器であることを特徴とする請求項15〜20のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項22】
内壁がPtとGaを含む合金でライニングされていることを特徴とする請求項21に記載の反応容器。
【請求項23】
内壁がIr又はIrを含む合金でライニングされていることを特徴とする請求項15〜21のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項24】
超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて窒化物半導体結晶を育成するための反応容器中に設置する部材であって、
該部材の表面の少なくとも一部が、Pt、Ir、Ag、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含み、且つ表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする部材。
【請求項25】
前記部材の表面の総面積のうち、50%以上の表面粗さ(Ra)が0.08μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項24に記載の部材。
【請求項26】
前記部材が白金族金属又は白金族を含む合金からなることを特徴とする請求項24または25に記載の部材。
【請求項27】
前記部材がPtとIrを含む合金からなることを特徴とする請求項24〜26のいずれか一項に記載の部材。
【請求項28】
前記合金のIr含有率が30重量%以下であることを特徴とする請求項27に記載の部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−250908(P2012−250908A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−124487(P2012−124487)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】