説明

窒化物結晶の製造方法および結晶製造装置

【課題】アモノサーマル法により窒化物結晶を成長させる際に、反応容器の破損を防いで再利用を可能にするとともに、品質が高い結晶が得られる窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、バルブを有する耐圧性容器内に該反応容器を設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気において窒化物結晶を成長させる。その際に、バルブを介して、前記反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶の製造方法、特に圧力調整工程を有する窒化物結晶の製造方法に関する。また本発明は、該製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニアなどの溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。
アモノサーマル法に用いられる結晶製造装置としては、例えば特許文献1に開示されるように、反応容器を耐圧性容器内に配置した状態で、反応容器内で種結晶上に目的とする単結晶を析出させるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−263229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アモノサーマル法においては、結晶成長を行うために反応容器内のアンモニア溶媒が超臨界状態となるまで昇温・昇圧する。ここで、特許文献1に記載されているような内筒方式の反応容器を使用する場合には、反応容器内と反応容器の外側との間で圧力が略等しくなるように調節する必要がある。これは、反応容器内外での圧力が異なると、反応容器が潰れたり、破裂したりして、破損する可能性が高いからである。
従来の内筒容器を使用したアモノサーマル法では、反応容器内外の圧力バランスを保つための調整は極めて難しく、実際に運用することが難しかった。また、結晶成長中には圧力バランスが取れていたとしても結晶の取り出しまでの過程で反応容器が破損してしまうと繰返し使用ができなかったり、反応容器が潰れた場合には成長した結晶にダメージが及んだり、結晶を取り出すことができないなどの問題もあった。
本発明者らの検討では、反応容器の外側の圧力が上昇しやすく、その結果、反応容器内外での圧力バランスが崩れやすくなるとの課題を見出した。特に、結晶成長終了後に耐圧性容器内を冷却する場合など温度が変化する過程においては、圧力バランスが崩れやすく、この調整をするのが困難であることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、バルブを有する耐圧性容器を使用し、該バルブを介して反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整することにより、容易に反応容器内外の圧力バランスを保つことができることを見出した。また、反応容器を破損させることなく結晶を得ることができるため、反応容器を複数回用いることができ、さらに良質な窒化物結晶を得ることができることにより、生産性向上に大きな効果があることを見出し本発明に到達した。
【0006】
すなわち、上記の課題は、以下の本発明の窒化物結晶の製造方法により解決される。
[1]反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、バルブを有する耐圧性容器内に該反応容器を設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行う窒化物結晶の製造方法であって、
該バルブを介して、前記反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整する圧力調整工程を含むことを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
[2]前記第二溶媒がアンモニア溶媒である、[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3]前記圧力調整工程において、前記バルブを介して前記反応容器の外側の圧力を下げる、[1]または[2]に記載の窒化物結晶製造方法。
[4]前記耐圧性容器の内壁が少なくともNi又はCrを含む金属からなる、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[5]前記反応容器が、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなる、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[6]前記バルブが2つ以上であって、少なくとも2つのバルブが直列に設置されている、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[7]耐圧性容器内の温度低下時に、下記(1)〜(4)の操作を繰り返して行う、[6]に記載の窒化物結晶の製造方法。
(1)耐圧性容器に遠い位置に設置されている第二バルブを閉じたまま、耐圧性容器
に近い位置に設置されている第一バルブを開くことにより、第一バルブと第二
バルブの間に耐圧性容器内のガスを導入し
(2)次いで、第一バルブを閉じ、
(3)さらに、第二バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填されたガス
を第二バルブを通して排出し、
(4)第二バルブを閉じる。
[8]耐圧性容器内の温度上昇時に、下記(A)〜(D)の操作を繰り返して行う、[6]に記載の窒化物結晶の製造方法。
(A)耐圧性容器に近い位置に設置されている第一バルブを閉じたまま、耐圧性容器
に遠い位置に設置されている第二バルブを開くことにより、第一バルブと第二
バルブの間に高圧の第二溶媒を導入し
(B)次いで、第二バルブを閉じ、
(C)さらに、第一バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填された第二
溶媒を第二バルブを通して耐圧性容器内に導入し、
(D)第一バルブを閉じる。
[9]耐圧性容器内の温度と圧力をモニタリングしながら、前記反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるようにするように調整する、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[10]前記圧力調整工程を結晶成長終了後に行う、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[11]反応容器内のアンモニウム溶媒が超臨界および/または亜臨界の状態で、前記圧力調整工程を行う、[1]〜[10]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[12]前記反応容器内の圧力が結晶成長時の圧力よりも50MPa以上低下したした後に、前記圧力調整工程を行う、[1]〜[11]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[13]バルブを2つ以上有し、前記バルブの少なくとも2つのバルブが直列に設置されている耐圧性容器を有する窒化物結晶の結晶製造装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、容易に反応容器内外の圧力バランスを保つことができ、品質の高い窒化物結晶を得ることができる。また、反応容器を複数回用いることができ、生産性向上に大きな効果がある。
また、本発明の窒化物結晶は均一で高品質であるために、発光デバイスや電子デバイス用の半導体結晶等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の半導体結晶の製造方法、およびそれに用いる結晶製造装置や部材について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本発明の窒化物結晶の製造方法は、反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、バルブを有する耐圧性容器内に該反応容器を設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行う窒化物結晶の製造方法であって、該バルブを介して、前記反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整する圧力調整工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の結晶製造方法で得られる結晶は窒化物単結晶であれば特に限定されないが、例えばIII族窒化物結晶が好ましく、中でも窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などがより好ましい。本明細書においては、窒化ガリウム(GaN)を例として説明するが、本発明の製造方法はこれに限られるものではない。
【0012】
本発明における反応容器中で超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行う場合の結晶成長の条件としては、例えばGaNであれば特開2009−263229号公報に開示されているような原料、鉱化剤、種結晶、溶媒、温度、圧力などの条件を好ましく用いることができる。また、本製造方法に用いる結晶製造装置、及び具体的な手順においても、特開2009−263229号公報に開示されている方法を好ましく用いることができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0013】
具体的に、種結晶、鉱化剤、原料、溶媒、温度、圧力について以下に説明する。
結晶成長では結晶成長の核として種結晶を用いることが好ましい。種結晶としては、特に限定されないが、成長させる結晶と同種のものが好ましく用いられる。前記種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)またはこれらの混晶等の窒化物単結晶が挙げられる。
前記種結晶は、成長させる結晶との格子整合性などを考慮して決定することができる。例えば、種結晶としては、サファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、Gaなどの金属からNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、液相エピタキシ法(LPE法)を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、溶液成長法に基づき作製された単結晶及びそれらを切断した結晶などを用いることができる。前記エピタキシャル成長の具体的な方法については特に制限されず、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、液相法、アモノサーマル法などを採用することができる。
【0014】
本発明の結晶成長では、鉱化剤を用いることが好ましい。アンモニアなどの窒素を含有する溶媒に対する結晶原料の溶解度が高くないために、溶解度を向上させるために鉱化剤を用いる。
用いる鉱化剤は、塩基性鉱化剤であっても、酸性鉱化剤であってもよい。塩基性鉱化剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属と窒素原子を含む化合物で、アルカリ土類金属アミド、希土類アミド、窒化アルカリ金属、窒化アルカリ土類金属、アジド化合物、その他ヒドラジン類の塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属アミドで、具体例としてはナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)が挙げられる。また、酸性鉱化剤としては、ハロゲン元素を含む化合物が好ましい。ハロゲン元素を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、及びハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化金属等が例示される。このうち、好ましくはハロゲン元素を含む添加物(鉱化剤)であるハロゲン化アルカリ、アルカリ土類金属のハロゲン化物、金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウム、周期表13族金属のハロゲン化物、ハロゲン化水素であり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化水素である。ハロゲン化アンモニウムとしては、例えば塩化アンモニウム(NH4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、フッ化アンモニウム(NH4F)である。
【0015】
前記鉱化剤として、フッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つとを含む鉱化剤を用いることが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、複数種を適宜混合して用いてもよい。
前記鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせは、塩素とフッ素、臭素とフッ素、ヨウ素とフッ素といった2元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とフッ素、塩素とヨウ素とフッ素、臭素とヨウ素とフッ素といった3元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とヨウ素とフッ素といった4元素の組み合わせであってもよい。本発明で用いる鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせと濃度比(モル濃度比)は、成長させようとしている窒化物結晶の種類や形状やサイズ、種結晶の種類や形状やサイズ、使用する反応装置、採用する温度条件や圧力条件などにより、適宜決定することができる。
【0016】
前記結晶成長では、ハロゲン元素を含む鉱化剤とともに、ハロゲン元素を含まない鉱化剤を用いることも可能であり、例えばNaNH2やKNH2やLiNH2などのアルカリ金属アミドと組み合わせて用いることもできる。ハロゲン化アンモニウムなどのハロゲン元素含有鉱化剤とアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いる場合は、ハロゲン元素含有鉱化剤の使用量を多くすることが好ましい。具体的には、ハロゲン元素含有鉱化剤100質量部に対して、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を0.01質量部以上とすることが好ましく、0.1質量部以上とすることがより好ましく、0.2質量部以上とすることがさらに好ましく、また、50質量部以下とすることが好ましく、20質量部以下とすることがより好ましく、5質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0017】
前記結晶成長で成長させる窒化物結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用することができる。前記鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。
前記鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
なお、前記結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
【0018】
鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎるため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0019】
本発明の結晶成長においては、種結晶上に成長させようとしている半導体結晶を構成する元素を含む原料を用いる。例えば、周期表13族金属の窒化物結晶を成長させようとする場合は、周期表13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料及び/又は13族金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又は金属ガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0020】
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0021】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0022】
結晶成長に用いられる第一溶媒であるアンモニア溶媒は、溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましい。具体的には、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0023】
結晶成長においては、全体を加熱して反応容器内を含めて耐圧性容器内全体を超臨界状態および/または亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0024】
超臨界条件では、半導体結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。半導体結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は結晶性および生産性の観点から、120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は安全性の観点から、700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及び自由容積の存在によって多少異なる。
【0025】
反応容器内の温度範囲は、結晶性および生産性の観点から、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、安全性の観点から、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明の窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。原料溶解領域と結晶成長領域との温度差(|ΔT|)は、結晶性および生産性の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0026】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及び種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上とし、また、通常95%以下、好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下とする。
【0027】
反応容器内での半導体結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態および/または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、及び/又は外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。通常は、原料溶解領域の温度と結晶成長領域の温度の平均値を平均温度とする。
【0028】
本発明の半導体結晶の製造方法においては、種結晶に前処理を加えておくことができる。前記前処理としては、例えば、種結晶にメルトバック処理を施したり、種結晶の成長面を研磨したり、種結晶を洗浄するなどが挙げられる。
【0029】
所定の温度に達した後の反応時間については、半導体結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温又は降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0030】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常−80℃以上、好ましくは−33℃以上であり、また、通常200℃以下、好ましくは100℃以下である。ここで、反応容器に接続したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0031】
耐圧性容器は高温環境での強度に優れた材料からなることが必要であり、その内壁がNi又はCrを含む金属からなることが好ましい。
反応容器はアンモニア溶媒や鉱化剤などに対する耐腐食性に優れた材料からなることが必要であり、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなることが好ましい。ここでいう該金属を主成分とする合金とは、合金におけるRh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWの合計含有量が合金の全重量の50%以上であることを意味し、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。反応容器は、上記金属群のうち、少なくともIr,PtまたはTaを含むことが好ましく、少なくともIrまたはPtを含むことがより好ましい。
【0032】
本発明に用いる耐圧性容器は、反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整するために、少なくとも1つ以上のバルブを有する。バルブの数は特に限定されないが、圧力調整工程を安全で効果的に実施するために2つ以上のバルブを有することが好ましい。また、バルブが配置される位置は特に限定されず、複数のバルブが直列に配置されてもよいし、並列に配置されていてもよい。圧力調整工程を安全で効果的に実施できることから、少なくとも2つのバルブが直列に配置されていることが好ましい。
【0033】
図1に、本発明の結晶製造装置の例を示す。耐圧性容器1に導管13、第一バルブ9a、第二バルブ9b、排気管14が順に接続され、バルブを開けることにより、耐圧製容器中のガスを結晶装置外に排気できる。排気管14の途中には、マスフローメーター15を設置してガス量をモニターしながらガスを排気してもよい。また、排気したガスはスクラバー等の除害設備に接続してもよい。
【0034】
本発明で反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒は、反応容器の内側と外側をほぼ等しい圧力にすることができる溶媒であればその種類は限定されない。そのような第二溶媒としては、例えば、アンモニア溶媒、水、アルコール、二酸化炭素などを用いることができる。反応容器の内側と外側の圧力差を小さくするためには、第二溶媒は、反応容器の溶媒として用いられるアンモニア溶媒と性質の近い(つまり内容積一定条件において充填率と温度−圧力の関係がアンモニアの温度−圧力変化に近い)溶媒であることが好ましく、アンモニア溶媒を用いることが特に好ましい。その理由は、性質の近い溶媒を用いると、原料の溶解析出によって結晶成長反応を行うために温度を上げたとき、特に昇温過程において、反応容器の内側と外側の圧力をほぼ同じに保つことが容易になるからである。通常、反応容器の内側と外側には同質の溶媒を用い、空隙に対する充填率をそれぞれほぼ同じにすることが好ましい。より厳密には加熱炉のデザイン、耐圧性容器内の反応容器の配置などにより、反応容器内と反応容器外のアンモニア溶媒の温度が異なることがあるため、それぞれの温度に合わせて充填率を変化させ反応容器内と反応容器外との圧力がほぼ同じになるようにすることがより好ましい。
【0035】
反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒がアンモニア溶媒である場合、該アンモニア溶媒は原料等と直接触れることはないので、不純物等の物性に関しては特に問題とならないが、反応容器内のアンモニア溶媒と反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填されるアンモニア溶媒の物理的な物性をほぼ等しくするためには、アンモニア溶媒に含まれる水や酸素の量をできるだけ少なくすることが望ましい。水と酸素の合計含有量は、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。水や酸素量をできるだけ少なくすることは、耐圧性容器の腐食を抑制する観点からも有効である。
【0036】
本発明の製造方法における圧力調整工程は、反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整することができれば、具体的な方法は特に限定されない。例えば、反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒を排出して圧力を下げたり、補充して圧力を上げたりすることが挙げられる。
第二溶媒を排出して圧力を下げる操作は、反応容器内の圧力に比べて反応容器と耐圧性容器の間の空隙の圧力が高いときに行う。例えば、窒化物結晶の成長が終わって耐圧性容器内の温度が低下する際にこのような状態が生じやすい。あるいは、窒化物結晶の成長中において反応速度を制御するために耐圧性容器内の温度を低下させる際にも、このような状態が生じることがある。第二溶媒を排出して圧力を下げる操作は、耐圧性容器内の温度と圧力をモニタリングしながら、バルブを開くタイミングを調整することにより行うことが好ましい。直列に配置された2つのバルブを用いて調整する場合は、下記(1)〜(4)の操作を繰り返して行うことが好ましい。単位時間内に(1)〜(4)を繰り返す回数を調整することによって、圧力降下の速度を調整することが可能である。圧力降下の速度を速くしたい場合は、単位時間内に(1)〜(4)を繰り返す回数を多くし、圧力降下の速度を遅くしたい場合は、単位時間内に(1)〜(4)を繰り返す回数を減らすように調整する。
(1)耐圧性容器に遠い位置に設置されている第二バルブを閉じたまま、耐圧性容器
に近い位置に設置されている第一バルブを開くことにより、第一バルブと第二
バルブの間に耐圧性容器内のガスを導入し
(2)次いで、第一バルブを閉じ、
(3)さらに、第二バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填されたガス
を第二バルブを通して排出し、
(4)第二バルブを閉じる。
【0037】
第二溶媒を補充して圧力を上げる操作は、反応容器内の圧力に比べて反応容器と耐圧性容器の間の空隙の圧力が低いときに行う。例えば、窒化物結晶の成長を開始するために耐圧性容器内の温度を上昇させる際にこのような状態が生じやすい。あるいは、窒化物結晶の成長中において反応速度を制御するために耐圧性容器内の温度を上昇させる際にも、このような状態が生じることがある。第二溶媒を排出して圧力を上げる操作も、耐圧性容器内の温度と圧力をモニタリングしながら、バルブを開くタイミングを調整することにより行うことが好ましい。直列に配置された2つのバルブを用いて調整する場合は、下記(A)〜(D)の操作を繰り返して行うことが好ましい。単位時間内に(A)〜(D)を繰り返す回数を調整することによって、圧力降下の速度を調整することが可能である。圧力上昇の速度を速くしたい場合は、単位時間内に(A)〜(D)を繰り返す回数を多くし、圧力上昇の速度を遅くしたい場合は、単位時間内に(A)〜(D)を繰り返す回数を減らすように調整する。
(A)耐圧性容器に近い位置に設置されている第一バルブを閉じたまま、耐圧性容器
に遠い位置に設置されている第二バルブを開くことにより、第一バルブと第二
バルブの間に高圧の第二溶媒を導入し
(B)次いで、第二バルブを閉じ、
(C)さらに、第一バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填された第二
溶媒を第二バルブを通して耐圧性容器内に導入し、
(D)第一バルブを閉じる。
【0038】
直列に配置された2つのバルブを使用する場合は、第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を調整することによって、1度のバルブ開閉による圧力調整の程度を制御することができる。第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を大きくすれば、1度のバルブ開閉により調整される圧力の幅が大きくなるため、バルブ開閉の操作回数を少なくすることが可能である。第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を小さくすれば、1度のバルブ開閉により調整される圧力の幅が小さくなるため、圧力変化による反応容器への衝撃を小さくすることが可能である。概して、第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積は、反応容器と耐圧性容器の間の空隙の容積の0.01〜0.5%とすることが好ましく、0.02〜0.4%とすることがより好ましく、0.03〜0.3%とすることがさらに好ましい。第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を大きくしたい場合は、第一バルブと第二バルブの間に一時的にガスを溜めるためのチャンバ-を設けてもよい。
【0039】
本発明者らの検討においては、耐圧性容器及び反応容器に用いる材料として特定のものを用いた場合に、特に反応容器の外側の圧力が上昇しやすく、その結果、反応容器内外での圧力バランスが崩れやすくなるとの課題を見出すに至った。この要因については明らかではないが、要因のひとつとして次のようなことが考えられる。一般的に、反応容器としては、Ptなどの貴金属といった耐腐食性に優れた材料を用いるのに対して、耐圧性容器としてはNi,Crなどを含む高温環境での強度に優れた材料を用いる。つまり、反応容器の内側のアンモニア溶媒は貴金属しか接していないが、反応容器の外側のアンモニア溶媒は貴金属以外にNi,Cr等のアンモニア分解を促進させ得る金属に接している。よって、結晶成長反応を行うために温度を上げたときに、反応容器の外側のアンモニア溶媒の分解が促進して微量の窒素と水素になることにより、圧力が上昇してしまうことが考えられる。このような場合に、前記バルブを介して前記反応容器の外側の圧力を下げることが好ましい。
【0040】
上記の場合以外にも、反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒としてアンモニア溶媒以外を用いる場合や、溶媒中の鉱化剤の有無など、反応容器の内側と外側では溶媒の条件が種々異なることから、結晶成長反応を行うために温度が変化した場合の溶媒の挙動が反応容器内外で異なり、圧力バランスが崩れやすくなる。これらの要因に併せて、前記バルブを介して前記反応容器の外側の圧力を調整することによって、容易に圧力バランスを保つことが可能になる。
ここで、反応容器の外側と内側の圧力差を小さくする操作は、2つの圧力が略同一になるように調整する操作であることが好ましく、2つの圧力が全く同一になるように調整する操作であることがもっとも好ましいが、本発明の効果を十分に発揮できればよい。
【0041】
本発明の実施に際しては、結晶成長工程前後での内筒の変形率から反応容器の外側の圧力と反応容器の内側の圧力が略同一である条件を見出すことができる。ここでいう内筒の変形率は、反応前の内筒の内容積をV0とし、反応後の内筒の内容積をV1としたときに、[(V0−V1)/V0]×100で計算される(単位:%)。変形率は±1.5%以下であることが好ましく、より好ましくは±1%以下となるように、さらに好ましくは±0.8%以下となるように前記反応容器外側の圧力を調整する。
【0042】
本発明の製造方法において圧力調整工程を実施する時期は特に限定されないが、耐圧性容器内の温度及び圧力が変化する過程において実施するのが好ましい。具体的には、例えば、結晶成長中であって成長温度を変化させる前後に行うこと、結晶成長終了後の冷却中に行うことなどが挙げられる。さらに結晶成長終了後に行う場合には、反応容器内のアンモニア溶媒が超臨界および/または亜臨界の状態である間に行うことが好ましい。また、反応容器内の圧力が結晶成長時の圧力よりも50MPa以上低下したした後に行うことも、作業の安全性を高める点で好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0044】
<実施例1>
図1に示す結晶製造装置を用いてアモノサーマル法にてGaN結晶の製造を行った。ここでは、内寸が直径30mm、長さが450mmのRENE41製オートレーブ1を耐圧性容器として使用し、内寸が直径25mm、長さが300mm、壁面厚が0.5mmのPt−Ir合金製の筒状容器を内筒2として使用した。内筒2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3をした状態で、オートクレーブ1と内筒2との間には第二溶媒を充填することができる空隙(オートクレーブ内容積−内筒容積)が約70cm3存在していた。
十分に乾燥した窒素雰囲気グローブボックス内にて多結晶GaN粒子を、内筒の下部領域(原料溶解領域)内に原料5として設置した。さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に白金製のバッフル板6(開口率20%)を設置した。種結晶4としてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶(10mmx5mmx0.3mm)4枚とHVPE法によって自発核生成した粒子状結晶(約5mm×5mm×5mm)2個を用いた。これら種結晶4を直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製種子結晶支持枠に吊るし、内筒上部の結晶成長領域に設置した。真空ポンプを用いて内筒内を真空脱気して、内筒内を窒素ガスにて5回パージした後、鉱化剤としてHClガスをアンモニアに対する濃度が3mol%になるように液体窒素温度にて充填した。次にNH3を内筒の有効容積の約58%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、内筒を密封した。
【0045】
内筒2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3を閉じた。オートクレーブ内を真空脱気して窒素ガスパージを複数回行った後、第二溶媒としてNH3をオートクレーブ内に充填した。このとき、NH3をオートクレーブと内筒の空隙の約60%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した。
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーター11,12で構成された電気炉内に収納した。熱電対16で測定したオートクレーブ外表面の結晶成長領域の温度が595℃、熱電対17で測定した原料溶解領域の温度が625℃(温度差30℃:平均温度610℃)になるように9時間かけて昇温し、設定温度に達した後、その温度にて4日間保持した。オートクレーブ内の圧力は236MPaであった。
【0046】
その後、反応容器の温度を400℃まで低下させたところ、温度低下に伴い内筒内およびオートクレーブ内の圧力も低下した。オートクレーブ内の温度が400℃、圧力が146MPaに到達した時点から、以下の通りバルブの開閉によりオートクレーブ内(内筒の外側)のガス抜きを行い、圧力調整工程を行った。
オートクレーブには二個のバルブが設置されており、これらのバルブは直列に接続され、オートクレーブに近い側から第一バルブ9a、第二バルブ9bとする。第一バルブと第二バルブを閉じたときの第一バルブと第二バルブの間の閉鎖空間の容積は約0.2cm3である。結晶成長時には閉じていた両バルブのうち、まず第一バルブ9aを開いた。このとき圧力センサー8の読みにより圧力の低下量を確認した。次に、第一バルブ9aを閉じてから第二バルブ9bを開き、第一バルブ9aと第二バルブ9bの間に充填されたガスを、オートクレーブ外へ放出した。完全にガスを放出した後に第二バルブ9bを閉じた。本操作を複数回繰り返し、ガスを抜いた。ガスが放出されていることは25℃の水を入れたバブラー(図示せず)により確認された。オートクレーブ内に充填されていたアンモニアガスは水の中に速やかに溶解するが、アンモニアが分解されることにより生成する窒素および水素は、溶解せずにバブルが観察される。よって、ガス抜きにより放出されたガスの少なくとも一部は、窒素および/または水素であることが確認された。
【0047】
ガス抜き作業を行う間、オートクレーブは送風機によって冷却した。20回のバルブによるガス抜き操作により46MPaの圧力を低下させた。その後、バルブの開閉を調節しガス放出量を直径5mm程度のバブルが1秒間に数個から数十個程度となるように設定し、送風機で冷却しながら連続的にガス抜きを継続した。ガス放出量はオートクレーブ冷却速度に合わせてバルブにより適宜調整し、内筒内の温度から求められる計算上の内筒内圧力とモニターしている内筒外圧力(オートクレーブ内壁と内筒外壁との間の空隙の圧力)がバランスするようにした。
内筒外のアンモニア以外のガス成分の放出がほぼ完了すると、バブラーで発生していたバブルは微少になり、アンモニアが主成分になったことが確認できた。ここでガス抜き作業を終了した。その後室温まで自然冷却した。
【0048】
オートクレーブ内の残存圧は2MPa以下であった。アンモニアの蒸気圧は室温で約1MPaであることから、アンモニア以外のガス成分による分圧が低減したことが確認できた。残存しているオートクレーブ内のアンモニアを、バルブを開けて放出した後に、オートクレーブの蓋を開けて内筒を取り出した。その結果、内筒の変形は、内筒の下半分(原料域)にわずかに見られたが、再利用に問題のない程度であった。内筒の変形率としては、結晶成長前の内筒の体積(内容積)よりも0.5%収縮していた。
表1に実施例、比較例の結晶成長およびガス抜き条件を示した。
【0049】
<実施例2>
表1に記載されるように条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にして結晶成長およびガス抜きを行った。
残存圧は2MPa以下であった。残存しているオートクレーブ内のアンモニアを、バルブを開けて放出した後に、オートクレーブの蓋を開けて内筒を取り出した。その結果、内筒の変形は、内筒の下半分(原料域)にわずかに見られたが、再利用に問題のない程度であった。内筒の変形率としては、結晶成長前の内筒の体積よりも0.7%収縮していた。
【0050】
<実施例3>
表1に記載されるように条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にして結晶成長およびガス抜きを行った。
残存圧は2MPa以下であった。残存しているオートクレーブ内のアンモニアを、バルブを開けて放出した後に、オートクレーブの蓋を開けて内筒を取り出した。その結果、内筒の変形は、内筒の下半分(原料域)にわずかに見られたが、再利用に問題のない程度であった。内筒の変形率としては、結晶成長前の内筒の体積よりも0.4%収縮していた。
【0051】
<比較例1>
表1に記載されるように条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にして結晶成長した。その後、自然冷却により室温まで冷却した。
このときの残存圧力は9MPaであった。オートクレーブ内(内筒の外側)のアンモニアおよびアンモニアが分解されて生じたガスを、バルブを開けてオートクレーブ外へ放出した後、オートクレーブを開けて内筒を取り出した。
その結果、内筒は育成域、原料域全体にわたり潰れており、内筒の体積の変形率は3%の収縮であった。
【0052】
<比較例2>
オートクレーブ内にNH3をオートクレーブの内の有効容積の約58%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)し、内筒を用いずにアンモニアの熱分解による残存圧力の確認を行った。表1に示した温度、圧力で24時間維持した後、自然冷却により室温まで冷却した。
その結果、残存圧力が14.5MPaあることが確認された。オートクレーブ内(内筒の外側)の残存圧を抜くためにバブラーを通してガスを放出したところ、水に溶解しないガス成分が大量にバブルを発生させたことから、オートクレーブ内のガスはアンモニアが熱分解されて生成した窒素および水素であることが類推された。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、周期表第一3族元素の窒化物の塊状単結晶、とりわけGaNの塊状単結晶の育成に有用である。本発明の製造方法によれば容易に反応容器内外の圧力バランスを保つことができ、品質の高い窒化物結晶を得ることができる。さらに反応容器を複数回用いることが可能であり、時間とコストの両面において大幅な改善が期待できる。よって、本発明は産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0055】
1 耐圧性容器(オートクレーブ)
2 内筒
3 オートクレーブ蓋
4 種結晶
5 原料
6 バッフル板
8 圧力センサー
9a 第一バルブ
9b 第二バルブ
10 保温材
11 成長域(結晶成長領域)ヒーター
12 原料域(原料溶解領域)ヒーター
13 導管
14 排気管
15 マスフローメーター
16 熱電対1
17 熱電対2
18 破裂板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、バルブを有する耐圧性容器内に該反応容器を設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行う窒化物結晶の製造方法であって、
該バルブを介して、前記反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整する圧力調整工程を含むことを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第二溶媒がアンモニア溶媒である、請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記圧力調整工程において、前記バルブを介して前記反応容器の外側の圧力を下げる、請求項1または2に記載の窒化物結晶製造方法。
【請求項4】
前記耐圧性容器の内壁が少なくともNi又はCrを含む金属からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記反応容器が、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記バルブが2つ以上であって、少なくとも2つのバルブが直列に設置されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
耐圧性容器内の温度低下時に、下記(1)〜(4)の操作を繰り返して行う、請求項6に記載の窒化物結晶の製造方法。
(1)耐圧性容器に遠い位置に設置されている第二バルブを閉じたまま、耐圧性容器
に近い位置に設置されている第一バルブを開くことにより、第一バルブと第二
バルブの間に耐圧性容器内のガスを導入し
(2)次いで、第一バルブを閉じ、
(3)さらに、第二バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填されたガス
を第二バルブを通して排出し、
(4)第二バルブを閉じる。
【請求項8】
耐圧性容器内の温度上昇時に、下記(A)〜(D)の操作を繰り返して行う、請求項6に記載の窒化物結晶の製造方法。
(A)耐圧性容器に近い位置に設置されている第一バルブを閉じたまま、耐圧性容器
に遠い位置に設置されている第二バルブを開くことにより、第一バルブと第二
バルブの間に高圧の第二溶媒を導入し
(B)次いで、第二バルブを閉じ、
(C)さらに、第一バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填された第二
溶媒を第二バルブを通して耐圧性容器内に導入し、
(D)第一バルブを閉じる。
【請求項9】
耐圧性容器内の温度と圧力をモニタリングしながら、前記反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
前記圧力調整工程を結晶成長終了後に行う、請求項1〜9のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項11】
反応容器内のアンモニウム溶媒が超臨界および/または亜臨界の状態で、前記圧力調整工程を行う、請求項1〜10のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項12】
前記反応容器内の圧力が結晶成長時の圧力よりも50MPa以上低下したした後に、前記圧力調整工程を行う、請求項1〜11のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項13】
バルブを2つ以上有し、前記バルブの少なくとも2つのバルブが直列に設置されている耐圧性容器を有する窒化物結晶の結晶製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−136423(P2012−136423A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283116(P2011−283116)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】