説明

窒素含有化合物の検知方法および装置

【課題】窒素以外の元素からのガンマ線を低減ないしは除去することができる、中性子探知法による窒素含有化合物の検知方法および装置の提供。
【解決手段】被検知領域に中性子を照射し、低密度のシンチレータおよび光電子増倍管を備える第1の検出器により被検知領域からのガンマ線を測定し、第1の検出器に連接し、複数層からなるガス式ドリフトチェンバーを備える荷電粒子二次元位置検出器により第1の検出器を透過した荷電粒子を測定し、低密度のシンチレータおよび光電子増倍管を備える第2の検出器により電子・陽電子を測定し、第1および第2の検出器から同時に信号が検出された場合において、荷電粒子二次元位置検出器に荷電粒子の2つの飛跡が検出され、且つ、当該2つの飛跡が所定の角度を構成する場合には、対生成反応が生じたと判定し、当該2つの飛跡から窒素に起因するガンマ線の入射方向を算出する窒素含有化合物の検知方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子を利用した窒素含有化合物の検知方法および装置に関し、例えば、10.8MeVガンマ線による対生成反応を利用したガンマ線(γ線)飛来方向測定原理に基づく地雷等の爆薬物検知方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地雷探知の手法としては、金属探知法によるものやレーダー探知法によるものが知られている。
金属探知法では、土壌に金属類を多く含む場合には誤探知が多いという問題があり、しかも、近年の対人地雷は、プラスチックや木製容器で覆われているものが多いため、探知精度は極めて低い。金属探知法による地雷の発見率は、500〜1000回に1回程度、有人による探知はせいぜい1日当たり1平方メートルとも言われている。
レーダー探知法は、地中に対して電波を送信し、送信された電波の反射波を受信して埋設物の探査を行うレーダー探査装置により行われる(例えば、特許文献1)。しかしながら、レーダー探知法では、対人地雷と似た形の石や異物が埋まっている場合には判別が困難であるという問題や、土壌に含まれる水分による影響を受けやすいという問題がある。
金属探知とレーダー探知を併用した探知器も提言されている(特許文献2)。
【0003】
近年、物質の透過力が強い中性子を利用することにより、地雷の火薬成分そのものを土壌と識別する地雷探知法が提言されるようになった。自然界には地雷のような形以外では土壌中において窒素が高い数密度で存在することは無いことを利用した探知法であり、可搬型中性子源からの中性子を熱化させ、地雷爆薬中の窒素に照射することで、その爆薬中からN(n,γ)反応によって放出される10.8MeVガンマ線を測定することで地中の地雷探知を行う。中性子捕獲反応により放出されるガンマ線のエネルギーが、元素によって決まっていることを利用した探知法である(非特許文献1参照)。より詳細には、爆薬中の窒素に中性子を照射し、その際に下記一般式[I]で表される中性子捕獲反応により生成した10.8MeVガンマ線をガンマ線検出器で測定することにより行う。
【数1】

【0004】
また、可搬型の強力なDD核融合中性子源が開発されたことで、新たな原理による地雷探知法(以下では「中性子探知法」という。)が実現段階に近づいている。図1は、可般型の中性子源を用いた地雷探知方法の概念図である。中性子探知法によれば、地雷の位置を把握することも可能である。
地雷探知に適した中性子束を得ることができる核融合中性子源としては、特許文献3および4に開示されるものがある。因みに、現在は、10n/sの2.45MeV中性子を生成することも実現されている。
【0005】
爆発物や禁制薬物の構成元素(例えば、炭素、酸素、窒素など)の元素含有量が、他の物質と差別化できることから、これらの元素の含有量を測定することで、爆発物や禁制薬物を検知する搬送装置としては、例えば、特許文献5に開示されるものがある。
【特許文献1】特開2006−250451号公報
【特許文献2】特開2002−303680号公報
【特許文献3】特開2004−311152
【特許文献4】特開2005−291853号公報
【特許文献5】特開2005−337764号公報
【非特許文献1】M. A Lone, R. A. Leavitt, D.A. Harrison: "Prompt Gamma Rays from Thermal Neutron Captire", Atomic Data and Nuclear Data Tables, 26, 511(1981).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中性子探知法においては、土壌中の窒素以外の元素からもガンマ線が生成されるため、危険物の位置を測定するためには、窒素以外の元素からのガンマ線を低減ないしは除去することが重要となる。しかしながら、これまでは、窒素以外の元素からのガンマ線を低減ないしは除去することは困難であり、膨大な量のデータの収集と長時間の分析作業が必要であった。
【0007】
ところで、対生成反応を利用したガンマ線検出器としては、コンプトン型シンチレーション検出器と、人工衛星GLASTに搭載されたLAT検出器が知られている。
コンプトン型シンチレーション検出器は、ガンマ線をロッド上のBGOシンチレータを積み重ねて構成したコンプトン方式の検出器により検出するものである。図2はコンプトンカメラの原理を示したものである。シンチレータS1に入射したガンマ線4は、シンチレータS1内でコンプトン散乱を起こす。コンプトン散乱によりシンチレータS1内でエネルギーE1を付与したガンマ線4が、シンチレータS2で相互作用して全エネルギーE2を付与した場合、下記の式2に基づきガンマ線4の散乱場所とエネルギーの関係から、入射ガンマ線4の方向がコーン状(イベントリング)に制限でき、複数のガンマ線4についてイベントリングの交点を求めることにより(図2b参照)、ガンマ線源の位置および各ガンマ線の入射エネルギーを算出することができる。
【数2】

【0008】
しかし、従来のコンプトン型シンチレーション検出器では、円錐状の領域の範囲にあることしか探知できなかったため、信頼できる精度で窒素に起因するガンマ線のみを抽出するためには、膨大な量のデータを収集する必要があった。
【0009】
また、コンプトン方式では円錐状の入射軸不定性や検出器内での多重散乱などの原理的な問題があり、他の元素からのバックグラウンドを除去するのに原理的に大きな困難を伴っている。すなわち、イベントリングの重ね合わせによる位置不定性が生じる誤差を避けられず、しかも入射エネルギーが10.8MeVと高い場合には、複雑な多重散乱や検出器外へ抜け出すイベントが非常に多いという問題がある。図3に示すように、ガンマ線と電子との衝突により、ガンマ線のエネルギーの一部を電子に与えて、波長が変化するコンプトン散乱(多重散乱)が生ずるが、コンプトン電子がガンマ線検出器外ヘエスケープしてしまうという問題があった。
【0010】
LAT検出器は、図4に示す構成であり、10GeV〜100GeVの高エネルギーのガンマ線を検出することができる。荷電粒子飛跡測定部は、18層の数百ミクロン幅の細い電極を沢山並べたシリコン検出器(シリコンストリップ検出器)とタングステンのシートで構成されており、エネルギーを測定する電磁カロリメータはヨウ化セシウムシンチレータの細かなブロックで構成されている。しかし、LAT検出器では、数〜数十MeVのガンマ線の入射方向を測定することはできない。
【0011】
本発明は、窒素以外の元素からのガンマ線を低減ないしは除去することができる、中性子探知法による窒素含有化合物の検知方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、特定のエネルギー以上においてはコンプトン反応に比べ対生成反応が支配的である(少なくとも5割より多くなる)ことに着目し、従来のように各イベントに対してエネルギースペクトルを測定することに加え、対生成反応により生じた電子・陽電子の飛跡も捕らえることで入射ガンマ線エネルギーと飛来方向を推定し、より正確に爆薬の有無や位置を探索することを可能とした。すなわち、測定の対象となるエネルギーを、窒素に対する中性子捕獲反応により生成した10.8MeVガンマ線のみに限定することにより、窒素含有化合物を検知することを可能とした。
【0013】
すなわち、第1の発明は、窒素に起因するガンマ線に基づき窒素含有化合物を検知する方法であって、被検知領域に中性子を照射し、低密度のシンチレータおよび光電子増倍管を備える第1のシンチレーション検出器により被検知領域からのガンマ線を測定し、第1のシンチレーション検出器に連接し、複数層からなるガス式ドリフトチェンバーを備える荷電粒子二次元位置検出器により第1のシンチレーション検出器を透過した荷電粒子を測定し、低密度のシンチレータおよび光電子増倍管を備える第2のシンチレーション検出器により荷電粒子二次元位置検出器を透過したガンマ線を測定し、(ア)前記第1および第2のシンチレーション検出器から同時に信号が検出された場合において、(イ)荷電粒子二次元位置検出器に荷電粒子の2つの飛跡が検出され、且つ、当該2つの飛跡が所定の角度を構成する場合には、対生成反応が生じたと判定し、当該2つの飛跡から窒素に起因するガンマ線の入射方向を算出することを特徴とする窒素含有化合物の検知方法である。
第2の発明は、第1の発明において、検出対象となるガンマ線が10.8MeVのガンマ線であることを特徴とする。
第3の発明は、第1または2の発明において、前記荷電粒子二次元位置検出器は、3層以上のガス式ドリフトチェンバーを備えることを特徴とする。
第4の発明は、第1、2または3の発明において、前記第1のシンチレーション検出器、前記第2のシンチレーション検出器、および前記荷電粒子二次元位置検出器を複数設け、危険物の位置を計測することを特徴とする。
第5の発明は、1ないし4のいずれかの発明において、窒素含有化合物が、爆薬物であることを特徴とする。
【0014】
第6の発明は、中性子を照射する中性子照射手段と、荷電粒子二次元位置検出器と、第1および第2のシンチレーション検出器と、処理部とを備え、窒素に起因するガンマ線に基づき窒素含有化合物を検知する窒素含有化合物の検知装置であって、第1のシンチレーション検出器は、荷電粒子によって励起される低密度のシンチレータと、光電子増倍管とを備え、第2のシンチレーション検出器は、荷電粒子によって励起される低密度のシンチレータと、光電子増倍管とを備え、荷電粒子二次元位置検出器は、第1のシンチレーション検出器の有するシンチレータと第2のシンチレーション検出器の有するシンチレータに挟まれた複数層からなるガス式ドリフトチェンバーとを備え、処理部は、(ア)前記第1および第2のシンチレーション検出器から同時に信号が検出された場合において、(イ)荷電粒子二次元位置検出器に荷電粒子の2つの飛跡が検出され、且つ、当該2つの飛跡が所定の角度を構成する場合には、対生成反応が生じたと判定し、当該2つの飛跡から窒素に起因するガンマ線の入射方向を算出することを特徴とする窒素含有化合物の検知装置である。
第7の発明は、第6の発明において、検出対象となるガンマ線が10.8MeVのガンマ線であることを特徴とする。
第8の発明は、第6または7の発明において、前記荷電粒子二次元位置検出器は、3層以上のガス式ドリフトチェンバーを備えることを特徴とする。
第9の発明は、第6、7または8の発明において、前記第1のシンチレーション検出器、前記第2のシンチレーション検出器、および前記荷電粒子二次元位置検出器を複数設け、前記処理部が危険物の位置を計測することを特徴とする。
第10の発明は、6ないし9のいずれかの発明において、窒素含有化合物が、爆薬物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窒素以外の元素からのバックグラウンドとなるガンマ線を低減ないしは除去することで、窒素含有化合物を高精度に探知することが可能となる。
また、窒素に起因するガンマ線の入射方向を算出できるため、窒素含有化合物の位置を計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
最良の形態の本発明は、土壌中に埋設された爆薬物を探知するための危険物検知装置に関する。爆薬物の組成物としては、TNT(分子式:C)、RDX(分子式:C)、ペンスリット(分子式:C(CHONO)などが知られているが、いずれも窒素(N)が高い割合で含まれる化合物である。表1に主な爆薬物における窒素の含有率を示す。
【0017】
【表1】

【0018】
土壌中に埋設された爆薬物を探知するためには、土壌中や爆薬物中に含まれる他の元素からのガンマ線を低減ないしは除去することが重要である。土壌中には、水素や酸素が非常に多く含まれているため、これらの元素から放出されるガンマ線を低減しなくては、窒素を同定することはできない。
前述のとおり、中性子捕獲反応により放出されるガンマ線のエネルギーは、元素によって決まっている。表2は、非特許文献1に記載された、主な元素において放出されるガンマ線のエネルギーである。
【表2】

【0019】
本発明においては、10.8MeVガンマ線のみを補足することにより、他のバックグラウンドとなるガンマ線を除去ないし低減することを可能としている。窒素から放出されるガンマ線のエネルギーは表2に示すように複数あるが、10.8MeVガンマ線のみを捕捉するのは、シンチレータに照射されるガンマ線は、1割程度のエネルギーロスがあるためである。10.8MeV以外のガンマ線(例えば、5.562Mevガンマ線)を捕捉した場合、1割程度のロスが生じることを前提とすると、当該ガンマ線が窒素に起因するものであるのか、炭素に起因するものであるかが判別不能となるおそれがある。現状の技術においては、表2に示すガンマ線の中から数Mevの差異しかないガンマ線を特定するのは困難である。10.8MeVガンマ線であれば、例え1割のロスが生じたとしても、窒素に起因するものであることを識別可能である。
【0020】
また、ガンマ線エネルギーの増加とともに対生成反応率が上昇することも理由の一つである。特に10Mev以上ではコンプトン散乱よりも対生成反応が支配的となるため、他の低エネルギーのガンマ線と比べ反応率が上昇するという利点もある。
【0021】
中性子源からは、10n/sec以上の中性子を照射する。対象とするエネルギー領域は、熱中性子以上のエネルギーである。中性子を照射する中性子源は、例えば、DD核融合炉や252Cfなどが開示されるがこれに限定されない。地雷は通常地表から数十cmのところに埋設されているが、その程度の深さであれば、エネルギーの強度はそれほど関係が無いため、DT核融合炉であってもよい。
【0022】
図5は、本発明の荷電粒子二次元位置検出器の概要構成図である。シンチレータ11とシンチレータ12の間には、複数のセル7を備えるガス式のドリフトタイプ放射線検出器が設けられている。ガス式としたのは、固体式にすると電子が散乱してしまうからである。各セル7には、アノード9が各1個設けられており、X方向の位置を検出するためのセルと、Y方向位置を検出するためのセルが交互に重ねられている。充填するガスとしては、安定したガスが好ましく、ヘリウムやドリフト電子の速度を振動などで吸収可能な分子構造を持つメタンなどのガスを添加したものが例示される。振動で吸収するガスを添加するのはドリフト速度が一定以上でないと、連続的に入射されるガンマ線を経時的に測定することができないからである。なお、カソード8と抵抗Rは、上下左右対称に配置されている。
【0023】
シンチレータ11に入射されたガンマ線は光に変換され、図示しない光電子増倍管16により電子に変換増幅され、電気信号として取り出される。シンチレータ11は電子・陽電子が透過するよう低密度のもの(スチルベン、アントラセンなどの有機結晶やプラスチックからなるもの)を用いて構成する。
シンチレータ11を透過した荷電粒子がセル7を通過すると、その飛跡上に初期電離電子が生成される。ここで、セル7内の空間に電界Eをかけておくと、電子はその電界の向きと逆方向に運動を行い、最終的にアノード9に到達する。このときの電荷を図示しない電荷有感型プリアンプで増幅して電気信号として検出する。ドリフト開始時間からアノード9に到達するまでの時間(ドリフト時間)からドリフト距離を算出することにより、入射位置を推定することが可能である。
シンチレータ12に入射されたガンマ線は光に変換され、図示しない光電子増倍管17により電子に変換増幅され、電気信号として取り出される。シンチレータ12も電子・陽電子をはじくことが無いよう低密度のもの(シンチレータ11と同じもの)を用いて構成する。
【0024】
窒素に起因するガンマ線の入射方向を算出するための手順について説明する。
光電子増倍管16と光電子増倍管17により記録された電気信号に基づき、10.8MeVガンマ線であると認められる信号を抽出する情報処理を行う。ここで、光電子増倍管16と光電子増倍管17にほぼ同じタイミングの電気信号が生成された場合には、当該電気信号を対生成反応判定の候補とする。同時に生じた信号のみを抽出するのは、シンチレータ11には複数のエネルギーのガンマ線が連続的に入射されるためである。この場合において、荷電粒子二次元位置検出器により2つの荷電粒子が検出された場合は対生成反応であると判定し、1つの荷電粒子が検出された場合はコンプトン反応であると判定する。対生成反応と判定された場合には、電子と陽電子が構成する角θを算出する。θの理論値は、ガンマ線のエネルギーの強さと相関関係があるためである。2つの荷電粒子の飛跡が所定の角度(約3度)を構成し、且つ、同時に検出されたエネルギー量が10.8MeVに近い値(予め設定したしきい値以上)である場合には、2つの通過した荷電粒子の飛跡からガンマ線の入射方向を算出する。
本発明の危険物検知装置によれば、ガンマ線の入射方向を算出することができるため、該装置を複数設けることで、三角測量の要領で爆薬物の深さを計測することも可能となる。
【0025】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
本実施例は、10.8MeVガンマ線による対生成反応を利用したガンマ線飛来方向測定原理に基づく地雷探知器に関する。
本実施例の地雷探知器は、図1に示す従来型の地雷探知器と同様に、可搬型中性子源1とガンマ線検出器6とから構成される。可搬型中性子源1とガンマ線検出器6は、車輪等が設けられた筐体に収納され、移動自在に構成されるが、筐体については公知の技術を適用することができるため、以下では説明を省略する。
【0027】
(1)中性子発生手段1
本実施例で用いる中性子発生手段1は、公知の中性子源であり、例えば、特許文献3に開示される公知のDD核融合炉を使用する。中性子発生手段1は、球形陽極の中心にグリッド状の球形陰極を設置し、電極間の放電によってできたイオンを電界により中心に収束させ、イオンビーム同士を衝突させて核融合反応を得る。その際、以下の式3に示す反応により高エネルギーの中性子が発生する。
【数3】

【0028】
(2)ガンマ線検出器6
図6は、本実施例のガンマ線検出器6の構成図を示したものである。本実施例のガンマ線検出器6は、電磁シャワーモンテカルロ計算コードEGS4を用いたシミュレーションに基づき最適に設計されている。
《シンチレータ11,12》
シンチレータ11は、厚さを約1cmのプラスチック・シンチレータである。シンチレータ11の厚さを肉薄としたのは、荷電粒子を通過させる必要があるからである。シンチレータ11で対生成を起こすためには密度の大きいBGOなどのシンチレータが適しているが、生成した電子・陽電子は散乱の影響を大きく受けるため、密度の低いスチルベンシンチレータなどを用いるのが好ましく、例えば応用光研工業株式会社のもの(密度1.032〜1.25g/cm)が好適である。
シンチレータ11では、シンチレータ内部で電子・陽電子が生成されると同時に荷電粒子により付与されたエネルギーに比例した発光が起こる。
EGS4を用いたシミュレーションによれば、スチルベンシンチレータ中で10.8MeV入射ガンマ線のうち2%程度が、コンプトンなどの何らかの相互作用を起こし、これらの相互作用のうち22%程度が対生成を起こすことがわかった。本実施例の構成によれば、10.8MeVと高いエネルギー領域での対生成を利用するにもかかわらず、従来のコンプトン方式と比べ、同程度の検出効率を実現することが可能である。
【0029】
シンチレータ12は、シンチレータ11と同様にプラスチック・シンチレータにより構成する。シンチレータ12は、荷電粒子を透過させる必要が無いため、シンチレータ11と比べ肉厚の方が好ましい。本実施例では、5cm程度の厚さとした。
シンチレータ11で生成した電子・陽電子の対はガスで充填された空間である後述のドリフトチェンバー13〜15を通過してシンチレータ12へ入射される。
シンチレータ11および12は、光電子増倍管16および17に接続される。
【0030】
《ドリフトチェンバー13〜15》
ドリフトチェンバー13〜15は、荷電粒子を検知するためのガス式の荷電粒子二次元位置検出器である。ドリフトチェンバー13〜15の位置分解能は数百μm程度である。ガス式のものとするのは、固体式のものだと荷電粒子が散乱してしまうためである。本実施例におけるガス層の厚さは約8cmであり、ヘリウムガスを充填した。なお、電子・陽電子のガスによる散乱の影響を少なくするために、数%のメタンガスを加えてもよい。
本実施例ではこの2次元ドリフトチャンバーを3層重ねて使用するが、複数層であればよくこの構成に限定されない。但し、電子・陽電子の飛跡を測定するためには、3層以上であることが好ましい。
【0031】
ドリフトチェンバー13〜15は、対生成により同時刻に生成した電子・陽電子を測定するためにシンチレータ11の後方に設置する。ドリフトチェンバー13〜15は、ドリフト領域を通過した荷電粒子の位置情報を二次元的に測定することができる。すなわち、各ドリフトチェンバーは、X方向の位置を検出するためのセルと、Y方向位置を検出するためのセルとから構成されている。
各ドリフトチェンバーのドリフト領域には電界がかけられており、荷電粒子がガス中を通過する際、電離する電子をドリフトさせ、アノードで収集して電気信号に変換して探知する。初期電離電子がアノードまでドリフトする時間(ドリフト時間)から荷電粒子の通過位置を測定することができる。初期電離電子を収集するアノードワイヤーは入射軸に対して直角に張られておりその周囲にフィールドワイヤーと呼ばれる電界を均一にするワイヤーから構成される。
ガンマ線のエネルギー領域ごとに生成した電子・陽電子の角度は決まっており、10.8MeVガンマ線の場合は約3度である。各ドリフトチェンバーからのドリフト時間情報を記憶装置に記憶する。
【0032】
《処理部20》
処理部20は、時間記録モジュール21、同時計測モジュール22、波高記録モジュール23、増幅器24(図示せず)、および記憶装置25(図示せず)を備える。
光電子増倍管16および17からアナログ電気信号として出力された波形信号は、増幅器24により増幅され、同時計測モジュール22および波高記録モジュール23に入力される。この際、光電子増倍管16および17からの電気信号は、時間記録モジュール18からの時間信号と関連づけて記憶される。
同時計測モジュール22は波高記録モジュール23と接続されており、図示しないA/Dコンバータ26を介して信号の送受信が行われる。また、同時計測モジュール22の出力はドリフトチェンバー13〜15のスタート信号に利用される。
波高記録モジュール23では、ガンマ線のエネルギーの強弱に応じて高低の波形が記録される。ガンマ線のエネルギーが10.8MeVであるかは、シンチレータ11とシンチレータ12の波高記録モジュール23のデータから解析される。この際、シンチレータ11およびシンチレータ12からの同時信号を、波高記録モジュール23のゲート信号に用いる。シンチレータ11を透過したガンマ線が1割程度のエネルギーを失うことを考慮したしきい値を設定し、当該しきい値を越えた場合には、10.8MeVガンマ線であると判定する。
【0033】
シンチレータ11とシンチレータ12を同時に2つの通過した荷電粒子の飛跡からガンマ線の入射方向を一意に決定することが可能である。荷電粒子の飛跡は、対生成により生じた陽電子・電子が、3つのドリフトチェンバーのレイヤーを通過した位置から算出可能である。
電子が1つしか生成されなかった場合には、コンプトン散乱が生じたと判定し、当該イベントを除去する。
また、他の元素から放出されるガンマ線は、測定対象となる10.8MeVガンマ線と比べエネルギーが低いので対生成反応を起こす確率が低い。本実施例では対生成反応のデータのみを利用するため、他の元素から放出されるガンマ線によるバックグラウンドイベントを大幅に低減することが可能である。
加えて、2個の荷電粒子通過イベントのみを情報処理の対象とすることで、ガンマ線検出器6内での多重散乱によるイベントを除去することができる。
【0034】
以上に述べたとおり、本実施例の地雷探知器においては、コンプトン方式の検出器を用いず、対生成反応を利用する新規な検出器を用いることにより、一意に入射軸を決定すること、多重散乱による解析の煩雑さを回避すること、バックグラウンドを大幅な低減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、他の物体が多く存在する中でも精度よく窒素を含有することを探知することが可能となるため、空港、港などでの爆発物や禁制薬物の探知に適している。窒素を検出する原理のため、近年テロリストが用いる液体混合型の爆薬に対しても有効な手段を提供することができる。
また、植物中での窒素分布測定にも適用可能である。植物にとって窒素は非常に重要な役割を持つが、植物中での窒素の挙動などを測定することで、植物の研究における効果的な測定手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】可搬型中性子源を用いた地雷探知方式の説明図である。
【図2】コンプトン散乱によるガンマ線入射方向測定の際の不定性を説明するための図面である。
【図3】コンプトン電子の多重散乱のイメージ図である。
【図4】従来のLAT検出器の構成図である。
【図5】本発明の荷電粒子二次元位置検出器の概要構成図である。
【図6】実施例のガンマ線検出器の概要構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1 可般型中性子源
2 土壌
3 熱中性子
4 ガンマ線
5 地雷
6 ガンマ線検出器
7 セル
8 カソード
9 アノード
11〜12 放射線検出器(シンチレータ)
13〜15 荷電粒子二次元位置検出器(ドリフトチェンバー)
16,17 光電子増倍管(PMT)
20 処理部
21 時間記録モジュール
22 同時計測モジュール
23 波高記録モジュール
24 増幅器
25 記憶装置
26 A/Dコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素に起因するガンマ線に基づき窒素含有化合物を検知する方法であって、
被検知領域に中性子を照射し、低密度のシンチレータおよび光電子増倍管を備える第1のシンチレーション検出器により被検知領域からのガンマ線を測定し、第1のシンチレーション検出器に連接し、複数層からなるガス式ドリフトチェンバーを備える荷電粒子二次元位置検出器により第1のシンチレーション検出器を透過した荷電粒子を測定し、低密度のシンチレータおよび光電子増倍管を備える第2のシンチレーション検出器により荷電粒子二次元位置検出器を透過した電子・陽電子を測定し、
(ア)前記第1および第2のシンチレーション検出器から同時に信号が検出された場合において、
(イ)荷電粒子二次元位置検出器に荷電粒子の2つの飛跡が検出され、且つ、当該2つの飛跡が所定の角度を構成する場合には、対生成反応が生じたと判定し、当該2つの飛跡から窒素に起因するガンマ線の入射方向を算出することを特徴とする窒素含有化合物の検知方法。
【請求項2】
検出対象となるガンマ線が10.8MeVのガンマ線であることを特徴とする請求項1に記載の窒素含有化合物の検知方法。
【請求項3】
前記荷電粒子二次元位置検出器は、3層以上のガス式ドリフトチェンバーを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の窒素含有化合物の検知方法。
【請求項4】
前記第1のシンチレーション検出器、前記第2のシンチレーション検出器、および前記荷電粒子二次元位置検出器を複数設け、危険物の位置を計測することを特徴とする請求項1、2または3に記載の窒素含有化合物の検知方法。
【請求項5】
窒素含有化合物が、爆薬物であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の窒素含有化合物の検知方法。
【請求項6】
中性子を照射する中性子照射手段と、荷電粒子二次元位置検出器と、第1および第2のシンチレーション検出器と、処理部とを備え、窒素に起因するガンマ線に基づき窒素含有化合物を検知する窒素含有化合物の検知装置であって、
第1のシンチレーション検出器は、荷電粒子によって励起される低密度のシンチレータと、光電子増倍管とを備え、
第2のシンチレーション検出器は、荷電粒子によって励起される低密度のシンチレータと、光電子増倍管とを備え、
荷電粒子二次元位置検出器は、第1のシンチレーション検出器の有するシンチレータと第2のシンチレーション検出器の有するシンチレータに挟まれた複数層からなるガス式ドリフトチェンバーとを備え、
処理部は、
(ア)前記第1および第2のシンチレーション検出器から同時に信号が検出された場合において、
(イ)荷電粒子二次元位置検出器に荷電粒子の2つの飛跡が検出され、且つ、当該2つの飛跡が所定の角度を構成する場合には、対生成反応が生じたと判定し、当該2つの飛跡から窒素に起因するガンマ線の入射方向を算出することを特徴とする窒素含有化合物の検知装置。
【請求項7】
検出対象となるガンマ線が10.8MeVのガンマ線であることを特徴とする請求項6に記載の窒素含有化合物の検知装置。
【請求項8】
前記荷電粒子二次元位置検出器は、3層以上のガス式ドリフトチェンバーを備えることを特徴とする請求項6または7に記載の窒素含有化合物の検知装置。
【請求項9】
前記第1のシンチレーション検出器、前記第2のシンチレーション検出器、および前記荷電粒子二次元位置検出器を複数設け、前記処理部が危険物の位置を計測することを特徴とする請求項6、7または8に記載の窒素含有化合物の検知装置。
【請求項10】
窒素含有化合物が、爆薬物であることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか一項に記載の窒素含有化合物の検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−47559(P2009−47559A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214103(P2007−214103)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】