説明

立体回路基板の製造方法

【課題】立体回路基板の製造方法において、環境に対する負荷が少ない方法で、強固な下地密着性を有する回路の形成を可能とする。
【解決手段】成形体の表面に回路を備えた立体回路基板を製造する方法であって、所望の立体形状の成形体を形成する成形体形成工程(S1)、成形体の表面にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程(S2)、レジスト膜から回路となる部位のレジスト膜をレーザ光を用いて除去してパターンを形成するパターン形成工程(S3)、レジスト膜を含む成形体の表面に下地膜となるチタン膜を形成する下地膜形成工程(S4)、レジスト膜を除去することによりレジスト膜の表面に形成されたチタン膜を除去する不要部除去工程(S5)、成形体の表面に残ったチタン膜の表面にめっきを施すことにより回路を形成するめっき膜形成工程(S6)、を含んでおり、この順番で実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高信頼性が要求される電子デバイス、例えば、車載センサに用いられる立体回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凹凸形状を有する3次元的な基板表面に回路を形成した立体回路基板として、MID基板(Molded Interconnect Device)が知られている。このような立体回路基板は、小型・軽量化が要求される電子・オプトデバイスなどに適用されている。立体形状を有する基板表面に回路を形成する方法として、基材の絶縁性表面にめっき下地層を形成し、めっき下地層のうち回路部と非回路部の境界をレーザ光照射によって除去し、回路部に回路形成用のめっきを施し、その後、非回路部のめっき下地層を除去するためのライトエッチングを行うという方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、車載用デバイスや先端デバイスなどの高信頼性が求められるデバイスにおいては、熱衝撃や高温高湿の環境における回路の下地との密着信頼性を確保することが重要である。回路となるめっき下地層は、銅などの低抵抗材料が望ましいが、基材の種類によっては、銅の下地層では密着性が不十分な場合が生じる。めっき下地層の強固な密着性を得るためには、めっき下地層として活性金属を用いることが有効である。
【特許文献1】特開平07−66533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような立体回路基板の製造方法においては、めっき下地層をレーザ光で蒸発飛散させたり、ライトエッチングによって溶解させたりするので、めっき下地層として活性金属を用いる場合に、環境汚染に対する配慮が大きな問題となる。例えば、活性金属であるクロムCrをめっき下地層として用いる場合、エッチングプロセスにおいて6価クロムが排出されるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、環境に対する負荷が少ない方法で強固な下地密着性を有する回路を形成できる立体回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、成形体の表面に回路を備えた立体回路基板の製造方法であって、立体形状を有する成形体の表面にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜から回路となる部位のレジスト膜をレーザ光を用いて除去した後、前記レジスト膜を含む成形体の表面にチタン膜を形成する工程と、前記レジスト膜を除去することにより当該レジスト膜の表面に形成されたチタン膜を除去し、その後、前記成形体の表面に残ったチタン膜の表面にめっきを施すことにより回路を形成する工程とを含むものである。
【0007】
請求項2の発明は、成形体の表面に回路を備えた立体回路基板の製造方法であって、立体形状を有する成形体の表面にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜から回路となる部位のレジスト膜をレーザ光を用いて除去した後、前記レジスト膜を含む成形体の表面にチタン膜を形成する工程と、前記チタン膜の上に銅膜を形成し、その後、前記レジスト膜を除去することにより当該レジスト膜の表面に形成されたチタン膜と銅膜を除去し、前記成形体の表面に残った銅膜の表面にめっきを施すことにより回路を形成する工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、めっき下地層をレーザ光で蒸発飛散させたり、ライトエッチングによって溶解させたりすることなく、成形体表面に強固な密着性を有する回路を形成できる。めっき下地層としてチタン(Ti)を用いることにより、耐熱性や耐湿性に優れ、高い回路密着信頼性を有する立体回路基板を形成できる。
【0009】
請求項2の発明によれば、めっき下地層をレーザ光で蒸発飛散させたり、ライトエッチングによって溶解させたりすることなく、成形体表面に強固な密着性を有する回路を形成できる。めっき下地層としてチタンを用いることにより、耐熱性や耐湿性に優れ、高い回路密着信頼性を有する立体回路基板を形成できる。また、めっきの前に、めっき下地層となるチタンの表面に銅膜を形成してチタンの酸化を防止するので、容易かつ信頼性の高いめっき処理が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の立体回路基板の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る立体回路基板の製造方法についてのフローチャートを示し、図2(a)〜(g)はその製造方法の主要な工程における立体回路基板を工程順に示す。本発明の製造方法は、成形体の表面に回路を備えた立体回路基板を製造する方法であって、図1に示すように、所望の立体形状の成形体を形成する成形体形成工程(S1)、成形体の表面にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程(S2)、レジスト膜から回路となる部位のレジスト膜をレーザ光を用いて除去してパターンを形成するパターン形成工程(S3)、レジスト膜を含む成形体の表面に下地膜となるチタン膜を形成する下地膜形成工程(S4)、レジスト膜を除去することによりレジスト膜の表面に形成されたチタン膜を除去する不要部除去工程(S5)、成形体の表面に残ったチタン膜の表面にめっきを施すことにより回路を形成するめっき膜形成工程(S6)、を含んでおり、この順番で実施される。以下、各工程毎に、断面図を参照して詳述する。
【0012】
(成形体形成工程S1)
成形体は、立体回路基板の構造を形作るものであり、立体回路基板の使用目的、使用場所(取付場所)、使用方法などに応じて所定の立体形状を付与して成形される。図2(a)に成形体1の一部断面を示す。以下この図の成形体1の表面に、各工程における処理を施す様子を示す。成形体1の成形は、例えば、射出成形やプレス成形などの方法を用いて行われる。
【0013】
成形体1の全体を絶縁性材料で形成する場合、例えば、絶縁性材料として、アルミナ、窒化アルミ、炭化ケイ素などのセラミック材料、PPS、PEEKポリフタルアミドなどの樹脂材料を用いることができる。また、この工程において形成される成形体は、少なくとも回路を形成する表面が絶縁材料で形成されておればよく、銅、アルミなどの表面に絶縁材料を被覆したメタルコア基板などの成形体を用いることもできる。
【0014】
(レジスト膜形成工程S2)
図2(b)に示すように、上述の成形体1の表面にレジスト膜2が形成される。レジスト膜2は、後の工程(S5)で成形体1から除去する必要がある。そこで、成形体1の表面から除去可能な材料であって、後工程における耐熱性、耐食性などの条件を満たす材料を、レジスト膜2の形成に用いることができる。レジスト膜2の材料として、例えば、通常の半導体製造工程で用いられる有機系のレジストの他に、金属系材料を用いることができる。
【0015】
レジスト膜2の形成方法として、有機系においてはスプレーコート、デイップコートなどの方法や、蒸着重合法、CVD法などの方法を用いることができる。また、金属系の材料の場合、例えば、スパッタリングなどの薄膜形成法を用いることができる。レジスト膜2の膜厚は、例えば、数百nm〜数十μmであり、配線パターン幅に応じて、高アスペクト比とならないように設定する必要がある。また、レジスト膜2の膜厚は、成形体の表面に均一形成するのが好ましい。
【0016】
(パターン形成工程S3)
図2(c)に示すように、レーザ光Lをレジスト膜2に照射して、回路部を形成する部分のレジスト膜2を除去する。レジスト膜2を除去して形成したパターンが、回路パターンを形成するパターンとなる。立体回路基板においては、レジスト膜2を除去する面が、一般に立体形状であり、従って、いわゆる露光法に用いる露光用マスクそのものの形成や、垂直立面への露光が困難であるので、マスクを用いる露光法は本工程に適用できない。
【0017】
レーザ光Lの照射では、マスクレスで直接照射が可能であり、必要に応じて、成形体1の形状に合わせて焦点位置の補正や成形体1の姿勢制御を行いながら、比較的自由に、所望のパターンとなるようにレジスト膜2を蒸発除去できる。レーザの種類として、第二高調波YAGレーザ(λ:532nm)や第三高調波YAGレーザ(λ:355nm)などを用いることができる。これらのレーザからのレーザ光を、パターン形状に応じたスポット径に集光し、スキャニングすることにより、パターンを形成することができる。
【0018】
(下地膜形成工程S4)
図2(d)に示すように、スパッタリング、イオンプレーティングなどの成膜方法により、下地膜となるチタン(Ti)膜3を形成する。チタン膜3の膜厚は、5nm〜200nm程度が望ましい。チタン膜3の形成は、上記パターン形成工程でレジスト膜2を除去した部分に形成するのが目的であるが、レジスト膜2の上面に成膜されてもかまわない。
【0019】
(不要部除去工程S5)
図2(e)に示すように、レジスト膜2を成形体1の表面から剥離除去する。これにより、レジスト膜2の上のチタン膜3が除去される(リフトオフ法による不要部の除去)。レジスト膜2の除去によって、回路パターンを形成するチタン膜3の部分のみが成形体1の上に残される。レジスト膜2の除去は、レジスト膜2が有機系の場合、例えば、アルカリ溶液などを用いて行われる。レジスト膜2が金属系の場合、必要なチタン膜3を溶出しない剥離剤を選択して用いる必要がある。例えば、銅(Cu)膜をレジスト膜3とする場合、過硫酸アンモニウムなどを用いることができる。
【0020】
(めっき膜形成工程S6)
図2(f)に示すように、回路パターンを形成しているチタン膜3をめっきの下地として、例えば、銅(Cu)のめっきを施して、膜厚5〜50μm程度の厚付けのめっき膜5を形成する。これにより、めっき膜5による電気回路のパターンが形成される。
【0021】
上述のめっき膜5の形成の後に、図2(g)に示すように、必要に応じて、めっき膜5の上に、ニッケル(Ni)めっきや金(Au)めっきなどを行って、仕上げ膜6を形成する。仕上げ膜6は、部品実装などを行う部分に形成される。以上の工程の後、めっき工程の後工程として通常行われるめっきタイバーの除去などを行って、所望の立体形状の成形体の表面に所望の回路を備えた立体回路基板が完成する。
【0022】
上述したように、本発明によれば、めっき下地層をレーザ光で蒸発飛散させたり、ライトエッチングによって溶解させたりすることがなく、従って、環境に対する負荷が少なく、また、成形体表面に強固な密着性を有する回路を形成できる。めっき下地層としてチタンTiを用いることにより、耐熱性や耐湿性に優れ、高い回路密着信頼性を有する立体回路基板を形成できる。本発明の立体回路基板の製造方法によって製造された立体回路基板は、IC、コンデンサチップ、抵抗体などを実装する基板として、また、他のマザーボードなどに電子部品を実装するためのパッケージなどとして用いられる。
【0023】
ところで、上述のような立体回路基板への電子部品の実装や、他の基板への立体回路基板の実装に際して、はんだ実装が行われると、はんだ付けされる電極部位に熱的ストレスが発生する。ところが、チタン膜3を下地膜(中間膜)としているので、チタン膜3が強固に成形体と接合することにより強固な密着強度を保って熱的ストレスに耐えることができる。従って、本発明の製造方法によって製造された立体回路基板において、チタン膜3とその上部のめっき膜5とから成る回路パターンは、十分な信頼性を有する。そこで、このような立体回路基板は、パッケージとして耐熱性、耐環境性に優れており、車載用途向けやセンサデバイス向けなど高信頼性基板として用いることができる。
【0024】
(第2の実施形態)
図3は本発明の第2の実施形態に係る立体回路基板の製造方法についてのフローチャートを示し、図4(a)〜(h)はその製造方法の主要な工程における立体回路基板を工程順に示す。第2の実施形態の立体回路基板の製造方法は、成形体の表面に回路を備えた立体回路基板を製造する方法であって、図3に示すように、所望の立体形状の成形体を形成する成形体形成工程(S11)、成形体の表面にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程(S12)、レジスト膜から回路となる部位のレジスト膜をレーザ光を用いて除去してパターンを形成するパターン形成工程(S13)、レジスト膜を含む成形体の表面に下地膜となるチタン膜を形成する下地膜形成工程(S14)、チタン膜の上に銅膜を形成する銅膜形成工程(S15)、レジスト膜を除去することにより当該レジスト膜の表面に形成されたチタン膜と銅膜を除去する不要部除去工程(S16)、成形体の表面に残った銅膜の表面にめっきを施すことにより回路を形成するめっき膜形成工程(S17)、を含んでおり、この順番で実施される。
【0025】
本実施形態の立体回路基板の製造方法は、上述した第1の実施形態の製造方法における下地形成工程S4の後に、銅膜を形成する銅膜形成工程(S15)を追加した製造方法となっており、他の点は、第1の実施形態と同様である。従って、図4(a)〜図4(d)は、それぞれ図2(a)〜(d)と同じ状態を示している。そこで、本実施形態の銅膜形成工程(S15)以降の工程に関する、図4(e)以降について特徴的な点を説明する。
【0026】
(銅膜形成工程S15)
図4(e)に示すように、チタン膜3の上に銅膜4を形成する。この銅膜4の形成は、チタン膜3の形成に引き続いて、真空雰囲気で連続して行うことが望ましい。これは、チタン膜3の表面を一旦空気にさらしてしまうと、チタン膜3の表面に酸化膜が形成されて不活性状態となる。このような酸化膜が形成されると、チタン膜3とその上の銅膜4との密着性が悪くなってしまう。そこで、チタン膜3の形成に引き続いて、真空雰囲気で連続して銅膜4の形成を行うことによりチタン膜の酸化を回避できる。
【0027】
チタン膜3の膜厚は、第1の実施形態と同様に、5nm〜200nm程度が望ましい。また、チタン膜3の上の銅膜の膜厚は、100nm〜1μmの間が好ましい。なお、この膜厚は、めっきが可能な膜厚であれば良い。
【0028】
(不要部除去工程S16)
図4(f)に示すように、レジスト膜2の剥離除去を行う。レジスト膜2上のチタン膜3と銅膜4とは、レジスト膜2と共に剥離除去され、回路パターンとなる部分のみが残される。レジスト膜2の除去は、レジスト膜2が有機系の場合、例えば、アルカリ溶液などを用いて行われる。レジスト膜2が金属系の場合、必要なチタン膜3と銅膜4を溶出しない剥離剤を選択して用いる必要がある。
【0029】
図4(g)に示すめっき膜形成工程S17、及び、図(h)に示す後工程は、上述の第1の実施形態と同様であり、説明は省略する。上述のように、本発明の第2の実施形態の立体回路基板の製造方法によれば、第1の実施形態と同様に、めっき下地層をレーザ光で蒸発飛散させたり、ライトエッチングによって溶解させたりすることがなく、従って、環境に対する負荷が少なく、また、成形体表面に強固な密着性を有する回路を形成できる。めっき下地層としてチタン膜3を用いることにより、耐熱性や耐湿性に優れ、高い回路密着信頼性を有する立体回路基板を形成できる。また、めっきの前に、めっき下地層となるチタン膜3の表面に銅膜4を形成してチタン膜3の酸化を防止するので、容易かつ信頼性の高いめっき処理が可能である。
【0030】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、成形体1に貫通電極となる金属胴体を埋め込んで、成形体の表面に露出させた貫通電極とチタン膜3とを導通させて貫通電極を立体回路基板の回路の一部とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る立体回路基板の製造方法についてのフローチャート。
【図2】(a)〜(g)は同上製造方法の主要な工程における立体回路基板を工程順に示す部分断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る立体回路基板の製造方法についてのフローチャート。
【図4】(a)〜(h)は同上製造方法の主要な工程における立体回路基板を工程順に示す部分断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 成形体
2 レジスト膜
3 チタン膜
4 銅膜
5 めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体の表面に回路を備えた立体回路基板の製造方法であって、
立体形状を有する成形体の表面にレジスト膜を形成する工程と、
前記レジスト膜から回路となる部位のレジスト膜をレーザ光を用いて除去した後、前記レジスト膜を含む成形体の表面にチタン膜を形成する工程と、
前記レジスト膜を除去することにより当該レジスト膜の表面に形成されたチタン膜を除去し、その後、前記成形体の表面に残ったチタン膜の表面にめっきを施すことにより回路を形成する工程とを含むことを特徴とする立体回路基板の製造方法。
【請求項2】
成形体の表面に回路を備えた立体回路基板の製造方法であって、
立体形状を有する成形体の表面にレジスト膜を形成する工程と、
前記レジスト膜から回路となる部位のレジスト膜をレーザ光を用いて除去した後、前記レジスト膜を含む成形体の表面にチタン膜を形成する工程と、
前記チタン膜の上に銅膜を形成し、その後、前記レジスト膜を除去することにより当該レジスト膜の表面に形成されたチタン膜と銅膜を除去し、前記成形体の表面に残った銅膜の表面にめっきを施すことにより回路を形成する工程とを含むことを特徴とする立体回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−173546(P2007−173546A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369528(P2005−369528)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】