説明

立向自動溶接装置

【課題】 フェイスプレートとウエブとから成る立向きのロンジと立向きのトランスとの交差部を、1台で立向きに自動溶接できる立向自動溶接装置を提供すること。
【解決手段】 フェイスプレートFとウエブWとから成る立向きのロンジLと、このロンジLと交差するように立向きに設けられたトランスTとの交差部Cを立向きに溶接する立向自動溶接装置1として、前記立向きに設けられたロンジLまたはトランスTに固定する固定部2と、この固定部2に支持されて立向きに延びるガイド部3と、このガイド部3に案内されて昇降する走行台車部4と、この走行台車部4の先端で前記交差部Cを溶接する溶接部5とを備えさせ、前記ガイド部3を、前記固定部2を前記ロンジLのウエブWに固定した状態でこのガイド部3が前記フェイスプレートFと当接しない距離Dに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立向きに自動溶接を行う溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の構造部材や大型構造物の構造部材を結合する手段として溶接が多用されている。この溶接には、通常、炭酸ガスアーク溶接が利用されており、溶接箇所に応じて手動または自動で行われている。以下、船舶の構造部材を自動溶接する例を説明する。
【0003】
図4は船殻構造の一例を示す船体中央左舷側横断面図である。図示する例はタンカーの船艙部51であり、上甲板52、船側外板53、船底外板54によって横断面形状が形成されている。また、二重殻構造とするためのインナーハル55と内底板56も設けられている。この船艙部51には、船長方向に縦通隔壁57、船幅方向に横隔壁T(以下「トランス」という)が設けられている。この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、これら縦通隔壁57、横隔壁T等の壁を「大骨」という。そして、これら上甲板52、船側外板53、船底外板54、インナーハル55、内底板56、縦通隔壁57の船長方向に縦通材L(以下「ロンジ」という)が設けられている。
【0004】
このような船体の製作は、各ブロック毎に分割された船体各部を溶接作業で一体的な構成に結合しており、前記ロンジLの溶接作業時の姿勢としては、立向きのウエブWと横向きのフェイスプレートFとでT字状に形成され、前記トランスTを貫通して船長方向に設けられている(図5参照)。このロンジLが貫通するトランスTとの交差部は、溶接によって結合されている。このロンジLがトランスTを貫通する箇所は非常に多く、例えば、VLCC(Very Large Crude-Oil Carrier)では一船当り約16000箇所もある。
【0005】
図5(a),(b) は、一般的なトランスとロンジとの交差部を示す斜視図である。(a) は、トランスTとロンジLとの交差部Cが垂直の立向きの例を示し、(b) は、トランスTとロンジLとの交差部Cが傾斜した立向きの例を示している。これらの図は、前記船底外板54の上面に設けられたT型ロンジLとL型ロンジLとを例示している。トランスTを貫通するように設けられるロンジLは、立向きのウエブWの上端に横向きのフェイスプレートFが設けられた状態で前記トランスTに設けられたスロット58(貫通穴)を貫通させ、このスロット58の部分におけるウエブWとトランスTとの両方の交差部Cが溶接されている。この交差部Cは、(a) に示すような垂直の立向きや、(b) に示すような傾斜した立向きがある。なお、(b) に示す例は、スロット58の開口側にカラープレート60を設けてウエブWとトランスTとを溶接するようにした例である。前記した船殻構造の場合、複数に分割した船殻ブロックを組立てることによって船体が形成されるが、各船殻ブロックの形成時に前記ウエブWとトランスTとを溶接する作業は、前記したように非常に多くの箇所で行わなければならないため多大な労力と時間を要し、自動化(機械化)が切望されている。
【0006】
しかし、この溶接は、立向姿勢の溶接であるとともに溶接長さが比較的短い溶接(例えば、最大600mm程度)であるため、前記した非常に多くの溶接箇所で自動溶接装置を設けて溶接をするには、溶接装置の設置と移動とを頻繁に繰り返す必要があり、非常に煩雑で効率が悪く実用化が難しいのが現状である。また、トランスTに付いたスティフナ59(図5(b) に示す。)が自動溶接装置を設置する場合に障害物となり、自動化を妨げる場合もある。そのため、前記した溶接箇所の大半を手作業で溶接しているのが現状であり、煩雑で重労働の作業となっている。
【0007】
なお、このような溶接を自動化しようとする技術として、例えば、船舶構造物や大型ブロックの溶接組立を行うために、立向きに設けた走行レールに正面から走行台車のガイドローラを嵌合させ、この走行台車をラックとピニオンで走行レールに沿って走行させるようにした立向隅肉自動溶接装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭47−30557号公報(第2頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献1で前記船殻構造のトランスTとロンジLとの交差部Cを溶接する場合、トランスT側に走行レールを固定して交差部Cを立向きに溶接することはできるが、ロンジL側に走行レールを固定しようとすると固定磁石や走行レールがロンジLのフェイスプレートFに当接して溶接装置をロンジL側に取付けることができない。仮に、フェイスプレートFに当接することなく取付けることができたとしても、フェイスプレートFに走行台車の走行が妨げられて交差部Cの溶接線全長を溶接するのは難しい。
【0009】
そのため、前記特許文献1でこのようなトランスTとロンジLとの交差部Cの両方を溶接するためには、トランスT側に固定して交差部Cのいずれか一方が溶接できるようにした、溶接トーチに対して走行レールが左右逆配置(勝手反対)となった2種類の溶接装置を準備しなければならず、溶接装置に多くの費用を要してしまう。しかも、このような2種類の溶接装置を使い分けながら前記約16000箇所を溶接するのは非常に煩雑で、多くの時間と労力を要して効率良く溶接することができない。
【0010】
本発明は、このようなフェイスプレートとウエブとから成る立向きのロンジと立向きの大骨との交差部を、1台で立向きに自動溶接できる立向自動溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、フェイスプレートとウエブとから成る立向きのロンジと、該ロンジと交差するように立向きに設けられた大骨との交差部を立向きに溶接する立向自動溶接装置であって、前記立向きに設けられたロンジまたは大骨に固定する固定部と、該固定部に支持されて立向きに延びるガイド部と、該ガイド部に案内されて昇降する走行台車部と、該走行台車部の先端で前記交差部を溶接する溶接部とを備え、前記ガイド部を、前記固定部を前記ロンジのウエブに固定した状態で該ガイド部が前記フェイスプレートと当接しない距離に設けている。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「立向き」は傾斜した立向きを含み、「横向き」は傾いた横向きを含む。これにより、立向きのウエブの上端に横向きのフェイスプレートが設けられた箇所で固定部をウエブに固定しても、ガイド部はフェイスプレートと当接することなく配置され、このガイド部に案内される走行台車部の溶接部によって、立向きの交差部を立向きに自動溶接することが安定してできる。
【0012】
また、前記固定部に前記ロンジまたは大骨に固定する磁石を設け、該磁石と前記立向きに延びるガイド部とを立向きに所定間隔で設けた複数のスペーサで接続すれば、磁石による簡単な固定と、スペーサによる磁石とガイド部との距離設定により、簡単な構成でガイド部がフェイスプレートに当接することがない溶接装置を構成することができる。
【0013】
さらに、前記ガイド部に、立向きの走行レールと、該走行レールに設けた立向きの案内溝とを設け、前記走行台車部に、前記走行レールの案内溝に沿って走行する案内車輪と、該案内車輪を駆動する駆動機構と、該案内車輪とともに移動する台車本体とを設け、前記駆動機構を、前記台車本体に設けた駆動機と、該駆動機で駆動するピニオンと、前記走行レールに沿って設けたラックとで構成し、前記駆動機と前記溶接部とを前記走行台車部を挟んで対向する位置に設けてもよい。これにより、走行する案内車輪を挟んで重量物の駆動機と溶接部とを台車本体に配置し、走行レールに沿って走行する案内車輪をより安定して走行させて、走行台車部の走行動作をより安定させることができる。
【0014】
また、前記走行台車部に、前記溶接部と前記交差部との水平方向位置を調節する調節部を設けてもよい。これにより、ロンジや大骨の撓み等で溶接部の先端位置を調節する場合、迅速に位置調節することができる。
【0015】
さらに、前記ガイド部と、前記固定部の反固定側に位置する前記ロンジのウエブまたは大骨との距離を調整する位置調整具を設ければ、この位置調整具で前記溶接部の先端位置を交差部の近傍に位置させた状態で固定部を好ましい位置に固定することが容易に可能であり、迅速で安定した溶接装置設置作業ができる。
【0016】
その上、前記位置調整具を、前記ガイド部の上下複数箇所に設けて位置調整するように構成すれば、ガイド部の上下位置を交差部の溶接線に沿わせることができ、交差部と平行にガイド部を位置させて溶接装置を固定することが迅速にできる。
【0017】
また、前記立向きに所定間隔で設けた複数のスペーサに、前記ガイド部と前記固定部の反固定側に位置する前記ロンジのウエブまたは大骨との距離を調整するU型の位置調整具をスライド可能に設ければ、複数のスペーサを利用して溶接距離調整の位置調整具を設けることができ、この位置調整具でガイド部を交差部の溶接線に沿わせて溶接装置を固定することが迅速にできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上説明したような手段により、フェイスプレートとウエブとから成る立向きのロンジと立向きの大骨との両方の交差部を、1台の溶接装置で立向きに自動溶接することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態を示す立向自動溶接装置の正面図であり、図2は、図1に示す立向自動溶接装置の平面図、図3は、図1に示す立向自動溶接装置の背面図である。この図3は溶接部等の一部構成を省略して記載している。以下の実施の形態でも、フェイスプレートFとウエブWとから成るロンジLとトランスT(大骨)との交差部C(溶接線)を立向きに溶接する例を説明する。また、前記図4の船底外板54の上面を例に説明する。
【0020】
図1に示すように、立向自動溶接装置1には、前記立向きに設けられたトランスTまたはロンジLのどちらにも固定することができる固定部2(図2参照)と、この固定部2に支持されて立向きに延びるガイド部3と、このガイド部3に案内されて昇降する走行台車部4と、この走行台車部4の先端で交差部Cを溶接する溶接部5とが備えられている。
【0021】
図3に示すように、前記固定部2には、この実施の形態ではON/OFF切替え式の磁石7が設けられている。図示する反溶接部側に切替えスイッチ8が設けられており、この切替えスイッチ8のON/OFF操作によって簡単に固定/解除ができるように構成されている。図示するように、この実施の形態では立向きに3個の磁石7が所定間隔で設けられており、これらの磁石7は、ロンジLの上端に設けられた横向きのフェイスプレートFまでのウエブWの高さ範囲内に少なくとも2個が固定できる所定間隔Iで設けられている。図示する例では、ウエブWの高さが低い場合(二点鎖線)、そのウエブWの高さ範囲内に2個の磁石7が固定できる所定間隔Iとしている。これらの磁石7を設ける所定間隔Iは、ロンジLのウエブW、トランスTのどちらにも固定することができる間隔で決定すればよく、図示するような等間隔でも不等間隔でもよい。また、磁石7の位置をガイド部3の長手方向に変更できるようにしたり、所定間隔Iを変更できるようにしてもよい。
【0022】
図2に示すように、前記ガイド部3には、立向きに配置される走行レール10が設けられている。走行レール10は、溶接する交差部Cの上端よりも高い位置まで延びる長さであり、前記フェイスプレートFよりも高い位置まで形成されている。この走行レール10は、水平断面が横長矩形状断面で形成され、両側部に立向きの案内溝11が設けられている。
【0023】
そして、このガイド部3の走行レール10と前記固定部2の磁石7との距離Dが、この走行レール10がロンジLの上端に設けられたフェイスプレートFと当接しない距離Dに設定され、これによりガイド部3がフェイスプレートFと当接しない距離に設けられている。この距離Dは、複数本の所定長さのスペーサ12で走行レール10と磁石7とを連結することによって設定されており、全ての磁石7が同一の距離Dに設けられている。このように、走行レール10がフェイスプレートFと当接しないように距離Dを設定することにより、この走行レール10に沿って走行する走行台車部4も横向きのフェイスプレートFに当接することなく走行することができ、この走行台車部4とともに移動する溶接部5で立向きの交差部Cを横向きのフェイスプレートFの近傍まで確実に溶接することができる。なお、前記スペーサ12は、走行レール10とこの走行レール10に沿って昇降する走行台車部4、溶接部5を安定して支持できる強度で形成される。
【0024】
図1,2に示すように、前記走行台車部4には、前記走行レール10の案内溝11に沿って走行する案内車輪14が設けられた台車本体15と、前記溶接部5の先端位置を前記走行レール10の位置に対して相対的に位置調節する調節部16とが設けられている。この調節部16には、台車本体15に対して左右方向にスライド可能なように設けられた左右スライド軸17と、この左右スライド軸17をスライドさせるために前記台車本体15に設けられた操作ハンドル18とが設けられている。操作ハンドル18にはピニオン18aが設けられ、左右スライド軸17の上面にはラック17aが設けられている。そして、ピニオン18aを回転させてラック17aを移動させることにより、左右スライド軸17が横方向にスライド可能なようになっている。また、台車本体15には、この台車本体15を前記走行レール10に沿って立向きに走行させる駆動機構19が設けられている。この駆動機構19は、台車本体15の内部に設けられたピニオン20と前記走行レール10の長手方向に設けられたラック21とを備えている。ラック21は、溶接する交差部Cの上端よりも高い位置まで設けられており、走行レール10の上端付近まで設けられている。ピニオン20は、駆動機たる走行モータ22によって駆動されている。走行モータ22は、図示する走行台車部4の右側に設けられている。さらに、この走行台車部4の右側には、制御箱23が設けられており、この操作箱23に設けられた作動スイッチ24を操作することによって台車本体15の走行や溶接部5の制御ができるようになっている。
【0025】
前記溶接部5には、先端に溶接トーチ25が設けられ、この溶接トーチ25はウィービング装置26に支持されている。ウィービング装置26は、溶接トーチ25の先端を、溶接進行方向に対してほぼ直角に交互に動かしながら溶接する運棒動作(以下、この動作を「ウィービング動作」という。)させるものであり、前記台車本体15に設けられたトーチホルダ27に保持されている。このトーチホルダ27には、前記左右スライド軸17と直交する前後スライド軸28と、この前後スライド軸28の先端でトーチホルダ27を水平方向の面内で回動させる垂直回動軸29と、垂直方向の面内で回動させる水平回動軸30とが備えられている。トーチホルダ27に備えられたこれらの軸は、前記走行台車部4に設けられた調節部16を構成している。前記前後スライド軸28は、前記左右スライド軸17の端部に設けられた操作ハンドル31を回動させることによって前後に調節可能に構成され、垂直回動軸29は前後スライド軸28の先端に設けられた固定ナット32を緩めることによって調節可能に構成され、水平回動軸30は前記垂直回動軸29の下端に設けられた固定ナット33を緩めることによって調節可能に構成されている。前記溶接トーチ25の後端には、CO2溶接を行うためのガス供給管39や溶接ワイヤ送給装置(図示略)等が接続されている。
【0026】
そして、これらの操作ハンドル31と固定ナット32,33で軸28,29,30の位置又は角度をそれぞれ調節するとともに、前記操作ハンドル18で左右スライド軸17を調節することにより、溶接トーチ25の先端位置を任意に調節することができる。例えば、船底外板54に対して交差部Cが傾斜している場合等でも、これらの軸28,29,30を任意に調節すれば、溶接トーチ25の先端と交差部C(溶接線)との距離と角度を最適にすることができる。
【0027】
また、この実施の形態では、図2の左側に示すように、固定部2の磁石7をロンジLのウエブWに固定した場合でも、前記走行レール10がロンジLのフェイスプレートFに当接することがないように配置されるとともに、トーチホルダ27も平面視でフェイスプレートFに当接することがないように配置されている。これにより、溶接トーチ25を交差部Cに沿って上昇させたとしても、台車本体15やトーチホルダ27がフェイスプレートFに当接することなく、確実に交差部Cの上部位置まで溶接することができるようにしている。
【0028】
さらに、図1に示すように、この溶接部5たる溶接トーチ25を前記走行台車部4の図示する左側に設け、前記駆動機たる走行モータ22を走行台車部4の右側に設けることにより、走行台車部4を挟んで左右に重量物を配置して、走行台車部4の走行レール10に沿って走行する構成の重量バランスが大きく偏らないようにしている。これにより、走行台車部4の安定した走行を図っている。
【0029】
一方、前記ガイド部3には、前記固定部2のスペーサ12とトランスT又はロンジLとの間の配置距離Gを調整する位置調整具35が設けられている。この位置調整具35は、U字状に形成された棒状の部材で形成されており、ガイド部3の走行レール10と磁石7との間のスペーサ12に支持されている。スペーサ12には、位置調整具35を支持する支持部材36が2箇所に設けられ、これらの支持部36で位置調整具35がスライド可能に支持されている。この位置調整具35のU字状後端(図1の右端)が把持部37であり、この把持部37から所定距離先端側にストッパ38がそれぞれ設けられている。したがって、把持部37を持って前記溶接部5の先端側に位置調整具35を突出させ、ストッパ38を支持部材36に当接させた状態で位置調整具35の先端をロンジLのウエブW(トランスT)に当接させることにより、走行レール10が溶接に好ましい位置に配置されるように固定部2を位置させることができる。この状態で固定部2の磁石7を固定すれば、迅速な溶接装置1の配置ができる。
【0030】
また、この位置調整具35のU時状先端部を、一方が下部位置、他方が上部位置となるように配置することにより、ウエブW(トランスT)の上下位置で同時に位置調整することもできる。これにより、ウエブW(トランスT)と平行に走行レール10を配置することが迅速に可能であり、溶接装置1の安定した配置を迅速に行うことができる。
【0031】
なお、この位置調整具35は、U字状の棒状部材に限られるものではなく、走行レール10の位置を面材(トランスT、ロンジL)と所定距離に調整できるものであればよい。
【0032】
以上のように構成された立向自動溶接装置1によれば、以下のようにして立向き溶接を行うことができる。
【0033】
まず、図2の右側に示す、立向きの大骨であるトランスTとロンジLとの図の右側交差部Cを溶接する例を説明する。この場合、トランスTに立向自動溶接装置1を固定して交差部Cを溶接するので、立向自動溶接装置1を図の右側の溶接箇所へ持って行き、位置調整具35の先端をロンジLのウエブW側に突出させる。そして、この位置調整具35のストッパ38を支持部材36に当接させた状態で位置調整具35の先端をウエブWに当接させ、その状態で磁石7をトランスTに固定する。これにより、立向自動溶接装置1をトランスTの所定位置に配置する作業が完了する。この時、位置調整具35の上下でウエブWと走行レール10との距離を調整しているので、走行レール10を交差部C(溶接線)と平行状態の配置距離Gで溶接装置を固定することが容易にできる。また、磁石7は走行レール10と全て同一距離Dに設けられているので、これらの磁石7をトランスTに固定することにより、走行レール10はトランスTと平行に設けられる。したがって、この状態で、走行レール10がトランスTと平行で、かつウエブWとも平行に固定された状態となる。このようにして立向自動溶接装置1をトランスTに固定すると、位置調整具35を後退させて格納する。
【0034】
次に、調節部16に設けられた4つの軸17,28,29,30を微調整することにより、溶接トーチ25の先端と交差部Cとの距離や角度が調整される。この調節は、走行レール10がトランスTと平行でかつロンジLと平行に設けられているので、溶接トーチ10の先端を容易に調節することができる。
【0035】
そして、制御箱23に設けられた作動スイッチ24を操作することにより、交差部Cの自動溶接が行われる。この自動溶接は、制御箱23内の制御回路により、台車本体15が走行レール10に沿って立向きに移動する速度、溶接トーチ25のウィービング動作等が制御される。この溶接は、溶接トーチ25が交差部Cの下部から上部に移動し、ロンジLの上端に設けられたフェイスプレートFの下面と近接した位置まで自動で行われる。
【0036】
一方、図2の左側に示す、トランスTとロンジLとの左側交差部Cを溶接する場合には、右側に示す立向自動溶接装置1の固定部2をトランスTから外し、その立向自動溶接装置1をロンジLの反対側である図の左側の溶接箇所へ持って行く。この場合、ロンジLのウエブWに立向自動溶接装置1を固定して交差部Cを溶接するので、位置調整具35の先端をトランスT側に突出させる。そして、この位置調整具35のストッパ38を支持部材36に当接させた状態で位置調整具35の先端をトランスTに当接させ、その状態で磁石7をロンジLに固定する。これにより、立向自動溶接装置1をロンジLの所定位置に配置する作業が完了する。このようにして立向自動溶接装置1をロンジLに固定すると、位置調整具35を後退させて格納する。また、この固定時に、磁石7にスペーサ12で支持された走行レール10と、この走行レール10に設けられた台車本体15に支持されたトーチホルダ27は、ロンジLの上端に設けられた横向きのフェイスプレートFと当接させることなく固定することができる。しかも、これら走行レール10と台車本体15に支持されたトーチホルダ27は、横向きのフェイスプレートFと平面視でも重なることなく固定することができる。また、前記トランスTへ立向自動溶接装置1を固定する場合と同様に、位置調整具35の上下でトランスTと走行レール10との距離を調整しているので、走行レール10を交差部C(溶接線)と平行状態の配置距離Gで溶接装置1を固定することが容易にできる。また、磁石7をウエブWに固定することにより、走行レール10はウエブWと平行に設けられる。したがって、この状態で、走行レール10がロンジLと平行で、かつトランスTとも平行に固定された状態となる。しかも、調節部16による溶接トーチ25の先端位置調節も、走行レール10がウエブWと平行でかつトランスTと平行に設けられているので、前記トランスT側に固定した場合と同様に、4つの軸17,28,29,30を微調整することによって容易にできる。
【0037】
そして、制御箱23に設けられた作動スイッチ24を操作することにより、交差部Cの自動溶接が行われる。この自動溶接も、制御箱23内の制御回路により、台車本体15が走行レール10に沿って移動する速度、溶接トーチ25のウィービング動作等が制御される。また、この溶接も、溶接トーチ25が交差部Cの下部から上部に移動し、ロンジLの上端に設けられたフェイスプレートFの下面と近接した位置まで自動で行われる。
【0038】
このように、前記立向自動溶接装置1によれば、この溶接装置をトランスT側に固定する作業も、ロンジLのウエブW側に固定する作業も迅速に行うことができるとともに、固定した状態で交差部Cを立向きに溶接する作業も安定して行うことができ、労力を軽減して大幅に効率を向上させた溶接作業を行うことが可能となる。
【0039】
なお、前記実施の形態では、船殻構造の壁であるトランスTを貫通するロンジLの交差部C(溶接線)を溶接する例を説明したが、他の構造物の立向き溶接線であっても同様に溶接することができ、船殻構造以外の構成であってもよい。
【0040】
また、前記実施の形態では船底外板54に対してトランスTとロンジLとが垂直に設けられた垂直の交差部C(溶接線)を溶接する例を説明したが、船底外板54以外の箇所も同様であり、交差部Cは垂直以外に傾斜している場合であっても同様に溶接することができる。
【0041】
さらに、前述した実施の形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る立向自動溶接装置は、多数の立向きの短い距離の交差部の溶接で、面材の上端に横向きの上部面材が設けられた交差部の溶接に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態を示す立向自動溶接装置の正面図である。
【図2】図1に示す立向自動溶接装置の平面図である。
【図3】図1に示す立向自動溶接装置の背面図である。
【図4】船殻構造の一例を示す船体中央左舷側横断面図である。
【図5】(a),(b) は、一般的なトランスとロンジとの交差部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1…立向自動溶接装置
2…固定部
3…ガイド部
4…走行台車部
5…溶接部
7…磁石
10…走行レール
11…案内溝
12…スペーサ
14…案内車輪
15…台車本体
16…調節部
17…左右スライド軸
18…操作ハンドル
19…駆動機構
20…ピニオン
21…ラック
22…走行モータ
23…制御箱
25…溶接トーチ
26…ウィービング装置
27…トーチホルダ
28…前後スライド軸
29…垂直回動軸
30…水平回動軸
31…操作ハンドル
35…位置調整具
I…所定間隔
D…距離
G…配置距離
T…トランス
L…ロンジ
W…ウエブ
F…フェイスプレート
C…交差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイスプレートとウエブとから成る立向きのロンジと、該ロンジと交差するように立向きに設けられた大骨との交差部を立向きに溶接する立向自動溶接装置であって、
前記立向きに設けられたロンジまたは大骨に固定する固定部と、該固定部に支持されて立向きに延びるガイド部と、該ガイド部に案内されて昇降する走行台車部と、該走行台車部の先端で前記交差部を溶接する溶接部とを備え、
前記ガイド部を、前記固定部を前記ロンジのウエブに固定した状態で該ガイド部が前記フェイスプレートと当接しない距離に設けたことを特徴とする立向自動溶接装置。
【請求項2】
前記固定部に前記ロンジまたは大骨に固定する磁石を設け、該磁石と前記立向きに延びるガイド部とを立向きに所定間隔で設けた複数のスペーサで接続した請求項1に記載の立向自動溶接装置。
【請求項3】
前記ガイド部に、立向きの走行レールと、該走行レールに設けた立向きの案内溝とを設け、
前記走行台車部に、前記走行レールの案内溝に沿って走行する案内車輪と、該案内車輪を駆動する駆動機構と、該案内車輪とともに移動する台車本体とを設け、
前記駆動機構を、前記台車本体に設けた駆動機と、該駆動機で駆動するピニオンと、前記走行レールに沿って設けたラックとで構成し、
前記駆動機と前記溶接部とを前記走行台車部を挟んで対向する位置に設けた請求項1又は請求項2に記載の立向自動溶接装置。
【請求項4】
前記走行台車部に、前記溶接部と前記交差部との水平方向位置を調節する調節部を設けた請求項1〜3のいずれか1項に記載の立向自動溶接装置。
【請求項5】
前記ガイド部と、前記固定部の反固定側に位置する前記ロンジのウエブまたは大骨との距離を調整する位置調整具を設けた請求項1〜4のいずれか1項に記載の立向自動溶接装置。
【請求項6】
前記位置調整具を、前記ガイド部の上下複数箇所に設けて位置調整するように構成した請求項5に記載の立向自動溶接装置。
【請求項7】
前記立向きに所定間隔で設けた複数のスペーサに、前記ガイド部と前記固定部の反固定側に位置する前記ロンジのウエブまたは大骨との距離を調整するU型の位置調整具をスライド可能に設けた請求項2に記載の立向自動溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−87057(P2008−87057A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272169(P2006−272169)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(502400005)株式会社川崎造船 (30)
【Fターム(参考)】