説明

立軸ポンプ

【課題】ポンプを引き上げることなくポンプを据え付けた状態で犠牲陽極の点検や防食用犠牲陽極の取替を容易に行うことができる立軸ポンプを提供する。
【解決手段】立軸ポンプは、回転軸22と、回転軸22に固定された羽根車20と、防食部位の腐食を防止するための犠牲陽極40、140と、犠牲陽極40,140を防食部位の近傍まで案内する導管50,150とを備えている。導管50,150は、犠牲陽極40,140と防食部位との間を流れる防食電流の流路となる開口部52,53,152を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立軸ポンプに係り、特に河川水や排水などの液体を揚水する立軸ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の犠牲陽極による防食を施した立軸ポンプを示す模式図である。図1に示すように、一般に、立軸ポンプは、水槽上部のポンプ据付床500に設置され、吊下管502を介して羽根車504を収容するケーシング506が吊り下げられる。このような立軸ポンプは、羽根車504やケーシング506が水中に浸漬された状態で運転され、使用時間の経過とともにこれらの部材に徐々に摩耗や腐食が起こる。このような羽根車504やケーシング506の防食対策としては、電極棒を用いて防食部位近傍に外部電源から防食電流を流す防食方法や卑の電位を有する犠牲陽極を防食部位近傍に設置する防食方法が採用されている。
【0003】
これらの防食方法のうち、犠牲陽極を用いる防食方法は、防食部位より電位が卑な材質で設置される犠牲陽極が防食部位の代わりに先行して腐食することを利用して防食部位の防食を行うものであるが、犠牲陽極が先に腐食して消耗してしまうとその後の防食効果がなくなるため、新たな犠牲陽極を設置する必要が生ずる。このような犠牲陽極は、通常、図1に示すように、防食効率の観点から防食部位の付近に設けられるため(例えば犠牲陽極508は吸込ベルマウス部506aに取り付けられており、犠牲陽極510は吊下管502に取り付けられている)、犠牲陽極の消耗度合いを確認する際や新たな犠牲陽極を取り付ける際には、水槽内の水を抜いて、水槽の内部に作業員が入って確認するか、あるいはポンプを引き上げて確認する必要がある。このため、維持管理上の負担が大きいとともに、適正な時期に犠牲陽極を交換することが難しいという問題がある。また、電極棒と外部電源を用いる防食方法においても、電源装置や電流を流す電極棒の点検・整備等が必要であるため、犠牲陽極を用いる防食方法と同様に維持管理上の問題が生じている。
【0004】
すなわち、立軸ポンプにおける犠牲陽極の点検や防食用犠牲陽極の取替を行う方法(維持管理方法)としては、1)ポンプを据え付けたまま行う方法と、2)ポンプを引き上げて行う方法とがある。1)の方法は、ポンプを引き上げずに済むため、費用が安く、かつ点検・取替にかかる期間も短くできる。しかしながら、この方法では、水槽内の水を排水してドライにして点検・取替を行わなければならず、常時ポンプの運転を行われなければならない設備や1台のポンプごとに水路を区切ることができない設備などでは採用できない。また、水槽内の水を排水してドライにした状態でも、地下での作業となり、作業者の足場が不安定であり、作業性が悪いという問題がある。
【0005】
また、上記2)の方法は、費用がかかり、点検・取替にかかる時間も長くなってしまう。例えば、天井クレーンを用いて立軸ポンプを引き上げる場合には、点検員となる機械技術者、作業員およびクレーンオペレータなどが必要となり、引き上げのために相当の作業費用を要する。また、重量物であるポンプの引き上げ、再組立作業は危険作業といえる。
【0006】
また、引き上げおよび点検作業は、引き上げ後に、点検整備を行い、その後、再設置、芯出し、試運転という工程を経なければならず、かなりの日数を要する。さらに、機場によっては、点検・取替時でも、常に必要量の排水をできる状態にしておく必要があるが、点検期間中は、点検を行っているポンプを運転することができないため、仮設ポンプを設置するなどして、排水能力を確保する必要がある。したがって、このような仮設ポンプを設置しない場合には、緊急時の排水に対応することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、ポンプを引き上げることなくポンプを据え付けた状態で犠牲陽極の点検や防食用犠牲陽極または電極棒の取替を容易に行うことができる立軸ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、ポンプを引き上げることなくポンプを据え付けた状態で犠牲陽極の点検や防食用犠牲陽極の取替を容易に行うことができる立軸ポンプが提供される。この立軸ポンプは、回転軸と、上記回転軸に固定された羽根車とを有している。また、この立軸ポンプは、防食部位の腐食を防止するための犠牲陽極と、上記犠牲陽極を上記防食部位の近傍まで案内する案内装置とを備えている。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、ポンプを引き上げることなくポンプを据え付けた状態で防食用電極棒の点検や取替を容易に行うことができる立軸ポンプが提供される。この立軸ポンプは、回転軸と、上記回転軸に固定された羽根車とを有している。また、この立軸ポンプは、電極棒と、上記電極棒に防食電流を供給する電源と、上記電極棒を防食部位の近傍まで案内する案内装置とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る立軸ポンプによれば、ポンプを引き上げることなくポンプを据え付けた状態で防食用犠牲陽極または電極棒の点検、取替を容易に行うことができ、ポンプの維持管理性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る立軸ポンプの実施形態について図2から図7(b)を参照して詳細に説明する。なお、図2から図7(b)において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0012】
図2は、本発明の第1の実施形態における立軸ポンプの要部を示す模式図である。図2に示すように、立軸ポンプ1は、吸込ベルマウス10および吐出ボウル12を有するガイドケーシング14と、ガイドケーシング14を水槽内に吊り下げる吊下管16と、ガイドケーシング14内に収容された羽根車20と、羽根車20が固定された回転軸22とを備えている。
【0013】
吊下管16は、水槽上部のポンプ据付床24に形成された挿通孔26を通って下方に延び、吊下管16の上端に設けられたポンプベース28を介してポンプ据付床24に固定されている。回転軸(立軸)22は、吊下管16、およびガイドケーシング14内を通って鉛直方向に延びている。ガイドケーシング14および吊下管16によりポンプケーシング30が構成されている。なお、ポンプ据付床24より上にある床上部Fは点検が可能な領域であり、ポンプ据付床24より下にある水槽部Uは没水される領域である。
【0014】
図2に示すように、吸込ベルマウス10は下方に開口しており、吸込ベルマウス10の上端は吐出ボウル12の下端に固定されている。羽根車20は回転軸22の下端に固定されており、羽根車20と回転軸22とは一体的に回転するようになっている。この羽根車20は複数の羽根32を有し、羽根車20の上方(吐出側)には複数のガイドベーン34が配置されている。これらのガイドベーン34はガイドケーシング14の内周面に固定されている。
【0015】
また、回転軸22は水中軸受36、中間軸受(図示せず)、および外軸受(図示せず)により回転自在に支持されている。水中軸受36は吐出ボウル12の内部に収容されており、羽根車20の近傍で回転軸22を回転自在に支持している。水中軸受36、中間軸受、および外軸受は、回転軸22に滑りまたはころがり接触する、いわゆる滑り軸受またはころがり軸受である。回転軸22の上端は、原動機(図示せず)の駆動軸に連結されている。この原動機により回転軸22を介して羽根車20を回転させると、水槽内の水(取扱液)が吸込ベルマウス10から吸い込まれ、吐出ボウル12、吊下管16を通って図示しない吐出配管に移送される。なお、立軸ポンプ1の運転時は、羽根車20は、水面よりも下に位置している。
【0016】
ここで、吊下管16の側部には、防食部位である吸込ベルマウス10の腐食を防止するための犠牲陽極40を吸込ベルマウス10の近傍まで案内する案内装置としての導管50が設置されている。すなわち、導管50は吊下管16の横に配置され、その下端は吸込ベルマウス10の近傍に位置しており、上端はポンプ据付床24の上方に位置している。
【0017】
図3(a)は導管50の縦断面図、図3(b)は図3(a)の底面図である。図3(a)に示すように、犠牲陽極40は引上線51に接続されており、引上線51によりポンプ据付床24まで引き上げることができるようになっている。このようにして、犠牲陽極40は、導管50の上端から導管50内に挿入されて、引上線51により導管50の下端の近傍まで降下され、導管50内に設置される。この引上線51は、犠牲電極よりも貴な電位を持つワイヤや繊維などの犠牲陽極40の防食効果を損なわない材質で構成される。
【0018】
犠牲陽極40を導管50内に吊り下げる場合には、引上線51に接続された質量系の重量の変化を計測することにより、犠牲陽極40の消耗量を検出することができる。あるいは、引上線51により犠牲陽極40を引き上げて、直接目視により犠牲陽極40の消耗量を確認してもよい。
【0019】
また、図3(a)および図3(b)に示すように、犠牲陽極40が配置される部分の導管50には、犠牲陽極40と防食部位との間を流れる防食電流の流路となる開口部52,53が形成されている。図示した例では、導管50の側面に開口部52が形成され、導管50の底面に開口部53が形成されている。これらの開口部52,53は、スリット状のものであってもよいし、メッシュ状のものであってもよい。
【0020】
また、本実施形態においては、図2に示すように、吊下管16の腐食を防止するために、犠牲陽極140を吊下管16の側部まで案内する案内装置としての導管150も設置されている。この導管150は、内部に犠牲陽極140を収容した状態で、吊下管16の側部に設けられたサポート60に取り付けられており、取付部は着脱可能としてもよい。導管150内の犠牲陽極140は、上述した犠牲陽極40と同様に引上線151により導管150内に設置されている。なお、この引上線151は、犠牲電極よりも貴な電位を持つワイヤや繊維などの犠牲陽極140の防食効果を損なわない材質で構成される。また、導管150の側面には、犠牲陽極140と防食部位との間を流れる防食電流の流路となる開口部152が形成されている。なお、この開口部152は、スリット状のものであってもよいし、メッシュ状のものであってもよい。
【0021】
ここで、上述した引上線51,151に代えて、図4(a)に示すように、犠牲陽極40または140に引上棒251を接続してこの引上棒251により犠牲陽極40または140を支持してもよい。この引上棒251は、犠牲電極よりも貴な電位を持つ導電棒やプラスチック棒などの犠牲陽極40または140の防食効果を損なわない材質で構成される。この場合において、犠牲陽極40または140の上部に錘252を配置してもよい。例えば、引上棒251の上部に基準マーカー251aを設けておけば、犠牲陽極40または140が消耗して錘252が下がった場合には、引上棒251の基準マーカー251aの位置も下がるため、基準マーカー251aの位置を測定することで犠牲陽極40または140の消耗量を検出することができる。この場合において、基準マーカー251aを複数の目盛りにより構成すれば、犠牲陽極40または140の消耗量が一目で分かる。
【0022】
また、犠牲陽極40または140が消耗した場合に飛散することを防止するために、図4(b)に示すように、犠牲陽極40または140を覆うカバー253を設けてもよい。このカバー253には、犠牲陽極40または140と防食部位との間を流れる防食電流の流路となる多数の孔(開口部)254が形成されている。また、消耗により小さくなった犠牲陽極40または140が水流によって暴れないように、カバー253の上方に錘255を配置してもよい。カバー253は、図4(b)に示すような袋状のものであってもよいし、あるいは、図4(c)に示すように箱状のカバー253aであってもよい。
【0023】
図5は、本発明の第2の実施形態における立軸ポンプの要部を示す模式図である。本実施形態においては、防食部位である羽根車20の近傍まで犠牲陽極を案内する案内装置として管路が曲げられた導管250が設けられている。この導管250内に投入される犠牲陽極は、細分化された複数の犠牲陽極片または粒240により構成されている。このように、犠牲陽極を細分化された複数の犠牲陽極片または粒240により構成することにより、案内装置としての導管250を湾曲させることが可能となり、犠牲陽極を立軸ポンプの任意の防食部位の近傍に配置することが可能となる。
【0024】
また、本実施形態においては、防食部位である吸込ベルマウス10の近傍まで犠牲陽極を案内する案内装置として導管350も設けられているが、この導管350の吸込ベルマウス10との接続部分350aは、導管350の投入口350bよりも開口面積が大きくなっており、吸込ベルマウス10に向かって末広がり状になっている。この導管350にも犠牲陽極として細分化された複数の犠牲陽極片または粒340が投入されるようになっている。このように、細分化された複数の犠牲陽極片または粒340を用いることで、導管350の防食部位近傍350aの開口面積を投入口350bよりも大きくすることができるため、犠牲陽極340が配置される防食部位近傍の面積を大きくすることができ、防食効果を向上することができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、それぞれの導管250,350にファイバスコープなどを挿入して導管250,350内部の様子を観察することで、犠牲陽極240,340の消耗量を確認することができる。
【0026】
図6は、本発明の第3の実施形態における立軸ポンプの要部を示す模式図である。本実施形態においては、上述した第1の実施形態における犠牲陽極40に代えて電極棒440が用いられており、この電極棒440には外部電源441からケーブル442を介して防食電流が供給されるようになっている。電極棒440は、導管50の上端から導管50内に挿入されて、ケーブル442により導管50の下端の近傍まで降下され、導管50内に吊り下げられる。また、同様に、第1の実施形態における犠牲陽極140に代えて電極棒540が用いられており、この電極棒540には外部電源(図示せず)からケーブル542を介して防食電流が流されるようになっている。
【0027】
ここで、例えば、図7(a)に示すように、導管50の底部に斜面を有する電極ガイド551を設けるとともに、この電極ガイド551の斜面に係合する治具552を電極棒440の上部に設け、治具552を電極ガイド551に係合させることで電極棒440の位置決めを行うこととしてもよい。また、図7(a)および図7(b)に示すように、電極棒440が配置される部分の導管50には、犠牲陽極40と防食部位との間を流れる防食電流の流路となる開口部552,553が形成されている。図示した例では、導管50の側面に開口部552が形成され、導管50の底面に開口部553が形成されている。これらの開口部552,553は、スリット状のものであってもよいし、メッシュ状のものであってもよい。
【0028】
なお、上述した各実施形態においては、導管50,150,250,350が矩形状の断面を有する場合について述べたが、これに限られるものではない。例えば、導管50,150,250,350の断面形状を円形や楕円形にしてもよい。
【0029】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の立軸ポンプを示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における立軸ポンプの要部を示す模式図である。
【図3】図3(a)は図2に示す立軸ポンプの導管を示す縦断面図、図3(b)は図3(a)の底面図である。
【図4】図4(a)は図2に示す導管の第1の変形例を示す縦断面図、図4(b)は第2の変形例を示す縦断面図、図4(c)は第3の変形例を示す横断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態における立軸ポンプの要部を示す模式図である。
【図6】本発明の第3の実施形態における立軸ポンプの要部を示す模式図である。
【図7】図7(a)は図6に示す立軸ポンプの導管を示す縦断面図、図7(b)は図7(a)の底面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 吸込ベルマウス
12 吐出ボウル
14 ガイドケーシング
16 吊下管
20 羽根車
22 回転軸
40,140 犠牲陽極
50,150,250,350 導管
51,151 引上線
52,53,152,552,553 開口部
240,340 犠牲陽極片または粒
251 引上棒
252,255 錘
253 カバー
441 外部電源
440,540 電極棒
442,542 ケーブル
551 電極ガイド
552 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と前記回転軸に固定された羽根車とを有する立軸ポンプであって、
防食部位の腐食を防止するための犠牲陽極と、
前記犠牲陽極を前記防食部位の近傍まで案内する案内装置と、
を備えたことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項2】
前記案内装置は、前記犠牲陽極と前記防食部位との間を流れる防食電流の流路となる開口部を有することを特徴とする請求項1に記載の立軸ポンプ。
【請求項3】
前記案内装置は、前記犠牲陽極に接続され該犠牲陽極を引き上げ可能な引上線または引上棒を有することを特徴とする請求項1または2に記載の立軸ポンプ。
【請求項4】
前記犠牲陽極は、細分化された複数の犠牲陽極片または粒から構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の立軸ポンプ。
【請求項5】
前記案内装置は、前記犠牲陽極が設置される位置近傍の開口面積が案内部に対して相対的に大きくなっていることを特徴とする請求項4に記載の立軸ポンプ。
【請求項6】
前記案内装置は、前記犠牲陽極を覆い、前記犠牲陽極と前記防食部位との間を流れる防食電流の流路となる開口部を有するカバーを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の立軸ポンプ。
【請求項7】
前記案内装置は、前記犠牲陽極を内部に収容した状態で前記防食部位の近傍に着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の立軸ポンプ。
【請求項8】
回転軸と前記回転軸に固定された羽根車とを有する立軸ポンプであって、
電極棒と、
前記電極棒に防食電流を供給する電源と、
前記電極棒を防食部位の近傍まで案内する案内装置と、
を備えたことを特徴とする立軸ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−309097(P2007−309097A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135934(P2006−135934)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】