説明

竪型ローラミルのイナート装置

【課題】竪型ローラミルが緊急停止した場合、更に竪型ローラミルを含むシステムが異常停止した場合でも、竪型ローラミルのイナート化が可能であると共に、竪型ローラミルの内圧を上昇させずに竪型ローラミルのイナート化を行う竪型ローラミルのイナート装置を提供する。
【解決手段】竪型ローラミル1のシール部にシール空気を供給するシール空気供給手段12,14と、前記シール部にイナートガスとして不活性ガスを供給するイナートガス供給手段15,16と、前記シール空気供給手段と前記イナートガス供給手段とを切替えるシール空気イナートガス切替え手段13,20とを有し、該シール空気イナートガス切替え手段は、前記竪型ローラミルが稼働時にはシール部にシール空気を供給し、前記竪型ローラミルが緊急停止時にはシール部にイナートガスを供給し、前記竪型ローラミルの内部をイナート化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は竪型ローラミルが緊急停止した場合に、竪型ローラミル内に残置する石炭の自然発火を防止する竪型ローラミルのイナート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
竪型ローラミルは、粉砕ローラにより塊状の石炭を粉砕して微粉炭とし、微粉炭を搬送用空気により、微粉炭バーナに送給する様になっている。
【0003】
竪型ローラミルが稼働中に、異常を生じる等して緊急停止した場合、ミル内には粉砕され微粉状態となった石炭が残置する。又、竪型ローラミル内に供給される搬送用空気は、所定の温度迄熱せられており、緊急停止した状態では竪型ローラミル内部は高い雰囲気温度となっている。この為、微粉炭が高温の雰囲気に長時間曝されていると、自然発火する虞れがある。
【0004】
従来、竪型ローラミルが緊急停止した場合に、自然発火を防止するイナート装置としては、特許文献1及び特許文献2に示されるものがある。
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載されたイナート装置は、緊急停止時に竪型ローラミル内部に蒸気を供給し、内部の酸素濃度を低下させ、内部をイナート化するものである。
【0006】
蒸気をイナート化ガスとして供給した場合、供給する蒸気は飽和蒸気であり、蒸気中に水分を含むことは避けられない。この為、蒸気中の水分が竪型ローラミル内部で蒸発し、内圧を上昇させる。
【0007】
更に、竪型ローラミルでは、粉砕ローラ等の回転部の軸受に微粉炭が浸入しない様に、軸受部にシール部が設けられ、シール部にシール用の空気を供給している。竪型ローラミルの内圧が上昇すると、シール部に微粉炭が浸入し易くなるので、シール部にはシール用空気を供給し続けなければならない。又、シール用空気は当然酸素を含んでいるので、シール用空気により内部の酸素濃度が上昇しない様に、供給する蒸気量は多くなる。更に、シール空気を供給し続けることで、イナート化ガスとしての蒸気の供給も行う必要があり、竪型ローラミル内部の内圧がやはり上昇する。竪型ローラミルは気密構造に構成されているが、耐圧構造ではないので、内圧が上昇することは好ましくない。
【0008】
更に、イナート化ガスとしての蒸気は、竪型ローラミルを含むボイラシステムのラインから抽出して供給される為、ボイラシステム自体が非常停止した場合等では、蒸気の供給が行われず、竪型ローラミルのイナート化ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−29760号公報
【特許文献2】特開2001−29835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は斯かる実情に鑑み、竪型ローラミルが緊急停止した場合、更に竪型ローラミルを含むシステムが異常停止した場合でも、竪型ローラミルのイナート化が可能であると共に、竪型ローラミルの内圧を上昇させずに竪型ローラミルのイナート化を行う竪型ローラミルのイナート装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、竪型ローラミルのシール部にシール空気を供給するシール空気供給手段と、前記シール部にイナートガスとして不活性ガスを供給するイナートガス供給手段と、前記シール空気供給手段と前記イナートガス供給手段とを切替えるシール空気イナートガス切替え手段とを有し、該シール空気イナートガス切替え手段は、前記竪型ローラミルが稼働時にはシール部にシール空気を供給し、前記竪型ローラミルが緊急停止時にはシール部にイナートガスを供給し、前記竪型ローラミルの内部をイナート化する竪型ローラミルのイナート装置に係るものである。
【0012】
又本発明は、非常用電源を別途有し、前記イナートガス供給手段は前記シール空気供給手段とは別系統で設けられ、前記竪型ローラミルが緊急停止時には前記シール空気イナートガス切替え手段は前記非常用電源によって作動し、緊急停止時にシール部にイナートガスを供給する竪型ローラミルのイナート装置に係るものである。
【0013】
又本発明は、制御部と検知器とを有し、該検知器は前記竪型ローラミルの緊急停止を検知し、前記制御部は検知結果に基づき前記シール空気イナートガス切替え手段を作動させ、前記竪型ローラミルが緊急停止時にシール部にイナートガスを供給する竪型ローラミルのイナート装置に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、竪型ローラミルのシール部にシール空気を供給するシール空気供給手段と、前記シール部にイナートガスとして不活性ガスを供給するイナートガス供給手段と、前記シール空気供給手段と前記イナートガス供給手段とを切替えるシール空気イナートガス切替え手段とを有し、該シール空気イナートガス切替え手段は、前記竪型ローラミルが稼働時にはシール部にシール空気を供給し、前記竪型ローラミルが緊急停止時にはシール部にイナートガスを供給し、前記竪型ローラミルの内部をイナート化するので、イナート化が不活性ガスによって行われ、蒸気を含まないので蒸気中の水分が蒸発して内圧が上昇することがなく、又イナートガスがシール部のシールガスを兼用するので、シール部からの空気の供給がなくなり、イナート化の時間が短縮する等の優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例に係る竪型ローラミルのイナート装置を示している。
【0018】
図1中、1は竪型ローラミルを示し、該竪型ローラミル1は密閉されたケーシング2を有し、該ケーシング2は粉砕テーブル収納部3、粉砕部4、分級部5を有している。
【0019】
前記粉砕テーブル収納部3には、粉砕テーブル(図示せず)が収納され、前記粉砕部4には粉砕テーブル上を転動し、塊状の石炭を粉砕する粉砕ローラ(図示せず)が収納され、前記分級部5にはブレードを高速で回転させ、粉砕された石炭(以下、微粉炭)を所定粒径以下に分級する分級機(図示せず)が収納されている。
【0020】
前記粉砕テーブル収納部3には、搬送用空気供給管6が連通され、該搬送用空気供給管6には開閉ダンパ7が設けられ、該開閉ダンパ7が開状態で、搬送用空気を粉砕テーブルの下方に供給する様になっている。
【0021】
又、前記ケーシング2の天井部から石炭供給管8が内部に挿通され、該石炭供給管8から塊状の石炭が粉砕テーブルの中心部に供給され、塊状の石炭は粉砕テーブル上で粉砕ローラによって粉砕され、粉砕された微粉炭は粉砕テーブルの周囲から前記搬送用空気によって吹上げられ、前記分級部5の分級機で所定粒径以下に分級される。
【0022】
前記分級部5には複数の微粉炭送給管9が連通され、該微粉炭送給管9は、カットダンパ11を備え、図示しない微粉炭バーナにそれぞれ接続されている。
【0023】
前記粉砕テーブル収納部3、前記粉砕部4、前記分級部5の回転部、例えば前記粉砕テーブル収納部3に収納されている粉砕テーブルの回転軸の軸受部、前記粉砕部4に収納されている粉砕ローラの軸受部、前記分級部5に収納されている分級機の回転軸の軸受部等にはシール部が設けられ、シール部にシール空気供給ライン12が接続される。該シール空気供給ライン12は開閉弁13を介してシール空気供給源14に接続されている。前記シール空気供給ライン12は、前記開閉弁13が開放された状態で、シール空気をシール部に供給し、シール部及び軸受部への微粉炭の浸入を防止する。
【0024】
又、前記シール空気供給ライン12とは分離し、ラインを構成する配管、弁等が別途設けられ、別系統となっている予備シールガス供給ライン15を設け、該予備シールガス供給ライン15を粉砕テーブル収納部3、前記粉砕部4、前記分級部5のシール部にそれぞれ接続すると共にイナートガス供給源16に接続する。該イナートガス供給源16は、シールドガスとして窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス或は、炭酸ガス等の不燃性ガス(以下、不活性ガス及び不燃性ガスを総称して不活性ガスとする)のイナートガスを供給するものであり、例えば、所要数の窒素ガスボンベ等から構成される。
【0025】
前記予備シールガス供給ライン15には、予備開閉弁20が設けられ、該予備開閉弁20は定常時は閉となっており、電源切替え部19を介して竪型ローラミル1を駆動する通常電源17、或は別途設けられた非常電源18に接続されている。
【0026】
前記予備開閉弁20は定常時は閉となっており、前記電源切替え部19を介して前記通常電源17、前記非常電源18のいずれかから電力が供給されることで開となる様になっている。
【0027】
ここで、前記シール空気供給ライン12、前記シール空気供給源14等はシール空気供給手段を構成し、前記予備シールガス供給ライン15、前記イナートガス供給源16等は、イナートガス供給手段を構成し、前記開閉弁13、前記予備開閉弁20等はシール空気イナートガス切替え手段を構成する。
【0028】
前記竪型ローラミル1の駆動を制御する制御部21は、前記開閉ダンパ7、前記カットダンパ11、前記開閉弁13、前記予備開閉弁20を所要のタイミングで、所要の状態となる様に開閉する。
【0029】
前記竪型ローラミル1には検知器22が設けられ、該検知器22は前記竪型ローラミル1の異常、例えば内部の温度が上限値迄上昇した場合、或は自励振動が発生した場合等を検知し、異常信号として前記制御部21に出力する。該制御部21は異常信号に基づき、前記開閉ダンパ7、前記カットダンパ11、前記開閉弁13、前記予備開閉弁20の開閉を予め設定された状態に制御する。
【0030】
以下、作動について説明する。
【0031】
先ず、定常状態で前記竪型ローラミル1が稼働している場合は、前記電源切替え部19は前記通常電源17と前記予備開閉弁20とを接続しており、該予備開閉弁20は閉の状態にある。
【0032】
又、前記開閉ダンパ7、前記カットダンパ11、前記開閉弁13は開の状態であり、前記粉砕テーブル収納部3には所定温度(例えば200℃)に加熱された搬送用空気が供給され、前記粉砕テーブル収納部3、前記粉砕部4、前記分級部5の回転部には前記シール空気供給ライン12からシール空気が供給されている。
【0033】
前記粉砕部4で粉砕された微粉炭は前記分級部5で所定粒径以下の微粉炭に分級され、搬送用空気との混合流として前記微粉炭送給管9より微粉炭バーナ(図示せず)に送給される。
【0034】
次に、前記検知器22が竪型ローラミル1の異常を検出すると、前記制御部21が前記竪型ローラミル1を緊急停止する。尚、この緊急停止は、前記竪型ローラミル1単体が異常を生じた場合で、該竪型ローラミル1を含む微粉炭燃焼システム等、上位のシステムは正常に動いている場合である。
【0035】
前記制御部21は、前記開閉ダンパ7、前記カットダンパ11、前記開閉弁13を全閉とし、前記通常電源17より前記予備開閉弁20に電力を供給して、該予備開閉弁20を開とする。
【0036】
該予備開閉弁20が開とされることで、前記イナートガス供給源16から窒素ガス等のイナートガスが前記粉砕テーブル収納部3、前記粉砕部4、前記分級部5のシール部にシールガスとして供給される。
【0037】
シールガス(イナートガス)は、所定の圧力でシール部を流動することで、回転部、シール部に微粉炭の浸入を抑制するものであり、流動したシールガスはシール部よりイナートガスとしてケーシング2内部に流入する。前記開閉ダンパ7、前記開閉弁13は全閉であり、外部からの空気の流入は停止される。従って、シール部よりケーシング2内部にイナートガスが流入することで、前記ケーシング2内部の空気がイナートガスによって希釈される。尚、希釈後の酸素濃度は、18%以下となればよい。ここで、供給されるイナートガスには、水分は含まれていないので、水分の蒸発による内圧の上昇は回避される。
【0038】
通常、シールガスとして使用されるガスの流量は、竪型ローラミル1の規模にもよるが、3t/h〜10t/hであり、酸素濃度を希釈するイナートガス流量としては充分である。尚、イナートガスとして蒸気を供給する従来の竪型ローラミルのイナート装置で、イナートガス供給量としては5t/h程度である。
【0039】
従って、本実施例の場合、外部からの酸素の流入は完全に遮断されることから、一層迅速に前記竪型ローラミル1内部をイナート化でき、更に供給するイナートガス流量も少なくて済む。
【0040】
次に、前記竪型ローラミル1を含む微粉炭燃焼システム等、上位のシステムが緊急停止した場合で、前記通常電源17が停止した場合を説明する。
【0041】
前記制御部21はシステムが停止する際に、前記電源切替え部19に切替え信号を発し、前記非常電源18と前記予備開閉弁20とを接続する。或は、前記電源切替え部19を前記制御部21からの制御信号が途絶えた場合に、前記非常電源18と前記予備開閉弁20とが接続される様に構成しておく。
【0042】
前記通常電源17を含む前記竪型ローラミル1が緊急停止した場合、前記非常電源18と前記予備開閉弁20とが接続され、前記非常電源18から前記予備開閉弁20に給電され、該予備開閉弁20が開の状態となる。前記イナートガス供給源16から、前記粉砕テーブル収納部3、前記粉砕部4、前記分級部5のシール部にイナートガスが供給され、更にシール部を経て竪型ローラミル1内部にイナートガスが供給され、竪型ローラミル1内部をイナート化する。
【0043】
ここで、前記予備シールガス供給ライン15は、前記シール空気供給ライン12とは別系統で設けられており、該シール空気供給ライン12に設けられている各種弁、例えば流量調整弁等は独立して調整可能であり、前記制御部21の制御の必要がないので、該制御部21が作動しない場合もイナートガスの供給に支障はない。従って、前記シール空気供給ライン12に設けられている、所要の弁が前記制御部21の停止により、作動不能となった場合でも、イナートガスの供給に支障が生じることもない。
【0044】
尚、前記予備開閉弁20を手動による開閉とし、前記通常電源17、前記非常電源18からの電力の供給を省略してもよい。
【0045】
又、前記予備シールガス供給ライン15を省略し、前記シール空気供給ライン12を利用して、イナートガスをシール部に供給する様にしてもよい。この場合、前記開閉弁13と前記予備開閉弁20とを切替弁として一体化し、切替弁の作動により、前記シール空気供給源14と前記イナートガス供給源16との切換えを行う様にしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 竪型ローラミル
2 ケーシング
3 粉砕テーブル収納部
4 粉砕部
5 分級部
6 搬送用空気供給管
7 開閉ダンパ
8 石炭供給管
9 微粉炭送給管
11 カットダンパ
12 シール空気供給ライン
13 開閉弁
14 シール空気供給源
15 予備シールガス供給ライン
16 イナートガス供給源
17 通常電源
18 非常電源
19 電源切替え部
20 予備開閉弁
21 制御部
22 検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪型ローラミルのシール部にシール空気を供給するシール空気供給手段と、前記シール部にイナートガスとして不活性ガスを供給するイナートガス供給手段と、前記シール空気供給手段と前記イナートガス供給手段とを切替えるシール空気イナートガス切替え手段とを有し、該シール空気イナートガス切替え手段は、前記竪型ローラミルが稼働時にはシール部にシール空気を供給し、前記竪型ローラミルが緊急停止時にはシール部にイナートガスを供給し、前記竪型ローラミルの内部をイナート化することを特徴とする竪型ローラミルのイナート装置。
【請求項2】
非常用電源を別途有し、前記イナートガス供給手段は前記シール空気供給手段とは別系統で設けられ、前記竪型ローラミルが緊急停止時には前記シール空気イナートガス切替え手段は前記非常用電源によって作動し、緊急停止時にシール部にイナートガスを供給する請求項1の竪型ローラミルのイナート装置。
【請求項3】
制御部と検知器とを有し、該検知器は前記竪型ローラミルの緊急停止を検知し、前記制御部は検知結果に基づき前記シール空気イナートガス切替え手段を作動させ、前記竪型ローラミルが緊急停止時にシール部にイナートガスを供給する請求項1又は請求項2の竪型ローラミルのイナート装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−254429(P2012−254429A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129975(P2011−129975)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】