説明

竪型炉内の溶融物レベルの計測方法およびその装置

【課題】より正確に溶融物レベルを計測することができる竪型炉内の溶融物レベルの計測方法およびその装置を提供すること。
【解決手段】竪型炉の外周にわたって高さ方向に配列した少なくとも4本の電極からなる計測用電極群を複数設置する工程と、各計測用電極群において最上下部に位置する2本の電流印加用電極に強度が矩形状に変化する信号パターンの信号電流を印加する工程と、各計測用電極群において電流印加用電極を除いた少なくとも2本の電圧検出用電極間の電圧を検出する工程と、検出電圧または該電圧と信号電流とで算出した電気抵抗にもとづき、各計測用電極群の設置位置近傍における竪型炉内の溶融物レベルを計測する工程とを含み、計測用電極群内の各電極が略直線状に並びかつ各計測用電極群間の対応する電極同士の高さが一致するように各電極を配列し、信号電流の立上り/立下りタイミングが各計測用電極群間で互いに一致するように印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竪型炉内の溶融物レベルの計測方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
竪型炉とは、炉頂から原料を投入し、炉下部から溶融金属を取り出す炉の総称である。竪型炉の中でも、製鉄業における溶鉱炉(高炉)は製鉄所における製造工程の最上流工程に位置するため、その操業の安定化技術が重要視されている。たとえば、高炉内の溶融物の液面のレベル(溶融物レベル)が上昇すると、高炉の操業状況(炉況)が不安定となり、高炉の生産物たる銑鉄の減産を生ずる場合がある。したがって、高炉内の溶融物レベルを計測することは安定した高炉の操業を行うために不可欠な技術である。
【0003】
溶融物レベルの計測方法としては、例えば特許文献1に開示された技術がある。この特許文献1に開示された方法では、溶鉱炉側面に高さ方向に少なくとも4本の電極を設け、該電極のうち最上部および最下部に設けた2本の電極を電流印加用電極として電流を印加し、該電流印加用電極以外の電極を電圧検出用電極として電圧を計測することによって、該計測した電圧または該電圧にもとづき算出した電気抵抗の変化から溶鉱炉内の溶融物レベルを把握する。特に、この方法では、電圧検出用電極を溶鉱炉の出銑孔より上部に設けて、溶融物レベルを計測するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−176849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶融物レベルは、高炉の円周方向で偏差がある場合がある。従来の計測方法では計測用電極が設置される位置の近傍の溶融物レベルしか計測できないため、上述したような溶融物レベルの偏差がある場合、正確な溶融物レベルの計測ができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、より正確に溶融物レベルを計測することができる竪型炉内の溶融物レベルの計測方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る竪型炉内の溶融物レベルの計測方法は、竪型炉の外周にわたって、該竪型炉の高さ方向に配列した少なくとも4本の電極からなる計測用電極群を複数設置する設置工程と、前記設置した各計測用電極群において最上部および最下部に位置する2本の電流印加用電極に強度が矩形状に変化する信号パターンを有する信号電流を印加する電流印加工程と、前記各計測用電極群において電流印加用電極を除いた少なくとも2本の電圧検出用電極間の電圧を検出する電圧検出工程と、前記検出した電圧または該電圧と前記信号電流とを用いて算出した電気抵抗にもとづき、前記各計測用電極群の設置位置近傍における前記竪型炉内の溶融物レベルを計測する溶融物レベル計測工程と、を含み、前記設置工程において、前記計測用電極群内の各電極が略直線状に並び、かつ該各計測用電極群間の対応する前記電流印加用電極同士および前記電圧検出用電極同士の高さが一致するように該各電極を配列し、前記電流印加工程において、前記信号電流の立ち上がり/立ち下がりのタイミングが前記各計測用電極群間で互いに一致するように該信号電流を印加することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る竪型炉内の溶融物レベルの計測装置は、少なくとも4本の電極からなり、該4本の電極が竪型炉の高さ方向に配列するように該竪型炉の外周にわたって設置される複数の計測用電極群と、前記各計測用電極群において最上部および最下部に位置する2本の電流印加用電極に接続し、該電流印加用電極に強度が矩形状に変化する信号パターンを有する信号電流を印加する電流印加手段と、前記各計測用電極群において電流印加用電極を除いた少なくとも2本の電圧検出用電極に接続し、該電圧検出用電極間の電圧を検出する電圧検出手段と、前記検出した電圧または該電圧と前記信号電流とを用いて算出した電気抵抗にもとづき、前記各計測用電極群の設置位置近傍における前記竪型炉内の溶融物レベルを計測する溶融物レベル計測手段と、を備え、前記各計測用電極群は、該計測用電極群内の各電極が略直線状に並び、かつ該各計測用電極群間の対応する前記電流印加用電極同士および前記電圧検出用電極同士の高さが一致するように配列しており、前記電流印加手段は、前記信号電流の立ち上がり/立ち下がりのタイミングが前記各計測用電極群間で互いに一致するように該信号電流を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、竪型炉の外周にわたって計測用電極群を複数設置し、各計測用電極群の設置位置近傍における溶融物レベルをより正確に計測できるので、竪型炉の円周方向において溶融物レベルの偏差があったとしても、より正確に溶融物レベルを計測することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図面を参照して本発明に係る竪型炉内の溶融物レベルの計測方法およびその装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下では、竪型炉が高炉である場合について説明する。
【0011】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る高炉内の溶融物レベルの計測装置100(以下、計測装置と称する)の概略構成、およびこの計測装置100を適用すべき高炉10の下部の鉄皮11を展開した状態を模式的に示した図である。なお、この高炉10は、その炉頂部よりコークスとともに原料となる鉄鉱石が投入されると、羽口13から圧送される熱風により投入された鉄鉱石を還元して溶銑を生成し、この溶銑を炉底部に貯留し、一定時間間隔毎に出銑孔12a〜12dから溶銑を高炉外へ排出するものである。
【0012】
図1に示すように、計測装置100は、信号発生装置1と、信号発生装置1に接続した電流発生器2a〜2dと、電流発生器2a〜2dのそれぞれに接続した電流印加用電極3a〜3d、4a〜4dと、電圧検出用電極5a〜5d、6a〜6dと、電圧検出用電極5a〜5d、6a〜6dのそれぞれに接続した電圧検出/計測装置7a〜7dと、電圧検出/計測装置7a〜7dのそれぞれに接続したデータ処理装置8とを備える。以下、各構成要素とともに、本実施の形態に係る溶融物レベルの計測方法について説明する。
【0013】
信号発生装置1は、強度が矩形状に変化する所定の信号パターンの信号電圧を出力する。電流発生器2a〜2dは、それぞれ信号発生装置1に接続し、信号発生装置1が出力した信号電圧を受付け、強度が矩形状に変化する信号パターンの信号電流を出力する。また、電流発生器2a〜2dは、この信号電流の電流値と信号パターンとを参照信号として電圧検出/計測装置7a〜7dに出力する。
【0014】
電流印加用電極3a〜3d、4a〜4dと、電圧検出用電極5a〜5d、6a〜6dとは、高炉10の外周にわたって設置されている。電流印加用電極3a、4aと、電圧検出用電極5a、6aは、1つの計測用電極群Gaを構成している。その他の電流印加用電極3b〜3d、4b〜4dと、電圧検出用電極5b〜5d、6b〜6dも、それぞれ図1に示すような計測用電極群Gb〜Gdを構成している。
【0015】
上記のように、計測用電極群Gaは、4本の電極3a〜6aからなり、これらの4本の電極3a〜6aは、高炉10の高さ方向に直線L1に沿って略直線状に並び、電流印加用電極3a、4aがそれぞれ最上部、最下部に位置するように配列している。また、計測用電極群Gaは、出銑孔12aの近傍に設置されている。
【0016】
図2は、図1に示す高炉10の下部の模式的な断面および電極の設置位置を示した図である。なお、図2においては、位置関係の説明のために、羽口13、電極3a〜6a、出銑孔12aを含むような切断面としている。図2に示すように、高炉10は、溶銑14aとその上層に位置するスラグ14bからなる溶融物14を貯留できる導電性のカーボンレンガ15と、カーボンレンガ15の外周を覆う鉄皮11と、カーボンレンガ15と鉄皮11の間に設置された緩衝材としてのスタンプ材16とを備えている。そして、4本の電極3a〜6aは、鉄皮11とスタンプ材16とを貫通する貫通孔hに挿入され、カーボンレンガ15の表面に接触している。
【0017】
また、電流印加用電極3a、4aは、出銑孔12aの上下に設置され、上側の電流印加用電極3aは、羽口13直下のカーボンレンガ15最上部近傍に設置されている。また、電圧検出用電極5aは、電流印加用電極3aよりも下でかつ想定される溶融物14の上面レベル(=スラグ14bの上面レベル)よりも上になるように設置する。溶融物14の上面レベルは、カーボンレンガ15最上部より下と想定されるので、電圧検出用電極5aは、高炉10が一般的な大型高炉の場合は、電流印加用電極3aより下でおおよそ0.5m〜2m程度下に設置するのが良い。また、電圧検出用電極6aは、溶融物14の上面レベルよりも下で、想定される溶銑14aとスラグ14bとの界面よりも上側に設置する。なお、溶銑14aの上面レベル(=溶銑14aとスラグ14bとの界面)は、原料の装入量(重量)と出銑量(重量)から差を算出し、それを体積に換算することで推定可能である。そして、その変動量は出銑孔12a〜12d近傍で高々数十cm程度であると操業の経験上、考えられている。これを考慮して4本の電極3a〜6aの設置位置を決定すれば良い。
【0018】
つぎに、図3は、電流印加用電極3aの先端部の構成を模式的に示した断面図である。図3に示すように、電流印加用電極3aは、固定部3aaにより鉄皮11に固定されている。また、電流印加用電極3aは、その先端部に導電性の材料からなるバネ3abを備えており、カーボンレンガ15に常時密着することができ、確実な電気的接触を実現している。また、電流印加用電極3aは、バネ3ab以外の部分の外側を覆うセラミックスなどの絶縁体からなるカバー3acを備えており、鉄皮11への直接の電流の流れ込みが防止される。なお、他の電極4a〜6aも電流印加用電極3aと同様の構成を有している。
【0019】
ここで、溶融物14を構成する溶銑14aとスラグ14bはいずれも導電性を有する。したがって、電流発生器2aが、電流印加用電極3a、4aに信号電流を印加すると、信号電流はカーボンレンガ15を通して溶融物14へと流れる。その結果、電流印加用電極3a、4a間には電位差が発生する。
【0020】
つぎに、電圧検出/計測装置7aは、計測用電極群Gaの電圧検出用電極5a、6aに接続しており、電圧検出用電極5a、6a間の電圧を検出する。電圧検出/計測装置7aが検出する電圧検出用電極5a、6a間の電圧は、特許文献1の場合と同様に、高炉10内の溶融物14の溶融物レベル(=溶融物14の上面レベル)、特に、計測用電極群Gaが設置される位置の近傍の溶融物レベルを反映したものとなる。つぎに、電圧検出/計測装置7aは、検出した電圧、または、この電圧と信号電流の電流値とを用いて算出した電気抵抗にもとづき、高炉10内における計測用電極群Gaの設置位置の近傍における溶融物14の溶融物レベルを計測し、データ処理装置8に出力する。
【0021】
一方、図1に示す他の計測用電極群Gb〜Gdも、それぞれ出銑孔12b〜12dの近傍に設置され、各計測用電極群Gb〜Gdを構成する4本の電極は、高炉10の高さ方向に直線L2〜L4に沿って略直線状になり、電流印加用電極3b〜3d、4b〜4dがそれぞれ最上部、最下部に位置するように配列している。また、電流印加用電極3b〜3d、4b〜4d、電圧検出用電極5b〜5d、6b〜6dと、出銑孔12b〜12d、溶融物14の溶融物レベル、または溶銑14aとスラグ14bとの界面との位置関係は、上述した計測用電極群Gaの場合と同様になっている。
【0022】
そして、上記と同様に、電流発生器2b〜2dが、それぞれに接続した電流印加用電極3b、4b、3c、4c、3d、4dに信号電流を印加すると、信号電流はカーボンレンガ15を通して溶融物14へと流れる。
【0023】
また、電圧検出/計測装置7b〜7dも、各計測用電極群Gb〜Gdの2つの電圧検出用電極に接続しており、各電圧検出用電極間の電圧を検出する。これらの検出した電圧は、計測用電極群Gb〜Gdが設置されるそれぞれの位置の近傍の溶融物レベルを反映したものとなる。電圧検出/計測装置7b〜7dは、この電圧または電気抵抗にもとづき、高炉10内における各計測用電極群Gb〜Gdの設置位置近傍における溶融物14の溶融物レベルを計測し、データ処理装置8に出力する。
【0024】
そして、データ処理装置8は、電圧検出/計測装置7a〜7dが計測した各計測用電極群Ga〜Gdの設置位置近傍における溶融物14の溶融物レベルのデータを受け付け、これを記録し、また溶融物14の溶融物レベルの偏差の情報として外部に出力する。なお、電圧検出/計測装置7a〜7d、およびデータ処理装置8は、例えばA/D変換器とパーソナルコンピュータを用いて実現される。
【0025】
ここで、高炉10内では、溶融物14を構成する溶銑14aとスラグ14bの粘性の違いや、炉内の中心コークスの偏在などから、局所的に溶融物レベルが異なっている場合があると考えられる。このような溶融物レベルの偏差は、炉況への悪影響が懸念される。
【0026】
例えば、理想的には周方向に、炉内の熱風の風向きが対称的になっているべきであるが、上記のような原因により非対称となると、安定的な一定の出銑量が確保できなくなるので、多少の操業改善アクションが必要となる。
【0027】
しかしながら、本実施の形態では、高炉10の外周にわたって複数の計測用電極群Ga〜Gdを設置するので、高炉10の円周方向の溶融物レベルの増減の偏差を見出すことが可能であり、より正確に溶融物レベルを計測することができ、操業へのアクションも正確となる。
【0028】
そして、たとえば、データ処理装置8が出力する溶融物レベルの偏差の情報にもとづき、局所的に過度に溶融物レベルが上昇していることを示すデータがあれば、溶融物レベルの上昇を示した計測用電極群の設置位置近傍の出銑孔を開口し、出銑をおこなうことで、溶融物レベルを均一化することができ、安定した操業を実現できる。また、データ処理装置8は、溶融物レベルの許容上限値を閾値として記憶しておき、閾値を越えるような溶融物レベルのデータを受け付けた場合にアラームを発生するようにしてもよい。
【0029】
計測用電極群Ga〜Gdの設置位置については、それぞれの計測用電極群Ga〜Gdの電極設置位置については、上記で図2を用いて説明した電極設置位置の制約を満たすように設置する。また、計測用電極群Ga〜Gd間における対応する電流印加用電極同士および電圧検出用電極同士の高さは、それぞれが一致するように各電極を配列すれば、検出される電圧または算出される電気抵抗がおおよそ等しくなり、各計測用電極群Ga〜Gdの設置位置における溶融物レベルの増減を互いに比較しやすくなる。
【0030】
なお、各計測用電極群Ga〜Gd間で、対応する電極に対して接触するカーボンレンガ15の段数(カーボンレンガ15を構成する各レンガブロックの炉底からの積層数)を揃えることが好ましい。通常、カーボンレンガ15のレンガブロックの各段の間(境界部)には、導電性はあるもののカーボンレンガ15より電気抵抗の高いセメントが塗布されているので、カーボンレンガ15の境界部をまたがって電流を流さない方が良い。そこで、対応する電極同士でカーボンレンガ15の段数を揃えることで、セメントの電気抵抗への寄与が各電極に対して同一となり、測定した電気抵抗の比較が容易となる。また、このように対応する電極同士でカーボンレンガ15の段数を揃えた上で、対応する電極同士の高さをより近づけるのがより好ましく、例えば対応する電極同士の高さを数10cm程度以内の差で一致させると良く、±10cm以内の差で一致させるのがより良い。すなわち、対応する電極同士の高さが一致するとは、対応する電極同士でカーボンレンガ15の段数を揃える程度でよく、数10cm程度以内の差で一致するのが好ましく、±10cm以内の差で一致するのがより好ましい。
【0031】
また、図1に示すように各計測用電極群Ga〜Gdを構成する4本の電極を直線状に設置するのがもっとも好ましいが、高炉10の付帯設備等の設置状況に応じて、この付帯設備等と干渉しないように電極を円周方向にずらしてもよい。この際、ずれの範囲は、印加する信号電流の最短流路が、カーボンレンガ15の円周方向の境界部を貫かない範囲内とする。なお、実際にこれらの許容される設置位置の高さ方向および円周方向のずれ量は、計測を行う高炉10の設計図面から決定すればよい。また、基準位置となる付帯設備を基準にして各電極の高さを設定することで、数cm程度の精度で各電極の設置が可能である。また、各計測用電極群Ga〜Gdを構成する4本の電極が略直線状に並ぶとは、上記のように円周方向に所定の範囲の程度ずれたものを含むが、計測用電極群Ga〜Gd間で比較した場合には、電極の配置が同じ形態(傾き、ずれ量)であり、その傾きやずれ量の差を数〜数十cm程度で一致させるのが良い。
【0032】
また、本実施の形態では、溶融物14の溶融物レベルを計測するために、各計測用電極群Ga〜Gdが2本の電圧検出用電極5a〜5d、6a〜6dを有しているが、電圧検出用電極をさらに増やすことで、溶融物14のうち溶銑14aの液面レベルを分離して計測することができる。
【0033】
つぎに、印加する信号電流について説明する。信号電流としては、強度が矩形状に変化する信号パターンを有する電流、たとえば一定の周期を有する矩形波状信号パターンを有する矩形波信号電流、または擬似ランダム信号パターンを有する擬似ランダム信号電流等を用いる。その理由は以下の通りである。すなわち、溶融物の電気抵抗が低いと、十分な精度で計測するためには電流値を大きくしなければならないが、電流を大きくすると電極またはこれらに接続するケーブルに信号電流による誘導ノイズが重畳する。この誘導ノイズは、信号電流により生じる磁場が誘起する誘導起電力によるものである。正弦波状の信号電流を印加して計測を行う場合、検出した電圧の波形からこの誘導ノイズを分離除去することは不可能なため、計測精度が低下する。一方、矩形波信号電流等であれば、誘導ノイズの分離除去はより容易であるため、計測精度を高めることができる。
【0034】
図4は、検出電圧の波形の一例を示した図である。この場合、信号電流として、電流印加用電極間で電流が流れる方向が周期Tで逆転するような矩形波信号電流を印加しているので、検出する電圧も正負方向に周期Tで変化している。また、検出電圧には、その立ち上がり/立ち下りのタイミングでピーク状に発生し、所定時間Δtにわたって持続する誘導ノイズが重畳している。しかしながら、この誘導ノイズの成分は、所定時間Δt内の電圧のデータを除去することで、容易に分離除去することができる。
【0035】
なお、擬似ランダム信号電流の場合も、検出する電圧は正負方向に変化する。擬似ランダム信号は、0,1のデジタルで表される信号であるが、クロック周波数の時間内ではその値をとり続ける。ここでは、擬似ランダム信号の0を−1、1を1に対応させる。その結果、電流値の振幅をAとしたときに、擬似ランダム信号電流はもとの擬似ランダム信号と同じパターンで−A、Aと変化する。
【0036】
ところで、本実施の形態のように、複数の計測用電極群を設置する場合、ある位置の計測用電極群において検出した電圧に、他の位置の計測用電極群において印加した信号電流に起因する誘導ノイズが重畳する場合がある。
【0037】
図5は、異なる位置の計測用電極群において検出した電圧の波形の一例を示した図である。ここで、各計測用電極群に印加する信号電流は同一周期の矩形波であり、時間Δt2だけ立ち上がりタイミングがずれているとする。その結果、図5に示すように、電圧波形W1には、電圧波形W2の立ち下りタイミングまたは立ち上がりタイミングで発生したノイズN11、N13が重畳している。また電圧波形W2には、電圧波形W1の立ち上がりタイミングまたは立ち下がりタイミングで発生したノイズN21、N23が重畳している。また、電圧波形W1、W2には、さらに他の計測用電極群において印加した信号電流に起因するノイズN12、N14、N22、N24が重畳している。
【0038】
このように、電圧が一定の部分に重畳された誘導ノイズを信号処理によって除去するのは困難である。また、信号電流の信号パターンは既知なので、これを用いて誘導ノイズを除去すべき区間を決定できる可能性はあるが、溶融物レベルの計測に使用すべきデータも一緒に除去しなければならないため、データ数が減少し、計測精度が低下する。
【0039】
したがって、本実施の形態においては、全ての計測用電極群において、立ち上がり/立ち下がりのタイミングが互いに一致するように信号電流を印加することが好ましい。図6は、立ち上がり/立ち下がりのタイミングが互いに一致するように信号電流を印加した場合の、異なる位置の計測用電極群において検出した電圧の波形の一例を示した図である。なお、印加する信号電流は図5の場合と同一である。この場合、誘導ノイズの発生のタイミングも互いに一致するため、図6に示すように、電圧波形W3、W4の電圧が一定の部分には誘導ノイズが重畳しないので、計測精度の低下が防止される。
【0040】
なお、このように立ち上がり/立ち下がりのタイミングが互いに一致するように信号電流を印加するには、たとえば以下のようにする。まず、各計測用電極群Ga〜Gd間の対応する電流印加用電極同士の間隔が一致するように各電極を配列する。そして、矩形波信号を用いる場合には、各計測用電極群に、同一周期であり、同一位相または位相がπだけ異なる矩形波信号を印加する。また、擬似ランダム信号を用いる場合は、各計測用電極群に、符合長、クロック周波数、および位相の一致した擬似ランダム信号を印加する。
【0041】
つぎに、検出した電圧波形の立ち上がり/立ち下がりのタイミングで発生している誘導ノイズを除去するための処理方法の一例について説明する。図7は、誘導ノイズを除去するための処理方法について説明する説明図である。なお、ここでは信号電流が矩形波であり、検出した電圧波形が時間的に離散した電圧データとして電圧検出/計測装置に取り込まれる場合を例にして説明する。この処理方法は、以下のステップ1、2を含んでいる。
【0042】
[ステップ1]
はじめに、検出した電圧波形は図7の上段に示す電圧波形W5を有するものする。誘導ノイズは電圧波形W5の符号が切り替わる立ち上がり/立ち下がりのタイミングで発生している。この電圧波形W5に対して電圧の時間変化率ΔV/Δtの絶対値を算出する。この時間変化率ΔV/Δtは、図7の中段に示すように波形W6、W7を有し、電圧の符号が切り替わった瞬間非常に大きい値をとり、その後減衰し0に近い値となる。ここで、所定の閾値Thを設定し、ΔV/Δtの絶対値が閾値Thよりも大きい時間区間を誘導ノイズ区間と決定し、閾値Thよりも絶対値が小さい部分を信号成分区間とする。
【0043】
[ステップ2]
つぎに、誘導ノイズが減衰する時間は計測に用いる各装置の構成で決まってしまうため、ケーブルや電極といった装置の構成を変更しない限り、誘導ノイズは電圧波形において符号の切り替わり後同じ時間だけ現れる。したがって、検出した電圧波形W5のデータから、電圧波形の符号の切り替わりの時点を起点として、ステップ1で決定した誘導ノイズ区間分の時間に含まれるデータを除去することによって、誘導ノイズを容易に除去できる。このとき、計算を容易にするため誘導ノイズ区間の電圧を0Vとするのが好ましい。すると、図7の下段に示す処理後の電圧波形が得られる。区間S1、S3が誘導ノイズ区間であり、区間S2、S4が信号成分区間である。なお、このとき、0Vとした電圧データの数nを数えて記録しておく。
【0044】
そして、この信号成分区間における電圧の変動をもとに溶融物レベルを計測する。または、この信号成分区間における電圧を、信号電流の電流値で除算することによって、電気抵抗値を得、この電気抵抗値の変動をもとに溶融物レベルを計測する。
【0045】
なお、信号電流が擬似ランダム信号の場合は、擬似ランダムパターンと検出電圧波形との相関をとることによって、S/Nのよい計測を実現できる。信号電流が擬似ランダム信号である場合の誘導ノイズを除去するための処理方法は、上記ステップ1、2に加えて、さらに以下のステップ3、4を含んでいる。
【0046】
[ステップ3]
このステップ3においては、はじめに擬似ランダム信号1周期分の時間内の検出電圧全データ数Nと、ステップ2において1周期内で0Vとした検出電圧データの数nとの差をとる。また、印加した擬似ランダム信号に対して、ステップ2で検出電圧波形中0Vとした電圧データに対応する同じ時間区間の値を0とし、0としたデータを擬似ランダム信号から取り除き新たな擬似ランダム信号を生成する。この生成された擬似ランダム信号は、ステップ2の処理を終了した後の検出電圧波形と全く同じパターンの擬似ランダム信号となっている。この生成された擬似ランダム信号の波形データにおけるi番目のデータをf(i)とし、n個の0Vの電圧データを除去後の検出電圧波形におけるi番目のデータをg(i)として、相関関数V(i)を下記式(1)により算出する。なお、相関演算の積分計算が和の演算に変わるのは、電圧データと波形データとが時間的に離散したデータとなっているためである。
【0047】
【数1】

【0048】
そして、上記式(1)の相関関数V(i)の波形の中から最大値(相関最大)を見つけて、これを電圧値とする。また、上述したように、擬似ランダム信号電流はもとの擬似ランダム信号と同じパターンで−A、Aと変化するから、得られた電圧値を電流値の振幅Aで割ることにより、電気抵抗値を算出できる。この電圧値または電気抵抗値の変動をもとに溶融物レベルを計測することによって、よりS/Nのよい計測を実現できる。また、検出電圧波形を複数の周期分、例えばkを2以上の整数としてk周期分取り込んで、各1周期分の相関関数の波形の中から最大値を見つけ、見つけたk個の最大値を平均化してこれを電圧値とすることで、さらにS/Nを向上させることが可能である。
【0049】
なお、上述の計測用電極群間で一致させる立ち上がり/立ち下がりのタイミングの許容範囲は、1つの計測用電極群において発生する誘導ノイズの区間(時間領域;図4のΔt1)より短い時間とし、好ましくは誘導ノイズ区間の1/2以下の時間、より好ましくは1/5以下の時間とするのが良い。
【0050】
(実施例)
つぎに、本発明の実施例を示す。まず、計測対象とした高炉は炉容5000mで出銑孔が4箇所設置された高炉である。また、計測装置としては上記実施の形態に示すものと同様の構成の4つの計測用電極群を備えた計測装置を使用した。また、溶銑の液面レベルは物質収支から計算が可能であることから、スラグの液面レベル、すなわち溶融物レベルのみの検出を目的として計測を行った。したがって、1つの計測用電極群あたりの電極は4本とした。
【0051】
図8は、実施例における計測用電極群の設置位置を模式的に示した図である。図8に示すように、上方から見た高炉20の外周方向にわたって、出銑孔22a〜22dの近傍の位置P1〜P4に計測用電極群を設置した。また、ある位置の計測用電極群内の各電極は一直線上に設置した。この際、電流印加用電極間の距離を6mとし、最上部の電流印加用電極から1m下の位置に上側の電圧検出用電極を設置した。また、さらに1m下に下側の電圧検出用電極を設置した。なお、下側の電圧検出用電極は、溶銑の液面レベルよりも常に上にあると想定される。他の位置の計測用電極群においても同様に各電極を設置したが、その中のある計測用電極群における2本の電圧検出用電極は、付帯設備の配管との干渉を避けるために、周方向の右側に200mmほどずらして設置した。ただし、カーボンレンガの断面は600mm角であるので、この程度にずらして設置しても、電流の最短流路は目地を貫かないようになっている。また、各電極の先端部は図3に示すような構成とし、カーボンレンガの一部の表面を露出させ、この露出した表面に各電極の先端部を接触させるようにして各電極の設置を行なった。
【0052】
そして、符合長127、クロック周波数6Hzの擬似ランダム信号電流を、その位相を合わせた状態で各計測用電極群に印加して計測を行った。なお、電流値はそれぞれ3Aとした。
【0053】
図9は、ある計測用電極群により検出された電圧波形を示した図である。図9に示すように、この検出電圧波形には、信号の符号の切り替わりのタイミングで発生する誘導ノイズが見られたが、その信号成分には、他の計測用電極群における印加信号電流に起因する誘導ノイズは見られず、精度のよい計測が可能であることが確認できた。
【0054】
図10は、計測用電極群を設置した各位置における溶融物レベルの時系列データを示した図である。なお、位置1〜4は、それぞれ図8に示す位置P1〜P4に対応している。この溶融物レベルは、検出した電圧をもとに算出した電気抵抗の増減から計測したものである。なお、電気抵抗と溶融物レベルは、溶融物レベルが減少すると電気抵抗が増大するように対応している。図10に示すように、この実施例によれば、高炉の円周方向の溶融物レベルの増減の偏差を見出すことができ、より正確に溶融物レベルを計測することができた。
【0055】
また、この実施例では、溶融物レベルに閾値Lthを設けていたが、時刻t1において位置1の溶融物レベルが閾値Lthを越えたので、データ処理装置がアラームを発生した。そして、作業者が、このアラームにもとづき、位置1の近傍の出銑孔を開口し、出銑を行った。その結果、その後位置1の溶融物レベルは減少し、位置1〜4において溶融物レベルが均一化された。
【0056】
なお、上記実施の形態においては、1つの信号発生装置から各電流発生器に信号電圧を出力しているが、信号発生装置を各電流発生器毎に設置し、各信号発生装置が同期するようにトリガをかけるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施の形態に係る計測装置の概略構成、およびこの計測装置を適用すべき高炉の下部の鉄皮を展開した状態を模式的に示した図である。
【図2】図1に示す高炉の下部の模式的な断面および電極の設置位置を示した図である。
【図3】電流印加用電極の先端部の構成を模式的に示した断面図である。
【図4】検出電圧の波形の一例を示した図である。
【図5】異なる位置の計測用電極群において検出した電圧の波形の一例を示した図である。
【図6】立ち上がりおよび/または立ち下がりのタイミングが互いに一致するように信号電流を印加した場合の、異なる位置の計測用電極群において検出した電圧の波形の一例を示した図である。
【図7】誘導ノイズを除去するための処理方法について説明する説明図である。
【図8】実施例における計測用電極群の設置位置を模式的に示した図である。
【図9】ある計測用電極群により検出された電圧波形を示した図である。
【図10】計測用電極群を設置した各位置における溶融物レベルの時系列データを示した図である。
【符号の説明】
【0058】
1 信号発生装置
2a〜2d 電流発生器
3a〜3d、4a〜4d 電流印加用電極
3aa 固定部
3ab バネ
3ac カバー
5a〜5d、6a〜6d 電圧検出用電極
7a〜7d 電圧検出/計測装置
8 データ処理装置
10、20 高炉
11 鉄皮
12a〜12d、22a〜22d 出銑孔
13 羽口
14 溶融物
14a 溶銑
14b スラグ
15 カーボンレンガ
16 スタンプ材
100 計測装置
Ga〜Gd 計測用電極群
h 貫通孔
L1〜L4 直線
N11〜N14、N21〜N24 ノイズ
P1〜P4 位置
S1〜S4 区間
W1〜W5 電圧波形
W6、W7 波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪型炉の外周にわたって、該竪型炉の高さ方向に配列した少なくとも4本の電極からなる計測用電極群を複数設置する設置工程と、
前記設置した各計測用電極群において最上部および最下部に位置する2本の電流印加用電極に強度が矩形状に変化する信号パターンを有する信号電流を印加する電流印加工程と、
前記各計測用電極群において電流印加用電極を除いた少なくとも2本の電圧検出用電極間の電圧を検出する電圧検出工程と、
前記検出した電圧または該電圧と前記信号電流とを用いて算出した電気抵抗にもとづき、前記各計測用電極群の設置位置近傍における前記竪型炉内の溶融物レベルを計測する溶融物レベル計測工程と、
を含み、
前記設置工程において、前記計測用電極群内の各電極が略直線状に並び、かつ該各計測用電極群間の対応する前記電流印加用電極同士および前記電圧検出用電極同士の高さが一致するように該各電極を配列し、
前記電流印加工程において、前記信号電流の立ち上がり/立ち下がりのタイミングが前記各計測用電極群間で互いに一致するように該信号電流を印加することを特徴とする竪型炉内の溶融物レベルの計測方法。
【請求項2】
少なくとも4本の電極からなり、該4本の電極が竪型炉の高さ方向に配列するように該竪型炉の外周にわたって設置される複数の計測用電極群と、
前記各計測用電極群において最上部および最下部に位置する2本の電流印加用電極に接続し、該電流印加用電極に強度が矩形状に変化する信号パターンを有する信号電流を印加する電流印加手段と、
前記各計測用電極群において電流印加用電極を除いた少なくとも2本の電圧検出用電極に接続し、該電圧検出用電極間の電圧を検出する電圧検出手段と、
前記検出した電圧または該電圧と前記信号電流とを用いて算出した電気抵抗にもとづき、前記各計測用電極群の設置位置近傍における前記竪型炉内の溶融物レベルを計測する溶融物レベル計測手段と、
を備え、
前記各計測用電極群は、該計測用電極群内の各電極が略直線状に並び、かつ該各計測用電極群間の対応する前記電流印加用電極同士および前記電圧検出用電極同士の高さが一致するように配列しており、
前記電流印加手段は、前記信号電流の立ち上がり/立ち下がりのタイミングが前記各計測用電極群間で互いに一致するように該信号電流を印加することを特徴とする竪型炉内の溶融物レベルの計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−138437(P2010−138437A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314734(P2008−314734)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】