説明

端子金具付きフラットケーブル及びフラットケーブル用端子圧着金型

【課題】本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、インシュレーションバレルによりフラットケーブルを圧着した際の、芯線の損傷や保持力の低下を防止することができる端子金具付きフラットケーブル及びフラットケーブル用端子圧着金型を提供する。
【解決手段】端子金具付きフラットケーブル10のインシュレーションバレル35は、フラットケーブル20の両側部に沿ってフラットケーブル20の他方の面側に折り返すように屈曲された折り返し部37,37と、各折り返し部37,37の先端側に位置してフラットケーブル20の他方の面に沿ってその面を押さえ付ける一対のバレル片38,38とを備え、各バレル片38,38はそれらの先端部間に空隙Gを形成するようにフラットケーブル20に圧着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具付きフラットケーブル及びフラットケーブル用端子圧着金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド車等の車両に配索される電線の軽量化や電線の配索の容易化の方法の一つとして、フラットな形状の導体を絶縁被覆で覆ったフラットケーブルを用いることが検討されている(特許文献1参照)。
このフラットケーブルは、送電特性が良く、また、外気に触れる面積が大きいため放熱性が良いことに加えて、フラット形状であるため折り曲げが容易であるため電線の配索が容易になるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−016848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなフラットケーブルの端末に、端子金具を取り付ける場合がある。
例えば、端子金具の底板部の両側縁から立ち上がる一対のワイヤバレル片からなるワイヤバレルによりフラットケーブルの端末にて露出した芯線部分が圧着され、ワイヤバレルの後方にて底板部の両側縁から立ち上がる一対のインシュレーションバレル片からなるインシュレーションバレルにより絶縁被覆を有する部分を圧着する場合がある。
【0005】
これら各バレル片の圧着は、端子金具が載置されるアンビルと、アンビルの上方に配置されたクリンパとを相対移動させることにより行うことができ、このうちワイヤバレル片は芯線に食い込むように圧着される。
【0006】
一方、インシュレーションバレル片についてはフラットケーブルを保持するものであるため、圧着の際に、インシュレーションバレル片の先端部が絶縁被覆に食い込むと、絶縁被覆が破れて内部の芯線に損傷を与えるおそれがある。また、一対のインシュレーションバレル片同士が突き当たると、インシュレーションバレル片と絶縁被覆との間に隙間が生じ、フラットケーブルが確実に保持されないおそれがある。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、インシュレーションバレルによりフラットケーブルを圧着した際の、芯線の損傷や保持力の低下を防止することができる端子金具付きフラットケーブル及び端子金具付きフラットケーブルを製造するためのフラットケーブル用端子圧着金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る端子金具付きフラットケーブルは、複数本の芯線を互いに接触状態で並列させて絶縁被覆によって覆ったフラットケーブルと、このフラットケーブルの前記芯線に圧着されたワイヤバレル及び前記絶縁被覆に圧着されたインシュレーションバレルを有する端子金具とを備えた端子金具付きフラットケーブルであって、前記インシュレーションバレルは、前記ワイヤバレルから連なって前記フラットケーブルの一方の面の幅方向の全域を載置可能な底板部と、その底板部の前記フラットケーブルの幅方向の両側に位置して前記フラットケーブルの両側部に沿って前記フラットケーブルの他方の面側に折り返すように屈曲された折り返し部と、前記各折り返し部の先端側に位置して前記フラットケーブルの前記他方の面に沿ってその面を押さえ付ける一対のバレル片とを備え、前記各バレル片はそれらの先端部間に空隙を形成するように前記フラットケーブルに圧着されているところに特徴を有する(手段1)。
手段1の構成によれば、インシュレーションバレルによりフラットケーブルを圧着した際の、絶縁被覆を突き破ることによる芯線の損傷や、インシュレーションバレル片と絶縁被覆との間に隙間が生じることによる保持力の低下を防止することができる。
手段1の構成に加えて、前記芯線は、複数本の素線を互いに撚り合わせて構成されているようにしてもよい(手段2)。
【0009】
本発明に係るフラットケーブル用端子圧着金型は、端子金具が載置される下型との相対移動により前記インシュレーションバレルを内側に巻き込んでフラットケーブルに圧着するフラットケーブル用端子圧着金型であって、前記圧着の際に前記インシュレーションバレルに摺接して両側から折り返すように変形させて圧着する一対のバレル摺接部を備え、前記一対のバレル摺接部の間は、所定寸法離間しているところに特徴を有する(手段3)。
手段3の構成によれば、フラットケーブル用端子圧着金型を用いてインシュレーションバレルによりフラットケーブルを圧着した際の、絶縁被覆を突き破ることによる芯線の損傷や、インシュレーションバレル片と絶縁被覆との間に隙間が生じることによる保持力の低下が防止される端子金具付きフラットケーブルを製造することができる。
【0010】
手段3の構成に加えて、記一対のバレル摺接部の間には、前記フラットケーブルの面に当接する平坦部が形成されているようにしてもよい(手段4)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インシュレーションバレルによりフラットケーブルを圧着した際の、芯線の損傷や保持力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】端子金具付きフラットケーブルの斜視図
【図2】端子金具付きフラットケーブルの上面図
【図3】図2のA−A断面図
【図4】端子金具の斜視図
【図5】端子金具にフラットケーブルの端末部を載置した状態を表す斜視図
【図6】インシュレーションバレルの圧着前の状態を表す斜視図
【図7】図6の断面図
【図8】インシュレーションバレルを圧着した状態を表す斜視図
【図9】図8の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
以下、本発明を具体化した実施形態の端子金具付きフラットケーブル10について、図1〜図9を参照して説明する。
本実施形態の端子金具付きフラットケーブル10は、図1に示すように、フラットケーブル20の端末部に端子金具30が圧着接続されてなり、例えば電気自動車において走行用の動力源を構成するバッテリ、インバータ、モータなどの装置(図示せず)の間に配索されるものである。
【0014】
フラットケーブル20は、図3に示すように、フラット導体22が樹脂製の絶縁被覆23で覆われて構成されている。
フラット導体22は、複数本の芯線21を互いに接触状態で並列させることにより全体としてほぼ一定の厚みのフラットな形状とされている。
各芯線21は、多数の銅合金の金属素線を螺旋状に撚り合わせてなるものが用いられている。
【0015】
このフラットケーブル20は、図5に示すように、その端末部において、絶縁被覆23が剥き取られてフラット導体22が露出されている。
なお、本実施形態におけるフラットケーブル20の寸法(絶縁被覆23含む寸法)は、幅14.4mm,高さ3.2mmとなっている。
このような形状のフラットケーブル20は、送電特性が良く、また、外気に触れる面積が大きいため放熱性が良いことに加えて、フラット形状であることにより折り曲げが容易になるため電線の配索がしやすいという特徴を有する。
【0016】
端子金具30は、銅又は銅合金製であり、図4に示すように、いわゆるオープンバレル型であって、相手側端子に接続される端子接続部31と、端子接続部31の後方に連なりフラットケーブル20の端末部において露出させたフラット導体22をかしめるワイヤバレル32と、フラットケーブル20の端末部を絶縁被覆23の上からかしめるインシュレーションバレル35と、を有する。
【0017】
端子接続部31は、平板状をなし、その中心部には、円形の接続孔31Aが貫通形成されている。
ワイヤバレル32は、端子接続部31の後方に配され、端子接続部31に連なる底板32Aと、底板32Aの両側縁部から立ち上がる一対のかしめ片33,33を備えている。
【0018】
底板32Aは、端子接続部31の後方に連なり、その全体がほぼ平坦な形状となっており、ワイヤバレル32よりも後方まで延出されることで、インシュレーションバレル35の底板部36に連なる。
【0019】
ワイヤバレル32は、一対のかしめ片33,33を底板32A側に折り返すように変形させることで露出させたフラット導体22の部分を圧着する。
かしめ片33,33の内面及びこれに連なる底板32Aの上面には、セレーション34が凹設されており、かしめ片33,33のかしめ付けの際にフラット導体22の酸化皮膜が破られるようになっている。
【0020】
インシュレーションバレル35は、ワイヤバレル32の後方に延出された底板32Aに連なる底板部36と、底板部36の両側縁部から立ち上がる一対のカシメ片35A,35Aとからなる。
底板部36は、その全体がほぼ平坦な形状であって、フラットケーブル20の下面(一方の面)の幅方向の全域を当該下面のほぼ全体が当接するように載置可能となっている。
【0021】
一対のカシメ片35A,35Aは、底板部36の(フラットケーブル20の幅方向の)両側に位置し、やや幅方向の外方側に傾斜した姿勢で底板部36から立ち上げられており、これにより、その先端側ほど一対のインシュレーションバレル35片間の間隔がわずかに広くなっている。その先端は、外面側が薄肉とされることで先細の形状になっている。
そして、これら一対のカシメ片35A,35Aは、圧着後においては、図3に示すように、底板部36の上方に連なり湾曲した折り返し部37,37と、折り返し部37,37の内方に連なりフラットケーブル20を押さえ付ける一対のバレル片38,38とを有する。
【0022】
折り返し部37,37は、半円形状であって、フラットケーブル20の幅方向の両側に位置してフラットケーブル20の両側部に沿ってフラットケーブル20の上面側(他方の面側)に折り返すように屈曲(湾曲)されている。
【0023】
この折り返し部37,37の曲率半径Rは、フラットケーブル20の厚み半分にインシュレーションバレル35の板厚を加えた寸法となっている。
【0024】
一対のバレル片38,38は、各折り返し部37,37の先端側に位置してフラットケーブル20の上面(他方の)に沿って上面(その面)を押さえ付ける。
各バレル片38,38は、それらの先端部間に空隙Gを形成するようにフラットケーブル20に圧着されている。この空隙Gは、両バレル片38,38の幅寸法を合わせた寸法にほぼ等しくなっている。
そのため、圧着前におけるカシメ片35A,35Aの立ち上がり寸法は、圧着後にバレル片38,38間に空隙Gが形成される立ち上がり寸法に設定されている。
【0025】
次に、端子金具30に電線を圧着するには、図6に示すように、端子圧着用金型として、アンビル40(本発明の構成である「下型」に相当)とクリンパ50(上型。本発明の構成である「フラットケーブル用端子圧着金型」に相当)とが用いられる。
アンビル40は、金属製で略直方体状をなし、圧着の際には、その上面41に、端子金具30が載置される。
【0026】
アンビル40の上面41は、平面部42と、幅方向の端部(縁部)が傾斜状に湾曲してやや高くされた突部43を有する(図7参照)。
平面部42に対する突部43の頂点部の高さは、0.1mm以上に設定される。
突部43の上面の傾斜角度(湾曲)は、底板部36とカシメ片35Aとの間の傾斜角度(湾曲)にほぼ等しく設定されている。
【0027】
クリンパ50は、金属製であり、略直方体状の部材の内部が、端子金具30の軸方向において、下方(アンビル40側)ほど広がる山形状にくり抜かれた山形凹部51とされている。
【0028】
山形凹部51の両側には、一対のバレル片38,38に摺接してバレル片38,38を両側から折り返すように変形させて圧着する一対のバレル摺接部52,52を有する。
バレル摺接部52は、山形凹部51の左右においてほぼ真上に立ち上がる起立壁部53と、起立壁部53の上方において曲面状に窪む一対の押さえ部54,54とからなる。
【0029】
起立壁部53と押さえ部54,54との間は、インシュレーションバレル35の折り返し部37,37の曲率に対応する曲率で形成されている。
【0030】
一対の押さえ部54,54の間は、所定寸法(バレル片38,38間の隙間Gに相当する寸法B)離間しており、この離間した部分に、平坦な形状の平坦部55が形成されている。
平坦部55は、一対の押さえ部54,54の内方側の下端間を接続するように設けられており、圧着の際には、この平坦部55がフラットケーブル20の面に当接する(インシュレーションバレル35には当接しない非当接部となる)。
【0031】
(インシュレーションバレル35の圧着方法)
端子原板に圧着工程が行えるように曲げ加工を施して端子金具30を成形する。
図6に示すように、フラットケーブル20の露出した芯線21の先端部を、曲げ加工を施した端子金具30に宛がった(載置した)状態で、端子金具30をアンビル40上に位置決めし、アンビル40及び端子金具30の上方に配されたクリンパ50を下降させる(相対位置を変える)。
【0032】
すると、端子金具30のインシュレーションバレル35が、クリンパ50のバレル摺接部52に摺接してフラットケーブル20を包み込むような形状に変形していく。
そして、図8に示すように、クリンパ50が所定位置まで下降すると、一対の押さえ部54,54が一対のバレル片38,38をフラットケーブル20側に押さえつけて圧着し、端子金具付きフラットケーブル10の圧着が終了する。
【0033】
上記実施形態の構成によれば、以下の効果を奏する。
インシュレーションバレル35の各バレル片38,38はそれらの先端部間に空隙Gを形成するようにフラットケーブル20に圧着されているため、インシュレーションバレル35によりフラットケーブル20を圧着した際の、一対のバレル片38,38の先端部が絶縁被覆23を突き破ることによる芯線21の損傷や、圧着の際に一対のバレル片38,38同士が突き当ることによりバレル片38,38と絶縁被覆23との間に隙間が生じて保持力が低下することを防止することができる。
【0034】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、各バレル片38,38の間の空隙Gは、両バレル片38,38の幅寸法を合わせた寸法としたが、これに限られず、両バレル片38,38の間が接触せず、また、フラットケーブル20を保持できるバレル片38の長さを確保できる空隙Gであればよい。
【0035】
(2)上記実施形態では、フラット導体22を構成する複数本の芯線21は、金属素線を撚り合わせたより線であるとしたが、これに限られない。例えば、複数本の単芯線を並列に配置してフラット導体とするものでもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…端子金具付きフラットケーブル
20…フラットケーブル
21…芯線
22…フラット導体
23…絶縁被覆
30…端子金具
31…端子接続部
32…ワイヤバレル
32A…底板
33…かしめ片
35…インシュレーションバレル
35A…カシメ片
36…底板部
37…折り返し部
38…バレル片
40…アンビル(下型)
50…クリンパ(フラットケーブル用端子圧着金型)
52…バレル摺接部
53…起立壁部
54…押さえ部
55…平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の芯線を互いに接触状態で並列させて絶縁被覆によって覆ったフラットケーブルと、このフラットケーブルの前記芯線に圧着されたワイヤバレル及び前記絶縁被覆に圧着されたインシュレーションバレルを有する端子金具とを備えた端子金具付きフラットケーブルであって、
前記インシュレーションバレルは、前記ワイヤバレルから連なって前記フラットケーブルの一方の面の幅方向の全域を載置可能な底板部と、その底板部の前記フラットケーブルの幅方向の両側に位置して前記フラットケーブルの両側部に沿って前記フラットケーブルの他方の面側に折り返すように屈曲された折り返し部と、前記各折り返し部の先端側に位置して前記フラットケーブルの前記他方の面に沿ってその面を押さえ付ける一対のバレル片とを備え、前記各バレル片はそれらの先端部間に空隙を形成するように前記フラットケーブルに圧着されていることを特徴とする端子金具付きフラットケーブル。
【請求項2】
前記芯線は、複数本の素線を互いに撚り合わせて構成されていることを特徴とする請求項1記載の端子金具付きフラットケーブル。
【請求項3】
端子金具が載置される下型との相対移動により前記インシュレーションバレルを内側に巻き込んでフラットケーブルに圧着するフラットケーブル用端子圧着金型であって、
前記圧着の際に前記インシュレーションバレルに摺接して両側から折り返すように変形させて圧着する一対のバレル摺接部を備え、前記一対のバレル摺接部の間は、所定寸法離間しているフラットケーブル用端子圧着金型。
【請求項4】
前記一対のバレル摺接部の間には、前記フラットケーブルの面に当接する平坦部が形成されていることを特徴とする請求項3記載のフラットケーブル用端子圧着金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−124135(P2011−124135A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281742(P2009−281742)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】