説明

竹粉麹、竹粉麹を用いた醗酵食品及びこれらの製造方法

【課題】竹素材を醗酵加工して食用として応用が可能な竹粉麹を提供するとともに、さらにこの竹粉麹を用いた醗酵食品及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】竹粉麹の製造方法は、竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを混合し蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後、製麹を行って竹粉麹とする。竹粉麹は、この製造方法により製造されたものである。また、醗酵食品の製造方法は、この竹粉麹自体を醗酵及び熟成させて醗酵食品とする。さらに、この竹粉麹と、竹粉麹以外の食品素材とを混合した後、醗酵及び熟成させて醗酵食品とする製造方法もある。醗酵食品は、これらの製造方法により製造されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹粉麹、竹粉麹を用いた醗酵食品及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
竹は、国内のほぼ全域で生育する豊富な植物資源であるが、竹竿、竹垣、すだれ、竹炭などの日用資材が主たる用途で十分な活用はなされていない。
一方、全国各地で竹の繁殖によって農地や宅地の侵食がいわゆる竹害として発生し、竹素材の有効活用が強く望まれている。
大規模な活用法としては食用資源としての活用があげられるが、生育した竹は繊維質が硬いためそのままでは食用に適さず、実際に食用として活用されるのはタケノコである。しかしながらタケノコは採取時期が短く限られており、採取場所も地下や山斜面等であるため、効率的な採取ができず、竹全体の活用という面では不十分である。
【0003】
素材を食用として加工する方法としては、醗酵及び醸造が知られており、例えば、特許文献1にはタケノコを納豆菌で醗酵させた食品が、特許文献2にはタケノコを用いた漬物食品が、それぞれ開示されているが、いずれも用いられている素材はタケノコであり、生育した竹を活用したものではない。
【0004】
また、非特許文献1には、モウソウチクから得られた粉体を、粉体中に存在する乳酸菌によって自然醗酵させた動物飼料(商品名、孟宗ヨーグルト)が開示されているが、人間の食用に適するものではない。
【0005】
このように、醗酵素材としての応用例が少ない竹素材を活用する方法として麹菌によって製麹を行う試みがなされている。例えば、特許文献3では、タケノコ麹の技術が開示されており、タケノコのみならずタケノコ皮、竹、竹粉砕物、竹粉の活用にも触れられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−215484号公報
【特許文献2】特開2008−035843号公報
【特許文献3】特開2006−197928号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】丸大鉄工株式会杜ホームページhttp://a-marudai.com/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3におけるように、タケノコ、タケノコ皮、竹、竹粉といった竹素材のみを利用して製麹を行っても、麹菌のはぜ回りが悪く、麹の品質低下が懸念され、さらなる改良が求められているのが現状である。また、実際のところ、特許文献3の実施例はタケノコのみであり、タケノコ以外の竹素材については、列記はされているものの実施はされておらず、タケノコ以外の竹素材についての醗酵素材としての利用性は、これまで未知であった。
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、竹素材を醗酵加工して食用として応用が可能な竹粉麹を提供するとともに、さらにこの竹粉麹を用いた醗酵食品及びこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを混合して蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後、製麹を行うことで品質良好な竹粉麹が得られ、また当該竹粉麹を用いて、竹粉麹自体、もしくは別の食品素材を醗酵及び熟成させることによってうまみが豊富な醗酵食品が短期間で得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明による竹粉麹の製造方法は、竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを混合し蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後、製麹を行って竹粉麹とする。
本発明による竹粉麹は、上記製造方法により製造されたものである。
本発明による醗酵食品の製造方法は、上記の竹粉麹自体を醗酵及び熟成させて醗酵食品とする方法である。
本発明による醗酵食品の別の形態では、上記の竹粉麹と、竹粉麹以外の食品素材とを混合した後、醗酵及び熟成させて醗酵食品とする方法である。
本発明による醗酵食品は、上記製造方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、竹素材の粉状物すなわち竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを蒸煮したものを醗酵加工することにより、竹素材のみを醗酵加工する従来技術に比べて、短時間で品質の高い竹粉麹が得られる。
さらに、この竹粉麹は、食用として好適に応用可能であるので、この竹粉麹を用いることで、うまみが豊富な醗酵食品を短期間で提供することができる。
従来技術(特許文献3)では、タケノコ以外の竹素材については、形式的にタケノコと同列に記載はされていても、実際に食品加工を試みられたことはない。これは、通常食用とされない成育した竹を、食品として、しかも品質良好な食品として実際に利用できるという発想がこれまでなかったことを意味する。この点で本発明は、意外性の大きいものである。
本発明によれば、豊富な竹素材の、特に成育した竹の有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る竹粉麹は、竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを混合し蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後、製麹を行う製造方法により得られるものである。豆類を用いる場合、大豆が好適である。
【0014】
また、本発明に係る竹粉麹の醗酵食品は、上記の竹粉麹を用いて、竹粉麹自体を醗酵及び熟成させる製造方法により得られるものである。あるいは、上記の竹粉麹と、竹粉麹以外の食品素材とを醗酵及び熟成させる製造方法により得られるものである。この場合、食品素材としては、蒸煮した穀類又は豆類のいずれか又は双方であることが好適である。
【0015】
本発明の竹粉麹の原料である竹は、イネ目イネ科タケ亜科に属する多年生常緑草本植物で、生育分布は温帯を中心に北はサハリンから南はオーストラリアの北部、西はインド亜大陸からヒマラヤ地域、又はアフリカ中部に及ぶ。国内では、大型のものは竹、小型のものは笹と呼ばれるが、植物学的には同じものである。本発明においては、一般的に生育しているものであれば、竹か笹かの区別無く、いかようなものでも用いることができる。竹素材の好適な例としては、国内での生育分布や入手のしやすさの面からマダケ、モウソウチク、ハチクの3種が挙げられる。
【0016】
本発明の竹粉麹の原料である竹は、粉砕工程をへて粉体状としたものが用いられる。粉砕工程に関しては一般的な方法を用いることができ、例えば木材チッパーによってチップ状にした後、回転磨砕機によって粉砕する方法や、切削タイプの粉砕機を用いて切り出した竹をそのままの形状で粉体化する方法などが挙げられる。
【0017】
本発明で用いる竹粉の平均粒子径は特に規定されるものではないが、良好な物性を有する粉体とすることを考慮すると、0.1〜100μmが好ましく、0.5〜50μmがより好ましく、1〜10μmがより一層好ましい。ここで、平均粒子径が100μmを超えると、麹のはぜ回り状態が悪化したり、製造した醗酵食品の食感が低下するといった不具合を生じるおそれがある。一方、平均粒子径が0.1μm未満であると、粉塵が発生し易くなって粉体製造時及び麹製造時の取り扱いに不具合が生じるおそれがある。なお、本発明における平均粒子径は、レーザー回折散乱法による測定値である。
【0018】
本発明の竹粉麹の原料である穀類又は豆類は、一般的に食用とされているものであればいかようなものでも使用することができる。例えば、米、麦、粟、ひえ、大豆、小豆、えんどう豆、そら豆などがあげられるが、製造した醗酵食品の食味や麹菌の生育管理の容易さの面から、米、麦、大豆が好ましい。また、原料として用いられる穀類又は豆類は、通常の流通状態である粒状のまま用いることもでき、また、竹粉と同様に粉体状に加工したものを用いることもできる。
【0019】
本発明の竹粉麹の製造においては、先ず、竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを混合し蒸煮する。蒸煮の方法に関しては一般的な方法を用いることができ、例えば沸騰水中でゆでる方法、蒸気で蒸す方法、圧力容器を用いて加圧蒸気にて蒸煮する方法などが挙げられる。
【0020】
蒸煮したものにおける水分量は、20〜50質量%とすることが好ましく、より好ましい水分量は30〜45質量である。20質量%未満であると、麹菌の増殖が難しくなり、一方、水分量が50質量%を超えると、水分過多となり麹菌の増殖速度が極端に遅くなるといった不具合が生じる。
【0021】
本発明の竹粉麹に用いる種麹菌は、一般的な麹製造に用いられるものであれば、いかようなものでも用いることができ、例えば黄麹菌、白麹菌、黒麹菌、紅麹菌などの種類があげられる。また、種麹菌の形状は、粉体又は粒状のいずれでも用いることができる。
【0022】
本発明の竹粉麹を製造する際の温度に関しては、一般的な麹製造で用いられる温度条件を用いることができる。例えば温度条件は20〜45℃としてもよく、好ましくは25〜40℃としてもよい。20℃未満であると麹菌の増殖が遅れ、一方、温度が45℃を超えると麹菌の生育がほとんど停止してしまうという不具合を生じる。
【0023】
また、本発明の竹粉麹を製造する際の湿度に関しても、一般的な麹製造で用いられる湿度条件を用いることができる。例えば湿度条件は30〜80%としてもよい。30%未満であると、乾燥により麹菌の生育がほとんど停止してしまい、一方、湿度が80%を超え水分過多であると菌糸の生育状態が変化し良好な麹が得られないという不具合が生じる。
【0024】
さらに、本発明の竹粉麹を製造する際の時間に関しても、一般的な麹製造で用いられる条件を用いることができる。例えば製麹時間としては20〜100時間が挙げられ、好ましくは24〜72時間の条件があげられる。20時間未満であると、麹菌の生育が充分でなく、一方、100時間よりも長くなると、麹菌の胞子が形成され始め、既に生産されたタンパク分解酵素の力価が減少し、麹としての品質が低下するという不具合が生じる。
【0025】
本発明の竹粉麹を用いた醗酵食品としては、先ず、上記のように製造された竹粉麹自体を醗酵及び熟成したものがある。別の醗酵食品としては、上記のように製造された竹粉麹に対し、それ以外の新たな原料を加えて醗酵及び熟成したものがある。このようにして得られる醗酵食品としては、例えば味噌、醤油、酒、酢、チーズ、ヨーグルト等を挙げることができ、特に味噌、醤油が好適な例として挙げられる。
【0026】
本発明の竹粉麹を用いた醗酵食品を製造する際に新たに加える原料としては、一般的に食品素材として用いられているものであればいかようなものでも用いることができる。例えば大豆、小豆、そら豆、えんどう豆等の豆類、米、麦、粟、ひえ等の穀類、サツマイモ、ジャガイモ等のイモ類、大根、ニンジン、ほうれん草等の根菜類、魚肉、獣肉、牛乳等の動物素材等が挙げられる。特に、豆類、穀類が好ましく、中でも米、麦、大豆が好ましい。
【0027】
本発明の竹粉麹を用いた醗酵食品は、一般的に蔵持ち菌、蔵持ち酵母と呼ばれる醗酵環境に自然に存在する徴生物によって醗酵及び熟成させてもよいが、新たに微生物を添加して醗酵及び熟成させることもできる。添加する微生物は、一般的に醗酵食品に用いられる微生物であればいかようなものでも用いることができる。例えば乳酸菌、納豆菌、醸造用酵母、パン酵母、耐塩性酵母などが挙げられるとともに、目的の醗酵食品の種類によっては醤油麹、味噌麹等の麹を新たに加えることもできる。
【0028】
本発明の竹粉麹を用いた醗酵食品は、本発明の効果を損なわない範囲において、既知の食品成分や薬効成分もしくは添加剤を、必要に応じて適宜配合することができる。その配合の時期は、醗酵及び熟成中の過程でも、醗酵及び熟成後の過程でも、いずれの時期においても配合が可能である。添加剤としては、例えば界面活性剤、油分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、水溶性色素、糖類、ビタミン類、タンパク質類、デンプン類、アミノ酸類、無機塩類、生薬類、水などが挙げられる。
【0029】
本発明の竹粉麹を用いた醗酵食品において、醗酵及び熟成を行う際の水分量は、目的とする醗酵食品の形態によって異なるが、概ね10〜90質量%とすることが好ましい。特に、味噌様醗酵食品を製造する場合は、30〜45質量であることが好ましい。水分量が10質量%未満であると、醗酵及び熟成の工程が停止してしまうおそれがあり、一方、水分量が90質量%を超えると、醗酵食品のうまみが薄くなってしまうおそれがある。
【0030】
本発明の竹粉麹を用いた醗酵食品において、醗酵及び熟成を行う際の温度に関しては、一般的な醗酵及び熟成で用いられる温度条件を用いることができる。例えば温度条件は15〜50℃としてもよく、好ましくは25〜40℃の条件としてもよい。15℃未満であると、醗酵及び熟成に著しく時間がかかるといった不具合が生じ、一方、温度が50℃を超えると醗酵微生物の酵素が失活してしまい、正常な醗酵及び熟成の状態が得られないという不具合が生じる。
【0031】
また本発明の竹粉麹を用いた醗酵食品において、醗酵及び熟成を行う際の時間に関しては、一般的な醗酵及び熟成で用いられる条件を用いることもできるが、その一方、本発明の醗酵食品では、短い醗酵及び熟成時間で十分なうまみを出すことができるという特徴を有する。例えば、味噌様醗酵食品を製造した場合、通常であれば短い場合で3〜6ヶ月、長い場合は数年間の醗酵及び熟成期間が必要なところ、本発明の竹粉麹を用いた場合は、わずか1ヶ月程度の醗酵及び熟成期間で十分なうまみを有する味噌様醗酵食品を得ることができた。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した原料、材料を以下に示す。
・竹粉:神奈川県南足柄市三竹地区で採取した孟宗竹を竹粉製造機(PANDA、丸大鉄工杜製)にて粉砕した粉末、平均粒子径:10μm(レーザー回折散乱法(測定装置:レーザー回折1散乱式粒子径分布測定装置、ParticaLA−950V2、(株)堀場製作所製)にて測定)
・大豆黄な粉:富士食料株式会杜製
・小麦フスマ:JA小田原製
・大豆:ホクレン製
・米:ひとめぼれ
・食塩:財団法人塩事業センター製
・種麹:良い種麹(醤油麹)、株式会杜Bioc製
・乳酸菌:Tetragenococcus ha1ophi1us NRICO098
・酵母:Zygosacchromyces rouxii NRIC1812
・市販米味噌:天然醸造 生 赤粒、松亀味噌株式会杜製(防腐剤として添加されたアルコールを2.5%含有。)
【0033】
[調製例1:竹粉麹]
・大豆黄な粉含有竹粉麹:竹粉と大豆黄な粉を1:1(質量比)で混合し、原料100gに対し水50mLを加えた。本原料をオートクレーブにて加熱殺菌後(最終水分量は45%、赤外線水分計を用いて測定)、三角フラスコ内に移し、種麹を0.1質量%加え30℃の恒温機内で製麹し、72時問後を出麹として大豆黄な粉含有竹粉麹を調製した。
・小麦フスマ含有竹粉麹:大豆黄な粉の替わりに小麦フスマを用い、上記の大豆黄な粉含有竹粉麹の調製法に準じて小麦フスマ含有竹粉麹を調製した。
・他原料未含有竹粉麹:比較のために原料として竹粉のみを用いて、上記の方法に準じて他原料未含有竹粉麹を調製した。
・大豆麹:同じく比較のために原料として大豆のみを用いて、上記の方法に準じて大豆麹を調製した。
【0034】
[調製例2:竹粉麹を用いた味噌様醗酵食品]
調製例1で得られたそれぞれの麹130gに食塩21gを加え、さらにそれぞれの菌数の桁数が10個/mLとなるように調製した乳酸菌懸濁液及び酵母懸濁液を含む水45mLを加え、全体を混合した後、タッパー容器に詰めた。容器に詰める際は空気が入らないように底に押し付け、さらにラップを二重に被せ、25℃にて醗酵させた。2週間目に天地返しを行い、さらに醗酵を合計30日間続け、4種の味噌様醗酵食品を調製した。
【0035】
[麹のはぜ回り評価]
製麹後の麹におけるはぜ回りの程度を目視によって下記の5段階で評価した。なお評価はそれぞれ5サンプルについて行い、その平均点を計算した。
5:麹が全面にはぜ回る
4:麹が3/4程度の面にはぜ回る
3:麹が半分の面程度にはぜ回る
2:麹が1/4程度の面にはぜ回る
1:麹がほとんどはぜ回らない
【0036】
[味噌様醗酵食品のホルモール窒素測定]
・味噌様醗酵食品の前処理:味噌様醗酵食品試料10gをすり潰し、熱水50mLを数回に分け入れ、1分間弱火で煮沸。その後濾紙にてろ過し、全量を100mLに調製したものを評価溶液とした。
・ホルモール窒素の測定:評価溶液10mLにフェノーノレフタレイン2〜3滴加え、微紅色に変わるまで1/10NのNaOHにて中和を行う。その後中性ホルマリン10mLを加え、1/10NのNaOH(f=1.0)にて溶液が微紅色に変わるまで滴定を行い、滴定量を測定した。そして下記の計算式1を用いて味噌様醗酵食品試料中のホルモール窒素含量を計算した。なお、比較のため市販米味噌についても同様の方法で測定を行った。
計算式1:ホルモール窒素含量(%)=滴定量(mL)×0.0014×100
【0037】
[味噌様醗酵食品のアミノ酸分析]
ホルモール窒素測定で調製した評価溶液を0.02Mの塩酸で2倍に希釈し、0.45μmのミリポアフィルターにて濾過したものを高速アミノ酸アナライザー(L8500,HITACHI製)に供し、アミノ酸含量とアミノ酸組成を分析した。なお比較のため、市販米味噌についても同様の方法で分析を行った。
【0038】
[味噌様醗酵食品のアルコール分析]
ホルモール窒素測定で調製した評価溶液を水で希釈し、ろ過したサンプル5mLに蒸留水を50mLを加え蒸留した。その留液を50mLまでメスアップしそれを10mL取り、1/5N重クロム酸カリウム10mL、濃硫酸10mLを加え1時問放置する。その後蒸留水100mL、8%ヨウ化カリウム6.5mL、1%デンプン溶液0.5mLを添加し、1/10Nチオ硫酸ナトリウム(f=1.0)で滴定し、滴定量を測定した。そして下記の計算式2を用いて味噌様醗酵食品試料中のアルコール含量を計算した。
計算式2:アルコール含量(%)=((10−滴定量(mL))/2)×0.23×希釈倍数
【0039】
[味噌様醗酵食品のうまみ評価]
味噌様醗酵食品のうまみに関し、下記の5段階の基準で官能評価にて評価を行った。なお、評価者は8名で、その評点の平均を計算した。
5:強いうまみを感じる
4:うまみを感じる
3:弱いうまみを感じる
2:うまみをごく僅かに感じる
1:うまみを全く感じない
【0040】
【表1】

【0041】
上記表1に示す通り、竹粉及び大豆黄な粉を蒸煮したもの、又は、竹粉及び小麦フスマを蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後、製麹を行って得た竹粉麹(実施例1、2)は、いずれも良好なはぜ回りの状態を示し、その状態は一般的に醗酵食品で用いられる大豆麹(比較例2)と比較しても遜色の無いものであった。しかしながら、竹粉のみを蒸煮したものを用いて製麹した竹粉麹(比較例1)は、ほとんどはぜ回りが観察されなかった。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
上記表2、表3に示すとおり、竹粉及び大豆黄な粉を蒸煮したもの、又は、竹粉及び小麦フスマを蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後、製麹を行って得た竹粉麹を用いて醸造した味噌様醗酵食品(実施例3,4)は、わずか30日の醸造期間でいずれも良好なうまみが感じられ、そのうまみの程度は、市販の米味噌(比較例5)と比較して遜色の無いものであった。しかしながら、竹粉のみ蒸煮したものを製麹した竹粉麹、又は、一般的に醗酵食品で用いられる大豆麹を用いて同様の方法で醸造した味噌様醗酵食晶(比較例3,4)は、さほど高いうまみ程度が得られなかった。
【0045】
さらに、うまみを表す指標として用いられるホルモール窒素及びアミノ酸含量に関しても、実施例3、4は、比較例3、4よりも高い値を示した。特に実施例3は、市販の米味噌(比較例5)と同等のホルモール窒素及びアミノ酸含量を示した。
【0046】
また実施例3においては、1%のアルコールが検出され、アルコール醗酵も進んでいることが確認された。比較例5の市販の米味噌は、防腐用として2.5%のアルコールが添加されていることを考慮すると、実施例3のアルコール醗酵は、市販の米味噌と同レベルと考えられ、また、実施例3においては、醗酵アルコールによってうまみが強くなっていることが考えられた。
【0047】
表3には、アミノ酸分析によって得られたアミノ酸組成の百分率を示した。大豆黄な粉含有竹粉麹を用いた味噌様醗酵食品(実施例5)、及び、小麦フスマ含有竹粉麹を用いた味噌様醗酵食品(実施例6)は、双方ともうまみ成分の指標として用いられるグルタミン酸(G1u)の割合が比較的高く、その傾向は市販の米味噌(比較例6)と同様であった。実施例5では、シスチン(Cys)やヒスチジン(His)、実施例6ではシスチン(Cys)やリジン(Lys)が比較例6と比べて特徴的に高く、うまみや栄養価の特徴づけとなっていた。
【0048】
これらの結果、竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを混合し蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後製麹を行って得られる竹粉麹は、良好な麹のはぜ回りを示したことから、醸造用麹としての有用性が示された。さらに、本発明の竹粉麹を用いて、それ自体を醗酵及び熟成させることによって得られた醗酵食品は、良好なうまみ成分を含有し、良好なうまみを示すことが確認され、醗酵食品として好適なものであることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹粉と、穀類又は豆類のいずれか又は双方とを混合し蒸煮したものに対し、種麹菌を接種した後、製麹を行って竹粉麹とすることを特徴とする竹粉麹の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造された竹粉麹。
【請求項3】
請求項2に記載の竹粉麹自体を醗酵及び熟成させて醗酵食品とすることを特徴とする醗酵食品の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の竹粉麹と、竹粉麹以外の食品素材とを混合した後、醗酵及び熟成させて醗酵食品とすることを特徴とする醗酵食品の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法により製造された醗酵食品。