説明

筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物及びそれを内蔵した筆記具

【課題】油性インキ組成物に平均粒子径の小さい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を着色剤として用いた場合であっても、溶剤によりカプセル壁膜が侵食されて劣化することがなく、長期の経時によって変色特性が阻害されることがない経時安定性に優れた筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物とそれを内蔵した筆記具を提供する。
【解決手段】(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセルが熱可塑性樹脂に被覆されてなる樹脂被覆顔料と、有機溶剤とからなり、前記熱可塑性樹脂の有機溶剤に対する溶解度が0.2以下である筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。前記油性インキ組成物を内蔵する筆記具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物に関する。更には、着色剤として可逆熱変色性マイクロカプセルを用いた筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物とそれを用いた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可逆熱変色性組成物を内包するマイクロカプセル顔料を着色剤として用い、20℃の蒸気圧が5〜50mmHg程度の揮発性の高い有機溶剤を主溶剤とした油性インキ組成物が開示されている(特許文献1参照)。
前記油性インキに用いられるマイクロカプセル顔料は、平均粒子径が1〜10μmと比較的大きなものであるため、カプセル壁膜の膜厚が厚く、溶剤に侵食されることなく使用できるものである。しかしながら、小径ボールを用いたボールペンや空隙率の低い繊維部材を用いたマーキングペンに適用する場合、筆記時のインキ流出をスムースに行うために前記マイクロカプセル顔料の粒子径を小さくする必要がある。その場合、マイクロカプセル顔料の粒子径を小さくすることで壁膜の厚さが薄くなるため、耐溶剤性において弱くなり、経時的に変色特性を阻害する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−320485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記不具合を解消するものであって、油性インキ組成物に平均粒子径の小さい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を着色剤として用いた場合であっても、溶剤によりカプセル壁膜が侵食されて劣化することがなく、長期の経時によって変色特性が阻害されることがない経時安定性に優れた筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物とそれを内蔵した筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセルが熱可塑性樹脂に被覆されてなる樹脂被覆顔料と、有機溶剤とからなり、前記熱可塑性樹脂の有機溶剤に対する溶解度が0.2以下である筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物を要件とする。
更に、前記熱可塑性樹脂の軟化点が可逆熱変色性マイクロカプセルの完全消色温度より10℃以上高いこと、前記熱可塑性樹脂の軟化点が60℃以上220℃以下であること、前記樹脂被覆顔料の平均粒子径が0.1μm以上20μm以下であること、前記樹脂被覆顔料が熱可塑性樹脂中に可逆熱変色性マイクロカプセルを混練した後に粉砕することで得られること、内包する可逆熱変色性マイクロカプセルの平均粒子径が0.05μm以上5μm以下であること、前記熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤が0.1〜10重量%の範囲で含有されること、前記熱可塑性樹脂に非熱変色性着色剤が0.01〜10重量%の範囲で含有されることを要件とする。
更に、前記有機溶剤の沸点が95℃〜220℃の範囲にあること、前記有機溶剤がn−オクタン、イソオクタン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコールから選ばれる一種以上であることを要件とする。
更には、前記いずれかの筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物を内蔵してなる筆記具を要件とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、着色剤として可逆熱変色性マイクロカプセルを用いた油性インキ組成物であっても、マイクロカプセルの劣化によるインキの色調変化や変色特性の阻害等の不具合を経時的に生じることがなく、特に、壁膜強度が弱い平均粒子径の小さい可逆熱変色性マイクロカプセルを用いた場合に有効である経時安定性に優れた筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物とそれを内蔵した筆記具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】可逆熱変色性マイクロカプセルの変色挙動を示すグラフである。
【図2】本発明の樹脂被覆顔料の一例を表す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物は、可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセルが熱可塑性樹脂に被覆された樹脂被覆顔料と、有機溶剤とからなるものであり、前記熱可塑性樹脂の有機溶剤に対する溶解度が0.2以下として適用することで、可逆熱変色性マイクロカプセルの耐溶剤性を向上させるものである。
【0009】
前記着色剤を構成する可逆熱変色性組成物は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)前記化合物を呈色させる電子受容性化合物、及び(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体の三成分を少なくとも含有する組成物であって、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t)以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t)以上の高温域での消色状態を特定温度域〔t〜tの間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で択一的に記憶保持できる組成物であって、本願の粒状体では前記組成物を内包させたマイクロカプセル顔料が適用される。
【0010】
前記可逆熱変色性組成物としては汎用の材料を適宜用いることができるが、具体的には、特公昭51−35414号公報、特公昭51−44706号公報、特開平7−186540号公報に記載されている可逆熱変色性組成物が挙げられる。
また、本出願人が提案した特公平1−29398号公報に記載した如き、温度変化による色濃度−温度曲線に関し、3℃以下のヒステリシス幅をもつ、高感度の可逆熱変色性組成物が挙げられる。
更に、本出願人が提案した特公平4−17154号公報に記載されている、大きなヒステリシス特性を示して変色する感温変色性色彩記憶性組成物も有効である。
また、加熱発色型の組成物として、消色状態からの加熱により発色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11−129623号公報、特開平11−5973号公報)、或いは特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特開2001−105732号公報)を挙げることができる。更には、没食子酸エステル等を適用した系(特開2003−253149号公報)等を応用できる。
【0011】
前記可逆熱変色性組成物(加熱消色型)を内包したマイクロカプセル顔料の色濃度−温度曲線におけるヒステリシス特性を図1のグラフによって説明する。
図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
変色温度領域は前記tとt間の温度域であり、加熱又は冷却に応じて発色状態と消色状態の両相が共存でき、色濃度の差の大きい領域であるtとt間の温度域が実質変色温度域(二相保持温度域)である。
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さ〔即ちt−t:t=(t+t)/2、t=(t+t)/2〕がヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が小さいと変色前後の両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しえない。また、前記ΔH値が大きいと変色前後の各状態の保持が容易となる。
変色温度として具体的には、完全発色温度tを冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち−50〜0℃、好ましくは−40〜−5℃、より好ましくは−30〜−10℃、且つ、完全消色温度tを加熱具によって得られる温度、即ち50〜150℃、好ましくは60〜150℃、より好ましくは70〜150℃の範囲に特定し、ΔH値を50〜100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0012】
具体的な組成として、前記(イ)成分である電子供与性呈色性有機化合物としては、ジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類等が挙げられる。
以下に具体的な化合物を例示する。
3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3−〔2−エトキシ−4−(N−エチルアニリノ)フェニル〕−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、2−メチル−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、2−(3−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、2−(N−メチルアニリノ)−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、2−キシリジノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソブチルアミノ)フルオラン、1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオラン、2−(3−メトキシ−4−ドデコキシスチリル)キノリン、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジエチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(N−エチル−N−i−アミルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−フェニル、3−(2−メトキシ−4−ジメチルアミノフェニル)−3−(1−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−ペンチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド等を挙げることができる。
更には、蛍光性の黄色〜赤色の発色を発現させるのに有効なピリジン系、キナゾリン系、ビスキナゾリン系化合物等を用いることもできる。
【0013】
前記(ロ)成分の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群等がある。
活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール−アルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。また、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
以下に具体例を挙げる。
フェノール、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン等がある。
前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2〜5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3−トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物等であってもよい。
【0014】
前記(ハ)成分としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類が挙げられる。
前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度−温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点−曇点)を示すカルボン酸エステル化合物、例えば、分子中に置換芳香族環を含むカルボン酸エステル、無置換芳香族環を含むカルボン酸と炭素数10以上の脂肪族アルコールのエステル、分子中にシクロヘキシル基を含むカルボン酸エステル、炭素数6以上の脂肪酸と無置換芳香族アルコール又はフェノールのエステル、炭素数8以上の脂肪酸と分岐脂肪族アルコール又はエステル、ジカルボン酸と芳香族アルコール又は分岐脂肪族アルコールのエステル、ケイ皮酸ジベンジル、ステアリン酸ヘプチル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジラウリル、アジピン酸ジミリスチル、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジステアリル、トリラウリン、トリミリスチン、トリステアリン、ジミリスチン、ジステアリン等が用いられる。
また、炭素数9以上の奇数の脂肪族一価アルコールと炭素数が偶数の脂肪族カルボン酸から得られる脂肪酸エステル化合物、n−ペンチルアルコール又はn−ヘプチルアルコールと炭素数10乃至16の偶数の脂肪族カルボン酸より得られる総炭素数17乃至23の脂肪酸エステル化合物も有効である。
更に、前記(ハ)成分としては、下記一般式(1)で示される化合物が好適に用いられる。
【化1】

(式中、Xは水素原子、炭素数1乃至4のアルキル基、メトキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、mは1乃至3の整数を示し、nは1乃至8の整数を示す。)
前記化合物としては、グルタル酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、ピメリン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステルを例示できる。
【0015】
また、前記(ハ)成分として下記一般式(2)で示される化合物を用いることもできる。
【化2】

〔式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、mは0〜2の整数を示し、X、Xのいずれか一方は−(CHOCOR又は−(CHCOOR、他方は水素原子を示し、nは0〜2の整数を示し、Rは炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、Y及びYは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、又は、ハロゲンを示し、r及びpは1〜3の整数を示す。〕
前記式(2)で示される化合物のうち、Rが水素原子の場合、より広いヒステリシス幅を有する可逆熱変色性組成物が得られるため好適であり、更にRが水素原子であり、且つ、mが0の場合がより好適である。
尚、式(2)で示される化合物のうち、より好ましくは下記一般式(3)で示される化合物が用いられる。
【化3】

式中のRは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示すが、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基、更に好ましくは炭素数8〜13のアルキル基である。
前記化合物として具体的には、オクタン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ノナン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、デカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ウンデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ドデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、トリデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチルを例示できる。
【0016】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(4)で示される化合物を用いることもできる。
【化4】

(式中、Rは炭素数11以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲンを示す。)
前記化合物として具体的には、ウンデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ドデカン酸1,1−ジフェニルメチル、トリデカン酸1,1−ジフェニルメチル、テトラデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ペンタデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ヘキサデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ヘプタデカン酸1,1−ジフェニルメチル、オクタデカン酸1,1−ジフェニルメチルを例示できる。
【0017】
前記可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させる方法としては、例えばイソシアネート系の界面重合法、メラミン−ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、適宜選択される。更にマイクロカプセルの表面には、目的に応じて二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与したり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
また、前記マイクロカプセルの形態は円形断面の形態のものの適用を拒まないが、非円形断面の形態が効果的である。
前記マイクロカプセルが非円形断面の形態の場合、粒状体調製過程における圧力や熱の負荷に対して破壊され難く、特に粉砕法によって形成される場合には、粉砕時の圧力が加わった際に弾性変形して応力を緩和できるため、カプセル壁膜の破壊に対して抑制効果を奏し、内包の可逆熱変色性組成物を保護して所期の熱変色機能を保持できる。
【0018】
前記マイクロカプセルの粒子径は特に限定されることなく適用できるが、平均粒子径が0.05μm〜5μmの範囲、好ましくは0.1〜3μmの範囲にあり、可逆熱変色性組成物:マイクロカプセル壁膜=7:1〜1:1(質量比)、好ましくは6:1〜1:1の範囲を満たすものがより好適である。この範囲のものは色濃度、変色の鋭敏性、圧力や熱に対する持久性、加工適性等の面でより高い性能を発現する。
【0019】
前記マイクロカプセルを被覆する熱可塑性樹脂は、油性インキに使用される有機溶剤に対して溶解度を0.2以下(即ち0以上0.2以下)となるものが適宜選択され適用される。
被覆樹脂の溶解度を0.2以下とすることで、インキ状態で長期間経時した場合であってもマイクロカプセルを露出することなく樹脂による被覆状態を維持できるため、マイクロカプセルが溶剤で劣化することがなくなり、色調が変化したり変色特性を阻害することなく、安定した筆跡が得られるものとなる。
尚、本発明において、前記熱可塑性樹脂の有機溶剤に対する溶解度とは、インキ組成物に適用される溶剤100gに対して熱可塑性樹脂を溶解できる最大量(g)を示すものである。
【0020】
また、熱可塑性樹脂は被覆するマイクロカプセルの完全消色温度よりも10℃以上高い温度まで加熱することによって軟化するものが好適である。前記温度条件を満たすことで、布帛等の支持体に筆記した筆跡に対して、アイロン等の家庭用熱源で加熱することで、筆跡(樹脂被覆顔料)を加熱融着(定着)することができる。その際、該融着部を加熱変色させた場合であっても、前記融着部には樹脂被覆顔料内の可逆熱変色性マイクロカプセルが完全に消色した温度から若干高い温度がかかるのみであるため、熱可塑性樹脂が再溶融することなく定着状態を維持できる。よって前記溶融部が滲んだり、剥離する等の不具合を生じ難いものとなる。
【0021】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、塩素化パラフィン、ポリ塩素化パラフィン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、アミド樹脂、アクリル酸樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ウレタン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、尿素系樹脂、テルペン樹脂、ポリオール樹脂、水添石油樹脂等を挙げることができ、一種又は二種以上併用して用いることができる。
特に、前記熱可塑性樹脂は、軟化点が60℃〜220℃、好ましくは70℃〜200℃のものが好適に用いられる。軟化点が60℃未満では輸送時や保管時等に高温に晒されて粒状体間で融着してしまう虞があり、220℃を超えると低温定着性(家庭で可能な熱融着性)を損なうことがある。
尚、前記熱可塑性樹脂は、前述のマイクロカプセルの壁膜で用いるものとは異なる材質が適用される。
【0022】
前記熱可塑性樹脂による可逆熱変色性マイクロカプセルの被覆方法(粒状体の製造方法)としては、化学的処方、機械的処方、物理吸着等どのような手段を用いてもよいが、熱可塑性樹脂中に可逆熱変色性マイクロカプセルを混練或いは溶融混合した後に粉砕する機械的処理方法が好ましい。
前記粉砕には、シュレッダー、ジョークラッシャー、カッターミル、ハンマークラッシャー、ハンマーミル、スタンプミル、ローラーミル、ハンマークラッシャー、ボールミル、ピンミル、スクリーンミル、チューブミル、振動ボールミル、撹拌ミル、遊星ミル、ジェットミル、乳鉢等の機械(器具)を一種または二種以上用いて、所望の粒子径に粉砕される。
前記樹脂被覆顔料の粒子径としては、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下、好ましくは0.3μm以上15μm以下であることが好ましい。
粒子径が0.1μm未満では着色状態の色濃度が淡化し易くなり、20μmを超えると筆記具に内蔵した際、筆記時のインキ吐出性を阻害する虞がある。
【0023】
また、前記樹脂被覆顔料は、内包する可逆熱変色性マイクロカプセルの粒子径に対して、可逆熱変色性樹脂被覆顔料の外径が1:1.1〜1:100、好ましくは1:1.5〜1:50の範囲で用いられる。
前記範囲とすることで、マイクロカプセル全体を熱可塑性樹脂で確実に被覆することができると共に、樹脂被覆されたマイクロカプセルの変色状態を外側から視認できる状態を維持できる。
【0024】
更に、前記樹脂被覆顔料(即ち、熱可塑性樹脂中)に紫外線吸収剤を添加して耐光性を向上させることや、非熱変色性着色剤を添加して多彩な色変化を現出させることも可能である。
前記紫外線吸収剤は、熱可塑性樹脂に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜5重量%の範囲で含有される。
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤等の汎用のもののうち、沸点が使用する熱可塑性樹脂の融点より高いものが適用できる。
【0025】
前記非熱変色性着色剤は、熱可塑性樹脂に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.02〜8重量%の範囲で含有される。
前記範囲とすることで、インキ状態等で長期静置した場合であっても色別れすることがなく、マイクロカプセル消色時にも高濃度の色調を発現できるものとなる。
前記非熱変色性着色剤としては汎用の着色剤が適用でき、例えば、一般染料や一般顔料の他、天然雲母、合成雲母、偏平ガラス片、酸化珪素、又は薄片状酸化アルミニウムから選ばれる材料を芯物質として金属酸化物で被覆した金属光沢顔料或いはコレステリック液晶型光輝性顔料等の光輝性顔料、蛍光染料や、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料等が使用できる。
【0026】
更に、必要に応じて離型剤、帯電制御剤、流動性向上剤、酸化防止剤、老化防止剤、一重項酸素消光剤、スーパーオキシドアニオン消光剤、オゾン消色剤、可視光線吸収剤、赤外線吸収剤から選ばれる光安定剤等を添加することもできる。
【0027】
前記有機溶剤としては、従来から油性インキに適用される汎用のものを用いることができるが、沸点が95℃〜220℃の範囲、好ましくは140℃〜200℃の範囲にある中沸点溶剤を主溶剤(即ち、50%以上含む)とすることが好ましい。
前記沸点範囲の有機溶剤としては、例えば、n−オクタン、イソオクタン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
その他、助溶剤として、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコールアルキル(C1〜3)エーテル、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、炭酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の低沸点溶剤や、エチレングリコールモノフェニルエーテル等の高沸点溶剤を用いることができる。
前記有機溶剤は一種又は二種以上を混合して用いてもよく、インキ組成中40〜90重量%の範囲で用いられる。
【0028】
また、筆跡の滲み抑制、定着性向上、堅牢性付与等の目的で以下の樹脂を用いることもできる。
具体的には、ケトン樹脂、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、アミド樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルピロリドン、α−及びβ−ピネン・フェノール重縮合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂等を例示できる。
【0029】
更に、本発明の筆記具用油性インキ組成物には、必要に応じて上記成分以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤、潤滑剤、粘度調整剤、剥離剤、顔料分散剤、消泡剤、剪断減粘性付与剤、界面活性剤等の各種添加剤を使用できる。
前記添加剤はいわゆる慣用的添加剤と呼ばれるもので、公知の化合物から適宜必要に応じて使用することができる。
【0030】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等が使用できる。
酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドロキシトルエン、フラボノイド、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸誘導体、α−トコフェロール、カテキン類等が使用できる。
紫外線吸収剤としては、2−(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル5′−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、p−安息香酸−2−ヒドロキシベンゾフェノン等が使用できる。
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン等が使用できる。
【0031】
剥離剤としては、ホーロー、ガラス、金属或いは熱可塑性又は熱硬化性プラスチック等の素材からなる筆記板(ホワイトボード)に用いられるインキ組成物に含まれる剥離性を付与できる化合物であれば全て用いることができ、例えば、カルボン酸エステル類、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を挙げることができるが、好適に用いられる剥離剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル又はこれらの塩、脂肪族二塩基酸エステル、脂肪族一塩基酸エステル、ポリアルキレングリコールエステルから選ばれる化合物であり、一種又は二種以上を併用して用いることもできる。
【0032】
また、本発明の油性インキ組成物をボールペンに適用する際には、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル等の潤滑剤を必要により添加することもできるが、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等を用いるとボール受け座の摩耗防止効果に優れる。
【0033】
更に、剪断減粘性付与剤を添加することによって、不使用時のボールとチップの間隙からのインキ漏れだしを防止したり、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置した場合のインキの逆流を防止することができる。また、樹脂被覆顔料の凝集・沈降を抑制することができる。
前記剪断減粘性付与剤としては、従来公知の化合物を用いることが可能であり、例えば、架橋型アクリル樹脂、架橋型アクリル樹脂のエマルションタイプ、架橋型N−ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体、非架橋型N−ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体非架橋型N−ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体の水溶液、水添ヒマシ油、脂肪酸アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス等のワックス類、ステアリン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム等の脂肪酸金属塩、ジベンジリデンソルビトール、デキストリン脂肪酸エステル、N−アシルアミノ酸系化合物、スメクタイト系無機化合物、モンモリロナイト系無機化合物、ベントナイト系無機化合物、ヘクトライト系無機化合物、シリカ等が例示できる。
【0034】
前記インキ組成物は、チップを筆記先端部に装着したマーキングペンやボールペンに充填して実用に供される。
マーキングペンに充填する場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップを筆記先端部に装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させる構造、軸筒内部に直接インキを収容して、弁機構により前記筆記先端部に所定量のインキを供給する構造のマーキングペンが挙げられる。
ボールペンに充填する場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させる構造、軸筒内にインキ組成物を充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したチップに連通しており、更にインキの端面には逆流防止用に液栓や固体栓等のインキ追従体が密接している構造のボールペンを例示できる。
【0035】
前記液栓(液状インキ追従体)は不揮発性液体又は難揮発性液体からなり、具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α−オレフィン、α−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、一種又は二種以上を併用することもできる。
また、前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物を例示できる。
更に、前記液状のインキ逆流防止体組成物と、固体のインキ逆流防止体を併用することもできる。
【実施例】
【0036】
実施例及び比較例のインキ組成を以下の表に示す。尚、実施例中の部は重量部である。また、各平均粒子径は堀場製作所製レーザー式粒度分布測定機LA−300を使用し、そのメジアン径を平均粒子径とした。
尚、マイクロカプセルを被覆する熱可塑性樹脂の溶解度とは、各インキ組成に用いられる有機溶剤100gに対して溶解できる最大量(g)を示すものであり、実施例においては、対象となる溶剤100gに、マイクロカプセルを被覆する熱可塑性樹脂の単体を入れて20℃で1時間放置した後、JIS P3801 2種で規定される濾紙を用いて濾過した際、濾紙上に熱可塑性樹脂が残らなくなる量(g)の最大値である。
【0037】
【表1】

【0038】
熱変色性着色剤の作製
可逆熱変色性マイクロカプセルAの調製
(イ)成分として2−(2−クロロアミノ)−6−ジブチルアミノフルオラン4.5部、(ロ)成分として2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル50部からなる可逆熱変色性組成物を用い、壁膜材料として芳香族多価イソシアネートプレポリマー25.0部を用いることでマイクロカプセルAを作製した。
前記マイクロカプセルAの平均粒子径は0.7μm、完全消色温度は63℃であり、完全発色温度は0℃であり、温度変化により黒色から無色に変色する。
【0039】
樹脂被覆顔料Aの作製(図2参照)
前記マイクロカプセルA15部、黄色顔料0.1部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤2部、軟化点が130℃のポリスチレン100部、離型剤として低分子量ポリエチレン3部を混合した後、2軸エクストルーダーにより混練温度180℃にて溶融混練し、冷却固化後にサンプルミル及びジェットミルを用いて粉砕、分級して平均粒径2μmの樹脂被覆顔料1を得た。前記樹脂被覆顔料1はマイクロカプセル2の外周面を熱可塑性樹脂層3で被覆するものであり、内包する可逆熱変色性マイクロカプセル2の粒子径と樹脂被覆顔料1の外径の比率は1:3であった。
【0040】
可逆熱変色性マイクロカプセルBの調製
(イ)成分として2−(ジブチルアミノ)−8−(ジペンチルアミノ)−4−メチル−スピロ[5H−[1]ベンゾピラノ[2,3−g]ピリミジン−5,1′(3′H)−イソベンゾフラン]−3−オン1.5部、(ロ)成分として2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてピメリン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル50部からなる可逆熱変色性組成物を用い、壁膜材料として芳香族多価イソシアネートプレポリマー25.0部を用いることでマイクロカプセルBを作製した。
前記マイクロカプセルBの平均粒子径は1.5μm、完全消色温度は78℃であり、完全発色温度は−11℃であり、温度変化によりピンク色から無色に変色する。
【0041】
樹脂被覆顔料Bの作製(図2参照)
前記マイクロカプセルB15部、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤1部、軟化点が130℃のポリスチレン樹脂100部、離型剤として金属セッケン3部を混合した後、2軸エクストルーダーにより混練温度180℃にて溶融混練し、冷却固化後にサンプルミル及びジェットミルを用いて粉砕、分級して平均粒径3μmの樹脂被覆顔料1を得た。前記樹脂被覆顔料1はマイクロカプセル2の外周面を熱可塑性樹脂層3で被覆するものであり、内包する可逆熱変色性マイクロカプセル2の粒子径と樹脂被覆顔料1の外径の比率は1:2であった。
【0042】
可逆熱変色性マイクロカプセルCの調製
(イ)成分として3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド1部、(ロ)成分として2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてピメリン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル50部からなる可逆熱変色性組成物を用い、壁膜材料として芳香族多価イソシアネートプレポリマー25.0部を用いることでマイクロカプセルCを作製した。
前記マイクロカプセルCの平均粒子径は2.5μm、完全消色温度は79℃であり、完全発色温度は−10℃であり、温度変化により青色から無色に変色する。
【0043】
樹脂被覆顔料Cの作製(図2参照)
前記マイクロカプセルC15部、ピンク色顔料2部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤5部、軟化点が120℃のポリエチレン樹脂100部、離型剤として低分子量ポリエチレン3部を混合した後、2軸エクストルーダーにより混練温度170℃にて溶融混練し、冷却固化後にサンプルミル及びジェットミルを用いて粉砕、分級して平均粒径7μmの熱溶融型可逆熱変色性粒状体1を得た。前記可逆熱変色性粒状体1はマイクロカプセル2の外周面を熱可塑性樹脂層3で被覆するものであり、内包する可逆熱変色性マイクロカプセル2と樹脂被覆顔料1の外径の比率は1:3であった。
【0044】
樹脂被覆顔料Dの調製
樹脂被覆顔料A作製時にポリスチレン樹脂をポリビニルピロリドン〔BASFジャパン社製、商品名:ルビスコールK−90〕に変えた以外は同様の組成及び方法で調整することで樹脂被覆顔料Dを得た。
【0045】
マイクロカプセル顔料の調製
樹脂被覆顔料Cに用いたマイクロカプセルCを樹脂被覆することなく着色剤として適用することで平均粒子径2.5μmのマイクロカプセル顔料を得た。
【0046】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)積水化学(株)製、商品名:BL−S(計算分子量23000のポリビニルブチラール)
(2)積水化学(株)製、商品名:BL−1(計算分子量19000のポリビニルブチラール)
(3)日立化成(株)製、商品名:ハイラック110H
(4)第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフAL
(5)日光ケミカルズ(株)製、商品名:PEMULEN TR−1
【0047】
インキの調製
前記実施例と比較例の組成物において、各成分を混合して、25℃でディスパーにて3時間攪拌することで各インキを調製した。
【0048】
インキ逆流防止体の調製
ポリブテン47部、鉱油47部、脂肪酸デキストリン6部を三本ロールミルにて混練してインキ逆流防止体を得た。
【0049】
ボールペンの作製
前記実施例1乃至4及び比較例1,2のインキ組成物を、直径0.7mmの超硬ボールを抱持するステンレススチール製チップがポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィルに充填し、その後端に前記インキ逆流防止体を配設した後、前記ボールペンレフィルを外軸(キャップ式)に組み込み、試料ボールペンを作製した。尚、前記外軸後端部には摩擦部材としてSEBS樹脂を装着してなる。
【0050】
マーキングペンの作製
前記実施例5及び比較例3のインキ組成物を、軸筒内のインキ吸蔵体に充填し、先端部にインキ吸蔵体と連通するアクリル繊維束を樹脂で結着したチップを設けることで試料用マーキングペンを作製した。尚、前記外軸後端部には摩擦部材としてSEBS樹脂を装着してなる。
【0051】
得られたボールペン及びマーキングペンを用いて以下の試験を行った。
筆記試験
各ボールペン及びマーキングペンをペン先上向き状態で保持し、40℃の恒温槽に30日間放置した後、旧JIS P3201筆記用紙Aに手書きで螺旋状の丸を連続筆記した際の筆跡(着色状態)の状況を目視により観察し、初期の筆跡と比較した。更に付属の摩擦体で摩擦した際の筆跡の状態を目視により観察した。
【0052】
試験結果を以下の表に示す。
【表2】

【0053】
尚、表中の記号に関する評価は以下の通りである。
筆記試験
・筆跡
○:顔料が劣化することなく初期と同等の筆跡が得られる。
×:筆跡が淡色化又は白化している。
・摩擦後
○:直ちに消色又は変色する。
×:残色が生じる、又は変色しない。
【符号の説明】
【0054】
可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の完全発色温度
可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の発色開始温度
可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の消色開始温度
可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の完全消色温度
ΔH ヒステリシス幅
1 樹脂被覆顔料
2 可逆熱変色性マイクロカプセル
3 熱可塑性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセルが熱可塑性樹脂に被覆されてなる樹脂被覆顔料と、有機溶剤とからなり、前記熱可塑性樹脂の有機溶剤に対する溶解度が0.2以下である筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の軟化点が可逆熱変色性マイクロカプセルの完全消色温度より10℃以上高い請求項1記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の軟化点が60℃以上220℃以下である請求項1又は2に記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項4】
前記樹脂被覆顔料の平均粒子径が0.1μm以上20μm以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項5】
前記樹脂被覆顔料が熱可塑性樹脂中に可逆熱変色性マイクロカプセルを混練した後に粉砕することで得られる請求項1乃至4のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項6】
内包する可逆熱変色性マイクロカプセルの平均粒子径が0.05μm以上5μm以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤が0.1〜10重量%の範囲で含有される請求項1乃至6のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂に非熱変色性着色剤が0.01〜10重量%の範囲で含有される請求項1乃至7のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項9】
前記有機溶剤の沸点が95℃〜220℃の範囲にある請求項1乃至8のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項10】
前記有機溶剤がn−オクタン、イソオクタン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコールから選ばれる一種以上である請求項1乃至9のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物。
【請求項11】
前記請求項1乃至10のいずれかに記載の筆記具用可逆熱変色性油性インキ組成物を内蔵してなる筆記具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−82283(P2012−82283A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228401(P2010−228401)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】