説明

筆記具用水性インキ組成物

【課題】臭気がなく、微生物が繁殖しにくく、耐性菌に対しても抗菌効果があり、刺激性や毒性が少なく安全に使用が可能で、外気に触れる機会の多い筆記具にも使用可能な、適用範囲が広い、保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物を提供する。
【解決手段】着色剤と抗菌性物質と水からなる筆記具用水性インキ組成物において、抗菌性物質として、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを併用し、該抗菌性物質の添加量が併せて200ppm〜700ppmであることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物に関する。さらに詳しくは、保存安定性に優れる筆記具用水性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具用水性インキ組成物は主溶剤が水であるため、細菌や黴、酵母などの微生物が繁殖しやすい。微生物が繁殖するとインキの腐敗などが起こり、インキ粘度などの物性の変化が生じたり、析出物や凝集物などの異物が発生したり、インキの変色を起こすなど、筆記具用インキとしての機能を果たせなくなる問題が生じていた。そこで、抗菌性物質をインキに添加し、微生物などの繁殖を抑制することが盛んに行われている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、使用する着色剤の種類によっては、着色剤に抗菌性物質が吸着されるなど抗菌性物質の効果が十分に発揮されないことがあった。また、抗菌性物質によっては、インキのpHの影響で抗菌性物質が分解したり、抗菌性物質の耐熱性が悪かったり、同一の抗菌性物質を使用し続けると、抗菌性物質に耐性を持つ微生物(以下耐性菌という)が繁殖するなど、保存安定性の面で課題を生じることがあった。このように、抗菌性物質が機能しないことで、繁殖した微生物などにより、抗菌性物質を添加しなかった場合と同様な各種課題を生じていた。
【0003】
特に、同一の抗菌性物質を使用し続けると、耐性菌が発生する課題は、どのような抗菌性物質を用いた場合にも起こり得ることであった。そこで、耐性菌を含めた微生物の繁殖を抑制する目的で、インクジェット用インクや、ボールペン用インキに、抗菌性物質を2種類以上併用し、保存安定性を向上することが検討されている。(例えば特許文献2〜6参照)しかしながら、用いる抗菌性物質によっては、臭気があったり、インキのpHの影響で抗菌性物質が分解したり、抗菌性物質の耐熱性が悪かったり、毒性が高いなどの課題があった。
【0004】
さらに、筆記具用水性インキ組成物は、瓶などのインキ保管容器に収容されており、該インキ保管容器から筆記具用水性インキ組成物を分取して筆記具に充填して使用する筆記具、例えば万年筆などに、該筆記具用水性インキ組成物を使用する際には、インキ自体が外気に触れることが多く、抗菌性物質の添加量によっては、その効果が十分に発揮されない課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−48929号公報
【特許文献2】特開2004−175851号公報
【特許文献3】特開2004−175852号公報
【特許文献4】特開2004−231895号公報
【特許文献5】特開2008−231224号公報
【特許文献6】特開2008−239733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、臭気がなく、微生物が繁殖しにくく、耐性菌に対しても抗菌効果があり、安全に使用が可能で、外気に触れる機会の多い筆記具にも使用可能な、適用範囲が広い、保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、筆記具用インキ組成物に、特定の抗菌性物質を併用し、特定の添加量とすることなどにより上記課題が解決され、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
「1.少なくとも着色剤と抗菌性物質と水からなる筆記具用水性インキ組成物において、抗菌性物質として、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを併用し、該抗菌性物質の添加量が併せて200ppm〜700ppmであることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
2.着色剤が染料であることを特徴とする第1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
3.1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの配合比が質量比で1:1〜1:1.5であることを特徴とする第1項または第2項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。」に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数種の抗菌性物質を併用したことにより、微生物の繁殖を抑制することができる。さらに、抗菌性物質を1種類用いただけでは防ぐことのできない耐性菌などに対しても効果があり、筆記具用水性インキ組成物の析出物や凝集物などの異物の発生や変色などを抑制することができ、該インキ組成物の保存安定性の向上を図ることができる。また、本発明の筆記具用インキ組成物は、臭気がなく、刺激性や毒性が少ないことなどから、筆記具用水性インキとして、筆記具へ安全に用いることができる。さらに、析出物や凝集物などの異物の発生を抑制することができることから、くし溝を有する筆記具やインキを繰返し充填して使用する筆記具への使用が可能となる。このように、筆記具用水性インキ組成物を本発明の構成とすることにより、筆記具への適用範囲が広がるなど優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、少なくとも着色剤と複数種の抗菌性物質と水を最小の単位として構成する。
【0010】
本発明に用いる抗菌性物質としては、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを併用する。これらを併用することで、微生物の繁殖を抑制することができる他、耐性菌に対しても優れた効果を発揮することができる。一般に、微生物は複数種の抗菌性物質に対して同時に耐性を持つことができないとされているため、抗菌性物質を併用することで耐性菌に対しても繁殖を抑えることができるのである。
【0011】
従来の技術として知られている、ボールペン用の水性インキ組成物に用いられているアルキルチアゾロン2種類を併用した抗菌性物質を用いた場合、例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンは、アルカリ性で分解することや耐熱性などに課題があり、またエイムズ試験で陽性であったり、皮膚刺激性が強いなど安全面で課題があり、抗菌性物質として用いることに制限がある (特許文献2参照)。本発明の抗菌性物質を用いることでこれらの課題が解消できる。
【0012】
本発明において効果を発揮する抗菌性物質の添加量は、200〜700ppmである。この範囲より少ないと抗菌効果を十分に発揮することができず、この範囲より多いとインキ物性に影響を及ぼすとともに、皮膚刺激性が強くなり安全性に問題がある。さらに好ましくは300〜500ppmである。この範囲にあると、筆記具用水性インキ組成物が、外気に触れる機会が多い環境で使用された場合にも、微生物の発生を抑えることができる。インキ瓶などのインキ保管容器に収容し、使用する際にインキ保管容器から分取して筆記具に詰め替え充填して使用する場合には、筆記具用水性インキ組成物が外気に触れる機会が多くなる。そのため、該インキ組成物中に、微生物が混入し繁殖しやすくなると同時に、耐性菌が発生する確率も高くなる。該インキ組成物に複数種の抗菌性物質を併用することで、微生物が一方の抗菌性物質に耐性を持っていても、併用したもう一方の抗菌性物質により該微生物の繁殖を抑制することができる。このように、複数種の抗菌性物質を併用し、添加量を規定することにより、格別なる効果を奏する。
【0013】
本発明に用いる抗菌性物質である1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの配合比は、質量比で1:1〜1:1.5の範囲であることが好ましい。2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの質量比がこの範囲より小さいと、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンに対する耐性菌への効果が下がる恐れがある。この範囲より大きいと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンに対する耐性菌への効果が下がる恐れがある。その結果、併用した効果が十分に発揮できなくなる恐れがある。
【0014】
本発明に用いることができる着色剤としては、通常筆記具用水性インキ組成物に用いる染料、顔料などが挙げられる。
【0015】
染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能な染料が全て使用可能であり、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料、食用色素など各種染料が挙げられ、これらを単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
具体的には、酸性染料としては、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバイオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、塩基性染料としては、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、直接染料としては、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19、食用色素としては、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2などが挙げられる。
【0017】
染料の種類によっては染料が微生物の養分となり、微生物が増殖するものがあるが、本発明の抗菌性物質を併用することにより、その繁殖を抑制することが可能となる。特に、C.I.アシッドブルー90、C.I.ダイレクトブルー87の染料を用いた場合、微生物の養分となり、微生物が増殖する傾向が強いが、本発明の抗菌性物質を併用することで、その増殖を抑制することができる。このように、従来用いることが制限されていた染料についても使用が可能となり、筆記具用水性インキ組成物としての材料の選択範囲が広がることとなる。
【0018】
本発明の筆記具用水性インキ組成物に、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、pH調整剤、保湿剤、防錆剤などの各種添加剤を併用することができる。
【0019】
水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどのグリコール類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げらる。
【0020】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどの水溶性のアミン化合物などの有機塩基性化合物、乳酸、クエン酸などが挙げられる。
【0021】
保湿剤としては、前記水溶性有機溶剤の他に尿素、ソルビットなどが挙げられ、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩、サポニン、ジアルキルチオ尿素などが挙げられる。また、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどや、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などを添加することができる。
【0022】
さらには、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0023】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、従来知られているインキ製造方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、ホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0024】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、インキ瓶などのインキ保管容器にインキ組成物を収容した筆記具用水性インキ用の、インキ組成物としても好ましく用いられる。該インキは、インキ保管容器から分取して筆記具に詰め替え充填するが、その際に、外気に触れる機会が多くなる。その結果、微生物が繁殖する可能性が増加し、保存安定性を保つことが困難になる可能性がある。さらに、外気に触れる機会が多い環境にある筆記具用水性インキは、耐性菌の発生する可能性も増加する恐れがある。そこで、本発明の筆記具用水性インキ組成物は、抗菌性物質を併用し、特定の添加量としたことで、微生物の繁殖を抑えることができ、さらに耐性菌に対しても効果が見られるため、このような環境にある筆記具用水性インキのインキ組成物としても用いることができるのである。
【0025】
本発明に用いるインキ保管容器には、通常のインキ保管用や詰め替え用インキに使用されているインキ保管容器を用いることができる。具体的には、ガラス製のインキ瓶や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなど樹脂製の容器などが挙げられる。
【0026】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、各種マーカー類など各種筆記具に用いることが可能である。特に、インキ瓶などのインキ保管容器に該インキ組成物が収容され、該保管容器から分取して筆記具に充填して使用する、万年筆用の筆記具用水性インキ組成物として好ましく用いられる。
【0027】
また、万年筆は、そのインキ供給機構から、微生物の繁殖などが原因で生じる析出物や凝集物などの異物により、インキを供給する流路が狭くなると、インキの供給量が少なくなり、筆跡がかすれるなど、筆記性に影響を及ぼす可能性がある。さらに、異物の量が増加したり異物が大きくなると、インキを供給する流路が異物により塞がれ、インキを供給することができなくなり、筆記不能となる可能性があるため、異物の発生が抑制可能な本発明の筆記具用水性インキ組成物は、くし溝を利用したインキ供給機構を有する筆記具などに特に好ましく用いることができる。
【0028】
また、異物の発生量が少ない筆記具用インキ組成物を、万年筆などのインキを繰返し充填して使用する筆記具に用いた場合、使用開始時は筆記性が良好であるが、充填を繰り返すことにより、インキを供給する流路に異物が徐々に堆積し、筆記性に影響がではじめる。さらに充填を繰り返すと、該通路への異物の堆積が進行し、流路が塞がれ、筆記不能となる可能性があるが、本発明の筆記具用インキ組成物は、異物の発生を抑制できる構成となっていることから、前記筆記具にインキを繰返し充填して使用した場合にも、筆記性が良好な状態を保つことができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
実施例1
下記の配合組成および方法により、筆記具用水性インキ組成物を得た。
イオン交換水 95.75質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
9.5質量%1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン水溶液 0.2質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン添加量190ppm 抗菌性物質)
50質量%2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン水溶液 0.05質量%
(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン添加量250ppm 抗菌性物質)
C.I.アシッドブルー90(着色剤:染料) 0.5質量%
C.I.ダイレクトブルー87(着色剤:染料) 0.5質量%
イオン交換水に水溶性有機溶剤、pH調整剤、抗菌性物質を添加し、プロペラ攪拌により混合してベース液を得た。その後、ベース液に染料を添加し、プロペラ攪拌により混合して、筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0030】
実施例2
実施例1と同じ方法で、下記の配合組成により筆記具用水性インキ組成物を得た。
イオン交換水 94.75質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
9.5質量%1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン水溶液 0.2質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン添加量190ppm 抗菌性物質)
50質量%2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン水溶液 0.05質量%
(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン添加量250ppm 抗菌性物質)
C.I.アシッドブルー90(着色剤:染料) 1.0質量%
C.I.ダイレクトブルー87(着色剤:染料) 1.0質量%
【0031】
実施例3
実施例1と同じ方法で、下記の配合組成により筆記具用水性インキ組成物を得た。
イオン交換水 94.69質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
9.5質量%1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン水溶液 0.26質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン添加量247ppm 抗菌性物質)
50質量%2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン水溶液 0.05質量%
(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン添加量250ppm 抗菌性物質)
C.I.アシッドレッド52(着色剤:染料) 1.0質量%
C.I.アシッドレッド289(着色剤:染料) 1.0質量%
【0032】
実施例4
実施例1と同じ方法で、下記の配合組成により筆記具用水性インキ組成物を得た。
イオン交換水 96.46質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
9.5質量%1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン水溶液 0.2質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン添加量190ppm 抗菌性物質)
50質量%2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン水溶液 0.04質量%
(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン添加量200ppm 抗菌性物質)
C.I.ダイレクトブラック19(着色剤:染料) 0.2質量%
C.I.フードイエロー3(着色剤:染料) 0.1質量%
【0033】
実施例5
実施例1と同じ方法で、下記の配合組成により筆記具用水性インキ組成物を得た。
イオン交換水 96.45質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
9.5質量%1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン水溶液 0.2質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン添加量190ppm 抗菌性物質)
50質量%2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン水溶液 0.05質量%
(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン添加量250ppm 抗菌性物質)
C.I.アシッドブルー90(着色剤:染料) 0.1質量%
C.I.ダイレクトブラック19(着色剤:染料) 0.2質量%
【0034】
比較例1
抗菌性物質を1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン単独とし、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを用いなかった以外は、実施例1と同様にして筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0035】
比較例2
抗菌性物質を1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン単独とし、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンの添加量を475ppmとした以外は、実施例2と同様にして筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0036】
比較例3
抗菌性物質を1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン単独とし、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンの添加量を380ppmとした以外は、実施例3と同様にして筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0037】
比較例4
抗菌性物質を1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン単独とし、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを用いなかった以外は、実施例4と同様にして筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0038】
比較例5
抗菌性物質を1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン単独とし、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを用いなかった以外は、実施例5と同様にして筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0039】
実施例1〜5、比較例1〜5で得られた筆記具用水性インキ組成物について、下記の要領により評価を行った。結果を(表1)に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
抗菌性能試験:実施例1〜5、比較例1〜5の筆記具用水性インキ組成物中に、アクレモニウムsp.(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン耐性菌)を1mlあたり約1000個になるように接種した。これを試験インキとし、28℃で7日間放置した。その後、試験インキをポテトデキストロース寒天培地による塗抹平板法にて28℃で7日間培養し、残存した菌数から抗菌性能を評価した。
○:残存菌が見られない。
×:残存菌が30%以上100%未満となっている。
××:残存菌が100%以上(増殖)となっている。
【0042】
(表1)に示した通り、実施例1〜5は、抗菌性能試験において、筆記具用水性インキ組成物中に残存した菌が見られず、良好な抗菌性能を有していた。このことから、析出物や凝集物などの異物の発生が抑制され、該インキ組成物は一定期間経過後も初期と同等の状態を保つものとなった。このように、保存安定性が良好であったことから、実施例1〜5のインキ組成物は、経時後も全て、良好な筆記性能を発揮するものとなった。
【0043】
一方、抗菌性物質を1種類のみ添加した比較例1〜5は、残存した菌が30%以上となっており、抗菌性物質の効果が十分でなかった。
【0044】
さらに、実施例1および2に対比する、比較例1および2は、抗菌性能試験において残存した菌が100%以上となっており、特に抗菌性能が劣り、菌の増殖が見られた。このように、比較例1および2においては、抗菌性物質を添加しているにもかかわらず、本発明のような特定の抗菌性物質を併用することにより得られる優れた抗菌性能を得ることができず、菌が増殖し、インキ組成物中に異物が発生し、保存安定性が悪いものとなった。また比較例3〜5についても、程度の差はあるものの、抗菌性能に問題があるものであった。これらのことから、比較例1〜5においては、該インキ組成物を筆記具の筆記性能についても少なからず菌の影響が見られ、最悪の場合、筆記不能になるものが発生するものであった。
【0045】
このように、筆記具用水性インキ組成物の性能評価の結果から、実施例1および2のインキ組成物においては、特に優れた抗菌性能が得られ、筆記具用水性インキ組成物としてまた、該インキ組成物を外気に触れることの多い筆記具に用いたときに特に良好な性能を有していることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、各種マーカー類など各種筆記具用水性のインキとして用いることができる。特に、保存安定性の向上が図られていることから、万年筆やつけペンなどのインキが外気に触れることが多い筆記具に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色剤と抗菌性物質と水からなる筆記具用水性インキ組成物において、抗菌性物質として、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを併用し、該抗菌性物質の添加量が併せて200ppm〜700ppmであることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
着色剤が染料であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項3】
1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの配合比が質量比で1:1〜1:1.5であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。

【公開番号】特開2010−280762(P2010−280762A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133316(P2009−133316)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】