説明

筆記具

【課題】酸化チタンなどの2種以上の隠蔽剤を含む水性インク組成で、比重の軽い撹拌子であっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれる筆記具を提供する。
【解決手段】先端が開口した有底筒状の容器本体10に先軸部26が取り付けられ、先軸部26から突出するように挿入された筆記用尖端16と、前記先軸部内部に、前記本体容器に収容されたインクの流出を規制するバルブ体20が収容され、本体容器内10に、インクを撹拌する撹拌子14が収容された筆記具であって、前記インクは、水と、酸化チタン粒子等から選ばれる第1の隠蔽剤と、中空樹脂粒子等から選ばれる第2の隠蔽剤とを含み、これら2種類の隠蔽剤を合計で7〜50重量%とし、25℃におけるELD型回転粘度計のずり速度191.5(S−1)おける粘度の測定値が、12〜22(mPa・s)の範囲にあり、かつ、前記撹拌子は少なくとも樹脂材料を含み比重が4.6以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンなどの重い隠蔽剤を含むインクを撹拌するための撹拌子を備えた筆記具に関し、更に詳しくは、酸化チタンなどの2種以上の隠蔽剤を含む水性インク組成で、比重の軽い撹拌子であっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれるバルブ式マーキングペンなどに好適な筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸化チタンなどの重い隠蔽剤を含むインクを撹拌するための撹拌子を備えたバルブ式マーキングペンなどの筆記具としては、数多くの構造のものが知られている。
【0003】
例えば、酸化チタンなどの重い隠蔽剤を含むインクを撹拌するための撹拌子を備えたバルブ式の筆記具等としては、特許文献1に攪拌子を内蔵可能なバルブ式の塗布具が開示され、また、その実施例1〜3、比較例1〜4、図1等には、樹脂および金属、樹脂のみ、金属のみからなる比重0.9〜7.8の撹拌子(攪拌部材)が開示されている。そして、樹脂分を出来るだけ多くした撹拌子を用いると、概ね、高粘度と推測される油性インクの、経時後の再分散性が良好で、隠蔽性が十分な描線が得られることが記載されている。
また、撹拌部材を含め、塗布具全体の樹脂以外の素材の割合を出来る限り減らすことが環境対策上望ましいことが記載されている。その意味で金属酸化物である酸化チタンの量も減少させた方が良いとも言える。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、樹脂分を多くして比重を軽くした撹拌子を用いた場合に、再分散が良好である実験結果については、誤差が大きいと考えられ、ここで記載されている結果は有意な差とは言えないものと推測される。また、中空樹脂粒子と酸化チタンを併用したインクの撹拌については記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−276717号公報、特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、酸化チタンなどの重い隠蔽剤を含む水性インクを撹拌するための撹拌子を備えた筆記具において、比重の軽い撹拌子を備えたものであっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれるバルブ式マーキングペンなどに好適な筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題等を解決するために、鋭意検討した結果、先端が開口した有底筒状の本体容器と、前記容器本体と螺合嵌合し先端が開口する先軸部と、前記先軸部の先端開口部から突出するように挿入された筆記用尖端と、前記先軸部内部には、前記本体容器に収容されたインクの流出を規制するバルブ体が収容され、前記本体容器内には、さらに前記インクを撹拌する撹拌子が収容される筆記具であって、前記容器本体、前記先軸部、筆記用尖端及びバルブ体を、合成樹脂から構成すると共に、前記インクを酸化チタンなどの2種以上の隠蔽剤を含む特定物性となるインクを使用し、かつ、前記撹拌子の比重を特定値以下とする筆記具とすることにより、上記目的のバルブ式マーキングペンなどに好適な筆記具が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(7)に存する。
(1) 先端が開口した有底筒状の本体容器と、該容器本体に取り付けられた先端が開口する先軸部と、該先軸部の先端開口部から突出するように挿入された筆記用尖端と、前記先軸部内部には、前記本体容器に収容されたインクの流出を規制するバルブ体が収容され、前記本体容器内には、さらに前記インクを撹拌する撹拌子が収容される筆記具であって、前記容器本体、前記先軸部、筆記用尖端及びバルブ体は、合成樹脂からなり、前記インクは、水と、酸化チタン粒子、硫化亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、および、これらの粒子が複合した粒子から選ばれる第1の隠蔽剤と、ガラス粒子、金属粒子、樹脂粒子、中空樹脂粒子、炭酸カルシウム粒子、窒化硼素粒子、ワックス粒子、および、これらの複合粒子から選ばれる第2の隠蔽剤とを含み、これら2種類の隠蔽剤を合計で7〜50重量%と、を少なくとも含み、25℃におけるELD型回転粘度計のずり速度191.5(S−1)おける粘度の測定値が、12〜22(mPa・s)の範囲にあり、かつ、前記撹拌子は少なくとも樹脂材料を含み、比重が4.6以下であることを特徴とする筆記具。
(2) 前記第1の隠蔽剤の粒子径が40nm〜15000nmであり、かつ、第1の隠蔽剤の添加量が固形分で5重量%〜30重量%であることを特徴とする上記(1)に記載の筆記具。
(3) 前記第2の隠蔽剤の粒子径が40nm〜50000nmであって、かつ、第2の隠蔽剤の添加量が固形分で2重量%〜20重量%であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の筆記具。
(4) 前記撹拌子は、樹脂材料が体積分率で50%以上を占めることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の筆記具。
(5) 前記撹拌子に含まれる樹脂材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(4)に記載の筆記具ン。
(6) 前記撹拌子は、金属粒子、金属化合物粒子、半金属粒子、あるいは、半金属化合物粒子から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の筆記具。
(7) 前記金属化合物粒子、あるいは、半金属化合物は、金属炭化物、金属硼化物、金属珪化物、金属窒化物、金属酸化物、半金属窒化物、半金属酸化物または半金属炭化物から選ばれることを特徴とする上記(6)に記載の筆記具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比重の軽い撹拌子を備えたものであっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれるバルブ式マーキングペンなどに好適な筆記具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の筆記具の実施形態の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1の筆記具の全体説明図であって、(a)は一側面図、(b)は該一側面図から90°回転した他側面図、(c)はさらに他側面図から90°回転した別側面図、(d)は軸方向先端のキャップ側から見た図、(e)は軸方向後端から見た図、(f)は後方斜視図、(g)は先方斜視図である。
【図3】先端にバルブ体となる弁体を一体成形したスプリング体にペン先となるペン体(塗布体)およびスポンジ体を組付けたものの説明図であって、(a)は一側面図、(b)は他側面図、(c)は縦断面図、(d)は軸方向先方から見た図、(e)は軸方向後方からみ見た図である。
【図4】本発明の筆記具の実施形態の他例を示す縦断面図である。
【図5】本発明の筆記具の実施形態の他例を示す部分縦断面図である。
【図6】(a)〜(c)は本発明の筆記具に用いる攪拌子の実施形態の一例を示す斜視図、縦断面図、正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具は、先端が開口した有底筒状の本体容器と、該容器本体に取り付けられた先端が開口する先軸部と、該先軸部の先端開口部から突出するように挿入された筆記用尖端と、前記先軸部内部には、前記本体容器に収容されたインクの流出を規制するバルブ体が収容され、前記本体容器内には、さらに前記インクを撹拌する撹拌子が収容される筆記具であって、前記容器本体、前記先軸部、筆記用尖端及びバルブ体は、合成樹脂からなり、前記インクは、水と、酸化チタン粒子、硫化亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、および、これらの粒子が複合した粒子から選ばれる第1の隠蔽剤と、ガラス粒子、金属粒子、樹脂粒子、中空樹脂粒子、炭酸カルシウム粒子、窒化硼素粒子、ワックス粒子、および、これらの複合粒子から選ばれる第2の隠蔽剤とを含み、これら2種類の隠蔽剤を合計で7〜50重量%と、を少なくとも含み、25℃におけるELD型回転粘度計のずり速度191.5(S−1)おける粘度の測定値が、12〜22(mPa・s)の範囲にあり、かつ、前記撹拌子は少なくとも樹脂材料を含み、比重が4.6以下であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の筆記具としては、先端が開口した有底筒状の本体容器と、該容器本体と螺合や嵌合等により取り付けられた先端が開口する先軸部と、前記先軸部の先端開口部から突出するように挿入されたペン先となる筆記用尖端と、前記先軸部内部には、前記本体容器に収容されたインクの流出を規制するバルブ体が収容され、前記本体容器内には、さらに前記インクを撹拌する撹拌子が収容される構造を備えたものであり、前記容器本体、前記先軸部、ペン先となる筆記用尖端及びバルブ体が、全て合成樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などの合成樹脂から構成されるものあれば、特に限定されるものでなく、例えば、後述する図1〜図6のものの構造の筆記具が使用できる。
【0013】
用いる攪拌子としては、少なくとも樹脂材料を含み、比重が4.6以下となるものであれば、その形状などは特に限定されず、好ましくは、比重が1.1〜4.6となるものが望ましい。
用いることができる樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられ、コスト、汎用性、成形性、耐久性などの点から、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール(POM)、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂などが挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂など水に対して安定な樹脂が挙げられる。
【0014】
また、用いる撹拌子の材料としては、比重が4.6以下となるものであれば、樹脂単独、樹脂と金属粒子などの組み合わせで構成することができる。
好ましくは、環境対策の点から、用いる攪拌子は、樹脂材料が体積分率で50%以上を占めることが望ましく、更に好ましくは、樹脂材料が体積分率で60〜100%となるものが望ましく、更には100%に近いほど、より好ましい。
なお、用いる攪拌子の比重が4.6を越えるものであると、ほとんど全ての樹脂材料の体積分率が50%未満となり、好ましくない。
【0015】
具体的に用いることができる樹脂以外の材料としては、金属粒子、金属化合物粒子、半金属粒子、あるいは、半金属化合物粒子から選ばれる少なくとも一つを含むものが挙げられる。
金属粒子としては、鉄、銅、アルミニウム等、安価で比較的安定な金属粒子(金属粉)を用いることができる。半金属粒子としては、金属珪素の粒子などが挙げられる。
また、前記金属化合物粒子、あるいは、半金属化合物粒子としては、金属炭化物、金属硼化物、金属珪化物、金属窒化物、金属酸化物、半金属窒化物、半金属酸化物または半金属炭化物から選ばれるものが挙げられる。
金属炭化物としては、モリブデン、バナジウム、ニオビウム、タンタル、チタン、ジルコン等の炭化物が挙げられ、金属硼化物としては、二硼化チタンなどが挙げられ、金属窒化物としては、窒化チタンなどが挙げられ、金属酸化物としては、酸化鉄、酸化珪素などが挙げられ、半金属窒化物としては、窒化硼素、窒化珪素などが挙げられ、半金属酸化物としては、などが挙げられ、半金属炭化物としては、炭化硼素、炭化珪素などが挙げられる。
【0016】
上記樹脂材料、または、樹脂材料と上記各金属粒子などを上記物性となるように材料種、配合量などを好適に組み合わせて成形することにより、各形状の攪拌子を製造することができる。
攪拌子の形状等は、上記少なくとも樹脂材料を含み、比重が4.6以下となる物性であれば、特に限定されないが、例えば、円柱状、球状(ボール状)、楕円体状、棒状、断面T状、葉巻形状、断面棒状内の芯部に金属材料などの高比重物を備えたもの、後述する図1に示される図示符号14の断面形状、図6(a)〜(c)に示される棒状の両端を先細状に若干変形した形状などの各形状が挙げられる他、三角柱状、四角柱状など方形の立体柱状、直方体状、正方体状、星型状などが挙げられ、攪拌子の大きさは、筆記具内に収容可能かつ沈降性を有する隠蔽剤を効率よく攪拌できる大きさであればよい。
【0017】
本発明に用いるインクとしては、水と、酸化チタン粒子、硫化亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、および、これらの粒子が複合した粒子から選ばれる第1の隠蔽剤と、ガラス粒子、金属粒子、樹脂粒子、中空樹脂粒子、炭酸カルシウム粒子、窒化硼素粒子、ワックス粒子、および、これらの複合粒子から選ばれる第2の隠蔽剤とを含み、これら2種類の隠蔽剤を合計で7〜50重量%と、を少なくとも含み、25℃におけるELD型回転粘度計のずり速度191.5(S−1)おける粘度の測定値が、12〜22(mPa・s)の範囲となるものが挙げられる。
これらの特性を有する水性インクを用いることにより、上述の比重の軽い撹拌子を備えたものであっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれるものとなる。
【0018】
用いる隠蔽剤は、第1の隠蔽剤と、第2の隠蔽剤とから構成されるものであり、隠蔽力を発揮できる比重の異なる2種類以上の材料から選択されるものである。
第1の隠蔽剤として、酸化チタン粒子、硫化亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、および、これらの粒子が複合した粒子から選ばれる粒子、あるいは、これらの粒子の分散体であって、第1の隠蔽剤の粒子径が40nm〜15000nmとなるものを用いることが好ましく、また、第2の隠蔽剤として、ガラス粒子、金属粒子、樹脂粒子、中空樹脂粒子、炭酸カルシウム粒子、窒化硼素粒子、ワックス粒子、および、これらの複合粒子、あるいは、これらの粒子の分散体であり、第1の隠蔽剤の粒子径が40nm〜50000nmとなるものを用いることが好ましい。なお、上記各隠蔽剤における「粒子径」は、一次粒子径を意味する。
【0019】
第1の隠蔽剤において、複合粒子としては、例えば、リトポン(硫酸バリウム粒子+硫化亜鉛粒子)、シリカ複合粒子(シリカ粒子+酸化チタン)、PP複合粒子(PP粒子+酸化チタン)などが挙げられ、また、分散体としては、例えば、上記各粒子の水分散体、酸化チタン水分散体、酸化亜鉛水分散体などが挙げられる。
これらの第1の隠蔽剤として、特に好ましくは、優れた隠蔽力を発揮する点から酸化チタン粒子、酸化チタン−PP複合粒子、酸化チタン水分散体の使用が望ましい。具体的に用いることができる酸化チタンとしては、クロノスKR−270、同KR−310、同KR−380(以上、チタン工業社製)、Ti−Pure R−900、同R−902、同R−700(以上、デュポン社製)、JR−602、JR−701、JR−800(以上、テイカ社製)等の少なくとも1種が挙げられる。
また、これらの第1の隠蔽剤は、隠蔽力および沈降スピードの点から、その粒子径が40nm〜15000nm、更に好ましくは、100nm〜1000nmのものが望ましい。
【0020】
第2の隠蔽剤において、中空樹脂粒子としては、具体的には、スチレン・アクリル系では、ローペークOP−84J、ローペークHP−91、ローペークウルトラ(ローム&ハースト社製)などが挙げられ、樹脂粒子としては、メラミン粒子(例えば、エポスター、日本触媒社製)、ナイロン粒子(例えば、オルガゾール、アルケマジャパン社製)、ベンゾグアナミン粒子(例えば、エポカラー、日本触媒社製)などが挙げられ、複合粒子としては、マイカチタン(例えば、イリオジン111、メルク社製)などが挙げられ、窒化硼素粉末としては、例えば、水島合金鉄株式会社製の窒化硼素粉末などが挙げられ、分散体としては、例えば、上記各粒子の水分散体などが挙げられる。
特に、隠蔽力および分散安定性の点から、中空樹脂粒子の使用が好ましい。
また、これらの第2の隠蔽剤は、隠蔽力および沈降スピードの点から、その粒子径が40nm〜50000nm、更に好ましくは、100nm〜2000nmのものが望ましい。
【0021】
これらの比重の異なる2種類以上の隠蔽剤の含有量は、インク組成物全量に対して、固形分合計で7〜50質量%、好ましくは、7〜35質量%とすることが望ましい。
この隠蔽剤の合計含有量が7質量%未満では、十分な隠蔽力を発揮することができず、また、均一な濃度描線が得られにくく、一方、50質量%を超えると、インク粘度が上昇してしまうか、粒子の沈降体積が多くなり、好ましくない。
【0022】
好ましい態様として、第1の隠蔽剤の含有量は、隠蔽力の点から、インク組成物全量に対して、固形分で5〜30質量%、好ましくは、5〜25質量%とすることが望ましく、また、第2の隠蔽剤の含有量は、隠蔽力および再分散性の点から、インク組成物全量に対して、固形分で2〜20質量%、好ましくは、2〜10質量%とすることが望ましい。
【0023】
本発明に用いるインクには、定着樹脂、分散剤、安定化剤として機能する水溶性樹脂を含有すことが好ましい。水溶性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、水溶性スチレン−アクリル樹脂、水溶性スチレン・マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコ−ル、水溶性エステル−アクリル樹脂、エチレン−マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂、また、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン−ブタジエンエマルジョン、スチレンアクリロニトリルエマルジョンなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、隠蔽剤および顔料の分散性、粘度調整、並びに、固着力向上の点から、上記の水溶性樹脂および樹脂エマルジョンからそれぞれ1種類以上、計2種類以上の使用が望ましい。
これらの水溶性樹脂の含有量は、インク組成物全量に対して、1〜20質量%、好ましくは、5〜15質量%とすることが望ましい。
この水溶性樹脂の含有量が1質量%未満では、分散性と固着性を確保することが難しくなり、一方、20質量%を超えると、高粘度なってインクの追随性が悪くなり、好ましくない。
【0024】
本発明に用いるインクには、最適なインク粘度とするために、増粘剤を含有することができる。用いることができる増粘剤としては、例えば、アルカリ膨潤会合型エマルション、アルカリ膨潤型エマルション、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、キサンタンガム、サクシノグリカン、架橋形アクリル酸重合体、結晶セルロース、レオザンガム、ジェランガム、モンモリロナイト系粘土鉱物等無機系の増粘剤などから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、粘度調整のしやすさの点から、無機系の増粘剤以外の使用が望ましい。
具体的に用いることができる増粘剤としては、アルカリ膨潤会合型エマルションでは、プライマルTT−615、プライマルTT−935、プライマルTT−935ER(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)、アルカリ膨潤型エマルションでは、プライマルASE−60(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)、ポリビニルピロリドンでは、ポリビニルピロリドンK−30(日本触媒社製)、セルロース誘導体では、ダイセル1250(カルボキシメチルセルロースナトリウム)、SP−400(ヒドロキシエチルセルロース)(以上、ダイセル化学工業社製)、キサンタンガムでは、エコーガム(大日本住友製薬社製)、サクシノグリカンでは、メイポリ(三晶社製)、架橋形アクリル酸重合体では、ハイビスコワコー#104(和光純薬化学社製)、結晶セルロースでは、セオラスRC−81N(旭化成社製)などが挙げられる。
これらの増粘剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0.05〜2質量%、好ましくは、0.1〜1質量%とすることが望ましい。
この増粘剤の含有量が0.05質量%未満では、隠蔽剤あるいは顔料の沈降が速くなり、また、インクの流出量が多くなり、一方、2質量%を超えると、粘度が高くなりすぎてインクの追随性が悪くなり、好ましくない。
【0025】
本発明の水性インクには、分散媒として水を用いるが、更なる流出性、筆記性、保存性を向上せしめる点から、好ましくは、水溶性溶剤を含有することが望ましく、また、所望の筆記跡の効果を発揮せしめる点から着色剤を含有することが望ましい。
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロンパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル1,3−ブタンジオール、2メチルペンタン−2,4−ジオール、3−メチルペンタン−1,3,5トリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、チオジエタノール、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダリジノン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、アセトンなどの少なくとも1種が挙げられる。
これらの水溶性溶剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0〜20質量%、好ましくは、3〜15質量%が望ましい。
【0026】
用いることができる着色剤としては、例えば、カーボンブラック、亜鉛華、ベンガラ、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、アルミナホワイト、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、カドミウムエロー、朱、ガドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、バライト粉、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉などの無機顔料や、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキニトロ顔料、ニトロソ顔料などの有機顔料が挙げられる。
また、酸性染料、反応染料、塩基性染料、分散性染料、直接染料、蛍光染料、C.I.ベーシック イエロー35、C.I.ベーシック イエロー 40、C.I.アシッド オレンジ 28、C.I.アシッド ブルー92などの染料の他、その他樹脂や界面活性剤などで表面改質した加工顔料、分散トナー、アクリル系樹脂やベンゾグアナミン樹脂などを顔料や染料で着色して微粒子化した着色剤なども用いることができる。
これらの着色剤は、単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
また、これらの着色剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0〜10質量%、好ましくは、0.5〜8質量%が望ましい。
【0027】
更に、本発明に用いる水性インクには、上記各成分の他、必要に応じて、防腐剤、防錆剤、表面張力低下剤などの任意成分を適宜含有することができる。
用いる水性インクは、上記各成分〔残部を水(精製水、イオン交換水、蒸留水等)により調製)などをボールミル、ホモミキサー、ビーズミルなどを用いて常法により製造することができる。
【0028】
得られる本発明に用いる水性インクは、インクの流出性、隠蔽剤の沈降防止、たとえ沈降しても攪拌等による再分散性、経時安定性の点から、25℃におけるELD型回転粘度計のずり速度191.5(S−1)おける粘度の測定値が、12〜22(mPa・s)の範囲となるものである。
上記ずり速度における粘度値が12mPa・s未満であると、再分散性が悪くなり、一方、粘度値が22mPa・sを越えると、高粘度となり、追随性が悪くなる、即ち、インク流量が少なくなり、カスレの原因となり、好ましくない。
上記ずり速度による粘度範囲とするためには、用いる第1の隠蔽剤、第2の隠蔽剤の種類、特性(比重)、その含有量、水溶性樹脂の種類、その含有量、増粘剤の種類、その含有量などを好適に組み合わせることにより、調整することができる。
好ましくは、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、更に、それぞれ下記の範囲に設定されることが望ましい。
ずり速度(S−1) 粘度(mPa・s)
3.83 70〜120
9.58 40〜75
19.15 20〜50
38.3 15〜35
76.6 13〜25
383 10〜18
【0029】
本発明に用いる上記組成となる水性インクは、上述の構成となる攪拌子、バルブ体を備えたバルブ式マーキングペンタイプなどの筆記具に充填される。
図1〜図5は、本発明の筆記具の具体的な各実施形態を示す図面である。
図1〜図3は、本発明の筆記具の実施形態の一例を示すものである。図1に示すように、この実施形態の筆記具は、先端が開口した有底筒状の本体容器となる軸筒10後部に上記物性の水性インクを収容するタンク12と軸筒10前部内が連通しており、該タンク12に撹拌部材14を内装すると共に、前記軸筒10前部には、先端を突出させた状態の塗布体16、インク流路18を開閉するバルブ体となる弁体20および弾発力によって該弁体20を前方に付勢するスプリング体22を内部に設けており、ペン先の塗布体16を押圧することにより前記弁体20をスプリング体22の弾発力に抗して開弁させて、前記塗布体16にインクを誘導し、これによって、対象物にインクを塗布(筆記)可能にするものである。なお、本形態の攪拌子は、ポリアセタール樹脂(POM、比重1.4)で構成されている。
【0030】
この形態の筆記具では、図1〜図2に示すように、後端部の閉鎖された軸筒10の後部は、その内部空間に本発明の筆記具用水性インク組成物を収容するタンク12になっており、後端部10aが段状に縮径してキャップ24を外嵌できる外径に形成されている。当該軸筒10の前端部に概略中空筒状の先軸部26が嵌入されている。先軸部26の後端(嵌入先端)26aは、軸筒10の中央部付近に至っており、軸筒10のタンク12内面には、リブ12aが軸方向に沿って後端から中央部付近まで複数が突出形成されている。
前記先軸部26は、中央部外周にフランジ26bが形成されていて、このフランジ26b軸筒10先端部10bに当接してそれ以上軸筒10内に潜り込まないように位置決めしている。また、先軸部26の前部内周に弁受け部26cが環状内向きに突出形成されていて、この弁受け部26c前記弁体20外周が当接離脱するようになっている。なお、先軸部26のフランジ26b後方の外周面部には、雄ネジ部26dが形成されていて、この雄ネジ部26dが対応箇所の軸筒10の内周面部の雌ネジ部10cに螺合固定して軸筒10から先軸26が抜けないようになっている。また、フランジ26bの外周面には、スパナ等の治具が対応する平坦な切り欠きが180°の間隔を置いて形成されており、治具によってこの切り欠きを挟持して、先軸26を軸筒10に対して回転させることにより、先軸を軸筒10から取り外して、インクをタンク12内に注ぎ足すことがとできる。すなわち、再利用可能にする。もちろんタンク12を軸筒10と別体の装脱可能なものにしたカートリッジ式とすることもできる。
【0031】
先軸部26の前端部には塗布体16を進退動可能に内装する塗布体16保持部であるクチプラ28の後部28aが嵌入している。このクチプラ28前部28bの内周面に塗布体16を進退動可能にガイドするリブ28cが形成されている。クチプラ28の前部28bは塗布体16に合わせて後部28aよりも細径に形成されており、中央部外径はフランジ状に突出して先軸26先端に当接して後部28aがそれ以上先軸部26内に潜り込まないようになっている。そのクチプラ28の後部28a内には、スポンジ30が塗布体16後部と弁体20の外周を囲んで内装されている。なお、スポンジ30は先軸部26の弁受け部26cの前方に位置して弁体20と弁受け部26cが開弁した際に、塗布液流路に流れた塗布液が急激に塗布体16に流れて隙間(クチプラ前部28bのリブ28c間など)から溢れ出るのを防止するため、一旦保溜し、塗布体16に安定してインクを流し出すように調整する機能を有する。
【0032】
塗布体16は全体が概略棒状体であって、先端の先細りに丸くなり、かつ後端が切り落とされた形状を呈している。前記スプリング体22は、図1、図3に示すように、先端部に弁体20を、中央部に概略螺旋状の弾発部22aを、後部にフランジ状部32aを形成した筒状部(規制受け部)32を形成したものである。弁体20は前部20aが筒状であって、後部20bが円錐状の側面部を呈して、中央部に隔壁20cを有するものである。この後部20bの円錐状側面部が先軸26の弁受け部26cの円形開口内面に斜めに当接・離脱してインク流路18を開閉する構造である。
また、前記スプリング体22内には、前記撹拌体14が挿抜可能な空間34を設けている。つまり、後部の筒状部32から弾発部22aさらには前部の弁体20後部20bにかけて断面方向中央部に中空の空間34を形成しており、この空間34内に撹拌体14が挿脱自在に構成されている。ここで、前記撹拌部材14は、棒状であって後端部14aが他の部分よりも拡径して一部切り欠いたフランジ状に形成されている。
【0033】
スプリング体22には、後端部にその内径が前記撹拌体14の後端部14a外径よりも小さい内径の当接部からなる筒状部(規制受け部)32を一体に樹脂形成したものである。これによって、前記筒状部32は、その内側段部32bに前記撹拌体14の後端部14aを係止して、前記撹拌体14の先端部がスプリング体22先端部の弁体20(の隔壁20c)内面に当接しないように規制するものである。
また、前記スプリング体22の後端部の筒状部32は、外周面の凹凸が先軸26後端内周面の凹凸に嵌合して、スプリング体22が先軸26から抜けないようにされている。また、筒状部32の後端は外向きに拡径してフランジ状部32aになっており、先軸26に装着した際に先軸26の後端26aにフランジ状部32aが当接してそれ以上潜り込まないようにされている。さらにこのスプリング体22を先軸26に装着した状態で軸筒10内の先端部10bに装着して螺合固定したときに、インクタンク12の内周面のリブ12aによって前記フランジ状部32aは位置決めされる。つまり、当該フランジ状部32aは、先方から先軸26によって、また、後方からリブ12aによってそれぞれ挟み付けられて、軸筒10内での後端部の位置が固定され、先端部に設けられた弁体20が先後方向に進退動可能に設けられている。
前記スプリング体22の弾発部22aは、図2に示すように、横断面視で概略矩形形状を呈する四面に沿って2条の線状体を概略螺線状に整形しており、対向する二面に沿った線状体は軸方向に対してほぼ垂直に向き、また、他の対向する二面に沿った線状体は軸方向に対して斜めに向いて形成されている。また、スプリング体22は、その先端部に前記弁体20が一体に樹脂形成されたものである。
【0034】
上記塗布具の先端の先軸部26からクチプラ28と塗布体16を覆って、先軸26にキャップ24が着脱自在に外嵌めされる。キャップ24は先端が閉鎖されかつ軸方向中央部の周囲が凹んだ概略椀状を呈し、後端部が先軸26のフランジ26bに当接する。なお、外側部には、クリップ24aが設けられて使用者のポケットをクリップ24aで挟んで塗布具を固定出来るようになっている。また、キャップ24の外側面部には、環状に凹部24bが形成されていて、使用者が指先で摘んで軸筒10から外しやすくしている。
【0035】
なお、この形態の筆記具の攪拌子14以外の各部材は焼却処理後の残さ率の点から、樹脂材料のみから構成することが好適である。実施形態では、塗布体16はポリエチレンテレフタレート(PET)からなる繊維束、連続気泡体、成形体等である。また、前記軸筒10、先軸部26、クチプラ28、キャップ24は、ポリプロピレン(PP)からなるものである。また、スプリング体22はポリアセタール(POM)からなり、スポンジ30は、ウレタンからなるものである。また、各部は射出成形によって形成されたものであって、軸筒10と先軸26は射出成形によって精度良く形成できるため、対向するネジ結合箇所の精度が高くなり、また、後端部10aにバリが出にくく外観品質が向上する。
【0036】
本形態に係る筆記具によれば、筆記具保管時には、前記塗布体16が下方に向く等しており、スプリング体22前端の弁体20がその弾発部22aの先方に向けての弾発力によって先軸26の弁受け部26cに密着して、塗布液流路18は閉鎖している(図1の状態)。一方、使用時に沈降性を有するインクを撹拌する。筆記具を振ると、撹拌子14がタンク12内で先後運動して沈降性を有するインクを撹拌する。この際に、撹拌子14には、その後端部14aがフランジ状に拡径しているので、図2に示すように先軸26後端の筒状部32の内側段部32bに引っかかり、それ以上は弁体20側に移動しないので、衝撃によって弁体20が開弁することがない。
そして、使用者は塗布体16を机上等に押し当てて塗布体16をスプリング体22の弾発力に抗して後退させる。これにより、前記塗布体16の後端でスプリング体22前端の弁体20が先軸26の弁受け部26cから離れて、塗布液流路18が開き、スポンジ30を経由して塗布体16にインクが供給される。なお、撹拌子14の後端部14aは一部切り欠いたフランジ状部であるので、該撹拌子14がスプリング体22の空間34内に入っていても、当該後端部14aの切り欠きで空間34内への塗布液流路18が確保され塗布液の流れが途切れることが無く、スムーズな塗布・筆記が可能である。
以上の形態に係る弁付の筆記具によれば、攪拌子14を、棒状であって後端部が他の部分よりも拡径して形成し、前記スプリング体22内には、撹拌子14が挿抜可能な空間34を設け、軸筒10内では筒状内側段部32bが前記撹拌子14の後端部を係止して、撹拌子14の先端部がスプリング体22先端部内に当接しないように規制する規制受け部を有する。
【0037】
したがって、筆記具を振って前記撹拌子14によって撹拌するときに、撹拌子14がスプリング体22先端の内側に当たらないので、弁体20が開弁動作することが無く、インクの漏れや吹き出しが生じることがなく、上記物性の水性インクの流出性が良好で、経時において隠蔽剤がたとえ沈降しても前記撹拌子14によって簡単な攪拌操作により再分散が容易で、隠蔽性、安定性に優れる筆記具となるものである。また、スプリング体22を、その先端部に弁体20が一体に樹脂形成されたものにするので、部品点数を少なくでき、成形及び取り扱いが容易になる。また、スプリング体22には、後端部にその内径が前記撹拌子14の後端部外径よりも小さい当接部からなる筒状部(規制受け部)32を一体に樹脂形成すれば、別付けの必要がなく、成形および取り扱いが一層しやすい。
【0038】
また、撹拌子14を含む筆記具全体が樹脂で構成されているため、従来の金属製の攪拌部材を有する筆記具と比較して、廃棄時の焼却処理後の大気汚染も少なく、また、焼却処理後の残さ量を少ないので、環境負荷を更に低くすることができる。
【0039】
このように構成される筆記具では、上記物性の水性インク及び攪拌子、筆記具構造であれば、上記形態に限定されるものでなく、その筆記具構造、攪拌子の形状等は種々変更することができる。筆記具に内蔵される攪拌子が攪拌時に内壁に当たる構造とすれば、攪拌時に筆記具内で音が鳴るので、攪拌確認が容易となる構造とすることができる。
例えば、図4に示すように、先端が開口した有底筒状の本体容器40と、該容器本体40に嵌合により取り付けられた先端が開口する先軸部41と、該先軸部41の先端開口部から突出するように挿入されたペン先となる筆記用尖端42がホルダー部材43により保持され、前記先軸部41内部には、前記本体容器40に収容された本発明に用いる水性インクの流出を規制するバルブ体44が収容され、前記本体容器40内には、さらに前記インクを撹拌する上述の物性を有するボール状の撹拌子〔ポリアセタール樹脂(POM)製、比重1.4〕45が収容される筆記具Bにより達成することができる。46はキャップである。この実施形態において、攪拌子45を含む前記容器本体40、前記先軸部41、筆記用尖端42及びバルブ体44を図1〜図3の筆記具Aと同様に、合成樹脂から構成すれば、従来のステンレスなどの金属製の攪拌子を有する筆記具と比較して、廃棄時の焼却処理後の大気汚染も少なく、また、焼却処理後の残さ量を少ないので、環境負荷を更に低くすることができ、しかも、比重の軽い撹拌子45を備えたものであっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれる筆記具が得られるものとなる。
【0040】
図5は、別の実施形態となる筆記具であり、先端が開口した有底筒状の本体容器50と、該容器本体50に螺合により取り付けられた先端が開口する先軸部51と、該先軸部51の先端開口部から突出するように挿入されたペン先となる筆記用尖端52がホルダー部材53により保持され、前記先軸部51内部には、前記本体容器50に収容された本発明に用いる水性インクの流出を規制するバルブ体54が収容され、前記本体容器50内には、さらに前記インクを撹拌する上述の物性を有するボール状の撹拌子〔ポリアセタール樹脂(POM)+鉄粒子、樹脂体積分率60%、比重4.0〕55が収容される筆記具Cにより達成することができる。
この実施形態において、攪拌子55を含む前記容器本体50、前記先軸部51、筆記用尖端52及びバルブ体54を図1〜図3の筆記具Aと同様に、合成樹脂から構成すれば、従来のステンレスなどの金属製の攪拌子を有する筆記具と比較して、攪拌子が鉄粒子を40%と僅かに含むものであるが廃棄時の焼却処理後の大気汚染も少なく、また、焼却処理後の残さ量を少ないので、環境負荷を更に低くすることができ、しかも、比重の軽い撹拌子55を備えたものであっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれる筆記具が得られるものとなる。
【0041】
次に、実施例及び比較例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〜4、参考例1〜3及び比較例1〜8〕
(水性インク組成物の調製、配合例1〜3)
下記表1に示す配合組成に基づいて常法によりインク組成物(マーキングインク組成物、全量100質量%、配合例1〜3)を調製した。
得られた各マーキングインク組成物の25℃における各ずり速度3.83〜383sec.−1における各粘度を下記測定方法により測定した。
また、得られた各マーキングインク組成物を用いて、下記構成のマーキングペン3種に充填して、下記各評価方法により、初期攪拌子の動き、50℃、3ヶ月(3M)経過後の攪拌子の動き、初期の描線隠蔽性、50℃、3ヶ月(3M)経過後の描線隠蔽性について評価した。
これらの結果を下記表2、3に示す。
【0043】
(水性マーキングインク組成物の25℃における粘度の測定方法)
得られた各水性マーキングインク組成物を十分に撹拌し、トキメック社製TV−20L型粘度計(コーンプレートタイプ)において、標準ロータ(1°34′×R24)、各ずり速度(3.83〜383sec−1の7段階のずり速度、25℃)で測定した
【0044】
(マーキングペン1、図1〜図3、図6準拠)
マーキングペン1として、下記構成のマーキングペンを使用した。
軸筒:三菱鉛筆社製 PWX
ペン先:直径5mm、砲弾形状のPET繊維束芯
インク:表1の配合例で調製したマーキングインク組成物
インク流出構造:バルブ機構
攪拌子:形状:棒状、ポリアセタール製、大きさ:φ3.0×L50mm、比重1.4
【0045】
(マーキングペン2、図4準拠)
マーキングペン1として、下記構成のマーキングペンを使用した。
軸筒:三菱鉛筆社製 PX−21、商品名「ペイントマーカー」
ペン先:直径5mm、砲弾形状のPET繊維束芯
インク:表1の配合例で調製したマーキングインク組成物
インク流出構造:バルブ機構
攪拌部材:ボール状、ステンレス製、大きさ:φ5mm、比重7.8
【0046】
(マーキングペン3、図4準拠)
マーキングペン1として、下記構成のマーキングペンを使用した。
軸筒:三菱鉛筆社製 PC−3M、商品名「ポスカ」
ペン先:直径5mm、砲弾形状のPET繊維束芯
インク:表1の配合例で調製したマーキングインク組成物
インク流出構造:バルブ機構
攪拌部材:ボール状、ステンレス製、大きさ:φ5mm、比重7.8
【0047】
(初期、並びに、50℃・3ヶ月経過後の攪拌子の動きの評価方法)
各インクを充填した各マーキングペンの(初期)攪拌子の動き回数をカウントし、下記評価基準で評価した。また、50℃、3ヶ月間、キャップを上向きにした後の攪拌子の動き回数をカウントし、記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:1〜5回
○:6〜10回
△:11〜20回
×:21回以上
【0048】
(初期、並びに、50℃・3ヶ月経過後の描線隠蔽性の評価方法)
各インクを充填した各マーキングペンを用いて、黒画用紙に筆記した際の初期の隠蔽性を下記評価基準で評価した。また、50℃、3ヶ月間、キャップを上向きにした後、黒画用紙に筆記した際の描線隠蔽性を下記評価基準で評価した。
初期隠蔽性の評価基準:
◎:十分な隠蔽力あり
○:隠蔽力あり
△:やや隠蔽力不足
×:隠蔽力ほとんどなし
50℃、3ヶ月経過後の評価基準:
◎:初期隠蔽と略同等
○:初期隠蔽に比べて若干隠蔽低下
△:初期隠蔽に比べて隠蔽力低下
×:初期隠蔽に比べて明らかに隠蔽力不足
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
上記表1〜3の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1〜4は、本発明の範囲外となる比較例1〜8に較べて、比重の軽い撹拌子を備えた筆記具であっても、良好に撹拌でき、描線の隠蔽性が十分に保たれる筆記具となることが判明した。
個別的に見ると、実施例1〜4は、図1〜図3に準拠する筆記具構造において、攪拌子14を図6に示す形状の攪拌子に変更したものを用いるものであり、実施例1は本発明に用いる配合例1の組成で、攪拌子(2個)は鉄粉(体積分率40%)及びPOM製(体積分率60%)からなり、比重が4.0からなる構成であり、実施例2は攪拌子(2個)はPOM製(体積分率100%、比重1.4)からなる構成であり、実施例3は、実施例1の構成において攪拌子1個からなる構成であり、実施例4は、実施例2の構成において攪拌子1個からなる構成であり、これらの場合は、経時後も撹拌できて描線の隠蔽性に優れ、色相もステンレス製金属ボールを使用した場合の参考例1〜3と遜色ないことが判った。
参考例1〜3は、実施例、比較例との対比で従来の筆記具を示すものである。参考例1は、三菱鉛筆製PC−3M(商品名ポスカ、インク収容部はPP製、撹拌子となる攪拌ボールはステンレス製(比重7.8、2個入り、比重7.8)を用いた筆記具で、インク組成は隠蔽剤が酸化チタン1種を用いた水性インクであり、参考例2は参考例1の撹拌ボールが1個の場合であり、参考例3は三菱鉛筆製PX−21(商品名ペイントマーカー、インク収容部はアルミ製、撹拌子となる攪拌ボールはステンレス製(比重7.8、2個入り)を用いた筆記具で、インク組成は隠蔽剤が酸化チタン1種を用いた油性インクである。
比較例1〜8は、本発明の範囲外となる配合例2又は3のインク組成で、実施例1〜4と同じ、図1〜図3に準拠する筆記具構造において、攪拌子14を図6に示す形状の攪拌子に変更したものを用いるものである。比較例1及び3は、実施例1と対比されるものであり、インク組成として配合例2,3を用いるものであり、比較例2及び4は実施例3と対比されるものであり、インク組成として配合例2,3を用いるものであり、比較例5及び7は実施例2と対比されるものであり、インク組成として配合例2,3を用いるものであり、比較例6及び8は実施例4と対比されるものであり、インク組成として配合例2,3を用いるものであり、これらの場合は、本発明の効果を発揮できないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0053】
バルブ式のマーキングペンなどとして好適に使用できる。
【符号の説明】
【0054】
10 容器本体(軸筒)
12 タンク
14 撹拌子
16 ペン体(塗布体)
18 インク流路
20 弁体
24 キャップ
26 先軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が開口した有底筒状の本体容器と、該容器本体に取り付けられた先端が開口する先軸部と、該先軸部の先端開口部から突出するように挿入された筆記用尖端と、前記先軸部内部には、前記本体容器に収容されたインクの流出を規制するバルブ体が収容され、前記本体容器内には、さらに前記インクを撹拌する撹拌子が収容される筆記具であって、前記容器本体、前記先軸部、筆記用尖端及びバルブ体は、合成樹脂からなり、前記インクは、水と、酸化チタン粒子、硫化亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、および、これらの粒子が複合した粒子から選ばれる第1の隠蔽剤と、ガラス粒子、金属粒子、樹脂粒子、中空樹脂粒子、炭酸カルシウム粒子、窒化硼素粒子、ワックス粒子、および、これらの複合粒子から選ばれる第2の隠蔽剤とを含み、これら2種類の隠蔽剤を合計で7〜50重量%と、を少なくとも含み、25℃におけるELD型回転粘度計のずり速度191.5(S−1)おける粘度の測定値が、12〜22(mPa・s)の範囲にあり、かつ、前記撹拌子は少なくとも樹脂材料を含み、比重が4.6以下であることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記第1の隠蔽剤の粒子径が40nm〜15000nmであり、かつ、第1の隠蔽剤の添加量が固形分で5重量%〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載のバルブ式マーキングペン。
【請求項3】
前記第2の隠蔽剤の粒子径が40nm〜50000nmであって、かつ、第2の隠蔽剤の添加量が固形分で2重量%〜20重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブ式マーキングペン。
【請求項4】
前記撹拌子は、樹脂材料が体積分率で50%以上を占めることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のバルブ式マーキングペン。
【請求項5】
前記撹拌子に含まれる樹脂材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載のバルブ式マーキングペン。
【請求項6】
前記撹拌子は、金属粒子、金属化合物粒子、半金属粒子、あるいは、半金属化合物粒子から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載のバルブ式マーキングペン。
【請求項7】
前記金属化合物粒子、あるいは、半金属化合物は、金属炭化物、金属硼化物、金属珪化物、金属窒化物、金属酸化物、半金属窒化物、半金属酸化物または半金属炭化物から選ばれることを特徴とする請求項6に記載のバルブ式マーキングペン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−213048(P2011−213048A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85312(P2010−85312)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】