説明

等速ジョイントおよびその製造方法

【課題】雌スプラインに欠歯を形成することなく、シール部材を外輪から離脱させずに連結軸部材を外輪の筒状軸部に挿入することができる等速ジョイントおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】外輪20のカップ部21の内部領域と筒状軸部22の内部領域とを区画するシール部材130は、筒状軸部22のうちカップ部21の反対側から挿入され、連通穴23を閉塞する。シール部材130は、外輪20の筒状軸部22の雌スプライン22aに嵌合可能であり軸方向に相対移動可能な雄スプライン部131と、連通穴23を閉塞するシール面132aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2011−7233号公報(特許文献1)に記載されているように、フロントエンジン・フロントドライブ方式(FF方式)の自動車においては、ディファレンシャル装置と左右のドライブシャフトのインボードジョイントとの距離が異なる配置となる。そのため、一方のインボードジョイントとディファレンシャル装置とを連結軸部材により連結している。そして、インボードジョイントの外輪と連結軸部材との連結構造は、例えば、外輪の筒状軸部に雌スプラインを形成し、当該雌スプラインに連結軸部材の雄スプラインを嵌合することにより行われる。
【0003】
ここで、外輪のカップ部の内部領域にはグリースが封入されている。このグリースが外輪の筒状軸部に漏れないようにするために、カップ部の内部領域と筒状軸部の内部領域とを区画するシール部材がカップ部の底部に設けられている。特許文献1においては、シール部材は、外輪のカップ部の開口側から挿入されてカップ部の底部に取り付けられている。そして、連結軸部材を外輪の筒状軸部に挿入することによって、シール部材がカップ底部から離脱することを防止するために、外輪の筒状軸部の雌スプラインに欠歯を形成し、連結軸部材とシール部材との間の領域の空気を外部に流通させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-7233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、雌スプラインに欠歯を形成すると、スプライン間におけるトルク伝達力が低下するため、必要なトルク伝達力を確保するために、大型化したり高強度化したりする必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、雌スプラインに欠歯を形成することなく、シール部材を外輪から離脱させずに連結軸部材を外輪の筒状軸部に挿入することができる等速ジョイントおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(等速ジョイント)
(請求項1)本発明に係る等速ジョイントは、一端に開口部を備えジョイント軸部材の端部を収容するカップ部と、前記カップ部の反開口部側から軸方向外側に延在し前記カップ部の内部領域に貫通形成され内周面に雌スプラインを備える筒状軸部と、を備える外輪と、前記雌スプラインに嵌合する雄スプラインを備え、前記筒状軸部に連結される連結軸部材と、前記カップ部の内部領域と前記筒状軸部の内部領域とを区画するシール部材と、を備え、前記外輪における前記カップ部と前記筒状軸部との境界部には、前記雌スプラインの外接円より小径の内接円を有する連通穴が形成され、前記シール部材は、前記筒状軸部のうち前記カップ部の反対側から挿入され、前記連通穴を閉塞し、前記シール部材は、前記雌スプラインに嵌合可能であり軸方向に相対移動可能な雄スプライン部と、前記連通穴を閉塞するシール面とを備える。
【0008】
(請求項2)また、前記連通穴の内周面は、前記カップ部側に向かって縮径するテーパ形状に形成され、前記シール面は、前記カップ部側に向かって縮径し前記連通穴の内周面に当接するテーパ面としてもよい。
(請求項3)また、前記シール部材の前記雄スプライン部は、樹脂により形成され、前記シール部材の前記シール面は、ゴム弾性体により形成されるようにしてもよい。
(請求項4)また、前記シール部材は、前記シール面が前記連結軸部材に押し付けられて軸方向に圧縮された状態で配置されるようにしてもよい。
【0009】
(等速ジョイントの製造方法)
(請求項5)本発明に係る等速ジョイントの製造方法は、上述した等速ジョイントの製造方法であって、前記等速ジョイントは、前記外輪に対して前記ジョイント軸部材を軸方向に移動可能とする等速ジョイントであり、前記等速ジョイントは、前記外輪の開口部と前記ジョイント軸部材の外周面との間を被覆するように設けられたブーツを備え、前記製造方法は、前記シール部材の前記雄スプライン部を前記筒状軸部の雌スプラインに嵌合させることで、前記シール部材を前記筒状軸部の仮保持位置に挿入するシール部材仮保持工程と、前記ブーツを前記外輪と前記ジョイント軸部材とに組み付けるブーツ組付工程と、前記ジョイント軸部材を設定位置より前記筒状軸部側に位置決めするジョイント軸部材位置決め工程と、前記シール部材仮保持工程、前記ブーツ組付工程および前記ジョイント軸部材位置決め工程の後に、前記連結軸部材により前記シール部材を前記仮保持位置より奥側へ押し込んで前記シール部材の前記シール面を前記外輪に当接させると共に、前記連結軸部材の雄スプラインを前記連結軸部の雌スプラインに嵌合させ、前記シール部材の移動に伴って前記ジョイント軸部材を前記設定位置に移動させる連結軸部材挿入工程とを備える。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1)本発明によれば、シール部材を、外輪のカップ部側から挿入するのではなく、外輪の筒状軸部側から挿入して、カップ部と筒状軸部の境界部に配置している。ここで、当該境界部の連通穴の内接円は、筒状軸部の雌スプラインの外接円より小径に形成されている。また、シール部材の雄スプライン部は、筒状軸部の雌スプラインに嵌合可能に形成されている。従って、筒状軸部側から挿入されたシール部材は、連通穴を通過することはできない。つまり、シール部材は、連結軸部材により外輪の筒状軸部の内部領域に押し込まれることにより、連通穴を閉塞することができる。このように、シール部材を外輪の筒状軸部側から挿入することで、従来そもそも問題であったシール部材が外輪のカップ部の内部領域に離脱することを防止できる。
【0011】
ここで、シール部材を筒状軸部の奥側へ押し込む前の状態においては、シール面が連通穴を閉塞していない状態が存在する。そのため、この状態において、外輪のカップ部に封入されたグリースが筒状軸部側から外部へ漏出することを防止する必要がある。本発明によれば、シール部材の雄スプライン部は、外輪の筒状軸部の雌スプラインに嵌合可能である。従って、シール面が連通穴を閉塞していない状態において、シール部材は、外輪の筒状軸部の雌スプラインの部位に仮保持される。さらに、スプライン嵌合によって、外輪のカップ部に封入されたグリースが筒状軸部側から漏出することを防止できる。
【0012】
このように、本発明によれば、外輪の筒状軸部の雌スプラインに欠歯を形成することなく、シール部材を外輪から離脱させずに連結軸部材を外輪の筒状軸部に挿入することができる。従って、外輪の筒状軸部および連結軸部材の大型化および高強度化を図ることなく、必要なトルク伝達力を確保できる。
【0013】
(請求項2)本発明によれば、連通穴の内周面をテーパ形状に形成して、シール部材のシール面を当該テーパ形状に対応するテーパ形状に形成されている。そして、テーパ形状同士が当接することにより、連通穴が閉塞されている。仮に、シール部材を連通穴に挿入する際に両者に芯ずれが生じていたとしても、シール面を連通穴の内周面に挿入することが容易にできる。従って、組み付け性が良好となる。さらに、テーパ形状同士の当接であるため、周方向の面圧を均一にすることができる。これにより、シール性能を周方向全周に亘って均一にすることができ、グリースの漏出を確実に防止できる。
【0014】
(請求項3)シール部材の雄スプライン部を樹脂により形成することにより、当該雄スプライン部が外輪の筒状軸部の雌スプラインに嵌合された状態において、シール部材を軸方向へ摺動させることが可能となる。つまり、スプライン嵌合によってシール部材を筒状軸部に仮保持できると共に、シール部材の外輪の連通穴付近への組み付け性を良好にすることができる。一方、シール部材のシール面をゴム弾性体により形成することで、高いシール性能を発揮できる。
【0015】
(請求項4)ゴム弾性体により形成されるシール面が、連結軸部に押し付けられて軸方向に圧縮された状態としている。これにより、シール面によるシール性能を高くすることができる。さらに、連結軸部材と外輪の筒状軸部との軸方向への位置決めガタがある場合に、ゴム弾性体のシール面の圧縮によって、この位置決めガタを吸収することができる。従って、連結軸部材を外輪の筒状軸部に固定した状態において、連結軸部材が外輪に対して軸方向ガタを有しないようにできる。
【0016】
(請求項5)本発明によれば、シール部材仮保持工程において、シール部材を外輪の筒状軸部に仮保持している。従って、この状態において、外輪のカップ部に封入されたグリースが、筒状軸部から外部へ漏出することを防止できる。そして、ブーツ組付工程において、外輪のカップ部の開口部はブーツによって閉塞される。つまり、シール部材仮保持工程およびブーツ組付工程の後の状態において、外輪のカップ部の内部領域および筒状軸部の内部領域は、ブーツとシール部材とにより密閉された状態となっている。そして、連結軸部材挿入工程において、連結軸部材によりシール部材を仮保持位置より奥側へ押し込んでシール部材のシール面を外輪に当接させている。これにより、シール部材によって連結穴を閉塞することができる。
【0017】
ここで、カップ部の内部領域および筒状軸部の内部領域はブーツとシール部材とにより密閉されているため、シール部材が筒状軸部のうち連通穴側に移動することによって、筒状軸部の内部領域に存在していた流体(グリースおよび空気など)がカップ部側へ移動する。つまり、カップ部の内部領域に封入される流体の体積は、連結軸部材の挿入前後によって異なる。そこで、シール部材挿入工程の前において、ジョイント軸部材を設定位置より筒状軸部側(カップ部の底部側)に位置決めした。その結果、連結軸部材挿入工程において、カップ部の内部領域の流体増加により、ブーツがカップ部の開口部から離れる方向に移動し、当該ブーツの移動に伴ってジョイント軸部材が設定位置に移動する。このように、連結軸部材を取り付けた状態において、ジョイント軸部材を確実に設定位置に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の等速ジョイントの軸方向断面図である。
【図2】(a)はシール部材の軸直交方向から見た図を示し、(b)はシール部材の軸方向から見た図を示す。
【図3】等速ジョイントの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】等速ジョイントの製造途中のうちシール部材挿入工程における等速ジョイントの軸方向断面図である。
【図5】等速ジョイントの製造途中のうち連結軸部材挿入工程における途中における等速ジョイントの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
(等速ジョイントの構成)
フロントエンジン・フロントドライブ方式(FF方式)の自動車においては、ディファレンシャル装置と左右のドライブシャフトのインボードジョイントとの距離が異なる配置となる。そのため、一方のインボードジョイントとディファレンシャル装置とを連結軸部材により連結している。そこで、本実施形態の等速ジョイントは、FF方式の自動車におけるディファレンシャル装置に連結されるインボードジョイントを例に挙げて説明する。本実施形態の等速ジョイントの全体構成について図1を参照して説明する。以下の説明において、ディファレンシャル装置側をデフ側と称し、アウトボードジョイント側を車輪側と称する。
【0020】
この等速ジョイントとして、摺動式トリポード型等速ジョイントが適用されている。等速ジョイントは、ジョイント本体10と、ジョイント軸部材としてのドライブシャフトの中間シャフト100と、ブーツユニット110と、連結軸部材120と、シール部材130とを備えて構成される。
【0021】
ジョイント本体10は、中間シャフト100にジョイント角を付与可能に連結されており、連結軸部材120に連結されている。ここで、中間シャフト100の一端の外周面には、雄スプラインが形成されている。連結軸部材120は、ディファレンシャル装置(図示せず)の出力側に連結されている。ジョイント本体10は、外輪20、トリポード30、ローラ40、複数の軸状転動体50、リテーナ60、スナップリング70を備えて構成される。
【0022】
外輪20は、中間シャフト100の端部を収容するカップ部21と、カップ部21のうちデフ側に連結された筒状軸部22とを備え、これらを一体的に形成されている。カップ部21は、車輪側の一端に開口部を備えており、当該開口部から中間シャフト100の端部が挿入されて、内部領域にて中間シャフト100を収容している。このカップ部21の内周面には、外輪回転軸方向に延びる軌道溝21aが周方向に等間隔に3本形成されている。
【0023】
筒状軸部22は、カップ部21の反開口部側(デフ側)から軸方向外側に延びるように、カップ部21に一体成形されている。この筒状軸部22は、カップ部21の内部領域に貫通形成されている。さらに、筒状軸部22の内周面には雌スプライン22aが形成されている。ただし、雌スプライン22aは、筒状軸部22の内周面のうち車輪側の端部付近には形成されていない。すなわち、筒状軸部22の内周面のうち車輪側の端部付近は、雌スプライン22aの外接円以上の内径を有する円筒内周面形状に形成されている。この筒状軸部22には、連結軸部材120が挿入され、筒状軸部22の雌スプライン22aと連結軸部材120の雄スプライン121が嵌合する。つまり、筒状軸部22は、連結軸部材120にトルク伝達可能に連結されている。また、筒状軸部22の雌スプライン22aが形成されている軸方向範囲の途中に、環状溝22cが形成されている。
【0024】
そして、外輪20において、カップ部21と筒状軸部22との境界部には、連通穴23が形成されている。この連通穴23の内周面は、カップ部21側(車輪側)に向かって縮径するようなテーパ形状に形成されており、外輪20の回転軸と同軸上に形成されている。この連通穴23のデフ側の内接円は、筒状軸部22の雌スプライン22aの外接円より小径に形成されている。従って、筒状軸部22のうちカップ部21側には、底面が形成されている。また、連通穴23の車輪側の内接円は、カップ部21の外接円より小径に形成されている。カップ部21のうち筒状軸部22側にも、底面が形成されている。
【0025】
トリポード30は、ボス部31と、当該ボス部31の径方向外側であって周方向に等間隔に立設された3本のトリポード軸部32とを備える。このトリポード30は、外輪20のカップ部21の内側に配置されている。ボス部31の内周面には、雌スプラインが形成されており、この雌スプラインは、中間シャフト100の一端の雄スプラインに嵌合する。そして、それぞれのトリポード軸部32の先端側が、それぞれの軌道溝21aに挿入されている。
【0026】
ローラ40は、環状に形成され、トリポード軸部32の外周側に複数の軸状転動体50を介して軸支されている。つまり、ローラ40は、それぞれのトリポード軸部32に対して回転可能にかつ軸方向に摺動可能に配置されている。さらに、ローラ40は、軌道溝21aに嵌挿され、軌道溝21aに転動可能に係合している。
【0027】
リテーナ60は、環状に形成されており、トリポード軸部32の外周側であって、軸状転動体50に対して軸方向に積層するように配置される。このリテーナ60は、軸状転動体50の抜け止めの役割を有している。そして、リテーナ60は、トリポード軸部32のリング溝に係止されるスナップリング70により、トリポード軸部32から抜け落ちないようにされている。
【0028】
このように構成されるジョイント本体10によれば、外輪20と中間シャフト100にジョイント角を付与した状態で、外輪20と中間シャフト100との間でトルクが伝達される。さらに、外輪20と中間シャフト100とは、相対的に軸方向に移動可能となる。
【0029】
ブーツユニット110は、ブーツ111およびクランプ部材112,113により構成される。ブーツ111は、蛇腹筒状に形成されており、外輪20のカップ部21の開口部と中間シャフト100の外周面との間を被覆する。ブーツ111の大径側を外輪20のカップ部21の外周側に嵌め、その外周側をクランプ部材112により締結する。また、ブーツ111の小径側を中間シャフト100の外周面に嵌め、その外周側をクランプ部材113により締結する。ここで、外輪20のカップ部21の内部領域にはグリースが封入されており、ブーツ111は、グリースが外輪20のカップ部21の開口部から漏出しないようにシールする。
【0030】
連結軸部材120は、ディファレンシャル装置と外輪20の筒状軸部22とを連結する。連結軸部材120の一端の外周面には、筒状軸部22の雌スプライン22aに嵌合される雄スプライン121が形成されている。さらに、雄スプライン121が形成されている軸方向範囲の途中に、環状溝122が形成されている。この環状溝122には、縮径可能なスナップリング123が予め嵌め込まれている。縮径されていない状態のスナップリング123の外径は、雄スプライン121の底径よりも大きい。つまり、スナップリング123は、筒状軸部22の雌スプライン22aに対して軸方向に係合可能である。また、縮径された状態のスナップリング123の外径は、雄スプライン121の底径以下である。つまり、縮径された状態のスナップリング123は、筒状軸部22の雌スプライン22aの径方向内側を軸方向に通過可能である。そして、スナップリング123が連結軸部材120の雄スプライン121と筒状軸部22の雌スプライン22aとに対して軸方向に係合することで、連結軸部材120が筒状軸部22から抜けることを防止できる。
【0031】
シール部材130は、外輪20の内部に配置され、カップ部21の内部領域と筒状軸部22の内部領域とを区画する。このシール部材130は、連結軸部材120の端面により軸方向に押し付けられることにより外輪20の筒状軸部22のデフ側から挿入され、連通穴23を閉塞する。つまり、シール部材130は、カップ部21の内部に封入されたグリースが、カップ部21から筒状軸部22側へ漏出しないようにシールする。
【0032】
このシール部材130の詳細構成について図2(a)(b)を参照して説明する。シール部材130は、雄スプライン部131と軸方向突出部132とを備える。雄スプライン部131は、熱可塑性樹脂により中実形状に形成され、筒状軸部22の雌スプライン22aに嵌合可能であり軸方向に相対移動可能な形状に形成されている。ここで、雄スプライン部131は、筒状軸部22の雌スプライン22aに嵌合された状態において、グリースが漏出しないように形成されている。例えば、雄スプライン部131は、雌スプライン22aに僅かに圧入される状態となるように形成される。ただし、人間の力によってシール部材130を筒状軸部22の内部へ押し込むことができる程度の圧入代とする。
【0033】
軸方向突出部132は、少なくとも表面をゴム弾性体により形成され、雄スプライン部131の車輪側端面から軸方向に突出するように、雄スプライン部131に一体的に形成されている。この軸方向突出部132の外周面は、車輪側に向かって縮径するようなテーパ形状に形成されたシール面132aを備えている。このシール面132aのテーパ形状は、連通穴23の内周面のテーパ形状に対応する形状とされている。
【0034】
つまり、シール部材130が連結軸部材120により筒状軸部22の奥側へ押し込まれることによって、シール面132aが連通穴23の内周面に当接する。このとき、シール面132aは、連通穴23の内周面と連結軸部材120の端面とにより軸方向に圧縮された状態で配置されている。このようにして、シール面132aが連通穴23の内周面に密着することで、外輪20のカップ部21内部のグリースが筒状軸部22側へ漏出することを防止できる。
【0035】
(等速ジョイントの製造方法)
次に、上述した等速ジョイントの製造方法について、図3のフローチャートと製造途中の状態を示す図4および図5を参照すると共に、完成状態の図1をも参照して説明する。
図3に示すように、まず、ジョイント本体10を組み付ける(S1)(ジョイント本体組付工程)。続いて、図4に示すように、ブーツ111を外輪20と中間シャフト100に組み付ける(S2)(ブーツ組付工程)。さらに、シール部材130を仮保持位置である筒状軸部22のデフ側端部(筒状軸部22の開口部付近)に挿入する(S2)(シール仮保持工程)。ここで、シール部材130は、軸方向突出部132側から筒状軸部22の内部に挿入する。この状態において、シール部材130の雄スプライン部131が筒状軸部22の雌スプライン22aに嵌合し、シール部材130が筒状軸部22から脱落しないようにされている。従って、連結軸部材120を連結していない状態において、半製品を搬送することもできる。
【0036】
続いて、外輪20のカップ部21の内部領域にグリースを注入する(S3)(グリース注入工程)。ここで、外輪20のカップ部21の車輪側の開口部は、ブーツ111により閉塞されている。また、シール部材130を筒状軸部22の奥側へ押し込む前の状態においては、シール面132aが連通穴23を閉塞していない状態となる。そのため、カップ部21側から注入されたグリースの一部は筒状軸部22の内部領域へ移動することもある。この状態において、外輪20のカップ部21に封入されたグリースが筒状軸部22側から外部へ漏出することを防止する必要がある。
【0037】
ここで、シール部材130の雄スプライン部131は、筒状軸部22の雌スプライン22aに嵌合可能である。そして、シール面132aが連通穴23を閉塞していない状態において、シール部材130は、筒状軸部22の雌スプライン22aの部位に仮保持されている。このスプライン嵌合によって、筒状軸部22の開口部が閉塞されている。つまり、シール部材130が仮保持位置に位置する状態において、シール部材130によって、グリースが筒状軸部22側から外部へ漏出することを防止できる。
【0038】
続いて、外輪20に対する中間シャフト100の軸方向位置を組付位置Pbに位置決めした状態において、クランプ部材112,113を締結する(S4)(中間シャフト位置決め工程)。ここで、図1に示すように、外輪20に対する中間シャフト100の軸方向位置の設定位置(基準位置)、すなわちトリポード30の軸方向中心位置の設定位置はPaである。この設定位置Paは、等速ジョイントを組み付けた状態の規定位置、すなわちトリポード30の軸方向中心位置がジョイント中心に位置する状態に相当する。これに対して、組付位置Pbは、設定位置Paより筒状軸部22側に位置する。つまり、中間シャフト100を設定位置Paよりデフ側に位置する組付位置Pbに押し込んでクランプ部材112,113を締結する。
【0039】
続いて、連結軸部材120によってシール部材130を仮保持位置より筒状軸部22の奥側へ押し込みながら、連結軸部材120を筒状軸部22に挿入する(S5)(連結軸部材挿入工程)。ここで、連結軸部材120の環状溝122には予めスナップリング123が装着されており、このスナップリング123を縮径した状態で連結軸部材120を筒状軸部22に挿入する。
【0040】
そして、シール部材130が連結軸部材120によって押し込まれることによって、テーパ形状のシール面132aが連通穴23のテーパ形状内周面に当接する。仮に、シール部材130を連通穴23に挿入する際に両者に芯ずれが生じていたとしても、シール面132aを連通穴23のテーパ形状内周面に挿入することが容易にできる。従って、組み付け性が良好となる。さらに、テーパ形状同士の当接であるため、周方向の面圧を均一にすることができる。これにより、シール性能を周方向全周に亘って均一にすることができ、グリースの漏出を確実に防止できる。
【0041】
そして、連結軸部材120をさらに押し込むことにより、シール面132aが圧縮された状態になると、スナップリング123が拡径して筒状軸部22の環状溝22cに嵌め込まれる。このようにして、連結軸部材120が筒状軸部22に対して軸方向に固定される。そして、シール面132aが連通穴23のテーパ形状内周面に圧縮した状態で当接するため、シール面132aによるシール性能を高くすることができる。
【0042】
さらに、シール面132aが圧縮した状態で、スナップリング123が筒状軸部22の環状溝22cに嵌め込まれている。このことから、スナップリング123と環状溝22c,122との間に軸方向の位置決めガタがある場合であっても、シール面132aの圧縮によって、この位置決めガタを吸収することができる。つまり、連結軸部材120を外輪20の筒状軸部22に固定した状態において、連結軸部材120が外輪20に対して軸方向ガタを有しないようにできる。
【0043】
ここで、S4においてクランプ部材112,113を締結した状態において、外輪20のカップ部21の内部領域と筒状軸部22の内部領域は、ブーツ111とシール部材130とにより密閉された状態となっている。そのため、シール部材130が仮保持位置から筒状軸部22の奥側へ移動することによって、筒状軸部22の内部領域に存在していた流体(グリースおよび空気を含む)が、カップ部21側へ移動する。そうすると、ブーツ111が軸方向に伸張することで、カップ部21の内部領域に封入される流体の体積が増加する。このように、カップ部21の内部領域に封入される流体の体積は、連結軸部材120の挿入前後によって異なる。
【0044】
そして、ブーツ111が伸張変形することに伴って、ブーツ111に締結されている中間シャフト100が車輪側へ移動する。つまり、図5に示すように、連結軸部材120を筒状軸部22の中間付近まで挿入した状態では、外輪20に対するトリポード30の軸方向中心Pcは、組付位置Pbより車輪側に移動する。そして、図1に示すように、連結軸部材120を筒状軸部22に固定される状態では、外輪20に対するトリポード30の軸方向中心は、設定位置Paに移動する。
【0045】
このように、シール部材130を押し込む前の状態においてトリポード30の軸方向中心を組付位置Pbに位置決めしておくことで、シール部材130の軸方向への移動に伴って、トリポード30の軸方向中心が組付位置Pb→Pc→設定位置Paへ移動する。従って、連結軸部材120を最終組付け位置に配置した状態において、中間シャフト100を確実に設定位置Paに位置決めすることができる。
【0046】
上記のように、シール部材130を、外輪20のカップ部21側から挿入するのではなく、外輪20の筒状軸部22側から挿入して、カップ部21と筒状軸部22の境界部に配置している。ここで、境界部の連通穴23の内接円は、筒状軸部22の雌スプライン22aの外接円より小径に形成されている。また、シール部材130の雄スプライン部131は、筒状軸部22の雌スプライン22aに嵌合可能に形成されている。従って、筒状軸部22側から挿入されたシール部材130は、連通穴23を通過することはできない。つまり、シール部材130は、連結軸部材120により外輪20の筒状軸部22の内部領域に押し込まれることにより、連通穴23を閉塞することができる。このように、シール部材130を外輪20の筒状軸部22側から挿入することで、従来そもそも問題であったシール部材130が外輪20のカップ部21の内部領域に離脱することを防止できる。
【0047】
以上より、本実施形態によれば、外輪20の筒状軸部22の雌スプライン22aに欠歯を形成することなく、シール部材130を外輪20から離脱させずに連結軸部材120を外輪20の筒状軸部22に挿入することができる。従って、外輪20の筒状軸部22および連結軸部材120の大型化および高強度化を図ることなく、必要なトルク伝達力を確保できる。
【0048】
<その他>
上記実施形態においては、シール部材130の軸方向突出部132のシール面132aをテーパ形状にし、連通穴23のテーパ形状内周面に当接することで、シールすることとした。この他に、シール部材130の軸直交平面をシール面として、外輪20の筒状軸部22の底面に当接することで、シールするようにすることもできる。
【符号の説明】
【0049】
10:ジョイント本体、 20:外輪、 21:カップ部、 22:筒状軸部、 22a:雌スプライン、 23:連通穴、 100:中間シャフト(ジョイント軸部材)、 111:ブーツ、 120:連結軸部材、 121:雄スプライン、 130:シール部材、 131:雄スプライン部、 132:軸方向突出部、 132a:シール面、 Pa:設定位置、 Pb:組付位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端に開口部を備えジョイント軸部材の端部を収容するカップ部と、前記カップ部の反開口部側から軸方向外側に延在し前記カップ部の内部領域に貫通形成され内周面に雌スプラインを備える筒状軸部と、を備える外輪と、
前記雌スプラインに嵌合する雄スプラインを備え、前記筒状軸部に連結される連結軸部材と、
前記カップ部の内部領域と前記筒状軸部の内部領域とを区画するシール部材と、
を備え、
前記外輪における前記カップ部と前記筒状軸部との境界部には、前記雌スプラインの外接円より小径の内接円を有する連通穴が形成され、
前記シール部材は、前記筒状軸部のうち前記カップ部の反対側から挿入され、前記連通穴を閉塞し、
前記シール部材は、前記雌スプラインに嵌合可能であり軸方向に相対移動可能な雄スプライン部と、前記連通穴を閉塞するシール面と、を備える等速ジョイント。
【請求項2】
請求項1において、
前記連通穴の内周面は、前記カップ部側に向かって縮径するテーパ形状に形成され、
前記シール面は、前記カップ部側に向かって縮径し前記連通穴の内周面に当接するテーパ面である等速ジョイント。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記シール部材の前記雄スプライン部は、樹脂により形成され、
前記シール部材の前記シール面は、ゴム弾性体により形成される等速ジョイント。
【請求項4】
請求項3において、
前記シール部材は、前記シール面が前記連結軸部材に押し付けられて軸方向に圧縮された状態で配置される等速ジョイント。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項の等速ジョイントの製造方法であって、
前記等速ジョイントは、前記外輪に対して前記ジョイント軸部材を軸方向に移動可能とする等速ジョイントであり、
前記等速ジョイントは、前記外輪の開口部と前記ジョイント軸部材の外周面との間を被覆するように設けられたブーツを備え、
前記製造方法は、
前記シール部材の前記雄スプライン部を前記筒状軸部の雌スプラインに嵌合させることで、前記シール部材を前記筒状軸部の仮保持位置に挿入するシール部材仮保持工程と、
前記ブーツを前記外輪と前記ジョイント軸部材とに組み付けるブーツ組付工程と、
前記ジョイント軸部材を設定位置より前記筒状軸部側に位置決めするジョイント軸部材位置決め工程と、
前記シール部材仮保持工程、前記ブーツ組付工程および前記ジョイント軸部材位置決め工程の後に、前記連結軸部材により前記シール部材を前記仮保持位置より奥側へ押し込んで前記シール部材の前記シール面を前記外輪に当接させると共に、前記連結軸部材の雄スプラインを前記連結軸部の雌スプラインに嵌合させ、前記シール部材の移動に伴って前記ジョイント軸部材を前記設定位置に移動させる連結軸部材挿入工程と、
を備える等速ジョイントの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−64474(P2013−64474A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204509(P2011−204509)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】