説明

等速自在継手

【課題】温化・薬剤の含まれる水蒸気及び、多量の水がかかる劣悪雰囲気下等であっても、これに適用可能な球面シール構造の等速自在継手を提供する。
【解決手段】内側継手部材56から延びるシャフト62と外側継手部材53との間を塞いで継手内部を密封する密封装置Sとを備えた等速自在継手である。継手内部に潤滑用の充填用グリースを給脂するための給脂口100と、継手内部の充填用グリース量の確認を可能とする孔部102とが開設されている。密封装置Sは、ブーツを使用しない球面シール構造である。給脂口100と孔部102とは、継手軸線Lに関して180度反対側に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手に関し、特に高温化でかつ各種の薬剤等が含まれる水蒸気や多量の水がかかる雰囲気下に用いられる等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼設備の連続鋳造設備に於いては、高温化で且つ薬剤・スケールの含まれる水蒸気の雰囲気状態である。また、熱延ラインの鋼鈑巻取り装置(ダウンコイラー)では、滝のように水がかかる雰囲気状態でロールを駆動させなければならない。製紙設備に於いては、抄紙機ラインのドライヤーロ−ル部では、高温雰囲気下でロールを駆動させなければならない。
【0003】
このように、劣悪雰囲気下で等速自在継手を用いる場合がある。一般的な等速自在継手(固定式等速自在継手)は、図10に示すように、球状内面に複数の曲線状のトラック溝2を有する外側継手部材3と、球状外面に複数の曲線状のトラック溝4を有する内側継手部材5と、外側継手部材3のトラック溝2と内側継手部材5のトラック溝4間に組み込まれたボール6と、ボール6を保持するケージ7とで構成される。
【0004】
この種の等速自在継手では、潤滑剤としてグリースが内部に封入されており、そのグリースが外部へ漏洩したり、あるいは、外部から継手内部へ水やダスト等の異物が侵入したりすることを防止する目的から、等速自在継手1の外側継手部材3と内側継手部材5に連結されたシャフト8との間に密封用ブーツ10を装着するのが一般的である(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
このブーツ10は、図10に示すように等速自在継手の外側継手部材3の開口端部9に装着される大径部11と、等速自在継手の内側継手部材5にスプライン嵌合などにより連結したシャフト8に装着される小径部12と、それら大径部11と小径部12の間に設けられ、軸方向に沿って交互に配された山部13と谷部14を有する蛇腹部15とで構成されている。この場合のブーツ10は樹脂製であるが、ブーツ10にはクロロプレンゴム(CRゴム)等のゴム製のものもある。
【0006】
また、近年においては、前記したようなブーツを使用しない球面シール構造のものもある(特許文献3)。このような球面シール構造を用いた等速自在継手は、図11に示すように、球状内面に複数の曲線状のトラック溝20を有する外側継手部材21と、球状外面に複数の曲線状のトラック溝22を有する内側継手部材23と、外側継手部材21のトラック溝20と内側継手部材23のトラック溝22間に組み込まれたボール24と、ボール24を保持するケージ25とを備える。
【0007】
内側継手部材23にシャフト26の小径部27の端部27aが嵌入され、この小径部27に球面部材31が装着されている。球面部材31はお椀形状であって、その軸心部に小径部27が嵌入する短筒部32が形成されている。
【0008】
外側継手部材21には筒体33が装着されている。筒体33は、大径部33aと小径部33bとを備え、大径部33aが外側継手部材21の開口部に外嵌固定されている。小径部33bの反外輪側の端縁にOリング35が装着されている。
【0009】
そして、一端部が前記短筒部32に嵌合されるスプリング36が小径部27に外嵌される。すなわち、スプリング36は球面部材31とシャフト26の段付き部37との間に介在され、球面部材31を筒体33側に押圧している。これによって、Oリング35を介して継手内部をシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−155002号公報
【特許文献2】特開2008−25742号公報
【特許文献3】特開2007−309367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のゴム製ブーツでのシ−ル構造では、高温・薬剤及び多量の水等がかかる劣悪雰囲気下等において、劣化しやすく、早期破損に至ることになる。このため、このようなシ−ル構造に対するメンテナンスを必要とし、しかもこのメンテナンス作業に多大な工数を要するものであった。なお、耐熱性に優れたSi(シリコン)材または耐薬剤性に優れたNBR(ニトリルゴム)材を使用したとしても、スケールの飛散などに因り、早期にブーツに亀裂が発生する。このため、ゴム製ブーツでは前記した劣悪雰囲気下に対する対策は極めて困難であった。また、樹脂製ブーツではゴム製ブーツよりも耐久性に優れるが、樹脂製ブーツにおいても、前記のような劣悪雰囲気下では十分対応できるとは言えず、損傷等するおそれがある。
【0012】
また、図10に示す球面シール構造のものであっては、ゴム製ブーツや樹脂製ブーツに比べて耐久性がある。しかしながら、球面シール構造は球面接触のため、回転数や作動角度によるが継手内部のグリースの確実なシーリングと水の浸入を確実に防止することが難しいため、定期的なグリース補強が必要である。特に、高温下においては、グリースの早期劣化や水飛散に因るグリースの流出が生じる。このため、継手内部におけるグリースの交換や給脂を迅速にかつ確実に行う必要がある。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、高温化・薬剤の含まれる水蒸気、及び多量の水がかかる劣悪雰囲気下であっても、これに適用可能な球面シール構造の等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の等速自在継手は、継手内部を密封する密封装置とを備えるとともに、継手内部に潤滑用の充填用グリースを給脂するための給脂口と、継手内部の充填用グリース量の確認を可能とする孔部とが開設された等速自在継手であって、前記密封装置は、ブーツを使用しない金属同士の球面接触による球面シール構造であり、給脂口と孔部とは、継手軸線に関して180度反対側に配設されるものである。
【0015】
本発明の等速自在継手によれば、密封装置がブーツを使用しない球面シール構造であるので、ゴム製ブーツや樹脂製ブーツに比べて劣悪雰囲気下であっても、耐久性がある。ここで、劣悪雰囲気下とは、高温化・薬剤の含まれる水蒸気、及び多量の水がかかる劣悪雰囲気下等である。
【0016】
また、孔部を継手軸線に関して180度反対側に給脂口を配設したので、給脂口からのグリースの給脂時に、この孔部を介してその充填量を確認することができる。
【0017】
給脂口と孔部とは、継手軸線を含む一平面内に配設されていてもよい。また、給脂口と孔部とは、継手軸線方向にずれてもよい。さらには、給脂口から継手軸線に下ろした垂線の長さと、孔部から継手軸線に下ろした垂線の長さがとが、同一であっても、相違していてもよい。
【0018】
一つの給脂口と一つの孔部とが対をなし、この給脂口と孔部との対を複数対備えたものであってもよい。密封装置と継手軸線方向反対側の開口部に、相手軸に連結されるためのフランジが付設され、このフランジに前記給脂口や孔部が設けられているものであってもよい。
【0019】
密封装置に前記給脂口や前記孔部を設けたものであってもよい。また、相手軸に連結されるためのフランジと接続されるフランジ部を外側継手部材に一体に設けたものであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の等速自在継手では、高温化・薬剤の含まれる水蒸気、及び多量の水がかかる劣悪雰囲気下であっても、密封装置が損傷等を生じることなく継手内部の密封性を維持することができる。また、高角度における高速回転性能の向上を図ることができる。
【0021】
しかも、グリース給脂時に、孔部を介してその充填量を確認することができるので、グリースを満量になるまで確実に給脂できる。このため、前記のような劣悪雰囲気下で使用されてグリースが劣化した状態となっても、劣化したグリースを交換する際にも、迅速かつ安定して劣化したグリースを排出して劣化していないグリースを充填することができる。
【0022】
給脂口と孔部とは、継手軸線を含む一平面上に配設されていても、継手軸線方向にずれていても、給脂口から継手軸線に下ろした垂線の長さと、孔部から継手軸線に下ろした垂線の長さがとが、同一であっても、相違していてもよい。さらには、密封装置に給脂口や前記孔部を設けたものであってもよい。このため、給脂口と孔部とを種々の位置に開設することができ、設計の自由度が大きく生産性に優れる。
【0023】
給脂口と孔部との対を複数対備えたものでは、給脂作業時間の短縮を図ってグリースの交換性の向上を図ることができる。給脂口や孔部がフランジに設けられるものであれば、継手本体(外側継手部材と、この外側継手部材に内装される内側継手部材等で構成される内部部品とからなる)に給脂口や孔部に設けなくてもよく、生産性の向上を図ることができる。また、フランジ部が一体型であれば、部品点数の減少を図るとともに、組立性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す等速自在継手の正面図である。
【図2】前記図1のX−O−Y線断面図である。
【図3】前記図1のX−O−X線断面図である。
【図4】図1に示す等速自在継手に用いられている密封装置の拡大断面図である。
【図5】第1の変形例を示す断面図である。
【図6】第2の変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態を示す等速自在継手の正面図である。
【図8】前記図7のX1−O−X1線断面図である。
【図9】第3の変形例を示す断面図である。
【図10】密封装置にブーツを用いた等速自在継手の断面図である。
【図11】密封装置に球面シール構造を用いた等速自在継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明の実施の形態を図1〜図8に基づいて説明する。
【0026】
図1〜図3に本発明にかかる等速自在継手を示し、この等速自在継手は、内径面51に複数(6個)のトラック溝52が軸方向に沿って形成された外側継手部材53と、外径面54に複数(6個)のトラック溝55が軸方向に沿って形成された内側継手部材56と、外側継手部材53のトラック溝52と内側継手部材56のトラック溝55との対で形成されるボールトラックに配置される複数(6個)のトルク伝達ボール57と、外側継手部材53の内径面51と内側継手部材56の外径面54との間に介在すると共にトルク伝達ボール57を保持するケージ58を備える。
【0027】
内側継手部材56の孔部の内径面には雌スプライン61が形成され、この内側継手部材56の孔部に、シャフト62の雄スプライン63が嵌入され、この雄スプライン63が内側継手部材56の雌スプライン61に嵌合する。そして、雄スプライン63の端部には、抜け止め用の止め輪64が嵌合されている。止め輪64は、内側継手部材56に螺着されるボルト部材59を介して内側継手部材56に取り付けている。なお、シャフト62は、筒体からなるシャフト本体62aと、このシャフト本体62aに連結されるシャフト端部材62bとを備える。シャフト端部材62bは、基部65と、この基部65から突設される軸部66とからなり、この軸部66の先端部に前記雄スプライン63が形成されている。基部65は、シャフト本体62aに嵌入される嵌入部65aと、鍔部65bとからなる。また、シャフト本体62aには、その開口部が大径部67とされ、この大径部67にシャフト端部材62bの嵌入部65aが嵌入される。シャフト本体62aの開口端のテーパ面と、基部65のシャフト本体側のテーパ面との間に溶接部68が形成され、シャフト本体62aとシャフト端部材62bとが連結される。
【0028】
また、外側継手部材53の反シャフト側には、相手軸70に連結するためのフランジ71が接続される。フランジ71は、筒状本体部71aと、継手側の鍔部71bとを備え、この鍔部71bが外側継手部材53に取付られる。すなわち、鍔部71bの継手内部側の端面に、切欠部(凹部)74が形成され、この切欠部74に外側継手部材53の反シャフト側が嵌合する。筒状本体部71aの内径面には、キー溝72が設けられ、このキー溝72に、相手軸70に設けられるキー73が嵌合している。
【0029】
ところで、この等速自在継手は、内側継手部材56から延びるシャフト62と外側継手部材53との間を塞いで継手内部を密封する密封装置Sを備える。この密封装置Sはブーツを使用しない金属同士の球面接触による球面シール構造である。密封装置Sは、図4に示すように、シャフト側のシール内環80と、外側継手部材側のシール外環81と、前記シール内環80をシール外環81側へ押圧する弾性部材82とを備える。
【0030】
シール内環80は、凸球面のシール面83を有するお碗形状の本体部80aと、本体部80aの内径部に連設される短円筒部80bとからなる。また、シール外環81は、リング状平板からなる本体部81aと、本体部81aの外径側に連設されて継手外部側から継手内部側に向かって拡径する外径部81bと、本体部81aの内径側に連設されて継手外部側から継手内部側に向かって縮径する内径部81cとを備える。シール外環81の内径部81cの端面がシール内環80のシール面83と摺接する摺接面84を形成する。シール外環81の摺接面84には、Oリング等のシール部材75が装着されている。
【0031】
シール外環81が、外側継手部材53に取付られる支持板85を介して外側継手部材53側に固定される。支持板85はその内径面に周方向切欠部86が設けられたリング状平板からなる。また、支持板85の継手内部側の端面には、外側継手部材53の外径面に嵌合する切欠部(凹部)87が設けられている。
【0032】
シール外環81の外径面には、前記支持板85の周方向切欠部86に嵌合する周方向凸部88が設けられている。また、図2等で示すように、支持板85には、周方向に沿って所定ピッチで複数(図例では6個)の貫孔90が設けられ、この貫孔90に対応して外側継手部材53に貫通孔91が設けられている。そして、支持板85の貫孔90と、これに対応する外側継手部材53の貫通孔91にボルト部材92が挿通され、フランジ71の鍔部71bに設けられたねじ孔93にこのボルト部材92が螺着される。
【0033】
また、シャフト62のシャフト端部材62bの基部65側には、円筒状のスペーサ89が外嵌されている。このスペーサ89の継手内部側の端部には外鍔部89aが設けられている。そして、このスペーサ89にシール内環80が外嵌される。
【0034】
このため、支持板85の周方向切欠部86にシール外環81の周方向凸部88が嵌合した状態で、ボルト部材92を支持板85の貫孔90と外側継手部材53の貫通孔91に挿通してフランジ71のねじ孔93に螺着すれば、シール内環80の短円筒部80bがスペーサ89の外鍔部89a側に押圧され、図4に示すように、スペーサ89の外鍔部89aに、シール内環80の短円筒部80bが係合する。また、支持板85の周方向切欠部86にシール外環81の周方向凸部88が嵌合しているので、シール外環81が継手内部側へ押圧される。これによって、シール外環81の摺接面84がシール内環80のシール面83を押圧する。このため、シール部材75がシール内環80のシール面83に摺動可能に圧接する。
【0035】
ところで、弾性部材82はコイルスプリングからなり、シール内環80と内側継手部材56との間に介在される。この場合、図4に示すように、内側継手部材56の密封装置S側の外径側に周方向切欠95が設けられている。また、シール内環80には、短円筒部80bの継手内部側の外径面と、本体部80aの内面との間に周方向凹部96が設けられる。
【0036】
このため、周方向凹部96に弾性部材82の一方の端部82aに嵌合し、嵌合周方向切欠95に弾性部材82の他方の端部82bが嵌合する。このため、弾性部材82の弾性力によって、シール内環80が継手外方へ押圧される。
【0037】
すなわち、等速自在継手が作動角をとった場合であっても、弾性部材82の弾性力によって、シール内環80のシール面83とシール外環81の摺接面84とが圧接するように設定される。このため、シール内環80のシール面83とシール外環81の摺接面84との間において、シール性に優れ、安定したシール機能を発揮する。
【0038】
この等速自在継手には、継手内部に潤滑用の充填用グリースを給脂するための給脂口100が設けられている。この給脂口100にはグリースニップル101が装着されている。この場合、給脂口100は、密封装置Sの一部を構成する支持板85に1箇所だけ設けられる。給脂口100は、外側継手部材53のトラック溝52とこれに対向する内側継手部材56のトラック溝55とで形成される一つのボールトラックに開口する。なお、給脂口100は継手軸心と平行の軸心であるねじ孔(テーパねじ孔)にて構成され、このねじ孔に前記グリースニップル101が螺着されている。
【0039】
また、この等速自在継手には、図3に示すように、給脂口100と継手軸線Lに関して180度反対側に、給脂口100を介して充填用グリースを給脂する際のエア抜きとなる孔部102を設けている。この場合の孔部102は、給脂口100と継手軸線Lに関して180度反対位置の支持板85に設けられている。この孔部102は、前記給脂口100が開口するボールトラックと継手軸線Lに関して180度反対位置のボールトラックに開口する。また、孔部102は、継手軸線Lと平行の軸心であるねじ孔(テーパねじ孔)にて構成され、このねじ孔に止め栓(テーパねじプラグ)103が螺着されている。止め栓103の頭部には六角穴103aが設けられている。このため、給脂口100と孔部102とが密封装置Sに設けられていることになる。
【0040】
密封装置Sがブーツを使用しない球面シール構造であるので、ゴム製ブーツや樹脂製ブーツに比べて劣悪雰囲気下であっても、耐久性がある。ここで、劣悪雰囲気下とは、高温化・薬剤の含まれる水蒸気、及び多量の水がかかる劣悪雰囲気下等である。このように、本発明にかかる等速自在継手では、劣悪雰囲気下であっても、密封装置が損傷等を生じることなく継手内部の密封性を維持することができる。また、高角度における高速回転性能の向上を図ることができる。
【0041】
また、孔部102を継手軸線Lに関して180度反対側に給脂口を配設したので、給脂口100からのグリースの給脂時に、孔部102を介してその充填量を確認することができる。このため、グリースを満量になるまで確実に給脂でき、劣悪雰囲気下で使用されてもグリースが劣化した状態となっても、安定して劣化したグリースを排出して劣化していないグリースを充填することができる。なお、グリースは、継手内部、つまり、ボールトラック、フランジ71の空間76に充填されることになる。
【0042】
ところで、前記等速自在継手では、給脂口100と孔部102とは、継手軸心方向にはずれていなかったが、図5に示すように、給脂口100と孔部102とが、継手軸心方向にはずれているものであってもよい。すなわち、孔部102をフランジ71の周壁に設けている。このため、孔部102はその軸心が継手軸心と直交する。また、図6に示すように、グリースニップル101が装着される給脂口100をフランジ71の周壁に設けてもよい。
【0043】
また、図1に示すものでは、図3に示すように、給脂口100から継手軸線Lに下ろした垂線の長さH1と、孔部102から継手軸線Lに下ろした垂線の長さH2が同一であったが、図5及び図6に示す等速自在継手では、給脂口100から継手軸線Lに下ろした垂線の長さH1と、孔部102から継手軸線Lに下ろした垂線の長さH2が相違するものとなっている。
【0044】
図5や図6に示す等速自在継手であっても、密封装置Sがブーツを使用しない球面シール構造であり、また、給脂口100と孔部102とが、継手軸線Lに関して180度反対側に配設されるものであるので、図1等に示す等速自在継手と同様の作用効果を奏する。
【0045】
次に、図7と図8とに示す等速自在継手は、一つの給脂口100と一つの孔部102とが対をなし、この給脂口100と孔部102との対を複数対備えたものである。すなわち、グリースニップル101が装着される給脂口100を、図7に示すように、周方向に沿って120度ピッチで3個を支持板85に配置するとともに、給脂口100と対をなす孔部102(3個)を各給脂口100と軸心に関して180度反対位置に支持板85に配置する。
【0046】
この場合、図8に示すように、給脂口100及び孔部102は、支持板85に設けられるものに加え、フランジ71にも設けるようにしてもよい。フランジ71に設けられる給脂口100および孔部102も周方向に沿ってそれぞれ120度ピッチで3個ずつ配設される。
【0047】
このように、給脂口100と孔部102との対を複数対備えたものでも、前記図1に示す等速自在継手と同様の作用効果を奏する。しかも、給脂作業時間の短縮を図ってグリースの交換性の向上を図ることができる。
【0048】
図9に示すものでは、フランジ71を、第1フランジ105と、第2フランジ106とを備えたものである。第1フランジ105は、外径が小径である本体部105aと、外径が大径である大径部105bと、本体部105aの開口部を塞ぐ蓋部105cと、蓋部105cの外径側に配設される外鍔部105dとを備える。大径部105bの端面には切欠部(凹部)107が設けられ、この切欠部107を外側継手部材53の反密封装置側に嵌合させている。そして、この状態で、図2に示すように、ボルト部材92を支持板85の貫孔90と外側継手部材53の貫通孔91に挿通して第1フランジ105の大径部105bのねじ孔(図示省略)に螺着している。この場合、グリースはボールトラック及び第1フランジ105の空間110等である。
【0049】
第2フランジ106にはその内径面にキー溝108が設けられ、このキー溝108に相手軸70のキー73が嵌合している。また、第2フランジ106の第1フランジ105側の外径部には外鍔部106aが設けられ、第1フランジ105の外鍔部105dと第2フランジ106の外鍔部106aとが突き合わされる。この場合、第1フランジ105の端面には凹部111が設けられ、この凹部111に第2フランジ106の端面の凸部112が嵌合する。そして、その突合せ状態で、この外鍔部105dの貫通孔113と外鍔部106aの貫通孔114とにボルト部材115を挿通し、貫通孔114から突出したボルト部材115にねじ軸にナット部材116を螺着する。これによって、第1フランジ105と第2フランジ106とが連結される。
【0050】
そして、3個の給脂口100を第1フランジ105に周方向に沿って120度ピッチで配置するとともに、給脂口100と対をなす3個の孔部102を給脂口100と軸心に関して180度反対位置に配置している。また、給脂口100を、図7に示すように、周方向に沿って120度ピッチで3個を支持板85に配置するとともに、各給脂口100と軸心に関して180度反対位置に3個を支持板85に配置する。
【0051】
このため、この図9に示す等速自在継手であっても、図8に示す等速自在継手と同様の作用効果を奏する。この図9に示すように、フランジ71が第1フランジ105と第2フランジ106とを備えたものであれば、第1フランジ105が外側継手部材53と一体型であってもよい。すなわち、相手軸70に連結されるためのフランジ(この場合、第2フランジ106)と接続されるフランジ部(この場合、第1フランジ105)を外側継手部材53に一体に設けたものであってもよい。第1フランジ105が外側継手部材53と一体型化されたものでは、部品点数の減少を図るとともに、組立性の向上を図ることができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、給脂口100と孔部102の数は任意に設定できるが、図2等に示すように、支持板85に設ける場合、給脂口100及び孔部102がボールトラックに対応する必要があるので、給脂口100及び孔部102それぞれボールトラックの1/2以下となる。なお、等速自在継手として、そのボールトラックの数は6個に限るものではなく、増減は任意である。このため、給脂口100及び孔部102の数をボールトラックの数に応じて種々変更できる。
【0053】
給脂口100や孔部102としては、支持板85やフランジ71以外に、例えば外側継手部材に直接開設してもよい。しかしながら、外側継手部材53に設ける場合、外側継手部材53を加工する必要があり、コスト高となるとともに、生産性に劣るおそれがある。これに対して、給脂口100や孔部102を支持板85に設けるようにすれば、外側継手部材53に対しては、従来のままの加工ですみ、コスト低減を図るとともに、生産性に優れる利点がある。
【0054】
前記実施形態では、対をなす給脂口100と孔部102とは、継手軸線Lを含む一平面上に配設されているが、給脂口100と継手軸線Lとを含む平面と、孔部と継手軸線Lとを含む平面とが周方向に僅かにずれていてもよい。
【0055】
球面シール構造として、前記実施形態では、シール内環80とシール外環81とを備えたいわゆる一重の球面メカニカルシール構造であったが、シール内環とシール外環とシール中環とを備えた二重の球面メカニカルシール構造であってもよい。
【0056】
等速自在継手として、トラック溝が円弧部から構成されるバーフィールド型(BJ)やトラック溝が円弧部と直線部とからなるアンダーカットフリー型(UJ)等の固定式等速自在継手であってもよく、さらには、ダブルオフセット型(DOJ)、クロスグルーブ型(LJ)、トリポード型(TJ)などの摺動型等速自在継手であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
53 外側継手部材
70 相手軸
71 フランジ
100 給脂口
102 孔部
S 密封装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手内部を密封する密封装置とを備えるとともに、継手内部に潤滑用の充填用グリースを給脂するための給脂口と、継手内部の充填用グリース量の確認を可能とする孔部とが開設された等速自在継手であって、
前記密封装置は、ブーツを使用しない金属同士の球面接触による球面シール構造であり、給脂口と孔部とは、継手軸線に関して180度反対側に配設されることを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
給脂口と孔部とは、継手軸線を含む一平面内に配設されることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
給脂口と孔部とは、継手軸線方向にずれていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項4】
給脂口から継手軸線に下ろした垂線の長さと、孔部から継手軸線に下ろした垂線の長さが同一であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
給脂口から継手軸線に下ろした垂線の長さと、孔部から継手軸線に下ろした垂線の長さが相違することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
一つの給脂口と一つの孔部とが対をなし、この給脂口と孔部との対を複数対備えたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
密封装置と継手軸線方向反対側の継手開口部に、相手軸に連結されるためのフランジが付設され、このフランジに前記給脂口が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
密封装置と継手軸線方向反対側の継手開口部に、相手軸に連結されるためのフランジが付設され、このフランジに前記孔部が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項9】
密封装置に前記給脂口を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項10】
密封装置に前記孔部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項11】
相手軸に連結されるためのフランジと接続されるフランジ部を外側継手部材に一体に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−190862(P2011−190862A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57367(P2010−57367)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】